(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】燃料電池セルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1226 20160101AFI20231110BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20231110BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20231110BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20231110BHJP
【FI】
H01M8/1226
H01M8/0206
H01M8/1213
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2022522416
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019145
(87)【国際公開番号】W WO2021229729
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹子 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 憲之
(72)【発明者】
【氏名】横山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】宇根本 篤
(72)【発明者】
【氏名】堤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 有俊
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 徹
(72)【発明者】
【氏名】三瀬 信行
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0310961(US,A1)
【文献】特開2018-163811(JP,A)
【文献】特開2018-139186(JP,A)
【文献】特開2004-273213(JP,A)
【文献】特開2002-329511(JP,A)
【文献】特表2005-509242(JP,A)
【文献】特開2018-181448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1226
H01M 8/0206
H01M 8/1213
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板の片面上あるいは両面上に形成された第1のサポート材料層と、
前記第1のサポート材料層において、前記第1の基板の主面に垂直な方向に延伸するように形成された複数の孔または柱と、
前記複数の孔または柱において、前記主面に平行でない面に
、上部電極層と、固体電解質層と、下部電極層と
が形成された積層体と、
を備え、
前記上部電極層が、前記複数の孔または柱に形成された前記上部電極層と連続するように、前記第1のサポート材料層上の前記主面と平行な面にも形成され、および、前記下部電極層が、前記複数の孔または柱に形成された前記下部電極層と連続するように、前記第1のサポート材料層上の前記主面と平行な面にも形成され、
前記複数の孔の上端部の間および前記複数の孔の下端部の間において、または、前記複数の柱の上端部と、下端部の間とにおいて、前記第1のサポート材料層によって前記積層体が支持されている
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記複数の孔または柱は、前記第1のサポート材料層に形成された複数の有底孔を含み、
前記第1のサポート材料層は、多孔質のサポート材料層であり、
前記積層体は、前記複数の有底孔の側壁および底部に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第1のサポート材料層は金属層を備え、
前記下部電極層は、前記金属層および前記第1の基板を介して、前記第1の基板の片側表面と電気的に接続されている
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記第1のサポート材料層において、前記複数の有底孔が形成されている面とは反対側の面が、第2のサポート材料層で支持されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記複数の孔または柱は、前記第1のサポート材料層に形成された複数の柱を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記第1のサポート材料層のうち、前記複数の有底孔が形成されている部分の厚さが一定であることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記複数の孔または柱は、前記第1のサポート材料層と前記第1の基板とを貫通する複数の第1の貫通孔を含み、
前記複数の第1の貫通孔の側壁は前記積層体を備え、
前記複数の第1の貫通孔の側壁の外周側に空孔が形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記燃料電池セルは、前記第1の基板を支持する第2の基板をさらに備え、
前記第2の基板には複数の第2の貫通孔が形成され、
前記第1の基板と前記第2の基板とは貼り合わされ、
前記第2の貫通孔のうち、一部は前記第1の貫通孔のいずれかと接続され、他の一部は前記空孔と接続されている、
ことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池セル。
【請求項9】
前記第1の基板は、厚い領域と、前記厚い領域より小さい厚さを有する薄い領域とを備え、
前記複数の第1の貫通孔は前記薄い領域に設けられる、
ことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池セル。
【請求項10】
前記複数の第1の貫通孔の側壁は、その外周側に、前記積層体を支持する多孔質のサポート材料層を備えることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池セル。
【請求項11】
前記複数の第1の貫通孔において、前記主面と平行な断面における開口面積が、当該第1の貫通孔の一方の端部から他方の端部に向かって減少することを特徴とする請求項7に記載の燃料電池セル。
【請求項12】
基板の表面に金属酸化物層を形成する工程と、
前記金属酸化物層
の表面方向から前記基板の方向に向かって前記金属酸化物層を貫通せずに延伸する凹凸であって、該凹凸の延伸方向の距離が該凹凸がない前記金属酸化物部分の厚みよりも大となる凹凸構造を
前記金属酸化物層に形成する工程と、
前記凹凸構造の表面に、下部電極層と、固体電解質層と、上部電極層とを、この順に形成する工程と、
前記基板のうち前記金属酸化物層と接触する部分の一部を除去する工程と、
前記金属酸化物層を還元アニールによって多孔質化する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池セルの製造方法。
【請求項13】
前記凹凸構造は、前記金属酸化物層の表面に形成される複数の有底孔または柱を含むことを特徴とする請求項12に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項14】
第1の基板の両面に第1のサポート材料層を形成する工程と、
前記第1の基板と前記第1のサポート材料層とを貫通する、複数の第1の貫通孔を形成する工程と、
前記複数の第1の貫通孔の内周面と、前記第1のサポート材料層の少なくとも片側の表面とにおいて、積層体を形成する工程であって、前記積層体は、下部電極層と、固体電解質層と、上部電極層とを備える、積層体を形成する工程と、
前記第1の基板のうち、前記複数の第1の貫通孔に形成された前記積層体に接触している部分を除去することにより、空孔を形成する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池セルの製造方法。
【請求項15】
第2の基板に複数の第2の貫通孔を形成する工程と、
