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特許7381593プリウェット液、レジスト膜形成方法、パターン形成方法、キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】プリウェット液、レジスト膜形成方法、パターン形成方法、キット
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/16 20060101AFI20231108BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20231108BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 21/027 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
G03F7/16
G03F7/039 601
G03F7/038 601
H01L21/30 564D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021548732
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033084
(87)【国際公開番号】W WO2021059895
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019177976
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智美
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲也
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092760(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/16
G03F 7/039
G03F 7/038
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力が29.0mN/m以上、粘度が1.8cP以下、かつ、蒸気圧が2.5~5.0mmHgであるプリウェット液であって、
前記プリウェット液は、1種以上の有機溶剤、水、及び、金属イオンを含有し、
前記1種以上の有機溶剤は、いずれもSP値が26.0MPa1/2以下であり、
前記1種以上の有機溶剤の含有量は、前記プリウェット液の全質量に対して、99.99質量%以上であり、
前記水の含有量は、前記プリウェット液の全質量に対して、0.1~70質量ppmであり、
前記金属イオンの含有量は、前記プリウェット液の全質量に対して、0.1~200質量pptである、プリウェット液。
【請求項2】
前記1種以上の有機溶剤が、1種の有機溶剤である単独溶剤、又は、2種以上の有機溶剤の混合溶剤であり、
前記1種以上の有機溶剤が前記混合溶剤からなる場合、前記混合溶剤は、下記要件1又は要件2を満たす、請求項1に記載のプリウェット液。
要件1:前記混合溶剤が、2種以上の有機溶剤Aのみからなる混合溶剤であり、前記有機溶剤Aは、SP値が26.0MPa1/2以下、かつ、表面張力が29.0mN/m以上である。
要件2:前記混合溶剤が、前記有機溶剤A及び有機溶剤Bの混合溶剤であり、前記有機溶剤Bは、SP値が26.0MPa1/2以下、かつ、表面張力が29.0mN/m未満の有機溶剤である。
【請求項3】
前記有機溶剤Aが、ピルビン酸エチル、ピルビン酸メチル、アセト酢酸メチル、メトキシ酢酸メチル、アセチルアセトン、マロン酸ジメチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、シュウ酸ジエチル、2-メチルアセト酢酸エチル、アセトニルアセトン、1,2-ジアセトキシプロパン、安息香酸メチル、アニソール、γブチロラクトン、及び、シクロヘキサノンからなる群から選択される有機溶剤である、請求項2に記載のプリウェット液。
【請求項4】
前記有機溶剤Bが、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、酢酸アミル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、及び、酢酸ペンチルからなる群から選択される有機溶剤である、請求項2又は3に記載のプリウェット液。
【請求項5】
前記水の含有量が、前記プリウェット液の全質量に対して、0.3~15質量ppmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のプリウェット液。
【請求項6】
前記金属イオンの含有量が、前記プリウェット液の全質量に対して、1~40質量pptである、請求項1~5のいずれか1項に記載のプリウェット液。
【請求項7】
ArF露光用のレジスト組成物、EUV露光用のレジスト組成物、又は、KrF露光用のレジスト組成物が塗布される基板に対して塗布して用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載のプリウェット液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプリウェット液を基板上に塗布するプリウェット工程と、
前記プリウェット工程後の前記基板上に、レジスト組成物を塗布するレジスト膜形成工程と、を含有するレジスト膜形成方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプリウェット液を基板上に塗布するプリウェット工程と、
前記プリウェット工程後の前記基板上に、レジスト組成物を用いて、レジスト膜を形成する、レジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜を露光する、露光工程と、
露光された前記レジスト膜を、現像液を用いて現像する現像工程と、を含有するパターン形成方法であって、
前記レジスト組成物が、式(a)で表される繰り返し単位、式(b)で表される繰り返し単位、式(c)で表される繰り返し単位、式(d)で表される繰り返し単位、及び、式(e)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位からなる樹脂を含有する、パターン形成方法。
【化1】
x1~Rx5は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、p~pは、それぞれ独立に0、又は、正の整数を表す。
は、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基を表す。
~Tは、それぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表す。
は1価の有機基を表す。
a~eは、モル%を表し、それぞれ独立に、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c<100、0≦d<100、0≦e<100の範囲の数を表す。ただし、a+b+c+d+e=100であり、a+b≠0である。
ただし、前記式(e)で表される繰り返し単位は、前記式(a)~式(d)で表される繰り返し単位のいずれとも異なる。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプリウェット液と、
レジスト組成物と、を備え、
前記レジスト組成物が、式(a)で表される繰り返し単位、式(b)で表される繰り返し単位、式(c)で表される繰り返し単位、式(d)で表される繰り返し単位、及び、式(e)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位からなる樹脂を含有する、キット。
【化2】
x1~Rx5は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、p~pは、それぞれ独立に0、又は、正の整数を表す。
は、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基を表す。
~Tは、それぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表す。
は1価の有機基を表す。
a~eは、モル%を表し、それぞれ独立に、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c<100、0≦d<100、0≦e<100の範囲の数を表す。ただし、a+b+c+d+e=100であり、a+b≠0である。
ただし、前記式(e)で表される繰り返し単位は、前記式(a)~式(d)で表される繰り返し単位のいずれとも異なる。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプリウェット液と、
レジスト組成物と、を備え、
前記レジスト組成物が、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位を有し、酸の作用により分解して極性基を生じる基を有する樹脂を含有する、キット。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプリウェット液と、
レジスト組成物と、を備え、
前記レジスト組成物が、疎水性樹脂と、酸の作用により分解して極性基を生じる基を有する樹脂とを含有する、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリウェット液、レジスト膜形成方法、パターン形成方法、及び、キットに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおけるフォトリソグラフィープロセスにおいては、半導体ウェハ(以下、「ウェハ」ともいう。)などの基板上に感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物(以下、「レジスト組成物」ともいう。)を塗布し、感活性光線又は感放射線性膜(以下、「レジスト膜」ともいう。)形成する。更に、形成されたレジスト膜を露光し、露光されたレジスト膜を現像して、所定のパターンを形成する工程等などが順次行われ、ウェハ上にレジストパターンが形成される。
【0003】
近年、半導体デバイスの更なる微細化に伴い、レジスト膜の薄膜化が求められている。また、少ない量のレジスト組成物を用いて均一なレジスト膜を形成する技術も求められている。このような技術として、基板上にレジスト組成物を塗布する前に、基板上にプリウェット液等と呼ばれる薬液を塗布する方法が知られている。特許文献1には、「塗布膜成分を溶解しうる溶剤と、溶剤よりも表面張力が高い高表面張力液体とを混合することにより得た塗布液よりも表面張力が高い混合液体を前記プリウェット液(請求項1)」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-000589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が特許文献1に記載のプリウェット液について検討したところ、上記プリウェット液を塗布した基板上にレジスト組成物を塗布して形成されたレジスト膜からパターンを作製した際における、パターンの欠陥抑制性に改善の余地があることを知見した。
また、プリウェット液には、(特に、レジスト組成物の塗付量を少なくした場合において)形成されるレジスト膜の面内均一性(膜厚の均等性)を良好にできることも求められている。
【0006】
そこで、本発明は、面内均一性に優れるレジスト膜を形成でき、かつ、形成されるパターンの欠陥抑制性にも優れるプリウェット液を提供することを課題とする。また、上記プリウェット液に関する、レジスト膜形成方法、パターン形成方法、及び、キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
〔1〕
表面張力が29.0mN/m以上、粘度が1.8cP以下、かつ、蒸気圧が2.5~5.0mmHgであるプリウェット液であって、
上記プリウェット液は、1種以上の有機溶剤、水、及び、金属イオンを含有し、
上記1種以上の有機溶剤は、いずれもSP値が26.0MPa1/2以下であり、
上記1種以上の有機溶剤の含有量は、上記プリウェット液の全質量に対して、98質量%以上であり、
上記水の含有量は、上記プリウェット液の全質量に対して、0.1~500質量ppmであり、
上記金属イオンの含有量は、上記プリウェット液の全質量に対して、0.1~200質量pptである、プリウェット液。
〔2〕
上記1種以上の有機溶剤が、1種の有機溶剤である単独溶剤、又は、2種以上の有機溶剤の混合溶剤であり、
上記1種以上の有機溶剤が上記混合溶剤からなる場合、上記混合溶剤は、下記要件1又は要件2を満たす、〔1〕に記載のプリウェット液。
要件1:上記混合溶剤が、2種以上の有機溶剤Aのみからなる混合溶剤であり、上記有機溶剤Aは、SP値が26.0MPa1/2以下、かつ、表面張力が29.0mN/m以上である。
要件2:上記混合溶剤が、上記有機溶剤A及び有機溶剤Bの混合溶剤であり、上記有機溶剤Bは、SP値が26.0MPa1/2以下、かつ、表面張力が29.0mN/m未満の有機溶剤である。
〔3〕
上記有機溶剤Aが、ピルビン酸エチル、ピルビン酸メチル、アセト酢酸メチル、メトキシ酢酸メチル、アセチルアセトン、マロン酸ジメチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、シュウ酸ジエチル、2-メチルアセト酢酸エチル、アセトニルアセトン、1,2-ジアセトキシプロパン、安息香酸メチル、アニソール、γブチロラクトン、及び、シクロヘキサノンからなる群から選択される有機溶剤である、〔2〕に記載のプリウェット液。
〔4〕
上記有機溶剤Bが、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、酢酸アミル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、及び、酢酸ペンチルからなる群から選択される有機溶剤である、〔2〕又は〔3〕に記載のプリウェット液。
〔5〕
上記水の含有量が、上記プリウェット液の全質量に対して、0.3~15質量ppmである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のプリウェット液。
〔6〕
上記金属イオンの含有量が、上記プリウェット液の全質量に対して、1~40質量pptである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のプリウェット液。
〔7〕
ArF露光用のレジスト組成物、EUV露光用のレジスト組成物、又は、KrF露光用のレジスト組成物が塗布される基板に対して塗布して用いられる、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のプリウェット液。
〔8〕
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のプリウェット液を基板上に塗布するプリウェット工程と、
上記プリウェット工程後の前記基板上に、レジスト組成物を塗布するレジスト膜形成工程と、を含有するレジスト膜形成方法。
〔9〕
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のプリウェット液を基板上に塗布するプリウェット工程と、
上記プリウェット工程後の上記基板上に、レジスト組成物を用いて、レジスト膜を形成する、レジスト膜形成工程と、
上記レジスト膜を露光する、露光工程と、
露光された上記レジスト膜を、現像液を用いて現像する現像工程と、を含有するパターン形成方法であって、
上記レジスト組成物が、式(a)で表される繰り返し単位、式(b)で表される繰り返し単位、式(c)で表される繰り返し単位、式(d)で表される繰り返し単位、及び、式(e)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位からなる樹脂を含有する、パターン形成方法。
【化1】

x1~Rx5は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、p~pは、それぞれ独立に0、又は、正の整数を表す。
は、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基を表す。
~Tは、それぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表す。
は1価の有機基を表す。
a~eは、モル%を表し、それぞれ独立に、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c<100、0≦d<100、0≦e<100の範囲の数を表す。ただし、a+b+c+d+e=100であり、a+b≠0である。
