(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】エンドトキシンの血中移行阻害用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/01 20060101AFI20231114BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20231114BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20231114BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20231114BHJP
A23L 33/155 20160101ALI20231114BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20231114BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20231114BHJP
A61K 31/07 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/20 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/205 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/592 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/593 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20231114BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20231114BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231114BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20231114BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231114BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20231114BHJP
A61P 9/02 20060101ALI20231114BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231114BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231114BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231114BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K38/01
A23L33/12
A23L33/125
A23L33/15
A23L33/155
A23L33/18
A23L33/19
A61K31/07
A61K31/14
A61K31/197
A61K31/20
A61K31/202
A61K31/205
A61K31/355
A61K31/375
A61K31/455
A61K31/51
A61K31/52
A61K31/592
A61K31/593
A61K31/7016
A61K35/20
A61P1/16
A61P1/18
A61P3/10
A61P7/00
A61P9/02
A61P9/10 101
A61P13/12
A61P25/28
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2017562915
(86)(22)【出願日】2017-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2017001856
(87)【国際公開番号】W WO2017126645
(87)【国際公開日】2017-07-27
【審査請求日】2020-01-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2016010840
(32)【優先日】2016-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】粂 久枝
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 惠子
(72)【発明者】
【氏名】芦田 欣也
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】星 功介
【審判官】松波 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特表平5-501416(JP,A)
【文献】特開2001-333737(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065552(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/080911(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2001/0014322(US,A1)
【文献】特表2006-515287(JP,A)
【文献】アミノ酸研究,2014年,Vol.8,No.1,pp.55-57
【文献】医学のあゆみ,2006年,Vol.216,No.4,pp.281-285
【文献】別冊・医学のあゆみ 消化器疾患-state of arts I.胃・腸,医歯薬出版,1993年,pp.75-77
【文献】腸内細菌と慢性肝疾患,医学のあゆみ,2014年,Vol.251,No.1,pp.81-84
【文献】Chinese Journal of Digestive Diseases,2005年,Vol.6,pp.193-197
【文献】成人病と生活習慣病,2015年12月15日,Vol.45,No.12,pp.1518-1522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイたんぱく質
の加水分解物、発酵乳たんぱく質
、脂質、ビタミンおよびカルニチンを含んでなるエンドトキシンの血中移行阻害用組成物であって、
前記ホエイたんぱく質
の加水分解物が組成物100kcal当たり0.5~5.0g含まれ
、
前記発酵乳たんぱく質が組成物100kcal当たり0.5~6.0g含ま
れ、
前記脂質がMCT、EPAおよびDHAを少なくとも含み、
