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特許7382628アフリカ豚コレラウイルスの製造方法及び検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】アフリカ豚コレラウイルスの製造方法及び検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20231110BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231110BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20231110BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20231110BHJP
   A61K 39/187 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 15/37 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 15/34 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N5/10
C12Q1/04
C12Q1/6897 Z
A61K39/187
A61P37/04
A61P31/20
C12N15/867
C12N15/37
C12N15/60
C12N15/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019187750
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021061772
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-05-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度農林水産省「戦略的プロジェクト研究推進事業」(家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舛甚 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 敬人
(72)【発明者】
【氏名】國保 健浩
(72)【発明者】
【氏名】上西 博英
(72)【発明者】
【氏名】木谷 裕
(72)【発明者】
【氏名】亀山 健一郎
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-520827(JP,A)
【文献】TAKENOUCHI, T. et al.,Immortalization and Characterization of Porcine Macrophages That Had Been Transduced with Lentiviral,Frontiers in Veterinary Science,2017年08月21日,Vol.4,Article 132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
C12N 5/10
C12Q 1/04
C12Q 1/6897
A61K 39/187
A61P 37/04
A61P 31/20
C12N 15/34
C12N 15/37
C12N 15/60
C12N 15/867
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不死化豚腎臓マクロファージと、アフリカ豚コレラウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含み、かつ、前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)である、
アフリカ豚コレラウイルスの製造方法。
【請求項2】
不死化豚腎臓マクロファージと、アフリカ豚コレラウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖したアフリカ豚コレラウイルスを単離する工程、及び
単離したアフリカ豚コレラウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含み、かつ、前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)である、アフリカ豚コレラウイルスを含むワクチンの製造方法。
【請求項3】
アフリカ豚コレラウイルスに感染している不死化豚腎臓マクロファージであって、前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)である、不死化豚腎臓マクロファージ
【請求項4】
アフリカ豚コレラウイルス由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚腎臓マクロファージであって、前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)である、不死化豚腎臓マクロファージ
【請求項5】
アフリカ豚コレラウイルスを検出する方法であって、下記工程を含む方法
被検試料存在下にて、請求項に記載の不死化豚腎臓マクロファージを培養する工程、
