(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】合金元素添加材および銅合金材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20231114BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20231114BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20231114BHJP
B22D 11/108 20060101ALI20231114BHJP
B22D 21/00 20060101ALI20231114BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20231114BHJP
B22D 11/128 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
B22D11/06 320F
B22D1/00 E
B22D11/00 F
B22D11/108 D
B22D21/00 B
C22C1/02 503B
B22D11/128 350A
(21)【出願番号】P 2020050819
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-001174(JP,A)
【文献】特開2005-144492(JP,A)
【文献】特開2010-188362(JP,A)
【文献】特開平10-216905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
B22D 21/00
B22D 1/00
C22C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銅に添加するための第1金属を含む合金元素添加材であって、
銅よりも融点が高く、かつ銅よりも酸化物を生成する標準生成自由エネルギーが小さい前記第1金属から成る金属線と、
前記第1金属よりも融点が低い第2金属から成る金属材と、
を備え、
前記金属材は、前記金属線の長手方向における一方の先端部に接して固定されている、
合金元素添加材。
【請求項2】
請求項1に記載の合金元素添加材において、
前記金属材は、圧着によって前記先端部に固定されている、合金元素添加材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の合金元素添加材において、
前記先端部は、前記金属材によって被覆されており、
前記金属材は、前記先端部の外周面の少なくとも一部に対してかしめられている、合金元素添加材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の合金元素添加材において、
前記金属材は、穴を有し、
前記先端部は、前記穴内に嵌入されている、合金元素添加材。
【請求項5】
請求項1または2に記載の合金元素添加材において、
前記金属材は、前記金属線の先端面に打ち込まれた状態で前記先端部に固定されている、合金元素添加材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の合金元素添加材において、
前記第1金属は
、チタン、ベリリウム、ジルコニウム
、マンガン、シリコンまたはイットリウムである、合金元素添加材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の合金元素添加材において、
前記第2金属は、銅である、合金元素添加材。
【請求項8】
(a)溶銅を用意する工程と、
(b)前記(a)工程の後、前記溶銅を流路内に流す工程と、
(c)前記(b)工程の後、前記流路内の前記溶銅に、合金元素添加材を添加する工程と、
(d)前記(c)工程の後、前記溶銅を凝固させる工程と、
を有し、
前記合金元素添加材は、
銅よりも融点が高く、銅よりも酸化物を形成する標準生成自由エネルギーが小さい第1金属から成る金属線と、
前記第1金属よりも融点が低い第2金属から成る金属材と、
を備え、
前記金属材は、前記金属線の長手方向における一方の先端部に接して固定されている、
銅合金材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の銅合金材の製造方法において、
前記(c)工程では、不活性ガスを含む雰囲気において、前記合金元素添加材を前記溶銅に添加する、銅合金材の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の銅合金材の製造方法において、
