(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】液晶素子及びエマルジョン組成物
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1334 20060101AFI20231114BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20231114BHJP
G02F 1/137 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G02F1/1334
G02F1/13 505
G02F1/137 500
(21)【出願番号】P 2019016923
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木田 紀行
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-104620(JP,U)
【文献】特開平06-273733(JP,A)
【文献】特開昭59-226322(JP,A)
【文献】特開平08-313719(JP,A)
【文献】特開平06-324358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0066803(US,A1)
【文献】特開2001-249314(JP,A)
【文献】特開平08-054611(JP,A)
【文献】特開2009-133921(JP,A)
【文献】特開平09-236791(JP,A)
【文献】特開平09-318977(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0061928(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1334
G02F 1/13
G02F 1/137
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基板と、前記2枚の透明
導電膜付き基板の間に挟持された液晶-高分子複合膜とを備え、
前記液晶-高分子複合膜が、親水性の高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液
晶組成物が囲まれた液晶領域とを有する液晶素子であって、
前記高分子マトリクスは水溶性染料を含有し、
前記液晶組成物は油溶性の二色性染料を含有し、
前記液晶-高分子複合膜は電圧の印加により透明状態と着色状態を切り替えることがで
き、
前記高分子マトリクスの全質量を1とすると、前記液晶組成物の全質量が0.5以上4
以下であ
り、
前記着色状態のヘーズが30%以上である液晶素子。
【請求項2】
前記水溶性の染料が直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染染料、アゾイック染料、硫
化染料、建染染料、分散染料、反応染料及び食品用染料からなる群より選択される少なく
とも1つを含有する、請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記油溶性の二色性染料がアントラキノン染料及び/またはアゾ染料を含有するもので
ある、請求項1に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記水溶性の染料の高分子マトリクスに対する含有量が、0.1重量%以上20重量%
以下である、請求項1に記載の液晶素子。
【請求項5】
前記油溶性の二色性染料の液晶組成物に対する含有量が、0.1重量%以上20重量%
以下である、請求項1に記載の液晶素子。
【請求項6】
前記液晶組成物がネマチック液晶またはカイラルネマチック液晶である、請求項1に記
載の液晶素子。
【請求項7】
前記高分子マトリクスがポリウレタン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール及びこれ
らの変性体からなる群より選択される少なくとも1つを含有するものである、請求項1に
記載の液晶素子。
【請求項8】
前記着色状態の全光線透過率が0.1%以上40%以下である、請求項1に記載の液晶
素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及びエマルジョン組成物に関する。詳しくは、透明状態と着色状態
の切り替えができる液晶素子及び該液晶素子に用いることのできるエマルジョン組成物に
関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスの透明度を電気的に切り替えることができるスマートガラスの需要が大き
くなってきている。スマートガラスに用いられる調光材としては、液晶方式、エレクトロ
クロミック方式、SPD(Suspend Particle Device)方式等が
提案されている。この中でも、液晶方式は応答時間が圧倒的に短く、利用者にストレスを
感じさせないために注目されている。
【0003】
液晶方式の中でも、PDLC(Polymer Dispersed Liquid
Crystals)が広く知られている(非特許文献1)。PDLCは粒子状の液晶が高
分子マトリクスに分散した液晶-高分子複合膜が、2枚の透明導電基板に挟まれた構造を
持つ。
【0004】
PDLCの中でもノーマルモード駆動が最も一般的である。ノーマルモード駆動のPD
LCに対して、電圧を印加していない状態では、液晶分子が高分子マトリクスの壁面に沿
って配向し、液晶領域と高分子マトリクスとで屈折率の不一致が生じる。この不一致によ
り光散乱を起こして白濁することで、目隠しとして機能する。一方、PDLCに電圧を印
加した場合、液晶分子が電界方向へ配向することにより、液晶領域と高分子マトリクスと
で屈折率が一致し、光を透過して透明になる。
【0005】
PDLCは、電車、自動車等の車両、ビジネスビル、病院等の建物の窓、扉、間仕切り
等において、意匠性やプライバシーの保護等を目的とした調光シャッターとして実用化さ
れている。また、文字や図形を表示する表示装置としても用いられている。
【0006】
PDLCは前述の液晶-高分子複合膜の構造により可撓性を持つために、フィルム素子
にすることができる。加えて、フィルム素子を切断整形することが可能である。このよう
な特徴を生かし、利用者が簡単にガラスに貼りつけ施工することができる。
【0007】
ところで、近年、省エネ志向の高まりから、スマートガラスを窓に活用し、室内に入る
日射量を制御することで冷暖房負荷を減らす試みがなされている。ところがPDLCの場
合、光散乱の有無を切り替えることができるものの、散乱はほとんどが前方散乱であるた
め光が素子を透過してしまう。そのため、透過光量をほとんど制御できず、省エネに寄与
できない。
【0008】
特許文献1~3には、二色性染料を液晶中に添加したゲストホスト液晶方式のスマート
ガラスが開示されている。ゲストホスト液晶方式は液晶素子の吸光度を電気的に切り替え
ることにより透明状態と着色状態を切り替える方式であるため、透過光量を制御すること
ができる。
【0009】
特許文献4~5には、PDLCとゲストホスト液晶を組み合わせたゲストホストPDL
Cが開示されており、透過光量を制御可能なフィルム素子が期待されている。
【0010】
特許文献4では、液晶-高分子複合膜を光重合による重合誘起相分離により製造してい
る。ところが液晶中の二色性染料が光重合を阻害してしまい、高分子マトリクスの硬化不
良が起こるため、液晶素子の信頼性に問題がある。この問題は、特に液晶素子の遮光性を
高くしようとする場合、特に問題となる。
【0011】
特許文献5では、液晶-高分子複合膜を水系のエマルジョン組成物を用いて製造してい
る。このエマルジョン組成物を用いた製造法は、特許文献4の重合誘起相分離による製造
法と比べ、所望の膜構造を得ることが容易であり、かつ高分子マトリクスの硬化不良に由
来する信頼性の低下が生じない利点がある。そのため、より遮光性を高くした液晶素子を
得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-510907号公報
【文献】特開2016-536634号公報
【文献】特開2017-511895号公報
【文献】特開2011-190314号公報
【文献】特開昭60-252687号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】D.A.Higgins, Advanced Materials 2000, 12, No. 4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献5のエマルジョン組成物を用いた液晶素子の製造法であっても、従来技術では
太陽光のような強い光を遮るためには遮光性が十分ではなかった。その原因は2点あり、
液晶素子中の高分子マトリクスが透明であるために、高分子マトリクスを通って光漏れが
生じるためと、液晶組成物中の二色性染料が高分子マトリクスへ溶出し、液晶領域が十分
に光を吸収できなくなるためである。この問題を解決するために、液晶-高分子複合膜を
厚くする方法があるが、駆動電圧が高くなる上に、液晶素子のダイナミックレンジ(透明
時と着色時の透過率の差)が小さくなってしまい、好ましい方法ではない。また、液晶素
子の外側に光学フィルタ等の着色膜を取り付けることで駆動電圧を変えずに遮光性を高く
することができるが、液晶素子のダイナミックレンジが小さくなってしまい、これも好ま
