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特許7382392投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231109BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20231109BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231109BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B27/01
B32B7/023
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021505159
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011202
(87)【国際公開番号】W WO2020184714
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019046534
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019124668
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020038727
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】安西 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】矢内 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】馬島 渉
(72)【発明者】
【氏名】大谷 健人
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071373(JP,A)
【文献】特開2008-052076(JP,A)
【文献】特開2004-287417(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175627(WO,A1)
【文献】特開2016-153281(JP,A)
【文献】特開2019-012211(JP,A)
【文献】特開2009-230050(JP,A)
【文献】国際公開第2010/092926(WO,A1)
【文献】特開2009-063846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0007246(US,A1)
【文献】国際公開第2016/052367(WO,A1)
【文献】特開2012-103577(JP,A)
【文献】特表2009-500646(JP,A)
【文献】特開2017-219624(JP,A)
【文献】特開2018-097370(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084076(WO,A1)
【文献】特開2019-015783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 27/01
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスに設けられることにより、前記ガラスにおける投映像表示部を構成する、投映像表示用部材であって、
棒状液晶化合物を含む位相差層、選択反射層、および、偏光変換層を、少なくとも有し、
前記位相差層は、前記棒状液晶化合物が前記位相差層の表面に対して一方向に傾斜配向しており、
前記選択反射層は、波長選択性を有し、さらに、右円偏光および左円偏光の一方を透過し他方を反射する、もしくは、直交する直線偏光の一方を透過し他方を反射する、偏光反射層であり、
前記偏光変換層は、液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した、波長選択反射特性を有さない層であって、前記偏光変換層において、膜厚および前記螺旋配向構造において、液晶化合物のダイレクターが360度回転する1ピッチをピッチ数1とした際におけるピッチ数が、下記関係式(i)および(ii)を満足する、
ウインドシールドガラスに装着されて用いられるヘッドアップディスプレイシステム用の投映像表示用部材。
前記偏光変換層のピッチ数をx、膜厚をy(単位μm)とした場合
(i) 0.1≦x≦2.0
(ii) 0.5≦y≦7.0
【請求項2】
前記位相差層における前記棒状液晶化合物の平均傾斜角は、前記位相差層の表面に対して10~80度であり、
前記位相差層は、前記位相差層の表面に対して前記平均傾斜角となる方向と直交する方向から光を入射して測定したリタデーションである、傾斜角0度における正面リタデーションが、100~500nmである、請求項1に記載の投映像表示用部材。
【請求項3】
ガラスに設けられることにより、前記ガラスにおける投映像表示部を構成する投映像表示用部材であって、
少なくとも1つの位相差層、および、偏光変換層を有し、
前記位相差層の正面リタデーションが100~350nmであり、
前記偏光変換層は液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した、波長選択反射特性を有さない層であって、前記偏光変換層において、膜厚および前記螺旋配向構造において、前記液晶化合物のダイレクターが360度回転する1ピッチをピッチ数1とした際におけるピッチ数が、下記関係式(i)および(ii)を満足する、
ウインドシールドガラスに装着されて用いられる、ヘッドアップディスプレイシステム用の投映像表示用部材。
前記偏光変換層のピッチ数をx、膜厚をy(単位μm)とした場合
(i) 0.1≦x≦2.0
(ii) 0.5≦y≦7.0
【請求項4】
選択反射層を含む、請求項に記載の投映像表示用部材。
【請求項5】
前記選択反射層が、直線偏光反射性の反射層である、請求項に記載の投映像表示用部材。
【請求項6】
車載された際における上下方向の上方を0度とした際に、
前記直線偏光反射性の反射層の屈折率異方性の方向が、投映像表示側から見て時計回りに10~80度、もしくは、100~170度の角度で傾いている、請求項に記載の投映像表示用部材。
【請求項7】
前記選択反射層が、円偏光反射性の反射層である、請求項に記載の投映像表示用部材。
【請求項8】
前記選択反射層が、無偏光反射性の反射層である、請求項に記載の投映像表示用部材。
【請求項9】
前記選択反射層が、波長選択性を有し、さらに、右円偏光および左円偏光の一方を透過し他方を反射する、もしくは、直交する直線偏光の一方を透過し他方を反射する、偏光反射層である、請求項に記載の投映像表示用部材。
【請求項10】
ウインドシールドガラス本体と、請求項1~のいずれか1項に記載の投映像表示用部材とを有するウインドシールドガラス。
【請求項11】
前記ウインドシールドガラス本体が合わせガラスである、請求項10に記載のウインドシールドガラス。
【請求項12】
前記ウインドシールドガラス本体が楔型ガラスである、請求項11に記載のウインドシールドガラス。
【請求項13】
前記ウインドシールドガラス本体の内面側の表面に前記投映像表示用部材が貼着された、請求項10~12のいずれか1項に記載のウインドシールドガラス。
【請求項14】
前記ウインドシールドガラス本体に、前記投映像表示用部材が挟持された、請求項11または12に記載のウインドシールドガラス。
【請求項15】
ウインドシールドガラスとなる楔形ガラスと、前記楔形ガラスに画像を投映するプロジェクターと、前記楔形ガラスの前記プロジェクターからの画像投映面に設けられる請求項1~のいずれか1項に記載の投映像表示用部材と、を有するヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項16】
前記プロジェクターが、主にS偏光を照射する、請求項15に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項17】
前記プロジェクターが、主に円偏光を照射する、請求項15に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイシステムに用いられる投映像表示用部材、この投映像表示用部材を用いるウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両等のウインドシールドに画像を投映し、運転者等に、地図、走行速度、および車両の状態等の様々な情報を提供する、ヘッドアップディスプレイまたはヘッドアップディスプレイシステムと呼ばれるものが知られている。
ヘッドアップディスプレイシステムでは、ウインドシールドに投映された、上述の様々な情報を含む画像の虚像が、運転者等に観察される。虚像の結像位置は、ウインドシールドより車外前方側に位置し、虚像の結像位置は、通常、ウインドシールドより1000mm以上、前方側であり、ウインドシールドよりも外界側に位置する。これにより、運転者は、前方の外界を見ながら、視線を大きく動かすことなく、上述の様々な情報を得ることができるため、ヘッドアップディスプレイシステムを用いた場合、様々の情報を得ながら、より安全に運転を行うことが期待されている。
ウインドシールドガラスは、ハーフミラーフィルムを利用して投映像表示部を形成することによりヘッドアップディスプレイシステムを構成することができる。ハーフミラーフィルムとして利用可能なものが種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、400nm以上500nm未満の中心反射波長をもち中心反射波長での通常光に対する反射率が5%以上25%以下である光反射層PRL-1と、500nm以上600nm未満の中心反射波長をもち中心反射波長での通常光に対する反射率が5%以上25%以下である光反射層PRL-2と、600nm以上700nm未満の中心反射波長をもち中心反射波長での通常光に対する反射率が5%以上25%以下である光反射層PRL-3のうち、1つ以上の光反射層を含み、かつ互いに異なる中心反射波長をもつ少なくとも2つ以上の光反射層が積層され、積層される少なくとも2つ以上の光反射層は、いずれも同じ向きの偏光を反射する光反射フィルムが記載されている。
【0004】
特許文献2には、平面形状で400nm以上500nm未満の中心反射波長をもち中心反射波長での通常光に対する反射率が5%以上25%以下である光反射層PRL-1と、平面形状で500nm以上600nm未満の中心反射波長をもち中心反射波長での通常光に対する反射率が5%以上25%以下である光反射層PRL-2と、平面形状で600nm以上700nm未満の中心反射波長をもち中心反射波長での通常光に対する反射率が5%以上25%以下である光反射層PRL-3のうち、1つ以上の光反射層を含み、かつ互いに異なる中心反射波長をもつ少なくとも2つ以上の光反射層が積層され、積層される少なくとも2つ以上の光反射層は、いずれも同じ向きの偏光を反射する特性を有し、かついずれも無負荷状態で曲面形状を保持してなり、かつ厚さが50μm以上500μm以下である曲面形状の光反射フィルムが記載されている。
上述の特許文献1および特許文献2は、いずれも各光反射層が、特定の偏光に変換された画像表示手段から出射した光に対して高い反射率を有し、かつヘッドアップディスプレイに利用することができる。
【0005】
特許文献3には、二重像が低減できる楔形の合わせガラスからなるウインドシールドガラスとコレステリック液晶層からなる光反射層の組み合わせにより、P偏光と共にS偏光をも含む自然光を投映光に用いたときに、投映光の輝度が顕著に向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/056617号
【文献】特開2017-187685号公報
【文献】国際公開第2016/133187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1および特許文献2に記載される光反射フィルムは、ヘッドアップディスプレイシステムに用いられるものである。ヘッドアップディスプレイシステムには、可視光透過率が高いことに加え、運転者が偏光サングラスをかけたとしても画像を視認できることが要求されている。また、ヘッドアップディスプレイシステムに使用されるプロジェクターの投映光は、S偏光を多く含む場合、あるいは、自然光を含む場合が多いのが実情である。
ところが、運転時に着用される偏光サングラスは、一般的に、S偏光を遮光することで、運転者が視認するボンネットの反射光等に起因するギラツキ等を低減する。
すなわち、このようなS偏光を含む投映光に対し、特許文献1および特許文献2に記載される光反射フィルムは、反射されるP偏光が弱く、偏光サングラス着用時の画像視認性が悪い。また、特許文献3の構成では、自然光を含む投映光も想定されているが、日中の様な周囲が明るい環境では偏光サングラス着用時の画像視認性が不足する。
本発明の目的は、プロジェクターの投映光がS偏光や円偏光を含む場合でも、高い可視光透過率を有すると共に表示画像の輝度の偏光サングラス適性に優れた投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] ガラスもしくは樹脂に設けられることにより、ガラスもしくは樹脂における投映像表示部を構成する投映像表示用部材であって、
棒状液晶化合物を含む位相差層を、少なくとも有し、
位相差層は、棒状液晶化合物が位相差層の表面に対して傾斜配向していることを特徴とする投映像表示用部材。
[2] 位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角は、位相差層の表面に対して10~80度であり、
位相差層は、位相差層の表面に対して平均傾斜角となる方向と直交する方向から光を入射して測定したリタデーションである、傾斜角0度における正面リタデーションが、100~500nmである、[1]に記載の投映像表示用部材。
[3] 選択反射層を含む、[1]または[2]に記載の投映像表示用部材。
[4] 選択反射層が、直線偏光反射性の反射層である、[3]に記載の投映像表示用部材。
[5] 選択反射層が、円偏光反射性の反射層である、[3]に記載の投映像表示用部材。
[6] 選択反射層が、無偏光反射性の反射層である、[3]に記載の投映像表示用部材。
[7] 偏光変換層を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の投映像表示用部材。
[8] 偏光変換層は液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した層であって、
偏光変換層において、膜厚および螺旋配向構造のピッチ数が、下記関係式(i)および(ii)を満足する、[7]に記載の投映像表示用部材。
偏光変換層のピッチ数をx、膜厚をy(単位μm)とした場合
(i) 0.1≦x≦2.0
(ii) 0.5≦y≦7.0
[9] 偏光変換層が位相差層であって、正面リタデーションが100~500nmである、[7]に記載の投映像表示用部材。
[10] ガラスもしくは樹脂に設けられることにより、ガラスもしくは樹脂における投映像表示部を構成する投映像表示用部材であって、
少なくとも1つの位相差層を有し、
位相差層の正面リタデーションが100~350nmであることを特徴とする投映像表示用部材。
[11] 選択反射層を含む、[10]に記載の投映像表示用部材。
[12] 選択反射層が、直線偏光反射性の反射層である、[11]に記載の投映像表示用部材。
[13] 車載された際における上下方向の上方を0度とした際に、
直線偏光反射性の反射層の屈折率異方性の方向が、投映像表示側から見て時計回りに10~80度、もしくは、100~170度の角度で傾いている、[12]に記載の投映像表示用部材。
[14] 選択反射層が、円偏光反射性の反射層である、[11]に記載の投映像表示用部材。
[15] 選択反射層が、無偏光反射性の反射層である、[11]に記載の投映像表示用部材。
[16] 偏光変換層を含む、[10]~[15]のいずれかに記載の投映像表示用部材。
[17] 偏光変換層は液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した層であって、
偏光変換層において、膜厚および螺旋配向構造のピッチ数が、下記関係式(i)および(ii)を満足する、[16]に記載の投映像表示用部材。
偏光変換層のピッチ数をx、膜厚をy(単位μm)とした場合
(i) 0.1≦x≦2.0
(ii) 0.5≦y≦7.0
[18] 偏光変換層は位相差層であって、正面リタデーションが100~500nmである、[16]に記載の投映像表示用部材。
[19] ウインドシールドガラス本体と、[1]~[18]のいずれかに記載の投映像表示用部材とを有するウインドシールドガラス。
[20] ウインドシールドガラス本体が合わせガラスである、[19]に記載のウインドシールドガラス。
[21] ウインドシールドガラス本体が楔型ガラスである、[20]に記載のウインドシールドガラス。
[22] ウインドシールドガラス本体の内面側の表面に投映像表示用部材が貼着された、[19]~[21]のいずれかに記載のウインドシールドガラス。
[23] ウインドシールドガラス本体に、投映像表示用部材が挟持された、[20]または[21]に記載のウインドシールドガラス。
[24] ウインドシールドガラスとなる楔形ガラスと、楔形ガラスに画像を投映するプロジェクターと、楔形ガラスのプロジェクターからの画像投映面に設けられる[1]~[18]のいずれかに記載の投映像表示用部材と、を有するヘッドアップディスプレイシステム。
[25] プロジェクターが、主にS偏光を照射する、[24]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
[26] プロジェクターが、主に円偏光を照射する、[24]に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【0009】
本発明は、投映像表示用部材を有するウインドシールドガラスおよびコンバイナを提供するものである。
ウインドシールドガラスの第1ガラス板と第2ガラス板との間に、投映像表示用部材が配置されることが好ましい。あるいは、ウインドシールドガラスの投映光入射側(凹面側)に投映像表示用部材が配置されてもよい。
第1ガラス板と投映像表示用部材との間、および、投映像表示用部材と第2ガラス板との間の、少なくとも一方に中間膜が設けられることが好ましい。
ウインドシールドガラスは楔形の断面形状であることが好ましく、楔形ガラスは第1ガラス板と第2ガラス板との間に楔形の中間膜を設けられることが好ましい。ウインドシールドガラスに、S偏光を含む投映光を照射するプロジェクターを有するヘッドアップディスプレイシステムとして使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロジェクターの投映光がS偏光や円偏光を含む場合でも、高い可視光透過率と、偏光サングラスを着用した際の画像の視認性を実現できる投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態の投映像表示用部材の一例を示す模式図である。
図2図2は、遅相軸を説明するための模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態の投映像表示用部材を有するヘッドアップディスプレイの一例を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態の投映像表示用部材を有するウインドシールドガラスの一例を示す模式図である。
図5図5は、実施例1における合わせガラスを横から見た図である。
図6図6は、実施例1における合わせガラスを第1の偏光変換層側から見た図である。
図7図7は、輝度の評価における測定系を示す図である。
図8図8は、偏光サングラス適性の評価における測定系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを詳細に説明する。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
