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特許7384066樹脂フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20231114BHJP
   B29C 41/24 20060101ALI20231114BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20231114BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20231114BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08J5/18 CEQ
C08J5/18 CET
B29C41/24
B29C55/02
C08F297/04
G02B5/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020024738
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127435
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 一輝
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-045838(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007878(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/055041(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/221276(WO,A2)
【文献】特開2004-323773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B29C 41/00-41/36、41/46-41/52、
55/00-55/30、61/00-61/10、
70/00-70/88
C08F 251/00-283/00、283/02-289/00、
291/00-297/08
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルムの製造方法であって、
樹脂Cからなる樹脂フィルムであってシリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムを製造する工程(A)、及び
前記工程(A)の後に、前記樹脂フィルムを延伸して、延伸樹脂フィルムを含む光学フィルムを得る工程(B)を含み
前記工程(A)は、
前記樹脂Cと溶媒組成物とを含む、樹脂溶液を、基体上に流延して、前記基体上に樹脂溶液の膜を形成する工程(1)、及び
前記基体上に形成された前記樹脂溶液の膜を乾燥させて、前記樹脂フィルムを得る工程(2)を含み、
前記樹脂Cは、負の固有複屈折値を有する重合単位Aと正の固有複屈折値を有する重合単位Bとを含みガラス転移温度がTg(℃)である、共重合体Pを含み、
前記溶媒組成物が、沸点T(℃)が下記式(1)を満たす、一種以上の溶媒化合物Sを含み、前記溶媒組成物中の前記溶媒化合物Sの総含有率が50重量%以上であり、
前記共重合体Pにおける前記重合単位Aの重量分率wA、及び、前記共重合体Pにおける前記重合単位Bの重量分率wBが、下記式(2)を満たす、光学フィルムの製造方法。
Tg-50℃≦T≦Tg+20℃ (1)
45/55<wA/wB<70/30 (2)
【請求項2】
前記延伸樹脂フィルムのNZ係数が、0より大きく1より小さい、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記重合単位Aが、芳香族ビニル系化合物単位であり、前記重合単位Bが、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位である、請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記共重合体Pのガラス転移温度Tgが、110℃以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルムの厚みが、150μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)の後に、前記基体を前記樹脂フィルムから剥離する工程(3)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
樹脂Cからなる樹脂フィルムであってシリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムの製造方法であって、
前記樹脂Cと溶媒組成物とを含む、樹脂溶液を、基体上に流延して、前記基体上に樹脂溶液の膜を形成する工程(1)、及び
前記基体上に形成された前記樹脂溶液の膜を乾燥させて、前記樹脂フィルムを得る工程(2)を含み、
前記樹脂Cは、重合単位Aと重合単位Bとを含みガラス転移温度がTg(℃)である、共重合体Pを含み、
前記重合単位Aが、芳香族ビニル系化合物単位であり、前記重合単位Bが、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位であり、
前記溶媒組成物が、沸点T(℃)が下記式(1)を満たす、一種以上の溶媒化合物Sを含み、前記溶媒組成物中の前記溶媒化合物Sの総含有率が50重量%以上である、樹脂フィルムの製造方法。
Tg-50℃≦T≦Tg+20℃ (1)
【請求項8】
前記共重合体Pにおける前記重合単位Aの重量分率wA、及び、前記共重合体Pにおける前記重合単位Bの重量分率wBが、下記式(2)を満たす、請求項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
45/55<wA/wB<70/30 (2)
【請求項9】
前記共重合体Pのガラス転移温度Tgが、110℃以上である、請求項7又は8に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂フィルムの厚みが、150μm以下である、請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)の後に、前記基体を前記樹脂フィルムから剥離する工程(3)を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムの材料として、2種以上の重合単位を含むブロック共重合体が用いられる場合がある。かかる共重合体を含む光学フィルムを製造する方法として、溶液流涎法(溶液キャスト法)(特許文献1参照)及び溶融押出法(特許文献2、3参照)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平05-164920号公報
【文献】特開2006-111650号公報
【文献】特開2006-142561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表示装置において、傾斜方向における反射抑制などの、視野角特性の向上目的で設けられる光学フィルムは、NZ係数が、0より大きくかつ1より小さいことが求められる。更には、NZ係数は0.5又はそれに近い値であることが好ましい。
【0005】
本発明者は、このようなNZ係数を有する光学フィルムを、シリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムを延伸することにより得ることができることを見出した。
しかし、本発明者は、かかる樹脂フィルムを延伸しても、樹脂フィルムの製造方法によっては、NZ係数が所望の範囲とならない場合があることを見出した。
【0006】
したがって、シリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムであって、延伸によりNZ係数が0より大きく1より小さい光学フィルムを得ることのできる樹脂フィルムの製造方法;樹脂フィルムを用いた光学フィルムの製造方法;が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、所定の溶媒組成物と、重合単位A及び重合単位Bを含む共重合体とを含む樹脂溶液を用いた溶液流涎法によって樹脂フィルムを製造することにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0008】
[1] 樹脂Cからなる樹脂フィルムであってシリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムの製造方法であって、
前記樹脂Cと溶媒組成物とを含む、樹脂溶液を、基体上に流延して、前記基体上に樹脂溶液の膜を形成する工程(1)、及び
前記基体上に形成された前記樹脂溶液の膜を乾燥させて、前記樹脂フィルムを得る工程(2)を含み、
前記樹脂Cは、重合単位Aと重合単位Bとを含みガラス転移温度がTg(℃)である、共重合体Pを含み、
前記溶媒組成物が、沸点T(℃)が下記式(1)を満たす、一種以上の溶媒化合物Sを含み、前記溶媒組成物中の前記溶媒化合物Sの総含有率が50重量%以上である、樹脂フィルムの製造方法。
