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  • 特許-マンガンイオン除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】マンガンイオン除去方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/21 20060101AFI20231113BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231113BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20231113BHJP
   C02F 1/64 20230101ALI20231113BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20231113BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20231113BHJP
【FI】
C25B1/21
C22B7/00 C
C25C1/08
C02F1/64 A
H01M10/54
C22B23/00 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020061311
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021161448
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 康文
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186114(JP,A)
【文献】特開昭58-216780(JP,A)
【文献】特開2006-316293(JP,A)
【文献】特開2015-103320(JP,A)
【文献】特開2016-191129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/21
C22B 7/00
C25C 1/08
C02F 1/64
B09B 3/70
H01M 10/54
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンイオンを含むマンガン含有溶液からマンガンイオンを除去する方法であって、
マンガンイオンを含む電解液を用いた電解採取又は、マンガンを含む電極を用いた電解精製で生成された二酸化マンガンを含む電解生成物を、前記マンガン含有溶液に添加し、前記電解生成物を触媒として用いて、当該マンガン含有溶液中のマンガンイオンをマンガン酸化物として析出させる析出工程を含
前記析出工程で、前記マンガン含有溶液に前記電解生成物を添加した後、前記マンガン含有溶液のpHを0.1~7.0とする、マンガンイオン除去方法。
【請求項2】
前記析出工程でマンガン含有溶液を添加する前記電解生成物中の二酸化マンガンの一部又は全部が、ラムズデライト型二酸化マンガン(R-MnO2)である、請求項1に記載のマンガンイオン除去方法。
【請求項3】
前記析出工程で、前記マンガン含有溶液に次亜塩素酸ソーダを添加し、前記マンガン含有溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)を600mV~1200mVとする、請求項1又は2に記載のマンガンイオン除去方法。
【請求項4】
前記マンガン含有溶液がさらに、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のマンガンイオン除去方法。
【請求項5】
前記マンガン含有溶液が、リチウムイオン電池廃棄物に対して湿式処理を含む処理を施して得られたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載のマンガンイオン除去方法。
【請求項6】
コバルトイオン及び/又はニッケルイオンをさらに含む電解液を用いたコバルト又はニッケルの電解採取で生成された前記電解生成物を、前記析出工程で前記マンガン含有溶液に添加する、請求項1~5のいずれか一項に記載のマンガンイオン除去方法。
【請求項7】
前記電解液が、リチウムイオン電池廃棄物に対して湿式処理を含む処理を施して得られたものである、請求項1~6のいずれか一項に記載のマンガンイオン除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、マンガン含有溶液からマンガンイオンを除去する方法に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄されたリチウムイオン電池又は電子機器等に対して湿式処理を施して得られる金属含有溶液その他の種々の溶液には、マンガンイオンが含まれることがある。
