(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】皮膚用乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20231114BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20231114BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20231114BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/92
A61K8/06
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2022551829
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2021032376
(87)【国際公開番号】W WO2022064997
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020161951
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
(72)【発明者】
【氏名】石田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】平山 善丈
(72)【発明者】
【氏名】笹子 浩史
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第03080041(FR,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03037083(EP,A1)
【文献】国際公開第2008/003685(WO,A1)
【文献】Hand Cream,(ID#): 6619667,2019年06月,https://www.gnpd.com/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、
13重量%~50重量%の油脂及び
2重量%~15重量%のα-サイクロデキストリン、ならびに、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガムからなる群から選択される少なくとも一つの水溶性ゲル化剤を
0.1重量%~1重量%含み、水中油型エマルジョンであ
り、合成界面活性剤及びポリオキシエチレングリコールを含まず、かつヒドロキシプロピルメチルセルロース、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤を含まない、皮膚用乳化組成物。
【請求項2】
油脂が食用植物油である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
ハンドクリームである、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、油脂及びサイクロデキストリン、ならびに、所定の水溶性ゲル化剤を含む皮膚用乳化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油脂、水、及びサイクロデキストリンを含んでなる乳化組成物が、医薬、化粧品、飲食品等の様々な分野で広く利用されている。
【0003】
特許文献1には、ペクチン、トラガントガム、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマーといった水溶性高分子化合物を溶解した水性原料と化粧料用油性原料を混和し、サイクロデキストリンを加えて乳化させてなる乳化化粧料が開示されている。
【0004】
特許文献2には、α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール、及び油性成分を含有することを特徴とする乳化組成物が開示され、当該乳化組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤も記載されている。
【0005】
非特許文献1には、大豆油とサイクロデキストリン水溶液の1:1容積比試料を乳化させてなる水中油滴型のエマルションに、乳化安定剤としてキサンタンガムとトラガントガムをそれぞれ添加したところ乳化安定性が増したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭61-038166号公報
【文献】特開平09-124437号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi,Vol.38,No.1,16-20(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、油脂、水、及びサイクロデキストリンを含んでなる従来公知の乳化組成物を、皮膚に塗布する用途で利用しようとした場合に、乳化安定性が十分でなく、容易に油と水が分離してしまう場合があること、また、皮膚に塗布した場合にべとつきやぬるつき等を生じ良好な使用感が得られない場合があることを見出した。
