(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】低誘電樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20231113BHJP
C08K 5/37 20060101ALI20231113BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20231113BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20231113BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08K5/37
C08K5/16
C08F2/44 C
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020186896
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 洋之
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/004316(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L79
C08G73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式(1)で表されるビスシトラコンイミド化合物
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を含む4価の有機基を示す。Bは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基であ
って、下記構造式(2)~(6)で示される2価の炭化水素基のいずれかであり、
【化2】
(R
1
は互いに独立に水素原子又は炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を示す。p
1
及びp
2
はそれぞれ5以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p
3
及びp
4
はそれぞれ3以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p
5
及びp
6
はそれぞれ0以上の数であり、同じであっても異なっていてもよい。上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
Qは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上のアリーレン基である。WはB又はQで示される基を示す。Yは水素原子又はメチル基である。nは0~100であり、mは0~100である。ただし、n=m=0の場合、WはBで示される基である。)
及び
(b)1分子中にアミノ基、チオール基、イミノ基又はエナミノ基から選ばれる1種以上の官能基を2個以上有する化合物
を含む低誘電樹脂組成物。
【請求項2】
式(1)中のAで示される有機基が下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項1に記載の低誘電樹脂組成物。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項3】
式(1)中のQで示されるアリーレン基が下記構造式(7)~(13)で示されるアリーレン基のいずれかである請求項1
又は2に記載の低誘電樹脂組成物。
【化4】
(R
2は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基である。なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【請求項4】
更に(c)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物を含有する請求項1~
3のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)成分の(メタ)アクリル基を有する化合物が、(メタ)アクリル基を除く分子中の炭素数が10以上の(メタ)アクリレートである請求項
4に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物の硬化物からなる樹脂シート又はフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー、ルーター等のネットワークインフラ機器、大型コンピュータ等の電子機器では、使用する信号の高速化及び大容量化が年々進んでいる。これに伴い、これらの電子機器に搭載されるプリント配線板には20GHz領域といった高周波帯が使用されるため、低誘電率、低誘電正接、低熱膨張率、高耐熱性、低吸水性など、プリント配線板用材料に求められる特性はますます高まっている。
【0003】
これらの特性を満たす可能性のある材料としては、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、マレイミド樹脂、低誘電エポキシ樹脂等が挙げられる(特許文献1~3)。しかしながら、これら前記樹脂を単独で硬化させた場合、耐熱性が悪く、長期間高温に晒されると硬化物が脆くなりクラックが入りやすいという欠点があった。
【0004】
特許文献4~6では、マレイミド化合物に加えて、アミン化合物やチオール化合物を硬化剤として使用した場合、得られる硬化物の耐熱性、強靭性は優れるが、マレイミド化合物とアミン化合物の反応や、マレイミド化合物とチオール化合物の反応が非常に速く、ポットライフが悪いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-1965号公報
【文献】特開2018-28044号公報
【文献】特開2018-44065号公報
【文献】特開2017-66280号公報
【文献】特開2019-99710号公報
【文献】特開2019-35036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、硬化物が低誘電率、低誘電正接であり、耐熱性、強靭性に優れ、更には接着力を向上でき、ポットライフが長く作業性も良好な樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、下記樹脂組成物が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
[1]
(a)下記式(1)で表されるビスシトラコンイミド化合物
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を含む4価の有機基を示す。Bは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基である。Qは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上のアリーレン基である。WはB又はQで示される基を示す。Yは水素原子又はメチル基である。nは0~100であり、mは0~100である。ただし、n=m=0の場合、WはBで示される基である。)
及び
(b)1分子中にアミノ基、チオール基、イミノ基又はエナミノ基から選ばれる1種以上の官能基を2個以上有する化合物
を含む低誘電樹脂組成物。
[2]
式(1)中のAで示される有機基が下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである[1]に記載の低誘電樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
[3]
式(1)中のBで示される2価の炭化水素基が下記構造式(2)~(6)で示される2価の炭化水素基のいずれかである[1]又は[2]に記載の低誘電樹脂組成物。
【化3】
(R
1は互いに独立に水素原子又は炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を示す。p
1及びp