ただし、上記式(e)で表される繰り返し単位は、上記式(a)~式(d)で表される繰り返し単位のいずれとも異なる。
〔10〕
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のプリウェット液と、
レジスト組成物と、を備え、
上記レジスト組成物が、式(a)で表される繰り返し単位、式(b)で表される繰り返し単位、式(c)で表される繰り返し単位、式(d)で表される繰り返し単位、及び、式(e)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位からなる樹脂を含有する、キット。
【化2】

x1~Rx5は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、p~pは、それぞれ独立に0、又は、正の整数を表す。
は、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基を表す。
~Tは、それぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表す。
は1価の有機基を表す。
a~eは、モル%を表し、それぞれ独立に、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c<100、0≦d<100、0≦e<100の範囲の数を表す。ただし、a+b+c+d+e=100であり、a+b≠0である。
ただし、上記式(e)で表される繰り返し単位は、上記式(a)~式(d)で表される繰り返し単位のいずれとも異なる。
〔11〕
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のプリウェット液と、
レジスト組成物と、を備え、
上記レジスト組成物が、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位を有し、酸の作用により分解して極性基を生じる基を有する樹脂を含有する、キット。
〔12〕
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のプリウェット液と、
レジスト組成物と、を備え、
上記レジスト組成物が、疎水性樹脂と、酸の作用により分解して極性基を生じる基を有する樹脂とを含有する、キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、面内均一性に優れるレジスト膜を形成でき、かつ、形成されるパターンの欠陥抑制性にも優れるプリウェット液を提供できる。また、上記プリウェット液に関する、レジスト膜形成方法、パターン形成方法、及び、キットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0011】
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
また、本明細書において「準備」というときには、特定の材料を合成又は調合して備えることのほか、購入等により所定の物を調達することを含む意味である。
【0013】
また、本明細書において、「ppm」は「parts-per-million(10-6)」を意味し、「ppb」は「parts-per-billion(10-9)」を意味し、「ppt」は「parts-per-trillion(10-12)」を意味し、「ppq」は「parts-per-quadrillion(10-15)」を意味する。
【0014】
また、本明細書において、1Å(オングストローム)は、0.1nmに相当する。
【0015】
また、本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
【0016】
また、本明細書における「放射線」とは、例えば、遠紫外線、極紫外線(EUV;Extreme ultraviolet)、X線、又は、電子線等を意味する。また、本明細書において光とは、活性光線又は放射線を意味する。
本明細書中における「露光」とは、特に断らない限り、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザー(ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー等)に代表される遠紫外線、極紫外線、X線、及び、EUV光等による露光のみならず、電子線、及び、イオンビーム等の粒子線による描画も含む。
【0017】
また、本明細書において、温度によって変動し得るパラメータの値を記載する場合、特に断りのない限り25℃(室温)における値である。例えば、本明細書において、「粘度」は、特に断りのない限り、25℃における粘度を意味する。
【0018】
本明細書において、「粘度」は、ブルックフィールド社製デジタル粘度計(型番RVDV-I)を用いて、回転数100rpmで測定した値である。
【0019】
本明細書において、「表面張力」は協和界面科学株式会社製DY-300を用いて引き上げ法(Wilhelmy法)を用いて測定される値である。
【0020】
本明細書において、プリウェット液における「蒸気圧」は、プリウェット液に含有される各有機溶剤の25℃における蒸気圧と、プリウェット液中における各有機溶剤の質量分率とから以下の式によって求める。本明細書において、記号「Σ」は、総和を意図する。
式:(プリウェット液の蒸気圧)=Σ((各有機溶剤の25℃における蒸気圧)×(各有機溶剤の質量分率))
各有機溶剤の蒸気圧は、文献値を用いてもよい。
【0021】
本明細書において、「SP値」はハンセン溶解度パラメータを意味し、下記計算式によってδで表される値(単位:MPa1/2)である。
δ=(δ +δ +δ 1/2
δは分散項を表し、δは極性項を表し、δは水素結合項を表す(いずれも単位はMPa1/2)。
本明細書において、各有機溶剤のδ、δ、δ、δは、HSPiP(Hansen Solubility Parameter in Practice)を用いて計算する。
有機溶剤の混合物としてのSP値は、各有機溶剤の含有量のモル分率に基づいた加重平均値を採用する。
【0022】
本明細書において、沸点は、1気圧における沸点を意図する。
【0023】
なお、本明細書において、プリウェット液を構成する有機溶剤とは、薬液の全質量中に10000質量ppmを超えて含有される有機化合物であって、純物質として存在する場合に、25℃、1気圧の環境下で液状である有機化合物を意図する。
【0024】
[プリウェット液]
本発明のプリウェット液は、表面張力が29.0mN/m以上、粘度が1.8cP以下、かつ、蒸気圧が2.5~5.0mmHgであるプリウェット液であって、
上記プリウェット液は、1種以上の有機溶剤、水、及び、金属イオンを含有し、
上記1種以上の有機溶剤は、いずれもSP値が26.0MPa1/2以下であり、
前記1種以上の有機溶剤の含有量は、前記プリウェット液の全質量に対して、98質量%以上であり、
上記水の含有量は、上記プリウェット液の全質量に対して、0.1~500質量ppmであり、
上記金属イオンの含有量は、上記プリウェット液の全質量に対して、0.1~200質量pptである。
【0025】
上記のような構成のプリウェット液によって本発明の課題が解決されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
まず、本発明のプリウェット液は、粘度が一定以下であるため、プリウェット液上に供給されたレジスト組成物が均一に濡れ広がりやすい。また、プリウェット液の蒸気圧が高すぎないことから、プリウェット液の蒸発が過剰にならず、プリウェット液の蒸発に伴う気化熱で基板が冷却化されてレジスト組成物が基板上で高粘度化し、レジスト組成物の均等な濡れ広がりが阻害されるのを防いでいる。一方で、プリウェット液の蒸気圧が低すぎないことから、プリウェット液がレジスト膜中に残存して、塗布の厚みムラが生じることを抑制している。更に、本発明のプリウェット液が、表面張力が一定以上で、かつ、SP値が一定以下の有機溶剤を使用していることから、プリウェット液の基板に対する進行方向に対する接触角と後退方向に対する接触角との差(ヒステリシス)が小さく、プリウェット液上でレジスト組成物を均等に濡れ広げることができると考えられている。
以上のような理由により、本発明のプリウェット液を用いれば、レジスト組成物が基板上に均等に濡れ広がることができ、形成されるレジスト膜の良好な面内均一性が実現されている、と推測している。
【0026】
更に、本発明のプリウェット液は、水及び金属イオンの含有量がそれぞれ所定の範囲内である。
金属イオンの含有量が所定量以上であるため、プリウェット液中に存在し得る配位性のある有機不純物が均一に分散でき、上記有機不純物同士が凝集及び析出してパターンの欠陥の原因になることを抑制できる。また、水の含有量が所定量以上であるため、上記有機不純物と配位した金属イオンのプリウェット液全体に対する親和性(安定性)も改善しており、金属イオンを核に有機不純物が析出することも抑制され、パターンの欠陥の原因になることを抑制できる。一方で、水の含有量が所定量以下であるため、プリウェット膜中の水がレジスト膜中に移行したことに由来するウォーターマーク欠陥の発生を抑制できる。金属イオンの含有量が所定量以下であるため、パターンにおける金属成分自体に由来する欠陥の発生を抑制できる。このような理由により、本発明のプリウェット液における、形成されるパターンの欠陥抑制性が実現されている、と推測している。
以下、本発明のプリウェット液が、より優れた面内均一性のレジスト膜を形成できること、及び/又は、形成されるパターンの欠陥抑制性がより優れることを、本発明の効果がより優れるとも言う。
【0027】
〔プリウェット液の物性〕
本発明のプリウェット液は、表面張力が、29.0mN/m以上であり、29.0~50.0mN/mが好ましく、29.5~40.0mN/mがより好ましく、31.0~35.0mN/mが更に好ましい。
【0028】
本発明のプリウェット液は、粘度が、1.8cP以下であり、1.6cP以下が好ましく、1.4cP以下がより好ましく、1.3cP未満が更に好ましい。下限は特に制限されず、例えば、0.1cP以上である。
【0029】
本発明のプリウェット液は、蒸気圧が、2.5~5.0mmHgであり、2.8~4.7mmHgが好ましく、3.2~4.2mmHgがより好ましく、3.2mmHg超4.2mmHg以下が更に好ましい。
【0030】
本発明のプリウェット液が含有するそれぞれの有機溶剤は、いずれもSP値が26.0MPa1/2以下である。
本発明のプリウェット液が含有する有機溶剤のうち、最も高いSP値を示す有機溶剤のSP値は、10.0~26.0MPa1/2が好ましく、10.0~24.5MPa1/2がより好ましく、18.0~23.0MPa1/2が更に好ましく、20.0~23.0MPa1/2が特に好ましい。
また、本発明のプリウェット液が含有するそれぞれの有機溶剤が、いずれもSP値が10.0~26.0MPa1/2であるのが好ましく、いずれもSP値が15.0~26.0MPa1/2であるのがより好ましく、いずれもSP値が18.0~25.0MPa1/2であるのが更に好ましい。
【0031】
〔1種以上の有機溶剤(特定溶剤)〕
本発明のプリウェット液は、1種以上の有機溶剤を含有する。
以下、上記1種以上の有機溶剤を、特定溶剤とも言う。
特定溶剤の含有量(上記1種以上の有機溶剤の含有量(合計含有量))は、プリウェット液の全質量に対して、98質量%以上であり、99質量%以上が好ましく、99.99質量%以上がより好ましく、99.9999質量%以上が更に好ましい。上記含有量の上限は、プリウェット液に所定量の水及び金属イオンが含有されていれば特に制限はなく、例えば、99.999998質量%以下でもよく、99.999995質量%以下でもよい。
【0032】
特定溶剤の物性(表面張力、粘度、蒸気圧、最も高いSP値を示す有機溶剤のSP値)についての好ましい範囲は、本発明のプリウェット液において必要とされる物性、及び、好適な物性として上述した範囲と一致する。
【0033】
特定溶剤は、1種の有機溶剤である単独溶剤、又は、2種以上の有機溶剤の混合溶剤が好ましい。
以下、単独溶剤、及び、混合溶剤についてそれぞれ詳述する。
【0034】
<単独溶剤>
特定溶剤は、1種の有機溶剤である単独溶剤からなっていてもよい。
ここで、特定溶剤が単独溶剤からなるとは、特定溶剤が、実質的に、1種の有機溶剤(単独溶剤)のみからなることを意味する。
具体的には、上記1種の有機溶剤(単独溶剤)の含有量が、特定溶剤の全質量に対して、98質量%超100質量%以下(好ましくは99~100質量%、より好ましくは99.9~100質量%)であることを意味する。
【0035】
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)は、上述したプリウェット液の物性(表面張力、粘度、蒸気圧等)に関する各条件を1種単独で満たす有機溶剤であるのが好ましく、好ましい条件も同様である。
また、上記1種の有機溶剤(単独溶剤)のSP値は、26.0MPa1/2以下が好ましく、10.0~26.0MPa1/2がより好ましく、10.0~24.5MPa1/2が更に好ましく、18.0~23.0MPa1/2が特に好ましく、20.0~23.0MPa1/2が最も好ましい。
【0036】
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)の沸点は、100~250℃が好ましく、120~200℃がより好ましい。
【0037】
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)の分子量は、60~500が好ましく、80~250がより好ましい。
【0038】
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)は、ベンゼン環基を有さないのも好ましい。上記1種の有機溶剤がベンゼン環基を有する場合、ベンゼン環基同士のπ-π電子相互作用により強く相互作用するためプリウェット液の表面張力が高くなる傾向にあるが、一方で、レジスト組成物中の固形分(光酸発生剤等)と相互作用してパターン欠陥の原因に生じさせ得るため、ベンゼン環基を有さない方が好ましい場合がある。
なお、上記1種の有機溶剤が有さないベンゼン環基は、単環の状態で存在するベンゼン環基のみならず、例えば、化合物がナフタレン環基の中の部分構造として存在するような多環の中のベンゼン環基をも含むことを意図する。
【0039】
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)は、エステル基(両末端がいずれも炭素原子と結合する-CO-O-)を有しているのも好ましい。
また、上記1種の有機溶剤(単独溶剤)がカルボニル基を1以上(好ましくは2以上、より好ましくは2~5)有するのも好ましい。上記カルボニル基は、上記エステル基に含まれる形態のカルボニル基でもよい。
【0040】
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)は、所定の条件さえ満たせば、後述の有機溶剤Aであってもよい。
上記1種の有機溶剤(単独溶剤)は、ピルビン酸エチル又はアニソールが好ましく、ピルビン酸エチルがより好ましい。
つまり、特定溶剤は、ピルビン酸エチル又はアニソールからなっていてもよい。
特定溶剤がピルビン酸エチル又はアニソールからなるとは、特定溶剤が、実質的に、ピルビン酸エチル及びアニソールのいずれか一方のみからなることを意味する。
具体的には、ピルビン酸エチル及びアニソールのいずれか一方の含有量が、特定溶剤の全質量に対して、98質量%超100質量%以下(好ましくは99~100質量%、より好ましくは99.9~100質量%)であることを意味する。
【0041】
<混合溶剤>
特定溶剤は、2種以上の有機溶剤の混合溶剤からなっていてもよい。
ここで、特定溶剤が混合溶剤からなるとは、特定溶剤が、実質的に、上記混合溶剤のみからなることを意味する。
具体的には、上記混合溶剤の含有量(2種以上の有機溶剤の合計含有量)が、特定溶剤の全質量に対して、98質量%超100質量%以下(好ましくは99~100質量%、より好ましくは99.9~100質量%)であることを意味する。
【0042】
上記混合溶剤は、混合溶剤全体として、上述したプリウェット液の物性(表面張力、粘度、蒸気圧等)を満たすのが好ましく、好ましい条件も同様である。
上記混合溶剤は、以下に説明する要件1又は要件2を満たすのが好ましい。
【0043】
(要件1を満たす混合溶剤)
要件1を次に示す。
要件1:上記混合溶剤が、2種以上の有機溶剤Aのみからなる混合溶剤であり、上記有機溶剤Aは、SP値が26.0MPa1/2以下、表面張力が29.0mN/m以上、かつ、ベンゼン環基を有さない有機溶剤である。
【0044】
混合溶剤が2種以上の有機溶剤Aのみからなるとは、混合溶剤が、実質的に、有機溶剤Aのみからなることを意味する。