前記ビタミンがビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンCおよびコリンを少なくとも含み、前記ビタミンAが組成物100kcal当たり150μgRE以上含まれ、前記ビタミンDが組成物100kcal当たり0.75μg以上含まれ、前記ビタミンEが組成物100kcal当たり5.0mg以上含まれ、前記ビタミンB1が組成物100kcal当たり0.25mg以上含まれ、前記ビタミンB2が組成物100kcal当たり0.30mg以上含まれ、前記ナイアシンが組成物100kcal当たり3.0mg以上含まれ、前記パントテン酸が組成物100kcal当たり1.2mg以上含まれ、前記ビタミンCが組成物100kcal当たり50mg以上含まれ、前記コリンが100kcal当たり9.2mg以上含まれ、
前記カルニチンが組成物100kcal当たり15mg以上含まれる、組成物。
【請求項2】
ホエイたんぱく質が、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
ホエイたんぱく質が、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、ホエイたんぱく質分離物(WPI)、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳および生乳からなる群から選択される1種または2種以上に由来する、請求項
1または2に記載の組成物。
【請求項4】
炭水化物としてイソマルチュロースを含む糖質をさらに含んでなる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
エンドトキシンの血中移行阻害に用い、かつ、エンドトキシンの血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である疾患または症状の治療、予防または改善に用いるための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記疾患および症状が、肝硬変、アルコール性肝障害、非アルコール性肝障害(NASH)、急性膵炎、腎疾患、アルツハイマー病、糖尿病、動脈硬化、発熱、血圧低下、白血球数減少、血小板数減少、悪寒、頭痛、嘔吐、筋肉痛および心悸亢進からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
エンドトキシンの血中移行阻害に用い、かつ、肝障害の発症または悪化の抑制に用いるための、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2016-10840(出願日:2016年1月22日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明はホエイたんぱく質を含有する、エンドトキシンの血中移行阻害用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
エンドトキシンは、内毒素やリポポリサッカライドとも呼ばれる細菌毒素の一種であり、サルモネラ菌、大腸菌、緑膿菌などのグラム陰性菌の細胞壁成分である。これらグラム陰性菌が破壊されてその細胞壁の構成成分であるリポ多糖(LPS)が遊離し、毒性を発揮する。エンドトキシンの毒作用は外毒素より弱いが、体内に入ると、発熱、血圧低下、ショック、白血球数減少、血小板数減少、悪寒、頭痛、嘔吐、筋肉痛、心悸亢進などの全身症状を引き起こすことが知られている。このような症状はエンドトキシン血症や敗血症とも呼ばれる。
【0004】
高齢者や、外科手術後で抵抗力の低下した患者がエンドトキシンに起因するこれらの症状に罹ると、しばしば急激な経過をたどることがある。また、肝硬変、アルコール性肝障害、非アルコール性肝障害(NASH)、急性膵炎、腎疾患、アルツハイマー病、糖尿病、動脈硬化などの、様々な疾患の原因にもエンドトキシンが関与していることが明らかになってきている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sakaguchi S. et al., Drug Metab. Pharmacokinet 2011; 26(1): 30-46
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは今般、ホエイたんぱく質の加水分解物を含む栄養組成物をConA誘発肝障害モデルマウスに摂取させたところ、エンドトキシンの血中移行が阻害されるとともに、肝障害の悪化が抑制されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明はエンドトキシンの血中移行を阻害する組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ホエイたんぱく質を含んでなる、エンドトキシンの血中移行阻害用組成物。
[2]ホエイたんぱく質が加水分解物の形態である、上記[1]に記載の組成物。
[3]ホエイたんぱく質が、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]ホエイたんぱく質が、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、ホエイたんぱく質分離物(WPI)、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳および生乳からなる群から選択される1種または2種以上に由来する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]ホエイたんぱく質が、組成物100kcal当たり0.5~5.0g含まれる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]たんぱく質として発酵乳たんぱく質をさらに含んでなる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]脂質としてn-3系脂肪酸を含む油脂をさらに含んでなる、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]炭水化物としてイソマルチュロースを含む糖質をさらに含んでなる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]エンドトキシンの血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である疾患または症状の治療、予防または改善に用いるための、上記[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記疾患および症状が、肝硬変、アルコール性肝障害、非アルコール性肝障害(NASH)、急性膵炎、腎疾患、アルツハイマー病、糖尿病、動脈硬化、発熱、血圧低下、白血球数減少、血小板数減少、悪寒、頭痛、嘔吐、筋肉痛および心悸亢進からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[9]に記載の組成物。
[11]エンドトキシンの血中移行阻害用組成物の製造のための、ホエイたんぱく質の使用。
[12]エンドトキシンの血中移行阻害に使用するためのホエイたんぱく質。
[13]有効量のホエイたんぱく質を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、エンドトキシンの血中移行阻害方法。
