(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】円筒状ボンド磁石の製造方法、円筒状ボンド磁石成形用金型、および円筒状ボンド磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20231109BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20231109BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 A
H01F7/02 E
H02K15/03 C
H02K15/03 H
(21)【出願番号】P 2019180589
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理恵
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-223233(JP,A)
【文献】特開2017-212863(JP,A)
【文献】特開昭58-016509(JP,A)
【文献】特開2018-127668(JP,A)
【文献】特開2018-148694(JP,A)
【文献】特開2004-104143(JP,A)
【文献】国際公開第2009/099054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 7/02
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状キャビティを有し、配向用磁石が配置された金型を射出成形機に配置する工程と、
前記金型にボンド磁石用組成物を注入して射出成形する工程とを含む、円筒状ボンド磁石の製造方法であって、
前記円筒状キャビティの内周部と前記配向用磁石の外周部との最短ギャップが2mm以上10mm以下であり、
前記円筒状キャビティは、外周直径が100mm以上300mm以下であって、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下であって、
前記配向用磁石は、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石から構成され、扇形平板磁石は、隣り合う扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発するように円周方向に配置された、
円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
円筒状キャビティの外周半径に対する外周半径と内周半径の差の比が、
0.038以上
0.6以下である請求項1に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
配向用磁石が、4個以上56個以下の扇形平板磁石から構成される請求項1または2に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石を、各扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発する方向に周方向に配置した配向用磁石、および、円筒状キャビティを有し、
該配向用磁石の外周部と円筒状キャビティの内周部の最短ギャップが2mm以上10mm以下であり、円筒状キャビティの外周直径が100mm以上300mm以下であり、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下である円筒状ボンド磁石成形用金型。
【請求項5】
円筒状キャビティの外周半径に対する外周半径と内周半径の差の比が、
0.038以上
0.6以下である請求項4に記載の円筒状ボンド磁石成形用金型。
【請求項6】
配向用磁石が、4個以上56個以下の扇形平板磁石から構成される請求項4または5に記載の円筒状ボンド磁石成形用金型。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の円筒状ボンド磁石成形用金型を使用して、ボンド磁石用組成物を射出成形する工程を含む、円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項8】
内周側の表面磁束密度が周期的に変動し、該表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が22%以下であって、外周直径が100mm以上300mm以下であり、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下である円筒状ボンド磁石。
【請求項9】
外周半径に対する外周半径と内周半径の差の比が、
0.038以上
0.6以下である請求項8に記載の円筒状ボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状ボンド磁石の製造方法、円筒状ボンド磁石成形用金型、および円筒状ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター等の動力用に、円筒状の多極ボンド磁石が用いられる。このような円筒状ボンド磁石は、配向用磁石を備えた金型にボンド磁石用組成物を注入して射出成形することにより製造される。円筒状ボンド磁石の磁極間の表面磁束密度の変化が急峻であると、モーターに適用したときにコギングを生じる原因となるため、円筒状ボンド磁石は正弦波曲線に近い表面磁束密度を有することが求められる。また、大型モーターに対応するために、円筒状ボンド磁石を大径化することも求められている。
