(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】コーティング剤組成物、表面処理方法及び物品
(51)【国際特許分類】
C09D 171/00 20060101AFI20231114BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231114BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20231114BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C09D171/00
C09D7/20
C09D5/16
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2021550603
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035225
(87)【国際公開番号】W WO2021065537
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019179803
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝日 智之
(72)【発明者】
【氏名】坂野 安則
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037541(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049753(WO,A1)
【文献】特開2014-084405(JP,A)
【文献】特開2010-047516(JP,A)
【文献】特開2011-178835(JP,A)
【文献】国際公開第2010/101091(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/190526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
[M
cR
bSi-Z
2]
a-Q
1-Z
1-Rf-Z
1-Q
1-[Z
2-SiR
bM
c]
a (1)
(式中、Rfは数平均分子量1,500~20,000の2価パーフルオロポリエーテル基である。
Z
1はそれぞれ独立に2価の連結基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また環状構造及び/又は不飽和結合を有する基であってもよい。
Z
2はそれぞれ独立に炭素数2~20の2価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(-O-)を含んでいてもよい。
Q
1はそれぞれ独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を有する
環状シロキサン構
造からなる(a+1)価の連結基であ
る。
aはそれぞれ独立に1~10の整数であり、bはそれぞれ独立に0~2の整数であり、cはそれぞれ独立に1~3の整数であり、かつ同一ケイ素原子上のb、cにおいてb+c=3を満たす。式(1)における[ ]で括られたa個のZ
2はすべてQ
1構造中のケイ素原子と結合している。
Rはそれぞれ独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基である。
Mはそれぞれ独立に炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルコキシアルキル基、炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1~10のアシロキシ基、炭素数2~10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる基である。)
で示されるパーフルオロポリエーテル化合物(A)を含み、下記一般式(2)
F-Rf’-F (2)
(式中、Rf’は数平均分子量1,500~20,000の2価パーフルオロポリエーテル基である。)
で示されるパーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が、上記(A)成分と(B)成分の合計100モル%に対して2.5モル%未満であり、かつ、常圧における沸点が260℃以下である含フッ素溶剤の含有量が組成物全体の1質量%未満であるコーティング剤組成物。
【請求項2】
パーフルオロポリエーテル化合物(A)の含有量が、組成物全体の0.005~80質量%であり、パーフルオロポリエーテル化合物(A)及びパーフルオロポリエーテル化合物(B)の合計100質量部に対する、パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が1.5質量部未満であり、残部がフッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)である請求項1に記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
式(1)、(2)において、Rf及びRf’が、それぞれ以下の2価パーフルオロエーテル基群
-CF
2O-
-CF
2CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2O-
-CF(CF
3)CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O-
から選ばれる少なくとも1つの構造からなる繰り返し単位と、炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基からなるものである請求項1又は2に記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
式(1)、(2)において、Rf及びRf’が、以下のいずれか
-CF
2O(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
qCF
2-
-CF
2CF
2O(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
qCF
2CF
2-
(式中、pは10~290の整数、qは5~170の整数、p+qは15~295の整数である。-CF
2O-と-CF
2CF
2O-の各繰り返し単位の配列はランダムである。)
-CF(CF
3)[OCF
2CF(CF
3)]
sO(C
uF
2uO)
v[CF(CF
3)CF
2O]
tCF(CF
3)-
-CF
2CF
2CF
2O[CF(CF
3)CF
2O]
tCF
2CF
2-
(式中、s、tは独立に1~120の整数であり、かつs+tは4~121の整数であり、uは1~6の整数であり、vは0~10の整数である。)
で示されるものである請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項5】
式(1)において、Z
2が以下の式
-(CH
2)
w-
(式中、wは2~20の整数である。)
で表されるものである請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項6】
式(1)において、Z
1が以下の群
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化1】
から選ばれるいずれかである請求項1~
5のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項7】
フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)が、非極性の炭化水素系溶剤を含むものである請求項2~
6のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項8】
上記フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)の沸点が、常圧において30~200℃である請求項2~
7のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項9】
水接触角が100°以上である硬化被膜を与えるものである請求項1~
8のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項10】
パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が、上記(A)成分と(B)成分の合計100モル%に対して0.1モル%以上である請求項1~
9のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物を用いてドライコーティング法又はウェットコーティング法により物品の表面を処理する工程を含む物品の表面処理方法。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物で防汚処理された表面を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤組成物、該コーティング剤組成物を用いてドライコーティング法又はウェットコーティング法により物品の表面を処理する工程を含む物品の表面処理方法、及び該コーティング剤組成物で防汚処理された表面を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のディスプレイをはじめ、画面のタッチパネル化が加速している。しかし、タッチパネルは画面がむき出しのものが多く、指や頬などが直接接触する機会が多いため、皮脂等の汚れが付き易いことが問題となっている。そこで、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋を付きにくくする技術や、汚れを落とし易くする技術の要求が年々高まってきている。
【0003】
一般に、フルオロオキシアルキレン基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、及び防汚性などを有することが知られている。その性質を利用して、工業的には紙、繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。しかし、該フルオロオキシアルキレン基含有化合物は、他の基材に対する粘着性及び密着性に劣るため、該化合物を含む組成物の硬化物からなる被膜を基材に密着させることは困難であった。
【0004】
また、シランカップリング剤は、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させる添加剤として公知であり、各種基材表面のコーティング剤に含まれる添加剤として幅広く利用されている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)とを有する化合物である。アルコキシシリル基は空気中の水分などによって自己縮合反応を起こす。コーティング剤を硬化してなる被膜において、該アルコキシシリル基がガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することにより耐久性を有する強固な被膜となる。
【0005】
特許文献1(特開2003-238577号公報)には、フルオロオキシアルキレン基及びアルコキシシリル基を有する化合物として、直鎖状のパーフルオロオキシアルキレン基を有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランが記載されている。該パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを含む表面処理剤の硬化物でガラス表面を処理することにより、ガラス表面に優れた滑り性、離型性、及び耐摩耗性を与えることができる。
【0006】
一方で、該特許文献1に記載のフルオロオキシアルキレン基含有化合物は、表面処理剤として用いる際に、非フッ素系有機溶剤に対する溶解性が低いために、含フッ素系有機溶剤を用いて希釈するが、近年、環境面また作業者への健康への懸念、安全に扱うために一般有機溶剤とは異なる専用の除外設備を必要とすることなどから、含フッ素溶剤は使用を避けられる傾向にあり、含フッ素剤を使用せずに硬化物表面に優れた特性を付与できる撥水撥油処理剤(表面処理剤)の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-238577号公報
【文献】特開2012-233157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、少なくとも1つの非フッ素系有機溶剤への溶解性に優れたパーフルオロポリエーテル化合物を含むコーティング剤組成物、該コーティング剤組成物を用いてドライコーティング法又はウェットコーティング法により物品の表面を処理する工程を含む物品の表面処理方法、及び該コーティング剤組成物で防汚処理された表面を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、後述する特定構造のパーフルオロポリエーテル化合物(A)を含み、無官能性のパーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合を、上記(A)成分と(B)成分の合計100モル%に対して2.5モル%未満とすることにより、常圧(1気圧)における沸点が260℃以下である含フッ素溶剤を用いなくとも、少なくとも1つのフッ素原子を含まない揮発性有機溶剤に溶解し、基材上で速やかに硬化して、基材に強固に密着し、撥水撥油性、滑り性、及び離型性等の優れた硬化被膜を形成するコーティング剤組成物となり得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記のコーティング剤組成物、表面処理方法及び物品を提供する。
[1]
下記一般式(1)
[M
cR
bSi-Z
2]
a-Q
1-Z
1-Rf-Z
1-Q
1-[Z
2-SiR
bM
c]
a (1)
(式中、Rfは数平均分子量1,500~20,000の2価パーフルオロポリエーテル基である。
Z
1はそれぞれ独立に2価の連結基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また環状構造及び/又は不飽和結合を有する基であってもよい。
Z
2はそれぞれ独立に炭素数2~20の2価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(-O-)を含んでいてもよい。
Q
1はそれぞれ独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を有する
環状シロキサン構
造からなる(a+1)価の連結基であ
る。
aはそれぞれ独立に1~10の整数であり、bはそれぞれ独立に0~2の整数であり、cはそれぞれ独立に1~3の整数であり、かつ同一ケイ素原子上のb、cにおいてb+c=3を満たす。式(1)における[ ]で括られたa個のZ
2はすべてQ
1構造中のケイ素原子と結合している。
Rはそれぞれ独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基である。
Mはそれぞれ独立に炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルコキシアルキル基、炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1~10のアシロキシ基、炭素数2~10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる基である。)
で示されるパーフルオロポリエーテル化合物(A)を含み、下記一般式(2)
F-Rf’-F (2)
(式中、Rf’は数平均分子量1,500~20,000の2価パーフルオロポリエーテル基である。)
で示されるパーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が、上記(A)成分と(B)成分の合計100モル%に対して2.5モル%未満であり、かつ、常圧における沸点が260℃以下である含フッ素溶剤の含有量が組成物全体の1質量%未満であるコーティング剤組成物。
[2]
パーフルオロポリエーテル化合物(A)の含有量が、組成物全体の0.005~80質量%であり、パーフルオロポリエーテル化合物(A)及びパーフルオロポリエーテル化合物(B)の合計100質量部に対する、パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が1.5質量部未満であり、残部がフッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)である[1]に記載のコーティング剤組成物。
[3]
式(1)、(2)において、Rf及びRf’が、それぞれ以下の2価パーフルオロエーテル基群
-CF
2O-
-CF
2CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2O-
-CF(CF
3)CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O-
-CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O-
から選ばれる少なくとも1つの構造からなる繰り返し単位と、炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基からなるものである[1]又は[2]に記載のコーティング剤組成物。
[4]
式(1)、(2)において、Rf及びRf’が、以下のいずれか
-CF
2O(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
