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特許7381491高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/12 20060101AFI20231108BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20231108BHJP
【FI】
C11B3/12
A23L33/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020559307
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048649
(87)【国際公開番号】W WO2020122167
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018232498
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】土居崎 信滋
(72)【発明者】
【氏名】降旗 清代美
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀明
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054435(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038861(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/043251(WO,A1)
【文献】特表2014-515940(JP,A)
【文献】SHIMIZU, M., et al,Generation of 3-monochloro-1,2-propanediol and related materials from tri-, di-, and monoolein at de,European Journal of Lipid Science and Technology,Vol.114, No.11,pp.1268-1273 (2012).
【文献】ZHANG, Z., et al.,Formation of 3-Monochloro-1,2-propanediol (3-MCPD) Di- and Monoesters from Tristearoylglycerol (TSG),Journal of Agricultural and Food Chemistry,Vol.63, No.6,pp.1839-1848 (2015).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
A23D 7/00 - 9/06
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルを主成分として含有する組成物であって、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有し、該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、50面積%以上であり、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm未満である、前記組成物。
【請求項2】
該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、70面積%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、検出限界値未満である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
蒸留物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物の製造方法であって、
(1)高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むトリグリセリドを含有する原料をアルキルエステル化し、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物を調製する工程、
(2)(a)工程(1)の組成物中の、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる工程、(b)工程(1)の組成物中の鉄分濃度を0.20ppm未満に低減させる工程、および(c)工程(1)の組成物中の塩素濃度を10ppm未満に低減させる工程から選択される少なくとも1つ、および
(3)工程(2)後の組成物を蒸留し、主留画分を分取する工程、
を含む、前記方法。
【請求項8】
工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、1.80ppm未満である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
工程(2)(a)をシリカゲルクロマトグラフィーにより行う、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
工程(3)における蒸留が、精留である、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(2)において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数より6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せである、請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油である、請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-クロロプロパン-1,2-ジオール(3-MCPD)は発がん性が疑われている化合物であり、その食品中の濃度についてEU等の各国で規制が設けられている。油脂においても、ジアシルグリセロール(DAG)やモノアシルグリセロール(MAG)が基質となって、3-MCPDが生成することが知られている(非特許文献1)。ジアシルグリセロール(DAG)が豊富な油脂について3-MCPDの存在が指摘されて以降、様々な方法で油脂中の含有量低減が試みられてきた。例えば、3-MCPDは高温で形成されることが知られており、特許文献1および2には、吸着剤処理、脱臭温度の低下、または処理時間の短縮により油脂中の3-MCPDを生成する物質の濃度を低減させ得ることが開示されている。しかしながら、これらはトリアシルグリセロールの製造において3-MCPDを生成する物質の濃度を低減させるための方法であり、特許文献1および2にはアルキルエステルの製造において3-MCPD脂肪酸エステルの濃度を低減させる方法については記載されていない。
【0003】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は様々な機能性を有することが知られており、高度に濃縮されたPUFAが食品、サプリメント、医薬品、または化粧品に利用されている。PUFAは、高度濃縮により出発組成物の脂肪酸のうち所望のPUFAの割合を増加させる際に、トリアシルグリセロールを主成分としたグリセリドから、低級アルコールとのアルキルエステルに変換される。したがって、食品、サプリメント、医薬品、または化粧品で使用される高度に精製され濃縮されたPUFAはアルキルエステルである場合が多い。そのような高濃度のPUFAアルキルエステルについて3-MCPD脂肪酸エステルの濃度を低減させる方法は、これまでに知られていない。
【0004】
3-MCPD脂肪酸エステルの生成に影響する因子としては、塩素源、MAGおよびDAGなどの基質、高温での処理時間などが知られている(非特許文献1および2)。しかしながら、PUFAを含有する食品などの原料となる油については、通常、塩素源ならびにMAGおよびDAGなどの3-MCPD脂肪酸エステルの基質の含有量は少量であり、目的物であるPUFAの精製に与える影響は極めて小さいことから、それらを除去する必要性は一般に認識されていない。また、塩素源ならびにMAGおよびDAGなどの基質を完全に除去することは、その技術的な困難性およびPUFAの回収率などの生産性への影響から行われていない。
【0005】
精留は、高い分離能力を期待できる蒸留であるが、内部充填物や還流を必要とするため、150℃以上の高温での加熱が必要とされる場合が多い。分子蒸留および短行程蒸留は、加熱温度が150℃以下であり、精留と比べて比較的低温で行うことができるが、十分にPUFAを濃縮するためには、繰り返し処理が必要とされる。そのため、PUFAの蒸留においては、多量の3-MCPDが生成するリスクが存在する。
【0006】
尿素付加法およびHPLC法は、分子を構成する脂肪酸の構造(例えば、鎖長、二重結合の数など)によって分離する方法であるが、原料中に3-MCPDがジまたはモノ脂肪酸エステル体として存在する場合には、それを構成する脂肪酸の種類によっては目的とするアルキルエステルと分離し難く、安定的に3-MCPD脂肪酸エステルを低減した脂肪酸アルキルエステルを得ることは困難である。
【0007】
したがって、脱溶剤や蒸留などの加熱処理を含む精製工程では、3-MCPD脂肪酸エステルが生成する明らかなリスクが存在し、また尿素付加およびHPLCなどの方法でも原料に含まれる多様な3-MCPD脂肪酸エステルを除去できるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-147435
【文献】特開2011-147436
【非特許文献】
【0009】
【文献】Eur. J. Lipid Sci. Technol. 114, 1268-1273 (2012)
【文献】Eur. J. Lipid Sci. Technol. 115, 735-739 (2013)
【文献】J. Agric. Food. Chem. 63(6) 1839-48 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
PUFAを含有する油脂には、原料や搾油(抽出)・精製工程に由来する3-MCPDまたはその脂肪酸エステルが含まれていることが多い。また油脂中のグリセリドをアルキルエステル化すると、MAGおよびDAGが残存するか、むしろその濃度が増大し、3-MCPD脂肪酸エステルが生成しやすい環境となる。さらに、アルキルエステルの精製には、脱溶剤工程ならびに分子蒸留、短行程蒸留、および精留などの蒸留工程が含まれる場合が多く、各工程で3-MCPD脂肪酸エステルが生成し得る。クロマトグラフィーや尿素付加では、温度をかけないため3-MCPD脂肪酸エステルが生成する可能性は低いが、すでに含まれている3-MCPD脂肪酸エステルの濃度を十分に低減させることはできないリスクがある。
本発明は、3-MCPD脂肪酸エステルの濃度が十分に低い、高度に濃縮されたPUFAまたはPUFAアルキルエステルを含有する組成物、およびその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、蒸留において、PUFAが濃縮されるC20-C22脂肪酸アルキルエステル画分と、C14脂肪酸またはC16脂肪酸が1分子結合した3-MCPDモノ脂肪酸エステルとが、近い挙動を示すことを見出した。さらに、原料中のモノアシルグリセロール(MAG)、特にC14脂肪酸またはC16脂肪酸が結合したMAGの含有量を低減させることによって、C20-C22脂肪酸アルキルエステル画分中の3-MCPDモノ脂肪酸エステル濃度を低減させることができることを見出した。
また、本発明者らは、原料中に含まれる1ppm以下の極微量の金属、例えば鉄の濃度変化によって、3-MCPD脂肪酸エステルの形成速度が大幅に変化することを見出した。鉄分がトリアシルグリセロールからの3-MCPD脂肪酸エステルの形成に影響を及ぼすことは報告されていた(非特許文献3)。しかしながら、非特許文献3に開示されているのは、極めて多量のFe2+またはFe3+の存在下で3-MCPD脂肪酸エステルの形成を調べた結果であり、PUFAアルキルエステルの製造原料となる油に通常含まれる極微量の鉄分が3-MCPD脂肪酸エステル形成に影響を与えることは知られていなかった。
魚油などの原料から製造された濃縮前のPUFAアルキルエステルは、一般的に精製度が低いため、原料となる油に含まれる鉄分含有量によって鉄分濃度が変動し得る。また抽出原料の品質、抽出方法、精製方法などによっても、濃縮前のPUFAアルキルエステルの鉄分濃度は大きく変動し得る。そのため、鉄分濃度が高くなった場合には、蒸留などの加熱処理によって、3-MCPD脂肪酸エステルの濃度が予想外に高くなり得る。蒸留などの加熱処理前の鉄分濃度を0.20ppm未満に調整することで、そのような3-MCPD脂肪酸エステルの濃度の予想外の上昇を効果的に抑制することができる。
本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0012】
〔1〕脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルを主成分として含有する組成物であって、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有し、該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、50面積%以上であり、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm未満である、前記組成物。
〔2〕該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、70面積%以上である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、検出限界値未満である、〔1〕または〔2〕に記載の組成物。
〔4〕高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔5〕蒸留物である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔7〕高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する蒸留原料組成物であって、
高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含み、
濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度が、10,000ppm未満である、かつ/または鉄分濃度が0.20ppm未満である、前記組成物。
〔8〕濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数より6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度が、10,000ppm未満である、〔7〕に記載の組成物。
〔9〕塩素濃度が10ppm未満である、〔7〕または〔8〕に記載の組成物。
〔10〕濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、もしくはアラキドン酸のアルキルエステル、またはそれらの組合せである、〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔11〕原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油である、〔7〕~〔10〕のいずれかに記載の組成物。
〔12〕高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物の製造方法であって、
(1)高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むトリグリセリドを含有する原料をアルキルエステル化し、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物を調製する工程、
(2)(a)工程(1)の組成物中の、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる工程、(b)工程(1)の組成物中の鉄分濃度を0.20ppm未満に低減させる工程、および(c)工程(1)の組成物中の塩素濃度を10ppm未満に低減させる工程から選択される少なくとも1つ、および
