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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】遮音シート及び積層体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/168 20060101AFI20231113BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231113BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20231113BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
G10K11/168
B32B27/36
B32B5/18
G10K11/16 120
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019095986
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020190639
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
(72)【発明者】
【氏名】大川 秀俊
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225568(WO,A1)
【文献】特開2001-089581(JP,A)
【文献】特開2002-105250(JP,A)
【文献】特開平07-304936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/168
B32B 27/36
B32B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムを備える遮音シートであって、
前記少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムは、不織布ではなく、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、オレフィン系樹脂を含まず、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmである遮音シート。
【請求項2】
少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムを備える遮音シートであって、
前記少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムは、不織布ではなく、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、前記液晶性樹脂は、下記構造単位(III’)を含まず、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmである遮音シート。
【化1】
【請求項3】
少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムを備える遮音シートであって、
前記少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムは、不織布ではなく、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、前記液晶性樹脂フィルムにおいて、前記液晶性樹脂の含有量は、70~100質量%であり、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmである遮音シート。
【請求項4】
前記液晶性樹脂が、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を全構成単位に対し40~100モル%含む全芳香族ポリエステル又は全芳香族ポリエステルアミドである、請求項1~3のいずれかに記載の遮音シート。
【請求項5】
前記液晶性樹脂が、2,6-ナフチレン基を有する構成単位を全構成単位に対し0.1~30モル%含む、請求項1~4のいずれかに記載の遮音シート。
【請求項6】
前記液晶性樹脂が、非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対し90~100モル%含む、請求項1~5のいずれかに記載の遮音シート。
【請求項7】
前記非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位が、下記構造式(I)で表される構成単位、下記構造式(II)で表される構成単位、下記構造式(III)で表される構成単位、及び下記構造式(IV)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の遮音シート。
【化2】
【請求項8】
更に、少なくとも1層の多孔質層を備える、請求項1~7のいずれかに記載の遮音シートであって、
前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む遮音シート。
【請求項9】
前記多孔質材料が、フェルト、グラスウール、フォーム、及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の遮音シート。
【請求項10】
1層の液晶性樹脂フィルムと、
少なくとも1層の多孔質層、及び/又は、少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムと、
を備える積層体であって、
前記1層の液晶性樹脂フィルム又は前記少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムは、不織布ではなく、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、オレフィン系樹脂を含まず、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmであり、
前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む積層体。
【請求項11】
1層の液晶性樹脂フィルムと、
少なくとも1層の多孔質層、及び/又は、少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムと、
を備える積層体であって、
前記1層の液晶性樹脂フィルム又は前記少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムは、不織布ではなく、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、前記液晶性樹脂は、下記構造単位(III’)を含まず、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmであり、
前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む積層体。
