(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/48 20060101AFI20231110BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231110BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20231110BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C23C14/48 D
C23C14/34 U
H01L21/302 201B
H01L21/28 E
(21)【出願番号】P 2019218109
(22)【出願日】2019-12-02
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏治
(72)【発明者】
【氏名】松本 行生
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529744(JP,A)
【文献】特開昭59-170270(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0014497(US,A1)
【文献】特開2011-017034(JP,A)
【文献】特開昭60-081814(JP,A)
【文献】特開昭61-289635(JP,A)
【文献】特開2010-272229(JP,A)
【文献】特開2010-204626(JP,A)
【文献】特開2019-117831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/48
C23C 14/34
H01L 21/302
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に直線状の凸部と凹部が交互に形成された基板表面上に薄膜を形成する成膜方法であって、
基板表面上に膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程により形成された膜に対して、エッチング用ビームを照射してエッチングを行うエッチング工程と、
を含み、
前記成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と、前記エッチング用ビームを基板に対して照射する方向は、基板を保持する保持部材による保持面の法線に対して傾斜しており、かつ両者の入射角度が略同一となるように設定されている
と共に、
前記成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と、前記エッチング用ビームを基板に対して照射する方向は、いずれも前記凸部及び凹部が形成する溝状の段差が伸びる方向に垂直な面に対して平行であることを特徴とする記載の成膜方法。
【請求項2】
表面側に直線状の凸部と凹部が交互に形成された基板表面上に薄膜を形成する成膜方法であって、
基板表面上に膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程により形成された膜に対して、エッチング用ビームを照射してエッチングを行うエッチング工程と、
を含み、
前記成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と、前記エッチング用ビームを基板に対して照射する方向は、基板を保持する保持部材による保持面の法線に対して傾斜しており、かつ両者の入射角度が略同一となるように設定されている
と共に、
前記成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と、前記エッチング用ビームを基板に対して照射する方向は、いずれも前記凸部及び凹部が形成する溝状の段差が伸びる方向に平行な面に対して平行であることを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
前記保持部材を有する基板搬送装置によって基板が搬送されながら、前記成膜工程による成膜、及びエッチング工程によるエッチングが行われることを特徴とする請求項1
また
は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と前記法線とが交わる角度のうち鋭角側の角度、及び前記エッチング用ビームと前記法線とが交わる角度のうち鋭角側の角度は、いずれも10°以上75°以下であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記エッチング用ビームは、イオンビームまたはレーザービームであることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一つに記載の成膜方法を行う成膜装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内に備えられ、基板表面に向けて成膜材料を照射する成膜材料照射装置と、
