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特許7381908非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231109BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231109BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231109BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
H01M4/36 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021142071
(22)【出願日】2021-09-01
(62)【分割の表示】P 2020011300の分割
【原出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2022000850
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2019028488
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉原 久未
(72)【発明者】
【氏名】下北 晃輔
(72)【発明者】
【氏名】池端 潔人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 貴志
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335278(JP,A)
【文献】特開2005-44743(JP,A)
【文献】特開2009-16302(JP,A)
【文献】特開2018-98174(JP,A)
【文献】特開2018-56118(JP,A)
【文献】特開2007-18743(JP,A)
【文献】特開2016-115658(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104143633(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に付着する、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物並びにリチウム及びホウ素を含む酸化物とを含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、表層にアルミニウムが固溶する一次粒子が凝集して形成される二次粒子を含み、
アルミニウム総含有量に対する一次粒子の表層におけるアルミニウム固溶量の比率が40%以上100%未満である非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム及びアルミニウムを含む酸化物の前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する含有率が、アルミニウム換算で0.1モル%以上0.8モル%以下であり、
前記リチウム及びホウ素を含む酸化物の前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する含有率が、ホウ素換算で0.3モル%以上2.0モル%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が、0.33以上0.95以下である、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、コバルトを組成に含み、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、0.02以上0.33以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、マンガンを組成に含み、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比が、0.01以上0.33以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、下式で表される組成を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
LiNiCoMnAl
(式中、1.0≦a≦1.5、0.33≦b≦0.95、0.02≦c≦0.33、0.01≦d≦0.33、0.0022<e≦0.05、0≦f≦0.02、b+c+d=1であり、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種である)
【請求項7】
前記リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が50%より大きい、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池用正極活物質としてのコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどの層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、作用電圧が約4Vと高く、また大きな容量が得られるため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ等の電子機器の電源や車載用バッテリーとして広く用いられている。電子機器や車載用バッテリーの高機能化に伴い、より高い電圧領域で良好なサイクル特性を示す非水電解質二次電池用正極活物質の開発が進められている。
【0003】
例えば特許文献1には、複数の一次粒子が集合して形成された二次粒子を含む非水電解質二次電池用正極活物質が記載され、高電圧において良好な充放電サイクル特性を示すとされている。特許文献1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質では、二次粒子の表面にリチウム、アルミニウム及びホウ素を含有する酸化物が形成され、二次粒子の表面近傍に存在する一次粒子同士の粒界に一次粒子の母相よりも高濃度でアルミニウムが含有されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-76336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質において、高電圧での充放電サイクル特性をより向上させるためには、アルミニウム化合物を比較的多く添加する必要がある。そうすると充放電容量が低下してしまうという課題がある。そこで本発明は、添加剤による容量低下が軽減され、高電圧でのサイクル特性が良好な非水系電解質二次電池を構成し得る非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に付着する、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物並びにリチウム及びホウ素を含む酸化物とを含む非水電解質二次電池用正極活物質である。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、表層にアルミニウムが固溶する一次粒子が凝集して形成される二次粒子を含む。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する一次粒子の表層に固溶しているアルミニウムのモル数の比率と、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する一次粒子の表層以外の領域に存在するアルミニウムのモル数の比率との差が、0.22モル%を超えて0.6モル%未満である。
【0007】
