(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】シリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/28 20060101AFI20231110BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C08J11/28
B29B17/02 ZAB
(21)【出願番号】P 2022123590
(22)【出願日】2022-08-02
【審査請求日】2023-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】芦田 諒
(72)【発明者】
【氏名】生方 茂
(72)【発明者】
【氏名】平林 佐太央
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0126122(US,A1)
【文献】特表2009-537686(JP,A)
【文献】特開2022-095499(JP,A)
【文献】国際公開第2008/032052(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00
B29B 17/00
D06L
B32B
C09D
C11D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材から、コーティングされたシリコーン樹脂の解重合物と樹脂基材を回収する方法であって、
(A)テトラアルキルアンモニウム塩:0.01質量%~30質量%、
(B)有機溶剤:70質量%~99.99質量%、
からなるシリコーン溶解液に前記シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を浸漬する工程を含むことを特徴とするシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【請求項2】
前記(A)成分の前記テトラアルキルアンモニウム塩として対イオンが、フッ化物イオン、または水酸化物イオンであるテトラアルキルアンモニウム塩を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【請求項3】
前記(A)成分としてそのアルキル基が、独立して炭素数1~4のアルキル基であるテトラアルキルアンモニウム塩を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【請求項4】
前記(B)成分として、飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル化合物、カルボニル化合物、アルコール化合物の群から選ばれる1種以上の有機溶剤を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【請求項5】
前記樹脂基材として、合成繊維の織布を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【請求項6】
前記合成繊維の織布をエアーバッグ用のナイロン66(PA66)製基布又はポリエチレンテレフタレート(PET)製基布とすることを特徴とする請求項5に記載のシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂基材の表面に硬化性シリコーンゴムをコーティングし、硬化被膜を形成したシリコーンコーティング樹脂基材は、耐熱性、耐候性、難燃性等に優れる。それゆえに、自動車用のエアーバッグ基布や、テント幕の皮膜、電線のケーブルコーティング等の用途に好適である。これらの用途では、シリコーンゴムコーティング材と樹脂基材が強固に接着していることが求められる。その手段としては、基材へのプライマーの塗布や、シリコーンゴムへの内添接着剤の添加等が挙げられる。
【0003】
一方で、シリコーンポリマーは製造時、特に珪石(二酸化ケイ素)から金属ケイ素へと電気的な還元処理を行う際の電気消費量が多く、結果として大量のCO2を排出する。そこで、環境負荷低減の観点から、廃棄するシリコーンゴムからシリコーンモノマーを回収・リサイクルしてCO2排出量を低減することが強く望まれている。しかしながら、上記のようにシリコーンゴムコーティング材と樹脂基材は強力に接着していることが多い。そのため、シリコーンゴムコーティング材と樹脂基材を分離し、これら両方の材料を回収・リサイクルすることは容易ではない。
【0004】
シリコーンゴムを溶解する方法としては塩化ホスホニトリルと重合度10~50の直鎖状ポリシロキサンを含むシリコーン溶解液が開示されている(特許文献1)。この方法では、他のプラスチック部材を膨潤させることなくシリコーンゴムを選択的に溶解可能である。しかし、毒性が極めて高い塩化ホスホニトリルを使用する必要があり、周囲への健康被害・環境負荷が懸念される。
【0005】
また、他の溶解方法としては、テトラアルキルアンモニウムフロリドと、水素イオンと結合可能な無機塩基を有機溶剤に溶解したシリコーンゴム用可溶化剤が開示されている(特許文献2)。この方法では金属片を腐食させずに、シリコーンゴムを溶解することが可能である。しかし、水素イオンと結合可能な無機塩基を有機溶剤に溶解する必要があり、使用できる溶剤の種類が制限される。また、この文献ではシリコーン樹脂の溶解速度と金属片への腐食性しか具体的に明示されておらず、他のプラスチック基材への影響やシリコーンポリマーの回収に関しては不明瞭である。
【0006】