2はそれぞれ5以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p
3及びp
4はそれぞれ3以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p
5及びp
6はそれぞれ0以上の数であり、同じであっても異なっていてもよい。上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
[4]
式(1)中のQで示されるアリーレン基が下記構造式(7)~(13)で示されるアリーレン基のいずれかである[1]~[3]のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【化4】
(R
2は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基である。なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
[5]
更に(c)成分として、(メタ)アクリル基を有する化合物を含有する[1]~[4]のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
[6]
前記(c)成分の(メタ)アクリル基を有する化合物が、(メタ)アクリル基を除く分子中の炭素数が10以上の(メタ)アクリレートである[5]に記載の低誘電樹脂組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物の硬化物からなる樹脂シート又はフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の低誘電樹脂組成物は、ポットライフが長く作業性が良好である。更には、耐熱性及び強靭性に優れ、低比誘電率、低誘電正接の硬化物となるため、本発明の低誘電樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線板、カバーレイフィルム、カバーレイフィルム用接着剤、放熱用接着剤、アンダーフィル、電磁波シールド、半導体封止材等の用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の低誘電樹脂組成物について詳細に説明する。
【0011】
(a)成分
(a)成分は、本発明の低誘電樹脂組成物の主成分となるものであり、下記式(1)で表されるビスシトラコンイミド化合物である。
【化5】
【0012】
式(1)中、Aは独立して環状構造を含む4価の有機基を示す。Bは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基である。Qは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上のアリーレン基である。WはB又はQで示される基を示す。Yは水素原子又はメチル基である。nは0~100であり、mは0~100である。ただし、n=m=0の場合、WはBで示される基である。
【0013】
ここで、式(1)中のAで示される有機基は独立して環状構造を含む4価の有機基であり、特に下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化6】
上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。
【0014】
また、式(1)中のBは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上60以下の2価の炭化水素基であり、好ましくはヘテロ原子を含んでもよい炭素数8以上40以下の2価の炭化水素基である。更に好ましくは下記構造式(2)~(6)で示される2価の炭化水素基である。
【化7】
上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。
【0015】
上記式中、p1及びp2はそれぞれ5~12の数であり、好ましくはそれぞれ6~10の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
p3及びp4はそれぞれ2~10の数であり、好ましくはそれぞれ3~8の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
p5及びp6はそれぞれ0~4の数であり、好ましくはそれぞれ0~2の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
【0016】
上記式中、R1は互いに独立に水素原子、又は炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、好ましくは水素原子、又は炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子、又は炭素数1~10の直鎖のアルキル基である。
【0017】
また、式(1)中のQは独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上30以下のアリーレン基であり、好ましくは炭素数6以上18以下のアリーレン基である。該アリーレン基は、芳香族炭化水素から芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子2個を除去した2価の基である。該芳香族炭化水素は、下記の化合物を含むものである。
・単環式又は多環式の芳香族炭化水素
・独立した2以上の単環式又は多環式の芳香族炭化水素が単結合又は2価の有機基を介して結合した化合物
【0018】
式(1)中のQは、下記構造式(7)~(13)のいずれかで示されるアリーレン基のいずれかであることが好ましい。
【化8】
上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。
【0019】
上記式中、R2は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、好ましくは水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基であり、更により好ましくは水素原子である。
【0020】
上記式中、R3は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、好ましくは水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
上記式中、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基であり、好ましくは酸素原子又は硫黄原子であり、更に好ましくは酸素原子である。
【0021】
式(1)中のnは0~100の数であり、好ましくは0~70の数である。式(1)中のmは0~100の数であり、好ましくは0~70の数である。
【0022】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)としては特に制限はないが、好ましくは300~50,000、より好ましくは400~30,000、更に好ましくは500~10,000、更により好ましくは600~3,000である。この範囲であれば、本発明の低誘電樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎず、さらに該樹脂組成物の硬化物が高い強度を有する。
【0023】
本明細書中で言及する重量平均分子量(Mw)とは、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指すこととする。
[GPC測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6mL/min
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(試料濃度:0.5質量%-テトラヒドロフラン溶液)
検出器:示差屈折率計(RI)
【0024】