当該不死化豚腎臓マクロファージにおける前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、及び
当該レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、前記被検試料はアフリカ豚コレラウイルスを含有していると判定する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の製造方法に関し、より詳しくは、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、ASFVの製造方法に関する。また、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、ASFVを含むワクチンの製造方法に関する。さらに、本発明は、ASFV由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚腎臓マクロファージ、及び当該不死化豚腎臓マクロファージを用いたASFVの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アフリカ豚コレラ(ASF)は、ASFウイルス(ASFV)感染を原因とする致死率の高い豚の伝染病である。日本国内での発生はまだ確認されていないが、有効な検出方法がなく、更には有効なワクチンや治療法もなく、発生した場合に畜産業界への影響は甚大であると懸念されている。
【0003】
ASFVの検出及び予防方法の開発を行う上で、当該ウイルスを感染させ増殖させる環境が必要となる。しかしながら、大型家畜である豚は、個体を用いたASFV感染試験が容易ではない。そのため、ASFVの感染においても、培養細胞を用いた試験管内ウイルス増殖系(以下、in vitro系)の有用性は非常に高い。
【0004】
ASFVは豚体内でマクロファージを感染標的とすることから、そのin vitro系には初代培養マクロファージが利用されている。ところが、初代培養マクロファージは回収ロット間で性質にばらつきがある、外来性ウイルスが混入している可能性が高い、といった実験の信頼性に影響を及ぼしえる短所に加え、豚から採取した後には増殖しないため、感染試験を行う際に十分な細胞数を確保するためには、多くの豚の犠牲死を要することとなるなど、動物福祉及びコストの面でも問題がある。
【0005】
これらの問題を回避するために、継代が可能な細胞株の利用が検討されており、ASFVに感染感受性を有する細胞株として、主にサル由来の上皮系細胞株(Vero細胞等)が利用されている。しかしながら、本来の宿主ではないサル由来の上皮系細胞株を用いた場合、ASFV野外株の多くでは本細胞株に対して感染が成立しないか、ASFV感染が成立したとしても、増殖の効率が悪く、また増殖中にウイルスゲノムが変異する等、元々の性質を保持することができないことが知られている。
【0006】
そのため、豚由来であり、性質が均一で安全性が高く、増殖性を有するマクロファージの不死化細胞株の作製が求められてきた。豚マクロファージ細胞株としては、豚肺胞マクロファージにトランスフェクション試薬を用いてプラスミドベクターで不死化遺伝子を導入し作製された細胞株が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、これら豚マクロファージ細胞株については、ASFVに対する感染感受性が低く増殖効率が悪く、未だ十分なものは見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-500029号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Weingartl HM.ら、J Virol Methods、2002年7月、104巻、2号、203~216ページ
【文献】Takenouchi T.ら、Front Vet Sci.、2017年8月、21;4:132.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アフリカ豚コレラウイルスに対して感染感受性が高い、豚由来の不死化マクロファージ細胞を見出し、当該細胞を用いたアフリカ豚コレラウイルスの増殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、様々な細胞に対する、様々なアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)株を用いた感染試験を行なった。その結果、豚肺胞マクロファージ由来の不死化細胞(3D4/21、非特許文献1 参照)が、培養細胞に馴化されたASFV株には感受性を示す一方で、本感染試験に供した野外株に対しては一切感受性を示さない中、本発明者が従前開発した不死化豚腎臓マクロファージ(IPKM、非特許文献2 参照)は、試験した全てのASFV株に対して感受性を有し、これらウイルス株の増殖が可能であることが明らかになった。また、その感受性は、驚くべきことに、初代培養豚肺胞マクロファージと比較して10~100倍も高かった。このように、豚腎臓マクロファージ由来の不死化細胞は、ASFVに対し、高い感染感受性を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、ASFV又はワクチンの製造方法に関する。また、本発明は、ASFV由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚腎臓マクロファージ、及び当該不死化豚腎臓マクロファージを用いたASFVの検出方法に関し、具体的には、以下のとおりである。