前記チャンバー内に備えられ、エッチング用ビームを照射するエッチング用ビーム照射装置と、
前記成膜工程及びエッチング工程を実行させるために前記成膜材料照射装置及びエッチング用ビーム照射装置を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
基板を保持しながら搬送させる基板搬送装置を備え、
前記制御装置は、前記基板搬送装置による搬送制御も行うことを特徴とする請求項
6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記チャンバー内には、前記成膜材料照射装置が備えられる領域と、前記エッチング用ビーム照射装置が備えられる領域が別々に設けられており、前記基板搬送装置によって、基板が各領域に搬送されることを特徴とする請求項
7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記成膜工程、及びエッチング工程を予め設定された回数だけ繰り返し行わせる制御を行うことを特徴とする請求項
6,7または8に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に薄膜を形成するための成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパッタリングなどにより、基板上に薄膜を形成する技術が知られている。しかしながら、基板表面に凹凸が設けられている場合に、形成する薄膜の内部にボイドと呼ばれる空洞が形成されてしまうことがある。この点について、
図10を参照して説明する。
図10は従来例に係る成膜方法により薄膜が形成される基板の模式的断面図である。
【0003】
図示の基板710の表面には、凸部711と凹部712が設けられている。
図10(a)は、成膜処理がなされる過程における初期の状態を示している。この図に示すように、形成される膜720aにおいては、凸部711の上面に形成される膜は、その一部が、凹部712側に向かって突き出して覆いかぶさるように形成される。そのため、そのまま成膜処理が施されると、凹部712の上方にボイドVが形成されてしまう。
図10(b)は薄膜720bの上面がほぼ平面状になるまで成膜を行った場合の状態を示している。このように、ボイドVが形成されてしまうと、所望の機能や品質が得られなくなってしまうことがある。このようにボイドが生じる原因は、スパッタリングにより粒子が付着する基板の凹部上面、凸部上面、側面によって成膜レートが異なり、膜厚に違いが生じるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-529744号公報
【文献】特開2012-67394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、凸部と凹部が形成された基板表面に薄膜を形成する際に、凹凸表面形状を保ちながら所定の膜厚で表面を被覆することのできる成膜方法及び成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の成膜方法は、
表面側に直線状の凸部と凹部が交互に形成された基板表面上に薄膜を形成する成膜方法であって、
基板表面上に膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程により形成された膜に対して、エッチング用ビームを照射してエッチングを行うエッチング工程と、
を含み、
前記成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と、前記エッチング用ビームを基板に対して照射する方向は、基板を保持する保持部材による保持面の法線に対して傾斜しており、かつ両者の入射角度が略同一となるように設定されていることを特徴とする。
【0008】
ここで、「両者の入射角度が略同一となるように設定されている」とは、両者の入射角
度が同一であるのが望ましいものの、各種部材の寸法公差や何らかの影響によって、入射角度に多少のずれが生じてしまう場合も含まれることを意味する。
【0009】
本発明によれば、成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向を、上記の法線に対して傾斜させるようにすることで、基板表面に形成させる膜の膜厚を、あえて、その位置によって異なるようにさせている。そして、成膜工程における成膜材料を基板に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板に対して照射する方向(入射角度)が略同一となるように設定することで、エッチング用ビームによって、膜が厚い部分では削られて薄くなり、膜が薄い部分では削られた材料の一部が付着して厚くなる。