(3)工程(2)後の組成物を蒸留し、主留画分を分取する工程、
を含む、前記方法。
〔13〕工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、1.80ppm未満である、〔12〕に記載の方法。
〔14〕工程(2)(a)をシリカゲルクロマトグラフィーにより行う、〔12〕または〔13〕に記載の方法。
〔15〕工程(3)における蒸留が、精留である、〔12〕~〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕工程(2)において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数より6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる、〔12〕~〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せである、〔12〕~〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油である、〔12〕~〔17〕のいずれかに記載の方法。
【0013】
また一態様において、本発明は以下のとおりである。
〔A1〕高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物であって、該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、50面積%以上であり、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm未満である、前記組成物。
〔A2〕該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、70面積%以上である、〔A1〕に記載の組成物。
〔A3〕該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、検出限界値未満である、〔A1〕または〔A2〕に記載の組成物。
〔A4〕高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せである、〔A1〕~〔A3〕のいずれかに記載の組成物。
〔A5〕蒸留物である、〔A1〕~〔A4〕のいずれかに記載の組成物。
〔A6〕原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油由来である、〔A1〕~〔A5〕のいずれかに記載の組成物。
〔A7〕高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する蒸留原料組成物であって、
高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含み、
濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度が、10,000ppm未満であるか、または鉄分濃度が0.20ppm未満である、前記組成物。
〔A8〕濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数より6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度が、10,000ppm未満である、〔A7〕に記載の組成物。
〔A9〕塩素濃度が10ppm未満である、〔A7〕または〔A8〕に記載の組成物。
〔A10〕濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、もしくはアラキドン酸のアルキルエステル、またはそれらの組合せである、〔A7〕~〔A9〕のいずれかに記載の組成物。
〔A11〕原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油由来である、〔A7〕~〔A10〕のいずれかに記載の組成物。
〔A12〕高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物の製造方法であって、
(1)高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むトリグリセリドを含有する原料をアルキルエステル化し、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物を調製する工程、
(2)(a)工程(1)の組成物中の、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる工程、(b)工程(1)の組成物中の鉄分濃度を0.20ppm未満に低減させる工程、および(c)工程(1)の組成物中の塩素濃度を10ppm未満に低減させる工程から選択される少なくとも1つ、および
(3)工程(2)後の組成物を蒸留し、主留画分を分取する工程、
を含む、前記方法。
〔A13〕工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、1.80ppm未満である、〔A12〕に記載の方法。
〔A14〕工程(2)(a)をシリカゲルクロマトグラフィーにより行う、〔A12〕または〔A13〕に記載の方法。
〔A15〕工程(3)における蒸留が、精留である、〔A12〕~〔A14〕のいずれかに記載の方法。
〔A16〕工程(2)において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数より6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる、〔A12〕~〔A15〕のいずれかに記載の方法。
〔A17〕高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せである、〔A12〕~〔A16〕のいずれかに記載の方法。
〔A18〕原料が魚油、微生物油、植物油、または海産動物油由来である、〔A12〕~〔A17〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、3-MCPD脂肪酸エステルの濃度の低い、高濃度のPUFAまたはPUFAアルキルエステルを含む組成物を安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中、脂肪酸を表記する際に、炭素数、二重結合の数、および二重結合の位置を、数字およびアルファベットを組み合わせて簡略的に表した数値表現を用いることがある。例えば、炭素数20の飽和脂肪酸は「C20:0」と表記され、炭素数18の一価不飽和脂肪酸は「C18:1」と表記され、エイコサペンタエン酸は「C20:5 n-3」等と表記され得る。「n-」は、脂肪酸のメチル末端から数えた二重結合の位置を示し、例えば「n-3」であれば、脂肪酸のメチル末端から数えて3番目の炭素原子と4番目の炭素原子の間の結合が二重結合であることを示す。この方法は当業者には周知であり、この方法に従って表記された脂肪酸については、当業者であれば容易に特定することができる。
【0016】
本明細書中、「高度不飽和脂肪酸」とは、炭素数18以上、二重結合数3以上の脂肪酸を意味する。高度不飽和脂肪酸は、例えば炭素数20以上、二重結合数3以上または4以上の脂肪酸、炭素数20以上、二重結合数5以上の脂肪酸であり得る。高度不飽和脂肪酸としては、例えばα-リノレン酸(18:3 n-3)、γ-リノレン酸(18:3 n-6)、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)、アラキドン酸(20:4 n-6)、エイコサペンタエン酸(20:5 n-3)、ドコサペンタエン酸(22:5 n-6)、およびドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)が挙げられる。
【0017】
本明細書中、「粗油」とは、脂質の混合物であって、生物から抽出された状態の油を意味する。本明細書中、「精製油」とは、粗油に対して、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、及び脱臭工程からなる群より選択される少なくとも1つの油脂の精製工程を行い、リン脂質及びステロールなどの目的物以外の物質を除去する粗油精製処理を行った油を意味する。当業者は、通常の分析により精製油と粗油を区別することができる。
【0018】
本明細書中、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物は、高度不飽和脂肪酸を含有する脂肪酸組成物または高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する脂肪酸アルキルエステル組成物を意味する。ここで、脂肪酸組成物とは、脂肪酸を主要な構成成分とする組成物であり、脂肪酸アルキルエステル組成物とは、脂肪酸のアルキルエステルを主要な構成成分とする組成物である。
【0019】
本明細書中、総称(例えば高度不飽和脂肪酸、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルなど)は、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、複数の構成要素が存在する可能性を排除しない。したがって、総称は通常少なくとも1つの構成要素が存在することを意味する。
【0020】
<3-MCPD脂肪酸エステル濃度が低減された高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物>
本発明は、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物であって、該組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合が、50面積%以上であり、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm未満である、前記組成物を提供する(本明細書中、本発明の組成物という場合がある)。
【0021】
本発明において、高度不飽和脂肪酸は、そのアルキルエステルが、蒸留により濃縮する際に主留として得られるものであれば特に限定されない。高度不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、またはそれらの組合せであり得る。好ましい実施形態において、高度不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはそれらの組合せであり得る。より好ましい実施形態において、高度不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸であり得る。
【0022】
本発明の組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、50面積%以上、例えば、55面積%以上、60面積%以上、65面積%以上、70面積%以上、75面積%以上、80面積%以上、85面積%以上、90面積%以上、95面積%以上、または96面積%以上であり得る。また一実施形態において、本発明の組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、99面積%以下、例えば98面積%以下、95面積%以下、90面積%以下、85面積%以下、80面積%以下、75面積%以下、70面積%以下、65面積%以下、60面積%以下、または55面積%以下であり得る。本発明の組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、例えば、50から99面積%、50から98面積%、50から95面積%、50から90面積%、50から85面積%、50から80面積%、50から75面積%、50から70面積%、50から65面積%、50から60面積%、55から99面積%、55から98面積%、55から95面積%、55から90面積%、55から85面積%、55から80面積%、55から75面積%、55から70面積%、55から65面積%、55から60面積%、60から99面積%、60から98面積%、60から95面積%、60から90面積%、60から85面積%、60から80面積%、60から75面積%、65から99面積%、65から98面積%、65から95面積%、65から90面積%、65から85面積%、65から80面積%、65から75面積%、70から99面積%、70から98面積%、70から95面積%、70から90面積%、70から85面積%、70から80面積%、70から75面積%、75から99面積%、75から98面積%、75から95面積%、75から90面積%、75から85面積%、または75から80面積%であり得る。
【0023】
一態様において、高度不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸であり、本発明の組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、50から99面積%、50から98面積%、50から95面積%、50から90面積%、50から85面積%、50から80面積%、50から75面積%、50から70面積%、50から65面積%、50から60面積%、55から99面積%、55から98面積%、55から95面積%、55から90面積%、55から85面積%、55から80面積%、55から75面積%、55から70面積%、55から65面積%、または55から60面積%であり得る。
【0024】
別の態様において、高度不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸であり、本発明の組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、60から99面積%、60から98面積%、60から95面積%、60から90面積%、60から85面積%、65から99面積%、65から98面積%、65から95面積%、65から90面積%、65から85面積%、70から99面積%、70から98面積%、70から95面積%、70から90面積%、70から85面積%、75から99面積%、75から98面積%、75から95面積%、75から90面積%、または75から85面積%であり得る。
【0025】
さらに別の態様において、高度不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸であり、本発明の組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、60から80面積%、65から80面積%、70から80面積%、または75から80面積%であり得る。
【0026】
本発明の組成物は、高度不飽和脂肪酸の割合が高いため、高度不飽和脂肪酸を有効成分とする医薬品やサプリメント原料に適している。
【0027】
本明細書中、組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合を表す「面積%」とは、水素炎イオン化検出器(FID)付きのガスクロマトグラフィー(GC-FID)を用いて組成物を分析したチャートにおいて、それぞれの成分のピークを同定し、Agilent ChemStation積分アルゴリズム (リビジョンC.01.03 [37]、Agilent Technologies)を用いて、各脂肪酸のピーク面積を求め、脂肪酸のピーク面積の総和に対する各ピーク面積の割合で、そのピークの成分の含有比率を示すものである。油化学分野では面積%は、重量%とほぼ同義のものとして用いられている。日本油化学会(JOCS)制定 基準油脂分析試験法 2013版 2.4.2.1-2013 脂肪酸組成(FID恒温ガスクロマトグラフ法)および同2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)を参照のこと。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下のとおりである。
GC-FID測定条件
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム:DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス:ヘリウム, 1 mL/min
注入口:250℃, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:180℃→3℃/分→230℃、15分保持
検出器:FID, 250℃
メークアップガス:窒素 45 mL/min.
