(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】圧力変動吸着式ガス分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/047 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
B01D53/047
(21)【出願番号】P 2021214397
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-11-28
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 正也
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-137909(JP,A)
【文献】特開2003-192315(JP,A)
【文献】特開2003-071231(JP,A)
【文献】特開2002-126435(JP,A)
【文献】特開2004-000819(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146211(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/055035(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/116623(WO,A1)
【文献】特開2006-061831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12
C01B 15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の主要成分を含有する混合ガスである原料ガスから圧力変動吸着式ガス分離方法を用いて主要成分を分離する装置であって、
原料ガスの少なくとも1種類の主要成分に対して易吸着性を有するとともに、原料ガスの少なくとも1種類の主要成分に対して難吸着性を有する吸着剤を充填した少なくとも1つの吸着筒と、
前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽と、
前記吸着筒の吸着剤より脱着される易吸着性の成分を貯留する易吸着成分貯留槽と、
前記吸着筒の1つに前記原料ガス及び前記易吸着成分貯留槽のガスの少なくとも一方を導入するために前記原料ガス貯留槽のガス及び前記易吸着成分貯留槽のガスの少なくとも一方を吸引し、圧縮する少なくとも1つの圧縮機と、
前記吸着筒から排出されるガスを前記易吸着成分貯留槽に返送するガス流路と、
前記吸着筒から排出されるガスを原料ガス貯留槽に返送するガス流路と、
前記圧縮機からのガスを前記吸着筒に導入するガス流路と、
を有し、
前記吸着筒から排出されるガスを前記易吸着成分貯留槽に返送するガス流路が、一端が
前記圧縮機からのガスを前記吸着筒
に導入するガス流路と接続し、他端が易吸着成分貯留槽にのみ接続する、第一の専用流路であ
り、
前記吸着筒から排出されるガスを原料ガス貯留槽に返送するガス流路が、一端が前記圧縮機からのガスを前記吸着筒に導入するガス流路と接続し、他端が前記原料ガス貯留槽のみに接続する、第二の専用流路である、圧力変動吸着式ガス分離装置。
【請求項2】
前記原料ガスが、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種の易吸着成分と、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び水素からなる群から選択される少なくとも1種の難吸着成分とを含む、請求項
1に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力変動吸着式ガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、液晶パネル等の半導体製品を製造する工程では、希ガス雰囲気中で高周波放電によりプラズマを発生させ、発生させたプラズマによって半導体製品又は表示装置の各種処理を行う装置が広く用いられている。このような装置において使用される希ガスとして、従来、アルゴンが用いられてきた。しかし、近年、より高度な処理を行うため、クリプトンやキセノンが注目されている。ランプ分野においても電球の封入ガスとして、従来、アルゴンが用いられてきたが、近年では、消費電力低減、輝度向上のために、クリプトンやキセノンを封入した高付加価値商品が製造されている。また、ガラス分野においても複層ガラスの封入ガスとして、従来、アルゴンが用いられてきたが、近年、断熱性能の向上のために、クリプトンを使用した高付加価値商品が製造されている。しかし、クリプトンやキセノンは、原料となる空気中の存在比及び分離工程の煩雑さから、極めて希少で高価なガスであり、その使用によって需給バランスが崩れ、コストが著しく増大する問題があった。このようなガスを経済的に成り立たせるためには、使用済みの希ガスを回収し、再利用することが極めて重要となる。なお、希ガスを再利用するためには、少なくとも99体積%以上の濃度が求められる。
キセノンやクリプトンを分離する装置としては、キセノン又はクリプトンと、不純物である他成分とを含む原料ガスを、キセノン又はクリプトンに対して易吸着性で、不純物である他成分に対して難吸着性である吸着剤を充填した吸着筒に流し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着剤に吸着させ、難吸着成分である不純物をキセノン又はクリプトンと分離するとともに、吸着剤に吸着したキセノン又はクリプトンを吸着剤から脱離させて高濃度で回収する方法及び装置がある。