これにより、膜表面を平坦に均すことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、凸部と凹部が形成された基板表面に薄膜を形成する際に、表面の凹凸形状を保ちつつ表面を均等な膜厚で被覆することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の実施例に係る成膜装置の内部の概略構成図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例に係る成膜装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は本発明の実施例に係る成膜装置における動作説明図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例に係る成膜装置の内部の概略構成図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例に係るイオンソースの説明図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例に係る成膜方法の説明図である。
【
図7】
図7は本発明の実施例に係る成膜方法の説明図である。
【
図8】
図8は本発明の実施例に係る成膜方法の説明図である。
【
図9】
図9は本発明の実施例に係る成膜方法の説明図である。
【
図10】
図10は従来例に係る成膜方法により薄膜が形成される基板の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施例を説明する。ただし、以下の実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
(実施例)
図1~
図9を参照して、本発明の実施例に係る成膜方法及び成膜装置について説明する。
図1は本発明の実施例に係る成膜装置の内部の概略構成図であり、成膜装置の内部全体を上方から見た場合の概略構成を示している。
図2は本発明の実施例に係る成膜装置の動作を示すフローチャートである。
図3は本発明の実施例に係る成膜装置における動作説明図である。
図4は本発明の実施例に係る成膜装置の内部の概略構成図であり、エッチング用ビーム照射装置が設けられている付近を、基板の搬送方向に見た概略構成を示している。
図5は本発明の実施例に係るエッチング用ビーム照射装置としてのイオンソースの説明図であり、同図(a)はイオンソースのビーム照射面を示す正面図であり、同図(b)は同図(a)中のAA断面図であり、同図(c)はイオンビームの長手方向のエッチング強度を示すグラフである。
図6~
図9は本発明の実施例に係る成膜方法の説明図である。
【0014】
<成膜装置の全体構成>
特に、
図1を参照して、本実施例に係る成膜装置1の全体構成について説明する。成膜装置1は、成膜処理される基板10が収容されるストッカ室100と、室内を大気状態と
真空状態とに切り替える気圧切替室200と、基板10の処理面に各種処理を行う処理室300とを備えている。
【0015】
ストッカ室100は、基板10を保持しながら搬送可能な基板搬送装置15を複数収容する役割を担っている。このストッカ室100には、複数の基板搬送装置15が載置される載置台111と、載置台111を往復移動させる駆動機構とを備えている。この駆動機構は、ボールねじを回転させるモータなどの駆動源121と、載置台111の移動方向を規制するガイドレール122などにより構成される。ただし、載置台111を往復移動させる駆動機構については、このような構成に限られることはなく、各種公知技術を採用し得る。また、載置台111には、基板搬送装置15の移動方向を規制するガイドレール112が複数設けられている。
【0016】
気圧切替室200は、大気状態にあるストッカ室100から搬入される基板搬送装置15を、真空状態にある処理室300に送り込むために、処理室300に送られるよりも前の段階で、室内を大気状態から真空状態に切り替える役割を担っている。また、本実施例に係る気圧切替室200には、基板10を加熱するヒータ221,222が設けられている。すなわち、基板10の材料によっては、常温のまま処理室300に搬送されると、基板10から各種ガスが発生し、成膜時に悪影響が出てしまう。そこで、そのような基板10については、ヒータ221,222により加熱することで、ガスを強制的に早期に発生させてしまい、処理室300内においてガスが発生してしまうことを抑制することができる。また、気圧切替室200にも、基板搬送装置15の移動方向を規制するガイドレール210が設けられている。
【0017】
処理室300は、内部が真空雰囲気となるチャンバー301と、基板搬送装置15の移動方向を規制するガイドレール302とを備えている。基板搬送装置15を往復移動させるための機構については、各種公知技術を適用できるので、その詳細説明は省略するが、ボールねじによる駆動機構やラックアンドピニオン機構などを適用可能である。
【0018】