なお、以下において数値範囲を示す「~」とは両側に記載された数値を含む。例えば、εが数値α~数値βとは、εの範囲は数値αと数値βを含む範囲であり、数学記号で示せばα≦ε≦βである。
「具体的な数値で表された角度」、「平行」、「垂直」および「直交」等の角度は、特に記載がなければ、該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含む。
また、「同一」とは該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、「全面」等も該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含む。
【0013】
円偏光につき「選択的」というときは、光の右円偏光成分または左円偏光成分のいずれかの光量が、他方の円偏光成分よりも多いことを意味する。具体的には「選択的」というとき、光の円偏光度は、0.3以上であることが好ましく、0.6以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。実質的に1.0であることがさらに好ましい。ここで、円偏光度とは、光の右円偏光成分の強度をIR、左円偏光成分の強度をILとしたとき、|IR-IL|/(IR+IL)で表される値である。
【0014】
円偏光につき「センス」というときは、右円偏光であるか、または左円偏光であるかを意味する。円偏光のセンスは、光が手前に向かって進んでくるように眺めた場合に電場ベクトルの先端が時間の増加に従って時計回りに回る場合が右円偏光であり、反時計回りに回る場合が左円偏光であるとして定義される。
【0015】
コレステリック液晶の螺旋のねじれ方向について「センス」との用語を用いることもある。コレステリック液晶の螺旋のねじれ方向(センス)が右の場合は右円偏光を反射し、左円偏光を透過し、センスが左の場合は左円偏光を反射し、右円偏光を透過する。
【0016】
「光」という場合、特に断らない限り、可視光かつ自然光(非偏光)の光を意味する。可視光は電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、通常、380~780nmの波長域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長領域または780nmを超える波長領域の光である。
また、これに制限されるものではないが、可視光のうち、420~490nmの波長領域の光は青色(B)光であり、495~570nmの波長領域の光は緑色(G)光であり、620~750nmの波長領域の光は赤色(R)光である。
【0017】
「可視光線透過率」はJIS(日本工業規格) R 3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)において定められたA光源可視光線透過率とする。すなわち、A光源を用い分光光度計にて、波長380~780nmの範囲の各波長の透過率を測定し、CIE(国際照明委員会)の明順応標準比視感度の波長分布および波長間隔から得られる重価係数を各波長での透過率に乗じて加重平均することによって求められる透過率である。
単に「反射光」または「透過光」というときは、散乱光および回折光を含む意味で用いられる。
【0018】
なお、光の各波長の偏光状態は、円偏光板を装着した分光放射輝度計またはスペクトルメータを用いて測定することができる。この場合、右円偏光板を通して測定した光の強度がIR、左円偏光板を通して測定した光の強度がILに相当する。また、照度計または光スペクトルメータに円偏光板を取り付けても測定することができる。右円偏光透過板をつけ、右円偏光量を測定、左円偏光透過板をつけ、左円偏光量を測定することにより、比率を測定できる。
【0019】
P偏光は光の入射面に平行な方向に振動する偏光を意味する。入射面は反射面(ウインドシールドガラス表面等)に垂直で入射光線と反射光線とを含む面を意味する。P偏光は電場ベクトルの振動面が入射面に平行である。
【0020】
正面位相差は、Axometrics社製のAxoScanを用いて測定した値である。測定波長は特に言及のないときは、波長550nmとする。正面位相差はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器社製)において可視光波長域内の波長の光をフィルム法線方向に入射させて測定した値を用いることもできる。測定波長の選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
【0021】
「投映光(projection image)」は、前方等の周囲の風景ではない、使用するプロジェクターからの光の投射に基づく映像を意味する。投映光は、観察者から見てウインドシールドガラスの投映像表示部の先に浮かび上がって見える虚像として観測される。
「画像(screen image)」はプロジェクターの描画デバイスに表示される像または、描画デバイスにより中間像スクリーン等に描画される像を意味する。虚像に対して、画像は実像である。
画像および投映光は、いずれも単色の像であっても、2色以上の多色の像であっても、フルカラーの像であってもよい。
【0022】
<<投映像表示用部材>>
本発明の投映像表示用部材は、ヘッドアップディスプレイシステムの画像表示部を構成するものである。本発明の投映像表示用部材は、好ましくは、車両等のウインドシールドガラスに装着されて用いられる、車載用のヘッドアップディスプレイシステムに用いられる車載用の投映像表示用部材である。
投映像表示用部材は可視光透過性を有する。具体的には、投映像表示用部材の可視光線透過率は、80%以上が好ましく、82%以上がより好ましく、84%以上がさらに好ましい。このような高い可視光線透過率を有することにより可視光線透過率が低いガラスと組み合わせて合わせガラスとしたときであっても、車両のウインドシールドガラスの規格を満たす可視光線透過率を実現することができる。
【0023】
投映像表示用部材は視感度の高い波長域において実質的な反射を示さないことが好ましい。具体的には、法線方向からの光に対して、通常の合わせガラスと投映像表示用部材を組み込んだ合わせガラスとを比較したときに、波長550nm近辺で実質的に同等な反射を示すことが好ましい。より好ましくは490~620nmの可視光波長域において、実質的に同等な反射を示すことが好ましい。
「実質的に同等な反射」とは、例えば、日本分光社製の分光光度計「V-670」等の分光光度計で法線方向から測定した対象の波長における自然光(無偏光)の反射率の差が10%以下であることを意味する。上述の波長域において、反射率の差は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
視感度の高い波長域において実質的に同等な反射を示すことによって、可視光線透過率が低いガラスと組み合わせて合わせガラスとしたときであっても、車両のウインドシールドガラスの規格を満たす可視光線透過率を実現することができる。
【0024】
投映像表示用部材は薄膜のフィルム状、シート状等であればよい。投映像表示用部材はウインドシールドガラスに装着される前は、薄膜のフィルムとしてロール状等になっていてもよい。
【0025】
投映像表示用部材は、好ましい態様として後述する選択反射層を有する場合には、少なくとも投映されている光の一部に対して、ハーフミラーとしての機能を有しているものであればよく、例えば、可視光域全域の光に対してハーフミラーとして機能していることを必要とするものではない。また、投映像表示用部材は、全ての入射角の光に対して上述のハーフミラーとしての機能を有していてもよいが、少なくとも一部の入射角の光に対して上述の機能を有していればよい。
【0026】
投映像表示用部材は、投映像表示部に位相差層を有するものである。位相差層は、棒状液晶が傾斜した傾斜位相差層であることが好ましい。投映像表示用部材は、位相差層を有する構成であれば、これ以外に傾斜位相差層、支持体、配向層、選択反射層、接着層等を含む構成でもよい。以下、投映像表示用部材について、より具体的に説明する。
【0027】
図1は本発明の第1の態様の投映像表示用部材の一例を示す模式図である。図1に示すように、投映像表示用部材10は、一例として、支持体15上に、傾斜位相差層14と選択反射層12と偏光変換層11とが、この順で積層されている。本発明の第1の態様の投映像表示用部材10は、少なくとも傾斜位相差層14を有する構成であればよく、支持体15、選択反射層12および偏光変換層11はなくてもよい。
本例では、支持体15側が投映光の入射側すなわち車載用途では車内側となる。
【0028】
<傾斜位相差層>
傾斜位相差層は、後述する液晶化合物を支持体すなわち傾斜位相差層の表面に対して傾斜配向して硬化した位相差層である。液晶化合物は棒状液晶化合物である。傾斜位相差層は、支持体に対して傾斜配向した棒状液晶化合物を有するため、支持体側から入射する光と、波長選択反射層側から入射する光とで、位相差が異なる。
例えば、車載用のヘッドアップディスプレイシステムにおいては、ウインドシールドガラスに対し、入射角60度近傍の投映光が入射し、ウインドシールドガラスで正反射される。なお、入射角とは、入射面の法線(入射面と直交する線)に対する角度である。
ウインドシールドガラスの車内側表面に傾斜位相差層を設けた場合、投映光は傾斜位相差層の車内側の面から入射して通過した後にウインドシールドガラスで反射され、傾斜位相差層の車外側の面から入射して通過することになる。
このため、傾斜位相差層の棒状液晶化合物の傾斜を適切に設計することにより、投映光をP偏光に変換して反射することが可能であり、偏光サングラスを着用した運転者にも投映光を視認することができる。
図示例の投映像表示用部材においては、一例として、位相差層としての作用が異なる。具体的には、傾斜位相差層は、支持体側から入射する光に対しては、位相差層として作用せず、選択反射層側から入射する光に対しては、λ/4板およびλ/2板等の位相差層として作用する。この点に関しては、後に詳述する。
本発明では、傾斜位相差層はいずれの液晶化合物を用いることもできるが、棒状液晶化合物(以下、「CLC」または「CLC化合物」ともいう)、または、ディスコティック液晶化合物(円盤状液晶化合物、以下、「DLC」または「DLC化合物」ともいう)を用いるのが好ましいが、基本的に、棒状液晶化合物を用いる。
2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。上述の液晶化合物の固定化のために、重合性基を有する棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を用いて形成することがより好ましく、液晶化合物が1分子中に重合性基を2以上有することがさらに好ましい。液晶化合物が2種類以上の混合物の場合には、少なくとも1種類の液晶化合物が1分子中に2以上の重合性基を有していることが好ましい。
棒状液晶化合物としては、例えば、特表平11-513019号公報の請求項1や特開2005-289980号公報の段落[0026]~[0098]に記載のものを好ましく用いることができ、ディスコティック液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報の段落[0020]~[0067]や特開2010-244038号公報の段落[0013]~[0108]に記載のものを好ましく用いることができるが、これらに限定されない。
【0029】
(傾斜位相差層の平均傾斜角の測定)
傾斜位相差層において、一方の表面における棒状液晶化合物の傾斜角θ1、および、他方の表面の傾斜角θ2を、直接的にかつ正確に測定することは困難である。なお、傾斜位相差層の表面における棒状液晶化合物の傾斜角とは、棒状液晶化合物の光学軸(長軸)と、傾斜位相差層の表面(隣接する層との界面)とがなす角度である。
そこで本明細書においては、θ1およびθ2は、以下の手法で算出する。本手法は本発明の実際の状態を正確に表現していないが、光学フィルムのもつ一部の光学特性の相対関係を表す手段として有効である。
本手法では算出を容易にすべく、下記の2点を仮定し、位相差層(光学異方性層ともいう)の2つの界面における傾斜角とする。
1.位相差層は多層体と仮定する。
2.各層のチルト角は位相差層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化すると仮定する。
具体的な算出法は下記のとおりである。
(1)各層のチルト角が位相差層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化する面内で、位相差層への測定光の入射角を変化させ、3つ以上の測定角でリタデーション値を測定する。測定および計算を簡便にするためには、位相差層に対する法線方向を0度とし、-40度、0度、+40度の3つの測定角でリタデーション値を測定することが好ましい。このような測定は、KOBRA-21ADHおよびKOBRA-WR(王子計測器社製)、透過型のエリプソメーターAEP-100(島津製作所社製)、M150およびM520(日本分光社製)、ABR10A(ユニオプト社製)で行うことができる。
(2)上記のモデルにおいて、各層の常光の屈折率をno、異常光の屈折率をne(neは各々すべての層において同じ値、noも同様とする)、および多層体全体の厚みをdとする。さらに各層における傾斜方向とその層の一軸の光軸方向とは一致するとの仮定の元に、位相差層のリタデーション値の角度依存性の計算が測定値に一致するように、位相差層の一方の面における傾斜角θ1および他方の面の傾斜角θ2を変数としてフィッティングを行い、θ1およびθ2を算出する。
本明細書において、傾斜位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角は、θ1とθ2の平均値として求める。
ここで、noおよびneは文献値、カタログ値等の既知の値を用いることができる。値が未知の場合はアッベ屈折計を用いて測定することもできる。位相差層の厚みは、光学干渉膜厚計、走査型電子顕微鏡の断面写真等により測定数することができる。
【0030】
本発明の投映像表示用部材において、傾斜位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角には、制限はないが、10~80度(10~80°)が好ましい。
傾斜位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角を10~80度とすることにより、車内側から傾斜位相差層に入射するS偏光を保持しやすく、車外側から傾斜位相差層に入射するS偏光をP偏光に変換しやすい点で望ましい。
傾斜位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角は、20~70度がより好ましい。
【0031】
なお、本発明の投映像表示用部材は、傾斜位相差層における棒状液晶化合物の傾斜方向は、図3に概念的に示すように、プロジェクター22からの投映光の入射方向と同方向とするのが好ましい。
これにより、傾斜位相差層は、上述したように、支持体側から入射する投映光には位相差層として作用せず、選択反射層側(ウインドシールドガラス側)から入射する投映光、すなわち、選択反射層(またはウインドシールドガラス)で反射された投映光には、位相差層として作用する。
【0032】
本発明の投映像表示用部材において、傾斜位相差層の位相差にも、制限はない。従って、傾斜位相差層は、選択反射層(ウインドシールドガラス)側から入射する光に対して、例えば、λ/2板として作用しても、λ/4板として作用してもよい。すなわち、傾斜位相差層の位相差は、棒状液晶化合物の平均傾斜角、投映光の入射方向、および、選択反射層等に応じて、選択反射層側から入射して傾斜位相差層を通過する光を、適正にP偏光にできる位相差を、適宜、設定すればよい。
ここで、傾斜位相差層は、表面に対して棒状液晶化合物の平均傾斜角となる方向と直交する方向から光を入射して測定したリタデーションである、傾斜角0度における正面リタデーションが100~500nmであるのが好ましい。
本発明において、傾斜位相差層は、特に、傾斜角0度における正面リタデーションが100~500nmと、上述した、傾斜位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角が10~80度との、両方を満たすのが好ましい。
【0033】
傾斜角0度における正面リタデーションとは、具体的には、以下のようにして測定した傾斜位相差層のリタデーションである。
まず、傾斜位相差層の遅相軸の方向と直交する方向を回転軸とする平面を想定する。傾斜位相差層における遅相軸の方向は、通常、傾斜配向された棒状液晶化合物の光学軸(長軸)の方向と一致する。
次いで、この回転軸によって、想定した平面を、棒状液晶化合物の傾斜方向と同方向に、棒状液晶化合物の平均傾斜角だけ傾ける。さらに、この傾けた平面と直交する方向(法線方向)から光を入射して、リタデーションを測定することにより、傾斜角0度における正面リタデーションを測定する。
【0034】
傾斜角0度における正面リタデーションを100nm以上とすることにより、傾斜位相差層を通過する偏光の変換量が多くなる等の点で好ましい。傾斜角0度における正面リタデーションを500nm以下とすることにより、傾斜位相差層の膜厚が過剰に厚くなることに起因する配向不良を防ぐことができる等の点で好ましい。
傾斜角0度における正面リタデーションは、150~400nmがより好ましく、180~350nmがさらに好ましい。
【0035】
<選択反射層>
選択反射層は、波長選択的に光を反射する層である、選択反射層は可視光波長域の一部において選択反射性を示すことが好ましい。選択反射層は投映像を表示するための光を反射すればよい。
選択反射層は、各波長域に応じた複数の選択反射層を有する構成でもよい。例えば、図1に示す選択反射層12は、波長500~650nmの光を波長選択的に反射する第1の選択反射層12Gと、波長650~900nmの光を波長選択的に反射する第2の選択反射層12Rとを有し、第1の選択反射層12Gおよび第2の選択反射層12Rの順で、支持体15上に積層されている。
なお、本発明の投映像表示用部材において、選択反射層12は、2層の選択反射層を有する構成に制限はされず、例えば、青色光を波長選択的に反射する第3の選択反射層を有する3層の選択反射層を有してもよく、4層以上の選択反射層を有してもよい。あるいは、選択反射層は、第1の選択反射層12Gのみ、または、第2の選択反射層12Rのみなどの、1層のみを有するものでもよい。
【0036】
選択反射層は、無偏光反射層(無偏光反射性の反射層)でも、偏光反射層(偏光反射性の反射層)でもよい。
選択反射層は偏光反射層であることが好ましい。偏光反射層は、直線偏光、円偏光、および、楕円偏光のいずれかの偏光を選択的に反射する層である。偏光反射層は、円偏光反射層(円偏光反射性の反射層)または直線偏光反射(直線偏光反射性の反射層)であることが好ましい。
円偏光反射層は、選択反射の中心波長において、いずれか一方のセンスの円偏光を反射し、かつ他方を透過する層である。また、直線偏光反射層は、選択反射の中心波長において、1つの偏光方向の直線偏光を反射し、かつ上述の偏光方向に直交する偏光方向の直線偏光を透過する層である。
偏光反射層は反射しない偏光を透過させることができ、選択反射層が反射を示す波長域においても一部の光を透過させることができる。そのため、投映像表示用部材を透過した光の色味を悪化させにくく、可視光線透過率も低下させにくくなるため、好ましい。
選択反射層は、円偏光反射層としてのコレステリック液晶層を備えることが好ましく、2層以上のコレステリック液晶層を備える構成でもよい。
選択反射層が反射する光の中心波長(選択反射中心波長)は、色味と可視光線透過率の観点から、波長500~650nmおよび/または650~900nmが好ましく、波長530~630nmおよび/または670~850nmがさらに好ましく、波長550~610nmおよび/または680~800nmがさらに好ましい。
【0037】