【0028】
本発明の組成物が高度不飽和脂肪酸を含有する脂肪酸組成物である実施形態において、構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、以下の方法により測定される。すなわち、脂肪酸組成物をAOCS official method Ce1b-89の内容に準拠して、メチルエステル化した上で前述の条件のGCに供して、同じように高度不飽和脂肪酸の面積%を算出する。
この場合、組成物の構成脂肪酸とは、脂肪酸組成物中の遊離脂肪酸を意味する。
【0029】
本発明の組成物が高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する脂肪酸アルキルエステル組成物である実施形態において、組成物の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合は、以下の方法により測定される。すなわち、脂肪酸アルキルエステル組成物を上記条件でガスクロマトグラフィーにより分析し、脂肪酸アルキルエステルのピーク面積の総和に対する高度不飽和脂肪酸アルキルエステルのピーク面積の割合(面積%)を算出する。
この場合、組成物の構成脂肪酸とは、脂肪酸アルキルエステル組成物の脂肪酸アルキルエステルを構成する脂肪酸を意味する。
【0030】
高度不飽和脂肪酸アルキルエステルにおけるアルキル基は、脂肪酸のアルキルエステル化に一般的に用いられる低級アルコールに由来するアルキル基であり、例えば炭素数1または炭素数2のアルキル基(すなわちメチル基またはエチル基)が挙げられる。好ましい実施形態において、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、高度不飽和脂肪酸エチルエステルであり得る。
【0031】
本発明の組成物は、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm(mg/kg)未満、例えば、1.70ppm未満、1.60ppm未満、1.50ppm未満、1.40ppm未満、1.30ppm未満、1.20ppm未満、1.10ppm未満、1.00ppm未満、0.90ppm未満、0.80ppm未満、0.70ppm未満、0.60ppm未満、0.50ppm未満、0.40ppm未満、0.30ppm未満、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、0.05ppm未満、0.04ppm未満、0.03ppm未満、0.02ppm未満、または0.01ppm未満に低減されている。いくつかの実施形態において、3-MCPDの濃度は、0ppmより高い。また一実施形態において、本発明の組成物は、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、0.01ppm以上、例えば0.02ppm以上であり得る。また、本発明の組成物は、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、0.01ppm以上、かつ1.80ppm未満、1.70ppm未満、1.60ppm未満、1.50ppm未満、1.40ppm未満、1.30ppm未満、1.20ppm未満、1.10ppm未満、1.00ppm未満、0.90ppm未満、0.80ppm未満、0.70ppm未満、0.60ppm未満、0.50ppm未満、0.40ppm未満、0.30ppm未満、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、0.05ppm未満、0.04ppm未満、0.03ppm未満、または0.02ppm未満であり得る。また、本発明の組成物は、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、0.02ppm以上、かつ1.80ppm未満、1.70ppm未満、1.60ppm未満、1.50ppm未満、1.40ppm未満、1.30ppm未満、1.20ppm未満、1.10ppm未満、1.00ppm未満、0.90ppm未満、0.80ppm未満、0.70ppm未満、0.60ppm未満、0.50ppm未満、0.40ppm未満、0.30ppm未満、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、0.05ppm未満、0.04ppm未満、または0.03ppm未満であり得る。
【0032】
本明細書中、アメリカ油化学会公定法(AOCS official method)Cd29b-13 assay Aによる分析は、当業者によく知られている以下の手順により行う。
【0033】
試料100mgを3-MCPD-d5-ジパルミチン酸エステル標準溶液(5ppm 3-MCPD-d5となるようにトルエンで希釈)100μL、ジエチルエーテル600μLを加えて完全に溶解するまで攪拌、混合した後に-22℃~-25℃にて約15分冷却する。その後、水酸化ナトリウム-メタノール溶液(水酸化ナトリウム0.25gをメタノール100mLに溶解)350μLを加えてよく攪拌した後に-22℃~-25℃にて16時間以上反応させる。同じ温度で酸性臭化ナトリウム溶液(臭化ナトリウム600gを精製水1Lに溶解し、85%リン酸を3mL添加)600μLを加えて反応を止めた後、二層分離した有機層が100μL程度になるまで窒素を吹き付けて濃縮する。その後、ヘキサン600μLを加えて激しく攪拌し、5分から10分間静置して有機層を除去することを2回行う。残った水層にジエチルエーテル:酢酸エチル混合液(3:2、V/V)600μLを加えて激しく攪拌し、有機層を回収することを3回繰り返す。回収した3回の有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで脱水する。脱水後の有機層を窒素を吹き付けて200μLまで濃縮し、飽和フェニルボロン酸-ジエチルエーテル溶液20μLを加えて10秒間激しく攪拌した後、窒素を吹き付けて溶媒を完全に除去する。ここにイソオクタン200μLを加えて10秒間激しく攪拌し、得られた溶液をGC-MS試料とする。
【0034】
3-MCPD定量のための検量線は、3-MCPD-ジパルミチン酸エステルを3-MCPD濃度が0ppm、0.5ppm、1ppm、5ppmとなるようにトルエンに溶解した3-MCPD標準溶液を、上述の試料と同様に分析して作成する。
【0035】
GC-MSの分析条件は以下のとおりである。
GC-MS条件
GC: GC-2010およびGCMS-QP2010 (島津製作所)
カラム:DB-5ms (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス:ヘリウム, 1.2 mL/min
注入口:250℃, 1 μL, スプリットレス サンプリング時間1分
カラム温度:85℃、0.5分保持→6℃/分→150℃、5分保持→12℃/分→180℃→25℃/分→280℃、7分保持
イオン化温度:200℃
インターフェイス温度:200℃
イオン化方法:EI、SIMモニタリングするm/zは以下の通り
3-MCPD-d5:m/z=149、150、201、203
3-MCPD: m/z=146、147、196、198
なお、定量には3-MCPD-d5のm/z=150、3-MCPDのm/z=147を用い、その他は目的物質の確認に用いる。
【0036】
上記分析法では、試料中の3-MCPDの遊離体およびエステル体のいずれもが、3-MCPDとして区別されることなく検出される。したがって、上記分析法の測定値は、試料中にもともと存在する3-MCPDの遊離体と、エステル体から形成され得る3-MCPDの遊離体との合計の含有量(ppm(mg/kg))を表す。
【0037】
本明細書中の一態様において、本発明の組成物は、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が0ppm以上、1.80ppm未満であり得る。この場合、本発明の組成物は、3-MCPDを含まない組成物を含み得る。他の実施形態において、本発明の組成物は、3-MCPD(すなわち、3-MCPDまたは3-MCPD脂肪酸エステル)を含み、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm未満であり得る。
【0038】
本発明の組成物は、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が、アメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aの方法の定量下限値未満であり得、好ましくは検出限界値未満であり得る。
【0039】
エイコサペンタエン酸などの高度不飽和脂肪酸は、ある種の微生物油、植物油、または海産動物油などに多く含まれることが知られている。したがって、本発明の組成物は、それらを原料とするものであり得る。本発明の組成物の原料としては、具体的には、イワシ油、マグロ油、カツオ油、メンヘイデン油、タラ肝油、ニシン油、カペリン油、およびサーモン油などの魚油、オキアミなどの甲殻類由来の海産動物油、エゴマ、アマ、大豆、菜種など由来の植物油、ヤロウィア(Yarrowia)属などの酵母、モルティエレラ(Mortierella)属、ペニシリューム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、フザリューム(Fusarium)属などに属する糸状菌類、ユーグレナ属等の藻類、ストラメノパイルなどの、脂質を産生する微生物由来の油などが例示される。本発明の組成物は、遺伝子改変された変異Δ9エロンガーゼ遺伝子等の遺伝子が導入された遺伝子組換え微生物由来の油であってもよい。また、変異Δ9エロンガーゼ遺伝子等の遺伝子が組み換え技術により導入された、アブラナ属種、ヒマワリ、トウモロコシ、綿、亜麻、ベニバナ等の油料種子植物による遺伝子組換え植物由来の油も、原料油として使用できる。遺伝子組換え植物油及び遺伝子組換え微生物油等については、例えば、WO2012/027698、WO2010/033753等に記載のものを例示することができる。好ましい実施形態において、本発明の組成物の原料は、魚油、微生物油、植物油、または海産動物油などの水産動物油であり、より好ましくは魚油である。
【0040】
本発明の組成物の原料には、高度不飽和脂肪酸が主にグリセリドの状態で含まれている。例えば、魚油には、炭素数が14~22、二重結合数が0~6の多くの種類の脂肪酸がグリセリドの状態で含まれている。触媒または酵素の存在下、グリセリドをエタノールなどの低級アルコールと反応させて、グリセリドに含まれる脂肪酸をアルキルエステル化した後、目的とする高度不飽和脂肪酸アルキルエステル(例えばEPAアルキルエステル)以外の脂肪酸アルキルエステルを除去することにより、高純度の高度不飽和脂肪酸アルキルエステル(例えばEPAアルキルエステル)を製造することができる。一実施形態において、目的とする高度不飽和脂肪酸アルキルエステル(例えばEPAアルキルエステル)以外の脂肪酸アルキルエステルの除去は、蒸留によって行うことができる。本発明者らは、蒸留における主留残分に、比較的分子量の大きいモノまたはジアシルグリセロールに由来する3-MCPD脂肪酸エステルが大量に混入することを見出した。したがって、好ましい実施形態において、本発明の組成物は蒸留物(留分)であり得る。
【0041】
蒸留時の加熱処理により、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルから熱変性物であるトランス異性体が生成することが知られている(例えば、European Journal of Lipid Science and Technology, 108 (2006) 589-597. “Geometrical isomerization of eicosapentaenoic and docosahexaenoic acid at high temperatures”; JAOCS, 66 (1989) 1822-1830. “Eicosapentaenoic acid geometrical isomer artifacts in heated fish oil esters")。したがって、一態様において、本発明の組成物は、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルのトランス異性体をさらに含み得る。本発明の組成物中のトランス異性体の濃度は、2.5面積%以下、例えば2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、1.6面積%以下、1.4面積%以下、1.2面積%以下、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下、0.7面積%以下、0.6面積%以下、または0.5面積%以下であり得る。また本発明の組成物中のトランス異性体の濃度は、0.01面積%以上、例えば、0.02面積%以上、0.03面積%以上、0.04面積%以上、または0.05面積%以上であり得る。
【0042】
本明細書中、トランス異性体の濃度は、GC分析による測定値である。具体的には、以下の手順により測定される。
試料10mgを1mLヘキサンに溶解させて下記条件によるGC分析に供する。
[GC分析条件]
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム:DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス:ヘリウム, 1 mL/min
注入口:250℃, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:180℃→3℃/分→230℃、15分保持
検出器:FID, 250℃
メークアップガス:窒素 45 mL/min.