前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせ、前記複数の第1の貫通孔の少なくとも一部と、前記複数の第2の貫通孔の少なくとも一部とを接続する工程と、
をさらに備え、
前記空孔を形成する前記工程は、前記第1の基板のうち、前記第2の貫通孔を介して露出する部分を除去する工程を含む、
ことを特徴とする請求項14に記載の燃料電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルおよびその製造方法に関し、たとえば固体電解質層を成膜プロセスによって形成するものに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、燃料電池セルにおいて、薄膜成膜プロセスによって燃料電池膜のアノード層、固体電解質層、カソード層を形成するセル技術について記載している。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の面積当りの出力電力を向上するためには、内部抵抗を低減する必要がある。内部抵抗として、固体電解質層のオーミック抵抗は固体電解質層を薄膜化することで低減できるが、カソード層、アノード層の分極抵抗は低減できない。このため、内部抵抗の低減による出力電力の向上には限界があり、他の方策によって出力電力を増大させる必要がある。
【0004】
非特許文献2は、基板上に薄膜成膜プロセスによって3次元構造をもつ燃料電池膜のアノード層、固体電解質層、カソード層を形成し、表面積を増加させることで基板への投影面積当りの出力電力を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献1は、連続固相マトリクスと、該マトリクスに包埋された管型燃料電池セルを含むスタックを開示している。
【0006】
特許文献2では、複数の貫通孔を有する多孔質基体が、その貫通孔内に、固体電解質層を空気極層と燃料極層で狭持して成る筒形燃料電池要素を備えて成る燃料電池ブロックであるという構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2005-518075号公報
【文献】特開2005-174846号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Journal of Power Sources 194(2009)pp.119-129
【文献】Nano Letter 13(2013)pp.4551-4555
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術では、基板への投影面積当りの出力電力を大きくし、かつ、基板の広い領域に燃料電池膜を形成することが困難であるという課題があった。
【0010】
非特許文献2に記載されているように、基板上に3次元構造を持つ燃料電池膜を薄膜成膜プロセスで作製すると、薄膜の機械的強度が弱くなる。このため、3次元構造をもつ燃料電池膜を広い領域に形成することは困難である。
【0011】
なお、特許文献1および2の方法では、孔に垂直な投影面を考えた場合に投影面積当りの燃料電池セルの表面積は大きくなる。また、多孔質の基体で燃料電池セルを支持しているので強度を確保することもできる。しかしながら、個々の孔内に形成される燃料電池は個別に形成するので、燃料電池セルの工程は孔の個数に工程数が比例する。したがって出力電力あたりのコストが比較的大きくなる。
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、基板への投影面積当りの出力電力を大きくし、かつ、基板の広い領域に燃料電池膜を形成することが可能な、燃料電池セルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る燃料電池セルの一例は、
第1の基板と、
前記第1の基板の片面上あるいは両面上に形成された第1のサポート材料層と、
前記第1のサポート材料層において、前記第1の基板の主面に垂直な方向に延伸するように形成された複数の孔または柱と、
前記複数の孔または柱において、前記主面に平行でない面に、成膜プロセスによって形成された積層体であって、上部電極層と、固体電解質層と、下部電極層とを備える積層体と、
を備え、
前記上部電極層が、前記複数の孔または柱に形成された前記上部電極層と連続するように、前記主面と平行な面にも形成されるか、または、前記下部電極層が、前記複数の孔または柱に形成された前記下部電極層と連続するように、前記主面と平行な面にも形成され、
前記複数の孔または柱の少なくとも上端部および下端部において、前記第1のサポート材料層によって前記積層体が支持されている
ことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料電池セルの製造方法の一例は、
基板の表面に金属酸化物層を形成する工程と、
前記金属酸化物層に凹凸構造を形成する工程と、
前記凹凸構造の表面に、下部電極層と、固体電解質層と、上部電極層とを、この順に形成する工程と、
前記基板のうち前記金属酸化物層と接触する部分の一部を除去する工程と、
前記金属酸化物層を還元アニールによって多孔質化する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る燃料電池セルの製造方法の一例は、
第1の基板の両面に第1のサポート材料層を形成する工程と、
前記第1の基板と前記第1のサポート材料層とを貫通する、複数の第1の貫通孔を形成する工程と、
前記複数の第1の貫通孔の内周面と、前記第1のサポート材料層の少なくとも片側の表面とにおいて、積層体を形成する工程であって、前記積層体は、下部電極層と、固体電解質層と、上部電極層とを備える、積層体を形成する工程と、
前記第1の基板のうち、前記複数の第1の貫通孔に形成された前記積層体に接触している部分を除去することにより、空孔を形成する工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る燃料電池セルによれば、基板への投影面積当りの出力電力を大きくし、かつ、基板の広い領域に燃料電池膜を形成することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来の燃料電池セルの構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る燃料電池モジュールの構成例を示す概略図である。
【
図3】遮蔽板を燃料電池セルの側から見た図である。
【
図4】遮蔽板を裏側(すなわち燃料電池セルとは反対側)から見た図である。
【
図5】実施形態1に係る燃料電池セル1の構成例を示す概略図である。
【
図6】実施形態1に係る燃料電池セル1の一部の拡大斜視図である。
【
図7】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図8】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図9】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図10】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図11】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図12】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図13】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図14】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図15】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図16】実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図17】実施形態1の第1の変形例の構成例を示す図である。
【
図18】実施形態1の第2の変形例の構成例を示す図である。
【
図19】実施形態1の第3の変形例の製造過程の一時点を示す図である。
【