また、樹脂基材からシリコーンゴムを分離する方法としては、PA66基布にシリコーンコーティングしたエアーバッグ用シリコーンコーティング基布を、第三級アミンと陰イオン界面活性剤及び水酸化ナトリムを含む強アルカリ性溶液中で混合し、分離させる方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、この方法ではpH=13以上の強アルカリ性水溶液で長時間処理する必要があり、溶解設備へのダメージが懸念される。また、強アルカリ性に耐えられない樹脂基材にはこの方法は利用できない。
【0007】
また、別の方法としては、アルキルベンゼンスルホン酸と引火点が70℃以上である飽和炭化水素を含む溶液中でPA66基布にシリコーンコーティングしたエアーバッグ用シリコーンコーティング基布を混合し、分離する方法が開示されている(特許文献4)。しかしながら、この方法では強酸性の溶液を扱う必要があり、設備の腐食や、作業員の健康被害等が懸念される。また、強酸性に耐えられない樹脂基材にはこの方法は利用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2014-524941号公報
【文献】特表2015-505886号公報
【文献】特開2017-124553号公報
【文献】特開2022-073181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、シリコーンゴム等のシリコーン樹脂でコーティングされた樹脂基材からシリコーン樹脂をその解重合物として分離し、樹脂基材とシリコーン樹脂の解重合物の両方を回収・リサイクルする方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、
シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材から、コーティングされたシリコーン樹脂の解重合物と樹脂基材を回収する方法であって、
(A)テトラアルキルアンモニウム塩:0.01質量%~30質量%、
(B)有機溶剤:70質量%~99.99質量%、
からなるシリコーン溶解液に前記シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を浸漬する工程を含むシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法を提供する。
【0011】
このようなリサイクル方法であれば、樹脂基材を回収し、シリコーン樹脂をその解重合物に高効率で変換することが可能となる。
【0012】
前記(A)成分の前記テトラアルキルアンモニウム塩として対イオンが、フッ化物イオン、または水酸化物イオンであるテトラアルキルアンモニウム塩を用いることが好ましい。
【0013】
このようなテトラアルキルアンモニウム塩であれば、より良好に触媒として機能する。
【0014】
前記(A)成分としてそのアルキル基が、独立して炭素数1~4のアルキル基であるテトラアルキルアンモニウム塩を用いることが好ましい。
【0015】
このようなテトラアルキルアンモニウム塩であれば、更に良好に触媒として機能する。
【0016】
前記(B)成分として、飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル化合物、カルボニル化合物、アルコール化合物の群から選ばれる1種以上の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0017】
このような有機溶剤であれば、より良好にコーティングされていたシリコーン樹脂の膨潤剤かつテトラアルキルアンモニウム塩の溶媒として作用する。
【0018】
前記樹脂基材として、合成繊維の織布を用いることが好ましい。
【0019】
本発明のリサイクル方法では、合成繊維の織布を回収することができる。
【0020】
前記合成繊維の織布をエアーバッグ用のナイロン66(PA66)製基布又はポリエチレンテレフタレート(PET)製基布とすることが好ましい。
【0021】
このようなリサイクル方法であれば、エアーバッグ用の織布のリサイクル方法として好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、テトラアルキルアンモニウム塩と有機溶剤を含むシリコーン溶解液にシリコーンコーティング樹脂基材を浸漬させることで、樹脂基材とシリコーンゴム(シリコーン樹脂)を分離し、基材の回収・リサイクルが可能であり、更にシリコーン樹脂をシリコーン樹脂の解重合物に高効率で変換することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
シリコーン樹脂でコーティングされた樹脂基材から、コーティングされたシリコーン樹脂の解重合物と、樹脂基材の両方を効率的に回収するリサイクル方法が求められていた。
【0024】
本発明者らは、上記目的を達成するために、種々検討した結果、テトラアルキルアンモニウム塩と有機溶剤からなる溶液にシリコーンコーティング樹脂基材を浸漬させることで、樹脂基材とシリコーン樹脂を分離し、樹脂基材を回収・リサイクルすることが可能である。更にシリコーンゴムなどのシリコーン樹脂をシリコーン樹脂の解重合物に高効率で変換することができることを見出し、本発明をなすに至った。前記解重合物としては、ケイ素原子数3~20程度の環状オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。中でも、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)は、適切な触媒を用いて重合することで、シリコーンポリマーに変換できるシリコーンモノマーであり、シリコーンポリマーの有用な前駆体である。