【0003】
たとえば、特許文献1及び2では、リチウムイオン電池の正極活物質を含む廃材を酸で浸出させ、マンガンイオンを含む金属混合水溶液を得た後、溶媒抽出によりマンガンイオンを抽出し、その後に炭酸化等を行ってマンガンを分離させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-162982号公報
【文献】特開2016-194105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した溶液中のマンガンイオンは、当該溶液に対する他の金属の回収等のその後の処理を阻害し得る不純物となることがある。溶液中のマンガンイオンを分離させるには、特許文献1及び2に記載されているような溶媒抽出及び炭酸化や、生物処理法等があるが、これらの手法はコストの増大を招く。それ故に、溶液中のマンガンイオンを、低コストにて容易に除去することが望まれている。
【0006】
この明細書では、マンガン含有溶液からマンガンイオンを容易に除去することができるマンガンイオン除去方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書で開示するマンガンイオン除去方法は、マンガンイオンを含むマンガン含有溶液からマンガンイオンを除去する方法であって、マンガンイオンを含む電解液を用いた電解採取又は、マンガンを含む電極を用いた電解精製で生成された二酸化マンガンを含む電解生成物を、前記マンガン含有溶液に添加し、前記電解生成物を触媒として用いて、当該マンガン含有溶液中のマンガンイオンをマンガン酸化物として析出させる析出工程を含み、前記析出工程で、前記マンガン含有溶液に前記電解生成物を添加した後、前記マンガン含有溶液のpHを0.1~7.0とするというものである。
【発明の効果】
【0008】
上述したマンガンイオン除去方法によれば、マンガン含有溶液からマンガンイオンを容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】リチウムイオン電池廃棄物の処理方法の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、上述したマンガンイオン除去方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態のマンガンイオン除去方法は、マンガンイオンを含むマンガン含有溶液からマンガンイオンを除去する方法であって、マンガンイオンを含む電解液を用いた電解採取又は、マンガンを含む電極を用いた電解精製で生成された二酸化マンガンを含む電解生成物を触媒として用いる。具体的には、上記の電解生成物をマンガン含有溶液に添加し、これにより、二酸化マンガンを含む当該電解生成物が触媒として働いて、マンガン含有溶液中のマンガンイオンがマンガン酸化物として析出する。
【0011】
(マンガン含有溶液)
マンガン含有溶液は、マンガンが溶解してマンガンイオンが含まれるものであれば特に問わず、種々の溶液とすることができる。たとえば、製品寿命又は製造不良その他の理由により廃棄されたリチウムイオン電池廃棄物又は電子機器廃棄物を、そこに含まれる有価金属の回収を目的として湿式処理を含む処理を施して得られる溶液には、マンガンイオンが含まれることがあり、この場合、当該溶液をマンガン含有溶液とすることができる。
【0012】
マンガン含有溶液は、これに限らないが典型的には、図1(a)又は(b)に例示するようなリチウムイオン電池廃棄物の処理方法等にて、リチウムイオン電池廃棄物に対して前処理及び湿式処理を施して得られる。リチウムイオン電池廃棄物の処理方法について詳細に述べると、次のとおりである。
【0013】
リチウムイオン電池廃棄物は、その周囲を包み込む外装として、アルミニウムを含む筐体を有する。この筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。また、リチウムイオン電池廃棄物は、上記の筺体内に、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択される一種の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むことがある。またその他に、リチウムイオン電池廃棄物には、銅、鉄等が含まれる場合がある。この実施形態では、銅を含むリチウムイオン電池廃棄物を対象とする。さらに、リチウムイオン電池廃棄物には通常、筺体内に電解液が含まれる。電解液としては、たとえば、エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート等が使用されることがある。
【0014】