【化3】
【請求項12】
1層の液晶性樹脂フィルムと、
少なくとも1層の多孔質層、及び/又は、少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムと、
を備える積層体であって、
前記1層の液晶性樹脂フィルム又は前記少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムは、不織布ではなく、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、前記液晶性樹脂フィルムにおいて、前記液晶性樹脂の含有量は、70~100質量%であり、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmであり、
前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む積層体。
【請求項13】
前記液晶性樹脂が、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を全構成単位に対し40~100モル%含む全芳香族ポリエステル又は全芳香族ポリエステルアミドである、請求項10~12のいずれかに記載の積層体。
【請求項14】
前記液晶性樹脂が、2,6-ナフチレン基を有する構成単位を全構成単位に対し0.1~30モル%含む、請求項10~13のいずれかに記載の積層体。
【請求項15】
前記液晶性樹脂が、非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対し90~100モル%含む、請求項10~14のいずれかに記載の積層体。
【請求項16】
前記非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位が、下記構造式(I)で表される構成単位、下記構造式(II)で表される構成単位、下記構造式(III)で表される構成単位、及び下記構造式(IV)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項15に記載の積層体。
【化4】
【請求項17】
前記多孔質材料が、フェルト、グラスウール、フォーム、及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項10~16のいずれかに記載の積層体。
【請求項18】
前記積層体が遮音シートとして用いられる、請求項10~17のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音シート及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の防音目的で、例えば、自動車のエンジン、家電製品等からの騒音が外部に到達するのを防止するため、又は、騒音が建築物の外部から内部に侵入するのを防止するため、様々な防音材が用いられている。例えば、特許文献1には、融点200℃以上の熱可塑性重合体、具体的には、ポリブチレンテレフタレートを用いた吸音材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-69823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の防音材では、特定の膜厚以下で、音の周波数によって、コインシデンス効果による透過損失の低減が著しく、遮音効果が十分でないことが判明した。コインシデンス効果とは、特定の周波数の音が防音材に入射する際に、共振が生じ、当該周波数付近で透過損失が低下する現象をいう。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、コインシデンス効果が抑制され、遮音性に優れる遮音シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の液晶性樹脂を含み、膜厚及び面密度の各々が特定の範囲内である液晶性樹脂フィルムを遮音シートに用いることで上記の課題を解決できることを見出した。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムを備える遮音シートであって、
前記少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムは、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmである遮音シート。
【0008】
(2) 前記液晶性樹脂が、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を全構成単位に対し40~100モル%含む全芳香族ポリエステル又は全芳香族ポリエステルアミドである、(1)に記載の遮音シート。
【0009】
(3) 前記液晶性樹脂が、2,6-ナフチレン基を有する構成単位を全構成単位に対し0.1~30モル%含む、(1)又は(2)に記載の遮音シート。
【0010】
(4) 前記液晶性樹脂が、非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対し90~100モル%含む、(1)~(3)のいずれかに記載の遮音シート。
【0011】
(5) 前記非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位が、下記構造式(I)で表される構成単位、下記構造式(II)で表される構成単位、下記構造式(III)で表される構成単位、及び下記構造式(IV)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1種である、(1)~(4)のいずれかに記載の遮音シート。
【化1】
【0012】
(6) 更に、少なくとも1層の多孔質層を備える、(1)~(5)のいずれかに記載の遮音シートであって、
前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む遮音シート。
【0013】
(7) 前記多孔質材料が、フェルト、グラスウール、フォーム、及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(6)に記載の遮音シート。
【0014】
(8) 1層の液晶性樹脂フィルムと、
少なくとも1層の多孔質層、及び/又は、少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムと、
を備える積層体であって、
前記1層の液晶性樹脂フィルム又は前記少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムは、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmであり、
前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む積層体。
【0015】
(9) 前記液晶性樹脂が、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を全構成単位に対し40~100モル%含む全芳香族ポリエステル又は全芳香族ポリエステルアミドである、(8)に記載の積層体。