【0025】
即ち、本発明は、
シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材から、コーティングされたシリコーン樹脂の解重合物と樹脂基材を回収する方法であって、
(A)テトラアルキルアンモニウム塩:0.01質量%~30質量%、
(B)有機溶剤:70質量%~99.99質量%、
からなるシリコーン溶解液に前記シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を浸漬する工程を含むシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法である。
【0026】
<シリコーン溶解液>
本発明に用いるシリコーン溶解液は、
(A)テトラアルキルアンモニウム塩:0.01質量%~30質量%、
(B)有機溶剤:70質量%~99.99質量%、
からなるシリコーン溶解液である。
【0027】
以下、本発明に用いるシリコーン溶解液の各成分について詳しく説明する。
【0028】
[A成分]
(A)成分はテトラアルキルアンモニウム塩であり、シロキサン結合(-O-Si-O-)の分解(解重合)触媒として作用する。
【0029】
テトラアルキルアンモニウム塩としては、その4つのアルキル基が、独立して炭素数1~4のアルキル基が好ましく、4つすべてが同じアルキル基であることがより好ましい。また、対イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオンなどのハロゲン化物イオンや、水酸化物イオンが好ましく、フッ化物イオン、水酸化物イオンがより好ましい。
【0030】
テトラアルキルアンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムフロリド、テトラエチルアンモニウムフロリド、テトラプロピルアンモニウムフロリド、テトライソプロピルアンモニウムフロリド、テトラブチルアンモニウムフロリド等のフッ化物イオン塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトライソプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の水酸化物イオン塩が挙げられる。特に、テトラブチルアンモニウムフロリド、テトラメチルアンモニウムフロリド又は、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。
【0031】
(A)成分のテトラアルキルアンモニウム塩の配合量は(B)成分である有機溶剤との合計に対して0.01質量%~30質量%、好ましくは0.05質量%~20質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%である。配合量が0.01質量%よりも低いとシリコーン樹脂が十分に分解しないことがあり、30質量%よりも多くなるとコストが高くなり経済的に不利である。
【0032】
(A)成分は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
[B成分]
(B)成分は有機溶剤であり、樹脂基材にコーティングされたシリコーン樹脂の膨潤剤及び上記(A)成分の溶媒として作用する。
【0034】
(B)成分の有機溶剤は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の直鎖状又は分岐状飽和脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、ジメチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、トリプロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリイソブチルベンゼン、等の芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等の直鎖状又は分岐状飽和脂肪族ケトン化合物、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の脂環式ケトン化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等のエステル化合物、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル等のジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル化合物、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン等の脂環式エーテル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、ターシャリーブチルアルコール、セカンダリーブチルアルコール、2-エチルヘキサノール等脂肪族アルコール化合物等が挙げられるが、飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル化合物、カルボニル化合物、アルコール化合物であることが特に好ましい。具体的には、デカン、ドデカン、テトラヒドロフラン、トルエン、イソプロパノール、またはジエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0035】