Tg-50℃≦T≦Tg+20℃ (1)
[2] 前記重合単位Aが、芳香族ビニル系化合物単位であり、前記重合単位Bが、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位である、[1]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[3] 前記共重合体Pにおける前記重合単位Aの重量分率wA、及び、前記共重合体Pにおける前記重合単位Bの重量分率wBが、下記式(2)を満たす、[2]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
45/55<wA/wB<70/30 (2)
[4] 前記共重合体Pのガラス転移温度Tgが、110℃以上である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[5] 前記樹脂フィルムの厚みが、150μm以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[6] 前記工程(2)の後に、前記基体を前記樹脂フィルムから剥離する工程(3)を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[7] [1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法により、樹脂Cからなる樹脂フィルムであってシリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムを製造する工程(A)を含む、光学フィルムの製造方法。
[8] 前記工程(A)の後に、前記樹脂フィルムを延伸して、延伸樹脂フィルムを含む光学フィルムを得る工程(B)を更に含む、[7]に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムであって、延伸によりNZ係数が0より大きく1より小さい光学フィルムを得ることのできる樹脂フィルムの製造方法;樹脂フィルムを用いた光学フィルムの製造方法;を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
以下の説明において、ある単量体の重合により形成される構造を有する重合単位を、当該単量体の名称を用いて表現する場合がある。例えば、2-ビニルナフタレンの重合により形成される構造を有する重合単位を「2-ビニルナフタレン単位」、イソプレンの重合により形成される構造を有する重合単位を「イソプレン単位」と表現する場合がある。
【0012】
重合体の固有複屈折値の正負は、重合体の成形物を延伸した場合における、かかる成形物の屈折率の挙動によって規定される。即ち、正の固有複屈折値を有する重合体とは、延伸方向における当該成形物の屈折率が、延伸前に比べて大きくなる重合体である。また、負の固有複屈折値を有する重合体とは、延伸方向における当該成形物の屈折率が、延伸前に比べて小さくなる重合体である。固有複屈折値は、誘電率分布から計算しうる。
【0013】
更に、ある特定の重合単位が正の固有複屈折値を有するとは、当該重合単位のみからなる重合体が、正の固有複屈折値を有することをいい、ある特定の重合単位が負の固有複屈折値を有するとは、当該重合単位のみからなる重合体が、負の固有複屈折値を有することをいう。したがって、重合単位の固有複屈折値の正負は、当該重合単位のみからなる単独重合体を調製し、当該重合体を任意の形状の成形物とし、当該成形物を延伸し、その光学特性を測定することにより容易に判定しうる。一般に、アルケン、ジエン等の炭化水素の重合単位の多くは正の固有複屈折値を有することが知られている一方、スチレン、ビニルナフタレン等の側鎖に芳香環を有する炭化水素の重合体の多くは負の固有複屈折値を有することが知られている。
【0014】
以下の説明において、層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、層の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。さらに、層のNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、580nmである。
【0015】
以下の説明において、「組成物」は、二種以上の化合物を含む物質であってもよく、一種の化合物のみからなる物質であってもよい。
【0016】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0017】
以下の説明において、フィルム又は層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の面内における遅相軸を表す。
【0018】
以下の説明において、複数の層を備える部材における各層の光学軸(遅相軸、透過軸等)がなす角度は、別に断らない限り、前記の層を厚み方向から見たときの角度を表す。
【0019】
以下の説明において、あるフィルムの傾斜方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面に平行でも垂直でもない方向を意味し、具体的には前記主面の極角が0°より大きく90°より小さい範囲の方向を指す。
【0020】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0021】
[1.樹脂フィルムの製造方法の概要]
本実施形態の製造方法は、樹脂Cからなる樹脂フィルムであって、シリンダ状の相分離構造を含む樹脂フィルムを製造する方法である。
【0022】
本実施形態の製造方法により製造される樹脂フィルムは、多層構造を有する積層体の構成要素でありうる。したがって、本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、多層構造を有する積層体の構成要素である樹脂フィルムの製造方法でありうる。
【0023】
本実施形態の製造方法は、前記樹脂Cと溶媒組成物とを含む、樹脂溶液を、基体上に流延して、前記基体上に樹脂溶液の膜を形成する工程(1)、及び前記基体上に形成された前記樹脂溶液の膜を乾燥させて、前記樹脂フィルムを得る工程(2)を含む。前記樹脂Cは、重合単位Aと重合単位Bとを含みガラス転移温度がTg(℃)である、共重合体Pを含む。前記溶媒組成物は、沸点T(℃)が下記式(1)を満たす、一種以上の溶媒化合物Sを含み、前記溶媒組成物中の前記溶媒化合物Sの総含有率が50重量%以上である。
Tg-50℃≦T≦Tg+20℃ (1)
【0024】
シリンダ状の相分離構造は、樹脂フィルムを形成する樹脂Cの層内に形成される。樹脂Cに係るシリンダ状の相分離構造とは、樹脂Cにおける共重合体Pの重合単位Aを含む部分(例えばブロック(A))と重合単位Bを含む部分(例えばブロック(B))との自己組織化により、層内において、重合単位Aを主成分とする相(相(A)ともいう。)と、重合単位Bを主成分とする相(相(B)ともいう。)とが、区別しうる別々の相に分離し、一方の相が、一方の相中で、シリンダ状の構造をとっていることをいう。以下の説明においては、これらの相を単に「重合単位Aの相」及び「重合単位Bの相」ということがある。このようなシリンダ状の相分離構造を呈したフィルムは、構造が光の波長よりも十分に小さい場合に構造性複屈折を発現しうる。
【0025】
共重合体Pが、重合単位Aを主成分とするブロック(A)と、重合単位Bを主成分とするブロック(B)とを有するブロック共重合体である場合、相(A)は通常ブロック(A)により構成され、相(B)は通常ブロック(B)により構成される。
【0026】
樹脂フィルムがシリンダ状の相分離構造を含むことは、電子顕微鏡や小角X線散乱などによる構造観察を行うことにより、確認しうる。
【0027】
樹脂フィルムは、例えば共重合体Pにおける、重合単位A及び重合単位Bとの重量比を調整することにより、シリンダ状の相分離構造を含むようにしうる。具体的な重合単位Aと重合単位Bとの重量比は、重合単位A及び重合単位Bの種類に応じて、適宜選択できる。例えば、相分離構造が、相(B)をマトリックスとして、相(A)が球状となっているスフェロイド構造である場合、共重合体Pにおける、重合単位Aの重合単位Bに対する重量比率を大きくするにしたがって、当該スフェロイド構造を、相(B)をマトリックスとするシリンダ構造、相(A)と相(B)とが、交互に層をなしているラメラ構造、相(A)をマトリックスとするシリンダ構造、相(A)をマトリックスとして、相(B)が球状となっているスフェロイド構造へ、順に変化させうる。
【0028】
重合単位A及び重合単位Bの種類にもよるが、シリンダ状の相分離構造を容易に形成する観点から、例えば、共重合体Pにおける重合単位Aの重合単位Bに対する重量比率は、好ましくは30/70より大きく、好ましくは70/30未満としうる。
【0029】
樹脂フィルムに含まれるシリンダ状の相分離構造における相間距離は、適宜調整しうる。例えば相間の距離は、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下である。相間距離の下限は特に限定されないが例えば10nm以上としうる。
相間の距離とは、シリンダとシリンダとの間隔を指す。相間の距離としては、小角X線散乱の測定で得られた散乱パターンを理論曲線とフィッティングして求められた値を採用しうる。
