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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】CD3陽性細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20231110BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231110BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20231110BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20231110BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C07K16/28
C07K14/78
C07K14/54
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2020535880
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2019031390
(87)【国際公開番号】W WO2020032179
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018151580
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019042666
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019117878
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】河合 洋平
(72)【発明者】
【氏名】有馬 寿来留
(72)【発明者】
【氏名】滝口 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】中山 和英
(72)【発明者】
【氏名】葛西 義明
(72)【発明者】
【氏名】林 哲
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-124568(JP,A)
【文献】国際公開第2007/040105(WO,A1)
【文献】特開2008-035864(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221975(WO,A1)
【文献】特表2018-514204(JP,A)
【文献】特表2017-535292(JP,A)
【文献】特表2018-513692(JP,A)
【文献】特表2018-506983(JP,A)
【文献】PODACK, Eckhard R. et al.,CD30-Governor of Memory T Cells?,ANNALS NEW YORK ACADEMY OF SCIENCES,2002年,Vol. 975,p. 101-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、CD30アゴニストならびにIL-21および/またはアポトーシス阻害剤の存在下、CD3陽性細胞を培養する工程(I)を含む、CD3陽性細胞の製造方法。
【請求項2】
CD3/TCR複合体アゴニストおよびフィブロネクチンまたはその改変体の非存在下、かつCD30アゴニストならびにIL-21および/またはアポトーシス阻害剤の存在下、工程(I)で培養されたCD3陽性細胞を培養する工程(II)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CD3陽性細胞が、多能性幹細胞由来である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多能性幹細胞が、iPS細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CD3陽性細胞が、キメラ抗原受容体発現CD3陽性細胞である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記CD3陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記CD3陽性CD8陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記CD3陽性細胞が、γTCR陽性および/またはδTCR陽性細胞である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記CD3/TCR複合体アゴニストが、CD3アゴニストおよび/またはTCRアゴニストである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記CD3アゴニストが、抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片が、抗ヒトCD3モノクローナル抗体UCHT1またはその結合断片である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記TCRアゴニストが、抗TCR抗体またはその結合断片、HLA/ペプチド複合体またはその多量体、およびHLA/スーパー抗原複合体またはその多量体からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片が、培養容器に固相化されている、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
前記抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片の固相化が、1 ng/ml~50000 ng/mlの該抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片を培養容器に接触させることによって行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フィブロネクチンまたはその改変体が、レトロネクチン(登録商標)である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記レトロネクチン(登録商標)が、培養容器に固相化されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記レトロネクチン(登録商標)の固相化が、1~150 μg/mLの該レトロネクチン(登録商標)を培養容器に接触させることによって行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記CD30アゴニストが、抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片およびCD30リガンドまたはその結合断片からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片が、培地に含有されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記培地中の前記抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片の濃度が、1 ng/ml~1000 ng/mlである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
培地が、IL-7、IL-15およびIL-18から選択される少なくとも1つ以上を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
培地が、IL-7、IL-15およびIL-18を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
培地が、さらにTL1Aおよび/またはIL-12を含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記製造されたCD3陽性細胞が、さらにCD197陽性である、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、CD30アゴニストならびにIL-21および/またはアポトーシス阻害剤の存在下、CD3陽性細胞を培養する工程を含む、CD3陽性細胞の拡大培養方法。
【請求項26】
以下を含む、CD3陽性細胞の拡大培養用キット。
(1)CD3/TCR複合体アゴニスト、および
フィブロネクチンまたはその改変体
が固相化された培養容器、ならびに
(2)CD30アゴニストならびにIL-21および/またはアポトーシス阻害剤を含有する培地。
【請求項27】
IL-21および/またはアポトーシス阻害剤を含有する培地中でCD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する工程を含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持する方法。
【請求項28】
前記CD3陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記CD3陽性CD8陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
刺激する工程で用いられる培地が、IL-7、IL-15およびIL-18から選択される少なくとも1つ以上を含む、請求項2729のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
刺激する工程で用いられる培地が、IL-7、IL-15およびIL-18を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
刺激する工程で用いられる培地が、さらにTL1Aおよび/またはIL-12を含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
CD30アゴニストならびにIL-21および/またはアポトーシス阻害剤を含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下、CD3陽性細胞を培養する工程を含む、CD3陽性細胞(またはCD3陽性CD197陽性細胞)の製造方法または拡大培養方法およびCD3陽性細胞の拡大培養用キットに関する。本発明はまた、CD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する工程を含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持する方法およびCD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持用キットに関する。
【0002】
(発明の背景)
従来の治療法が奏功しないがんに対しても強い延命効果を示すことが明らかとなった免疫療法は、がん治療の主役になろうとしている。抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入した自己T細胞を移入するCART療法は、B細胞悪性腫瘍に対して高い完全寛解率を示し、2017年にB細胞性急性リンパ芽球性白血病とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象とした2つのCART療法がFDAより承認された。また、がん細胞抗原を認識するT細胞受容体(TCR)遺伝子を導入したTCR-T細胞療法も、多くの臨床試験が進行中である。これらの患者自身(自己)のT細胞を利用した遺伝子改変T細胞療法は、非常に優れた臨床成績を示す一方で、T細胞の輸送と遺伝子改変、細胞培養などを含み、数週間以上かかる煩雑なプロセスがコスト抑制と品質管理を難しくしている上に、進行の早いがん患者の治療機会喪失を招くため、オフザシェルフ(既製品)同種T細胞療法の開発が強く求められている。患者から回収したT細胞の拡大培養方法としては、これまでに、T細胞集団に抗CD3アゴニスト抗体および抗CD30アゴニスト抗体を接触させることにより、CD8陽性Tc1リンパ球またはCD8陽性Tc2リンパ球を製造する方法(特許文献1)や、がん患者からT細胞集団を取得し、該T細胞集団に抗CD3アゴニスト抗体、抗CD28抗体およびVEGF阻害剤を接触させることにより、腫瘍特異的T細胞を拡大培養する方法(特許文献2)が報告されている。しかしながら、健常人もしくは患者由来のT細胞は増殖能が限られており、一回のアフェレシスで回収可能なT細胞から製造可能な遺伝子改変T細胞数は限定されている。また、TCRの刺激によりT細胞を拡大培養した場合、ナイーブ細胞、メモリーT細胞の細胞表面マーカーであるCCR7 (CD197)の発現が一過的に上昇するものの、その後数日で消失していくことが報告されている(非特許文献1)。また、メモリーT細胞であること(“T cell persistence”)が、in vivo抗腫瘍活性において重要であること、メモリーT細胞であるCARTの投与細胞数を上げることにより、高いin vivo抗腫瘍効果が認められたことが報告されている(非特許文献2)。従って、T細胞を拡大培養した結果得られる細胞集団のCD197発現が低い場合は、がん治療に好適ではなかった。
【0003】
一方、iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞から分化させたT細胞(分化T細胞)は、理論上無限に増殖可能な多能性幹細胞を原材料としているため、理論上は無制限に遺伝子改変T細胞を製造可能である。しかしながら、多能性を維持させながらiPS細胞を拡大培養する方法は、高いコストが必要であり、かつ技術的な困難性も伴うため、iPS細胞を大量に増殖させて、そこから分化T細胞、特にCD197陽性のT細胞を取得する方法には限界があった。結果として、T細胞、特にCD197陽性のT細胞を大量に取得するための別のアプローチが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2003/038062号
【文献】米国公開第2014/0255368号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sallusto et al., Eur. J. Immunol. vol. 29, 2037-2045, 1999
【文献】Kaartinen et al., Cytotherapy vol. 19, 689-702, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、分化T細胞、特にCD197陽性のT細胞を安定的に供給可能にするために、T細胞マーカーであるCD3が細胞膜上に発現しているCD3陽性細胞の製造方法または拡大培養方法および拡大培養用キットを提供することである。本発明の別の目的は、CD197陽性T細胞を維持するための方法およびCD197陽性のT細胞の維持用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)を固相化した培養容器上で抗CD30アゴニスト抗体を含有する培地を用いて、TCR遺伝子を導入したiPS細胞から得られたCD8陽性T細胞(iPS細胞由来CD8陽性T細胞)を培養した場合、該T細胞を効率よく増殖できることを見出した。さらに、該培養方法によって前記iPS細胞由来CD8陽性T細胞を繰り返し増殖させても、T細胞の増殖効率や抗原特異的細胞傷害活性に影響を与えないことを確認した。また、抗CD30アゴニスト抗体を用いて前記iPS細胞由来CD8陽性T細胞を培養した場合、抗CD30アゴニスト抗体を用いなかった場合に比べて、CD197の発現割合が高く、増殖したT細胞がセントラルメモリーT細胞として存在していることを見出した。また、iPS細胞由来CD8陽性T細胞と同様に、ヒト末梢血由来CD8陽性T細胞および抗CD19-CAR遺伝子を導入したiPS細胞由来CD8陽性T細胞(iPS細胞由来抗CD19-CART細胞)もまた、抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)を固相化した培養容器上で培養する場合、培地に抗CD30アゴニスト抗体を添加することによって効率よく増殖させることができた。さらに、抗CD30アゴニスト抗体を用いて前記ヒト末梢血由来CD8陽性T細胞または前記iPS細胞由来抗CD19-CART細胞を培養した場合、抗CD30アゴニスト抗体を用いなかった場合に比べて、CD197の発現が長期間に亘り維持され、前記ヒト末梢血由来CD8陽性T細胞に関しては生体内でも長期間生存できることを見出した。以上の発見から、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下を提供する。
[1]CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下、CD3陽性細胞を培養する工程(I)を含む、CD3陽性細胞の製造方法。
[2]CD3/TCR複合体アゴニストおよびフィブロネクチンまたはその改変体の非存在下、かつCD30アゴニストの存在下、工程(I)で培養されたCD3陽性細胞を培養する工程(II)をさらに含む、[1]に記載の方法。
[3]前記CD3陽性細胞が、多能性幹細胞由来である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記多能性幹細胞が、iPS細胞である、[3]に記載の方法。
[5]前記CD3陽性細胞が、キメラ抗原受容体発現CD3陽性細胞である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]前記CD3陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性細胞である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7]前記CD3陽性CD8陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞である、[6]に記載の方法。
[8]前記CD3陽性細胞が、γTCR陽性および/またはδTCR陽性細胞である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9]前記CD3/TCR複合体アゴニストが、CD3アゴニストおよび/またはTCRアゴニストである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10]前記CD3アゴニストが、抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片である、[9]に記載の方法。
[11]前記抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片が、UCHT1クローンから産生される抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片である、[10]に記載の方法。
[12]前記TCRアゴニストが、抗TCR抗体またはその結合断片、HLA/ペプチド複合体またはその多量体、およびHLA/スーパー抗原複合体またはその多量体からなる群より選択される少なくとも一つである、[9]に記載の方法。
[13]前記抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片が、培養容器に固相化されている、[10]または[11]に記載の方法。
[14]前記抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片の固相化が、1 ng/ml~50000 ng/mlの該抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片を培養容器に接触させることによって行われる、[13]に記載の方法。
[15]前記フィブロネクチンまたはその改変体が、レトロネクチン(登録商標)である、[1]~[14]のいずれか1つに記載の方法。
[16]前記レトロネクチン(登録商標)が、培養容器に固相化されている、[15]に記載の方法。
[17]前記レトロネクチン(登録商標)の固相化が、1~150 μg/mLの該レトロネクチン(登録商標)を培養容器に接触させることによって行われる、[16]に記載の方法。
[18]前記CD30アゴニストが、抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片およびCD30リガンドまたはその結合断片からなる群より選択される少なくとも一つである、[1]~[17]のいずれか1つに記載の方法。
[19]前記抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片が、培地に含有されている、[18]に記載の方法。
[20]前記培地中の前記抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片の濃度が、1 ng/ml~1000 ng/mlである、[19]に記載の方法。
[21]培地が、IL-7、IL-15、IL-18およびIL-21から選択される少なくとも1つ以上を含む、[1]~[20]のいずれか1つに記載の方法。
[22]培地が、IL-7、IL-15、IL-18およびIL-21を含む、[21]に記載の方法。
[23]培地が、さらにTL1Aおよび/またはIL-12を含む、[21]または[22]に記載の方法。
[24]前記製造されたCD3陽性細胞が、さらにCD197陽性である、[1]~[23]のいずれか1つに記載の方法。
[25][1]~[24]のいずれか1つに記載の方法によって得られるCD3陽性細胞。
[26]CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下、CD3陽性細胞を培養する工程を含む、CD3陽性細胞の拡大培養方法。
[27]以下を含む、CD3陽性細胞の拡大培養用キット。
(1)CD3/TCR複合体アゴニスト、および
フィブロネクチンまたはその改変体
が固相化された培養容器、ならびに
(2)CD30アゴニストを含有する培地。
[28]CD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する工程を含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持する方法。
[29]前記CD3陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性細胞である、[28]に記載の方法。
[30]前記CD3陽性CD8陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞である、[29]に記載の方法。
[31]刺激する工程で用いられる培地が、IL-7、IL-15、IL-18およびIL-21から選択される少なくとも1つ以上を含む、[28]~[30]のいずれか1つに記載の方法。
[32]刺激する工程で用いられる培地が、IL-7、IL-15、IL-18およびIL-21を含む、[31]に記載の方法。
[33]刺激する工程で用いられる培地が、さらにTL1Aおよび/またはIL-12を含む、[31]または[32]に記載の方法。
[34]CD30アゴニストを含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持用キット。
[35]抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体であって、該細胞内シグナル伝達ドメインがCD30の細胞内シグナル伝達ドメインまたはその改変体を含む、キメラ抗原受容体。
[36][35]に記載のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む、核酸。
[37][36]に記載の核酸を含む、キメラ抗原受容体発現ベクター。
[38][37]に記載のキメラ抗原受容体発現ベクターを含む、キメラ抗原受容体発現細胞。
[39]前記キメラ抗原受容体発現細胞が、CD3陽性細胞である、[38]に記載の細胞。
[40][38]または[39]に記載の細胞を含む医薬。
[41][35]に記載のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防又は治療に使用するための、[40]に記載の医薬。
[42][38]または[39]に記載の細胞を含有してなる、[35]に記載のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する細胞の殺傷剤。
[43][35]に記載のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防又は治療に使用するための、[38]または[39]に記載の細胞。
[44][35]に記載のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防剤又は治療剤を製造するための、[38]または[39]に記載の細胞の使用。
[45][38]または[39]に記載の細胞を投与することを含む、[35]に記載のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防又は治療方法。
【発明の効果】
【0009】
CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下でCD3陽性細胞を培養することによって、効率よくT細胞を製造または拡大培養することができる。また、上記の培養によって製造または拡大培養されたCD3陽性細胞は、CD197陽性細胞であるため、遺伝子改変T細胞療法に用いた場合に、長期の薬効が期待できる。また、CD3陽性細胞のCD30シグナルを刺激することによって、該細胞をCD197陽性細胞として長期間維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ELISA法を用いて測定した、抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)の固相化に適した濃度を示す図である。
図2】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激後12日目のiPSC由来T細胞数(ATP量で測定)を示す図である。
図3】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)または抗CD3/CD28ビーズによって刺激されたiPSC由来T細胞の増殖曲線を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図4】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激されたiPSC由来T細胞の刺激回数ごとの増殖曲線を示す図である。
図5】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激によって増殖したiPSC由来T細胞の抗原特異的細胞傷害活性を示す図である。
図6】抗CD30アゴニスト抗体の添加による、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激されたiPSC由来T細胞の増殖亢進を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図7】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)、または固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による1回目の刺激を実施したiPSC由来T細胞の増殖試験終了後に、再度同様に刺激(2回目の刺激)を実施した際のiPSC由来T細胞の増殖曲線を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の2回目の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図8】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)、または固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後、7日目のiPSC由来T細胞膜表面上のCD197とCD45RAの発現を示す図である。
図9】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激によって増殖したiPSC由来T細胞の抗原特異的細胞傷害活性を示す図である。
図10】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)、または固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体によって刺激されたヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の増殖曲線を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図11】各種IL、抗CD30抗体を含む抗CD3/CD28ビーズによる刺激後のヒト末梢血由来CD8陽性T細胞膜表面上のCD197の発現を示す図である。
図12】各種IL、抗CD30抗体を含む抗CD3/CD28ビーズによる刺激後のヒト末梢血由来CD8陽性T細胞を、放射線照射した免疫不全マウスに静脈から移植投与した4週後のマウス血中および脾臓、骨髄中に生存するヒトCD8陽性T細胞の数を示す図である。
図13】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標) および抗CD30アゴニスト抗体によって刺激されたiPS細胞由来T細胞(iPS-T)およびiPS細胞由来抗CD19-CART細胞(iPS-CART anti-CD19)の増殖曲線を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図14】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)、または固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体によって刺激されたiPS細胞由来抗CD19-CART細胞の増殖曲線を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図15】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)、または固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体によって刺激されたiPS細胞由来抗CD19-CART細胞膜表面上のCD197の発現を示す図である。
図16】抗CD30アゴニスト抗体の添加による、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激されたiPS細胞由来抗CD19-CART細胞の、CD19発現Raji細胞に対する細胞傷害活性を示す図である。
図17】CD30由来細胞内ドメインを含むiPS細胞由来抗CD19-CART細胞(iCD19-CD30-CART)のCD19発現Raji細胞に対する細胞傷害活性を示す図である。
図18】抗CD30アゴニスト抗体の添加による、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激された、非T細胞由来iPS細胞から分化させたγδT細胞(iγδT細胞)の細胞増殖を示す図である。縦軸は細胞増殖倍率を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図19】抗CD30アゴニスト抗体の添加による、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激された、抗CD19-CARγδT細胞に (iCARγδT細胞)の細胞増殖を示す図である。縦軸は細胞数を示し、横軸は上記の刺激を開始した日からの経過日数を示す。
図20】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激によって増殖したiCD19CAR/IL-15γδT細胞の抗原特異的細胞傷害活性を示す図である。
図21】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激によって増殖したiCD19CAR/IL-15γδT細胞による、ヒトCD19発現腫瘍担がんマウスの生存日数延長効果を示す図である。
図22】固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激によって増殖したiCD19CAR/IL-15αβT細胞による抗腫瘍効果を示す図である。
図23】ELISA法を用いて測定した、抗CD3アゴニスト抗体(UCHT1)およびレトロネクチン(登録商標)の固相化に適した濃度を示す図である。
図24】固相化抗CD3アゴニスト抗体(UCHT1)/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後13日目のiPSC由来T細胞の増殖率を示す図である。
【0011】
(発明の詳細な説明)
本明細書において、「遺伝子の発現」には、該遺伝子の特定のヌクレオチド配列からmRNAが合成されること(転写又はmRNAの発現ともいう)及び該mRNAの情報に基づきタンパク質が合成されること(翻訳又はタンパク質の発現ともいう)の両方が包含されるものであるが、特に断らない限り、「遺伝子の発現」又は単なる「発現」はタンパク質の発現を意味するものとする。
【0012】
本明細書において、「陽性」とは、タンパク質又はmRNAが当該分野で公知の手法による検出可能量で発現していることを意味する。タンパク質の検出は、抗体を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA法、免疫染色法、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリーを利用して行うことができる。また、当該タンパク質とともにレポータータンパク質を発現させ、当該レポータータンパク質を検出することによって対象とするタンパク質を検出できる。また該当タンパク質の機能を検出すること(例えば該当タンパク質が転写因子の場合は該当タンパク質が発現を制御する遺伝子を検出する、該当タンパク質が酵素の場合は該当タンパク質が触媒する基質もしくは生成物を検出するなど)で、タンパクの存在を検出することができる。mRNAの検出は、例えば、RT-PCR、マイクロアレイ、バイオチップ及びRNAseq等の核酸増幅方法及び/又は核酸検出方法を利用して行うことができる。
【0013】
本明細書において、「陰性」とは、タンパク質又はmRNAの発現量が、上記のような公知手法の全てあるいはいずれかによる検出下限値未満であることを意味する。タンパク質又はmRNAの発現の検出下限値は、各手法により異なりえる。
【0014】
本明細書において、「培養」とは、細胞をインビトロ環境において維持し、増殖させ(成長させ)、かつ/又は分化させることを指す。「培養する」とは、組織外又は体外で、例えば、細胞培養ディッシュ又はフラスコ中で細胞を維持し、増殖させ(成長させ)、かつ/又は分化させることを意味する。
【0015】
本明細書において、「拡大培養」とは、所望の細胞集団を増殖させ、細胞数を増加させることを目的として培養することを意味する。細胞数の増加は、細胞の増殖による増数が死滅による減数を超えることによって達成されるものであればよく、細胞集団の全ての細胞が増殖することを要さない。細胞数の増加は、拡大培養の開始前に比して1.1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、300倍、500倍、1,000倍、3,000倍、5,000倍、10,000倍、100,000倍、1,000,000倍以上でありうる。
【0016】
本明細書において、「刺激」とは、ある物質が種々の受容体等に結合してその下流のシグナル経路を活性化することを意味する。
【0017】
本明細書において、「富化する」とは、細胞の組成物などの組成物中の特定の構成成分の量を増加させることを指し、「富化された」とは、細胞の組成物、例えば、細胞集団を説明するために使用される場合、特定の構成成分の量が、富化される前の細胞集団におけるそのような構成成分の割合と比較して増加している細胞集団を指す。例えば、細胞集団などの組成物を、標的細胞型に関して富化することができ、したがって、標的細胞型の割合は、富化される前の細胞集団内に存在する標的細胞の割合と比較して増加する。細胞集団は、当技術分野で公知の細胞選択及び選別方法によって、標的細胞型について富化することもできる。細胞集団は、本明細書に記載した特定の選別又は選択プロセスによって富化することもできる。本発明の特定の実施形態では、標的細胞集団を富化する方法により、細胞集団が標的細胞集団に関して少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%富化される。
【0018】
本明細書において、「細胞集団」とは、同じ種類又は異なる種類の2以上細胞を意味する。「細胞集団」は、同じ種類又は異なる種類の細胞の一塊(mass)をも意味する。
【0019】
本発明は、CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下、CD3陽性細胞を培養する工程を含む、CD3陽性細胞の製造方法または拡大培養方法(以下、本発明の製造方法または拡大培養方法と記載する)を提供する。
CD3/TCR複合体アゴニストおよびCD30アゴニストにより、それぞれCD3/TCR複合体およびCD30を刺激することができる。
【0020】
本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞は、細胞膜にCD3を発現する細胞であれば特に制限されない。前記CD3陽性細胞は、好ましくは、CD3陽性CD8陽性細胞(CD3陽性CD8陽性CD4陽性細胞またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞)、より好ましくは、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞である。また、別の好ましい前記CD3陽性細胞としては、CD3陽性CD4陽性細胞(CD3陽性CD4陽性CD8陽性細胞またはCD3陽性CD4陽性CD8陰性細胞)が挙げられる。
さらに、本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞は、培養前においてCD30陽性であってもよいし、培養中にCD30陽性に分化してもよい。従って、前記CD3陽性細胞が培養前においてCD30陽性である場合は、前記CD3陽性細胞は、好ましくは、CD3陽性CD8陽性CD30陽性細胞(CD3陽性CD8陽性CD4陽性CD30陽性細胞またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性CD30陽性細胞)、より好ましくは、CD3陽性CD8陽性CD4陰性CD30陽性細胞である。また、別の好ましい前記CD3陽性細胞としては、CD3陽性CD4陽性CD30陽性細胞(CD3陽性CD4陽性CD8陽性CD30陽性細胞またはCD3陽性CD4陽性CD8陰性CD30陽性細胞)が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法または拡大培養方法において、製造または拡大培養された結果として得られるCD3陽性細胞は、細胞膜にCD3を発現する細胞であれば特に制限されず、本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞と同様の細胞が挙げられる。さらに、前記製造または拡大培養されたCD3陽性細胞は、好ましくは、さらにCD197陽性である。前記製造または拡大培養されたCD3陽性細胞がさらにCD197陽性である場合、当該細胞は、具体的には、CD3陽性CD8陽性CD197陽性細胞(CD3陽性CD8陽性CD4陽性CD197陽性細胞またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性CD197陽性細胞)、より好ましくは、CD3陽性CD8陽性CD4陰性CD197陽性細胞である。あるいは、当該細胞は、CD3陽性CD4陽性CD30陽性CD197陽性細胞(CD3陽性CD4陽性CD8陽性CD30陽性CD197陽性細胞またはCD3陽性CD4陽性CD8陰性CD30陽性CD197陽性細胞)である。CD3陽性細胞のうち、CD197陽性細胞は、CD45RAの発現の有無に応じて、ステムセルメモリーT細胞またはセントラルメモリーT細胞に分類され、エフェクターT細胞を供給できる自己増殖能の高いT細胞であるため、抗腫瘍免疫において好適である。
前記製造または拡大培養されたCD3陽性細胞は、好ましくは、さらにCD197陽性CD45RA陰性である。前記製造または拡大培養されたCD3陽性細胞がさらにCD197陽性CD45RA陰性である場合、当該細胞は、具体的には、CD3陽性CD8陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞(CD3陽性CD8陽性CD4陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性CD197陽性CD45RA陰性細胞)、より好ましくは、CD3陽性CD8陽性CD4陰性CD197陽性CD45RA陰性細胞である。あるいは、当該細胞は、CD3陽性CD4陽性CD30陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞(CD3陽性CD4陽性CD8陽性CD30陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞またはCD3陽性CD4陽性CD8陰性CD30陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞)である。CD3陽性細胞のうち、CD197陽性CD45RA陰性細胞は、特にセントラルメモリーT細胞とも呼ばれる。
【0022】
CD3は、T細胞の成熟過程において発現し、T細胞受容体(T cell receptor、TCR)とさらに大きな複合体(CD3/TCR複合体)を形成する分子であり、T細胞マーカーとしても知られており、γ、δ、ε、ζ鎖の4種類のポリペプチドの複合体である。また、CD3と複合体を形成するTCRは、T細胞内へシグナルを伝達する分子であり、α鎖(TCRα)、β鎖(TCRβ)、γ鎖(TCRγ)およびδ鎖(TCRδ)のうちの二つからなる二量体が挙げられ、TCRαとTCRβからなるヘテロダイマー(αβTCR)、TCRγとTCRδからなるヘテロダイマー(γδTCR)、同一のTCR鎖からなるホモダイマーが挙げられる。生体内においてCD8は、CD3と同様、T細胞の成熟過程において発現し、成熟の初期段階においてはCD4と共に発現するが、細胞傷害性T細胞への分化に伴い、CD4の発現のみが喪失する。CD8は、CD3/TCR複合体の共受容体として機能し、MHCクラスI/抗原ペプチドを認識する分子であり、α鎖ポリペプチドからなるホモ二量体またはα、β鎖の2種類のポリペプチドのヘテロ二量体である。生体内においてCD4は、T細胞の成熟の初期段階においてはCD8と共に発現するが、ヘルパーT細胞への分化に従い、CD8の発現のみが喪失する。CD8と同様、CD4もまたCD3/TCR複合体の共受容体として機能するが、CD8と異なり、MHCクラスII/抗原ペプチドを認識する分子である。CD30は、活性化リンパ球(T細胞及びB細胞)に発現する分子として知られており、細胞外ドメインとして6つのcyctein-rich pseudo-repeat motifを有し、細胞内ドメインとして、NFκBシグナルを刺激するTNF受容体関連因子(TRAF)結合配列を有する。CD197およびCD45RAは、T細胞において、ナイーブT細胞あるいはステムセルメモリーT細胞(CD197陽性、CD45RA陽性)、セントラルメモリーT細胞(CD197陽性、CD45RA陰性)、エフェクターメモリーT細胞(CD197陰性、CD45RA陰性)、エフェクターT細胞(CD197陰性、CD45RA陽性)を区別するためのマーカー分子として用いられている。
【0023】
本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞は、哺乳動物から採取した細胞であっても、多能性幹細胞を分化させて得られる細胞であってよいが、好ましくは、多能性幹細胞を分化させて得られる細胞である。
【0024】
CD3陽性細胞が哺乳動物から採取した細胞である場合、該細胞は、例えば、アフェレシスにより哺乳動物から末梢血単核細胞(PBMC)を回収した後、抗CD3抗体カラムや密度勾配遠心法などを用いることによってCD3陽性細胞を単離および回収することができる。CD3陽性細胞を回収するための哺乳動物としては、ヒト、又はヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、サル等)が挙げられるが、ヒトが好ましい。
【0025】
CD3陽性細胞が多能性幹細胞を分化することによって得られる細胞である場合、多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)が挙げられるが、好ましくはES細胞またはiPS細胞(より好ましくはヒトiPS細胞)である。
【0026】
多能性幹細胞がES細胞である場合、自体公知の方法で作製することができる。ES細胞の作製方法としては、例えば、哺乳動物の胚盤胞ステージにおける内部細胞塊を培養する方法(例えば、Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994)を参照)、体細胞核移植によって作製された初期胚を培養する方法(Wilmut et al., Nature, 385, 810(1997);Cibelli et al.,Science, 280, 1256(1998);入谷明ら, 蛋白質核酸酵素, 44, 892(1999);Baguisi etal., Nature Biotechnology, 17, 456(1999);Wakayama et al., Nature, 394, 369(1998);Wakayama et al., Nature Genetics, 22, 127(1999);Wakayama et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 96, 14984(1999);RideoutIII et al., Nature Genetics, 24,109(2000))などが挙げられるが、これらに限定されない。また、ES細胞は、所定の機関より入手でき、さらには市販品を購入することもできる。例えば、ヒトES細胞株は、H1、H7、H9、H13およびH14については米国のWiCell Research Institute、HES1~6についてはオーストラリアのES Cell International、SA002、SA181およびSA611についてはスウェーデンのCellartis AB、HUES1~17については米国のHUES Cell Facility、KhES-1~KhES-5については京都大学再生医科学研究所、SEES1~SEES7については国立成育医療研究センターより、それぞれ入手可能である。ES細胞を体細胞核移植により作製する場合、体細胞の種類や体細胞を採取するソースは下記iPS細胞作製の場合に準ずる。
【0027】
多能性幹細胞がiPS細胞である場合、iPS細胞は、体細胞に核初期化物質を導入することにより作製することができる。iPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、マウス又はヒト)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよい。例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝/貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、及びそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度に特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、例えば、脂肪由来間質(幹)細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0028】
iPS細胞の作製のために体細胞に導入される核初期化物質としては、これまでに報告されている種々の初期化遺伝子の組合せ(例えば、WO 2007/069666、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007)、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)、Nature, 451, 141-146 (2008)、Science, 318, 1917-1920 (2007)、Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)、Cell Research (2008) 600-603、Nature 454: 646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2: 525-528(2008)、WO2008/118820、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)、Science, 324: 797-801 (2009)を参照)が挙げられる。また、上記初期化遺伝子によってコードされるタンパク質を、核初期化物質として体細胞に導入することもできる(Cell Stem Cell, 4: 381-384(2009)、Cell Stem Cell, doi:10.1016/j.stem.2009.05.005 (2009))。とりわけ、得られるiPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた場合、Oct3/4, Sox2およびKlf4の3因子の組み合わせが好ましい。
【0029】
iPS細胞コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法(Cell, 126, 663-676 (2006)、Nature, 448, 313-317 (2007))や目視による形態観察による方法(Cell, 131, 861-872 (2007))により行うことができる。iPS細胞であることの確認は、各種ES細胞特異的遺伝子の発現やテラトーマ形成を指標として行うことができる。