【0009】
そこで、本発明は、高い乳化安定性を有し、かつ皮膚に塗布する用途で利用され、皮膚に塗布した場合に良好な使用感を有する、油脂、水、及びサイクロデキストリンを含んでなる乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、油脂、水、及びサイクロデキストリンと共に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガムからなる群から選択される少なくとも一つの水溶性ゲル化剤を配合することによって、高い乳化安定性を有し、皮膚に塗布した場合に良好な使用感を有する、皮膚に塗布する用途に適した乳化組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、高い乳化安定性を有する前記乳化組成物を皮膚に塗り広げた場合の使用感は従来にないものであり、塗布直後であっても、油感(べとつきやぬるつき)のない良好な使用感を有すると共に、塗布後、水等で洗浄した場合に、粉体を塗布したようなさらさら感とクリームを塗布したようなしっとり感が同時に得られるものである。また、前記乳化組成物の形態は特に限定されず、前記乳化組成物を乾燥させた形態(例えば、粉体)とした場合においても、皮膚に塗り広げた場合に同様の使用感が得られることが確認された。
【0011】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 水、油脂及びサイクロデキストリン、ならびに、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガムからなる群から選択される少なくとも一つの水溶性ゲル化剤を含む、皮膚用乳化組成物。
[2] 油脂が食用植物油である、[1]の乳化組成物。
[3] ハンドクリームである、[1]又は[2]の乳化組成物。
[4] 水、油脂及びサイクロデキストリン、ならびに、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガムからなる群から選択される少なくとも一つの水溶性ゲル化剤を混合する工程を含む、皮膚用乳化組成物の製造方法。
[5] 油脂が食用植物油である、[4]の方法。
[6] 皮膚用乳化組成物ハンドクリームである、[4]又は[5]の方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である2020年9月28日に出願された日本国特許出願2020-161951号の明細書等に記載される内容を包含する。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとりいれるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い乳化安定性を有し、かつ皮膚に塗布する用途で利用され、皮膚に塗布した場合に良好な使用感を有する、油脂、水、及びサイクロデキストリンを含んでなる乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、水、油脂及びサイクロデキストリン、ならびに、所定の水溶性ゲル化剤を含む皮膚用乳化組成物に関するものである。
【0014】
本発明において「油脂」とは、皮膚用乳化組成物において一般的に使用される油脂を利用することができ、極性及び非極性のいずれも使用することができる。このような油脂としては、例えば、植物由来の油脂(例えば、キャノーラ油、菜種白絞油、大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、米油、米糠油、ツバキ油、ベニバナ油、オリーブ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、パーム油、茶油、ヤシ油、アボガド油、ククイナッツ油、グレープシード油、ココアバター、ココナッツ油、小麦胚芽油、アーモンド油、月見草油、ひまし油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ブドウ油、カカオ油、ホホバ油、パーム核油、モクロウ、キャンデリラロウ、カルナバロウ等)、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、ワセリン、オゾケナイト、イソステアリルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、2-オクタデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、フィトステロール、コレステロール、ステアリン酸、イソステアリン酸、カプリン酸、ラノリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、リノール酸、リノレン酸、