【0030】
相間距離の調整は、共重合体Pの分子構造を調整することにより行いうる。例えば共重合体Pとしてブロック共重合体を採用し、ブロック(A)及び(B)の長さ等の要素を適宜調整することにより行いうる。
【0031】
[1.1.工程(1)]
工程(1)では、樹脂Cと溶媒組成物とを含む、樹脂溶液を、基体上に流延して、前記基体上に樹脂溶液の膜を形成する。
【0032】
(樹脂C)
樹脂Cは、通常熱可塑性樹脂である。樹脂Cは、共重合体Pを含む。樹脂Cは、二種以上の共重合体Pを含んでいてもよい。
共重合体Pは、重合単位A及び重合単位Bを含み、任意で、重合単位A及び重合単位B以外の重合単位を含んでいてもよい。
【0033】
重合単位Aは、例えば、負の固有複屈折値を有するものとしうる。一方、重合単位Bは、例えば、正の固有複屈折値を有するものとしうる。
【0034】
共重合体Pの分子構造は、重合単位A及び重合単位Bを有する限りにおいて特に限定されず、任意の構成を有する分子構造としうる。
【0035】
共重合体Pは、好ましくは、重合単位Aを主成分として含むブロック(A)と、重合単位Bを主成分として含むブロック(B)とを含む。ブロックが、ある重合単位を主成分として含むとは、ブロック中の、当該重合単位の重量割合が、50重量%以上100重量%以下であることをいう。
【0036】
共重合体Pがブロック共重合体である場合、当該ブロック共重合体は、直線型ブロック共重合体であってもよく、グラフト型ブロック共重合体であってもよい。
【0037】
直線型ブロック共重合体の例としては、ブロック(A)及びブロック(B)が連結した(A)-(B)のブロック構成を有するジブロック共重合体;ブロック(A)、ブロック(B)及びもう一つのブロック(A)がこの順に連結した(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体;ブロック(B)、ブロック(A)、及びもう一つのブロック(B)がこの順に連結した(B)-(A)-(B)のブロック構成を有するトリブロック共重合体;3つのブロック(A)及び2つのブロック(B)が、(A)-(B)-(A)-(B)-(A)の順に連結したブロック構成を有する、ペンタブロック共重合体;2つのブロック(A)及び3つのブロック(B)が、(B)-(A)-(B)-(A)-(B)の順に連結したブロック構成を有する、ペンタブロック共重合体;並びにそれより多数のブロックが連結したブロック構成を有する直線型ブロック共重合体が挙げられる。多数のブロックが連結したブロック構成の例としては、(A)-((B)-(A))n-(B)-(A)、及び(B)-((A)-(B))n-(A)-(B)(nは1以上の整数)のブロック構成が挙げられる。
グラフト型ブロック共重合体の例としては、ブロック(A)に、側鎖としてブロック(B)が連結した(A)-g-(B)のブロック構成を有するブロック共重合体が挙げられる。
【0038】
樹脂Cに所望の光学的特性を発現させる観点から、好ましくは、共重合体Pは、1分子あたり2個以上のブロック(A)及び1個以上のブロック(B)を有する分子構造を有するブロック共重合体としうる。より好ましくは、ブロック共重合体は、(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体としうる。
【0039】
重合単位Aは、好ましくは芳香族ビニル系化合物単位である。
芳香族ビニル系化合物単位とは、芳香族ビニル系化合物を重合して得られる構造を有する重合単位を表す。芳香族ビニル系化合物には、芳香族ビニル化合物及びその誘導体が含まれる。芳香族ビニル化合物は、芳香環にビニル基が結合した構造を有する炭化水素化合物を表す。また、芳香族ビニル化合物の誘導体には、芳香族ビニル化合物の1又は2以上の水素原子を、置換基で置換した構造を有する化合物が含まれる。芳香族ビニル系化合物単位は、当該構造を有する限りにおいて、任意の製造方法で得られた重合単位であってよい。
【0040】
芳香族ビニル系化合物単位の好ましい例としては、下記式(A)で表される単位が挙げられる。
【0041】
【化1】
【0042】
ここで、Rは、フェニル基、ビフェニルイル基(例、4-ビフェニルイル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基)、ナフチル基(例、1-ナフチル基、2-ナフチル基)、アントラセニル基(例、アントラセン-1-イル基、アントラセン-2-イル基、アントラセン-9-イル基)、フェナントレニル基(例、フェナントレン-1-イル基、フェナントレン-2-イル基、フェナントレン-3-イル基、フェナントレン-4-イル基、フェナントレン-9-イル基)、ナフタセニル基(例、ナフタセン-1-イル基、ナフタセン-2-イル基、ナフタセン-5-イル基)、ペンタセニル基(例、ペンタセン-1-イル基、ペンタセン-2-イル基、ペンタセン-5-イル基、ペンタセン-6-イル基)、及びターフェニルイル基からなる群より選択される基である。Rとしては、ナフチル基が好ましい。
【0043】
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される基である。かかるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基が挙げられる。
【0044】
式(A)においては、
好ましくは、Rが水素原子である。
好ましくは、R及びRが水素原子である。
好ましくは、Rがナフチル基である。
より好ましくは、R及びRが水素原子であり且つRがナフチル基であり、更に好ましくは、R、R、及びRがいずれも水素原子でありRがナフチル基である。
【0045】
芳香族ビニル系化合物単位は、例えば、芳香族ビニル系化合物を重合させることにより得ることができる。芳香族ビニル系化合物の例としては、ビニルナフタレン及びその誘導体が挙げられる。ビニルナフタレンの例としては、1-ビニルナフタレン、及び2-ビニルナフタレンが挙げられる。ビニルナフタレンの誘導体の例としては、α-アルキルビニルナフタレン(例、α-メチル-1-ビニルナフタレン、α-エチル-1-ビニルナフタレン、α-プロピル-1-ビニルナフタレン、α-ヘキシル-1-ビニルナフタレン、α-メチル-2-ビニルナフタレン、α-エチル-2-ビニルナフタレン、α-プロピル-2-ビニルナフタレン、及びα-ヘキシル-2-ビニルナフタレン)が挙げられる。中でも、工業的な入手の容易性の観点から、2-ビニルナフタレンが好ましい。
【0046】
重合単位Aとしての芳香族ビニル系化合物単位は、共重合体P中に1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上含まれていてもよい。したがって、芳香族ビニル系化合物単位を形成するための芳香族ビニル系化合物として、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
共重合体Pが、ブロック(A)及びブロック(B)を有するブロック共重合体である場合、ブロック(A)における重合単位Aの割合は、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97重量%以上、特に好ましくは99重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0048】
ブロック(A)は、重合単位A以外に任意の重合単位を含有してもよい。このような任意の重合単位としては、例えば、重合単位Aと共重合可能な任意の単量体を重合して得られる構造を有する重合単位、当該重合単位の水素化により形成される構造を有する重合単位、及び、重合単位Aの水素化により形成される構造を有する重合単位が挙げられる。
【0049】
重合単位Bは、好ましくは水素化脂肪族共役ジエン化合物単位である。水素化脂肪族共役ジエン化合物単位とは、脂肪族共役ジエン化合物を重合し水素化して得られる構造を有する重合単位をいう。水素化脂肪族共役ジエン化合物単位は、当該構造を有する限りにおいて、任意の製造方法で得られた重合単位であってよい。
【0050】
水素化脂肪族共役ジエン化合物単位の例としては、下記式(B-1)で表される単位及び下記式(B-2)で表される単位が挙げられる。
【0051】
【化2】
【0052】
式(B-1)及び式(B-2)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素原子数1~6のアルキル基からなる群より選択される基を表す。かかるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基が挙げられる。所望の光学特性を有する位相差フィルムの製造を特に容易に行う観点から、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0053】
水素化脂肪族共役ジエン単位の特に好ましい例としては、下記式(b-1)~(b-5)のいずれかで表される重合単位が挙げられる。式(b-1)~(b-3)のいずれかで表される重合単位は、水素化イソプレン単位を表す。また、式(b-4)又は(b-5)で表される重合単位は、水素化ブタジエン単位を表す。ここで、水素化イソプレン単位とは、イソプレン単位の水素化により形成される構造を有する単位を意味する。また水素化ブタジエン単位とは、ブタジエン単位の水素化により形成される構造を有する単位を意味する。同様に、ある単量体の水素化単位(水素化-単量体単位)とは、ある単量体単位の水素化により形成される構造を有する単位を意味する。