上記の式(1)の化合物は、ジアミンと酸無水物とから常法によって合成してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、BCI-1500(Designer Molecules Inc.製)等を挙げることができる。また、式(1)の化合物は1種単独で使用しても複数種のものを併用しても構わない。
【0025】
本発明の組成物中、(a)成分の配合量は樹脂分100質量部に対して30~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。なお、ここで言う樹脂分とは(a)成分及び(b)成分の総量を指し、配合されている場合は(c)成分やその他の添加剤の配合量を含むが、無機充填剤並びに有機充填剤の配合量は樹脂分として含まないものとする。
【0026】
(a)成分の配合量は組成物全体100質量部に対して5~90質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。なお、ここで言う組成物全体とは(a)成分及び(b)成分の総量を指し、配合されている場合は(c)成分やその他の添加剤、無機充填剤並びに有機充填剤の配合量も含む。
【0027】
(b)成分
(b)成分は1分子中にアミノ基、チオール基、イミノ基又はエナミノ基から選ばれる1種以上の官能基を2個以上有する化合物である。前記官能基の数は1分子中に2個又は3個であることが好ましい。前記官能基の数がこの範囲内であれば、(a)成分の化合物との架橋点の数を抑えることができ、組成物がゲル化することなく分子量を大きくすることができ、その硬化物を強靭化することができる。
【0028】
1分子中に2個以上のアミノ基を有する化合物としては、特に制限はないが、例えば1,3-ジアミノプロパン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、3,7-ジアザ-1,9-ノナンジアミン、N-メチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N-イソプロピル-1,3-ジアミノプロパン、3,3’-ジアミノジプロピルアミン、N,N’-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、N,N’-ジメチル-1,12-ジアミノドデカン等の鎖状脂肪族アミン;1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、Priamine1071、Priamine1072、Priamine1073、Priamine1074、Priamine1075(クローダジャパン社製)、VERSAMINE551(BASFジャパン社製)、N,N’-ジメチル-1,4-ジアミノシクロヘキサン、N,N’-ジメチル-1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族アミン;1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス(3-アミノフェノキシフェニル)スルホン、ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’,3,3’-テトラメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’,4,4’-テトラメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、KAYAHARD A-A(日本化薬社製)、N,N’-ジメチル-1,4-ジアミノベンゼン、N-メチル-2,4-ジアミノトルエン等の芳香族アミン;ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ジメチルポリシロキサン等のアミノ基変性シロキサン等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、樹脂組成物の硬化物を強靭化するために鎖状脂肪族アミン又は環状脂肪族アミン等の脂肪族アミンが好ましく、炭素数6~60の鎖状脂肪族アミン又は環状脂肪族アミンがより好ましく、炭素数5以上の脂肪族環を1個以上含む炭素数8以上40以下の環状脂肪族アミンが更に好ましい。
【0030】
1分子中に2個以上のチオール基を有する化合物としては、特に制限はないが、以下の脂肪族チオール及び芳香族チオールが挙げられる。
脂肪族チオールとしては、例えば、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジチオエリスリトール等のアルキレンジチオール;2,3-ジメルカプトサクシン酸、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、1,2,6-ヘキサントリオールトリチオグリコレート、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)等のカルボキシ基又はエステル結合含有ジチオール;1,2-ベンゼンジメタンチオール、1,3-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、2,4,6-トリメチル-1,3-ベンゼンジメタンチオールなどのアラルキル基変性ジチオール;2,2’-(エチレンジチオ)ジエタンチオール等のチオアルキレンジチオール類等が挙げられる。
また、芳香族チオールとしては、例えば、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1-メチル-3,4-ベンゼンジチオール、4-クロロ-1,3-ベンゼンジチオール等のベンゼンジチオール類;2,2-ビス(2-ヒドロキシ-3-メルカプトプロポキシフェニルプロパン)等のビスフェノール系ジチオール類;2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール等の複素環式化合物系ジチオール類;1,3,5-トリチオシアヌル酸、2-ヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-ジエチルアミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-シクロヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-ジ-n-ブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオン等のトリアジン環含有ジチオール等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、樹脂組成物の硬化物を強靭化するためには脂肪族チオールが好ましく、中でもカルボキシ基又はエステル結合含有ジチオールがより好ましく、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)が特に好ましい。
【0032】
1分子中にイミノ基又はエナミノ基を2個以上有する化合物としては、1分子中に2個以上の1級アミノ基又は2級アミノ基を有するアミン化合物と、1分子中に1個以上のカルボニル基を有するカルボニル化合物とから合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0033】
1分子中に2個以上の1級アミン化合物又は2級アミン化合物と、カルボニル化合物とから合成する方法としては、該アミン化合物と該カルボニル化合物を混合し、40~180℃で0.5~72時間、好ましくは60~150℃で2~48時間、脱水しながら加熱混合すればよい。
【0034】
1分子中に2個以上の1級アミン化合物又は2級アミン化合物としては、特に制限はなく、上述したアミン化合物が挙げられ、中でも鎖状脂肪族アミン、環状脂肪族アミンが好ましく、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、3,7-ジアザ-1,9-ノナンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミンや、市販品であるPriamine1071、Priamine1072、Priamine1073、Priamine1074、Priamine1075(以上、クローダジャパン(株)製)、VERSAMINE551(コグニスジャパン(株)社製)がより好ましい。