【0003】
特許文献1には、直列に接続した2本の吸着筒(上部筒10U(11U)、下部筒10B(11B))に原料ガス貯留槽1の原料ガスを圧縮機4で加圧して流し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着筒の吸着剤に吸着させ、難吸着成分である不純物を分離する工程aと、易吸着成分貯留槽2に充填されたキセノン又はクリプトンを圧縮機4で加圧して下部筒10B(11B)に導入し、下部筒10B(11B)の空隙に残る難吸着成分である不純物を上部筒10U(11U)に導出し、上部筒10U(11U)において易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着し、上部筒10U(11U)より難吸着成分である不純物を回収する工程bと、下部筒10B(11B)を減圧し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着剤より脱離させて易吸着成分貯留槽2に回収する工程cと、上部筒10U(11U)を減圧し、吸着剤に吸着した成分を脱離させて下部筒10B(11B)に導入し、さらに下部筒10B(11B)より流出したガスを原料ガス貯留槽1に回収する工程dと、先に回収した難吸着成分である不純物を上部筒10U(11U)に導入し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着剤より脱離させて下部筒10B(11B)に導入し、さらに下部筒10B(11B)より流出したガスを原料ガス貯留槽1に回収する工程eと、をシーケンスに従って順次行う圧力変動吸着式ガス分離方法及びこの方法を実施するための圧力変動吸着式ガス分離装置101(
図6)が開示されている。
図6に示す圧力変動吸着式ガス分離装置101の下部筒10B(11B)には、原料ガス貯留槽1の原料ガス又は易吸着成分貯留槽2のガスを加圧して導入する経路L4(L5)と、上部筒10U(11U)と接続する経路(符号なし)と、原料ガス貯留槽1又は易吸着成分貯留槽2に減圧して排出する経路L9があり、さらに経路L9は原料ガス貯留槽1に接続する経路L11と、易吸着成分貯留槽に接続する経路L12に分岐する。各経路にはガス流れを制御するバルブが設置されている。工程aでは、原料ガス貯留槽1と下部筒10Bとを接続し、原料ガス貯留槽1の原料ガスを圧縮機4で加圧して下部筒10Bに導入する経路L2,L4に設置されたバルブV1,V3、及び下部筒10Bと上部筒10Uを接続する経路(符号なし)に設置されたバルブV5が開き、他のバルブは閉じている。工程bでは、易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮機4で加圧して下部筒10Bに導入する経路L3,L4に設置されたバルブV2,V3、及び下部筒10Bと上部筒10Uとを接続する経路(符号なし)に設置されたバルブV5が開き、他のバルブは閉じている。工程cでは、下部筒10Bと易吸着成分貯留槽2とを接続する経路L9,L12に設置されたバルブV12,V11が開き、他のバルブは閉じている。下部筒10Bの圧力を下げることで吸着剤に吸着した易吸着成分を脱離させて易吸着成分貯留槽2に排出する。工程d及び工程eでは、下部筒10Bと原料ガス貯留槽1とを接続する経路L9,L11に設置されたバルブV12,V10、及び上部筒10Uと下部筒10Bとを接続する経路(符号なし)に設置されたバルブV5が開き、他のバルブは閉じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の
図1に記載された圧力変動吸着式ガス分離装置101(
図6)には、以下の問題がある。
下部筒10Bと原料ガス貯留槽1とを接続し、下部筒10Bから原料ガス貯留槽1に減圧して排出する経路L9,L11と、下部筒10Bと易吸着成分貯留槽2とを接続し、下部筒10Bから易吸着成分貯留槽2に減圧して排出する経路L9,L12とは、減圧排出する経路として一部が共通配管となっている。この構成では、工程c開始時に、工程dにて下部筒10Bから排出される上部筒10Uの吸着剤からの脱離成分や、工程eにて上部筒10Uに導入して下部筒10Bから排出される難吸着成分が前述の共通配管に存在するため、工程cで難吸着成分が易吸着成分貯留槽2に排出される。易吸着成分貯留槽2に難吸着成分が混入するため、易吸着成分貯留槽2の易吸着成分の純度が低下する。
【0006】
本発明は、難吸着成分が易吸着成分貯留槽に混入せず、易吸着成分を高純度で分離できる圧力変動吸着式ガス分離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 少なくとも2種類の主要成分を含有する混合ガスである原料ガスから圧力変動吸着式ガス分離方法を用いて主要成分を分離する装置であって、
原料ガスの少なくとも1種類の主要成分に対して易吸着性を有するとともに、原料ガスの少なくとも1種類の主要成分に対して難吸着性を有する吸着剤を充填した少なくとも1つの吸着筒と、
前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽と、
前記吸着筒の1つに前記原料ガス及び易吸着成分貯留槽のガスの少なくとも一方を導入するために前記原料ガス貯留槽のガス及び易吸着成分貯留槽のガスの少なくとも一方を吸引し、圧縮する少なくとも1つの圧縮機と、