しい方法ではない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、検討の結果、高分子マトリクスを水溶性染料によって着色し、且つ液晶領
域の液晶組成物が油溶性の二色性染料を含有することにより、液晶素子のダイナミックレ
ンジを維持しつつ、遮光性を高められることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発
明の要旨は、以下に存する。
【0016】
[1]透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基板と、前記2枚の透
明導電膜付き基板の間に挟持された液晶-高分子複合膜とを備え、
前記液晶-高分子複合膜が、親水性の高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶
組成物が囲まれた液晶領域とを有する液晶素子であって、
前記高分子マトリクスは水溶性染料を含有し、
前記液晶組成物は油溶性の二色性染料を含有し、
前記液晶-高分子複合膜は電圧の印加により透明状態と着色状態を切り替えることができ
る液晶素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透過光量を電気的に制御できる、切断整形可能な液晶素子が提供され
る。また、当該素子において、高い遮光性と広いダイナミックレンジを両立する。
【0018】
本発明の液晶素子は、透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基
板と、前記2枚の透明導電膜付き基板の間に挟持された液晶-高分子複合膜とを備え、前
記液晶-高分子複合膜が、親水性の高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組
成物が囲まれた液晶領域とを有する液晶素子であって、前記高分子マトリクスは水溶性の
染料を含有し、前記液晶組成物は油溶性の二色性染料を含有し、前記液晶-高分子複合膜
は電圧の印加により透明状態と着色状態を切り替えることができる。
なお、本明細中の水溶性とは、1-オクタノールと水との間の分配係数が1以下である
ことを意味し、本明細中の油溶性とは、1-オクタノールと水との間の分配係数が1より
大きいことを意味する。1-オクタノールと水との間の分配係数は、OECDテストガイ
ドライン107(フラスコ振とう法、分配係数が-2~4の場合)またはOECDテスト
ガイドライン117(高速液体クロマトグラフィー法、分配係数が0~6の場合)によっ
て測定することができる。
【0019】
前記液晶-高分子複合膜が、高分子マトリクスと前記高分子マトリクスに液晶組成物が
囲まれた液晶領域とを有することで、可撓性を有する切断整形可能な液晶素子となる。前
記液晶組成物は油溶性の二色性染料を含有することで親水性である高分子マトリクスへの
二色性染料の溶出を防ぐことができ、前記液晶領域が着色状態において十分な光吸収能を
示すことができる。また、高分子マトリクスが水溶性の染料を含有することで水溶性の染
料が高分子マトリクスを通過する光を吸収し、高分子マトリクスからの光漏れを防ぐこと
ができ、遮光性を高くすることができるとともに、ダイナミックレンジを広く保つことが
できる。このため、着色状態の液晶-高分子複合膜は太陽光のような強い光に対しても室
内に侵入する光の量を十分に低減することができ、透明時には十分な視界を確保すること
ができる。
【0020】
本発明の液晶素子は、上記の特性から、窓、スクリーン、ディスプレイ等に有用である
。例えば、建物及び乗り物の窓、パーテーション等に視野遮断素子として用いることがで
きる。また、公告板、ショーウインドウ、コンピューター端末、プロジェクション等のデ
ィスプレイとして利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例で
あり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本
発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0022】
<液晶素子>
本発明の液晶素子は、透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基
板と、前記2枚の透明導電膜付き基板の間に挟持された液晶-高分子複合膜とを備え、前
記液晶-高分子複合膜が、親水性の高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組
成物が囲まれた液晶領域とを有する液晶素子であって、前記液晶-高分子複合膜は電圧の
印加により透明状態と着色状態を切り替えることができ、前記高分子マトリクスは水溶性
の染料を含有し、前記液晶組成物は油溶性の二色性染料を含有する
液晶-高分子複合膜は、電圧無印加時に透明状態であり、電圧印加時に着色状態であっ
てもよく、電圧印加時に透明状態であり、電圧無印加時に着色状態であってもよい。また
、透明状態と着色状態を切り替えるときにだけ電圧印加を必要とするメモリ性を有してい
てもよい。
なお、本発明において電圧とは、閾値以上の実効値を持つ、直流電圧、交流電圧、パル
ス電圧又はそれらの組み合わせを表す。
【0023】
本発明において、透明状態とは、上記電圧印加時又は電圧無印加時の液晶-高分子複合
膜の状態を表し、電圧印加時と電圧無印加時において、液晶-高分子複合膜の全光線透過
率が大きい方を透明状態とする。
また、本発明において、着色状態とは、上記電圧印加時又は電圧無印加時の液晶-高分
子複合膜の状態を表し、電圧印加時と電圧無印加時において、液晶-高分子複合膜の全光
線透過率が小さい方を透明状態とする。
【0024】
〔液晶-高分子複合膜〕
本発明の液晶素子が含む液晶-高分子複合膜は、親水性の高分子マトリクスと、前記高
分子マトリクスに液晶組成物が囲まれた液晶領域とを有する。このような液晶-高分子複
合膜は、一般にPDLCとして知られている。
液晶-高分子複合膜は、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組成物が囲
まれた液晶領域とを有することで、液晶素子が可撓性を有する。また、このような構造を
持つことで、液晶素子を切断しても液晶組成物の漏洩が最小限に留められ、加えて高分子
マトリクスが酸素や水分等の劣化要因から液晶組成物を保護するため、切断整形が可能と
なる。
【0025】
液晶領域は高分子マトリクス中に分散していても良く、規則的に配列していてもよい。
液晶領域の形状としては、真球、回転楕円体、円柱、三角柱、四角柱、六角柱等の多角柱
のいずれでも良く、またこれらの形状が歪であってもよい。これらの中でも、真球、回転
楕円体、円柱、正三角柱、正四角柱、正六角柱等の正多角柱が液晶-高分子複合膜の光散
乱が弱くなり、着色時の二色性染料の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが
小さくなる傾向があるため好ましい。
【0026】
液晶領域のサイズとしては、膜面から観察した際に、平均粒径が2μm以上であること
が好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、50μm以下であることが好
ましく、30μm以下であることがより好ましい。平均粒径が上記下限値より大きいこと
で、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある
。同時に着色状態の液晶-高分子複合膜の光散乱も弱くなることで、二色性染料の光吸収
の効率が向上し、より全光線透過率が低くなる傾向がある。平均粒径が上記上限値より小
さいことで、液晶領域の粒状感が無くなってゆき、液晶素子の外観の均一性が良好になる
傾向がある。なお、平均粒径は個数基準のメディアン径とする。
膜面から観察した際に、液晶領域の形状が円ではなく、楕円、三角形、四角形、六角形
等の多角形、又はこれらの形状が歪である場合、粒径は最小包含円の直径を参照すればよ
い。
【0027】
前記液晶領域の変動係数が個数基準の粒度分布において、平均粒径(m)と正規分布の
標準偏差(σ)に対し、変動係数(CV)をCV=σ/mとする。
変動係数は、0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることが好ましく、0
.3以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。変動係数が上記上限値以下であ
ることで、散乱を起こす小粒子及び粒状感を生じさせる大粒子が十分少なくなる傾向にあ
る。一方、変動係数が0.001以上であることが好ましく、0.005以上がより好ま
しく、0.01以上がさらに好ましい。変動係数が上記下限値以上であることで、エマル
ジョン組成物の生産性が向上する傾向にある。
【0028】
液晶領域の個数基準の粒径頻度分布において、粒径2μm以下は累積20%以下である
ことが好ましく、累積10%以下がより好ましく、累積5%以下がさらに好ましい。上記
上限値以下であることで、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり、着色状態の二色性染
料の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。
一方、累積0.1%以上であることが好ましく、累積0.5%以上がより好ましく、累
積1%以上がさらに好ましい。上記下限値以上であることで、エマルジョン組成物の生産
性が向上する傾向にある。