モノステアリン酸グリセリル、モノパルミチン酸グリセリル、モノベヘニン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノラノリン酸グリセリル、モノリノ-ル酸グリセリル、モノリノレン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリン、イソプロピルミリステート、グリセロールトリ-2-ヘプチルウンデカノエート、グリセロールトリ-2-エチルヘキサノエート、2-ヘプチルウンデシルパルミテート、ジ-2-ヘプチルウンデシルアジペート、セチルイソオクタノエート、トリメチロールプロパン-2-トリメチロールヘプチルウンデカノエート、プロパン-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトール-2-ヘプチルウンデカノエート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、コレステロールイソステアレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等の合成エステル油、牛脂、豚油、ラノリン、スクワレン、スクワラン、ミツロウ、鯨ロウ等の動物由来の油脂、シリコーン油等が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明において油脂とは、安全性の高い動物由来又は植物由来の油脂が好ましく、食経験があり安全性の高い食用植物油が特に好ましい。油脂はいずれか単独で用いてもよいし、異なる油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明の皮膚用乳化組成物は、油脂を任意の量で含むことができ、例えば、5重量%以上、又は10重量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下とすることができる。本発明の皮膚用乳化組成物には、油脂を例えば、5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~30重量%、より好ましくは10重量%~20重量%の範囲より適宜選択される量にて含めることができる。油脂の量が5重量%よりも少ないと乳化が不十分となる場合や、皮膚に塗布した場合にきしみ感が感じられる場合があり、一方、油脂の量が50重量%よりも多いと皮膚に塗布した場合にべとつきやぬるつき等の油感が強く感じられる場合があり、いずれにおいても皮膚に塗布した場合に好ましい使用感が得られない場合がある。
【0016】
本発明の皮膚用乳化組成物において、水は油脂を乳化してサイクロデキストリン及び所定の水溶性ゲル化剤と共に水中油型エマルジョン形成することが可能な任意の量で含むことができる。例えば、本発明の皮膚用乳化組成物中には水を、15重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、又は70重量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、90重量%以下、又は85重量%以下とすることができる。本発明の皮膚用乳化組成物には、水を例えば、15重量%~90重量%、好ましくは45重量%~90重量%、より好ましくは70重量%~85重量%の範囲より適宜選択される量に含めることができる。本発明の皮膚用乳化組成物に含まれる水の量は、体積比にして油脂よりも多く含まれることが好ましく、例えば油脂と水の含有量は体積比にして(油脂:水)1:1を超える量、例えば、1:2以上、1:3以上、1:4以上、1:5以上、もしくは1:6以上とすることができ、水の量の上限は特に限定されないが、1:10以下、好ましくは1:8以下とすることができる。本発明の皮膚用乳化組成物に含まれる水と油脂の量を上記範囲に調節することによって、皮膚に塗布した場合にべとつきやぬるつき等の油感を抑え、好ましい使用感を得ることができる。
【0017】
「サイクロデキストリン」は、ブドウ糖を構成単位とする環状無還元マルトオリゴ糖を意味し、ブドウ糖の数が6つのα-サイクロデキストリン、7つのβ-サイクロデキストリン、8つのγ-サイクロデキストリンが挙げられる。本発明においては、α-、β-、γ-サイクロデキストリン、及びそれらの誘導体、ならびにそれらの任意の組み合わせを用いることができる。サイクロデキストリンの誘導体としては、例えば、エチルサイクイロデキストリン、メチルサイクロデキストリン、ヒドロキシエチルサイクロデキストリン、ヒドロキシプロピルサイクロデキストリン、メチルアミノサイクロデキストリン、アミノサイクロデキストリン、カルボキシエチルサイクロデキストリン、カルボキシメチルサイクロデキストリン、スルフォキシエチルサイクロデキストリン、スルフォキシルサイクロデキストリン、アセチルサイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン、サイクロデキストリン脂肪酸エステル、グルコシルサイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン等が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくはα-サイクロデキストリンを使用する。α-サイクロデキストリンは水への溶解性が高く、皮膚に塗布した場合にざらつきの少ない皮膚用乳化組成物を得ることができる。