具体的には、2種以上の有機溶剤Aの合計含有量が、混合溶剤の全質量に対して、98質量%超100質量%以下(好ましくは99~100質量%、より好ましくは99.9~100質量%)であることを意味する。
【0045】
・有機溶剤A
有機溶剤Aは、SP値及び表面張力が所定の範囲内、かつ、ベンゼン環基を有さない有機溶剤である。上記要件を満たした上で、最終的に得られるプリウェット液の物性を上述した条件に適合させられる有機溶剤であれば、有機溶剤Aはその他には特に制限されない。
【0046】
有機溶剤Aの表面張力は、29.0mN/m以上であり、29.5~50.0mN/mが好ましく、30.0~40.0mN/mがより好ましい。
【0047】
有機溶剤Aの粘度は、2.5cP以下が好ましく、2.0cP以下がより好ましく、1.4cP以下がより好ましい。下限は特に制限されず、例えば、0.1cP以上である。
【0048】
有機溶剤Aの蒸気圧は、0.3~8.0mmHgが好ましく、0.5~5.8mmHgがより好ましい。
【0049】
有機溶剤AのSP値は、26.0MPa1/2以下であり、10.0~26.0MPa1/2が好ましく、10.0~25.0MPa1/2がより好ましく、18.0~24.0MPa1/2がより好ましい。
【0050】
有機溶剤Aの沸点は、100~250℃が好ましく、120~200℃がより好ましい。
【0051】
有機溶剤Aの分子量は、60~500が好ましく、80~250がより好ましい。
【0052】
有機溶剤Aはベンゼン環基を有さないのも好ましい。有機溶剤Aがベンゼン環基を有する場合、ベンゼン環基を有する場合、ベンゼン環基同士のπ-π電子相互作用により強く相互作用するためプリウェット液の表面張力が高くなる傾向にあるが、一方で、レジスト組成物中の固形分(光酸発生剤等)と相互作用してパターン欠陥の原因を生じさせ得るため、ベンゼン環基を有さない方が好ましい場合がある。
なお、有機溶剤Aが有さないベンゼン環基は、単環の状態で存在するベンゼン環基のみならず、例えば、化合物がナフタレン環基の中の部分構造として存在するような多環の中のベンゼン環基をも含むことを意図する。
【0053】
有機溶剤Aは、エステル基(両末端がいずれも炭素原子と結合する-CO-O-)を有しているのも好ましい。
また、有機溶剤Aがカルボニル基を1以上(好ましくは2以上、より好ましくは2~5)有するのも好ましい。上記カルボニル基は、上記エステル基に含まれる形態のカルボニル基でもよい。
【0054】
要件1を満たす混合溶剤は、2種以上(好ましくは2~5種、より好ましくは2種)の有機溶剤Aの混合物である。要件1を満たす混合溶剤中、最も含有量の多い有機溶剤Aの含有量は、上記混合溶剤の全質量に対して、20~98質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましく、50~90質量%が更に好ましい。
要件1を満たす混合溶剤中、2番目に含有量の多い有機溶剤Aの含有量は、上記混合溶剤の全質量に対して、2~50質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~50質量%が更に好ましい。
なお、最も含有量の多い有機溶剤Aの含有量と、2番目以降に含有量の多い各有機溶剤Aの含有量とが実質的に同一であってもよい。
【0055】
有機溶剤Aとしては、上述したプリウェット液の物性(表面張力等)に関する各条件を1種単独で満たす有機溶剤(ピルビン酸エチル及び/又はアニソール等)を使用してもよいし、それ以外の有機溶剤を使用してもよい。
有機溶剤Aとしては、例えば、ピルビン酸エチル、ピルビン酸メチル、アセト酢酸メチル、メトキシ酢酸メチル、アセチルアセトン、マロン酸ジメチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、シュウ酸ジエチル、2-メチルアセト酢酸エチル、アセトニルアセトン、1,2-ジアセトキシプロパン、安息香酸メチル、アニソール、γブチロラクトン、シクロヘキサノン、及び、2-メトキシ-1,3ジオキソランからなる群から選択される有機溶剤を使用できる。
中でも、有機溶剤Aとしては、ピルビン酸エチル、ピルビン酸メチル、アセト酢酸メチル、メトキシ酢酸メチル、アセチルアセトン、マロン酸ジメチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、シュウ酸ジエチル、2-メチルアセト酢酸エチル、アセトニルアセトン、1,2-ジアセトキシプロパン、安息香酸メチル、アニソール、γブチロラクトン、及び、シクロヘキサノンからなる群から選択される有機溶剤が好ましい。
【0056】
2種以上の有機溶剤Aの組み合わせとしては、例えば、ピルビン酸エチルと3-メトキシプロピオン酸メチルとの組み合わせ、ピルビン酸エチルとピルビン酸メチルとの組み合わせ、3-メトキシプロピオン酸メチルとピルビン酸メチルとの組み合わせ、マロン酸ジメチルとピルビン酸メチルとの組み合わせ、マロン酸ジメチルとメトキシ酢酸メチルとの組み合わせ、及び、2-メチルアセト酢酸エチルとピルビン酸メチルとの組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせに、所望に応じて更に異なる有機溶剤Aを組み合わせてもよい。
【0057】
(要件2を満たす混合溶剤)
混合溶剤は、下記要件2を満たす混合溶剤であってもよい。
要件2:上記混合溶剤が、上記有機溶剤A及び有機溶剤Bの混合溶剤であり、上記有機溶剤Bは、SP値が26.0MPa1/2以下、かつ、表面張力が29.0mN/m未満の有機溶剤である。
【0058】
混合溶剤が、上記有機溶剤A及び有機溶剤Bの混合溶剤であるとは、混合溶剤が、実質的に、有機溶剤Aと有機溶剤Bとのみからなることを意味する。
具体的には、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計含有量が、混合溶剤の全質量に対して、98質量%超100質量%以下(好ましくは99~100質量%、より好ましくは99.9~100質量%)であることを意味する。
また、要件2を満たす混合溶剤において、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの含有量の質量比(有機溶剤Aの合計含有質量/有機溶剤Bの合計含有質量)は、2/98~98/2が好ましく、5/95~95/5がより好ましい。
【0059】
・有機溶剤A
要件2を満たす混合溶剤における有機溶剤Aは、要件1を満たす混合溶剤における有機溶剤Aと同様である。
要件2を満たす混合溶剤における有機溶剤Aは、1種単独で使用しても2種以上使用してもよい。要件2を満たす混合溶剤において、最も含有量の多い有機溶剤Aの含有量は、有機溶剤Aの全質量に対して、20~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、80~100質量%が更に好ましい。
【0060】
・有機溶剤B
有機溶剤Bが、SP値及び表面張力が所定の範囲内の有機溶剤である。上記要件を満たした上で、最終的に得られるプリウェット液の物性を上述した条件に適合させられる有機溶剤であれば、有機溶剤Bはその他には特に制限されない。
【0061】
有機溶剤Bの表面張力は、29.0mN/m未満であり、10.0mN/m以上29.0mN/m未満が好ましく、20.0mN/m以上29.0mN/m未満がより好ましく、23.0~28.5mN/mが更に好ましい。
【0062】
有機溶剤Bの粘度は、2.5cP以下が好ましく、2.0cP以下がより好ましく、1.4cP以下が更に好ましい。下限は特に制限されず、例えば、0.1cP以上である。
【0063】
有機溶剤Bの蒸気圧は、0.3~13.0mmHgが好ましく、1.0~8.0mmHgがより好ましい。
【0064】
有機溶剤BのSP値は、26.0MPa1/2以下であり、10.0~26.0MPa1/2が好ましく、10.0~25.0MPa1/2がより好ましく、15.0~23.0MPa1/2が更に好ましい。
【0065】
有機溶剤Bの沸点は、80~250℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。
【0066】
有機溶剤Bの分子量は、40~500が好ましく、70~250がより好ましい。
【0067】
有機溶剤Bはベンゼン環基を有してもよいし有さなくてもよい。ここで言うベンゼン環基は、単環の状態で存在するベンゼン環基のみならず、例えば、化合物がナフタレン環基の中の部分構造として存在するような多環の中のベンゼン環基をも含むことを意図する。
【0068】
有機溶剤Bとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、酢酸ブチル(nBA)、酢酸イソアミル、酢酸アミル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、及び、酢酸ペンチルからなる群から選択される有機溶剤を使用できる。
【0069】
要件2を満たす混合溶剤における有機溶剤Bは、1種単独で使用しても2種以上使用してもよい。要件2を満たす混合溶剤において、最も含有量の多い有機溶剤Bの含有量は、有機溶剤Bの全質量に対して、20~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、80~100質量%が更に好ましい。
【0070】
有機溶剤A及び有機溶剤Bの組み合わせとしては、例えば、γブチロラクトンとPGMEAとの組み合わせ、ピルビン酸エチルとPGMEAとの組み合わせ、ピルビン酸エチルとnBAとの組み合わせ、3-メトキシプロピオン酸メチルとPGMEAとの組み合わせ、3-メトキシプロピオン酸メチルとnBAとの組み合わせ、マロン酸ジメチルとnBAとの組み合わせ、及び、2-メチル-アセト酢酸エチルとnBAとの組み合わせが挙げられる。
これらの組み合わせに、所望に応じて更に異なる有機溶剤A及び/又は有機溶剤Bを組み合わせてもよい。
【0071】
〔金属イオン〕
本発明のプリウェット液は金属イオンを含有する。
金属イオンは、プリウェット液中にイオン状態で存在する金属成分であり、粒子を形成していない。金属イオンは、粒子状態になっていないのであれば、錯体(錯イオン)を形成していてもよい。
これまで、金属イオンがプリウェット液の性能に与える影響はない(又は、あったとしても支配的ではない)と考えられていたが、本発明者らは金属イオンの含有量が水の含有量と密接に関連し合って、形成されるパターンの欠陥抑制性に有意な影響を与えることを知見した。
金属イオンの含有量は、プリウェット液の全質量に対して、0.1~200質量pptであり、0.2~95質量pptが好ましく、1~40質量pptがより好ましい。
【0072】
なお、プリウェット液中の金属イオンの含有量は、SP-ICP-MS法(Single Nano Particle Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)で測定できる。
ここで、SP-ICP-MS法とは、通常のICP-MS法(誘導結合プラズマ質量分析法)と同様の装置を使用し、データ分析のみが異なる。SP-ICP-MS法のデータ分析は、市販のソフトウェアにより実施できる。
ICP-MS法では、測定対象とされた金属成分の含有量が、その存在形態に関わらず、測定される。従って、測定対象とされた金属粒子(粒子を形成している金属成分)と、金属イオンとの合計質量が、金属成分の含有量として定量される。
【0073】
一方、SP-ICP-MS法では、金属粒子の含有量が測定できる。従って、試料中の金属成分の含有量から、金属粒子の含有量を引くと、試料中の金属イオンの含有量が算出できる。
SP-ICP-MS法の装置としては、例えば、アジレントテクノロジー社製、Agilent 8800 トリプル四重極ICP-MS(inductively coupled plasma mass spectrometry、半導体分析用、オプション#200)が挙げられる。上記以外の他の装置としては、PerkinElmer社製 NexION350Sのほか、アジレントテクノロジー社製、Agilent 8900も使用できる。
【0074】
〔水〕
本発明のプリウェット液は水を含有する。
水の含有量は、プリウェット液の全質量に対して、0.1~250質量ppmであり、0.1~100質量ppmが好ましく、0.3~15質量ppmがより好ましい。
プリウェット液中の水の含有量は、例えば、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製「MKC-710M」等)を用いて測定できる。
【0075】
〔プリウェット液の製造方法〕
本発明のプリウェット液を製造する方法は特に制限されない。
例えば、水及び/又は金属イオンの含有量が所定量未満であること以外は本発明の要件を満たす液を調製した後に、上記液に対して水及び/又は金属イオン(又はそれらの供給源)を添加して、水及び/又は金属イオンの含有量を所定量に調整し、本発明のプリウェット液を得てもよい。
その一方で、通常の有機溶剤を原料として用いてプリウェット液にしようとすると、原料中の微量成分(不純物)として存在する水及び/又は金属イオンが、本発明における所定量を超過してプリウェット液に持ち込まれる場合が多い。
そのため、例えば、そのままでは多すぎる量の水及び/又は金属イオンを含有する有機溶剤を原料として使用し、上記原料である有機溶剤又はそれらの混合液に対して精製処理(ろ過及び/又は蒸留(分留)等)を行って、水及び/又は金属イオンの含有量を低減させて本発明のプリウェット液を得るのも好ましい。
なお、蒸留(分留)の前に、精製処理の対象となる被処理液に、キレート形成能を有するキレート剤を添加することも好ましい。被処理液中で、キレート剤に金属イオンを補足させてから蒸留(分留)することで、キレート剤(金属イオンを補足したキレート剤)と、精製の目的物とが分離され、通常の蒸留(分留)を実施する場合よりも効果的に金属イオンの含有量を低減できる。この場合、キレート剤の沸点は、被処理液の沸点よりも20℃以上(例えば20~150℃)の差があることが好ましい。キレート剤の沸点は、被処理液よりも高くても低くてもよい。
キレート剤としては、例えば、カテコール及びピロガロールが挙げられる。
また、キレート剤の添加量は、添加される被処理液の全質量に対して0.001~10質量%が好ましい。
また、所定量未満の水及び/又は金属イオンを含有する有機溶剤と、所定量以上の水及び/又は金属イオンを含有する有機溶剤とを混合することで、有機溶剤中の水及び/又は金属イオンの含有量を所定量の範囲内に調整して、本発明のプリウェット液を得てもよい。
有機溶剤中の水の含有量が所定量未満である場合は、有機溶剤に直接水を添加して、有機溶剤中の水分含有量を所定の範囲内に調整してもよい。
また、プリウェット液を製造する際に除電工程を実施してもよい。
【0076】
<容器>
プリウェット液は、使用時まで一時的に容器内に保管してもよい。プリウェット液を保管するための容器としては特に制限されず、公知の容器を使用できる。
プリウェット液を保管する容器としては、半導体製造用途向けに、容器内のクリーン度が高く、不純物の溶出が少ないものが好ましい。
使用可能な容器としては、具体的には、アイセロ化学(株)製の「クリーンボトル」シリーズ、及び、コダマ樹脂工業製の「ピュアボトル」等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、容器としては、プリウェット液への不純物混入(コンタミ)防止を目的として、容器の内壁が6種の樹脂の6層構造としたもの、又は、6種の樹脂の7層構造としたものを用いることが好ましい。上記の容器としては、特開2015-123351号公報に記載の容器が挙げられる。
【0077】
この容器の接液部は、非金属材料、又は、ステンレス鋼により形成されたものであることが好ましい。
非金属材料としては、上述した蒸留塔の接液部に用いられる非金属材料で例示した材料が挙げられる。
特に、上記のなかでも、接液部がフッ素樹脂である容器を用いる場合、接液部がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はポリエチレン-ポリプロピレン樹脂である容器を用いる場合と比べて、エチレン又はプロピレンのオリゴマーの溶出という不具合の発生を抑制できる。
このような接液部がフッ素樹脂である容器の具体例としては、例えば、Entegris社製 FluoroPurePFA複合ドラム等が挙げられる。また、特表平3-502677号公報の第4頁等、国際公開第2004/016526号の第3頁等、及び、国際公開第99/46309号の第9頁及び16頁等に記載の容器も用いることができる。なお、非金属材料の接液部とする場合、非金属材料中のプリウェット液への溶出が抑制されていることが好ましい。
【0078】
容器としては、プリウェット液と接触する接液部が、ステンレス鋼から形成されることも好ましく、電解研磨されたステンレス鋼から形成されることがより好ましい。
上記容器にプリウェット液を収容した場合、容器内で保管されるプリウェット液中に、不純物金属、及び/又は、有機不純物がより溶出しにくい。