上述したリチウムイオン電池廃棄物に対しては、多くの場合、前処理として、焙焼処理、破砕処理及び篩別処理を行うことがある。
焙焼処理では、ロータリーキルン炉又はその他の加熱設備を用いて、上記のリチウムイオン電池廃棄物を加熱する。焙焼処理では、リチウムイオン電池廃棄物を、たとえば450℃~1000℃、好ましくは600℃~800℃の温度範囲で0.5時間~4時間にわたって保持する加熱を行うことが好適である。焙焼処理の後は、衝撃式等の粉砕機で、リチウムイオン電池廃棄物の筐体を破壊し、そこから正極材及び負極材を取り出すための破砕処理を行うことができる。破砕処理の後、たとえばアルミニウムの粉末を除去する目的で、適切な目開きの篩を用いてリチウムイオン電池廃棄物を篩分けする篩別処理を行う。このような前処理を経たリチウムイオン電池廃棄物は、粉末状のもの(いわゆる電池粉)になる。
【0015】
その後、粉末状のリチウムイオン電池廃棄物を硫酸酸性溶液等の浸出液に浸出させ、リチウムイオン電池廃棄物に含まれる各種の金属が溶解した浸出後液を得る処理や、浸出後液から金属を分離させて回収する処理を含む湿式処理を行う。湿式処理は、たとえば次に述べるようにして行われることがある。
【0016】
浸出は、pHを0.0~2.0、酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)を0mV以下として行うことができ、これにより浸出後液が得られる。その後、必要に応じて、浸出後液を電解液として、電解採取により銅を析出させる脱銅電解を行うことができるが、これは省略することもある。
【0017】
次いで、必要に応じて、浸出後液又は電解後液を中和して、そこからアルミニウムの少なくとも一部及び/又は鉄を分離させる。中和に際しては、はじめに、アルカリの添加によりpHを4.0~6.0、酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)は-500mV~100mVとすることで、アルミニウムを沈殿させることができる。その後、酸化剤を添加するとともに、pHを3.0~4.0の範囲内に調整することにより、鉄を沈殿させることができる。
【0018】
その後、溶媒抽出により、中和後液からマンガンイオンを抽出して分離させる。このとき、場合によってはアルミニウムイオンの残部も抽出され得る。マンガンイオンを抽出するこの溶媒抽出では、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用することが好ましい。燐酸エステル系抽出剤としては、たとえばジ-2-エチルヘキシルリン酸(商品名:D2EHPA又はDP8R)等が挙げられる。オキシム系抽出剤は、アルドキシムやアルドキシムが主成分のものが好ましい。具体的には、たとえば2-ヒドロキシ-5-ノニルアセトフェノンオキシム(商品名:LIX84)、5-ドデシルサリシルアルドオキシム(商品名:LIX860)、LIX84とLIX860の混合物(商品名:LIX984)、5-ノニルサリチルアルドキシム(商品名:ACORGAM5640)等がある。
【0019】
さらにその後、マンガン抽出後の抽出後液から、溶媒抽出及び逆抽出によりコバルト及びニッケルを回収するとともに、必要であればリチウムを回収する。
はじめにコバルトの回収を行い、ここでは、上記の抽出後液に対して、好ましくはホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出を行って、コバルトイオンを溶媒に抽出する。ホスホン酸エステル系抽出剤としては、ニッケルイオンとコバルトイオンの分離効率の観点から2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名:PC-88A、Ionquest801)が好ましい。溶媒抽出後のコバルトイオンを含有する抽出剤(有機相)に対しては、逆抽出を行う。逆抽出で水相側に移動したコバルトイオンは、電解採取によって回収する。
次いで、ニッケルの回収として、コバルト回収時の溶媒抽出で得られる抽出後液に対して、好ましくはカルボン酸系抽出剤を使用して溶媒抽出を行い、ニッケルイオンを分離する。カルボン酸系抽出剤としては、たとえばネオデカン酸、ナフテン酸等があるが、なかでもニッケルイオンの抽出能力の理由によりネオデカン酸が好ましい。溶媒抽出後のニッケルイオンを含有する抽出剤(有機相)に対しては逆抽出を行い、水相側に移動したニッケルイオンは電解採取によって回収する。
その後、ニッケル回収時の溶媒抽出で得られる抽出後液からニッケルイオンの残部およびリチウムイオンを抽出するとともに逆抽出し、当該抽出および逆抽出の操作を繰り返してリチウムイオンを濃縮する。それによりリチウム濃縮液を得る。このリチウム濃縮で用いる抽出剤としては、2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシルやジ-2-エチルヘキシルリン酸を含むものを用いることが好ましい。リチウム濃縮液に対して、必要に応じて中和を行った後、炭酸化により炭酸リチウムとしてリチウムを回収することができる。