【0018】
本発明の皮膚用乳化組成物において、サイクロデキストリンは所定の水溶性ゲル化剤と共に水中油型エマルジョンに乳化安定性を付与し、かつ皮膚に塗布した場合に好ましい使用感を得ることが可能な量で含めることができる。例えば、本発明の皮膚用乳化組成物中にはサイクロデキストリンを、1重量%以上、又は2重量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、15重量%以下、14重量%以下、13重量%以下、又は12重量%以下とすることができる。本発明の皮膚用乳化組成物には、サイクロデキストリンを例えば、1重量%~15重量%、例えば2重量%~12重量%の範囲より適宜選択される量で含めることができる。好ましくは、本発明の皮膚用乳化組成物中にサイクロデキストリンを3重量%を超える量、例えば、4重量%以上、もしくは5重量%以上、かつ8重量%以下、7重量%以下、もしくは6重量%以下の範囲より適宜選択される量で含めることができる。サイクロデキストリンの量が1重量%よりも少ないと当該組成物の乳化安定性が不十分となる場合があり、一方、15重量%よりも多い場合には当該組成物の粘性が高くなりすぎたり、皮膚に塗布した場合にきしみ感が強く感じられる場合があり、いずれにおいても皮膚に塗布した場合に好ましい使用感が得られない場合がある。
【0019】
本発明において「水溶性ゲル化剤」とは、一般的に、水に溶解し、粘性を付与する物質(増粘剤、増粘安定剤、糊料等とも呼ばれる場合がある)を意味する。本発明において利用可能な水溶性ゲル化剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、及びジェランガムを挙げることができる。水溶性ゲル化剤はこれらのいずれかを単独で用いてもよいし、異なる水溶性ゲル化剤を組み合わせて用いてもよい。より好ましくは、水溶性ゲル化剤はカルボキシメチルセルロース(CMC)、グルコマンナン、タマリンドガム、及びキサンタンガムであり、本発明の皮膚用乳化組成物に特に高い乳化安定性を付与することができる。
【0020】
本発明の皮膚用乳化組成物において、水溶性ゲル化剤はサイクロデキストリンと共に水中油型エマルジョンに乳化安定性を付与し、かつ皮膚に塗布した場合に好ましい使用感を得ることが可能な量で含めることができる。例えば、本発明の皮膚用乳化組成物中には水溶性ゲル化剤を、0.1重量%以上、0.2重量%以上、又は0.3重量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、1重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、又は0.5重量%以下とすることができる。本発明の皮膚用乳化組成物には、水溶性ゲル化剤を例えば、0.1重量%~1重量%、好ましくは0.2重量%~0.8重量%、より好ましくは0.3重量%~0.5重量%の範囲より適宜選択される量で含めることができる。水溶性ゲル化剤の量が0.1重量%よりも少ないと当該組成物の乳化安定性が不十分となる場合があり、一方、1重量%よりも多い場合には当該組成物の粘性が高くなりすぎる場合があり、いずれにおいても皮膚に塗布した場合に好ましい使用感が得られない場合がある。
【0021】
本発明の皮膚用乳化組成物は、上記サイクロデキストリンと水溶性ゲル化剤の併用により水中油型エマルジョンに高い乳化安定性を付与することができるため、これらに加えて、従来皮膚用乳化組成物において乳化剤として一般的に利用されている、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールを実質的に含まないものとしてもよい。好ましくは、本発明の皮膚用乳化組成物は、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールを実質的に含まない。本発明において「合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールを実質的に含まない」とは、本発明の皮膚用乳化組成物において、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールが乳化作用を発揮する態様で含まれないことを意味し、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールが一切含まれないことを意図するものではない。本発明は、合成界面活性剤を実質的に含まないことにより、安全性の高い、肌への刺激が少ない皮膚用乳化組成物を提供することができる。また、本発明の皮膚用乳化組成物は、ポリオキシエチレングリコールを実質的に含まないことにより、塗布後の洗浄によりさらりとしたしっとり感を得ることができる。
