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特許7383592酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法、及び酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法、及び酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/40 20170101AFI20231113BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20231113BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20231113BHJP
   B01D 59/26 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C01B32/40
B01D53/04
C01B32/50
B01D59/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020164458
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056613
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼岡 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中山 栄希
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137569(JP,A)
【文献】特開2014-148445(JP,A)
【文献】特開2011-202271(JP,A)
【文献】特開2003-149390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/40
C01B 32/50
B01D 53/04
B01D 59/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料としての炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む水と、を接触させた後、
前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させる、
酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させて生成した反応混合ガスから、一酸化炭素を分離回収する、請求項1に記載の酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法。
【請求項3】
前記反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させて除去することにより、一酸化炭素を分離回収する、請求項2に記載の酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法。
【請求項4】
原料としての炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む水と、を接触させた後、
前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させる、
酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させて生成した反応混合ガスから、酸素同位体標識二酸化炭素を分離回収する、請求項4に記載の酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法。
【請求項6】
前記反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させ、前記二酸化炭素を吸着した吸着剤を加熱し、前記吸着剤から二酸化炭素を脱離させることにより、二酸化炭素を分離回収する、請求項5に記載の酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法、及び酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同位体で標識された一酸化炭素(同位体標識一酸化炭素)は質量分析の内部標準として用いられる。また、同位体標識一酸化炭素は反応性が高く、自然科学及び医療等の産業分野における標識物質の標識原料として有用である。
【0003】
特許文献1には、1216O、1217O、1218O、1316O、1317O及び1318Oからなる群より選ばれる少なくとも一種類の安定同位体を選択的に含む一酸化炭素と、H 16O、H 17O及びH 18Oからなる群より選ばれる少なくとも一種類の安定同位体を選択的に含む水蒸気とを混合して、二酸化炭素安定同位体を得、前記二酸化炭素安定同位体と水素とを混合する、一酸化炭素安定同位体の製造方法、並びに1216O、1217O、1218O、1316O、1317O及び1318Oからなる群より選ばれる少なくとも一種類の安定同位体を選択的に含む一酸化炭素と、H 16O、H 17O及びH 18Oからなる群より選ばれる少なくとも一種類の安定同位体を選択的に含む水蒸気とを混合する、二酸化炭素安定同位体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-137569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された一酸化炭素の製造方法及び二酸化炭素の製造方法では、天然存在比が小さく高価な高濃度H 18OやH 17Oを多量に必要とする。