【0043】
例えば、EPAエチルエステル(EPA-E)のトランス異性体(A~Eの5種類)については、以下のように濃度を算出する。
蒸留でC21以上の飽和脂肪酸または一価不飽和脂肪酸を除去した試料では、EPAエチルエステル(EPA-E)のトランス異性体は、EPA-Eの保持時間を1としたとき、相対保持時間が異性体Aは0.98~0.99、異性体Bは1.01~1.02、異性体Cは1.02~1.03、異性体DおよびEは重複するピークとなりいずれも1.04~1.05となる。5種類の異性体のピークのうち、異性体DおよびEのピークは重なるため、4個のピークが検出される。これらの相対保持時間のピークの面積の合計を、EPA-Eトランス異性体のピーク面積とする。EPA-Eに対するトランス異性体の割合を求めて、試料中のEPA-E濃度から試料中の異性体濃度を算出する。
C21以上の飽和脂肪酸または一価不飽和脂肪酸を含む試料については、Discovery Ag-ION 750mg/6mL(スペルコ)を用いた硝酸銀カラム分画でC21以上の飽和脂肪酸および一価不飽和脂肪酸を除去してから上記のように分析する。
【0044】
例えば、ジホモ-γ-リノレン酸エチルエステル(DGLA-E)のトランス異性体については、以下の相対保持時間のピークの面積の合計を上記GC分析により測定し、DGLA-Eに対するトランス異性体の割合を求めて、試料中のDGLA-E濃度から試料中の異性体濃度を算出する。
異性体A:相対保持時間 1.001~1.009
異性体B:相対保持時間 1.01~1.03
(DGLAの保持時間を1とする。)
【0045】
その他の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルのトランス異性体の含有量についても、定法により測定することができる。
【0046】
本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、EPAアルキルエステルのトランス異性体の濃度が、2.5面積%以下、例えば2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、1.6面積%以下、1.4面積%以下、1.2面積%以下、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下、0.7面積%以下、0.6面積%以下、または0.5面積%以下であり得る。また、本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、EPAアルキルエステルのトランス異性体の濃度が、0.01面積%以上、例えば、0.02面積%以上、0.03面積%以上、0.04面積%以上、または0.05面積%以上であり得る。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、EPAエチルエステルのトランス異性体の濃度が、2.5面積%以下、例えば2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、1.6面積%以下、1.4面積%以下、1.2面積%以下、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下、0.7面積%以下、0.6面積%以下、または0.5面積%以下であり得る。また、本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、EPAエチルエステルのトランス異性体の濃度が、0.01面積%以上、例えば、0.02面積%以上、0.03面積%以上、0.04面積%以上、または0.05面積%以上であり得る。
【0048】
本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、DGLAアルキルエステルのトランス異性体の濃度が、2.5面積%以下、例えば2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、1.6面積%以下、1.4面積%以下、1.2面積%以下、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下、0.7面積%以下、0.6面積%以下、または0.5面積%以下であり得る。また、本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、DGLAアルキルエステルのトランス異性体の濃度が、0.01面積%以上、例えば、0.02面積%以上、0.03面積%以上、0.04面積%以上、または0.05面積%以上であり得る。
【0049】
好ましい実施形態において、本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、DGLAエチルエステルのトランス異性体の濃度が、2.5面積%以下、例えば2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、1.6面積%以下、1.4面積%以下、1.2面積%以下、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下、0.7面積%以下、0.6面積%以下、または0.5面積%以下であり得る。また、本発明の組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて上記分析条件により測定した場合に、DGLAエチルエステルのトランス異性体の濃度が、0.01面積%以上、例えば、0.02面積%以上、0.03面積%以上、0.04面積%以上、または0.05面積%以上であり得る。
【0050】
高度不飽和脂肪酸を含有する魚油や微生物油には、トリグリセリド以外にコレステロールも含まれている。これらの原料油から調製した高度不飽和脂肪酸濃縮油にもコレステロールは含まれている(WO2012/118173)。またコレステロールを含有する油に対してアルカリエステル化または尿素付加を行っても、コレステロールが完全に除去されることはない。したがって、本明細書中の特定の実施形態において、本発明の組成物は、コレステロールを含有する。コレステロール含有量は、例えば1.5重量%以下、0.3重量%以下、または0.2重量%以下であり得る。またコレステロール含有量は、例えば0.01重量%以上、または0.02重量%以上であり得る。
【0051】
コレステロールは、分子式C2746Oで表されるステロイド骨格を有する化合物であり、天然物中では、フリー体またはエステル体として存在している。エステル体とは、ヒドロキシ基(OH基)の部分に脂肪酸が結合したアシルコレステロールである。本発明におけるコレステロール含有量は、フリー体およびエステル体の合計含有量を意味する。コレステロール含有量は、以下の方法により測定される。
【0052】
試料約0.1gに内標準物質として1mLの0.1g/L 5α-コレスタンを加え、2mol/L 水酸化カリウム/含水エタノール溶液を1mL加えてから100℃で10分間加熱する。冷却後、石油エーテル3mL、飽和硫酸アンモニウム3mLを加え、攪拌、静置後に上層を回収して、ガスクロマトグラフィーにより下記測定条件で測定する。5α-コレスタンと遊離コレステロールの相対感度を求めるために、5α-コレスタンおよびコレステロールを25mgずつ溶解したヘキサン溶液をガスクロマトグラフィーにて測定し、総コレステロール量を算出する。
ガスクロマトグラフィー分析条件
機種:Agilent 6890 GC system (Agilent社)
カラム:DB-1 J&W 123-1012
カラム温度:270℃
注入温度:300℃
注入方法:スプリット
スプリット比:50:1
検出器温度:300℃
検出器:FID
キャリアーガス:ヘリウム(39.3kPa、コンスタントプレッシャ)
【0053】
一態様において、本発明の組成物は、不純物として炭素数18以下の飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有し得る。この場合、本発明の組成物の構成脂肪酸中の炭素数18以下の飽和脂肪酸の割合は、0.1面積%以上、例えば、0.2面積%以上、または0.3面積%以上、かつ10面積%未満、例えば5面積%未満、4面積%未満、または3面積%未満であり得る。
【0054】
高度不飽和脂肪酸は、上記の方法で製造した高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを加水分解して得ることができる。
【0055】
本発明の組成物は、脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルを主成分として含有する組成物であり、通常、脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルを50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、96重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、99.5重量%以上、または99.9重量%以上含有する。本発明の組成物中の脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルの含有量は、TLC/FIDなどの公知の手法によって確認することができる。
【0056】
<高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有する組成物の製造方法>
本発明は、上記本発明の組成物の製造方法を提供する。該方法は、
(1)高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むトリグリセリドを含有する原料をアルキルエステル化し、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物を調製する工程、
(2)(a)工程(1)の組成物中の、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満に低減させる工程、(b)工程(1)の組成物中の鉄分濃度を0.20ppm未満に低減させる工程、および(c)工程(1)の組成物中の塩素濃度を10ppm未満に低減させる工程から選択される少なくとも1つの工程、および
(3)工程(2)後の組成物を蒸留し、主留画分を分取する工程
を含む(以下、本発明の方法ともいう)。
【0057】
本発明の方法により、脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルを主成分として含有する組成物であって、脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルを95重量%以上、96重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、99.5重量%以上、または99.9重量%以上含有する前記組成物を製造することができる。
【0058】
本明細書中、工程(1)をアルキルエステル化工程という場合があり、工程(2)(a)をモノアシルグリセロール除去工程という場合があり、工程(2)(b)を鉄分除去工程という場合があり、工程(2)(c)を塩素除去工程という場合があり、また工程(3)を蒸留工程という場合がある。
【0059】
本発明の方法における原料としては、上記本発明の組成物について記載した油が挙げられ、具体的には、イワシ油、マグロ油、カツオ油、メンヘイデン油、タラ肝油、ニシン油、カペリン油、およびサーモン油などの魚油、オキアミなどの甲殻類由来の海産動物油、エゴマ、アマ、大豆、菜種など由来の植物油、ヤロウィア(Yarrowia)属などの酵母、モルティエレラ(Mortierella)属、ペニシリューム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、フザリューム(Fusarium)属などに属する糸状菌類、ユーグレナ属等の藻類、ストラメノパイルなどの、脂質を産生する微生物由来の油などが例示される。本発明の方法における原料は、遺伝子改変された変異Δ9エロンガーゼ遺伝子等の遺伝子が導入された遺伝子組換え微生物由来の油であってもよい。また、変異Δ9エロンガーゼ遺伝子等の遺伝子が組み換え技術により導入された、アブラナ属種、ヒマワリ、トウモロコシ、綿、亜麻、ベニバナ等の油料種子植物による遺伝子組換え植物由来の油も、原料油として使用できる。遺伝子組換え植物油及び遺伝子組換え微生物油等については、例えば、WO2012/027698、WO2010/033753等に記載のものを例示することができる。好ましい実施形態において、本発明の方法における原料は、魚油、微生物油、植物油、または海産動物油などの水産動物油であり、より好ましくは魚油である。
【0060】
粗油精製工程
工程(1)のアルキルエステル化で用いられる原料油は、粗油であってもよく、精製油であってもよい。例えば、魚または海産物などの水産物原料から粗油を得る方法はいかなる方法でも構わないが、魚油の例では、通常、以下のような方法で採取される。魚全体または水産加工から発生する魚の頭、皮、中骨、内臓等の加工残滓を粉砕して蒸煮した後、圧搾して煮汁(スティックウォーター)と圧搾ミールに分離する。煮汁とともに得られる油脂を煮汁から遠心分離により分離し、魚油粗油とする。