【0022】
本発明の皮膚用乳化組成物は、高温(例えば、100℃~120℃程度)処理後においても乳化状態を維持することが可能な高い乳化安定性を有する。これにより本発明の皮膚用乳化組成物は、防腐剤の添加に加えて/代えて、高温殺菌処理(例えばレトルト殺菌処理)に付すことが可能であり、防腐剤の少ない/無添加の安全性の高い、肌への刺激が少ない皮膚用乳化組成物を提供することができる。
【0023】
本発明の皮膚用乳化組成物は、高い乳化安定性を有し、皮膚に塗布した場合にべとつきやぬるつき等の油感、きしみ感が無い/ほとんど無く、また皮膚に塗布後、水等を用いて洗浄した場合に、べとつきやぬるつきが無い/ほとんど無く、粉体を塗布したようなさらさら感とクリームを塗布したようなしっとり感を同時に得られる良好な特有の使用感を有する。本明細書においては、「洗浄」は、水又は湯、必要に応じて、ハンドソープ、ボディソープ、洗顔フォーム、又は石鹸等を用いて、一般的な手法で行うことができる。
【0024】
本発明の皮膚用乳化組成物の形態は特に限定されず、上記水分含量を有する形態の他、水分含量を減少させて調製された、ゲルや乾燥体(例えば、粉体、フレーク等)の形状とすることができる。当該乳化組成物の水分含量の減少は、従来公知の乾燥手段を用いて行うことができる。このような乾燥手段としては、例えば、凍結乾燥、加熱乾燥、風乾、噴霧乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、これらに限定はされない。乾燥後の当該乳化組成物の水分含量は、目的とする形状に応じて適宜選択することが可能であり、例えば、15重量%未満、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下とすることができる。乾燥後の当該乳化組成物の水分含量の下限は特に限定されないが、好ましくは0.1重量%以上、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、又は0.8重量%以上とすることができる。乾燥後の当該乳化組成物の水分含量は例えば、0.1重量%~15重量%未満、0.1重量%~10重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~1重量%、0.6重量%~1重量%、0.7重量%~1重量%、又は0.8重量%~1重量%とすることができる。本発明の皮膚用乳化組成物はゲルや乾燥体の形態であっても、乾燥処理に付されていない乳化組成物と同様に使用することが可能であり、皮膚に塗り広げた場合に速やかに油膜をはるような透明感のある状態で皮膚をコーティングし、べとつきやぬるつき等の油感、きしみ感が無い/ほとんど無く、また皮膚に塗布後、水等を用いて洗浄した場合に、べとつきやぬるつきが無い/ほとんど無く、粉体を塗布したようなさらさら感とクリームを塗布したようなしっとり感を同時に得られる、良好な特有の使用感を有する。
【0025】
本発明の皮膚用乳化組成物には、上記成分に加えて、必要に応じてさらに、化粧品や医薬品(医薬部外品を含む)の製造において通常用いられている成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。このような成分としては、例えば、保湿剤(ポリグリセリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ムコ多糖、キトサン、1,3-ブチレングリコール、乳酸、ピロリドンカルポン酸ナトリウム、尿素等)、溶剤(エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、クロロホルム等)、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、グルタチオン等)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB類、アスコルビン酸、ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンH類、パントテン酸等)、薬剤、植物抽出物、無機顔料(滑石(タルク)、雲母(マイカ)、雲母チタン、黄酸化鉄、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、カオリン、炭酸カルシウム、群青、ベントナイト、カーボンブラック、黒酸化鉄、無水ケイ酸、ベンガラ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸マグネシウム、重質炭酸マグネシウム等)、香料、紫外線吸収剤、賦形剤、保存剤、防腐剤、酸化防止剤、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0026】