【0030】
現在、iPS細胞(iPSC)にはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPSC(Takahashi K, Yamanaka S., Cell, (2006) 126: 663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPSC(Takahashi K, Yamanaka S., et al. Cell, (2007) 131: 861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPSC(Okita, K., Ichisaka, T., and Yamanaka, S. (2007). Nature 448, 313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPSC(Nakagawa M, Yamanaka S., et al. Nature Biotechnology, (2008) 26, 101 - 106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPSC(Okita K et al. Nat. Methods 2011 May;8(5):409-12, Okita K et al. Stem Cells. 31(3):458-66.)等も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4、SOX2、NANOG、LIN28の4因子を導入して樹立されたiPSC(Yu J., Thomson JA. et al., Science (2007) 318: 1917-1920.)、Daleyらにより作製されたiPSC(Park IH, Daley GQ. et al., Nature (2007) 451: 141-146)、桜田らにより作製されたiPSC(特開2008-307007号)等も用いることができる。
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y., Ding S., et al., Cell Stem Cell, (2008) Vol3, Issue 5,568-574;、Kim JB., Scholer HR., et al., Nature, (2008) 454, 646-650;Huangfu D., Melton, DA., et al., Nature Biotechnology, (2008) 26, No 7, 795-797)、あるいは特許(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、WO2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知のiPSCのいずれも用いることができる。
人工多能性幹細胞株としては、NIH、理研、京都大学等が樹立した各種iPSC株が利用可能である。例えば、ヒトiPSC株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株等、京都大学の253G1株、253G4株、1201C1株、1205D1株、1210B2株、1383D2株、1383D6株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株、1231A31株、FfI-01s04株等が挙げられ、1231A3株が好ましい。
【0031】
CD3陽性細胞が多能性幹細胞を分化することによって得られる細胞である場合、CD3陽性細胞において発現されるTCRは、TCRα、TCRβ、TCRγおよびTCRδのうちの二つからなる二量体が挙げられ、TCRαとTCRβからなるヘテロダイマー(αβTCR)、TCRγとTCRδからなるヘテロダイマー(γδTCR)、同一のTCR鎖からなるホモダイマーが挙げられる。これらのTCRは内因性の二量体であってもよいし、外因性の二量体であってもよいが、好ましくは、外因性のTCRαおよび外因性のTCRβを含む二量体である。
本明細書において、「外因性のTCR」とは、外因性のTCRαと外因性のTCRβからなるヘテロダイマー、外因性のTCRγと外因性のTCRδからなるヘテロダイマー、および/または外因性の同一のTCR鎖からなるホモダイマーである。
TCRが、内因性のTCRαおよび内因性のTCRβを含む二量体である場合は、多能性幹細胞が、内因性のTCRαをコードする塩基配列を含む核酸および内因性のTCRβをコードする塩基配列を含む核酸を含む細胞から作製された多能性幹細胞であってよい。そのような細胞としては、例えば、T細胞(CD8陽性CD4陰性細胞、CD8陰性CD4陽性細胞、CD4陽性CD8陽性細胞など)が挙げられる。また、TCRが、外因性のTCRαおよび外因性のTCRβを含む二量体である場合は、多能性幹細胞が、外因性のTCRαをコードする塩基配列を含む核酸および外因性のTCRβをコードする塩基配列を含む核酸を含む細胞であってよい。
本明細書において、「外因性のTCR核酸」とは、外因性のTCRαをコードする塩基配列を含む核酸、外因性のTCRβをコードする塩基配列を含む核酸、外因性のTCRγをコードする塩基配列を含む核酸、および/または外因性のTCRδをコードする塩基配列を含む核酸である。
【0032】
外因性のTCR核酸(例えば、外因性のTCRαをコードする塩基配列を含む核酸および外因性のTCRβをコードする塩基配列を含む核酸)を、多能性幹細胞に導入する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0033】
外因性のTCR核酸がDNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクターには、外因性のTCRが発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV (cytomegalovirus)プロモーター、RSV (Rous sarcoma virus)プロモーター、MoMuLV (Moloney mouse leukemia virus) LTR、HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよび薬剤応答性プロモーターが例示される。薬剤応答性プロモーターとは、対応する薬剤の存在下で遺伝子を発現するTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、reverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を同時に発現させることで、対応する薬剤(例えば、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンが例示される)の存在下で遺伝子発現を誘導する様式を用いることが好ましい。さらに好ましくは、同一ベクターにTREプロモーターならびにrtetRおよびVP16ADの融合遺伝子を発現する様式を併せ持つベクターである。
【0034】
本発明において、外因性のTCRαおよび外因性のTCRβを同時に発現させるために、ポリシストロニックに発現させる様式を用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRESまたは口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい。
【0035】
他の態様として、上記ベクターには、染色体内に取り込まれた外因性のTCRをコードする配列を必要に応じて切除するために、この発現カセット(プロモーター、遺伝子配列およびターミネーターを含む遺伝子発現単位)の前後にトランスポゾン配列を有していてもよい。トランスポゾン配列として特に限定されないが、piggyBacが例示される。他の態様として、発現カセットを除去する目的のため、発現カセットの前後にloxP配列またはFRT配列を有してもよい。
【0036】
外因性のTCR核酸がRNAの形態の場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入しても良い。
【0037】
本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞はまた、キメラ抗原受容体を発現する細胞であってよい。
【0038】
本発明において「キメラ抗原受容体(CAR)」とは、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含む融合タンパク質を意味する。CARの抗原結合ドメインは、抗体の可変領域の軽鎖(VL)と重鎖(VH)を、リンカー(例:GSリンカー)を介して直列に結合させた短鎖抗体(scFv)を含む。CARを発現させたCD3陽性細胞は、scFv領域で抗原を認識した後、その認識シグナルを細胞内シグナル伝達ドメインを通じて細胞内に伝達する。CD3陽性細胞にCARを導入することにより、目的の抗原に対する特異性を付与することが可能となる。また、CARはHLAクラスIまたはクラスIIに依存せずに抗原分子を直接認識することができるため、HLAクラスIまたはクラスII遺伝子の発現が低下した細胞に対しても高い免疫反応を起こすことが可能である。
【0039】
上記CARが標的とする抗原としては、例えば腫瘍抗原が挙げられるが、これに限定されない。腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原(TSA)であっても、腫瘍関連抗原(TAA)であってもよい。かかる腫瘍抗原としては、具体的には、MART-1/MelanA(MART-I)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、WT1、Glypican-3、MAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15などの腫瘍特異的多系列抗原、CEAなどの胎児抗原、p53、Ras、HER-2/neuなどの過剰発現される腫瘍遺伝子または突然変異した腫瘍抑制遺伝子、BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなどの染色体転座に起因する固有の腫瘍抗原、並びに、エプスタイン・バーウイルス抗原EBVA並びにヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7などのウイルス抗原からなる群から選択される1種以上の抗原が挙げられる。その他の腫瘍抗原としては、CD19、CD20、EGP2、erB2,3,4、GD2、GD3、Mesothelin、PSMA、8H9、Lewis-Y、MUC1、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4、Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791Tgp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3/CA 27.29/BCAA、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68/P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733/EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90/Mac-2結合タンパク質/シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLPおよびTPSが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
CARの膜貫通ドメインとしては、例えば、TCRのα鎖、β鎖若しくはζ鎖、CD28、CD3ε鎖、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、4-1BB(CD137)およびCD154からなる群から選択されるタンパク質に由来する膜貫通ドメインなどが挙げられるが、その中でもCD8に由来する膜貫通ドメインが好ましく挙げられる。また、例えば、抗原結合ドメインに連結される最初の細胞内シグナル伝達ドメインが由来する分子に由来する膜貫通ドメインもまた好ましく使用される。例えば、抗原結合ドメインに連結される最初の細胞内シグナル伝達ドメインが由来する分子がCD28である場合、膜貫通ドメインもまたCD28に由来してもよい。あるいは、人為的に設計した膜貫通ドメインを用いてもよい。
【0041】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインとしては、例えば、FcRγ鎖、FcRβ鎖、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ζ鎖、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dからなる群から選択される1種以上のタンパク質に由来する細胞内ドメインが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインが好ましい。CD3ζ鎖の細胞内ドメインに含まれるITAMのチロシンリン酸化が引き起こされると、細胞内Ca2+濃度の上昇、サイトカイン分泌などの一連の応答が示され、最終的には細胞分裂がおこり、CD3陽性細胞がCTLとして細胞傷害活性を示すようになる。また、細胞内シグナル伝達ドメインには、さらに共刺激分子の細胞内ドメインが含まれていてもよく、かかる共刺激分子としては、例えば、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83からなる群から選択される1種以上のタンパク質の細胞内ドメインが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、CD28、4-1BB(CD137)、CD30に由来する細胞内ドメインが好ましい。CD28は、IL-2産生を増大させることによってT細胞の増殖を促進する結合させることができる。また、4-1BBは、T細胞活性化の最終段階において引き起こされるアポトーシスを抑制することによってメモリー細胞への分化を促すことができる。CD30は、CD3抗体でCD3陽性細胞の増殖をさらに向上させ、かつCD197陽性細胞として長期間維持することが可能となる。共刺激分子の種類や数を選択することにより、CARの活性の強さや持続時間をコントロールすることができる(例えば、Mol Ther. 2009;17:1453-1464.)。細胞内シグナル伝達ドメインに1種以上の細胞内ドメインが含まれる場合、その順番は制限されない。
【0042】
CARの抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCARの細胞内シグナル伝達ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサーを組み入れてもよく、該スペーサーとしては、通常300アミノ酸以下、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸からなるペプチドを用いることができる。具体的には、IgG1由来のヒンジ領域や、免疫グロブリンのCH2CH3領域とCD3の一部を含むペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
具体的なCARとしては、scFvと、CD3ζ鎖とをスペーサーを介して結合した第1世代のCAR、T細胞に対する活性化能を増強するため、第1世代のCARのscFvとCD3ζ鎖との間に、CD28に由来する膜貫通ドメインと細胞内ドメインが組み込まれた第2世代のCAR、並びに、第2世代のCARのCD28の細胞内ドメインとCD3ζ鎖との間に、CD28とは異なる共刺激分子(4-1BBまたはOX40)の細胞内ドメインが組み込まれた第3世代のCARが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞はさらに、CARおよびIL-15とIL-15Rαの融合タンパク質(IL-15/IL-15Rα)を共発現する細胞であってよい。IL-15/IL-15Rαと共に発現するCARは上記のCARと同様であってよい。
【0045】
本発明において「IL-15/IL-15Rα」とは、IL-15とIL-15Rαとを含む融合タンパク質を意味する。IL-15によるシグナル伝達系では、通常、抗原提示細胞上に発現しているIL-15RαがIL-15と結合し、CD8陽性CD4陰性細胞上のRβとγcからなるIL-15受容体にIL-15を提示すること(trans-presentation)によりCD8陽性CD4陰性細胞の細胞傷害活性が維持される。従って、IL-15/IL-15Rαを発現するCD3陽性細胞は、該細胞がCD8陽性CD4陰性である場合、IL-15受容体を介して自己の細胞内にIL-15シグナルを伝えることができる。あるいは、IL-15/IL-15Rαを発現するCD3陽性細胞は、IL-15受容体を介して他のCD8陽性CD4陰性細胞内にIL-15シグナルを伝えることができる。以上の通り、IL-15/IL-15Rαは、CD8陽性CD4陰性細胞の細胞傷害活性を維持可能であるため、CARの標的となる細胞に対する継続的な細胞傷害効果を期待できる。
【0046】
IL-15/IL-15Rαは、膜貫通型タンパク質であっても分泌型タンパク質であってもよい。IL-15Rαは、成熟型タンパク質のN末端から1-65アミノ酸のIL-15結合ドメインが、IL-15と結合するための責任領域であることが知られている(Wei X. et al., J. Immunol., 167:277-282, 2001)。従って、膜貫通型タンパク質は、IL-15結合ドメインを保持し、かつIL-15Rαの膜貫通ドメインを保持するタンパク質であればよい。一方、分泌型タンパク質としては、IL-15結合ドメインを保持し、かつIL-15Rαの膜貫通ドメインを欠失したタンパク質であればよい。
【0047】
IL-15/IL-15Rαは、IL-15とIL-15Rαとの間にスペーサーを組み入れてもよく、該スペーサーとしては、通常300アミノ酸以下、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは20~50アミノ酸からなるペプチドを用いることができる。具体的には、GSリンカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
IL-15/IL-15Rαとしては、IL-15とIL-15Rαをスペーサーを介して結合したペプチドであれば特に制限されないが、具体的には配列番号8からなるペプチドが挙げられる。あるいは、IL-15/IL-15Rとしては、IL-15受容体と結合し、IL-15シグナルを細胞内に伝達できる限り制限されないが、例えば、配列番号8に示されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247:1306-1310 (1990)を参照)。本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
【0049】
本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞にキメラ抗原受容体および/またはIL-15/IL-15Rαを発現させる場合、CAR核酸および/またはIL-15/IL-15Rα核酸を、細胞(例えば、多能性幹細胞)に導入する方法は特に限定されないが、例えば、TCR核酸を導入する方法と同一の方法を用いることができる。
【0050】
本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞が多能性幹細胞を分化させることによって得られる細胞である場合、自体公知の方法に従って多能性幹細胞をCD3陽性細胞に分化させることができる。多能性幹細胞をCD3陽性細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2016/076415号および国際公開第2017/221975号に記載されている。多能性幹細胞をCD3陽性細胞に分化させる具体的な方法としては、例えば、(1)多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程、および(2)該造血前駆細胞をCD3陽性細胞に分化させる工程を含み得る。
【0051】
(1)多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程
工程(1)において、造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cell(s)(HPC))とは、CD34陽性細胞を意味し、好ましくは、CD34陽性CD43陽性細胞である。本工程(1)において、造血前駆細胞と造血幹細胞は、区別されるものではなく、特に断りがなければ同一の細胞を示す。
【0052】
多能性幹細胞から造血前駆細胞への分化方法としては、造血前駆細胞へ分化できる限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2013/075222号、国際公開第2016/076415号およびLiu S. et al., Cytotherapy, 17 (2015);344-358などに記載されているように、造血前駆細胞への誘導培地中で多能性幹細胞を培養する方法が挙げられる。
【0053】
工程(1)において、造血前駆細胞への誘導培地は、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、ダルベッコ培地(例:IMDM)、イーグル培地(例:DMEM、EMEM、BME、MEM、αMEM)、ハム培地(例:F10培地、F12培地)、RPMI培地(例:RPMI-1640培地、RPMI-1630培地)、MCDB培地(例:MCDB104、107、131、151、153培地)、フィッシャー培地、199培地、霊長類ES細胞用培地(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、マウスES細胞用培地(TX-WES培養液、トロンボX社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology者)、ReproFF、StemSpan(登録商標)SFEM、StemSpan(登録商標)H3000、StemlineII、ESF-B培地、ESF-C培地、CSTI-7培地、Neurobasal培地(ライフテクノロジー社)、StemPro-34培地、StemFit(登録商標)(例:StemFit AK03N, StemFit AK02N)などが挙げられるがこれに限定されるものではない。さらに、これらの培地は、必要に応じて、混合等して使用することもでき、例えば、DMEM/F12培地等が挙げられる。基礎培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。基礎培地には、10~20%の血清(ウシ胎仔血清(FBS)、ヒト血清、ウマ血清)または血清代替物(KSRなど)、インスリン、各種ビタミン、L-グルタミン、非必須アミノ酸等の各種アミノ酸、2-メルカプトエタノール、各種サイトカイン(インターロイキン類(IL-2、IL-7、IL-15等)、幹細胞因子(SCF (Stem cell factor))、アクチビンなど)、各種ホルモン、各種増殖因子(白血病抑制因子(LIF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TGF-β等)、各種細胞外マトリックス、各種細胞接着分子、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン等の抗生物質、フェノールレッド等のpH指示薬などを適宜添加することができる。また、必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などが含まれていてもよい。
【0054】
工程(1)においてビタミンC類とは、L-アスコルビン酸およびその誘導体を意味し、L-アスコルビン酸誘導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。工程(1)で用いるアスコルビン酸の誘導体として、リン酸ビタミンC、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸アスコビルおよびアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸が例示される。好ましくは、リン酸ビタミンC(例:Ascorbic acid 2-phosphate)であり、例えば、リン酸-L-アスコルビン酸Naまたはリン酸-L-アスコルビン酸Mgなどのリン酸-L-アスコルビン酸塩が挙げられる。
【0055】
ビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、4日毎、3日毎、2日毎、または1日毎に、別途添加(補充)することが好ましく、1日毎に添加することがより好ましい。ある実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 ng/ml~500 ng/mlに相当する量(例:5 ng/ml、10 ng/ml、25 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200 ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/mlに相当する量)が添加される。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0056】
工程(1)で用いる培地は、BMP4 (Bone morphogenetic protein 4)、VEGF (vascular endothelial growth factor)、SCF (Stem cell factor)、TPO(トロンボポエチン)、FLT-3L (Flt3 Ligand)、bFGF(basic fibroblast growth factor)からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインがさらに添加されていてもよい。より好ましくは、BMP4、VEGFおよびbFGFが添加された培養であり、さらに好ましくは、BMP4、VEGF、SCFおよびbFGFが添加された培養である。
【0057】
サイトカインを用いる場合、培地中の濃度としては、例えば、BMP4は5ng/ml~500 ng/mlであり、VEGFは5 ng/ml~500ng/mlであり、SCFは5 ng/ml~500 ng/mlであり、TPOは3 ng/ml~300 ng/mlであり、FLT-3Lは1 ng/ml~100 ng/mlであり、bFGFは5 ng/ml~500 ng/mlであり得る。
【0058】
また、前記培地には、TGFβ阻害剤が添加されてもよい。TGFβ阻害剤とは、TGFβファミリーのシグナル伝達に干渉する低分子阻害剤であり、例えばSB431542、SB202190(以上、R.K. Lindemann et al., Mol. Cancer 2:20(2003))、SB505124 (GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276 (Lilly Research Laboratories)などが包含される。例えば、TGFβ阻害剤がSB431542である場合、培地中の濃度は、0.5 μM~100 μMであることが好ましい。
【0059】
多能性幹細胞の培養は、接着培養または浮遊培養であってもよい。接着培養の場合、細胞外基質成分でコーティングした培養容器を用いて行ってもよく、またフィーダー細胞と共培養してもよい。フィーダー細胞としては、特に限定されないが、例えば、線維芽細胞(マウス胎仔線維芽細胞(MEF)、マウス線維芽細胞(STO)など)が挙げられる。フィーダー細胞は自体公知の方法、例えば放射線(ガンマ線など)照射や抗癌剤(マイトマイシンCなど)処理などで不活化されていることが好ましい。細胞外基質成分としては、マトリゲル(Niwa A, et al. PLoS One.6(7):e22261, 2011)、ゼラチン、コラーゲン、エラスチンなどの繊維性タンパク質、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などのグルコサミノグリカンやプロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどの細胞接着性タンパク質などが挙げられる。
【0060】
浮遊培養とは、細胞を培養容器へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)または非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)によるコーティング処理)した培養容器を使用して行うことができる。浮遊培養の際には、胚様体(EB)を形成させて培養することが好ましい。
【0061】
造血前駆細胞は、多能性幹細胞を培養することで得られるネット様構造物(ES-sacまたはiPS-sacとも称する)から調製することもできる。ここで、「ネット様構造物」とは、多能性幹細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含む構造体である。
【0062】
工程(1)の培養温度の条件は、特に制限されないが、例えば、37℃~42℃程度、37℃~39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば造血前駆細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。造血前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも6日間以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上であり、好ましくは14日である。培養期間が長いことについては、造血前駆細胞の製造においては通常問題とされないが、例えば35日以下が好ましく、21日以下がより好ましい。また、低酸素条件で培養してもよく、本明細書において低酸素条件とは、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%またはそれら以下の酸素濃度が例示される。
【0063】
(2)造血前駆細胞をCD3陽性細胞に分化させる工程
造血前駆細胞からCD3陽性細胞への分化方法としては、造血前駆細胞をCD3陽性細胞へ分化できる限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2016/076415号または国際公開第2017/221975号などに記載されているような、造血前駆細胞からT細胞を誘導する方法と同様の培養条件で、造血前駆細胞を培養する方法が挙げられる。
【0064】
工程(2)において、CD3陽性細胞への分化誘導培地としては、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地には、上記工程(1)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどが含まれていてもよい。
【0065】
工程(2)でビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、工程(1)で記載したものと同様のものが挙げられ、同様に添加することができる。ある実施形態では、培地中または培養液におけるのビタミンC類の濃度は、5μg/ml~200μg/mlであることが好ましい。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0066】
工程(2)において、p38阻害剤および/またはSDF-1(Stromal cell-derived factor 1)を用いることが好ましい。本明細書において「p38阻害剤」とは、p38タンパク質(p38MAPキナーゼ)の機能を阻害する物質を意味し、例えば、p38の化学的阻害剤、p38のドミナントネガティブ変異体もしくはそれをコードする核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
工程(2)におけるp38の化学的阻害剤としては、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルホニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、およびその誘導体、SB202190(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)およびその誘導体、SB239063(trans-4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-4-ピリミジニル)-1H-イミダゾール-1-イル]シクロヘキサノール)およびその誘導体、SB220025およびその誘導体、PD169316、RPR200765A、AMG-548、BIRB-796、SClO-469、SCIO-323、VX-702、FR167653が例示されるが、これらに限定されない。これらの化合物は市販されており、例えばSB203580、SB202190、SB239063、SB220025およびPD169316についてはCalbiochem社、SClO-469およびSCIO-323についてはScios社などから入手可能である。p38の化学的阻害剤としては、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルホニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、およびその誘導体が好ましい。
【0068】
工程(2)におけるp38のドミナントネガティブ変異体としては、p38のDNA結合領域に位置する180位のスレオニンをアラニンに点変異させたp38T180A、ヒトおよびマウスにおけるp38の182位のチロシンをフェニルアラニンに点変異させたp38Y182Fなどが挙げられる。p38阻害剤は、例えば、約1μM~約50μMの範囲で培地に含有される。p38阻害剤としてSB203580を用いる場合には、1 μM~50 μM、5 μM~30 μM、10 μM~20 μMの範囲で培地に含有され得る。
【0069】
工程(2)におけるSDF-1は、SDF-1αまたはその成熟型だけでなく、SDF-1β、SDF-1γ、SDF-1δ、SDF-1εもしくはSDF-1φ等のアイソフォームまたはそれらの成熟型であってもよく、またこれらの任意の割合の混合物等であってもよい。好ましくは、SDF-1αが使用される。なお、SDF-1は、CXCL-12またはPBSFと称される場合もある。
【0070】
工程(2)において、SDF-1は、そのケモカインとしての活性を有する限り、そのアミノ酸配列中において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されていてもよい(このようなアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入がされたSDF-1を、「SDF-1変異体」ともいう)。また同様に、SDF-1又はSDF-1変異体において、糖鎖が置換、欠失および/または付加されていてもよい。上記SDF-1の変異体としては、例えば、少なくとも4つのシステイン残基(ヒトSDF-1αの場合、Cys30、Cys32、Cys55およびCys71)が保持されており、かつ天然体のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するものなどが挙げられるが、このアミノ酸変異に限定されるものではない。SDF-1は、哺乳動物、例えば、ヒトや、例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等の非ヒト哺乳動物のものであってもよい。例えば、ヒトのSDF-1αとして、GenBank登録番号:NP_954637で登録されているタンパク質が使用でき、SDF-1βとして、GenBank登録番号:NP_000600で登録されているタンパク質が使用できる。
【0071】
SDF-1は、市販のものを使用してもよいし、天然から精製されたものを使用してもよいし、あるいはペプチド合成や遺伝子工学的手法によって製造されたものを使用してもよい。SDF-1は、例えば、約10 ng/mlから約100 ng/mlの範囲で培地に含有される。また、SDF-1に代えて、SDF-1様の活性を有するSDF-1代替物を使用することもできる。このようなSDF-1代替物としてはCXCR4アゴニストが例示され、CXCR4アゴニスト活性を有する低分子化合物などをSDF-1の代わりに培地に添加してもよい。
【0072】
工程(2)で用いる培地には、SCF、TPO(トロンボポエチン)、FLT-3LおよびIL-7から成る群より選択されるサイトカインの少なくとも1種、好ましくは全てをさらに培養液に添加してもよい。これらの濃度は、例えば、SCFは10 ng/mlから100 ng/mlであり、TPOは10 ng/mlから200 ng/mlであり、IL-7は1 ng/mlから100 ng/mlであり、FLT-3Lは1 ng/mlから100 ng/mlである。
【0073】
工程(2)において、造血前駆細胞を接着培養または浮遊培養してもよく、接着培養の場合、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい。共培養するフィーダー細胞として、骨髄間質細胞株OP9細胞(理研BioResource Centerより入手可能)が例示される。当該OP9細胞は、好ましくは、DLL4またはDLL1を恒常的に発現するOP9-DL4細胞またはOP9-DL1細胞である(例えば、Holmes R1 and Zuniga-Pflucker JC. Cold Spring Harb Protoc. 2009(2))。工程(2)において、フィーダー細胞としてOP9細胞を用いる場合、別途用意したDLL4若しくはDLL1、あるいはDLL4若しくはDLL1とFc等との融合タンパク質を適宜培地に添加することにより行ってもよい。フィーダー細胞を用いる場合、当該フィーダー細胞を適宜交換して培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。当該交換は、5日毎、4日毎、3日毎、または2日毎にて行い得る。また、胚様体を浮遊培養して造血前駆細胞を得た場合は、これを単細胞に解離させたのちに、接着培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞と共培養してもよいが、好ましくはフィーダー細胞を用いずに培養を行う。
接着培養の場合であって、培養容器をコーティングする場合のコーティング剤としては、例えば、マトリゲル(Niwa A, et al. PLos One, 6(7):e22261, 2011))、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、レトロネクチン、DLL4若しくはDLL1、あるいはDLL4若しくはDLL1と抗体のFc領域(以下、Fcと称することがある)等との融合タンパク質(例:DLL4/Fc chimera)、エンタクチン、および/またはこれらの組み合わせが挙げられ、レトロネクチンおよびDLL4とFc等との融合タンパク質の組み合わせが好ましい。
【0074】
工程(2)において、培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD3陽性細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。CD3陽性細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、22日以上、23日以上であり、好ましくは21日である。また、90日以下が好ましく、42日以下がより好ましい。
【0075】
以上の工程によって得られる細胞にはCD3陽性細胞が含まれるが、多能性幹細胞をCD3陽性細胞に分化させる具体的な方法はさらに、以下の工程(3)を含んでいてもよい。
【0076】
(3)CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞(またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性CD30陽性細胞)を取得する工程またはCD3陽性細胞を富化する工程
CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞(またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性CD30陽性細胞)を取得する方法としては、例えば、国際公開第2016/076415号および国際公開第2017/221975号などに記載されているような方法が挙げられる。また同様の方法を用いてCD3陽性細胞を富化してもよい。
【0077】
工程(3)において、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞(またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性CD30陽性細胞)の取得またはCD3陽性細胞の富化に用いる培地としては、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地には、上記工程(1)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカイン、ホルモンなどが含まれていてもよい。
【0078】
工程(3)でビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、工程(1)で記載したものと同様のものが挙げられ、同様に添加することができる。ある実施形態では、培地中または培養液におけるビタミンC類の濃度は、5μg/ml~200μg/mlであることが好ましい。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0079】
工程(3)でホルモンを用いる場合、ホルモンとしては、副腎皮質ホルモンが挙げられる。副腎皮質ホルモンは、糖質コルチコイドあるいはその誘導体であり、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸べクロメタゾンが例示される。好ましくは、デキサメタゾンである。副腎皮質ホルモンが、デキサメタゾンである場合、培地中におけるその濃度は、1 nM~100 nMである。
【0080】
工程(3)では培地中にCD3/TCR複合体アゴニストが含まれる。CD3/TCR複合体アゴニストは、CD3/TCR複合体の少なくとも一部に特異的に結合することによって、CD3/TCR複合体からCD3陽性細胞内にシグナルを伝達することができる分子であれば特に制限されない。CD3/TCR複合体アゴニストとしては、例えば、CD3アゴニストおよび/またはTCRアゴニストが挙げられる。CD3アゴニストとしては抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片 、TCRアゴニストとしては抗TCR抗体またはその結合断片、MHC/抗原ペプチド複合体またはその多量体およびMHC/スーパー抗原複合体またはその多量体からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられる。抗CD3アゴニスト抗体を用いる場合、抗CD3アゴニスト抗体はポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をともに包含するが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、当該抗体は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEのいずれの免疫グロブリンクラスに属するものであってもよいが、好ましくはIgGである。抗CD3アゴニスト抗体としては、例えばOKT3クローンから産生される抗体(OKT3)およびUCHT1クローンから産生される抗体(UCHT1)などが挙げられ、好ましくはUCHT1である。抗CD3アゴニスト抗体がOKT3である場合、OKT3は、重鎖可変領域の相補性決定領域1~3として、RYTMH(配列番号9)、YINPSRGYTNYNQKFKD(配列番号10)、YYDDHYCLDY(配列番号11)を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域1~3として、SASSSVSYMN(配列番号12)、DTSKLAS(配列番号13)、QQWSSNPFT(配列番号14)を含む。また、OKT3は、好ましくは、配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。抗CD3アゴニスト抗体がUCHT1である場合、UCHT1は、重鎖可変領域の相補性決定領域1~3として、GYSFTGYTMN(配列番号15)、LINPYKGVST(配列番号16)、SGYYGDSDWYFDV(配列番号17)を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域1~3として、RASQDIRNYLN(配列番号18)、YTSRLHS(配列番号19)、QQGNTLPWT(配列番号20)を含む。また、UCHT1は、好ましくは、配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。抗CD3アゴニスト抗体の培地中における濃度は、例えば、10 ng/ml~1000 ng/mlであり、好ましくは50 ng/ml~800 ng/mlであり、より好ましくは250 ng/ml~600 ng/mlである。
【0081】
工程(3)でサイトカインを用いる場合、サイトカインとしては、IL-2およびIL-7等が挙げられる。サイトカインが、IL-2である場合、培地中におけるその濃度は、10 U/ml~1000 U/mlであり、IL-7である場合、培地中におけるその濃度は、1 ng/ml~1000 ng/mlである。
【0082】
工程(3)において、培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37℃~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD3陽性細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。CD3陽性細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上であり、好ましくは6日である。また、28日以下が好ましく、14日以下がより好ましい。
【0083】
以上の通り、多能性幹細胞を分化させることによって本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞を取得することができる。
【0084】
本発明の製造方法または拡大培養方法は、CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下、CD3陽性細胞を培養する工程(以下、本発明の工程(I)と記載する)を含む。
【0085】
本発明の工程(I)において、CD3/TCR複合体アゴニストは、前記の工程(3)で用いられるCD3/TCR複合体アゴニストと同一のものであってよい。
【0086】
本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において、使用されるCD3/TCR複合体アゴニストが抗CD3アゴニスト抗体または抗TCR抗体である場合、それらのポリクローナル抗体は、例えば以下の方法により作製することができる。例えば、CD3に対するポリクローナル抗体の場合、CD3またはそのエピトープを含む部分ペプチド(例えば、γ、δ、ε、ζまたはη鎖)と完全または不完全フロイントアジュバント(FCAまたはFIA)との混和物を感作抗原として、TCRに対するポリクローナル抗体の場合、TCRまたはそのエピトープを含む部分ペプチド(例えば、α、β、γまたはδ鎖)と完全または不完全フロイントアジュバント(FCAまたはFIA)との混和物を感作抗原として、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、モルモットまたはハムスター等の哺乳動物に免疫(初回免疫から約1~4週間毎に1~数回追加免疫する)し、各追加免疫の約3~10日後に部分採血した血清の抗体価を従来公知の抗原抗体反応を利用して測定、その上昇を確認しておく。さらに、最終免疫から約3~10日後全血を採取して抗血清を精製する。ポリクローナル抗体は、硫安分画等の塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等の慣用の分離技術を用いて単独の免疫グロブリンクラスとして精製することもできる。
【0087】
また、本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において、使用される抗CD3アゴニスト抗体または抗TCR抗体がモノクローナル抗体である場合、該モノクローナル抗体は、通常細胞融合によって製造されるハイブリドーマ(融合細胞)から取得することができる。すなわち、上記ポリクローナル抗体の場合と同様、CD3またはTCRあるいはそのエピトープを含む部分ペプチドを免疫感作した哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これと骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを形成させ、当該ハイブリドーマをクローン化し、CD3またはTCRをマーカー抗原として、それに対して特異的な親和性を示す抗体を生産するクローンを選択することによって製造される。また、あらかじめ単離された脾細胞あるいはリンパ球等に培養液中でCD3を作用させて生じる抗体産生細胞も使用することができる。この場合にはヒト由来の抗体産生細胞も調製可能である。