前記圧縮機より前記吸着筒に導入された原料ガスの主要成分のうち、前記吸着筒の吸着剤より脱着される易吸着性の成分を導入する易吸着成分貯留槽と、
前記吸着筒から排出されるガスを前記易吸着成分貯留槽に返送するガス流路と、
前記吸着筒から排出されるガスを原料ガス貯留槽に返送するガス流路と、
を有し、
前記吸着筒から排出されるガスを前記易吸着成分貯留槽に返送するガス流路が、一端が前記吸着筒と接続し、他端が易吸着成分貯留槽にのみ接続する、第一の専用流路である、
圧力変動吸着式ガス分離装置。
[2] 前記第一の専用流路の前記一端は、前記圧縮機からのガスを前記吸着筒に導入するガス流路に接続する、[1]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[3] 一端が前記吸着筒と接続し、他端が原料ガス貯留槽のみに接続する、第二の専用流路を有する、[1]又は[2]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[4] 前記第二の専用流路の前記一端は、前記圧縮機からのガスを前記吸着筒に導入するガス流路に接続する、[3]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[5] 前期原料ガスが、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種の易吸着成分と、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び水素からなる群から選択される少なくとも1種の難吸着成分とを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難吸着成分が易吸着成分貯留槽に混入せず、易吸着成分を高純度で分離できる圧力変動吸着式ガス分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置を用いるガス分離方法の半サイクルを示す工程図である。
【
図3】
図3は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置を用いるガス分離方法の他方の半サイクルを示す工程図である。
【
図4】
図4は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置を用いるガス分離方法の半サイクルを示す工程図である。
【
図5】
図5は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置を用いるガス分離方法の他方の半サイクルを示す工程図である。
【
図6】
図6は、特許文献1(特開2006-061831号公報)の
図1に記載された圧力変動吸着式ガス分離装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置の実施形態の一例について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0011】
[圧力変動吸着式ガス分離装置]
図1に概略構成を示す本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置100は、目的成分と、少なくとも1種類のその他の成分とを含む混合ガスを貯留する原料ガス貯留槽1と、易吸着成分を貯留する易吸着成分貯留槽2と、難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽3と、原料ガス貯留槽1又は易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮する圧縮機4と、易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮する圧縮機5と、少なくとも目的成分に対して易吸着性を有し、その他成分について難吸着性を有する吸着剤を充填した下部筒10B、下部筒11B、上部筒10U、上部筒11Uの4つの吸着筒と、を備える。
【0012】
経路L1は、原料ガスを原料ガス貯留槽1に導入するガス流路である。経路L2は、原料ガス貯留槽1のガスを圧縮機4へ導出するガス流路である。
経路L3は、易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮機4へ導出するガス流路である。
経路L4、経路L5は、それぞれ、圧縮機4からのガスを下部筒10B、下部筒11Bに導入するガス流路である。
経路L6は、上部筒10U、上部筒11Uからのガスを難吸着成分貯留槽3に導入するガス流路である。
経路L7は、難吸着成分貯留槽3からの難吸着成分を装置外に供給するガス流路である。
経路L8は、難吸着成分貯留槽3からの難吸着成分を向流パージガスとして上部筒10U、上部筒11Uに導入するガス流路である。
経路L9’、経路L10’は、それぞれ、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを経路L17に送るガス流路である。
経路L11’、経路L12’は、それぞれ、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを経路L16に送るガス流路である。
経路L13は、易吸着成分貯留槽2からの易吸着成分を装置系外に供給するガス流路である。
経路L14は、上部筒10Uと上部筒11Uとの間で均圧を行う均圧ラインである。