処理室300内には、前処理エリア300aと、成膜エリア300bと、エッチングエリア300cとが設けられている。前処理エリア300aには、成膜処理に先立って基板10の処理面の洗浄等の前処理を行うための基板処理装置310が設けられている。また、成膜エリア300bには、基板10の処理面に成膜処理を行う成膜材料照射装置としてのスパッタ装置320が設けられている。更に、エッチングエリア300cには、スパッタ装置320により基板10上に形成された膜に対してエッチングを行うエッチング用ビーム照射装置330が設けられている。なお、前処理エリア300aの基板処理装置310の前段に設けられた空間は、基板処理装置310による前処理を施す前の基板搬送装置15が待機するスペースである。本実施例に係る成膜装置1は、基板10を保持しながら搬送しつつ、基板10に対して一連の処理を施す、いわゆるインライン型の構成をなしている。
【0019】
<成膜装置の全体的な動作>
成膜装置1は、載置台111を往復移動させる駆動機構、気圧切替室200内の気圧、ヒータ221,222、処理室300内の気圧、基板処理装置310、スパッタ装置320、及び、エッチング用ビーム照射装置330の制御の他、基板搬送装置15による基板10の搬送制御を行うための制御装置Cを備えている。以下の動作(成膜工程及びエッチング工程など)は、この制御装置Cにより制御されることによって実行される。制御装置Cは、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御装置Cの機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(pro
grammable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御装置Cの機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、制御装置Cは、制御対象となる各種装置等と接続された配線を通じて、制御命令を伝達するように構成してもよいし、無線により、各種装置等に対して制御命令を伝達するように構成してもよい。以下、特に、
図2を参照して、成膜装置1の全体的な動作について説明する。
【0020】
<<準備工程>>
ストッカ室100には、それぞれ基板10を保持する基板搬送装置15が複数収容されている。そのうち処理対象となる基板10を保持する基板搬送装置15が、ストッカ室100から気圧切替室200に搬送される(ステップS101)。気圧切替室200において、減圧動作が行われ、室内が大気状態から真空状態に切り替えられる。また、基板10の材料によっては、基板10への加熱処理が同時に行われる(ステップS102)。例えば、約十分ほどの加熱処理により、100℃から180℃程度まで基板10が加熱される。その後、基板10は、気圧切替室200から処理室300の前処理エリア300aに搬送される(ステップS103)。前処理エリア300aでは、基板処理装置310により基板10の処理面に対してイオンビーム照射による表面処理が施される(ステップS104)。
【0021】
<<成膜工程>>
次に、基板10は成膜エリア300bに搬送され(ステップS105)、スパッタ装置320により基板10の処理面に対しスパッタリング処理が施される(ステップS106)。スパッタ装置320については、公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、高電圧が印加されることにより、成膜材料が放出されるターゲット等を備えている。なお、ターゲットについては、平板状のものを採用することもできるし、回転可能に構成された円筒状のものを採用することもできる。
【0022】
<<エッチング工程>>
成膜処理が施された基板10は、エッチングエリア300cに搬送され(ステップS107)、エッチング用ビーム照射装置330によるエッチング処理が施される(ステップS108)。
【0023】
エッチング処理が施された後に、制御装置Cによって、スパッタリング回数XがNに達したか否かが判定され(ステップS109)、Nに達していない場合には、基板10は、成膜エリア300bに戻されて、成膜処理とエッチング処理が再度施される。本実施例においては、成膜処理とエッチング処理が、予め定められた回数Nだけ繰り返し行われる。なお、
図1中の下方の矢印T11,T21,T12,T22,・・・,T1X,T2Xは、基板10(基板搬送装置15)の移動工程を示している。成膜処理とエッチング処理がN回繰り返された後に、処理後の基板10は、気圧切替室200に送られて、真空状態から大気状態に切り替えられた後に、ストッカ室100に搬出される。
【0024】
なお、本実施例では、処理室300の一端側に設けられたストッカ室100と気圧切替室200において、基板搬送装置15の搬入と搬出を行う構成を採用する場合を示した。しかしながら、処理室300の一端側に設けられたストッカ室100と気圧切替室200については、基板搬送装置15の搬入動作のみ行うようにして、処理室300の他端側に基板搬送装置15の搬出を行うための気圧切替室と、処理後の基板10を収容するためのストッカ室とを設ける構成を採用することもできる。
【0025】
本実施例に係る成膜装置1は、例えば、前処理を伴う種々の電極形成に適用可能である。具体例としては、例えば、FC-BGA(Flip-Chip Ball Grid