第二態様は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物と、ホウ素化合物とを含む混合物を準備することと、準備した混合物を熱処理することとを含む非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、一次粒子が凝集して形成される二次粒子を含む。アルミニウム化合物には、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が54%より大きいアルミニウム化合物が用いられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、添加剤による容量低下が軽減され、高電圧でのサイクル特性が良好な非水系電解質二次電池を構成し得る非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】実施例1で使用した酸化アルミニウムの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図1B】実施例2で使用した水酸化アルミニウムのSEM画像である。
図1C】比較例1で使用した酸化アルミニウムのSEM画像である。
図1D】比較例2で使用した酸化アルミニウムのSEM画像である。
図2】実施例1、2及び比較例2で使用したアルミニウム化合物の粒径分布である。
図3】正極活物質の断面の反射電子顕微鏡像における元素分析の測定位置を示す図である。
図4】正極活物質の一次粒子の表層における元素分析の結果を示す図である。
図5】実施例1、比較例2で得られた正極活物質表面に付着しているアルミニウムを含む酸化物の粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法等を例示するものであって、本発明は、以下に示す非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法等に限定されない。
【0011】
非水系電解質二次電池用正極活物質
非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう)は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に付着する、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物並びにリチウム及びホウ素を含む酸化物とを含む。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、表層にアルミニウムが固溶する一次粒子が凝集して形成される二次粒子を含む。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する一次粒子の表層に固溶しているアルミニウムのモル数の比率と、リチウム以外の金属の総モル数に対する一次粒子の表層以外の領域に存在するアルミニウムのモル数の比率との差が、0.22モル%を超えて0.6モル%未満である。
【0012】
表層にアルミニウムが固溶した一次粒子から形成される二次粒子の表面にリチウム及びアルミニウムを含む酸化物とリチウム及びホウ素を含む酸化物とが付着している正極活物質を用いて構成される非水電解質二次電池は、優れたサイクル特性を示すことができる。これは例えば以下のように考えることができる。複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子においては、充放電サイクル時に一次粒子の表層の結晶構造から劣化していくと考えられる。これに対して、一次粒子表層にアルミニウムを固溶させることにより構造劣化を抑制できると考えられる。また、高電圧条件では、フッ酸が生成する場合があり、一次粒子表層の構成成分が溶出して、一次粒子表層に固溶させたアルミニウムの効果が低減してしまう場合があると考えられる。しかし、二次粒子表面にリチウム及びアルミニウムを含む酸化物とリチウム及びホウ素を含む酸化物とが付着していることで、フッ酸による影響を抑制することができ、一次粒子表層に固溶させたアルミニウムの効果が充分に発揮され、優れたサイクル特性を達成できると考えられる。また、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるニッケルは、高価数のときに還元されやすくなる。そのため、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、サイクル経過に伴う結晶構造の崩壊が発生しやすいと考えられる。したがって、本実施形態は、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物の構造安定化に特に有効であると考えられる。
【0013】
一次粒子は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物(以下、単に「リチウム遷移金属複合酸化物」ともいう)を含んで構成される。リチウム遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウム(Li)とニッケル(Ni)と表層に固溶するアルミニウム(Al)とを含むが、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)の少なくとも一方を更に含んでいてもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物は、これらに加えてジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素を更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、表層に固溶するアルミニウムに加えて、第1金属元素としてアルミニウムを含んでいてもよい。すなわち、第1金属元素は、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0014】
リチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば、0.33以上であり、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.55以上である。また、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比の上限は、例えば、1未満であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下である。ニッケルのモル数の比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、高電圧時の充放電容量とサイクル特性の両立を達成することができる。
【0015】
リチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば、0.02以上であり、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。また、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比の上限は、例えば、1未満であり、好ましくは0.33以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.25以下である。コバルトのモル数の比が0.02以上1未満の範囲であると、非水電解質二次電池において、高電圧時における充分な充放電容量を達成することができる。
【0016】