【0054】
【化3】
【0055】
水素化脂肪族共役ジエン化合物単位は、例えば、脂肪族共役ジエン化合物を重合させて脂肪族共役ジエン化合物単位を得る工程と、この脂肪族共役ジエン化合物単位中に二重結合が存在する場合はそれを水素化する工程と、を含む方法によって得ることができる。脂肪族共役ジエン化合物単位とは、脂肪族共役ジエン化合物を重合して得られる構造を有する重合単位を表す。脂肪族共役ジエン化合物単位は、当該構造を有する限りにおいて、任意の製造方法で得られた重合単位であってよい。
【0056】
脂肪族共役ジエン化合物の例としては、下記式(bm)で表される化合物が挙げられる。
【0057】
【化4】
【0058】
前記式(bm)中、R~Rの定義は、前記式(B-1)及び式(B-2)における定義と同じである。
【0059】
脂肪族共役ジエン化合物の好ましい例としては、ブタジエン(式(bm)におけるR~Rの全てが水素原子)、イソプレン(式(bm)におけるR~RのうちR又はRがメチル基で他が水素原子)、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、及び2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエンが挙げられる。中でも、透明性、耐熱性、及び加工性に優れた樹脂フィルムを得る観点から、ブタジエン及びイソプレンがより好ましい。
【0060】
よって、一実施形態において、重合単位Bとしての水素化脂肪族共役ジエン化合物単位は、水素化ブタジエン単位、水素化イソプレン単位、水素化1,3-ペンタジエン単位、水素化2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン単位、水素化1,3-ヘキサジエン単位、水素化2-メチル-1,3-ペンタジエン単位、水素化3-メチル-1,3-ペンタジエン単位、及び水素化2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン単位が好ましく、水素化ブタジエン単位及び水素化イソプレン単位がより好ましい。
【0061】
脂肪族共役ジエン化合物を重合して脂肪族共役ジエン化合物単位を得た後、その脂肪族共役ジエン化合物単位の二重結合を水素化することで、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位が得られる。この水素化は、ブロック(A)を含む系において行われることがある。例えば、芳香族ビニル系化合物を重合して得られたブロック(A)と、脂肪族共役ジエン化合物を重合して得られたブロック(D)とを含むブロック共重合体を得た後で、このブロック共重合体のブロック(D)に含まれる二重結合を選択的に水素化して、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位を含有するブロック(B)を得ることがある。この場合、脂肪族共役ジエン化合物単位の二重結合の水素化方法としては、通常、ブロック(A)に含有される芳香族ビニル系化合物単位の芳香族性の不飽和結合を水素化しないで、ブロック(D)に含有される脂肪族共役ジエン化合物単位の脂肪族性の二重結合を水素化できる方法が選択される。
【0062】
前記の脂肪族共役ジエン化合物単位の二重結合の水素化の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上、通常100%以下である。水素化率が前記のように高い場合に、所望の光学特性を有する樹脂フィルムの製造を特に容易に行うことができる。更に、通常は、樹脂フィルムの機械的特性を良好にすることができる。水素化率はH-NMRにより測定できる。
【0063】
共重合体Pが含みうる水素化脂肪族共役ジエン化合物単位は、1種類でもよく、2種類以上であってもよい。よって、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位を形成する為の脂肪族共役ジエン系化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
共重合体Pが、ブロック(A)及びブロック(B)を有するブロック共重合体である場合、ブロック(B)における重合単位Bの割合は、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97重量%以上、特に好ましくは99重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0065】
ブロック(B)は、重合単位B以外に任意の重合単位を含有してもよい。このような任意の重合単位としては、例えば、重合単位Bと共重合可能な任意の単量体を重合して得られる構造を有する重合単位、当該重合単位の水素化により形成される構造を有する重合単位、及び重合単位Bが、ある重合単位B’の水素化により形成される構造を有する重合単位である場合における重合単位B’が挙げられる。
【0066】
一実施形態においては、共重合体Pにおける重合単位Aの重量分率wAと、共重合体Pにおける重合単位Bの重量分率wBは、下記式(2)を満たす。
45/55<wA/wB<70/30 (2)
【0067】
前記重合単位Aが芳香族ビニル系化合物単位であり、前記重合単位Bが、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位であり、且つ共重合体Pにおける重合単位Aの重量分率wAと、共重合体Pにおける重合単位Bの重量分率wBが、前記式(2)を満たすことが特に好ましい。
【0068】
ここで、重合単位Aの重量分率wAとは、共重合体Pを構成する重合単位の合計の重量に対する、重合単位Aの重量をいう。樹脂Cが、複数種類の共重合体Pを含有する場合、ここでいう重合単位Aの重量分率wAは、含まれる複数種類の共重合体P全体における重合単位の合計の重量に対する、重合単位Aの重量である。
同様に、重合単位Bの重量分率wBとは、共重合体Pを構成する重合単位の合計の重量に対する、重合単位Bの重量をいう。樹脂Cが、複数種類の共重合体Pを含有する場合、ここでいう重合単位Bの重量分率wBは、含まれる複数種類の共重合体P全体における重合単位の合計の重量に対する、重合単位Bの重量である。
【0069】
また、重合単位Aとして、共重合体Pに二種以上の重合単位A(例えば、芳香族ビニル系化合物単位)が含まれている場合は、wAは、共重合体Pにおける、二種以上の重合単位Aの総重量分率を意味する。また、共重合体Pに二種以上の重合単位B(例、水素化脂肪族共役ジエン化合物単位)が含まれている場合は、wBは、共重合体Pにおける、二種以上の重合単位Bの総重量分率を意味する。
【0070】
wA/wBの値は、共重合体Pにおける重合単位Aの合計の重量の、重合単位Bの合計の重量に対する比率として求めうる。wA/wBの値は、H-NMR測定の結果から算出することができる。
【0071】
wA/wBの値は、好ましくは45/55より大きく、より好ましくは50/50以上であり、好ましくは70/30より小さく、より好ましくは、67/33以下である。
これにより、樹脂フィルムを延伸して得られる延伸樹脂フィルム(位相差フィルム)のNZ係数を、より0.5に近い値としうる。
【0072】
共重合体Pの重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、例えば、30000以上400000以下の範囲としうる。重量平均分子量Mwは、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算値として測定できる。
【0073】
共重合体Pのガラス転移温度Tgは、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、更に好ましくは180℃以下である。
共重合体Pのガラス転移温度Tgは、TMA(熱機械的分析)測定により測定しうる。 測定は、下記の条件で行いうる。
測定対象の樹脂を、5mm×20mm×100μmのフィルムに成形し、試料とする。この試料について、熱機械的分析装置(例、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「TMA/SS7100」)を用いたTMA(熱機械的分析)測定を行って、ガラス転移温度を測定する。具体的には、試料の長手方向に50mNの張力を加えた状態で、20℃から180℃まで5℃/minの速度で温度を変化させ、試料長さが3%変化した時の温度を、ガラス転移温度として求めうる。
【0074】
樹脂Cは、共重合体Pのみからなってもよく、共重合体Pに加えて任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例としては、染料、顔料、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。かかる任意の成分の割合は、本発明の効果を損ねない範囲の割合としうる。具体的には、樹脂Cにおける共重合体Pの割合は、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、通常100重量%以下であり、更に好ましくは、樹脂Cは共重合体Pのみからなる。
【0075】
(溶媒組成物)
