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特許7382142スパッタリングターゲット材に適した合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材に適した合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231109BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20231109BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20231109BHJP
   C22C 38/10 20060101ALI20231109BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20231109BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20231109BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20231109BHJP
   C22C 1/04 20230101ALN20231109BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20231109BHJP
【FI】
C22C38/00 303Z
C22C19/07 C
C22C30/00
C22C38/10
C22C38/58
C23C14/34 A
B22F9/08 A
C22C1/04 B
C22C33/02 A
C22C33/02 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019032915
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020132995
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123362(JP,A)
【文献】特開2018-141195(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070860(WO,A1)
【文献】特開2011-230279(JP,A)
【文献】特表2016-500551(JP,A)
【文献】特開昭63-089643(JP,A)
【文献】特開2017-057490(JP,A)
【文献】特開2002-161302(JP,A)
【文献】特開2008-214729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C22C 30/00-30/06
C22C 19/00-19/07
C23C 14/34
B22F 9/08
C22C 33/02
C22C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、Co及びFeから選択される少なくとも1種と、Bと、Cとを含んでおり、その残部が不可避的不純物からなる合金であり、この合金全体におけるCの濃度が210質量ppm以上450質量ppm以下であり、この合金中の、Cと不可避的不純物とを除く、Co、Fe及びBの組成が、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Bで示され、この式中、Xが0以上100以下であり、Yが10以上65以下であるスパッタリングターゲット材の製造に用いる合金粉末。
【請求項2】
上記合金が、他の金属元素をさらに含んでおり、この金属元素をMとするとき、この合金中の、Cと不可避的不純物とを除く、Co、Fe、B及びMの組成が、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Z-B-Mで示され、この式中、Xが0以上100以下であり、Yが10以上65以下であり、Zが0.5以上30以下であり、
上記金属元素Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt及びAgからなる群から選択される1種または2種以上である請求項1に記載の合金粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合金粉末を用いて得られるスパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材に適した合金に関する。詳細には、本発明は、スパッタリングターゲット材の製造に用いる合金に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、磁気トンネル接合(MTJ)素子を有する。MTJ素子は、高いトンネル磁気抵抗(TMR)信号、低いスイッチング電流密度(Jc)等の特徴を示す。
【0003】
磁気トンネル接合(MTJ)素子は、通常、Co-Fe-B系合金からなる2枚の磁性層で、MgOからなる遮蔽層を挟んだ構造を有している。この磁性層は、Co-Fe-B系合金からなるターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる薄膜である。国際公開WO2015-80009号公報(特許文献1)では、Bの含有量が17at%以上40at%以下であり、残余がCo又はFeから選択した一種以上の元素の焼結体からなる磁性材スパッタリングターゲットが提案されている。特許文献1には、この磁性材スパッタリングターゲットに、Al、Cr、Cu、Hf、Mn、Ni、Ru、Si、Ta及びWから選択した一種以上の元素を0.5at%以上20at%以下配合する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2015-80009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスパッタリングターゲットに用いる原料粉末は、ガスアトマイズ法により製造されている。この原料粉末の組成は、Bの含有量が17~40at%であり、残余がCo又はFeから選択した一種以上の元素である。