【0016】
(10) 前記液晶性樹脂が、2,6-ナフチレン基を有する構成単位を全構成単位に対し0.1~30モル%含む、(8)又は(9)に記載の積層体。
【0017】
(11) 前記液晶性樹脂が、非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対し90~100モル%含む、(8)~(10)のいずれかに記載の積層体。
【0018】
(12) 前記非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位が、下記構造式(I)で表される構成単位、下記構造式(II)で表される構成単位、下記構造式(III)で表される構成単位、及び下記構造式(IV)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1種である、(8)~(11)のいずれかに記載の積層体。
【化2】
【0019】
(13) 前記多孔質材料が、フェルト、グラスウール、フォーム、及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(8)~(12)のいずれかに記載の積層体。
【0020】
(14) 前記積層体が遮音シートとして用いられる、(8)~(13)のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コインシデンス効果が抑制され、遮音性に優れる遮音シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、非対称な分子構造を有するモノマーを説明するための図である。図1は、分子骨格は対称であるが置換基を考慮すると非対称となる分子構造を示す。
図2図2は、実施例及び比較例において透過損失を測定するのに用いた試験装置を模式的に示す部分断面図である。
図3図3(a)は、周波数が50Hz~1.6kHzの範囲で透過損失を測定した結果を示すグラフであり、図3(b)は、周波数が500Hz~6.4kHzの範囲で透過損失を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<遮音シート>
本発明に係る遮音シートは、少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムを備え、前記少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムは、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmである。本発明に係る遮音シートは、上記の構成を備えることにより、コインシデンス効果が抑制され、遮音性に優れる。音が上記遮音シートに入射して振動が発生すると、当該遮音シート中の液晶性樹脂は、この振動を熱エネルギーに変換する特性に優れているため、上記振動が低減される結果、コインシデンス効果が抑制され、遮音性に優れると考えられる。上記遮音シートが2層以上の液晶性樹脂フィルムを備える場合、液晶性樹脂フィルム同士は、同一でも異なっていてもよい。
【0024】
[液晶性樹脂フィルム]
(液晶性樹脂)
本発明で使用する液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性樹脂は直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0025】
上記のような液晶性樹脂の種類としては、融点が250℃以上400℃以下である限り、特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0~10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。なお、液晶性樹脂は、融点が250℃以上400℃以下であると、取り扱い性、加工性等が良好となりやすい。
【0026】
本発明に適用できる液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0027】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0028】
本発明に適用できる液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化3】
(X:アルキレン(C~C)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である)
【化4】
【化5】
(Y:-(CH-(n=1~4)及び-O(CHO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0029】
本発明で使用する液晶性樹脂は、得られる液晶性樹脂フィルムの制振性が向上しやすいことから、2,6-ナフチレン基を有する構成単位を全構成単位に対し0.1~30モル%含むことが好ましく、1~30モル%含むことがより好ましい。2,6-ナフチレン基を有する構成単位としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位、2,6-ジヒドロキシナフタレンに由来する構成単位が挙げられ、制振性の点で、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位が好ましい。
【0030】
中でも、製膜性の観点から、本発明で使用する液晶性樹脂は、非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対し90~100モル%含むことが好ましく、92~100モル%含むことがより好ましい。非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位を含む液晶性樹脂としては、例えば、以下の(1)又は(2)に示すような液晶性樹脂を挙げることができる。
【0031】
(1)主として非対称な分子構造を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル。
【0032】
非対称な分子構造とは、図1に示すように分子骨格は対称であるが置換基(R、R)を考慮すると非対称となる分子構造をいう。ここで分子骨格とは、例えば、図1の分子構造の場合、置換基(R、R)を除いた残りの原子団(即ち、1,4-フェニレン基)が分子骨格である。
【0033】
非対称な分子構造を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル誘導体、ヒドロキシナフトエ酸及びそのエステル誘導体が挙げられる。
より具体的には以下の化合物を挙げることができる。
4-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシ安息香酸;
2,5-ジクロロ-4-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシ安息香酸のハロゲン置換体等;
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等のヒドロキシナフトエ酸;