工程(1)において用いられる溶媒組成物は、通常沸点T(℃)が式(1)を満たす一種以上の溶媒化合物Sを含む。また、溶媒組成物中の溶媒化合物Sの総含有率は、50重量%以上である。
Tg-50℃≦T≦Tg+20℃ (1)
式(1)において、Tg(℃)は、樹脂Cに含まれる共重合体Pのガラス転移温度を表す。樹脂Cに、複数種の共重合体Pが含まれている場合は、共重合体Pのガラス転移温度として、当該樹脂Cに含まれうる複数種の共重合体Pの混合物について測定されたガラス転移温度を採用してよい。
また、沸点Tは、1atmにおける沸点を意味する。
【0076】
(溶媒化合物S)
樹脂溶液に含まれる溶媒組成物は、前記式(1)を満たす溶媒化合物Sを、一種単独で含んでいてもよく、二種以上の任意の比率の組み合わせとして含んでいてもよい。溶媒化化合物Sの沸点T(℃)は、通常(Tg-50℃)以上、好ましくは(Tg-45℃)以上、より好ましくは(Tg-40℃)以上であり、通常(Tg+20℃)以下、好ましくは(Tg+10℃)以下、より好ましくは(Tg)以下である。
【0077】
溶媒化合物Sは、溶媒組成物中の総含有率が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上であり、通常100重量%以下であり、100重量%であってもよく、90重量%以下であってもよい。ここで、溶媒化合物Sの総含有率とは、溶媒組成物が、一種のみの溶媒化合物Sを含む場合は、溶媒組成物に含まれる当該一種の溶媒化合物Sの含有率を意味し、溶媒組成物が、複数種の溶媒化合物Sを含む場合は、溶媒組成物に含まれる複数種の溶媒化合物Sのそれぞれの含有率の合計を意味する。また、前記総含有率は、溶媒組成物を100重量%としたときの値である。
【0078】
溶媒組成物が、溶媒化合物Sを前記含有率の範囲で含むことにより、延伸により、NZ係数が所望の範囲にある位相差フィルムを得ることのできる樹脂フィルムを得ることができる。
【0079】
その理由としては、本発明を限定するものではなく、詳細は不明であるが、下記が考えられる。
樹脂溶液中の共重合体Pは、その濃度が小さいときには、溶媒和されてランダムコイルの状態で存在すると考えられる。
樹脂溶液の膜を乾燥する過程で、樹脂溶液中の共重合体Pの濃度は、溶媒組成物の揮発に伴って次第に大きくなる。共重合体Pは、濃度の上昇に伴って、まず分子内で重合単位Aの相と重合単位Bの相とが分離し、次いで相分離した分子が集合して、ミクロ相分離構造をとると考えられる。
溶媒組成物が、所定の溶媒化合物Sを、所定の重量割合で含むことで、溶媒組成物の揮発速度を、ミクロ相分離構造であって、所望のNZ係数が得られるような適切な構造が得られる速度に調整できると考えられる。その結果、延伸された樹脂フィルムが、所望のNZ係数を有するようにできると考えられる。
【0080】
溶媒化合物Sとして、式(1)を満たす限りにおいて、任意の溶媒化合物を用いうる。
溶媒化合物Sの例としては、炭化水素溶媒化合物(例、シクロヘキサン(沸点80.7℃));芳香族炭化水素溶媒化合物(例、ベンゼン(沸点80.0℃)、エチルベンゼン(沸点136.1℃)、キシレン(o-キシレン:沸点144.4℃、m-キシレン:沸点139.1℃、p-キシレン:沸点138.3℃)、トルエン(沸点110.6℃));エーテル(例、1,4-ジオキサン(沸点101.4℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃))、環状ケトン(例、シクロペンタノン(沸点130.7℃))、ハロゲン化炭化水素溶媒化合物(例、1,2-ジクロロエタン(沸点83.3℃)、四塩化炭素(沸点76.7℃))が挙げられる。
【0081】
溶媒組成物は、溶媒化合物S以外に、任意の溶媒を含みうる。溶媒化合物S以外の任意の溶媒の例としては、共重合体Pのガラス転移温度Tgにもよるが、ハロゲン化炭化水素溶媒(例、塩化メチレン(沸点40.2℃)、クロロホルム(沸点61.2℃));炭化水素化合物溶媒(例、デカリン(cis-デカリン(沸点195.7℃)、trans-デカリン(沸点187.2℃)、cis-trans混合デカリン(沸点190℃))、テトラリン(沸点207.5℃));エーテル溶媒(例、1,3-ジオキソラン(沸点78℃))が挙げられる。
【0082】
樹脂溶液における、樹脂Cの濃度は、含まれる共重合体Pの重量平均分子量、溶媒組成物の粘度などの物性に応じて適宜調整しうるが、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは25重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、更に好ましくは40重量%以下である。ここで、樹脂Cの濃度は、樹脂溶液を100重量%としたときの濃度である。
【0083】
前記樹脂溶液を基体上に流延する方法としては、任意の方法を用いることができ、例えば、従前公知の溶液流涎法を適用しうる。具体例としては、ナイフコーティング法、ワイヤーバーコート法、スプレー法、ロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スライドコート法、及びエクストルージョンコート法が挙げられる。
樹脂溶液を流延する基体の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルム;ステンレス鋼などの金属により形成された、ベルト、ロール、又はドラム;ガラス基板などが挙げられる。
【0084】
[1.2.工程(2)]
工程(2)では、基体上に形成された前記樹脂溶液の膜を乾燥させて、前記樹脂フィルムを得る。
樹脂溶液の膜を乾燥させる方法としては、減圧乾燥、加熱乾燥、これらの組み合わせなどの、任意の方法としうる。樹脂溶液の膜を乾燥させることにより、樹脂溶液の膜から溶媒組成物を除去して、樹脂フィルムを得うる。
【0085】
樹脂溶液の膜を乾燥させる方法として、加熱を含む方法により乾燥させる場合、乾燥温度は、溶媒組成物に含まれる溶媒化合物Sの種類に応じて、適宜選択しうる。例えば、乾燥温度は、残留溶媒削減の観点から好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、フィルムの表面形状制御の観点から好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下としうる。
【0086】
また、乾燥時間は、樹脂溶液の膜の厚み、乾燥温度などに応じて、適宜選択しうる。例えば、乾燥時間は、残留溶媒削減の観点から好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上、更に好ましくは120秒以上であり、生産性の観点から好ましくは600秒以下、より好ましくは450秒以下、更に好ましくは300秒以下としうる。
【0087】
前記のとおり、本工程で得られる樹脂フィルムは、多層構造を有するフィルムの構成要素でありうる。例えば、本工程で得られる樹脂フィルムは、前記基体を含む、多層構造を有する積層体の要素であってよい。
【0088】
[1.3.任意の工程]
本実施形態の方法は、工程(1)及び(2)の他に、任意の工程を含んでいてもよい。
例えば、工程(2)の後に、基体上に形成された樹脂フィルムから、基体を剥離する工程(3)を含んでいてもよい。
【0089】
[1.4.樹脂フィルムの特性]
本実施形態の方法により得られる樹脂フィルムは、延伸により、NZ係数が0より大きくかつ1より小さい延伸樹脂フィルム(位相差フィルム)を得ることができる。
具体的には、本実施形態の方法により得られる樹脂フィルムを、下記条件により延伸して得られる位相差フィルムは、通常NZ係数が0より大きくかつ1より小さい。
・延伸温度:共重合体Pのガラス転移温度Tg+10℃
・自由幅一軸延伸
・延伸倍率1.5倍
前記の条件で樹脂フィルムを延伸して得られる位相差フィルムのNZ係数は、視野角特性向上の観点から好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下である。
【0090】
樹脂フィルムの厚みは、樹脂フィルムの延伸倍率、樹脂Cの特性、延伸樹脂フィルムに求められる光学特性などに応じて、適宜設定しうる。例えば、樹脂フィルムの厚みは、屈曲性および搬送性の観点から好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは90μm以下、更に好ましくは80μm以下であり、通常0μmより大きく、好ましくは30μm以上である。
【0091】
[2.光学フィルムの製造方法]
前記樹脂フィルムを用いた光学フィルムは、工程(A)を含む方法により、製造しうる。ここで、工程(A)は、前記工程(1)及び工程(2)を含む、前記樹脂フィルムを製造する工程である。
前記樹脂フィルムを用いた光学フィルムの例としては、前記樹脂フィルムを含む、複層フィルム;前記樹脂フィルムを延伸して得られる延伸樹脂フィルムを含む、位相差フィルム;延伸樹脂フィルム及び偏光子を含む、偏光フィルムが挙げられる。
【0092】
樹脂フィルムを含む複層フィルムを構成する要素の例としては、位相差層、接着層、粘着層が挙げられる。例えば、光学フィルムが、樹脂フィルム及び位相差層を含む複層フィルムである場合、樹脂フィルムと組み合わせる位相差層の例としては、一軸性の屈折率異方性を有する位相差層、二軸性の屈折率異方性を有する位相差層、正の屈折率異方性を有する位相差層、負の屈折率異方性を有する位相差層が挙げられる。