通常、アトマイズ法では、流出口(小孔又はノズル)を設けた坩堝中で原料である金属や合金を溶解し、その流出口から流出した溶湯流に、高圧のガス又は液体を吹き付けて分散させ、凝固させることにより、金属又は合金の粉末が製造される。しかし、特許文献1に開示された組成では、溶湯が流出する際に、坩堝の流出口に詰まりが発生する場合が多く、アトマイズ法による製造が困難であるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、アトマイズ法による粉末製造が容易な、スパッタリングターゲット材に適した合金の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来、ターゲット材に含まれる炭素は、スパッタリング時の割れ等の原因の一つであり、場合によっては、得られる薄膜特性を阻害するとも考えられていた。そのため、これまで、ターゲット材用の原料粉末中の炭素濃度を低減するための技術が検討されていた。しかしながら、本発明者らは鋭意開発を進めた結果、特定の組成のCo-Fe-B系合金において、所定量の炭素の配合が、小孔又はノズルの詰まりの改善に寄与することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲット材に適した合金は、Co及びFeから選択される少なくとも1種と、Bと、Cとを含んでおり、その残部が不可避的不純物からなる。この合金全体におけるCの濃度は50ppm以上950ppm以下である。この合金中の、Cと不可避的不純物を除く、Co、Fe及びBの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Bで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは10以上65以下である。
【0009】
好ましくは、この合金は、他の金属元素をさらに含んでいる。この金属元素をMとするとき、この合金中の、Cと不可避的不純物とを除く、Co、Fe、B及びMの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Z-B-Mで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは10以上65以下であり、Zは0.5以上30以下である。好ましくは、金属元素Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu及びAgからなる群から選択される1種または2種以上である。
【0010】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材に適した合金を用いて、スパッタリングターゲット材が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るスパッタリングターゲット材に適した合金を用いて、アトマイズ法でその粉末を製造するとき、濃度50ppm以上950ppm以下の炭素を含むことにより、溶湯が坩堝の流出口から容易に流出する。この合金粉末の製造時には、溶湯による流出口の閉塞が防止されうる。この合金粉末の製造は、容易である。また、この合金粉末の焼結体であるスパッタリングターゲット材によれば、スパッタリング時に割れ等の不具合が少なく、得られる薄膜特性も阻害されない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、特に注釈のない限り、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0013】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材に適した合金は、Co及びFeから選択される少なくとも1種と、Bと、Cと、任意に添加される他の金属元素とを含んでおり、その残部が不可避的不純物からなるCo-Fe-B系合金である。この合金全体におけるCの濃度(炭素濃度)は、50ppm以上950ppm以下である。この合金中の、C及び不可避的不純物を除く、Co、Fe及びBの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Bで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは10以上65以下である。
【0014】
このスパッタリングターゲット材に適した合金から、ターゲット材の原料粉末として好適な合金粉末が得られる。このスパッタリングターゲット材に適した合金粉末(以下、「粉末」、「合金粉末」又は「原料粉末」と称する場合がある)も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0015】
このスパッタリングターゲット材に適した合金粉末は、Co及びFeから選択される少なくとも1種と、Bと、Cと、任意に添加される他の金属元素とを含んでおり、その残部が不可避的不純物からなる原料を溶解して溶湯を形成し、この溶湯をアトマイズにより急冷することにより、製造される。詳細には、この合金粉末は、原料であるCo及びFeから選択される少なくとも1種と、Bと、Cと、任意成分である他の金属元素とを、所定の組成となるように坩堝に投入して溶解し、坩堝の流出口(小孔又はノズル)から流出した溶湯流に、高圧のガス又は液体を吹き付けて分散・凝固させることにより製造される。
【0016】
ここで、本発明の最大の特徴は、坩堝から流出する溶湯中のCの濃度(炭素濃度)が50ppm以上950ppm以下となるように調整されることにある。炭素濃度が50ppm以上950ppm以下である溶湯は、坩堝の流出口を閉塞することなく、速やかに流出する。炭素濃度が50ppm未満の場合、閉塞抑制効果が得られない場合がある。この観点から、溶湯中の炭素濃度は50ppm以上、好ましくは70ppm以上、より好ましくは100ppm以上に調整される。一方、炭素濃度が950ppmを超える場合には、坩堝中の溶解時にバブリングが発生するおそれがある。この観点から、溶湯中の炭素濃度は950ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは450ppm以下に調整される。
