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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】穀粉組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20231110BHJP
   A23G 3/00 20060101ALI20231110BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20231110BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231110BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20231110BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20231110BHJP
【FI】
A21D6/00
A23G3/00
A23L7/157
A21D13/80
A21D13/44
A23L7/10 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021511989
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013991
(87)【国際公開番号】W WO2020203756
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019068521
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匡
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】高松 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】柳下 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩一
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-072350(JP,A)
【文献】特開2008-295389(JP,A)
【文献】特開2007-117002(JP,A)
【文献】特開平04-141055(JP,A)
【文献】米国特許第03490917(US,A)
【文献】国際公開第2015/107858(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/056457(WO,A1)
【文献】USHIJIMA, Y. et al.,Improvement of the Bread-making Properties of Stored or Dry-heated Rice Flour with Sucrose Fatty Aci,Food Science and Technology Research,2017年,Vol. 23, No. 2,pp. 291-295,doi: 10.3136/fstr.23.291
【文献】THOMASSON, C. A. et al.,Replacement of Chlorine Treatment for Cake Flour,Cereal Chem.,1995年,Vol. 72, No. 6,pp. 616-620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/
A23G 3/
A21D 6/
A21D 13/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量10質量%以上の穀粉と乳化剤とを混合し、混合物を得る混合工程と、
前記混合物をその水分含量が7質量%以下となるまで乾燥して乾燥混合物を得る乾燥工程と、
前記乾燥混合物の品温95~150℃が2~150分間維持されるように、該乾燥混合物を乾熱処理する乾熱工程とを有し、
前記乾燥工程では、前記混合物の品温が60~90℃となるように、該混合物を乾燥する、穀粉組成物の製造方法。
【請求項2】
前記乳化剤のHLB値が15以下である、請求項1に記載の穀粉組成物の製造方法。
【請求項3】
前記乳化剤がレシチン類である、請求項1又は2に記載の穀粉組成物の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程では、前記穀粉100質量部に対し、前記乳化剤を0.05~3質量部混合する、請求項1~の何れか1項に記載の穀粉組成物の製造方法。
【請求項5】