選択反射層がコレステリック液晶層を備える場合、投映像表示用部材は位相差層を含むことが好ましい。位相差層をコレステリック液晶層と組み合わせて用いることにより、鮮明な投映光を表示することができる。正面位相差および遅相軸の方向の調整により、ヘッドアップディスプレイシステムにおいて高い輝度を得ることができ、また、二重像も抑制することができる投映像表示用部材を提供することができる。
ここで、コレステリック液晶層は斜め光に対して、反射の中心波長が短波長側にシフトすることが知られている。上述の反射の中心波長が短波長側にシフトすることは、ブルーシフトと呼ばれている。斜め光では光干渉において各層間の光路長差が小さくなることが原因で、コレステリック液晶層でブルーシフトがおこる。従って、斜め方向から観察した場合、ブルーシフトが生じる。このため、選択反射層をコレステリック液晶層で構成した場合、反射の中心波長が短波長側にシフトする分を予め補正して、選択反射層の正面における反射中心波長を長波長側にずらすことが望ましい。斜め光の中心波長は、斜め光が選択反射層を伝播するときの正面からの角度をθとしたとき、斜め光の中心波長=正面での中心波長×cosθであり、これを考慮して反射中心波長をずらす構成とすることができる。上述の選択反射層12は、ブルーシフトを考慮して波長範囲が設定されている。
【0038】
[コレステリック液晶層]
コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相を固定した層を意味する。
コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている層であればよく、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、また外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることがない状態に変化した層であればよい。なお、コレステリック液晶層においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、層中の液晶化合物はもはや液晶性を示していなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0039】
コレステリック液晶相は、右円偏光または左円偏光のいずれか一方のセンスの円偏光を選択的に反射させると共に他方のセンスの円偏光を透過する円偏光選択反射性を示すことが知られている。
円偏光選択反射性を示すコレステリック液晶相を固定した層を含むフィルムとして、重合性液晶化合物を含む組成物から形成されたフィルムは従来から数多く知られており、コレステリック液晶層については、それらの従来技術を参照することができる。
【0040】
コレステリック液晶層の選択反射の中心波長λ(選択反射中心波長λ)は、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶層の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。この式からわかるように、n値とP値を調整することにより、選択反射の中心波長を調整することができる。
螺旋構造のピッチP(螺旋1ピッチ)とは、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分の螺旋軸方向の長さであり、すなわち、コレステリック液晶相を構成する液晶化合物のダイレクター(棒状液晶であれば長軸方向)が360度回転する螺旋軸方向の長さである。通常のコレステリック液晶層の螺旋軸方向は、コレステリック液晶層の厚さ方向と一致する。
【0041】
コレステリック液晶層の選択反射中心波長および半値幅は下記のように求めることができる。
分光光度計(日本分光社製、V-670)を用いてコレステリック液晶層の反射スペクトル(コレステリック液晶層の法線方向から測定したもの)を測定すると、選択反射帯域に透過率の低下ピークがみられる。このピークの極小透過率と低下前の透過率との中間(平均)の透過率となる2つの波長のうち、短波長側の波長の値をλl(nm)、長波長側の波長の値をλh(nm)とすると、選択反射の中心波長λと半値幅Δλは下記式で表すことができる。
λ=(λl+λh)/2Δλ=(λh-λl
上述のように求められる選択反射の中心波長はコレステリック液晶層の法線方向から測定した円偏光反射スペクトルの反射ピークの重心位置にある波長と略一致する。
【0042】
後述するヘッドアップディスプレイシステムにおいては、ウインドシールドガラスに対して斜めに光が入射するように用いることにより、投映光入射側のガラス板表面での反射率を低くすることができる。このとき、コレステリック液晶層に対しても斜めに光が入射する。例えば、屈折率1の空気中で投映像表示部の法線に対し45~70度の角度で入射した光は、屈折率1.61程度のコレステリック液晶層は26~36度程度の角度で透過する。この場合、反射波長は短波長側にシフトする。選択反射の中心波長がλであるコレステリック液晶層中でコレステリック液晶層の法線方向(コレステリック液晶層の螺旋軸方向)に対して光線がθ2の角度で通過するときの選択反射の中心波長をλdとするとき、λdは以下の式で表される。
λd=λ×cosθ2
【0043】
そのため、θ2が2~36度のとき650~780nmの範囲に選択反射の中心波長を有するコレステリック液晶層は、520~695nmの範囲で投映光を反射することができる。
このような波長範囲は視感度の高い波長域であるため投映光の輝度への寄与度が高く、結果として高い輝度の投映光を実現することができる。
【0044】
コレステリック液晶相のピッチは重合性液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調整することによって所望のピッチを得ることができる。なお、螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法を用いることができる。
【0045】
また、投映像表示用部材において、コレステリック液晶層は、視認側(車内側)から見て、選択反射の中心波長が短いものから順に配置されていることが好ましい。
【0046】
各コレステリック液晶層としては、螺旋のセンスが右または左のいずれかであるコレステリック液晶層が用いられる。コレステリック液晶層の反射円偏光のセンスは螺旋のセンスに一致する。選択反射の中心波長が異なるコレステリック液晶層の螺旋のセンスは全て同じであっても、異なるものが含まれていてもよい。しかしながら、複数のコレステリック液晶層は、螺旋のセンスが全て同じであることが好ましい。
【0047】
また、投映像表示用部材は、同一または重複する波長域で選択反射を示すコレステリック液晶層を有する場合には、異なる螺旋のセンスのコレステリック液晶層を含まないことが好ましい。特定の波長域での投映像表示用部材の透過率が、例えば、50%未満に低下することを避けるためである。
【0048】
選択反射を示す選択反射帯の半値幅Δλ(nm)は、Δλが液晶化合物の複屈折Δnと上述のピッチPに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯の幅の制御は、Δnを調整して行うことができる。Δnの調整は重合性液晶化合物の種類または混合比率を調整したり、配向固定時の温度を制御したりすることで行うことができる。
選択反射の中心波長が同一の1種のコレステリック液晶層の形成のために、ピッチPが同じで、同じ螺旋のセンスのコレステリック液晶層を複数積層してもよい。ピッチPが同じで、同じ螺旋のセンスのコレステリック液晶層を積層することによって、特定の波長で円偏光選択性を高くすることができる。
【0049】
選択反射層12は、反射波長帯域が波長540~850nmの範囲内で半値幅が150nm以上のコレステリック液晶層を有することが好ましい。選択反射層12の半値幅が150nm以上では、選択反射の中心波長を有するコレステリック液晶層が広帯域選択反射層となり、画像の輝度を高くできる。
【0050】
複数のコレステリック液晶層の積層の際は、別に作製したコレステリック液晶層を接着剤等を用いて積層してもよく、後述の方法で形成された先のコレステリック液晶層の表面に直接、重合性液晶化合物等を含む液晶組成物を塗布し、配向および固定の工程を繰り返してもよいが、後者が好ましい。
先に形成されたコレステリック液晶層の表面に直接次のコレステリック液晶層を形成することにより、先に形成したコレステリック液晶層の空気界面側の液晶分子の配向方位と、その上に形成するコレステリック液晶層の下側の液晶分子の配向方位が一致し、コレステリック液晶層の積層体の偏光特性が良好となるからである。また、接着層の厚みムラに由来して生じ得る干渉ムラが観測されないからである。
【0051】
コレステリック液晶層の厚みは、0.2~10μmが好ましく、0.3~8.0μmがより好ましく、0.4~6.0μmがさらに好ましい。また、複数のコレステリック液晶層を有する場合に、投映像表示用部材におけるコレステリック液晶層の厚みの総計は、1.0~30μmが好ましく、1.5~25μmがより好ましく、2.0~20μmがさらに好ましい。
投映像表示用部材においては、コレステリック液晶層の厚みを低減することなく、可視光線透過率を高く維持することができる。
【0052】
(コレステリック液晶層の作製方法)
以下、コレステリック液晶層の作製材料および作製方法について説明する。
上述のコレステリック液晶層の形成に用いる材料としては、重合性液晶化合物とキラル剤(光学活性化合物)とを含む液晶組成物等が挙げられる。必要に応じてさらに界面活性剤または重合開始剤等と混合して溶剤等に溶解した上述の液晶組成物を、支持体、配向層、下層となるコレステリック液晶層等に塗布し、コレステリック配向熟成後、液晶組成物の硬化により固定化してコレステリック液晶層を形成することができる。
【0053】
(重合性液晶化合物)
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、棒状液晶化合物であることが好ましい。
コレステリック液晶層を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0054】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは一分子中に1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第5622648号明細書、米国特許第5770107号明細書、国際公開第1995/22586号、国際公開第1995/24455号、国際公開第1997/00600号、国際公開第1998/23580号、国際公開第1998/52905号、特開平1-272551号公報、特開平6-16616号公報、特開平7-110469号公報、特開平11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報等に記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0055】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、80~99.9質量%が好ましく、85~99.5質量%がより好ましく、90~99質量%がさらに好ましい。
【0056】
可視光透過率を向上させるためには、第1の選択反射層12Gは低Δnであってもよい。低Δnの第1の選択反射層12Gは、低Δn重合性液晶化合物を用いて形成することができる。以下、低Δn重合性液晶化合物について具体的に説明する。
【0057】
(低Δn重合性液晶化合物)
低Δn重合性液晶化合物を利用してコレステリック液晶相を形成し、これを固定したフィルムとすることにより、狭帯域選択反射層を得ることができる。低Δn重合性液晶化合物の例としては、国際公開第2015/115390号、国際公開第2015/147243号、国際公開第2016/035873号、特開2015-163596号公報、および、特開2016-53149号公報に記載の化合物が挙げられる。半値幅の小さい選択反射層を与える液晶組成物については、国際公開第2016/047648号の記載も参照できる。
【0058】
液晶化合物は、国際公開第2016/047648号に記載の以下の式(I)で表される重合性化合物であることも好ましい。
【0059】
【化1】
【0060】
式(I)中、Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基または置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を示し、Lは単結合、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、および-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、mは3~12の整数を示し、Sp1およびSp2はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、Q1およびQ2はそれぞれ独立に、水素原子または以下の式Q-1~式Q-5で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、ただしQ1およびQ2のいずれか一方は重合性基を示す。
【0061】
【化2】
【0062】
式(I)中の、フェニレン基は1,4-フェニレン基であることが好ましい。
フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基について「置換基を有していてもよい」というときの置換基は、特に限定されず、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルエーテル基、アミド基、アミノ基、およびハロゲン原子ならびに、上述の置換基を2つ以上組み合わせて構成される基からなる群から選択される置換基が挙げられる。また、置換基の例としては、後述の-C(=O)-X3-Sp3-Q3で表される置換基が挙げられる。フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基は、置換基を1~4個有していてもよい。2個以上の置換基を有するとき、2個以上の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
アルキル基は直鎖状および分岐鎖状のいずれでもよい。アルキル基の炭素数は1~30が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましい。アルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、直鎖状または分岐鎖状のヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、またはドデシル基を挙げることができる。アルキル基に関する上述の説明はアルキル基を含むアルコキシ基においても同様である。また、アルキレン基というときのアルキレン基の具体例としては、上述のアルキル基の例それぞれにおいて、任意の水素原子を1つ除いて得られる2価の基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0064】
シクロアルキル基の炭素数は、3~20が好ましく、5以上がより好ましく、また、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基を挙げることができる。
【0065】
フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基が有していてもよい置換基としては特に、アルキル基、およびアルコキシ基、-C(=O)-X3-Sp3-Q3からなる群から選択される置換基が好ましい。ここで、X3は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp4-Q4)-を示すか、または、Q3およびSp3と共に環構造を形成している窒素原子を示す。Sp3、Sp4はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。
【0066】
3およびQ4はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、または式Q-1~式Q-5で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示す。
【0067】
シクロアルキル基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基として、具体的には、テトラヒドロフラニル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、および、モルホルニル基等が挙げられる。置換位置は特に限定されない。これらのうち、テトラヒドロフラニル基が好ましく、特に2-テトラヒドロフラニル基が好ましい。
【0068】
式(I)において、Lは単結合、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、および、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示す。Lは-C(=O)O-または-OC(=O)-であることが好ましい。m-1個のLは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0069】
Sp1、Sp2はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。Sp1およびSp2はそれぞれ独立に、両末端にそれぞれ-O-、-OC(=O)-、および-C(=O)O-からなる群から選択される連結基が結合した炭素数1から10の直鎖のアルキレン基、-OC(=O)-、-C(=O)O-、-O-、および炭素数1から10の直鎖のアルキレン基からなる群から選択される基を1または2以上組み合わせて構成される連結基であることが好ましく、両方の末端に-O-がそれぞれ結合した炭素数1から10の直鎖のアルキレン基であることが好ましい。
【0070】
1およびQ2はそれぞれ独立に、水素原子、もしくは上述の式Q-1~式Q-5で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、ただしQ1およびQ2のいずれか一方は重合性基を示す。
重合性基としては、アクリロイル基(式Q-1)またはメタクリロイル基(式Q-2)が好ましい。
【0071】
式(I)中、mは3~12の整数を示し、3~9の整数であることが好ましく、3~7の整数であることがより好ましく、3~5の整数であることがさらに好ましい。
【0072】
式(I)で表される重合性化合物は、Aとして置換基を有していてもよいフェニレン基を少なくとも1つおよび置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を少なくとも1つ含むことが好ましい。式(I)で表される重合性化合物は、Aとして、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を1~4個含むことが好ましく、1~3個含むことがより好ましく、2または3個含むことがさらに好ましい。また、式(I)で表される重合性化合物は、Aとして、置換基を有していてもよいフェニレン基を1個以上含むことが好ましく、1~4個含むことがより好ましく、1~3個含むことがさらに好ましく、2個または3個含むことが特に好ましい。
【0073】
式(I)において、Aで表されるトランス-1,4-シクロヘキシレン基の数をmで割った数をmcとしたとき、0.1<mc<0.9であることが好ましく、0.3<mc<0.8であることがより好ましく、0.5<mc<0.7であることがさらに好ましい。液晶組成物が0.5<mc<0.7である式(I)で表される重合性化合物と共に、0.1<mc<0.3である式(I)で表される重合性化合物を含むことも好ましい。
【0074】
式(I)で表される重合性化合物の例として具体的には、国際公開第2016/047648号の段落0051~0058に記載の化合物のほか、特開2013-112631号公報、特開2010-70543号公報、特許4725516号公報、国際公開第2015/115390号、国際公開第2015/147243号、国際公開第2016/035873号、特開2015-163596号公報、および、特開2016-53149号公報に記載の化合物等を挙げることができる。