<1> 不死化豚腎臓マクロファージと、アフリカ豚コレラウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含む、アフリカ豚コレラウイルスの製造方法。
<2> 不死化豚腎臓マクロファージと、アフリカ豚コレラウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖したアフリカ豚コレラウイルスを単離する工程、及び
単離したアフリカ豚コレラウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、アフリカ豚コレラウイルスを含むワクチンの製造方法。
<3> 前記不死化豚腎臓マクロファージは、豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージである、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> アフリカ豚コレラウイルスに感染している不死化豚腎臓マクロファージ。
<5> 豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成り、アフリカ豚コレラウイルスに感染している不死化豚腎臓マクロファージ。
<6> アフリカ豚コレラウイルス由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚腎臓マクロファージ。
<7> 豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成り、アフリカ豚コレラウイルス由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚腎臓マクロファージ。
<8> アフリカ豚コレラウイルスを検出する方法であって、下記工程を含む方法。
【0012】
被検試料存在下にて、<6>又は<7>に記載の不死化豚腎臓マクロファージを培養する工程、
当該不死化豚腎臓マクロファージにおける前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、及び
当該レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、前記被検試料はアフリカ豚コレラウイルスを含有していると判定する工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に対して高い感染感受性を有する不死化豚腎臓マクロファージを用いることにより、様々なASFVを増殖させることが可能となり、当該ウイルスに対するワクチンの製造、開発が可能となる。また、感染感受性の高さから、ASFVを検出(検査、診断)することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】豚肺胞マクロファージの初代培養細胞(PAM細胞)に、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)株 Armenia07株を接種して4日後に観察し、細胞変性効果(CPE)を検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非感染豚」は、ASFV株非接種の陰性対照の結果を示す。
図2】赤血球存在下、PAM細胞に、Armenia07株を接種して2日後に観察し、血球吸着(HAD)反応を検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非感染豚」は、ASFV株非接種の陰性対照の結果を示す。
図3】豚腎臓マクロファージの不死化細胞(IPKM細胞)に、Armenia07株を接種して2日後に観察し、CPEを検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非感染豚」は、ASFV株非接種の陰性対照の結果を示す。
図4】赤血球存在下、IPKM細胞に、Armenia07株を接種して1日後に観察し、HAD反応を検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非感染豚」は、ASFV株非接種の陰性対照の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
後述の実施例に示すとおり、不死化豚腎臓マクロファージは、アフリカ豚コレラウイルスに対して高い感染感受性を示し、当該ウイルスを増殖させることが可能となる。
【0016】
したがって、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージと、アフリカ豚コレラウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含む、アフリカ豚コレラウイルスの製造方法を提供する。また、本発明は、アフリカ豚コレラウイルスに感染している不死化豚腎臓マクロファージを提供する。
【0017】
(不死化豚腎臓マクロファージ)
本発明において、アフリカ豚コレラウイルスが感染し、増殖の場となる「不死化豚腎臓マクロファージ」は、豚(哺乳綱鯨偶蹄目イノシシ科の動物)の腎臓に存在するマクロファージが不死化した細胞を意味する。