ところで、CO製造の別法としては、17Oまたは18Oと炭素の反応が考えられる。
C+→C
2C+→2C
ただしOは、17O又は18Oを表す。
しかし、実際に反応を行ったところ、投入したの酸素同位体濃度に比べ、得られるCOの濃度が低下してしまうことがわかった。その原因を調査したところ、炭素原料に微量含まれる16OがCOの濃度の低下の原因であることが分かった。
【0006】
本発明は、酸素同位体濃度が99.0原子%以上の酸素同位体標識一酸化炭素を製造することが可能な酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法、及び酸素同位体濃度が99.0原子%以上の酸素同位体標識二酸化炭素を製造することが可能な酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の[1]~[6]によって解決される。
[1] 原料としての炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む水と、を接触させた後、前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させる、酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法。
[2] さらに、前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させて生成した反応混合ガスから、一酸化炭素を分離回収する、[1]に記載の酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法。
[3] 前記反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させて除去することにより、一酸化炭素を分離回収する、[2]に記載の酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法。
[4] 原料としての炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む水と、を接触させた後、前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させる、酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法。
[5] さらに、前記炭素と、17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガスと、を反応させて生成した反応混合ガスから、酸素同位体標識二酸化炭素を分離回収する、[4]に記載の酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法。
[6] 前記反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させ、前記二酸化炭素を吸着した吸着剤を加熱し、前記吸着剤から二酸化炭素を脱離させることにより、二酸化炭素を分離回収する、[5]に記載の酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸素同位体濃度が99.0原子%以上の酸素同位体標識一酸化炭素を製造することが可能な酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法、及び酸素同位体濃度が99.0原子%以上の酸素同位体標識二酸化炭素を製造することが可能な酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、炭素と、酸素同位体濃度が天然存在比よりも高い酸素ガスとを反応させる工程を実施するための装置を説明する模式図である。
図2図2は、炭素と、酸素同位体濃度が天然存在比よりも高い水とを接触させる工程を実施するための装置を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
数値範囲を示す際に「~」を用いた場合、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む。
原料としての炭素を、「原料炭素」という場合がある。
17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む水」を、「酸素同位体標識水」という場合がある。
17O又は18Oを天然存在比よりも高濃度に含む酸素ガス」を、「酸素同位体標識酸素ガス」という場合がある。
【0011】
[製造装置]
本発明の酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法、及び酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法に使用できる装置について説明する。
図1に示す装置1は、酸素同位体標識酸素ガスを貯蔵するボンベ11と、ボンベ11から供給される酸素同位体標識酸素ガスの圧力を低減する減圧弁12と、酸素同位体標識酸素ガスを供給するための酸素供給仕切弁13と、酸素同位体標識酸素ガスの流量を調製する流量調整器15と、パージガスPGを供給するためのパージガス供給仕切弁14と、原料炭素を充填した炭素充填筒21と、炭素充填筒21を加熱する加熱炉22と、炭素充填筒21で発生した混合ガス中の一酸化炭素又は二酸化炭素を吸着する吸着筒31と、系全体の圧力を一定に保つ背圧弁32と、から構成されている。
【0012】
ボンベ11は、酸素同位体標識ガスを貯蔵する高圧ガス容器である。
【0013】