【0003】
特許文献1は、円筒状キャビティの外側に配向用磁石を配置した金型を用いて、射出成形によりリング状ボンド磁石を製造している。製造されたボンド磁石は、外周径が16mm程度と小型である。
【0004】
特許文献2~3は、円筒状キャビティの内側に、複数の配向用磁石をそれぞれの磁場が円周方向に互いに反発するように配置した金型を用いて、射出成形により円筒状ボンド磁石を製造している。製造されたボンド磁石は外周径が大きいものでも42mm程度である。特許文献3では配向用磁石とボンド磁石成形体との間に厚さ0.5mmのスリーブを配置して磁場配向しているが、この条件では配向用磁石との距離が近すぎるために、ボンド磁石成形体の磁極間の表面磁束密度の変化が急峻となる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-212863号公報
【文献】特開平5-90053号公報
【文献】特開2005-223233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大径で、正弦波曲線またはそれに近似した表面磁束密度を有する円筒状ボンド磁石の製造方法、その製造方法に用いる金型、および円筒状ボンド磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石の製造方法は、円筒状キャビティを有し、配向用磁石が配置された金型を射出成形機に配置する工程と、前記金型にボンド磁石用組成物を注入して射出成形する工程とを含む、円筒状ボンド磁石の製造方法であって、前記円筒状キャビティの内周部と前記配向用磁石の外周部との最短ギャップが2mm以上10mm以下であり、前記円筒状キャビティは、外周直径が100mm以上300mm以下であって、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下であって、前記配向用磁石は、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石から構成され、扇形平板磁石は、隣り合う扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発するように円周方向に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石成形用金型は、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石を、各扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発する方向に周方向に配置した配向用磁石、および、円筒状キャビティを有し、該配向用磁石の外周部と円筒状キャビティの内周部の最短ギャップが2mm以上10mm以下であり、円筒状キャビティの外周直径が100mm以上300mm以下であり、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下である。
【0009】
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石は、内周側の表面磁束密度が周期的に変動し、該表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が22%以下であって、外周直径が100mm以上300mm以下であり、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石成形用金型によると、大径で、正弦波曲線またはそれに近似した表面磁束密度を有する円筒状ボンド磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】実施例1および比較例1で用いた射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からみた模式図である。
【
図1B】実施例1および比較例1における配向用磁石の外周の配向磁場である。
【
図1C】実施例1および比較例1における円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度である。
【
図2A】比較例2~4で用いた射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からみた模式図である。
【
図2B】比較例2~4における配向用磁石の外周の配向磁場である。
【
図2C】比較例2~4における円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度である。
【
図3A】比較例5で用いた射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からみた模式図である。
【
図3B】比較例5における配向用磁石の外周の配向磁場である。
【
図3C】比較例5における円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度である。
【