【0018】
不死化される「豚腎臓マクロファージ」は、当業者であれば公知の手法に沿って調製することができる。例えば、Takenouchi T.ら、Results Immunol.、2014年8月、1巻、4号、62~67ページに記載のとおり、豚新生仔から採取した腎臓から、腎繊維被膜を除去し、腎皮質を単離する。そして、単離した腎皮質をミンチして培養する過程において生じる、単層の細胞シートに緩く接着し、増殖活性を示すマクロファージ様細胞を単離することによって調製することができる。
【0019】
豚腎臓マクロファージを不死化する方法については特に制限はないが、不死化遺伝子を少なくとも1種導入することにより行うことができる。不死化遺伝子としては、例えば、SV40ラージT抗原(SV40T抗原)、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、Myc、Rasが挙げられるが、SV40T抗原及びTERTを導入することが好ましく、豚マクロファージの不死化効率を高めるという観点から、SV40T抗原及び豚由来のTERTを導入することがより好ましい。
【0020】
不死化遺伝子の導入は、当該遺伝子をコードするベクターを用いることによって行うことができる。ベクターとしては直鎖状でも環状でもよく、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピソーマルベクター、人工染色体ベクター、トランスポゾンベクターが挙げられる。
【0021】
ウイルスベクターとしては、例えば、レンチウイルス等のレトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクターが挙げられる。プラスミドベクターとしては、例えば、pcDNA3.1、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等の、動物細胞発現用プラスミドベクターが挙げられる。これらベクターにおいて、豚マクロファージへの遺伝子導入効率を高めるという観点から、レトロウイルスベクターが好ましく、レンチウイルスがより好ましい。
【0022】
本発明に係るベクターには、不死化遺伝子の他に、プロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の発現制御配列、複製開始点や複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、5’キャップ構造、シャイン・ダルガノ配列、コザック配列等を含む5’非翻訳領域、ポリアデニレーションシグナル、AUリッチエレメント、GUリッチエレメント等を含む3’非翻訳領域、他のタンパク質をコードするヌクレオチド等を含んでいてもよい。
【0023】
不死化遺伝子は、プロモーターの下流に作動可能に配置することで、各ポリヌクレオチドを効率よく転写することが可能となる。かかる「プロモーター」としては、例えば、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター、SV40初期プロモーター、LTRプロモーター、RSVプロモーター、HSV-TKプロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。
【0024】
「他のタンパク質をコードするヌクレオチド」としては、例えば、レポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を挙げることができる。
【0025】
また、複数種の不死化遺伝子を導入する場合には、これら遺伝子を、単一のベクターに組み込んでもよく、各々別々のベクターに組み込んでもよいが、発現効率を高めるという観点から、別々のベクターに組み込むことが望ましい。また、単一のベクターに組み込む際には、例えば、IRES、2Aペプチド配列等を該ベクターに挿入することにより、ポリシストロニックに複数種の不死化遺伝子を発現させることが可能となる。
【0026】
前記ベクターを細胞に導入する方法としては、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポーレーション法、パーティクルガン法等を挙げることができる。また、本発明のベクターがレトロウイルスベクターである場合、ベクターが有しているLTR配列及びパッケージングシグナル配列に基づいて適切なパッケージング細胞を選択し、これを使用してレトロウイルス粒子を調製してもよい。パッケージング細胞としては、例えば、PG13、PA317、GP+E-86、GP+envAm-12、Psi-Cripが挙げられる。さらに、トランスフェクション効率の高い293細胞や293T細胞をパッケージング細胞として用いることもできる。また、このようにして調製されたウイルス粒子は、Polybrene法、Protamine法、RetroNectin法等によって細胞に導入することができる。
【0027】