【0079】
上記ステンレス鋼の形態としては、蒸留塔の接液部の材質として既に説明したとおりである。また、電解研磨されたステンレス鋼についても同様である。
【0080】
上記容器の接液部を形成するステンレス鋼中におけるFe原子の含有量に対するCr原子の含有量の含有質量比(以下、「Cr/Fe」ともいう。)としては特に制限されないが、一般に、0.5~4が好ましく、なかでも、容器内で保管されるプリウェット液中に不純物金属、及び/又は、有機不純物がさらに溶出しにくい点で、0.5を超え、3.5未満がより好ましい。Cr/Feが0.5を超えると、容器内からの金属溶出を抑えることができ、Cr/Feが3.5未満だとパーティクルの原因となる内容器のはがれ等が起きにくい。
上記ステンレス鋼中のCr/Feを調整する方法としては特に制限されず、ステンレス鋼中のCr原子の含有量を調整する方法、及び、電解研磨により、研磨表面の不動態層におけるクロムの含有量が、母相のクロムの含有量よりも多くする方法等が挙げられる。
【0081】
容器、プリウェット液の製造に用いる装置、及び、プリウェット液の製造に用いる部材(フィルタ等)は、使用前にプリウェット液との接触部分(容器の内壁、装置の内壁、及び、部材の内部等;以下「接液部」ともいう。)が洗浄されていることが好ましい。洗浄に用いる液体としては、不純物の少ない洗浄液が好ましく、例えば上記「高純度グレード品」、高純度グレード品を精製したもの、プリウェット液そのもの、及び、プリウェット液を希釈したもの等が好ましい。また、プリウェット液の製造に用いる装置の接液部を、洗浄液を用いて洗浄する際は、洗浄液に含まれる不純物が所望の量(予め定めた値)以下となるまで洗浄することが好ましい。上記プリウェット液は、製造後にガロン瓶又はコート瓶等の容器にボトリングし、輸送、保管されてもよい。ガロン瓶はガラス材料を使用したものであってもそれ以外であってもよい。
【0082】
保管における溶液中の成分の変化を防ぐ目的で、容器内を純度99.99995体積%以上の不活性ガス(チッソ又はアルゴン等)で置換しておいてもよい。特に、含水率が少ないガスが好ましい。また、輸送、保管に際しては、常温でもよいが、変質を防ぐため、-20℃から30℃の範囲に温度制御してもよい。
【0083】
(クリーンルーム)
上記プリウェット液の製造、容器の開封及び/又は洗浄、溶液の収容等を含めた取り扱い、処理分析、及び、測定は、全てクリーンルームで行うことが好ましい。クリーンルームは、14644-1クリーンルーム基準を満たすことが好ましい。ISO(国際標準化機構)クラス1、ISOクラス2、ISOクラス3、及び、ISOクラス4のいずれかを満たすことが好ましく、ISOクラス1又はISOクラス2を満たすことがより好ましく、ISOクラス1を満たすことが更に好ましい。
【0084】
<薬液収容体>
薬液収容体として、容器と、容器に収容された上記プリウェット液と、を備え、容器内のプリウェット液と接触する接液部が非金属材料、又は、ステンレス鋼から形成された、薬液収容体が好ましい。
【0085】
非金属材料としては、特に制限されないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合体樹脂、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン共重合樹脂、及び、フッ化ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。非金属材料が上記から形成される薬液収容体は、長期保管の際に、プリウェット液中に不純物金属、及び/又は、有機不純物等がより溶出しにくい。
【0086】
ステンレス鋼としては特に制限されず、公知のステンレス鋼を用いることができる。なお、ステンレス鋼の形態としては、容器の接液部として既に説明したとおりである。
【0087】
[レジスト膜形成方法、パターン形成方法]
上記プリウェット液は、半導体製造用に用いられるレジスト膜、及び/又は、レジストパターン(以下、単に「パターン」ともいう)の形成に用いることが好ましい。上記プリウェット液を用いたレジスト膜形成方法、及び、パターン形成方法としては特に制限されず、公知のレジスト膜形成方法、及び、パターン形成方法が挙げられる。
【0088】
なかでも、レジスト膜形成方法としては以下の(A)及び(B)の工程を含有することが好ましい。パターン形成方法としては以下の各工程を含有することが好ましい。
(A)上記プリウェット液を基板上に塗布するプリウェット工程
(B)プリウェット工程後の基板上に、レジスト組成物を用いて(通常、レジスト組成物を塗布して)、レジスト膜を形成する、レジスト膜形成工程
(C)レジスト膜を露光する、露光工程
(D)露光されたレジスト膜を、現像液を用いて現像する、現像工程
以下では、上記工程ごとにその形態を説明する。
【0089】
〔(A)プリウェット工程〕
プリウェット工程は、基板上にプリウェット液を塗布する工程である。
基板としては特に制限されず、半導体製造用として用いられる公知の基板を使用できる。基板としては、例えば、シリコン、SiO、若しくはSiN等の無機基板、又は、SOG(Spin On Glass)等の塗布系無機基板等が挙げられるがこれに制限されない。
また、基板は、反射防止膜を備える、反射防止膜付き基板であってもよい。反射防止膜としては、特に制限されず、公知の有機系又は無機系の反射防止膜を使用できる。
【0090】
基板上にプリウェット液を塗布する方法としては特に制限されず、公知の塗布方法を使用できる。中でも、後述するレジスト膜形成工程において、より少ないレジスト組成物で均一なレジスト膜が形成できる点で、塗布方法としてはスピン塗布が好ましい。
【0091】
プリウェット液を用いて基板上に形成されるプリウェット液層の厚みとしては特に制限されないが、一般に0.001~10μmが好ましく、0.005~5μmがより好ましい。
【0092】
ここで、プリウェット液の表面張力は、塗布しようとするレジスト組成物の表面張力よりも高いのが好ましい。
【0093】
プリウェット液のウェハへの供給方法としては、通常、プリウェットノズルがウェハの中心部の上方まで移動する。そして、バルブの開閉によってプリウェット液がウェハへ供給される。
【0094】
ウェハが停止している状態で、プリウェットノズルから上記のプリウェット液が所定量、ウェハの中心部に供給される。その後、ウェハが例えば500rpm(rotation per minute)程度の第1の速度V1で回転され、ウェハ上のプリウェット液がウェハの表面の全面に拡散されて、ウェハの表面全体がプリウェット液により濡れた状態となる。
なお、第1の速度V1の上限値としては特に制限されないが3000rpm以下が好ましい。
【0095】
その後、レジスト組成物が繋がっているラインのバルブが開放されることによりレジストノズルからレジスト組成物の吐出が開始され、ウェハの中心部にレジスト組成物が供給され始める。
上記レジスト組成物は、ArF露光用のレジスト組成物でもよく、EUV露光用のレジスト組成物でもよく、KrF露光用のレジスト組成物でもよい。つまり、プリウェット液は、ArF露光用のレジスト組成物が塗布される基板に対して塗布して用いられるプリウェット液でもよく、EUV露光用のレジスト組成物が塗布される基板に対して塗布して用いられるプリウェット液でもよく、KrF露光用のレジスト組成物が塗布される基板に対して塗布して用いられるプリウェット液でもよい。
こうして、(B)レジスト膜形成工程(後述する)が開始される。このレジスト膜形成工程では、ウェハの回転速度が第1の速度V1から、例えば、2000~4000rpm程度の第2の速度V2まで上げられる。レジスト膜形成工程の開始前に第1の速度V1であったウェハの回転は、その後速度が連続的に滑らかに変動するように徐々に加速される。このとき、ウェハの回転の加速度は、例えば零から次第に増加する。そして、レジスト膜形成工程の終了時には、ウェハの回転の加速度が次第に減少され、ウェハの回転速度が第2の速度V2に滑らかに収束する。こうして、レジスト膜形成工程時においては、ウェハの回転速度が第1の速度V1から第2の速度V2にS字状に推移するように変動する。レジスト膜形成工程では、ウェハの中心部に供給されたレジスト組成物が遠心力によりウェハの表面の全面に拡散されて、ウェハの表面にレジスト組成物が塗布される。
なお、このようなレジスト塗布時のウェハ回転速度の変動による省レジスト技術については、特願2008-131495号公報、特開2009-279476号公報に詳細に記載されている。
【0096】
なお、(A)プリウェット工程が終了した後、(B)レジスト膜形成工程におけるレジスト組成物の塗布が始まるまでの間隔としては特に制限されないが、一般に7秒以下が好ましい。
【0097】
上記プリウェット液は、再利用されてもよい。すなわち、上記プリウェット工程で用いたプリウェット液を回収し、更に他のウェハのプリウェット工程に使用できる。
プリウェット液を再利用する場合、回収したプリウェット液中に含有される、不純物金属、有機不純物、及び、水等の含有量を調製することが好ましい。なお、上記調製方法としては、プリウェット液の製造方法として既に説明したとおりである。
【0098】
〔(B)レジスト膜形成工程〕
レジスト膜形成工程は、プリウェット工程後の基板上に、レジスト組成物を用いて(通常、レジスト組成物を塗布して)、レジスト膜を形成する工程である。
プリウェット工程後の基板は、プリウェット液層を備える基板であり、プリウェット済み基板とも言う。
以下では、まず、レジスト組成物の形態について説明する。
【0099】
<レジスト組成物>
上記レジスト膜形成工程において使用できるレジスト組成物としては特に制限されず、公知のレジスト組成物を使用できる。
レジスト組成物は、例えば、ポジ型現像用でもネガ型現像用でもよい。また、レジスト組成物を用いて形成されるレジスト膜に露光する光に制限はなく、例えば、レジスト組成物は、ArF露光用のレジスト組成物でもよく、EUV露光用のレジスト組成物でもよく、KrF露光用のレジスト組成物でもよい。
レジスト組成物としては、酸の作用により分解して極性基(カルボキシル基、及び、フェノール性水酸基等)を生じる基を含有する繰り返し単位を含有する樹脂(以下、本明細書において「酸分解性樹脂」ともいう。)と、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物(以下、本明細書において「光酸発生剤」ともいう。)と、を含有することが好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、例えば、以下のレジスト組成物が好ましい。
・後述する式(I)で表される樹脂を含有するレジスト組成物
・後述するフェノール性水酸基を有する酸分解性樹脂を含有するレジスト組成物
・後述する疎水性樹脂と、酸分解性樹脂とを含有するレジスト組成物
以下では、レジスト組成物の各成分について説明する。
【0100】
(酸分解性樹脂)
酸分解性基において、極性基は酸で脱離する基(酸脱離性基)によって保護されている。酸脱離性基としては、例えば、-C(R36)(R37)(R38)、-C(R36)(R37)(OR39)、及び、-C(R01)(R02)(OR39)等が挙げられる。
式中、R36~R39は、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルケニル基を表す。R36とR37とは、互いに結合して環を形成してもよい。
01及びR02は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルケニル基を表す。
【0101】
酸分解性樹脂としては、式(AI)で表される酸分解性基を有する樹脂Pが挙げられる。
【0102】
【化3】
【0103】
式(AI)に於いて、
Xaは、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
Tは、単結合又は2価の連結基を表す。
Ra~Raは、それぞれ独立に、アルキル基(直鎖状又は分岐鎖状)又はシクロアルキル基(単環又は多環)を表す。
Ra~Raの2つが結合して、シクロアルキル基(単環又は多環)を形成してもよい。
【0104】
Xaにより表される、置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、及び-CH-R11で表される基が挙げられる。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子等)、水酸基、又は1価の有機基を表す。
Xaは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はヒドロキシメチル基が好ましい。
【0105】
Tの2価の連結基としては、アルキレン基、-COO-Rt-基、及び、-O-Rt-基等が挙げられる。式中、Rtは、アルキレン基又はシクロアルキレン基を表す。
Tは、単結合又は-COO-Rt-基が好ましい。Rtは、炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、-CH-基、-(CH-基、又は、-(CH-基がより好ましい。
【0106】
Ra~Raのアルキル基としては、炭素数1~4のものが好ましい。
【0107】
Ra~Raのシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくはシクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくはアダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。
Ra~Raの2つが結合して形成されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくはシクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくはアダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。炭素数5~6の単環のシクロアルキル基がより好ましい。
【0108】
Ra~Raの2つが結合して形成される上記シクロアルキル基は、例えば、環を構成するメチレン基の1つが、酸素原子等のヘテロ原子、又はカルボニル基等のヘテロ原子を有する基で置き換わっていてもよい。
【0109】
式(AI)で表される繰り返し単位は、例えば、Raがメチル基又はエチル基であり、RaとRaとが結合して上述のシクロアルキル基を形成している態様が好ましい。
【0110】
上記各基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、アルキル基(炭素数1~4)、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基(炭素数1~4)、カルボキシ基、及びアルコキシカルボニル基(炭素数2~6)等が挙げられ、炭素数8以下が好ましい。
【0111】
式(AI)で表される繰り返し単位の合計としての含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対し、20~90モル%であることが好ましく、25~85モル%であることがより好ましく、30~80モル%であることが更に好ましい。
【0112】
以下に、式(AI)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、これに限定されるものではない。
【0113】
具体例中、Rx及びXaは、各々独立して、水素原子、CH、CF、又はCHOHを表す。Rxa及びRxbは、各々炭素数1~4のアルキル基を表す。Zは、極性基を含む置換基を表し、複数存在する場合は各々独立である。pは0又は正の整数を表す。Zにより表される極性基を含む置換基としては、例えば、水酸基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミド基、スルホンアミド基、及びこれらの基を有する直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はシクロアルキル基が挙げられる。
【0114】
【化4】
【0115】
(ラクトン構造を有する繰り返し単位)
また、樹脂Pは、ラクトン構造を有する繰り返し単位Qを含有することが好ましい。
【0116】
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qは、ラクトン構造を側鎖に有していることが好ましく、例えば(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位であることがより好ましい。
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよいが、1種単独で用いることが好ましい。
上記樹脂Pの全繰り返し単位に対する、ラクトン構造を有する繰り返し単位Qの含有量は、例えば、3~80モル%が挙げられ、3~60モル%が好ましい。