また、粒径50μm以上は累積20%以下が好ましく、累積10%以下がより好ましく
、累積5%以下がさらに好ましい。上記上限値以下であることで、液晶領域の粒状感が無
くなってゆき、液晶素子の外観の均一性が良好になる傾向がある。一方、累積0.1%以
上であることが好ましく、累積0.5%以上がより好ましく、累積1%以上がさらに好ま
しい。上記下限値以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上する傾向にある
。
【0029】
〔液晶組成物〕
本発明の液晶組成物は、油溶性の二色性染料を含有する液晶を含有する。このような液
晶組成物は、一般的にゲストホスト液晶として知られている。
特に限定はされないが、液晶組成物の二色性染料の含有量は3%以上であることが好ま
しく、4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。また
、液晶組成物の二色性染料の含有量は20%以下であることが好ましく、15%以下であ
ることがより好ましく、12%以下であることがさらに好ましい。
上記下限値以上であることで、液晶素子が着色状態により大きな光吸収を示し、透過光
量が小さくなる傾向にある。また、上記上限値以下であることで、二色性染料の分離や析
出が生じにくくなり、液晶素子の信頼性が向上する傾向にある。
【0030】
液晶組成物の誘電率異方性(Δε)は正の場合と負の場合、双方に適用できる。正の場
合、電圧無印加時に着色状態で電圧印加時に透明状態のノーマルモードとなる。負の場合
、電圧無印加時に透明状態で電圧印加時に着色状態のリバースモードとなる。
液晶組成物の屈折率異方性(Δn)は、0.01以上であることが好ましく、0.02
以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましい。また、0.24以下であることが
好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ま
しい。Δnが上記上限値以下であることで、高分子マトリクスと液晶領域との界面での光
散乱が低減され、透明状態のヘーズを低減できる傾向にある。また、同時に着色状態の光
散乱も低減されるため、二色性染料の光吸収の効率が向上し、着色状態においては全光線
透過率を低くできる傾向にある。一方、Δnが上記下限値以上であることで、液晶組成物
のオーダーパラメータが大きくなる傾向がある。
【0031】
液晶組成物に使用する液晶としては、ネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチ
ック液晶等が使用できる。安価に利用できることを鑑みると、ネマチック液晶又はコレス
テリック液晶が好ましい。また、ネマチック液晶にカイラル剤を添加してコレステリック
液晶にしてもよい。コレステリック液晶を使用する場合、カイラルピッチpをp<2mの
範囲にすることで、二色性染料の光吸収の効率を高くし、着色状態の遮光性を向上するこ
とができる。また0.5m<p<1.5mの範囲にすることで、メモリ性を付与すること
ができる。
【0032】
液晶として公知の液晶性物質を用いる場合、具体的には日本学術振興会第142委員会
編;「液晶デバイスハンドブック」日本工業新聞社(1989年)、第152頁~第19
2頁及び液晶便覧編集委員会編;「液晶便覧」丸善株式会社(2000年)、第260頁
~第330頁に記載されているようなビフェニル系、フェニルシクロヘキサン系、シクロ
ヘキシルシクロヘキサン系等の各種低分子系の化合物又は混合物を使用することができる
。また、液晶便覧編集委員会編;「液晶便覧」丸善株式会社(2000年)、第365頁
~第415頁に記載されているような高分子系化合物又は混合物を使用することもできる
。ネマチック液晶を構成する化合物としては例えば、以下の化合物等が挙げられる。
【0033】
【0034】
ネマチック液晶及びコレステリック液晶としては粘度が低く、誘電率異方性の高いもの
が、液晶素子の高速応答性やエマルジョンの製造性の点で好ましい。
カイラル剤としては、ホスト液晶へ相溶するカイラル化合物であればいずれでもよく、
合成品でも市販品でよい。また、自身が液晶性を示すものでもよいし、重合性の官能基を
有していてもよい。さらに、右旋性でも左旋性でもよく、右旋性のカイラル剤と左旋性の
カイラル剤を併用してもよい。
また、カイラル剤としては、それ自身の誘電異方性が正に大きく、粘度の低いものが液
晶素子の駆動電圧低減及び応答速度の観点から好ましく、カイラル剤が液晶をねじる力の
指標とされるHelical Twisting Powerが大きいほうが好ましい。
カイラル剤としては、例えばCB15(商品名 メルク社製)、C15(商品名 メル
ク社製)、S-811(商品名 メルク社製)、R-811(商品名 メルク社製)、S
-1011(商品名 メルク社製)、R-1011(商品名 メルク社製)等が挙げられ
る。
【0035】
液晶組成物には、本発明の液晶素子の性能を損なわない範囲で、添加剤を含有していて
もよい。具体的には高分子前駆体、重合開始剤、光安定剤、抗酸化剤、増粘剤、重合禁止
剤、光増感剤、接着剤、消泡剤、界面活性剤等を有していてもよい。
【0036】
[二色性染料〕
液晶組成物に使用する油溶性の二色性染料としては、ホスト液晶へ相溶する二色性染料
化合物であればいずれでもよく、Δεが正の二色性染料でも負の二色性染料でもよい。ま
た、自身が液晶性を示すものでもよい。
具体的にはアゾ系染料、アントラキノン系染料、ナフトキノン系染料、ペリレン系染料
、キノフタロン系染料、テトラジン系染料、ベンゾチアジアゾール系染料等が挙げられる
。公知の二色性染料を用いる場合、日本学術振興会第142委員会編;「液晶デバイスハ
ンドブック」日本工業新聞社(1989年)、第192頁~第196頁及び第724頁~
第730頁に記載されているようなアゾ系染料、アントラキノン系染料又はこれらの混合
物を使用することができる。これらのなかでも、アントラキノン系染料またはアゾ系染料
を含むことが、吸光係数が大きく、液晶への溶解度が大きくなり、耐光性が高くなる傾向
になるため好ましい。
二色性染料は1種類でもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に限定はないが、好
ましくは二色性染料のうち、アントラキノン系またはアゾ系を20質量%以上含むことが
好ましく、50質量%以上含むことが好ましい。
【0037】
液晶組成物を構成する二色性染料の具体例としては、例えば以下の化合物等が挙げられ
る。
【0038】
【0039】
上記化合物中、Xは各々独立に、-NH-又は-S-を示し、nは0又は1を示し、A
rは、フェニレン基又はナフチレン基を示す。
Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、これらの置換基を有してもよいシクロヘ
キシル基、フェニル基、フェニルシクロヘキシル基又はシクロヘキシルシクロヘキシル基
を示す。
【0040】
本発明の油溶性の二色性染料の液晶組成物に対する含有量は、0.1重量%以上である
ことが好ましく、さらに好ましくは0.5重量%以上である。また、20重量%以下であ
ることが好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
水溶性の染料の高分子マトリクスに重量%以上対する含有量は、0.1重量%以上が好
ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。0.1重量%以上であることで、高分子マ
トリクスからの漏れ光を低減でき、遮光性が向上する傾向がある。一方20重量%以下で
あることが好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。上記上限値以下であることで、
ダイナミックレンジを広く保つことができる傾向にある。
【0041】
[高分子マトリクス〕
本発明の高分子マトリクスは、親水性の高分子を使用する。親水性であれば特に限定さ
れないが、屈折率が液晶組成物の常光屈折率(no)と一致するように選択することが好
ましい。典型的には液晶組成物のnoは1.5前後であるので、1.45以上1.55以
下が好ましい。
高分子マトリクスを構成する高分子としては、ゼラチン、アラビアゴム等の天然高分子
;ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン、ポリ
アミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル等の合成
高分子及びそれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレー
ト、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;等を用いてもよい。また、架橋剤を
用いて高分子に架橋構造を導入してもよい。
高分子は水への分散性又は溶解性が高いことが好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコ
ール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン及びそれらの変性体が好ま
しい。さらに好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリアクリル及びそれ
らの変性体からなる群より選択される少なくとも1つであり、特に好ましくはポリウレタ
ン、ポリアクリル及びそれらの変性体からなる群より選択される少なくとも1つである。