このように不死化遺伝子を導入して樹立される不死化豚腎臓マクロファージは、少なくとも1カ月以上の増殖性を示し、好ましくは3カ月以上の増殖性を示し、より好ましくは5カ月以上の増殖性を示す。不死化豚腎臓マクロファージの倍加時間は、少なくとも6日間であり、好ましくは4日間であり、より好ましくは2日間である。また、不死化豚腎臓マクロファージはマクロファージの特性を維持していることが好ましく、例えば、マクロファージ特異的遺伝子 CD172a、CD16、Iba-1、MSR-A、MHC-II及びCD163のうちの少なくとも1の遺伝子が発現しており、好ましくは2の遺伝子が発現しており、より好ましくは4の遺伝子が発現しており、特に好ましくは全ての遺伝子が発現している。また、本発明に係る不死化豚腎臓マクロファージは、マクロファージの特性として、貪食作用、LPS刺激による炎症性サイトカインの産生及びインフラマソーム活性に伴うIL-1β成熟化のうちの少なくとも1の機能を保持しており、好ましくは2の機能を保持しており、さらに好ましくは全ての機能を保持している。本発明においては、上記全ての性質を備え得る、Takenouchi T.ら、Front Vet Sci.、2017年8月、21;4:132.(非特許文献2)に記載の方法によって作製される、豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージが、特に好適に用いられる。なお、非特許文献2に記載の方法によって得られる不死化豚腎臓マクロファージは、初代培養の豚マクロファージとは異なり、密に展開して(シート状になって)増殖する。したがって、当該マクロファージは、形態の変化を検出し易いため、後述の感染細胞の変性を指標とするアフリカ豚コレラウイルスの感染試験(CPE試験、HAD試験等)においても、有用である。
【0028】
(アフリカ豚コレラウイルス)
アフリカ豚コレラウイルス(Asfarviridae Asfivirus、ASFV)は、二本鎖DNAをゲノムに持つアスファウイルス科アスフィウイルス属のウイルスである。本発明において、上述の不死化豚腎臓マクロファージに感染させるアフリカ豚コレラウイルスとしては特に制限はなく、例えば、報告されている24種の遺伝子型(II型、I型、X型等)のいずれであってもよい。また、病原性の強さ(例えば、強毒性若しくは弱毒性、又は甚急性、急性、亜急性、慢性若しくは不顕性)も問わず、さらに野外型であっても、馴化型であっても、特に制限されることなく、上述の不死化豚腎臓マクロファージに感染し、増殖することができる。
【0029】
(ASFVの製造方法)
本発明のASFVの製造方法(増殖方法、増幅方法)は、不死化豚腎臓マクロファージと、ASFVとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含む、方法である。
【0030】
不死化豚腎臓マクロファージに接触させるASFVについては、前述のとおりであるが、単離された当該ウイルス自体のみならず、前記ウイルスを含み得る試料であってもよい。かかる「試料」としては、豚由来の組織、細胞、それらの培養物、洗浄液、若しくは抽出物、又は豚の飼育環境(飼育施設等)の洗浄液若しくはその培養物が挙げられる。
【0031】
「接触」は、不死化豚腎臓マクロファージを培養する培地に、ASFVを添加することによって、通常行われる。かかる「培地」としては、不死化豚腎臓マクロファージを維持できる培地であれば特に制限はなく、公知の基礎培地を基に周知慣用の培地添加物を適宜添加することによって調製することができる。「基礎培地」としては、DMEM培地、DMEM培地(高グルコース)、DMEM培地(低グルコース)、RPMI 160培地、RPMI 1640培地、ハムF12培地、KSOM培地、イーグルMEM培地、グラスゴーMEM培地、αMEM培地、ハム培地、フィッシャーズ培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、MEM Zincオプション改善培地、IMDM培地、メヂィウム199培地、及びこれら任意の混合培地が挙げられる。「培地添加物」としては、例えば、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等)、抗真菌薬、機能性タンパク質(インスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン等)、還元剤(2-メルカプトエタノール、モノチオグリセロール、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、N-アセチルシステイン等)、脂肪酸以外の脂質(コレステロール等)、アミノ酸(アラニン、L-グルタミン、非必須アミノ酸等)、ペプチド(グルタチオン、還元型グルタチオン等)、ヌクレオチド等(ヌクレオシド、シチジン、アデノシン5’-一リン酸、ヒポキサンチン、チミジン等)、金属塩(硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸銅、硫酸亜鉛等)、無機塩類(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素等)、炭素源(グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース等)、ビタミン、無機化合物(亜セレン酸)、有機化合物(パラアミノ安息香酸、エタノールアミン、コルチコステロン、プロゲステロン、リポ酸、プトレシン、ピルビン酸、乳酸、トリヨードチロニン等)、緩衝化合物(HEPES、重炭酸ナトリウム等)、pH指示薬(フェノールレッド等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ASFVの「増殖」は、当該ウイルスが接触し、感染した不死化豚腎臓マクロファージを培養することによって行うことができる。培養温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~42℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。ASFVと接触させてからの培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは3~5日間である。