【0117】
ラクトン構造としては、5~7員環のラクトン構造が好ましく、5~7員環のラクトン構造にビシクロ構造又はスピロ構造を形成する形で他の環構造が縮環している構造がより好ましい。
ラクトン構造としては、下記式(LC1-1)~(LC1-17)のいずれかで表されるラクトン構造を有する繰り返し単位を有することが好ましい。ラクトン構造としては式(LC1-1)、式(LC1-4)、式(LC1-5)、又は式(LC1-8)で表されるラクトン構造が好ましく、式(LC1-4)で表されるラクトン構造がより好ましい。
【0118】
【化5】
【0119】
ラクトン構造部分は、置換基(Rb)を有していてもよい。好ましい置換基(Rb)としては、炭素数1~8のアルキル基、炭素数4~7のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基、カルボキシ基、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、及び酸分解性基等が挙げられる。nは、0~4の整数を表す。nが2以上のとき、複数存在する置換基(Rb)は、同一でも異なっていてもよく、また、複数存在する置換基(Rb)同士が結合して環を形成してもよい。
【0120】
樹脂Pは、式(a)で表される繰り返し単位、式(b)で表される繰り返し単位、式(c)で表される繰り返し単位、式(d)で表される繰り返し単位、及び、式(e)で表される繰り返し単位からなる群から選択される繰り返し単位からなる樹脂(以後、この樹脂を「式(I)で表される樹脂」とも称する)であることが好ましい。
下記式(I)で表される樹脂は、酸の作用により有機溶剤を主成分とする現像液に対する溶解性が減少する樹脂であり、酸分解性基を含有する。上記プリウェット液は、式(I)で表されるような樹脂に対する優れた溶解性を有するため、より少ないレジスト組成物を用いて均一なレジスト膜が得られやすい。以下、式(I)で表される樹脂について説明する。
なお、式(I)で表される樹脂は、実質的に式(a)~(e)で表される繰り返し単位のみからなる樹脂であればよい。例えば、式(I)で表される樹脂は、式(a)~(e)で表される繰り返し単位以外のその他の繰り返し単位を、上記樹脂の全繰り返し単位に対して0~5モル%の範囲(より好ましくは0~1モル%の範囲)で含有してもよい。
【0121】
・式(I)で表される樹脂
【0122】
【化6】
【0123】
上記式(I)は、繰り返し単位(a)(式(a)で表される繰り返し単位)、繰り返し単位(b)(式(b)で表される繰り返し単位)、繰り返し単位(c)(式(c)で表される繰り返し単位)、繰り返し単位(d)(式(d)で表される繰り返し単位)及び繰り返し単位(e)(式(e)で表される繰り返し単位)から構成される。
x1~Rx5は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を含有してもよいアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、p~pは、それぞれ独立に、0、又は、正の整数を表す。
は、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基を表す。
~Tは、それぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表す。
は1価の有機基を表す。
a~eは、モル%(上記繰り返し単位(a)~(e)の合計100モル%に対する各繰り返し単位のモル%)を表し、それぞれ独立に、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c<100、0≦d<100、及び、0≦e<100の範囲内の数を表す。ただし、a+b+c+d+e=100であり、a+b≠0である。
ただし、式(I)中、上記繰り返し単位(e)は、上記繰り返し単位(a)~(d)のいずれとも異なる構造を有する。
【0124】
x1~Rx5により表される、置換基を含有してもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、及び、-CH-R11で表される基が挙げられる。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子等)、水酸基、又は、1価の有機基を表す。
x1~Rx5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基が好ましい。
【0125】
式(I)中、T~Tにより表される2価の連結基としては、アルキレン基、-COO-Rt-基、及び、-O-Rt-基等が挙げられる。式中、Rtは、アルキレン基又はシクロアルキレン基を表す。
~Tは、それぞれ独立に、単結合又は-COO-Rt-基が好ましい。Rtは、炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、-CH-基、-(CH-基、又は、-(CH-基がより好ましい。
【0126】
式(I)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。例えば、メチル基、エチル基、及びt-ブチル基等が挙げられる。なかでも、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。
式(I)中、R~Rは、それぞれ独立に、1価の置換基を表す。R~Rとしては、特に限定されないが、例えば、水酸基、シアノ基、及び、水酸基又はシアノ基等を有する直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はシクロアルキル基が挙げられる。
式(I)中、p~pは、各々独立に、0又は正の整数を表す。なお、p~pの上限値は、各繰り返し単位において置換し得る水素原子の数に相当する。
式(I)中、Rは、1価の有機基を表す。Rとしては、特に限定されないが、例えば、スルトン構造を有する1価の有機基、及び、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,4-チオキサン、ジオキソラン、及び2,4,6-トリオキサビシクロ[3.3.0]オクタン等の環状エーテルを有する1価の有機基、又は酸分解性基(例えば、-COO基と結合する位置の炭素がアルキル基で置換されて4級化されたアダマンチル基等)が挙げられる。
【0127】
また、式(I)中、上記繰り返し単位(b)は、特開2016-138219号公報の段落0014~0018に記載される単量体から形成されたものであることも好ましい。
【0128】
式(I)中、a~eは、モル%(上記繰り返し単位(a)~(e)の合計100モル%に対する各繰り返し単位のモル%)を表し、各々独立に、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c<100、0≦d<100、0≦e<100の範囲に含まれる数を表す。ただし、a+b+c+d+e=100であり、a+b≠0である。
【0129】
式(I)中、a+bは、20~90モル%が好ましく、25~85モル%がより好ましく、30~80モル%が更に好ましい。
式(I)中、全繰り返し単位に対する、酸分解性基を有する繰り返し単位の含有量は、20~90モル%が好ましく、25~85モル%がより好ましく、30~80モル%が更に好ましい。
また、式(I)中、c+d(全繰り返し単位に対する、ラクトン構造を有する繰り返し単位の含有量)は、3~80モル%が好ましく、3~60モル%がより好ましい。
【0130】
なお、繰り返し単位(a)~繰り返し単位(e)の各繰り返し単位はそれぞれ1種を単独で用いても、それぞれ2種以上の各繰り返し単位を併用してもよい。2種以上の繰各繰り返し単位を併用する場合には、合計含有量が、それぞれ上記範囲内であることが好ましい。
【0131】
式(I)で表される樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常1,000~200,000が好ましく、2,000~20,000がより好ましく、3,000~15,000が更に好ましい。なお、上記重量平均分子量は、展開溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)法により求められるポリスチレン換算値である。
また、上記レジスト組成物中、上記式(I)で表される樹脂の含有量は、レジスト組成物の全固形分を基準として、通常30~99質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。
【0132】
(フェノール性水酸基を有する繰り返し単位)
また、樹脂Pは、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位を含有していてもよい。
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位としては、例えば、下記一般式(I)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0133】
【化7】
【0134】
式中、
41、R42及びR43は、各々独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基又はアルコキシカルボニル基を表す。但し、R42はArと結合して環を形成していてもよく、その場合のR42は単結合又はアルキレン基を表す。
【0135】
は、単結合、-COO-、又は-CONR64-を表し、R64は、水素原子又はアルキル基を表す。
【0136】
は、単結合又はアルキレン基を表す。
【0137】
Arは、(n+1)価の芳香環基を表し、R42と結合して環を形成する場合には(n+2)価の芳香環基を表す。
【0138】
nは、1~5の整数を表す。
【0139】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のアルキル基としては、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基及びドデシル基など炭素数20以下のアルキル基が好ましく、炭素数8以下のアルキル基がより好ましく、炭素数3以下のアルキル基が更に好ましい。
【0140】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のシクロアルキル基としては、単環型でも、多環型でもよい。シクロアルキル基としては、置換基を有していてもよい、シクロプロピル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基などの炭素数3~8個で単環型のシクロアルキル基が好ましい。
【0141】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0142】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のアルコキシカルボニル基に含まれるアルキル基としては、上記R41、R42及びR43におけるアルキル基と同様のものが好ましい。
【0143】
上記各基における置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基、アミド基、ウレイド基、ウレタン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオエーテル基、アシル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、及び、ニトロ基等が挙げられ、置換基の炭素数は8以下が好ましい。
【0144】
Arは、(n+1)価の芳香環基を表す。nが1である場合における2価の芳香環基は、置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基及びアントラセニレン基などの炭素数6~18のアリーレン基、並びに、チオフェン、フラン、ピロール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾピロール、トリアジン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール及びチアゾール等のヘテロ環を含む芳香環基が挙げられる。
【0145】
nが2以上の整数である場合における(n+1)価の芳香環基の具体例としては、2価の芳香環基の上記した具体例から、(n-1)個の任意の水素原子を除してなる基が挙げられる。
【0146】
(n+1)価の芳香環基は、更に置換基を有していてもよい。
【0147】
上述したアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキレン基及び(n+1)価の芳香環基が有し得る置換基としては、例えば、一般式(I)におけるR41、R42及びR43で挙げたアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、プロポキシ基、ヒドロキシプロポキシ基及びブトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0148】
により表わされる-CONR64-(R64は、水素原子、アルキル基を表す)におけるR64のアルキル基としては、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基及びドデシル基など炭素数20以下のアルキル基が挙げられ、炭素数8以下のアルキル基がより好ましい。
【0149】
としては、単結合、-COO-又は-CONH-が好ましく、単結合又は-COO-がより好ましい。
【0150】
におけるアルキレン基としては、置換基を有していてもよい、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基及びオクチレン基等の炭素数1~8個のアルキレン基が好ましい。
【0151】
Arとしては、置換基を有していてもよい炭素数6~18の芳香環基が好ましく、ベンゼン環基、ナフタレン環基又はビフェニレン環基がより好ましい。
【0152】
一般式(I)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシスチレン構造を備えていることが好ましい。即ち、Arは、ベンゼン環基であることが好ましい。
【0153】
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位としては、下記一般式(p1)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0154】
【化8】
【0155】
一般式(p1)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子又は1~4個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。複数のRは、各々同じでも異なっていてもよい。一般式(p1)中のRとしては水素原子が好ましい。
【0156】
一般式(p1)におけるArは芳香族環を表し、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フルオレン環及びフェナントレン環などの炭素数6~18の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、並びに、例えば、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環、トリアジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、トリアゾール環、チアジアゾール環及びチアゾール環等のヘテロ環を含む芳香環ヘテロ環が挙げられる。中でも、ベンゼン環がより好ましい。
【0157】
一般式(p1)におけるmは、1~5の整数を表し、1が好ましい。
【0158】
以下、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位の具体例を示すが、本発明は、これに限定されるものではない。式中、aは1又は2を表す。
【0159】
【化9】
【0160】
【化10】
【0161】
【化11】
【0162】
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対し、0~50モル%が好ましく、より好ましくは0~45モル%、更に好ましくは0~40モル%である。
【0163】
(極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位)
樹脂Pは、極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位、特に、極性基で置換された脂環炭化水素構造を有する繰り返し単位を更に含有していてもよい。