qCF
2-
-CF
2CF
2O(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
qCF
2CF
2-
(式中、pは10~290の整数、qは5~170の整数、p+qは15~295の整数である。-CF
2O-と-CF
2CF
2O-の各繰り返し単位の配列はランダムである。)
-CF(CF
3)[OCF
2CF(CF
3)]
sO(C
uF
2uO)
v[CF(CF
3)CF
2O]
tCF(CF
3)-
-CF
2CF
2CF
2O[CF(CF
3)CF
2O]
tCF
2CF
2-
(式中、s、tは独立に1~120の整数であり、かつs+tは4~121の整数であり、uは1~6の整数であり、vは0~10の整数である。)
で示されるものである[1]~[3]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[5]
式(1)において、Z
2が以下の式
-(CH
2)
w-
(式中、wは2~20の整数である。)
で表されるものである[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[
6]
式(1)において、Z
1が以下の群
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化1】
から選ばれるいずれかである[1]~[
5]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[
7]
フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)が、非極性の炭化水素系溶剤を含むものである[2]~[
6]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[
8]
上記フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)の沸点が、常圧において30~200℃である[2]~[
7]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[
9]
水接触角が100°以上である硬化被膜を与えるものである[1]~[
8]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[
10]
パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が、上記(A)成分と(B)成分の合計100モル%に対して0.1モル%以上である[1]~[
9]のいずれかに記載のコーティング剤組成物。
[
11]
[1]~[
10]のいずれかに記載のコーティング剤組成物を用いてドライコーティング法又はウェットコーティング法により物品の表面を処理する工程を含む物品の表面処理方法。
[
12]
[1]~[
10]のいずれかに記載のコーティング剤組成物で防汚処理された表面を有する物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング剤組成物は、含有するパーフルオロポリエーテル化合物が非フッ素系有機溶剤に可溶であり、該コーティング剤組成物を用いた表面処理剤は、基材上で速やかに硬化して、基材に強固に密着し、撥水撥油性、滑り性、及び離型性等の優れた被膜を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
[(A)成分]
本発明を構成する第一の成分であるパーフルオロポリエーテル化合物(A)は、下記一般式(1)で示すことができる。
[McRbSi-Z2]a-Q1-Z1-Rf-Z1-Q1-[Z2-SiRbMc]a (1)
【0014】
ここで、上記式(1)において、Rfは数平均分子量1,500~20,000の2価パーフルオロポリエーテル基であり、数平均分子量として上記範囲を満たしていれば、これより分子量の大きい化合物、小さい化合物を含んでいてもよい。なお、本発明において、数平均分子量は、19F-NMRスペクトルから得られる末端構造と繰り返し単位構造の比率から計算により算出できる(以下、同じ)。
【0015】
上記式中、Rfは炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量1,500~20,000、好ましくは分子量2,000~18,000、より好ましくは分子量3,000~10,000の2価パーフルオロポリエーテル基であり、具体的には、以下に示す構造のいずれか1つ又は複数からなる繰り返し単位と、炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基からなるものが示される。
-CF2O-
-CF2CF2O-
-CF2CF2CF2O-
-CF(CF3)CF2O-
-CF2CF2CF2CF2O-
-CF2CF2CF2CF2CF2O-
-CF2CF2CF2CF2CF2CF2O-
【0016】
特に以下の炭素数1~4のパーフルオロオキシアルキレン構造を主な繰り返し単位として有するものが好適である。
-CF2O-
-CF2CF2O-
-CF(CF3)CF2O-
-CF2CF2CF2O-
-CF2CF2CF2CF2O-
【0017】
また、炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基としては、例えば、下記に示すものが例示できる。
-CF2-
-CF2CF2-
-CF(CF3)-
-CF2CF2CF2-
-CF(CF3)CF2-
-CF2CF2CF2CF2-
【0018】
特に好ましいRfの構造としては、以下の4つの構造を挙げることができる。
-CF2O(CF2O)p(CF2CF2O)qCF2-
-CF2CF2O(CF2O)p(CF2CF2O)qCF2CF2-
(式中、pは10~290、好ましくは15~90、より好ましくは20~60の整数、qは5~170、好ましくは10~120、より好ましくは15~50の整数、p+qは15~295、好ましくは20~210、より好ましくは30~100の整数であり、p、qの組合せは、(A)成分全体としてのRfの数平均分子量が1,500~20,000を満たす範囲である。-CF2O-と-CF2CF2O-の各繰り返し単位の配列はランダムである。)
-CF(CF3)[OCF2CF(CF3)]sO(CuF2uO)v[CF(CF3)CF2O]tCF(CF3)-
-CF2CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]tCF2CF2-
(式中、s、tは独立に1~120、好ましくは2~60、より好ましくは4~20の整数であり、かつs+tは4~121、好ましくは4~100、より好ましくは8~80の整数であり、uは1~6、好ましくは2~4の整数であり、vは0~10、好ましくは0~4の整数である。これらのs、t、u、vの組合せは、(A)成分全体としてのRfの数平均分子量が1,500~20,000を満たす範囲である。)
【0019】
上記式(1)において、Z
1はそれぞれ独立に2価の連結基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また環状構造及び/又は不飽和結合を有する基であってもよい。このような構造として、具体的には、以下の構造を示すことができる。なお、下記の構造において、左側の結合手はRfと、右側の結合手はQ
1中のケイ素原子と結合することが好ましい。
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化2】
【0020】
上記式(1)において、aはそれぞれ独立に1~10の整数であり、好ましくは1~8の整数であり、さらに好ましくは1~4の整数である。
【0021】
Q
1はそれぞれ独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を有するシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合わせからなる(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。
このようなQ
1として、具体的には、下記の構造が例示できる。
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、破線の結合手はZ
1又はZ
2に結合し、aは上記式(1)のaと同じであり、それぞれ独立に1~10の整数であり、好ましくは1~8の整数であり、さらに好ましくは1~4の整数である。yは0~5の整数であり、好ましくは1~3の整数である。)
【0022】
ここで、Tは(a+1)価の連結基であり、例えば以下のものが例示される。
【化6】
【0023】
上記Q
1としては、例えば下記の構造が挙げられる。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0024】
上記Q
1の中でも、環状シロキサン構造が好ましく、特には以下の構造が好ましい。