【0033】
ASFVが増殖したかどうかは、当業者であれば公知の方法により判断することができる。かかる方法としては、後述の実施例に示すとおり、例えば、細胞変性効果(CPE)を指標とするCPE試験、ASFV感染細胞で特異に認められる血球吸着(HAD)反応を指標とするHAD試験が挙げられる。また、ASFVに由来する遺伝子又はその発現を検出する方法も利用することができる。ここで、遺伝子の発現は、転写レベル(mRNAレベル)であっても翻訳レベル(タンパク質レベル)であってもよい。遺伝子(ゲノムDNA)又はmRNAを検出する方法としては、例えば、PCR(RT-PCR、リアルタイムPCR、定量PCR)、DNAマイクロアレイ解析法、ノーザンブロッティング又はサザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ法、質量分析法が挙げられる。また、所謂次世代シークエンシング法においてリード数をカウントすることにより、遺伝子又はmRNAレベルを定量的に検出することができる。また、タンパク質を検出する方法としては、例えば、ELISA法、抗体アレイ、イムノブロッティング、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、免疫組織化学的染色法等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)や、質量分析法が挙げられる。
【0034】
(ワクチンの製造方法)
本発明のASFVを含むワクチンの製造方法は、不死化豚腎臓マクロファージと、ASFVを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖したASFVを単離する工程、及び
単離したASFVを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、方法である。
【0035】
当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程については上述のとおりである。増殖したASFVの「単離」とは、前記不死化豚腎臓マクロファージ及び/又は当該細胞の培養培地からの分離、精製及び/又は濃縮を意味する。前記ウイルスの単離方法としては、例えば、培養培地のろ過、細胞の破砕(超音波処理、低張液処理、凍結融解等)、遠心分離(超遠心法、密度勾配遠心法等)、濃縮(硫酸アンモニウム、樹脂カラム、ポリエチレングリコール塩析等)が挙げられる。
【0036】
このようにして単離されたASFVは、そのままワクチン(所謂、生ワクチン)として用いてもよく、弱毒化生形態(所謂、生弱毒化ウイルス)にて用いてよく、不活化形態にてワクチンとして用いてもよい。さらに、免疫原性を有する限り、これら単離されたASFVの一部(タンパク質、ポリペプチド、糖、糖タンパク質、脂質、核酸等)をワクチンとして用いてもよい。
【0037】
生弱毒化ウイルスは、野外から分離されたウイルスと比較して低減した毒性レベルを有するウイルスを意味する。弱毒化ウイルスは、公知の方法、例えば、突然変異誘発物質の存在下での増殖、インビトロでの連続〈長期間)継代による培養細胞への馴化、自然生育環境から逸脱した条件下(例えば、高温条件下)での増殖にASFVを供することによって得ることができる。また、ゲノム編集、遺伝子改変技術等を用いて、ウイルスの特定遺伝子を欠損又は組み換えることによっても、生弱毒化ウイルスを得ることができる。
【0038】
ウイルスの不活化も、当業者であれば、公知の方法を用いて行うことができる、かかる不活化の方法としては、ホルムアルデヒド処理、UV照射、X線照射、電子線照射、ガンマ線照射、アルキル化処理、エチレン-イミン処理、チメロサール処理、β-プロピオラクトン処理、グルタルアルデヒド処理が挙げられる。
【0039】
単離したASFVに混合する「薬理学上許容される担体」としては、例えば、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤が挙げられる。「薬理学上許容される媒体」としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液が挙げられる。これら担体及び媒体は、当業者であれば、ワクチンの剤型、使用方法に応じて、当該分野に用いられる公知の物を適宜又は組み合わせて選択して用いることができる。また、ワクチンの形態としては、特に制限はなく、例えば、懸濁液の形態であってもよく、凍結乾燥された形態であってもよい。
【0040】
ワクチン効果を増強するという観点から、更にアジュバントを混合してもよい。アジュバントとしては、例えば、アルミニウムゲルアジュバント等の無機物質、微生物若しくは微生物由来物質(BCG、ムラミルジペプチド、百日せき菌、百日せきトキシン、コレラトキシン等)、界面活性作用物質(サポニン、デオキシコール酸等)、油性物質(鉱油、植物油、動物油等)のエマルジョン、ミョウバン等が挙げられる。
【0041】