【0009】
本発明によればエンドトキシンの血中移行を阻害する組成物が提供される。本発明の組成物に含まれるホエイたんぱく質は、長年食品の原料として用いられてきた乳たんぱく質を利用するものであることから、本発明の組成物は、長期間にわたって服用しても副作用が少なく、安全性が高い点において有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】肝障害マウスに栄養組成物(試験食)を摂取させた栄養組成物群の血中アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)活性および血中アラニントランスアミナーゼ(ALT)活性を、対照群(対照食摂取群)との比較で示した図である。t検定、*:p < 0.05 vs対照群。
【
図2】肝障害マウスに栄養組成物(試験食)を摂取させた栄養組成物群の血中TNF-α濃度および血中IL-6濃度を、対照群(対照食摂取群)との比較で示した図である。t検定、*:p < 0.05 vs対照群、#:p < 0.1 vs対照群。
【
図3】エンドトキシンの有無と初期の炎症性サイトカイン(TNF-α・IL6)濃度との関係を箱ひげ図により示した図である。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の組成物は有効成分としてホエイたんぱく質を含んでなるものである。ここで、「ホエイ」とは、乳から乳脂肪分やカゼインなどを除いた水溶液を意味し、乳清および乳漿と同義である。ホエイはβ-ラクトグロブリン(β-Lg)、α-ラクトアルブミン(α-La)、ラクトフェリン、血清アルブミン、免疫グロブリンなどのたんぱく質成分に富むことが知られている。また、本発明で使用するホエイの由来は特に限定されないが、乳たんぱく質濃縮物(MPC、総たんぱく乳質(TMP)ともいう)、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、ホエイたんぱく質分離物(WPI)、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、生乳など、牛乳由来のホエイが好ましい。
【0012】
本発明の好ましい態様ではホエイたんぱく質は加水分解物の形態で使用することができる。ホエイたんぱく質の加水分解物は、例えば下記(i)~(v)の工程を含む方法により調製することができる。
(i)乾燥物としてたんぱく質の含量が約90%(w/w)のホエイたんぱく質の分離物(WPI、ダビスコ社)を、たんぱく質の濃度が8%(w/v)となるように蒸留水に溶解して、たんぱく質の水溶液を得る。
(ii)この水溶液を85℃、2分間で加熱処理して、たんぱく質を変性させる。この加熱処理後の水溶液のpHは、例えば約7.5とすることができる。
(iii)その後に、アルカラーゼ2.4L(酵素、ノボザイムス社)を、たんぱく質(基質)の濃度に対して2.0%(w/w)で添加し、その水溶液を55℃、3時間で保持して加水分解する。
(iv)次に、豚由来のトリプシンであるPTN6.0S(酵素、ノボザイムズジャパン社)を、たんぱく質(基質)の濃度に対して3.0%(w/w)で添加し、その水溶液を55℃、3時間で保持して加水分解する。つまり、加水分解の時間は例えば合計6時間とすることができる。これらの加水分解の反応終了時の水溶液のpHは、例えば約7.0とすることができる。
(v)ホエイたんぱく質の加水分解物は、遠心処理(20,000×g、10分間)した後に、分画分子量が10,000の限外濾過(UF)膜(ミリポア社ウルトラフリー-MC)で処理する。
【0013】
乳たんぱく質の加水分解物の調製方法では、最適化のための5つのパラメーターとして、予備加熱、酵素と基質の比率(E/S)、pH、加水分解の温度および加水分解の時間などがあり、例えば、次の条件を挙げることができる。すなわち、予備加熱:65~90℃、E/S:0.01~0.2、pH:2~10、加水分解の温度:30~65℃、加水分解の時間:3~20時間である。
【0014】
本発明のホエイたんぱく質の加水分解物には、たんぱく質の加水分解物そのものに加えて、限外濾過膜で処理した保持液(リテンテイト)や、透過液(パーミエイト)が含まれ、さらに、本発明で必要とされる同様の活性が有る市販のホエイたんぱく質の加水分解物が包含される。例えば、本発明の乳たんぱく質の加水分解物として、分画分子量が5000、6000、7000、8000、9000、10000のいずれかを下限(~以上、あるいは、~より高い)、15000、20000、25000、30000のいずれかを上限(~以下、あるいは、~より低い)とする2点の間の分子量である限外濾過膜、好ましくは分画分子量が10000である限外濾過膜で処理した保持液を用いることができる。
【0015】
本発明の組成物においてホエイたんぱく質の配合量は、他の成分(発酵乳たんぱく質、脂質、糖質など)の配合量や、本発明の組成物を摂取させる者の病態、症状、年齢、体重、用途などにより適宜調整することができる。具体的には、ホエイたんぱく質の配合量として、組成物100kcal当たり0.5~5.0g、好ましくは1.0~3.0g、より好ましくは1.5~2.5gを例示することができるが、これらの範囲に限定されない。
【0016】
本発明の組成物はたんぱく質として発酵乳たんぱく質を含んでいてもよい。本発明で用いることができる発酵乳たんぱく質は、牛、水牛、ヤギ、羊、馬などの家畜の乳、およびこれらの部分脱脂乳、脱脂乳、還元全乳、還元脱脂乳、還元部分脱脂乳、バター、クリームなどの乳原料から選択される1種または2種以上を用いて調製した液状乳を、乳酸菌などのスターターを用いて発酵させたもの、すなわち、発酵乳を用いることができる。本発明の発酵乳たんぱく質としては、フレッシュチーズ、ナチュラルチーズ、ヨーグルト、ホエイチーズが挙げられる。ここで、「チーズ」とは、乳、バターミルクあるいはクリームを乳酸菌で発酵させ、または乳、バターミルクあるいはクリームに酵素を加えてできた凝乳からホエイ(乳清)を除去したものをいい、固形化や熟成の有無については問わない。発酵乳を製造するスターターとして、Lactobacillus
bulgaricus、Streptococcus
thermophilusを主に用いることができるが、これらに限定されず、例えば、Streptococcus
lactis、Streptococcus
cremoris、Streptococcus
diacetilactis、Enterococcus
faecium、Enterococcus
fecalis、Lactobacillus
casei、Lactobacillus
helveticus、Lactobacillus
acidophilus、Lactobacillus
rhamnosus、Lactobacillus
plantarum、Lactobacillus
murinus、Lactobacillus
reuteri、Lactobacillus
brevis、Lactobacillus
gasseri、Bifidobacterium
