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特許7382602組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、微小気泡を含む対象物の製造方法、細胞の保存方法、細胞の培養方法、および細胞製剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、微小気泡を含む対象物の製造方法、細胞の保存方法、細胞の培養方法、および細胞製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20231110BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20231110BHJP
   B01F 23/2373 20220101ALN20231110BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/077
B01F23/2373
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020522643
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021854
(87)【国際公開番号】W WO2019230972
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018105404
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018226901
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506111240
【氏名又は名称】学校法人 愛知医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】畑山 直之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 宗和
(72)【発明者】
【氏名】平井 宗一
(72)【発明者】
【氏名】福重 香
(72)【発明者】
【氏名】坂上 茂樹
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/099201(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0117214(KR,A)
【文献】国際公開第2017/126647(WO,A1)
【文献】特開2011-244779(JP,A)
【文献】特開2015-057951(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1658040(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0056438(US,A1)
【文献】特開2008-063258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小気泡を含み、
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLであり、
前記微小気泡は、気体として、一酸化炭素(CO)および硫化水素(HS)の少なくとも一方を含み、
前記微小気泡が気体として硫化水素(HS)を含む場合、前記微小気泡を構成する気体は、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、および硫化水素(HS)の組み合わせである場合を除く、動物由来細胞保存用組成物。
【請求項2】
前記微小気泡は、気体として、酸素を含む、請求項1記載の動物由来細胞保存用組成物。
【請求項3】
さらに、媒体を含み、
前記媒体は、液体および固体の少なくとも一方である、請求項1または2に記載の動物由来細胞保存用組成物。
【請求項4】
微小気泡を含み、
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLであり、
前記微小気泡は、気体として、硫化水素(HS)を含み、
ただし、前記微小気泡を構成する気体は、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、および硫化水素(HS)の組み合わせである場合を除く、動物由来細胞培養用組成物。
【請求項5】
前記微小気泡は、気体として、酸素を含む、請求項4記載の動物由来細胞培養用組成物。
【請求項6】
さらに、媒体を含み、
前記媒体は、液体および固体の少なくとも一方である、請求項4または5に記載の動物由来細胞培養用組成物。
【請求項7】
細胞および請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞保存用組成物または請求項4から6のいずれか一項に記載の細胞培養用組成物を含み、
前記細胞が、動物由来細胞である、細胞製剤。
【請求項8】
前記細胞は、血小板である、請求項7記載の細胞製剤。
【請求項9】
対象物に微小気泡を導入する導入工程を含み、
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLであり、
前記微小気泡は、気体として、一酸化炭素(CO)および硫化水素(HS)の少なくとも一方を含み、
前記微小気泡が気体として硫化水素(HS)を含む場合、前記微小気泡を構成する気体は、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、および硫化水素(HS)の組み合わせである場合を除く、微小気泡を含む動物由来細胞保存用対象物の製造方法。
【請求項10】
前記微小気泡は、請求項1または2に記載の組成物における微小気泡を含む、請求項9記載の動物由来細胞保存用対象物の製造方法。
【請求項11】
前記対象物は、液体および固体の少なくとも一方である、請求項9または10記載の動物由来細胞保存用対象物の製造方法。
【請求項12】
微小気泡の存在下、細胞を保存する保存工程を含み、
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLであり、
前記微小気泡は、気体として、一酸化炭素(CO)および硫化水素(HS)の少なくとも一方を含み、
前記微小気泡が気体として硫化水素(HS)を含む場合、前記微小気泡を構成する気体は、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、および硫化水素(HS)の組み合わせである場合を除き、
前記細胞が、動物由来細胞である、細胞の保存方法。
【請求項13】
前記微小気泡は、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物における微小気泡を含む、請求項12記載の細胞の保存方法。
【請求項14】
前記細胞は、血小板である、請求項12または13に記載の細胞の保存方法。
【請求項15】
対象物に微小気泡を導入する導入工程を含み、
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLであり、
前記微小気泡は、気体として、硫化水素(HS)を含み、
ただし、前記微小気泡を構成する気体は、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、および硫化水素(HS)の組み合わせである場合を除く、微小気泡を含む動物由来細胞培養用対象物の製造方法。
【請求項16】
前記微小気泡は、請求項4から6のいずれか一項に記載の組成物における微小気泡を含む、請求項15記載の動物由来細胞培養用対象物の製造方法。
【請求項17】
前記対象物は、液体および固体の少なくとも一方である、請求項15または16記載の動物由来細胞培養用対象物の製造方法。
【請求項18】
微小気泡の存在下、細胞を培養する培養工程を含み、
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLであり、
前記微小気泡は、気体として、硫化水素(HS)を含み、
ただし、前記微小気泡を構成する気体は、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、および硫化水素(HS)の組み合わせである場合を除き、
前記細胞が、動物由来細胞である、細胞の培養方法。
【請求項19】
前記微小気泡は、請求項4から6のいずれか一項に記載の組成物における微小気泡を含む、請求項18記載の細胞の培養方法。
【請求項20】
前記細胞は、血小板である、請求項18または19に記載の細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、微小気泡を含む対象物の製造方法、細胞の保存方法、細胞の培養方法、および細胞製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板製剤は、原料となる血液から製造後、3日間程度保存される。そして、前記保存期間中に使用されない場合、血小板製剤は、廃棄処分される。このように、血小板製剤は、極めて短期間の保存しかできない。このため、血小板製剤は、慢性的に不足している。また、輸血を受ける人の約8割を高齢者が占め、高齢化の進展により、今後、輸血を受ける人の数が増加すると考えられている。他方、日本では献血者が減少し、2027年には、約100万人分の献血者の血液から得られる血小板製剤が不足すると予測されている(非特許文献1)。このため、血小板等の細胞の保存方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】政府広報オンライン、“あなたもご協力を!命が救える身近なボランティア「献血」”、[online]、[平成30年5月31日検索]、インターネット<https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201307/3.html#anc02>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、細胞を保存可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の組成物は、微小気泡を含む。
【0006】
本発明の細胞保存組成物は、前記本発明の組成物を含む。
【0007】
本発明の細胞培養組成物は、前記本発明の組成物を含む。
【0008】
本発明の細胞製剤は、細胞および微小気泡を含む。
【0009】
本発明の微小気泡を含む対象物の製造方法(以下、「対象物の製造方法」ともいう)は、対象物に微小気泡を導入する導入工程を含む。
【0010】
本発明の細胞の保存方法(以下、「保存方法」ともいう)は、微小気泡の存在下、細胞を保存する保存工程を含む。
【0011】
本発明の細胞の培養方法(以下、「培養方法」ともいう)は、微小気泡の存在下、細胞を培養する培養工程を含む。
【0012】
本発明の細胞製剤の製造方法は、細胞と微小気泡とを混合することにより、細胞製剤を製造する製剤工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物によれば、細胞を保存できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1における微小気泡の製造装置を示す模式図である。
図2図2は、実施例1における細胞の生存率を示すグラフである。
図3図3は、実施例2における血小板数の増減率を示すグラフである。
図4図4は、実施例3における保存後の腎臓の尿量を示すグラフである。
図5図5は、実施例4における細胞の生存率を示すグラフである。
図6図6は、実施例5における保存後の肺の重量を示すグラフである。
図7図7は、実施例6における細胞の生存率を示すグラフである。
図8図8は、実施例7における細胞の生存率を示すグラフである。
図9図9は、実施例7における細胞の生存率を示すグラフである。