(ASFVの検出方法)
後述の実施例に示すとおり、不死化豚腎臓マクロファージは、ASFVに対する高い感染感受性を有する。したがって、当該マクロファージにASFV感染・増殖依存的に活性化されるレポーター系、すなわちASFV由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを、前記不死化豚腎臓マクロファージに組み込むことにより、当該マクロファージはASFVの検出において有用な系となる。
【0042】
したがって、本発明は、ASFV由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚腎臓マクロファージを提供する。また、被検試料存在下にて、前記DNAを有する不死化豚腎臓マクロファージを培養する工程、当該不死化豚腎臓マクロファージにおける前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、及び当該レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、前記被検試料はアフリカ豚コレラウイルスを含有していると判定する工程を含む、ASFVを検出する方法をも提供する。
【0043】
前記DNAが導入される「不死化豚腎臓マクロファージ」については上述のとおりである。また、前記DNAは、上述の「不死化遺伝子」において説明したベクターの形態であってもよい。さらに、前記DNAの不死化豚腎臓マクロファージへの導入も、上述の「不死化遺伝子」に関する説明において列挙した方法を用い、当業者であれば行なうことができる。
【0044】
前記DNAにおける「ASFV由来遺伝子のプロモーター領域」としては、ASFVに由来し、当該ウイルスの感染・増殖に応じてその下流にある遺伝子の発現を活性化できる領域であれば特に制限はなく、最初期遺伝子(immediate-early)、初期遺伝子(early)、後初期遺伝子(late)、後期遺伝子(very-late)のいずれの遺伝子であってもよい。用いるASFV由来遺伝子については、当業者であれば適宜公知の情報(例えば、Virus Taxnomy 国際ウイルス分類委員会(ICTV)第9版、2012年、155~157ページ 表1に記載の「ASFVがコードするタンパク質の機能」リスト)を参照しながら選択することができるが、p72、U104L。CD2v、DNAポリメラーゼ又はp30遺伝子のプロモーター領域が好適に用いられる(Portugal RS.ら、Virology、2017年8月、508巻、70~80ページ 参照のほど)。
【0045】
前記プロモーター領域の下流に機能的(作動可能的)に結合される「レポーター遺伝子」としては特に制限はなく、公知のものが適宜用いられる。例えば、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子が挙げられる。蛍光タンパク質遺伝子としては、具体的には、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、YFP(黄色蛍光タンパク質)遺伝子、RFP(赤色蛍光タンパク質)遺伝子等が挙げられる。発光タンパク質・酵素遺伝子としては、具体的には、エクオリン遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。発色酵素遺伝子としては、具体的には、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)遺伝子、βグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、SEAP遺伝子等が挙げられる。
【0046】
そして、本発明の検出方法においては、これらレポーター遺伝子の発現に応じて生じる、蛍光、発光、発色等を指標として、不死化豚腎臓マクロファージのASFV感染の有無、ひいては被検試料におけるASFVの存在を検出することができる。
【0047】
なお、被検試料としては、ASFVが存在し得る試料であれば特に制限はなく、例えば、豚由来の組織、細胞、それらの培養物、洗浄液、若しくは抽出物、又は豚の飼育環境(飼育施設等)の洗浄液若しくはその培養物が挙げられる。また、本発明の検出方法における培養の温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~42℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。被検試料存在下、レポーター遺伝子の発現を検出する迄の培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは2~5日間である。
【実施例
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例においては、下記細胞及びアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)を用い、下記試験を行い、不死化豚腎臓マクロファージ(IPKM)細胞のASFVに対するウイルス感受性を評価した。
【0049】
(細胞)