一般に魚油の粗油は、原料に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、活性白土又は活性炭を用いた脱色工程、水洗工程、水蒸気蒸留等による脱臭工程などを行って、リン脂質及びステロールなどの目的物以外の物質を除去する粗油精製工程を経て精製魚油とされる。本発明の実施形態では、原料として、この精製魚油を用いることもできる。
【0061】
工程(1)(アルキルエステル化工程)
原料油である油脂を、低級アルコールを用いたアルコール分解により、低級アルコールエステルに分解する。低級アルコールとしては、脂肪酸のアルキルエステル化に一般的に用いられるもの、例えば、炭素数1又は炭素数2の低級アルコールが挙げられる。アルコール分解は油脂に、低級アルコール例えばエタノールと触媒又は酵素を加え反応させ、グリセリンに結合した脂肪酸からアルキルエステルを生成させるものである。触媒としては、アルカリ触媒、酸触媒などを用いる。酵素としてはリパーゼが用いられる。
【0062】
脂肪酸のアルコール分解の反応効率は高いことが経験的に判明しており、アルコール分解後には、主としてそれらのアルキルエステル形態の脂肪酸を含む組成物が得られる。ただし、アルキルエステル形態以外の形態の脂肪酸が含まれることを完全に排除するものではない。
【0063】
工程(2)
工程(2)は、蒸留の前処理工程であり、下記(a)~(c)から選択される少なくとも1つの工程である。すなわち、工程(2)は、(a)~(c)のいずれか1つ、(a)および(b)、(a)および(c)、(b)および(c)、または(a)、(b)、および(c)であり得る。
【0064】
(a)モノアシルグリセロール除去工程
工程(2)(a)では、工程(1)で調製された脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物を、蒸留により濃縮する前に、3-MCPD脂肪酸エステルの基質となるモノアシルグリセロールの含有量を減少させる。それにより、蒸留時の加熱処理により生じ、主留画分に混入する3-MCPD脂肪酸エステルの量を低減させることができる。
【0065】
工程(1)で調製された脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物からのモノアシルグリセロールの除去には、アルキルエステル化の繰り返し処理、吸着剤処理などの既存の技術を用いることができる。
【0066】
エステル化は平衡反応であり、グリセリドの残存量は、アルコールと副生成物であるグリセリンの比率に依存する。アルキルエステル化後に得られたエステル画分を再度アルキルエステル化に供することにより、アルコールとグリセリンとの比率を大きくアルコール側に傾け、グリセリドを低減させることができる。
【0067】
吸着剤処理としては、例えば、シリカゲルクロマトグラフィー、活性白土処理、酸性白土処理、活性炭処理、シリカゲル処理などが挙げられる。シリカゲルクロマトグラフィーは、例えば以下の手順で行うことができる。シリカゲル(例えば、MicrosphereD75-60A)による処理では、シリカゲルに脂肪酸アルキルエステルを吸着させるために、脂肪酸アルキルエステルがシリカゲル充填カラムにアプライされる。その後、酢酸エチル/ヘキサン(1:50)をカラムに通液し、溶離液を分画し、脂肪酸アルキルエステルからMAGおよびDAGを除去した画分を回収する。当該画分を脱溶剤し、脂肪酸アルキルエステルを得る。また活性白土処理は、例えば、対油5%量の活性白土を添加し、120℃で2時間減圧下にて攪拌した後、ろ過することにより行うことができる。他の吸着剤処理についても定法により行うことができる。
【0068】
工程(2)(a)において除去されるモノアシルグリセロールは、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含む。ここで、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルとは、本発明の方法において濃縮されることが意図される高度不飽和脂肪酸アルキルエステルをいう。すなわち、工程(3)の蒸留では、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが主留画分として分取されるように条件が設定される。したがって、工程(3)の蒸留において、主留画分として分取され、かつ濃縮される高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルである。
【0069】
濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが2種類以上ある場合(例えば、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、およびアラキドン酸から選択される2種類以上の高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルの組合せを濃縮しようとする場合)、最も炭素数の多いものの炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を低減させる。
【0070】
工程(2)(a)において除去されるモノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、飽和脂肪酸のモノアシルグリセロールを除去することが好ましい。
【0071】
工程(2)(a)では、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、10,000ppm未満、9,000ppm未満、8,000ppm未満、7,000ppm未満、6,000ppm未満、5,000ppm未満、4,000ppm未満、3,000ppm未満、2,000ppm未満、1,000ppm未満、900ppm未満、800ppm未満、700ppm未満、600ppm未満、または500ppm未満に低減させる。いくつかの実施形態において、当該モノアシルグリセロールの濃度は、0ppmよりも高い。いくつかの実施形態において、低減させる前の当該モノグリセロールの濃度は、10,000ppm以上または上記の上限値以上である。例えば、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルがエイコサペンタエン酸(20:5 n-3)アルキルエステル、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)アルキルエステル、もしくはアラキドン酸(20:4 n-6)アルキルエステル、またはそれらの組合せである場合には、炭素数15以下の脂肪酸(好ましくは炭素数14の脂肪酸)を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、上記の濃度に低減させる。濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルがドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)アルキルエステルである場合には、炭素数17以下の脂肪酸(好ましくは炭素数16の脂肪酸)を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、上記の濃度に低減させる。また濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルがドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)アルキルエステルとエイコサペンタエン酸(20:5 n-3)アルキルエステル、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)アルキルエステル、およびアラキドン酸(20:4 n-6)アルキルエステルから選択される1種類以上との組合せである場合には、炭素数17以下の脂肪酸(好ましくは炭素数14の脂肪酸および炭素数16の脂肪酸)を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を、上記の濃度に低減させる。
【0072】
工程(3)の蒸留において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールから生じ得る3-MCPD脂肪酸エステルは、当該高度不飽和脂肪酸アルキルエステルと共に主留画分に含まれ得る。したがって、工程(3)の蒸留において濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを主留として得る際に、当該濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールの濃度を予め低減させておくことで、3-MCPD脂肪酸エステルの濃度が低減された高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物を得ることができる。
【0073】
工程(2)(a)において除去されるモノアシルグリセロールは、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5~10、5~9、5~8、5~7、5~6、または6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールであり得る。工程(2)(a)では、これらのモノアシルグリセロールの濃度を、合計で上記の濃度に低減させればよい。
【0074】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、エイコサペンタエン酸(20:5 n-3)アルキルエステル、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)アルキルエステル、もしくはアラキドン酸(20:4 n-6)アルキルエステル、またはそれらの組合せであり、工程(2)(a)において除去されるモノアシルグリセロールは、モノミリスチン酸グリセロールであり得る。
【0075】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、ドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)アルキルエステルであり、工程(2)(a)において除去されるモノアシルグリセロールは、モノパルミチン酸グリセロールであり得る。
【0076】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、ドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)アルキルエステルとエイコサペンタエン酸(20:5 n-3)アルキルエステル、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)アルキルエステル、およびアラキドン酸(20:4 n-6)アルキルエステルから選択される1種類以上との組合せであり、工程(2)(a)において除去されるモノアシルグリセロールは、モノミリスチン酸グリセロールおよびモノパルミチン酸グリセロールであり得る。
【0077】
本明細書中、組成物中のモノアシルグリセロール(MAG)およびジアシルグリセロール(DAG)の濃度は、以下の方法による測定値から算出される値(ppm(mg/kg))である。
【0078】
組成物100μLを採取して秤量し、ヘキサン400μLに溶解させた溶液150μLを下記TLC条件で薄層クロマトグラフィー(TLC)に供し、MAGおよびDAGを分離させる。UV254nmで確認したMAGおよびDAGのバンドをすべてかき取り、1N ナトリウムメトキシド/メタノール溶液を1mL加えて、良く攪拌して5分間加熱する。その後、室温まで冷却して1N塩酸1mLを加えて良く攪拌する。0.1mg/mL C23:0 FAME(トリコサン酸メチルエステル)ヘキサン溶液1mLおよび飽和食塩水5mLを加えて良く攪拌して得られたヘキサン層を試料として、下記条件でGC-FID分析を行い、以下の計算式で各脂肪酸濃度の計算を行う。
脂肪酸濃度[mg/kg]=(脂肪酸のピーク面積/C23:0のピーク面積)×(10/TLCに供した試料量[mg])
TLC条件
TLCプレート:PLC Silica gel 60F254 0.5mm、10cm×10cm
展開溶媒:ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(7:3:0.1,vol/vol/vol)
GC-FID測定条件
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム:DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス:ヘリウム, 1 mL/min
注入口:250℃, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:180℃→3℃/分→230℃、15分保持
検出器:FID, 250℃
メークアップガス:窒素 45 mL/min.