本発明の皮膚用乳化組成物は、皮膚に塗布して利用される化粧品や医薬品(医薬部外品を含む)等の基剤として利用することができ、本発明の皮膚用乳化組成物は、外用薬(軟膏剤、クリーム剤、ローション剤)、ハンドクリーム、スキンケアクリーム、ボディクリーム、乳液、クレンジングクリーム、アフターシェービングクリーム、コールドクリーム、シェービングクリーム、バニシングクリーム、日焼けクリーム、日焼け止めクリーム、基礎化粧品、クリーム状ファンデーション、メーキャップ化粧品、リップクリーム等(これらに限定はされない)の任意の形態で提供することができる。好ましくは本発明の皮膚用乳化組成物は、ハンドクリームの形態で提供される。特に、油脂として食用植物油を利用したハンドクリームは、口に入れても安全であり、台所や調理場等で安心して利用することができる。なお、本発明の皮膚用乳化組成物が、上記乾燥処理に付されて得られたゲルや乾燥体の形態である場合、クリーム状の形態を有さない場合があるが、これらゲルや乾燥体の形態であっても、皮膚に塗り広げた際に速やかに油膜をはるような透明感のある状態で皮膚をコーティングすることが可能であることから、乾燥処理に付されていない乳化組成物と同様に上述の外用薬(軟膏剤、クリーム剤、ローション剤)、ハンドクリーム等の任意の形態として提供することができる。
【0027】
本発明の皮膚用乳化組成物は、水、油脂、サイクロデキストリン、及び、所定の水溶性ゲル化剤、ならびに必要に応じてその他の成分を上記の量にて混合、攪拌することにより製造することができる。各成分は全て一緒に混合、攪拌してもよいし、各成分を別々にもしくは任意の組み合わせで順次添加して(順序は問わない)混合、攪拌してもよい。混合、攪拌して得られた乳化組成物は、加熱殺菌処理に付してもよい。また、混合、攪拌して得られた乳化組成物は、必要に応じてさらに乾燥処理に付してもよい。乾燥処理は、上記従来公知の乾燥手段により行うことができ、当該乳化組成物の水分含量を、目的とする形状に応じて適宜調整することができる。乾燥処理に付された乳化組成物は、必要に応じてさらに破砕、粉砕、又は摩砕処理に付してもよく、ならびに必要に応じてその他の成分を上記の量にて混合、攪拌してもよい。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実験1:乳化安定性の評価
(1)乳化組成物の作製
以下の表1の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、乳化組成物を作製した。水溶性ゲル化剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、グルコマンナン、グアーガム、ペクチン、κ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム、キサンタンガム、ι-カラギーナン、ローカストビーンガム、λ-カラギーナン、リン酸架橋でんぷん、ヒドロキシプロピルでんぷん、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん、トラガントガム、カルボキシルビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースのいずれか一つを配合した。
【0029】
各成分の混合は、ハンドブレンダーを用いて20,000rpmにて10分間攪拌して行った。得られた各組成物(50mL)をコニカルチューブ(Falcon(登録商標)コニカルチューブ50mL)に移し、3000rpmにて1分間で遠心した。次いで、水相、ミセル、油相の厚み(深さ)を目視で観察し、各相の割合(%)を計測して、各組成物の乳化安定性を評価した。評価はミセルの割合が100%であるものを「◎」、ミセルの割合が70%以上かつ100%未満であるものを「〇」、ミセルの割合が70%未満であるものを「×」として行った。
【0030】
なお、表中の各成分の量は重量%にて示される。油脂、α-サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤はいずれも食品添加物(食品グレード)を使用した。
【0031】
【0032】
(2)結果
乳化組成物に添加した水溶性ゲル化剤と、計測された各相の割合、及び評価結果を表2に示す。この結果より明らかなとおり、添加した水溶性ゲル化剤によって乳化組成物の乳化安定性は様々であり、CMC、グルコマンナン、グアーガム、κ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム、キサンタンガム、ι-カラギーナン、ローカストビーンガム、λ-カラギーナンを添加した場合には、ミセル相が維持され高い乳化安定性が示された。特に、CMC、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガムを添加した場合には、水相及び油相の分離は認められず、顕著に高い乳化安定性が確認された。
【0033】
【0034】
実験2:α-サイクロデキストリンと水溶性ゲル化剤間の相互作用の評価