前記穀粉組成物が菓子類用又は揚げ物用である、請求項1~のいずれか1項に記載の穀粉組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法によって製造された穀粉組成物を含む、原料粉を用いて生地を調製し、該生地を焼成する工程を有する、菓子類の製造方法。
【請求項7】
前記菓子類がスポンジケーキ又はホットケーキである請求項に記載の菓子類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理された穀粉及び乳化剤を含む穀粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷら等の揚げ物食品、お好み焼き、ホットケーキ等のスポンジ状菓子等の穀粉含有食品には、加熱調理後の経時的な食感低下や電子レンジ等で再加熱した際の食感低下が抑えられ、加熱調理直後に劣らない歯切れや口溶けの良い軽い食感を保持していることが要望されている。このような要望に応えるべく、小麦粉等の穀粉の改良技術が従来提案されており、例えば、穀粉の塩素ガス処理(クロリネーション)、加熱処理などが知られている(非特許文献1、特許文献1及び2)。しかしクロリネーションは、塩素ガスの安全性の観点から採用し難いのが実情である。
【0003】
一方、穀粉の加熱処理は、穀粉中の酵素の失活、殺菌、品質改良等を目的として従来行われている。特許文献3には、食品類の老化防止、粘着防止、ゲル化防止、食味食感の向上等の効果を奏する食品用素材として、乳化剤の存在下に澱粉を加熱処理して得られる澱粉複合体が記載されている。特許文献3では、加熱処理に供される澱粉として、水分が8~25%に調整されたものが推奨されており(特許文献3の[0012])、特許文献3に記載の実施例では、乳化剤と澱粉とを混合後、その混合物の水分を17%に調湿してから加熱処理している。特許文献4には、穀粉と乳化剤との混合物を加熱処理してなる穀粉組成物が記載され、該加熱処理として、水及び/又は水蒸気を用いた湿熱処理が推奨されている(特許文献4の[0014])。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】瀬口正晴、「薄力小麦粉のクロリネーションや加熱処理が焙焼時に澱粉性食品に及ぼす影響」、澱粉科学第38巻第3号、1991年、271~279頁
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭59-4969号公報
【文献】特開2016-182048号公報
【文献】特開2004-283134号公報
【文献】US2016278392A1
【発明の概要】
【0006】
特許文献3及び4に記載の穀粉の改良技術は、穀粉の品質改善に一定の効果はあるものの、パン類や菓子類に対する食感等の品質の要求レベルは近年ますます高まっており、それに応え得る新たな技術が要望されている。
【0007】
本発明の課題は、製造後時間が経過しても製造直後に劣らない良好な歯切れ、口溶けを有する穀粉含有食品を製造可能な穀粉組成物を提供することである。
【0008】
本発明は、水分含量10質量%以上の穀粉と乳化剤とを混合し、混合物を得る混合工程と、前記混合物をその水分含量が7質量%以下となるまで乾燥して乾燥混合物を得る乾燥工程と、前記乾燥混合物の品温95~150℃が2~150分間維持されるように、該乾燥混合物を乾熱処理する乾熱工程とを有する、穀粉組成物の製造方法である。
【0009】
また本発明は、前記の本発明の方法によって製造された穀粉組成物を含む、原料粉を用いて生地を調製し、該生地を焼成する工程を有する、菓子類の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の穀粉組成物の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)は、穀粉と乳化剤とを混合して混合物を得る工程(混合工程)と、該混合物を乾燥して乾燥混合物を得る工程(乾燥工程)と、該乾燥混合物を乾熱処理する工程(乾熱工程)とを有する。
【0011】
本発明に係る混合工程で用いる穀粉は、水分含量が10質量%以上の穀粉である。代表的な穀粉の一つである小麦粉は、特に乾燥処理が施されずに常温常圧で保管された未乾燥品であれば、通常その水分含量は11~15質量%程度である。なお、本明細書において、「水分含量」は、絶乾法で測定した値である。
【0012】
穀粉としては、各種食品に通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉;大麦粉、ライ麦粉、ハト麦粉、そば粉、ひえ粉、あわ粉、コーンフラワー等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの穀粉の中でも、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、そば粉は、グルテン等のタンパク質の寄与が大きいため好ましく、より好ましくは小麦粉である。