図10図10は、実施例8における細胞の生存率の相対値を示すグラフである。
図11図11は、実施例8における細胞の生存率の相対値を示すグラフである。
図12図12は、実施例8における細胞の生存率の相対値を示すグラフである。
図13図13は、実施例8における細胞の生存率の相対値を示すグラフである。
図14図14は、実施例8における細胞の生存率の相対値を示すグラフである。
図15図15は、実施例9における移植後の心臓を示す写真である。
図16図16は、実施例10における各気体を含む微小気泡の密度を示すグラフである。
図17図17は、実施例11における保存後の心臓の評価結果を示すグラフである。
図18図18は、実施例12における微小気泡の製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<組成物>
本発明の組成物は、前述のように、微小気泡を含む。本発明の組成物は、前記微小気泡を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の組成物によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、細胞保存時における細胞の生存率の低下の抑制、細胞の活性/不活性化の制御、および/または代謝の制御が可能である(以下、「細胞保存効果」ともいう)。また、本発明の組成物によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、血小板保存時における血小板数の減少を抑制または機能の保持が可能である(以下、「血小板保存効果」ともいう)。
【0016】
本発明において、「微小気泡」は、気体以外により囲まれた、気体からなる閉じた微小な空間を意味し、例えば、微細気泡ということもできる。前記微小気泡は、例えば、ファインバブルがあげられる。前記ファインバブルは、通常、気泡径が100μm未満の微小気泡を意味する。前記気泡径は、気泡の球相当径を意味する。前記気泡径は、後述の測定方法により得られる微小気泡の平均径(算術平均径)でもよい。前記ファインバブルは、マイクロバブルでもよいし、ウルトラファインバブルでもよい。前記マイクロバブルは、通常、気泡径が1μm以上、100μm未満の微小気泡を意味する。前記ウルトラファインバブルは、通常、気泡径が1μm未満の微小気泡を意味する。
【0017】
前記微小気泡は、媒体中に分散して存在する。前記微小気泡は、前記媒体の全体または一部に分散して存在する。後者の場合、前記微小気泡は、前記媒体の一部に局在するということもできる。前記媒体は、例えば、液体または固体があげられる。前記液体は、例えば、水を含む水性溶媒、油性溶媒、またはこれらの混合溶媒等があげられる。また、前記液体は、ゾルを含む。前記固体は、例えば、前記液体を凝固させたものがあげられる。また、前記固体は、ゲルを含む。前記液体および前記固体は、例えば、後述の本発明の対象物の製造方法における対象物の説明を援用できる。
【0018】
前記微小気泡は、任意の種類の気体を含んでよい。前記気体(気体成分)は、例えば、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、硫化水素(HS)、水素(H)等の生体ガス;ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の希ガス;二酸化炭素(CO)、酸素(O)、オゾン(O)、亜酸化窒素(NO)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、メタン(CH)、エタン(CHCH)、プロパン(CHCHCH)、フルオロメタン(CHF)、ジフルオロメタン(CH)、四フッ化炭素(CF)、酸化エチレン(CO)、空気等があげられる。本発明において、「生体ガス」は、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、硫化水素(HS)、もしくは水素(H)を含む気体、またはこれらのうち2種類以上を含む混合気体を意味する。前記微小気泡は、前記細胞保存効果および前記血小板保存効果をより増強できることから、COおよびHSの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。後者の場合、本発明の組成物において、各微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。前記微小気泡がCOおよびHSの少なくとも一方を含む場合、前記微小気泡は、前記細胞保存効果および前記血小板保存効果をさらに増強できることから、Oを含むことが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。本発明において、前記「空気」は、例えば、前記微小気泡を製造する際に使用した空気(大気)を意味する。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0019】
前記微小気泡の密度は、前記媒体の体積に対する微小気泡の数を意味する。前記「密度」は、個数濃度ということもできる。前記微小気泡の密度の下限値は、例えば、5×10個/mL、1×10個/mL、5×10個/mL、1×10個/mL、5×10個/mL、1×10個/mL、5×10個/mL、1×10個/mLであり、好ましくは、1×10個/mL、5×10個/mL、1×10個/mL、5×10個/mL、1×10個/mL、5×10個/mLである。前記微小気泡の密度の上限値は、例えば、1.5×10個/mL、2×10個/mL、3×10個/mL、5×10個/mL、7×10個/mL、9×10個/mL、1×1010個/mL、5×1010個/mL、1×1011個/mL、5×1011個/mL、1×1012個/mL、5×1012個/mLである。前記微小気泡の密度の範囲は、例えば、5×10個/mL~5×1012個/mL、5×10個/mL~1×1012個/mL、5×10個/mL~5×1011個/mL、5×10個/mL~1×1011個/mL、5×10個/mL~5×1010個/mL、5×10個/mL~1×1010個/mL、1×10個/mL~9×10個/mL、5×10個/mL~9×10個/mL、1×10個/mL~7×10個/mL、5×10個/mL~7×10個/mL、1×10個/mL~5×10個/mL、5×10個/mL~5×10個/mL、1×10個/mL~3×10個/mL、5×10個/mL~2×10個/mL、5×10個/mL~1.5×10個/mLである。
【0020】
前記微小気泡の密度、気泡径および平均径(以下、「特性」ともいう)は、前記微小気泡が分散されている媒体に応じて、適宜測定できる。前記微小気泡が液体の媒体に分散されている場合、前記微小気泡の特性は、本発明の組成物における気泡について粒子軌跡解析法で解析することにより算出できる。前記粒子軌跡解析法は、例えば、後述の実施例1に準じ、NanoSight(登録商標)NS300(Malvern Instrument社製)を用いて実施できる。前記微小気泡の特性は、粒子軌跡解析法以外の他の解析方法により算出してもよい。この場合、他の解析方法で得られた微小気泡の特性は、前記粒子軌跡解析法で得られる算出値に変換した際に前述の例示を満たす。前記微小気泡が固体の媒体に分散されている場合、前記微小気泡の特性は、前記媒体の固化前の液体における微小気泡の特性および固体の媒体を溶解することで得られる液体における微小気泡の特性に基づき、算出できる。
【0021】
前記気体がCOを含む場合、前記気体に占めるCOの割合は、例えば、0%を超え、100%以下、10~90%、10~80%、15~70%、20~60%、20~50%、20~40%であり、好ましくは、20~30%である。
【0022】
前記気体がHSを含む場合、前記気体に占めるHSの割合は、例えば、0%を超え、100%以下、10~90%、10~80%、15~70%、20~60%、20~50%、20~40%であり、好ましくは、20~30%である。
【0023】
前記気体がOを含む場合、前記気体に占めるOの割合は、例えば、0%を超え、100%未満、10~90%、20~90%、30~90%、40~85%、50~85%、60~85%、好ましくは、70~80%である。
【0024】
前記気体が、COおよびOを含む場合、一酸化炭素の体積(VCO)と酸素の体積(VO2)との体積比(VCO:VO2)は、例えば、1:9~9:1である。前記体積比(VCO:VO2)は、例えば、後述の細胞の保存または培養時において、前記細胞の生存率の低下を抑制でき、また、血小板保存時において、血小板の減少を抑制できることから、好ましくは、1.5:8.5~2.5:7.5、2:8~3:7である。前記体積比(VCO:VO2)は、例えば、前記空気における体積比(VCO:VO2)を除く。
【0025】
前記気体が、HSおよびOを含む場合、硫化水素の体積(VH2S)と酸素の体積(VO2)との体積比(VH2S:VO2)は、例えば、1:9~9:1である。前記体積比(VCO:VO2)は、例えば、後述の細胞の保存または培養時において、前記細胞の生存率の低下を抑制でき、また、血小板保存時において、血小板の減少を抑制できることから、好ましくは、1.5:8.5~2.5:7.5、2:8~3:7である。前記体積比(VH2S:VO2)は、例えば、前記空気における体積比(VH2S:VO2)を除く。
【0026】
本発明の組成物は、例えば、任意の気体を用いて、ファインバブル等の微小気泡の製造方法により製造できる。このため、本発明の組成物の製造方法は、例えば、任意の気体と、媒体とを用いて、微小気泡を製造する気泡製造工程を含む。具体例として、本発明の組成物が液体の場合、前記液体の組成物は、例えば、任意の気体と、前記媒体と、旋回流方式、エゼクター式、ベンチュリ式、スタティックミキサー方式、微細孔方式、加圧溶解式、または超音波キャビテーション式の微小気泡の製造装置とを用いて、製造できる。また、本発明の組成物が固体の場合、前記固体の組成物は、前記液体の組成物を、公知の方法で凝固することにより製造できる。前記固体がゲルの場合、ゲルの組成物は、例えば、前記液体の組成物を、ゲル化剤と混合することにより製造できる。前記気泡製造工程の開始時において、前記任意の気体の状態は、気体、液体、または固体である。本発明の組成物は、例えば、後述の本発明の対象物の製造方法により製造できる。前記任意の気体は、前述の気体の説明を援用できる。前記任意の気体は、複数種類の気体でもよい。この場合、各気体を別個に、前記気泡製造工程に供してもよいし、前記任意の気体の全部または一部を同時に前記気泡製造工程に供してもよい。具体例として、前記気体がCOおよびOの場合、COおよびOは、同時に導入されてもよいし、別個に導入されてもよい。
【0027】
本発明の組成物は、例えば、界面活性剤等の他の成分を含んでもよい。前記界面活性剤は、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤、または非イオン界面活性剤があげられる。前記アニオン系界面活性剤は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のモノアルキルアニオン性界面活性剤等があげられる。前記カチオン性界面活性剤は、例えば、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド等のジアルキルカチオン界面活性剤等があげられる。前記非イオン系界面活性剤は、例えば、オクチルフェノールエトキシレート等のエーテル型非イオン系界面活性剤等があげられる。本発明の組成物は、例えば、界面活性剤、好ましくは、カチオン性界面活性剤を含むことにより、前記微小気泡の密度を向上させることができる。
【0028】
本発明の組成物は、前述のように、血小板等の細胞を保存できる。このため、本発明の組成物は、例えば、細胞保存液、細胞凍結保存液等の細胞保存組成物;培地等の細胞培養組成物;細胞製剤等として好適に使用できる。
【0029】
<細胞保存組成物>