図4A】比較例6で用いた射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からみた模式図である。
【
図4B】比較例6における配向用磁石の外周の配向磁場である。
【
図4C】比較例6における円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度である。
【
図5A】比較例7で用いた射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からみた模式図である。
【
図5B】比較例7における配向用磁石の外周の配向磁場である。
【
図5C】比較例7における円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
<<円筒状ボンド磁石の製造方法>>
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石の製造方法は、円筒状キャビティを有し、配向用磁石が配置された金型を射出成形機に配置する工程と、前記金型にボンド磁石用組成物を注入して射出成形する工程とを含む、円筒状ボンド磁石の製造方法であって、前記円筒状キャビティの内周部と前記配向用磁石の外周部との最短ギャップが2mm以上10mm以下であり、前記円筒状キャビティは、外周直径が100mm以上300mm以下であって、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下であって、前記配向用磁石は、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石から構成され、扇形平板磁石は、隣り合う扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発するように円周方向に配置されていることを特徴とする。本発明の一態様によると円筒状キャビティの内周部と配向用磁石の外周部との最短ギャップが2mm以上10mm以下とし、配向用磁石が、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石から構成され、扇形平板磁石は、隣り合う扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発するように円周方向に配置されることにより、キャビティ内に発生する磁場が磁極部で最大となりつつ、かつ磁極間の切り替わりがゆるやかになるため、大径で、正弦波曲線またはそれに近似した表面磁束密度を有する円筒状ボンド磁石を製造することができると考えられる。
【0014】
<金型>
本発明の一態様で用いる金型は、円筒状キャビティを有する。正弦波曲線またはそれに近似した表面磁束密度を有する大径の円筒状ボンド磁石を製造するためには、前記円筒状キャビティは、外周直径(円筒状ボンド磁石の外径)が100mm以上300mm以下であるが、外周直径が150mm以上300mm未満であることが好ましく、200mm以上290mm以下であることが特に好ましい。また、円筒状キャビティの外周半径と内周半径の差(円筒状ボンド磁石の肉厚)は2mm以上30mm以下であるが、肉薄にすることによる軽量化の点から2mmより大きく10mm以下であることが好ましく、2.5mm以上5mm以下が特に好ましい。2mm未満では円筒状ボンド磁石の強度が低下し、30mmより大きくなると、成形時に部分的に樹脂の冷却スピードにばらつきが生じるため寸法精度が低下することがある。円筒状キャビティの高さ(円筒状ボンド磁石の高さ)は、5mm以上100mm以下であるが、6mm以上15mm以下が好ましい。5mm未満では外周方向の総磁束量が小さくなり、100mmより大きくすると、成形時に部分的に樹脂の冷却スピードにばらつきが生じるため寸法精度が低下することがある。円筒状キャビティの外周半径に対する外周半径と内周半径の差の比は、大径の円筒状ボンド磁石の強度の点から、0.01以上0.8以下が好ましく、0.04以上0.6以下がより好ましい。
【0015】
前記寸法の円筒状キャビティにより、大径の円筒状ボンド磁石を製造できる。特に円筒状ボンド磁石を大径で肉薄とすると、軽量でかつ10000rpm以上の高速回転にも耐えうるモーター用の磁石を提供できる。
【0016】
金型は、円筒状キャビティで形成されるボンド磁石に配向磁場を印加できるように、円筒状キャビティの内側に配向用磁石を有する。配向用磁石は、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石から構成される。扇形平板磁石としては永久磁石、電磁石が挙げられるが、回路が不要であることから永久磁石が好ましい。扇形平板磁石の表面磁束密度は特に限定されず、円筒状ボンド磁石の配向に必要な磁場により適宜決定できるが、通常0.5T以上2T以下である。
【0017】
円筒状キャビティの内周部と、配向用磁石の外周部との最短ギャップ(スリーブ厚さ)は2mm以上10mm以下であり、3mm以上9mm以下が好ましく、4mm以上8mm以下がより好ましい。前述の円筒状キャビティの寸法に対して、円筒状キャビティの内周部と、配向用磁石の外周部との最短ギャップを2mm以上10mm以下とすることで、正弦波曲線またはそれに近似した表面磁束密度を有する大径の円筒状ボンド磁石を得ることができる。
【0018】