なお、高分子は1種類のみでもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
ポリウレタンはポリイソシアネートとポリオールのそれぞれの骨格により分類されてい
る。ポリイソシアネート骨格としては、脂肪族炭素骨格からなる脂肪族系ポリウレタンや
、ポリイソシアネートに芳香環を含有する芳香族系ポリウレタンが挙げられる。中でも脂
肪族系ポリイソシアネートが耐光性が高い点で好ましい。ポリオール骨格としては、ポリ
エーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられ、中でもポリエーテル系が
、膜の密着性が良好であり好ましい。
【0043】
ポリアクリルは種々のアクリレートの重合体から成り、アクリルモノマーとしては、以
下の化合物等が挙げられる。
【0044】
【0045】
上記化合物中、X1は各々独立に、水素原子またはメチル基を示し、
R1は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1以上20以下の置換基を有
していてもよい直鎖状もしくは分枝状アルキル基、炭素数1以上20以下の置換基を有し
ていてもよい直鎖状もしくは分枝状アルコキシ基、炭素数1以上10以下の置換基を有し
てもよい環状炭化水素基を示す。
【0046】
ポリアクリルはアクリレート以外のモノマーと共重合しても良く、共重合体としては、
アクリレート-スチレン、アクリレート-酢酸ビニル、アクリレート-アクリロニトリル
、アクリレート-ウレタン、アクリレート-エステル、アクリレート-シリコーン等が挙
げられる。主鎖をアクリレートと他のモノマーとの共重合体で構成してもよいし、ポリア
クリル主鎖に他のポリマーをグラフトさせてもよい。
【0047】
本発明の高分子マトリクスは、水溶性の染料を含有する。水溶性の染料を含有すること
で、高分子マトリクスを着色することにより、高分子マトリクスから漏れる光を吸収し、
液晶素子のダイナミックレンジを維持しつつ、遮光性を高めることができる。水溶性の染
料としては、分配係数が1以下である染料であれば特に限定されない。
【0048】
水溶性の染料の具体例としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染染料、アゾイ
ック染料、硫化染料、建染染料、分散染料、反応染料及び食品用染料が挙げられ、これら
からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。この中でも直接染料、
酸性染料、塩基性染料、アゾイック染料、硫化染料反応染料からなる群より選択される少
なくとも1つが水への溶解度が高く、堅ロウ度が良好であるため好ましい。具体的な化合
物としては、有機合成化学協会編;「染料便覧」丸善株式会社(1959年)、第307
頁~第832頁に記載されている染料が挙げられる。
【0049】
水溶性の染料としては、水への溶解度が高い染料が遮光性を高くする点から好ましく、
溶解度が0.5重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.0重量%以上で
ある。一方、水への溶解度が50重量%以下であると、染料の吸湿性が低く、製造が容易
になるため好ましく、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0050】
水溶性の染料は1種類でもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に限定はないが、
好ましくは水溶性の染料のうち、直接染料、酸性染料、塩基性染料、アゾイック染料、硫
化染料、反応染料のうちいずれか1種以上を20質量%以上含むことが好ましく、50質
量%以上含むことが好ましい。
【0051】
水溶性の染料の高分子マトリクスに重量%以上対する含有量は、0.1重量%以上が好
ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。0.1重量%以上であることで、高分子マ
トリクスからの漏れ光を低減でき、遮光性が向上する傾向がある。一方、含有量は20重
量%以下であることが好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。上記上限値以下であ
ることで、ダイナミックレンジを広く保つことができる傾向にある。
【0052】
高分子マトリクスには、本発明の液晶素子の性能を損なわない範囲で、低分子を含有し
ていてもよい。具体的には光安定剤、抗酸化剤、増粘剤、重合禁止剤、光増感剤、接着剤
、消泡剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0053】
[液晶組成物と高分子マトリクスの比]
本発明の液晶-高分子複合膜において、高分子マトリクスの全質量に対し、液晶組成物
の全質量を1とすると、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ま
しい。また、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。高分子マ
トリクスの全質量に対し、液晶組成物の全質量が上記下限値以上であることで、透明状態
のヘーズが低く、かつ駆動電圧が低くなる傾向がある。また、高分子マトリクスの全質量
に対し、液晶組成物の全質量が上記上限値以下であることで、液晶-高分子複合膜の耐衝
撃性及び密着性が向上する傾向がある。
【0054】
[液晶素子の構成例]
本発明の液晶素子の代表的な構成を以下に説明する。しかし、これらに限定されるもの
ではない。
【0055】
[基板]
基板の材質としては、例えば、ガラスや石英等の無機透明物質、金属、金属酸化物、半
導体、セラミック、プラスチック板、プラスチックフィルム等の無色透明のものが挙げら
れる。これらの基板を単板で用いても、複数積層してもよい。
また、基板にはキズや汚れから守る目的でハードコート層や特定波長域の光線を遮断す
るシャープカット層やバンドパス層を付与してもよい。
【0056】
[透明導電膜]
電極は、上記基板の上に、例えば、金属酸化物、金属、半導体、有機導電物質等の薄膜
を基板全面或いは部分的に、既知の塗布法や印刷法やスパッタ等の蒸着法等により形成さ
れる。また、導電性の薄膜形成後に部分的にエッチングしたものでもよい。特に大面積の
液晶素子を得るためには、生産性及び加工性の面からPET等の透明高分子フィルム上に
ITO(酸化インジウムと酸化スズの混合物)電極をスパッタ等の蒸着法や印刷法等を用
いて形成した電極基板を用いることが望ましい。なお、基板上に電極間或いは電極と外部
を結ぶための配線が設けられていてもよい。例えば、セグメント駆動用電極基板やマトリ
ックス駆動用電極基板、アクティブマトリックス駆動用電極基板等であってもよい。
【0057】
更に、基板上に設けられた電極面上が、ポリイミドやポリアミド、シリコン、シアン化
合物等の有機化合物、SiO2、TiO2、ZrO2等の無機化合物、又はこれらの混合
物よりなる保護膜や配向膜で全面或いは一部が覆われていてもよい。なお、基板は、液晶
を基板面に対して配向させるよう配向処理されていてもよく、配向処理されている場合、
例えば、2枚の基板ともホモジニアス配向又はホメオトロピック配向であってもよいし、
一方がホモジニアス配向で、他方がホメオトロピック配向である、いわゆるハイブリッド
であっても構わない。これらの配向処理には、電極表面を直接ラビングしてもよく、TN
液晶、STN液晶等に用いられるポリイミド等の通常の配向膜を使用してもよいし、光配
向処理を施してもよい。
【0058】
対向する基板は、周辺部に適宜、基板を接着支持する樹脂体を含む接着層を有してもよ
い。
本発明における液晶素子の端部あるいは切断面を、粘着テープ、熱圧着テープ、熱硬化
性テープ等のテープ類、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化型樹脂、室温硬化型接着
剤、嫌気性接着剤、エポキシ系接着剤、シリコ-ン系接着剤、フッ素樹脂系接着剤、ポリ
エステル系接着剤、塩化ビニル系接着剤等の硬化性樹脂類や熱可塑性樹脂類等で封止する
ことで、内部の液晶組成物等の染み出しを防ぐことができる。また、この封止により、液
晶素子の劣化を防ぐ効果が得られる場合もある。その際の端面の保護法としては、端面を
全体に覆ってもよいし、端部から液晶素子内部に硬化性樹脂類や熱可塑性樹脂類を流し込
み固化させてもよく、更にこの上をテープ類で覆ってもよい。
【0059】
対向配置される基板間には、球状又は筒状のガラス、プラスチック、セラミック、ある
いはプラスチックフィルム等のスペーサーを存在させてもよい。スペーサーは、本発明の
エマルジョン組成物の成分として含有させることで、基板間の液晶-高分子複合膜に存在
させてもよく、液晶素子組み立ての際に基板上に散布したり、接着剤と混合して接着層の
中に存在させたりしてもよい。
【0060】
〔液晶-高分子複合膜の製造法〕
本発明の液晶-高分子複合膜は、電極基板上にエマルジョン組成物を塗布し、乾燥させ
ることで製造することができる。塗布方法としては、バーコート、ブレードコート、ナイ
フコート、ダイコート、スクリーンコート、マイクログラビアロールコート、リバースロ
ールコート、キスロールコート、ディップロールコート、スピンコート、スプレーコート
等、公知の塗布方法が使用できる。基板の性状に応じ、適宜基板洗浄をしてもよい。
塗布時のウェット膜厚は10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また