longum、Bifidobacterium
bifidum、Bifidobacterium
breveなどの乳酸菌やビフィズス菌を用いることもできる。その他、プロピオニバクテリウム属菌(Propionibacterium)などの発酵乳を製造する際に用いられる微生物を併用することもできる。本発明の組成物は、いずれの発酵乳を用いて調製してもよいが、好ましくは、フレッシュチーズまたはヨーグルト、より好ましくは、クワルク(quark)またはヨーグルトを用いて調製することができる。
【0017】
「フレッシュチーズ」には、カッテージ、クワルク、ストリング、ヌーシャテル、クリームチーズ、モツァレラ、リコッタ、マスカルポーネなどの数多くの種類のものがある。このうちクワルクは非熟成型(フレッシュ)チーズの一種であり、脂肪含量が低く、爽やかなフレーバーと酸味が特徴である。
【0018】
乳酸菌にプロバイオティクス効果があることは広く知られている。また、乳酸菌発酵で得られるフレッシュチーズのホエイには、大腸菌、腸炎ビブリオ菌、ビフィズス菌、バクテロイデスなどに対する抗菌効果を有することが知られている(特開平7-155103号公報参照)。従って、本発明の組成物に乳酸菌発酵された発酵乳たんぱく質を配合することでプロバイオティクス効果や抗菌効果が期待される。
【0019】
発酵乳たんぱく質の配合量は、他の成分(乳たんぱく質加水分解物、脂質、糖質など)の配合量や、本発明の組成物を摂取させる者の病態、症状、年齢、体重、用途などにより適宜調整することができる。具体的には、発酵乳たんぱく質の配合量として、たんぱく質に換算して組成物100kcal当たり0.5~6.0g、好ましくは1.5~5.0g、より好ましくは2.5~3.5gを例示することができるが、これらの範囲に限定されない。ここで、発酵乳たんぱく質の持つ効果を発揮させ、良好な風味を維持したまま継続して摂取しやすくするために、発酵乳たんぱく質の配合量を上記数値範囲内に調整することが好ましい。
【0020】
本発明において乳たんぱく質の加水分解物や発酵乳たんぱく質の調製に使用する乳は、初乳以外の乳(normal milk)、すなわち、成熟乳(mature milk)を用いるのが好ましい。乳の由来は、ウシ、水牛、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ヒトなど、いずれの動物であってもよい。
【0021】
本発明の組成物はホエイたんぱく質および発酵乳たんぱく質以外のたんぱく質を含んでいてもよく、そのようなたんぱく質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、大豆たんぱく質、鶏卵たんぱく質、肉たんぱく質などの動植物性たんぱく質並びにこれらの分解物;バター、ホエイ(乳清)ミネラル、クリーム、ホエイ、非たんぱく態窒素、シアル酸などの各種乳由来成分などが挙げられる。これ以外に、カゼインホスホペプチド、リジンなどのペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の組成物は配合成分として脂質を含んでいてもよい。本発明の組成物に配合できる脂質としては、リン脂質および食用油脂が挙げられる。本発明の組成物に使用できるリン脂質としては乳リン脂質、大豆レシチン、卵黄レシチンが挙げられ、これらは単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の組成物に使用できる食用油脂としては脂肪酸を含有する油脂が挙げられる。脂肪酸としては、例えば、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸が挙げられる。脂肪酸を含有する油脂のうち好ましいものとしてはオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸を含有する油脂が挙げられる。
【0024】
オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸の配合量は、本発明の組成物の脂肪酸組成中25%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは30~50%とすることができるが、これらの範囲に限定されない。さらに、n-3系脂肪酸(例えば、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リノレン酸)やn-6系脂肪酸(例えば、リノール酸、アラキドン酸)などの多価不飽和脂肪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸などの中鎖脂肪酸を加えることができる。
【0025】
本発明の組成物は、好ましくはn-3系脂肪酸を脂質として含んでいてもよい。本発明の組成物に含まれるn-3系脂肪酸としては、EPA、DHA、α-リノレン酸、DPAなどが挙げられ、好ましくはEPA、DHA、および/またはα-リノレン酸、より好ましくはEPAまたは/およびDHAである。n-3系脂肪酸を含む油脂としては、シソ油、アマニ油、エゴマ油、魚油、菜種油、大豆油、サラダ油、フラックス油などが挙げられる。本発明においては、これらn-3系脂肪酸を直接含んでいてもよいし、魚油などの油脂の形態で含んでいてもよい。
【0026】
また、本発明の組成物は、好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT:medium-chain triglyceride)を脂質として含んでいてもよい。MCTは体内で速やかに吸収されエネルギーになりやすく、体に脂肪が付きにくいという特徴を有する。MCTを含む油脂としては、パーム油、パーム核油、中鎖脂肪酸含有油脂などが挙げられる。本発明においては、MCTを直接含んでいてもよいし、パーム核油などの油脂の形態で含んでいてもよい。
【0027】
また、本発明の組成物は、オレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸、アラキドン酸などの脂肪酸、好ましくはオレイン酸を脂質として含むことができる。これらの脂肪酸を含む油脂としては、例えば、高オレイン酸のハイオレイックヒマワリ油、ナタネ油、オリーブ油、高オレイン酸ベニバナ油、大豆油、コーン油、パーム油などが挙げられる。ヒマワリ油、ナタネ油、オリーブ油、およびオリーブ油との混合物も用いることができる。リノール酸、アラキドン酸、γ―リノレン酸などはn-6系脂肪酸である。n-6系脂肪酸を含む油脂としては、サフラワー油、ひまわり油、大豆油、アマニ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油などが挙げられる。
【0028】
本発明の組成物は上記以外の食用油脂を含んでいてもよく、そのような食用油脂としては、例えば、ラード、魚油、並びに、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの動物性油脂;サフラワー油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの植物性油脂などが挙げられる。