前記金属材は、圧着によって前記先端部に固定されている、銅合金材の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の銅合金材の製造方法において、
前記先端部は、前記金属材によって被覆されており、前記金属材は、前記先端部の外周面の少なくとも一部に対してかしめられている、銅合金材の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の銅合金材の製造方法において、
前記金属材は、穴を有し、
前記先端部は、前記穴内に嵌入されている、銅合金材の製造方法。
【請求項13】
請求項8~10のいずれか1項に記載の銅合金材の製造方法において、
前記金属材は、前記金属線の先端面に打ち込まれた状態で前記先端部に固定されている
、銅合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金元素添加材、銅合金材製造装置および銅合金材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅線の製造方法の1つとして、溶融した銅材(溶銅)を、水平方向を回転軸とする回転移動式鋳型に流し、凝固した銅材を圧延する方法が知られている。銅材の熱伝導性、電気伝導性、耐食性、耐摩耗性または耐熱性などの特性を変化させる目的で、銅材に銅以外の合金元素を添加して銅合金を製造する場合がある。
【0003】
特許文献1(特開2016-199798号公報)には、チタンを含み断面が円形の芯材の全周を、銅を含む被覆材で覆うことで、合金元素添加材の酸化を防ぐことが記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2002-86251号公報)には、添加合金成分の線材をアーク放電により溶融させ、溶銅に融滴添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-199798号公報
【文献】特開2002-86251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
添加する元素(合金元素)は銅に比べて融点が高く、かつ酸化し易いことが考えられ、合金元素添加材の表面が酸化していると、合金元素が銅に溶融しない虞がある。よって、合金元素の酸化を防ぐ方法として、以下の方法が考えられる。
【0007】
合金元素よりも融点が低い母合金を予め作成し、これを溶銅に添加する方法がある。しかし、母合金は加工が困難であり、長時間連続操業には不向きである。
【0008】
また、特許文献1のように、合金元素から成る芯材の全周を、合金元素よりも融点が低い他の元素から成る被覆材で覆うことが考えられる。しかし、連続操業を実現する観点から、合金元素添加材は線状であることが望ましいが、このような被覆材および芯材を長尺化することは困難であり、線状化のための加工コストが大きいという問題もある。
【0009】
また、不活性雰囲気で合金元素を溶銅に添加することも考えられる。しかし、開放系である連続鋳造装置に対し、不活性雰囲気を制御することは困難であり、合金元素が酸化する可能性を十分に低減することができない。
【0010】
本発明の目的は、合金元素の酸化を防ぎ、かつ、製造コストの低い合金元素添加材と、当該合金元素添加材を用いた銅合金材製造装置および銅合金材の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
一実施の形態である合金元素添加材は、銅よりも融点が高く、かつ銅よりも酸化物を生成する標準生成自由エネルギーが小さい第1金属から成る金属線と、第1金属よりも融点が低い第2金属から成る金属材と、を備え、金属材は、金属線の長手方向における一方の先端部に接して固定されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される一実施の形態によれば、合金元素の酸化を防ぎ、かつ、製造コストの低い合金元素添加材と、当該合金元素添加材を用いた銅合金材製造装置および銅合金材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態である合金元素添加材を使用する銅線製造装置の概略図である。
【
図2】実施の形態である合金元素添加材を使用する銅線製造装置を構成する保持炉を示す断面図である。
【