経路L15は、圧縮機4からのガスを経路L4又は経路L5に送るガス流路である。
経路L16は、経路L11’、経路L12’からのガスを易吸着成分貯留槽2に返送するガス流路である。経路L16は、経路L11’又は経路L12’との組合せにより、一端が下部筒10B又は下部筒11Bと接続し、他端が易吸着成分貯留槽2とのみ接続する、他のガス流路とは独立した、第一の専用流路を構成する。第一の専用流路である経路L16の前記一端は、前記圧縮機4からのガスを前記吸着筒の下部筒10B(11B)に導入する経路L4(L5)に接続される。
経路L17は、経路L9’、経路L10’からのガスを原料ガス貯留槽1に返送するガス流路である。経路L17は、経路L9’又は経路L10’との組合せにより、一端が下部筒10B又は下部筒11Bと接続し、他端が原料ガス貯留槽1とのみ接続する、他のガス流路とは独立した、第二の専用流路を構成する。第二の専用流路である経路L17の一端は、前記圧縮機4からのガスを前記吸着筒の下部筒10B(11B)に導入する経路L4(L5)に接続される。なお、経路L4(L5)への第一の専用流路である経路L16の接続箇所は、第二の専用流路である経路L17の接続箇所よりも下部筒10B(11B)に近くなる。
【0013】
<ガス分離方法>
次に、上述した圧力変動吸着式ガス分離装置100を用いて、キセノン(目的成分)と窒素(目的成分以外の成分)とを含む混合ガスから、目的成分であるキセノンと目的成分以外の成分である窒素とを分離する方法について例示により説明する。
この例では、下部筒10B、下部筒11B、上部筒10U及び上部筒11Uに充填される吸着剤としては、平衡分離型吸着剤である活性炭を使用する。活性炭は、平衡吸着量としてキセノンの吸着量が多く、窒素の吸着量が少ない。すなわち、キセノンが易吸着成分であり、窒素が難吸着成分である。
【0014】
図2は、
図1に示す圧力変動吸着式ガス分離装置100を用いるガス分離方法の半サイクルの工程を示したものであり、吸着工程(工程a)-リンス工程(工程b)の2工程で構成される。
【0015】
(1)吸着工程(工程a)
バルブV2、バルブV4、バルブV9、バルブV8、バルブV10’、バルブV12’バルブV14を閉止し、バルブV1、バルブV3、バルブV5、バルブV7を開放する。原料ガス貯留槽1からの混合ガスを圧縮機4で圧縮し、経路L2、経路L15、経路L4を介して、下部筒10Bに供給する。同時に、難吸着成分貯留槽3に貯められた窒素を、経路L6を介して上部筒10Uに供給する。なお、難吸着成分貯留槽3の圧力と同じになるまでバルブV7を閉止し、原料ガス貯留槽1からの混合ガスの供給のみによって上部筒10Uを加圧してもよい。
下部筒10Bと上部筒10Uとの間は、バルブV5を開放することで流通されているため、下部筒10B及び上部筒10Uは、ほぼ同様に圧力上昇する。なお、原料ガス貯留槽1の混合ガスは、経路L1から導入された原料ガスと、後述する上部筒減圧工程、パージ再生工程で下部筒10B又は下部筒11Bから排出されたガスとの混合ガスである。
【0016】
下部筒10Bに供給された混合ガスは、下部筒10B上部に進むにつれて、キセノンが優先的に吸着され、気相中に窒素が濃縮される。濃縮された窒素は、下部筒10Bから上部筒10Uに導入され、上部筒10Uにおいて、窒素中に含まれる微量のキセノンがさらに吸着される。上部筒10Uの圧力が難吸着成分貯留槽3の圧力より高くなった後、上部筒10Uにおいてさらに濃縮された窒素は、経路L6を介して、難吸着成分貯留槽3へ導出される。難吸着成分貯留槽3の窒素は、原料ガス中に含まれる窒素の流量に応じた流量が、経路L7から装置系外に排出され、残りのガスはパージ再生工程における向流パージガスとして使用される。
【0017】
(2)リンス工程(工程b)
バルブV1、バルブV4、バルブV9、バルブV8、バルブV10’、バルブV12’バルブV14を閉止し、バルブV2、バルブV3、バルブV5、バルブV7を開放することで、易吸着成分貯留槽2のキセノンを下部筒10Bに導入する。易吸着成分貯留槽2からのキセノンを下部筒10Bに導入することによって、下部筒10Bの吸着剤充填層に共吸着された窒素と、吸着剤空隙に存在する窒素を上部筒10Uに押し出し、下部筒10B内をキセノンで吸着飽和とする。この間、上部筒10Uから難吸着成分貯留槽3への窒素の導出は継続して行われる。難吸着成分貯留槽3の窒素は、上述した吸着工程(工程a)と同様に、一部を装置系外に排出し、残りは向流パージガスに使用される。
【0018】
図3は、
図1に示す圧力変動吸着式ガス分離装置100の他方の半サイクルの工程を示したものであり、下部筒減圧工程(工程c)-上部筒減圧工程(工程d)-パージ再生工程(工程e)の3工程で構成される。なお、下部筒10B及び上部筒10Uが
図2に示した先の2工程を行っている間、下部筒11B及び上部筒11Uでは
図3に示した3工程が行われる。
【0019】
(3)下部筒減圧工程(工程c)
バルブV4、バルブV6、バルブV11’、バルブV12’を閉止し、バルブV13’を開放する。これにより、上述した吸着工程(工程a)~リンス工程(工程b)の工程間に下部筒11Bに吸着されたキセノンは、下部筒11Bと易吸着成分貯留槽2との差圧によって、経路L12’、経路L16を介して、易吸着成分貯留槽2へ回収される。経路L12’、経路L16で構成されるガス流路は、他のガス流路とは独立した専用流路であり、他のガス流路からの難吸着成分を含むガスが混入しないため、易吸着成分貯留槽2に回収されるガス中のキセノン純度が極めて高く、不純物が極めて少ない。