(B)成分の有機溶剤は、上記の群から選ばれるいかなる有機溶剤でも使用可能だが、沸点が好ましくは50℃~300℃、より好ましくは60℃~250℃、より好ましくは65℃~200℃である。沸点が50℃以上では有機溶剤の揮発性が低く、環境負荷の増大や、作業性が悪化することがなく、沸点が300℃以下であれば、溶解工程終了後の溶解液から蒸留等により溶剤を回収・リサイクルすることが容易である。
【0036】
上記(B)成分の含有量は、(A)成分のテトラアルキルアンモニウム塩との合計に対して70質量%~99.99質量%である。
【0037】
なお、上記(B)成分は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
<溶解条件>
調製したシリコーン溶解液に、シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を浸漬する。この際に、シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を攪拌しやすい大きさに裁断することが好ましい。シリコーンコーティング樹脂基材の大きさや厚み、状態等に特に制限はないが、1辺のサイズを1mm~500mm、好ましくは2mm~300mm、より好ましくは5mm~100mmに裁断すると、攪拌翼等で攪拌しやすくなり好適である。もちろん、基材を裁断せずそのまま浸漬してもよい。
【0039】
このとき、溶解液にシリコーンコーティング基布を浸漬するだけでも十分に溶解するが、ダイナミックミキサー等の攪拌翼による攪拌や、マグネティックスターラー等の攪拌子による攪拌、振とう機による振とう処理、超音波処理などは溶解速度向上に有効であり、特にダイナミックミキサーやマグネティックスターラーによる攪拌が好ましい。
【0040】
溶解液とシリコーンコーティング樹脂基材の重量割合に特に制限はないが、シリコーンコーティング樹脂基材が完全に浸漬する量の溶解液を使用することが好ましい。
【0041】
溶解温度は使用する有機溶剤の沸点以下の温度であれば、特に制限はないが、10℃~150℃、好ましくは15℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃である。温度が10℃以上であればシリコーン樹脂の溶解速度が極端に遅くなることがなく、150℃以下であれば、樹脂基材へのダメージが大きくなることがない。
【0042】
溶解時間はシリコーンコーティング基布と溶解液の重量比、攪拌条件、温度条件により異なり、適切な時間を選択することが好ましい。通常は、0.2分~120分、好ましくは0.5分~90分、より好ましくは1分~60分である。
【0043】
<シリコーン樹脂>
本発明において用いられるシリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材のシリコーン樹脂は、例えば付加硬化型シリコーンゴムや、ラジカル硬化型シリコーンゴム、縮合硬化型シリコーンゴム、または紫外線硬化型シリコーンゴムなど、シロキサン結合を持つ全てのシリコーンゴムに適応可能である。更に、充填剤として疎水性シリカ、親水性シリカ、酸化鉄、群青、シリコーンレジン、カーボンブラック、ガラスビーズ、樹脂バルーン、珪藻土、金属酸化物紛、金属紛、金属水酸化物紛を含んでいても適応可能となる。また、添加剤として、反応制御剤、酸化防止剤、接着助剤、接着促進剤、可塑剤、難燃化剤等を含んでいても適応可能である。
【0044】
<樹脂基材>
樹脂基材としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリスルフォン(PSU)樹脂、ナイロン6(PA6)樹脂、ナイロン66(PA66)樹脂、ポリフタルアミド(PPA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂等が挙げられる。中でも、PA66又はPETであることが好ましい。
【0045】
また、樹脂基材として、合成繊維の織布を用いることが好ましく、合成繊維の織布をエアーバッグ用のナイロン66(PA66)製基布又はポリエチレンテレフタレート(PET)製基布とすることがより好ましい。
【0046】
上記のシリコーン溶解液にシリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を浸漬することで、コーティングされたシリコーン樹脂を解重合することができる。得られる解重合物の好ましい具体例としてはD4~D6が挙げられる。よって、シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材から、コーティングされたシリコーン樹脂の解重合物と樹脂基材を回収し、リサイクルすることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明について具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0048】
<シリコーン溶解液の調製>
表1~4に記載の割合で(A)成分と(B)成分を25℃で5分間混合し、調製した。
【0049】
<シリコーンコーティング樹脂基材の調製>
加熱付加硬化型液状シリコーンコーティング材であるKEG-2052T-A/B(信越化学工業株式会社製)を25g/m2でPA66基布(210デニール)及びPET基布(495デニール)にコーティングし、200℃で1分間乾燥炉に入れ、加熱硬化することでシリコーンコーティング基布を作成した。