Array)実装基板向けのメッキシード膜や、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス向けのメタル積層膜の成膜が挙げられる。また、LEDのボンディング部における導電性硬質膜、MLCC(Multi-Layered Ceramic Capacitor)の端子部膜の成膜なども挙げられる。その他、電子部品パッケージにおける電磁シールド膜やチップ抵抗器の端子部膜の成膜にも適用可能である。基板10のサイズは特に限定されないが、本実施例では、200mm×200mm程度のサイズの基板10を用いている。また、基板10の材料は任意であり、例えば、ポリイミド、ガラス、シリコン、金属、セラミックなどの基板が用いられる。
【0026】
<基板処理装置及びエッチング用ビーム照射装置>
特に、
図3(b)及び
図4を参照して、基板処理装置310及びエッチング用ビーム照射装置330について説明する。基板処理装置310とエッチング用ビーム照射装置330の基本的な構成は同一である。すなわち、これら基板処理装置310とエッチング用ビーム照射装置330は、イオンビーム照射により基板の表面(処理面)に対し洗浄ないしエッチングの処理を行うための装置である。このように、両者の基本的な構成は同一であるので、ここでは、エッチング用ビーム照射装置330について説明する。
【0027】
エッチング用ビーム照射装置330は、イオンソース331と、イオンソース331に電圧を印加する高圧電源336とを備えている。
図4には、イオンソース331から照射されたイオンビーム331aも示している。
【0028】
処理室300におけるチャンバー301は気密容器であり、排気ポンプ303によって、その内部は真空状態(又は減圧状態)に維持される。ガス供給弁304を開き、チャンバー301内にガスを供給することで、処理に対する適切なガス雰囲気(又は圧力帯)に適宜変更ができる。チャンバー301全体は電気的に接地されている。基板搬送装置15は、基板10の処理面が鉛直方向に沿うように基板10を垂直な姿勢で保持しつつ、チャンバー301の底面に敷設されたガイドレール302上を移動可能に構成されている。ガイドレール302は基板10の表面と平行な方向に延設されており、不図示の駆動機構により基板搬送装置15は基板10の表面に平行な方向に沿って移動する。
【0029】
基板搬送装置15は、基板10を保持する保持部材(基板ホルダ)15aと、保持部材15aを支える支持部材(搬送キャリア)15bと、保持部材15aと支持部材15bとを電気的には絶縁しつつ機械的に接続する接続部材15cと、支持部材15bの下端に設けられる転動体15dとを備えている。転動体15dがガイドレール302上を転動することにより、基板搬送装置15は、ガイドレール302に沿って移動する。ここで、保持部材15aによる基板10を保持する面を保持面Fと称する。
【0030】
図3(b)は、基板搬送装置15が、
図1中、矢印T11,T12,T1X方向に移動しながらエッチング処理がなされる工程(エッチング工程)中のエッチング用ビーム照射装置330と基板搬送装置15の様子を示している。なお、イオンソース331と基板10と間の距離は約100~200mmに設定されている。また、高圧電源336はイオンソース331にアノード電圧(~数kV)を印加するように構成されている。
【0031】
<イオンソース>
特に、
図5を参照して、イオンソース331について、より詳細に説明する。イオンソース331は、カソード332と、ビーム照射面333と、アノード334と、永久磁石335とを備えている。本実施例ではカソード332がイオンソース331の筐体を兼ねている。カソード332とアノード334はそれぞれSUSにより形成され、両者は電気的に絶縁されている。カソード332はチャンバー301に固定されることで、電気的に接地されている。一方、アノード334は高圧電源336に接続されている。この構成に
おいて、高圧電源336からアノード334に対し高圧が印加されると、筐体(カソード332)のビーム照射面333に設けられた出射開口からイオンビームが出射する。なお、イオンソース331の原理としては、筐体の背面側からガスを導入して筐体内部でイオンを発生するタイプと、筐体の外側に存在する雰囲気ガスをイオン化するタイプとがあるが、いずれを用いてもよい。
図4においては、後者の場合を示しており、ガス供給弁304を開くことで、チャンバー301内にガスが供給される。ガスとしては、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガスなどを用いることができる。
【0032】
本実施例に係るイオンソース331は、出射開口が長手方向と短手方向を持つように、約300~400mm×約70mmの長細い形状(ライン形状又はトラック形状)のビーム照射面333を有している。そして、出射開口の長手方向が基板10の搬送方向に対して交差するように、イオンソース331が配置されている。このような縦長のイオンソース331を用いることで、基板10の縦方向(搬送方向に対して直交する方向)全体にイオンビームが照射されることとなる。したがって、搬送方向に沿った1回のビーム走査で基板10の全面に対しビームを照射でき、表面処理(エッチング処理)の高速化(生産性向上)を図ることができる。