【0013】
乳化剤としては、各種食品に通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル;レシチン、リゾレシチン等のレシチン類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明で好ましく用いられる乳化剤として、レシチン類を例示できる。本発明ではレシチン類の原料は問わず、例えば、卵黄、大豆、ひまわり、菜種等が挙げられる。特に好ましいのは、卵黄を原料とする卵黄レシチンである。
【0015】
乳化剤としては、HLB値が好ましくは15以下のものが好ましい。HLB値が低いほど、乳化剤の疎水性が高まる。HLB値が前記範囲にある乳化剤を用いることで、併用する穀粉の疎水化が促進され、所望の穀粉組成物がより一層確実に得られるようになる。乳化剤として脂肪酸エステル(より具体的にはショ糖脂肪酸エステル)を用いる場合、その脂肪酸エステルのHLB値は、好ましくは12以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは5以下である。また、乳化剤としてレシチン(より具体的には卵黄レシチン)を用いる場合、そのレシチンのHLB値は、好ましくは12以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは7以下ある。乳化剤のHLB値はゼロでもよい。
【0016】
本発明に係る混合工程において、穀粉と乳化剤との配合割合は、穀粉100質量部に対し、乳化剤が好ましくは0.05~3.0質量部、より好ましくは0.5~1.0質量部である。穀粉と比較して乳化剤の配合量が少なすぎると、乳化剤を用いる意義に乏しく、穀粉含有食品の食感の向上効果が得られにくくなるおそれがあり、また、穀粉組成物の水への分散性が低下することに起因して、これを用いたバッター液の調製等の作業性が低下し、揚げ物等の穀粉含有食品の製造作業の負担が増大するおそれもある。一方、穀粉と比較して乳化剤の配合量が多すぎると、穀粉含有食品の風味が低下するおそれがある。なお、本発明に係る混合工程では、典型的には、穀粉及び乳化剤のみを混合し、他の原料は混合しない。
【0017】
本発明に係る乾燥工程では、前記混合工程で得られた穀粉と乳化剤との混合物を乾燥し、該混合物の水分含量が7質量%以下、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下となるまで乾燥して、乾燥混合物を得る。このように、乾燥工程で乾燥混合物の水分含量を7質量%以下に調整する理由は、続いて行われる乾熱工程で穀粉に含まれる澱粉がα化(糊化)することを抑制して、穀粉と乳化剤との相互作用を促進するためである。仮に、穀粉と乳化剤との混合物を、このような乾燥工程を経ずに、いきなり乾熱工程に導入した場合には、水分含量10質量%以上の穀粉を乾熱処理することになるため、その乾熱処理によって穀粉中に含まれる澱粉のα化が促進され、その結果、歯切れ、口溶けが低下するおそれがある。
【0018】
本発明に係る乾燥工程は、被乾燥物(穀粉と乳化剤との混合物)の水分含量の低下を主たる目的とすることから、基本的には、開放系で実施され、典型的には、周囲の空気に連通している開放系の容器内で実施される。
【0019】
本発明に係る乾燥工程では、被乾燥物(穀粉と乳化剤との混合物)の品温が、好ましくは60~90℃、より好ましくは70~85℃となるように、被乾燥物を乾燥することが好ましい。また、被乾燥物の乾燥時間(被乾燥物の品温60~90℃が維持される時間)は、好ましくは10分以上、より好ましくは20~40分である。本発明に係る乾燥工程は、典型的には、開放系の容器に被乾燥物を入れた状態で加熱することで実施される。乾燥工程中、被乾燥物を攪拌してもよい。
【0020】
本発明に係る乾熱工程では、前記乾燥工程で得られた穀粉と乳化剤との乾燥混合物を乾熱処理する。乾熱処理は、水分を添加せずに被処理物(乾燥混合物)を加熱する処理であり、被処理物中の水分を積極的に蒸発させる処理である。乾熱処理は、湿熱処理すなわち、被処理物に水分を添加してから加熱する処理とは明確に区別される。
【0021】
本発明の製造方法において乾熱工程に先立って実施される乾燥工程では、前述したように、典型的には、被乾燥物(穀粉と乳化剤との混合物)を加熱処理するところ、その場合には、穀粉と乳化剤との混合物を乾燥工程及び乾熱工程の二度にわたって加熱処理することになる。しかし、これら本発明に係る両工程はその目的が互いに異なっており、乾燥工程の主たる目的は、両工程中に穀粉に含まれる澱粉がα化しないようにすることであるのに対し、乾熱工程の主たる目的は、穀粉に含まれるタンパク質(特にグルテン)を変性させることである。乾燥工程でも被乾燥物の加熱によってタンパク質の変性が起こり得るが、乾燥工程におけるタンパク質の性状変化は、乾熱工程におけるものとは大きく異なる。