4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシジフェニルエーテル、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシジフェニルメタン、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシジフェニルスルフィド等のジフェニル化合物等が挙げられる。
【0034】
(2)主として(2-A)非対称な分子構造を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(2-B)非対称な分子構造を有する芳香族ヒドロキシアミン及びその誘導体の1種又は2種以上と、からなるポリエステルアミド;
【0035】
(2-A)非対称な分子構造を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体は、(1)で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0036】
(2-B)非対称な分子構造を有する芳香族ヒドロキシアミン及びその誘導体について説明する。
【0037】
芳香族ヒドロキシアミンは、非対称な分子構造を有するものであればよい。非対称な分子構造は上記で説明したものと同義である。芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4-アミノフェノール、4-アセトアミドフェノール、4-アミノ-4’-ヒドロキシジフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシジフェニルエーテル、4-アミノ-4’-ヒドロキシジフェニルメタン、4-アミノ-4’-ヒドロキシジフェニルスルフィド等が挙げられる。これら芳香族ヒドロキシアミンのエステル誘導体及び/又はアミド誘導体としては、アセチル、プロピオニル等の誘導体が挙げられる。
【0038】
(1)又は(2)の液晶性樹脂においては、更に上記の構成成分(モノマー)に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0039】
非対称な分子構造を有するモノマーに由来する構成単位は、製膜性の観点から、下記構造式(I)で表される構成単位、下記構造式(II)で表される構成単位、下記構造式(III)で表される構成単位、及び下記構造式(IV)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1種であることが、特に好ましい。
【0040】
【化6】
【0041】
本発明に用いられる液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、N-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001~1質量%、特に約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0042】
上記のような方法で得られた液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec-1で3Pa・s以上500Pa・s以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0043】
液晶性樹脂フィルムにおいて、液晶性樹脂の含有量は、例えば、50~100質量%でよく、70~100質量%でもよく、90~100質量%でもよく、100質量%でもよい。
【0044】
(その他の成分)
液晶性樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、液晶性樹脂の他に、液晶性樹脂以外の重合体、繊維状充填剤、板状充填剤、粒状充填剤、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、及び難燃剤のうちの1種以上を配合してもよい。
【0045】
(液晶性樹脂フィルムの製造方法)
液晶性樹脂フィルムは、例えば、液晶性樹脂を押出成形して、又は、液晶性樹脂とその他の成分とを含む液晶性樹脂組成物を押出成形して得られる。押出成形としては、特に限定されず、Tダイ法、ラミネート体延伸法、インフレーション法等が挙げられる。押出成形後に、及び/又は、押出成形時に、必要に応じ、延伸を行ってもよい。延伸としては、特に限定されず、一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二次延伸は、同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
【0046】
なお、上記液晶性樹脂組成物の製造方法は、液晶性樹脂とその他の成分とを均一に混合できれば特に限定されず、従来知られる樹脂組成物の製造方法から適宜選択することができる。例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出した後、得られた液晶性樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工する方法が挙げられる。
【0047】
(膜厚)
液晶性樹脂フィルムの膜厚は、5~500μmであり、好ましくは10~400μmであり、より好ましくは50~300μmである。液晶性樹脂フィルムの膜厚が上記範囲内であると、得られる遮音シートは、遮音性に優れたものとなりやすい。
【0048】
(面密度)
液晶性樹脂フィルムの面密度は、0.0007~0.07g/cmであり、好ましくは0.0014~0.056g/cmであり、より好ましくは0.007~0.042g/cmである。液晶性樹脂フィルムの面密度が上記範囲内であると、得られる遮音シートは、遮音性に優れたものとなりやすい。
【0049】
[多孔質層]
本発明に係る遮音シートは、更に、少なくとも1層の多孔質層を備えてもよく、前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む。これにより、上記遮音シートは、遮音性が更に向上しやすくなり、また、優れた吸音性を発現しやすくなる。上記遮音シートが2層以上の多孔質層を備える場合、多孔質層同士は、同一でも異なっていてもよい。
【0050】
(多孔質材料)
多孔質材料としては、特に限定されず、例えば、フェルト、グラスウール、フォーム、不織布等が挙げられる。フォームとしては、特に限定されず、例えば、ポリウレタンフォーム、メラミンフォーム等が挙げられる。不織布を構成する繊維は、特に限定されず、天然繊維でも合成繊維でもよい。多孔質材料は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
(その他の成分)
多孔質層は、本発明の目的を損なわない範囲で、多孔質材料の他に、着色剤、難燃剤等のその他の成分を含んでもよい。
【0052】
(厚み)
多孔質層の厚みは、得られる遮音シートの遮音性、吸音性等の観点から、好ましくは2000~50000μmであり、より好ましくは2000~30000μmである。
【0053】
(多孔質層の製造方法)
多孔質層の製造方法は、特に限定されず、多孔質層を構成する多孔質材料に応じて、適宜、公知の製造方法から選択すればよい。