図3】本実施の形態の合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
【
図4】本実施の形態の合金元素添加材の先端部を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態の変形例1である合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態の変形例1である合金元素添加材の先端部を示す断面図である。
【
図7】実施の形態の変形例2である合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
【
図8】実施の形態の変形例2である合金元素添加材の先端部を示す断面図である。
【
図9】比較例である合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
以下の実施の形態では、例としてリング鋳型とベルトとで構成される回転移動式鋳型を備えた銅線製造装置を用いて説明を行うが、本願の合金元素添加材は、そのような銅線製造装置とは異なる銅合金材製造装置に適用することが可能である。本願では、合金元素を添加する対象である溶銅を構成する銅を、母材と呼ぶ場合がある。
【0017】
(実施の形態)
本実施の形態の合金元素添加材は、銅よりも融点が高く、かつ銅よりも酸化物を生成する標準生成自由エネルギーが小さい金属から成る金属線の先端を含む先端部に、当該金属よりも融点が低い金属材が固定されており、この金属線と金属材との接触部分を金属線の溶融の起点として利用するものである。
【0018】
<合金元素添加材、銅合金材製造装置の構造および銅合金材の製造方法>
以下に、
図1~
図4を用いて、本実施の形態の合金元素添加材、銅合金材製造装置の構造および銅合金材の製造方法について説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態の合金元素添加材を使用する銅線製造装置の概略図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る銅線製造装置10は、銅線(銅荒引線)を連続鋳造圧延するための、所謂連続鋳造圧延装置であり、銅合金材製造装置と圧延装置とにより構成されている。具体的には、銅線製造装置10は、溶解炉210と、上樋220と、保持炉230と、添加材供給部240と、下樋260と、タンディッシュ300と、注湯ノズル320と、連続鋳造機500と、熱間圧延装置620と、巻取機(コイラー)640とを有している。
【0020】
溶解炉210は、銅原料を加熱して溶融し、溶銅110を生成するものであり、例えば、炉本体と、炉本体の下部に設けられるバーナーとを有している。銅原料が炉本体に投入され、バーナーで加熱されることで、溶銅110が連続的に生成される。銅材料としては、例えば、無酸素銅またはタフピッチ銅などを用いることができる。
【0021】
上樋220は、溶解炉210の下流側に設けられ、溶解炉210と保持炉230との間を連結し、溶解炉210で生成された溶銅110を下流側の保持炉230に移送するものである。
【0022】
保持炉230は、上樋220の下流側に設けられ、上樋220から移送される溶銅110を所定の温度で加熱して一時的に貯留するものである。また、保持炉230は、溶銅110を所定の温度に保持したまま、所定量の溶銅110を下樋260に移送するものである。保持炉230には、合金元素からなる添加材を溶銅110へ供給する(添加する)ための添加材供給部240が接続されている。添加材供給部240は、保持炉230内の溶銅110に、所定の合金元素を連続的に供給するものである。溶銅110に添加される合金元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)またはイットリウム(Y)などが挙げられる。つまり、好ましくは、これらのうちの少なくとも1つから成る合金元素が、溶銅110に添加される。
【0023】
下樋260は、保持炉230の下流側に設けられ、保持炉230から移送される溶銅110を下流側のタンディッシュ300に移送するものである。なお、添加材供給部240は、保持炉230に接続される態様に限定されず、例えば下樋260またはタンディッシュ300に接続される態様であってもよい。
【0024】
タンディッシュ300は、下樋260の下流側に設けられ、下樋260から移送される溶銅110を一時的に貯留し、連続鋳造機500に対して所定量の溶銅110を連続的に供給するものである。このようにして、連続鋳造機500に対して供給するための溶銅110を用意する。