【0029】
脂肪酸を含有する油脂を含む食用油脂の配合量は、他の成分(乳たんぱく質加水分解物、発酵乳たんぱく質、糖質など)の配合量や、本発明の組成物を摂取させる者の病態、症状、年齢、体重、用途などにより適宜調整することができる。具体的には、食用油脂の配合量として、組成物100kcal当たり合計0.5~5.0g、好ましくは1.0~4.0g、より好ましくは2.0~3.0gを例示することができるが、これらの範囲に限定されない。また、MCTの配合量は、組成物100kcal当たり0.3~1.0g、好ましくは0.5~0.7gとすることができ、n-3系脂肪酸の配合量は、組成物100kcal当たり0.03~0.10g、好ましくは0.05~0.07gとすることができる。ここで、脂質成分の持つ効果を発揮させ、良好な風味を維持したまま継続して摂取しやすくするために、脂質成分の配合量を上記数値範囲内に調整することが好ましい。なお、本発明において、1kcal=1mLの場合には、「組成物100kcal当たり」は「組成物100mL当たり」と置き換えてもよい。
【0030】
本発明の組成物は炭水化物として糖質を含んでいてもよい。本発明の組成物に配合できる糖質としては、糖アルコール(ソルビトール、キシリトール、マルチトールなど)、ハチミツ、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、イソマルチュロース、デキストリンなどが挙げられ、好ましくは糖質として少なくともイソマルチュロースを配合することができる。
【0031】
イソマルチュロースは、ブドウ糖と果糖が1分子ずつα-1,6結合した二糖類(分子量342.297、Cas. No. 13718-94-0)である。イソマルチュロースはショ糖の構造異性体であり、6‐O‐(α‐D‐Glucopyranosyl)‐D‐fructoseあるいはイソマルツロース、パラチノースともいい、甘味料などに用いられている。イソマルチュロースは蜂蜜やサトウキビなどに非常に少量含まれている。また、スクロースにプロタミノバクター・ルブラム(Protaminobacter
rubrum)起源のα-グルコシルトランスフェラーゼなどを作用させて、α-1,2結合をα-1,6結合に転移させて、イソマルチュロースを製造することもできる。イソマルチュロースの甘味はスクロースに似ているが、甘味度はスクロースの約半分である。経口的に摂取されたイソマルチュロースは、消化管内でイソマルターゼによって分解を受け、ショ糖と同様にグルコースとフルクトースに消化されて吸収される(合田敏尚ら、日本栄養・食糧学会誌, Vol. 36(3): 169-173, 1983)。他にイソマルターゼで消化を受けるイソマルトース、パノース、イソマルトトリオースなどは、イソマルチュロースの消化と競合するため、イソマルチュロースの摂取によって消化吸収が抑制されると言われている(日本栄養・食糧学会誌、36(3)、pp.169-173(1983))。イソマルチュロースのカロリーは4kcal/gである。本発明において、イソマルチュロースは、パラチノースシロップ、還元パラチノースあるいはパラチノース水飴などを含む。パラチノース水飴は、イソマルチュロースの脱水縮合によって生じる四糖、六糖、八糖などのオリゴ糖を主成分とする水飴状の液状物である。
【0032】
イソマルチュロースなどの晶質浸透圧調整剤、およびデキストリン・難消化デキストリンなどの膠質浸透圧調整剤の組み合わせを水に溶解して、浸透圧を200~440mOsm/Lに調整した水溶液が腸内の有害菌を排除し有用菌の増殖環境を調整することも知られている(国際公開第2004/067037号)。従って、本発明の組成物にイソマルチュロースを配合することで摂取者の腸内環境の改善効果が期待される。
【0033】
イソマルチュロースの配合量は、他の成分(乳たんぱく質加水分解物、発酵乳たんぱく質、脂質など)の配合量や、本発明の組成物を摂取させる者の病態、症状、年齢、体重、用途などにより適宜調整することができる。具体的には、イソマルチュロースの配合量として、組成物100kcal当たり4~15g好ましくは6~8gを例示することができるが、これらの範囲に限定されない。
【0034】
ここで、イソマルチュロースの持つ効果を発揮させ、良好な風味を維持したまま継続して摂取しやすくするために、イソマルチュロースの配合量を上記数値範囲内に調整することが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は上記以外の糖質原料を含んでいてもよく、そのような糖質原料としては、例えば、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテルなどの加工澱粉が挙げられる。
【0036】
本発明の組成物は、たんぱく質、脂質、糖質の配合量を加減することにより、その熱量を調節することができる。本発明の組成物の熱量は、液状組成物100mLあたり50~150kcal、好ましくは80~120kcalとすることができるが、これらの範囲に限定されない。
【0037】
また、本発明の組成物における、たんぱく質、脂質および糖質の組成物全体に対するエネルギー比率は、第六次改定日本人の栄養所要量にほぼ準ずる形で決定することができる。具体的には、たんぱく質15~25%、脂質20~30%、糖質45~65%を例示することができるが、これらの範囲に限定されない。
【0038】
本発明の組成物はさらに食物繊維を含んでいてもよい。食物繊維は、ヒトの消化酵素によって加水分解されない食物中の物質を指し、水に対する親和性の違いにより、水溶性食物繊維および不溶性食物繊維に分類される。水溶性食物繊維としては、例えば、ラクツロース、ラクチトール、あるいはラフィノースなどの難消化性オリゴ糖などが挙げられる。このうち、難消化性オリゴ糖の生理機能としては、未消化物のまま大腸に到達し、腸内ビフィズス菌の活性化および増殖に寄与し、腸内環境の改善すなわち整腸効果を有することが知られている。他の水溶性食物繊維としては、ペクチン(プロトペクチン、ペクチニン酸、ペクチン酸)、グアーガム・酵素分解物、タマリンドシードガムなどが挙げられる。
【0039】
本発明の組成物は、前記のたんぱく質、脂質、糖質、食物繊維の他に、水、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類、乳化剤、増粘剤、安定化剤などを使用することができる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、エリソルビン酸などが挙げられる。また、便臭低減効果のある素材(例えば、シャンピニオンエキスを0.005%~0.5%)、カロチノイド製剤(例えば、α-カロチン、β-カロチン、リコピン、ルテインなどを含む製剤を0.00001%~0.0002%)、抗酸化剤(カテキン、ポリフェノールなど)を本発明の組成物に含ませることもできる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品および/またはこれらを多く含む食品を使用してもよい。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、ホエイたんぱく質および発酵乳たんぱく質を含んでなり、さらに脂質としてn-3系脂肪酸を含む食用油脂を、炭水化物としてイソマルチュロースを含む糖質を、それぞれ含んでなる、エンドトキシンの血中移行阻害用栄養組成物が提供される。この栄養組成物は好ましくは液状組成物の形態で提供することができ、その場合、ホエイたんぱく質の組成物100kcal当たりの含有量を0.5~5.0gとし、発酵乳たんぱく質の組成物100kcal当たりの含有量を0.5~6.0gとし、n-3系脂肪酸の組成物100kcal当たりの含有量を0.03~0.10gとし、イソマルチュロースの組成物100kcal当たりの含有量を4~15gとすることができる。