【0035】
上記カルボニル化合物としては、特に制限はないが、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2-メチルベンゼンアセトアルデヒド、3-メチルベンゼンアセトアルデヒド、4-メチルベンゼンアセトアルデヒド、4-イソプロピルベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n-ブチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、5-メチル-3-ヘプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、シクロヘキシルフェニルケトン、4-メチルベンゾフェノン、4-オクチルベンゾフェノン、2-ノルボルナノン、1,7,7-トリメチルビシクロ[2.1.1]-2-ヘプタノン、1,3,3-トリメチル-2-ノルボルナノン等のケトンが挙げられる。
【0036】
これらの中でも良好なポットライフの樹脂組成物を得るためにイソバレルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、1,7,7-トリメチルビシクロ[2.1.1]-2-ヘプタノン、1,3,3-トリメチル-2-ノルボルナノンが好ましい。
【0037】
1分子中に2個以上のイミノ基又はエナミノ基を有する化合物としては特に制限はないが、下記式(14)~(19)のいずれかで表されるイミノ基又はエナミノ基を有する化合物であることが好ましい。前記イミノ基又はエナミノ基は、例えば前記アミン化合物とカルボニル化合物を反応させることで得ることができる。
【化9】
式中の波線は互いに独立して、(b)成分の化合物のイミノ基又はエナミノ基と残部との結合部位を示す。
【0038】
上記式中、R4及びR5はそれぞれ水素原子、炭素数1~12の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~12の芳香族炭化水素基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1~12の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくは水素原子又は炭素数1~10の分岐状脂肪族炭化水素基である。ただし、R4、R5の少なくともいずれかは脂肪族炭化水素基である。
【0039】
上記式中、R6及びR7は互いに独立に水素原子又は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0040】
上記式中、xは1~4であり、好ましくは2~3である。
【0041】
イミノ基又はエナミノ基として例えば下記構造式で表される有機基が挙げられるが、これらに限定されない。
【化10】
式中の波線は互いに独立して、(b)成分の化合物が有するイミノ基又はエナミノ基と残部との結合部位を示す。
【0042】
1分子中に2個以上のイミノ基又はエナミノ基を有する化合物を、1分子中に2個以上の1級アミン化合物又は2級アミン化合物と、カルボニル化合物とから合成する場合、前記アミノ基のイミノ基又はエナミノ基への変換率が60~100%であることが好ましく、80~100%であることがより好ましく、90~100%であることが更に好ましい。この範囲であれば、(a)成分の化合物と不足なく反応させることができる。
【0043】
本発明の組成物中、(b)成分の配合量は(a)成分100質量部に対して3~200質量部であることが好ましく、5~150質量部であることがより好ましい。
本発明の低誘電樹脂組成物には、上記必須成分の他に、必要により、下記の成分を添加してもよい。
【0044】
(c)成分
(c)成分の(メタ)アクリル基を有する化合物は(a)成分、(b)成分と良好に反応し、さらに本発明の樹脂組成物の接着力を向上させるものである。
【0045】
(c)成分の(メタ)アクリル基を有する化合物としては特に制限はないが、好ましくは(メタ)アクリル基の炭素数を除いた炭素数が10以上である(メタ)アクリレートであり、より好ましくは炭素数12以上の(メタ)アクリレートであり、更に好ましくは炭素数14~40の(メタ)アクリレートである。(メタ)アクリレートの炭素数が10以上であれば、樹脂組成物の耐熱性が良好となる。
(c)成分の1分子中の(メタ)アクリル基の数としては特に制限はないが、1~3個、好ましくは1又は2個である。(c)成分の1分子中の(メタ)アクリル基の数が1~3個であれば、樹脂組成物の硬化時の収縮が小さく、接着力が低減することもないため好ましい。
【0046】
(c)成分の具体例として、例えば下記構造式で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【化11】
上記式中、y1は4~30の数であり、好ましくは6~20の数であり、y2は0~3の数であり、好ましくは0又は1であり、y3は2~30の数であり、好ましくは4~20の数であり、y4は2~8の数であり、好ましくは2~4の数であり、y5は1~3の数である。
【0047】
本発明の組成物中、(c)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して1~60質量部であることが好ましく、3~50質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることが更に好ましい。この範囲であれば樹脂組成物の接着力を向上させることができる。
【0048】
また、本発明の(a)~(c)成分の官能基量の比としては、前記(a)成分中の官能基のモル数na、前記(b)成分中官能基のモル数nb、並びに前記(c)成分中の(メタ)アクリル基のモル数ncが、0.05≦nb/(na+nc)≦1であることが好ましく、0.1≦nb/(na+nc)≦0.9であることがより好ましく、0.3≦nb/(na+nc)≦0.8であることが更に好ましい。この範囲であれば、(b)成分中の官能基が未反応のまま硬化物に残存する可能性が低く、樹脂組成物の硬化物の耐熱性及び強靭性が良好となる。
なお、本発明において、前記官能基量の算出の根拠となる前記(a)~(c)成分の官能基当量は、前記各成分の設計上の官能基数を、実測した重量平均分子量で除した値を指す。
【0049】
<その他の添加剤>
本発明の低誘電樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。その他の添加剤を以下に例示する。
これらの添加剤は、本発明の低誘電樹脂組成物に添加されてもよいし、添加されなくてもよい。また、これらの添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
[重合開始剤]
本発明の低誘電樹脂組成物に、添加剤として重合開始剤を加えてもよい。重合開始剤を加えることによって、未反応の官能基を減らすことが可能となる。
重合開始剤としては、特に制限はないが、熱ラジカル重合開始剤、熱アニオン重合開始剤、光重合開始剤等が挙げられる。
【0051】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α、α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、桂皮酸パーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、α、α’-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルへキサノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-メチルプロピル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-メチルエチル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-プロピル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-エチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、ジメチル-1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)等のアゾ化合物が挙げられ、好ましくはジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-メチルエチル)-2-メチルプロピオンアミド]であり、更に好ましくはジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイドである。