リチウム遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば、0.01以上であり、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。また、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比の上限は、例えば、0.33以下であり、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下である。マンガンのモル数の比が0.01以上0.33以下の範囲内であると、非水電解質二次電池において、充放電容量と安全性の両立を達成することができる。
【0017】
リチウム遷移金属複合酸化物が第1金属元素を含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する第1金属元素のモル数の比は、例えば、0.001以上であり、好ましくは0.002以上である。また、リチウム以外の金属の総モル数に対する第1金属元素のモル数の比の上限は、例えば、0.02以下であり、好ましくは0.015以下である。
【0018】
リチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば、1.0以上であり、好ましくは1.03以上、より好ましくは1.05以上である。また、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比の上限は、例えば、1.5以下であり、好ましくは1.25以下である。
【0019】
リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルに加えて、コバルト及びマンガンを含む場合、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比は、例えば、ニッケル:コバルト:マンガン=(0.33から0.95):(0.02から0.33):(0.01から0.33)であり、好ましくは(0.55から0.6):(0.15から0.25):(0.15から0.3)である。
【0020】
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、表層に固溶するアルミニウムを含めて下式(1)又は(1a)で表される組成を有していてもよい。
LiNi1-x-yCoMnAl (1)
式中、1.0≦a≦1.5、0.02≦x≦0.34、0.01≦y≦0.34、0.002≦z≦0.05、0≦w≦0.02、0.05≦x+y≦0.67であり、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0.0022<z≦0.05、0.0022<z<0.006、0.003≦z≦0.005、又は0.0035≦z≦0.0045であってよい。更に、0.02≦x≦0.33であってよく、0.01≦y≦0.33であってよく、0.05≦x+y≦0.66であってよい。
【0021】
LiNiCoMnAl (1a)
式中、1.0≦a≦1.5、0.33≦b≦0.95、0.02≦c≦0.33、0.01≦d≦0.33、0.0022<e≦0.05、0≦f≦0.02、b+c+d=1であり、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0022】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子を構成する一次粒子の表層にはアルミニウムが固溶している。ここで表層とは、一次粒子の表面から100nm、好ましくは70nmまでの深さの領域を意味する。一次粒子の粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で認識される輪郭から、一次粒子の面積を算出し、その面積の円相当径として測定される。一次粒子の平均粒径は、例えば、0.3μm以上2.0μm以下であり、好ましくは0.6μm以上1.5μm以下である。一次粒子の平均粒径は、例えば、SEM観察で測定される100個の一次粒子の粒径の算術平均値として算出される。
【0023】
一次粒子の表層にアルミニウムが固溶している状態は、エネルギー分散型X線分析(EDX)で観察することができる。例えば、二次粒子の断面において、一次粒子どうしの接触部分である結晶粒界における構成元素の組成を分析することで一次粒子の表層におけるアルミニウム含有率を測定することができる。結晶粒界におけるアルミニウム含有率が一次粒子の中心部付近におけるアルミニウム含有率よりも充分に大きくなっていれば、一次粒子の表層にアルミニウムが固溶しているといえる。アルミニウムは、一次粒子間の界面全体に固溶していてもよく、部分的に固溶していてもよい。
【0024】
一次粒子の表層におけるアルミニウムの固溶量は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する一次粒子の表層に固溶しているアルミニウムのモル数の比率と、リチウム以外の金属の総モル数に対する一次粒子の表層以外の領域に存在するアルミニウムのモル数の比率との差が、例えば、0.2モル%以上0.6モル%未満となる範囲であり、好ましくは0.3モル%以上0.5モル%以下、より好ましくは0.35モル%以上0.45モル%以下となる範囲である。前記アルミニウムの固溶量は、例えば、0.22モル%を超えて0.6モル%未満となる範囲であってよく、0.25モル%以上、0.3モル%以上、又は0.35モル%以上であってよく、0.5モル%以下、又は0.45モル%以下であってよい。ここで、一次粒子の表層以外の領域に存在するアルミニウムには、アルミニウムを表層に固溶させる前の母材を構成するリチウム遷移金属複合酸化物が、組成として含むアルミニウムが含まれる。
【0025】
一次粒子の表層におけるアルミニウムの固溶量は、アルミニウムが両性元素であることを利用して、以下のようにして測定できる。水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液で正極活物質の表面に付着したリチウム及びアルミニウムを含む酸化物を洗浄、除去した後に、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いてアルミニウム含有量を定量することで測定される。ここで母材となるリチウム遷移金属複合酸化物が組成にアルミニウムを含む場合、すなわち、一次粒子の表層以外の領域にアルミニウムが含まれる場合には、母材となるリチウム遷移金属複合酸化物の組成に含まれるアルミニウム含有量を差し引くことで一次粒子の表層におけるアルミニウム固溶量を算出することができる。
【0026】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子である二次粒子は一次粒子の凝集体として形成される。二次粒子の平均粒径は、例えば、2μm以上25μm以下であり、好ましくは3μm以上17μm以下である。二次粒子の平均粒径は、レーザー散乱法によって得られる体積基準の粒径分布において、小粒径側からの体積積算値が50%となる粒径として測定される。
【0027】
二次粒子の表面には、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物と、リチウム及びホウ素を含む酸化物とが付着している。リチウム及びアルミニウムを含む酸化物並びにリチウム及びホウ素を含む酸化物は、二次粒子の表面の少なくとも一部の領域に付着していればよい。
【0028】
正極活物質において、リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対するリチウム及びアルミニウムを含む酸化物の含有率は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子のリチウム以外の金属の総モル数に対してアルミニウム換算で例えば、0.1モル%以上0.8モル%以下であり、好ましくは0.13モル%以上、より好ましくは0.15モル%以上であり、また好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.25モル%以下である。リチウム及びアルミニウムを含む酸化物の含有率が0.1モル%以上0.8モル%以下の範囲であると、充放電容量の低下を抑制しつつ高電圧時のサイクル特性がより向上する傾向がある。