【0022】
本発明に係る乾熱工程では、被乾熱物(穀粉と乳化剤との乾燥混合物)の品温95~150℃が2~150分間維持されるように、被乾熱物を乾熱処理する。乾熱工程中の被乾熱物の品温は、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~130℃である。また、乾熱処理時間(被乾熱物の品温95~150℃が維持される時間)は、好ましくは3~50分、より好ましくは10~40分である。
【0023】
本発明に係る乾熱工程は、前述した乾燥工程と同様に開放系で実施することも可能であるが、乾熱処理中の被乾熱物の品温を安定的に前記範囲として、穀粉中のグルテンを効率的に変性させる観点から、密閉系で実施することが好ましく、具体的には例えば、周囲の空気から隔離されている密閉系の容器内で実施することが好ましい。本発明に係る乾熱工程は、例えば、密閉系の容器に被乾熱物を入れた状態で加熱することで実施される。乾熱工程中、被乾熱物を攪拌してもよい。
【0024】
本発明に係る乾熱工程における乾熱処理の好ましい一例として、加熱手段を有する回転シャフトからなる攪拌装置を有する密閉容器内において、被乾熱物を攪拌しながらこれを間接的に加熱する処理を例示できる。斯かる乾熱処理(間接加熱処理)においては、中空部を有する回転シャフトを含む攪拌装置を備えた密閉系円筒状容器を用い、該容器内に被乾熱物を導入し、該中空部に加熱蒸気が供給された状態の該回転シャフト(すなわち加熱蒸気によって加熱された回転シャフト)で該被乾燥物を攪拌する。前記密閉系円筒状容器としては、例えば特開2004-9022号公報に記載の熱処理攪拌装置を用いることができる。
【0025】
前述した混合工程、乾燥工程及び乾熱工程を順次経ることで、目的とする穀粉組成物が得られる。本発明の製造方法によって製造された穀粉組成物(以下、「特定穀粉組成物」ともいう。)は、種々の穀粉含有食品の製造に用いることができ、具体的には例えば、菓子類、パン類、ピザ類等のベーカリー食品の製造に用いることができる。ベーカリー食品は、穀粉類(穀粉及び澱粉)を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの副原料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品である。
【0026】
前記特定穀粉組成物は、菓子類の製造に特に有用である。菓子類としては、例えば、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ等のケーキ類;ワッフル、シュー、ビスケット、どら焼き、焼き饅頭等の和洋焼き菓子;ドーナツ等の揚げ菓子等が挙げられる。前記特定穀粉組成物は、菓子類の中でも特にケーキ類の製造に有用であり、とりわけスポンジケーキ又はホットケーキの製造に有用である。ここでいう「ケーキ類」は、典型的には、薄力粉を主体とする原料粉、すなわち薄力粉の含有量が50質量%以上の原料粉を用いて製造されたベーカリー食品である。
【0027】
菓子類等のベーカリー食品は、典型的には、原料粉を用いて生地を調製し、該生地を焼成する工程を経て製造される。生地を調製する際には原料粉に液体を添加するところ、この液体としては、例えば、水、牛乳、卵等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。必要に応じ、調製した生地を焼成する前に、常法に従って生地を発酵させてもよい。前記特定穀粉組成物を用いてベーカリー食品を製造する場合には、特定穀粉組成物を原料粉に配合する。原料粉における前記特定穀粉組成物の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは0.1~100質量%、より好ましくは0.5~80質量%、更に好ましくは1~70質量%である。
【0028】
前記特定穀粉組成物は、ベーカリー食品の他に、例えば揚げ物にも有用であり、各種揚げ物の衣材として使用できる。揚げ物としては、例えば、から揚げ、天ぷら、フリッター、フライ等が挙げられる。揚げ物は、典型的には、具材の表面に衣材を付着させた後、油ちょうする工程を経て製造される。前記特定穀粉組成物を用いて揚げ物を製造する場合には、特定穀粉組成物を衣材に配合する。衣材における前記特定穀粉組成物の含有量は、該衣材の全質量に対して、好ましくは0.1~100質量%、より好ましくは0.5~80質量%、更に好ましくは1~70質量%である。
【実施例
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1~2〕