【0075】
(キラル剤:光学活性化合物)
キラル剤(カイラル剤)はコレステリック液晶相における液晶化合物の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル化合物は、化合物によって誘起する螺旋のセンスまたは螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物を用いることができる。キラル剤の例としては、液晶デバイスハンドブック(第3章4-3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989)、ならびに、特開2003-287623号、特開2002-302487号、特開2002-80478号、特開2002-80851号、特開2010-181852号および特開2014-034581号などの各公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0076】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。
キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0077】
キラル剤としては、イソソルビド誘導体、イソマンニド誘導体、またはビナフチル誘導体を好ましく用いることができる。イソソルビド誘導体としては、BASF社製のLC756等の市販品を用いてもよい。
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、重合性液晶化合物量の0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0078】
(重合開始剤)
液晶組成物は、重合開始剤を含有していることが好ましい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、米国特許第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、米国特許第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、アシルフォスフィンオキシド化合物(特公昭63-40799号公報、特公平5-29234号公報、特開平10-95788号公報、特開平10-29997号公報、特開2001-233842号公報、特開2000-80068号公報、特開2006-342166号公報、特開2013-114249号公報、特開2014-137466号公報、特許4223071号公報、特開2010-262028号公報、特表2014-500852号公報記載)、オキシム化合物(特開2000-66385号公報、特許第4454067号公報記載)、および、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。例えば、特開2012-208494号公報の段落0500~0547の記載も参酌できる。
【0079】
重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキシド化合物またはオキシム化合物を用いることも好ましい。
アシルフォスフィンオキシド化合物としては、例えば、市販品のBASFジャパン社製のIRGACURE810(化合物名:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)を用いることができる。オキシム化合物としては、IRGACURE OXE01(BASF社製)、IRGACURE OXE02(BASF社製)、TR-PBG-304(常州強力電子新材料有限公司製)、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(ADEKA社製)、および、アデカアークルズNCI-831(ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
重合開始剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物の含有量に対して0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
(架橋剤)
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、ビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。架橋剤の含有量を3質量%以上とすることにより、架橋密度向上の効果を得ることができ、架橋剤の含有量を20質量%以下とすることにより、コレステリック液晶層の安定性の低下を防止できる。
なお、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
【0081】
(配向制御剤)
液晶組成物中には、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック液晶層とするために寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例としては特開2007-272185号公報の段落〔0018〕~〔0043〕等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、特開2012-203237号公報の段落〔0031〕~〔0034〕等に記載の式(I)~(IV)で表される化合物、特開2013-113913号公報に記載の化合物等が挙げられる。
なお、配向制御剤としては1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
配向制御剤として用いられているフッ素化合物としては、例えば、特許文献1(国際公開第2014/073616号)の[0086]~[0101]段落に記載の化合物(配向膜界面側垂直配向剤)や、同文献の[0102]~[0113]段落に記載の化合物に記載の化合物(空気界面側垂直配向剤)などが挙げられ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
また、界面活性剤として用いられているフッ素化合物としては、例えば、特開2001-330725号公報の[0028]~[0056]段落に記載の化合物や、特開2005-062673号公報の[0069]~[0126]段落に記載の化合物などが挙げられ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0082】
また、本発明においては、フッ素化合物の他の例として、特開2008-257205号公報の請求項14で規定されているポリマー(すなわち、下記一般式(A)で表される構成単位と下記一般式(B)で表される構成単位とを含むポリマー)や、同公報の請求項15で規定されているチルト角制御剤(すなわち、下記一般式(A)で表される構成単位およびフルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位を含むポリマー)を用いることができ、その具体例としては、同公報の[0023]~[0063]段落に記載のポリマーが挙げられ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0083】
【化3】
【0084】
【化4】

ここで、一般式(A)中、Mpはポリマーの主鎖の一部を構成する3価の基を表し、Lは単結合または2価の連結基を表し、Xは置換もしくは無置換の芳香族縮合環官能基を表し;一般式(B)中、Mp’はポリマーの主鎖の一部を構成する3価の基を表し、L’は単結合または2価の連結基を表し、Rfは少なくとも一つのフッ素原子を含有する置換基を表す。
【0085】
本発明においては、フッ素化合物が、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位を少なくとも含むポリマーであるのが好ましい。
このようなポリマーの重量平均分子量は、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、10,000~100,000がさらに好ましい。
ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定したポリスチレン(PS)換算値をいう。
【0086】
液晶組成物中における、配向制御剤の添加量は、重合性液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%が特に好ましい。
【0087】
(その他の添加剤)
その他、液晶組成物は、塗膜の表面張力を調整し厚みを均一にするための界面活性剤、および重合性モノマー等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0088】
コレステリック液晶層は、重合性液晶化合物および重合開始剤、さらに必要に応じて添加されるキラル剤、界面活性剤等を溶媒に溶解させた液晶組成物を、支持体、配向層、または先に作製されたコレステリック液晶層等の上に塗布し、乾燥させて塗膜を得、この塗膜に活性光線を照射してコレステリック液晶性組成物を重合し、コレステリック規則性が固定化されたコレステリック液晶層を形成することができる。なお、複数のコレステリック液晶層からなる積層膜は、コレステリック液晶層の上述の製造工程を繰り返し行うことにより形成することができる。
【0089】
(溶媒)
液晶組成物の調製に使用する溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましく用いられる。
有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が特に好ましい。
【0090】
(塗布、配向、重合)
支持体、配向層、下層となるコレステリック液晶層等への液晶組成物の塗布方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング法、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、および、スライドコーティング法等が挙げられる。また、別途支持体上に塗設した液晶組成物を転写することによっても実施できる。塗布した液晶組成物を加熱することにより、液晶分子を配向させる。加熱温度は、200℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。この配向処理により、重合性液晶化合物が、フィルム面に対して実質的に垂直な方向に螺旋軸を有するようにねじれ配向している光学薄膜が得られる。
【0091】
配向させた液晶化合物をさらに重合させることにより、液晶組成物を硬化することができる。重合は、熱重合、光照射を利用する光重合のいずれでもよいが、光重合が好ましい。光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2~50J/cm2が好ましく、100mJ/cm2~1,500mJ/cm2がより好ましい。
光重合反応を促進するため、加熱条件下または窒素雰囲気下で光照射を実施してもよい。照射紫外線波長は350~430nmが好ましい。重合反応率は安定性の観点から、高いほうが好ましく70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。重合反応率は、重合性の官能基の消費割合を赤外線吸収スペクトルの測定により、決定することができる。
【0092】
[直線偏光反射層]
選択反射層としては、上述の円偏光反射層と同じ波長選択的な反射特性を有する構成であれば、直線偏光反射層を用いてもよい。
直線偏光反射層としては、例えば、屈折率異方性の異なる薄膜を積層した偏光子が挙げられる。このような偏光子は、コレステリック液晶層と同様に高い可視光線透過率であり、ヘッドアップディスプレイシステムにおける使用時に斜めから入射する投映光を視感度の高い波長において反射することができる。
【0093】
屈折率異方性の異なる薄膜を積層した偏光子としては、例えば、特表平9-506837号公報等に記載されたものを用いることができる。具体的には、屈折率関係を得るために選ばれた条件下で加工すると、広く様々な材料を用いて、偏光子を形成できる。一般に、第一の材料の一つが、選ばれた方向において、第二の材料とは異なる屈折率を有することが必要である。この屈折率の違いは、フィルムの形成中、またはフィルムの形成後の延伸、押出成形、或いはコーティングを含む様々な方法で達成できる。さらに、2つの材料が同時押出することができるように、類似のレオロジー特性(例えば、溶融粘度)を有することが好ましい。
屈折率異方性の異なる薄膜を積層した偏光子としては、市販品を用いることができる。市販品としては、反射型偏光板と仮支持体との積層体となっているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、DBEF(登録商標)(3M社製)、および、APF(高度偏光フィルム(Advanced Polarizing Film(3M社製))として販売されている市販の光学フィルム等が挙げられる。
反射型偏光板の厚みは、2~50μmが好ましく、8~30μmがより好ましい。
正面透過率を70%以上にするためには、第一の最大屈折率と第二の屈折率の差は0.1以上がよく、層数は4~20層がよい。
【0094】
[無偏光反射層]
選択反射層としては、上述の円偏光反射層と同じ波長選択的な反射特性を有する構成であれば、無偏光反射層を用いてもよい。
無偏光反射層としては、等方的な誘電体多層膜が例示される。等方的な誘電体多層膜は、上述の直線偏光反射層における高屈折率膜と低屈折率膜の屈折率が等方的な材料で形成される。直線偏光反射層は、特定の直線偏光に対して強く反射するのに対し、等方的な誘電体多層膜はいずれの偏光に対しても同様の反射を示す。
【0095】
<偏光変換層>
図1に示す投映像表示用部材は、好ましい態様として、偏光変換層を有する。
投映像表示用部材が偏光変換層を有する場合には、少なくとも1層の位相差層、少なくとも1層の選択反射層、少なくとも1層の偏光変換層をこの順になるよう設ける。特に、投映像表示用部材としては、図1に示すように、視認側すなわち投映光の入射側から、傾斜位相差層14、選択反射層12、および、偏光変換層11がこの順になるように設ければよい。
投映像表示用部材が偏光変換層を含むことによって、対向車のボンネットや水たまりの反射光のギラツキの主成分であるS偏光をカットする偏光サングラスの、外光に対する適性を改善することができる。すなわち、投映像表示用部材が偏光変換層を含むことによって、偏光サングラスの外光適性を良好にして、偏光サングラスが、ギラツキとなる外部から入射するS偏光を好適に遮光するようにできる。
【0096】
偏光変換層としては、液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した層が例示される。
液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した層としては、偏光変換層の螺旋構造のピッチ数をx、偏光変換層の膜厚をy(単位μm)とした場合、下記関係式(i)および(ii)を満足する偏光変換層が好ましい。
(i) 0.3≦x≦2.0
(ii) 0.5≦y≦7.0
螺旋構造のピッチ(螺旋1ピッチ)とは、コレステリック液晶層と同様、螺旋配向構造を構成する液晶化合物のダイレクターが360度回転する螺旋軸方向の長さである。液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した偏光変換層は、液晶化合物のダイレクターが360度回転する1ピッチをピッチ数1とする。
すなわち、液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した偏光変換層は、ピッチ数が0.3~2.0で、膜厚が0.5~7.0μmであるのが好ましい。偏光変換層は、ピッチ数が0.4~1.5で、膜厚が0.8~6.0μmであるのがより好ましく、ピッチ数0.5~1.0で、膜厚が1.0~5.0μmがさらに好ましい。
【0097】
液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した偏光変換層を設けることにより、外光に対する偏光サングラス適性が改善することができる理由は、偏光変換層がコレステリック液晶相のような螺旋構造を有しており、赤外域の反射ピーク波長よりも短波長である可視光に対して旋光性と複屈折性を示すため、可視域の偏光を制御できるためである。
上述のように、偏光サングラスは、対向車のボンネットや水たまりの反射光のギラツキの主成分であるS偏光をカットする。ここで、ウインドシールドガラスの外側から入射したS偏光は、位相差層あるいはさらに選択反射層を含む投映像表示用部材を透過することで、偏光が大きく変わり、透過光が偏光サングラスでカットできないP偏光の成分を含んでしまう。これに対して、投映像表示用部材に、液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した偏光変換層を設け、外部から入射したS偏光の変化を光学補償できるように、偏光変換層のピッチ数と膜厚を制御すれば、外部から入射したS偏光を、S偏光のまま、投映像表示用部材を透過するようにできる。その結果、外部から入射したS偏光を偏光サングラスでカットでき、外光に対する偏光サングラス適性を向上できる。
【0098】
本発明の投映光お表示用部材において、偏光変換層は、液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した偏光変換層に制限はされず、正面リタデーションが100~500nmである位相差層も、偏光変換層として利用可能である。
偏光変換層として、正面リタデーションが100~500nmである位相差層を設けることにより、上述の液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した偏光変換層と同様、外部から入射したS偏光の変化を補償して、S偏光のまま投映像表示用部材を透過するようにして、偏光サングラスの外光適性を向上できる。
偏光変換層としての位相差層の正面リタデーションは、105~400nmが好ましく、110~300nmがより好ましい。
【0099】
<他の層>
投映像表示用部材は、選択反射層、偏光変換層および傾斜位相差層以外の層である、他の層を含んでいてもよい。
他の層は、いずれも可視光領域で透明であることが好ましい。
また、他の層はいずれも低複屈折性であることが好ましい。低複屈折性とは、本発明のウインドシールドガラスまたは投映像表示用部材が反射を示す波長域において、正面位相差が10nm以下であることを意味し、好ましくは5nm以下であることを意味する。
さらに、投映像表示用部材が選択反射層としてコレステリック液晶層を有する場合には、他の層は、いずれもコレステリック液晶層の平均屈折率(面内平均屈折率)との屈折率の差が小さいことが好ましい。
他の層としては支持体、配向層、接着層、および、ハードコート層等が挙げられる。
【0100】
(支持体)
支持体は、位相差層を形成する際の基板として使用することができ、あるいは位相差層を兼用してコレステリック液晶層等の選択反射層を形成する際の基板として使用することもできる。
支持体の材料には制限はない。コレステリック液晶層または位相差層の形成のために用いられる支持体は、コレステリック液晶層あるいはさらに偏光変換層を形成した後に剥離される仮支持体であってもよく、従って、完成した投映像表示用部材またはウインドシールドガラスにおいては含まれていなくてもよい。
支持体としてはポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース誘導体、および、シリコーン等のプラスチックフィルムが挙げられる。仮支持体としては、上述のプラスチックフィルムのほか、ガラスを用いてもよい。
支持体の厚みには制限はないが、5~1000μm程度であればよく、10~250μmが好ましく、15~90μmがより好ましい。
