(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】潤滑油組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 141/00 20060101AFI20231114BHJP
C10M 125/02 20060101ALN20231114BHJP
C10M 127/02 20060101ALN20231114BHJP
C10M 127/04 20060101ALN20231114BHJP
C10M 127/06 20060101ALN20231114BHJP
C10M 131/04 20060101ALN20231114BHJP
C10M 131/06 20060101ALN20231114BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20231114BHJP
C10M 129/06 20060101ALN20231114BHJP
C10M 129/70 20060101ALN20231114BHJP
C10M 133/10 20060101ALN20231114BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20231114BHJP
C10M 129/16 20060101ALN20231114BHJP
C10M 135/22 20060101ALN20231114BHJP
C10M 135/28 20060101ALN20231114BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20231114BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20231114BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
C10M141/00
C10M125/02
C10M127/02
C10M127/04
C10M127/06
C10M131/04
C10M131/06
C10M129/10
C10M129/06
C10M129/70
C10M133/10
C10M133/12
C10M129/16
C10M135/22
C10M135/28
C10N70:00
C10N30:06
C10N40:04
C10N40:30
C10N40:08
C10N40:22
C10N40:24
C10N40:20 A
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2020563097
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049138
(87)【国際公開番号】W WO2020137651
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018243901
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦夫
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-266501(JP,A)
【文献】特開2004-231739(JP,A)
【文献】特開2017-101169(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105062618(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
フラーレンと、
潤滑調整剤と、を含
む潤滑油組成物であって、
前記潤滑調整剤は、ヒドリンダン、ナフタレン、1,2,3,
4-テトラヒドロナフタレン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、デカヒドロナフタレン、シクロドデカトリエン、シクロドデカン、ドデカヒドロフルオレン、アントラセン、フェナントラセン、9,10-ジヒドロアントラセン、ヘキサデカヒドロピレン、及びそれらの少なくとも1個の水素原子が置換基によって置換された化合物から選ばれる少なくとも一種であ
り、
前記フラーレンを、前記潤滑調整剤100質量部に対して、0.001~1.000質量部を含有する潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑調整剤の置換基は、
ハロゲン原子、
ヒドロキシ基、
カルボキシ基、
アミノ基、
炭素数1~20の炭化水素基、
炭素数1~20のエーテル結合を有する基、
炭素数1~20のエステル結合を有する基、
炭素数1~20のジスルフィド結合を有する基、及び
ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有する炭素数1~20の基、
から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
炭素数1~20のエーテル結合を有する前記基、炭素数1~20のエステル結合を有する前記基、及び炭素数1~20のジスルフィド結合を有する前記基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有する請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑調整剤における置換基の総分子量は、前記潤滑調整剤の分子量の60%以下である請求項1~3
のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記基油は合成油である請求項1~4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記フラーレンは、C
60を含む請求項1~5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記潤滑調整剤を、基油100質量部に対し、1~100質量部を含有する請求項1~6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の潤滑油組成物の製造方法であって、
基油と、潤滑調整剤と、前記潤滑調整剤100質量部に対して0.001~1.000質量部のフラーレンと、を混合する混合工程を有する潤滑油組成物の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記混合工程後に、熱処理工程を含む請求項8に記載の潤滑油組成物の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理工程における熱処理温度は、100~250℃である請求項9に記載の潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速化、高効率化、高圧化及び小型化に伴い、自動車、工業機械等に使用される潤滑油には、高圧、高速、高荷重下で使用しても長時間にわたって充分に機械寿命を保証できる優れた潤滑性能が要求されている。このような要求に応じて、耐摩耗防止剤、極圧剤、潤滑性向上剤等の添加により、潤滑油組成物の潤滑特性を改善することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐摩耗性を向上するため、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を配合する潤滑油組成物が開示されている。しかし、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は高温・高圧化での熱酸化安定性、及び水の混入による加水分解安定性が充分でないという問題がある。また、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は硫黄を含むため、酸化されると大気汚染の原因となる硫黄酸化物(SOx)が生成する。環境負荷の低い潤滑油組成物の開発が急務となっている。
【0004】
また、特許文献2には、有機モリブデン摩擦調整剤と表面活性硫黄ドナー成分を含む潤滑剤組成物が開示されている。有機モリブデン摩擦調整剤としてモリブデンジチオカーバメートが使用されているが、モリブデンジチオカーバメートの摩擦低減効果は未だ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-123240号公報
【文献】特表2014-513173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、以上の事情に鑑みてなされたものであり、十分な耐摩耗性を有する潤滑油組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の[1]~[10]を含む。
[1] 基油と、フラーレンと、潤滑調整剤と、を含み、前記潤滑調整剤は、ヒドリンダン、ナフタレン、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、デカヒドロナフタレン、シクロドデカトリエン、シクロドデカン、ドデカヒドロフルオレン、アントラセン、フェナントラセン、9,10-ジヒドロアントラセン、ヘキサデカヒドロピレン、及びそれらの少なくとも1個の水素原子が置換基によって置換された化合物から選ばれる少なくとも一種である潤滑油組成物。
[2] 前記潤滑調整剤の置換基は、前記潤滑調整剤の置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のエーテル結合を有する基、炭素数1~20のエステル結合を有する基、炭素数1~20のジスルフィド結合を有する基、及びハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有する炭素数1~20の基、から選ばれる少なくとも1種である前項[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 炭素数1~20のエーテル結合を有する前記基、炭素数1~20のエステル結合を有する前記基、及び炭素数1~20のジスルフィド結合を有する前記基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有する前項[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記潤滑調整剤における置換基の総分子量は、前記潤滑調整剤の分子量の60%以下である前項[1]~[3]に記載の潤滑油組成物。
[5] 前記基油は合成油である前項[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6] 前記フラーレンは、C60を含む前項[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7] 前記潤滑調整剤を、基油100質量部に対し、1~100質量部を含有する前項[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8] 前記フラーレンを、前記潤滑調整剤100質量部に対して、0.001~1.000質量部を含有する前項[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[9] 基油と、フラーレンと、潤滑調整剤と、を混合する混合工程を有する前項[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物の製造方法。