これにより基板密着性、現像液親和性が向上する。極性基で置換された脂環炭化水素構造の脂環炭化水素構造としてはアダマンチル基、ジアマンチル基又はノルボルナン基が好ましい。極性基としては、水酸基又はシアノ基が好ましい。
【0164】
極性基を有する繰り返し単位の具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0165】
【化12】
【0166】
樹脂Pが、極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位を含有する場合、その含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対し、1~50モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましく、5~25モル%が更に好ましくは、5~20モル%が特に好ましい。
【0167】
(活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基(光酸発生基)を有する繰り返し単位)
樹脂Pは、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基(光酸発生基)を有する繰り返し単位を含有していてもよい。
活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基(光酸発生基)を有する繰り返し単位としては、例えば、下記式(4)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0168】
【化13】
【0169】
41は、水素原子又はメチル基を表す。L41は、単結合又は2価の連結基を表す。L42は、2価の連結基を表す。Wは、活性光線又は放射線の照射により分解して側鎖に酸を発生させる構造部位を表す。
【0170】
以下に、式(4)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0171】
【化14】
【0172】
そのほか、式(4)で表される繰り返し単位としては、例えば、特開2014-041327号公報の段落[0094]~[0105]に記載された繰り返し単位が挙げられる。
【0173】
樹脂Pが光酸発生基を有する繰り返し単位を含有する場合、光酸発生基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対し、1~40モル%が好ましく、より好ましくは5~35モル%、更に好ましくは5~30モル%である。
【0174】
樹脂Pは、下記式(VI)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0175】
【化15】
【0176】
式(VI)中、
61、R62及びR63は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、又はアルコキシカルボニル基を表す。但し、R62はArと結合して環を形成していてもよく、その場合のR62は単結合又はアルキレン基を表す。
は、単結合、-COO-、又は-CONR64-を表す。R64は、水素原子又はアルキル基を表す。
は、単結合又はアルキレン基を表す。
Arは、(n+1)価の芳香環基を表し、R62と結合して環を形成する場合には(n+2)価の芳香環基を表す。
は、n≧2の場合には各々独立に、水素原子又は酸の作用により脱離する基を表す。但し、Yの少なくとも1つは、酸の作用により脱離する基を表す。
nは、1~4の整数を表す。
【0177】
酸の作用により脱離する基Yとしては、下記式(VI-A)で表される構造が好ましい。
【0178】
【化16】
【0179】
及びLは、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアルキレン基とアリール基とを組み合わせた基を表す。
【0180】
Mは、単結合又は2価の連結基を表す。
【0181】
Qは、アルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいシクロアルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいアリール基、アミノ基、アンモニウム基、メルカプト基、シアノ基又はアルデヒド基を表す。
【0182】
Q、M、Lの少なくとも2つが結合して環(好ましくは、5員若しくは6員環)を形成してもよい。
【0183】
上記式(VI)で表される繰り返し単位は、下記式(3)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0184】
【化17】
【0185】
式(3)において、
Arは、芳香環基を表す。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アシル基又はヘテロ環基を表す。
は、単結合又は2価の連結基を表す。
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロ環基を表す。
、M及びRの少なくとも二つが結合して環を形成してもよい。
【0186】
Arが表す芳香環基は、上記式(VI)におけるnが1である場合の、上記式(VI)におけるArと同様であり、より好ましくはフェニレン基、ナフチレン基であり、更に好ましくはフェニレン基である。
【0187】
以下に式(VI)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0188】
【化18】
【0189】
【化19】
【0190】
樹脂Pは、下記式(4)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0191】
【化20】
【0192】
式(4)中、
41、R42及びR43は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基又はアルコキシカルボニル基を表す。R42はLと結合して環を形成していてもよく、その場合のR42はアルキレン基を表す。
は、単結合又は2価の連結基を表し、R42と環を形成する場合には3価の連結基を表す。
44及びR45は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アシル基又はヘテロ環基を表す。
は、単結合又は2価の連結基を表す。
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロ環基を表す。
、M及びR44の少なくとも二つが結合して環を形成してもよい。
【0193】
41、R42及びR43は、前述の式(IA)中のR41、R42及びR43と同義であり、また好ましい範囲も同様である。
は、前述の式(AI)中のTと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
44及びR45は、前述の式(3)中のRと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
は、前述の式(3)中のMと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
は、前述の式(3)中のQと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0194】
、M及びR44の少なくとも二つが結合して形成される環としては、Q、M及びRの少なくとも二つが結合して形成される環があげられ、また好ましい範囲も同様である。
【0195】
以下に式(4)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0196】
【化21】
【0197】
また、樹脂Pは、下記式(BZ)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0198】
【化22】
【0199】
式(BZ)中、ARは、アリール基を表す。Rnは、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を表す。RnとARとは互いに結合して非芳香族環を形成してもよい。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキルオキシカルボニル基を表す。
【0200】
以下に、式(BZ)により表される繰り返し単位の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0201】
【化23】
【0202】
【化24】
【0203】
樹脂Pにおける酸分解性基を有する繰り返し単位の含有量(複数種類含有する場合はその合計)は、上記樹脂P中の全繰り返し単位に対して5~80モル%が好ましく、5~75モル%がより好ましく、10~65モル%が更に好ましい。
【0204】
樹脂Pは、下記式(V)又は下記式(VI)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0205】
【化25】
【0206】
式中、
及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルコキシ基又はアシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン原子、エステル基(-OCOR又は-COOR:Rは炭素数1~6のアルキル基又はフッ素化アルキル基)、又はカルボキシル基を表す。
は0~6の整数を表す。
は0~4の整数を表す。
はメチレン基、酸素原子又は硫黄原子である。
【0207】
式(V)又は式(VI)で表される繰り返し単位の具体例を下記に示すが、これらに限定されない。
【0208】
【化26】

【0209】
樹脂Pは、更に、側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位を含有していてもよい。側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位としては、例えば、珪素原子を有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位、珪素原子を有するビニル系繰り返し単位などが挙げられる。側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位は、典型的には、側鎖に珪素原子を有する基を有する繰り返し単位であり、珪素原子を有する基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリストリメチルシロキシシリル基、トリストリメチルシリルシリル基、メチルビストリメチルシリルシリル基、メチルビストリメチルシロキシシリル基、ジメチルトリメチルシリルシリル基、ジメチルトリメチルシロキシシリル基、及び、下記のような環状もしくは直鎖状ポリシロキサン、又はカゴ型あるいははしご型もしくはランダム型シルセスキオキサン構造などが挙げられる。式中、R、及び、Rは各々独立に、1価の置換基を表す。*は、結合手を表す。
【0210】
【化27】
【0211】
上記の基を有する繰り返し単位としては、例えば、上記の基を有するアクリレート又はメタクリレート化合物に由来する繰り返し単位、又は、上記の基とビニル基とを有する化合物に由来する繰り返し単位が好ましい。
【0212】
珪素原子を有する繰り返し単位は、シルセスキオキサン構造を有する繰り返し単位であることが好ましく、これにより、超微細(例えば、線幅50nm以下)であり、かつ、断面形状が高アスペクト比(例えば、膜厚/線幅が3以上)のパターンの形成において、非常に優れた倒れ性能を発現することができる。
【0213】
シルセスキオキサン構造としては、例えば、カゴ型シルセスキオキサン構造、はしご型シルセスキオキサン構造(ラダー型シルセスキオキサン構造)、及び、ランダム型シルセスキオキサン構造が挙げられる。なかでも、カゴ型シルセスキオキサン構造が好ましい。
【0214】
ここで、カゴ型シルセスキオキサン構造とは、カゴ状骨格を有するシルセスキオキサン構造である。カゴ型シルセスキオキサン構造は、完全カゴ型シルセスキオキサン構造であっても、不完全カゴ型シルセスキオキサン構造であってもよいが、完全カゴ型シルセスキオキサン構造であることが好ましい。
【0215】
また、はしご型シルセスキオキサン構造とは、はしご状骨格を有するシルセスキオキサン構造である。
【0216】
また、ランダム型シルセスキオキサン構造とは、骨格がランダムのシルセスキオキサン構造である。
【0217】
上記カゴ型シルセスキオキサン構造は、下記式(S)で表されるシロキサン構造であることが好ましい。
【0218】
【化28】
【0219】
上記式(S)中、Rは、1価の有機基を表す。複数あるRは、同一であっても、異なってもよい。
【0220】
上記有機基は特に制限されないが、具体例としては、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アミノ基、メルカプト基、ブロック化メルカプト基(例えば、アシル基でブロック(保護)されたメルカプト基)、アシル基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、シリル基、ビニル基、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、(メタ)アクリル基含有基及びエポキシ基含有基などが挙げられる。
【0221】
上記ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基のヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びリン原子などが挙げられる。
【0222】
上記ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
【0223】
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
【0224】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0225】
樹脂Pが、上記側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位を有する場合、その含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対し、1~30モル%が好ましく、5~25モル%がより好ましくは、5~20モル%が更に好ましい。
【0226】
樹脂Pの重量平均分子量は、GPC(Gel permeation chromatography)法によりポリスチレン換算値として、1,000~200,000が好ましく、3,000~20,000がより好ましく、5,000~15,000が更に好ましい。重量平均分子量を、1,000~200,000とすることにより、耐熱性及びドライエッチング耐性の劣化を防ぐことができ、且つ現像性が劣化したり、粘度が高くなって製膜性が劣化したりすることを防ぐことができる。
【0227】
分散度(分子量分布)は、通常1~5であり、1~3が好ましく、1.2~3.0がより好ましく、1.2~2.0が更に好ましい。
【0228】
レジスト組成物において、樹脂Pの含有量は、全固形分中、50~99.9質量%が好ましく、60~99.0質量%がより好ましい。
また、レジスト組成物において、樹脂Pは、1種で使用してもよいし、複数併用してもよい。
【0229】
(光酸発生剤)
上記レジスト組成物は、光酸発生剤を含有することが好ましい。光酸発生剤としては特に制限されず、公知の光酸発生剤を使用できる。
レジスト組成物中における光酸発生剤の含有量としては特に制限されないが、一般に、レジスト組成物の全固形分に対して、0.1~20質量%が好ましく。0.5~20質量%がより好ましい。光酸発生剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の光酸発生剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0230】
光酸発生剤としては、例えば、特開2016-57614号公報、特開2014-219664号公報、特開2016-138219号公報、及び、特開2015-135379号公報に記載のものが挙げられる。
【0231】
(クエンチャー)
上記レジスト組成物は、クエンチャー(酸拡散制御剤)を含有してもよい。クエンチャーとしては特に制限されず、公知のクエンチャーを使用できる。
クエンチャーは例えば塩基性化合物であって、未露光領域において、露光領域から拡散した酸によって、酸分解性樹脂が意図せず分解するのを抑制する機能を有する。
【0232】