本発明の細胞保存組成物は、前述のように、前記本発明の組成物を含む。すなわち、本発明の細胞保存組成物は、微小気泡を含む。本発明の細胞保存組成物は、前記本発明の組成物を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の細胞保存組成物によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、細胞保存時における細胞の生存率の低下を抑制できる。また、本発明の細胞保存組成物によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、血小板保存時における血小板数の減少を抑制できる。本発明の細胞保存組成物によれば、例えば、後述の本発明の細胞の保存方法を簡便に実施できる。本発明の細胞保存組成物は、例えば、前記本発明の組成物の説明を援用できる。
【0030】
本発明において、「細胞」は、単離された細胞、細胞から構成される細胞シート、および細胞成分を意味し、いずれを意味してもよい。具体例として、前記細胞は、例えば、精子、卵子等の生殖細胞;embryonic stem(ES)細胞、induced pluripotent stem(iPS)細胞等の多能性細胞;赤血球、白血球等の血球系細胞;HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)、HeLa(子宮頸部類上皮腫)等の培養細胞等があげられる。前記細胞シートは、例えば、心筋シート、粘膜細胞シート等があげられる。前記細胞シートは、例えば、1種類以上の細胞シートを積層した積層体でもよい。前記細胞成分は、例えば、血小板、ミトコンドリア等があげられる。前記細胞は、例えば、生体から単離した細胞でもよいし、embryonic stem(ES)細胞、induced pluripotent stem(iPS)細胞等の多能性細胞、幹細胞等の細胞から分化および誘導することで調製した細胞、細胞シートまたは細胞成分でもよい。前記細胞は、生体の一部および臓器を除く。
【0031】
前記細胞の由来は、例えば、動物である。前記動物は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の哺乳類動物、ハエ等の非哺乳類動物があげられる。
【0032】
本発明の細胞保存組成物において、「細胞保存」は、細胞をそのままの状態に保つこと、および保存後の使用時において、前記細胞がその機能を発揮できる状態に保つことを意味し、いずれを意味してもよい。
【0033】
本発明の細胞保存組成物において、前記微小気泡は、任意の種類の気体を含んでよい。前記気体は、例えば、前記本発明の組成物における気体(気体成分)の説明を援用できる。前記微小気泡は、細胞保存時における細胞の生存率の低下をより抑制でき、血小板保存時における血小板数の減少をより抑制できることから、COおよびHSの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。後者の場合、本発明の細胞保存組成物において、各微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。前記微小気泡がCOおよびHSの少なくとも一方を含む場合、前記微小気泡は、細胞保存時における細胞の生存率の低下をさらに抑制でき、血小板保存時における血小板数の減少をさらに抑制できることから、Oを含むことが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0034】
本発明の細胞保存組成物において、前記微小気泡は、媒体中に分散して存在する。前記媒体は、例えば、液体または固体があげられる。前記液体および前記固体は、例えば、前記本発明の組成物の説明および後述の本発明の対象物の製造方法における対象物の説明を援用できる。
【0035】
本発明の細胞保存組成物において、前記微小気泡の特性、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物の説明を援用できる。
【0036】
本発明の細胞保存組成物は、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、細胞の保存に用いられる一般的な成分があげられ、例えば、緩衝剤;アミノ酸、糖、ビタミン等の栄養成分;成長因子等のタンパク質;DMSO等の凍結保存剤;塩;血清、血漿等の血液成分;前記界面活性剤;等があげられる。前記他の成分は、例えば、CELL BANKER(登録商標)、Cryostem(商標)Freezing Medium等の市販の製品を含んでもよい。
【0037】
<細胞培養組成物>
本発明の細胞培養組成物は、前述のように、前記本発明の組成物を含む。すなわち、本発明の細胞培養組成物は、微小気泡を含む。本発明の細胞培養組成物は、前記本発明の組成物を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の細胞培養組成物によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できる。本発明の細胞培養組成物によれば、例えば、後述の本発明の細胞の培養方法を簡便に実施できる。本発明の細胞培養組成物は、例えば、前記本発明の組成物および細胞保存組成物の説明を援用できる。
【0038】
本発明において、「細胞培養」は、例えば、細胞の生育、増殖および維持(継代維持)を意味し、いずれを意味してもよい。
【0039】
本発明の細胞培養組成物において、前記微小気泡は、任意の気体を含んでよい。前記気体は、例えば、前記本発明の組成物における気体(気体成分)の説明を援用できる。前記微小気泡は、細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることから、COおよびHSの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。後者の場合、本発明の細胞培養組成物において、各微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。前記微小気泡がCOおよびHSの少なくとも一方を含む場合、前記微小気泡は、細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることから、Oを含むことが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0040】
本発明の細胞培養組成物において、前記微小気泡は、媒体中に分散して存在する。前記媒体は、例えば、液体または固体があげられる。前記液体および前記固体は、例えば、前記本発明の組成物の説明および後述の本発明の対象物の製造方法における対象物の説明を援用できる。
【0041】
本発明の細胞培養組成物において、前記微小気泡の特性、気体の濃度、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物の説明を援用できる。
【0042】
本発明の細胞培養組成物は、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、例えば、細胞の培養に用いられる一般的な成分があげられる。前記他の成分は、例えば、前記本発明の細胞保存組成物における他の成分の説明を援用できる。本発明の細胞培養組成物は、例えば、前記他の成分として、抗生物質を含んでもよい。
【0043】
<細胞製剤>
本発明の細胞製剤は、前述のように、細胞および微小気泡を含む。本発明の細胞製剤は、前記細胞および前記微小気泡を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の細胞製剤によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、前記細胞製剤に含まれる細胞の生存率の低下を抑制できる。また、本発明の細胞製剤によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、前記細胞製剤に含まれる血小板の血小板数の減少を抑制できる。本発明の細胞製剤は、例えば、前記本発明の組成物、細胞保存組成物、および細胞培養組成物の説明を援用できる。
【0044】
本発明の細胞製剤において、前記微小気泡は、媒体中に分散して存在する。前記媒体は、例えば、液体または固体があげられる。前記液体および前記固体は、例えば、前記本発明の組成物の説明および後述の本発明の対象物の製造方法における対象物の説明を援用できる。
【0045】
本発明の細胞製剤において、前記細胞と前記微小気泡とは、共存しており、前記細胞製剤に含まれる細胞の生存率の低下をより抑制でき、前記細胞製剤に含まれる血小板の血小板数の減少をより抑制できることから、前記細胞と前記微小気泡とは、混在していることが好ましい。
【0046】
本発明の細胞製剤において、前記微小気泡、前記微小気泡の特性、気体の濃度、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物の説明を援用できる。また、本発明の細胞製剤は、例えば、後述の本発明の細胞製剤の製造方法により、製造できる。
【0047】
前記細胞製剤は、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、例えば、血小板等の細胞の安定化剤等があげられる。また、前記他の成分は、前記本発明の細胞保存組成物における他の成分を含んでもよい。
【0048】
<微小気泡を含む対象物の製造方法>
本発明の微小気泡を含む対象物の製造方法は、前述のように、対象物に微小気泡を導入する導入工程を含む。本発明の対象物の製造方法は、前記導入工程を含むことが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の対象物の製造方法によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、後述の細胞保存時における細胞の生存率の低下を抑制可能な対象物を製造できる。また、本発明の組成物によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、後述の血小板保存時における血小板数の減少を抑制可能な対象物を製造できる。本発明の対象物の製造方法によれば、例えば、本発明の組成物を製造できる。このため、本発明の対象物の製造方法は、本発明の組成物の製造方法ということもできる。本発明の対象物の製造方法は、例えば、前記本発明の組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、および細胞製剤の説明を援用できる。
【0049】
前記導入工程では、対象物に微小気泡を導入する。前記導入工程において、前記対象物の物性は、液体でもよいし、固体でもよい。前記液体は、ゾルを含み、前記固体は、ゾルを含む。前記対象物は、例えば、水等の水性溶媒;油性溶媒;細胞保存液、細胞凍結保存液等の細胞保存組成物;培地等の細胞培養組成物;製剤用の基剤、これらの混合溶媒等があげられる。
【0050】
前記導入工程において、前記対象物への微小気泡の導入方法は、例えば、前記対象物と、任意の気体とを用いて、前記微小気泡を導入してもよいし、前記対象物と、前記微小気泡を含む媒体とを接触させる、または混合することにより、前記微小気泡を導入してもよい。前者の場合、前記導入工程は、例えば、前記本発明の組成物における気泡製造工程と同様にして実施できる。後者の場合、前記導入工程は、例えば、前記対象物と、前記本発明の組成物とを接触させる、または混合することにより実施できる。前記導入工程は、前記細胞保存効果または前記血小板保存効果をより増強できることから、COおよびHSの少なくとも一方を用いて、前記微小気泡を導入することが好ましい。また、前記導入工程において、COおよびHSの少なくとも一方を用いて微小気泡を導入する場合、前記導入工程は、前記細胞保存効果または前記血小板保存効果をさらに増強できることから、Oを用いて、前記微小気泡を導入することが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0051】