[10] さらに、前記混合工程後に、熱処理工程を含む前項[9]に記載の潤滑油組成物の製造方法。
[11] 前記熱処理工程における熱処理温度は、100~250℃である前項[10]に記載の潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐摩耗性が優れた潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を挙げて、詳細に説明する。なお、本発明はその要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0010】
本実施形態で得られる潤滑油組成物は、基油と、フラーレンと、潤滑調整剤と、を含む。前記潤滑調整剤は、ヒドリンダン、ナフタレン、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、デカヒドロナフタレン、シクロドデカトリエン、シクロドデカン、ドデカヒドロフルオレン、アントラセン、フェナントラセン、9,10-ジヒドロアントラセン、ヘキサデカヒドロピレン、及びそれらの少なくとも1個の水素原子が置換基によって置換された化合物から選ばれる少なくとも一種である。
(基油)
本実施形態に係る潤滑油組成物の基油は、特に限定されるものではなく、通常潤滑油の基油として広く使用されている鉱油及び合成油が好適に用いられる。
【0011】
鉱油として、例えば、原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製法を適宜組合せて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が例示できる。合成油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等が挙げられ、より具体的には、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ジエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルファオレフィン、ポリアルキルビニールエーテル、ポリブテン、イソパラフィン、オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジイソデシルアジペート、モノエステル、二塩基酸エステル、三塩基酸エステル、ポリオールエステル系(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ジアルキルジフェニルエーテル、アルキルジフェニルサルファイド、ポリフェニルエーテル、シリコーン潤滑油(ジメチルシリコーン等)、パーフルオロポリエーテル等が好適に用いられる。
【0012】
本実施形態に係る潤滑油組成物の基油として、上記の鉱油又は合成油を一種類単独で使用しても良く、それらの中から選ばれる2種以上のものを任意の割合で混合して使用してもよいが、耐熱性、耐酸化性等を考慮して、合成油を含むことが好ましく、合成油からなることがより好ましい。また、合成油の中で、よく使われるポリ-α-オレフィン、ポリオールエステル系を使用することがさらに好ましい。
(フラーレン)
本実施形態に係る潤滑油組成物に含まれるフラーレンは、構造や製造法が特に限定されず、種々のものを用いることができる。フラーレンとしては、例えば、比較的入手しやすいC60やC70、さらに高次のフラーレン、あるいはそれらの混合物が挙げられる。フラーレンの中でも、基油への溶解性の高さの点から、C60及びC70が好ましく、潤滑油への着色が少ない点から、C60がより好ましい。コストを低減するため、2種類以上のフラーレンを有するミックスフラーレンを用いることもできるが、C60を含み、そして、C60の含有量は50質量%以上であるものが好ましい。
(潤滑調整剤)
本実施形態に係る潤滑油組成物の潤滑調整剤は、ヒドリンダン、ナフタレン、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、デカヒドロナフタレン、シクロドデカトリエン、シクロドデカン、ドデカヒドロフルオレン、アントラセン、フェナントラセン、9,10-ジヒドロアントラセン、ヘキサデカヒドロピレン、または、それらの少なくとも1個の水素原子が後述する置換基で置き換えてなるものから選ばれる少なくとも一種である。また、ヒドリンダン、ナフタレン、1,2,3,4,-テトラヒドロナフタレン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、デカヒドロナフタレン、シクロドデカトリエン、シクロドデカン、ドデカヒドロフルオレン、アントラセン、フェナントラセン、9,10-ジヒドロアントラセン、ヘキサデカヒドロピレンの水素原子が2個以上の置換基で置換される場合、それらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0013】