光学フィルムが、樹脂フィルム及び位相差層を含む複層フィルムである場合、当該光学フィルムは、例えば、前記工程(A)、及び、樹脂フィルムと位相差層とを貼り合わせる工程をこの順で含む方法;又は、前記工程(A)、及び樹脂フィルム上に位相差層を形成する工程をこの順で含む方法;により、製造しうる。
【0093】
光学フィルムが、前記樹脂フィルムを延伸して得られる延伸樹脂フィルムを含むフィルムである場合、当該光学フィルムは、例えば、前記工程(A)、及び前記樹脂フィルムを延伸して、延伸樹脂フィルムを含む光学フィルムを得る工程(B)をこの順で含む方法により製造しうる。
【0094】
樹脂フィルムを延伸する方法は、光学フィルムに求められる光学的特性に応じて任意の方法であってよい。例えば、樹脂フィルムを延伸する方法の例としては、樹脂フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、樹脂フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;樹脂フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、樹脂フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;並びに樹脂フィルムを幅方向に対し0°超90°未満といった、幅方向に対し平行でも垂直でもない斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法)が挙げられる。延伸樹脂フィルムに、所望のNZ係数を発現しやすくする観点から、延伸方法は、一軸延伸法であることが好ましい。
【0095】
延伸温度は、樹脂フィルムを形成する樹脂Cの物性などに応じて、適宜選択してよい。例えば、樹脂フィルムの延伸温度は、好ましくはTg-10(℃)以上、より好ましくはTg℃以上、更に好ましくはTg+5℃以上であり、好ましくはTg+30℃以下、より好ましくはTg+25℃以下、更に好ましくはTg+20℃以下である。ここで、Tgは、樹脂Cに含まれる共重合体Pのガラス転移温度である。
【0096】
延伸倍率は、延伸樹脂フィルムに求められる光学特性、強度などに応じて、適宜選択してよい。例えば、樹脂フィルムの延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上であり、好ましくは5.0倍以下、より好ましくは4.0倍以下、さらに好ましくは3.0倍以下である。ここで、例えば二軸延伸法のように異なる複数の方向に延伸を行う場合、延伸倍率は各延伸方向における延伸倍率の積で表される総延伸倍率のことである。
【0097】
前記のとおり、樹脂フィルムは、多層構造を有する積層体の構成要素でありうるので、工程(B)は、樹脂フィルムを含む積層体を延伸することで、積層体の構成要素である樹脂フィルムを他の構成要素と共に延伸し、延伸樹脂フィルムを含む積層体を得る工程であってもよい。
【0098】
工程(B)において、樹脂フィルムを延伸して得られる延伸樹脂フィルムのNZ係数は、好ましくは0より大きく、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、好ましくは1より小さく、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下である。
延伸樹脂フィルムの面内レターデーションReは、例えば、120nm~160nmの範囲であってよい。
延伸樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、例えば、-60nm~60nmの範囲であってよい。
【実施例
【0099】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0100】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0101】
溶媒の沸点は、文献値又はカタログ値に基づく値である。
【0102】
[測定方法及び評価方法]
(フィルムの厚み)
各例で得られたフィルムの厚みdを、膜厚測定器(ミツトヨ社 製品名「スナップゲージ」)により測定した。
【0103】
(フィルムのRe、Rth、NZ係数)
各例で得られたフィルムについて、AXOMETRICS社製「AxoScan」を用い、波長580nmでのRe、Rth、及びNZ係数を求めた。NZ係数は、式:NZ係数=Rth/Re+0.5より算出できる。
【0104】
(ガラス転移温度)
得られた共重合体のガラス転移温度(Tg)は、熱機械的分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「TMA/SS7100」)を用いたTMA(熱機械的分析)測定で得た。測定対象の樹脂を、5mm×20mm×100μmのフィルムに成形し、試料とした。具体的には、試料の長手方向に50mNの張力を加えた状態で、20℃から180℃まで5℃/minの速度で温度を変化させ、試料長さが3%変化した時の温度を、ガラス転移温度として求めた。
【0105】
(相分離構造)
各例で得られた位相差フィルムを2mm×4mmの大きさにカットし、複数のフィルム片を得た。それらを厚み方向に30枚重ねてフォルダに固定し、小角X線散乱測定施設(あいちSR、ビームライン8S3)にて小角X線散乱測定を行い、散乱パターンを得た。測定条件は、カメラ長4m、X線エネルギー8.2KeV、測定qレンジ:約0.06~3nm-1、1試料あたりの露光時間60秒とした。得られた散乱パターンを理論曲線とフィッティングして相分離構造及び相間距離を算出した。
【0106】
X線の照射面は、フィルムの断面とし、積分範囲は厚み方向及び厚み方向に垂直な方向についてそれぞれ20°とした。それぞれの積分から得られたデータから相間距離を算出し、厚み方向及び厚み方向に垂直な方向の相間距離の平均値を測定値とした。
【0107】
(表示特性の評価方法)
偏光板として、透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、商品名「HLC2-5618S」、厚さ180μm)を用意した。偏光板の一方の面側の保護フィルムを除去し、当該面に、各例で得た位相差フィルムを貼合した。貼合は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とが45°の角度をなすよう行った。この操作により、両面の保護フィルムのうちの一方として、各例の位相差フィルムを備える偏光板を得た。得られた偏光板を、市販の有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置(LG電子製、OLED55EG9600)の視認側にもともと備えられていた偏光板と置き換え、各例で得られた位相差フィルムを備える有機EL表示装置を得た。置き換えに際し、偏光板の配置は、各例で得られた位相差フィルムを備える側が有機EL素子側となる配置とした。また、偏光子の透過軸は、有機EL表示装置にもともと備えられていた偏光板における偏光子と同じ方向とした。
【0108】
得られた有機EL表示装置の表示の状態を、表示面に対して傾斜方向(法線方向に対して45°)から、様々な方位角において観察し、下記基準により表示状態を評価した。
「良好」:置き換え前と比較し、全方位に亘り反射率が抑制されていた。
「不良」:置き換え前と比較し、一以上の方位において反射率が同等以下であった。
【0109】
[実施例1]
(1-1.トリブロック共重合体)
(一段階目の重合反応)
乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500ml、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.75mmolを入れた後、重合単位Aとして2-ビニルナフタレン9gを添加して25℃で1時間反応させ、一段階目の重合反応を行った。ガスクロマトグラフィー(GC)により、添加した単量体の重合転化率を求めたところ、100%であった。
【0110】
(二段階目の重合反応)
一段階目の重合反応終了後、重合単位Bとしてブタジエン18gを添加しさらに25℃で1時間反応させ、二段階目の重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、(2-ビニルナフタレンブロック)-(ブタジエンブロック)のブロック構成を有するジブロック共重合体を得た。GCにより、添加した単量体の重合転化率を求めたところ、100%であった。
【0111】
(三段階目の重合反応)
その後、反応混合物中にさらに、重合単位Aとして2-ビニルナフタレン9gを添加して25℃で1時間反応させ、三段階目の重合反応を行った。GCにより、添加した単量体の重合転化率を求めたところ、100%であった。その結果、反応混合物中に、(2-ビニルナフタレンブロック)-(ブタジエンブロック)-(2-ビニルナフタレンブロック)のブロック構成を有するトリブロック共重合体を得た。反応混合物を大量の2-プロパノールに注いで、トリブロック共重合体を沈殿させ分取した。
【0112】