前記対象物に導入する気体は、任意の気体である。前記任意の気体は、前記本発明の組成物における気体(気体成分)の説明を援用できる。前記任意の気体は、複数種類の気体でもよい。前記対象物に対して、複数種類の気体を含む微小気泡を導入する場合、1種類以上の気体を別個に導入してもよいし、複数種類の気体を同時に導入してもよい。具体例として、前記気体がCOおよびOの場合、COおよびOは、同時に導入されてもよいし、別個に導入されてもよい。前記対象物に導入する気体は、例えば、空気のみを除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0052】
前記導入工程において、前記対象物に導入される前記微小気泡の特性、気体の濃度、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物の説明を援用できる。
【0053】
前記導入工程は、例えば、界面活性剤の存在下で実施してもよい。前記導入工程を界面活性剤の存在下で実施することにより、得られた対象物における微小気泡の密度を向上できる。
【0054】
<細胞の保存方法>
本発明の細胞の保存方法は、前述のように、微小気泡の存在下、細胞を保存する保存工程を含む。本発明の保存方法は、前記微小気泡の存在下、前記細胞を保存する保存工程を含むことが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の保存方法によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、細胞保存時における細胞の生存率の低下を抑制できる。また、本発明の保存方法によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、血小板保存時における血小板数の減少を抑制できる。本発明の保存方法は、例えば、前記本発明の組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、および対象物の製造方法の説明を援用できる。
【0055】
前記保存工程では、微小気泡の存在下、細胞を保存する。具体的に、前記保存工程では、前記微小気泡を含む媒体の存在下、細胞を保存する。前記媒体は、例えば、前記本発明の組成物における媒体の説明および前記本発明の対象物の製造方法における対象物の説明を援用できる。具体例として、前記保存工程では、前記細胞を含む液体と前記微小気泡を含む媒体とを接触または混合し、得られた混合物を保存してもよいし、前記細胞と前記微小気泡を含む媒体とを接触または混合し、得られた混合物を保存してもよい。
【0056】
前記保存工程において、前記細胞を保存する保存条件は、例えば、前記細胞の種類および公知の保存条件に基づき、実施できる。具体例として、前記媒体が液体であり、常圧(約1013hPa)の場合、前記細胞の保存温度は、例えば、-193℃~37℃、0~37℃、4~37℃である。また、前記媒体が固体であり、常圧の場合、保存温度は、例えば、-193℃~0℃である。前記媒体が液体であり、常圧の場合、保存温度は、例えば、4~37℃である。前記細胞の保存期間の下限は、例えば、0日である。前記保存期間の上限は、特に制限されない。前記媒体が液体であり、保存温度が常温の場合、前記保存期間は、例えば、7日である。前記保存工程において、前記細胞は、無菌状態であることが好ましい。また、前記保存工程において、保存時のpHは、例えば、6.5~8.5である。
【0057】
本発明の保存方法において、前記微小気泡は、気体として、任意の気体を含んでよい。前記気体は、例えば、前記本発明の組成物における気体(気体成分)の説明を援用できる。前記微小気泡は、細胞保存時における細胞の生存率の低下をより抑制でき、血小板保存時における血小板数の減少をより抑制できることから、COおよびHSの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。後者の場合、本発明の保存方法において、各微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。前記微小気泡がCOおよびHSの少なくとも一方を含む場合、前記微小気泡は、細胞保存時における細胞の生存率の低下をさらに抑制でき、血小板保存時における血小板数の減少をさらに抑制できることから、Oを含むことが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0058】
本発明の保存方法において、前記微小気泡の特性、気体の濃度、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物および対象物の製造方法の説明を援用できる。
【0059】
<細胞の培養方法>
本発明の細胞の培養方法は、前述のように、微小気泡の存在下、細胞を培養する培養工程を含む。本発明の培養方法は、前記微小気泡の存在下、細胞を培養する培養工程を含むことが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の培養方法によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できる。本発明の培養方法は、例えば、前記本発明の組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、対象物の製造方法、および保存方法の説明を援用できる。
【0060】
前記培養工程では、微小気泡の存在下、細胞を培養する。具体的に、前記培養工程では、前記微小気泡を含む媒体の存在下、細胞を培養する。前記媒体は、例えば、前記本発明の組成物における媒体の説明および前記本発明の対象物の製造方法における対象物の説明を援用できる。具体例として、前記培養工程では、前記細胞を含む液体と前記微小気泡を含む媒体とを接触または混合し、得られた混合物を培養してもよいし、前記細胞と前記微小気泡を含む媒体とを接触または混合し、得られた混合物を培養してもよい。
【0061】
前記培養工程において、前記細胞を培養する培養条件は、例えば、前記細胞の種類および公知の培養条件に基づき、実施できる。具体例として、前記媒体が液体であり、常圧の場合、前記細胞の培養温度は、例えば、35~42℃、36~40℃、37~39℃である。CO濃度は、例えば、5~15%である。O濃度は、例えば、15~25%、20%である。前記細胞を継代しない場合、前記細胞の培養期間は、例えば、0~7日である。前記細胞を継代する場合、前記培養期間は、例えば、0~90日である。前記細胞培養は、5%程度のCO雰囲気下で実施することが好ましい。また、前記細胞培養は、湿度100%程度で実施することが好ましい。
【0062】
本発明の培養方法において、前記微小気泡は、気体として、任意の気体を含んでもよい。前記気体は、例えば、前記本発明の組成物における気体(気体成分)の説明を援用できる。前記微小気泡は、細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることから、COおよびHSの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。後者の場合、本発明の培養方法において、各微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。前記微小気泡がCOおよびHSの少なくとも一方を含む場合、前記微小気泡は、細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることから、Oを含むことが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0063】
本発明の培養方法において、前記微小気泡の特性、気体の濃度、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物および対象物の製造方法の説明を援用できる。
【0064】
<細胞製剤の製造方法>
本発明の細胞製剤の製造方法は、前述のように、細胞と微小気泡とを混合することにより、細胞製剤を製造する製剤工程を含む。本発明の細胞製剤の製造方法は、前記細胞と前記微小気泡とを混合することにより、細胞製剤を製造する製剤工程を含むことを特徴とし、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の細胞製剤の製造方法によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、得られた細胞製剤に含まれる細胞の生存率の低下をより抑制できる。本発明の細胞製剤の製造方法によれば、例えば、メカニズムは不明であるが、得られた細胞製剤に含まれる血小板数の減少をより抑制できる。また、本発明の細胞製剤の製造方法によれば、例えば、前記本発明の細胞製剤を製造できる。本発明の細胞製剤の製造方法は、例えば、前記本発明の組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、対象物の製造方法、保存方法、および培養方法の説明を援用できる。
【0065】
前記製剤工程では、前記細胞と前記微小気泡とを接触させる、または混合することにより、細胞製剤を製造する。具体例として、前記製剤工程では、前記細胞を含む液体と前記微小気泡を含む媒体とを接触または混合し、得られた混合物を前記細胞製剤としてもよいし、前記細胞と前記微小気泡を含む媒体とを接触または混合し、得られた混合物を前記細胞製剤としてもよい。また、前記製剤工程では、他の成分を添加してもよい。前記他の成分は、例えば、前記本発明の細胞製剤における他の成分の説明を援用できる。
【0066】
本発明の細胞製剤の製造方法において、前記微小気泡は、任意の気体を含んでもよい。前記気体は、例えば、前記本発明の組成物における気体(気体成分)の説明を援用できる。前記微小気泡は、得られた細胞製剤に含まれる細胞の生存率の低下をより抑制でき、得られた細胞製剤に含まれる血小板数の減少をより抑制できることから、COおよびHSの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。後者の場合、本発明の細胞製剤の製造方法において、各微小気泡は、1種類または複数種類の気体を含む。前記微小気泡が、気体としてCOおよびHSの少なくとも一方を含む場合、前記微小気泡は、得られた細胞製剤に含まれる細胞の生存率の低下をさらに抑制でき、得られた細胞製剤に含まれる血小板数の減少をさらに抑制できることから、Oを含むことが好ましい。前記微小気泡は、例えば、気体が、空気のみである場合を除く。前記微小気泡における気体は、医療用ガスグレードが存在する気体である場合、医療用ガスに由来する気体であることが好ましい。
【0067】
本発明の細胞製剤の製造方法において、前前記微小気泡の特性、気体の濃度、CO、HS、またはOの割合、体積比(VCO:VO2)、体積比(VH2S:VO2)、製造方法等は、例えば、前記本発明の組成物および対象物の製造方法の説明を援用できる。
【0068】
<微小気泡の密度向上剤>
本発明の微小気泡の密度向上剤(以下、「向上剤」ともいう)は、有効成分として、界面活性剤を含む。本発明の微小気泡の密度向上剤は、有効成分として、界面活性剤を含むことが特徴であり、その他の構成および特徴は、特に制限されない。本発明の向上剤によれば、微小気泡を含む媒体を製造する際に、得られた生産物における微小気泡の密度を向上できる。本発明の向上剤は、例えば、前記本発明の組成物、細胞保存組成物、細胞培養組成物、細胞製剤、対象物の製造方法、保存方法、および培養方法の説明を援用できる。
【0069】
本発明の向上剤の剤型は、特に制限されず、例えば、錠剤、液剤、顆粒剤、散剤等があげられる。本発明の向上剤は、界面活性剤以外の成分を含んでもよい。この場合、本発明の向上剤は、例えば、微小気泡の密度向上組成物ということもできる。
【実施例
【0070】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【0071】