【0041】
本発明の組成物は、当業界において公知の方法で製造することができる。例えば、前記構成成分の一部または全てを調合した後に、必要に応じて均質化を行うことで製造することができる。ここで「均質化」とは、調合した各成分を十分混合することにより均質にし、また、脂肪球や他成分の粗大粒子を機械的に微細化して脂肪などの浮上・凝集を防止するとともに、組成物を均一な乳化状態にすることをいう。
【0042】
本発明の組成物の製造においては加熱処理または加熱殺菌を実施することができる。加熱殺菌条件は、一般的な食品の殺菌条件を用いることができ、慣用の装置を用いて加熱殺菌を行うことができる。例えば、62~65℃×30分、72℃以上×15秒以上、72℃以上×15分以上、あるいは120~150℃×1~5秒の殺菌、または121~124℃×5~20分、105~140℃の滅菌、レトルト(加圧加熱)殺菌、高圧蒸気滅菌などを使用することができるが、これらの例に限定されない。加熱殺菌は、好ましくは加圧下で行うことができる。
【0043】
また、液状の組成物を予め加熱滅菌した後、無菌的に容器に充填する方法(例えば、UHT滅菌法とアセプティック包装法を併用した方法)、液状の栄養組成物を容器に充填した後、容器とともに加熱滅菌する方法(例えば、オートクレーブ法)、缶容器や流動食や経口・経管栄養に用いる各種容器(いわゆるソフトバッグ、栄養バックなど)に充填しレトルト殺菌(例えば、115~145℃で5~10秒)を行う方法、缶容器や流動食や経口・経管栄養に用いる各種容器(いわゆるソフトバッグ、栄養バックなど)に充填し、レトルト殺菌した後に約140~145℃で約5~8秒間加熱殺菌後、冷却し、無菌充填を行う方法を例示することができるが、これらに限定されるものではない。なお、加熱処理または加熱殺菌によって、原料の発酵乳に由来するスターター(乳酸菌、ビフィズス菌、またはプロピオニバクテリウム属菌など)は死滅する。
【0044】
本発明の組成物を液状の形態で提供する場合、その浸透圧は500~1000mOsm/Lとすることができ、好ましくは550~750mOsm/Lの浸透圧とすることができる。
【0045】
本発明の組成物を液状の形態で提供する場合、その粘度は、室温で測定したときに、20~100cp (1cp = 0.001Pa・s)、好ましくは25~60cp、より好ましくは30~50cpとすることができるが、これらの範囲に限定されるものではない。
【0046】
本発明の組成物を液状の形態で提供する場合、そのpHは4.6以下、好ましくは3.0~4.3、より好ましくは3.8~4.2に調整することができるが、これらの範囲に限定されるものではない。
【0047】
後記実施例に示されるように、ホエイたんぱく質を含有する本発明の組成物はエンドトキシンの血中移行を阻害する。従って、本発明の組成物はエンドトキシン血中移行阻害用組成物およびエンドトキシン血中移行阻害剤として使用することができるとともに、エンドトキシン血中移行阻害方法に使用することができる。
【0048】
すなわち、本発明によれば、有効量のホエイたんぱく質または本発明の組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、エンドトキシンの血中移行阻害方法が提供される。摂取または投与対象は、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳動物)である。
【0049】
本発明によればまた、エンドトキシンの血中移行阻害用組成物の製造のための、ホエイたんぱく質またはそれを含む組成物の使用が提供される。本発明によればさらに、エンドトキシンの血中移行阻害剤の製造のための、ホエイたんぱく質またはそれを含む組成物の使用が提供される。本発明によればさらにまた、エンドトキシンの血中移行阻害に使用するためのホエイたんぱく質またはそれを含む組成物が提供される。
【0050】
ここで、「エンドトキシン」とはサルモネラ菌、大腸菌、緑膿菌などグラム陰性菌の細胞壁成分であり、内毒素やリポポリサッカライドとも呼ばれる。「エンドトキシン血中移行阻害」の有無は、血清中のエンドトキシン濃度を指標にして評価することができる(実施例1参照)。なお、エンドトキシン血中移行阻害はエンドトキシンの血中移行抑制を含む意味で用いられるものとする。
【0051】
本発明の組成物の使用はヒトおよび非ヒト動物並びにこれらに由来する試料における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。ここで、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
【0052】
後記実施例に示される通り、本発明の組成物はエンドトキシンの血中移行を阻害することができると考えられる。これまでにエンドトキシンの血中濃度の増加が肝障害などの疾患の発症や悪化と関連することが知られている(Michelena J et al., Hepatology 2015; 62(3): 762-772; Verdam FJ et al., J Clin Gastroenterol. 2011; 45(2): 149-152; Wig JD et al., J Clin Gastroenterol. 1998; 26(2): 121-124; Wong J et al., Semin Dial.2015; 28(1): 59-67; Bester J et al. 2015; 6(34): 35284-35303)。また、エンドトキシンの血中濃度の増加が、発熱、血圧低下、白血球数減少、血小板数減少、悪寒、頭痛、嘔吐、筋肉痛、心悸亢進などの症状の発現と関係することが知られている(Doorduin J et al., Shock 2015; 44(4): 316-322)。さらに後記実施例に示される通り、肝障害モデルマウスにおいて肝障害の指標とされているASTやALTの血中濃度が本発明の組成物の摂取により有意に低下することが確認された(実施例1)。従って本発明においては、エンドトキシン血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である疾患および症状の治療、予防または改善に本発明の組成物を使用することができる。また本発明の組成物は、エンドトキシン血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である疾患および症状の治療剤、予防剤および改善剤として使用できるとともに、エンドトキシン血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である疾患および症状の治療方法、予防方法および改善方法に使用することができる。本発明の治療方法、予防方法および改善方法は、それを必要としている対象に本発明の組成物または有効量のホエイたんぱく質を摂取させるか、あるいは投与することにより実施することができる。摂取または投与対象は、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳動物)である。