先ず、未乾燥の穀粉として薄力粉(日清製粉製、商品名「フラワー」、水分14.2質量%)、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ製、商品名「リョートーシュガーエステル S-070」、HLB値0)を用い、これらを配合し攪拌して均一に混合して、混合物を得た(混合工程)。次に、この混合物を被乾燥物として用い、被乾燥物を開放系の容器に収容し、被乾熱物の品温が下記表1の「乾燥工程」の欄の「加熱温度」となるように所定時間加熱して、乾燥物を得た(乾燥工程)。次に、この乾燥物を被乾熱物として用い、被乾熱物を密閉系円筒状容器に収容し、被乾熱物の品温が下記表1の「乾熱工程」の欄の「加熱温度」となるように所定時間加熱して、穀粉組成物を得た(乾熱工程)。この乾熱工程は、特開2004-9022号公報に記載の熱処理攪拌装置と同様の構成の装置を用いて行った。
【0031】
〔比較例1〕
乾燥工程を実施せず、未乾燥の穀粉をそのまま乾熱工程に導入して乾熱処理した後、その乾熱処理された穀粉と乳化剤とを混合した。以上の点以外は、実施例1又は2と同様にして穀粉組成物を得た。
【0032】
〔比較例2~4〕
混合工程の実施タイミング(穀粉と乳化剤とを混合するタイミング)と乾燥工程における加熱条件とを変更した以外は、実施例1又は2と同様にして穀粉組成物を得た。
【0033】
〔比較例5〕
乾燥工程を実施せず、未乾燥の穀粉と乳化剤との混合物をそのまま乾熱工程に導入して乾熱処理した以外は、実施例1又は2と同様にして穀粉組成物を得た。
【0034】
〔比較例6〕
乾燥工程の乾燥条件を変更した以外は、実施例1又は2と同様にして穀粉組成物を得た。
【0035】
〔対照例〕
乾燥工程も乾熱工程も実施せず、単に未乾燥の穀粉と乳化剤とを混合しただけで、穀粉組成物を得た。
【0036】
〔試験例〕
各実施例、比較例及び対照例の穀粉組成物を用い、下記方法により穀粉含有食品の一種であるホットケーキを製造した。製造したホットケーキを、雰囲気温度25℃の環境下で18時間保管した後、10名の専門パネラーに食してもらい、その食感(歯切れの良さ、口溶けの良さ)を下記評価基準に従って評価してもらった。結果を10名の平均点として下記表1に示す。
【0037】
<ホットケーキの製造方法>
(1)薄力粉(日清製粉製、商品名「フラワー」)70質量部、試験対象の穀粉組成物30質量部、砂糖25質量部、膨張剤(炭酸水素ナトリウム)5質量部を混合し、ホットケーキミックスを調製した。
(2)ボールに、前記ホットケーキミックスの全量、サラダ油10質量部、卵30質量部、牛乳80質量部、水0~30質量部(対照例は0質量部とし、同程度の粘度になるよう調整)を投入して混合し、その混合物を、市販のハンドミキサーを用いて回転数120rpmで60秒間ミキシングし、生地を調製した。
(3)フロアタイムを10分とった後、前記生地を4分割し、予め180~185℃に加熱しておいた鉄板の上に流して3分間焼成した後、ひっくり返して2分間焼成してホットケーキを製造した。
【0038】
(歯切れの良さの評価基準)
5点:サクミがあり、歯切れが非常に良い。
4点:歯切れが良い。
3点:ひきがない。
2点:ややひきがある(対照例と同等)。
1点:噛み切りにくい。
(口溶けの良さの評価基準)
5点:非常にソフトで口溶けがよく、軽い食感を有する。
4点:ソフトで口溶けがよい。
3点:ややソフトで口溶けがよい。
2点:口溶けが悪く、口の中で団子状になりやすい(対照例と同等)。
1点:口溶けが非常に悪く、口の中ですぐに団子状となる。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すとおり、各実施例は、穀粉と乳化剤との混合物をその水分含量が7質量%以下となるまで乾燥した後、その乾燥混合物を所定条件で乾熱していることに起因して、これを満たさない各比較例及び対照例に比して、ホットケーキの食感に優れていた。
【0041】
〔実施例3~12〕
乳化剤の種類を変更した以外は、実施例2と同様にして穀粉組成物を得た。得られた穀粉組成物について、前記〔試験例〕と同様にホットケーキの食感を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
〔実施例13~18〕
乳化剤の使用量を変更した以外は、実施例2、8と同様にして穀粉組成物を得た。得られた穀粉組成物について、前記〔試験例〕と同様にホットケーキの食感を評価した。その結果を下記表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
〔実施例19~21〕
乾熱工程における加熱温度、加熱時間を変更した以外は、実施例2と同様にして穀粉組成物を得た。得られた穀粉組成物について、前記〔試験例〕と同様にホットケーキの食感を評価した。その結果を下記表4に示す。
【0046】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、製造後時間が経過しても製造直後に劣らない良好な食感を保持し、歯切れ及び口溶けが良好で軽い食感の穀粉含有食品を製造可能な穀粉組成物が提供される。