[実施例1]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることを確認した。
【0072】
(1)組成物の製造
本発明の組成物は、図1に示すベンチュリ式の微小気泡の製造装置100を用いて製造した。図1に示すように、製造装置100は、モータ1を基準として、チューブ2a、ベンチュリ管3a、接続管4a、4b、チューブ2b、ベンチュリ管3b、および接続管4cが、この順序で互いに連通するように接続された循環系の流路を有する。ベンチュリ管3aの側面の突出部に形成された開口は、封止されている。また、ベンチュリ管3bの側面の突出部に形成された開口は、三方活栓5と連通するように接続されている。まず、三方活栓5を開放し、三方活栓5からDMEM培地を製造装置100内の流路に導入した。この際に、前記流路内に気体が含まれないように充填した。また、充填したDMEM培地の液量を併せて測定した。つぎに、一酸化炭素(住友精化株式会社製、CO濃度:99.999(v/v)%)および医療用酸素(住友精化株式会社製、O濃度:99.999(v/v)%)を、導入したDMEM培地100mLに対して約20mL(約10mLガス/50mL溶媒(DMEM培地))となるように前記流路に導入し、三方活栓5を閉鎖した。前記流路に導入された一酸化炭素および酸素の体積比(VCO:VO2)は、10:0、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9、または0:10とした。そして、モータ1にて、前記流路内のDMEM培地水および空気を5~10分間循環させることにより、微小気泡を形成することで、組成物を製造した。なお、モータ1で前記DMEM培地を循環させる際の流速は、3.6L/分とした。
【0073】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)により得られた組成物について、約2時間静置後、NanoSight(登録商標)NS300(Malvern Instrument社製)を用い、デフォルトのパラメータで、前記組成物の物性を測定した。なお、前記測定は、25℃で行なった。この結果、前記組成物における微小気泡の平均径は、114.8nmであり、微小気泡の密度は、6.46×10個/mLであった。
【0074】
(3)細胞の保存
ラット心臓横紋筋細胞(H9c2細胞、浜松医科大学より入手)の細胞懸濁液を、80%コンフルエント/ウェルとなるように、96ウェルディッシュに播種後、1~2日間培養した。培地の組成は、前記組成物に、10%FBS(牛胎児血清)を添加したものとした。また、培養条件は、37℃、5%COとした。なお、10%FCS添加後の培養液における微小気泡の密度は、5.81×10個/mLであると推定される。
【0075】
前記添加後、4℃の条件下で、24時間前記ディッシュを保存した。さらに、37℃、5%COの条件下で1時間培養後、MTTアッセイキット(CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay、プロメガ株式会社製)を用い、添付のプロトコルに基づき、各ウェルの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を検討した。コントロールは、10%FCS含有DMEM培地を用いた以外は同様にして、測定した。これらの結果を図2に示す。
【0076】
図2は、細胞の生存率を示すグラフである。図2において、横軸は、微小気泡が含む気体の種類および体積比(VCO:VO2)を示し、縦軸は、吸光度を示す。図2に示すように、COおよびOまたはこれらの混合気体を含む微小気泡を含む組成物は、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。また、体積比(VCO:VO2)=2:8~3:7の組成物は、細胞の生存率が著しく向上した。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることがわかった。
【0077】
[実施例2]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、血小板を保存できることを確認した。
【0078】
(1)組成物の製造
体積比(VCO:VO2)=3:7とした以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物を製造した。
【0079】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例2(1)の組成物を用い、約2時間静置した以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。この結果、前記組成物における微小気泡の平均径は、93.6nmであり、微小気泡の密度は、6.87×10個/mLであった。
【0080】
(3)血小板の保存
血小板は、ウサギの耳静脈由来の末梢血から調製した。具体的には、ウサギの耳静脈から1回につき8mLの採血後、得られた血液に対して、3mLの抗凝固液(10%ACD-A液、3.13%クエン酸ナトリウム)を加え軽く振とうした。つぎに、振とう後の血液に対して2回遠心分離を実施することにより血小板を分離した。まず、24℃の条件下で、PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)の調製法に準じて200×gで10分間遠心分離を実施した。つぎに、得られたPRPに対して、24℃の条件下で、2000×gで10分間、再度遠心分離を実施し、血小板を分離した。得られた血小板5×10個/mL~2×10個/mLに対し、微小気泡の密度が、5×10個/mLとなるように、前記組成物を添加した。得られた混合物について、常温(約25℃)で3日間保存した。また、保存開始時および保存後、1、2、または3日目において、血小板の数をカウントした。そして、保存開始時の血小板数を100%として、保存後1、2、または3日目における血小板数の増減率を算出した(実施例)。比較例は、ACD-A液を用いた以外は、同様にして血小板数の増減率を算出した。これらの結果を図3に示す。
【0081】
図3は、血小板数の増減率を示すグラフである。図3において、横軸は、保存日数を示し、縦軸は、血小板数の増減率を示す。図3に示すように、いずれの保存日数においても、実施例は、比較例と比較して、血小板数が極めて増加しており、且つ血小板数が保存日数によらず一定であった。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、血小板を保存できることがわかった。
【0082】
[実施例3]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、腎臓を保存できることを確認した。
【0083】
(1)組成物の製造
体積比(VCO:VO2)=3:7とし、DMEMに代えて、灌流保存液を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物を製造した。前記灌流保存液は、ラクテック(大塚製薬株式会社製)またはUniversity of Wisconsin(UW)液とした。以下、ラクテックおよびUW液を用いて調製された組成物を、それぞれ、組成物Lおよび組成物UWともいう。なお、前記灌流保存液と類似する生理食塩水を用いて、前記実施例1(1)および(2)と同様にして調製および測定した場合、得られた組成物における微小気泡の平均径は、131nmであり、微小気泡の密度は、8.04×10個/mLであった。このため、前記灌流保存液を用いて調製した組成物における微小気泡は、同程度の平均径および密度を示すと推定される。
【0084】
(2)腎臓の調製
死後30または40分経過したラットより腎臓を摘出し、前記組成物Lを腎臓の血管に導入することにより脱血した。前記脱血後、前記組成物UWに浸漬した。この状態で、4℃で1時間または2時間、腎臓を保存した。前記保存後の腎臓に対して、前記組成物UWを用いて体外循環を実施した。そして、体外循環開始後、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100分後において、尿管から得られた尿量(積算値)を計測することにより腎機能を評価した(実施例)。また、比較例は、前記灌流保存液を用いた以外は、同様にして腎機能を評価した。これらの結果を図4に示す。
【0085】
図4は、死後40分間経過した腎臓について、1時間保存後の腎臓の尿量を示すグラフである。図4において、横軸は、体外循環開始後の時間を示し、縦軸は、尿量を示す。図4の示すように、いずれの時間においても、実施例は、比較例と比較して、尿量が増加した。すなわち、実施例は、比較例と比較して、腎機能が維持されていることがわかった。また、実施例と比較例との尿量差は、体外循環開始後50分以降において特に顕著となった。この結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物によれば、再灌流時の腎臓障害を抑制でき、これにより、移植後に腎機能を回復できることがわかった。なお、死後30分間経過した腎臓を4℃で2時間保存した場合も同様であった。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、腎臓を保存できること、すなわち、細胞シートの積層体のような複雑な構造物を保存できることがわかった。
【0086】
[実施例4]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることを確認した。
【0087】
(1)組成物の製造
一酸化炭素および医療用酸素に代えて、硫化水素(住友精化株式会社製)および医療用酸素を用い、体積比(VH2S:VO2)=2:8とした以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物を製造した。
【0088】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例4(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。この結果、前記組成物における微小気泡の平均径は、115.8nmであり、微小気泡の密度は、8.32×10個/mLであった。
【0089】
(3)細胞の保存
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例4(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(3)と同様にして、吸光度を測定することにより、細胞の生存率を検討した。コントロールは、10%FCS含有DMEM培地を用いた以外は、同様にして測定した。これらの結果を図5に示す。
【0090】
図5は、細胞の生存率を示すグラフである。図5において、横軸は、サンプルの種類を示し、縦軸は、吸光度を示す。図5に示すように、HSを含む微小気泡を含む組成物は、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることがわかった。
【0091】
[実施例5]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、肺を保存できることを確認した。
【0092】
(1)組成物の製造
体積比(VCO:VO2)=3:7とし、DMEMに代えて、灌流保存液を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物を製造した。前記灌流保存液は、ラクテック(大塚製薬株式会社製)またはUniversity of Wisconsin(UW)液とした。以下、ラクテックおよびUW液を用いて調製された組成物を、それぞれ、組成物Lおよび組成物UWともいう。なお、前記灌流保存液と類似する生理食塩水を用いて、前記実施例1(1)および(2)と同様にして調製および測定した場合、得られた組成物における微小気泡の平均径は、131nmであり、微小気泡の密度は、8.04×10個/mLであった。このため、前記灌流保存液を用いて調製した組成物における微小気泡は、同程度の平均径および密度を示すと推定される。