【0029】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に付着しているリチウムおよびアルミニウムを含む酸化物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が、例えば50%以上であり、好ましくは70%以上または90%以上である。ここで総体積比率は、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物粒子の総体積に対する、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の累積体積比率である。
【0030】
正極活物質において、リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対するリチウム及びホウ素を含む酸化物の含有率は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子のリチウム以外の金属の総モル数に対してホウ素換算で例えば、0.3モル%以上2.0モル%以下であり、好ましくは0.4モル%以上、より好ましくは0.45モル%以上であり、また好ましくは1.0モル%以下、より好ましくは0.6モル%以下である。ホウ素の役割は、例えば、一次粒子間の粒界を通じてアルミニウムを二次粒子の内部に運ぶことにあると考えられる。したがって、リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対するリチウム及びホウ素を含む酸化物の含有率が前記範囲であると、充放電容量の低下を抑制しつつ高電圧時のサイクル特性がより向上する傾向がある。
【0031】
正極活物質におけるアルミニウム固溶量、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物の付着量、及びリチウム及びホウ素を含む酸化物の付着量の合計は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子のリチウム以外の金属の総モル数に対してアルミニウム又はホウ素換算で、例えば、3.4モル%以下であり、好ましくは2.0モル%以下であり、また例えば、0.6モル%以上であり、好ましくは0.83モル%以上である。
【0032】
正極活物質において、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物のリチウム及びホウ素を含む酸化物に対する含有比(Al/B)は、アルミニウム及びホウ素換算で例えば、0.05以上2.7以下であり、好ましくは0.5以上2.0以下、より好ましくは0.8以上1.5以下である。前記含有比(Al/B)は、0.1以上、0.2以上、又は0.3以上であってよく、1以下、0.8以下、又は0.6以下であってよい。含有比が前記範囲であると、充放電容量の低下を抑制しつつ高電圧時のサイクル特性がより向上する傾向がある。
【0033】
正極活物質において、アルミニウムの総含有量に対する一次粒子の表層におけるアルミニウム固溶量の比率であるアルミニウム固溶率(%)は、例えば、40%以上100%未満であり、好ましくは50%以上90%以下、より好ましくは60%以上80%以下である。アルミニウム固溶率が前記範囲であると、充放電容量の低下を抑制しつつ高電圧時のサイクル特性がより向上する傾向がある。ここで、正極活物質におけるアルミニウムの総含有量は、二次粒子の表面に付着するリチウム及びアルミニウムを含む酸化物に含まれるアルミニウム量と、一次粒子の表層に固溶するアルミニウム量の総計とする。なお、正極活物質におけるアルミニウムの総含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて定量することができる。
【0034】
正極活物質において、アルミニウムの総含有量に対する二次粒子の表面に付着するリチウム及びアルミニウムを含む酸化物に含まれるアルミニウム量の比率であるアルミニウムコート率(%)は、例えば、0%を超えて60%以下であり、好ましくは10%以上50%以下、より好ましくは20%以上40%以下である。アルミニウムコート率が前記範囲であると、充放電容量の低下を抑制しつつ高電圧時のサイクル特性がより向上する傾向がある。
【0035】
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物と、ホウ素化合物とを含む混合物を準備する準備工程と、準備した混合物を熱処理する熱処理工程とを含む。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、一次粒子が凝集して形成される二次粒子を含んでいる。また、アルミニウム化合物には、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の比率が54%より大きいアルミニウム化合物が用いられる。非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、既述の正極活物質を効率的に製造可能な製造方法である。
【0036】
一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子に、アルミニウム化合物を添加して熱処理することで、二次粒子表面から結晶粒界を通じて二次粒子内部にアルミニウムを拡散させることができる。このとき特定の粒径分布を有するアルミニウム化合物を用いることで、少ない添加量で、一次粒子の表層にアルミニウムを固溶させつつ、二次粒子の表面にアルミニウムを含む酸化物が付着した正極活物質を効率的に製造することができる。得られる正極活物質を用いて構成される非水電解質二次電池は、高電圧での良好な充放電サイクル特性を達成することができる。これは例えば、アルミニウム化合物の粒径が小さいほど二次粒子内部へのアルミニウムの拡散量が増加するためと考えることができる。
【0037】
準備工程では、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物と、ホウ素化合物とを含む混合物を準備する。準備工程は、母材となるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を準備する母材準備工程と、リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物と、ホウ素化合物とを混合して混合物を得る混合工程とを含んでいてもよい。
【0038】
母材準備工程では、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を準備する。母材となるリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、市販品から適宜選択して準備してもよく、所望の組成を有する複合酸化物を調製し、これをリチウム化合物とともに熱処理してリチウム遷移金属複合酸化物粒子を調製して準備してもよい。
【0039】
所望の組成を有する複合酸化物を得る方法としては、原料化合物(水酸化物、炭酸化合物等)を目的組成に合わせて混合し熱処理によって複合酸化物に分解する方法、溶媒に可溶な原料化合物を溶媒に溶解し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で目的の組成に合わせて前駆体の沈殿を得て、それら前駆体の熱処理によって複合酸化物を得る共沈法などを挙げることができる。以下、母材の製造方法の一例について説明する。