炭素充填筒21は、原料炭素を充填及び封入するものである。炭素充填筒21として、例えば、カラム状のものを利用可能である。炭素充填筒21の材質は、反応温度に耐えうるものであれば特に限定さないが、例えば、ニッケル系合金が挙げられる。
図1に示す装置1は、炭素充填筒21を1つ有するように記載されているが、炭素充填筒21を2つ以上有していてもよい。炭素充填筒21内の原料炭素は、酸素同位体標識酸素ガスによる酸化反応が進行するにつれて消費され、減少するため、炭素充填筒21を2系統以上有していれば、炭素充填筒21内の原料炭素の枯渇を気にすることなく、系統を切り替えて原料炭素と酸素同位体標識酸素ガスとの反応を続けることができる。
【0014】
加熱炉22は、目的の反応温度まで炭素充填筒21を加熱できるものであれば特に限定されないが、例えば、電気管状炉を利用可能である。
【0015】
吸着筒31は、吸着剤を使用量充填及び封入できる形態であれば特に限定されないが、例えば、カラム状のものが利用可能である。吸着筒31に充填する吸着剤は、二酸化炭素を選択的に吸着できるものが好ましく、吸着した二酸化炭素を加熱することで脱離するものがより好ましい。二酸化炭素を吸着する吸着剤としては、例えば、モレキュラーシーブ4A(ナカライテスク社製)が挙げられる。吸着剤は、吸着筒31に充填し、活性化処理を行った後、使用することが好ましい。
なお、図1では、一酸化炭素または二酸化炭素の分離回収手段として、吸着剤を充填した吸着筒31を示したが、一酸化炭素又は二酸化炭素を選択的に吸収し分離可能な化学吸収液を貯留した槽、一酸化炭素又は二酸化炭素を選択的に吸収し分離可能な分離膜を、吸着筒31に代えて、又は吸着筒31と併用して、装置1が備えていてもよい。
【0016】
背圧弁32は、系内を目的の圧力に保圧できるものであれば特に限定されない。
【0017】
パージガスPGは、不活性ガスであれば限定されず、例えば、窒素、アルゴン又はヘリウムが使用できる。
【0018】
[原料等]
〈原料炭素〉
原料炭素は、活性炭、黒鉛等の炭素を主成分とするものが好ましい。原料炭素の形状は、顆粒状、粉末状等が使用でき、比表面積の大きい粉末状が好ましい。
活性炭は表面積が大きく、酸素同位体標識水及び酸素同位体標識酸素ガスとの接触面積の点から好ましい。活性炭は16Oの含有率が高いが、本発明では、原料炭素と、酸素同位体標識水と、を接触させることによって16Oが17O又は18Oに充分に置換されるので、問題なく使用できる。
【0019】
〈酸素同位体標識水〉
酸素同位体標識水は、酸素同位体濃度が、天然存在比よりも高濃度の水であれば特に限定されないが、原料炭素に含まれる16Oを充分に置換し、目的物である酸素標識一酸化炭素中の同位体濃度の低下を防ぐには、酸素同位体標識水中の酸素同位体濃度は高い方が好ましい。具体的には、酸素同位体濃度が90.0原子%以上の酸素同位体標識一酸化炭素を製造するには、酸素同位体標識水の酸素同位体濃度は、90.0原子%以上が好ましく、95.0原子%以上がより好ましく、99.0原子%以上がさらに好ましい。
【0020】
〈酸素同位体標識酸素ガス〉
酸素同位体標識酸素ガスは、酸素同位体濃度が天然存在比よりも高濃度の酸素ガスであれば特に限定されない。酸素同位体標識酸素ガスとしては、具体的には、18171816O、1817O、1816O及び1716Oからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。酸素同位体標識酸素ガスは、目的の酸素同位体標識一酸化炭素又は酸素同位体標識二酸化炭素中の17O又は18Oを含んでいれば、その比率及び濃度は特に限定されないが、17O又は18Oの濃度は、目的の酸素同位体標識一酸化炭素又は酸素同位体標識二酸化炭素における酸素同位体濃度と同等以上が望ましい。酸素の天然存在比は、16Oが約99.76原子%、17Oが約0.04原子%、18Oが約0.2原子%である。18O又は17Oの濃度は、目的化合物中の17O又は18Oの濃度を高められるため、高い方が好ましい。99.0原子%以上の17O又は18Oを含む一酸化炭素又は二酸化炭素を製造する場合は、17O又は18Oを99.0原子%以上含む酸素ガスを用いることが好ましい。また、酸素同位体標識酸素ガスは、不活性ガスにより希釈されていてもよい。
【0021】
[酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法(A)]
本発明の酸素同位体標識一酸化炭素の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法(A)」という場合がある。)は、工程(a1)及び工程(a2)を備え、さらに工程(a3)を備えることが好ましい。
【0022】
〈工程(a1)〉
工程(a1)は、原料炭素と、酸素同位体標識水と、を接触させる工程である。
本発明の製造方法(A)では、原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させることにより、原料炭素に含まれる16Oを、酸素同位体標識水に含まれる17O又は18Oと置換することにより、原料炭素中の16O量を低減する。そのため、本発明の製造方法(A)により製造される酸素同位体標識一酸化炭素の同位体希釈が抑制され、酸素同位体濃度が高い酸素同位体標識一酸化炭素の製造が可能となる。
【0023】
原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、原料炭素を酸素同位体標識水に投入し、撹拌する方法が挙げられる。撹拌後、原料炭素をろ別し、加熱真空乾燥して処理済の原料炭素を回収して、後述する反応工程に供する。
原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させる際の量比は、原料炭素の体積1に対して、酸素同位体標識水の体積1以上が好ましい。