【化13】
【0025】
上記式(1)において、Z2はそれぞれ独立に炭素数2~20の2価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(-O-)を含んでいてもよい。
【0026】
具体的には、以下の式で示されるものが挙げられる。なお、下記の構造において、左側の結合手はQ
1中のケイ素原子と、右側の結合手はRあるいはMと結合するケイ素原子と結合することが好ましい。
-(CH
2)
w-
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化14】
(式中、wは2~20の整数である。)
【0027】
特に好ましくは
-(CH2)w-
であり、さらに好ましくは上記式においてwが3~12の整数のものである。
ここで、式(1)における[ ]で括られたa個のZ2はすべてQ1構造中のケイ素原子と結合している。
【0028】
上記式(1)において、Rはそれぞれ独立に炭素数1~6、好ましくは1~4の1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基などが挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0029】
上記式(1)において、Mはそれぞれ独立に炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルコキシアルキル基、炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1~10のアシロキシ基、炭素数2~10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる基である。Mとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等の好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等の好ましくは炭素数2~4のアルコキシアルキル基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基、エトキシエトキシ基等の好ましくは炭素数2~4のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの好ましくは炭素数1~7のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの好ましくは炭素数2~6のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられ、これらの中でも特にメトキシ基、エトキシ基、メトキシメチル基が好適である。
【0030】
上記式(1)において、bはそれぞれ独立に0~2の整数、好ましくは0又は1であり、cはそれぞれ独立に1~3の整数、好ましくは2又は3であり、かつ同一ケイ素原子上のb、cにおいてb+c=3を満たす。
【0031】
このような(A)成分として、好適な構造を一般化したものとして、以下のものを示すことができる。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
(式中、R、M、b、c、b+cは前記の通りであり、Rf''は-CF
2O(CF
2O)
p1(CF
2CF
2O)
q1CF
2-であり、p1は10~300の整数、q1は5~170の整数、q1+p1は15~470を満足する数であり、-CF
2O-と-CF
2CF
2O-の各繰り返し単位の配列はランダムである。Rf'''は下記式
【化21】
で示される基であり、r1、r2はそれぞれ2~60、好ましくは4~20の整数であり、r1+r2は4~120を満足する数である。nはそれぞれ独立に2~20、好ましくは3~10の整数である。)
【0032】
さらに特に望ましい構造として以下のものを示す。
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
(式中、Rf''は前述の通りであるが、特にRf''の分子量として1,500~18,000のものが望ましい。)
【0033】
(A)成分のパーフルオロポリエーテル化合物は、例えば公知の下記一般式(3)で表される2a個の(多官能)Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物に、下記一般式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物をヒドロシリル化によって付加反応させることで得ることができる。
[H]a-Q1-Z1-Rf-Z1-Q1-[H]a (3)
(式中、Rf、Z1、Q1、aは前記の通りである。)
CH2=CR2-(Z3)x-SiRbMc (4)
(式中、R、M、b、c、b+cは前記の通りであり、xは0又は1であり、Z3は炭素数1~18の2価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(-O-)を含んでいてもよい。R2は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、Z3の炭素数とR2の炭素数の合計は0~18、好ましくは1~10を満たす。)
【0034】
ここで、上記式(3)で表される多官能Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
(式中、Rf''、r1、r2、r1+r2は上記と同じである。)
【0035】
上記式(4)において、Z
3としては、以下の式で示されるものが挙げられる。なお、下記の構造において、左側の結合手は炭素原子と、右側の結合手はケイ素原子と結合することが好ましい。
-(CH
2)
w’-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化43】
(式中、w’は1~18の整数である。)
特に好ましくは
-(CH
2)
w’-
であり、さらに好ましくは上記式においてw’が1~10の整数のものであり、特に好ましくは上記式においてw’が1~6の整数のものである。
【0036】
上記式(4)において、R2の炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基などが挙げられ、R2としては、特に水素原子が好ましい。
【0037】
上記式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物としては、下記のものが例示できる。
CH2=CHSi(OCH3)3
CH2=CHCH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHSi(OC2H5)3
CH2=CHCH2Si(OC2H5)3
CH2=CHCH2CH2Si(OC2H5)3
CH2=CHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OC2H5)3
CH2=CHSi(OC3H7)3
CH2=CHCH2Si(OC3H7)3
CH2=CHCH2CH2Si(OC3H7)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OC3H7)3
CH2=CHSiCH3(OCH3)2
CH2=CHCH2SiCH3(OCH3)2
CH2=CHCH2CH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2
CH2=CHSiCH3(OCH2CH3)2
CH2=CHCH2SiCH3(OCH2CH3)2
CH2=CHCH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2
CH2=CHCH2CH2CH2CH2SiCH3(OCH2CH3)2
【0038】
中でも特に以下のものが好適である。
CH2=CHSi(OCH3)3
CH2=CHCH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHSi(OC2H5)3
CH2=CHCH2Si(OC2H5)3
【0039】
このヒドロシリル化(付加)反応は、式(3)で表される多官能Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と、式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物を混合し、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度50~150℃、好ましくは60~120℃で、1分~48時間、特に10分~12時間反応を行うことが望ましい。反応温度が低すぎると反応が十分に進行しないまま停止してしまう場合があり、高すぎるとヒドロシリル化の反応熱による温度上昇で反応が制御できなくなり、突沸や原料の分解などが起こる場合がある。
【0040】