【0088】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製はケーラーおよびミルシュタインの方法(Nature, Vol. 256, pp. 495-497, 1975)およびその変法に従って行うことができる。すなわち、モノクローナル抗体は、前述のごとく免疫感作された動物から取得される脾細胞、胸腺細胞、リンパ節細胞、末梢リンパ球、骨髄腫細胞あるいは扁桃細胞等、好ましくは脾細胞に含まれる抗体産生細胞と、好ましくは同種のマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒトの骨髄腫細胞(ミエローマ)との融合により得られるハイブリドーマを培養することにより調製される。培養は、インビトロまたはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等の哺乳動物、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹腔内等でのインビボで行うことができ、抗体はそれぞれ培養上清あるいは哺乳動物の腹水から取得することができる。
【0089】
細胞融合に用いられる骨髄腫細胞としては、例えばマウス由来ミエローマ(例えばP3-NSI-1-Ag4-1、P3-X63-Ag8-U1、P3-X63-Ag8-653、 SP2/0-Ag14およびBW5147など)、ラット由来ミエローマ(例えば、210RCY3-Ag1.2.3など)、ヒト由来ミエローマ(例えば、U-266AR1、GML500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11およびCEM-T15など)等が挙げられる。
【0090】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖のみられたウェル中の培養上清の、CD3に対する反応性を、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ等によって測定することにより行うことができる。
【0091】
モノクローナル抗体の単離精製は、上述のような方法によって製造される該抗体含有培養上清あるいは腹水を、イオン交換クロマトグラフィー、抗イムノグロブリンカラムまたはプロテインGカラム等のアフィニティーカラムクロマトグラフィーに付すことにより行うことができる。
【0092】
本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において使用されるモノクローナル抗体は、上述の製造方法に限定されることなく、いかなる方法で得られたものであってもよい。また、通常モノクローナル抗体は免疫感作を施す哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる構造の糖鎖を有するが、本発明におけるモノクローナル抗体は、該糖鎖の構造差異により限定されるものではなく、あらゆる哺乳動物由来のモノクローナル抗体をも包含するものである。
【0093】
また、抗CD3アゴニスト抗体または抗TCR抗体には、前記のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体(ヒト化抗体)、一本鎖抗体に加えて、これらの抗体の結合断片が含まれる。抗体の結合断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはFab、Fab’、F(ab’)2、scAb、scFv、またはscFv-Fc等を包含する。
【0094】
また、当業者であれば、抗CD3アゴニスト抗体または抗TCR抗体あるいはそれらの結合断片と他のペプチドやタンパク質との融合抗体を作製することや、修飾剤を結合させた修飾抗体を作製することも可能である。融合に用いられる他のペプチドやタンパク質は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種tagペプチド、人工へリックスモチーフペプチド、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、その他多量体化を促進しうるペプチドまたはタンパク質等が挙げられる。修飾に用いられる修飾剤は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。
【0095】
また、抗CD3アゴニスト抗体は購入可能な試薬を用いることもできる。購入可能な抗CD3アゴニスト抗体は特に限定されず、例えば、OKT3クローンから産生される抗体(OKT3)(anti-human CD3 functional grade purified (Clone: OKT3)(eBioscience社))およびUCHT1クローンから産生される抗体(UCHT1 )(CD3 antibody (Clone: UCHT1)(GeneTex社))などを用いることができ、好ましくはUCHT1を用いることができる。
【0096】
また、本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において、使用されるCD3/TCR複合体アゴニストがMHC/抗原ペプチド複合体である場合、該MHC/抗原ペプチド複合体は、CD3陽性細胞のCD3/TCR複合体によって特異的に認識され、CD3陽性細胞内にシグナルを伝達することができる分子であれば特に制限されない。
【0097】
MHC/抗原ペプチド複合体を構成するMHCは、MHCクラスIであってもよいし、MHCクラスIIであってもよいが、好ましくはMHCクラスIである。
【0098】
本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において、MHCクラスIは、抗原ペプチドと複合体を形成し、CD3/TCR複合体とCD8によって認識され、CD3陽性細胞内へシグナルを伝達する分子であれば特に制限されない。MHCクラスIは、例えば、α鎖(ヒトの場合、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-FまたはHLA-G、マウスの場合、H-2K、H-2DまたはH-2L)とβミクログロブリンからなる二量体が挙げられ、好ましくは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-FまたはHLA-Gとβミクログロブリンからなる二量体であり、より好ましくは、HLA-A、HLA-BまたはHLA-Cとβミクログロブリンからなる二量体である。本発明の製造方法または拡大培養方法において、具体的なMHCクラスIとしては、例えば、HLA-A*02:01、HLA-A*24:02またはHLA-A*01:01などが挙げられるが、これらに限定されない。また、抗原ペプチドは、MHCクラスIによって提示されるペプチドであれば特に制限されない。MHCクラスIに提示される抗原ペプチドは、例えば、HER-2/neu、MART-1、NY-ESO-1、Gp-100、MUC-1、p53、前立腺特異抗原(PSA)、hTERT、WT1、survivin、CEA、MAGE-3、または悪性腫瘍の発生に強く関連するウイルス群由来のタンパク質由来のペプチドなどが挙げられるが、好ましくは、WT1由来ペプチドが挙げられる。また、具体的なWT1由来ペプチドとしては、RMFPNAPYL(配列番号:1)、SLGEQQYSV(配列番号:2)またはCMTWNQMNL(配列番号:3)(その改変ペプチドCYTWNQMNL(配列番号:4))などが挙げられる。
【0099】
また、本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において、MHCクラスIIは、抗原ペプチドと複合体を形成し、CD3/TCR複合体とCD4によって認識され、CD3陽性細胞内へシグナルを伝達する分子であれば特に制限されない。MHCクラスIIは、例えば、ヒトの場合HLA-DR、HLA-DQおよびHLA-DP、マウスの場合、H-2AまたはH-2Bが挙げられ、それぞれα鎖とβ鎖(例えばHLA-DRは、α鎖であるHLA-DRAとβ鎖であるHLA-DRB1)からなる二量体であり、好ましくは、HLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DPである。また、抗原ペプチドは、MHCクラスIIによって提示されるペプチドであれば特に制限されない。MHCクラスIIに提示される抗原ペプチドは、例えば、WT1、PSA、MAGE-3、CEA、survivin、tyrosinaseまたは悪性腫瘍の発生に強く関連するウイルス群由来のタンパク質由来のペプチドなどが挙げられるが、好ましくは、WT1由来ペプチドが挙げられる。
【0100】
MHCおよび/または抗原ペプチド(以下、MHC等と記載する)は、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいはMHC等をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。
【0101】
MHC等を公知のペプチド合成法に従って製造する場合、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。カルボキシ基と側鎖の官能基に保護基を付けたアミノ酸誘導体と、アミノ基と側鎖の官能基を保護したアミノ酸誘導体とを縮合し、保護基を脱離することにより目的とするタンパク質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)~(5)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. BodanszkyおよびM.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966年)
(2) SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965年)
(3) 泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株) (1975年)
(4) 矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座 1、タンパク質の化学IV 205 (1977年)
(5) 矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
【0102】
このようにして得られたMHC等は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるMHC等が遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にMHC等が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0103】
さらに、MHC等は、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物からMHC等を分離精製することによって製造することもできる。MHC等をコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
【0104】
MHC等をコードするDNAとしては、ゲノムDNA、温血動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、トリなど)の細胞由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。MHC等をコードするcDNAであれば、前記動物のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]より調製した全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、MHC等をコードするcDNAは、上記した全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0105】
MHC等をコードするDNAは、該MHC等をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、MHC等の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることもできる。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
【0106】
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1%SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0107】
MHC等をコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、MHC等をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
【0108】
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13);動物細胞発現プラスミド(例:pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられる。
【0109】
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
【0110】
例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0111】
宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
【0112】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40 oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
【0113】
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、MHC等をコードするDNAの5’末端側に付加(またはネイティブなシグナルコドンと置換)してもよい。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoAシグナル配列、OmpAシグナル配列などが;宿主が動物細胞である場合、インスリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0114】
上記したMHC等をコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換し、得られる形質転換体を培養することによって、MHC等を製造することができる。
【0115】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、K12 DH1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 60巻,160(1968)〕, JM103〔Nucleic Acids Research, 9巻,309(1981)〕, JA221〔Journal of Molecular Biology,120巻,517(1978)〕, HB101〔Journal of Molecular Biology,41巻,459(1969)〕, C600〔Genetics,39巻,440(1954)〕などが用いられる。
【0116】
動物細胞としては、例えば、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記)、マウスL細胞、マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などが用いられる。
【0117】
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
【0118】
エシェリヒア属菌は、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69巻, 2110(1972)やGenee, 17巻, 107(1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
【0119】
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267(1995)(秀潤社発行)、Virology,52巻,456(1973)に記載の方法に従って形質転換することができる。
【0120】
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
【0121】
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔Miller, Journal of Experiments in Molecular Genetics, 431-433, Cold Spring Harbor Laboratory, New York 1972〕が好ましい。必要により、プロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β-インドリルアクリル酸のような薬剤を培地に添加してもよい。
【0122】
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体の培養は、通常約15~約43℃で、約3~約24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
【0123】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5~約20%の胎児ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science, 122巻, 501(1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology, 8巻, 396(1959)〕,RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association, 199巻, 519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine, 73巻, 1(1950)〕などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6~約8である。培養は、通常約30℃~約40℃で、約15~約60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0124】
以上のようにして、形質転換体の細胞内または細胞外にMHC等を製造せしめることができる。
【0125】
前記形質転換体を培養して得られる培養物からMHC等を自体公知の方法に従って分離精製することができる。
【0126】
例えば、MHC等を培養菌体あるいは細胞の細胞質から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた菌体あるいは細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性タンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤や、トリトンX-100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい。また、MHC等が菌体(細胞)外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取するなどの方法が用いられる。
【0127】
このようにして得られた可溶性画分、培養上清中に含まれるMHC等の単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0128】
以上のようにして得られるMHC/抗原ペプチド複合体は、多量体であってもよい。MHC/抗原ペプチド複合体を多量体化することによって、TCRに対するより高いアゴニスト効果が期待できる。本発明のMHC/抗原ペプチド複合体を多量体化する方法は、公知であり、例えば、アビジンまたはストレプトアビジンの4量体を介して、ビオチンで修飾したMHC/抗原ペプチド複合体を4量体化することができる。また、別の手段としては、デキストランにMHC/抗原ペプチド複合体を連結することによって、多量体化することもできる。
【0129】
また、本発明の工程(I)(または前記の工程(3))において、使用されるCD3/TCR複合体アゴニストがMHC/スーパー抗原複合体である場合、該MHC/スーパー抗原複合体は、MHCクラスIIとスーパー抗原の複合体である。スーパー抗原としては、ブドウ球菌エンテロトキシンや連鎖球菌発熱性外毒素、毒素性ショック症候群毒素などが挙げられる。MHCまたはスーパー抗原は、前記のMHC等に記載の方法と同じ方法で製造されてよい。また、MHC/スーパー抗原複合体は、MHC/抗原ペプチド複合体と同様、多量体であってもよい。本発明のMHC/スーパー抗原複合体を多量体化する方法は、MHC/抗原ペプチド複合体を多量体化する方法と同様である。
【0130】
本発明の工程(I)において使用されるCD3/TCR複合体アゴニストは、培養の際にCD3陽性細胞表面のCD3/TCR複合体に接触できるように存在できれば、その存在の態様を問わない。例えば、培養の際に培地に含有されていてもよいし、培養容器に固相化されていてもよいが、好ましくは、培養容器に固相化されている。
【0131】
CD3/TCR複合体アゴニストが培地に含有される場合、培地は、CD3陽性細胞を培養できる培地であれば特に限定されないが、例えば、Glasgow's Minimal Essential Medium(GMEM)培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。血清を含む場合は、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ヒト血清など)の濃度は、下限としては、通常1%以上、好ましくは5%以上であり、上限としては、通常20%以下、好ましくは15%以下であり得る。また、必要に応じて、培地は、例えば、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)アポトランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、セレン酸、プロゲステロンおよびプトレシンなどの1つ以上の物質も含有し得る。また、CD3/TCR複合体アゴニストが培地に含有される場合、CD3/TCR複合体アゴニストの濃度は、下限としては、0.3 ng/ml以上、好ましくは3 ng/ml以上であり、上限としては、10000 ng/ml以下、好ましくは1000 ng/ml以下であり得る。特に、CD3/TCR複合体アゴニストが抗CD3アゴニスト抗体である場合、抗CD3アゴニスト抗体の培地中における濃度は、例えば、10 ng/ml~1000 ng/mlである。培養は、例えば、CO2インキュベーター中、約1~約10%、好ましくは約2~約5%のCO2濃度の雰囲気下、約30~約40℃、好ましくは約37℃で行うことができる。また、CD3/TCR複合体アゴニストを含有する培地での培養期間については、当業者であればCD3陽性細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。CD3陽性細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも6時間以上、12時間以上、16時間以上、24時間以上、48時間以上、72時間以上であり、好ましくは16~72時間である。また、14日間以下が好ましく、7日以下がより好ましい。
【0132】
ビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、4日毎、3日毎、2日毎、または1日毎に、別途添加(補充)することが好ましく、1日毎に添加することがより好ましい。ある実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 ng/ml~500 ng/mlに相当する量(例:5 ng/ml、10 ng/ml、25 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200 ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/mlに相当する量)が添加される。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0133】
本発明の工程(I)において使用される前記培地は、さらにサイトカインが含まれていてもよい。培地に含まれるサイトカインとしては、特に制限されるわけではないが、IL-7、IL-15、IL-18、IL-21から選択される少なくとも1つ以上が挙げられ、IL-7、IL-15、IL-18およびIL-21の全て含まれていることが好ましい。サイトカインの濃度は、下限としては、0.1 ng/mL以上、好ましくは10 ng/mL以上であり、上限としては、1000 ng/mL以下、好ましくは300 ng/mL以下であり得る。これらのサイトカインを用いる場合、培地中の濃度としては、例えば、IL-7は1~100 ng/mlであり、IL-15は1~100 ng/mlであり、IL-18は5~500 ng/mlであり、IL-21は2~200 ng/mlである。