レジスト組成物中におけるクエンチャーの含有量としては特に制限されないが、一般に、レジスト組成物の全固形分に対して、0.1~15質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましい。クエンチャーは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上のクエンチャーを併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0233】
クエンチャーとしては、例えば、特開2016-57614号公報、特開2014-219664号公報、特開2016-138219号公報、及び、特開2015-135379号公報に記載のものが挙げられる。
【0234】
(疎水性樹脂)
上記レジスト組成物は、疎水性樹脂を含有していてもよい。
疎水性樹脂はレジスト膜の表面に偏在するように設計されることが好ましいが、界面活性剤とは異なり、必ずしも分子内に親水基を有する必要はなく、極性物質及び非極性物質を均一に混合することに寄与しなくてもよい。
疎水性樹脂を添加することの効果として、水に対するレジスト膜表面の静的及び動的な接触角の制御、並びに、アウトガスの抑制等が挙げられる。
【0235】
疎水性樹脂は、膜表層への偏在化の観点から、“フッ素原子”、“珪素原子”、及び、“樹脂の側鎖部分に含まれたCH部分構造”のいずれか1種以上を有することが好ましく、2種以上を有することがより好ましい。また、上記疎水性樹脂は、炭素数5以上の炭化水素基を有することが好ましい。これらの基は樹脂の主鎖中に有していても、側鎖に置換していてもよい。
【0236】
疎水性樹脂が、フッ素原子及び/又は珪素原子を含む場合、疎水性樹脂における上記フッ素原子及び/又は珪素原子は、樹脂の主鎖中に含まれていてもよく、側鎖中に含まれていてもよい。
【0237】
疎水性樹脂がフッ素原子を含んでいる場合、フッ素原子を有する部分構造としては、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するシクロアルキル基、又は、フッ素原子を有するアリール基が好ましい。
フッ素原子を有するアルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~4)は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、更にフッ素原子以外の置換基を有していてもよい。
フッ素原子を有するシクロアルキル基は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された単環又は多環のシクロアルキル基であり、更にフッ素原子以外の置換基を有していてもよい。
フッ素原子を有するアリール基としては、フェニル基、及び、ナフチル基等のアリール基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたものが挙げられ、更にフッ素原子以外の置換基を有していてもよい。
フッ素原子又は珪素原子を有する繰り返し単位の例としては、US2012/0251948A1の段落[0519]に例示されたものが挙げられる。
【0238】
また、上記したように、疎水性樹脂は、側鎖部分にCH部分構造を含むことも好ましい。
ここで、疎水性樹脂中の側鎖部分が有するCH部分構造は、エチル基、及び、プロピル基等が有するCH部分構造を含むものである。
一方、疎水性樹脂の主鎖に直接結合しているメチル基(例えば、メタクリル酸構造を有する繰り返し単位のα-メチル基)は、主鎖の影響により疎水性樹脂の表面偏在化への寄与が小さいため、本発明におけるCH部分構造に含まれないものとする。
【0239】
疎水性樹脂に関しては、特開2014-010245号公報の段落[0348]~[0415]の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【0240】
なお、疎水性樹脂としてはこの他にも特開2011-248019号公報、特開2010-175859号公報、特開2012-032544号公報記載の樹脂も好ましく使用できる。
【0241】
疎水性樹脂としては、例えば、以下の式(1b)~式(5b)で表される樹脂が挙げられる。
【0242】
【化29】
【0243】
レジスト組成物が疎水性樹脂を含有する場合、疎水性樹脂の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましい。
【0244】
(溶剤)
上記レジスト組成物は、溶剤を含有してもよい。溶剤としては特に制限されず、公知の溶剤を使用できる。
【0245】
上記レジスト組成物に含有される溶剤は、既に説明したプリウェット液中の混合物に含有される有機溶剤と同一でも異なってもよい。
【0246】
レジスト組成物中における溶剤の含有量としては特に制限されないが、一般に、レジスト組成物の全固形分が、0.1~20質量%に調整されるよう含有されることが好ましく、0.5~10質量%に調整されるよう含有されることがより好ましい。溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の溶剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0247】
溶剤としては、例えば、特開2016-057614号公報、特開2014-219664号公報、特開2016-138219号公報、及び、特開2015-135379号公報に記載のものが挙げられる。
【0248】
(その他の添加剤)
また、上記レジスト組成物は、必要に応じて更に、界面活性剤、酸増殖剤、染料、可塑剤、光増感剤、光吸収剤、上記以外のアルカリ可溶性樹脂、及び/又は、溶解阻止剤等を含有してもよい。
【0249】
レジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜(レジスト組成物膜)を形成するためには、上述したような各成分を溶剤に溶解する等してレジスト組成物を調製し、必要に応じてフィルタ濾過した後、基板(プリウェット済基板)上に塗布する。フィルタのポアサイズは、0.1ミクロン以下が好ましく、0.05ミクロン以下がより好ましく、0.03ミクロン以下が更に好ましい。また、フィルタは、ポリテトラフロロエチレン製、ポリエチレン製、又は、ナイロン製が好ましい。
【0250】
レジスト組成物は、スピン塗布等の適当な塗布方法により塗布される。その後、塗布されたレジスト組成物を乾燥して、レジスト膜が形成される。
【0251】
乾燥方法としては、加熱して乾燥する方法が一般的に用いられる。加熱は通常の露光現像機等に備わっている手段で行うことができ、ホットプレート等を用いて行ってもよい。
加熱温度は、80~180℃が好ましく、80~150℃がより好ましく、80~140℃が更に好ましく、80~130℃が特に好ましい。加熱時間は、30~1000秒が好ましく、60~800秒がより好ましく、60~600秒が更に好ましい。
【0252】
レジスト膜の膜厚は、一般的には1~200nmであり、10~100nmが好ましい。
なお、本発明のレジスト膜形成方法及び/又はパターン形成方法においては、レジスト膜の上層に上層膜(トップコート膜)を形成してもよい。上層膜は、例えば、疎水性樹脂、光酸発生剤、及び、塩基性化合物を含有する上層膜形成用組成物を用いて形成できる。
【0253】
〔(C)露光工程〕
露光工程は、レジスト膜を露光する工程である。レジスト膜を露光する方法としては特に制限されず、公知の方法を使用できる。
レジスト膜を露光する方法としては、例えばレジスト膜に、所定のマスクを通して活性光線又は放射線を照射する方法が挙げられる。また、レジスト膜に電子ビームを照射する方法の場合は、マスクを介さないで照射してもよい(これを、「直描」ともいう。)。
【0254】
露光に用いられる活性光線又は放射線としては特に制限されないが、例えば、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、極紫外線(EUV、Extreme Ultra Violet)、及び、電子線(EB、Electron Beam)等が挙げられ、極紫外線又は電子線が好ましい。露光は液浸露光であってもよい。
【0255】
<PEB(Post Exposure Bake)工程>
上記パターン形成方法は、露光工程と、現像工程の前に、露光後のレジスト膜をベーク(PEB:Post Exposure Bake)する、PEB工程を更に含有することが好ましい。ベークにより露光部の反応が促進され、感度、及び/又は、パターン形状がより良好となる。
加熱温度は80~150℃が好ましく、80~140℃がより好ましく、80~130℃が更に好ましい。
加熱時間は30~1000秒が好ましく、60~800秒がより好ましく、60~600秒が更に好ましい。
加熱は通常の露光・現像機に備わっている手段で行うことができ、ホットプレート等を用いて行ってもよい。
【0256】
〔(D)現像工程〕
現像工程は、露光されたレジスト膜(以下、「露光後のレジスト膜」ともいう。)を現像液によって現像する工程である。
現像方法としては、特に制限されず、公知の現像方法を使用できる。現像方法としては、例えば、ディップ法、パドル法、スプレー法、及び、ダイナミックディスペンス法等が挙げられる。
また、上記パターン形成方法は、現像工程の後に、現像液を他の溶剤に置換し、現像を停止する工程を更に含有してもよい。
現像時間はとしては、特に制限されないが、一般に10~300秒が好ましく、10~120秒がより好ましい。現像液の温度としては、0~50℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。パターン形成方法は、現像工程を少なくとも1回含有していればよく、複数回含有してもよい。
【0257】
<現像液>
現像液としては特に制限されず、公知の現像液を使用できる。現像液としては、例えば、アルカリ現像液、及び、有機溶剤を含有する現像液(有機系現像液)が挙げられる。
なお、現像工程においては、有機溶剤を含有する現像液を用いた現像と、アルカリ現像液による現像を両方行ってもよい(いわゆる二重現像を行ってもよい)。
【0258】
<リンス工程>
上記パターン形成方法は、現像工程の後に更にリンス工程を有することが好ましい。
リンス工程は、現像後のレジスト膜を備えるウェハを、リンス液を用いて洗浄する工程である。
洗浄方法としては特に制限されず、公知の洗浄方法を用いることできる。洗浄方法としては、例えば、回転吐出法、ディップ法、及び、スプレー法等が挙げられる。
なかでも回転吐出法で洗浄し、洗浄後にウェハを2000~4000rpmの回転数で回転させ、リンス液を基板上から除去することが好ましい。
リンス時間としては、一般に10~300秒が好ましく、10~180秒がより好ましく、20~120秒が更に好ましい、リンス液の温度としは0~50℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。
【0259】
(リンス液)
アルカリ現像液を用いた現像後に、レジスト膜を備えるウェハをリンスする場合、リンス液としては、純水が好ましく、界面活性剤を含有する純水であってもよい。
有機系現像液を用いた現像後に、レジスト膜を備えるウェハをリンスする場合、リンス液としては、有機溶剤を含有するリンス液が好ましく、リンス液が含有する有機溶剤として例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、及び、アミド系溶剤、及び、エーテル系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の有機溶剤が好ましく、炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、及び、ケトン系溶剤からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、炭化水素系溶剤、及び、エーテル系溶剤からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0260】
現像工程において、有機溶剤を含有する現像液を用いる場合、上記パターン形成方法は、現像工程の後に、リンス工程を含有してもよいが、スループット(生産性)の観点から、リンス工程を含有しなくてもよい。
リンス工程を含有しないパターン形成方法としては、例えば、特開2015-216403号公報の0014段落~0086段落に記載が援用でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0261】
なお、リンス液としてはMIBC(メチルイソブチルカルビノール)、又は、現像液と同じ液体(特に酢酸ブチル)も好ましい。
【0262】
<その他の工程>
上記パターン形成方法は、既に説明した工程に加えて、その他の工程を含有してもよい。その他の工程としては例えば、超臨界流体による洗浄工程、及び、加熱工程等が挙げられる。
【0263】
(超臨界流体による除去工程)
超臨界流体による除去工程は、現像処理、及び/又は、リンス処理の後に、パターン上に付着している現像液、及び/又は、リンス液を超臨界流体により除去する工程である。
【0264】
(加熱工程)
加熱工程は、現像工程、リンス工程、又は、超臨界流体による除去工程の後に、パターン中に残存する溶剤を除去するためにレジスト膜を加熱する工程である。
加熱温度は、特に制限されないが、一般に40~160℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、50~110℃が更に好ましい。
加熱時間は、特に制限されないが、一般に15~300秒が好ましく、15~180秒がより好ましい。
【0265】
(BARC組成物塗布工程)
上記パターン形成方法は、(B)レジスト膜形成工程の前に、ウェハ上にBARC(Bottom of Anti-Reflection Coating)組成物を塗布する工程を含有してもよい。また、BARC組成物塗布工程は、ウェハのエッジ部(端部)に意図せず塗布されたBARC組成物を除去する工程を更に含有してもよい。
【0266】
[キット]
本発明の実施形態に係るキットは、上記プリウェット液と、レジスト組成物と、を備えたキットである。
本発明の実施形態に係るキットは、既に説明したプリウェット液と、レジスト組成物とを備えたキットである。キットの形態としては特に制限されないが、第1の容器と、上記第1の容器に収容されたプリウェット液とを有する薬液収容体と、第2の容器と、上記第2の容器に収容されたレジスト組成物とを有する、レジスト組成物収容体とを有する形態が挙げられる。プリウェット液、及び、レジスト組成物はそれぞれ上記で説明したとおりである。また、第1の容器及び第2の容器としては、既に説明した容器(薬液収容体の容器等)が使用できる。
上記キットのうち、プリウェット液によるプリウェット後の基板上に、上記キットのレジスト組成物を用いて既に説明した方法にてレジスト膜を形成する用途に使用できる。上記キットによれば、省レジ性に優れ欠陥の発生がより抑制される。
【実施例
【0267】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0268】
〔プリウェット液〕
<有機溶剤の準備>
実施例、及び、比較例のプリウェット液の製造のために原料として用いた、原料有機溶剤の種類及び各種の有機溶剤の物性を下記表1に示す。
表中、「PGME」はプロピレングリコールモノメチルエーテルを意味し、「GBL」はγブチロラクトンを意味し、「PGMEA」はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを意味し、「PC」は炭酸プロピレンを意味し、「CyHx」はシクロヘキサノンを意味する。
なお、各原料有機溶剤は、純度99質量%超の高純度グレード品を使用し、複数回ろ過して精製したものを使用した。その他のプリウェット液の製造に用いた材料(キレート剤等)についても高純度グレード品を更に精製してから使用した。
【0269】
また、実施例及び比較例の薬液の調製にあたって、容器の取り扱い、薬液の調製、充填、保管及び分析測定は、全てISOクラス2又は1を満たすレベルのクリーンルームで行った。
【0270】
【表1】
【0271】
<プリウェット液の調製>
以下に示す方法で、各実施例及び各比較例のプリウェット液を調製した。
【0272】
なお、以下に示す処理において、「ろ過処理1」は、処理の対象となる原料有機溶剤を以下のフィルタX,Y,Zのうちの1種以上に通液してろ過する処理を意味する。
フィルタX:イオン交換フィルタ(イオンクリーンSL(ポール社製)、孔径:200nm)
フィルタY:ナイロンフィルタ(ナイロン66製のフィルタ、孔径:5nm)
フィルタZ:表面修飾フィルタ(oktolex(インテグリス社製)、孔径:10nm)
【0273】
また、以下に示す処理において、「ろ過処理2」は、処理の対象となる原料有機溶剤を以下のフィルタTに通液してろ過する処理を意味する。
フィルタT:ポリテトラフルオロエチレン製のフィルター、孔径:10nm
【0274】