【0025】
タンディッシュ300の下流側には、貯留する溶銅110を流出させるための注湯ノズル320が接続されている。注湯ノズル320は、例えば、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物等の耐火物で形成されている。タンディッシュ300に溜まった溶銅110は、注湯ノズル320を介して、連続鋳造機500へと供給される。
【0026】
連続鋳造機500は、所謂ベルトホイール式の連続鋳造を行う装置であり、例えば、リング鋳型1と、ベルト3とを有している。円筒状のリング鋳型1は、外周に溝を有している。リング鋳型1は銅線の製造工程において回転し、その回転軸は水平面に沿っている。円筒状のリング鋳型1の内側には、リング鋳型1を保持する円柱状の保持部5が配置されている。リング鋳型1は保持部5に固定されており、保持部5と共に回転する。なお、リング鋳型1は円柱状または円盤状であってもよい。
【0027】
また、ベルト3は、リング鋳型1の外周面の一部に接触しながら周回移動するよう構成されている。リング鋳型1の溝とベルト3との間の空間に、タンディッシュ300から流出される溶銅110が注入される。つまり、タンディッシュ300および注湯ノズル320は、リング鋳型1の溝内に溶銅110を供給する供給部330である。また、リング鋳型1およびベルト3は、例えば冷却水により冷却されている。これにより、溶銅110が冷却・固化(凝固)されて、棒状の鋳造バー(鋳造材)120が連続的に鋳造される。
【0028】
熱間圧延装置620は、連続鋳造機500の下流側(鋳造バー排出側)に設けられ、連続鋳造機500から移送される鋳造バー120を連続的に圧延するものである。すなわち、熱間圧延装置620を用いて鋳造バー120をリング鋳型1の溝内から引き出し、連続鋳造機500外へ移送する。鋳造バー120が熱間圧延装置620によって圧延されて形成された圧延材を、熱間圧延装置620と巻取機640との間において表面清浄化処理することで、銅線(銅荒引線、素線)130が成形加工される。
【0029】
巻取機(コイラー)640は、熱間圧延装置620の下流側(銅合金材排出側)に設けられ、熱間圧延装置620から表面清浄化処理装置を経て移送される銅線130を巻き取るものである。以上の工程により、銅線(銅荒引線)130を形成することができる。
【0030】
溶銅110を流す流路である樋250(
図2参照)と、当該流路において合金元素添加材を溶銅110に添加する添加部と、添加部の下流に位置し、溶銅110を凝固させる鋳造部とは、銅合金材製造装置を構成している。
【0031】
続いて、
図2を用いて、合金元素が溶銅110に添加される箇所の具体的な構造について説明する。
図2は、
図1に示す保持炉230を拡大して示す断面図である。
図2に示す領域では、溶銅110中に合金元素添加材8が添加される、添加部である。
【0032】
図2に示すように、保持炉230は、溶銅110の流路である樋250を有している。樋250は、
図1に示す上樋220と下樋260との間に連続的に接続された流路である。樋250の上部を塞ぐように、耐熱板2が設けられている。耐熱板2は、例えばSiC(炭化ケイ素)ボードである。連続鋳造機の動作時において、樋250内には溶銅110が、
図2の左側から右側に向かって流れる。図示はしていないが耐熱板2の下面にはヒータが取り付けられており、当該ヒータにより、樋250内の溶銅110に対し加熱を行う。
【0033】
耐熱板2の上面には、樋250および耐熱板2のそれぞれの上方に位置する合金元素添加材導入管6が接続されている。合金元素添加材導入管6は、例えば、耐熱板2を貫通しており、合金元素添加材導入管6の内部と、樋250および耐熱板2により囲まれた空間とは、互いに接続されている。合金元素添加材導入管6は、合金元素添加材8を溶銅110中に押し込むための導入路である。合金元素添加材導入管6の両端部のうち、耐熱板2に接続された端部と反対側の端部は、
図1に示す添加材供給部240に接続されている。添加材供給部240からは、ワイヤ状(線状)の合金元素添加材8が溶銅110中に送られる。これにより、合金元素添加材8が溶銅110中で溶融することで、合金元素添加材8を構成する合金元素が、溶銅110に添加される。
【0034】