【0079】
(b)鉄分除去工程
工程(2)(b)では、鉄分濃度を0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、または0.05ppm未満に低減させる。いくつかの実施形態において、鉄分濃度は、0ppmより高い。いくつかの実施形態において、低減させる前の鉄分濃度は、0.20ppm以上または上記の上限値以上である。鉄分濃度を低減させることにより、3-MCPD脂肪酸エステルの生成を抑制し得る。
【0080】
本明細書中、鉄分濃度(または鉄分含量)は、ICP-MSによる測定値から算出される値(ppm(mg/kg))である。具体的には、以下の手順により算出される。
試験組成物を1g秤量した後に、酢酸ブチル(原子吸光分析用、和光純薬工業(株))によって10mLにメスアップして試料液とする。
標準試料としてConostan S-21(10ppm(Wt.))を用いる。この標準試料を、酢酸ブチルにより希釈して、検量線試料(0μg/L、0.1μg/L、0.5μg/L、1μg/L、5μg/L、10μg/L、50μg/L、100μg/L)を調製する。
【0081】
試料液および検量線試料について下記分析条件でICP-MS分析を行い、装置付属のソフトウェアによる自動計算によって検量線を作成し、試料液の鉄分含量を定量する。
【0082】
測定装置:Agilent 7700 series ICP-MS (Agilent Technologies)
RFパワー: 1550W
サンプリング位置:10mm
キャリアガス: 0.45L/min
オプションガス:20%
メークアップガス: 0.20L/min
スプレーチャンバ温度:-5℃
サンプル導入:負圧吸引
測定モード:Heモード
Heセルガス流量:4.3mL/min
測定元素:56Fe
【0083】
定量された試料液の鉄分含量から、以下の式によって試料組成物中の鉄分含量を算出する。
試料組成物中の鉄分含量[ppm]=C/(W×100)
C:ICP-MSで測定された試料液の鉄分含量(μg/L)
W:試料組成物の採取量(g)
【0084】
鉄分濃度は、モノアシルグリセロール除去工程とは別の工程により、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、または0.05ppm未満に低減させてもよい。いくつかの実施形態において、鉄分濃度は、0ppmより高い。鉄分濃度を低減させるための技術としては、前述のモノアシルグリセロール除去工程において使用し得る技術の他、例えば、酸洗い、イオン交換が挙げられる。これらの除去技術は、定法により行うことができる。
【0085】
(c)塩素除去工程
工程(2)(c)では、塩素濃度を10ppm未満、例えば9ppm未満、8ppm未満、または7ppm未満に低減させる。いくつかの実施形態において、塩素濃度は、0ppmより高い。いくつかの実施形態において、低減させる前の塩素濃度は、10ppm以上または上記の上限値以上である。塩素濃度を低減させることにより、3-MCPD脂肪酸エステルの生成を抑制し得る。
【0086】
本明細書中、塩素濃度(または塩素含量)は、ICP-MSによる測定値から算出される値(ppm(mg/kg))である。具体的には、以下の手順により算出される。
試験組成物を1g秤量した後に、酢酸ブチル(原子吸光分析用、和光純薬工業(株))によって10mLにメスアップして試料液とする。
標準試料としてConostan Cl Std.(1000ppm(Wt.))を用いる。この標準試料を、酢酸ブチルにより希釈して、検量線試料(0μg/L、0.1μg/L、0.5μg/L、1μg/L、5μg/L、10μg/L、50μg/L、100μg/L)を調製する。
【0087】
試料液および検量線試料について下記分析条件でICP-MS分析を行い、装置付属のソフトウェアによる自動計算によって検量線を作成し、試料液の塩素含量を定量する。
【0088】
測定装置:Agilent 7700 series ICP-MS (Agilent Technologies)
RFパワー: 1550W
サンプリング位置:10mm
キャリアガス: 0.45L/min
オプションガス:20%
メークアップガス: 0.20L/min
スプレーチャンバ温度:-5℃
サンプル導入:負圧吸引
測定モード:Heモード
Heセルガス流量:4.3mL/min
測定元素:35Cl
【0089】
定量された試料液の塩素含量から、以下の式によって試料組成物中の塩素含量を算出する。
試料組成物中の塩素含量[ppm]=C/(W×100)
C:ICP-MSで測定された試料液の塩素含量(μg/L)
W:試料組成物の採取量(g)
【0090】
塩素濃度は、モノアシルグリセロール除去工程とは別の工程により、10ppm未満、例えば9ppm未満、8ppm未満、または7ppm未満に低減させてもよい。いくつかの実施形態において、塩素濃度は、0ppmより高い。塩素濃度を低減させるための技術としては、前述のモノアシルグリセロール除去工程において使用し得る技術の他、例えば、油脂の精製工程に一般的に用いられる脱ガム、脱酸などの技術が挙げられる。これらの除去技術は、定法により行うことができる。
【0091】
工程(3)(蒸留工程)
工程(2)においてモノアシルグリセロールの濃度を低減させた組成物を蒸留し、主留画分を分取する。蒸留時の加熱処理により3-MCPD脂肪酸エステルが生じたとしても、主留画分に濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが含まれる条件を設定することで、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する組成物であって、該組成物をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度が1.80ppm未満である組成物を得ることができる。そのような蒸留の条件は、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルに応じて適宜設定することができる。
【0092】
蒸留工程は、例えば、精留(精密蒸留)、分子蒸留、または短行程蒸留により行うことができる。これらは定法により行うことができ、例えば、特開平4-128250号、特開平5-222392号、特開平4-41457号、特開平6-33088号などに記載の方法を用いることができる。
【0093】
精留は高真空下で行い、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを主留として、より揮発性の高い初留およびより揮発性の低い残留と分離することにより得ることができる。精留の条件は、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルが主留として濃縮されるよう設定すればよく、例えば、温度は150℃~200℃、例えば160~200℃、170~200℃であり、圧力は1~300Pa、例えば1~200Pa、1~100Pa、1~50Paであり得る。1~50Paの真空度で、170~200℃で主留を得るのが好ましい。
【0094】
分子蒸留または短行程蒸留の条件の例としては、80~150℃、例えば80~130℃、80~120℃の温度、および10×10-1Pa未満、例えば10×10-2Pa未満、10×10-3Pa未満の圧力が挙げられる。
【0095】
工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度は、1.80ppm未満、例えば、1.70ppm未満、1.60ppm未満、1.50ppm未満、1.40ppm未満、1.30ppm未満、1.20ppm未満、1.10ppm未満、1.00ppm未満、0.90ppm未満、0.80ppm未満、0.70ppm未満、0.60ppm未満、0.50ppm未満、0.40ppm未満、0.30ppm未満、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、0.05ppm未満、0.04ppm未満、0.03ppm未満、0.02ppm未満、または0.01ppm未満である。いくつかの実施形態において、3-MCPDの濃度は、0ppm以上である。特に、工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度は、0.01ppm以上、例えば0.02ppm以上であり得る。また、工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度は、0.01ppm以上、かつ1.80ppm未満、1.70ppm未満、1.60ppm未満、1.50ppm未満、1.40ppm未満、1.30ppm未満、1.20ppm未満、1.10ppm未満、1.00ppm未満、0.90ppm未満、0.80ppm未満、0.70ppm未満、0.60ppm未満、0.50ppm未満、0.40ppm未満、0.30ppm未満、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、0.05ppm未満、0.04ppm未満、0.03ppm未満、または0.02ppm未満であり得る。また、工程(3)における主留画分をアメリカ油化学会公定法Cd29b-13 assay Aにより分析した場合に生じる3-MCPDの濃度は、0.02ppm以上、かつ1.80ppm未満、1.70ppm未満、1.60ppm未満、1.50ppm未満、1.40ppm未満、1.30ppm未満、1.20ppm未満、1.10ppm未満、1.00ppm未満、0.90ppm未満、0.80ppm未満、0.70ppm未満、0.60ppm未満、0.50ppm未満、0.40ppm未満、0.30ppm未満、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、0.05ppm未満、0.04ppm未満、または0.03ppm未満であり得る。
【0096】
クロマトグラフィー工程
本発明の方法は、工程(3)の後、さらに高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)のようなクロマトグラフィーによる精製工程をさらに含んでもよい。
【0097】