本発明の工程(I)において使用される前記培地は、さらにTL1Aおよび/またはIL-12が含まれていてもよい。このとき、TL1Aの培地中の濃度としては5~500 ng/mlであり、IL-12の培地中の濃度としては5~500 ng/mlである。
【0134】
本発明の工程(I)において使用される前記培地は、サイトカインとしてTNFファミリーサイトカインが含まれていてもよい。TNFファミリーサイトカインとしては、例えば、TNF-α、TNF-β、リンフォトキシンα、Fasリガンド、TRAIL、TWEAK、TL1A、RANKリガンド、OX40リガンド、APRIL、AITRL、BAFF、4-1BBLおよびCD40リガンドなどが挙げられ、TL1Aが好ましい。 TL1Aを用いる場合、その培地中の濃度としては、5~500 ng/mlであり得る。
【0135】
また、本発明の工程(I)において使用されるアポトーシス阻害剤としては、プロテアーゼ阻害剤が挙げられ、例えば、カスパーゼ阻害剤が挙げられる。カスパーゼ阻害剤としては、Pan Caspase FMK inhibitor Z-VAD(N-ベンジルオキシカルボニル-Val-Ala-Asp(O-Me) フルオロメチルケトン)が好ましく、その培地中の濃度としては、1~1000 μMであり得る。
【0136】
また、CD3/TCR複合体アゴニストが培養容器に固相化される場合、培養容器は、CD3陽性細胞を培養できる培養容器であれば特に限定されず、容器、スライド、ビーズ、これらを組み合わせて用いることができる。培養容器としては、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル、及びマイクロビーズ等が挙げられる。
【0137】
CD3/TCR複合体アゴニストの培養容器への固相化は、公知の手段に基づいて実施することができる。例えば、CD3/TCR複合体アゴニストを溶媒(例えば、PBSなど)に溶解させ、培養容器に添加した後、4℃で一晩静置することによって、CD3/TCR複合体アゴニストを培養容器に固相化することができる。CD3/TCR複合体アゴニストを培養容器へ固相化させる際のCD3/TCR複合体アゴニスト溶液の濃度は、CD3/TCR複合体アゴニストの種類に応じて当業者が適宜決定してよい。本発明の一態様において、例えば、CD3/TCR複合体アゴニストが抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片である場合は、通常、0.3~10000 ng/mlの抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片の溶液を培養容器に接触させることができ、3~5000 ng/mlがより好ましく、3~3000 ng/mlがさらに好ましく、3~600 ng/mlが特に好ましい。また本発明における別の態様において、抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片の溶液中における濃度は、例えば、10 ng/ml~10000 ng/mlであり、好ましくは50 ng/ml~5000 ng/mlであり、より好ましくは200 ng/ml~4000 ng/mlである。また、本発明におけるさらなる別の態様において、抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片の溶液中における濃度は、例えば、1~50000 ng/mlであり、3~30000 ng/mlが好ましく、30~30000 ng/mlがより好ましく、300~30000 ng/mlがさらに好ましい。抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片が、OKT3クローンから産生される抗体(OKT3)またはその結合断片である場合、その溶液中における濃度は、例えば、1 ng/ml~50000 ng/mlであり、好ましくは10 ng/ml~10000 ng/mlであり、より好ましくは50 ng/ml~5000 ng/mlであり、さらに好ましくは200 ng/ml~4000 ng/mlである。抗CD3アゴニスト抗体またはその結合断片が、UCHT1クローンから産生される抗体(UCHT1)またはその結合断片である場合、その溶液中における濃度は、例えば、1 ng/ml~50000 ng/mlであり、好ましくは3 ng/ml~30000 ng/mlであり、より好ましくは30 ng/ml~30000 ng/mlであり、さらに好ましくは300 ng/ml~30000 ng/mlである。
【0138】
本発明の工程(I)において、フィブロネクチンは、CD3陽性細胞に結合することができる分子であれば特に制限されない。フィブロネクチンの改変体は、CD3陽性細胞表面のVLA-5およびVLA-4に結合することができる分子であれば特に制限されず、例えば、レトロネクチン(登録商標)が挙げられる。
【0139】
本発明の工程(I)において使用されるフィブロネクチンまたはその改変体は、CD3/TCR複合体アゴニストと同様、培養の際にCD3陽性細胞に接触できるように存在できれば、その存在の態様を問わない。例えば、培養の際に培地に含有されていてもよいし、培養容器に固相化されていてもよいが、好ましくは、培養容器に固相化されている。
【0140】
フィブロネクチンまたはその改変体が培地に含有される場合、培地は、CD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。また、血清、添加物等の有無もCD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。フィブロネクチンまたはその改変体が培地に含有される場合、フィブロネクチンまたはその改変体の濃度は、下限としては、10 ng/ml以上、好ましくは100 ng/ml以上であり、上限としては、10000 μg/ml以下、好ましくは1000 μg/ml以下であり得る。
【0141】
また、フィブロネクチンまたはその改変体が培養容器に固相化される場合、培養容器は、CD3/TCR複合体アゴニストが固相化される培養容器と同一であってよい。また、フィブロネクチンまたはその改変体の培養容器への固相化は、CD3/TCR複合体アゴニストの固相化と同様であってよい。フィブロネクチンまたはその改変体を培養容器へ固相化させる際のフィブロネクチンまたはその改変体の溶液の濃度は、フィブロネクチンまたはその改変体に応じて当業者が適宜決定してよい。例えば、フィブロネクチンまたはその改変体がレトロネクチン(登録商標)である場合は、0.1~10000 μg/mLのレトロネクチン(登録商標)の溶液を培養容器に接触させることが好ましい。このとき、レトロネクチンの溶液の濃度としては、0.1~1000 μg/mLがより好ましく、1~300 μg/mLがさらに好ましく、1~150 μg/mLが特に好ましい。
【0142】
本発明の工程(I)において、CD30アゴニストは、CD30に特異的に結合することによって、CD30から細胞内にシグナルを伝達することができる分子であれば特に制限されない。CD30アゴニストとしては、例えば、抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片およびCD30リガンドまたはその結合断片からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられる。
【0143】
本発明の工程(I)において使用される抗CD30アゴニスト抗体およびその結合断片は、種類、作製方法等について、抗CD3アゴニスト抗体や抗TCR抗体と同様であってよい。
【0144】
本発明の工程(I)において使用されるCD30リガンドまたはその結合断片は、例えば、CD153が挙げられる。CD30リガンドまたはその結合断片は、MHCおよび/または抗原ペプチドの製造方法と同様の方法で製造されてよい。
【0145】
本発明の工程(I)において使用されるCD30アゴニストは、CD3/TCR複合体アゴニストと同様、培養の際にCD30に接触できるように存在できれば、その存在の態様を問わない。例えば、培養の際に培地に含有されていてもよいし、培養容器に固相化されていてもよいが、好ましくは、培地に含有されている。
【0146】
CD30アゴニストが培地に含有される場合、培地は、CD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。また、血清、添加物等の有無もCD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。CD30アゴニストが培地に含有される場合、培地におけるCD30アゴニストの濃度は、CD30アゴニストの種類に応じて当業者が適宜決定してよい。例えば、CD30アゴニストが抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片である場合は、培地における抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片の濃度は、通常、1 ng/ml~10000 ng/mlであり、好ましくは1 ng/ml~1000 ng/mlであり、より好ましくは3 ng/ml~300 ng/mlであり、さらに好ましくは30 ng/ml~300 ng/mlであり得る。
【0147】
また、CD30アゴニストが培養容器に固相化される場合、培養容器は、CD3/TCR複合体アゴニストが固相化される培養容器と同一であってよい。また、CD30アゴニストを培養容器へ固相化する方法も、CD3/TCR複合体アゴニストの固相化方法と同様であってよい。CD30アゴニストを培養容器へ固相化させる際のCD30アゴニストの溶液の濃度は、下限としては、0.1 ng/ml以上、好ましくは1 ng/ml以上であり、上限としては、10000 ng/ml以下、好ましくは1000 ng/ml以下であり得る。
【0148】
本発明の製造方法または拡大培養方法はさらに、CD3/TCR複合体アゴニスト、およびフィブロネクチンまたはその改変体の非存在下、かつCD30アゴニストの存在下、本発明の工程(I)で培養されたCD3陽性細胞を培養する工程(以下、本発明の工程(II)と記載する)を含みうる。
【0149】
本発明の工程(II)における培地は、上記工程(I)で使用される培地を用いることができ、培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。血清を含む場合は、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ヒト血清など)の濃度は、下限としては、通常1%以上、好ましくは5%以上であり、上限としては、通常20%以下、好ましくは15%以下であり得る。また、必要に応じて、培地は、例えば、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)アポトランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、セレン酸、プロゲステロンおよびプトレシンなどの1つ以上の物質も含有し得る。培養は、例えば、CO2インキュベーター中、約1~約10%、好ましくは約2~約5%のCO2濃度の雰囲気下、約30~約40℃、好ましくは約37℃で行うことができる。また、培養期間については、当業者であればCD3陽性細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。CD3陽性細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば少なくとも3日以上、5日以上、7日以上、10日以上、14日以上、21日以上であり、好ましくは7日以上15日以下である。また30日以下が好ましく、21日以下がより好ましい。
【0150】
ビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、4日毎、3日毎、2日毎、または1日毎に、別途添加(補充)することが好ましく、1日毎に添加することがより好ましい。ある実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 ng/ml~500 ng/mlに相当する量(例:5 ng/ml、10 ng/ml、25 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200 ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/mlに相当する量)が添加される。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0151】
本発明の工程(II)において使用される前記培地は、さらにサイトカインが含まれていてもよい。サイトカインとしては、特に制限されるわけではないが、IL-7、IL-15、IL-18、IL-21から選択される少なくとも1つ以上が含まれ、IL-7、IL-15、IL-18およびIL-21の全て含まれていることが好ましい。サイトカインの濃度は、下限としては、0.1 ng/ml以上、好ましくは10 ng/ml以上であってもよく、上限としては、1000 ng/ml以下、好ましくは300 ng/ml以下であってもよい。これらのサイトカインを用いる場合、培地中の濃度としては、例えば、IL-7は1 ng/ml~100 ng/mlであってもよく、IL-15は1 ng/ml~100 ng/mlであってもよく、IL-18は5 ng/ml~500 ng/mlであってもよく、IL-21は2 ng/ml~200 ng/mlであってもよい。
本発明の工程(II)において使用される前記培地は、さらにTL1Aおよび/またはIL-12が含まれていてもよい。このとき、TL1Aの培地中の濃度としては5 ng/ml~500 ng/mlであってもよく、IL-12の培地中の濃度としては5 ng/ml~500 ng/mlであってもよい。
【0152】
本発明の工程(II)において使用される前記培地はさらに、アポトーシス阻害剤が培地に含まれていてもよい。アポトーシス阻害剤としては、プロテアーゼ阻害剤が挙げられ、例えば、カスパーゼ阻害剤が挙げられる。カスパーゼ阻害剤としては、Pan Caspase FMK inhibitor Z-VAD(N-ベンジルオキシカルボニル-Val-Ala-Asp(O-Me) フルオロメチルケトン)(以下、「Z-VAD-FMK」と称することがある)が好ましく、その培地中の濃度としては、1 μM~1000 μMであり得、1 μM~500 μMが好ましく、1 μM~200 μMがより好ましく、1 μM~50 μMが特に好ましい。
【0153】
本発明の一実施形態においては、上記工程(I)および工程(II)がこの順に繰り返されても良い。
【0154】
本発明はまた、本発明の製造方法または拡大培養方法によって得られるCD3陽性細胞(以下、本発明のCD3陽性細胞と記載する)を提供する。本発明のCD3陽性細胞は、本発明の製造方法または拡大培養方法によって得られるCD3陽性細胞と同一である。
【0155】
本発明はまた、以下を含む、CD3陽性細胞の拡大培養用キット(以下、本発明のキットと記載する)を提供する。
(1)CD3/TCR複合体アゴニスト、および
フィブロネクチンまたはその改変体
が固相化された培養容器、ならびに
(2)CD30アゴニストを含有する培地
【0156】
本発明のキットに含まれる、CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、CD30アゴニスト、培養容器および培地は、本発明の製造方法または拡大培養方法に記載したものと同一であってよい。
【0157】
本発明はまた、CD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する工程を含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持する方法(以下、本発明の維持方法と記載する)を提供する。
通常、末梢血由来のナイーブT細胞が樹状細胞に提示された抗原によって刺激された場合、ナイーブT細胞は、細胞内シグナルが活性化され、増殖と成熟を繰り返し、順次、ステムセルメモリーT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞に分化していく。エフェクターT細胞は、CD3陽性CD4陽性CD8陰性細胞(ヘルパーT細胞)の場合サイトカインを産生し、CD3陽性CD4陰性CD8陽性細胞(細胞傷害性T細胞)は抗原を介して標的細胞を殺傷するが、長期間生存できない。しかし、T細胞中のCD30シグナルを刺激することによって、エフェクターT細胞に分化できる自己増殖可能なナイーブT細胞あるいはステムセルメモリーT細胞(CD197陽性、CD45RA陽性)またはセントラルメモリーT細胞(CD197陽性、CD45RA陰性)として維持することが可能である。
【0158】
本発明の維持方法において、培養されるCD3陽性細胞は、本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞と同一であってよい。好ましくは、CD3陽性細胞はCD3陽性CD197陽性細胞である。
【0159】
本発明の維持方法は、CD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する工程を含む。CD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する方法は、CD30の細胞内ドメインを介して下流にシグナルを伝達することができる限り特に制限されない。そのような方法としては、例えば、CD30アゴニストの存在下、CD3陽性細胞を培養する工程を含む方法(以下、本発明の維持方法(1)と記載する)が挙げられる。本発明の維持方法(1)により、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持することができる。
また、本発明の維持方法(1)の一実施形態においては、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞に維持することができる。
本発明の維持方法(1)で使用されるCD30アゴニスト、培養条件は、本発明の製造方法または拡大培養方法において使用されるCD30アゴニスト、培養条件と同一であってよい。
【0160】
本発明はまた、CD30アゴニストを含む、CD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持用キット(以下、本発明の維持用キットと記載する)を提供する。
【0161】
本発明の維持用キットに含まれる、CD30アゴニストは、本発明の維持方法(1)において使用されるCD30アゴニストと同一であってよい。
【0162】
さらに、本発明の維持方法において、CD3陽性細胞中のCD30シグナルを刺激する別の方法としては、CD30の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体を発現するCD3陽性細胞を、該キメラ抗原受容体を刺激する抗原の存在下、培養する工程を含む方法(以下、本発明の維持方法(2)と記載する)が挙げられる。CD30の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体を刺激することによって、CD30の細胞内ドメインを介して下流にシグナルを伝達することが可能となり、CD30の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体を発現するCD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性細胞に維持することができる。
また、本発明の維持方法(2)の一実施形態においては、CD30の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体を発現するCD3陽性細胞をCD3陽性CD197陽性CD45RA陰性細胞に維持することができる。
本発明の維持方法(2)で使用される培養条件は、本発明の製造方法または拡大培養方法において使用される培養条件と同一であってよい。
【0163】
本発明の維持方法(2)で使用されるキメラ抗原受容体を刺激する抗原としては、キメラ抗原受容体に含まれるCD30の細胞内ドメインを介し下流にシグナルを伝達することができる限り特に制限されない。キメラ抗原受容体を刺激する抗原としては、例えば、本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるキメラ抗原受容体発現CD3陽性細胞のキメラ抗原受容体によって標的にされる抗原と同一であってよい。
【0164】
本発明はまた、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体であって、該細胞内シグナル伝達ドメインがCD30の細胞内ドメインまたはその改変体を含む、キメラ抗原受容体(以下、本発明のキメラ抗原受容体と記載する)を提供する。
【0165】
本発明のキメラ抗原受容体に含まれる抗原結合ドメインは、本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞に発現するキメラ抗原受容体に含まれる抗原結合ドメインと同一であってよい。
【0166】
本発明のキメラ抗原受容体に含まれる膜貫通ドメインは、本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞に発現するキメラ抗原受容体に含まれる膜貫通ドメインと同一であってよい。
【0167】
本発明のキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、CD30の細胞内ドメインまたはその改変体を含む。CD30の細胞内ドメインとしては、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる抗原結合ドメインが抗原を認識した後、その認識シグナルを細胞内に伝達すること機能を保持する限り特に制限されないが、例えば、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。
【0168】
CD30の細胞内ドメインの改変体としては、上記の機能を保持する限り制限されないが、例えば、配列番号6に示されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。ここで「相同性」とは、「IL-15/IL-15Rα」のアミノ酸配列における相同性と同様であってよい。
【0169】
また、CD30の細胞内ドメインの改変体としては、例えば、(1) 配列番号6で表されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2) 配列番号6で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号6で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~50個程度、好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4) 配列番号6で表されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは、1~50個程度、好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列なども含まれる。上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、CD30の細胞内ドメインの機能が保持される限り特に限定されない。
【0170】
本発明のキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、CD30の細胞内ドメインまたはその改変体に加えて、さらに他のタンパク質に由来する細胞内ドメインを含んでいてもよい。さらに含まれる細胞内ドメインは、本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞に発現するキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインに含まれる細胞内ドメインと同一であってよい。さらに含まれる細胞内ドメインは、特に制限されないが、CD28、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインが好ましい。
【0171】
本発明のキメラ抗原受容体は、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間、または細胞内シグナル伝達ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサーを組み入れてもよい。スペーサーは、本発明の製造方法または拡大培養方法において培養されるCD3陽性細胞に発現するキメラ抗原受容体に含まれるスペーサーと同一であってよい。
【0172】