上記の潤滑調整剤は、フラーレンと相互作用する推定され、この相互作用により、潤滑油組成物の耐摩耗性が向上されると考えられる。また、潤滑油組成物のラメラ長を延長させる効果も期待できる。ラメラ長が延長されると、潤滑油組成物の成膜性が向上され、少量の潤滑油組成物で油膜ができるとともに、潤滑油組成物の漏洩防止効果も得られる。なお、ラメラ長が長いほど、油膜が切れにくくなり、耐焼付性が高まる。
【0014】
前記潤滑調整剤が置換基を有する場合、置換基として、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のエーテル結合を有する基、炭素数1~20のエステル結合を有する基、炭素数1~20のジスルフィド結合を有する基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有する炭素数1~20の基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有し、エーテル結合を有する炭素数1~20の基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有し、エステル結合を有する炭素数1~20の基、及びハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアミノ基の少なくとも1つを有し、ジスルフィド結合を有する炭素数1~20の基が挙げられるが、潤滑調整剤の基油への溶解度を向上させる観点から、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のエーテル結合を有する基、炭素数1~10のエステル結合を有する基であることが好ましい。
【0015】
また、潤滑調整剤分子に占める置換基の総分子量の割合は大きくなると、フラーレンと潤滑調整剤との相互作用が弱くなると考えられ、潤滑調整剤分子の分子量に対して、置換基の総分子量の割合は、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態に係る潤滑油組成物における潤滑調整剤の含有量は、基油100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、2~50質量部であることがより好ましく、5~25質量部であることがさらに好ましい。潤滑調整剤の含有量は上記範囲内であれば、フラーレンとの相互作用により、潤滑油組成物の耐摩耗性、耐焼付性を改善させる同時に、潤滑油組成物の引火点、動粘度等の物性の変化を抑えることができる。
【0017】
本実施形態に係る潤滑油組成物のフラーレンの含有量は、潤滑調整剤100質量部に対して、好ましくは0.001~1.000質量部であり、より好ましくは0.001~0.500質量部であり、さらに好ましいくは0.005~0.100質量部である。上記範囲内であれば、フラーレンと潤滑調整剤の相互作用により、潤滑油組成物の耐摩耗性、耐焼付性を改善するとともに、フラーレンの凝集粒子がなく或いは少なく、フラーレンの凝集粒子により摩擦係数上昇の虞が少ない。
(添加剤)
本実施形態に係る潤滑油組成物は、フラーレンと潤滑調整剤以外にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有することができる。本実施形態の潤滑油組成物に配合する添加剤は、特に限定されない。添加剤としては、例えば、市販の酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、流動点降下剤、腐食防止剤、錆び止め剤、抗乳化剤、消泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
より具体的に、例えば、酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)、3-アリールベンゾフラン-2-オン(ヒドロキシカルボン酸の分子内環状エステル)、フェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。粘度指数向上剤としては、例えば、ポリアルキルスチレン、スチレン-ジエンコポリマーの水素化物等が挙げられる。清浄分散剤としては、ベンジルアミンコハク酸誘導体、アルキルフェノールアミン類等が挙げられる。流動点降下剤としては、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン-フェノール縮合物、ポリアルキルスチレン系等が挙げられる。腐食防止剤として、ジチオリン酸亜鉛、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、2,5-ジアルキルメルカプト-1,3,4-チアジアゾール等が挙げられる。錆び止め剤として、カルボン酸、スルホネート、リン酸塩、アルコール等が挙げられる。抗乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。消泡剤として、ポリメチルシロキサン、シリケート有機フッ素化合物、金属石鹸、脂肪酸エステル、リン酸エステル、高級アルコール、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
(製造方法)
本実施形態に係る潤滑油組成物の製造方法は、基油と、フラーレンと、潤滑調整剤とを、混合する工程を含む。混合順番は特に限定されなく、フラーレンと、潤滑調整剤を同時に基油に加えて、混合してもよく、フラーレンを潤滑調整剤と混合した後に、混合物を基油に添加して混合してもよい。混合方法としては、スターラー、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミルなどを用い、室温付近または必要に応じて加熱しながら1時間~48時間の攪拌を施すことが挙げられる。この混合工程により、本実施形態に係る潤滑油組成物を得ることができる。