円筒状ボンド磁石に磁極を均等に形成させるために、配向用磁石は複数の同一形状の扇形平板磁石から構成されることが好ましい。配向用磁石を構成する扇形平板磁石の個数は、4個以上56個以下とすることができ、6個以上30個以下が好ましい。配向用磁石は扇形平板磁石のみから構成されてもよいが、扇形平板磁石に加えて、磁性スペーサーや、非磁性スペーサーを有していてもよい。磁性スペーサーや非磁性スペーサーを扇形平板磁石と交互に配置することにより、配向用磁石を容易に配置することができる。磁性スペーサーや、非磁性スペーサーは、扇形平板磁石と同一形状であることが好ましい。磁性スペーサーの飽和磁束密度は1.2T以上が好ましい。
【0019】
配向用磁石を構成する扇形平板磁石の中心角は10°以上90°以下とすることができ、20°以上60°以下が好ましい。また、この扇形平板磁石を構成するうえで、2本の辺にて構成する扇形の1辺の長さは、円筒状キャビティの外周直径から円筒状キャビティの内周部と、配向用磁石の外周部との最短ギャップを引いた値の二分の一以下とすることができる。
【0020】
扇形平板磁石は、隣り合う扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発するように円周方向に配置されていることを特徴とする。なお、上述のように磁性スペーサ―や非磁性スペーサーを用いる場合、隣り合う扇形平板磁石とは、磁性スペーサ―や非磁性スペーサーで隔てられた扇形平板磁石のことをいう。磁場方向が円周方向に反発することにより、扇形平板磁石のS極同士が相対する部分では配向用磁石の中心に向かう磁場回路が形成され、扇形平板磁石のN極同士が相対する部分では配向用磁石の外側に向かう磁場回路が形成される。扇形平板磁石の磁場方向の模式図を、
図1Aに示す。
【0021】
<射出成形>
上述の金型を射出成形機に配置し、ボンド磁石用組成物を金型に注入して射出成形することにより、円筒状ボンド磁石が得られる。熱処理しながら配向磁場を印加することによりボンド磁石の磁化容易軸を揃えることができる。射出成形の条件は特に限定されず、使用するボンド磁石用組成物に応じて適宜決定する。配向工程における配向磁場の大きさは、例えば極中心で0.1T以上、好ましくは、0.2T以上である。配向後、極数に応じた着磁ヨークを用い、着磁することにより、ボンド磁石を得ることができる。着磁工程における着磁磁場の大きさは、例えば1.5T以上あることが望ましい。
【0022】
<ボンド磁石用組成物>
ボンド磁石用組成物は特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂と磁性粒子から構成される組成物が挙げられる。熱可塑性樹脂と磁性粒子を十分に混練し、得られた混練物を単軸混練機、二軸混練機等の混練機に投入し、冷却後、適当な大きさに切断することで得られる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などが挙げられる。その中でもポリアミド、特にポリアミド12が好ましい。ポリアミド12は、比較的低融点で、吸水率が低く、結晶性樹脂であるため成形性が良い。また、これらを適宜混合して使用することも可能である。
【0024】
磁性粒子としては、フェライト系と、希土類系であるNd-Fe-B系、Sm-Co系、Sm-Fe-N系とが挙げられる。中でも、Sm-Fe-N系を用いることが好ましい。Sm-Fe-N系は、一般的にSm2Fe17N3で表される。Sm-Fe-N系は、フェライト系に比べると磁力が強く、比較的少ない量でも高磁力を発生することができる。また、Sm-Fe-N系は、Nd-Fe-B系やSm-Co系といった他の希土類系と比べると、粒子径が小さく、母材樹脂へのフィラーとして適していることや、錆びにくいという特長がある。
【0025】
磁性粒子は、異方性のもの及び等方性のもののいずれか一方又は両方を用いることができる。より強力な磁気特性を得る観点から、異方性のもの(異方性磁性粒子)が好ましい。具体的には、異方性を有するSm-Fe-N系の磁性粒子(異方性Sm-Fe-N系磁性粒子)が好ましい。磁性粒子としてSm-Fe-N系磁性粒子を用いれば、当該磁性粒子は磁力が強いので、より磁気特性に優れたものとすることができる。
【0026】
磁性粒子の平均粒径は、10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。10μm以下であれば、製品の表面に凹凸部や亀裂等が発生し難く、外観的に優れたものとすることができ、さらに、低コスト化を図ることができる。平均粒径が10μmよりも大きいと、製品の表面に凹凸部や亀裂等が発生して外観的に劣るおそれがある。一方で、平均粒径が1μmよりも小さいと、磁性粒子のコストが高くなるので、低コスト化の観点から好ましくない。
【0027】
ボンド磁石用組成物組成物には、更に、流動性を損なうことなく初期強度を向上させるために、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマーを配合してもよい。また、円筒状ボンド磁石が高温にさらされた場合にも強度の経時変化を低減できるよう、リン系酸化防止剤などの酸化防止剤を配合してもよい。リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0028】