原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させる際の温度は、5~35℃の範囲内が好ましい。
原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させる際の接触時間は、1時間以上が好ましい。接触時間の上限は特に限定されないが、12時間以下が好ましい。
【0024】
〈工程(a2)〉
工程(a2)は、工程(a1)の後、原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスと、を反応させる工程である。
原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスとを反応させる方法は特に限定されないが、例えば、粒子状の原料炭素を充填したカラムに、酸素同位体標識酸素ガスを通す方法が挙げられる。この際、原料炭素を充填したカラムは、加熱することが好ましい。
【0025】
〈工程(a3)〉
工程(a3)は、原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスと、を反応させて生成した反応混合ガスから、酸素同位体標識一酸化炭素を分離回収する工程である。
混合ガスから酸素同位体標識一酸化炭素を分離回収する方法は、特に限定されないが、反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させて除去することにより、一酸化炭素を分離回収することが好ましい。また、反応混合ガスから酸素同位体標識一酸化炭素を分離回収する方法として、反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を分離膜や化学吸収液で分離回収してもよい。
吸着剤は、二酸化炭素を選択的に吸着するものが好ましい。
分離回収した一酸化炭素は、公知の精製方法により高純度化が可能であり、例えば、吸着精製又は固化精製が利用できる。
【0026】
[酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法(B)]
本発明の酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法(B)」という場合がある。)は、工程(b1)及び工程(b2)を備え、さらに工程(b3)を備えることが好ましい。
【0027】
〈工程(b1)〉
工程(b1)は、原料炭素と、酸素同位体標識水と、を接触させる工程である。
本発明の製造方法(A)では、原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させることにより、原料炭素に含まれる16Oを、酸素同位体標識水に含まれる17O又は18Oと置換することにより、原料炭素中の16O量を低減する。そのため、本発明の製造方法(A)により製造される酸素同位体標識二酸化炭素の同位体希釈が抑制され、酸素同位体濃度が高い酸素同位体標識二酸化炭素の製造が可能となる。
【0028】
原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させる方法は、本発明の製造方法(A)の工程(a1)と概略同じである。
【0029】
〈工程(b2)〉
工程(b2)は、工程(b1)の後、原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスと、を反応させる工程である。
原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスとを反応させる方法は特に限定されないが、例えば、粒子状の原料炭素を充填したカラムに、酸素同位体標識酸素ガスを通す方法が挙げられる。この際、原料炭素を充填したカラムは、加熱することが好ましい。
【0030】
〈工程(b3)〉
工程(b3)は、原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスと、を反応させて生成した反応混合ガスから、酸素同位体標識二酸化炭素を分離回収する工程である。
反応混合ガスから二酸化炭素を分離回収する方法は、特に限定されないが、反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させ、二酸化炭素を吸着した吸着剤を加熱し、吸着剤から二酸化炭素を脱離させることにより、二酸化炭素を分離回収することが好ましい。
吸着剤は、二酸化炭素を選択的に吸着するものが好ましい。
【0031】
なお、反応混合ガスから酸素同位体標識二酸化炭素を分離回収する方法として、吸着剤に代えて、又は併用して、反応混合ガスに含まれる二酸化炭素を分離膜や化学吸収液で分離回収してもよい。
【0032】
分離回収した二酸化炭素は、公知の精製方法により高純度化が可能であり、例えば、吸着精製又は固化精製が利用できる。
【0033】
[本発明の製造方法(A)又は本発明の製造方法(B)の装置1による実施]
上述した本発明の製造方法(A)及び本発明の製造方法(B)は、いずれも、上述した装置1によって実施できる。
【0034】
装置1を用いて本発明の製造方法(A)又は本発明の製造方法(B)を実施する場合、反応前パージ、酸素同位体標識一酸化炭素の生成、分離回収をこの順に行うことが好ましい。
【0035】
(反応前パージ)
パージガス供給仕切弁14を介して装置系内をパージする。具体的には、供給圧(ゲージ圧力)0.01~0.7MPaG程度のパージガスPGを、流量調整器15を介して流量を調整しながら、炭素充填筒21及び吸着筒31内部へ供給し、背圧弁32を通して系外へ排気ガスEXを排気する。この時の系内の圧力は背圧弁32を用いてゲージ圧力が0.01~0.5MPaGの間で任意に設定できる。