合金元素添加材8が溶銅110中に浸漬する箇所において、樋250は下方に膨らんだ領域を有しており、当該領域には溶銅110が一時的に溜まる。当該領域において、耐熱板2の上面側から溶銅110の途中深さまで達するノズル(図示しない)の下端(先端)からは、溶銅110内に不活性ガス(例えばアルゴン(Ar)ガス)が供給される。また、樋250および耐熱板2により囲まれた空間であって、溶銅110上の空間には、他の流路からも不活性ガス(例えばアルゴン(Ar)ガス)が供給される。すなわち、例えば、合金元素添加材導入管6を介して、当該空間に合金元素添加材8とともに不活性ガスが供給される。
【0035】
当該不活性ガスは、合金元素添加材8を構成する合金元素が酸化し、これにより生成された酸化被膜に起因して、合金元素が溶銅110内で溶融せずに残ることを防ぐために、樋250内に供給されるものである。このように、添加部では、不活性ガスを含む雰囲気において、合金元素添加材8を溶銅110に添加する。
【0036】
次に、合金元素添加材8の詳細な構造について、
図3および
図4を用いて説明する。
図3は、本実施の形態の合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
図4は、本実施の形態の合金元素添加材の先端部を示す断面図である。ここでは、ワイヤ状の物体の先端およびその先端面と、当該先端の近傍の部分と含む箇所を先端部と呼ぶ。
【0037】
図3および
図4に示すように、合金元素添加材8は、溶銅110に添加する合金元素から成る合金元素ワイヤ(金属線)9と、合金元素ワイヤ9の先端部に固定された金属材(被覆材、接続材、密着材)11aとにより構成されている。
【0038】
合金元素ワイヤ9は、母材である銅よりも高い融点を有し、母材である銅よりも酸化物を生成する標準生成自由エネルギーが小さい性質を有する金属(第1金属)から成る。合金元素ワイヤ9を構成する金属、つまり、溶銅110に添加する合金元素は、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)またはイットリウム(Y)などである。合金元素ワイヤ9は、例えば、これらの金属のうちの少なくとも1つから成る。すなわち、第1金属は、上述した合金元素のうちの1種以上を含む合金から成る。
【0039】
合金元素ワイヤ9は、断面形状が円形である線状の線材である。延在する線状の合金元素ワイヤ9は、合金元素ワイヤ9の長手方向に並ぶ第1部分1Aと第2部分2Aとを有し、第1部分1Aは、合金元素ワイヤ9の長手方向における一方の先端およびその先端面を含む先端部である。第2部分2Aは、一方の先端部(第1部分1A)以外の部分であって、合金元素ワイヤ9の大部分を占める延在部分である。
【0040】
第1部分1Aは、外形が円筒状などから成る形状を有し、かつその内部に第1部分1Aを嵌入する穴を有する金属材11aによって被覆されている。金属材11aの穴は、その直径が第1部分1Aの径方向における直径よりも大きい。第1部分1Aは、金属材11aの穴の内部に嵌入された状態にされることにより、第1部分1Aが金属材11aに被覆された状態となる。なお、第1部分1Aは、合金元素ワイヤ9のうち、合金元素ワイヤ9の一方の先端から10cm以内の範囲の部分である。言い換えれば、第1部分1Aの全体は、合金元素ワイヤ9の一方の先端から10cm以内に位置する。合金元素ワイヤ9の一方の先端から10cm以内の範囲よりも大きい範囲を金属材11aによって被覆しようとすると、合金元素添加材8の製造に要するコストが増大する。このため、金属材11aを合金元素ワイヤ9に接続させる領域である第1部分1Aは、合金元素ワイヤ9の先端から10cm以内の範囲であることが望ましい。したがって、第2部分2Aは、金属材11aに接しておらず、金属材11aから露出している。
【0041】
金属材11aは、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aの少なくとも一部に対して密着している。本願でいう密着とは、2つの物体が、相互間に別の部材または気体の層などを介すことなく、互いに直接接していることを指す。具体的には、金属材11aは、第1部分1Aにおける合金元素ワイヤ9の外周面を被覆しており、金属材11aの外部から工具などを用いて圧着される。これにより、金属材11aは、合金元素ワイヤ9の一方の先端を含む第1部分1Aに直接接しており、直接接した部分において、金属材11aが第1部分1Aに対して固定されている。すなわち、金属材11aは、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aを被覆した状態で第1部分1Aの少なくとも一部に密着しており、密着した部分において、金属材11aが第1部分1Aに対して固定されている。
【0042】