易吸着成分貯留槽2に回収されたキセノンは、原料ガス中に含まれるキセノンに応じた流量が、圧縮機5によって加圧され、経路L13から製品として採取される。残りのキセノンは並流パージガスとしてリンス工程(工程b)で使用される。この間、上部筒11Uは、バルブV6、バルブV8、バルブV9、バルブV15が閉止されていることにより休止状態となる。
【0020】
(4)上部筒減圧工程(工程d)
バルブV4、バルブV8、バルブV9、バルブV10’、バルブV13’、バルブV15を閉止し、バルブV6、バルブV11’を開放する。すると、下部筒減圧工程(工程c)において休止していた上部筒11Uと減圧を行った下部筒11Bとの間に圧力差が生じることから、上部筒11U内のガスは下部筒11Bに流入する。下部筒11Bに導入されたガスは、下部筒11B内をパージしながら、経路L10’、経路L17を介して、原料ガス貯留槽1に回収される。経路L10’、経路L17で構成されるガス流路は、他のガス流路とは独立した専用流路であり、他のガス流路からのガスが混入しないため、このガス流路を流れるガス中のキセノン濃度が大きく変化しない。そのため、原料ガス貯留槽1に貯留されるガス中のキセノン濃度は、安定する。
原料ガス貯留槽1に回収されたガスは、経路L1から導入される原料ガスと再混合されて、吸着工程(工程a)時に再び下部筒に供給される。
【0021】
(5)パージ再生工程(工程e)
バルブV4、バルブV8、バルブV9、バルブV13’を閉止し、バルブV6、バルブV11’、バルブV15を開放する。難吸着成分貯留槽3に貯留した窒素は、向流パージガスとして、経路L8を介して、上部筒11Uに導入される。上部筒11Uに導入された窒素は、吸着筒下部に進むにつれて、吸着していたキセノンを置換脱着させる。脱着された比較的キセノンを多く含んだガスは、下部筒11B、経路L10’、経路L17を介して、原料ガス貯留槽1に回収される。
原料ガス貯留槽1に回収されたガスは、上部筒減圧工程(工程d)と同様に、経路L1から導入される原料ガスと混合されて、吸着工程(工程a)時に再び下部筒に供給される。
ここで、向流パージガスに使用される窒素は、吸着工程(工程a)又はリンス工程(工程b)において上部筒10Uから導出された窒素を、難吸着成分貯留槽3を介さず、直接パージ再生工程(工程e)を行っている上部筒に導入してもよい(バルブV15を閉止し、バルブV9を開放する)。
【0022】
上述した5つの工程を、下部筒10B及び上部筒10Uと、下部筒11B及び上部筒11Uとで順次繰り返し行うことで、窒素の濃縮と、キセノンの濃縮を連続的に行うことができる。また、下部筒10B及び上部筒10Uで吸着工程(工程a)~リンス工程(工程b)の工程を行っている間、下部筒11B及び上部筒11Uでは下部筒減圧工程(工程c)~パージ再生工程(工程e)の工程が行われる。また、下部筒10B及び上部筒10Uで下部筒減圧工程(工程c)~パージ再生工程(工程e)の工程を行っている間、下部筒11B及び上部筒11Uでは吸着工程(工程a)~リンス工程(工程b)の工程が行われる。なお、経路L1からの原料ガスの導入、経路L7からの窒素の排出、経路L13からのキセノンの導出は、工程によらず連続的に行われる。ただし、本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置100によるガス分離方法を適用する半導体製品又は表示装置の製造設備では、キセノンを使用する必要がない状況、すなわち、当該製造設備から原料ガスとなる排ガスが流入してこない状況が頻繁に起こり得る。このような場合、本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置100では、経路L7から導出される窒素及び経路L13から導出されるキセノンを、原料ガス貯留槽1に返送することで(図示せず)、常に製品ガスを供給できる状態を維持しながら供給停止状態とすることができる。
【0023】
さらに、後述するように、均圧減圧工程(工程b2)をリンス工程(工程b)の後に、均圧加圧工程をパージ再生工程(工程e)の後に行うことによって、加圧動力を省力化することができる。
【0024】
(6)均圧減圧工程(工程b2)
バルブV7を閉止し、バルブV9を開放する。上部筒10Uのガス、は上部筒10Uと11Uとの圧力差によって、経路L14を介して上部筒11Uに導入される(均圧減圧操作)。これにより、上部筒10Uの圧力が低下するため、下部筒10B内のガスは、上部筒10Uへ導出される。この操作によって、下部筒10Bの吸着筒上部にわずかに残存する窒素は、減圧によって脱着してくるキセノンによって押し流され、上部筒10Uへ導入される。この間、易吸着成分貯留槽2からのキセノン供給は継続される。
【0025】
(7)均圧加圧工程(工程e2)
バルブV4、バルブV8、バルブV11’、バルブV13’、バルブV15を閉止し、バルブV9を開放する。これによって、上部筒10U内のガスは、上部筒11Uに導入される(均圧加圧操作)。上部筒11Uに導入されるガスは窒素濃度が高いため、上部筒11U内のキセノンを上部筒下部及び下部筒11Bへ押し下げることができる。
【0026】
図4は、吸着工程(工程a)~リンス工程(工程b)に、均圧減圧工程(工程b2)を加えた、本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置100を使用するガス分離方法の半サイクルの工程を示したものである。
図5は、下部筒減圧工程(工程c)~パージ再生工程(工程e)に、均圧加圧工程(工程e2)を加えた、他方の半サイクルの工程を示したものである。