【0033】
ところで、
図5(c)は、イオンソース331から出射されるイオンビームの長手方向のエッチング強度を示している。同図に示されるように、イオンビームの長手方向の強度は一様ではなく、イオンソース331の磁場設計に依存して、破線L2のように中央部分の強度が大きくなるか、実線L1のように中央部分の強度が小さくなるかのいずれかの分布をとる。
図5(c)のようなエッチング強度の分布に偏りがあると、エッチング量にムラが生じるため望ましくない。そこで、基板10に対して、1.5~2倍程度のサイズのビーム照射面333を用いることで、エッチング強度の分布を均一することができる。
【0034】
<基板処理装置による表面処理の流れ>
上記のように構成される基板処理装置310によれば、基板10が処理室300の前処理エリア300aに搬送されると、制御装置Cが、高圧電源を制御し、イオンソースによるビーム照射を開始する。その状態で、制御装置Cが、基板搬送装置15を一定速度で移動させ、基板10をイオンビームに通過させる。このような方法により、基板10の表面にイオンビームが照射され、基板10の表面側は表面処理(洗浄処理)が施される。このようなビーム走査を行う構成を採用したことで、基板10の面積よりも小さい照射範囲のイオンビームで基板全体の処理を行うことができるため、イオンソースの小型化、ひいては装置全体の小型化を図ることができる。また、基板10の処理面が鉛直方向に沿うような姿勢で基板10を支持し、処理面に対して水平方向にイオンビームを照射する構成を採用したことで、エッチングによって削られたパーティクルが重力によって落下し、基板10の処理面に残留しないため、パーティクルの残留による処理ムラの発生を防止することができるという利点もある。
【0035】
<成膜工程及びエッチング工程>
特に、
図3、及び
図6~
図9を参照して、成膜工程及びエッチング工程について、より詳細に説明する。本実施例に係る成膜方法及び成膜装置は、表面側に直線状の凸部11と凹部12が交互に形成された基板10の表面上に薄膜を形成する際に好適に用いられる。
【0036】
図3(a)は成膜工程の際の基板搬送装置15とスパッタ装置320の様子を示しており、
図3(b)はエッチング工程の際の基板搬送装置15とエッチング用ビーム照射装置330の様子を示している。本実施例においては、
図1中の下方の矢印T11,T12,T1X方向に基板10が搬送されながら、成膜工程とエッチング工程がなされる。なお、
図1中の下方の矢印T21,T22,T2X方向に基板10が搬送される際においては、スパッタ装置320及びエッチング用ビーム照射装置330の動作は停止されている。
【0037】
図6は本実施例に係る成膜方法及び成膜装置において、基板10の搬送のさせ方について、好適な例を2通り示している。以下、それぞれ「第1の搬送態様」「第2の搬送態様」と称する。
図6(a)は第1の搬送態様の場合における基板10の様子を示している。この図に示すように、第1の搬送態様においては、基板10における凸部11及び凹部12が形成する溝状の段差が伸びる方向に対して垂直方向に基板10が搬送される。
図6(b)は第2の搬送態様の場合における基板10の様子を示している。この図に示すように、第2の搬送態様においては、基板10における凸部11及び凹部12が形成する溝状の段差が伸びる方向に対して平行に基板10が搬送される。
【0038】
図7は第1の搬送態様の場合を示しており、同図(a)は成膜工程について示し、同図(b)はエッチング工程について示している。なお、
図7中の基板10は、
図6(a)中のBB断面に相当する。
図8は第2の搬送態様の場合を示しており、同図(a)は成膜工程について示し、同図(b)はエッチング工程について示している。なお、
図8中の基板10は、
図6(b)中のCC断面に相当する。また、
図6~
図8においては、基板搬送装置15については省略し、基板搬送装置15によって搬送される基板10の様子のみを示している。以下の説明において、搬送される基板10を保持する保持部材15aによる保持面Fの法線を、便宜上、「法線N」と称する。また、エッチング工程において照射されるビームを「エッチング用ビーム」と称する。
【0039】
本実施例に係る成膜方法及び成膜装置1において、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向、及びエッチング用ビームの照射方向は、法線Nと基板10が搬送される方向に平行な方向で形成される面に対して、平行な方向である。また、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板10に対して照射する方向は、法線Nに対して傾斜しており、かつ両者の入射角度が略同一となるように設定されている。なお、「両者の入射角度が略同一となるように設定されている」とは、両者の入射角度が同一であるのが望ましいものの、各種部材の寸法公差や何らかの影響によって、入射角度に多少のずれが生じてしまう場合も含まれることを意味する。更に、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と法線Nとが交わる角度のうち鋭角側の角度、及びエッチング用ビームと法線Nとが交わる角度のうち鋭角側の角度は、いずれも10°以上75°以下である。なお、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と法線Nとが交わる角度のうち鋭角側の角度については、