【0093】
(2)肺の調製
生体のラットまたは塩化カリウムによる犠死後40分または2時間経過したラットより肺を摘出し、前記組成物Lを肺の血管に導入することにより脱血した。前記脱血後、前記組成物UWに浸漬した状態とした。この状態で、4℃で24時間、肺を保存した。前記保存後、肺の重量を測定することにより、臓器が保存できているかを評価した(実施例)。コントロール1は、摘出後保存をしなかった以外は同様にして、コントロール2は、前記組成物Lおよび組成物UWに代えて、前記ラクテックおよびUW液を用いた以外は同様にして、評価した。これらの結果を図6に示す。
【0094】
図6は、保存後の肺の重量を示すグラフである。図6において、(A)は、生体のラットから摘出した肺の結果を示し、(B)は、犠死後2時間経過したラットより肺の結果を示す。また、図6において、横軸は、サンプルの種類を示し、縦軸は、肺の重量を示す。図6に示すように、コントロール2では、肺の重量が増加しているのに対し、実施例では、肺の重量の増加が抑制されており、コントロール1と同程度であった。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物によれば、保存時における肺の重量増、すなわち、肺の浮腫を防止できることがわかった。なお、犠死後40分のラット由来の肺を用いた場合も同様であった。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、肺を保存できること、すなわち、細胞シートの積層体のような複雑な構造物を保存できることがわかった。
【0095】
[実施例6]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることを確認した。
【0096】
(1)組成物の製造
一酸化炭素および医療用酸素に代えて、空気(住友精化株式会社製)を用い、前記DMEM培地に代えて、HUVEC用培地を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物を製造した。HUVEC用培地は、EGM2(Endothelial Cell Basal Medium 2)培地を使用した。
【0097】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例6(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。この結果、前記組成物における微小気泡の平均径は、126.2nmであり、微小気泡の密度は、6.84×10個/mLであった。
【0098】
(3)細胞の保存
ヒト血管内皮細胞(HUVEC細胞、Promo Cell社より入手)を前記組成物に懸濁し、得られた細胞懸濁液を、80%コンフルエント/ウェルとなるように、96ウェルディッシュに播種した。そして、下記条件1または2で培養した。前記培養後、各細胞について、前記MTTアッセイキットを用い、添付のプロトコルに基づき、各ウェルの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を検討した。コントロールは、前記HUVEC用培地を用いた以外は同様にして、検討した。そして、コントロールの生存率を100%として、生存率の相対値を算出した。これらの結果を図7に示す。
【0099】
条件1:
組成物(微小気泡の密度:6.84×10個/mL)の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で48時間培養後、前記組成物(微小気泡の密度:6.84×10個/mL)の存在下、4℃の条件で24時間培養
条件2:
HUVEC用培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で48時間培養後、組成物(微小気泡の密度:6.84×10個/mL)の存在下、4℃の条件で24時間培養
【0100】
図7は、細胞の生存率を示すグラフである。図7において、(A)は、前記条件1の結果を示し、(B)は、前記条件2の結果を示す。また、図7において、横軸は、サンプルの種類を示し、縦軸は、生存率の相対値を示す。図7に示すように、いずれの条件においても、微小気泡を含む組成物の存在下で保存(培養)した場合、コントロールの存在下で保存(培養)した場合と比較して、細胞の生存率が向上した。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることがわかった。
【0101】
[実施例7]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることを確認した。
【0102】
(1)組成物の製造
前記DMEM培地に代えて、前記HUVEC用培地を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、異なる体積比(VCO:VO2)=0:10、1:9、2:8、3:7、6:4、7:3、8:2、9:1、または10:0の組成物を製造した。
【0103】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例7(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。この結果、前記組成物における微小気泡の平均径は、132.3nmであり、微小気泡の密度は、8.89×10個/mLであった。
【0104】
(3)細胞の保存
ヒト血管内皮細胞をHUVEC用培地に懸濁し、得られた細胞懸濁液を、96ウェルディッシュに播種した。そして、コンフルエントとなるまで培養後、さらに、下記条件3または4で培養した。前記培養後、各細胞について、前記MTTアッセイキットを用い、添付のプロトコルに基づき、各ウェルの吸光度を測定した。コントロールは、前記組成物を添加しなかった以外は同様にして、測定した。これらの結果を図8および9に示す。
【0105】
条件3:
組成物(微小気泡の密度:8.89×10個/mL)の存在下、5%CO、37℃の条件で5日間(120時間)培養後、HUVEC用培地の存在下、5%CO、37℃の条件で1時間培養
条件4:
HUVEC用培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で18時間培養後、組成物(微小気泡の密度:8.89×10個/mL)の存在下、5%CO、37℃の条件で48時間培養し、HUVEC用培地の存在下、5%CO、37℃の条件で1時間培養
【0106】
図8は、前記条件3における細胞の生存率を示すグラフである。図8において、横軸は、微小気泡が含む気体の種類および体積比(VCO:VO2)を示し、縦軸は、吸光度を示す。図8に示すように、COおよびOまたはこれらの混合気体を含む微小気泡を含む組成物は、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0107】
つぎに、図9は、前記条件4における細胞の生存率を示すグラフである。図9において、横軸は、微小気泡が含む気体の種類および体積比(VCO:VO2)を示し、縦軸は、吸光度を示す。図9に示すように、COおよびOまたはこれらの混合気体を含む微小気泡を含む組成物は、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0108】
これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、本発明の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることがわかった。
【0109】
[実施例8]
異なる気泡密度の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、異なる気泡密度の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることを確認した。
【0110】
(1)組成物の製造
前記DMEM培地に代えて、HUVEC用培地を用いた以外は前記実施例1(1)と同様にして、体積比(VCO:VO2)=3:7の組成物(組成物(CO/O2))を製造した。また、一酸化炭素および医療用酸素に代えて、前記空気を用い、前記DMEM培地に代えて、HUVEC用培地を用いた以外は前記実施例1(1)と同様にして、組成物(組成物(Air))を製造した。また、一酸化炭素および医療用酸素に代えて、硫化水素および医療用酸素を用い、体積比(VH2S:VO2)=2:8とし、前記DMEM培地に代えて、HUVEC用培地を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物(組成物(H2S/O2))を製造した。
【0111】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例8(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。この結果、各組成物における微小気泡の平均径および微小気泡の密度は、下記の通りであった。
組成物(CO/O2) 平均径:132.3nm、密度:8.89×10個/mL
組成物(Air) 平均径:126.2nm、密度:6.84×10個/mL
組成物(H2S/O2) 平均径:115.8nm、密度:8.32×10個/mL
【0112】
(3)細胞の保存
前記ラット心臓横紋筋細胞(H9c2細胞)または前記ヒト血管内皮細胞(HUVEC細胞)の細胞懸濁液を、80%コンフルエント/ウェルとなるように、96ウェルディッシュに播種後、下記条件5~9で培養した。各条件の組成物添加培地では、各組成物が所定倍率(1倍(未希釈)、1/2倍、1/5倍、1/10倍、1/50倍、1/100倍、または1/1000倍)に希釈されるように、前記組成物を添加した。前記培養後、各細胞について、前記MTTアッセイキットを用い、添付のプロトコルに基づき、各ウェルの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を検討した。コントロールは、前記組成物を添加しなかった以外は同様にして、検討した。そして、コントロールの生存率を100%として、生存率の相対値を算出した。これらの結果を図10~14に示す。
【0113】
条件5(H9c2細胞):
組成物未添加の培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で24間培養後、組成物(Air)添加後の培地の存在下、4℃の条件で6時間培養
条件6(H9c2細胞):
組成物(Air)添加後の培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で24間培養後、組成物(Air)添加後の培地の存在下、4℃の条件で6時間培養
条件7(H9c2細胞):
組成物未添加の培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で24間培養後、組成物(CO/O2)添加後の培地の存在下、5%CO、4℃の条件で6時間培養
条件8(HUVEC細胞):
組成物未添加の培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で24間培養後、組成物(Air)添加後の培地の存在下、4℃の条件で6時間培養
条件9(HUVEC細胞):
組成物未添加の培地の存在下、0.5~1%O、37℃の条件で48間培養後、組成物(H2S/O2)添加後の培地の存在下、4℃の条件で24時間培養
【0114】
図10は、前記条件5における細胞の生存率を示すグラフである。図10において、横軸は、前記組成物の希釈系列を示し、縦軸は、生存率の相対値を示す。図10に示すように、前記組成物の濃度(微小気泡の密度)依存的に、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0115】