【0054】
[その他の層]
本発明に係る遮音シートは、本発明の目的を損なわない範囲で、液晶性樹脂フィルム及び多孔質層以外に、その他の層を備えてもよい。その他の層としては、特に限定されず、液晶性樹脂フィルム以外の樹脂フィルム、紙、織物等が挙げられる。
【0055】
[遮音シートの構成]
遮音シートの構成は、特に限定されず、例えば、下記の構成が挙げられる。
(a)1層の液晶性樹脂フィルムのみからなる遮音シート
(b)2層以上の液晶性樹脂フィルムのみからなる遮音シート
(c)少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層とがこの順序で積層してなる遮音シート
(d)少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層と少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムとがこの順序で積層してなる遮音シート
(e)少なくとも1層の多孔質層と少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層とがこの順序で積層してなる遮音シート
【0056】
[遮音シートの製造方法]
遮音シートの製造方法は、特に限定されず、遮音シートの構成に応じて、適宜、選択すればよい。遮音シートが1層の液晶性樹脂フィルムのみからなる場合は、液晶性樹脂フィルムの製造方法と同じである。遮音シートが2層以上の液晶性樹脂フィルムのみからなる場合や、遮音シートが少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層とを備える場合は、例えば、重ね合わせた層同士を、接着及び/又は融着等の公知の接合方法で、互いに接合する方法が挙げられる。
【0057】
[用途]
本発明に係る遮音シートは、コインシデンス効果が抑制され、遮音性に優れるので、遮音性を要する用途に用いることができる。例えば、騒音等の侵入、流出等を防止するために、車両、船舶、航空機等の内装材;電気冷蔵庫、掃除機、エアーコンディショナー等の家電製品の内部に設置される遮音材;建築物の壁材;土木工事等における遮音壁;電動工具、油圧工具等の内部に設置される遮音材;原動機、発電機等の周囲に設置される遮音材として用いられる。その際、本発明に係る遮音シートは、適宜、所望のサイズや形状に加工され、必要に応じ、他の材料や部材とともに用いられる。
【0058】
<積層体>
本発明に係る積層体は、1層の液晶性樹脂フィルムと、少なくとも1層の多孔質層、及び/又は、少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムと、を備え、前記1層の液晶性樹脂フィルム又は前記少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムは、融点が250℃以上400℃以下である液晶性樹脂を含み、膜厚が5~500μm、面密度が0.0007~0.07g/cmであり、前記少なくとも1層の多孔質層は、多孔質材料を含む。ここで、前記1層の液晶性樹脂フィルム又は前記少なくとも1層の別の液晶性樹脂フィルムは、遮音シートの必須の構成要素として液晶性樹脂フィルムについて上述した通りである。また、前記少なくとも1層の多孔質層は、遮音シートの任意の構成要素として多孔質層について上述した通りである。本発明に係る積層体は、遮音シートとして好適に用いられる。
【0059】
積層体の構成は、特に限定されず、例えば、下記の構成が挙げられる。
(b’)2層以上の液晶性樹脂フィルムのみからなる積層体
(c’)少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層とがこの順序で積層してなる積層体
(d’)少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層と少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムとがこの順序で積層してなる積層体
(e’)少なくとも1層の多孔質層と少なくとも1層の液晶性樹脂フィルムと少なくとも1層の多孔質層とがこの順序で積層してなる積層体
【実施例
【0060】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に330℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして融点が322℃のペレットを得た。得られたペレットを溶融押出し、インフレーション成形法により、膜厚が230μm、面密度が0.032g/cmの液晶性樹脂フィルム(以下、「LCPフィルム」ともいう。)を得た。
(原料)
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);2524g(79.3モル%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);867g(20モル%)
テレフタル酸(TA);27g(0.3モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);150mg
アシル化剤(無水酢酸);2336g
【0062】
[比較例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を210℃まで2時間かけて昇温し、エステル化反応を進行させた。その後、更に250℃まで30分かけて昇温し、そこから20分かけて0.5Torr(即ち66.5Pa)まで減圧して、メタノール、過剰の1,4-ブタンジオール、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして融点が224℃のペレットを得た。得られたペレットを溶融押出し、インフレーション成形法により、膜厚が190μm、面密度が0.025g/cmのポリブチレンテレフタレートフィルム(以下、「PBTフィルム」ともいう。)を得た。
(原料)
テレフタル酸ジメチル;2204g(40モル%)
1,4-ブタンジオール;1535g(60モル%)
金属塩系触媒(チタン酸ブチル触媒);1250mg
【0063】
[透過損失の測定]
ブリュエル・ケアー製4206T型透過損失管キット(50Hz-6.4kHz)を用いて、図2に模式的に示す通りに、試料として実施例1又は比較例1のフィルムを設置した後、スピーカから音波を発生させ、マイクロホン1~4により音圧を測定した結果から、透過損失を決定した。なお、周波数が50Hz~1.6kHzの範囲では、内径100mmの太管を用い、周波数が500Hz~6.4kHzの範囲では、内径29mmの細管を用いた。結果を図3(a)及び図3(b)に示す。
【0064】
図3(a)及び図3(b)の結果から分かる通り、同程度の膜厚及び面密度を有するLCPフィルム及びPBTフィルム同士を比較したところ、PBTフィルムでは、コインシデンス効果がより強く生じて透過損失が著しく低減したが、LCPフィルムでは、コインシデンス効果が生じても透過損失の低減が抑えられており、優れた遮音性を有することが確認された。
図1
図2
図3