ボンド磁石用組成物中の磁性粒子の含有量は、80質量%以上95質量%以下が好ましく、高い磁気特性を得る点から、90質量%以上95質量以下がより好ましい。一方、ボンド磁石用組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、3質量%以上20質量%以下が好ましく、流動性を確保する観点から5質量%以上15質量%以下がより好ましい。更に熱可塑性エラストマーを含む場合には、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとの質量比率が90:10から50:50の範囲が好ましく、耐衝撃性の点から90:10から70:30の範囲がより好ましい。更にリン系酸化防止剤を含む場合には、コンパウンド中のリン系酸化防止剤の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0029】
<<円筒状ボンド磁石成形用金型>>
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石成形用金型は、円周方向に磁化された複数の扇形平板磁石を、各扇形平板磁石の磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発する方向に周方向に配置した配向用磁石、および、円筒状キャビティを有し、該配向用磁石の外周部と円筒状キャビティの内周部の最短ギャップが2mm以上10mm以下であり、円筒状キャビティの外周直径が100mm以上300mm以下であり、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下である。本発明の金型におけるキャビティ、配向用磁石、寸法については前述した。
【0030】
<<円筒状ボンド磁石>>
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石は、内周側の表面磁束密度が周期的に変動し、該表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が22%以下であって、外周直径が100mm以上300mm以下であり、外周半径と内周半径の差が2mm以上30mm以下である。
【0031】
円筒状ボンド磁石は、上記金型を使用して、ボンド磁石用組成物を射出成型することにより得られる。円筒状ボンド磁石は、内周側の表面磁束密度が周期的に変動し、該表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が22%以下であるが、20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が22%を超えると、円筒状ボンド磁石をモーターに適用した場合にコギングを生じる傾向がある。
【0032】
円筒状ボンド磁石の高さは5mm以上100mm以下であるが、6mm以上15mm以下が好ましい。5mm未満では外周方向の磁束密度が小さくなり、100mmより大きくすると、成形時に部分的に樹脂の冷却スピードにばらつきが生じるため寸法精度が低下することがある。
【0033】
円筒状ボンド磁石は、外周半径に対する外周半径と内周半径の差の比が、円筒状ボンド磁石の強度の点から0.01以上0.8以下が好ましく、0.04以上0.6以下がより好ましい。また、円筒状ボンド磁石は、前述した金型を使用して射出成形で得られるため、金型の円筒状キャビティに対応した寸法を有する。円筒状キャビティの寸法については前述した。
【0034】
円筒状ボンド磁石は、前述したボンド磁石用組成物を射出成形して得られ、熱可塑性樹脂と磁性粒子を含み、さらに熱可塑性エラストマーや酸化防止剤を含み得る。円筒状ボンド磁石中の磁性粒子の含有量は、高い磁気特性を得る点から80質量%以上95質量%以下が好ましく、90質量%以上95質量%未満がより好ましい。円筒状ボンド磁石中の熱可塑性樹脂の含有量は、流動性を確保する観点から3質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましい。更に熱可塑性エラストマーを含む場合には、円筒状ボンド磁石中の熱可塑性エラストマーの含有量は、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとの質量比率が90:10から50:50の範囲であることが好ましく、耐衝撃性の点から90:10から70:30範囲がより好ましい。更に酸化防止剤を含む場合には、円筒状ボンド磁石中の酸化防止剤の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0035】
本発明の一態様にかかる円筒状ボンド磁石は、モーター等の動力装置や、回転センサーなどの信号装置、発電機等の動力装置に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例について説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0037】
(1)実施例1
(1-1)ボンド磁石用組成物の製造
サマリウム鉄窒素磁性粉末(平均粒径3μm)90質量%に対して12ナイロン樹
脂粉末9.5質量%、酸化防止剤粉末0.5質量%をミキサーで混合した
後、混合粉を二軸混練機に投入し、210℃にて混練して混練物を得た。得られた混練物
を冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0038】
(1-2)金型および配向用磁石