図20】実施形態1の第3の変形例の構成例を示す図である。
【
図21】実施形態1の第4の変形例の構成例を示す図である。
【
図22】実施形態1の効果を説明するグラフである。
【
図23】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図24】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図25】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図26】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図27】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図28】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図29】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図30】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図31】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図32】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図33】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図34】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図35】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図36】実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。
【
図37】実施形態2の第1の変形例の構成例を示す図である。
【
図38】実施形態2の第2の変形例の構成例を示す図である。
【
図39】実施形態2の第3の変形例の構成例を示す図である。
【
図40】実施形態2の第4の変形例の構成例を示す図である。
【
図41】実施形態2に係る燃料電池モジュールの構成例を示す概略図である。
【
図42】遮蔽
板と燃料電池セル1との接続方法例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施形態は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0020】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0021】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0022】
以下の各実施形態においては、説明上の方向として、X方向、Y方向、およびZ方向を用いる。X方向とY方向とは互いに直交し、水平面を構成する方向である。Z方向は水平面に対して鉛直の方向であり、上下方向である。とくに、Z方向正の向きを上方向とし、Z方向負の向きを下方向とする。なお、これらの方向は、説明の便宜上定義されるものであって、燃料電池セルが実際に設置または使用される際の向きとは関係しない。
【0023】
実施形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見易くするためにハッチングを省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。
【0024】
断面図および平面図において、各部位の大きさは実デバイスと対応するものではなく、図面を分かりやすくするため、特定の部位を相対的に大きく表示する場合がある。また、断面図と平面図が対応する場合においても、図面を分かりやすくするため、特定の部位を相対的に大きく表示する場合がある。
【0025】
<従来の燃料電池セルの構成>
図1に、従来の燃料電池セルの構成例を示す。この燃料電池セルは、薄膜プロセス型のものである。
図1を用いて、基板への投影面積当りの出力電力向上および動作温度の低温化に係る従来技術について説明する。
【0026】
燃料電池セルは、薄膜化された固体電解質層を備える。燃料電池セルの発電効率を上げて低温動作を実現するためには、膜電極接合体を構成する固体電解質層を薄膜化する必要がある。それには成膜プロセスで固体電解質層を形成する薄膜プロセス型の燃料電池セルが最適である。アノード電極層、固体電解質層、カソード電極層を全て薄膜化すると、膜電極接合体の機械的強度が弱くなるが、
図1のように基板支持によって機械的強度を補うことができる。
【0027】
基板には例えばシリコン、セラミック、ガラス、金属などを用いることができる。
図1では、基板上に絶縁膜が形成され、絶縁膜の上に固体電解質層が形成され、固体電解質層の上に上部電極層が形成されている。さらに、基板に形成された開口部を介して、基板の下側から下部電極層が形成されている。上部電極層および下部電極層は、多孔質の材料で形成することができる。
【0028】
<実施形態1:燃料電池の構成>
図2は、本発明の実施形態1に係る燃料電池モジュールの構成例を示す概略図である。この燃料電池モジュールは、燃料電池セル(Fuel Cell)として薄膜プロセス型SOFC(Solid Oxide Fuel Cell)を備えるものである。モジュール内のガス流路は、燃料ガス(例えば水素を含むガス)の流路と、酸化剤ガス(例えば酸素を含むガスであり、具体例として空気)の流路とに分離されている。燃料ガスの流路は、燃料入口(Fuel intake)、燃料チャンバ(Fuel chamber)、燃料排気口(Fuel exhaust)を含む。酸化剤ガスの流路は、空気入口(Air intake)、空気チャンバ(Air chamber)、空気排気口(Air exhaust)を含む。燃料ガスと酸化剤ガスはモジュール内で混ざらないように
図2の遮蔽板(Partition)で遮蔽されている。燃料電池セル(Fuel Cell)のアノード電極とカソード電極からは、コネクタ(Connector)によって配線が引き出されており、配線は外部負荷(External load)に接続される。
【0029】
図3は、遮蔽板を燃料電池セルの側から見た図である。燃料電池セルは遮蔽板上に搭載されている。燃料電池セルは1つでもよいが、一般には複数個が並べられる。
【0030】
図4は、遮蔽板を裏側(すなわち燃料電池セルとは反対側)から見た図である。遮蔽板には各々の燃料電池セルごとに穴(Hole)が形成されていて、燃料電池セルに燃料チャンバから燃料ガスが供給されるようになっている。
【0031】
図5は、実施形態1に係る燃料電池セル1の構成例を示す概略図である。燃料電池セル1は、
図2~4に示す燃料電池セルに対応する。燃料電池セル1は、シリコン基板2(第1の基板)を備える。シリコン基板2の上側表面の一部に絶縁膜3が形成されている。絶縁膜3は例えば、シリコン酸化膜、またはシリコン窒化膜で形成することができる。シリコン基板2の中央部には、シリコン基板2が除去された開口部50が形成されている。
【0032】
シリコン基板2の上側面上に、多孔質のサポート材料層5(第1のサポート材料層)が形成されている。多孔質のサポート材料層5のXY方向周囲は絶縁膜3で囲われている。多孔質のサポート材料層5は例えば金属ニッケルで形成することができる。多孔質のサポート材料層5のXY方向外縁には、後述する製造工程により、酸化ニッケル層4(第1のサポート材料層)が形成されていてもよい。
【0033】
多孔質のサポート材料層5には上側表面に複数の孔60が形成されている。孔60は有底孔であり、上下方向(すなわちシリコン基板2の主面に垂直な方向)に延伸するように形成されている。多孔質のサポート材料層5上には下部電極層20が形成されている。下部電極層20は、孔60の底部と、孔60の側壁部と、多孔質のサポート材料層5の片側表面とを覆うように形成される。
【0034】
下部電極層20は、例えば白金で形成されてもよく、白金および金属酸化物からなるサーメット材料で形成されてもよい。
【0035】