下部筒10B及び上部筒10Uが
図4に示した3工程を行っている間、下部筒11B及び上部筒11Uでは
図5に示した4工程が行われる。
【0027】
本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置に用いる吸着剤としては、平衡分離型吸着剤(平衡吸着量の相違による選択性を有する吸着剤)及び速度分離型吸着剤(吸着速度の相違による選択性を有する吸着剤)のいずれも使用できる。
前記平衡分離型吸着剤の一例である活性炭では、キセノンを窒素やアルゴンよりも10倍以上多く吸着する(298K、100kPa(abs))。
前記速度分離型吸着剤の一例であるモレキュラーシーブスカーボン(MSC)では、酸素と窒素の吸着速度比は15前後である。
【0028】
前記吸着剤として活性炭を用いる場合、易吸着成分は、例えば、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種であり、難吸着成分は、例えば、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び水素からなる群から選択される少なくとも1種である。
前記吸着剤としてMSCを用いる場合、易吸着成分は、例えば、酸素であり、難吸着成分は、例えば、窒素である。
【0029】
易吸着成分及び難吸着成分は、使用する吸着剤に応じて異なり、吸着剤が異なると易吸着成分が難吸着成分となり、難吸着成分が易吸着成分となることがある。例えば、吸着剤として活性炭、Na-X型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、Ca-A型ゼオライト、Li-X型ゼオライト等の平衡分離型吸着剤の場合には、易吸着成分としては、キセノン、クリプトン等が挙げられ、難吸着成分としては、窒素、酸素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。また、Na-A型ゼオライト、MSC等の速度分離型吸着剤の場合には、易吸着成分としては、窒素、酸素、アルゴン等が挙げられ、難吸着成分としてはクリプトン、キセノン等が挙げられる。
【0030】
<作用効果>
本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置は、吸着筒(下部筒10B、下部筒11B)から易吸着成分を易吸着成分貯留槽2に排出するガス流路を、難吸着成分を含むガスを原料ガス貯留槽1に排出するガス流路と共有部分を持たない、他のガス流路とは独立したガス流路(第一の専用流路)としたことで、難吸着成分が易吸着成分貯留槽2に混入することがなくなり、易吸着成分貯留槽2から高純度の易吸着成分が得られるようになった。
また、吸着筒(下部筒10B、下部筒11B)から難吸着成分を原料ガス貯留槽1に排出するガス流路を、易吸着成分を易吸着成分貯留槽2に排出するガス流路と共有部分を持たない、他のガス流路とは独立したガス流路(第二の専用流路)としたことで、易吸着成分貯留槽2への流路と、原料ガス貯留槽1への流路が交わることなく、難吸着成分が易吸着成分貯留槽2に混入することがなくなり、易吸着成分貯留槽2から高純度の易吸着成分が得られるようになった。
【実施例】
【0031】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0032】
[実施例1]
図1に概略構成を示した圧力変動吸着式ガス分離装置100を使用して、キセノン(易吸着成分)と窒素又はアルゴン(難吸着成分)とを含む混合ガスを原料ガスとして、キセノンを分離する実験を行った。
【0033】
下部筒10B,11B、及び上部筒10U,11Uとして、ステンレス鋼製(80A、内径83.1mm、充填高さ500mm)の円筒状の容器に活性炭1.5kgを充填したものを使用した。装置はサイクルタイム600秒で運転され、各工程の時間及びバルブ制御は表1に示した条件で行った。圧縮機4は、容量20L/minのダイアフラム式圧縮機、圧縮機5は、容量2L/minのダイアフラム式圧縮機を使用した。ガスの体積は0℃、1気圧におけるものである。
【0034】
原料ガス貯留槽1に導入される原料ガスの流量は2L/minとし、キセノン濃度は、50体積%、60体積%又は70体積%とした。また、易吸着成分貯留槽2より採取されるキセノン流量は0.2L/min、難吸着成分貯留槽3より採取される窒素又はアルゴン流量は1.8L/minとした。
【0035】
【0036】
上述した運転条件で24時間の連続運転を行ったところ、経路L7から導出される窒素又はアルゴン濃度、経路L13から導出されるキセノン濃度がほぼ一定に落ち着き、ほぼ循環定常状態に達した。この時、易吸着成分貯留槽の易吸着成分(Xe)濃度、難吸着成分貯留槽の易吸着成分(Xe)濃度、易吸着成分(Xe)の回収率は、表2に示すとおりとなった。
【0037】
【0038】
本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置を使用した場合、難吸着成分である窒素又はアルゴンが易吸着成分貯留槽2に排出されず、易吸着成分であるキセノンを高純度(濃度99体積%以上)で分離できた。さらに、易吸着成分であるキセノンの回収率も高かった。
【0039】
[比較例1]
図6に概略構成を示す圧力変動吸着式ガス分離装置、すなわち、特許文献1(特開2006-061831号公報)に記載された圧力変動吸着式ガス分離装置を使用して、キセノン(易吸着成分)と窒素(難吸着成分)とを含む混合ガスを原料ガスとして、キセノンを分離する実験を行った。