図11は、前記条件6における細胞の生存率を示すグラフである。図11において、横軸は、前記組成物の希釈系列を示し、縦軸は、生存率の相対値を示す。図11に示すように、前記組成物の濃度(微小気泡の密度)依存的に、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0116】
図12は、前記条件7における細胞の生存率を示すグラフである。図12において、横軸は、前記組成物の希釈系列を示し、縦軸は、生存率の相対値を示す。図12に示すように、前記組成物の濃度(微小気泡の密度)依存的に、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0117】
図13は、前記条件8における細胞の生存率を示すグラフである。図13において、横軸は、前記組成物の希釈系列を示し、縦軸は、生存率の相対値を示す。図13に示すように、前記組成物の濃度(微小気泡の密度)依存的に、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0118】
図14は、前記条件9における細胞の生存率を示すグラフである。図14において、横軸は、前記組成物の希釈系列を示し、縦軸は、生存率の相対値を示す。図14に示すように、前記組成物の濃度(微小気泡の密度)依存的に、コントロールと比較して、細胞の生存率が向上した。
【0119】
以上のことから、異なる気泡密度の組成物または細胞保存組成物により、細胞の保存ができ、異なる気泡密度の細胞培養組成物により細胞培養時における細胞の生存率の低下を抑制できることがわかった。また、微小気泡の含む気体の種類によらず、微小気泡の密度依存的に、細胞保存効果が増強されることから、前記微小気泡が細胞保存効果をもたらしていることがわかった。さらに、各組成物の微小気泡の含有量から、5×10個/mL以上、好ましくは、1×10個/mL以上、より好ましくは、5×10個/mL以上、または1×10個/mL以上に微小気泡の密度を設定することにより、細胞保存効果が更に増強されることがわかった。また、後述の参考例1に示すように、実施例8において用いている組成物では、溶存気体が実質的に存在しない。さらに、後述の参考例2に示すように、静置後の組成物においても、微小気泡が存在する。したがって、溶媒中の微小気泡の密度が、細胞保存効果と関連していると推定された。
【0120】
[実施例9]
本発明の組成物または細胞保存組成物により、心臓を保存できることを確認した。
【0121】
(1)組成物の製造
体積比(VCO:VO2)=3:7とし、前記蒸留水に代えてET-Kyoto液(ETK、大塚製薬株式会社製)を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、組成物を製造した。
【0122】
(2)組成物の特性
前記ETKと類似する生理食塩水を用いて前記組成物を調製した場合、得られた組成物における微小気泡の平均径は、131nmであり、微小気泡の密度は、8.04×10個/mLであった。このため、前記ETKを用いて調製した組成物における微小気泡は、同程度の平均径および密度を示すと推定される。
【0123】
(3)心臓の調製
6週齢のLEW/SsN Slc雄ラット(n=5)に、50mg/kg(薬剤/体重)となるようペントバルビタール(共立製薬社製)を投与し、深麻酔を行った。つぎに、前記ラットから心臓を摘出した。さらに、前記心臓の大動脈および肺動脈を切開後、前記組成物を注入して血液を除き、心臓を調製した。
【0124】
(4)心臓の保存
心臓の保存は、特開2015-174823号公報の保存装置を用いて実施した。具体的には、特開2015-174823号公報の図2の保存装置内に、蒸留水が入ったフラスコを配置した。さらに、前記フラスコ内に生体材料吊り下げ手段を配置し、前記生体材料吊り下げ手段に前記心臓を吊り下げた。そして、医療用ガス供給手段により、前記保存室内の一酸化炭素の分圧(PCO)が、0.15MPa、酸素の分圧(PO)が、0.2MPaとなるように一酸化炭素および酸素を供給した。そして、この状態で、心臓を4℃の冷蔵庫内で48時間保存した。
【0125】
前記保存後、前記心臓をラットに移植し、前記心臓の大きさおよび拍動を確認した。コントロール1は、前記組成物に代えて、微小気泡を含まないETKを用いて灌流した以外は同様にして実施した。また、コントロール2は、前記組成物に代えて、COおよびOを溶解したETKを用いて灌流した以外は同様にして実施した。なお、COおよびOを溶解したETKは、密閉容器内にCOおよびOとEKTを導入後、容器を密閉し、10分間転倒混和することにより調製した。これらの結果を図15に示す。
【0126】
図15は、移植後の心臓を示す写真であり、図15の左上に示す図は、前記保存装置における保存状態を示す模式図である。図15において、(A)は、コントロール1の結果を示し、(B)は、前記組成物を用いた結果を示し、(C)は、コントロール2の結果を示す。図15に示すように、前記組成物を用いて心臓を灌流し、保存した場合、コントロール1および2と比較して、心臓の鬱血による腫脹または浮腫が抑制されており、保存前の心臓の大きさが維持されていた。また、コントロール1では、心臓の拍動が確認できず、コントロール2では、心臓の拍動がほとんど確認できなかった。これに対して、前記組成物を用いて心臓を灌流し、保存した場合、前記心臓の拍動が確認できた。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、心臓を保存できること、すなわち、細胞シートの積層体のような複雑な構造物を保存できることがわかった。
【0127】
[実施例10]
気体の種類によらず、同程度の密度の微小気泡を含む組成物が製造できることを確認した。
【0128】
(1)組成物の製造
一酸化炭素および医療用酸素に加えて、二酸化炭素(住友精化株式会社製)および窒素(住友精化株式会社製)を用い、前記DMEM培地に代えて生理食塩水を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、気体として、酸素、一酸化炭素、酸素および一酸化炭素の混合気体、二酸化炭素または窒素を含む微小気泡を含む組成物を製造した。なお、気体以外の製造条件は全て同じとした。
【0129】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例10(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。なお、各組成物について、3回、同様の測定を実施した。この結果、前記組成物における各気体を含む微小気泡の平均径は、下記のとおりであった。各気体の微小気泡の密度を図16に示す。
組成物(O2) 平均径:104.5nm
組成物(CO) 平均径:117.0nm
組成物(CO/O2) 平均径:112.3nm
組成物(CO2) 平均径:117.5nm
組成物(N2) 平均径:132.7nm
【0130】
図16は、各気体を含む微小気泡の密度を示すグラフである。図16において、横軸は、微小気泡が含む気体の種類を示し、縦軸は、微小気泡の密度を示す。図16に示すように、同条件で製造した場合、微小気泡に導入する気体の種類によらず、微小気泡の密度は、約1×10個/mLであった。これらの結果から、気体の種類によらず、同程度の密度の微小気泡を含む組成物が製造できることがわかった。
【0131】
[実施例11]
本発明の組成物または細胞保存組成物で心臓を前処理することにより、心臓を保存できることを確認した。
【0132】
(1)組成物の製造
前記DMEM培地に代えて、前記生理食塩水を用いた以外は、前記実施例1(1)と同様にして、異なる体積比(VCO:VO2)=10:0の組成物を製造した。
【0133】
(2)組成物の特性
前記実施例1(1)の組成物に代えて、前記実施例11(1)の組成物を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、測定した。この結果、前記組成物における微小気泡の平均径は、約100nmであり、微小気泡の密度は、約1×10個/mLであった。
【0134】
(3)心臓の前処理
6週齢のLEW/SsN Slc雄ラット(n=6)に、50mg/kg(薬剤/体重)となるようペントバルビタール(共立製薬社製)を投与し、深麻酔を行った。つぎに、前記ラットから心臓を摘出した。さらに、前記心臓の大動脈および肺動脈を切開し、摘出した。
【0135】
(4)心臓の保存
つぎに、得られた心臓に対して、前記組成物を注入して血液を除き、心臓を前処理した。前記前処理後、前記心臓に対して、UW液を注入して灌流した。そして、前記心臓を、UW液に浸漬し、4℃の冷蔵庫内で24時間保存した。
【0136】
前記保存後、前記心臓をラットに移植し、前記拍動を確認した。前記拍動は、心室および心房の両者で拍動が生じているか、心室のみで拍動が生じているかに基づき評価した。具体的には、心臓の心室および心房の両者が拍動している場合、心臓の機能が維持されていると評価し、心臓の心室のみが拍動している場合、心臓の機能が維持されていないと評価した。コントロールは、前記組成物に代えて、微小気泡を含まない生理食塩水を用いて灌流した以外は同様にして実施した。これらの結果を図17に示す。
【0137】
図17は、保存後の心臓の評価結果を示すグラフである。図17において、横軸は、サンプルの種類を示し、縦軸は、サンプル数を示す。図17に示すように、本発明の組成物で前処理を行なった実施例の心臓では、6例中4例で心臓の機能が維持されていたのに対して、コントロールの心臓では、6例中1例のみが、保存後も心臓の機能を維持していた。なお、図示していないが、実施例の心臓は、鮮紅色であり、心臓内の血液循環が良好であることが示唆されたのに対して、コントロールの心臓は、暗褐色であり、心臓内の血液循環が悪く、還元型ヘモグロビンが心筋間に貯留していることが示唆された。これらの結果から、本発明の組成物で心臓を前処理することにより、心臓を保存できることがわかった。これらの結果から、本発明の組成物または細胞保存組成物により、心臓を保存できること、すなわち、細胞シートの積層体のような複雑な構造物を保存できることがわかった。
【0138】
[実施例12]
界面活性剤存在下で微小気泡を製造することにより、溶媒中の微小気泡の密度を向上できることを確認した。
【0139】
カチオン性界面活性剤であるジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(富士フィルム和光純薬株式会社製)を10mmol/Lとなるように添加した蒸留水と図18の製造装置200とを用いて、本発明の組成物を製造した。図18に示すように、製造装置200は、2つのシリンジ20a、b(10mLシリンジ)と、ベンチュリ式の三方活栓21(狭窄部を有する三方活栓)とを備える。2つのシリンジ20a、bは、その先端部が三方活栓21と嵌合している。まず、シリンジ20a、bを三方活栓21から解除した。つぎに、シリンジ20aの内部に、前記カチオン性界面活性剤を含有する蒸留水5mLをシリンジ20a内に空気が含まれないように導入し、再度、三方活栓21と嵌合させた。前記嵌合後、シリンジ20a内の蒸留水を三方活栓21に導入し、三方活栓21のシリンジ20bの嵌合口まで押し出した。他方、シリンジ20bに対して、シリンジ20aに導入した蒸留水5mLに対して約5mLとなるように、空気を導入し、再度、三方活栓21と嵌合させた。その後、シリンジ20a、b内でピストンを10回往復(約2秒/1回往復)させ、さらにシリンジ21a、bを5~10秒間超音波処理(60W)した。同様の処理をさらに2回実施することにより、組成物(実施例12-1)を製造した。また、前記カチオン性界面活性剤を添加しなかった以外は同様にして、組成物(実施例12-2)を製造した。さらに、前記ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリドに代えて、100mmol/Lとなるように、アニオン系界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム(SDS、和光純薬株式会社製)を、または10mmol/Lとなるように非イオン系界面活性剤であるオクチルフェノールエトキシレート(Triton X-100、和光純薬株式会社製)を添加した以外は同様にして、組成物(SDS:実施例12-3、Triton X-100:実施例12-4)を製造した。そして、得られた各組成物について、前記実施例1(2)と同様にして、前記組成物の物性を測定した。なお、前記測定は、25℃で行なった。この結果、実施例12-1の組成物における微小気泡の平均径は、222.1nmであり、微小気泡の密度は、1.79×1012個/mLであった。実施例12-2の組成物における微小気泡の平均径は、109.8nmであり、微小気泡の密度は、1.30×1010個/mLであった。実施例12-3の組成物における微小気泡の平均径は、92.5nmであり、微小気泡の密度は、1.01×1010個/mLであった。実施例12-4の組成物における微小気泡の平均径は、111.8nmであり、微小気泡の密度は、5.78×10個/mLであった。これらの結果から、界面活性剤、特に、カチオン性界面活性剤の存在下で、微小気泡を製造することにより、溶媒中の微小気泡の密度を向上できることがわかった。