【0020】
上述したような湿式処理の各段階で得られてマンガンイオンを含む溶液を、この実施形態でいうマンガン含有溶液とすることができる。たとえば、上述した浸出後液、中和後液又は、各種の抽出後液もしくは逆抽出後液等を、マンガン含有溶液としてもよい。図1(a)及び(b)はいずれも、浸出後液をマンガン含有溶液としている。図1(a)では、浸出と脱銅電解との間に、この実施形態のマンガンイオン除去方法を適用することとし、また図1(b)では、浸出と、中和による鉄及びアルミニウムの除去との間に、この実施形態のマンガンイオン除去方法を適用している。あるいは、上述したようにマンガンイオンを抽出した溶媒を逆抽出して得られる逆抽出後等を、マンガン含有溶液とすることもある。
【0021】
マンガン含有溶液は、マンガンイオン濃度が、たとえば0.5g/L~50.0g/L、典型的には1g/L~20g/Lである。マンガン含有溶液は、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含むことがあり、そのコバルトイオン濃度は、たとえば10g/L~40g/L、典型的には15g/L~25g/Lであり、ニッケルイオン濃度は、たとえば1g/L~40g/L、典型的には5g/L~15g/Lである。その他、マンガン含有溶液は、銅、アルミニウム及び鉄からな群から選択される少なくとも一種を含むことがあり、その濃度は、たとえば500mg/Lである場合がある。マンガン含有溶液は、硫酸酸性溶液である場合がある。
【0022】
(電解生成物)
上述したマンガン含有溶液に添加する電解生成物は、マンガンイオンを含む電解液を用いた電解採取又は、マンガンを含む電極を用いた電解精製で生成されたものであって、二酸化マンガンを含むものである。
【0023】
電解生成物が得られる電解採取や電解精製は、一般に知られている手法にて行われる。電解採取では、マンガンイオンを含む電解液に、陽極及び陰極を含む電極を浸漬させ、それらの電極間に電圧を印加する。電解液は、たとえば、先述したようなリチウムイオン電池廃棄物の処理方法にて、リチウムイオン電池廃棄物に対して湿式処理を含む処理を施して得られたものとすることができる。
【0024】
より詳細には、たとえば、コバルトの電解採取では、マンガンイオンだけでなくコバルトイオン、場合によってはさらにニッケルイオンを含む電解液を用いて電気分解を行うと、コバルトが電解還元して陰極の表面に電着する。また、ニッケルの電解採取では、マンガンイオンだけでなくニッケルイオン、場合によってはさらにコバルトイオンを含む電解液を用いて電気分解を行うと、ニッケルが電解還元して陰極の表面に電着する。また、脱銅電解では、銅が陰極の表面に付着する。このとき、陰極へのコバルト、ニッケル又は銅の電着とともに、電解液中のマンガンイオンが、陽極で酸化されて二酸化マンガンとなって析出する。これにより、二酸化マンガンを含む電解生成物が得られる。なお、このようなコバルトやニッケル、銅の電解採取は、先述したリチウムイオン電池廃棄物に対して湿式処理を施すときにも行われるが、当該リチウムイオン電池廃棄物に対する処理の際に行われるものに限らない。あるいは、亜鉛の電解採取等でも、電解液にマンガンイオンが含まれると、陽極上に二酸化マンガンを含む電解生成物が生成される。また、マンガンを含む陽極等の電極を用いて電解精製を行った場合にも、二酸化マンガンを含む電解生成物が得られる。このような電解採取や電解製錬は、一般的な条件で行われ得る。
【0025】
上述した電解採取又は電解精製で生成される電解生成物は、上記の二酸化マンガンの一部又は全部が、ラムズデライト型(R型)の結晶構造を有する二酸化マンガン(ラムズデライト型二酸化マンガン、R-MnO2)として含まれることがある。
【0026】
電解生成物がラムズデライト型二酸化マンガンを含む場合、水和により電子を容易に供給する性質を持つことから、上述した反応がより一層促進し、マンガン含有溶液からのマンガンイオンの除去がさらに効果的に行われる。電解生成物中の二酸化マンガンの一部又は全部がラムズデライト型二酸化マンガンであるか否かは、電解生成物に対して粉末X線回折法を行うことにより確認することができる。
【0027】
電解生成物中の二酸化マンガンの多くがラムズデライト型二酸化マンガンであることが好ましく、具体的には、電解生成物中の二酸化マンガンのうち、好ましくは10質量%以上、より好ましくは40質量%~90質量%がラムズデライト型二酸化マンガンであることが好ましい。
【0028】