【0053】
エンドトキシン血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である疾患としては、肝硬変、アルコール性肝障害、非アルコール性肝障害(NASH)などの肝障害や、急性膵炎、腎疾患、アルツハイマー病、糖尿病、動脈硬化などの疾患が挙げられる。また、エンドトキシン血中移行の阻害がその治療、予防または改善に有効である症状としては、発熱、血圧低下、白血球数減少、血小板数減少、悪寒、頭痛、嘔吐、筋肉痛、心悸亢進などが挙げられる。
【0054】
本発明の組成物および本発明の阻害剤並びに本発明の治療剤、予防剤および改善剤は医薬品、医薬部外品、食品、飼料などの形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。また本発明のエンドトキシン血中移行阻害方法並びに本発明の治療方法、予防方法および改善方法は下記の記載に従って実施することができる。
【0055】
本発明の組成物は医薬品またはサプリメントとしてヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させるか、あるいは経口投与することができる。経口剤としては、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などが挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤などが挙げられる。また、適当量のカルシウムを添加してもよく、さらに適当量のビタミン、ミネラル、有機酸、糖類、アミノ酸、ペプチド類などを添加してもよい。
【0056】
本発明においては、ヒトおよび非ヒト動物に対する経管投与、経鼻管投与、点滴、座薬などの経口投与以外の投与も、本発明の組成物の形態に応じて可能である。例えば、本発明の組成物を、粘性を有する液状の組成物、または、半固形状の組成物とすることで、咀嚼や嚥下の機能が低下し、経口摂取ないしは経口投与ができないヒトおよび非ヒト動物に対しても投与することができる。本発明の組成物を経口摂取以外で摂取させるか、あるいは投与することにより、咀嚼や嚥下の機能が加齢などにより低下したとしても、これらのヒトおよび非ヒト動物においてエンドトキシンの血中への移行を阻害することができるとともに、肝障害などの疾患や該疾患に関連する症状の治療、予防および改善が期待できる。さらには本発明の組成物はその配合成分により栄養補給剤やエネルギー補給剤としての機能も持ちうることから、咀嚼や嚥下の機能が低下したヒトおよび非ヒト動物に各種栄養成分やエネルギーを補給することができる。
【0057】
本発明の組成物はホエイたんぱく質やその加水分解物など日常食品素材を原料にする一方で、エンドトキシンの血中移行阻害作用を有するため、日常摂取する食品や、サプリメントとして摂取する食品、さらには栄養補給を目的とした栄養機能食品として提供することができる。本発明の組成物はまた、各種食品に配合させて提供することができる。
【0058】
本発明の組成物を食品として提供する場合、該食品は本発明の組成物を有効量含有した食品である。ここで、本発明の組成物を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で本発明の組成物が摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)を含む意味で用いられる。本発明の組成物は食品として利用できる成分を配合成分としていることから、エンドトキシンの血中移行阻害やそれに関連する効果を期待しつつ、流動食、経口・経管栄養剤、飲料、ゲル状食品(特に、いわゆる機能性食品)などとして、経口・経腸栄養患者や高齢者、乳幼児などの栄養管理に用いることができる。
【0059】
「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料や流動食のような液状の形態であっても、ペースト状、半液体、ゲル状の形態であっても、固形、粉末の形態であってもよい。また、液状、固形、粉末などの形態を問わず、本発明の組成物は各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、特別用途食品、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品など)に添加し、これを摂取させてもよい。また、栄養組成物の使用形態が粉末の場合、例えば噴霧乾燥、凍結乾燥などの手段を用いることにより製造することができる。
【0060】
本発明の組成物の医薬品または食品としての1日当たりの摂取量あるいは投与量は、摂取対象者の病態、年齢、症状、体重、用途や、本発明の組成物が栄養の唯一の物であるかなどによって異なるため、特に限定されない。エンドトキシンの血中移行阻害やそれに関連する作用効果を目的とする摂取および投与の場合、例えば、成人1日当たりホエイたんぱく質を0.5~80g、好ましくは2~42g、より好ましくは6~25gを摂取できるように本発明の組成物を摂取させるか、あるいは投与することができる。また、本発明の組成物は栄養組成物の側面を有しており、成人の場合1日当たり100~1600kcal、好ましくは200~1400kcal、より好ましくは400~1000kcalの摂取量および投与量を例示することができる。健康な成人の場合、例えば1日当たり3000kcalまでの摂取量および投与量が許容される。また、摂取量は、摂取対象者の担当医により決定することもできる。
【0061】
本発明の組成物は、エンドトキシンの血中移行阻害などに有効な1日分の摂取量の組成物で提供することができる。この場合、本発明の組成物は1日分の有効摂取量を摂取できるように包装されていてもよく、1日分の有効摂取量が摂取できる限り、包装形態は一包装であっても、複数包装であってもよい。包装形態で提供する場合、1日分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、1日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。
【0062】
本発明の組成物を提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、袋、ソフトバック、紙容器、缶、ボトル、カプセルなどの収容可能な容器などが挙げられる。
【0063】