【0140】
[参考例1]
実施例1~12の組成物において、微小気泡を形成していない気体が実質的に存在しないことを確認した。
【0141】
図1に示すベンチュリ式の微小気泡の製造装置100を用いて、参考例1で使用する組成物を製造した。まず、図1の装置100内に40mLの超純水(Milli-Q水)を導入後、装置100を揺らすことにより、装置100内の気泡を装置100外に除外した。つぎに、5mLの一酸化炭素をシリンジに採取後、三方活栓5に接続した。そして、モータ1の駆動開始後、三方活栓5を開放し、装置100内に一酸化炭素を導入した。この状態で、5、10、または30分間、モータ1を駆動させ、組成物を製造した。モータ1の駆動停止後、得られた組成物をビーカに回収した。回収時の組成物の温度は、27℃(5分間循環)、29~30℃(10分間循環)、38~39℃(30分間循環)であった。前記組成物を30分間静置し、大きな気泡を脱気させた。
【0142】
脱気後の組成物について、さらに、所定時間(0、1、2または3時間)静置し、静置後の組成物に含まれる一酸化炭素の量を下記GC(ガスクロマトグラフ)の測定条件で測定した。一酸化炭素は、一酸化炭素をメタン化後、得られたメタンを測定することにより測定した。また、一酸化炭素に代えて、硫化水素を用い、5分間モータ1を駆動させ、脱気後の組成物について、所定時間(0、1、2、3または19時間)静置後、下記GCの測定条件で測定することにより、前記組成物に含まれる硫化水素の量を測定した。なお、所定時間経過後の各組成物について、レーザポインタを用いて、微小気泡が含有されていることを確認した。一酸化炭素の測定結果を下記表1に、硫化水素の結果を下記表2に示す。
【0143】
(GC条件(一酸化炭素))
装置: GC-2014 FID(島津製作所社製)
充填剤の種類:MS-13X(Molecular Sieve 13X)(ジーエルサイエンス株式会社製)
カラムの種類:島津GC用ステンレスカラム(内径3mm、長さ3m、島津製作所社製)
温度
気化器:220℃
カラム:50℃
検出器:250℃
キャリア
(窒素ガス)
流量:20mL/分
メタナイザー:400℃
【0144】
(GC条件(硫化水素))
装置: GC-2014 FPD(島津製作所社製)
カラムの種類:5rings Shimalite(登録商標)TPA(Polyphenyl Ether(5 rings) OS-124/Shimalite TPA)
(内径3.2mm、長さ3.1m、信和化工株式会社製)
温度
気化器:200℃
カラム
開始温度:50℃
開始温度での保持時間:3分間
昇温速度:50℃/分
終了温度:100℃
終了温度での保持時間:5分間
検出器:250℃
キャリア
(窒素ガス)
流量:20mL/分
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
前記表1に示すように、前記組成物中の一酸化炭素は、静置後、急速に脱気し、1時間後以降は、ほぼ検出限界未満の量となった。また、前記表2に示すように、前記組成物中の硫化水素は、静置後、急速に脱気し、2時間後以降は、ほぼ検出限界未満の量となった。
【0148】
これらの結果から、実施例1~12の組成物は、製造後約2時間静置し、使用していることから、微小気泡以外の気体が実質的に存在しないこと、すなわち、溶存気体が実質的に存在しないことがわかった。また、溶存気体が存在しないことから、各実施例で証明されている細胞保存効果または血小板保存効果等は、本発明の組成物に含まれる微小気泡の作用によることが確認された。
【0149】
[参考例2]
実施例1~12の組成物において、使用時に微小気泡が存在していることを確認した。
【0150】
40mLの超純水に代えて、50mLの生理食塩水を用い、5mLのCOに代えて10mLのCOを用いた以外は、参考例1と同様にして、参考例2で使用する組成物を製造した。得られた組成物を30分間静置し、大きな気泡を脱気させた後、さらに、所定時間(0、1、2、3、4、5または6時間)静置し、静置後の組成物に含まれる微小気泡の密度および平均径を前記実施例1(2)と同様にして測定した(参考例2-1)。同様の組成物の製造および測定を、さらに2回実施した(参考例2-2および2-3)。これらの結果を下記表3に示す。
【0151】
【表3】
【0152】
前記表3に示すように、静置後1~2時間において、参考例2-1~2-3のいずれの組成物においても、約1×10個/mLの微小気泡を含んでいた。また、静置後1~2時間における微小気泡の平均径は、組成物の製造後における微小気泡の平均径から大きな変化はなかった。これらの結果から、実施例1~12の組成物は、製造後約2時間静置し、使用していることから、約1×10個/mLの微小気泡を含むことがわかった。また、前記微小気泡を含むことから、各実施例で証明されている細胞保存効果または血小板保存効果等は、本発明の組成物に含まれる微小気泡の作用によることが確認された。
【0153】
[参考例3]
Oを含む組成物において、製造後1時間の時点で微小気泡を形成していない気体が実質的に存在しないことを確認した。
【0154】
一酸化炭素に代えて、医療用NO(住友精化株式会社製、NO濃度:99.999(v/v)%)を用い、5分間、モータ1を駆動させた以外は、前記参考例1と同様にして組成物を製造した。モータ1の駆動停止後、得られた組成物をビーカに回収した。回収時の組成物の温度は、27℃であった。前記組成物を30分間静置し、大きな気泡を脱気させた。
【0155】
脱気後の組成物について、さらに、所定時間(0または1時間)静置し、静置後の組成物に含まれるNOの量を下記GC(ガスクロマトグラフ)の測定条件で測定した(n=3、サンプル1~3)。なお、所定時間経過後の各組成物について、レーザポインタを用いて、微小気泡が含有されていることを確認した。この結果を下記表4に示す。
【0156】
(GC条件(NO))
装置: GC-2014 TCD(島津製作所社製)
充填剤の種類:Porapak(登録商標)Q(ジーエルサイエンス株式会社製)
カラムの種類:島津GC用ステンレスカラム(内径3mm、長さ2m、島津製作所社製)
温度
気化器:150℃
カラム:40℃
検出器:100℃
キャリア
He(ヘリウムガス)
流量:30mL/分
【0157】
【表4】
【0158】
前記表4に示すように、前記組成物中のNOは、静置後、急速に脱気し、1時間で、検出限界未満の量となった。これらの結果から、製造後約1時間静置して使用した場合、微小気泡以外の気体が実質的に存在しないこと、すなわち、溶存気体が実質的に存在しないことがわかった。
【0159】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【0160】
この出願は、2018年5月31日に出願された日本出願特願2018-105404および2018年12月3日に出願された日本出願特願2018-226901を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【0161】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
微小気泡を含む、組成物。
(付記2)
前記微小気泡は、水素(H)、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、酸素(O)、オゾン(O)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、窒素(N)、空気、メタン(CH)、エタン(CHCH)、プロパン(CHCHCH)、フルオロメタン(CHF)、ジフルオロメタン(CH)、四フッ化炭素(CF)、および酸化エチレン(CO)からなる群から選択された少なくとも1つを含む、付記1記載の組成物。
(付記3)
前記微小気泡は、気体として、生体ガスを含む、付記1または2記載の組成物。
(付記4)
前記微小気泡は、気体として、一酸化炭素(CO)および硫化水素(HS)の少なくとも一方を含む、付記1から3のいずれかに記載の組成物。
(付記5)
前記微小気泡は、気体として、酸素を含む、付記4記載の組成物。
(付記6)
前記微小気泡の密度は、5×10~5×1012個/mLである、付記1から5のいずれかに記載の組成物。
(付記7)
さらに、媒体を含み、
前記媒体は、液体および固体の少なくとも一方である、付記1から6のいずれかに記載の組成物。
(付記8)
付記1から7のいずれかに記載の組成物を含む、細胞保存組成物。
(付記9)
付記1から7のいずれかに記載の組成物を含む、細胞培養組成物。
(付記10)
細胞および微小気泡を含む、細胞製剤。
(付記11)
前記微小気泡は、付記1から7のいずれかに記載の組成物における微小気泡を含む、付記10記載の細胞製剤。
(付記12)
前記細胞は、血小板である、付記10または11記載の細胞製剤。
(付記13)
対象物に微小気泡を導入する導入工程を含む、微小気泡を含む対象物の製造方法。
(付記14)
前記微小気泡は、付記1から7のいずれかに記載の組成物における微小気泡を含む、付記13記載の対象物の製造方法。
(付記15)
前記対象物は、液体および固体の少なくとも一方である、付記13または14記載の対象物の製造方法。
(付記16)
微小気泡の存在下、細胞を保存する保存工程を含む、細胞の保存方法。
(付記17)
前記微小気泡は、付記1から7のいずれかに記載の組成物における微小気泡を含む、付記16記載の細胞の保存方法。
(付記18)
前記細胞は、血小板である、付記16または17記載の細胞の保存方法。
(付記19)
微小気泡の存在下、細胞を培養する培養工程を含む、細胞の培養方法。
(付記20)
前記微小気泡は、付記1から7のいずれかに記載の組成物における微小気泡を含む、付記19記載の細胞の培養方法。
(付記21)
細胞と微小気泡とを混合することにより、細胞製剤を製造する製剤工程を含む、細胞製剤の製造方法。
(付記22)
前記微小気泡は、付記1から7のいずれかに記載の組成物における微小気泡を含む、付記21記載の細胞製剤の製造方法。
(付記23)
有効成分として、界面活性剤を含む、微小気泡の密度向上剤。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上説明したように、本発明によれば、細胞を保存できる。また、本発明は、例えば、細胞保存時における細胞の生存率の低下を抑制できる。このため、本発明は、例えば、細胞の保存、培養等を実施する生命科学分野、医療分野、医薬分野等において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
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図16
図17
図18