下部電極層20の上側には、固体電解質層100が形成されている。固体電解質層100は、たとえばイットリアをドープしたジルコニア薄膜で形成される。イットリアのドープ量は例えば3%または8%とすることができる。固体電解質層100は開口部50を完全に覆うように形成されていて、下部電極層20と同様に、孔60の底部と、孔60の側壁部と、多孔質のサポート材料層5の片側表面とを覆うように形成されている。固体電解質層100の膜厚は、例えば1000nm以下とすることができる。YSZ(Yttria Stabilized Zirconia)を用いると、燃料電池セル1の内部リーク電流となる電子電流やホール電流が、高温でも極めて少ないので、固体電解質層100を100nm以下に薄膜化することも可能である。
【0036】
下部電極層20に配線を接続するために、
図5のように下部電極層20の一部の上側表面は固体電解質層100が存在せず、露出している。下部電極層20に配線を接続する際に、燃料電池セルの他の部分(多孔質のサポート材料層5など)に損傷を与えないようにするために、配線接続部は絶縁膜3の上に形成される。配線と接続した下部電極層20は、複数の孔60内の側壁と底部に形成した下部電極層20と電気的に接続されている。
【0037】
固体電解質層100の上側に上部電極層10が形成されている。上部電極層10は、例えば白金で形成されてもよく、白金および金属酸化物からなるサーメット材料で形成されてもよい。上部電極層10も、下部電極層20と同様に、孔60の底部と、孔60の側壁部と、多孔質のサポート材料層5の片側表面とを覆うように形成されている。
【0038】
上部電極層10に配線を接続するために、
図5の断面図の紙面右側部分のように、上部電極層10の下層に下部電極層20が存在しない領域を形成する。配線を接続する際の損傷で固体電解質層100が破損した場合に、上部電極層10と下部電極層20との間が電気的にショートするのを防ぐためである。また、燃料電池セルの他の部分(多孔質のサポート材料層5など)に損傷を与えないようにするために、配線接続部は絶縁膜3の上方に形成すると好適である。配線と接続した上部電極層10は、複数の孔60内の側壁と底部に形成した上部電極層10と電気的に接続されている。
【0039】
以上のように、薄膜プロセス型の燃料電池セル1は、下部電極層20、固体電解質層100、上部電極層10で構成された積層体として、膜電極接合体を備える。膜電極接合体は、複数の孔60において、シリコン基板2の主面に平行でない面(すなわち孔60の側壁部)に、成膜プロセスによって形成されている。また、膜電極接合体は、複数の孔60の底部にも形成されている。
【0040】
膜電極接合体は、複数の孔60が形成された多孔質のサポート材料層5の上側表面(すなわち、孔60の底部と、孔60の側壁部と、孔60の形成されていない部分と)を覆うように形成されている。すなわち、上部電極層10は、複数の孔60に形成された上部電極層10と連続する(または、つながる)ように、シリコン基板2の主面と平行な面にも形成されている。また、下部電極層20は、複数の孔60に形成された下部電極層20と連続する(または、つながる)ように、シリコン基板2の主面と平行な面にも形成されている。固体電解質層100についても同様である。
【0041】
なお、この例では上部電極層10および下部電極層20の双方がシリコン基板2の主面と平行な面に形成されているが、これらのうち一方のみがシリコン基板2の主面と平行な面に形成されてもよい。
【0042】
このように、孔60の側壁部に膜電極接合体が形成されるので、シリコン基板2への投影面積当りの出力電力が大きくなる。また、膜電極接合体は、さらにシリコン基板2の主面と平行な面にも形成されるので、シリコン基板2のうち広い領域に膜電極接合体が形成される。
【0043】
膜電極接合体は、多孔質のサポート材料層5によって、孔60の上端部および下端部を含む全体を支持されている。
【0044】
孔60の寸法は、例えば直径を500ナノメートルから10マイクロメートルとすることができる。孔60内に形成される膜電極接合体によって孔60が完全には埋め込まれないように、孔60の寸法および膜電極接合体の厚さを設計する必要がある。
【0045】
図6は、燃料電池セル1の一部の拡大斜視図である。燃料電池セル1の下部電極層20側に燃料ガスを供給し、上部電極層10側に酸化剤ガスを供給する。この場合、下部電極層20がアノード層、上部電極層10がカソード層となる。供給された燃料ガスは、多孔質のサポート材料層5の内部を拡散して下部電極層20に到達する。供給された酸化剤ガスは、孔60の内部の上部電極層10表面まで拡散によって供給される。固体電解質層100を介したイオン伝導により、酸化剤ガスと燃料ガスが反応することによって、燃料電池セル1は公知の燃料電池セルと同様に動作する。酸化剤ガスと燃料ガスとがガスの状態で互いに混合しないように、下部電極層20側と上部電極層10側の間はシールされる。
【0046】
燃料ガスと酸化剤ガスの供給については、
図6とは逆に、下部電極層20側に酸化剤ガスを供給し、上部電極層10側に燃料ガスを供給することもできる。下部電極層20がカソード層、上部電極層10がアノード層となる。この場合は、供給された酸化剤ガスは多孔質のサポート材料層5の内部を拡散して下部電極層20に到達し、供給された燃料ガスは孔60の内部の上部電極層10表面まで拡散によって供給される。この場合でも燃料電池セル1は同様に動作する。
【0047】
<実施形態1:燃料電池セルの製造方法>
図7~
図16は、実施形態1に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。まずシリコン基板2上に絶縁膜3を形成する(
図7)。次に、絶縁膜3のXY方向外縁部を残して、絶縁膜3を除去する(
図8)。これによって露出したシリコン基板2の表面と、絶縁膜3の側壁と、絶縁膜3の上側表面に、平坦な酸化ニッケル層4(金属酸化物層)を成膜する(
図9)。このようにして、シリコン基板2の表面に酸化ニッケル層4が形成される。次に酸化ニッケル層4の一部を除去し、絶縁膜3の上側表面を露出させる(
図10)。
【0048】
次に、酸化ニッケル層4の上側表面に、凹凸構造として、シリコン基板2の表面に垂直な方向に延伸する複数の孔60を形成する(
図11)。このとき孔60の底部は酸化ニッケル層4を貫通しないように形成する。孔60の断面形状は例えば円とすることができるが、長円とすることもできるし、正方形、長方形、五角形、六角形などの多角形とすることもできる。また、孔60の断面形状は、上下方向に一定であってもよいし、上下方向に沿って変化してもよい。
【0049】
凹凸構造(この例では孔60)を形成する方法は当業者が適宜決定可能であるが、たとえばリソグラフィおよびドライエッチングによって形成することができる。また、凹凸構造は、X方向および/またはY方向に周期的に形成されると好適であるが、これに限定されない。また、凹凸構造は、すべて同一形状に形成されると好適であるが、これに限定されない。
【0050】
次に、酸化ニッケル層4と絶縁膜3の上側に下部電極層20を成膜する(
図12)。このとき、複数の孔60の底部および側壁部と、酸化ニッケル層4の上側表面のうち孔60が形成されていない領域とを覆うように、下部電極層20を成膜する。絶縁膜3の上側にも下部電極層20を成膜するが、絶縁膜3の上側の一部には、下部電極層20が形成されない領域を残す。後の工程で上部電極層10と配線とを接続するための領域を作製するためである。
【0051】
下部電極層20の成膜には、例えばChemical Vapor Deposition(CVD)法またはAtomic Layer Deposition(ALD)法を用いることができる。下部電極層20が形成されない領域を提供するための方法として、たとえば、下部電極層20を成膜した後にリソグラフィおよびドライエッチングを用いて下部電極層20の一部を除去することができる。または、下部電極層20を成膜する際にメタルマスクまたはレジストマスクを用いて一部の領域をカバーすることにより、その領域に下部電極層20が形成されないようにすることができる。
【0052】
次に、固体電解質層100を成膜する(
図13)。このとき、下部電極層20の成膜と同様に、複数の孔60の底部および側壁部と、酸化ニッケル層4の上側表面のうち孔60の形成されていない領域とを覆うように、下部電極層20の上側に固体電解質層100を成膜する。絶縁膜3の上方にも固体電解質層100を成膜するが、絶縁膜3に下部電極層20が形成されている領域の一部には、固体電解質層100が形成されない領域を残す。後の工程で下部電極層20と配線とを接続する領域を作製するためである。