【0040】
共沈法により複合酸化物を得る方法には、所望の構成で金属イオンを含む混合水溶液のpH等を調整して種晶を得る種生成工程と、生成した種晶を成長させて所望の特性を有する複合水酸化物を得る晶析工程と、得られる複合水酸化物を熱処理して複合酸化物を得る工程とを含むことができる。複合酸化物を得る方法の詳細については、特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報(米国特許出願公開第2012/270107号明細書)等を参照することができる。
【0041】
種生成工程では、所望の構成でニッケルイオンを含む混合溶液のpHを、例えば11から13に調整することで種晶を含む液媒体を調製する。種晶は例えば、ニッケル水酸化物を含むことができる。混合溶液は、ニッケル塩と、必要に応じて含まれるマンガン塩及びコバルト塩とを所望の割合で水に溶解することで調製できる。ニッケル塩、マンガン塩、コバルト塩としては例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等を挙げることができる。混合溶液は、ニッケル塩、マンガン塩及びコバルト塩に加えて、必要に応じて他の金属塩を含んでいてもよい。種生成工程における反応槽内の温度は例えば40℃から80℃とすることができる。種生成工程における雰囲気は、低酸化性雰囲気とすることができ、例えば酸素濃度を10体積%以下に維持することが好ましい。
【0042】
晶析工程では、生成した種晶を成長させて所望の特性を有するニッケルを含む沈殿物を得る。種晶の成長は例えば、種晶を含む液媒体に、そのpHを例えば7から12.5、好ましくは7.5から12に維持しつつ、ニッケルイオンを含む混合溶液を添加することで行うことができる。混合溶液の添加時間は例えば1時間から24時間であり、好ましくは3時間から18時間である。晶析工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。晶析工程における雰囲気は種生成工程と同様である。
【0043】
種生成工程および晶析工程におけるpHの調整は、硫酸水溶液、硝酸水溶液等の酸性水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などを用いて行うことができる。
【0044】
複合酸化物を得る工程では、晶析工程で得られる複合水酸化物を、熱処理することにより複合酸化物を得る。熱処理は例えば500℃以下の温度で加熱して行うことができ、好ましくは350℃以下で加熱することができる。また熱処理の温度は例えば100℃以上であり、好ましくは200℃以上である、熱処理の時間は例えば0.5時間から48時間とすることができ、好ましくは5時間から24時間である。熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉やロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
【0045】
次いで、得られた複合酸化物とリチウム化合物とを混合して得られるリチウムを含む混合物(以下、リチウム混合物ともいう)を、550℃以上1000℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る。得られる熱処理物は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属酸化物を含む。
【0046】
複合酸化物と混合するリチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム等を挙げることができる。混合に用いるリチウム化合物の粒径は、体積基準による累積粒度分布の50%粒径として例えば、0.1μm以上100μm以下であり、2μm以上20μm以下が好ましい。
【0047】
リチウム混合物における複合酸化物を構成する金属元素の総モル数に対するリチウムの総モル数の比は例えば、1以上1.5以下であり、1.03以上1.25以下が好ましい。複合酸化物とリチウム化合物との混合は、例えば、高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
【0048】
リチウム混合物は、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルト以外の他の金属をさらに含んでいてもよい。他の金属としては、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。リチウム混合物が、他の金属を含む場合、他の金属の単体又は金属化合物を複合酸化物及びリチウム化合物と共に混合することで、混合物を得ることができる。他の金属を含む金属化合物としては、酸化物、水酸化物、塩化物、窒化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等を挙げることができる。
【0049】
リチウム混合物が、他の金属を含む場合、複合酸化物を構成する金属元素の総モル数と他の金属の総モル数との比は例えば、1:0.001から1:0.02であり、1:0.002から1:0.015が好ましい。
【0050】
リチウム混合物の熱処理温度は、例えば600℃以上1000℃以下が好ましい。リチウム混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよいが、焼結による粒子の成長を抑制し、所望の粒子形状を維持するため最高温度よりも低い熱処理温度で最高温度の熱処理の前に複数行ってもよい。熱処理の時間は例えば、0.5時間から48時間であり、複数の温度で熱処理を行う場合は、それぞれ0.2時間から47時間とすることができる。
【0051】
熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉やロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
【0052】
母材となるリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば、0.33以上であり、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.55以上であり、上限は例えば、1未満であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下である。
【0053】
母材となるリチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば、0.02以上であり、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上であり、上限は例えば、1未満であり、好ましくは0.33以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.25以下である。
【0054】
母材となるリチウム遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば、0.01以上であり、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上であり、上限は例えば、0.33以下であり、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下である。
【0055】
母材となるリチウム遷移金属複合酸化物がニッケルに加えて、コバルト及びマンガンを含む場合、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比は、例えば、ニッケル:コバルト:マンガン=(0.33から0.95):(0.02から0.33):(0.01から0.33)であり、好ましくは(0.55から0.6):(0.15から0.25):(0.15から0.3)である。