金属材11aが合金元素ワイヤ9に圧着された箇所では、金属材11aを介して外部から圧力が加えられたことにより、合金元素ワイヤ9が変形している。金属材11aが合金元素ワイヤ9に圧着された箇所以外では、第1部分1Aであっても、金属材11aと合金元素ワイヤ9とが互いに離間していることが考えられる。
【0043】
金属材11aは、合金元素ワイヤ9を構成する合金元素よりも融点が低い材料から成る。例えば、金属材11aは、母材と同じ無酸素銅やタフピッチ銅で構成される銅から成る。
【0044】
ここでは、合金元素ワイヤ9の先端を含む第1部分1Aは、金属材11aにより、第1部分1Aにおける合金元素ワイヤ9の外周面と連続的に覆われている。合金元素ワイヤ9の先端部に酸化膜が生成され、合金元素ワイヤ9が溶銅110中に溶融しなくなる可能性を低減する観点で、合金元素ワイヤ9の先端部は、金属材11aにより覆われていることが望ましい。
【0045】
すなわち、金属材11aは、第1部分1Aの径方向の外周面のみでなく、第1部分1Aの長手方向の先端面も覆っている。ここでは、第1部分1Aの外周面および先端面は、金属材11aにより連続的に覆われている。このように、金属材11aの一部は、第1部分1Aの長手方向の先端面よりも外側に設けられている。
【0046】
図3に示す合金元素添加材8を、
図2に示す溶銅(母材)110中に浸漬すると、金属材11aが溶融するとともに、金属材11aが接する合金元素ワイヤの表面が起点となって、合金元素ワイヤ9が溶銅110中に溶融していく。これは、母材よりも融点が高い合金元素を添加する場合であっても、合金元素ワイヤ9の表面のうち、合金元素と母材とが密着している面は、母材の融点以下の温度で溶融が開始するためである。
【0047】
その後は、合金元素添加材8を溶銅110中に送り続けることで、金属材11aが無くても、溶銅110中への合金元素添加材8(合金元素ワイヤ9)の溶融が続く。すなわち、合金元素添加材8に溶融の起点が存在すれば、溶融は進行し続ける。このようにして、流れる溶銅110に対して合金元素を添加し続けることができる。
【0048】
図4では、合金元素ワイヤ9の先端面は金属材11aと離間している。ただし、合金元素添加材8を溶銅110中に送り込む際には、合金元素ワイヤ9の部分のうち、当該先端面が最初に溶銅110に接するため、合金元素ワイヤ9を効率よく溶融させる観点から、合金元素ワイヤ9の先端面は金属材11aに接していることが好ましい。
【0049】
また、ここでは合金元素ワイヤ9の断面形状が円形である場合について説明したが、当該断面形状は、円形以外の形状(例えば多角形など)であってもよい。
【0050】
<本実施の形態の効果>
銅合金材を製造する際に、溶銅に添加する合金元素は、銅に比べて融点が高く、かつ、銅よりも酸化し易いことが考えられる。特に、樋内の流路を流れる溶銅の上方は非常に温度が高いため、そのような環境では、合金元素添加材の表面に酸化膜が生成され易くなる。合金元素添加材の表面が酸化していると、合金元素添加材を溶銅内に供給しても、合金元素が銅に溶融せずに残る問題がある。
【0051】
合金元素の酸化を防ぐ方法としては、合金元素よりも融点が低い母合金を予め用意し、これを溶銅に添加する方法がある。母合金は脆く、引き延ばすような加工が困難であるため、合金元素添加材の供給方法としては、例えば、母合金から成るブロックを崩して溶銅に投入し続けることが考えられる。しかし、銅中の合金元素濃度が変動することのないよう、溶銅に添加する合金元素添加材の単位時間当たりの供給量は精密に管理する必要がある。そのため、母合金を用いる場合、上記ブロックを崩して得た破材の質量を測った上で、溶銅に連続的に一定量供給する必要があるが、このような方法で銅中の合金元素濃度の変動を防ぐことは困難である。したがって、母合金を用いた場合、均一に合金元素添加材を供給することは困難であり、長時間連続操業には不向きである。
【0052】
そこで、比較例として
図9に示すように、芯材である合金元素ワイヤ9の全周を、合金元素よりも融点が低い他の元素(例えば母材と同じ銅)から成る金属材(被覆材)11dで覆うことが考えられる。すなわち、比較例では、第1部分1Aのみでなく、第2部分2Aの合金元素ワイヤ9の外周も、金属材11dにより覆われている。連続操業を実現する観点から、合金元素添加材は線状であることが望ましい。すなわち、線状の合金元素添加材であれば、上述したように母合金を崩した破材を用いる場合に比べ、ブロックを崩す工程および合金元素添加材を測定し続ける工程が必要なく、溶銅中に連続的に添加する合金元素添加材の量を容易に制御できる。ただし、