水溶液中のα-サイクロデキストリンと水溶性ゲル化剤との相互作用を評価するため、従来公知の手法に準じた等温滴定型熱量測定(Isothermal Titration Calorimetry;ITC)によりエンタルピー変化(ΔH)を求めた。すなわち、等温滴定カロリメータ(NANO ITC SV;TA Instruments)を用いてα-サイクロデキストリンの水溶液(25g/100mL)に、水溶性ゲル化剤の水溶液(0.05g/100mL)を180秒ごとに10μLを25回(75分)にわたって滴下し、25回目(最終)の滴定ピークの面積よりエンタルピー値(μJ)を求めた。
【0035】
結果を表3に示す。上記実験1において高い乳化安定性が示されたCMC、及びキサンタンガムを用いた場合においてのみプラスのエンタルピー値、すなわち吸熱反応が認められた。この結果は、水溶性ゲル化剤とα-サイクロデキストリンとの間で、水和水を介した相互作用の存在を示唆するものであり、例えば、水溶性ゲル化剤に水和していた水分子の一部が、α-サイクロデキストリンと水素結合することが考えられる。通常、水分子間で形成される水素結合は、荷電部位による分子間反発を生じる水溶性ゲル化剤とα-サイクロデキストリンとの間で形成される水素結合よりも距離が短くエネルギー値が高い。このため、水溶性ゲル化剤に水和していた水分子の一部が、α-サイクロデキストリンと水素結合する場合、エネルギー値の差し引きの結果として吸熱反応を生じるものと考えられる。熱量の移動(プラスのエンタルピー値)は水溶性ゲル化剤とα-サイクロデキストリンとの間で生じる相互作用の存在を示唆するものであり、この相互作用が上記実験1において高い乳化安定性を生じる要因であると考えられる。
【0036】
【0037】
実験3:性能評価
(1)乳化組成物の作製
以下の表4の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、実施例1-6ならびに比較例1-4の乳化組成物を作製した。各成分の混合は、ハンドブレンダーを用いて20,000rpmにて10分間攪拌して行った。得られた各乳化組成物について、以下の評価項目について、各基準に基づいて評価した。評価は4人の被験者を対象に行った。
【0038】
・クリーム度:被験者の手のひらにのせ塗り広げた場合に、ハンドクリームとして良好な使用感(粘度)を有する場合「〇」、ハンドクリームとして使用可能な粘度を有する場合「△」、ハンドクリームとして使用できない(粘度が低すぎる、もしくは粘度が高すぎる)場合「×」;
【0039】
・保存後の乳化力:40℃にて7日間保存した後、乳化が維持されている場合「〇」、水と油の分離が認められる場合「×」;
【0040】
・塗布直後のぬめり感:被験者の手のひらに塗布した直後、油感(べとつきやぬるつき)がない場合「〇」、油感がある場合「×」;
【0041】
・洗浄後の使用感:被験者の手のひらに塗布した後、洗浄した場合に、さらりとしたしっとり感が認められる場合「〇」、さらりとしたしっとり感は認められるが、油感も同時にやや認められる場合「△」、さらりとしたしっとり感が認められない場合「×」。なお、洗浄は水のみを用いた場合でも、ハンドソープを用いた場合でも同じ結果を得ることができるが、今回はハンドソープを用いて洗浄した。
【0042】
・加熱殺菌:レトルト殺菌(123℃、50分)後、乳化が維持されている場合「〇」、水と油の分離が認められる場合「×」;
なお、以下、表中の各成分の量は重量%にて示される。
【0043】
【0044】
(2)結果
得られた各乳化組成物についての各評価結果を表4に示す。
実施例1-6の結果より、油脂は特定のものに限定されず、様々な油脂を利用可能であることが確認された。
【0045】
水溶性ゲル化剤に代えて、ポリオキシエチレングリコールを使用した場合には(比較例1、2、4)、ハンドクリームの使用に適さないクリーム度、保存後の乳化力の低下、塗布直後及び洗浄後の使用感の低下、加熱殺菌後の乳化力の低下のうちの複数が認められ、水溶性ゲル化剤を使用する実施例1-6の乳化組成物と比べて性能が劣ることが確認された。
【0046】
実施例の乳化組成物は、ハンドクリームとして利用可能な性能を有するものであったが、実施例1-3の乳化組成物は特に優れた性能を有し、全ての評価項目において良好な結果が得られた。実施例1-3において、α-サイクロデキストリンの含量が比較的高い実施例1、2においては、当該含量が比較的低い実施例3よりも、塗布した場合につっぱるような感じ(きしみ感)がやや感じられた(ハンドクリームとして問題になる程度のものではない)。
【0047】
実験4:粉体乳化組成物(凍結乾燥)
(1)粉体乳化組成物の作製
以下の表5の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、乳化組成物を作製した。各成分の混合は、ハンドブレンダーを用いて20,000rpmにて5分間攪拌して行った。次いで、得られた乳化組成物を凍結乾燥し(20℃にて16時間)、粉砕して、粉体乳化組成物を得た。
【0048】
【0049】
(2)粉体乳化組成物の性能評価