【0019】
本実施形態に係る潤滑油組成物の製造方法は、さらに、混合工程後、熱処理工程を有することが好ましい。潤滑油組成物の酸化を防止するため、低酸素雰囲気又は不活性ガス素雰囲気下で、熱処理工程を実施することがより好ましい。低酸素雰囲気における酸素ガスの濃度は、1%体積以下であり、好ましくは0.5%体積以下である。熱処理工程の一例として、混合工程で得た潤滑油組成物を気密可能なステンレス等の容器内に収容した後、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで置換し、1~48時間加熱処理することが挙げられる。熱処理温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。この熱処理により、フラーレンと潤滑調整剤との相互作用が強くなると推定され、潤滑油組成物の耐摩耗性及耐焼付性が更に向上される。
【0020】
なお、上記の工程により得た潤滑油組成物の中に、原料由来の不溶物および製造過程中で混入した不溶物等の固体物が存在する可能性がある。これらの固体物の存在により、摩擦係数が上昇する虞があるため、混合工程後、又は熱処理工程後に、固体物を除去するための工程を設けてもよい。除去方法として、濾過による除去方法、遠心分離による除去方法、それらの除去方法の組み合わせなどを挙げることができる。
(用途)
本実施形態に係る潤滑油組成物は、工業用ギヤ油;油圧作動油;圧縮機油;冷凍機油;切削油;圧延油、プレス油、鍛造油、絞り加工油、引き抜き油、打ち抜き油等の塑性加工油;熱処理油、放電加工油等の金属加工油;すべり案内面油;軸受け油;錆止め油;熱媒体油等の各種用途に使用することができる。
【0021】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(NH-C8の合成)
デカヒドロ-2-ナフトール150g(東京化成工業(株)製)に、ヨウ化カリウム200g、リン酸100gを加え、100℃で3時間攪拌の後、カラムクロマトグラフィー法により、デカヒドロ-2-ヨウ化ナフタレンを分離した。得たデカヒドロ-2-ヨウ化ナフタレンを、トルエン200gに加え、-20℃まで冷却して、金属マグネシウム30gを添加し、3時間攪拌して溶液を得た。得た溶液に1-ヨードオクタン(東京化成工業(株)製)160gを加え、25℃で12時間攪拌した後、蒸留法により、下記の式(1)で示すデカヒドロ-2-オクチルナフタレン(NH-C8)を得た。得たNH-C8の置換基の分子量は113で、分子全体の分子量(251)の45%である。
【0023】
【化1】
(NP-C5C5の合成)
2,6-ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業(株)製)75gに、ヨウ化カリウム200g、リン酸100gを加え、100℃で3時間攪拌の後、カラムクロマトグラフィー法により、2,6-ヨウ化ナフタレンを分離した。得た2,6-ヨウ化ナフタレンを、トルエン200gに加え、-20℃まで冷却して、金属マグネシウム30gを添加し、3時間攪拌して溶液を得た。得た溶液に1-ヨード-3-メチルブタン(東京化成工業(株)製)70gを加え、25℃で12時間攪拌した後、蒸留法により、下記の式(2)で示す2,6-ビス(3-メチルブチル)ナフタレン(NP-C5C5)を得た。得たNP-C5C5の置換基の総分子量は142で、分子全体の分子量(268)の53%である。
【0024】
【化2】
(NH-C4PAの合成)
デカヒドロ-2-ナフトール150g(東京化成工業(株)製)に、ヨウ化カリウム200g、リン酸100gを加え、100℃で3時間攪拌の後、カラムクロマトグラフィー法により、2-ヨウ化デカヒドロナフタレンを分離した。得た2-ヨウ化デカヒドロナフタレンを、トルエン200gに加え、-20℃まで冷却して、金属マグネシウム30gを添加し、3時間攪拌して溶液を得た。得た溶液に2,2-ジメチルプロピオン酸ヨードメチル(東京化成工業(株)製)160gを加え、25℃で12時間攪拌した後、蒸留法により、下記の式(3)で示す2-(2,2-ジメチルプロピオン酸メチレン)デカヒドロナフタレン(NH-C4PA)を得た。得たNH-C4PAの置換基の分子量は115で、分子全体の分子量(252)の46%である。
【0025】
【化3】
(NT-DEGの合成)
1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトール150g(東京化成工業(株)製)に、ヨウ化カリウム200g、リン酸100gを加え、100℃で3時間攪拌の後、カラムクロマトグラフィー法により、1-ヨウ化-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンを分離した。得た1-ヨウ化-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンを、トルエン200gに加え、-20℃まで冷却して、金属マグネシウム30gを添加し、3時間攪拌して溶液を得た。得た溶液にジエチレングリコール-2-ブロモエチルメチルエーテル(東京化成工業(株)製)140gを加え、25℃で12時間攪拌した後、蒸留法により、下記の式(4)で示す1-メチルトリエチレングリコール-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(NT-DEG)を得た。得たNT-DEGの置換基の分子量は147で、分子全体の分子量(278)の53%である。