図9に示すような金属材11dに覆われた芯材を長尺化するためには、大きな加工コストを要する。
【0053】
また、不活性雰囲気で合金元素を溶銅に添加することも考えられる。しかし、開放系である連続鋳造装置において、極端に酸素濃度が低い不活性雰囲気を維持することは困難であり、合金元素が酸化する可能性を十分に低減することができない。
【0054】
これに対し、本発明者らによる調査の結果、銅よりも融点が高い合金元素から成る合金元素ワイヤは、先端の一部が溶銅内で溶け始めれば、溶銅内に送られることで、その溶融箇所を起点として順に溶融していくことが判明した。そこで、本発明者らは、合金元素ワイヤの先端に、合金元素よりも融点が低い材料を密着させることで、溶融の起点を設け、これにより、酸化による合金元素添加材の残留を防ぎ、かつ、製造コストの低い合金元素添加材を実現できることを見出した。
【0055】
図3および
図4に示すように、本実施の形態の合金元素添加材8は、合金元素ワイヤ9の先端部を金属材11aにより覆い、金属材11aを合金元素ワイヤ9に対してかしめることで、金属材11aを合金元素ワイヤ9に圧着している。すなわち、金属材11aは、合金元素ワイヤ9の先端部の外周面の少なくとも一部に対してかしめられている。これにより、金属材11aは合金元素ワイヤ9の先端を含む先端部に固定された状態となる。したがって、金属材11aが接する合金元素ワイヤの先端部は、合金元素の酸化膜が生成されることを防ぐことができる。金属材11aを合金元素ワイヤ9に対してかしめる場合は、工具を用いて金属材11aおよび合金元素ワイヤ9に対し2方向から圧力を加えることが考えられる。なお、使用する工具によっては、例えば合金元素ワイヤ9の外周の6方向から圧力を加えてかしめることも可能である。
【0056】
また、
図9に示す比較例の合金元素添加材は、合金元素ワイヤ9の長手方向の先端面が金属材11dから露出している。このため、比較例では、合金元素添加材を溶銅に浸漬する際、合金元素ワイヤ9の先端面が酸化し、合金元素ワイヤ9が溶融し難くなる虞がある。これに対し、
図4に示すように、本実施の形態の金属材11aの一部は、第1部分1Aの長手方向の先端面よりも外側に設けられている。具体的には、金属材11aが先端部に直接接して固定されており、金属材11aが合金元素ワイヤ9の先端面を被覆するように、その先端部を被覆している。これにより、
図4に示す合金元素添加材8は、当該先端面の酸化を防ぐことができる。
【0057】
合金元素添加材8を溶銅(母材)110中に浸漬すると、金属材11aが溶融するとともに、金属材11aが接する合金元素ワイヤの表面が起点となって、合金元素ワイヤ9が溶銅110中に溶融していく。その後は、金属材11aが無くても溶銅110中への合金元素添加材8(合金元素ワイヤ9)の溶融が続く。
【0058】
よって、合金元素ワイヤ9の先端部(第1部分1A)に金属材11aを固定させることで、合金元素の酸化に起因する、合金元素添加材の溶融不良を防ぐことができる。
【0059】
また、合金元素添加材を使用する直前に合金元素ワイヤの先端部に金属材を取り付ける加工を行うことで、合金元素添加材を用意することができる。すなわち、予め金属材が接続された合金元素ワイヤを用意する必要がなく、銅合金材製造の現場における操業前の簡易な加工により合金元素添加材を形成することができる。また、
図9に示す比較例のように、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aおよび第2部分2Aを含む全周を金属材11dで覆う場合に比べて、非常に低いコストで合金元素添加材を用意することができる。
【0060】
したがって、合金元素添加材を製造するための大規模な装置および工程は不要であり、短時間かつ低コストで合金元素添加材を用意することができる。また、合金元素ワイヤの先端部に金属材を取り付けるだけでよいので、合金元素ワイヤの一部を破棄することなどによるロスを低減することができ、これにより合金元素添加材および銅合金材のそれぞれの製造コストを低減することができる。
【0061】
<変形例1>
図5および
図6に示すように、合金元素ワイヤ9は、金属材11bのねじ穴にねじ込まれていてもよい。
図5は、本変形例の合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
図6は、本変形例の合金元素添加材の先端部を示す断面図である。
【0062】
ここで、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aを覆う金属材11bが合金元素ワイヤ9に密着している点は、