得られたトリブロック共重合体をp-キシレン700mlに溶解して溶液とした。溶液に、p-トルエンスルホニルヒドラジド7.6gを添加し、温度130℃で8時間反応させた。この反応により、ブタジエン単位の二重結合へ水素を添加した。水素添加終了後、大量の2-プロパノールに反応溶液を注ぎ、(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体Pを、塊状の生成物32gとして得た。ここで、ブロック(A)は、2-ビニルナフタレン単位のブロックであり、ブロック(B)は、水素化ブタジエン単位のブロックである。
【0113】
各重合段階において添加した単量体の重合転化率がいずれも100%であったことから、トリブロック共重合体Pにおける2-ビニルナフタレン単位の水素化イソプレン単位に対する重量比率(wA/wB)は50/50である。
【0114】
得られたトリブロック共重合体PをH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体Pにおけるブタジエンブロックの水素添加率は99%であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体Pの重量平均分子量は56000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体Pのガラス転移温度は121℃であった。
【0115】
(1-2.延伸前フィルム)
(1-1)で得られたトリブロック共重合体Pを、樹脂Cとして用いた。10gの樹脂Cを、30gのトルエン(沸点:110.6℃)に溶解させた。得られた樹脂溶液(樹脂濃度:25重量%)を塗工ブレードを用い、ギャップ200μmとして離形PETフィルムに塗工した後、乾燥機で乾燥させた。乾燥の条件は、温度120℃、乾燥時間2分間とした。乾燥後、空気中で室温まで冷却し、離形PETフィルムを剥離し、厚み50μmである、樹脂フィルムとしての延伸前フィルムを得た。
【0116】
得られた延伸前フィルムについて、前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、相間距離が30nmである、シリンダ状の相分離構造が観察された。
【0117】
(1-3.位相差フィルム)
(1-2)で得られた延伸前フィルムを切断し、50mm×100mmの大きさの矩形のフィルムとした。矩形のフィルムに、自由幅一軸延伸を施した。延伸は、INSTRON社製の恒温槽付引張試験装置を用いて行った。延伸の条件は、延伸温度131℃、延伸倍率1.5倍、延伸速度33%毎分とした。この結果、厚み40μmである、光学フィルム又は延伸樹脂フィルムとしての位相差フィルムを得た。
【0118】
得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0119】
[実施例2]
(2-1.トリブロック共重合体)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-1)と同様に操作して、トリブロック共重合体Pを得た。
・一段階目の重合反応において、n-ブチルリチウムの量を0.75mmolから0.82mmolに変更し、2-ビニルナフタレンの量を9gから12gに変更した。
・二段階目の重合反応において、ブタジエンの量を18gから12gに変更した。
・三段階目の重合反応において、2-ビニルナフタレンの量を9gから12gに変更した。
【0120】
各重合段階において、添加した単量体の重合転化率をGCにより求めたところ、いずれも100%であった。したがって、トリブロック共重合体Pにおける2-ビニルナフタレン単位の水素化イソプレン単位に対する重量比率(wA/wB)は66.7/33.3である。
【0121】
得られたトリブロック共重合体PをH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体Pのブタジエンブロックの水素添加率は99%であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体Pの重量平均分子量は50000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体Pのガラス転移温度は133℃であった。
【0122】
(2-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作して、延伸前フィルムを得た。
・樹脂Cとして、(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
・10gの樹脂Cを、トルエン18.5gに溶解させて、樹脂濃度35重量%の樹脂溶液を得て、塗工に用いた。
・塗工ブレードによる塗工において、ギャップを250μmとした。
・乾燥温度を60℃とした。
【0123】
得られた延伸前フィルムの厚みは、90μmであった。前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、相間距離が30nmである、シリンダ状の相分離構造が観察された。
【0124】
(2-3.位相差フィルム)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-3)と同様に操作して、位相差フィルムを得た。
・延伸前フィルムとして、(2-2)で得られた延伸前フィルムを用いた。
・延伸温度を、143℃とした。
得られた位相差フィルムの厚みは、75μmであった。得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0125】
[実施例3]
(3-1.トリブロック共重合体)
トリブロック共重合体Pとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用意した。
【0126】
(3-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作して、延伸前フィルムを得た。
・樹脂Cとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
・10gの樹脂Cを、18.5gのジオキサン(沸点:101.4℃)に溶解させて、樹脂濃度35重量%の樹脂溶液を得て、塗工に用いた。
・塗工ブレードによる塗工において、ギャップを250μmとした。
【0127】
得られた延伸前フィルムの厚みは、90μmであった。得られた延伸前フィルムについて、前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、相間距離が30nmである、シリンダ状の相分離構造が観察された。
【0128】
(3-3.位相差フィルム)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-3)と同様に操作して、位相差フィルムを得た。
・延伸前フィルムとして、(3-2)で得られた延伸前フィルムを用いた。
・延伸温度を、143℃とした。
得られた位相差フィルムの厚みは、75μmであった。得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0129】
[実施例4]
(4-1.トリブロック共重合体)
トリブロック共重合体Pとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用意した。
【0130】
(4-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作して、延伸前フィルムを得た。
・樹脂Cとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
・10gの樹脂Cを、トルエン(沸点110.6℃)と塩化メチレン(沸点40.2℃)との混合溶媒18.5gに溶解させて、樹脂濃度35重量%の樹脂溶液を得て、塗工に用いた。混合溶媒の混合重量比は、トルエン/塩化メチレン=1/1とした。
・塗工ブレードによる塗工において、ギャップを250μmとした。
【0131】
得られた延伸前フィルムの厚みは、90μmであった。得られた延伸前フィルムについて、前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、相間距離が30nmである、シリンダ状の相分離構造が観察された。
【0132】
(4-3.位相差フィルム)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-3)と同様に操作して、位相差フィルムを得た。
・延伸前フィルムとして、(4-2)で得られた延伸前フィルムを用いた。
・延伸温度を、143℃とした。
得られた位相差フィルムの厚みは、75μmであった。得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0133】
[実施例5]
(5-1.トリブロック共重合体)
トリブロック共重合体Pとして、実施例1の(1-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用意した。
【0134】
(5-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作して、延伸前フィルムを得た。
・10gの樹脂Cを、トルエン(沸点110℃)とシクロペンタノン(沸点130.7℃)との混合溶媒30gに溶解させて、樹脂濃度25重量%の樹脂溶液を得て、塗工に用いた。混合溶媒の混合重量比は、トルエン/シクロペンタノン=1/1とした。