図7(a)中の角度αに相当する。また、エッチング用ビームと法線Nとが交わる角度のうち鋭角側の角度については、
図7(b)中の角度αに相当する。なお、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向、及びエッチング用ビームの照射方向については、第1の搬送態様の場合も第2の搬送態様の場合も同様である。
【0040】
そして、第1の搬送態様の場合には、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板10に対して照射する方向は、いずれも凸部11及び凹部12が形成する溝状の段差が伸びる方向に垂直な面に対して平行である。また、第2の搬送態様の場合には、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板10に対して照射する方向は、いずれも凸部11及び凹部12が形成する溝状の段差が伸びる方向に平行な面に対して平行である。
【0041】
<<第1の搬送態様>>
特に、
図7を参照して、第1の搬送態様の場合における成膜工程による膜の形成のされ方と、エッチング工程によるエッチングのされ方について説明する。スパッタ装置320(ターゲット)から基板10に向けて照射される成膜材料は、基板10の表面において、当該成膜材料の照射方向に対して垂直状に膜の厚みが厚くなっていく。
図7(a)には、成膜工程によって形成された膜20aを示している。図示のように、凸部11の上面に形
成される膜のうち、図中右側ほど膜厚が厚くなり、凹部12の上面においては、凸部11により遮られる付近の膜の膜厚が薄くなる。
【0042】
そして、成膜工程により形成された膜20aに対して、エッチング用ビームが照射されてエッチングが行われる(
図7(b)参照)。エッチング用ビームが膜20aに照射されると、膜20aは、ビームの照射方向に対して垂直状に徐々に削られる。従って、基板10の表面に形成された膜20aは、エッチング用ビームによって、
図7(b)中、凸部11の上面に形成された部分の図中右側付近を中心に削られる。
図7(b)中の膜20bは、エッチング工程後の状態を示している。また、同図中に示す点線L1は、成膜工程後の膜20aの表面の位置を示している。上記の通り、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板10に対して照射する方向は、法線Nに対して傾斜しており、かつ両者の入射角度が略同一となるように設定されている。従って、膜厚が厚い部分ほど、エッチングにより削られる量が多くなる。なお、エッチングにより削られた材料の一部は、膜に付着して、膜の一部となる。このとき、特に、エッチング用ビームが照射されない部分に付着し易いため、膜厚の薄い部分が付着した材料により厚くなる傾向となる。
【0043】
<<第2の搬送態様>>
特に、
図8を参照して、第2の搬送態様の場合における成膜工程による膜の形成のされ方と、エッチング工程によるエッチングのされ方について説明する。スパッタ装置320(ターゲット)から基板10に向けて照射される成膜材料は、基板10の表面において、当該成膜材料の照射方向に対して垂直状に膜の厚みが厚くなっていく。
図8(a)には、成膜工程によって形成された膜20aを示している。図示のように、凸部11の上面と、凹部12の上面に形成さる膜の膜厚が厚くなり、凸部11の側面(凹部12の側面とも言える)に形成される膜の膜厚は薄くなる。
【0044】
そして、成膜工程により形成された膜20aに対して、エッチング用ビームが照射されてエッチングが行われる(
図8(b)参照)。エッチング用ビームが膜20aに照射されると、膜20aは、ビームの照射方向に対して垂直状に徐々に削られる。従って、基板10の表面に形成された膜20aは、エッチング用ビームによって、
図8(b)中、凸部11の上面に形成された部分と凹部12の上面に形成された部分を中心に削られる。
図8(b)中の膜20bは、エッチング工程後の状態を示している。また、同図中に示す点線L1は、成膜工程後の膜20aの表面の位置を示している。上記の通り、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板10に対して照射する方向は、法線Nに対して傾斜しており、かつ両者の入射角度が略同一となるように設定されている。従って、膜厚が厚い部分ほど、エッチングにより削られる量が多くなる。なお、エッチングにより削られた材料の一部は、膜に付着して、膜の一部となる。このとき、特に、エッチング用ビームが照射されない部分に付着し易いため、膜厚の薄い部分が付着した材料により厚くなる傾向となる。