【0026】
【化4】
(基油)
本発明の実施例及び比較例に使用する基油は以下となる。
合成油1:エクソンモービル社製 Spectra Syn(ポリ-α-オレフィン)
合成油2:日油株式会社製 ユニスターH-334R(ポリオールエステル型)
合成油3:日油株式会社製 ユニスターMB-881(ポリオキシエチレンモノエステル型)
鉱油A:出光興産株式会社製 ダイアナフレシアP46
[実施例1]
(潤滑油組成物の調製)
基油として合成油1 100gに、フラーレン(フロンティアカーボン(株)製nanom(登録商標) mix ST C
60:60質量%、C
70:25質量%、残部が他高次フラーレンの混合物である)0.005g、潤滑調整剤NH-C8 20gを添加して、室温でスターラーを用いて36時間撹拌したのち、0.1μmメッシュのメンブランフィルターを通すことで濾過して潤滑油組成物を得た。
【0027】
得た潤滑油組成物の潤滑調整剤の含有量は、基油100質量部に対して20質量部である。潤滑油組成物の潤滑調整剤の含有量は、基油100質量部に対して、潤滑調整剤の仕込み量より算出した。潤滑油組成物のフラーレンの含有量は、潤滑調整剤を100質量部にしたときに、0.025質量部であり、基油を100質量部にしたときに、0.00500質量部である。潤滑油組成物のフラーレンの含有量は、潤滑油組成物中の潤滑調整剤及び基油をそれぞれ100質量部とした時に、潤滑油組成物中に溶解したフラーレンの量より算出した。溶解したフラーレンの量は、高速液体クロマトグラフィーより確認した。高速液体クロマトグラフ(アジレント・テクノロジー株式会社製 1200シリーズ)とカラム YMC-Pack ODS-AM(株式会社ワイエムシィ製、150mm×4.6)を用い、トルエンとメタノールの1:1(体積比)の展開溶媒で、波長309nmでの吸光度を検出し、潤滑油組成物中のフラーレン濃度を測定して、潤滑油組成物中に溶解したフラーレンの量を算出した。
(耐摩耗性評価)
ボールオンディスクトライボメーター(Antonparr製)により、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。直径6mmのSUJ2製のボールを用い、荷重15N、速度5cm/秒の条件で、潤滑油組成物を塗布した基板(SUJ2製)の一主面上に、同心円状の軌道を描くように、摺動させた。摺動距離が積算300mの時のボール面の擦り面(円形)を光学顕微鏡で観察し、擦り面の直径を測定した。結果を表1に示す。本評価においては、擦り面の直径が小さいほど、耐摩耗特性に優れることを意味する
(ラメラ長の測定)
日本工業規格 JIS K2241:2000の7.3に規定されている表面張力試験方法に準ずる方法により、潤滑油組成物のラメラ長を測定した。表面張力計DY-500(協和界面科学株式会社製)を用い、約20mLの潤滑油組成物をガラス製シャーレ(深さ20mm、内径75mm)に入れ、表面張力計のステージに設置し、白金製の直径14.4mmmのリングを用い、ステージ上昇速度0.5mm/秒、ステージ下降速度0.1mm/秒、潤滑油組成物中へのリングの浸漬距離2.5mmとし、測定で得られたステージの位置とリングに働いた張力のグラフから、リングを引き下げる力が最大値を示してから液体膜が破壊されてゼロになるまでのステージの移動距離を、ラメラ長として算出した。なお、この測定は25±2℃の環境下で行った。結果を表1に示す。
[実施例2]
潤滑油組成物の調製において、濾過した後に、窒素ガス雰囲気で、150℃、12時間熱処理工程を実施した以外は実施例1と同様に、潤滑油組成物を作製して、耐摩耗性評価とラメラ長測定を実施した。測定結果を表1に示す。
[実施例3~21、比較例1~12]
【0028】
基油と、潤滑調整剤種類及びそれらの含有量と、フラーレン含有量とを除き、実施例1と同様に潤滑油組成物を調製し、各測定を実施した。なお、実施例3~21及び比較例1~12の潤滑油組成物は、表1に記載の組成を有する潤滑油組成物となるようにそれぞれ調製した。
【0029】
【表1】
「含有量
※1」は、基油100質量部に対して、潤滑調整剤の含有量を意味する。「含有量
※2」は、潤滑調整剤100質量部対して、フラーレンの含有量を意味する。「含有量
※3」は、基油100質量部に対して、フラーレンの含有量を意味する。
【0030】
表1の結果により、基油種類が同一の実施例及び比較例について、実施例は比較例と比べて、ボールの擦り面の直径はいずれも小さくなり、ラメラ長が長くなって、優れた耐摩耗性、及び成膜性を有することを示した。また、フラーレンのみ添加した比較例1、4、7、10は、それぞれの基油のみ含む比較例3、6、9,12と比較して、ボールの擦り面の直径の縮小と、ラメラ長の延長が観察されたが、同種類の基油を含む実施例と比べて、未だ不十分である。一方、潤滑調整剤のみ添加した比較例2、5、8,11は、それぞれの基油のみ含む比較例3、6、9,12と比べて、ラメラ長が変わらないが、ボールの擦り面の直径が大きくなって、耐摩耗性が劣化した。これらの結果から、潤滑調整剤とフラーレンの相互作用により、潤滑油組成物の耐摩耗性及び耐焼付性が改善されたと考えられる。また、熱処理された潤滑油組成物(実施例2)は、実施例1と比べて、ボールの擦り面の直径が小さくて、ラメラ長が長い。熱処理により、耐摩耗性、耐焼付性が更に改善されることが分かった。
【0031】
本出願は2018年12月27日に出願した日本国特許出願第2018-243901号に基づくものであり、その全内容は参照することによりここに組み込まれる。