【0053】
固体電解質層100は例えばイットリアをドープしたジルコニア薄膜で形成することができる。イットリアのドープ量は例えば3%または8%とすることができる。固体電解質層100の成膜には、例えばChemical Vapor Deposition(CVD)法またはAtomic Layer Deposition(ALD)法を用いることができる。固体電解質層100が形成されない領域を提供するための方法として、固体電解質層100を成膜した後にリソグラフィとドライエッチングを用いて固体電解質層100の一部を除去することができる。または、固体電解質層100を成膜する際にメタルマスクまたはレジストマスクを用いて一部の領域をカバーすることにより、その領域に固体電解質層100が形成されないようにすることができる。
【0054】
次に、上部電極層10を成膜する(
図14)。このとき、下部電極層20の成膜および固体電解質層100の成膜と同様に、複数の孔60の底部および側壁部と、酸化ニッケル層4の上側表面のうち孔60の形成されていない領域とを覆うように、固体電解質層100の上側に上部電極層10を成膜する。絶縁膜3の上方にも上部電極層10を成膜するが、絶縁膜3に下部電極層20が形成されている領域の一部には、上部電極層10が形成されない領域を残す。上部電極層10と下部電極層20とが電気的に直接接続されてショート不良が生じるのを防止するためであり、また、後の工程で下部電極層20と配線を接続する領域を作製するためである。
【0055】
上部電極層10は例えば、多孔質の白金で形成してもよいし、白金および金属酸化物からなるサーメット材料で形成してもよい。上部電極層10の成膜には、例えばChemical Vapor Deposition(CVD)法またはAtomic Layer Deposition(ALD)法を用いることができる。上部電極層10が形成されない領域を提供するための方法として、上部電極層10を成膜した後にリソグラフィとドライエッチングを用いて上部電極層10の一部を除去することができる。または、上部電極層10を成膜する際にメタルマスクやレジストマスクを用いて一部の領域をカバーすることにより、その領域に上部電極層10が形成されないようにすることができる。
【0056】
このように、孔60の表面を含む領域に、下部電極層20と、固体電解質層100と、上部電極層10とが、この順に形成される。
【0057】
次に、シリコン基板2のうち酸化ニッケル層4と接触する部分の一部を下側から除去し、開口部50を形成する(
図15)。開口部50を形成した後に、酸化ニッケル層4を還元アニールによって多孔質化する。たとえばシリコン基板2の下側面を水素雰囲気に曝し、500℃程度で熱処理を行う。そうすることで、酸化ニッケル層4のうち開口部50部で露出した部分が還元されて、多孔質のサポート材料層5(たとえば多孔質の金属ニッケル層)に変化する(
図16)。この際に、酸化ニッケル層4のうちシリコン基板2でカバーされた領域の一部は、還元されずに酸化ニッケル層4のまま残る場合もある。この結果、
図5の構造を作製することができる。
【0058】
このように、多孔質のサポート材料層5を形成することにより、この層を介したガスの拡散が可能となる。
【0059】
<実施形態1:第1の変形例>
図17に、実施形態1の第1の変形例の構成例を示す。実施形態1では、下部電極層20に接続される配線を、シリコン基板2の上側表面に形成したが、第1の変形例ではこの配線をシリコン基板2の上側表面には設けない。
【0060】
第1の変形例では、シリコン基板2として不純物がドーピングされた導電性のシリコン基板を用いる。あるいは、シリコン基板2の代わりに、第1の基板として導電性の金属基板を用いる。これによって、下部電極層20は、多孔質のサポート材料層5および基板2を介して、基板2の片側表面(
図17の断面図では下側表面)と電気的に接続される。なお本変形例では、多孔質のサポート材料層5は金属層に限定され、たとえば金属ニッケル層である。
【0061】
下部電極層20と配線とは、基板の下側表面で接続できるので、基板の上側表面側に下部電極層20と配線の接続部分を形成する必要はなくなる。その結果、基板の上側表面におけるXY方向の外縁部は、全て上部電極層10と配線との接続部とすることができる。
【0062】
下部電極層20の外縁70は酸化ニッケル層4上に留まり、絶縁膜3の上側表面上には、下部電極層20が形成されない。このため、固体電解質層100および上部電極層10のみが形成された領域を、燃料電池セル1の外縁部全体に形成して、上部電極層10と配線の接続部とすることができる。
【0063】
<実施形態1:第2の変形例>
図18に、実施形態1の第2の変形例の構成例を示す。多孔質のサポート材料層5において、複数の孔60が形成されている面とは反対側の面(
図18の断面図では下側表面)が、網目状のサポート材料層6a(第2のサポート材料層)によって支持される。サポート材料層6aは、例えばシリコン窒化膜、緻密な金属ニッケル、シリコン酸化膜、などで形成することができる。
【0064】
サポート材料層6aで多孔質のサポート材料層5を支持することにより、開口部50の面積を大きくしても、下部電極層20、固体電解質層100、上部電極層10および多孔質のサポート材料層5の構造において充分な機械的強度を確保することができる。
【0065】
<実施形態1:第3の変形例>
図19および
図20を用いて、実施形態1の第3の変形例を説明する。
図19は製造過程の一時点を示し、
図20は完成後の構成を示す。
【0066】
実施形態1および上記の各変形例では、多孔質のサポート材料層5に凹凸構造として複数の孔60が形成されているが、第3の変形例では、
図19および
図20に示すように、多孔質のサポート材料層5に凹凸構造として複数の柱40が形成される。柱40は突起であり、たとえば柱状のパタンを形成してもよい。
【0067】
とくに、実施形態1では
図11に示すように、酸化ニッケル層4の表面に複数の孔60が形成されたが、第3の変形例では
図19に示すように、酸化ニッケル層4の表面に凹凸構造として複数の柱40が形成される。
【0068】
柱40は、上下方向(すなわちシリコン基板2の主面に垂直な方向)に延伸するように形成されている。酸化ニッケル層4において、複数の柱40の上側表面および側面と、酸化ニッケル層4のうち柱40が形成されていない部分(底部)とに、実施形態1と同様にして膜電極接合体を形成する。この膜電極接合体は、複数の柱40において、シリコン基板2の主面に平行でない面に、成膜プロセスによって形成されている。また、膜電極接合体は、複数の柱40の頂部(頂面)にも形成されている。
【0069】
さらに開口部50(図示しない)を形成した後に、酸化ニッケル層4を下側から還元アニールによって多孔質化することにより、多孔質のサポート材料層5を形成する(
図20)。柱40の、XY平面による断面形状は、例えば円とすることができるが、楕円、正方形、長方形、五角形、六角形などとすることもできる。また、柱40の断面形状は、上下方向に一定であってもよいし、上下方向に沿って変化してもよい。
【0070】
シリコン基板2上に形成された柱40の外周部に形成された膜電極接合体は、実施形態1において孔60の側壁部に形成された膜電極接合体と同様の構造を有する。
【0071】
膜電極接合体は、複数の柱40が形成された多孔質のサポート材料層5の上側表面(すなわち、柱40の頂部と、柱40の外周部と、柱40の形成されていない部分と)を覆うように形成されている。すなわち、上部電極層10は、複数の柱40に形成された上部電極層10と連続する(または、つながる)ように、シリコン基板2の主面と平行な面にも形成されている。また、下部電極層20は、複数の柱40に形成された下部電極層20と連続する(または、つながる)ように、シリコン基板2の主面と平行な面にも形成されている。
【0072】
なお、この例では上部電極層10および下部電極層20の双方がシリコン基板2の主面と平行な面に形成されているが、これらのうち一方のみがシリコン基板2の主面と平行な面に形成されてもよい。
【0073】
複数の柱40の上端部および下端部を含む全体において、膜電極接合体は多孔質のサポート材料層5によって支持される。