本発明の組成物はその効果をよりよく発揮させるために、1週間以上継続的に投与または摂取させることが好ましく、投与および摂取期間はより好ましくは1~4週間、特に好ましくは1~2週間である。ここで、「継続的に」とは毎日投与または摂取を続けることを意味する。本発明の組成物を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
【実施例】
【0064】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0065】
実施例1:本発明の栄養組成物のエンドトキシン血中移行抑制効果の確認
本発明の栄養組成物のエンドトキシンの血中への移行を抑制する効果を確認するために、コンカナバリンA (ConA)投与による肝障害モデルマウスを用いて以下のような評価を行った。
【0066】
(1)試験飼料
試験食(本発明の栄養組成物)としては、流動食「明治メイン(MEIN)」(明治社製)を使用した。対照食としては、流動食「メイバランスHP」(明治社製)を使用した。各流動食を凍結乾燥して粉末化したものをそれぞれ試験飼料とした。試験食と対照食の成分組成(100mL当たり)と試験食のたんぱく質、糖質、繊維および脂質に関する原料組成(100mL当たり)はそれぞれ下記表1、表2に示される通りであった。
【0067】
【0068】
【0069】
(2)試験条件
6週齢のBalb/c雌マウス(日本エスエルシー社より購入)を1週間予備飼育した後、体重の平均が等しくなるように4群に群分けし、それぞれ、正常対照群(n=5)、正常栄養組成物群(n=5)、肝障害対照群(n=15)、肝障害栄養組成物群(n=14)とした。
【0070】
正常対照群および肝障害対照群は対照食を用いて14日間飼育した。正常栄養組成物群および肝障害栄養組成物群は試験食を用いて14日間飼育した。肝障害対照群および肝障害栄養組成物群(以下、併せて「肝障害群」ということがある。)は14日目にConA(Sigma社製)を20mg/kgの用量で尾静脈内に投与し、正常対照群および正常栄養組成物群(以下、併せて「正常群」ということがある。)にはConAを投与しなかった。
【0071】
(3)測定項目
肝障害群は、ConA投与の2時間後に尾静脈からヘパリン処理注射器で0.3mLの採血を行い、翌日(15日目)、イソフルラン麻酔下で腹部大静脈からヘパリン処理注射器で全採血を行った。正常群は飼育開始14日目にイソフルラン麻酔下で腹部大静脈からヘパリン処理注射器で全採血を行った。血液は無菌状態で採血し、3000rpmで1分遠心した上清の多血小板血漿を回収し、生菌数の検出とエンドトキシン検出用に使用した。尾静脈から採血を行った血液と上記の多血小板血漿の一部を取った残りの血液は12,000rpmで5分遠心し、血漿をサイトカインや生化学検査の測定に使用した。
【0072】
(i)AST・ALT活性
肝障害群について、得られた血漿(ConA投与後24時間後の血漿)を用いて、肝障害の指標となるアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)の活性をそれぞれ測定した。測定には富士ドライケムDRY・CHEM NX500i(富士フィルム社製)を使用した。
【0073】
(ii)血漿中TNF-α・IL-6濃度
肝障害群について、得られた血漿(ConA投与後2時間後の血漿)を用いて、ConAによる誘発初期に産生される炎症性サイトカインであるTNF-αおよびIL-6の濃度をそれぞれ測定した。測定にはMouse inflammation kit(日本べクトン・ディッキンソン社製)を用い、BD FACS Verse(BD Biosciences社製)で測定した。
【0074】
(iii)血漿中エンドトキシン検出の有無
正常群および肝障害群について、得られた多血小板血漿(ConA投与後24時間後の血漿)において、エンドトキシン検出の有無を確認した。エンドトキシン検出の有無を確認するために、エンドトキシン濃度をLimulus ES-F シングルテストワコー(和光純薬工業社製)を用いて、トキシノメーターET-6000(和光純薬工業社製)で測定した。血漿中のエンドトキシン濃度が検出限界(0.02EU/mL)以下である場合にエンドトキシンが検出されなかったと判定し、血漿中のエンドトキシン濃度が検出限界以上であった場合にエンドトキシンが検出されたと判定した。
【0075】
(i)~(iii)の結果は平均値±標準誤差(SE)で示し、IBM社の統計解析ソフトウェアであるSPSSを用いて、t-test(*:p < 0.05)で統計解析を行った。
【0076】
(4)結果
飼育期間中、いずれの群も順調に体重が増加し、群間に有意な差は認められなかった。
【0077】
(i)AST・ALT活性
ASTおよびALT活性の測定結果を
図1に示す。肝障害栄養組成物群では、肝障害対照群と比較してASTおよびALTの活性がいずれも有意に低かった。これらの結果から、本発明の栄養組成物により肝障害の発症と悪化が抑制されることが示された。
【0078】
(ii)血漿中TNF-α・IL-6濃度
血漿中TNF-αおよびIL-6濃度の測定結果を
図2に示す。肝障害栄養組成物群では、肝障害対照群と比較してTNF-αの濃度が低い傾向を示した。また、肝障害栄養組成物群では、肝障害対照群と比較してIL-6の濃度が有意に低かった。これらの結果から、本発明の栄養組成物により初期の炎症性サイトカイン産生が抑制され、肝障害の発症と悪化が抑制されることが示された。
【0079】
(iii)血漿中エンドトキシン検出の有無
血漿中にエンドトキシンが検出された個体数を群ごとに表3に示す。なお、正常群および肝障害群の血漿中の生菌数を培養法で検討したが、生菌は確認されなかった(データ省略)。
【表3】
【0080】
表3の結果から分かるように、正常群では、対照群と栄養組成物群ともにすべての個体でエンドトキシンが検出されなかった。一方、肝障害群中、対照群では15個体中6個体(40%)、栄養組成物群では14個体中2個体(14%)でエンドトキシンが検出された。なお、エンドトキシンが検出されたと判定された個体の血漿中のエンドトキシン濃度は0.022-0.047 EU/mL(3.14-6.71pg/mL)であり、エンドトキシンが検出されない個体とは明らかに異なっていた。
【0081】
以上の結果から、本発明の栄養組成物はエンドトキシンの血中移行を抑制することができ、これにより肝障害の発症や悪化を抑制することが明らかとなった。
【0082】
ところで、ConA投与により誘発される肝障害は、初期の炎症性サイトカイン産生とエンドトキシンの血中移行により引き起こされるものであるところ、本実施例によれば、本発明の栄養組成物は、エンドトキシンの血中移行の抑制のみならず、初期の炎症性サイトカイン産生も抑制することが確認された。初期の炎症性サイトカイン産生がエンドトキシンの影響を受けているかを確認するために、初期の炎症性サイトカイン濃度のデータとエンドトキシン検出の有無とから箱ひげ図を作成したところ、初期の炎症性サイトカイン産生とエンドトキシンの血中移行の抑制との間に相関がないことが示唆された(
図3)。以上のことから、本発明の栄養組成物はエンドトキシンの血中移行を抑制するとともに、これと別の経路による初期の炎症性サイトカイン産生を抑制することにより肝障害を抑制していると考えられる。