【0052】
熱アニオン重合開始剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン等のホスフィン類が挙げられ、好ましくは2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザ-ビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンであり、更に好ましくは2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,8-ジアザ-ビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、トリフェニルホスフィンである。
【0053】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン等のベンゾイル化合物(又はフェニルケトン化合物)、特に、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等のカルボニル基のα-位の炭素原子上にヒドロキシ基を有するベンゾイル化合物(又はフェニルケトン化合物);2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン等のα-アルキルアミノフェノン化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビスアシルモノオルガノホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物;イソブチルベンゾインエーテル等のベンゾインエーテル化合物;アセトフェノンジエチルケタール等のケタール化合物;チオキサントン系化合物;アセトフェノン系化合物等が挙げられる。
【0054】
特にUV-LEDから発生する放射線は単一波長であるので、UV-LEDを光源として用いる場合、340~400nmの領域に吸収スペクトルのピークを有するα-アルキルアミノフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物の光重合開始剤を使用するのが有効である。
【0055】
これら重合開始剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の配合量は特に限定されないが、本発明の組成物中の(a)成分100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、0.05~8質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることが更により好ましい。この範囲であれば未反応の官能基を十分に反応させることができる。
【0056】
[無機充填剤]
無機充填剤としては、特に制限はないが、例えばシリカ、二酸化チタン、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウム等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物;炭化ケイ素、ダイヤモンド、グラフェン等の炭素含有粒子;シリカバルーン(中空シリカ)、カーボンバルーン、アルミナバルーン、アルミノシリケートバルーン等の中空粒子;金、銀、銅、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、マンガン、亜鉛、タングステン、白金、鉛、錫等の金属単体;半田、鋼、ステンレス鋼等の合金;ステンレス、Fe-Cr-Al-Si合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Ni合金、Fe-Cu-Si合金、Fe-Si合金、Fe-Si―B(-Cu-Nb)合金、Fe-Si-Cr-Ni合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al-Ni-Cr合金等の磁性金属合金;ヘマタイト(Fe2O3)、マグネタイト(Fe3O4)、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト、Mg-Mn系フェライト、Zr-Mn系フェライト、Ti-Mn系フェライト、Mn-Zn-Cu系フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等のフェライト類が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
金属酸化物、金属窒化物、炭素含有粒子を加えることによって樹脂組成物の硬化物の線膨張係数を下げ、熱伝導率を上げることができ、中空粒子を加えることによって樹脂組成物の硬化物の比誘電率、誘電正接、密度等を下げることができ、金属、合金を加えることによって樹脂組成物の硬化物の電気伝導率、熱伝導率等を上げることができ、フェライト類を加えることによって樹脂組成物の硬化物に電磁波吸収能を付与することができる。
【0058】
前記無機充填剤の形状としては、特に制限はなく、例えば球状、鱗片状、フレーク状、針状、棒状、楕円状等が挙げられ、中でも球状、鱗片状、フレーク状、楕円状、棒状が好ましく、球状、鱗片状、フレーク状、楕円状が更に好ましい。
【0059】
前記無機充填剤の一次粒径としては特に制限はないが、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定されたメジアン径として0.05~500μmが好ましく、0.1~300μmがより好ましく、1~100μmが更に好ましい。この範囲内であれば、樹脂組成物中に前記無機粒子を均一に分散させることが容易であり、経時で該無機粒子が沈降、分離、偏在してしまうこともないため好ましい。
【0060】
前記無機充填剤の配合量としては特に制限はないが、本発明の組成物中の(a)成分100質量部に対して5~3,000質量部であることが好ましく、10~2,500質量部であることがより好ましく、50~2,000質量部であることが更に好ましい。この範囲であれば樹脂組成物の強度を保持したまま、無機粒子の機能を十分に発揮することができる。
【0061】
[有機充填剤]
有機充填剤としては、特に制限はないが、例えばアクリル-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルブロック共重合体のような熱可塑性樹脂粒子、炭素繊維、セルロース繊維、シリコーンパウダー、アクリルパウダー、ポリテトラフルオロエチレン粉、ポリエチレン粉、ポリプロピレン粉などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
前記有機充填剤の形状としては、特に制限はなく、例えば球状、繊維状、フレーク状、針状、棒状、楕円状等が挙げられ、中でも球状、繊維状、フレーク状、楕円状、棒状が好ましく、球状、繊維状、フレーク状、楕円状が更に好ましい。
【0063】
前記有機充填剤の一次粒径としては特に制限はないが、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定されたメジアン径として0.05~500μmが好ましく、0.1~300μmがより好ましく、1~100μmが更に好ましい。この範囲内であれば、樹脂組成物中に前記有機粒子を均一に分散させることが容易であり、経時で該有機粒子が沈降、分離、偏在してしまうこともないため好ましい。
【0064】
前記有機充填剤の配合量としては特に制限はないが、本発明の組成物中の(a)成分100質量部に対して1~400質量部であることが好ましく、5~200質量部であることがより好ましく、10~100質量部であることが更に好ましい。この範囲であれば樹脂組成物の強度を上げることが可能となる。