【0074】
柱40の寸法は、例えば直径を100ナノメートルから10マイクロメートルとすることができる。柱40の外周に形成される膜電極接合体で隣接する柱40の間が完全には埋め込まれないように、柱40の寸法および膜電極接合体の厚さを設計する必要がある。
【0075】
図20に示すように、下部電極層20側に燃料ガスを供給し、上部電極層10側に酸化剤ガスを供給する。下部電極層20がアノード層、上部電極層10がカソード層となる。供給された燃料ガスは、多孔質のサポート材料層5の内部を拡散して下部電極層20に到達する。供給された酸化剤ガスは、上部電極層10表面まで拡散によって供給される。このようにして、燃料電池セル1は
図6の場合と同様に動作する。
【0076】
燃料ガスと酸化剤ガスの供給については、
図20とは逆に、下部電極層20側に酸化剤ガスを供給し、上部電極層10側に燃料ガスを供給することもできる。下部電極層20がカソード層、上部電極層10がアノード層となる。この場合は、供給された酸化剤ガスは多孔質のサポート材料層5の内部を拡散して下部電極層20に到達し、供給された燃料ガスは孔60の内部の上部電極層10表面まで拡散によって供給される。この場合でも燃料電池セル1は同様に動作する。
【0077】
なお、実施形態1に係る孔60と、第3の変形例に係る柱40とは、いずれも容易に製造できる凹凸構造の例である。また、燃料電池セル1の構成によって、いずれかがより容易に製造できる場合がある。たとえば、酸化ニッケル層4またはこれに対応する層の特性として、孔を精密に形成しやすい場合には、実施形態1の構成をより効率的に製造することができる。一方、柱を精密に形成しやすい場合には、第3の変形例の構成をより効率的に製造することができる。
【0078】
または、膜電極接合体を形成する際に、孔60の側壁および底部に形成しやすい場合には、実施形態1の構成をより効率的に製造することができる。一方、柱40の側壁および頂部に形成しやすい場合には、第3の変形例の構成をより効率的に製造することができる。
【0079】
<実施形態1:第4の変形例>
図21に、実施形態1の第4の変形例の構成例を示す。実施形態1および第1~第3の変形例では、多孔質のサポート材料層5の下面は平坦な形状であるが、第4の変形例では複数の孔60の側壁に沿って凹凸が形成されている。
【0080】
多孔質のサポート材料層5のうち、複数の孔60が形成されている部分の厚さが一定となっている。膜電極接合体の構成は実施形態1と同様である。
【0081】
図21のように下部電極層20側に燃料ガスを供給し、上部電極層10側に酸化剤ガスを供給する。下部電極層20がアノード層、上部電極層10がカソード層となる。供給された燃料ガスは、多孔質のサポート材料層5の内部を拡散して下部電極層20に到達する。実施形態1(
図5)、第1の変形例(
図17)、第2の変形例(
図18)、および第3の変形例(
図20)と比較すると、構造は複雑になるが、多孔質のサポート材料層5の厚さが一定であるため、拡散距離も一定となり、燃料ガスの供給には有利である。供給された酸化剤ガスは上部電極層10表面まで拡散によって供給される。このようにして、燃料電池セル1は
図6の場合と同様に動作する。
【0082】
燃料ガスと酸化剤ガスの供給については、
図21とは逆に、下部電極層20側に酸化剤ガスを供給し、上部電極層10側に燃料ガスを供給することもできる。下部電極層20がカソード層、上部電極層10がアノード層となる。この場合は、供給された酸化剤ガスは多孔質のサポート材料層5の内部を拡散して下部電極層20に到達し、供給された燃料ガスは孔60の内部の上部電極層10表面まで拡散によって供給される。多孔質のサポート材料層5が薄いため、拡散距離が短いので酸化剤ガスの供給には有利である。この場合でも燃料電池セル1は同様に動作する。
【0083】
<実施形態1:効果>
図22は、実施形態1の効果を説明するグラフである。従来技術に係る燃料電池セルと、実施形態1に係る燃料電池セル1とにおける、孔または柱のアスペクト比と、基板への投影面積当りのセル面積との関係を示す。孔のアスペクト比とは、孔の深さを径で除算した値であり、柱のアスペクト比とは、柱の高さを径で除算した値である。
【0084】
実施形態1によれば、孔または柱のアスペクト比が大きくなるにつれて、基板への投影面積当りのセル面積を大きくできる。すなわち、実施形態1によれば、少ない基板面積で発電に寄与するセル面積を大きくできるので、基板面積当りの出力電力を大きくできる。
【0085】
なお、実施形態1では、多数の孔60を並行して形成することができ、孔60をそれぞれ個別に形成する必要がない。このため、たとえば特許文献1および2の方法と比較して低コストで燃料電池セル1を製造することができ、出力電力あたりのコストを低減できる。
【0086】
<実施形態2>
実施形態1では、
図5、17、18、20、21に示したように有底の孔60または柱40が形成され、奥行き方向の先端部(孔60の底部または柱40の頂部)にも膜電極接合体が形成されていた。実施形態2は、有底の孔でなく貫通孔を設けるものである。
【0087】
図23は、実施形態2における燃料電池セルの構成例を示す。シリコン基板2の、片面上(上側表面または下側表面)あるいは両面上(すなわち上側表面および下側表面)に、サポート材料層6(第1のサポート材料層)が形成される。また、サポート材料層6およびシリコン基板2を貫通する複数の貫通孔61(第1の貫通孔)が形成されている。貫通孔61は、上下方向(すなわちシリコン基板2の主面に垂直な方向)に延伸するように形成されている。
【0088】
貫通孔61の寸法は、例えば直径(サポート材料層6に設けられる貫通孔の直径)を10マイクロメートルとすることができる。複数の貫通孔61の側壁は膜電極接合体を備えて構成される。この膜電極接合体は、複数の貫通孔61において、シリコン基板2の主面に平行でない面に、成膜プロセスによって形成されている。シリコン基板2の上側表面に形成されたサポート材料層6の上側表面にも膜電極接合体が形成されている。複数の貫通孔61の側壁の外周側には、空孔52が形成される。
【0089】
図示されていないが、実施形態1の
図5の断面図の紙面右側部分のように、上部電極層10の下層に下部電極層20が存在しない領域を形成してもよい。このようにすると、上部電極層10と配線を接続する際の損傷で固体電解質層100が破損した場合に、上部電極層10と下部電極層20の間で電気的なショートが生じるのを防ぐことができる。
【0090】
上部電極層10は、複数の貫通孔61に形成された上部電極層10と連続する(または、つながる)ように、シリコン基板2の主面と平行な面にも形成されている。また、下部電極層20は、複数の貫通孔61に形成された下部電極層20と連続する(または、つながる)ように、シリコン基板2の主面と平行な面にも形成されている。固体電解質層100についても同様である。
【0091】
すなわち、シリコン基板2の上側表面で配線と接続された上部電極層10は、複数の貫通孔61の側壁に形成された上部電極層10と連続し、電気的に接続されている。シリコン基板2の下側表面に形成されたサポート材料層6の下側表面には、下部電極層20が形成されていて、この下部電極層20は、複数の貫通孔61の側壁に形成された下部電極層20と連続している。シリコン基板2の下側表面側で配線と接続された下部電極層20は、複数の貫通孔61の側壁に形成された下部電極層20と連続し、電気的に接続されている。
【0092】
なお、この例では上部電極層10および下部電極層20の双方がシリコン基板2の主面と平行な面に形成されているが、これらのうち一方のみがシリコン基板2の主面と平行な面に形成されてもよい。
【0093】
膜電極接合体は、複数の貫通孔61の上端部および下端部において、サポート材料層6によって支持されている。
【0094】
このような構成において、貫通孔61の外周側に燃料ガスが供給され、貫通孔61の内周側に酸化剤ガスが供給される。これによって、貫通孔61の側壁部で発電が行われ、シリコン基板2への投影面積当りの出力電力が大きくなる。
【0095】
<実施形態2:製造方法>
図24~
図36は、実施形態2に係る燃料電池セル1を製造する方法の一例を説明する図である。まずシリコン基板2上の上側表面および下側表面に、サポート材料層6を形成する(