本発明のキメラ抗原受容体としては、具体的には、抗原結合ドメインとしてCD19を認識するscFv、膜貫通ドメインとしてCD8の膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインとしてCD28に由来する細胞内ドメイン、CD30に由来する細胞内ドメイン、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体が挙げられる。細胞内シグナル伝達ドメインに含まれる上記の各細胞内ドメインの順番は特に制限されないが、例えば、CD28に由来する細胞内ドメイン、CD30に由来する細胞内ドメイン、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインの順番に含まれる。より具体的には、本発明のキメラ抗原受容体は、例えば、配列番号7によって表されるアミノ酸配列からなる。
【0173】
本発明のキメラ抗原受容体は、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは本発明のキメラ抗原受容体をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。本発明のキメラ抗原受容体は、本発明の製造方法または拡大培養方法において使用されるMHCおよび/または抗原ペプチドの製造方法に従って、同様に製造し、単離精製することができる。
【0174】
本発明はまた、本発明のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む、核酸(以下、本発明の核酸と記載する)を提供する。
【0175】
本発明の核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
【0176】
本発明の核酸は、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)によって取得することができる。まず、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインの各ドメインをコードするゲノムDNAまたはcDNAを取得する。cDNAであれば、細胞より調製した全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、PCR法およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。取得したゲノムDNAまたはcDNAを鋳型として、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインの各ドメインをコードする塩基配列の一部分とスペーサーをコードする塩基配列からなる合成DNAプライマーを用いて、PCR法によって、各ドメインをコードする核酸を増幅することができる。得られた各ドメイン同士を鋳型として、前記合成DNAプライマーを用いて、PCR法を繰り返し、本発明の核酸を取得することができる。
【0177】
本発明はまた、本発明の核酸を含む、キメラ抗原受容体遺伝子導入ベクター(以下、本発明の遺伝子導入ベクターと記載する)を提供する。
【0178】
本発明の遺伝子導入ベクターは、例えば、本発明の核酸を適当な遺伝子導入ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。遺伝子導入ベクター、プロモーター、およびその他のエレメントは、本発明の製造方法または拡大培養方法において、多能性幹細胞に外因性のTCRを導入する際に使用されるベクター、プロモーター、およびその他のエレメントと同一であってよい。
【0179】
本発明はまた、本発明の遺伝子導入ベクターを含む、キメラ抗原受容体発現細胞(以下、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞と記載する)を提供する。
【0180】
本発明の遺伝子導入ベクターを細胞に導入し、培養することによって、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞を製造することができる。本発明の遺伝子導入ベクターが導入される細胞は、CD3陽性細胞またはその前駆細胞(造血幹細胞、リンパ系共通前駆細胞、リンパ芽球など)あるいは多能性幹細胞が挙げられる、多能性幹細胞としては、ES細胞、iPS細胞、EC細胞、EG細胞が挙げられるが、好ましくはES細胞またはiPS細胞が挙げられる。
【0181】
本発明の遺伝子導入ベクターを細胞に導入する方法としては、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって導入することができる。
【0182】
本発明のキメラ抗原受容体発現細胞は、CD3陽性細胞であることが好ましい。前記CD3陽性細胞は、好ましくは、CD3陽性CD8陽性細胞(CD3陽性CD8陽性CD4陽性細胞またはCD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞)、より好ましくは、CD3陽性CD8陽性CD4陰性細胞である。また、別の好ましい前記CD3陽性細胞としては、CD3陽性CD4陽性細胞(CD3陽性CD4陽性CD8陽性細胞またはCD3陽性CD4陽性CD8陰性細胞)が挙げられる。
【0183】
本発明のキメラ抗原受容体発現細胞が、本発明の遺伝子導入ベクターを多能性幹細胞に導入することによって製造される細胞である場合、自体公知の方法に従って多能性幹細胞をCD3陽性細胞に分化させることができる。多能性幹細胞をCD3陽性細胞に分化させる具体的な方法は、本発明の製造方法または拡大培養方法において、培養されるCD3陽性細胞が多能性幹細胞を分化させる方法と同一であってよい。
【0184】
以上のように得られる本発明のキメラ抗原受容体発現細胞は、キメラ抗原受容体によって目的の抗原に対する特異性を付与されるため、当該目的の抗原を発現する腫瘍に対して細胞傷害活性を示し得る。また、キメラ抗原受容体はHLAクラスIまたはクラスIIに依存せずに抗原分子を直接認識することができるため、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞はHLAクラスIまたはクラスII遺伝子の発現が低下した腫瘍に対しても高い免疫反応を起こすことが可能である。
従って、本発明はまた、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞を有効成分として含む医薬(以下、本発明の医薬と記載する)を提供する。本発明のキメラ抗原受容体発現細胞を含む医薬は、本発明のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防または治療のために用いることができ、例えば哺乳動物(例:マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)、好ましくはヒトに投与することができる。従って、本発明の一態様において、本発明のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防又は治療に使用するための、本発明の医薬が提供される。また、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞を、好ましくは該細胞を含む医薬の形態で、投与することを含む、本発明のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防又は治療方法が提供される。
【0185】
本発明の医薬又は本発明のキメラ抗原受容体発現細胞により予防または治療される腫瘍は、本発明のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍であれば特に制限されない。ここで腫瘍とは、例えば、“Daniel Baumhoer et al., Am J. Clin Pathol, 2008, 129, 899-906”などに記載されており、良性の腫瘍、悪性の腫瘍(「がん」ともいう)、および、良性または悪性と診断または判定され得る腫瘍が包含される。腫瘍としては、具体的には、肝臓癌(例:肝細胞癌)、卵巣癌(例:卵巣明細胞腺癌)、小児癌、肺癌(例:扁平上皮癌、肺小細胞癌)、精巣癌(例:非セミノーマ胚細胞腫瘍)、軟部腫瘍(例:脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫)、子宮癌(例:子宮頚部上皮内腫瘍、子宮頸部扁平上皮癌)、メラノーマ、副腎腫瘍(例:副腎の腺腫)、神経性腫瘍(例:シュワン腫)、胃癌(例:胃の腺癌)、腎臓癌(例:グラヴィッツ腫瘍)、乳癌(例:浸潤性小葉性癌、粘液性癌)、甲状腺癌(例:髄様癌)、喉頭癌(例:扁平上皮癌)、膀胱癌(例:浸潤性移行上皮癌)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0186】
本発明のキメラ抗原受容体発現細胞は、対象に投与する前に適切な培地および/または刺激分子を使用して培養および/または刺激を行ってもよい。刺激分子としては、サイトカイン類、適当なタンパク質、その他の成分などが挙げられるが、これらに限定されない。サイトカイン類としては、例えばIL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IFN-γ等が例示され、好ましくは、IL-2を用いることができる。IL-2の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば、好適には0.01 U/ml~1×105 U/ml、より好適には1 U/ml~1×104 U/mlである。また、適当なタンパク質としては、例えば、キメラ抗原受容体によって認識される抗原、CD3リガンド、CD28リガンド、抗IL-4抗体が例示される。また、この他、レクチン等のリンパ球刺激因子を添加することもできる。さらに、培地中に血清や血漿を添加してもよい。これらの培地中への添加量は特に限定はないが、0体積%~20体積%が例示され、また培養段階に応じて使用する血清や血漿の量を変更することができる。例えば、血清または血漿濃度を段階的に減らして使用することもできる。血清または血漿の由来としては、自己または非自己のいずれでも良いが、安全性の観点からは、自己由来のものが好ましい。
【0187】
本発明の医薬は、非経口的に対象に投与して用いることが好ましい。非経口的な投与方法としては、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、および皮下投与などの方法が挙げられる。投与量は、対象の状態、体重、年齢等に応じて適宜選択されるが、通常、細胞数として、体重60 kgの対象に対し、1回当り、通常1×106~1×1010個となるように、好ましくは1×107~1×109個となるように、より好ましくは5×107~5×108個となるように投与される。また、1回で投与してもよく、複数回にわたって投与してもよい。本発明の医薬は、非経口投与に適した公知の形態、例えば、注射または注入剤とすることができる。また、本発明の医薬は、細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含んでもよい。培地としては、特に限定するものではないが、RPMI、AIM-V、X-VIVO10などの培地が挙げられるが、これらに限定されない。また該医薬には医薬的に許容される担体(例:ヒト血清アルブミン)、保存剤等が安定化の目的で添加されていてもよい。
【0188】
さらに、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞は、本発明のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する細胞を殺傷し得るため、該抗原を発現する細胞の殺傷剤として用いることができる。かかる殺傷剤は、前記医薬と同様にして作製し、使用することができる。
【0189】
また、本発明には、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞を含む医薬に準じて、本発明のキメラ抗原受容体によって認識される抗原を発現する腫瘍の予防剤又は治療剤の製造における、本発明のキメラ抗原受容体発現細胞の使用の実施態様も包含される。腫瘍の予防剤又は治療剤は、自体公知の方法により製造することができる。例えば、上記の本発明の医薬の調製方法と同様に、非経口投与に適した公知の形態、例えば、注射または注入剤などとして製造することができる。
【0190】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0191】
[実施例1]
1.iPS細胞の準備
iPS細胞には、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から供与されたFf-I01s04株を使用した。iPS細胞培養は、CiRAが配布するプロトコール「フィーダーフリーでのヒトiPS 細胞の培養」に準じて行った。
【0192】
2.iPS細胞へのT細胞受容体(TCR)遺伝子の導入
TCR遺伝子は、愛媛大学大学院医学研究科安川正貴教授から供与されたTAK1由来、HLA-A*24:02拘束性WT1特異的TCR(WT1-TCR)遺伝子を用いた。iPS細胞への遺伝子導入は、理化学研究所から供与されたCS-UbC-RfA-IRES2-hKO1レンチウイルスベクターに組込み、iPS細胞に感染させることで行った。
【0193】
3.WT1-TCR遺伝子が導入されたiPS細胞のCD8陽性T細胞(CTL)への分化
WT1-TCR遺伝子が導入されたiPS細胞のCD8陽性T細胞(CTL)への分化は、公知の方法(WO2017/221975)に準じて行った。本細胞は、CD3陽性、CD8陽性であった。以下においては、該細胞をiPS細胞由来T細胞として使用した。
【0194】
4.試薬、抗体
レトロネクチン(登録商標)は、タカラバイオ社から購入した。抗CD3アゴニスト抗体には、eBioscience社から購入したanti-human CD3 functional grade purified (Clone: OKT3)またはGeneTex社から購入したCD3 antibody (Clone: UCHT1)を用いた。特に言及しない限りは、OKT3を使用した。抗CD30アゴニスト抗体には、R&D社から購入したCD30 agonist antibodyを用いた。
【0195】
5.抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)の培養プレートへの固相化
必要な濃度でPBSに溶解した抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)を50μL/wellで96穴プレートに添加した後、4℃下一晩静置した。PBSで洗浄した後に試験に供した。
【0196】
6.固相化抗CD3アゴニスト抗体および固相化レトロネクチン(登録商標)を検出するためのELISA
固相化抗CD3アゴニスト抗体の検出には、Bethyl Laboratorie社から購入したMouse IgG2a ELISA Quantitation Setに含まれるHRP Conjugated Goat anti-Mouse IgG2a Detection Antibodyを使用した。固相化レトロネクチン(登録商標)の検出には、タカラバイオ社から購入したRetroNectin EIA kitに含まれるペルオキシダーゼ標識抗RetroNectin 抗体を用いた。固相化プレートに各検出用抗体を添加後、1時間室温で静置した。0.05%のTween-20を含むPBSで洗浄した後、1-StepTM Ultra TMB-ELISA Substrate Solution (ThermoFisher)を添加した。15分間、室温で静置した後、1M硫酸を加えて反応を停止し、プレートリーダを用いて450 nmの吸光度を測定した。
【0197】
7.増殖試験
15% FBSを含むα-MEM培地に表1のサイトカインなどを加えた培地で100,000細胞/200μLに調製したiPS細胞由来T細胞を、抗CD3アゴニスト抗体(3, 30, 300, 3000 ng/ml)とレトロネクチン(登録商標)(0, 1.85, 2.25, 16.7, 50, 150 μg/ml)を固相化したプレートに播種して、5% CO2/37℃下で3日間培養した。
培養3日目にプレートから細胞を回収し、TC20(バイオラッド)を用いて細胞数を計測すると共に、15% FBSを含むα-MEM培地に表2のサイトカインなどを加えた培地で適量に懸濁し、固相化されていない96穴プレートに添加し、5% CO2/37℃下で培養した。その後、培養5、6、7、8、9、10、12、14および16日目のいずれかのタイミングで各1回、計4~7回細胞をプレートから回収して細胞数を計測すると共に適量に懸濁して固相化されていないプレートに添加して5% CO2/37℃下で培養した。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
8.ATP試験
増殖試験の培養12日目の細胞及び培養上清中のATPは、Promega社から購入したCellTiter-Glo(R) Luminescent Cell Viability Assayを用い、標準プロトコールに準じて測定した。
【0201】
9.WT1抗原特異的細胞傷害活性の測定
HLA-A*24:02陽性LCL細胞は、理化学研究所バイオリソースセンターから購入した。10% FBSを含むRPMI1640培地で培養した。WT1抗原ペプチド(CMTWNQMNL:配列番号:3)は、株式会社スクラムに合成を委託した。細胞傷害性試験は、パーキンエルマー社から購入したDELFIAイムノアッセイを用いて、標準プロトコールに準じて評価した。
【0202】
10.抗CD30アゴニスト抗体を添加した増殖試験
細胞懸濁時の培養液に最終濃度0, 30, 100, 300 ng/mLに希釈した抗CD30アゴニスト抗体を添加した。それ以外は「7.増殖試験」と同じ方法で行った。
また、複数回の固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激に対するiPS細胞由来T細胞の増殖試験としては、細胞懸濁時の培養液に最終濃度100 ng/mLに希釈した抗CD30アゴニスト抗体を添加した。それ以外は「7.増殖試験」と同じ方法で行った。
【0203】
11.細胞膜表面上のCD197およびCD45RAの検出
培養7日目の細胞を回収して表3の抗体で染色した後、LSRFortessaTM X-20 (BD Bioscience社)フローサイトメトリーを用いて検出した。
【0204】
【表3】
【0205】
[試験例1]
1.培養プレートへの固相化に適した抗CD3アゴニスト抗体の濃度およびレトロネクチン(登録商標)の濃度の測定
ELISA法を用いて抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)の培養プレートへの固相化に適した濃度を測定した(図1)。抗CD3アゴニスト抗体は3 ng/mLから3000 ng/mLの間で濃度依存的な固相化が確認された。レトロネクチン(登録商標)は、16.7μg/mLから150 μg/mLの間で濃度依存的な固相化が確認された。
【0206】
2.iPS細胞由来T細胞の増殖に適した固相化抗CD3アゴニスト抗体および固相化レトロネクチン(登録商標)に必要な抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)の濃度範囲の検証
抗CD3アゴニスト抗体(0, 3,30,300, 3000 ng/mL)とレトロネクチン(登録商標)(0, 1.85,5.56,16.7,50,150 μg/mL)でそれぞれ固相化したプレート上でiPS細胞由来T細胞を3日間刺激後、9日間非固相化プレート上で培養した後、ATP量を測定した(図2)。
【0207】
3.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激されたiPS細胞由来T細胞の増殖試験
100,000細胞/200μLに調製したiPS細胞由来T細胞を、抗CD3アゴニスト抗体(3000 ng/mL)及びレトロネクチン(登録商標)(150 μg/mL)が固相化された96穴プレート上、またはiPS細胞由来T細胞数とビーズ粒子数が1:1の割合になるように添加された抗CD3/CD28ビーズ(Dynabeads)で3日間刺激後、刺激無しで培養した時の細胞数を経時的に計測した(図3)。iPS細胞由来T細胞は、抗CD3/CD28ビーズよりも、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)で刺激した方がより増殖した。
【0208】
4.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって複数回刺激されたiPS細胞由来T細胞の増殖試験
固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による複数回の刺激に対する、iPS細胞由来T細胞の細胞増殖反応を確認した。1回の増殖試験は、固相化したプレート上でiPS細胞由来T細胞を3日間刺激後、11-15日間非固相化プレート上での培養を行うことで実施した。試験終了後、細胞数を調整して次の試験に供した。iPS細胞由来T細胞は、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による4回目の刺激にも反応して、増殖した(図4)。
【0209】
5.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激によって増殖したWT1-TCR遺伝子導入iPS細胞由来T細胞のWT1抗原特異的細胞傷害活性の検証
固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激によって増殖したWT1-TCR遺伝子導入iPS細胞由来T細胞の、WT1抗原特異的細胞傷害活性を評価した。WT1抗原特異的細胞傷害活性は、WT1抗原ペプチドを添加したLCLに対する傷害活性と、非添加のLCLに対する傷害活性の差によって評価した。WT1-TCR遺伝子導入iPS細胞由来T細胞は、非特異的な細胞傷害活性をほとんど有さず、WT1抗原特異的細胞傷害活性だけを示した(図5)。
【0210】
6.抗CD30アゴニスト抗体刺激によるiPS細胞由来T細胞の増殖試験
固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)刺激時に、抗CD30アゴニスト抗体を添加(0, 30, 100, 300 ng/mL)することで、iPS細胞由来T細胞の増殖に影響があるか検証した。固相化96穴プレートは、抗CD3アゴニスト抗体(3000 ng/ml)とレトロネクチン(登録商標)(150 μg/ml)が固相化されたものを用いた。iPS細胞由来T細胞は、抗CD30アゴニスト抗体を添加することでより増殖した。また、添加した抗CD30アゴニスト抗体の濃度依存的に増殖した(図6)。
【0211】
7.複数回の固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激に対するiPS細胞由来T細胞の増殖試験
複数回の固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激に対して、iPS細胞由来T細胞が増殖反応を示すか検証した。抗CD3アゴニスト抗体(3000 ng/ml)及びレトロネクチン(登録商標)(150 μg/ml)が固相化されたプレートに播種して、5% CO2/37℃下で3日間培養した。
培養3日目にプレートから細胞を回収し、TC20(バイオラッド)を用いて細胞数を計測すると共に、15% FBSを含むα-MEM培地に表2のサイトカインなどを加えた培地で適量に懸濁し、固相化されていないプレートに添加し、5% CO2/37℃下で培養した。その後、培養6、7、9、10、14および16日目のタイミングで各1回、細胞をプレートから回収して細胞数を計測すると共に適量に懸濁して固相化されていないプレートに添加して5% CO2/37℃下で培養した。培養液には最終濃度100 ng/mLに希釈した抗CD30アゴニスト抗体を添加したもの、および抗CD30アゴニスト抗体を添加しないものを用いた。上記の培養0~16日目までの刺激を2回繰り返し実施した。2回目の刺激においてもiPS細胞由来T細胞は、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)のみによる刺激に比して、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激によってより増殖した(図7)。
【0212】
8.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のiPS細胞由来T細胞膜表面上のCD197およびCD45RAの検出
固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激、または固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後、7日目のiPS細胞由来T細胞膜表面上のCD197とCD45RAの発現をフローサイトメーターで測定した。抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体によって刺激された細胞群において、CD197陽性CD45RA陰性のセントラルメモリー様のiPS細胞由来T細胞が過半数を占めた(図8)。
【0213】
9.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチンおよび抗CD30アゴニスト抗体による刺激によって増殖したWT1-TCR遺伝子導入iPS細胞由来T細胞のWT1抗原特異的細胞傷害活性の検証