この場合、式(3)で表される多官能Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と、式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物の反応割合は、式(3)で表される多官能Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の[ ]で括られたHの総モル数に対して、式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物の末端不飽和基を0.9~5倍モル、特に1~2倍モル使用して反応させることが望ましい。式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物が、これより少なすぎると目的物を得ることが困難となる場合があり、これより多すぎると反応溶液の均一性が低下して反応速度が不安定となり、また反応後に未反応の式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物の除去を行う場合に加熱、減圧、抽出等の条件を余剰の式(4)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物が増える分だけ厳しくする必要が出てくる。
【0041】
付加反応触媒は、例えば、白金、ロジウム又はパラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。
付加反応触媒の配合量は、式(3)で表される多官能Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物に対し、含まれる金属量が0.1~5,000質量ppmとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.2~1,000質量ppmとなる量である。
【0042】
上記の付加反応は、溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど、広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができるが、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応に使用する式(3)及び式(4)の化合物が、上記反応温度において可溶であるものが好ましい。このような溶剤としては、例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm-キシレンヘキサフロライドが好ましい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(3)で表される多官能Si-H基を有するパーフルオロポリエーテル化合物100質量部に対して、好ましくは5~2,000質量部であり、より好ましくは50~500質量部である。これより少なければ溶剤による希釈の効果が薄くなり、多ければ希釈度が高くなりすぎて反応速度の低下を招く場合がある。
【0043】
反応終了後、未反応の式(4)の化合物、及び希釈溶剤を減圧留去、抽出、吸着等の公知の方法で除去することが好ましく、特に常圧における沸点260℃以下の含フッ素溶剤、例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド、パーフルオロベンゼン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、ハイドロフルオロエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル等を含む場合は、該含フッ素溶剤が得られる(A)成分を含有するコーティング剤組成物全体の1質量%未満となるように除去する必要がある。ここで、常圧における沸点260℃以下の含フッ素溶剤の含有量は、例えば反応に使用した各溶剤の19F-NMRスペクトル又は1H-NMRスペクトルをもとに、必要によって(A)成分を含有するコーティング剤組成物に内部標準物質を加えたNMR測定結果から算出することにより測定できる。
なお、未反応の式(4)の化合物及びフッ素原子を含まない揮発性溶剤に関しては、本発明のコーティング剤組成物の構成要素とすることもできる。
【0044】
また、本発明における(A)成分の別な合成経路としては、本発明の実施形態の別な形として、下記一般式(5)で表される末端不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と、下記一般式(6)で表される1つのSi-H基と少なくとも1つの加水分解性シリル基を有する反応性シラン化合物とを反応させることで得ることができる。
Z4-Rf-Z4 (5)
H-Q1-[Z2-SiRbMc]a (6)
(式中、Rf、Q1、Z2、R、M、a、b、c、b+cは前述の通りであり、Z4はそれぞれ独立に末端にSi-H基と付加反応可能な炭素-炭素不飽和結合を1個有する炭素数2~20の酸素原子、窒素原子、フッ素原子及びケイ素原子から選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい1価の炭化水素基であり、途中環状構造及び/又は不飽和結合を含んでいてもよい。式(6)におけるH及びa個のZ2はすべてそれぞれQ1構造中のケイ素原子と結合している。)
【0045】
ここで、一般式(5)におけるZ
4として、具体的には、以下の構造を挙げることができる。
-CH=CH
2
-CH
2CH=CH
2
-CH
2CH
2CH=CH
2
-CH
2OCH=CH
2
-CH
2OCH
2CH=CH
2
【化44】
【0046】
ここで、上記式(5)で表される末端不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化45】
(式中、Rf''、r1、r2、r1+r2は前述の通りである。)
【0047】
また、上記式(6)で表される1つのSi-H基と少なくとも1つの加水分解性シリル基を有する反応性シラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【0048】
式(5)で表される末端不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と式(6)で表される反応性シラン化合物の反応はこれらを混合し、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度50~150℃、好ましくは60~120℃で、1分~48時間、特に10分~12時間反応を行うことが望ましい。反応温度が低すぎると反応が十分に進行しないまま停止してしまう場合があり、高すぎるとヒドロシリル化の反応熱による温度上昇で反応が制御できなくなり、突沸や原料の分解などが起こる場合がある。
【0049】
この場合、式(5)で表される末端不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と、式(6)で表される反応性シラン化合物との反応割合は、式(5)の末端不飽和基の総モル数に対して、式(6)のHが0.9~2倍モル、特に望ましくは1~1.05倍モルになるように使用して反応させることが好適である。式(6)のHはすべて反応することが望ましい。
【0050】
付加反応触媒は、例えば、白金、ロジウム又はパラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。
付加反応触媒の配合量は、式(5)で表される末端不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物に対し、含まれる金属量が0.1~5,000質量ppmとなることが好ましく、より好ましくは1~1,000質量ppmである。
【0051】
上記の付加反応は、溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど、広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができるが、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物が、上記反応温度において可溶であるものが好ましい。このような溶剤としては、例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm-キシレンヘキサフロライドが好ましい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(5)で表される末端不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物100質量部に対して、好ましくは5~2,000質量部であり、より好ましくは50~500質量部である。これより少なければ溶剤による希釈の効果が薄く、多ければ希釈度が高くなりすぎて反応速度の低下を招く場合がある。
【0052】