、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。ウェット膜厚が上記上限値以
上であることで、液晶粒子の粗密が無くなり、均一に塗布できる傾向がある。またウェッ
ト膜厚が上記下限値以下であることで、駆動電圧が実用的な値まで下がり、かつ透明状態
のヘーズが低くなる傾向がある。
エマルジョン組成物を塗布し、乾燥する際の乾燥温度は、40℃以上が好ましく、60
℃以下がより好ましい。また、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
乾燥温度が上記下限値以上であることで、乾燥時間が実用的な時間に短縮されるとともに
、膜中に残留する水分量が少なくなることで液晶素子の信頼性が向上する傾向にある。ま
た、乾燥温度が上記上限値以下であることで、乾燥中のエマルジョン組成物の合一や逆相
化等の構造破壊が生じにくくなる傾向がある。
【0061】
〔全光線透過率〕
本明細における全光線透過率は、JIS K7136で規定された方法で測定される。
また本明細において、光とは可視光(波長380nm~780nm)を示すものとし、全
光線透過率は可視光領域で測定されるものとする。
【0062】
本発明の液晶素子の着色状態の全光線透過率としては40%以下が好ましく、より好ま
しくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。上記上限値以下であることで、
着色状態の透過光量を小さくできるために遮熱性を高くできる傾向がある。一方、0.1
%以上が好ましく、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上である
。上記下限値以上であることで、ダイナミックレンジを広く保てる傾向がある。
【0063】
〔ヘーズ〕
本明細におけるヘーズは、JIS K7136の方法で測定される。
【0064】
着色状態着色状態のヘーズとしては90%以下が好ましく、より好ましくは80%以下
、さらに好ましくは70%以下である。上記上限値以下であることで、着色状態の二色性
染料の光吸収を大きくすることができ、より透過光量を小さくできる傾向がある。一方、
10%以上が好ましく、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である
。上記下限値以上であることで、外光のまぶしさをより低減できる傾向がある。
【0065】
<エマルジョン組成物>
本発明のエマルジョン組成物は、水を含有する媒体に液晶組成物が分散したエマルジョ
ン組成物であって、前記媒体は、高分子が分散又は溶解したものであり、前記媒体は水溶
性の染料を含有し、前記液晶組成物は、油溶性の二色性染料を含有することを特徴とする
。
【0066】
エマルジョン組成物に含まれる液晶組成物は特に限定されず、上述した液晶素子に用い
られる液晶組成物が挙げられる。また、エマルジョン組成物に含まれる水を含む媒体も特
には限定されず、純水又は水と有機溶媒の混合物が挙げられる。
有機溶媒の例としては、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミ
ン等が挙げられる。有機溶媒は水溶性でもよいし、水にわずかに溶ける程度の油溶性でも
よいが、水と均一に溶解する量を混合することが好ましい。
媒体に分散又は溶解している高分子は、ゼラチン、アラビアゴム等の天然高分子;ポリ
ビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン、ポリアミド
、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル等の合成高分子
及びそれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、ア
クリレート/アクリロニトリル等の共重合体;等が挙げられる。
高分子は水への分散性又は溶解性が高いことが好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコ
ール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン及びそれらの変性体が好ま
しく、さらに好ましくはポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリアクリル及びそれら
の変性体であり、特に好ましくはポリウレタンである。
なお、高分子は1種類のみでもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明において、高分子の分散とは、媒体中に高分子の粒子が懸濁している状態であり
、高分子の溶解とは高分子が溶媒和により十分小さく解離され、均一系をなす状態のこと
を示す。高分子の分散及び溶解に関しては、「色材」一般社団法人色材協会(2004年
),77巻4号,169~176頁に詳しい。
【0068】
エマルジョン組成物中で液晶組成物は水を含む媒体に分散しているが、液状のままで分
散していても良く、液晶組成物の周辺部を高分子、シリカ化合物、無機ナノ粒子等でカプ
セル化したマイクロカプセル液晶の形で分散していてもよい。
マイクロカプセル液晶のカプセルとなる高分子としては、ゼラチン、アラビアゴム等の
天然高分子;ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリア
ミン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリ
ル等の合成高分子及びそれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/
アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;等が挙げられる。
【0069】
本発明における、水を含有する媒体は水溶性の染料を含有する。水を含有する媒体に含
まれる水溶性の染料は特に限定されず、上述した液晶素子に用いられる水溶性の染料が挙
げられる。そのなかでも、直接染料、酸性染料、塩基性染料、アゾイック染料、硫化染料
、反応染料からなる群より選択される少なくとも1つが、水への溶解度が高く、堅ロウ度
が良好であるため好ましい。
水溶性の染料は1種類でもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に限定はないが、
好ましくは水溶性の染料のうち、直接染料、酸性染料、塩基性染料、アゾイック染料、硫
化染料、反応染料のいずれか1種以上を20質量%以上含むことが好ましく、50質量%
以上含むことが好ましい。
【0070】
エマルジョン組成物には、本発明の液晶素子の性能を損なわない範囲で、添加剤を含有
していてもよい。具体的には界面活性剤、乳化剤、分散剤、沈降防止剤、造膜助剤、レベ
リング剤、光安定剤、抗酸化剤、増粘剤、重合禁止剤、光増感剤、接着剤、消泡剤等が挙
げられる。
【0071】
液晶組成物の粒子のサイズとしては、平均粒径が2μmよ以上であることが好ましく、
5μm以上であることがより好ましい。また、50μm以下であることが好ましく、30
μm以下であることがより好ましい。平均粒径が上記下限値より大きいことで、液晶-高
分子複合膜における高分子マトリクスと液晶領域との界面での光散乱が弱くなり、透明状
態のヘーズが小さくなる傾向がある。同時に着色状態の光散乱も弱くなることで、二色性
染料の光吸収の効率が向上し、より着色状態の全光線透過率が低くなる傾向がある。
また、平均粒径が上記上限値より小さいことで、液晶領域の粒状感が低下し、液晶素子
の外観の均一性が良好になる傾向がある。なお、平均粒径は個数基準のメディアン径とす
る。
【0072】
前記液晶組成物の個数基準の粒度分布において、平均粒径と正規分布の標準偏差σに対
し、変動係数CV=σ/mとする。変動係数(CV)は、0.8以下が好ましく、0.5
以下であることが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
変動係数が上記上限値以下であることで、散乱を起こす小粒子及び粒状感を生じさせる大
粒子が十分少なくなる傾向にある。
一方、変動係数が上記下限値以上であることが好ましく、0.005以上がより好まし
く、0.01以上がさらに好ましい。変動係数が上記下限値以上であることで、エマルジ
ョン組成物の生産性が向上する傾向にある。
【0073】
液晶領域の個数基準の粒径頻度分布において、粒径2μm以下は累積20%以下である
ことが好ましく、累積10%以下がより好ましく、累積5%以下がさらに好ましい。上記
上限値以下であることで、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり着色状態の二色性染料
の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。
一方、累積0.1%以上であることが好ましく、累積0.5%以上がより好ましく、累
積1%以上がさらに好ましい。上記下限値以上であることで、エマルジョン組成物の生産
性が向上する傾向にある。
また、粒径50μm以上は累積20%以下が好ましく、累積10%以下がより好ましく
、累積5%以下がさらに好ましい。上記上限値以下であることで、液晶領域の粒状感が減
少し、液晶素子の外観の均一性が良好になる傾向がある。一方、累積0.1%以上である
ことが好ましく、累積0.5%以上がより好ましく、累積1%以上がさらに好ましい。累
積上記下限値以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上するので好ましい。