また、仮支持体として剥離するのではなく、完成した投映像表示用部材またはウインドシールドガラスにおいて支持体を含む場合、支持体は可視光領域で透明であることが好ましい。また、位相差層を形成する際の基板として使用する場合は、低複屈折性であることが好ましい。
【0101】
(配向層)
投映像表示用部材は、コレステリック液晶層または位相差層の形成の際に液晶組成物が塗布される下層として、配向層を含んでいてもよい。
配向層は、ポリマー等の有機化合物(ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドおよび変性ポリアミド等の樹脂)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、ならびに、ラングミュア・ブロジェット法(LB膜)を用いた有機化合物(例えば、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与または光照射により、配向機能が生じる配向層を用いてもよい。
特に、ポリマー等の有機化合物からなる配向層は、ラビング処理を行った上で、ラビング処理面に液晶組成物を塗布することが好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を、紙および布等で一定方向に、擦ることにより実施することができる。
配向層を設けずに支持体表面、または支持体をラビング処理した表面に、液晶組成物を塗布してもよい。
仮支持体を用いて液晶層を形成する場合は、配向層は仮支持体と共に剥離されて投映像表示用部材を構成する層とはならなくてもよい。
配向層の厚みは、0.01~5.0μmが好ましく、0.05~2.0μmがより好ましい。
【0102】
(ハードコート層)
本発明の投映像表示用部材は、耐擦傷性を向上するために、表面にハードコート層を含んでいてもよい。
【0103】
[ハードコート形成用組成物]
ハードコート層は、一例として、ハードコート層形成用組成物を用いて形成する。
ハードコート層形成用組成物は、分子内に3個以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物を含むことが好ましい。
エチレン性不飽和二重結合基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、および、スチリル基、アリル基等の重合性官能基が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基およびC(O)OCH=CH2が好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリロイル基である。エチレン性不飽和二重結合基を有する事によって、高い硬度を維持する事ができ、耐湿熱性も付与する事ができる。さらに、分子内に3個以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する事によって、より高い硬度を発現できる。
【0104】
分子内に3個以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ビニルベンゼンおよびその誘導体、ビニルスルホン、および、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。中でも硬度の観点から、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、本業界で広範に用いられる高硬度の硬化物を形成するアクリレート系化合物が挙げられる。このような化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル{例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3-クロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、および、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレート系化合物類の具体化合物としては、日本化薬社製KAYARAD DPHA、同DPHA-2C、同PET-30、同TMPTA、同TPA-320、同TPA-330、同RP-1040、同T-1420、同D-310、同DPCA-20、同DPCA-30、同DPCA-60、同GPO-303、大阪有機化学工業社製V#400、および、V#36095D等のポリオールと(メタ)アクリル酸のエステル化物を挙げることができる。また、紫光UV-1400B、同UV-1700B、同UV-6300B、同UV-7550B、同UV-7600B、同UV-7605B、同UV-7610B、同UV-7620EA、同UV-7630B、同UV-7640B、同UV-6630B、同UV-7000B、同UV-7510B、同UV-7461TE、同UV-3000B、同UV-3200B、同UV-3210EA、同UV-3310EA、同UV-3310B、同UV-3500BA、同UV-3520TL、同UV-3700B、同UV-6100B、同UV-6640B、同UV-2000B、同UV-2010B、同UV-2250EAおよび同UV-2750B(以上、日本合成化学社製)、UL-503LN(共栄社化学社製)、ユニディック17-806、同17-813、同V-4030および同V-4000BA(以上、大日本インキ化学工業社製)、EB-1290K、EB-220、EB-5129、EB-1830およびEB-4358(以上、ダイセルUCB社製)、ハイコープAU-2010および同AU-2020(以上、トクシキ社製)、アロニックスM-1960(東亞合成社製)、アートレジンUN-3320HA,UN-3320HC,UN-3320HS、UN-904,HDP-4Tなどの3官能以上のウレタンアクリレート化合物、アロニックスM-8100およびM-8030,M-9050(以上、東亞合成社製)、ならびに、KBM-8307(ダイセルサイテック社製)などの3官能以上のポリエステル化合物なども好適に使用することができる。
また、分子内に3個以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物は単一の化合物から構成しても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いる事もできる。
【0105】
[ハードコート層の製造方法]
ハードコート層は、透明支持体上に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布して、乾燥、硬化させることでハードコート層を形成することにより、製造することができる。
【0106】
<ハードコート層の塗布方式>
ハードコート層は以下の塗布方法により形成することができるが、この方法に制限されない。ハードコート層は以下の塗布方法の塗布方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)(特開2003-164788号公報参照)、および、マイクログラビアコート法等の公知の方法が用いられ、その中でもマイクログラビアコート法、および、ダイコート法が好ましい。
【0107】
<ハードコート層の乾燥、硬化条件>
本発明において、ハードコート層など塗布により層形成する場合の、乾燥、硬化方法に関して、好ましい例を以下に述べる。
本発明では、電離放射線による照射と、照射の前、照射と同時または照射後の熱処理とを組み合わせることにより、硬化することが有効である。
以下に、いくつかの製造工程のパターンを示すが、これらに限定されるものではない(以下の「-」は熱処理を行っていないことを示す)。
【0108】
照射前 → 照射と同時 → 照射後
(1)熱処理 → 電離放射線硬化 → -
(2)熱処理 → 電離放射線硬化 → 熱処理
(3) - → 電離放射線硬化 → 熱処理
【0109】
その他、電離放射線硬化時に同時に熱処理を行う工程も好ましい。
【0110】
ハードコート層を形成する際には、上記のとおり、電離放射線による照射と組み合わせて熱処理を行うことが好ましい。熱処理は、ハードコートフィルムの支持体、および、ハードコート層を含めた構成層を損なうものでなければ特に制限はないが、好ましくは25~150℃、さらに好ましくは30~80℃である。
【0111】
熱処理に要する時間は、使用成分の分子量、その他成分との相互作用、粘度などにより異なるが、15秒~1時間が好ましく、20秒~30分がより好ましく、30秒~5分がさらに好ましい。
【0112】
電離放射線の種類については、特に制限はなく、X線、電子線、紫外線、可視光、および、赤外線などが挙げられるが、紫外線が広く用いられる。例えば塗膜が紫外線硬化性であれば、紫外線ランプにより10~1000mJ/cm2の照射量の紫外線を照射して各層を硬化するのが好ましい。照射の際には、上記エネルギーを一度に当ててもよいし、分割して照射することもできる。特に塗膜の面内での性能ばらつきを少なくする点や、カールを良化させるという観点からは、2回以上に分割して照射することが好ましく、初期に150mJ/cm2以下の低照射量の紫外光を照射し、その後、50mJ/cm2以上の高照射量の紫外光を照射し、かつ初期よりも後期の方で高い照射量を当てることが好ましい。
【0113】
(接着層)
接着層は、例えば、支持体と傾斜位相差層との間、コレステリック液晶層間、コレステリック液晶層と傾斜位相差層との間、および、コレステリック液晶層と偏光変換層との間の1か所以上に、必要に応じて、設けられる。
【0114】
接着層は接着剤(貼着剤)から形成されるものであればよい。
接着剤としては硬化方式の観点からホットメルトタイプ、熱硬化タイプ、光硬化タイプ、反応硬化タイプ、硬化の不要な感圧接着タイプがあり、それぞれ素材としてアクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、および、ポリビニルブチラール系等の化合物を使用することができる。作業性、生産性の観点から、硬化方式として光硬化タイプが好ましく、光学的な透明性、耐熱性の観点から、素材はアクリレート系、ウレタンアクリレート系、および、エポキシアクリレート系等を使用することが好ましい。
【0115】
接着層は、高透明性接着剤転写テープ(OCA(Optical Clear Adhesive)テープ)を用いて形成されたものであってもよい。高透明性接着剤転写テープとしては、画像表示装置用の市販品、特に画像表示装置の画像表示部表面用の市販品を用いればよい。市販品の例としては、パナック社製の粘着シート(PD-S1等)、日栄化工社製のMHMシリーズの粘着シート等が挙げられる。
接着層の厚みは、0.5~10μmが好ましく、1.0~5.0μmがより好ましい。また、高透明性接着剤転写テープを用いて形成された接着層の厚みは、4~50μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。投映像表示用部材の色ムラ等を軽減するため均一な厚みで設けられることが好ましい。
【0116】
以下、投映像表示用部材を有するウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムについて説明する。
【0117】
<ウインドシールドガラス>
本発明の投映像表示用部材を用いて投映像表示機能を有するウインドシールドガラスを提供することができる。
ウインドシールドガラスは、車および電車等の車両、飛行機、船舶、二輪車、ならびに遊具等の乗り物一般の窓ガラスを意味する。ウインドシールドガラスは、乗り物の進行方向にあるフロントガラス、または風防ガラスとして利用することが好ましい。
【0118】
ウインドシールドガラスの可視光線透過率は、70%以上が好ましく、70%超がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。上述の可視光線透過率はウインドシールドガラスのいずれの位置においても満たされていることが好ましく、特に投映像表示部が上述の可視光線透過率を満たすことが好ましい。投映像表示用部材は上述のように、視感度の高い波長域において可視光線透過率が高いため、ウインドシールドガラスに一般的に用いられるガラスのいずれを用いた場合においても、上述の可視光線透過率を満たす構成とすることができる。
【0119】
ウインドシールドガラスは、特に限定されるものではなく、ウインドシールドガラスが配置される対象に応じて適宜決定されるものである。
例えば、平面状でもよく、凹面または凸面等の曲面を有する3次元形状でもよい。適用される乗り物用に成形されたウインドシールドガラスでは、通常使用時に上となる方向、観察者側、運転者側、および車内側等の視認側となる面が特定できる。ウインドシールドガラスは、通常、曲面を有し、凹面側が、車内側すなわちヘッドアップディスプレイシステムにおける投映光の入射側すなわち画像の観察側となる。
【0120】
ウインドシールドガラスは、投映像表示部において、厚みが均一であってもよく、厚みが不均一であってもよい。例えば、特表2011-505330号公報に記載の車両用ガラスのように楔形の断面形状を有し、投映像表示部の厚みが不均一であってもよい。楔形の断面形状の場合、ガラス表面と裏面の反射を重ねることにより、投映光の二重像を無くすことができる。
ウインドシールドガラスは、合わせガラスであるのが好ましく、2枚のガラス板の間に中間膜を有するのが、より好ましい。ウインドシールドガラスは、中間膜によって、楔形の断面形状としたものであるのが、さらに好ましい。
【0121】
[投映像表示部]
本発明の投映像表示用部材は、ウインドシールドガラスの投映像表示部に設けらる。
言い換えれば、本発明のウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムにおいては、ウインドシールドガラスにおける投映像表示用部材の装着部が、投映像表示部となる。また、本発明の投映像表示用部材は、選択反射層を有する場合には、ヘッドアップディスプレイシステムのコンバイナとして機能する。
投映像表示用部材をウインドシールドガラスのガラス板の外面に設ける、または、後述のように合わせガラスの構成のウインドシールドガラスの中間膜に設けることにより投映像表示部を形成することができる。
投映像表示用部材をウインドシールドガラスのガラス板の外面に設ける場合、投映像表示用部材はガラス板から見て、視認側すなわち車内側に設けられていても、その反対側すなわち車外側に設けられていてもよいが、視認側に設けらるのが好ましい。投映像表示用部材は、耐擦傷性がガラス板に比較して低いため、投映像表示用部材を保護するために、投映像表示用部材は中間膜に設けるのも好ましい。
【0122】
なお、本発明のウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムは、本発明の投映像表示用部材がコンバイナとして作用するものに制限はされない。
すなわち、本発明のウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムは、投映像表示用部材が選択反射層を有さない場合には、ウインドシールドガラスによって投映光を反射することにより、運転者(使用者)に投映像を観察させる構成であってもよい。
また、本発明のウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムは、投映像表示用部材が選択反射層を有さない場合には、ヘッドアップディスプレイシステムに元々組み込まれているコンバイナによって投映光を反射することにより、運転者に投映光を観察させる構成であってもよい。ヘッドアップディスプレイシステムに元々組み込まれているコンバイナを用いる場合には、本発明の投映像表示用部材は、このコンバイナに対応して装着される。
【0123】
投映像表示部はウインドシールドガラスの全面にあってもよく、また、ウインドシールドガラスの全面積に対し一部にあってもよいが、一部であることが好ましい。
ウインドシールドガラスの一部である場合、投映像表示部はウインドシールドガラスのいずれの位置に設けてもよいが、ヘッドアップディスプレイシステムとしての使用時に、運転者等の観察者から視認しやすい位置に虚像が示されるように設けられていることが好ましい。例えば、適用される乗り物の運転席の位置とプロジェクターを設置する位置との関係から投映像表示部を設ける位置を決定すればよい。
投映像表示部は、曲面を有していない平面状であってもよいが、曲面を有していてもよく、全体として凹型または凸型の形状を有し、投映光を拡大または縮小して表示するようになっていてもよい。
【0124】
[合わせガラス]
ウインドシールドガラスは、2枚のガラス板を合わせた合わせガラスの構成を有していてもよい。ウインドシールドガラスは、第1ガラス板と第2ガラス板との間に投映像表示用部材が配置される構成でもよい。この際において、第1ガラス板と投映像表示用部材との間、および、投映像表示用部材と第2ガラス板との間の、少なくとも一方に中間膜が設けられる構成が好ましい。ウインドシールドガラスにおいて、例えば、第1ガラス板は視認側からより遠い位置(車外側)に配置され、第2ガラス板は視認側からより近い位置(車内側)に配置される。
第1ガラス板および第2ガラス板の等のガラス板には、ウインドシールドガラスに一般的に用いられるガラス板を使用することができる。例えば、遮熱性の高いグリーンガラス等の、可視光線透過率が73%および76%などの80%以下となるガラス板を使用してもよい。このように可視光線透過率が低いガラス板を使用したときであっても、投映像表示用部材を使用することにより、投映像表示部においても70%以上の可視光線透過率を有するウインドシールドガラスを作製することができる。
【0125】
ガラス板の厚みは、特に制限はないが、0.5~5.0mm程度であればよく、1.0~3.0mmが好ましく、2.0~2.3mmがより好ましい。第1ガラス板および第2ガラス板の材料または厚みは同一であっても異なっていてもよい。
【0126】
合わせガラスの構成を有するウインドシールドガラスは、公知の合わせガラス作製方法を用いて製造することができる。一般的には、合わせガラス用の中間膜を2枚のガラス板に挟んだ後、加熱処理と加圧処理(ゴムローラーを用いた処理等)とを数回繰り返し、最後にオートクレーブ等を利用して加圧条件下での加熱処理を行う方法により製造することができる。
【0127】
上述の投映像表示用部材を中間膜に含む合わせガラスの構成を有するウインドシールドガラスは、投映像表示用部材をガラス板表面に形成した後、通常の合わせガラス作製工程を経て形成されていてもよく、上述の投映像表示用部材を含む合わせガラス用積層中間膜を中間膜として用いて、上述の加熱処理と加圧処理とが行われて形成されていてもよい。
投映像表示用部材をガラス板の表面に設ける場合、投映像表示用部材を形成するガラス板は、第1ガラス板および第2ガラス板のいずれでもよいが、投映像の観察側すなわち車内側のガラス板に設けるのが好ましい。このとき、投映像表示用部材は、例えば、ガラス板に接着剤で貼合される。
【0128】
(投映像表示用部材を含まない中間膜)
上述の投映像表示用部材を含まない中間膜(中間膜シート)を用いる場合の中間膜としては、公知のいずれの中間膜を用いてもよく、楔形の断面形状を持つ中間膜であっても良い。
中間膜としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体および塩素含有樹脂の群から選ばれる樹脂を含む樹脂膜を用いることができる。上述の樹脂は、中間膜の主成分であることが好ましい。なお、主成分であるとは、中間膜の50質量%以上を占める成分のことをいう。
【0129】
上述の樹脂のうち、ポリビニルブチラールまたはエチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルブチラールがより好ましい。樹脂は、合成樹脂が好ましい。
ポリビニルブチラールは、ポリビニルアルコールをブチルアルデヒドによりアセタール化して得ることができる。上述のポリビニルブチラールのアセタール化度の好ましい下限は40%、好ましい上限は85%であり、より好ましい下限は60%、より好ましい上限は75%である。
【0130】
ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