また、以下に示す処理において、原料有機溶剤に対して添加された「キレート剤」は、以下に示す種類の溶剤である。
・原料有機溶剤がピルビン酸エチル(沸点144℃)の場合:カテコール(沸点246℃)
・原料有機溶剤がGBL(沸点204℃)の場合:ピロガロール(沸点309℃)
・原料有機溶剤がアニソール(沸点154℃)の場合:カテコール(沸点246℃)
・原料有機溶剤がPGMEA(沸点145℃)の場合:カテコール(沸点246℃)
・原料有機溶剤がPGME(沸点120℃)の場合:カテコール(沸点246℃)
・原料有機溶剤がPC(沸点240℃)の場合:ピロガロール(沸点309℃)
・原料有機溶剤がCyHx(沸点156℃)の場合:カテコール(沸点246℃)
【0275】
(超高純度プリウェット液の調製)
以下の手順を(1)から順に実施してプリウェット液を調製した。なお、アルファベットで示される手順(手順(A)等)は、プリウェット液が2種の有機溶剤を含有する場合にのみ実施した。
(1):それぞれの原料有機溶剤(被処理液)に対して「ろ過処理1」を実施した。
(2):被処理液に対して、キレート剤を添加した。なお、キレート剤の添加量は、ここでキレート剤が添加される前の被処理液の質量に対して、0.2質量%とした。
(3):被処理液を蒸留(分留)精製した。
(4):上記(2)~(3)の処理を、更に2回実施した。
(A):(4)を経た被処理液2種を、後段の表における各実施例又は比較例に対応する有機溶剤の組み合わせ及び比率になるように混合し、混合された被処理液とした。
(5):(4)又は(A)を経た被処理液に対して「ろ過処理2」を実施した。
上記(1)~(5)の手順を経て得られたプリウェット液は、水の含有量がプリウェット液の全質量に対して0.01質量ppm未満であり、かつ、金属イオンの含有量がプリウェット液の全質量に対して0.1質量ppt未満である、超高純度プリウェット液であった。
【0276】
(水分量が低減されたプリウェット液の調製)
以下の手順(1)から順に実施してプリウェット液を調製した。なお、アルファベットで示される手順(手順(A)等)は、プリウェット液が2種の有機溶剤を含有する場合にのみ実施した。
(1):それぞれの原料有機溶剤(被処理液)を3回蒸留(分留)精製した。
(A):(1)を経た被処理液2種を、後段の表における各実施例又は比較例に対応する有機溶剤の組み合わせ及び比率になるように混合し、混合された被処理液とした。
(2):(1)又は(A)を経た被処理液に対して「ろ過処理2」を実施した。
上記(1)~(3)の手順を経て得られたプリウェット液は、水の含有量がプリウェット液の全質量に対して0.01質量ppm未満であり、かつ、金属イオンの含有量がプリウェット液の全質量に対して200質量ppt超である、水分量が低減されたプリウェット液であった。
【0277】
上述の「超高純度プリウェット液」に対して、「水分量が低減されたプリウェット液」及び/又は「水」を適量添加して、各実施例又は各比較例のプリウェット液を調製した。
なお、比較例7、14、23、40においては、「超高純度プリウェット液」をそのまま使用した。
【0278】
〔測定〕
各プリウェット液における水及び金属イオンの含有量は、以下の方法で測定した、
【0279】
<水の含有量の測定>
調整した実施例又は比較例のプリウェット液が含有する水の量は、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製「MKC-710M」等)を用いて測定した。
【0280】
なお、水の含有量を測定するにあたって、プリウェット液における水の含有量がカールフィッシャー水分計の含有量が検出限界未満となる場合は、カールフィッシャー水分計と核磁気共鳴分光分析装置(NMR)とを併用して、プリウェット液中の水の含有量を測定した。
すなわち、まず、測定対象となるプリウェット液と同様の組成の有機溶剤を含有し、かつ、カールフィッシャー水分計で検出可能な量の水を含有する測定液について、カールフィッシャー水分計とNMRとの両方で測定した。NMRによって検出された測定液中の、水に由来するピーク面積と、測定液中の有機溶剤に由来する任意のピークのピーク面積との面積比を求め、上記面積比と、カールフィッシャー水分計によって測定された測定液中の水の量の絶対値との関係を記録した。種々の水分量の測定液について同様に、上記面積比と水の量の絶対値との関係性を記録し、検量線を作成した。その後、プリウェット液をNMRで分析して上記面積比を求め、上記検量線に照らして水の含有量を求めた。
【0281】
<金属イオンの測定>
調整した実施例又は比較例のプリウェット液が含有する金属イオンの含有量は、ICP-MSおよびSP-ICP-MSを用いて、明細書に記載した通りの方法で測定した。
装置は以下の装置を使用した。
・メーカー:PerkinElmer
・型式:NexION350S
解析には以下の解析ソフトを使用した。
・“SP-ICP-MS”専用Syngistix ナノアプリケーションモジュール
・Syngistix for ICP-MS ソフトウエア
【0282】
なお、金属イオンの含有量を測定するにあたって、プリウェット液における金属イオンの含有量が上記装置の検出限界未満となる場合は、プリウェット液中の金属イオンを適宜濃縮した濃縮液を上記装置の測定対象とした。濃縮液中の金属イオン含有量を換算して、プリウェット液中の金属イオン含有量を求めた。
より具体的には以下の方法で、プリウェット液中の金属イオン含有量を求めた。
まず、プリウェット液に対してキレート剤(プリウェット液がGBL又はPCを含有する場合はピロガロール、それ以外の場合はカテコール)を、十分量(添加されるプリウェット液の全質量に対して15.0質量%)添加して、キレート剤含有プリウェット液とした。上記キレート剤含有プリウェット液を蒸発乾固し、蒸発残渣(金属イオンを補足していないキレート剤と金属イオンを補足したキレート剤の混合物)を得た。上記蒸発残渣を、別のプリウェット液に添加し、同様にキレート剤含有プリウェット液とした上で、同様に蒸発乾固し、同様に蒸発残渣を得た。なお、上記蒸発残渣の添加量は十分量(添加されるプリウェット液の全質量に対して15.0質量%)になるようにした。
このような、蒸発残渣(金属イオンを補足していないキレート剤と金属イオンを補足したキレート剤の混合物)をプリウェット液に添加してから、蒸発乾固によって再び蒸発残渣を得る処理を繰り返して、プリウェット液中の金属イオンを濃縮した蒸発残渣を得た。最終的に得られた蒸発残渣を酸で溶解して、プリウェット液中の金属イオンを濃縮した濃縮液とし、上記濃縮液中の金属イオン含有量を上記装置で測定した。上記濃縮液中におけるキレート剤によって補足及び濃縮された金属イオンの量が、蒸発させたプリウェット液が含有していた金属イオンの全量に一致するものとして、プリウェット液中の金属イオン含有量を求めた。
【0283】
〔試験〕
<面内均一性>
以下の方法により、プリウェット液の欠陥抑制性能を評価した。なお、下記試験には、スピンコータ(商品名「LITHIUS」、東京エレクトロン社製)を用いた。
反射防止膜を備える直径約30cm(12インチ)のシリコンウェハ上に、各プリウェット液(2.0cc)を滴下し、連続して、レジスト組成物(後段に示すArF露光用レジスト組成物)を、0.25cc塗布した。
得られたレジスト膜は90℃でベークした。ベーク後のレジスト膜について、大日本スクリーン社製膜厚測定装置Lambda Aceを用いて625ポイントmap測定し、下記式に基づいて面内均一性(%)の値を算出した。得られた値を下記区分に照らして、それぞれのプリウェット液を適用して形成されたレジスト膜の面内均一性を評価した。
得られたレジスト膜の面内均一性がA~C評価であれば、そのプリウェット液を適用した場合に面内均一性が良好なレジスト膜を形成できたと評価できる。
【0284】
(式)
式:面内均一性(%)=(625点測定した際の膜厚の最大値と最小値の差)÷(625点測定した際平均の膜厚×2)×100
【0285】
(区分)
A:面内均一性(%)の値が、1%以下
B:面内均一性(%)の値が、1%超、2%以下
C:面内均一性(%)の値が、2%超、4%以下
D:面内均一性(%)の値が、4%超、8%以下
E:面内均一性(%)の値が、8%超
【0286】
(ArF露光用レジスト組成物)
上記<面内均一性>の試験に用いたArF露光用のレジスト組成物の組成を以下に示す。
【0287】
・下記に示す酸分解性樹脂(下記式で表される樹脂(重量平均分子量(Mw):7500):各繰り返し単位に記載される数値はモル%を意味する。):100質量部
【0288】
【化30】
【0289】
・下記に示す光酸発生剤:8質量部
【0290】
【化31】
【0291】
・下記に示すクエンチャー:5質量部(質量比は、左から順に、0.1:0.3:0.3:0.2とした。)。なお、下記のクエンチャーのうち、ポリマータイプのクエンチャーは、重量平均分子量(Mw)が5000である。また、各繰り返し単位に記載される数値はモル比を意味する。
【0292】
【化32】
【0293】
・下記に示す疎水性樹脂:4質量部(質量比は、左から順に、0.5:0.5とした。)なお、下記の疎水性樹脂のうち、左側の疎水性樹脂は、重量平均分子量(Mw)は7000であり、右側の疎水性樹脂の重量平均分子量(Mw)は8000である。なお、各疎水性樹脂において、各繰り返し単位に記載される数値はモル比を意味する。
【0294】
【化33】
【0295】
・下記に示す溶剤:
PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート):562質量部
シクロヘキサノン:141質量部
【0296】
<パターン欠陥抑制性>
以下の方法により、プリウェット液の欠陥抑制性能を評価した。なお、下記試験には、SOKUDO社製コータデベロッパ「RF3S」を用いた。
まず、直径約300mm(12インチ)のベアシリコン基板(シリコンウェハ)を準備した。次に、シリコンウェハ上に反射防止膜組成物を塗布し、200℃で60秒ベークし、反射防止膜(厚みは89nm)を形成した。次に、反射防止膜上に各プリウェット液(2.0cc)を滴下して、連続して、レジスト組成物(後段に示すArF露光用レジスト組成物又はEUV露光用レジスト組成物)(0.4cc)を塗布して、90℃で60秒ベークして、レジスト膜を形成した。レジスト膜の厚みは、ArF露光用レジスト組成物を使用した場合は80nmとし、EUV露光用レジスト組成物を使用した場合は30nmとした。次に、レジスト膜を露光(ArF露光用レジスト組成物を使用した場合はArF露光。EUV露光用レジスト組成物を使用した場合はEUV露光)し、100℃で、60秒間ベークした。次に、露光後のレジスト膜を有機溶剤系の現像液で現像した。現像後のレジスト膜を100℃で、60秒ベークして、スペース幅が20nm、パターン線幅が15nmのラインアンドスペースの、パターンを得た。
アプライドマテリアルズ社製ウェハ検査装置「UVision5」を用いて、上記パターンの画像を取得し、得られた画像を、アプライドマテリアルズ社製全自動欠陥レビュー装置「SEMVisionG4」で解析した。検出された欠陥のうち、突起状の欠陥である「PLOT欠陥」と、パターン同士の架橋様の欠陥である「BRIDGE欠陥」と、膜状残渣の欠陥である「GEL欠陥」と、水の乾燥不良によって生じる斑点模様のリング状の欠陥である「ウォーターマーク欠陥」の数をそれぞれ計測し、以下の基準により評価した。
PLOT欠陥、BRIDGE欠陥、GEL欠陥、及び、ウォーターマーク欠陥がいずれもA~C評価であれば、パターン欠陥抑制性が良好であると評価できる。
【0297】
(PLOT欠陥、BRIDGE欠陥、GEL欠陥、ウォーターマーク欠陥の評価基準)
A:対応する欠陥の数が50個/ウェハ以下だった。
B:対応する欠陥の数が50個/ウェハ以下超、250個/ウェハ以下だった。
C:対応する欠陥の数が250個/ウェハ以下超、500個/ウェハ以下だった。
D:対応する欠陥の数が500個/ウェハ以下超、2000個/ウェハ以下だった。
E:対応する欠陥の数が2000個/ウェハ以下超だった。
【0298】
(ArF露光用レジスト組成物)
上記<パターン欠陥抑制性>の試験に用いたArF露光用のレジスト組成物は、上記<面内均一性>の試験に用いたArF露光用のレジスト組成物と同様である。
【0299】
(EUV露光用レジスト組成物)
上記<パターン欠陥抑制性>の試験に用いたEUV露光用のレジスト組成物の組成を以下に示す。
・樹脂(A-1):0.77g
・光酸発生剤(B-1):0.03g
・塩基性化合物(E-3):0.03g
・PGMEA(市販品、高純度グレード):67.5g
・乳酸エチル(市販品、高純度グレード):75g
【0300】
・樹脂
樹脂としては、以下の樹脂を用いた。
【0301】
【化34】
【0302】
・光酸発生剤
光酸発生剤としては、以下の化合物を用いた。
【0303】
【化35】
【0304】
・塩基性化合物
塩基性化合物としては、以下の化合物を用いた。
【0305】
【化36】
【0306】
〔結果〕
結果を下記表に示す。
表中、「有機溶剤1」欄、及び、「有機溶剤2」欄、はプリウェット液の調製に用いた各有機溶剤の、種類、及び、混合比(質量比)を示す。「有機溶剤1」欄、及び、「有機溶剤2」欄、における「比率(質量比)」欄は、各有機溶剤(原料有機溶剤)同士の混合比(質量比)を意味する。なお、単独の有機溶剤(原料有機溶剤)のみを使用した場合は、100(質量%)とした。
「プリウェット液特徴」欄は、プリウェット液全体としての物性、水の含有量、金属イオンの含有量を示す。
「プリウェット液」欄中の、「最大SP値」欄は、プリウェット液の調製に用いた各有機溶剤のうち、最大のSP値を有する有機溶剤のSP値(MPa1/2)を示す。
【0307】
【表2】
【0308】
【表3】
【0309】
表1に記載したとおり、各実施例のプリウェット液を適用して形成されたレジスト膜は面内均一性が良好だった。また、形成されるパターンのパターン欠陥抑制性も良好であった。
本発明の効果がより優れる点から、プリウェット液中の水の含有量は、0.3~15質量ppmがより好ましいことが確認された(実施例1、4、5の結果等を参照)。
【0310】
本発明の効果がより優れる点から、プリウェット液中の金属イオンの含有量は、1~40質量pptがより好ましいことが確認された(実施例1~3の結果等を参照)。
【0311】
<追加試験>
(実施例A1)
実施例4において、水の含有量を50ppmから200ppmに変更した以外は同様にしてプリウェット液を作製し、評価を行った。
評価の結果、ArF露光用レジスト組成物及びEUV露光用レジスト組成物を用いて評価した際の、「ウォーターマーク欠陥」の評価がBからCになった以外は実施例4と同様の結果が得られた。
【0312】
(実施例A2)
実施例4において、水の含有量を50ppmから500ppmに変更した以外は同様にしてプリウェット液を作製し、評価を行った。
評価の結果、ArF露光用レジスト組成物及びEUV露光用レジスト組成物を用いて評価した際の、「ウォーターマーク欠陥」の評価がBからCになった以外は実施例4と同様の結果が得られた。
【0313】
(比較例A1)
実施例4において、水の含有量を50ppmから550ppmに変更した以外は同様にしてプリウェット液を作製し、評価を行った。
評価の結果、ArF露光用レジスト組成物及びEUV露光用レジスト組成物を用いて評価した際の、「ウォーターマーク欠陥」の評価がBからEになった以外は実施例4と同様の結果が得られた。
【0314】
(実施例A3)
実施例3のプリウェット液と、比較例3のプリウェット液とを適宜混合して、金属イオンの含有量が100pptになるように調整したプリウェット液を作製し、評価を行った。
評価の結果、ArF露光用レジスト組成物及びEUV露光用レジスト組成物を用いて評価した際の、「PLOT欠陥」の評価がBからCになった以外は実施例3と同様の結果が得られた。
【0315】
(実施例A4)
実施例3のプリウェット液と、比較例3のプリウェット液とを適宜混合して、金属イオンの含有量が200pptになるように調整したプリウェット液を作製し、評価を行った。
評価の結果、ArF露光用レジスト組成物及びEUV露光用レジスト組成物を用いて評価した際の、「PLOT欠陥」の評価がBからCになった以外は実施例3と同様の結果が得られた。
【0316】
(比較例A2)
実施例3のプリウェット液と、比較例3のプリウェット液とを適宜混合して、金属イオンの含有量が250pptになるように調整したプリウェット液を作製し、評価を行った。
評価の結果、ArF露光用レジスト組成物及びEUV露光用レジスト組成物を用いて評価した際の、「PLOT欠陥」の評価がBからDになった以外は実施例3と同様の結果が得られた。
【0317】
(実施例B)
上述の<面内均一性>の試験において、使用するレジスト組成物を、ArF露光用レジスト組成物から上述のEUV露光用レジスト組成物に代えた以外は同様にして、実施例1~15及び比較例1~40のプリウェット液を用いた試験を実施した。その結果、レジスト組成物として、ArF露光用レジスト組成物を使用した場合と同様の結果が得られた。