【0045】
<本実施例に係る成膜方法及び成膜装置の優れた点>
本実施例に係る成膜方法及び成膜装置1によれば、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向を、法線Nに対して傾斜させるようにすることで、基板10の表面に形成させる膜の膜厚を、あえて、その位置によって異なるようにさせている。そして、成膜工程における成膜材料を基板10に対して照射する方向と、エッチング用ビームを基板10に対して照射する方向(入射角度)が略同一となるように設定することで、エッチング用ビームによって、膜が厚い部分では削られて薄くなり、膜が薄い部分では削られた材料の一部が付着して厚くなる。これにより、膜表面を平坦に均すことができる。
【0046】
なお、本実施例においては、成膜工程とエッチング工程を1回のみ行う場合(上記の繰
り返し回数N=1の場合)でも、基板10の表面に形成される膜の表面を平坦にすることができる。そして、膜厚を厚くしたい場合には、所望の膜厚になるように、繰り返し回数Nを設定すればよい。この場合でも、膜の表面を平坦に均しながら、徐々に膜厚を厚くすることができる。
【0047】
なお、上記の説明においては、基板10の表面側に形成された凸部11と凹部12は、その断面形状(凸部11と凹部12が伸びる方向に垂直な断面の形状)が矩形の場合について説明した。しかしながら、本発明においては、凸部及び凹部の形状については、そのような形状に限定されることはない。例えば、
図9に示すように、凸部11と凹部12の断面形状(凸部11と凹部12が伸びる方向に垂直な断面の形状)が台形の場合でも適用可能である。なお、
図9は、このような基板10を用いた場合であって、上記の第1の搬送態様の場合を示しており、同図(a)は成膜工程について示し、同図(b)はエッチング工程について示している。
【0048】
図9(a)には、成膜工程によって形成された膜20aを示している。図示のように、凹凸の断面形状が台形の基板10の場合であっても、凸部11の上面に形成される膜のうち、図中右側ほど膜厚が厚くなり、凹部12の上面においては、凸部11により遮られる付近の膜の膜厚が薄くなる。なお、凹部12の上面においては、膜が殆ど形成されない部分もある。
【0049】
そして、成膜工程により形成された膜20aに対して、エッチング用ビームが照射されてエッチングが行われる(
図9(b)参照)。エッチング用ビームが膜20aに照射されると、膜20aは、ビームの照射方向に対して垂直状に徐々に削られる。従って、基板10の表面に形成された膜20aは、エッチング用ビームによって、
図9(b)中、凸部11の上面に形成された部分の図中右側付近を中心に削られる。
図9(b)中の膜20bは、エッチング工程後の状態を示している。また、同図中に示す点線L1は、成膜工程後の膜20aの表面の位置を示している。凹凸の断面形状が台形の基板10の場合であっても、同様に、膜厚が厚い部分ほど、エッチングにより削られる量が多くなり、エッチングにより削られた材料の一部は、膜に付着して、膜の一部となる。このとき、特に、エッチング用ビームが照射されない部分に付着し易いため、膜厚の薄い部分が付着した材料により厚くなる傾向となる。従って、上記の場合と同様に、膜表面が平坦に均される。
【0050】
(その他)
上記の実施例においては、第1エッチング用ビーム及び第2エッチング用ビームが、イオンビームの場合について説明した。しかしながら、エッチング用ビームは、イオンビームに限られず、レーザービームを用いることもできる。例えば、エッチングの対象となる膜の材料が、無機膜(SiNなど)、酸化物膜(SiO2、ITOなど)、金属膜(Al、Cuなど)の場合には、イオンビーム(Ar、Xeなどの希ガスにより生成されるイオンビーム)を用いると好適である。これに対して、エッチングの対象となる膜の材料が、有機膜(有機化合物など)の場合には、レーザービームを用いると好適である。前者の場合にはビーム径が比較的大きいのに対して、後者の場合にはビーム径が比較的小さいといった特徴がある。また、後者の場合には、膜中か下地層に光熱変換材料が含まれていると更に有効である。
【符号の説明】
【0051】
1…成膜装置
10…基板
11…凸部 12…凹部
15…基板搬送装置
15a…保持部材 15b…支持部材 15c…接続部材 15d…転動体
20a,20b,20c,20d…膜
100…ストッカ室
111…載置台 112…ガイドレール 121…駆動源 122…ガイドレール
200…気圧切替室
210…ガイドレール 221,222…ヒータ
300…処理室
300a…前処理エリア 300b…成膜エリア 300c…エッチングエリア
301…チャンバー 302…ガイドレール 303…排気ポンプ 304…ガス供給弁
310…基板処理装置 320…スパッタ装置
330…エッチング用ビーム照射装置
331…イオンソース 331a…イオンビーム 331a…エッチング用ビーム
332…カソード 333…ビーム照射面 334…アノード 335…永久磁石 336…高圧電源
C…制御装置
F…保持面
N…法線