豚腎臓マクロファージ細胞を不死化することで作出した細胞株 IPKM細胞は、本発明者が従前樹立したものを用いた(非特許文献2 参照のほど)。豚肺胞マクロファージ(PAM)細胞は、既報(Carrascosa AL.ら、Curr Protoc Cell Biol、2011年12月、Chapter 26、UNIT 26.14、1~26ページ)に従い、豚の肺より回収した。アフリカミドリザルの腎臓由来不死化細胞株であるVero(CCL-81)細胞、COS-1(CRL-1650)細胞及び豚肺胞マクロファージ由来不死化細胞株3D4/21(CRL-2843)細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)より導入した。イノシシの肺由来株化細胞 WSL細胞は、フリードリヒ・レフラー研究所(FLI、ドイツ)より譲り受けたものを用いた。
【0050】
各細胞の培養に関し、PAM細胞については、10%牛胎児血清(FBS)含有RPMI160に、ゲンタマイシン(50μg/mL)、ペニシリン-ストレプトマイシン(1:100)を添加した培地を用いた。IPKM細胞については、10%FBS含有DMEM High glucoseにゲンタマイシン(50μg/mL)、ペニシリン-ストレプトマイシン(1:100),インスリン(10μg/mL),モノチオグリセロール(25μM)及びFungin(5μg/mL)を添加した培地を用いた。Vero細胞及びCOS-1細胞は、5%FBS含有DMEMにゲンタマイシン(50μg/mL)、ペニシリン-ストレプトマイシン(1:100)を添加した培地を用いた。WSL細胞及び3D4/21細胞は、10%FBS含有 RPMI1640に非必須アミノ酸(1:100)及びカナマイシン(50μg/mL)を加えた培地を用いた。
【0051】
(ASFV)
欧州・中国流行株Armenia07(遺伝子型:II型)、軟ダニより分離された株Kenya05/Tk-1(遺伝子型:I型)及びASFV標準株 Espana75(遺伝子型:I型)の3つのASFV野外発生分離株は、国際獣疫局(OIE)のASFリファレンスラボラトリーであるマドリード・コンプルテンセ大学(スペイン)より導入した。各ウイルス株の発生年号及び発生地等の情報は、Fernandez-Pinero J,ら、Transbound Emerg Dis.、2013年2月、60巻、1号、48~58ページ 参照のほど。Vero細胞馴化株 Lisbon60/Vは、プラムアイランド動物疾病センター(PIADC、アメリカ)より導入した。
【0052】
Armenia07、Kenya05/Tk-1及びEspana75株はPAM細胞を用い、またLisbon60/V株はVero細胞を用いて増殖培養し、これらを接種ウイルス試料とした。接種ウイルス試料は分注し、-80℃で保存した。
【0053】
(ウイルス感受性試験)
細胞のウイルスに対する感受性は、細胞変性効果(CPE)を指標としたCPE試験又はASFV感染細胞で特異に認められる血球吸着(HAD)反応を指標したHAD試験により判断した。
【0054】
具体的には、96穴プレートに1穴あたり、PAM細胞(1×10個)、Vero細胞(1.5×10個)、COS-1細胞(1.5×10個)、WSL細胞(2×10個)、3D4/21細胞(2×10個)及びIPKM細胞(3×10個)を各々播種し、前記各培地中で1~2日間前培養した。その後、同培地で10倍(10-1)から100億倍(10-10)まで10倍段階希釈したウイルス液25μLをそれぞれ8穴ずつ接種し、CPE検出用プレートを調製した。HAD検出用プレートとしては、更にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁した0.75%豚赤血球懸濁液20μLを添加したものを調製した。そして、CPE検出用プレート、HAD検出用プレート共に37℃、5%CO環境下で7日間培養し、観察した。
【0055】
(結果)
CPEを指標に4つの異なるASFV株を用いて各細胞のASFVに対する感受性を比較した。得られた結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すとおり、PAM細胞及びIPKM細胞においては、接種した全てのウイルス株でCPEが検出された(例えば、図1及び3 参照)。一方、Vero細胞、COS-1細胞、WSL細胞及び3D4/21細胞では、野外株3株にCPEは認められず、細胞馴化株のLisbon60/Vのみに認められた。
【0058】
また、IPKM細胞は、PAM細胞同様、CPEのみならず、ASFV株に対してHAD性を示すことも明らかになった(図2及び4 参照)。
【0059】
次に、PAM細胞とIPKM細胞の両細胞について、ウイルスが分離できる希釈限界(ウイルス検出限界)を評価した。得られた結果を表2及び3に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表2に示すとおり、CPE試験においては、PAM細胞に比べ、IPKM細胞は検出限界濃度が100~1000倍低かった。また表3に示すとおり、HAD試験においても同様に、PAM細胞に比べ、IPKM細胞は検出限界濃度が10~100倍低かった。すなわち、IPKM細胞は、ASFVに対する感受性が、PAM細胞に比べ高いことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に対して高い感染感受性を有する不死化豚腎臓マクロファージを用いることにより、様々なASFVを増殖させることが可能となり、当該ウイルスに対するワクチンの製造、開発が可能となる。また。感染感受性の高さから、ASFVを検出(検査、診断)することも可能となる。
図1
図2
図3
図4