蒸留工程に続くHPLCなどによるクロマトグラフィー工程は、蒸留工程で得られた組成物中の目的外成分を除去すること等により、目的外成分の含有量を低減させて、蒸留後の組成物において高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを更に濃縮する工程である。クロマトグラフィー工程は、従来公知の方法、例えば特開平5-222392号などに記載の方法に沿って行うことができる。濃縮処理に用いられるクロマトグラフィーとしては、例えば逆相カラムクロマトグラフィーが挙げられる。固定相(吸着剤)の例としては、ポリマービーズ、好ましくはDVB( ジビニルベンゼン)と網状化したポリスチレン、およびシリカゲル、好ましくはC8またはC18アルカンを含む逆相結合シリカゲルが挙げられ、C18結合逆相シリカゲルが特に好ましい。本発明の蒸留後のクロマトグラフィーに使用される吸着剤は、好ましくは非極性である。逆相分配系の吸着剤であれば特に制限なく用いることができ、例えばオクタデシルシリル(ODS)シリカゲルが挙げられ、ODSカラムとして用いることができる。
【0098】
装置に使用されるカラムの寸法は、特に限定されないが、精製に供される試料の量に依存する。当業者であれば、使用すべき適切なサイズのカラムを容易に決定することができる。各カラムの直径は、典型的には10から800mm、好ましくは50から800mm、より好ましくは300から800mmであり、最も好ましくは600から800mmである。各カラムの長さは、典型的には10から200cm、好ましくは25から150cmである。
【0099】
移動相やカラムの温度は、特に限定されないが、分離対象物質の移動相に対する溶解度に依存する。当業者であれば、使用すべき適切な移動相およびカラムの温度を容易に決定することができる。カラムの温度は、典型的には、0~70℃、好ましくは20℃~40℃である。
【0100】
移動相で使用する溶剤としては、例えば短鎖アルコールが挙げられる。短鎖アルコールは、典型的には、1から6個の炭素原子を有する。好適な短鎖アルコールの例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノールおよびt-ブタノールが挙げられる。移動相で使用する溶剤は、好ましくはメタノールまたはエタノールであり、より好ましくはメタノールである。短鎖アルコールには、溶出時間を短縮するため、意図的な水の添加は行わないことが好ましい。
【0101】
<蒸留原料組成物>
本発明は、上記本発明の組成物を得るための、蒸留原料組成物、および上記本発明の組成物の製造方法における蒸留原料としての蒸留原料組成物の使用を提供する。蒸留原料組成物は、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有し、モノアシルグリセロールの含有量が低減されているか、または鉄分濃度が低減されている。高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含む。蒸留原料組成物を蒸留し、留分として高度脂肪酸アルキルエステルを得ることにより、高度脂肪酸アルキルエステルを濃縮すると共に、3-MCPD脂肪酸エステルの含有量を低減させることができる。
【0102】
本発明の蒸留原料組成物は、本発明の組成物の原料として挙げた油を、アルキルエステル化し、モノアシルグリセロールの含有量を低減させるか、または鉄分濃度を低減させることにより製造することができる。一実施形態において、本発明の蒸留原料組成物は、例えば上記本発明の組成物の製造方法により、魚油、微生物油、植物油、または海産動物油などの原料から製造されるか、あるいは当該原料から得られる。好ましい実施形態において、本発明の蒸留原料組成物の原料は、魚油である。アルキルエステル化およびモノアシルグリセロールの含有量または鉄分濃度の低減は、上記本発明の方法において記載した方法により行うことができる。好ましい実施形態において、本発明の蒸留原料組成物に含まれる高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、高度不飽和脂肪酸エチルエステルであり得る。また濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、もしくはアラキドン酸のアルキルエステル、またはそれらの組合せであり得る。好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、エイコサペンタエン酸もしくはドコサヘキサエン酸のアルキルエステル、またはそれらの組合せであり得る。より好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、エイコサペンタエン酸アルキルエステルであり得る。
【0103】
本発明の蒸留原料組成物は、脂肪酸アルキルエステルを主成分として含有する組成物であり、脂肪酸アルキルエステルを95重量%以上、96重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、または99.5重量%以上含有する。
【0104】
本発明の蒸留原料組成物中の総脂肪酸に対する高度不飽和脂肪酸の割合は、5面積%以上、例えば、10面積%以上、15面積%以上、または20面積%以上であり得る。また本発明の蒸留原料組成物中の総脂肪酸に対する高度不飽和脂肪酸の割合は、70面積%未満、例えば、65面積%未満、60面積%未満、または55面積%未満であり得る。
【0105】
本発明の蒸留原料組成物は、不純物として炭素数18以下の飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含有し得る。この場合、本発明の蒸留原料組成物の構成脂肪酸中の炭素数18以下の飽和脂肪酸の割合は、0.1面積%以上、例えば、0.2面積%以上、0.3面積%以上、0.4面積%以上、または0.5面積%以上、かつ50面積%未満、例えば40面積%未満、または30面積%未満であり得る。
【0106】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5以上少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールについて、本発明の蒸留原料組成物におけるその濃度は、10,000ppm未満、9,000ppm未満、8,000ppm未満、7,000ppm未満、6,000ppm未満、5,000ppm未満、4,000ppm未満、3,000ppm未満、2,000ppm未満、1,000ppm未満、900ppm未満、800ppm未満、700ppm未満、600ppm未満、または500ppm未満である。いくつかの実施形態において、そのようなモノアシルグリセロールの濃度は、0ppmより高い。
【0107】
上記の上限値が適用されるモノアシルグリセロールは、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを構成する高度不飽和脂肪酸の炭素数よりも5~10、5~9、5~8、5~7、5~6、または6少ない炭素数の脂肪酸を構成脂肪酸として含むモノアシルグリセロールであり得る。
【0108】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、エイコサペンタエン酸(20:5 n-3)アルキルエステル、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)アルキルエステル、もしくはアラキドン酸(20:4 n-6)アルキルエステル、またはそれらの組合せであり、モノアシルグリセロールは、モノミリスチン酸グリセロールであり得る。
【0109】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、ドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)アルキルエステルであり、モノアシルグリセロールは、モノパルミチン酸グリセロールであり得る。
【0110】
好ましい実施形態において、濃縮目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、ドコサヘキサエン酸(22:6 n-3)アルキルエステルとエイコサペンタエン酸(20:5 n-3)アルキルエステル、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 n-6)アルキルエステル、およびアラキドン酸(20:4 n-6)アルキルエステルから選択される1種類以上との組合せであり、モノアシルグリセロールは、モノミリスチン酸グリセロールおよびモノパルミチン酸グリセロールであり得る。
【0111】
好ましい態様において、本発明の蒸留原料組成物における鉄分濃度は、0.20ppm未満、0.10ppm未満、0.09ppm未満、0.08ppm未満、0.07ppm未満、0.06ppm未満、または0.05ppm未満である。いくつかの実施形態において、鉄分濃度は、0ppmより高い。
【0112】
好ましい態様において、本発明の蒸留原料組成物における塩素濃度は、10ppm未満、例えば9ppm未満、8ppm未満、または7ppm未満である。いくつかの実施形態において、塩素濃度は、0ppmより高い。
【0113】
<利用形態>
本発明の組成物の利用形態は、特に限定されないが、経口剤型であることが好ましく、典型的には、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤等の経口用製剤の形態とすることができる。本発明の組成物の用途には、例えば、飲食品(健康食品、栄養補助食品、特定保健用食品、サプリメント、乳製品、清涼飲料、ペット用飲食品、家畜飼料など)、医薬品、医薬部外品などが含まれ、特に、サプリメント、及び医薬品であることが好ましい。食品素材又は食品の他に、動物用の飼料用の添加成分として使用してもよい。従って、本発明の組成物は、これらの飲食品、医薬品、医薬部外品の素材又は有効成分として使用されることができ、これらの製造において、好ましく使用され得る。
【0114】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
なお実施例中、%表示されているものは、特記なければ、重量%である。またppmは、特記なければ、重量ppm(すなわちmg/kg)である。