また、上述のポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は3000である。ポリビニルアルコールの重合度が200以上であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下しにくく、3000以下であると、樹脂膜の成形性がよく、しかも樹脂膜の剛性が大きくなり過ぎず、加工性が良好である。より好ましい下限は500、より好ましい上限は2000である。
【0131】
(投映像表示用部材を含む中間膜)
投映像表示用部材を含む合わせガラス用積層の中間膜は、楔形の断面形状を有する中間膜を用いてもよい。投映像表示用部材を上述の中間膜の表面に貼合して形成することができる。または、投映像表示用部材を2枚の上述の中間膜に挟んで形成することもできる。2枚の中間膜は同一であってもよく異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
投映像表示用部材と中間膜との貼合には、公知の貼合方法を用いることができるが、ラミネート処理を用いることが好ましい。積層体と中間膜とが加工後に剥離してしまわないように、ラミネート処理を実施する場合には、ある程度の加熱および加圧条件下にて実施することが好ましい。
ラミネートを安定的に行なうには、中間膜の接着する側の膜面温度が50~130℃であることが好ましく、70~100℃であることがより好ましい。
ラミネート時には加圧することが好ましい。加圧条件は、2.0kg/cm2未満(196kPa未満)が好ましく、0.5~1.8kg/cm2(49~176kPa)がより好ましく、0.5~1.5kg/cm2(49~147kPa)がさらに好ましい。
【0132】
また、支持体を含む投映像表示用部材においては、ラミネートと同時に、またはその直後、もしくはその直前に、支持体を剥離してもよい。すなわち、ラミネート後に得られる積層中間膜には、支持体がなくてもよい。
合わせガラス用積層中間膜の製造方法の一例は、
(1)第1の中間膜の表面に投映像表示用部材を貼合して第1の積層体を得る第1の工程、および、
(2)第1の積層体中の投映像表示用部材の第1の中間膜が貼合されている面とは反対の面に、第2の中間膜を貼合する第2の工程、を含む。
第1の工程において、投映像表示用部材と第1の中間膜とを貼合すると共に、支持体を剥離し、第2の工程において、第2の中間膜を、支持体を剥離した面に貼合する、合わせガラス用積層中間膜の製造方法により、支持体を含まない、合わせガラス用積層中間膜を製造することができ、この合わせガラス用積層中間膜を用いることで、支持体を含まない合わせガラスを容易に作製することができる。破損等なく、安定的に支持体を剥離するためには、投映像表示用部材から支持体を剥離する際の基板の温度が40℃以上が好ましく、40~60℃がより好ましい。
【0133】
<ヘッドアップディスプレイシステム>
ウインドシールドガラスはヘッドアップディスプレイシステムの構成部材として用いることができる。ヘッドアップディスプレイシステムは投映像表示装置を含むことが好ましい。ここでの投映像表示装置は後述のプロジェクターのことを示す。
【0134】
[プロジェクター]
プロジェクター(イメージャー)は「光または画像を投映する装置」であり、「描画した画像を投射する装置」を含み、表示する画像(投映像)が担持された、投映光を出射するものである。
ヘッドアップディスプレイシステムにおいて、プロジェクターは、ウインドシールドガラス中の投映像表示用部材に対して、表示する画像が担持された、投映光を斜めの入射角度で入射できるように配置されていればよい。
ヘッドアップディスプレイシステムにおいて、プロジェクターは、描画デバイスを含み、小型の中間像スクリーンに描画された画像(実像)をコンバイナにより虚像として反射表示するものが好ましい。
プロジェクターは、虚像の結像距離、すなわち、虚像の結像位置が可変なものであることが好ましい。虚像の結像距離を変えることができるプロジェクターは、公知のヘッドアップディスプレイシステムに用いられるプロジェクターを利用することができる。
プロジェクターにおける虚像の結像距離の変更方法としては、例えば、画像の生成面(スクリーン)を移動する方法(特開2017-21302号公報参照)、光路長の異なる複数の光路を切り換えて使用する方法(国際公開第2015/190157号参照)、ミラーの挿入および/または移動によって光路長を変更する方法、結像レンズとして組レンズを用いて焦点距離を変更する方法、プロジェクター22の移動による方法、虚像の結像距離が異なる複数台のプロジェクターを切り換えて使用する方法、および可変焦点レンズを用いる方法(国際公開第2010/116912号参照)等が挙げられる。
【0135】
なお、プロジェクターは、連続的に虚像の結像距離が変更可能なものでも、2点あるいは3点以上の複数点で、虚像の結像距離を切り換え可能なものでもよい。
ここで、プロジェクターによる投映光の虚像のうち、少なくとも2つの虚像は、結像距離が、1m以上、異なるのが好ましい。従って、プロジェクターが、連続的に虚像の結像距離が変更可能なものである場合には、虚像の結像距離を1m以上、変更可能であるのが好ましい。このようなプロジェクターを用いることにより、一般道における通常速度での走行と高速道路での高速走行とのように運転者の視線の距離が大きく異なる場合にも好適に対応できる等の点で好ましい。
【0136】
(描画デバイス)
プロジェクターにおける描画デバイスは、それ自体が画像を表示するデバイスであってもよく、画像を描画できる光を発するデバイスであってもよい。描画デバイスでは、光源からの光が、光変調器、レーザー輝度変調手段、または描画のための光偏向手段等の描画方式で調整されていればよい。描画デバイスは光源を含み、さらに、描画方式に応じて光変調器、レーザー輝度変調手段、または描画のための光偏向手段等を含むデバイスを意味する。
【0137】
(光源)
光源は特に限定されず、LED(発光ダイオード)、有機発光ダイオード(OLED)、放電管、および、レーザー光源等を用いることができる。これらのうち、LEDおよび放電管は、直線偏光を出射する描画デバイスの光源に適していることから好ましく、特にLEDが好ましい。LEDは発光波長が可視光領域において連続的でないため、後述するように特定波長域で選択反射を示すコレステリック液晶層が用いられているコンバイナとの組み合わせに適しているためである。
【0138】
(描画方式)
描画方式は、使用する光源および/またはプロジェクターの用途に応じて選択することができ、特に限定されない。
描画方式としては、蛍光表示管、液晶を利用するLCD(Liquid Crystal Display)方式およびLCOS(Liquid Crystal on Silicon)方式、DLP(登録商標)(Digital Light Processing)方式、および、レーザーを利用する走査方式等が挙げられる。描画方式は光源と一体となった蛍光表示管を用いた方式であってもよい。描画方式としてはLCD方式が好ましい。
【0139】
LCD方式およびLCOS方式では、各色の光が光変調器で変調、合波され、投射レンズから光が出射する。
DLP方式は、DMD(Digital Micromirror Device)を用いた表示システムであり、画素数分のマイクロミラーを配置して描画され投射レンズから光が出射する。
【0140】
走査方式は、光線をスクリーン上で走査させ、目の残像を利用して造影する方式であり、例えば、特開平7-270711号公報、および、特開2013-228674号公報の記載が参照できる。レーザーを利用する走査方式では、輝度変調された、例えば、赤色光、緑色光および青色光の各色のレーザー光が合波光学系または集光レンズ等で1本の光線に束ねられ、光線が光偏向手段により走査されて後述する中間像スクリーンに描画されていればよい。
走査方式において、例えば、赤色光、緑色光および青色光の各色のレーザー光の輝度変調は光源の強度変化として直接行ってもよく、外部変調器により行ってもよい。光偏向手段としては、ガルバノミラー、ガルバノミラーとポリゴンミラーとの組み合わせ、および、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等が挙げられ、中でもMEMSが好ましい。走査方法としては、ランダムスキャン方式およびラスタースキャン方式等が挙げられるが、ラスタースキャン方式が好ましい。ラスタースキャン方式において、レーザー光を、例えば、水平方向は共振周波数で、垂直方向はのこぎり波で駆動することができる。走査方式は投射レンズが不要であるため、装置の小型化が容易である。
【0141】
描画デバイスからの出射光は、円偏光であっても直線偏光であっても自然光(非偏光)であってもよい。
ヘッドアップディスプレイシステムに含まれる描画デバイスからの出射光は、直線偏光が好ましい。描画方式がLCD方式またはLCOS方式である描画デバイスおよびレーザー光源を用いた描画デバイスは、本質的には出射光が直線偏光となる。
出射光が直線偏光である描画デバイスであって、出射光が複数の波長(色)の光を含むものである場合は、複数の光の偏光の偏光方向(透過軸方向)は同一であるかまたは互いに直交していることが好ましい。市販の描画デバイスは、出射光の赤、緑および青の光の波長域での偏光方向が均一ではないものがあることが知られている(特開2000-221449号公報参照)。具体的には、緑色光の偏光方向が赤色光の偏光方向および青色光の偏光方向と直交している例が知られている。
【0142】
(中間像スクリーン)
上述のように、描画デバイスは中間像スクリーンを使用するものであってもよい。「中間像スクリーン」は、画像が描画されるスクリーンである。すなわち、描画デバイスを出射した光がまだ画像として視認できるものではない場合等において、この光によって描画デバイスは中間像スクリーンに視認可能な画像を形成する。
中間像スクリーンにおいて描画された画像は中間像スクリーンを透過する光によりコンバイナに投映されていてもよく、中間像スクリーンを反射してコンバイナに投映されていてもよい。
【0143】
中間像スクリーンの例としては、散乱膜、マイクロレンズアレイ、および、リアプロジェクション用のスクリーン等が挙げられる。
中間像スクリーンとしてプラスチック材料を用いる場合等において、中間像スクリーンが複屈折性を有すると、中間像スクリーンに入射した偏光の偏光面または光強度が乱され、コンバイナにおいて、色ムラ等が生じやすくなるが、所定の位相差を有する位相差膜を用いることにより、この色ムラの問題を低減できる。
中間像スクリーンは、入射光線を広げて透過させる機能を有するものが好ましい。投映像拡大表示が可能となるからである。このような中間像スクリーンとしては、例えば、マイクロレンズアレイで構成されるスクリーンが挙げられる。ヘッドアップディスプレイで用いられるマイクロアレイレンズについては、例えば、特開2012-226303号公報、特開2010-145745号公報、および、特表2007-523369号公報等に記載がある。
プロジェクターは描画デバイスで形成された投映光の光路を調整する反射鏡等を含んでいてもよい。
【0144】
上述のように、本発明の投映像表示用部材は、選択反射層を有さず、ウインドシールドガラスによって、プロジェクターからの投映光を反射することで、運転者に画像を観察させるヘッドアップディスプレイシステムにも利用可能である。
ウインドシールドガラスによって、プロジェクターからの投映光を反射することで画像を観察させるヘッドアップディスプレイシステムについては、特開平2-141720号公報、特開平10-96874号公報、特開2003-98470号公報、米国特許第5013134号明細書、および、特表2006-512622号公報等を参照することができる。
【0145】
本発明のウインドシールドガラスは、特に、発光波長が可視光領域において連続的でないレーザー、LED、および、OLED(有機発光ダイオード)等を光源に用いたプロジェクターと組み合わせて用いるヘッドアップディスプレイシステムに有用である。各発光波長に合わせて、コレステリック液晶層の選択反射の中心波長を調整できるからである。また、LCD(液晶表示装置)等の表示光が偏光しているディスプレイの投映に用いることもできる。
【0146】
[投映光(入射光)]
入射光は、投映像表示用部材の法線に対し45~70度の斜め入射角度で入射させることが好ましい。屈折率1.51程度のガラスと屈折率1の空気との界面のブリュースター角は約56度であり、上述の角度の範囲でP偏光を入射させることにより、投映像表示のための入射光の選択反射層に対して視認側のウインドシールドガラスの表面からの反射光が少なく、二重像の影響が小さい画像表示が可能である。上述の角度は50~65度であることも好ましい。このとき、投映光の観察は、投映光の入射側(車内側)において、選択反射層またはウインドシールドガラスの法線に対し、入射光とは反対側で45~70度の角度で行うことができる構成が好ましく、50~68度の角度で行うことができる構成がより好ましい。
上述の角度においてウインドシールドガラス表面での反射光を強くするには、S偏光を入射させるのが好ましい。ここで、ウインドシールドガラス表面と裏面の反射光により二重像が発生するため、ウインドシールドガラスの断面を楔形にしたものを併用することが好ましい。
【0147】
入射光は、ウインドシールドガラスの上下左右等、いずれの方向から入射してもよく、視認方向と対応させて、決定すればよい。例えば、使用時の下方向から上述のような斜め入射角度で入射する構成が好ましい。
【0148】
上述のように、楔形のガラスと併用したヘッドアップディスプレイにおける投映像表示の際の投映光は、入射面に垂直な方向に振動するS偏光が好ましい。プロジェクターの出射光が直線偏光ではない場合は、直線偏光フィルムをプロジェクターの出射光側に配して用いることによりS偏光としていてもよく、プロジェクターからウインドシールドガラスまでの光路でS偏光とされていてもよい。
上述のように、出射光の赤、緑および青の光の波長域での偏光方向が均一ではないプロジェクターについては、波長選択的に偏光方向を調節し、全ての色の波長域でS偏光として入射させることが好ましい。
【0149】
次に、ヘッドアップディスプレイシステムについて、図3および図4を参照してより具体的に説明する。
図3は、本発明の実施形態の投映像表示用部材を有するヘッドアップディスプレイの一例を示す模式図であり、図4は本発明の投映像表示用部材を有するウインドシールドガラスの部分拡大模式図である。
ヘッドアップディスプレイシステム20は、プロジェクター22と、ウインドシールドガラス24とを有し、例えば、乗用車等の車両に用いられる。なお、ヘッドアップディスプレイシステム20の各構成要素については、既に説明した通りである。以下、ヘッドアップディスプレイシステム20をHUD20ともいう。
【0150】
HUD20において、ウインドシールドガラス24は、図4に概念的に示すように、第1ガラス板28と、第2ガラス板30と、投映像表示用部材10と、中間膜36と、接着層38とを有する。ウインドシールドガラス24においては、第1ガラス板28、第2ガラス板30および中間膜36によって、本発明のウインドシールドガラスにおけるウインドシールドガラス本体が構成される。投映像表示用部材10は、接着層38によって、ウインドシールドガラス本体に接着されている。
図示例のHUD20においては、第2ガラス板30が車両の車内側である。ウインドシールドガラス24(HUD20)においては、好ましい態様として、投映像表示用部材10が車内側すなわち投映光の入射側に貼着される。通常、ウインドシールドガラス本体は、車内側が凹面状になっている。すなわち、本発明のウインドシールドガラスでは、好ましくは、投映像表示用部材10は、ウインドシールドガラス本体の凹面に貼着される。
ただし、本発明のウインドシールドガラスは、ウインドシールドガラス本体の外面すなわち車内側または車外側の表面に投映像表示用部材10を設ける構成に制限はされず、第1ガラス板28と第2ガラス板30との間に、投映像表示用部材10を設けてもよいのは、上述のとおりである。
【0151】
上述のように、投映像表示用部材10は、偏光変換層11と、選択反射層12と、傾斜位相差層14と、支持体15とを有する。
HUD20では、投映像表示用部材10は、ウインドシールドガラス24の上下方向Yと、図2に示す傾斜位相差層14の軸Hとを一致させて配置されている。
車載された状態において、ウインドシールドガラス24の上下方向(天地方向)Yは、ウインドシールドガラス24が配置された車両等の地面側を下側とし、下側の反対側を上側として規定される方向である。なお、ウインドシールドガラス24は、車両等に配置された場合、構造、またはデザインの都合、傾斜して配置されることがあるが、この場合、上下方向Yは、ウインドシールドガラス24の表面25に沿った方向になる。
【0152】
プロジェクター22は上述の通りである。
プロジェクター22は、表示する画像が担持された、投映光を出射でき、かつ虚像の結像距離、すなわち、虚像の結像位置が可変なものであれば、HUDに用いられる公知のプロジェクターが利用可能である。プロジェクター22が出射する投映光は、S偏光でも、P偏光でも、円偏光でも、無偏光でもよいが、S偏光が好ましい。
【0153】
HUD20において、プロジェクター22は、好ましい態様として、S偏光の投映光をウインドシールドガラス24(第2ガラス板30)に照射する。
【0154】
ウインドシールドガラス24は、いわゆる合わせガラスであって、第1ガラス板28と第2ガラス板30との間に、中間膜36を有し、第2ガラス板30の投映光入射側に、投映像表示用部材10と、接着層38とを有する。
上述のように、投映像表示用部材10は、偏光変換層11と、選択反射層12と、傾斜位相差層14と、支持体15とを有する。
図示例において、投映像表示用部材10は、偏光変換層11を第2ガラス板30側にして、接着層38によって第2ガラス板30(ウインドシールドガラス本体)に接着されている。従って、後述するプロジェクター22からの投映光は、支持体15側から投映像表示用部材10に入射する。
選択反射層12は、投映像表示用部材10の本体であって、通常のハーフミラーと同様に、入射した光の一部を反射して、一部を透過する。
【0155】
第1ガラス板28および第2ガラス板30は、いずれも車両等のウインドシールドに利用される公知のガラス(ガラス板)である。従って、形成材料、厚さ、および形状等は、公知のウインドシールドに用いられるガラスと同様でよい。図4に示す第1ガラス板28および第2ガラス板30は、いずれも平板状であるが、これに限定されるものではなく、一部が曲面でもよいし、全面が曲面でもよい。
【0156】
中間膜36は、事故が起きた際にガラスが車内に突き抜け、かつ飛散することを防止するものであり、さらに、第1ガラス板28と第2ガラス板30とを接着するものである。中間膜36には、合わせガラスのウインドシールドに用いられる公知の中間膜および接着層を用いることができる。中間膜36の形成材料としては、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素含有樹脂、および、ポリウレタン等が例示される。
また、中間膜36の厚さにも、制限はなく、形成材料等に応じた厚さを、公知のウインドシールドガラスの中間膜と同様に設定すればよい。
【0157】
接着層38は、塗布型の接着剤からなる層である。投映像表示用部材10は、接着層38により第2ガラス板30に貼着される。
接着層38には、制限はなく、ウインドシールドガラス24として必要な透明性を確保でき、かつ、必用な貼着力で投映像表示用部材10とガラスとを貼着可能なものであれば、公知の各種の塗布型の接着剤からなるものが利用可能である。接着層38としては、中間膜36と同じものを用いてもよいし、一例として、ポリビニルブチラール(PVB)を用いることもできる。これ以外に、接着層38には、アクリレート系接着剤等を用いることもできる。また、接着層38には、以下に示すように、上述の接着層と同じものを用いてもよい。
【0158】
接着層38は、上述の接着層と同様に接着剤から形成されるものであってもよい。