【0017】
本発明の効果が得られる限り、溶湯中の炭素は、Co、Fe、B等の原料に含まれる不可避的不純物に由来するものであってもよく、カーボン粉末等の炭素源を意図的に添加したものであってもよい。また、50ppm以上950ppm以下の炭素濃度が得られる限り、その調整方法は、特に限定されない。例えば、赤外線吸収法等既知の方法により測定された各金属原料の炭素濃度と、それらの組成比から炭素含有量を算出し、所定の炭素濃度となるように、カーボン粉末を添加することにより調整する方法が挙げられる。
【0018】
このようにして得られる合金粉末は、多数の粒子の集合体であり、その材質は、本発明に係るスパッタリングターゲット材に適した合金であり、この合金全体におけるCの濃度は50ppm以上であり、70ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。この合金全体におけるCの濃度は、950ppm以下であり、500ppm以下が好ましく、450ppm以下がより好ましい。
【0019】
また、このスパッタリングターゲット材に適した合金及び合金粉末では、坩堝に投入する原料において、C及び不可避的不純物を除く、Co、Fe及びBの組成が、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Bで示され、この式中、Xが0以上100以下となり、Yが10以上65以下となるように調整される。
【0020】
Yを10以上65以下、即ち、Co、Fe及びBの原子の総数を100としたときの、Bの原子の個数を10以上65以下とすることにより、アトマイズ時における閉塞防止効果がさらに顕著になる。この観点から、Yは、10以上であり、12以上が好ましく、15以上がより好ましい。Yが65を超える場合、流出口の閉塞が発生するおそれがある。この観点から、Yは、65以下であり、60以下が好ましく、55以下がより好ましい。
【0021】
このスパッタリングターゲット材に適した合金において、合金中のCo及びFeは、得られる薄膜に磁性を付与するために配合される。従って、この合金には、Co及びFeから選択される少なくとも1種が含まれていればよい。得られる薄膜の磁気特性向上の観点から、Co及びFeの合計は、この合金中の全元素に対して、原子比で、好ましくは35at.%以上であり、より好ましくは40at.%以上であり、さらに好ましくは50at.%以上である。Co及びFeの合計の上限値は、他の元素の含有量と関連して、90at.%を超えない。
【0022】
前述した通り、このスパッタリングターゲット材に適した合金は、任意成分として、さらに他の金属元素を含んでもよい。他の金属元素は、得られる薄膜の性能向上に寄与しうる。この金属元素をMとするとき、この合金中の、C及び不可避的不純物を除く、Co、Fe、B及びMの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Z-B-Mで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは10以上65以下であり、Zは0.5以上30以下である。
【0023】
Zを0.5以上、即ち、Co、Fe、B及びMの原子の総数を100としたときの、Mの原子の個数を0.5以上とすることにより、この金属元素Mによる性能向上効果が十分に発揮される。この観点から、Zは、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上が特に好ましい。一方、Zが30を超える場合、その効果が飽和(プラトー)に達するため、費用対効果が低下することがある。この観点から、Zは、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
【0024】
金属元素Mは、得られる薄膜に付与したい特性に応じて適宜選択される。例えば、薄膜の磁気特性向上のために配合される金属元素Mとしては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu及びAgからなる群から選択される1種または2種以上が好ましい。金属元素Mとして2種以上が配合される場合、2種以上の元素の合計量として、前述のZが調整される。
【0025】
前述した通り、このスパッタリングターゲット材に適した合金粉末は、アトマイズ法により製造される。所望の粉末が得られる限り特に限定されないが、例えば、流出口として、直径1~15mmの小孔が設けられた坩堝が、この合金粉末の製造に用いられる。この合金粉末は、直径1~15mmの小孔を閉塞することなく製造される。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、液体アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。また、アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置及び製造条件が適宜選択されて用いられる。
【0026】
アトマイズ法で得られた合金粉末を、高圧下で加熱して固化成形することにより、この合金粉末の焼結体が形成される。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、スパッタリングターゲット材が得られる。
【0027】
換言すれば、このスパッタリングターゲット材は、Co及びFeから選択される少なくとも1種と、BとCとを含んでおり、その残部が不可避的不純物からなる合金から形成されている。このターゲット材中のCの濃度は50ppm以上950ppm以下である。このターゲット材の、C及び不可避的不純物を除く、Co、Fe及びBの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Bで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは10以上65以下である。