反応終了後、未反応の式(6)で表される反応性シラン化合物、及び希釈溶剤を減圧留去、抽出、吸着等の公知の方法で除去することが好ましく、特に上述した常圧における沸点260℃以下の含フッ素溶剤を含む場合は、該含フッ素溶剤が得られる(A)成分を含有するコーティング剤組成物全体の1質量%未満となるように除去する必要がある。未反応の式(6)で表される反応性シラン化合物及びフッ素原子を含まない揮発性溶剤に関しては、本発明のコーティング剤組成物の構成要素とすることもできる。
【0053】
[(B)成分]
本発明におけるパーフルオロポリエーテル化合物(B)は、下記一般式(2)で表される。
F-Rf’-F (2)
【0054】
ここで、上記式(2)において、Rf’は数平均分子量1,500~20,000の2価パーフルオロポリエーテル基であり、数平均分子量として上記範囲を満たしていれば、これより分子量の大きい化合物、小さい化合物を含んでいてもよい。
Rf’としては、Rfに示したものと同様の構造を取ることができるが、その構造及び数平均分子量、分子量分布は、Rfと一致していても異なっていてもよい。
【0055】
パーフルオロポリエーテル化合物(B)としては、以下のものを示すことができる。
CF3O(CF2O)p(CF2CF2O)qCF3
CF3CF2O(CF2O)p(CF2CF2O)qCF2CF3
CF3CF2[OCF2CF(CF3)]sO(CuF2uO)v[CF(CF3)CF2O]tCF2CF3
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]tCF2CF3
(式中、p、q、p+q、s、t、s+t、u、vは前述の通りであり、-CF2O-と-CF2CF2O-の各繰り返し単位の配列はランダムである。)
【0056】
本発明におけるパーフルオロポリエーテル化合物(B)は、パーフルオロポリエーテル化合物(A)とパーフルオロポリエーテル化合物(B)の合計100モル%に対して、パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が2.5モル%未満、好ましくは1.5モル%以下、より好ましくは1モル%以下となる範囲で含むことができる。パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が上記範囲より多いと非フッ素化合物に対する溶解性が低下し、最終的な硬化性組成物として塗工硬化した場合に均一な塗膜が得られない場合がある。また、パーフルオロポリエーテル化合物(A)及びパーフルオロポリエーテル化合物(B)の合計100質量部に対する、パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が1.5質量部未満であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。
これら(B)成分の含有量は(A)成分に(B)成分が予め含まれる場合は、各種の分離方法により(A)成分と(B)成分を単離することで(B)成分の含有量を決定することができ、(A)成分に(B)に該当する成分が含まれていない場合はそれぞれの配合量によって決定できる。
【0057】
パーフルオロポリエーテル化合物(B)は、(A)成分あるいは(A)成分の原料となるパーフルオロポリエーテル化合物に副生成物あるいは工程混入物として予め含まれている場合があり、この場合は吸着処理、抽出、薄膜蒸留等の任意の公知の分離方法で(A)成分に対する(B)成分の含有量が上記範囲となるように調整すればよい。具体的には、(A)成分と(B)成分の分子量の差が大きい場合は薄膜蒸留による分離が好適であり、薄膜蒸留による分離が困難な場合は(A)成分を貧溶媒に溶解させ(A)成分と(B)成分の末端基の違いにより吸着性の異なるシリカゲル等の充填剤を使用したカラムクロマトグラフや、末端基の違いによる溶解性の差を利用して抽出溶媒を用い分離する方法等があり、特に超臨界溶媒を移動相に用いたクロマトグラフィーにより、各成分を分離することで調整できる。
一方、撥油性、表面浮上性、滑り性向上等の特性向上のためとなる範囲で(A)成分に対して意図的に(B)成分を配合してもよい。この場合、パーフルオロポリエーテル化合物(B)は、パーフルオロポリエーテル化合物(A)及びパーフルオロポリエーテル化合物(B)の合計100モル%に対して0.1モル%以上とすることが好ましく、また、パーフルオロポリエーテル化合物(A)及びパーフルオロポリエーテル化合物(B)の合計100質量部に対して0.1質量部以上とすることが好ましい。
【0058】
[コーティング剤組成物]
本発明のコーティング剤組成物は、上記パーフルオロポリエーテル化合物(A)を含み、上記パーフルオロポリエーテル化合物(B)の含有割合が、上記(A)成分と(B)成分の合計100モル%に対して2.5モル%未満、好ましくは1.5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であり、かつ上述した常圧(1気圧)における沸点が260℃以下である含フッ素溶剤の含有量が組成物全体の1質量%未満であることを特徴とする。本発明のコーティング剤組成物は、無溶剤の組成物として使用してもよいが、フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)を含んでいてもよい。
【0059】
このようなフッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)としては任意のものが使用できるが、水素原子及び炭素原子のみからなる化合物や、水素原子、炭素原子及び酸素原子のみからなる化合物が好ましく、具体的には、炭化水素系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、エステル系有機溶剤、アルコール系有機溶剤が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0060】
炭化水素系有機溶剤の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、へプタン、イソドデカン、イソオクタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
ケトン系有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
エーテル系有機溶剤の具体例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
エステル系有機溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
アルコール系有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等が挙げられる。
【0061】
これらのフッ素原子を含まない揮発性有機溶剤の中でも、本発明に用いるパーフルオロポリエーテル化合物の溶解性がより優れる点から、炭化水素系有機溶剤が好ましい。
【0062】
上記フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤の常圧における沸点としては、0~260℃、好ましくは30~200℃、より好ましくは60~150℃であることが望ましい。
【0063】
上記フッ素原子を含まない揮発性有機溶剤の使用量は特に制限されるものではなく、用途に応じて任意の割合で希釈すればよいが、例えば(A)成分100質量部に対して、25~1,999,900質量部含むことが望ましい。
【0064】
本発明は、以上のような(B)成分の含有量が制御された(A)成分を含有するコーティング剤組成物とすることにより、フッ素性揮発成分(常圧における沸点が260℃以下である含フッ素溶剤)を使用せずに、少なくとも1つのフッ素原子を含まない揮発性有機溶剤(C)で希釈でき、(A)成分のパーフルオロポリエーテル化合物によって得られる特性を表面に付与する表面処理剤とすることができる。
【0065】
従来、その化合物単独であればフッ素原子を含まない有機溶剤(以下、非フッ素溶剤ともいう)に可溶であるパーフルオロポリエーテル化合物(例えば式(1)に示すもの)であっても、その合成過程において不可避的に混入する無官能性パーフルオロポリエーテル化合物(例えば式(2)に示すもの)の存在によって非フッ素溶剤への溶解性が低くなる状態にあり、含フッ素溶剤で溶解していた。昨今の含フッ素溶剤の使用抑制に対応すべく、本発明者らが上記のような混合物の非フッ素溶剤への溶解性の改善を検討したところ、これまで上記無官能性パーフルオロポリエーテル化合物を完全に除去する必要があると考えられてきたが、これを完全に除去する必要はなく、ある微量の程度まで含有量を抑制することで、上記のような混合物であっても非フッ素溶剤に溶解することが可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0066】