図24)。サポート材料層6は、たとえばシリコン窒化膜層である。次にシリコン基板2の上側表面のサポート材料層6に溝部8を形成する(
図25)。次に電極材料層7を溝部8が完全に埋め込まれるように形成する(
図26)。電極材料層7には、例えば、タングステン、不純物をドーピングしたシリコン、などを用いることができる。
【0096】
次に、溝部8以外のサポート材料層6上の電極材料層7を除去し、これによって溝部8内のみに電極材料層7が残るようにする(
図27)。電極材料層の除去には、例えば、エッチバックまたは化学的機械研磨法(CMP法)を用いることができる。
【0097】
次に、電極材料層7が残っている領域に、シリコン基板2の表面に垂直な複数の貫通孔61を形成する(
図28)。孔の断面形状は例えば円とすることができるが、楕円とすることもできるし、正方形、長方形、五角形、六角形などの多角形とすることもできる。
【0098】
次に、下部電極層20を成膜する(
図29)。下部電極層20は、シリコン基板2の上側表面のサポート材料層6の上側表面と、電極材料層7の表面と、シリコン基板2の下側表面のサポート材料層6の下側表面と、複数の貫通孔61の側壁とに成膜される。下部電極層20は、例えば、白金で形成してもよいし、白金と金属酸化物からなるサーメット材料で形成してもよい。下部電極層20の成膜には、例えば、Chemical Vapor Deposition(CVD)法またはAtomic Layer Deposition(ALD)法を用いることができる。
【0099】
複数の貫通孔61の側壁に成膜される下部電極層20は、それぞれ、電極材料層7の表面に成膜される下部電極層20を介して互いに連続している。
【0100】
下部電極層20は電極材料層7と電気的に接続される。サポート材料層6の上側表面にも下部電極層20を成膜するが、サポート材料層6の上側表面の一部には、下部電極層20が形成されない領域を残す(
図30)。後の工程で支持基板と貼り合わせるためである。下部電極層20の一部除去には、例えば化学的機械研磨法(CMP法)を用いることができる。
【0101】
次に、支持基板102(第2の基板)を準備する(
図31)。支持基板102には例えばシリコンを用いることができる。このように、実施形態2に係る燃料電池セル1は支持基板102を備える。
【0102】
ここで、
図31~42では、シリコン基板2の上下が反転しているので、Z軸正の向きを紙面下方向とする。以下の説明でも、Z軸正の向きを上方向とし、Z軸負の向きを下方向とする。このため、
図31~
図42における紙面の上下方向と、本明細書における上下方向とは逆の向きとなる。
【0103】
支持基板102には貫通孔161(第2の貫通孔)が形成される。支持基板102の貫通孔161の寸法は、シリコン基板2の貫通孔61の寸法と整合している。シリコン基板2および支持基板102は、貫通孔61と貫通孔161との位置が整合し、これらが接続されるように貼り合わされる。
【0104】
支持基板102に、貫通孔162(第2の貫通孔)および貫通孔163(第2の貫通孔)を形成する。貫通孔162は、シリコン基板2の電極材料層7が形成されていない部分に対応する位置に形成され、貫通孔163は、シリコン基板2の電極材料層7が形成されている部分に対応する位置に形成される。
【0105】
支持基板102の上側表面および下側表面と、貫通孔161、162、163の側壁とには、シリコン窒化膜103を形成する。シリコン窒化膜103は絶縁膜であり、エッチングに対する保護膜として形成される。貫通孔162は複数個形成され、貫通孔163は1つ以上形成される。このように支持基板102を加工した後に、
図30のシリコン基板2を上下反転させて、
図31に示すように支持基板102と貼り合わせる。これによって、複数の貫通孔61(またはそれらの少なくとも一部)と、複数の貫通孔161(またはそれらの少なくとも一部)とが接続される。
【0106】
次に、固体電解質層100および上部電極層10を成膜する(
図32)。このとき、固体電解質層100および上部電極層10は、複数の貫通孔61の側壁部と、貫通孔161の側壁部と、シリコン基板2の下側表面側のサポート材料層6の下側表面とを覆うように形成される。なお、この例では上部電極層10および下部電極層20の双方がシリコン基板2の主面と平行な面に形成されているが、これらのうち一方のみがシリコン基板2の主面と平行な面に形成されてもよい。
【0107】
固体電解質層100は、例えばイットリアをドープしたジルコニア薄膜で形成することができる。イットリアのドープ量は例えば3%または8%とすることができる。固体電解質層100の成膜には、例えばChemical Vapor Deposition(CVD)法またはAtomic Layer Deposition(ALD)法を用いることができる。支持基板102の露出面側(すなわち上側表面側)には固体電解質層100が形成されないようにする。固体電解質層100の膜厚は、例えば100ナノメートルから1マイクロメートルとすることができる。
【0108】
上部電極層10は例えば多孔質の白金で形成してもよいし、白金と金属酸化物からなるサーメット材料で形成してもよい。上部電極層10の成膜には、例えばChemical Vapor Deposition(CVD)法またはAtomic Layer Deposition(ALD)法を用いることができる。支持基板102の露出面側(すなわち上側表面側)には、上部電極層10が形成されないようにする。
【0109】
このようにして、複数の貫通孔61の内周面と、サポート材料層6の少なくとも片側の表面(本実施形態では下側表面)とにおいて、膜電極接合体が形成される。なお上述のように、この膜電極接合体は、下部電極層20と、固体電解質層100と、上部電極層10とを備える積層体である。
【0110】
次に、支持基板102の貫通孔163に電極材料層107を形成する(
図33)。電極材料層107は下部電極層20と電気的に接続される。電極材料層107は、下部電極層20を配線と接続するのに用いる。
【0111】
次に、シリコン基板2上のサポート材料層6のうち、支持基板102の貫通孔162内の部分を除去し、シリコン基板2の表面を露出させる(
図34)。
【0112】
次に、シリコン基板2のうち、貫通孔162を介して露出する部分が除去される。たとえば、複数の貫通孔61に形成された膜電極接合体に接触している部分が除去される。除去は、例えば水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて一部エッチングすることにより行われる。これによってシリコン基板2の内部に空孔52が形成される(
図35)。
【0113】
これによって、シリコン基板2の内部に燃料ガスの流路が形成され、シリコン基板2への投影面積当りの出力電力が大きくなる。また、とくに貫通孔162を介して露出する部分を除去することにより、貫通孔162を燃料ガスの流路として利用することができ、製造工程が簡素になる。
【0114】
貫通孔162は、空孔52が外部と連通する空孔開口部51となる。このように、複数の貫通孔(本例では貫通孔161および162)が設けられているが、これらのうち、一部(本例では貫通孔161)は貫通孔61のいずれかと接続され、他の一部(本例では貫通孔162)は空孔52と接続されて空孔開口部51となる。このような構成によって、燃料ガスおよび酸化剤ガス双方の流路を形成することができる。
【0115】
膜電極接合体は、複数の貫通孔61の側壁に形成され、貫通孔61の上端部(すなわち貫通孔161と接続している端)および下端においてサポート材料層6によって支持されている。
【0116】
下部電極層20、固体電解質層100、上部電極層10は、それぞれ、シリコン基板2の下側表面を介して、複数の貫通孔61の間で連続している。
【0117】
図36に、
図35の状態を異なる方向の断面で示す。Z-X平面と垂直なZ-Y平面による断面図が
図36であり、とくに、空孔開口部51が存在する位置における断面図である。
【0118】
下部電極層20側に燃料ガスを供給し、上部電極層10側に酸化剤ガスを供給する。下部電極層20がアノード層、上部電極層10がカソード層となる。供給された燃料ガスは、ある空孔開口部51から空孔52を経て別の空孔開口部51へと流れる。空孔52の内部の、貫通孔61の側壁部において、燃料ガスは下部電極層20に供給される。
【0119】