固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激によって増殖させた、WT1-TCR遺伝子導入iPS細胞由来T細胞を、WT1抗原ペプチドの存在又は非存在下でHLA-A*24:02陽性LCL細胞に適用し、WT1抗原特異的細胞傷害活性を評価した。WT1-TCR遺伝子導入iPS細胞由来T細胞は、非特異的な細胞傷害活性をほとんど有さず、WT1抗原特異的細胞傷害活性だけを示した(図9)。また、そのWT1抗原特異的細胞傷害活性は、2回目の刺激による増殖後も維持されていた(図9)。
【0214】
[実施例2]
1.ヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の準備
ヒト末梢血は、健常人由来末梢血単核球としてPrecision Bioservices社から購入した。CD8+ T cell isolation kit, human(Milteny社)を用いてCD8陽性T細胞を単離した。
【0215】
2.ヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の増殖試験
[実施例1]7.増殖試験と同様の方法で、試験を実施した。
【0216】
3.マウス生着試験に用いるヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の培養
15% FBSを含むα-MEM培地に表4に示す添加物加えた3種類の培地で最終濃度100,000細胞/mLに懸濁したヒト末梢血由来CD8陽性T細胞に、細胞数の3倍量になるよう調整したDynabeads T-Activator CD3/CD28(gibco社)を加えて、5%CO2/37℃下で3日間培養した。培養3日目にプレートから細胞を回収し、15%FBSを含むα-MEM培地に表5のサイトカインなどを加えた培地で適量に懸濁し5%CO2/37℃下で培養した。その後培養10日目に細胞をプレートから回収して細胞数を計測すると共に適量に懸濁してマウスに投与した。また培養6、10、13、17日目に細胞をプレートから回収して適量に懸濁してCD197発現実験に供した。
【0217】
【表4】
【0218】
【表5】
【0219】
4.マウスへのヒト末梢血由来CD8陽性T細胞投与と生着した細胞の回収
細胞投与の同日投与前に2Gyのガンマ線照射を行った、8週齢雄性のNSGマウス(日本チャールスリバー)を用いた。[実施例2]3.のマウス生着試験に用いるヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の培養で調整した、5,000,000細胞をマウス静脈から投与しその後4週間飼育した。その後安楽死させてマウスから骨髄細胞および脾細胞、血液中の白血球を回収した。
【0220】
5.マウス組織に生着したヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の検出
回収した細胞を表3の抗体で染色した後、LSRFortessaTM X-20 (BD Bioscience社)フローサイトメトリーを用いて検出した。
【0221】
[試験例2]
1.抗CD30アゴニスト抗体刺激によるヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の増殖試験
固相化抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)刺激時に、抗CD30アゴニスト抗体を添加することで、ヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の増殖に影響があるか確認した。抗CD30アゴニスト抗体の添加により、ヒト末梢血中のCD8陽性T細胞の増殖が亢進した(図10)。
【0222】
2.抗CD3/CD28ビーズおよび抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のヒト末梢血由来CD8陽性T細胞膜表面上のCD197の検出
IL-2含有培地もしくはIL-7/IL-15含有培地、IL-7/IL-15/抗CD30抗体含有培地において、抗CD3/CD28ビーズで刺激したヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の、培養6、10、13、17日目における細胞膜表面上CD197発現をフローサイトメーターで測定した。6日目では全群でCD197発現が確認されたが、IL-2含有培地群においては13日目に、IL-7/IL-15含有培地群においては17日目にCD197発現がほとんど消失したのに対して、IL-7/IL-15/抗CD30抗体含有培地群では、17日目においてもCD197発現が維持されていた(図11)。
【0223】
3.抗CD3/CD28ビーズおよび抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のヒト末梢血由来CD8陽性T細胞の生着評価
IL-2含有培地もしくはIL-7/IL-15含有培地、IL-7/IL-15/抗CD30抗体含有培地において、抗CD3/CD28ビーズで刺激した培養10日目のヒト末梢血由来CD8陽性T細胞を免疫不全マウスの静脈に投与し、血液中及び免疫組織での生着を確認した。投与後28日目にマウスから血液および脾臓および骨髄を採取し、含まれるヒトCD8陽性T細胞をフローサイトメトリーで検出した。いずれの臓器においてもIL-2含有培地群ではほとんどヒトCD8陽性T細胞は検出されなかったのに対して、IL-7/IL-15含有培地群およびIL-7/IL-15/抗CD30抗体含有培地群においてはヒトCD8陽性T細胞が検出された。またIL-7/IL-15/抗CD30抗体含有培地群においてより多数のヒトCD8陽性T細胞が検出された。従って、IL-7/IL-15/抗CD30抗体を含む培地で培養したヒト末梢血由来CD8陽性T細胞は、培養中にCD197の発現を長期にわたって維持できるだけでなく、生体内においても長期にわたって生存可能であることが示された(図12)。
【0224】
[実施例3]
1.iPS細胞由来抗CD19-CART細胞の増殖試験
15% FBSを含むα-MEM培地に表1のサイトカインなどを加えた培地で100,000細胞/200 μLに調製したiPS細胞由来抗CD19-CART細胞を、抗CD3抗体とレトロネクチン(登録商標)が固相化されたプレートに播種して、5% CO2/37℃下で3日間培養した。培養3日目にプレートから細胞を回収し、TC20(バイオラット)を用いて細胞数を計測すると共に、15% FBSを含むα-MEM培地に表2のサイトカインなどを加えた培地で適量に懸濁し、固相化されていないプレートに添加し、5% CO2/37℃下で培養した。その後培養5、6、7、8、9、10、12、14、16日目のいずれか4-7回細胞をプレートから回収して細胞数を計測すると共に適量に懸濁して固相化されていないプレートに添加して5% CO2/37℃下で培養した。
【0225】
2.抗CD19-CAR遺伝子
抗CD19-CAR遺伝子は、N末から表6の順番で並ぶように設計したポリペプチド(配列番号5)をコードするオリゴDNAを人工合成した。
【0226】
【表6】
【0227】
3.抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターの作製
[実施例3]2.で合成した人工オリゴDNAをpMEI-5レトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに組込んだ。ウイルスベクター作製は、ユニーテック社に委託した。
【0228】
4.iPS細胞由来抗CD19-CART細胞の製造
[実施例3]3.で作製した抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターを、[実施例1]3.で作製したiPS細胞由来T細胞に感染させて、iPS細胞由来抗CD19-CART細胞を作製した。
【0229】
[試験例3]
1.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)によって刺激されたiPS細胞由来抗CD19-CART細胞の増殖試験
[実施例1]3.で作製したiPS細胞由来T細胞および[実施例3]4.で作製したiPS細胞由来抗CD19-CART細胞を、固相化抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)で3日間刺激後、刺激無しで培養した時の細胞数を経時的に計測した。iPS細胞由来抗CD19-CART細胞は、iPS細胞由来T細胞と同程度に、固相化抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激で増殖した(図13)。
【0230】
2.抗CD30アゴニスト抗体刺激によるiPS細胞由来抗CD19-CART細胞の増殖試験
固相化抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)刺激時に、抗CD30アゴニスト抗体を添加することで、iPS細胞由来抗CD19-CART細胞の増殖に影響があるか確認した。抗CD30アゴニスト抗体の添加により、iPS細胞由来抗CD19-CART細胞の増殖が亢進した(図14)。
【0231】
3.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のiPS細胞由来抗CD19-CART細胞膜表面上のCD197の検出
固相化抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)刺激後、もしくは固相化抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)/抗CD30アゴニスト抗体刺激後3日目および7日目のiPS細胞由来抗CD19-CART細胞膜表面上のCD197発現をフローサイトメーターで測定した。3日目では両群でCD197発現が確認されたが、7日目には、抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)刺激群においてはCD197発現がほとんど消失したのに対して、抗CD3抗体/レトロネクチン(登録商標)+抗CD30アゴニスト抗体刺激群においては、CD197発現が維持されていることが確認された(図15)。
【0232】
4.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のiPS細胞由来抗CD19-CART細胞のRaji細胞傷害活性の検証
[試験例3]1.の増殖によって得られた、iPS細胞由来抗CD19-CART細胞のCD19陽性がん細胞に対する細胞傷害活性は、CD19陽性Raji細胞に対する傷害活性により評価した。iPS細胞由来抗CD19-CART細胞は、CD19発現Raji細胞に対して細胞傷害活性を示した(図16)。
【0233】
[実施例4]
1.CD30由来細胞内ドメインを含む抗CD19-CAR遺伝子
抗CD19-CAR遺伝子は、N末から表7の順番で並ぶように設計したポリペプチド(配列番号7)をコードするオリゴDNAを人工合成した。
【0234】
【表7】
【0235】
2.CD30由来細胞内ドメインを含む抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターの作製
[実施例4]1.で合成した人工オリゴDNAをpMYレトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに組込んだ。レトロウイルスベクター産生用のFRY-RD18細胞を用いてウイルスベクターを作製した。
【0236】
3.CD30由来細胞内ドメインを含むiPS細胞由来抗CD19-CART細胞(iCD19-CD30-CART)の製造
[実施例4]2.で作製した抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターを、[実施例1]3.で作製したiPS細胞由来T細胞に感染させて、CD30由来細胞内ドメインを含むiPS細胞由来抗CD19-CART細胞(iCD19-CD30-CART)を作製した。
【0237】
[試験例4]
[実施例4]3.で得たiCD19-CD30-CARTのCD19陽性がん細胞に対する細胞傷害活性を、CD19陽性Raji細胞に対する傷害活性により評価した。iCD19-CD30-CARTは、CD19発現Raji細胞に対して細胞傷害活性を示した(図17)。
【0238】
[実施例5]
1.iPS細胞の準備
iPS細胞には、[実施例1]と同様に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から供与されたFf-I01s04株を使用した。iPS細胞培養は、CiRAが配布するプロトコール「フィーダーフリーでのヒトiPS 細胞の培養」に準じて行った。
【0239】
2.iPS細胞のγδTCR陽性T細胞(γδT細胞)への分化
iPS細胞のγδTCR陽性T細胞(γδT細胞)への分化は、[実施例1]と同様に、公知の方法(WO2017/221975)に準じて行った。分化の工程において使用する抗CD3抗体としては、3000 ng/mL UCHT1(GeneTex社製)を用いた。得られたCD3陽性細胞はγδT細胞であった(以下、「iPS細胞由来γδT細胞(iγδT細胞)」と称する)。
【0240】
3.iPS細胞由来γδT細胞の拡大培養
[実施例5]2.で得たiγδT細胞を、15% FBSを含むα-MEM培地に表8のサイトカインなどを加えた培地で2,000,000細胞/mLで懸濁し、抗CD3抗体(UCHT1)とレトロネクチン(登録商標)が固相化されたプレートに播種して、5% CO2/37℃下で3日間培養した。培養3日目にプレートから細胞を回収し、NucleoCounter NC-200(ChemoMetec)を用いて細胞数を計測すると共に、15% FBSを含むα-MEM培地に表9のサイトカインなどを加えた培地で適量に懸濁し、固相化されていないG-Rex 6穴プレート(WILSONWOLF)に添加し、5% CO2/37℃下で培養した。その後培養5、6、7、8、9、10、11、14、17日目のいずれか4-6回、一部の細胞をプレートから回収して細胞数を計測した。抗CD3抗体およびレトロネクチン(登録商標)の培養プレートへの固相化は、以下の方法で行った。必要な濃度でPBSに溶解した抗CD3抗体(UCHT1、最終濃度3000 ng/mL)およびレトロネクチン(登録商標)(最終濃度150 μg/mL)をプレートに添加した後、4℃下一晩静置した。PBSで洗浄した後に試験に供した。
【0241】
【表8】
【0242】
【表9】
【0243】
[試験例5]
1.抗CD30アゴニスト抗体刺激によるiPS細胞由来γδT細胞の増殖試験
[実施例5]3.において、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)を用いた刺激方法に、抗CD30アゴニスト抗体を添加(300 ng/ml)することで、iPS細胞由来γδT細胞の増殖に影響があるか検証した。iPS細胞由来T細胞は、抗CD30アゴニスト抗体を添加することでより増殖した(図18)。
【0244】
[実施例6]
1.IL-15Rα/IL-15遺伝子
IL-15Rα/IL-15遺伝子は、N末から表10の順番で並ぶように設計したポリペプチド(配列番号8)をコードするオリゴDNAを人工合成した。
【0245】
【表10】
【0246】
2.IL-15Rα/IL-15遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターの作製
[実施例6]1.で合成した人工オリゴDNAをpMYレトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに組込んだ。レトロウイルスベクター産生用のFRY-RD18細胞を用いてウイルスベクターを作製した。
【0247】
3.iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の製造
[実施例3]3.で作製した抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターおよび[実施例6]1.で作製したIL-15Rα/IL-15遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターを、[実施例5]2.で作製したiPS細胞由来γδT細胞(iγδT細胞)に感染させて、iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞(iCD19CAR/IL-15γδT細胞)を作製した。
【0248】
4.iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の拡大培養
IL-2を添加しなかったことを除き、[実施例5]3.と同様の方法で、iCD19CAR/IL-15γδT細胞の拡大培養を実施した。
【0249】
[試験例6]
1.抗CD30アゴニスト抗体刺激によるiPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の増殖試験
[実施例6]4.において、固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)刺激時に、抗CD30アゴニスト抗体を添加(300 ng/mL)することで、iCD19CAR/IL-15γδT細胞の増殖に影響があるか検証した。抗CD30アゴニスト抗体を添加することでより増殖した(図19)。
【0250】
2.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のiPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の細胞傷害活性の検討
[実施例6]4.で得られたiCD19CAR/IL-15γδT細胞の細胞傷害活性を評価した。CD19陽性Raji細胞およびCD19陰性CCRF-CEN細胞を標的細胞として、iCD19CAR/IL-15γδT細胞を、標的細胞に対して0.5, 1, 2, 4, 8, 16倍の割合で混和して、2時間後における標的細胞死をもとに、iCD19CAR/IL-15γδT細胞の細胞傷害活性を評価した。抗CD30アゴニスト抗体を含む培地で拡大培養したiCD19CAR/IL-15γδT細胞は、CD19陽性Raji細胞に対して細胞傷害活性を有し、CD19陰性CCRF-CEN細胞に対しては有さないことが示された(図20)。
【0251】
3.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)および抗CD30アゴニスト抗体による刺激後のiPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞による生存日数延長効果
NOD/Shi-scid,IL-2RγKO (NOG) マウス(実験動物中央研究所、雌性、7-8週齢)に5x105個のNalm6細胞(ATCC)を尾静脈移植してNalm6ゼノグラフトマウスを作製した。移植後4日目に、[実施例6]4.で得られたiCD19CAR/IL-15γδT細胞(5x106個(cells))を0.1 mLのHBSS-緩衝液に懸濁した懸濁液または等量のHBSS-緩衝液を尾静脈投与した後、生存日数を確認した。CD19陽性Nalm6がん細胞を経尾静脈移植したマウスは、コントロール投与群では3週間以内に全例死亡したのに対して、抗CD30アゴニスト抗体を含む培地で拡大培養したiCD19CAR/IL-15γδT細胞投与群では、少なくとも6週間後まで全例において生存していた(図21)。
【0252】
[実施例7]
1.iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15αβT細胞の製造
[実施例3]4.の方法で製造したiPS細胞由来抗CD19-CART細胞に、[実施例6]2.で作製したIL15Rα/IL-15遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターを感染させて、iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15αβT細胞(iCD19CAR/IL-15αβT細胞)を作製した。
【0253】
2.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)を用いたiCD19CAR/IL-15αβT細胞の拡大培養
[実施例7]1.で得たiCD19CAR/IL-15αβT細胞を、[実施例6]4.と同様の方法で、7日目まで培養した。ただし、抗ヒトCD30抗体は添加していない。
【0254】
[試験例7]
1.固相化抗CD3アゴニスト抗体/レトロネクチン(登録商標)による刺激後のiCD19CAR/IL-15αβT細胞によるin vivo抗腫瘍効果
NOD/Shi-scid,IL-2RγKO (NOG) マウス(実験動物中央研究所、雌性、7-8週齢)に5x105個のルシフェラーゼ発現Nalm6細胞(ATCC)を尾静脈移植してルシフェラーゼ発現Nalm6ゼノグラフトマウスを作製した。移植後4日目に、[実施例7]2.で得られたiCD19CAR/IL-15αβT細胞(5x106個(cells))を0.1 mLのHBSS-緩衝液に懸濁した懸濁液または等量のHBSS-緩衝液を尾静脈投与した。投与後1週間毎にルシフェリンを尾静脈投与して、Nalm6細胞が発現するルシフェラーゼの活性をIVISを用いて測定した。コントロール投与群では、投与2週間後に全身にNalm6細胞由来の発光が確認され、投与後3週目までに全例死亡したのに対して、iCD19CAR/IL-15αβT細胞投与群では、投与6週目後まで発光は検出されなかった(図22)。
【0255】
[実施例8]
1.iPS細胞由来γδT細胞の製造
[実施例5]1.および2.と同様にしてiPS細胞由来γδT細胞(iγδT細胞)を製造した。
【0256】
[試験例8]
1.培養プレートへの固相化に適した抗CD3アゴニスト抗体(UCHT1)の濃度およびレトロネクチン(登録商標)の濃度の測定
抗CD3アゴニスト抗体(UCHT1)およびレトロネクチン(登録商標)を混合し、[実施例1]5.と同様にして培養プレートへ固相化した。その後、ELISA法を用いて培養プレート上の固相化量を測定した(図23)。レトロネクチン(登録商標)と混合しなかった抗CD3アゴニスト抗体は3 ng/mLから30000 ng/ml(0.003 μg/mlから30 μg/ml)の間で濃度依存的な固相化が確認されたが、混合するレトロネクチン(登録商標)濃度を上げるに従って抗CD3アゴニスト抗体の固相化量は低下した。一方、レトロネクチン(登録商標)は、16.7μg/mLから150 μg/mLの間で濃度依存的な固相化が確認された。
【0257】
2.iγδT細胞の増殖に適した固相化抗CD3アゴニスト抗体および固相化レトロネクチン(登録商標)に必要な抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)の濃度範囲および混合比の検証
15% FBSを含むIMDM培地に表1のサイトカインなどと、最終濃度0, 3, 30, 300 ng/mlに希釈した抗CD30アゴニスト抗体を加えた培地で100,000細胞/200μLに調整したiγδT細胞を、抗CD3アゴニスト抗体(0, 300, 3000, 30000 ng/ml(0, 0.3, 3, 30 μg/ml))とレトロネクチン(登録商標)(0, 2,15, 150 μg/mL)を固相化したプレートに播種して、5% CO2/37℃下で3日間培養した。
培養3日目にプレートから細胞を回収し、15% FBSを含むIMDM培地に表2のサイトカインなどを加えた適量の培地に懸濁し、非固相化96穴プレートに播種し、5% CO2/37℃下で培養した。その後、培養5、6、7、8、9、10、12日目のいずれかのタイミングで各1回、計4~7回細胞をプレートから回収し、適量の培地に懸濁し、非固相化プレートに播種して5% CO2/37℃下で培養した。培養13日目に、血球計数板を用いて細胞数を計測し、培養0日目の細胞数と比較した増殖率を測定した(図24)。抗CD3アゴニスト抗体およびレトロネクチン(登録商標)をそれぞれ0.3 μg/mLと2 μg/mL、3 μg/mLと15 μg/mL、30 μg/mLと150 μg/mLで混合して固相化したプレートにおいて、同等のiγδT細胞の増殖誘導が観察された。また抗CD30アゴニスト抗体添加濃度依存的な細胞増殖が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0258】
CD3/TCR複合体アゴニスト、フィブロネクチンまたはその改変体、およびCD30アゴニストの存在下でCD3陽性細胞を培養することによって、効率よく繰り返しT細胞を拡大培養することができる。また、培養されるCD3陽性細胞が、CD3陽性CD8陽性細胞またはCD3陽性CD8陽性CD30陽性細胞の場合、製造または拡大培養された細胞は、容易にエフェクターT細胞にシフトし、細胞傷害活性を発揮することができるため、T細胞療法に適用できる。
本出願は、日本で出願された特願2018-151580(出願日:平成30年8月10日)、特願2019-042666(出願日:平成31年3月8日)および特願2019-117878(出願日:令和元年6月25日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
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