【0065】
[接着性付与剤]
本発明の低誘電樹脂組成物は、接着性又は粘着性(感圧接着性)を付与するため、必要に応じて接着性付与剤を含有してよい。接着性付与剤としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、シランカップリング剤等が挙げられる。中でも接着性を付与するにはエポキシ樹脂、シランカップリング剤が好ましく、粘着性(感圧接着性)を付与するにはテルペン樹脂が好ましい。
【0066】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂及び4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂等のビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、トリスフェニロールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェニロールエタン型エポキシ樹脂、並びにフェノールジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂等が挙げられる。必要に応じて、上記以外のエポキシ樹脂を目的に応じて一定量併用することができる。
【0067】
テルペン樹脂としては、特に制限はないが、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、及びリモネン等のモノテルペン類、セドレン、ファネルセン等のセスキテルペン類、アビエチン酸等のジテルペン類のようなテルペン類の単独重合体や、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物と前記テルペン類との共重合体である芳香族変性テルペン樹脂、フェノール、クレゾール、ヒドロキノン、ナフトール、ビスフェノールA等のフェノール類と前記テルペン類との共重合体であるテルペンフェノール樹脂等が挙げられる。また、これらのテルペン樹脂を水素添加した水素添加テルペン樹脂等も使用可能である。
【0068】
シランカップリング剤としては、特に制限はないが、例えば、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン、メトキシトリ(エチレンオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0069】
前記接着性付与剤の含有量としては特に制限はないが、本発明の組成物中の(a)成分100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~5質量部が更に好ましい。この範囲内であれば、本発明の低誘電樹脂組成物の物性を変えることなく、該樹脂組成物の接着力又は粘着力をより向上させることができる。
【0070】
[酸化防止剤]
酸化防止剤としては、特に制限はないが、例えば、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)アセテート、ネオドデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル-α-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル-α-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル-α-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-(n-オクチルチオ)エチル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルアセテート、2-(n-オクタデシルチオ)エチル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルアセテート、2-(n-オクタデシルチオ)エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-(2-ステアロイルオキシエチルチオ)エチル-7-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、2-ヒドロキシエチル-7-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等の硫黄系酸化防止剤;トリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、ジフェニルトリデシルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]-N,N-ビス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]-エチル]エタナミン等のリン系酸化防止剤が挙げられる。
【0071】
前記酸化防止剤の含有量としては特に制限はないが、本発明の組成物中の(a)成分100質量部に対して0.00001~5質量部が好ましく、0.0001~4質量部がより好ましく、0.001~3質量部が更に好ましい。この範囲内であれば、本発明の低誘電樹脂組成物の機械物性を変えることなく、該樹脂組成物の酸化を防止できる。
【0072】
[難燃剤]
難燃剤としては、特に制限はないが、例えば、リン系難燃剤、金属水和物、ハロゲン系難燃剤等が挙げられる。リン系難燃剤としては、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸アミド等の無機系含窒素リン化合物、リン酸、ホスフィンオキシド、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ-2,6-キシレニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジ-2,6-キシレニルホスフェート)、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、フェニルホスホン酸ジビニル、フェニルホスホン酸ジアリル、フェニルホスホン酸ビス(1-ブテニル)、ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸メチル、ビス(2-アリルフェノキシ)ホスファゼン、ジクレジルホスファゼン等のホスファゼン化合物、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等が挙げられる。金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム水和物、水酸化マグネシウム水和物等が挙げられる。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、1,2-ジブロモ-4-(1,2-ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、2,4,6-トリス(トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0073】
前記難燃剤の含有量としては特に制限はないが、本発明の組成物中の(a)成分100質量部に対して0.01~20質量部が好ましく、0.05~15質量部がより好ましく、0.1~10質量部が更に好ましい。この範囲内であれば、本発明の低誘電樹脂組成物の機械物性を変えることなく、該樹脂組成物に難燃性を付与できる。
【0074】
本発明の低誘電樹脂組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。ワニス化することによってプライマーとして使用でき、また、ガラスクロスへも塗布・含浸しやすくなる。有機溶剤に関しては成分の熱硬化性樹脂分が溶解するものであれば制限なく使用することができる。
なお、前記有機溶剤を除去する方法としては特に制限はなく、使用する有機溶剤の揮発性に応じて変更すればよい。本発明の組成物を、プライマーとして薄膜状に塗布、またはガラスクロスへ塗布・含侵した後、例えば、40~150℃、好ましくは60℃~120℃で、3~60分間、好ましくは5~30分間加熱すればよい。