【0028】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材は、他の金属元素をさらに含む合金から形成されている。この金属元素をMとするとき、C及び不可避的不純物を除く、Co、Fe、B及びMの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Z-B-Mで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは10以上65以下であり、Zは0.5以上30以下である。金属元素Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu及びAgからなる群から選択される1種または2種以上である。
【0029】
本発明の効果が阻害されない限り、スパッタリングターゲット材に適した合金粉末を固化成形する方法及び条件は、特に限定されず、例えば、熱間静水圧法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。また、固化成形して得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0030】
好ましくは、アトマイズ法により得られた合金粉末は、固化成形前に篩分級される。この篩分級により、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)が除去されうる。なお、本発明の効果が得られる限り、アトマイズ法により得られた合金粉末をそのまま固化成形して、スパッタリングターゲット材とすることも可能である。
【0031】
得られるスパッタリングターゲット材の強度の観点から、合金粉末の平均粒子径は、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。この平均粒子径は、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。この合金粉末の平均粒子径は、アトマイズ時の製造条件の変更及びその後の篩分級により調整される。
【0032】
このスパッタリングターゲット材に適した合金を用いて得られるスパッタリングターゲット材は、例えば、MTJ素子に使用されるCo-Fe-B系合金の薄膜を形成するためのスパッタリングに好適に使用される。このターゲット材によれば、スパッタリング時の割れ等の不具合が生じない。このターゲット材を用いることにより、MTJ素子に適した特性を備えた薄膜が形成される。この薄膜特性は、炭素濃度が50ppm未満のターゲット材を用いて得られる薄膜の特性と同等である。
【実施例
【0033】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0034】
[合金粉末の製造]
表1-4に示される組成となるように、各原料を秤量して、耐火物からなる坩堝に投入して、減圧下、Arガス雰囲気で、誘導加熱により溶解した。その後、溶解した溶湯を、坩堝下部に設けられた小孔(直径8mm)から流出させ、高圧のArガスを用いてガスアトマイズすることにより、実施例の合金粉末(No.1-44)及び比較例の合金粉末(No.45-48)を得た。各合金粉末の炭素濃度は、原料中に含まれる炭素及びカーボン粉末の添加により調整し、非分散型赤外線吸収法によって測定した。なお、表1-4において、Feの組成100-Xの記載は省略されている。
【0035】
[アトマイズ性]
実施例(No.1-44)及び比較例(No.45-48)の各組成について、それぞれ5回ずつ、同条件でガスアトマイズをおこない、坩堝の小孔の閉塞状態を観察した。アトマイズ中に小孔が閉塞することなく合金粉末が得られた回数が、成功回数として、表1-4に記載されている。この成功回数を、以下の基準により評価した結果が、A又はBとして、表1-4に記載されている。
A(易アトマイズ性):成功回数3回以上
B(難アトマイズ性):成功回数2回以下
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
表1-4に示される通り、実施例(No.1-44)では、炭素濃度が50~950ppmに調整されることにより、ガスアトマイズによる成功回数が高く、アトマイズ性に優れることがわかる。一方、炭素濃度が50ppm未満である比較例(No.45-48)では、ガスアトマイズによる成功回数が少なく、アトマイズ性に劣ることがわかる。表1-4には示されないが、炭素濃度が950ppmを超える実験例では、坩堝中でバブリングが生じたため、所望の粉末を得ることができなかった。
【0041】
[スパッタリングターゲット材の作製]
実施例の合金粉末(No.1-44)を用いて、以下の手順により、それぞれ、スパッタリングターゲット材を作製した。
【0042】
始めに、ガスアトマイズ法で得た合金粉末を篩分級して、直径500μm以上の粗粉を除去した。次に、篩分級後の粉末を、炭素鋼で形成された缶(外径220mm、内径210mm、長さ200mm)に充填して、真空脱気した後、HIP法にて焼結体を得た。HIPの条件は、以下の通りである。
温度:1100℃
圧力:200MPa
保持時間:3時間
【0043】
得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工して、スパッタリングターゲット材とした。
【0044】
[スパッタリング性]
実施例(No.1-44)の粉末を用いて製造した各スパッタリングターゲット材を用いて、スパッタリングをおこない、スパッタリング後のターゲット材の割れを、目視で確認した。いずれのターゲット材においても、ターゲット材の割れは観察されず、基板上に略均一な厚みの薄膜が形成された。この評価結果から、炭素濃度50ppm以上950ppm以下のターゲット材によっても、良好なスパッタリングが可能であることがわかる。
【0045】
以上説明された通り、実施例の合金は、比較例の合金に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明されたスパッタリングターゲット材に適した合金及びこの合金から形成されるスパッタリングターゲット材は、Co-Fe-B系合金からなる薄膜を用いる種々の用途にも適用されうる。