供給された酸化剤ガスは、複数の貫通孔61および貫通孔161を介して流れ、その途中で、貫通孔61の側壁部の上部電極層10の表面に供給される。固体電解質層100を介したイオン伝導により、酸化剤ガスと燃料ガスが反応することによって、燃料電池セル1は公知の燃料電池セルと同様に動作する。
【0120】
燃料ガスと酸化剤ガスの供給については、
図36とは逆に、下部電極層20側に酸化剤ガスを供給し、上部電極層10側に燃料ガスを供給することもできる。下部電極層20がカソード層、上部電極層10がアノード層となる。この場合は、供給した酸化剤ガスはある空孔開口部51から空孔52を経て別の空孔開口部51へと流れる。酸化剤ガスは、空孔52の内部の、貫通孔61の側壁部で下部電極層20に供給される。
【0121】
供給された燃料ガスは、複数の貫通孔61および貫通孔161を介して流れ、その途中で貫通孔61の側壁部の上部電極層10の表面に供給される。この場合でも燃料電池セル1は同様に動作する。
【0122】
<実施形態2:第1の変形例>
図37に、実施形態2の第1の変形例の構成例を示す。実施形態2では、下部電極層20は、固体電解質層100および上部電極層10と同様に、シリコン基板2の下側表面側にも形成した。第1の変形例では、シリコン基板2の下側表面側の下部電極層20を形成しない。下部電極層20が形成されていない領域では、シリコン基板2の下側表面において上部電極層10と配線とを接続する際に、固体電解質層100の破損しても、上部電極層10と下部電極層20とがショートするのを防止することができる。
【0123】
<実施形態2:第2の変形例>
図38に、実施形態2の第2の変形例の構成例を示す。実施形態2および第1の変形例では、シリコン基板2の厚さは複数の貫通孔61が形成されている領域とそれ以外とで同じであった。第2の変形例では、複数の貫通孔61が形成されている領域においてシリコン基板2の下側表面が一部除去され、薄くなっている。すなわち、シリコン基板2の主面が平坦ではなく、一部に凹部を有する形状となっている。このように、シリコン基板2は、厚い領域と、この厚い領域より小さい厚さを有する薄い領域とを備えており、複数の貫通孔61は、薄い領域に設けられる。
【0124】
このような構成では、複数の貫通孔61の長さを短くすることができるので、製造を簡易に行うことができる。また、シリコン基板2の下側表面で上部電極層10と配線を接続する際に、薄い領域(すなわち、複数の貫通孔61の側壁に膜電極接合体が形成されている機械的に弱い部分)を避けて、シリコン基板2の厚い領域で配線を接続することができる。
【0125】
<実施形態2:第3の変形例>
図39に、実施形態2の第3の変形例の構成例を示す。実施形態2、第1の変形例および第2の変形例では、膜電極接合体は、シリコン基板2において複数の貫通孔61の両端部でだけサポート材料層6で支持されている。第3の変形例では、貫通孔61の両端部に加え、貫通孔61の側壁部でも膜電極接合体を支持する。
【0126】
図39に示すように、膜電極接合体は、下部電極層20の外周側から、多孔質のサポート材料層5(第1のサポート材料層)によって支持されている。すなわち、複数の貫通孔61の側壁は、その外周側に、膜電極接合体を支持する多孔質のサポート材料層5を備える。
【0127】
貫通孔61の両端をサポート材料層6で支持するのみならず、貫通孔61の側壁部にも多孔質のサポート材料層5を形成することにより、膜電極接合体周辺の機械的強度を増すことができる。また、多孔質のサポート材料層5を用いることで、空孔52側から燃料ガスまたは酸化剤ガスを拡散により下部電極層20に供給できる。
【0128】
<実施形態2:第4の変形例>
図40に、実施形態2の第4の変形例の構成例を示す。実施形態2および第1~第3の変形例では、貫通孔61は延伸方向すなわちZ方向に沿って同じ断面積で形成されていた。第4の変形例では、貫通孔61の断面積が変化する。
【0129】
図40では、貫通孔61は、シリコン基板2の下側表面側で径Wtが大きく、上側表面側で径Wbが小さくなるよう形成されている。このため、複数の貫通孔61において、シリコン基板2の主面と平行な断面における開口面積は、当該貫通孔61の一方の端部から他方の端部に向かって減少する。
【0130】
貫通孔61に酸化剤ガスまたは燃料ガスが流れると、流路に沿って上部電極層10で消費されるため、入口側(下側表面側)では濃度が高く、出口側(上側表面側)では濃度が低くなる。濃度が高いと膜電極接合体の発電出力がより大きくなる。また、入口側では断面積が大きいため流速が小さく、出口側では断面積が小さいため流速が大きくなる。流速が大きいと膜電極接合体の発電出力がより大きくなる。
【0131】
このように、入口側では高濃度のガスが低速で流れ、出口側では低濃度のガスが高速で流れるので、膜電極接合体の発電出力の変化が少なくとも一部相殺され、入口側と出口側での出力の不均一を抑制することができる。
【0132】
図40では、シリコン基板2の下側表面側で貫通孔61の断面積が大きく、上側表面側で貫通孔61の断面積が小さくなっているが、逆に、シリコン基板2の下側表面側で貫通孔61の断面積が小さく、上側表面側で貫通孔61の断面積が大きくなるようにすることもできる。その場合は、酸化剤ガスまたは燃料ガスは、断面積が大きい上側表面側から流すと良い。
【0133】
<実施形態2:燃料電池モジュールの構成>
図41は、実施形態2に係る燃料電池モジュールの構成例を示す概略図である。この例では、燃料電池モジュールとして薄膜プロセス型SOFC(Solid OxideFuel Cell)を用いている。
【0134】
図42は、遮蔽
板(Partition)と燃料電池セル1との接続方法例を示す概略図である。燃料電池モジュール内のガス流路は、燃料ガスの流路と酸化剤ガスの流路とに分離されている。
【0135】
図41および
図42に示すように、燃料ガスの流路は、燃料入口(Fuel intake)、遮蔽
板内に形成される流路251、燃料排気口(Fuel exhaust)を含む。酸化剤ガスの流路は、空気入口(Air intake)、複数の貫通孔61、複数の貫通孔161、空気排気口(Air exhaust)を含む。燃料ガスと酸化剤ガスは、モジュール内で混ざらないように遮蔽されている。燃料電池セル1のアノード電極とカソード電極からはコネクタ(Connector)によって配線が引き出されている。コネクタは外部負荷(External load)に接続される。
【0136】
<実施形態1と実施形態2との比較>
なお、実施形態1の孔60は貫通孔ではないので、孔60の底部までガスを到達させるためにガスの拡散が必要になる。このため、孔60の寸法(たとえば深さ)が比較的小さい場合に好適である。一方、実施形態2では貫通孔61を備えているが、ガスが貫通孔61を通過する必要があるので、ガスの流体抵抗を考慮すると貫通孔61の寸法(たとえば径)が比較的大きい場合に好適である。
【0137】
<他の変形例>
本発明は、前述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、他の様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態および変形例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0138】
たとえば、燃料電池モジュールは、
図5に示す複数の孔60が形成される領域と、
図20に示す複数の柱40が形成される領域と、
図23に示す複数の貫通孔61が形成される領域とのうち複数またはすべてを備えてもよい。
【符号の説明】
【0139】
1…燃料電池セル
2…シリコン基板(第1の基板)
3…絶縁膜
4…酸化ニッケル層(第1のサポート材料層、金属酸化物層)
5…多孔質のサポート材料層(第1のサポート材料層、金属層)
6…サポート材料層(第1のサポート材料層)
6a…網目状のサポート材料層(第2のサポート材料層)
7,107…電極材料層
8…溝部
10…上部電極層(積層体)
20…下部電極層(積層体)
40…柱(凹凸構造)
50…開口部
51…空孔開口部
52…空孔
60…孔(凹凸構造)
61…貫通孔(第1の貫通孔、凹凸構造)
70…下部電極層の外縁
100…固体電解質層(積層体)
102…支持基板(第2の基板)
103…シリコン窒化膜
161,162,163…貫通孔(第2の貫通孔)
251…流路