実施例中、3-MCPD濃度とは、アメリカ油化学会公定法(AOCS official method)Cd29b-13 assay Aによる測定値を意味する。また3-MCPD濃度0.00ppmとは、上記分析法において3-MCPDが検出されなかったこと(すなわち検出限界値未満であったこと)を意味する。
実施例中、鉄分濃度0.00ppmとは、上記ICP-MSによる測定において鉄が検出されなかったこと(すなわち検出限界値未満であったこと)を意味する。
【実施例
【0115】
[試験1]3-MCPDの生成における鉄分含量の影響
イワシ原油を短行程蒸留にて脱酸した油をアルカリ触媒によってエチルエステル化した後、シリカゲル精製に供し、エチルエステル画分を分取した。シリカゲル精製では、試料の5倍量のMicrosphere gel D-75-60A(AGCエスアイテック株式会社)を充填したガラス製のオープンカラムを使用し、溶出液としてヘキサン/酢酸エチル(50:1)を使用した。
このエチルエステル画分(魚油エチルエステル(EE))について、薄層クロマトグラフィー(TLC)によりDAGおよびMAGのバンドが検出されないことを確認した。また鉄分濃度を測定した結果、当該エチルエステル画分中に鉄は検出されなかった。
【0116】
この魚油EEにモノミリスチン酸グリセロール(和光純薬工業、商品コード321-32412)を1000 ppm量添加した。さらに、硫酸鉄(II)・7水和物水溶液を鉄分含量が0.10 ppm(実施例2)または1.00 ppm(比較例1)になるように添加するか、あるいは添加せず(実施例1)、次いでエタノールを加えて均一化した。その後、エバポレーターおよび真空引きによって溶剤を完全に除去した。
【0117】
各試験区について、オイルバスによって210℃、窒素気流下で撹拌し、経時的にサンプリングし、3-MCPD濃度を測定した。各試験区の加熱中の3-MCPD濃度の変化を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
鉄を1.00 ppm添加した比較例1では、4時間加熱後、0.61 ppmの3-MCPDが生成した。一方、鉄分濃度をそれぞれ0.00 ppmおよび0.10 ppmに調整した実施例1および実施例2では、4時間加熱後でも3-MCPD含量は0.08 ppm、0.15 ppmであり、比較例1の0.61 ppmに比べて非常に低い値であった。
【0120】
[試験2]3-MCPDの生成におけるMAG含量の影響
試験1と同様に調製した魚油EE(鉄分濃度を10 ppmに調整した)をそのまま、またはモノミリスチン酸グリセロール(和光純薬工業、商品コード321-32412)を1~10%の濃度で添加し、窒素気流下120℃で1時間加熱した。
【0121】
加熱後の3-MCPD濃度を表2に示す。一般的に脂肪酸エチルエステルの分子蒸留による留去で採用される120℃という比較的低温でも、MAG濃度が高くなると3-MCPD濃度が増大することが分かった。
【0122】
【表2】
【0123】
[試験3]魚油エチルエステルの蒸留物における3-MCPDの生成におけるMAG含量の影響
EPAを20面積%含む魚油を、常法に従ってアルカリ触媒でエチルエステル化し、魚油エチルエステル1を調製した。魚油エチルエステル1は、脂肪酸組成におけるEPAの割合が20面積%であり、C14:0を構成脂肪酸として含むDAGおよびMAGを表3に示した濃度で含み、鉄分濃度は0.2 ppmであり、塩素濃度は17 ppmであった。
【0124】
【表3】
【0125】
次いで、魚油エチルエステル1からMAGおよびDAGを除去した魚油エチルエステル2、魚油エチルエステル2にモノミリスチン酸グリセロールを添加した魚油エチルエステル3、および魚油エチルエステル2にモノパルミチン酸グリセロールを添加した魚油エチルエステル4を調製した。
魚油エチルエステル2は、以下の方法により調製した。
600 gの魚油エチルエステル1をヘキサン2400 mLと混合して得られた混合液を、シリカゲル(MicrosphereD75-60A)1200 gをヘキサンのスラリーで充填したカラムに通液して、シリカゲルに魚油エチルエステルを吸着させた。その後、酢酸エチル/ヘキサン(1:50)をカラムに通液して、溶離液を分画し、魚油エチルエステルからMAGおよびDAGを除去した画分を回収した。回収した画分からエバポ-レーターおよび真空引きによって脱溶剤して、MAGおよびDAGを含まない魚油エチルエステル585 gを得た。こうして得られた魚油エチルエステル2は、MAGおよびDAGを全く含まず、鉄分濃度0.05 ppm、塩素濃度7 ppmであった。
【0126】
100 gの魚油エチルエステル2にモノミリスチン酸グリセロール0.1 gを混合し、完全に溶解させて均一化することにより、魚油エチルエステル3を調製した。また、100 gの魚油エチルエステル2にモノパルミチン酸グリセロール(東京化成工業、商品コードG0083)0.1 gを混合し、完全に溶解させて均一化することにより、魚油エチルエステル4を調製した。
【0127】
魚油エチルエステル3または4を試料(蒸留用原料組成物)として、以下の第一の精密蒸留工程および第二の精密蒸留工程を含む精密蒸留に供した。
【0128】
第一の精密蒸留工程は、C18以下画分を除去する工程である。分留管に真空ジャケット付分留管(φ25mm、桐山製作所(KiriyamaGlass))を用い、内部充填物にはスルザーラボパッキングEX(25mm×50mm、スルザー・ケムテック社)を5個使用した。塔底釜内の液温(塔底温度)を185℃以下、塔頂蒸気温度(塔頂温度)を135℃以下、真空ポンプ前の圧力(塔頂圧力、即ち、真空度)を30Pa以下として、加熱時間4.0時間で、精密蒸留を行った。この第一の精密蒸留工程で、C18以下画分を初留として除去し、EPAが濃縮された初留抜き残分を得た。
【0129】
その後、第二の精密蒸留工程では、第一の精密蒸留工程で得られた初留抜き残分に対して、以下の精密蒸留を行った。分留管に真空ジャケット付分留管(φ25mm、桐山製作所(KiriyamaGlass))を用い、内部充填物にはスルザー・ラボパッキングEX(25mm×50mm、スルザー・ケムテック社)を5個使用した。塔底釜内の液温(塔底温度)を195℃、塔頂蒸気温度(塔頂温度)を150℃、真空ポンプ前の圧力(塔頂圧力、即ち、真空度)を30Paとして、加熱時間3.5時間で、精密蒸留を行った。この第二の精密蒸留工程で、C22以上画分を残分(残留)として除去し、主留を得た。
【0130】
80 gの魚油エチルエステル3を原料として、第一の精密蒸留工程でEPAが濃縮された初留抜き残分26 gを得た。得られた初留抜き残分25 gを原料として、第二の精密蒸留工程でEPAが濃縮された主留11 gを得た。主留には、EPAが濃縮されており、表4に示すとおり、脂肪酸組成におけるEPAの割合は20.9%から73.1%に増大した。一方、蒸留時の加熱による異性体形成も認められ、主留画分中に0.8面積%のEPAエチルエステルのトランス異性体(5種類のトランス異性体の合計値。表4には表示せず。以下同じ。)が認められた。
【0131】
また、3-MCPD濃度は、原料である魚油エチルエステル3では0.00 ppmであり、蒸留後の主留画分では0.01 ppmに増加した。
【0132】
77.8 gの魚油エチルエステル4を原料として、第一の精密蒸留工程でEPAが濃縮された初留抜き残分29.5 gを得た。得られた初留抜き残分26.4 gを原料として、第二の精密蒸留工程でEPAが濃縮された主留12.6 gを得た。主留には、EPAが濃縮されており、表4に示すとおり、脂肪酸組成におけるEPAの割合は20.9%から77.4%まで増大した。一方、蒸留時の加熱による異性体形成も認められ、主留画分中に1.6面積%のEPAエチルエステルのトランス異性体が認められた。
【0133】
また主留中の3-MCPD濃度は、0.00 ppmであり、原料である魚油エチルエステル4における濃度からの増加は見られなかった。
【0134】
【表4】
【0135】
魚油エチルエステル3および4の各画分における3-MCPDの分布を調べた。主留と主留残分に含まれる3-MCPDマテリアルバランスを表5に示す。
【0136】
【表5】
【0137】
主留中の3-MCPD濃度は、原料中の特定のMAGに強く影響を受けることが分かった。EPA、すわなちC20脂肪酸成分を特に分取した主留において、魚油エチルエステル3でC14:0、すなわちC14脂肪酸を構成脂肪酸として含むMAGを添加した場合には3-MCPD全体のうちの28.0%が含まれていたのに対し、魚油エチルエステル4でC16:0、すなわちC16脂肪酸を構成脂肪酸として含むMAGを添加した場合には3-MCPDは全て主留残分に含まれていた。このことから、EPAエチルエステルを含むC20脂肪酸エチルエステルを主留として回収する場合、C14の脂肪酸を構成脂肪酸として含むMAGから形成される3-MCPD脂肪酸エステルは主留に混入するが、C16の脂肪酸を構成脂肪酸として含むMAGから形成される3-MCPD脂肪酸エステルは主留にほとんど混入しないことが示された。すなわち、精製の目的とする高度不飽和脂肪酸がEPAなどのC20-PUFAである場合には、C14飽和脂肪酸が蒸留物中の3-MCPD濃度に強く影響するといえる。
なお、各試験において初留分には3-MCPDおよび3-MCPD脂肪酸エステルは全く含まれていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明により、3-MCPD脂肪酸エステル濃度の低い、高濃度のPUFAアルキルエステルを含む組成物を安定的に製造することができる。
【0139】
本明細書中で言及された全ての刊行物、特許出願、特許、および他の文献は、それぞれの刊行物、特許出願、特許、または他の文献がその全体として参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されたかのように、参照により本明細書中に組込まれる。参照により組み込まれる文章に含まれている定義は、それらが本開示における定義と矛盾する限りにおいて、除外される。
【0140】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載される。