【0075】
また、本発明の低誘電樹脂組成物はシートやフィルムとして使用することもできる。樹脂フィルムを成形する方法としては特に制限はなく、該樹脂フィルムを構成する樹脂組成物(即ち、(a)成分及び(b)成分を含有する樹脂組成物)を、離型性を有するフィルム等の上に流してスキージする方法などが挙げられる。
その際、前記樹脂組成物は、加熱又は溶剤希釈などの方法によって低粘度化したものが好ましく、有機溶剤を含有するものがより好ましい。有機溶剤で希釈した場合は、希釈後の組成物のチキソ比が1.0~3.0の範囲内であれば、加工性が良好となるため好ましく、1.0~2.5の範囲内がより好ましく、1.0~2.0の範囲内が更に好ましい。なお、前記チキソ比はJIS K 7117-1:1999記載の回転粘度計による25℃での粘度を、スピンドルの回転数を変えて測定し、以下の式によって求めた。
チキソ比=(1rpmでの粘度[Pa・s]/10rpmでの粘度[Pa・s])
【0076】
有機溶剤を使用する場合は、樹脂組成物を基材に塗布した後、60~150℃、好ましくは80~120℃の温度で1~30分、好ましくは3~10分加熱することによって有機溶剤を除去することができる。有機溶剤を除去するための乾燥工程の温度は、一定であってもよいし、段階的に温度を上げてもよい。これにより、有機溶剤を効率的に組成物外へ除去できる。
【0077】
また、本発明の低誘電樹脂組成物は、未硬化の状態でフィルム状又はシート状にでき、ハンドリング性も良好で、自己接着性があり、誘電特性にも優れることから特にフレキシブルプリント配線板(FPC)用などのボンディングフィルムに好適に用いることができる。また、硬化樹脂フィルムはカバーレイフィルムとして使用することもできる。
【0078】
他にも、ワニス化した本発明の樹脂組成物をガラスクロスなどへ含浸し、有機溶剤を除去し、半硬化状態にすることでプリプレグとして使用することもできる。また、そのプリプレグや銅箔などを積層させることでリジット基板を作製することができる。
【0079】
[製造方法]
本発明の低誘電樹脂組成物の製造方法としては、(a)成分、(b)成分並びに必要に応じて加えられる(c)成分及びその他の添加剤を、例えば、プラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)や、攪拌機THINKY CONDITIONING MIXER(シンキー(株)製)を使用して混合する方法が挙げられる。
このようにして得られた本発明の樹脂組成物は、ポットライフが長く作業性に優れ、硬化物が低比誘電率、低誘電正接であり、耐熱性及び強靭性に優れるため、フレキシブルプリント配線板、カバーレイフィルム用接着剤、放熱用接着剤、電磁波シールド、半導体封止材等の用途に有用である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例において、Ci価はシトラコンイミド当量、Ma価はマレイミド当量、N価はアミン、イミン、又はエナミン当量、S価はチオール当量、Vi価はアクリル当量を表す。
【0081】
下記実施例に示した分子量はポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(Mw)である。以下に測定条件を示す。
[GPC測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6mL/min
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(試料濃度:0.5質量%-テトラヒドロフラン溶液)
検出器:示差屈折率計(RI)
【0082】
(a)ビスシトラコンイミド化合物
(a-1)ビスシトラコンイミド化合物
N-メチルピロリドン196gに1,12-ジアミノドデカン200g(1.0mol)及びピロメリット酸無水物207g(0.95mol)を添加し、25℃で3時間撹拌し、更に150℃で3時間撹拌した。得られた溶液に無水シトラコン酸224g(2.0mol)、酢酸ナトリウム82g(1.0mol)及び無水酢酸204g(2.0mol)を加え、80℃で1時間撹拌した。その後、トルエン500gを加え、更に水洗、脱水後、溶剤を減圧留去し、下記式で示される(a-1)ビスシトラコンイミド化合物を得た。(Ci価=0.057mol/100g)(重量平均分子量3,500)
【化12】
【0083】
(a-2)ビスシトラコンイミド化合物
下記式で示されるビスシトラコンイミド化合物(商品名:BCI-1500、Designer Molecules Inc.製)(Ci価=0.095mol/100g)(重量平均分子量2,100)
【化13】
【0084】
(a-3)ビスシトラコンイミド化合物
N-メチルピロリドン350gに3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(商品名:カヤハードA-A(日本化薬(株)製))252g(1.0mol)及びピロメリット酸無水物207g(0.9mol)を添加し、室温で3時間撹拌し、更に120℃で3時間撹拌した。得られた溶液に無水シトラコン酸224g(2.0mol)、酢酸ナトリウム82g(1.0mol)及び無水酢酸204g(2.0mol)を加え、80℃で1時間撹拌した。その後、トルエン500gを加え、更に水洗、脱水後、溶剤を減圧留去し、下記式で示される(a-3)ビスシトラコンイミド化合物を得た。(Ci価=0.11mol/100g)(重量平均分子量1,800)
【化14】
【0085】
(a-4)ビスシトラコンイミド化合物
N-メチルピロリドン350gにPriamine1075(クローダジャパン(株)製)544g(1.0mol)、無水シトラコン酸248g(2.2mol)、酢酸ナトリウム82g(1.0mol)及び無水酢酸204g(2.0mol)を加え、80℃で3時間撹拌した。その後、トルエン500gを加え、更に水洗、脱水後、溶剤を減圧留去し、下記式で示される(a-4)ビスシトラコンイミド化合物を得た。(Ci価=0.27mol/100g)(重量平均分子量730)
【化15】
【0086】
(a-5)ビスシトラコンイミド化合物
N-メチルピロリドン100gにイソホロンジアミン170g(1.0mol)、無水シトラコン酸248g(2.2mol)、酢酸ナトリウム82g(1.0mol)及び無水酢酸204g(2.0mol)を加え、80℃で3時間撹拌した。その後、トルエン500gを加え、更に水洗、脱水後、溶剤を減圧留去し、下記式で示される(a-5)ビスシトラコンイミド化合物を得た。(Ci価=0.56mol/100g)(重量平均分子量360)
【化16】
【0087】
(a’-1)ビスマレイミド化合物(比較例用)
下記式で示されるビスマレイミド化合物(商品名:BMI-689、Designer Molecules Inc.製)(Ma価=0.29mol/100g)(重量平均分子量690)
【化17】
【0088】
(a’-2)ビスマレイミド化合物(比較例用)
下記式で示されるビスマレイミド化合物(商品名:BMI-1000、大和化成(株)製)(Ma価=0.56mol/100g)(重量平均分子量360)
【化18】
【0089】
(a’-3)ビスシトラコンイミド化合物(比較例用)
N-メチルピロリドン500g、ビス(アミノメチル)ノルボルナン93g(0.6mol)及びピロメリット酸無水物207g(0.9mol)を添加し、150℃で3時間加熱脱水した。得られた溶液にPriamine1075 218g(0.4mol)を添加し、150℃で3時間加熱脱水した。得られた溶液に無水マレイン酸196g(2.0mol)、酢酸ナトリウム82g(1.0mol)及び無水酢酸204g(2.0mol)を加え、80℃で1時間撹拌した。その後、トルエン500gを加え、更に水洗、脱水後、溶剤を減圧留去し、下記式で示される(a’-3)ビスシトラコンイミド化合物を得た。(Ma価=0.023mol/100g)(重量平均分子量8,900)
【化19】
【0090】
(a’-4)ビスマレイミド化合物(比較例用)