【0056】
母材となるリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下式(2)又は(2a)で表される組成を有していてもよい。
LiNi1-x-yCoMnAl (2)
式中、1.0≦a≦1.5、0.02≦x≦0.34、0.01≦y≦0.34、0≦v≦0.048、0≦w≦0.02、0.05≦x+y≦0.67であり、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種である。ここで、xは0.33以下であってよく、yは0.33以下であってよく、x+yは0.66以下であってよい。
【0057】
LiNiCoMn (2a)
式中、1.0≦a≦1.5、0.33≦p≦0.95、0.02≦q≦0.33、0.01≦r≦0.33、0≦s≦0.02、p+q+r=1であり、MはAl、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0058】
母材の体積平均粒径は、例えば2μm以上25μm以下であり、好ましくは3μm以上17μm以下である。
【0059】
混合工程では、母材となるリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物と、ホウ素化合物とを混合して混合物を得る。混合方法としては、例えば、高速せん断ミキサー等を用いる乾式混合が用いられる。
【0060】
リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム等が挙げられる。リチウム化合物の体積平均粒径は、例えば0.1μm以上100μm以下であり、好ましくは1μm以上50μm以下である。混合物におけるリチウム化合物のリチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する混合比は、リチウム換算で例えば、1.2モル%以上7.4モル%以下であり、好ましくは1.45モル%以上4モル%以下である。リチウム換算の混合比は、1.6モル%以上、1.8モル%以上、又は2モル%以上であってよく、3モル%以下、2.6モル%以下、又は2.4モル%以下であってよい。
【0061】
アルミニウム化合物としては、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が、例えば、54%より大きい粒径分布を有するものが用いられ、好ましくは総体積比率が80%以上、より好ましくは90%以上の粒径分布を有するものが用いられる。ここで総体積比率は、粒径分布において粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の体積累積値である。アルミニウム化合物の粒径分布が前記範囲内であると、充放電容量の低下を抑制しつつ高電圧時のサイクル特性がより向上する傾向がある。混合物におけるアルミニウム化合物のリチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する混合比は、アルミニウム換算で例えば、0.1モル%以上0.8モル%以下であり、好ましくは0.13モル%以上0.5モル%以下である。アルミニウム換算の混合比は、0.2モル%以上、0.4モル%以上、又は0.5モル%以上であってよく、1.2モル%以下、1モル%以下、又は0.7モル%以下であってよい。
【0062】
ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸(オルトホウ酸)、酸化ホウ素が挙げられる。ホウ素化合物の体積平均粒径は、例えば0.1μm以上100μm以下であり、好ましくは1μm以上50μm以下である。混合物におけるホウ素化合物のリチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する混合比は、ホウ素換算で例えば、0.3モル%以上2モル%以下であり、好ましくは0.4モル%以上1モル%以下である。ホウ素換算の混合比は、0.8モル%以下、又は0.6モル%以下であってよい。
【0063】
熱処理工程では、準備した混合物を熱処理して、熱処理物として非水電解質二次電池用正極活物質を得る。熱処理の温度は、例えば、500℃以上800℃以下であり、好ましくは550℃以上、より好ましくは600℃以上であり、また好ましくは750℃以下である。熱処理は所定の温度環境に準備した混合物を投入して行ってもよく、準備した混合物を例えば常温から所定の温度まで昇温し、その温度を所定時間維持して行ってもよい。昇温して熱処理を行う場合、昇温速度は例えば1℃/min以上20℃/min以下とすることができる。熱処理の時間は、例えば、2時間以上40時間以下であり、好ましくは5時間以上20時間以下である。
【0064】
熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉やロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
【0065】
熱処理後のリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面に付着しているリチウムおよびアルミニウムを含む酸化物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が50%より大きいことが好ましい。リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物の粒径分布が前記範囲内であると、フッ酸等による一次粒子表層の構成成分の溶出を抑制でき、一次粒子表層に固溶させたアルミニウムの効果が十分に発揮され、優れたサイクル特性を達成することができる。
【0066】
正極活物質の製造方法では、熱処理後に得られる熱処理物について、解砕処理を行ってもよい。また更に分散処理、分級処理等を行ってもよい。
【0067】
非水電解質二次電池用正極
非水電解質二次電池用正極は、集電体と、集電体上に配置され、前記非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極活物質層とを備える。係る正極を備える非水電解質二次電池は、高電圧における充放電サイクル特性に優れる。
【0068】
集電体の材質としては例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。正極活物質層は、上記の正極活物質、導電材、結着剤等を溶媒と共に混合して得られる正極合剤を集電体上に塗布し、乾燥処理、加圧処理等を行うことで形成することができる。導電材としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。結着剤としては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。
【0069】
非水電解質二次電池
非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極を備える。非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池用正極に加えて、非水二次電池用負極、非水電解質、セパレータ等を備えて構成される。非水電解質二次電池における、負極、非水電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報等に記載された、非水電解質二次電池用のものを適宜選択して用いることができる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の体積平均粒径は、レーザー散乱法によって得られる体積基準の粒径分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる値を用いた。具体的にはレーザー回折式粒径分布装置(MALVERN Inst. MASTERSIZER 2000)を用いて体積平均粒径を測定した。