図3および
図4に示す構成と同様である。ただし、金属材11bは、内側に凹凸が形成された穴(凹部、孔部)を有しており、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aは、その穴に嵌入(螺合)されている。
【0063】
例えば、金属材11bに形成された穴の内側の表面であって、第1部分1Aの径方向における表面には、螺旋状のねじ山およびねじ溝が形成されている。合金元素ワイヤ9の第1部分1Aが当該穴に嵌入(螺合)される前の時点では、当該穴の最小の直径、つまり、ねじ山の頂点により構成される円の、第1部分1Aの径方向における直径は、第1部分1Aの短手方向の直径よりも小さい。このため、第1部分1Aが当該穴にねじ込む際には、第1部分1Aまたは金属材11bのねじ山のいずれか一方または両方が変形する。これにより、第1部分1Aと金属材11bとは、互いに密着し、固定される。
【0064】
本変形例では、
図1~
図4を用いて説明した実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、金属材11bが溶銅110内で溶融することで、合金元素ワイヤ9と金属材11bとの接触箇所が起点となって合金元素ワイヤ9が溶融していく。これにより、酸化による合金元素添加材の残留を防ぎ、かつ、製造コストの低い合金元素添加材8を実現できる。
【0065】
また、本変形例の合金元素添加材8は、ねじ穴を有する金属材11bに合金元素ワイヤ9の先端部をねじ込むことで構成されているため、工具を使用せず人の手で簡便に作成することができる。
【0066】
図6では、合金元素ワイヤ9の先端面は金属材11bと離間している。ただし、合金元素ワイヤ9を効率よく溶融させる観点から、合金元素ワイヤ9の先端面は金属材11bに接していることが好ましい。
【0067】
<変形例2>
図7および
図8に示すように、合金元素添加材8は、合金元素ワイヤ9の先端に、くさび状の金属材11cを打ち込むことで構成されていてもよい。
図7は、本変形例の合金元素添加材の先端部を示す斜視図である。
図8は、本変形例の合金元素添加材の先端部を示す断面図である。
【0068】
ここで、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aが、金属材11cに密着している点は、
図3~
図6に示す構成と同様である。ただし、金属材11cは、合金元素ワイヤ9の先端部の外周面を被覆しておらず、例えば合金元素ワイヤ9の延在方向において、合金元素ワイヤ9の先端部の先端面から合金元素ワイヤ9内に打ち込まれた状態で、合金元素ワイヤ9の先端部に対し固定されている。
【0069】
言い換えれば、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aは、その先端が金属材11cによって2方向に裂けている。つまり、合金元素ワイヤ9の第1部分1Aは、第3部分3A、第4部分4A、第5部分5Aから成り、第4部分4Aと第5部分5Aとは、第3部分3Aに接続されており、互いに離間する第4部分4Aと第5部分5Aとの間において、合金元素ワイヤ9に金属材11cが密着している。
【0070】
本変形例の合金元素添加材8は、線状の合金元素ワイヤ9の先端面に、鋭利な端部を有するくさび状の金属材11cの当該端部を打ち込むことで形成することができる。この打ち込みの力により合金元素ワイヤ9の先端が2方向に裂け、金属材11cは合金元素ワイヤ9の先端部に圧着される。よって、第1部分1Aと金属材11cとは、互いに密着し、固定される。
【0071】
本変形例では、
図1~
図4を用いて説明した実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、金属材11cが溶銅110内で溶融することで、合金元素ワイヤ9と金属材11cとの接触箇所が起点となって合金元素ワイヤ9が溶融していく。これにより、酸化による合金元素添加材の残留を防ぎ、かつ、製造コストの低い合金元素添加材8を実現できる。
【0072】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0073】
1 リング鋳型
2 耐熱板
3 ベルト
5 保持部
6 合金元素添加材導入管
8 合金元素添加材
9 合金元素ワイヤ(金属線)
11a、11b、11c、11d 金属材
110 溶銅
120 鋳造バー
130 銅線
300 タンディッシュ
320 注湯ノズル
330 供給部
500 連続鋳造機
620 熱間圧延装置