(i)得られた粉体乳化組成物について、常法に準拠した常圧加熱乾燥法により、その水分含量を測定した。すなわち、得られた乳化組成物を秤量缶に入れて精秤し(乾燥前重量)、105℃で5時間乾燥し、次いでデシケーターに移して1時間放冷し精秤した(乾燥後重量)。乾燥前重量及び乾燥後重量より、粉体乳化組成物の水分含量(重量%)を求めた。
【0050】
(ii)得られた粉体乳化組成物について、上記「実験3:性能評価」に記載したのと同様の方法・判定規準にて、「クリーム度」、「保存後の乳化力」、「塗布直後のぬめり感」、及び「洗浄後の使用感」について評価した。なお、対照として、上記表5の組成にしたがって、各成分を添加し、剪断力を加えることなく手混合して(すなわち、乳化組成物とせず)作製した以外は同様に操作して得られた組成物を用いた。
【0051】
(3)結果
(i)水分含量の測定結果を以下の表6に示す。水分含量の測定は別々に作製された2つの粉体乳化組成物をサンプルとして行った。得られた粉体乳化組成物の水分含量は、およそ0.7重量%及びおよそ0.9重量%であり、平均しておよそ0.8重量%であった。
【0052】
【0053】
(ii)粉体乳化組成物は、さらさらとした粉状の形態を有するのに対して、対照組成物は液体物である油脂と粉体が混合されたペースト状の形態を有し、さらさらとした粉状の形態は得られなかった。
【0054】
また、得られた粉体乳化組成物について、「クリーム度」、「保存後の乳化力」、「塗布直後のぬめり感」、及び「洗浄後の使用感」はいずれも「〇」の評価が得られた。上記実験3の乳化組成物と同様に、被験者の手のひらにのせ塗り広げた場合に速やかに油膜をはるような透明感のある状態で皮膚をコーティングし、ハンドクリームとして良好な使用感を有すると共に、塗布後、洗浄した場合に、粉体を塗布したようなさらさら感とクリームを塗布したようなしっとり感を同時に得られた。一方、対照組成物については、被験者の手のひらにのせ塗り広げた場合に、液体と固体が分離してざらつきやきしみが感じられ、良好な使用感は得られなかった。
【0055】
実験5:粉体乳化組成物(噴霧乾燥)
(1)粉体乳化組成物の作製
上記の表5の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、乳化組成物を作製した。各成分の混合は、ハンドブレンダーを用いて20,000rpmにて5分間攪拌して行った。次いで、得られた乳化組成物を噴霧乾燥(190℃)して、粉体乳化組成物を得た。
【0056】
(2)粉体乳化組成物の性能評価
(i)得られた粉体乳化組成物について、上記「実験4:粉体乳化組成物(凍結乾燥)」において記載したのと同様の手法により、粉体乳化組成物の水分含量(重量%)を求めた。
【0057】
(ii)得られた粉体乳化組成物について、上記「実験4:粉体乳化組成物(凍結乾燥)」において記載したのと同様の手法により、「クリーム度」、「保存後の乳化力」、「塗布直後のぬめり感」、及び「洗浄後の使用感」について評価した。
【0058】
(3)結果
(i)水分含量の測定結果を以下の表7に示す。水分含量の測定は別々に作製された2つの粉体乳化組成物をサンプルとして行った。得られた粉体乳化組成物の水分含量は、およそ0.7重量%及びおよそ1.0重量%であり、平均しておよそ0.8重量%であった。
【0059】
【0060】
(ii)噴霧乾燥した粉体乳化組成物についても、凍結乾燥したものと同様に、さらさらとした粉状の形態を有し、「クリーム度」、「保存後の乳化力」、「塗布直後のぬめり感」、及び「洗浄後の使用感」はいずれも「〇」の評価が得られた。また、被験者の手のひらにのせ塗り広げた場合に速やかに油膜をはるような透明感のある状態で皮膚をコーティングし、ハンドクリームとして良好な使用感を有すると共に、塗布後、洗浄した場合に、粉体を塗布したようなさらさら感とクリームを塗布したようなしっとり感が同時に得られた。乾燥処理の手法が異なっても、同様の特性が得られることが確認された。
【0061】
以上の結果より、水と油脂を含む水中油型エマルジョンに、サイクロデキストリンと所定の水溶性ゲル化剤を併用して配合することによって、高い乳化安定性を有する、皮膚への適用に適した性能を有する乳化組成物が得られることが明らかとなった。また、当該乳化組成物を皮膚に塗り広げた場合の使用感は、従来にないものであり、ハンドクリームとして良好な使用感を有すると共に、塗布後、水等で洗浄した場合に、粉体を塗布したようなさらさら感とクリームを塗布したようなしっとり感が同時に得られることが確認された。
【0062】
さらに、当該乳化組成物を乾燥処理に付して得られた乾燥形態(粉体乳化組成物)についても、塗り広げた場合に速やかに油膜をはるような透明感のある状態で皮膚をコーティングし、同様の特性が得られることが確認された。一方で、前記高い乳化安定性を有する乳化組成物を経ずに、乾燥処理に付して得られた乾燥形態については、当該特性が得られなかった。このことから、乾燥形態における良好な特性もまた、固液分離のない乳化状態が維持されていることによるものであり、乾燥処理に付される前の乳化組成物が高い乳化安定性を有することに起因するものであることが確認された。