【0071】
[実施例1]
反応槽に撹拌状態の純水を準備し、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンの各水溶液を、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比がNi:Co:Mn=6:2:2となる流量比で滴下した。滴下終了後、液温を50℃にし、水酸化ナトリウム水溶液を所定量滴下してニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の沈殿を得た。得られた沈殿を水洗、濾過、分離し、炭酸リチウム及び酸化ジルコニウム(IV)を、Li:(Ni+Co+Mn):Zr=1.02:1:0.005(モル比)となるように混合して、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気雰囲気下、840℃で12時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を粉砕し、乾式篩にかけ、組成式Li1.07Ni0.6Co0.2Mn0.2Zr0.005で表される母材となるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。得られた母材となるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の体積平均粒径は11μmであった。
【0072】
上記で得られたリチウム遷移金属複合酸化物と、リチウム化合物として水酸化リチウム、アルミニウム化合物として酸化アルミニウム、及びホウ素化合物としてホウ酸(オルトホウ酸、HBO)とを、リチウム遷移金属複合酸化物に対するリチウム:アルミニウム:ホウ素の各元素の割合が2.1mol%:0.6mol%:0.5mol%となるように、高速せん断型ミキサーで混合して混合物を得た。アルミニウム化合物としての酸化アルミニウムの体積平均粒径は1.1μmであった。得られた混合物を大気中にて700℃、10時間焼成することで、実施例1の正極活物質E1を得た。
【0073】
実施例1で使用したアルミニウム化合物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が97%であった。実施例1で使用したアルミニウム化合物のSEM画像を図1Aに、粒径分布を図2に示す。
【0074】
[実施例2]
アルミニウム化合物として水酸化アルミニウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極活物質E2を得た。なお、水酸化アルミニウムの体積平均粒径は、1.7μmであった。
【0075】
実施例2で使用したアルミニウム化合物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が91%であった。実施例2で使用したアルミニウム化合物のSEM画像を図1Bに、粒径分布を図2に示す。
【0076】
[比較例1]
アルミニウム化合物として、体積平均粒径が40nmである酸化アルミニウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極活物質C1を得た。
【0077】
比較例1で使用したアルミニウム化合物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が0%であった。比較例1で使用したアルミニウム化合物のSEM画像を図1Cに示す。
【0078】
[比較例2]
アルミニウム化合物として、体積平均粒径が2.9μmである酸化アルミニウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極活物質C2を得た。
【0079】
比較例2で使用したアルミニウム化合物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が54%であった。比較例2で使用したアルミニウム化合物のSEM画像を図1Dに、粒径分布を図2に示す。
【0080】
[比較例3]
実施例1で得られた母材となるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を比較例3の正極活物質C3とした。
【0081】
<アルミニウム固溶量評価>
正極活物質にアルミニウムが固溶した量を測定する方法を以下に説明する。なお、この方法はアルミニウムが両性元素であることを利用し、水酸化ナトリウムにより、正極活物質表面に付着しているアルミニウムを含む化合物を溶出させることにより、正極活物質に残ったアルミニウムを固溶したアルミニウムとして算出する方法である。ここで溶出するアルミニウムを含む化合物としては、LiAlO、LiAlBO、LiAlBO等が考えられる。
【0082】
25重量%の水酸化ナトリウム溶液に対して、正極活物質の割合が3重量%になるよう混合し、1時間攪拌したのち、15分静置することで正極活物質を沈降させた。正極活物質の割合が33重量%になるように上澄み溶液を取り除いた。純水を正極活物質の割合が5重量%になるよう添加して混合した。15分静置することで正極活物質を沈降させ、正極活物質の割合が33重量%になるように上澄み溶液を取り除いた。純水の添加・混合と上澄み溶液の除去の操作を3回繰り返した後、ろ過により正極活物質と溶媒とを分離した。ろ過した正極活物質は、乾燥機にて150℃で2時間乾燥した。得られた正極活物質中のアルミニウムの含有量を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて定量した。得られた分析値は、正極活物質に固溶しているアルミニウムの含有量に相当する。アルミニウム固溶量は、リチウム及びアルミニウム以外の金属の総含有量を100モル%として算出した。すなわち、(Ni+Co+Mn+Zr):Al=100:アルミニウム固溶量(モル%)として算出した。また、洗浄後のアルミニウム含有量の洗浄前のアルミニウム含有量に対する比率としてアルミニウム固溶率(%)を算出した。すなわち、アルミニウム固溶率=洗浄後の含有量/洗浄前の含有量(%)とした。結果を表1に示す。
【0083】
<表面化合物評価>
正極活物質表面に付着するリチウム及びアルミニウムを含む酸化物、リチウム及びホウ素を含む酸化物の確認方法を以下に説明する。この方法は上記のアルミニウム固溶量評価の測定で水酸化ナトリウムを使用していたところを純水に変更することにより、リチウム及びアルミニウムを含む酸化物は溶出せず、リチウム及びホウ素を含む酸化物を溶出させる方法である。ここでリチウム及びホウ素を含む酸化物としては、LiBO、LiBO等が考えられる。
【0084】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物と、ホウ素化合物とを含む混合物に対して熱処理を行うことで、添加したアルミニウムとホウ素はリチウムと反応し酸化物を形成し、一部は固溶する。この固溶した量を評価する方法が前述していたアルミニウム固溶量評価である。この評価にて溶出したアルミニウムは、リチウムと酸化物を形成またはリチウム及びホウ素と酸化物を形成する。そこで純水によりリチウム及びホウ素の酸化物を溶出することでアルミニウムがどの元素と反応したかを推定できる。
【0085】