【0040】
図6に概略構成を示す圧力変動吸着式ガス分離装置101は、目的成分と、少なくとも1種類のその他の成分とを含む混合ガスを原料ガスとして貯留する原料ガス貯留槽1と、易吸着成分を貯留する易吸着成分貯留槽2と、難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽3と、原料ガス貯留槽又は易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮する圧縮機4と、易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮する圧縮機5と、下部筒10B、下部筒11B、上部筒10U、上部筒11Uの4つの吸着筒と、を備えている。
経路L1は、原料ガスを原料ガス貯留槽1に導入するガス流路である。経路L2は、原料ガス貯留槽1のガスを圧縮機4へ導出するガス流路である。経路L3は、易吸着成分貯留槽2のガスを圧縮機4へ導出するガス流路である。経路L4、経路L5は、それぞれ、圧縮機4からのガスを下部筒10B、下部筒11Bに導入するガス流路である。経路L6は、上部筒10U、11Uからのガスを難吸着成分貯留槽3に導入、又は難吸着成分貯留槽3のガスを上部筒10U、上部筒11Uへ導出するガス流路である。経路L7は、難吸着成分貯留槽3からの難吸着成分を装置系外に供給するガス流路である。経路L8は、難吸着成分貯留槽3からの難吸着成分を向流パージガスとして上部筒10U、上部筒11Uに導入するガス流路である。経路L9、経路L10は、それぞれ、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを原料ガス貯留槽1又は易吸着成分貯留槽2に返送するガス流路である。経路L11は、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを、原料ガス貯留槽1に返送するガス流路である。経路L12は、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを易吸着成分貯留槽2に返送するガス流路である。経路L13は、易吸着成分貯留槽2からの易吸着成分を装置系外に供給するガス流路である。経路L14は、上部筒10Uと上部筒11Uとの間で均圧を行う均圧ラインである。
【0041】
図6に示す圧力変動吸着式ガス分離装置101は、後述する7つの工程を下部筒10B及び上部筒10U、下部筒11B及び上部筒11Uで順次繰り返し行うことで、易吸着成分であるキセノンと難吸着成分である窒素の分離を連続的に行うことができる。
【0042】
(1)工程a:吸着工程
原料ガス貯留槽1からの混合ガスを圧縮機4で圧縮し、経路L2、経路L4を介して、下部筒10Bに供給する。同時に、難吸着成分貯留槽3に貯められた窒素を、経路L6を介して上部筒10Uに導入する(バルブV7を閉止し、原料ガス貯留槽1からの混合ガスのみの供給によって加圧することもできる)。下部筒10Bと上部筒10Uとの間は、バルブV5を開放することで流通されているため、下部筒10Bと上部筒10Uとは、ほぼ同様に圧力上昇する。なお、原料ガス貯留槽1の混合ガスは、経路L1から導入された原料ガスと後述する上部筒減圧工程、パージ再生工程で下部筒10B又は下部筒11Bから排出されたガスとの混合ガスである。
下部筒10Bに供給された混合ガスは、下部筒10B上部に進むにつれて、キセノンが優先的に吸着され、気相中に窒素が濃縮される。濃縮された窒素は、下部筒10Bから上部筒10Uに導入され、上部筒10Uにおいて、窒素中に含まれる微量のキセノンがさらに吸着される。上部筒10Uの圧力が難吸着成分貯留槽3の圧力より高くなった後、上部筒10Uにおいてさらに濃縮された窒素は、経路L6を介して、難吸着成分貯留槽3へ導出される。難吸着成分貯留槽3の窒素は、原料ガス中に含まれる窒素の流量に応じた流量が、経路L7から装置系外に排出され、残りのガスはパージ再生工程における向流パージガスとして使用される。
【0043】
(2)工程b:リンス工程
バルブV1を閉止、バルブV2を開放することで、下部筒10Bに導入するガスを易吸着成分貯留槽2のキセノンに変更する。易吸着成分貯留槽2からのキセノンを下部筒10Bに導入することによって、下部筒10Bの吸着剤充填層に共吸着された窒素と、吸着剤空隙に存在する窒素を上部筒10Uへ押し出し、下部筒10B内をキセノンで吸着飽和とする。この間、上部筒10Uから難吸着成分貯留槽3への窒素の導出は継続して行われる。難吸着成分貯留槽3の窒素は、上述した吸着工程と同様に、一部を装置系外に排出し、残りのガスは向流パージガスに使用される。
【0044】
(3)下部筒減圧工程(工程c)
バルブV6、バルブV10を閉止し、バルブV11、バルブV13を開放する。これにより、上述した吸着工程~リンス工程の工程間に下部筒11Bに吸着されたキセノンは、下部筒11Bと易吸着成分貯留槽2との差圧によって、経路L10、経路L12を介して、易吸着成分貯留槽2に回収される。易吸着成分貯留槽2に回収されたキセノンは、原料ガス中に含まれるキセノンに応じた流量が、圧縮機5によって加圧され、経路L13から製品として採取される。残りのキセノンは並流パージガスとして上述したリンス工程で使用される。この間、上部筒11Uは、バルブV6、バルブV8が閉止されていることにより休止状態となる。
【0045】
(4)上部筒減圧工程(工程d)