パージガスPGの供給を続けながら加熱炉22を用いて炭素充填筒21を反応温度まで加熱する。反応温度は目的とする酸素同位体標識一酸化炭素と酸素同位体標識二酸化炭素の発生比率によって任意に設定でき、反応温度が低い場合は酸素同位体標識二酸化炭素の比率が、高い場合は酸素同位体標識一酸化炭素の比率が高くなる。
酸素同位体標識一酸化炭素を目的物とする場合は、高温であるほど有効であるから、例えば、700℃以上が好ましく、装置の耐熱温度の都合等を考慮すると、1000℃以下が好ましい。酸素同位体標識二酸化炭素を目的物とする場合は、反応温度を酸素同位体標識一酸化炭素の場合よりも低温、例えば、700℃以下とすることが好ましい。ただし供給する酸素ガスを全量反応させるために反応温度は500℃以上である事が好ましい。炭素充填筒が反応温度まで到達した後、パージガスの供給量が炭素充填筒の体積の10倍以上となるまでパージを続ける。
【0036】
(酸素同位体標識一酸化炭素の生成と二酸化炭素の吸着)
パージガスPGの供給を停止し、ボンベ11から減圧弁12及び流量調整器15を介して酸素同位体標識酸素ガスの供給を開始する。この時の供給条件は特に限定されず種々の要因に応じて適宜選択できるが、加熱条件はパージと同様の条件を維持する。また供給する酸素同位体標識酸素ガスは不活性ガスで希釈された状態でもよい。この時、系内の圧力は背圧弁を用いて0.01~0.5MPaGに調整することが好ましい。
炭素充填筒21において、原料炭素と、酸素同位体標識酸素ガスとの反応が行われ、酸素同位体標識一酸化炭素及び酸素同位体標識二酸化炭素を含む反応混合ガスが発生する。
酸素同位体標識一酸化炭素を回収することが目的であれば、反応混合ガスを、二酸化炭素吸着剤を充填した吸着筒31に通して、二酸化炭素を除去して、酸素同位体標識一酸化炭素を得る。
酸素同位体標識二酸化炭素を回収することが目的であれば、酸素同位体標識酸素ガスの供給を停止した後、パージガスPGを導入し、吸着筒31内に吸着された酸素同位体標識二酸化炭素を脱離し、回収する。この時、吸着筒31を100~300℃程度に加熱することで酸素同位体標識二酸化炭素の回収率が向上する。
得られた酸素同位体標識一酸化炭素又は酸素同位体標識二酸化炭素は、公知の精製方法により高純度化が可能であり、例えば吸着精製や固化精製などが利用できる。
【0037】
[作用効果]
本発明では、原料炭素を酸素同位体標識酸素ガスと反応させる前に、原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させて、前記原料炭素に含まれる16Oを17O又は18Oに置換して低減させることにより、製造される酸素同位体標識一酸化炭素の酸素同位体濃度の低下を抑制することが可能となった。
酸素同位体標識二酸化炭素の製造方法についても同様である。
【0038】
[変形例]
本発明の製造方法(A)の工程(a1)又は本発明の製造方法(B)の工程(b1)において、原料炭素と酸素同位体標識水とを接触させる別の方法としては、図2に示す装置を用いる方法が挙げられる。
図2に示す装置2は、酸素同位体標識水41を送液ポンプ42で定量供給し、水気化装置43で水蒸気とし、炭素充填筒21へ導入することで、炭素充填筒21に充填された原料炭素と、水気化装置43で気化した酸素同位体標識水41とを接触させる装置である。原料炭素と接触させた後の酸素同位体標識水41の気体は、バイパス弁33を経由して、系外へ排気ガスEXが排出される。
【実施例
【0039】
以下では、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り種々の変形が可能であり、本発明の技術的範囲は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
(原料炭素の調製)
顆粒状の活性炭(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品名:活性炭素・顆粒状)を粉砕分級し212~300μmの粉体状とした。
(接触工程)
粉体上とした炭素15g(17.8mL)を、H 18Oの20mLに加え、室温(25℃)にて1時間撹拌した。撹拌後、原料炭素をろ別し、50℃にて真空乾燥を24時間行った。
(反応工程)
乾燥後の原料炭素を炭素充填筒に充填し、図1に示す装置1に取り付けた。
窒素ガスを用いてパージを行い、電気管状炉を用いて炭素充填筒を900℃に加熱し、その後18ガス(同位体濃度99.2原子%18O)を50sccm供給し、吸着剤(モレキュラーシーブ4A、ナカライテスク社製)により、C18を吸着除去して、C18Oを得た。
(分析)
得られたC18Oを質量分析計で分析した結果、酸素同位体濃度は、99.1原子m%18Oであった。
【0041】
[比較例1]
(原料炭素の調製)
実施例1と同様にして粉体状の原料炭素を調製した。
(反応工程)
実施例1とは異なり、接触工程を行わずに、炭素充填筒に充填し、図1に示す装置1に取り付けた。
窒素ガスを用いてパージを行い、電気管状炉を用いて炭素充填筒を900℃に加熱し、その後18ガス(同位体濃度99.2原子%18O)を50sccm供給し、吸着剤(モレキュラーシーブ4A、ナカライテスク社製)により、C18を吸着除去して、C18Oを得た。
(分析)
得られたC18Oを質量分析計で分析した結果、酸素同位体濃度は、98.8原子%18Oであった。
【0042】
[実施例2]
実施例1でC18Oを合成したのち、18の供給を停止し窒素を1SLM供給して吸着筒をパージする事により、C18が得られた。質量分析計を用いて分析した結果、濃縮度は99.0原子%18Oであった。
【符号の説明】
【0043】
1,2 装置
11 ボンベ
12 減圧弁
13 酸素供給仕切弁
14 パージガス供給仕切弁
15 流量調整器
21 炭素充填筒
22 加熱炉
31 吸着筒
32 背圧弁
33 バイパス弁
41 酸素同位体標識水
42 送液ポンプ
43 水気化装置
PG パージガス
EX 排気ガス
図1
図2