なお、電解生成物には、二酸化マンガンの他、四酸化三マンガン、三酸化二マンガン及び水酸化マンガンからなる群から選択される少なくとも一種が含まれる場合がある。電解生成物中の二酸化マンガンの含有量は、50質量%~99質量%であることが好ましく、80質量%~99室量%であることがより一層好ましい。
【0029】
(析出工程)
上述した電解により得られる二酸化マンガンは、多くの場合、水和物(MnO2・H2O)である。析出工程で、このような二酸化マンガンを含む電解生成物をマンガン含有溶液に添加すると、当該二酸化マンガンがマンガン含有溶液中のマンガンイオンと接触し、式:Mn2++MnO2・H2O→MnO2・MnO+2H+の反応等に基づいて、マンガンイオンがマンガン酸化物(MnO2・MnO等)として析出し、これが沈殿すると考えられる。それにより、マンガン含有溶液中のマンガンイオンを容易に除去することができる。またここでは、電解採取又は電解精製で、たとえば副次的に生成され得る当該電解生成物を有効に活用することができる。
【0030】
析出工程では、マンガン含有溶液に電解生成物を添加した後、マンガン含有溶液のpHを0.1~7.0とすること、マンガン含有溶液に添加剤として次亜塩素酸ソーダを添加すること、マンガン含有溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)を600mV~1200mVとすることがそれぞれ好ましい。
【0031】
電解生成物の添加後、マンガン含有溶液のpHが低すぎる場合は、反応が不十分になる。この一方で、マンガン含有溶液のpHが高すぎる場合は、水酸化マンガンという形で析出する可能性がある。
また、マンガン含有溶液に次亜塩素酸ソーダを添加したときは、一旦沈殿した酸化物がさらに酸化されてR型に変化するので、析出反応がより有効に促進される。上述した式:Mn2++MnO2・H2O→MnO2・MnO+2H+の反応におけるMnO2・MnOをMnO2・H2Oへ変化させることに、次亜塩素酸ソーダの塩素が用いられる。次亜塩素酸ソーダを添加する場合、塩素の発生を抑制しつつマンガン酸化物を効果的に析出させるとの観点から、pHを比較的高くすることが好適である。但し、次亜塩素酸ソーダを添加しなくても、電解生成物の添加によりマンガン酸化物が析出する。
また、電解生成物を添加した後のマンガン含有溶液の酸化還元電位が低すぎる場合は、反応が激しくなりすぎるおそれがある。
【0032】
上述した析出工程を経ることにより、マンガン含有溶液のマンガンイオン濃度を、たとえば5g/L以下、さらには1g/L以下にまで低下させ得る場合がある。
【実施例
【0033】
次に、上述したようなマンガンイオン除去方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0034】
(試験例1)
表1に示すpH、ORP、マンガンイオン濃度のマンガン含有溶液100mLに、コバルトの電解採取により得られた二酸化マンガンを含む電解生成物を添加した。この電解生成物に対して粉末X線回折法を行ったところ、当該電解生成物中の二酸化マンガンにラムズデライト型二酸化マンガンが含まれていることが確認された。撹拌しただけで 電解生成物の添加直後のpH、ORP、Mn濃度も表1に示している。
【0035】
その後、次亜塩素酸ソーダ溶液(有効塩素5%)3mLを添加した。当該添加から3時間が経過したときと、24時間が経過したときのpH、ORP、マンガンイオン濃度を表1に示す。
【0036】
表1より、二酸化マンガンを含む電解生成物を添加したことにより、マンガンイオン濃度が有効に低下したことが解かる。
【0037】
【表1】
【0038】
(試験例2)
マンガン含有溶液に対して、何も添加しなかった場合、上記の電解生成物を添加した場合、粉状の二酸化マンガン試薬を添加した場合、粒状の二酸化マンガン試薬を添加した場合を比較するため、添加したもの以外は試験例1と同様の条件で試験を行い、次亜塩素酸ソーダ溶液を添加したときから3時間が経過したときの各マンガンイオン濃度を調べた。その結果を表2に示す。
【0039】
なおここで、粉状の二酸化マンガン試薬は、富士フイルム和光純薬社の酸化マンガン(IV)、99.5%であり、粒状の二酸化マンガン試薬は、富士フイルム和光純薬社の酸化マンガン(IV)、粒状である。粉状の二酸化マンガン試薬と粒状の二酸化マンガン試薬との主な違いは、粒径である。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、マンガンイオン濃度は、いずれの二酸化マンガン試薬を添加しても低下しなかったのに対し、電解生成物を添加すると大きく低下している。このことから、電解により得られた二酸化マンガンを含む電解生成物が、マンガンイオンの除去に有効であることが解かる。
【0042】
よって、先に述べたマンガンイオン除去方法によれば、マンガン含有溶液からマンガンイオンを容易かつ有効に除去できることが解かった。
図1