本発明のコーティング剤組成物は、ドライコーティング法又はウェットコーティング法、具体的には、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与する表面処理剤とすることができる。また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、例えば、スプレー法、インクジェット法、ディッピング法、刷毛塗り、真空蒸着法で施与した場合は、室温(20℃±15℃)~200℃、特に真空蒸着法の場合は室温(20±15℃)、その他の方法の場合は50~150℃の範囲が望ましい。硬化湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1~100nm、特に3~30nmである。
【0067】
なお、密着性が悪い場合には、プライマー層としてSiO2層を設けるか、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、アルカリ処理することによって密着性を向上させることができる。
【0068】
また、本発明のコーティング剤組成物は、撥水撥油性を有するものであり、その硬化被膜の水接触角が100°以上、特に101°以上のものである。上記水接触角が100°未満であると、コーティング被膜としての撥水性が不十分であり、撥水撥油性に優れた被膜とは言えない。
【0069】
本発明のコーティング剤組成物で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明のコーティング剤組成物は、これら基材に撥水撥油性、耐薬品性、離型性、低動摩擦性、防汚性を付与することができる。特に、各種物品の透明性や質感を損なうことなく、優れた防汚性能を付与することができ、薬品等の侵入から基材を守り、長期に防汚性能を保つことができる。本発明のコーティング剤組成物で処理される物品としては、光学物品、フィルム、ガラス、石英基板、反射防止膜のようなものが挙げられ、特にはタッチパネル、反射防止処理物品、ガラス、強化ガラス、サファイヤガラス、石英ガラス、SiO2処理基板に用いられる。
【実施例】
【0070】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0071】
[合成例1-1]
乾燥空気雰囲気下、還流装置と攪拌装置を備えた200mL四つ口フラスコ中で、下記式
【化51】
(Rf
1:-CF
2O(CF
2O)
20.7(CF
2CF
2O)
22.3CF
2-、ただし繰り返し単位の値は
19F-NMRより求めた平均値であり、以下の実施例でも同様である。)
で表される化合物と、下記式
F-Rf
1-F
で表される無官能性ポリマー(B1)を微量(0.36g)含む混合物(I)50.0g(Si-H基0.067mol)、CH
2=CHSi(OCH
3)
310.3g(0.070mol)、m-キシレンヘキサフロライド(沸点:116℃)50.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0884g(Pt単体として2.2×10
-7molを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基に由来するピークが消失したのを確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。次いで、エバポレーターで100℃/267Paの条件で2時間減圧留去を行うことで、m-キシレンヘキサフロライドと未反応のCH
2=CHSi(OCH
3)
3を除去し、下記式で示される化合物(A1)と無官能性ポリマー(B1)とを含む混合物(II-1)58.2gを得た。
19F-NMRの結果から、-CF
2O(CF
2O)
20.7(CF
2CF
2O)
22.3CF
2-CH
2-のピークの積分値をa、F-Rf
1-Fのピーク積分値をbとしたとき、(無官能性ポリマーのモル数)/(化合物(II-1)のモル数+無官能性ポリマーのモル数)×100=(b/6)/((a/2)+(b/6))×100(%)から計算される上記無官能性ポリマー量は0.98モル%(0.72質量%)であった。また、ヘキサフルオロベンゼンを標準物質とする
19F-NMRスペクトルのm-キシレンヘキサフロライドのCF
3基のピーク積分値から求めた、m-キシレンヘキサフロライド残留量は0.003質量%であった。
【化52】
【0072】
[合成例1-2]
合成例1-1の混合物(II-1)に、下記式の化合物(B-1)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計1.93モル%含む混合物(II-2)を10.3g得た。
CF3CF2O(CF2CF2O)20.3(CF2O)22.2CF2CF3
【0073】
[合成例1-3]
合成例1-1の混合物(II-1)に、上記式の化合物(B-1)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計2.76モル%含む混合物(II-3)を10.2g得た。
【0074】
[合成例2-1]
乾燥空気雰囲気下、還流装置と攪拌装置を備えた200mL四つ口フラスコ中で、上述した無官能性ポリマー(B1)を微量含む混合物(I)50.0g(Si-H基0.067mol)、CH
2=CHCH
2Si(OCH
3)
311.4g(0.070mol)、m-キシレンヘキサフロライド50.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0884g(Pt単体として2.2×10
-7molを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基に由来するピークが消失したのを確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。次いで、エバポレーターで100℃/267Paの条件で2時間減圧留去を行うことで、m-キシレンヘキサフロライドと未反応のCH
2=CHCH
2Si(OCH
3)
3を除去し、下記式で示される化合物(A2)と無官能性ポリマー(B1)0.89モル%(0.65質量%)とを含む混合物(III-1)56.4gを得た。また、m-キシレンヘキサフロライド残留量は0.004質量%であった。
【化53】
【0075】
[合成例2-2]
合成例2-1の混合物(III-1)に、上記式の化合物(B-1)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計1.87モル%含む混合物(III-2)を10.4g得た。
【0076】
[合成例2-3]
合成例2-1の混合物(III-1)に、上記式の化合物(B-1)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計2.78モル%含む混合物(III-3)を10.3g得た。
【0077】
[合成例3-1]
乾燥空気雰囲気下、還流装置と攪拌装置を備えた200mL四つ口フラスコ中で、上述した無官能性ポリマー(B1)を微量含む混合物(I)50.0g(Si-H基0.067mol)、CH
2=CH(CH
2)
6Si(OCH
3)
316.3g(0.070mol)、m-キシレンヘキサフロライド50.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0884g(Pt単体として2.2×10
-7molを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基に由来するピークが消失したのを確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。次いで、エバポレーターで100℃/267Paの条件で2時間減圧留去を行うことで、m-キシレンヘキサフロライドと未反応のCH
2=CH(CH
2)
6Si(OCH
3)
3を除去し、下記式で示される化合物(A3)と無官能性ポリマー(B1)1.24モル%(0.84質量%)とを含む混合物(IV-1)57.7gを得た。また、m-キシレンヘキサフロライド残留量は0.002質量%であった。
【化54】
【0078】
[合成例3-2]
合成例3-1の混合物(IV-1)に、上記式の化合物(B-1)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計1.68モル%含む混合物(IV-2)を10.1g得た。
【0079】
[合成例3-3]
合成例3-1の混合物(IV-1)に、上記式の化合物(B-1)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計3.31モル%含む混合物(IV-3)を10.2g得た。
【0080】
[合成例4-1]
乾燥空気雰囲気下、還流装置と攪拌装置を備えた200mL四つ口フラスコ中で、下記式
【化55】
(Rf
2:-CF
2O(CF
2O)
11.2(CF
2CF
2O)
12.1CF
2-)
で表される化合物と、下記式
F-Rf
2-F