N-メチルピロリドン500g、トリシクロデカンジアミン182g(1.0mol)、Priamine1075 544g(1.0mol)及びビフェニル酸無水物522g(1.8mol)を混合し、150℃で3時間加熱脱水した。得られた溶液に無水マレイン酸196g(2.0mol)、酢酸ナトリウム82g(1.0mol)及び無水酢酸204g(2.0mol)を加え、80℃で1時間撹拌した。その後、トルエン500gを加え、更に水洗、脱水後、溶剤を減圧留去し、下記式で示される(a’-4)ビスマレイミド化合物を得た。(Ma価=0.053mol/100g)(重量平均分子量3,800)
【化20】
【0091】
(b)1分子中にアミノ基、チオール基、イミノ基又はエナミノ基から選ばれる1種以上の官能基を2個以上有する化合物
(b-1)アミン化合物
イソホロンジアミン(東京化成工業(株)製)(N価=1.2mol/100g)
(b-2)アミン化合物
カヤハードA-A(日本化薬(株)製)(N価=0.79mol/100g)
(b-3)チオール化合物
カレンズMTPE1(昭和電工(株)製)(S価=0.73mol/100g)
(b-4)イミン化合物
Priamine1075(クローダジャパン(株)製、2官能アミン)544g(1.0mol)とジイソプロピルケトン342g(3.0mol)を混合し、脱水しながら4時間還流した。その後未反応のジイソプロピルケトンを減圧留去し、下記式で示される(b-4)イミン化合物を得た。(N価=0.28mol/100g)
【化21】
(b-5)イミン化合物
4,4-ジアミノジフェニルメタン198g(1.0mol)とメチルイソブチルケトン300g(3.0mol)を混合し、脱水しながら2時間還流した。その後未反応のメチルイソブチルケトンを減圧留去し、下記式で示される(b-5)イミン化合物を得た。(N価=0.55mol/100g)
【化22】
(b-6)エナミン化合物
N,N’-ジメチル-1,3-プロパンジアミン102g(1.0mol)とメチルイソブチルケトン300g(3.0mol)を混合し、脱水しながら2時間還流した。その後未反応のメチルイソブチルケトンを減圧留去し、下記式で示される(b-6)エナミン化合物を得た。(N価=0.75mol/100g)
【化23】
【0092】
(c)(メタ)アクリル基を有する化合物
(c-1)下記式で表されるメタクリレート(Vi価=0.55mol/100g)(商品名:NKエステルDCP(新中村化学(株)製))
【化24】
(c-2)イソボルニルメタクリレート(Vi価=0.48mol/100g)(大阪有機化学(株)製)
【化25】
(c-3)ステアリルメタクリレート(Vi価=0.30mol/100g)(東京化成(株)製)
(c-4)ドデシルメタクリレート(Vi価=0.39mol/100g)(東京化成(株)製)
【0093】
(d)重合開始剤
(d-1)ジクミルパーオキサイド(商品名:「パークミルD」(日油(株)製))
(d-2)トリフェニルホスフィン(キシダ化学(株)製)
【0094】
(e)無機充填剤
(e-1)シリカ「SFP-130MC」(一次粒径のメジアン径0.6μm)(デンカ(株)製)
(e-2)アルミナ「AO-41R」(一次粒径のメジアン径6μm)(アドマテックス(株)製)
【0095】
(f)有機充填剤
(f-1)シリコーンパウダー「KMP-600」(一次粒径のメジアン径5μm)(信越化学工業(株)製)
【0096】
(g)接着付与剤
(g-1)シランカップリング剤「KBM-403」(信越化学工業(株)製)
【0097】
(h)酸化防止剤
(h-1)アデカスタブAO-60(アデカ(株)製)
【0098】
(i)難燃剤
(i-1)アピノン-303(三和ケミカル(株)製)
【0099】
[樹脂組成物の調製方法]
実施例1~11及び比較例1~6について、表1に示す配合(質量部)で各成分を混合し、プラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)を使用して80℃で10分混練し、その後25℃まで冷却し、攪拌機THINKY CONDITIONING MIXER(シンキー(株)製)に入れて3分撹拌脱泡し、樹脂組成物を調製した。
【0100】
[組成物の粘度]
表1に示す配合(質量部)で調製した組成物について、JIS Z 8803:2011に準じ、B型粘度計を用いて23℃での樹脂組成物の粘度を測定した。結果を表1に記載した。
【0101】
[ポットライフ]
表1に示す配合(質量部)で調製した組成物を23℃で24時間静置し、JIS Z 8803:2011に準じ、B型粘度計を用いて23℃での樹脂組成物の粘度を測定し、下記式に従ってポットライフを算出した。結果を表1に記載した。
(23℃で24時間静置した後の粘度)/(初期の粘度)
【0102】
[硬化物の硬さ]
50mm径×10mm厚のアルミシャーレに、調製した樹脂組成物を流し込み、100℃で1時間、180℃で2時間の順でステップキュアし、該組成物の硬化物を作製した。得られた硬化物の硬さをJIS K 6253-3:2012に記載の方法に準拠して測定した。測定はまずデュロメータタイプAの硬度計を用いて行い、測定値が90を超える値であれば、デュロメータタイプD硬度計を用いて測定し、その測定値を記載した。結果を表1に記載した。
【0103】
[硬化物の引張強さ及び切断時伸び]
150mm×200mm×2mm厚のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)でコーティングされた凹型の金型に調製した組成物を流し込み、100℃で1時間、180℃で2時間の順でステップキュアし、該組成物の硬化物を作製した。JIS K 6251:2010に準拠して、EZ TEST(EZ-L、株式会社島津製作所製)を用いて、試験速度500mm/min、つかみ具間距離80mm、標点間距離40mmの条件で前記試験サンプルの引張強さと切断時伸びを測定した。結果を表1に記載した。
【0104】
[耐熱性]
150mm×200mm×2mm厚のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)でコーティングされた凹型の金型に調製した組成物を流し込み、100℃で1時間、180℃で2時間の順でステップキュアし、該組成物の硬化物を作製した。得られた硬化物を180℃で100時間放置し、JIS K 6251:2010に準拠して、EZ TEST(EZ-L、株式会社島津製作所製)を用いて、試験速度500mm/min、つかみ具間距離80mm、標点間距離40mmの条件で耐熱試験後の試験サンプルの引張強さと切断時伸びを測定した。結果を表1に記載した。
【0105】
[比誘電率及び誘電正接]
30mm×40mm×100μm厚の金型枠に、調製した樹脂組成物を挟み、180℃で2時間熱プレスし、試験サンプルを作製した。作製した試験サンプルにネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続して、周波数10GHzにおける比誘電率、誘電正接を測定した。結果を表1に記載した。
【0106】
[接着力測定]
調製した樹脂組成物の厚さが100μmになるように、樹脂組成物とジルコニアボールを銅板の上に乗せ、その上から2mm角に切ったシリコンチップを押し当てて、それらを
180℃で2時間加熱硬化し、その後、接着力測定装置(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製万能型ボンドテスター シリーズ4000(DS-100))を用いて、チップの横からはじいた際の接着力を測定した(ダイシェアテスト)。結果を表1に記載した。
【0107】
【0108】
実施例1~11では、樹脂組成物のポットライフは長く、硬化物は低比誘電率、低誘電正接でありながら、耐熱性、強靭性に優れていた。
比較例1、2では、(b)成分を含有しないため、硬化物が脆いゲルとなり、硬化物の物性を評価できなかった。
比較例3では、(a)成分の分子鎖末端が環状イミド骨格にメチル基を有さないマレイミド基であるため、(b)成分との反応が非常に速く、ポットライフが悪くなった。また、接着力も低い値であった。
比較例4~6も比較例3と同様に、(a)成分の末端が環状イミド骨格にメチル基を有さないマレイミド基であるため、(b)成分との反応が非常に速く、混合後すぐにゲル化し、硬化物の物性を評価できなかった。