【0050】
<実施例・比較例>
上記シリコーンコーティング基布を約5mm角に裁断し、1.0gを20mLのナスフラスコに量り取った。その後、調製しておいた各溶解液10.0gと撹拌子を、冷却管を取り付けたナスフラスコに入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながらオイルバスを用いて60℃で30分間加熱した。加熱終了後、室温まで放冷し、得られた基布サンプルについて、イオン交換水とアセトンによる洗浄を行った後に、シリコーンコーティングしていた面のIR測定、及び、光学顕微鏡によりシリコーンの除去状態を確認した。また、残った溶液について、下記の方法でヘッドスペースGCによりD4~D6の含有量を測定した。
【0051】
<IRの測定方法>
以下の装置と条件でシリコーンコーティングしていた面についてIRを測定した。
装置:Spectrum65 FT-IR spectrometer
(Perkin Elmer社製)
測定範囲:4,000~550cm-1
測定回数:8回
2950cm-1付近にあるSi-CH3のピークが検出された場合を「×」、検出されなかった場合を「〇」と評価した。結果を表1~4に示す。
【0052】
<光学顕微鏡による表面観察>
以下の装置と条件でシリコーンコーティングしていた面について光学顕微鏡で表面観察を行った。
装置:LEXT OLS5000(オリンパス株式会社製)
倍率:235倍
光学顕微鏡で観察し、「シリコーン樹脂の除去」の項目についてはシリコーン樹脂が残っている場合を「×」、シリコーン樹脂が発見されない場合を「〇」と評価した結果を表1~4に示す。また、「基布の状態」の項目については、基布を構成する糸の溶解が見られた場合を「×」、溶解が見られなかった場合を「〇」と評価した。結果を表1~4に示す。
【0053】
<ヘッドスペースGC(HS-GC)によるD4-D6量の測定>
溶解後の溶液に、内部標準として1,000ppmのヘプタン―トルエン溶液を10.0g加え、25℃で1分間混合した。その後、メンブレンフィルターによるろ過を行い、そのろ液5μLを10μLマイクロシリンジでHS-GC用バイアル瓶に量り取り、以下の条件でHS-GCを測定した。
【0054】
GC装置:GC-2030(島津製作所製)
ヘッドスペースサンプラー:HS-20(島津製作所製)
カラム:HP-5MS(アジレント・テクノロジー株式会社製)
バイアル加熱条件:120℃/10分
キャリアガス:ヘリウム
検出器:FID
【0055】
分析終了後、D4~D6と内部標準であるヘプタンのクロマトグラムピーク面積を計測し、以下の式よりD4~D6の含有率を算出し、100の桁で四捨五入した結果を表1~4に示す。
【0056】
D4~D6の含有率(ppm)=(D4~D6のGC合計面積/ヘプタンのGC面積)×2.59×{(溶剤+ヘプタン-トルエン溶液重量(g))/コーティング基布重量(g)}×500(ppm)
2.59:ヘプタンとD4~D6のFID検出強度換算係数
500 :内部標準(ヘプタン)の濃度
【0057】
<樹脂基材の質量変化>
PA66基布(210デニール)及びPET基布(495デニール)をそれぞれ、約5mm角に裁断し、1.0gを20mLのナスフラスコに量り取った。その後、調製しておいた各溶解液を10.0gと撹拌子を、冷却管を取り付けたナスフラスコに入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながら、オイルバスを用いて60℃で30分間加熱した。加熱工程終了後、25℃まで放冷し、得られた基布サンプルについてイオン交換水とアセトンによる洗浄を行った後に、100℃の乾燥機で1時間乾燥させた。その後、得られたサンプルについて質量を量り取り、質量変化率を算出し、少数点第二位で四捨五入した結果を表1~4に示す。
【0058】
【0059】
実施例1~19ではPA66基布とPET基布にダメージを与えることなくシリコーンポリマーをD4~D6のシリコーンの解重合物として効率良く回収している。回収したD4~D6は適正な触媒を使用し、重合することでシリコーンポリマーに再生可能である。また、分離したPET基布又はPA66基布は熱融解させることで、樹脂板や、糸としてリサイクル可能である。一方で、比較例1~5ではシリコーン樹脂のコーティング材と樹脂基材の分離ができず、D4~D6もほとんど回収できない結果となった。また、比較例6、7においては、PET基布にダメージを与えた他、D4~D6の回収量も少ない結果となった。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【要約】
【課題】シリコーンゴム等のシリコーン樹脂でコーティングされた樹脂基材からシリコーン樹脂をその解重合物として分離し、樹脂基材とシリコーン樹脂の解重合物の両方を回収・リサイクルする方法を提供する。
【解決手段】
シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材から、コーティングされたシリコーン樹脂の解重合物と樹脂基材を回収する方法であって、
(A)テトラアルキルアンモニウム塩:0.01質量%~30質量%、
(B)有機溶剤:70質量%~99.99質量%、
からなるシリコーン溶解液に前記シリコーン樹脂がコーティングされた樹脂基材を浸漬する工程を含むシリコーンコーティング樹脂基材のリサイクル方法。
【選択図】なし