射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からの模式図を
図1Aに示す。金型内に、
図1Aに示すように、配向用磁石と、スリーブを配置し、円筒状キャビティの外周直径260mm、内周直径250mm、厚さ4mm、高さ10mmであった。配向用磁石は12枚の扇形平板磁石より構成されており、扇形平板磁石1枚の辺の長さ119mm、厚さ20mm、中心角30°、表面磁束密度が0.8Tのものを用いた。また、
図1Aにおいて、それぞれの扇形平板磁石の矢頭印は磁場方向示しており、磁場方向が隣り合う磁石と円周方向に互いに反発するように配向した扇形平板磁石を用いた。扇形平板磁石から構成される配向用磁石とキャビティとの間には、半径方向の厚さが6mm(円筒状キャビティの内周部と配向用磁石の外周部との最短ギャップ)のSUS304製の円筒状スリーブを配置した。
【0039】
(1-3)射出成形
上記金型を射出成形機に配置した。ボンド磁石用組成物を240℃のシリンダー内で溶解させ、90℃に調温した金型のキャビティ内に射出成形することで、外周直径260mm、内周直径250mm、厚さ4mm、高さ10mmの円筒状ボンド磁石を得た。
【0040】
(2)比較例1
実施例1と同じ寸法の円筒状キャビティを有する同じ寸法の金型に対し、表1に示したスリーブの厚みを0.5mmに変更し、表1に示した扇形平板磁石を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で円筒状ボンド磁石を製造した。
【0041】
(3)比較例2~4
射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からの模式図を
図2Aに示す。実施例1と同じ寸法の円筒状キャビティを有する同じ寸法の金型に対し、表1に示したスリーブの厚みに変更したことと、表1および
図2Aに示した扇形平板磁石を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で円筒状ボンド磁石を製造した。
【0042】
(4)比較例5
射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からの模式図を
図3Aに示す。実施例1と同じ寸法の円筒状キャビティを有する同じ寸法の金型に対し、隣り合う扇形平板磁石同士の間に、扇形平板磁石と同じ形状の非磁性スペーサー(SUS304材)を配置したこと、表1に示したスリーブの厚みに変更したこと、および表1および
図3Aに示した扇形平板磁石を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で円筒状ボンド磁石を製造した。
【0043】
(5)比較例6
射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からの模式図を
図4Aに示す。実施例1と同じ寸法の円筒状キャビティを有する同じ寸法の金型に対し、隣り合う扇形平板磁石同士の間に、扇形平板磁石と同じ形状の磁性材を配置したことと、表1に示したスリーブの厚みに変更したことと、表1および
図4Aに示した扇形平板磁石を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で円筒状ボンド磁石を製造した。なお磁性材はSS400材であり、飽和磁束密度は2.0T以上であった。
【0044】
(6)比較例7
射出成型用金型および扇形平板磁石の上面からの模式図を
図5Aに示す。実施例1と同じ寸法の円筒状キャビティを有する同じ寸法の金型に対し、表1に示したスリーブの厚みに変更したことと、表1および
図5Aに示した扇形平板磁石を配置したこと以外は、実施例1と同じ方法で円筒状ボンド磁石を製造した。
【0045】
(7)評価
図1B、
図2B、
図3B、
図4Bおよび
図5Bにホール素子で測定した配向用磁石の外周の配向磁場を、
図1C、
図2C、
図3C、
図4Cおよび
図5Cに、マグネットアナライザーで測定した円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度を示す。また、正弦波曲線に対する円筒状ボンド磁石の内周の表面磁束密度の歪み率を表1に示す。歪み率は、波形のひずみの程度を表すもので、フーリエ変換によりその波形に含まれる全高調波成分(E2~En)を計算し、その実効値の総和と基本波(E1)の実効値との比として算出した。
【0046】
【0047】
比較例1~7の円筒状ボンド磁石は、磁極間の表面磁束密度の変化が急峻であり、正弦波曲線に対する歪みが大きかった。また、比較例2~7では余分な磁極が生じた。これに対し、実施例1の円筒状ボンド磁石は、スリーブ厚さを調節し、隣り合う扇形平板磁石を、磁場方向がそれぞれ円周方向に互いに反発する方向に配置して磁場配向させたため、比較例1~7と同じ形状であるにもかかわらず正弦波曲線に対する歪みが低減された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の異方性磁性粉末の円筒状ボンド磁石の製造方法は、正弦波曲線またはそれに近似した表面磁束密度を有する大径の円筒状ボンド磁石を製造できる。この円筒状ボンド磁石を大型モーターに適用した場合、コギングを抑制できる。
【符号の説明】
【0049】
1:配向用磁石
2:キャビティ
3:鋼材
4:スリーブ