【0074】
媒体に分散又は溶解している高分子の全質量に対し、液晶組成物の全質量が0.5以上
であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。また、4以下であることが好
ましく、3以下であることがより好ましい。高分子の全質量に対し、液晶組成物の全質量
が上記下限値以上であることで、エマルジョン組成物を用いて得られる液晶素子の透明状
態のヘーズが低く、かつ駆動電圧が低くなる傾向がある。また、高分子全質量に対し、液
晶組成物の全質量が上記上限値以下であることで、エマルジョン組成物を用いて得られる
液晶素子の耐衝撃性及び密着性が向上する。
【0075】
〔二色性染料〕
エマルジョン組成物に含まれる二色性染料は特に限定されず、上述した液晶素子に用い
られる二色性染料が挙げられる。そのなかでも、アントラキノン系染料及び/またはアゾ
系染料を含むことが、吸光係数が大きく、液晶への溶解度が大きくなり、耐光性が高くな
る傾向になるため好ましい。
二色性染料は1種類でもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に限定はないが、好
ましくは二色性染料のうち、アントラキノン系及び/またはアゾ系を20質量%以上含む
ことが好ましく、50質量%以上含むことが好ましい。
【0076】
〔エマルジョン組成物の製造法〕
本発明のエマルジョン組成物の製造法は特に限定されないが、例えば以下のように製造
することができる。
製造方法(1)油相である液晶組成物と水相である水を含有する媒体を混合し、乳化工程
を経た後に、水と水溶性の染料を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を添加
する。
製造方法(2) 油相である液晶組成物と水相である水と水溶性の染料を含有する媒体に
高分子が分散又は溶解している液を混合し、乳化工程を行う。
製造方法(3) 液晶組成物の周辺部を高分子、シリカ化合物、無機ナノ粒子等でカプセ
ル化したマイクロカプセル液晶の粉体又はスラリーと水を含有する媒体を混合し、分散工
程を経た後に、水と水溶性の染料を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を添
加する。
製造方法(4) 前記マイクロカプセル液晶の粉体又はスラリーと水と水溶性の染料を含
有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を混合し、分散工程を行う。
この中でも製造方法(1)及び製造方法(3)は、混合物が低粘度の状態で乳化工程又
は分散工程を行うことができるため、低エネルギーで製造でき、さらに、液晶組成物の粒
径を制御しやすいので好ましい。
【0077】
水を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液としては、市販の水性樹脂エマル
ジョンが使用できる。以下具体例を示す。
水性ウレタンエマルジョン: DSM社製 NeoRez R-9660、NeoRe
z R-972、NeoRez R-9637、NeoRez R-9679、NeoR
ez R-960、NeoRez R-2170、NeoRez R-966、NeoR
ez R-967、NeoRez R-986、NeoRez R-9603、NeoR
ez R-4000、NeoRez R-9404、NeoRez R-600、Neo
Rez R-650、NeoRez R-1010、第一工業製薬社製 スーパーフレッ
クス 126、スーパーフレックス 130、スーパーフレックス 150、スーパーフ
レックス 150HS、スーパーフレックス 170、スーパーフレックス 210、ス
ーパーフレックス 300、スーパーフレックス 420、スーパーフレックス 420
NS、スーパーフレックス 460、スーパーフレックス 460S、スーパーフレック
ス 470、スーパーフレックス 500M、スーパーフレックス 620、スーパーフ
レックス 650、スーパーフレックス 740、スーパーフレックス 820、スーパ
ーフレックス 830HS、スーパーフレックス 860、スーパーフレックス 870
、スーパーフレックス E-2000、スーパーフレックス E-4800、日華化学社
製 ネオステッカー 200、ネオステッカー 400、ネオステッカー 700、ネオ
ステッカー 1200、ネオステッカー X-7096、エバファノール HA-107
C、エバファノール HA-50C、エバファノール HA-170、エバファノール
HA-560、エバファノール HA-15、エバファノール AP-12、エバファノ
ール APC-55。
水性アクリルエマルジョン: DSM社製 NeoCryl A-633、NeoCr
yl A-639、NeoCryl A-655、NeoCryl A-662、Neo
Cryl A-1091、NeoCryl A-1092、NeoCryl A-109
3、NeoCryl A-1094、NeoCryl A-2091、NeoCryl
A-2092、NeoCryl A-6016、NeoCryl A-6057、Neo
Cryl A-6069、NeoCryl A-6092、NeoCryl A-614
、NeoCryl A-550、NeoCryl A-1105、NeoCryl A-
1125、NeoCryl A-1127、NeoCryl XK-12、NeoCry
l XK-16、NeoCryl XK-30、NeoCryl XK-36、NeoC
ryl XK-52、NeoCryl XK-190、NeoCryl XK-188、
NeoCryl XK-240、ジャパンコーティングレジン社製 リカボンド 702
、リカボンド 727、リカボンド 743N、リカボンド 745、リカボンド 75
2、リカボンド 801、リカボンド 940、リカボンド 972、リカボンド 17
11、リカボンド 1752、リカボンド 6520、リカボンド 6720、リカボン
ド 7110、リカボンド 7180、リカボンド 7525、リカボンド 7820、
リカボンド 8020、リカボンド 8030、リカボンド DM60、リカボンド D
M772、リカボンド DM774、リカボンド LDM6740、リカボンド LDM
7522、リカボンド LDM7523、リカボンド ES-65、リカボンド ES-
90、リカボンド ET-700、リカボンド ET-831、リカボンド HS-5、
リカボンド HS-531、リカボンド AP-601、リカボンド AP-96、リカ
ボンド AP-620、リカボンド AP-700、リカボンド AP-80、リカボン
ド 710A、リカボンド 730L、リカボンド 731L、リカボンド 952B、
リカボンド 966A、リカボンド 7320、リカボンド 7400、リカボンド F
K-420、リカボンド FK-64S、リカボンド FK-66IS、FK-66N、
FK-68H、リカボンド FK-471、リカボンド FK-475、リカボンド F
K-489、リカボンド FK-284、リカボンド FK-600S、リカボンド F
K-3830、リカボンド FK-3840、リカボンド FK-6100、モビニール
VDM7410、モビニール 4061、モビニール 4080、モビニール 409
0、モビニール 4050、モビニール S-71、モビニール 461、モビニール
650、モビニール AP-60L、モビニール 490。
中でもNeoRez R-966、NeoRez R-967、NeoCryl A-
1125、NeoCryl A-1127、リカボンド FK-471、モビニール 4
061、モビニール 4080、モビニール 4090が油相の分散安定性に優れ、好ま
しい。
【0078】
安定的なエマルジョンを得るために、乳化工程又は分散工程の前の段階で界面活性剤又
は分散安定剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては特に限定はなく、イオン性
でも非イオン性でもよく、低分子でも高分子でもよく、非反応性でも反応性でもよい。
界面活性剤の添加量は特に限定されないが、液晶組成物に対し、0.1質量%以上であ
ることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下
が好ましく、10質量%以下がより好ましい。界面活性剤が上記の範囲にあることで、エ
マルジョンの分散が安定化するとともに、液晶組成物の粒径を所望の範囲に制御すること
ができる傾向にある。
【0079】
上記界面活性剤は溶解性に応じて液晶組成物へ添加してもよいし、水を含有する媒体へ
添加してもよい。
界面活性剤の例としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エス
テル塩等のアニオン性界面活性剤;
アミン塩、4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;
アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルアミンオキサイド、ベタイン、スルホベタイン、ア
ミドスルホベタイン、カルボベタイン、イミダゾリン等の両性界面活性剤;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル
、ポリオキシエチレンアラルキルエーテル、ポリオキシエチレンアラルキルアリールエー
テル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック付加物、アルキルグルコシド、