バルブV11を閉止し、バルブV6、バルブV10を開放する。すると、上述した下部筒減圧工程において休止していた上部筒11Uと減圧を行った下部筒11Bとの間に圧力差が生じることから、上部筒11U内のガスは下部筒11Bに流入する。下部筒11Bに導入されたガスは、下部筒11B内をパージしながら、経路L10、経路L11を介して、原料ガス貯留槽1に回収される。原料ガス貯留槽1に回収されたガスは、経路L1から導入される原料ガスと再混合されて、上述した吸着工程時に再び下部筒に供給される。
【0046】
(5)パージ再生工程(工程e)
バルブV15を開放する。難吸着成分貯留槽3に貯留した窒素は、向流パージガスとして、経路L8を介して、上部筒11Uに導入される。上部筒11Uに導入された窒素は、吸着筒下部に進むにつれて、吸着していたキセノンを置換脱着させる。脱着された比較的キセノンを多く含んだガスは、下部筒11B、経路L10、L11を介して、原料ガス貯留槽1に回収される。原料ガス貯留槽1に回収されたガスは、上述した上部筒減圧工程と同様に、経路L1から導入される原料ガスと混合されて、上述した吸着工程時に再び下部筒に供給される。ここで、向流パージガスに使用される窒素は、上述した吸着工程又はリンス工程において上部筒10Uから導出された窒素を、難吸着成分貯留槽3を介さず、直接、上述したパージ再生工程を行っている上部筒11Uに導入してもよい。
【0047】
(6)均圧減圧工程
バルブV7を閉止し、バルブV9を開放する。上部筒10Uのガスは、上部筒10Uと上部筒11Uとの圧力差によって、経路L14を介して上部筒11Uに導入される(均圧減圧操作)。これにより、上部筒10Uの圧力が低下するため、下部筒10B内のガスは、上部筒10Uへ導出される。この操作によって、下部筒10Bの吸着筒上部にわずかに残存する窒素は、減圧によって脱着してくるキセノンによって押し流され、上部筒10Uへ導入される。この間、易吸着成分貯留槽2からのキセノン供給は継続される。
【0048】
(7)均圧加圧工程
バルブV13、バルブV15を閉止し、バルブV9を開放する。これによって、上部筒10U内のガスは、上部筒11Uに導入される(均圧加圧操作)。上部筒11Uに導入されるガスは窒素濃度が高いため、上部筒11U内のキセノンを上部筒下部及び下部筒11Bへ押し下げることができる。
【0049】
下部筒10B及び上部筒10Uが、吸着工程、リンス工程、均圧減圧工程の3工程を行っている間、下部筒11B及び上部筒11Uは、下部筒減圧工程、上部筒減圧工程、パージ再生工程、均圧加圧工程の4工程を行い、下部筒11B及び上部筒11Uが、吸着工程、リンス工程、均圧減圧工程の3工程を行っている間、下部筒10B及び上部筒10Uは、下部筒減圧工程、上部筒減圧工程、パージ再生工程、均圧加圧工程の4工程を行う。
【0050】
下部筒10B,11B、及び上部筒10U,11Uとして、ステンレス鋼製(80A、内径83.1mm、充填高さ500mm)の円筒状の容器に活性炭1.5kgを充填したものを使用した。装置はサイクルタイム500秒で運転され、各工程の時間及びバルブ制御は表3に示した条件で行った。圧縮機4は、容量20L/minのダイアフラム式圧縮機、圧縮機5は、容量2L/minのダイアフラム式圧縮機を使用した。ガスの体積は0℃、1気圧におけるものである。
【0051】
原料ガス貯留槽1に導入される原料ガスの流量は2L/minとし、キセノン濃度は、50体積%、60体積%又は70体積%とした。また、易吸着成分貯留槽2より採取されるキセノン流量は0.2L/min、難吸着成分貯留槽3より採取される窒素又はアルゴン流量は1.8L/minとした。
【0052】
【0053】
上述した運転条件で24時間の連続運転を行ったところ、経路L7から導出される窒素濃度、経路L13から導出されるキセノン濃度がほぼ一定に落ち着き、ほぼ循環定常状態に達した。この時、易吸着成分貯留槽の易吸着成分(Xe)濃度、難吸着成分貯留槽の易吸着成分(Xe)濃度、易吸着成分(Xe)の回収率は、表4に示すとおりとなった。
【0054】
【0055】
特許文献1(特開2006-061831号公報)に記載された圧力変動吸着式ガス分離装置を使用した場合、難吸着成分である窒素が易吸着成分貯留槽2に排出され、易吸着成分を高純度(濃度99体積%以上)で分離できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置は、半導体製品や表示装置の製造設備に供給し、使用した後に排出される混合ガスから、キセノン等の高付加価値ガスを高濃度、高回収率で効率良く回収し、循環利用するための装置として有効活用することができる。そして、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置と、半導体製品や表示装置の製造設備とで形成される循環サイクルとの結合によって、半導体製造装置等で使用される高価な雰囲気ガスのコストを大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…原料ガス貯留槽、2…易吸着成分貯留槽、3…難吸着成分貯留槽、4,5…圧縮機、10B,11B…下部筒、10U,11U…上部筒、L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8,L9,L9’,L10,L10’,L11,L11’,L12,L12’,L13,L14,L15,L16,L17…経路、V1,V2,V3,V4,V5,V6,V7,V8,V9,V10,V10’,V11,V11’、V12,V12’,V13,V13’,V14,V15…バルブ、100,101…圧力変動吸着式ガス分離装置