接着剤としては硬化方式の観点からホットメルトタイプ、熱硬化タイプ、光硬化タイプ、反応硬化タイプ、硬化の不要な感圧接着タイプがあり、それぞれ素材としてアクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、および、ポリビニルブチラール系等の化合物を使用することができる。作業性、生産性の観点から、硬化方式として光硬化タイプが好ましく、光学的な透明性、耐熱性の観点から、素材はアクリレート系、ウレタンアクリレート系、および、エポキシアクリレート系等を使用することが好ましい。
【0159】
接着層38は、高透明性接着剤転写テープ(OCAテープ)を用いて形成されたものであってもよい。高透明性接着剤転写テープとしては、画像表示装置用の市販品、特に画像表示装置の画像表示部表面用の市販品を用いればよい。市販品の例としては、パナック社製の粘着シート(PD-S1等)、および、日栄化工社製のMHMシリーズの粘着シート等が挙げられる。
【0160】
接着層38の厚さにも、制限はない。従って、接着層38の形成材料に応じて、十分な貼着力が得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
ここで、接着層38が厚すぎると、後述する平面性を十分に保って、投映像表示用部材10を第2ガラス板30に貼着できない場合がある。この点を考慮すると、接着層38の厚さは、0.1~800μmが好ましく、0.5~400μmがより好ましい。
【0161】
なお、ウインドシールドガラス24は、第2ガラス板30の投映光入射側に接着層38を設け、投映像表示用部材10を貼着しているが、これに制限はされない。すなわち、第2ガラス板30の投映光入射側と反対側に接着層38を設け、投映像表示用部材10を貼着し、投映像表示用部材10と第1ガラス板28との間に中間膜36を設ける構成でもよい。
また、ウインドシールドガラス24が中間膜36を有さない構成であり、楔形状のガラス板に接着層38を設け、投映像表示用部材10を貼着した構成でもよい。
投映像表示用部材10と第1ガラス板28との貼着、および投映像表示用部材10と第2ガラス板30との貼着に、接着層38を用いた構成でもよい。
【0162】
図3に示すように、HUD20では、画像の観察者すなわち運転者Dは、プロジェクター22が投映して、投映像表示用部材10(その選択反射層12)が反射した、プロジェクター22による投映光の虚像を観察している。
一般的なHUDでは、プロジェクターの投映光は、ウインドシールドガラスによって反射され、その反射光を観察する。ここで、一般的なウインドシールドは、合わせガラスであり、内面側と外面側との2枚のガラスを有する。そのため、HUDでは、2枚のガラスの反射光によって、運転者に二重像が観察されるという問題がある。
これに対応するために、通常のHUDでは、内面側ガラスの反射と外面側ガラスの反射とが重なるように、ウインドシールド(中間膜)の断面形状を楔型にして、二重像が見えないようにしている。
【0163】
図3に示す例では、一例として、中間膜36を第1ガラス板28と第2ガラス板30の間に設け、投映像表示用部材10を塗布形の接着剤からなる接着層38によって、直接的に第1ガラス板28に貼着することによって、投映像表示用部材10の平面性を確保している。
【0164】
以下、図3に示すHUD20の作用を説明することにより、本発明について、より詳細に説明する。
【0165】
HUD20では、好ましい態様として、プロジェクター22はS偏光の投映光を照射する。
プロジェクター22が照射した投映光は、支持体15を透過して、支持体15側から傾斜位相差層14に入射する。傾斜位相差層14は、棒状液晶化合物を傾斜位相差層14の表面に対して傾斜して配向しているものである。また、棒状液晶化合物の傾斜方向は、プロジェクター22からの投映光の進行方向と同方向である。
そのため、プロジェクター22が照射した投映光は、傾斜位相差層14に入射しても、光学的な作用を受けることは無く、S偏光のまま透過する。または、プロジェクター22が照射した投映光は、傾斜位相差層14に入射しても、傾斜位相差層14から受ける位相差層としての作用は小さく、多くのS偏光の成分を含んだまま透過する。
【0166】
傾斜位相差層14を透過した投映光は、選択反射層12(第1の選択反射層12Gおよび第2の選択反射層12R)によって反射される。
選択反射層12は、好ましい一例として、コレステリック液晶層である。そのため、選択反射層12で反射されたS偏光の投映光は、S偏光成分が多い楕円偏光となる。
【0167】
選択反射層12で反射された投映光は、再度、傾斜位相差層14に入射する。選択反射層12で反射された投映光は、プロジェクター22が照射した投映光とは逆の、選択反射層12側から傾斜位相差層14に入射する。
従って、光の進行方向に対して、傾斜位相差層14の棒状液晶化合物の傾斜方向が、逆になる。そのため、選択反射層12側から傾斜位相差層14に入射した投映光に対しては、傾斜位相差層14は位相差層として作用する。
その結果、選択反射層12で反射されたS偏光成分が多い楕円偏光の投映光は、傾斜位相差層14を透過することで、位相が変化して、P偏光成分が多い楕円偏光となる。
【0168】
傾斜位相差層14を透過したP偏光よりの楕円偏光である投映光は、支持体15を透過して、運転者Dによって観察される。
ここで、運転者Dが観察する投映光は、P偏光成分が多い楕円偏光であり、すなわち、P偏光を多く含む。従って、運転者Dが、S偏光を遮光する偏光サングラスを着用していても、投映光に多く含まれるP偏光によって投映像を観察することが可能になる。
【0169】
上述のように、運転者Dが眩しいと感じる、水たまり、および、ボンネット等による反射光に起因するギラツキは、多くの場合は、S偏光である。そのため、偏光サングラスは、S偏光を遮光するようになっているのが通常である。
一方で、ウインドシールドガラスによって投映光を反射することで、投映光を運転者Dに観察させるHUDでは、ウインドシールドガラスによる当映像の反射率を高くするために、プロジェクター22は、S偏光の投映光を照射する場合が多い。この場合には、ウインドシールドガラスによって反射される投映光もS偏光である。
そのため、運転者Dが偏光サングラスを着用すると、投映光が偏光サングラスで遮光されてしまい、運転者DがHUDの画像を観察できない。
【0170】
これに対し、本発明の投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびHUDによれば、車載されているHUDがS偏光の投映光をウインドシールドガラスで反射させる構成であっても、本発明の投映像表示用部材を、例えばウインドシールドガラスの車内側表面に接着するだけで、P偏光の投映光を照射可能になる。
すなわち、本発明によれば、車載されているHUDがS偏光の投映光をウインドシールドガラスで反射させる構成であっても、本発明の投映像表示用部材を、例えばウインドシールドガラスの車内側表面に接着するだけで、運転者Dが偏光サングラスを着用しても、HUDの画像を観察することが可能になり、偏光サングラス適性を特性を向上できる。
【0171】
なお、プロジェクター22からの投映光では、投映像表示用部材10(支持体15)の表面で反射される成分、投映像表示用部材10を透過して、第2ガラス板30(車内側のガラス板)の表面で反射される成分、および、第1ガラス板28(車外側のガラス板)の表面で反射される成分も生じる。
投映像表示用部材10の表面で反射される成分は、S偏光であるので、運転者Dが偏光サングラスを着用していれば遮光される。運転者Dが偏光サングラスを着用していない場合でも、投映像表示用部材10を構成する各層は、非常に薄いので、選択反射層12および第2ガラス板30で反射される成分との位置ズレは小さく、二重像が観察されることは抑制できる。
また、ウインドシールドガラスは、好ましい態様として、楔型ガラスである。従って、第2ガラス板30の表面で反射される成分と、第1ガラス板28の表面で反射される成分との位置ズレも生じないので、二重像が観察されることを抑制できる。
【0172】
上述のように、運転者Dが眩しいと感じる、水たまり、および、ボンネット等による反射光に起因するギラツキは、多くの場合は、S偏光である。そのため、偏光サングラスは、S偏光を遮光するようになっているのが通常である。
図示例の投映像表示用部材10は、好ましい態様として、偏光変換層11を有する。投映像表示用部材10は、偏光変換層11を有することにより、車外から侵入するギラツキとなるS偏光を、好適に偏光サングラスで遮光することが可能になる。すなわち、投映像表示用部材10は、偏光変換層11を有することにより、車外から入射する外光に対する、偏光サングラスの外光適性も好適にできる。
【0173】
車外から侵入したギラツキとなるS偏光は、まず、第1ガラス板28、中間膜36および第2ガラス板を透過して、偏光変換層11に入射する。偏光変換層11に入射し、通過したS偏光は、偏光変換層11における液晶化合物の螺旋構造または偏光変換層11の位相差によって、S偏光に応じた旋回方向の楕円偏光に変換される。
偏光変換層11を通過した楕円偏光は、次いで、コレステリック液晶層である選択反射層12を通過して、S偏光に応じた旋回方向の円偏光に変換される。
選択反射層12を通過した円偏光は、傾斜位相差層14に入射する。上述のように、傾斜位相差層14は、選択反射層12側から入射した光に対して位相差層として作用する。そのため、S偏光に応じた旋回方向の円偏光は、傾斜位相差層14を通過してS偏光に変換される。
車外から入射したギラツキとなるS偏光は、このようにしてS偏光に戻され、支持体15を透過して、運転者Dに至るが、偏光サングラスによって遮光される。
すなわち、本発明の投映像表示用部材10は、偏光変換層11を有することにより、傾斜位相差層14および選択反射層12による外光の偏光の変化を補償して、車外から入射したギラツキとなるS偏光を、S偏光のまま通過することができ、偏光サングラスによる遮光が可能になる。
【0174】
図示例の投映像表示用部材10は、好ましい態様として選択反射層12を有する。しかしながら、本発明の投映像表示用部材は、選択反射層12を有さなくてもよい。
本発明の投映像表示用部材は、この選択反射層12を有さない構成であっても、投映光として照射されたS偏光をP偏光の成分を含む投映光として、偏光サングラスを着用しての画像の観察を可能にする。ただし、運転者Dが観察する画像を高輝度にできる点で、本発明の投映像表示用部材は、選択反射層12を有するのが好ましい。
【0175】
選択反射層12を有さない投映像表示用部材でも、同様にプロジェクター22から照射されたS偏光の投映光は、支持体15を透過して、傾斜位相差層14に入射する。
上述のように、支持体15側から入射してS偏光の投映光に対しては、傾斜位相差層14は、何の光学的な作用も施さない。従って、S偏光の投映光は、傾斜位相差層14を透過して、ウインドシールドガラス本体に入射する。
ウインドシールドガラス本体に入射したS偏光の投映光は、第2ガラス板30および第1ガラス板28によって反射され、S偏光のまま、再度、傾斜位相差層14に入射する。
【0176】
先の例と同様、傾斜位相差層14は、第2ガラス板30側から入射した光に対しては位相差層として作用する。従って、第2ガラス板30等によって反射されて傾斜位相差層14に再入射したS偏光の投映光は、傾斜位相差層14によって位相が変化して、P偏光、P偏光成分を含む方向の直線偏光、楕円偏光、および、円偏光のいずれかに変換される。楕円偏光および円偏光は、P偏光の成分を含む。
従って、運転者Dが偏光サングラスを着用していても、このP偏光の成分は偏光サングラスを透過するので、運転者Dは、HUDの画像を観察することができる。
なお、この作用効果は、選択反射層が直線偏光反射層である場合、および、無偏光反射層である場合も、同様である。
【0177】
以上、説明した本発明の第1の態様の投映像表示用部材は、棒状液晶化合物が位相差層の表面に対して傾斜して配向された傾斜位相差層を有するものである。
これに対して、本発明の第2の態様の投映像表示用部材は、傾斜位相差層に変えて、正面リタデーションが100~350nmの位相差層を有する。
本発明の第2の態様の投映像表示用部材は、傾斜位相差層に変えて、正面リタデーションが100~350nmの位相差層を有する以外は、上述した第1の態様の投映像表示用部材と同様である。従って、以下の説明は、異なる部位を主に行う。
【0178】
傾斜位相差層に変えて、正面リタデーションが100~350nmの位相差層を有する本発明の第2の態様の投映像表示用部材でも、位相差層がプロジェクター22が照射したS偏光の投映光の位相差を変更して、P偏光、P偏光の成分を含む方向の直線偏光、楕円偏光、および、円偏光のいずれかに変換する。
そのため、運転者DがS偏光を遮光する偏光サングラスを着用した場合でも、このP偏光の成分によって、運転者が、HUDの画像を観察することが可能になり、偏光サングラス適性を向上できる。
【0179】
正面リタデーションが100~350nmの位相差層を有する本発明の第2の態様の投映像表示用部材は、特に、プロジェクター22が照射する投映光が円偏光である場合に、好適に利用される。
円偏光は、P偏光の成分を含む。そのため、本発明の第2の態様の投映像表示用部材でも、偏光サングラス適性を向上して、運転者DがS偏光を遮光する偏光サングラスを着用した場合に、より好適に、運転者がHUDの画像を観察できる。
【0180】
本発明の第2の態様の投映像表示用部材において、位相差層の正面リタデーションは100~350nmである。
位相差層の正面リタデーションが100nm以下では、位相差層を通過する偏光の変化量が不十分である等の点で不都合を生じる。
他方、位相差層の正面リタデーションが350nmを超えると、位相差層の膜厚が過剰に厚くなることによる配向不良が起こりやすくなる等の点で不都合を生じる。
【0181】
本発明の第2の態様の投映像表示用部材において、位相差層の正面リタデーションは、投映光の入射角、および、位相差層の遅相軸の向き等に応じて、P偏光の投映光、または、P偏光の成分を含む投映光が得られるように、100~350nmの範囲内において、適宜、設定すればよい。
本発明の第2の態様の投映像表示用部材において、位相差層の正面リタデーションは、105~320nmが好ましく、110~300nmがより好ましい。
【0182】
なお、本発明の第2の態様の投映像表示用部材において、正面リタデーションが100~350nmである位相差層は、偏光変換層である位相差層を兼ねてもよい。
【0183】
上述した第1の態様の投映像表示用部材と同様、本発明の第2の態様の投映像表示用部材においても、選択反射層を有するのが好ましい。また、選択反射層は、偏光反射層でも無偏光反射層でもよいが、偏光反射層が好ましい。
また、偏光反射層は、直線偏光反射層でも、円偏光反射層でもよい。
【0184】
ここで、本発明の第2の態様の投映像表示用部材において、選択反射層が直線偏光反射層である場合には、投映像表示用部材がウインドシールドガラスに設けられて車載された状態において、上述した上下方向Y(天地方向)の上方を0度とした際に、直線偏光反射層の屈折率異方性の方向が、投映像表示側から見て時計回りに10~80度、もしくは、100~170度の角度で傾いているのが好ましい。
このような構成を有することにより、S偏光が投映された際に、P偏光をより多く反射することができる等の点で好適な結果を得られる。
直線偏光反射層の屈折率異方性の方向は、投映像表示側から見て時計回りに30~60度であるのがより好ましく、もしくは、120~150度であるのがより好ましい。
【0185】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。
以上、本発明の投映像表示用部材、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムについて詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例
【0186】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、および、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1~69および比較例1は表1(表1-1~表1~4)に記載した構成で作製しており、位相差層、選択反射層、偏光変換層は以下に説明する方法により作製されたものである。
表1における構成は、投映光が入射する順に左から記載したものである。比較例1は楔形ガラス単独の構成であり、位相差層、選択反射層、偏光変換層はない。
位相差層は、棒状液晶化合物を支持体すなわち位相差層の表面に対して傾斜したものは、その傾斜角度を記載した。
選択反射層は、コレステリック液晶からなる円偏光反射層、光学異方性をもつ誘電体多層膜からなる直線偏光反射層、等方的な誘電体多層膜からなる無偏光反射層の3種類がある。
偏光変換層は、棒状液晶化合物の螺旋配向構造からなるものと、位相差層との2種類がある。
【0187】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】
【0188】
<塗布液の調製>
(コレステリック液晶層形成用塗布液1、2)
波長580nmの範囲内の光を反射するコレステリック液晶層を形成するコレステリック液晶層形成用塗布液1、波長700nmの範囲内の光を反射するコレステリック液晶層を形成するコレステリック液晶層形成用塗布液2に関して、下記の成分を混合し、下記組成のコレステリック液晶層形成用塗布液を調製した。
・混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤1(下記配向制御剤1) 0.05質量部
・フッ素系水平配向剤2(下記配向制御剤2) 0.02質量部
・右旋回性キラル剤LC756(BASF社製)
目標の反射波長に合わせて調整
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が20質量%となる量
【0189】
【化5】
【0190】
【化6】
【0191】
【化7】
【0192】
上述の塗布液組成の右旋回性キラル剤LC756の処方量を調整してコレステリック液晶層形成用塗布液1およびコレステリック液晶層形成用塗布液2を調製した。
コレステリック液晶層形成用塗布液1、または、コレステリック液晶層形成用塗布液2を用いて、以下に示す投映像表示用部材(ハーフミラー)の作製時と同様に仮支持体上に膜厚3μmの単一層のコレステリック液晶層を作製し、可視域光の反射特性を確認した。その結果、作製されたコレステリック液晶層は全て右円偏光反射層であり、中心反射波長は塗布液1は波長580nm、塗布液2は波長700nmであった。
【0193】
(位相差層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、下記組成の位相差層形成用塗布液を調製した。
・混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤1(配向制御剤1) 0.05質量部
・フッ素系水平配向剤2(配向制御剤2) 0.01質量部
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が20質量%となる量
【0194】
(傾斜位相差層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、下記組成の位相差層形成用塗布液を調製した。配向制御剤3は表1に示す位相差層の傾斜角度が所望の値になる様に1.5質量部を中心に調整した。
・混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤1(配向制御剤1) 0.05質量部
・フッ素系水平配向剤2(配向制御剤2) 0.01質量部
・垂直配向剤1(下記配向制御剤3) 1.5質量部中心に調整
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が20質量%となる量
【0195】
配向制御剤3
【化8】
【0196】
(偏光変換層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、下記組成の偏光変換層形成用塗布液を調製した。
・混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤1(配向制御剤1) 0.05質量部