【0135】
得られた延伸前フィルムの厚みは、60μmであった。得られた延伸前フィルムについて、前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、相間距離が25nmである、シリンダ状の相分離構造が観察された。
【0136】
(5-3.位相差フィルム)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-3)と同様に操作して、位相差フィルムを得た。
・延伸前フィルムとして、(5-2)で得られた延伸前フィルムを用いた。
・延伸温度を、131℃とした。
得られた位相差フィルムの厚みは、50μmであった。得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0137】
[比較例1]
(C1-1.トリブロック共重合体)
トリブロック共重合体Pとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用意した。
【0138】
(C1-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作して、延伸前フィルムを得た。
・樹脂Cとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
・10gの樹脂Cを、30gのジオキソラン(沸点:78℃)に溶解させて、樹脂濃度25重量%の樹脂溶液を得て、塗工に用いた。
・乾燥温度を60℃とした。
【0139】
得られた延伸前フィルムの厚みは、50μmであった。得られた延伸前フィルムについて、前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、相間距離が30nmである、シリンダ状の相分離構造が観察された。
【0140】
(C1-3.位相差フィルム)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-3)と同様に操作して、位相差フィルムを得た。
・延伸前フィルムとして、(C1-2)で得られた延伸前フィルムを用いた。
・延伸温度を、143℃とした。
得られた位相差フィルムの厚みは、40μmであった。得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0141】
[比較例2]
(C2-1.トリブロック共重合体)
トリブロック共重合体Pとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用意した。
【0142】
(C2-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作した。
・樹脂Cとして、実施例2の(2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
・10gの樹脂Cを、30gのデカリン(沸点:190℃)に溶解させて、樹脂濃度25重量%の樹脂溶液を得て、塗工に用いた。
【0143】
その結果、塗工に用いた樹脂溶液の溶媒が揮発せず、延伸前フィルムを得ることができなかった。
【0144】
[参考例1]
(R1-1.トリブロック共重合体)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-1)と同様に操作して、トリブロック共重合体Pを得た。
・一段階目の重合反応において、n-ブチルリチウムの量を0.75mmolから0.96mmolに変更し、2-ビニルナフタレンの量を9gから12.6gに変更した。
・二段階目の重合反応において、ブタジエンの量を18gから10.8gに変更した。
・三段階目の重合反応において、2-ビニルナフタレンの量を9gから12.6gに変更した。
【0145】
各重合段階において、添加した単量体の重合転化率をGCにより求めたところ、いずれも100%であった。したがって、トリブロック共重合体Pにおける2-ビニルナフタレン単位の水素化イソプレン単位に対する重量比率(wA/wB)は70.0/30.0である。
【0146】
得られたトリブロック共重合体PをH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体Pのブタジエンブロックの水素添加率は99%であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体Pの重量平均分子量は45000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体Pのガラス転移温度は136℃であった。
【0147】
(R1-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様に操作して、延伸前フィルムを得た。
・樹脂Cとして、(R1-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
得られた延伸前フィルムの厚みは、50μmであった。得られた延伸前フィルムについて、前記の小角X線散乱法により断面からX線を入射させて観察したところ、スフェロイド状の相分離構造が観察された。
【0148】
(R1-3.位相差フィルム)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-3)と同様に操作して、位相差フィルムを得た。
・延伸前フィルムとして、(R1-2)で得られた延伸前フィルムを用いた。
・延伸温度を、146℃とした。
得られた位相差フィルムの厚みは、40μmであった。得られた位相差フィルムについて、Re、Rth、NZ係数及び表示特性を評価した。
【0149】
[参考例2]
(R2-1.トリブロック共重合体)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-1)と同様に操作して、トリブロック共重合体Pを得た。
・一段階目の重合反応において、n-ブチルリチウムの量を0.75mmolから0.70mmolに変更し、2-ビニルナフタレンの量を9gから7.2gに変更した。
・二段階目の重合反応において、ブタジエンの量を18gから21.6gに変更した。
・三段階目の重合反応において、2-ビニルナフタレンの量を9gから7.2gに変更した。
【0150】
各重合段階において、添加した単量体の重合転化率をGCにより求めたところ、いずれも100%であった。したがって、トリブロック共重合体Pにおける2-ビニルナフタレン単位の水素化イソプレン単位に対する重量比率(wA/wB)は40.0/60.0である。
【0151】
得られたトリブロック共重合体PをH-NMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体Pのブタジエンブロックの水素添加率は99%であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体Pの重量平均分子量は60000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体Pのガラス転移温度は105℃であった。
【0152】
(R2-2.延伸前フィルム)
下記事項を変更した以外は、実施例1の(1-2)と同様にして、離形PETフィルム付き樹脂フィルムを得た。
・樹脂Cとして、(R2-1)で得られたトリブロック共重合体Pを用いた。
離形PETフィルム付き樹脂フィルムは、粘着力が強かった。そのため離形PETフィルムから剥離する際に樹脂フィルムが伸びてしまい、延伸前フィルムが得られなかった。
【0153】
各例の条件及び結果を下表に示す。
下表において、略号は以下の意味を表す。
「wA/wB」:共重合体Pにおける、2-ビニルナフタレン単位の水素化イソプレン単位に対する重量比率
「Tg」:共重合体Pのガラス転移温度
「混合重量比(com.1/com.2)」:溶媒化合物1及び溶媒化合物2の重量混合比(溶媒化合物1/溶媒化合物2)
「Re」:位相差フィルムの面内レターデーション
「Rth」:位相差フィルムの厚み方向におけるレターデーション
「d」:位相差フィルムの厚み
「NZ」:位相差フィルムのNZ係数
「表示特性」:傾斜方向からの表示装置の観察結果
【0154】
【表1】
【0155】
【表2】
【0156】
【表3】
【0157】
以上の結果から、以下の事項が分かる。
共重合体Pを溶解させる溶媒組成物として、沸点Tが式(1):Tg-50℃≦T≦Tg+20℃を満たす溶媒化合物が50重量%以上含まれている組成物を用いた実施例1~5の方法によれば、シリンダ状の相分離構造を有する樹脂フィルムを延伸することにより、NZ係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムが得られる。
一方、沸点Tが式(1)を満たす溶媒化合物が含まれず、低沸点の溶媒化合物のみからなる組成物を用いた比較例1の方法によると、樹脂フィルムがシリンダ状の相分離構造を有していても、樹脂フィルムの延伸により得られた位相差フィルムのNZ係数が0である。
また、沸点Tが式(1)を満たす溶媒化合物が含まれず、高沸点の溶媒化合物のみからなる組成物を用いた比較例2の方法では、樹脂フィルムが得られない。
参考例1によれば、シリンダ状の相分離構造を有さない樹脂フィルムの延伸により得られた位相差フィルムはNZ係数が0である。