で表される無官能性ポリマー(B2)を微量(0.38g)含む混合物(V)50.0g(Si-H基0.119mol)、CH
2=CHSi(OCH
3)
318.2g(0.124mol)、m-キシレンヘキサフロライド50.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.157g(Pt単体として3.9×10
-7molを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基に由来するピークが消失したのを確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。次いで、エバポレーターで100℃/267Paの条件で2時間減圧留去を行うことで、m-キシレンヘキサフロライドと未反応のCH
2=CHSi(OCH
3)
3を除去し、下記式で示される化合物(A4)と上記無官能性ポリマー(B2)1.23モル%(0.75質量%)とを含む混合物(VI-1)74.5gを得た。また、m-キシレンヘキサフロライド残留量は0.001質量%であった。
【化56】
【0081】
[合成例4-2]
合成例4-1の混合物(VI-1)に、下記式の化合物(B-2)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計2.14モル%含む混合物(VI-2)を10.1g得た。
CF3CF2O(CF2CF2O)11.0(CF2O)12.3CF2CF3
【0082】
[合成例4-3]
合成例4-1の混合物(VI-1)に、上記式の化合物(B-2)を追加することで、(B)に該当する成分を混合物中に合計3.63モル%含む混合物(VI-3)を10.4g得た。
【0083】
希釈溶剤への溶解性
[実施例1-1]
上記合成例1-1で調製した混合物(II-1)を、固形分濃度10質量%になるようにメチルエチルケトン(МEK)に希釈させて表面処理剤(コーティング剤組成物)を調製し、その溶解性を下記の評価基準で評価した。
○:外観を目視観察した結果、透明である。
×:外観を目視観察した結果、濁りがある。
【0084】
[実施例1-2]
希釈溶剤をイソプロパノール(IPA)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0085】
[実施例1-3]
希釈する混合物を合成例1-2で合成した混合物(II-2)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0086】
[比較例1-4]
希釈する混合物を合成例1-3で合成した混合物(II-3)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0087】
[実施例2-1]
希釈する混合物を合成例2-1で合成した混合物(III-1)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0088】
[実施例2-2]
希釈溶剤をイソプロパノール(IPA)に変更したこと以外は、実施例2-1と同様に評価を行った。
【0089】
[実施例2-3]
希釈する混合物を合成例2-2で合成した混合物(III-2)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0090】
[比較例2-4]
希釈する混合物を合成例2-3で合成した混合物(III-3)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0091】
[実施例3-1]
希釈する混合物を合成例3-1で合成した混合物(IV-1)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0092】
[実施例3-2]
希釈溶剤をイソプロパノール(IPA)に変更したこと以外は、実施例3-1と同様に評価を行った。
【0093】
[実施例3-3]
希釈溶剤をn-ブタノールに変更したこと以外は、実施例3-1と同様に評価を行った。
【0094】
[実施例3-4]
希釈溶剤をポリエチレングリコールモノメチルエーテル(MPEG)に変更したこと以外は、実施例3-1と同様に評価を行った。
【0095】
[実施例3-5]
希釈溶剤をヘキサンに変更したこと以外は、実施例3-1と同様に評価を行った。
【0096】
[実施例3-6]
希釈溶剤をヘプタンに変更したこと以外は、実施例3-1と同様に評価を行った。
【0097】
[実施例3-7]
希釈溶剤をイソドデカンに変更したこと以外は、実施例3-1と同様に評価を行った。
【0098】
[実施例3-8]
希釈する混合物を合成例3-2で合成した混合物(IV-2)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0099】
[比較例3-9]
希釈する混合物を合成例3-3で合成した混合物(IV-3)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0100】
[実施例4-1]
希釈する混合物を合成例4-1で合成した混合物(VI-1)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0101】
[実施例4-2]
希釈溶剤をイソプロパノール(IPA)に変更したこと以外は、実施例4-1と同様に評価を行った。
【0102】
[実施例4-3]
希釈する混合物を合成例4-2で合成した混合物(VI-2)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0103】
[比較例4-4]
希釈する混合物を合成例4-3で合成した混合物(VI-3)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【0104】
[比較例5-1]
希釈する混合物を特開2012-233157号公報に記載の方法に従い合成し抽出した下記式で示される化合物(VII)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に評価を行った。
【化57】
(Rf
1:-CF
2O(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
qCF
2-、q/p=0.9、p+q≒45)
【0105】
[比較例5-2]
希釈溶剤をイソプロパノール(IPA)に変更したこと以外は、比較例5-1と同様に評価を行った。
【0106】
評価結果を表1~3に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
ディップ塗工による硬化被膜の形成
[実施例3-10]
実施例3-5で調製した表面処理剤を、下記条件にてプラズマ処理洗浄した化学強化ガラス(コーニング社製、GorillaII)の表面に、ディップ塗工し、120℃、30分硬化させ硬化被膜(膜厚:約10nm)を形成し、試験体を得た。
【0111】
[プラズマ処理の条件]
・装置:プラズマドライ洗浄装置PDC210
・ガス:O2ガス80cc、Arガス10cc
・出力:250W
・時間:30秒
【0112】
[実施例3-11]
表面処理剤を実施例3-6で調製したものに変更したこと以外は、実施例3-10と同様にして硬化被膜(膜厚:約10nm)を形成し、試験体を得た。
【0113】
スプレー塗工による硬化被膜の形成
[実施例3-12]
実施例3-5で調製した表面処理剤を、上記と同様の条件にてプラズマ処理洗浄した化学強化ガラス(コーニング社製、GorillaII)の表面にスプレー塗工装置(株式会社ティーアンドケー製、NST-51)を用いて、スプレー塗工した。その後、80℃、40%RHで30分間硬化させて硬化被膜(膜厚:約10nm)を形成し、試験体を得た。
【0114】
[実施例3-13]
表面処理剤を実施例3-6で調製したものに変更したこと以外は、実施例3-12と同様にして硬化被膜(膜厚:約10nm)を形成し、試験体を得た。
【0115】
真空蒸着による硬化被膜の形成
[実施例3-14]
実施例3-5で調製した表面処理剤を、最表面にSiO2を15nm処理したガラス(コーニング社製、Gorilla3)に下記条件により真空蒸着し、25℃、湿度50%の雰囲気下で1時間硬化させて被膜(膜厚:約10nm)を形成したものを下記評価における試験体とした。
[真空蒸着による塗工条件及び装置]
・測定装置:小型真空蒸着装置VPC-250F
・圧力:2.0×10-3Pa~3.0×10-2Pa
・蒸着温度(ボートの到達温度):500℃
・蒸着距離:20mm
・処理剤の仕込み量:5mg
・蒸着量:5mg
【0116】
[実施例3-15]
表面処理剤を実施例3-6で調製したものに変更したこと以外は、実施例3-14と同様にして硬化被膜(膜厚:約10nm)を形成し、試験体を得た。
【0117】
得られた硬化被膜について、撥水性を下記の方法により評価した。
[撥水性]
接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角を測定した。結果を下記表4に記載する。
【0118】