・フッ素系水平配向剤2(配向制御剤2) 0.02質量部
・右旋回性キラル剤LC756(BASF社製)
目標のピッチ数と膜厚に合う反射波長に合わせて調整
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が20質量%となる量
【0197】
上述の塗布液組成の右旋回性キラル剤LC756の処方量を調整して、コレステリック液晶層とみなした際に、所望の選択反射中心波長λとなるように、偏光変換層形成用塗布液を調製した。
螺旋構造の膜厚dがピッチ(反射中心波長λ/面内の平均屈折率n)×ピッチ数の関係式で表せることから、膜厚とピッチ数を特定し、λ(波長)を決定した。ピッチ数は、仮支持体上に所望の膜厚の単一層のコレステリック液晶層を作製し、AxoScan(アクソメトリクス社製)の測定値をフィッティングして得られたツイスト角(ピッチ数×360度)から求めた。
表1に、調整した偏光変換層形成用塗布液の目標となる偏光変換層のピッチ数、膜厚、λの組み合わせを示す。
【0198】
<セルロースアシレートフィルムの鹸化>
国際公開第2014/112575号の実施例20と同一の作製方法で得られた40μmセルロースアシレートフィルムを、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、フィルムの片面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14mL/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下に10秒間滞留させた。
次いで、同じくバーコーターを用いて、純水を3mL/m2塗布した。
次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したセルロースアシレートフィルム1を作製した。
セルロースアシレートフィルム1の面内位相差をAxoScanで測定したところ、1nmであった。
【0199】
(アルカリ溶液)
・水酸化カリウム 4.7質量部
・水 15.7質量部
・イソプロパノール 64.8質量部
・界面活性剤(C1633O(CH2CH2O)10H) 1.0質量部
・プロピレングリコール 14.9質量部
【0200】
<配向膜の形成>
上述で得られた鹸化処理したセルロースアシレートフィルム1(透明支持体)の鹸化処理面に、下記に示す組成の配向膜形成用塗布液を、ワイヤーバーコーターで24mL/m2塗布し、100℃の温風で120秒乾燥した。
【0201】
(配向膜形成用塗布液)
・下記に示す変性ポリビニルアルコール 28質量部
・クエン酸エステル(AS3、三共化学社製) 1.2質量部
・光開始剤(イルガキュア2959、BASF社製) 0.84質量部
・グルタルアルデヒド 2.8質量部
・水 699質量部
・メタノール 226質量部
【0202】
(変性ポリビニルアルコール)
【化9】
【0203】
<シリカ粒子分散液の調製>
本発明においてハードコート層に好ましく用いられる無機微粒子としてAEROSIL RX300(日本アエロジル社製)を、固形分濃度が5質量%になるように、MiBK(メチルイソブチルケトン)へ添加し、マグネチックスターラーで30分攪拌した。その後、超音波分散機(エスエムテー社製、Ultrasonic Homogenizer UH-600S)で10分間、超音波分散し、シリカ粒子分散液を作製した。
得られた分散液から一部を平均二次粒子径測定用に採取し、Microtrac MT3000(マイクロトラックベル社製)を用いて、分散液中のシリカ粒子の平均二次粒子径を測定したところ、190nmであった。
【0204】
<ハードコート層塗布液の調製>
下記の組成となるように、各成分を混合し、固形分濃度が約51質量%となるハードコート層塗布液を作製した。
(ハードコート層塗布液)
・ジペンタエリスリトールポリアクリレート:A-9550W
(新中村化学工業社製)(6官能) 44.8質量部
・イルガキュア184:アルキルフェノン系光重合開始剤(BASF社
製) 4質量部
・3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート:サイクロマ
ーM100(ダイセル社製、分子量196) 2.5質量部
・化合物1 0.80質量部
・高分子界面活性剤 B1176(大日本化学工業社製)
0.05質量部
・MEK-AC-2140Z(平均粒径10~20nm、
球形シリカ微粒子(日産化学工業社製)) 8.08質量部
・Tinuvin928:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤
(BASF社製) 1.15質量部
・シリカ粒子分散液(MiBK溶液 濃度5%) 13質量部
溶媒は、MEK:MiBK:酢酸メチル=32:38:30となるように調整した。
【0205】
化合物1:
上記、化合物1は特許第4841935号公報実施例1記載の方法で合成した。
【化10】
【0206】
<位相差層の作製>
(1) 支持体として、前述の配向膜を形成したセルロースアシレートフィルム1を使用し、その片面に、塗布面から見て支持体の長手方向を基準に時計回りに回転させた方向(図2におけるα:回転角度、H:長辺方向、Sa:ラビング方向)にラビング処理を施した。ラビング処理は、レーヨン布を用い、圧力:0.1kgf(0.98N)、回転数:1000rpm(revolutions per minute)、搬送速度:10m/min、および、回数:1往復の条件で行った。
実施例1~28および実施例32~50、実施例54~69のラビング処理時に回転させた角度(方位角(図2におけるα))を表1に示す。
【0207】
(2)実施例1~24は、まず傾斜位相差層を形成した。
セルロースアシレートフィルム1上の配向膜のラビングした表面に傾斜位相差層形成用塗布液をワイヤーバーを用いて塗布した。
その後、傾斜位相差層形成用塗布液を乾燥させて、50℃のホットプレート上に置き、酸素濃度1000ppm以下の環境で、フュージョンUVシステムズ社製の無電極ランプ「Dバルブ」(60mW/cm2)を用いて6秒間、紫外線を照射し、液晶相を固定して、傾斜位相差層を得た。
このとき、AxoScan(アクソメトリクス社製)を用いて傾斜位相差層の法線方向を0度とした場合の、-40度、0度、+40度の3つの測定角でリタデーション値を測定し、リタデーションの角度依存性のフィッティングから位相差層の上面の傾斜角θ1、および、下面の傾斜角θ2を求めた。傾斜角θ1と傾斜角θ2との平均値から、傾斜位相差層における棒状液晶化合物の平均傾斜角を求めた。平均傾斜角(傾斜角度)は、表1に示す。
傾斜角0度における正面リタデーションは、以下のように測定した。まず、傾斜位相差層の遅相軸の方向と直交する方向を回転軸とする平面を想定した。次いで、この回転軸によって、想定した平面を、棒状液晶化合物の傾斜方向と同方向に、棒状液晶化合物の平均傾斜角だけ傾けた平面を想定した。この傾けた平面と直交する方向から光を入射して、AxoScan(アクソメトリクス社製)を用いたリタデーションを測定することにより、傾斜角0度における正面リタデーションを測定した。傾斜角0度における正面リタデーション(正面Re)は、表1に示す。
【0208】
実施例25~28、実施例32~50および実施例54~69は、まず、位相差層を形成した。
上記傾斜位相差層の作製方法のうち、塗布液を位相差層形成用塗布液を用いる以外は同様の方法で位相差層を形成した。形成した位相差層の正面リタデーションをAxoScan(アクソメトリクス社製)で測定した。正面リタデーション(正面Re)の測定結果を表1に示す。
と同様であった。
【0209】
<選択反射層の作製>
(1) 実施例3、8、11、15、20、23、31、32、37、38、43、44、53、54、59、60、65、66および69は、次にコレステリック液晶からなる円偏光反射層を形成した。
形成した位相差層の表面に、コレステリック液晶層形成用塗布液1を乾燥後の乾膜の厚みが0.65μmになるようにワイヤーバーを用いて室温にて塗布して塗布層を得た。溶媒について、固形分濃度が25質量%になるように溶媒量を調整した。塗布層を室温で30秒間乾燥させた後、85℃の雰囲気で2分間加熱し、その後、酸素濃度1000ppm以下の環境にて60℃でフュージョン社製のDバルブ(90mW/cm2のランプ)を用い、出力60%で6~12秒間、紫外線を照射し、コレステリック液晶相を固定して、厚み0.65μmのコレステリック液晶層を得た。
次に、得られたコレステリック液晶層の表面に、さらにコレステリック液晶層形成用塗布液2を用いて同様の工程を繰り返し、厚み0.71μmのコレステリック液晶層形成用塗布液1の層を積層した。
コレステリック液晶層形成用塗布液1で形成したコレステリック液晶層が第1の選択反射層に相当し、コレステリック液晶層形成用塗布液2で形成したコレステリック液晶層が第2の選択反射層に相当する。
このようにして、位相差層と2層のコレステリック液晶層を備える選択反射層とを有し、あるいはさらに偏光変換層を有する、支持体付きの投映像表示用部材を得た。支持体付きの投映像表示用部材の反射スペクトルを分光光度計(日本分光社製、V-670)で測定したところ、波長580nmおよび波長700nmに選択反射中心波長を有する反射スペクトルが得られた。
(2) 実施例2、7、10、14、19、22、27~30、35、36、41、42、49~52、57、58、63および64は、直線偏光反射層を形成した。
直線偏光反射板としては、位相差層の表面に特表平9-506837号公報に記載された方法に基づいて、選択反射中心波長が670nm、反射率が32%になるように2,6-ポリエチレンナフタレート(PEN)とナフタレート70/テレフタレート30のコポリエステル(coPEN)の各層の厚みを調整して作製したものを用いた。
このうち、実施例29~30および実施例51~52については、塗布面から見て支持体の長手方向を基準に時計回りに45度回転させた方向(図2におけるα:回転角度、H:長辺方向、Sa:ラビング方向)でS偏光を反射する向きで作製した。
(3) 実施例4、9、12、16、21、24、33、34、39、40、45、46、55、56、61、62、67および68は、等方的な誘電体多層膜からなる無偏光反射層を形成した。
無偏光反射層としては、位相差層の表面に真空度1×10-4Pa、基板温度25℃の条件下でエレクトロンビームを用いた真空蒸着を行い、高屈折率蒸着物質の酸化チタンと低屈折蒸着物質の酸化ケイ素の交互層による選択反射中心波長が670nm、反射率が32%になるように各層の厚みを調整して作成したものを用いた。
【0210】
<偏光変換層の作製>
(1) 実施例5、7~9、17、19~21、35~40、57~62および69については、コレステリック液晶の螺旋構造からなる偏光変換層を作製した。
それぞれのサンプルの表面に、偏光変換層形成用塗布液を用いて、位相差層形成と同様の方法で各々表1に示した目標の膜厚となるように偏光変換層を形成した。
(2) 実施例6、10~12、18、22~24、29~31、41~46、51~53および63~68については、位相差層からなる偏光変換層を作製した。
別のセルロースアシレートフィルム1上の配向膜にラビングを行い、位相差層形成と同様の方法で、所望の正面Reとなる位相差層を作製した後、位相差層を各サンプル表面にDIC社製のUV硬化型接着剤Exp.U12034-6を用いて接着した。
【0211】
<ハードコート層の塗設>
実施例14~24および実施例49~69における40μmセルロースアシレートフィルムの反射層を形成していない面にハードコート層塗布液を使用し、ハードコート層を作製した。
具体的には、バーを用いて搬送速度10m/分の条件でハードコート液を塗布し、60℃で150秒乾燥の後、さらに窒素パージ下酸素濃度約0.1体積%で160W/cm2の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照度400mW/cm2、照射量500mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させてハードコート層を形成した。
【0212】
<ハードコート層の膜厚>
ハードコート層の膜厚は、接触式の膜厚計を用いて作製したハードコート層の膜厚を測定し、そこから同様に測定したハードコートのないフィルム厚みを引いて算出した。ハードコート層の膜厚は、全ての条件において6.0μmであった。
【0213】
以上の工程で実施例1~69の支持体付の投映像表示用部材を作製した。
得られた長尺状の投映像表示用部材の各水準について長手方向280mm×幅手方向250mmのサイズに切断し、シート状の投映像表示用部材を得た。
【0214】
<楔形ガラスに内貼りした部材の作製>
実施例13~24および実施例47~69の投映像表示用部材については、投映像表示用部材を楔形ガラスの表面に貼合したガラスを作製した。楔形ガラスは以下の様に作製した。
ポリビニルブチラールフィルム(積水化学社製、エスレックフィルム 厚さ15mil(0.38mm))につき、特開平2‐279437号公報の実施例2に記載のように、ローラーを使用して厚さ分布をつけた。上記のように厚さ分布をつけた2枚のポリビニルブチラールフィルムで形状となるようにし、さらに、これをガラス板(セントラル硝子社製FL2、300×300mm、厚さ2mm)2枚で挟んで、表示した画像が二重にならないようにガラス前面と後面の角度を合わせた。
これを90℃、10kPa(0.1気圧)下で一時間保持した後に、オートクレーブ(栗原製作所製)にて115℃、1.3MPa(13気圧)で20分間加熱して気泡を除去し、楔形ガラスを得た。
作製した楔形ガラスの表面に、DIC社製UV硬化型接着剤Exp.U12034-6を用いて各投映像表示用部材を接着した。このとき、位相差層側が投映光の入射側になり、位相差層の方位角0度の方向と楔形ガラスの垂直方向が一致する様に接着した。
【0215】
<合わせガラスの作製>
実施例1~12および実施例25~46の投映像表示用部材については、投映像表示用部材をガラスに挟持した合わせガラスを作製した。
縦300mm×横300mm厚み2mmのガラス板(セントラル硝子社製、FL2、可視光線透過率90%)の上に同じサイズにカッティングした積水化学社製の厚み0.38mmのPVBフィルム(中間膜)を設置した。
その上にシート状の各投映像表示用部材を、位相差層側を上面にして設置し、その上に縦300mm×横300mm厚み1mmのガラス板(セントラル硝子社製、FL2、可視光線透過率90%)を設置した。これを90℃、10kPa(0.1気圧)下で一時間保持した後に、オートクレーブ(栗原製作所製)にて115℃、1.3MPa(13気圧)で20分間加熱して気泡を除去し、合わせガラスを得た。
横から見た合わせガラスの構成を図5に示す。位相差層側から見たラビング方向Saとの関係を図6に示す。図6における上側をラビングの起点側、下側をラビングの終点側とした。
【0216】
作製した楔型ガラスおよび合わせガラス(ウインドシールドガラス)に関して、以下の評価を行った。
[可視光線透過率の評価]
可視光線透過率として、JIS R 3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)において定められたA光源可視光線透過率を求めた。可視光線透過率の評価は、下記評価基準にて評価した。
可視光線透過率の評価基準
A 83%以上
B 80%以上~82%未満
C 80%未満
可視光線透過率の評価結果を下記表2(表2-1~表2-4)に示す。
【0217】
[偏光サングラス着用時の輝度の評価]
位相差層側のガラス面から合わせガラスの法線方向に対し65度の方向から表1に示す様にS偏光または右円偏光を入射し、その正反射光(入射面内で法線方向に対して入射方向と反対側の、法線方向に対し65度の方向)を分光光度計(日本分光社製、V-670)で反射率スペクトルを測定した。このとき、投映像表示用部材の長辺方向と分光光度計の入射するP偏光の透過軸とを平行にした。この時、合わせガラスの軸Hと上下方向Yは同じ方向となり、ガラスの上側がラビングの起点側となる(図7参照)。
JIS R3106に従って、380~780nmでの10nm毎の波長において、反射率に視感度に応じた係数および一般的な液晶表示装置の発光スペクトルをそれぞれ乗じて投映光反射率を計算し、輝度として評価した。輝度の評価は、下記評価基準にて評価した。
輝度の評価基準
A 20%以上 (晴天下でも映像がはっきり見える。)
B 11%以上~20%未満 (映像が見える。晴天下では映像はやや見えにくい。)
B- 7%以上~11%未満 (映像が見える。晴天下では映像は見えにくい。)
C+ 3%以上~7%未満 (映像は見えるが、晴天下では見えない。)
C 3%以下(映像はほとんど見えない。)
輝度の評価結果を下記表2(表2-1~表2-4)に示す。
【0218】
[二重像の評価]
上述の偏光サングラス着用時の輝度の評価と同じ配置(図7)で、直線が格子状に描かれた映像を投映し、分光光度計ディテクタ41の位置で映像の二重像を目視評価した。二重像の評価は、下記評価基準にて評価した。
二重像の評価基準
A:二重像は見えず、直線のぶれがない。
B:二重像がわずかに見え、直線は少し太く見える。
C:はっきりと二重像が見え、直線は2本に分かれて見える。
二重像の評価結果を下記表2(表2-1~表2-4)に示す。
【0219】
[外光に対する偏光サングラス適性の評価]
偏光変換層側のガラス面からガラスの法線方向に対し65度方向からS偏光を入射し、合わせガラスの入射面の反対面側から透過光のP偏光を分光光度計(日本分光社製、V-670)で透過率スペクトルを測定した。
このとき分光光度計の受光部に直線偏光板を配置して、投映像表示用部材の長辺方向と分光光度計の入射するP偏光の透過軸とを平行にした(図8参照)。観察したJIS R3106に従って、380~780nmでの10nm毎の波長において、視感度に応じた係数およびD65光源の発光スペクトルをそれぞれ乗じて可視光線透過率を計算し、外光に対する偏光サングラス適性として評価した。外光に対する偏光サングラス適性の評価は、下記評価基準にて評価した。
外光に対する偏光サングラス適性(外光偏光サングラス)の評価基準
A 3%未満
B 3%以上~5%未満
C 5%以上
外光に対する偏光サングラス適性の評価結果を下記表2(表2-1~表2-4)に示す。
【0220】
[外観色味の評価]
偏光変換層側のガラス面から合わせガラスの法線方向に対し65度方向から、正反射で見える位置に白紙を置き、その色味を確認した。外観色味の評価は、下記評価基準にて評価した。
外観色味の評価基準
A(白):白紙が白く見える。
B(黄):白紙がやや黄色く見える
B(褐色):白紙がやや褐色に見える
C(赤):白紙が強く赤色に見える
外観色味の評価結果を下記表2(表2-1~表2-4)に示す。
【0221】
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】
【0222】
表2に示すように、実施例1~69は、高い可視光線透過率が得られ、比較例1の楔形ガラスに比して、偏光サングラスを着用した際の輝度に良好な結果が得られた。
実施例5~12、実施例17~24、実施例35~46、実施例57~69は、比較例1の楔形ガラスと同様の外光の偏光サングラス適性が良い結果が得られた。
また、実施例20と実施例69とに示されるように、位相差層として棒状液晶化合物が表面に対して傾斜配向する傾斜位相差層を有することにより、可視光透過率、偏光サングラス着用時の表示輝度および外光の偏光サングラス適性、ならびに、二重像の低減効果を、より好適にできる。
【符号の説明】
【0223】
10 投映像表示用部材
11 偏光変換層
12 選択反射層
12G 第1の選択反射層
12R 第2の選択反射層
14 傾斜位相差層
15 支持体
20 ヘッドアップディスプレイシステム(HUD)
22 プロジェクター
24 ウインドシールドガラス
25、30a 表面
28 第1ガラス板
30 第2ガラス板
36 中間膜
38 接着層
40 分光光度計光源
41 分光光度計ディテクタ
42 直線偏光板
43 測定時の回転方向
D 運転者
H 軸
Sa 遅相軸
Y 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8