純水に対して正極活物質の割合が3重量%になるように混合し、1時間攪拌したのち、15分静置することで正極活物質を沈降させた。正極活物質の割合が33重量%になるように上澄み溶液を取り除いた。純水を正極活物質の割合が5重量%になるよう添加して混合した。15分静置することで正極活物質を沈降させ、正極活物質の割合が33重量%になるように上澄み溶液を取り除いた。純水の添加・混合と上澄み溶液の除去の操作を3回繰り返した後、ろ過により正極活物質と溶媒とを分離した。ろ過した正極活物質は150℃の乾燥機にて2時間乾燥した。得られた正極活物質中のアルミニウム及びホウ素の含有量を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて定量した。得られた分析値に加えて、測定したアルミニウムの固溶量を用いることで、リチウム及びアルミニウムの酸化物として付着しているLi-Alコートとリチウム及びホウ素の酸化物として付着しているLi-Bコートを確認することができる。表1の実施例1の固溶量の結果と合わせて推定すると、純水により洗浄することで添加したホウ素はすべて溶出し、アルミニウムはほとんどが溶出していないと考えられる。この結果より、溶出したホウ素はほとんどがリチウム及びホウ素の酸化物(例えば、LiBO、LiBO等)を形成していると考えられる。また、表面に付着するアルミニウム酸化物中のほとんどがリチウム及びアルミニウムを含む酸化物(例えば、LiAlO等)を形成していると考えられる。
【0086】
<評価用電池の作製>
実施例1、2及び比較例1から3の正極活物質をそれぞれ用い、以下の要領で評価用の非水電解質二次電池を作製した。
【0087】
[正極の作製]
正極活物質85質量部、アセチレンブラック10質量部、ポリフッ化ビニリデン5質量部をN-メチルピロリドンに分散させて正極スラリーを得た。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して正極を得た。
【0088】
[負極の作製]
人造黒鉛97.5質量部、カルボキシメチルセルロース1.5質量部、スチレンブタジエンゴム1.0質量部を水に分散させて負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを銅箔からなる集電体に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して負極を得た。
【0089】
[非水電解液の作製]
エチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比3:7で混合し、混合溶媒を得た。得られた混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを、その濃度が1.0mol%となるように溶解させ、非水電解液を得た。
【0090】
[非水電解質二次電池の組み立て]
上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、上記非水電解液を注入、封止し、評価用電池としてのラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。得られた評価用電池を用い、以下の電池特性の評価を行った。
【0091】
<充放電容量の評価>
充電電圧4.25V、充電電流0.2C(1Cは満充電状態から1時間で放電を終了させられる電流値)で定電流定電圧充電を行い、充電容量を測定した。次に、放電電圧2.75V、放電電流0.2Cで定電流放電を行い、放電容量を測定した。比較例3の充放電容量を基準(100%)とした場合の比充電容量をQc(%)、比放電容量をQd(%)と算出した。結果を表1に示す。
【0092】
<充放電サイクル特性の評価>
得られた評価用電池に微弱電流を流してエージングを行い、正極及び負極に電解質を十分なじませた。評価用電池を45℃の恒温槽に設置し、充電電位4.4V、充電電流2.0C(1Cは、1時間で放電が終了する電流として定義される)での充電と、放電電位2.75V、放電電流2.0Cでの放電を1サイクルとし、充放電を繰り返した。200サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除した値(%)を、200サイクル目の放電容量維持率(QsR(%))とした。結果を表1に示す。放電容量維持率が高いことは、サイクル特性が良いことを意味する。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例1、2より、添加するアルミニウム化合物が、酸化物でも水酸化物でも、同程度の粒径分布を有するアルミニウム化合物を添加することで容量低下が軽減し、かつ高電圧でのサイクル特性が改善している。これは添加するアルミニウム化合物の粒径分布を調整することにより、一次粒子の表層に固溶するアルミニウムと二次粒子の表面をコーティングするリチウム及びアルミニウムを含む酸化物の両方が存在する形態を形成し、少ない添加量で効果的に正極活物質の劣化を抑制しているためと考えられる。比較例1、2のように、同じ量の酸化アルミニウムを添加していても、体積平均粒径が小さい場合(比較例1)、体積基準の粒径分布において0.4μm以上3.0μm以下の粒子の総体積比率が少ない場合(比較例2)のいずれもがサイクル特性が悪化している。
【0095】
<EDXによるアルミニウム分布の評価>
一次粒子の表層にアルミニウムが分布していることを評価する方法として、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いた元素分析を行った。具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ、SU8230)を用いて測定を行った。測定条件としては、加速電圧5kV、EC=25μA、分析時間を30sで実施した。測定箇所は、実施例1の二次粒子断面図である図3に示すような位置であり、一次粒子の表層部分を示す黒丸、一次粒子の内部部分を示す白丸での測定を実施した。図4には一次粒子の表層部分におけるアルミニウム固溶量の測定結果を示す。表層部分の測定結果は、1つの粒子で15か所の測定を、3つの二次粒子について測定した値の平均値である。なお、一次粒子の内部部分については1つの粒子で5か所測定を行った。また、アルミニウム固溶量はニッケル、コバルト及びマンガンの総量を100モル%とした場合のモル%で示した。
【0096】
図4に示すように、一次粒子の表層部分にアルミニウムが検出された。一方、一次粒子の内部部分においては、アルミニウムは検出されなかった。実施例2、比較例1及び比較例2についても同様の結果であった。これはアルミニウムが一次粒子内部には拡散しておらず、一次粒子の表層にのみ存在することを示している。図4の比較例1及び実施例1に示すように、アルミニウム化合物の粒径が小さいほど、一次粒子の表層に存在するアルミニウムの量が多かった。
【0097】
<熱処理後のリチウム及びアルミニウムを含む酸化物の粒径測定>
粒子表面に付着しているリチウム及びアルミニウムを含む酸化物の粒径評価は、エネルギー分散型X線分析(EDX)と電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を組み合わせて測定を行った。FE-SEMにて無作為に撮影した画像を用いて、EDXによりリチウム及びアルミニウムを含む酸化物であることを確認した。確認できたリチウム及びアルミニウムを含む酸化物の粒子について、FE-SEMによる観察で認識される輪郭から、一次粒子の面積を算出し、その面積の円相当径として粒径を測定した。計測するリチウム及びアルミニウムを含む酸化物は100個以上の粒子の粒径を算出し評価した。結果を図5に示す。上述したように、実施例1で得られた正極活物質表面に付着しているリチウム及びアルミニウムを含む酸化物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が99%であった。一方、比較例2で得られた正極活物質表面に付着しているリチウム及びアルミニウムを含む酸化物は、体積基準の粒径分布において、粒径が0.4μm以上3.0μm以下である粒子の総体積比率が49%であった。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5