ポリエーテル変性シリコーン等のエーテル型、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂
肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステ
ル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エ
ステル等のエステル・エーテル型、アセチル変性ポリビニルアルコール等のアセチル型、
脂肪酸アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤:等が挙げられる。
この中でもアニオン性界面活性剤は水溶性と分散安定性が高い点で好ましく、特に、ス
ルホン酸塩が好ましい。また、非イオン性界面活性剤は液晶素子の電気的な信頼性を高く
できる傾向があり好ましい。中でもエーテル型又はエステル型が好ましく、ポリオキシエ
チレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエ
チレンアラルキルエーテル、ポリオキシエチレンアラルキルアリールエーテル、ポリオキ
シエチレンポリオキシプロピレンブロック付加物、アセチル変性ポリビニルアルコール等
が特に好ましい。
【0080】
分散安定剤としては特に限定はないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン
、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒ
ドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメ
タクリル酸、ポリウレタン、ポリアミン、ポリアミド、ポリエーテル、マレイン酸共重合
物、ゼラチン、デンプン、キトサン、コーンスターチ等の高分子及びこれらの変性体;
メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリ
ロニトリル等の共重合体;
シリカ微粒子、チタニア微粒子、アルミナ微粒子等の無機酸化物の微粒子:等が挙げら
れる。この中でもポリビニルアルコール及びこの変性体、ポリウレタン、ポリアミド等が
、分散安定性が高く好ましい。
【0081】
ポリビニルアルコールのケン化度は、80mol%以上が好ましく、85mol%以上
がより好ましい。また、95mol%以下が好ましく、91mol%以下がより好ましい
。これらの範囲であることで、水を含有する媒体への溶解度が高い傾向にある。
ポリビニルアルコールの重合度は、100以上が好ましく、300以上がより好ましい
。また、2500以下が好ましく、1000以下がより好ましい。これらの範囲であるこ
とで、膜が可撓性に優れる傾向にある。
【0082】
ポリビニルアルコールの具体例としては、日本合成化学社製 ゴーセノール GL-0
3、ゴーセノール GL-05、ゴーセノール GM-14L、ゴーセノール GM14
、ゴーセノール GH-17、ゴーセノール GH-20、ゴーセノール GH-23、
ゴーセノール AL-06、ゴーセノール P-610、ゴーセノール C-500、ク
ラレ社製 クラレポバール 25-88KL、クラレポバール 32-97KL、クラレ
ポバール 3-86SD、クラレポバール 105-88KX、クラレポバール 200
-88KX。デンカ社製 デンカポバール H-12、デンカポバール H-17、デン
カポバール H-24、デンカポバール B-05、デンカポバール B-17、デンカ
ポバール B-20、デンカポバール B-24、デンカポバール B-33等が挙げら
れる。
【0083】
エマルジョン組成物の製造において、乳化法及び分散法は特に限定はなく、攪拌機、ホ
モジナイザー、ホモミキサー、ディスパーサー、高圧乳化機、ブレンダー、コロイドミル
、超音波分散機等を用いた機械的に粒子を破砕する方法;多孔膜、マイクロチャネル、イ
ンクジェット等を用いて液を孔から押し出す方法;等が挙げられる。
上記の中でも、多孔膜を用いて液を孔から押し出す方法(膜乳化法)が、粒子の粒度分
布を精密に制御でき、かつ製造が容易であるため好ましい。多孔膜としては特に制限はな
いが、シラス多孔ガラス等を用いることができる。
【0084】
エマルジョン組成物には適宜、架橋剤を用いてもよい。架橋剤を用いることで、液晶-
高分子複合膜の耐水性及び耐衝撃性が向上する傾向がある。
架橋剤としては、特に限定はないが、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテ
ル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジル
エーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジル
エーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン等のエポキシ
系化合物;
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキ
シシラン、γ-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-グリシドキシプロピ
ルジエトキシメチルシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシ
シラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ
シラン系化合物;
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N
-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチ
ル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン系化合物;
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン系化合物;
カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジ
ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド系化合物;
セミカルバジド樹脂;
ポリカルボジイミド系樹脂;
テトラメチロールメタン-トリス(β-アジリジニルプロピオナート)、トリメチロール
プロパン-トリス(β-アジリジニルプロピオナート)、メチレンビス[N-(1-アジリ
ジニルカルボニル)-4-アニリン]、N,N’-ヘキサメチレンビス(1-アジリジン
カルボアミド)、N,N’-ヘキサアミノエチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカル
ボキシアミド)等のアジリジン系(エチレンイミノ基含有)化合物;
アセトアセトキシ基含有化合物;オキサゾリン基含有化合物;
ポリエチレンポリアミン;ポリエチレンイミン;ポリアミドポリアミン;ポリアミドポ
リ尿素;アルキル化ポリメチロールメラミン;グリオキザール;
水分散イソシアネート;ブロックドイソシアネート;カルボジイミド基含有化合物;ビ
スビニルスルホン;乳酸チタネート;等が挙げられる。
エポキシ系化合物及びエポキシシラン系化合物を用いる場合には、イミダゾール系化合
物、アミン系化合物、リン系化合物等の触媒を加えてもよい。
上記の中でも、好ましくはヒドラジド系化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジ
イミド基含有化合物、ブロックドイソシアネートが架橋速度が速く、毒性が低いために好
ましい。
高分子と架橋剤は任意の組み合わせで使用することができるが、ポリウレタンとオキサ
ゾリン基含有化合物、ポリウレタンとカルボジイミド基含有化合物、ポリウレタンとブロ
ックドイソシアネート、ポリアクリルとヒドラジド系化合物の組み合わせが架橋反応性が
高く、好ましい。
【0085】
架橋剤の添加量は特に限定はないが、架橋される樹脂に対して0.1質量%以上である
ことが好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、20質量%以下であ
ることが好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。架橋剤の添加量が上記
の範囲にあることで、液晶-高分子複合膜の耐水性及び耐衝撃性が向上し、かつ可撓性が
保持される傾向にある。
架橋剤の添加タイミングは、初めからエマルジョン組成物に添加しておく1液型にして
もよく、基板への塗布直前に添加する2液型でもよい。
【0086】
エマルジョン組成物の粘度は10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上が
さらに好ましい。また、10000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下
がさらに好ましい。上記の範囲にあることで、膜厚を均一に塗布することが容易になり、
かつ塗布速度を速くすることができて生産性が高くなる傾向がある。
粘度を上記の範囲に収めるために、増粘剤、チクソ剤、減粘剤等の粘度調整剤を用いて
もよい。粘度調整剤としては特に限定はないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロ
リドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロー
ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、
ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミン、ポリアミド、マレイン酸共重合物、ゼラ
チン、デンプン、キトサン、コーンスターチ等の高分子及びこれらの変性体;メタクリレ
ート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等
の共重合体;シリカ微粒子、チタニア微粒子、アルミナ微粒子等の無機酸化物の微粒子等
が挙げられる。上記の中でも、ポリビニルアルコール及びこの変性体、ポリウレタン、ポ
リアミドが、粘度調整と粒子の分散安定性を両立できる傾向にあり、好ましい。
【0087】
エマルジョン組成物中の液晶組成物の含有量は20質量%以上が好ましく、30質量%
以上がさらに好ましい。また、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がさらに好ま
しい。液晶組成物の含有量が上記範囲内にあることで、エマルジョン組成物を基板へ塗布
した際に生じるハジキが抑制され、かつ液晶組成物の粒径とエマルジョン組成物の粘度を
上記の範囲に収めることが容易になる傾向にある。
【0088】
エマルジョン組成物に用いる高分子の粒径は、1nm以上が好ましく、10nm以上が
より好ましい。また、1000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。上
記の範囲内にあることで、エマルジョン組成物の粘度を上記の範囲に収めることが容易に
なる傾向にある。また高分子の分子量は1.0×103以上が好ましく、1.0×104
以上がより好ましい。また、1.0×106以下が好ましく、1.0×105以下がより
好ましい。上記の範囲内にあることで、エマルジョン組成物の粘度を上記の範囲に収める
ことが容易になる傾向にある。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限
り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
Δn=0.08、Δε=+5.0のネマチック液晶96質量%と(D-1)で表される
油溶性(分配係数1より大)のアントラキノン系二色性染料4質量%を混合し、D-1を
溶解させて青色の液晶組成物(L-1)を得た。L-1 50質量%に対し、4質量%の
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を50質量%加え、シラス多孔質ガラスに
通して乳化し、o/wエマルジョン(E-1)を得た。
ポリウレタン粒子を40質量%含む水系ラテックスのNeorez R-967(DS
M社製)に水溶性(分配係数が1以下)の染料 EriochromeBlue Bla
ck Bを1重量%添加し、撹拌して溶解させ、青色の着色ラテックス(W-1)を得た
。
E-1 100質量部にW-1を84質量部加え、均一になるまで撹拌してエマルジョ
ン組成物(I-1)を得た。
I-1中の液晶組成物の平均粒径は5.5μm、変動係数は0.56であった。I-1
における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-1の
質量は、1.44であった。
【0091】
【0092】
基板は、厚さ125μmのPETフィルム基板上に透明なITO電極を製膜したフィル
ムを用いた。この基板のITO上に、バーコートでI-1をウェット膜厚30μmで塗布
し、80℃で乾燥して液晶-高分子複合膜を得た。
この液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に
平均粒径6.4μm、変動係数0.24の液晶組成物が分散した構造を有していた。
該フィルムと、もう1枚の基板とを80℃で向い合せに貼り合わせ、液晶素子(F-1
)を得た。F-1は可撓性を有し、ハサミで切断して整形することができた。
【0093】
F-1は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノ
ーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ67.1%、全光線透過率37.3%
であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズ5.1%、全光線透過率45.4%に
となった。
【0094】
[実施例2]
Δn=0.08、Δε=+5.0のネマチック液晶96質量%と、(D-1)で表され
る油溶性(分配係数が1より大)のアントラキノン系二色性染料2.4質量%、NEMA
TEL社製 油溶性(分配係数が1より大)のアントラキノン系二色性染料 AG1 1
.8重量%、NEMATEL社製 油溶性(分配係数が1より大)のアントラキノン系二
色性染料 AR1 1.8重量%を混合し、撹拌して染料を溶解させて黒色の液晶組成物
(L-2)を得た。L-2 50質量%に対し、4質量%のドデシルベンゼンスルホン酸
ナトリウム水溶液を50質量%加え、シラス多孔質ガラスに通して乳化し、o/wエマル
ジョン(E-2)を得た。
ポリウレタン粒子を40質量%含む水系ラテックスのNeorez R-967(DS
M社製)に水溶性(分配係数が1以下)の染料 EriochromeBlue Bla
ck Bを1重量%および水溶性(分配係数が1以下)の染料 Remazol Bla
ck Bを1重量%添加し、撹拌して溶解させ、黒色の着色ラテックス(W-2)を得た
。
E-2 100質量部にW-2を84質量部加え、均一になるまで撹拌してエマルジョ
ン組成物(I-2)を得た。
I-2中の液晶組成物の平均粒径は6.2μm、変動係数は0.58であった。I-2
における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-2の
質量は、1.49であった。
【0095】
I-2を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-2)を得た。F-2の液晶-高分
子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径5.1μ
m、変動係数0.28の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-2は可撓性を持ち
、ハサミで切断して整形することができた。
F-2は電圧OFF時には黒色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノ
ーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ62.9%、全光線透過率21.6%
であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズ4.3%、全光線透過率33.9%と
なった。
【0096】
[比較例1]
Δn=0.08、Δε=+5.0のネマチック液晶96質量%と(D-1)で表される
油溶性(分配係数が1より大きい)のアントラキノン系二色性染料4質量%を混合し、D
-1を溶解させて青色の液晶組成物(L-1)を得た。L-1 50質量%に対し、4質
量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を50質量%加え、シラス多孔質ガ
ラスに通して乳化し、o/wエマルジョン(E-1)を得た。
E-1 100質量部にポリウレタン粒子を40質量%含む水系ラテックスのNeor
ez R-967(DSM社製)を84質量部加え、均一になるまで撹拌してエマルジョ
ン組成物(I-3)を得た。
I-1中の液晶組成物の平均粒径は6.2μm、変動係数は0.57であった。I-3
における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-1の
質量は、1.49であった。
【0097】
I-3を用い、実施例1と同様にして青色の液晶素子(F-3)を得た。F-3の液晶
-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径7
.6μm、変動係数0.25の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-3は可撓性
を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
F-3は電圧OFF時には黒色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノ
ーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ50.1%、全光線透過率60.1%
であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズ2.1%、全光線透過率76.3%と
なった。
F-2は電圧OFF時には黒色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノ
ーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ62.9%、全光線透過率21.6%
であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズ4.3%、全光線透過率33.9%と
なった。