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特許7384324塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物、プラスチゾル及びその塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物、プラスチゾル及びその塗膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20231114BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20231114BHJP
   C09D 127/06 20060101ALI20231114BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231114BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/10
C09D127/06
C09D7/63
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023530236
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2022022420
(87)【国際公開番号】W WO2023281945
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2021112082
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】野口 崇史
(72)【発明者】
【氏名】所 寛樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/114642(WO,A1)
【文献】特表2016-512284(JP,A)
【文献】特表2017-527686(JP,A)
【文献】特表2017-509729(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102875859(CN,A)
【文献】国際公開第2013/004265(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/112285(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101993548(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 127/00-127/44
C09D 7/00-7/80
C09D 167/00-167/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールとの脂肪族ジエステル(A)と、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸と炭素原子数2~12のグリコールとの芳香族ジエステル(B)と、フタル酸エステル(C)とを含有する塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物であって、
前記脂肪族ジエステル(A)と前記芳香族ジエステル(B)の質量比が、脂肪族ジエステル(A):芳香族ジエステル(B)=65:35~95:5を満たし、
前記脂肪族ジエステル(A)、前記芳香族ジエステル(B)および前記フタル酸エステル(C)の質量比が、(脂肪族ジエステル(A)+芳香族ジエステル(B)):フタル酸エステル(C)=5:95~35:65を満たす塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物。
【請求項2】
前記炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸およびヘキサヒドロフタル酸からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物。
【請求項3】
前記炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールが、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、ノナノール、デカノール、2-プロピルヘプタノール、ウンデカノールおよびドデカノールからなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物。
【請求項4】
前記炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸が、安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸およびアニス酸からなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物。
【請求項5】
前記炭素原子数2~12のグリコールが、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびジプロピレングリコールからなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物。
【請求項6】
前記フタル酸エステル(C)が、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ-2-プロピルヘプチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)およびイソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)からなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物及び塩化ビニル樹脂を含有するプラスチゾル。
【請求項8】
前記塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して10~150質量部の範囲である請求項7に記載のプラスチゾル。
【請求項9】
請求項に記載のプラスチゾルを用いた塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物、プラスチゾル及びその塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造においては、自動車を構成する鋼板および自動車部材の継ぎ目等に、防水および防錆のために、シーリング剤(所謂ボディシーラー)が塗布される。シーリング剤塗布後は、中塗り塗料および上塗り塗料がそれぞれ施され、熱硬化される。
【0003】
上記シーリング剤には、液体可塑剤中に塩化ビニル樹脂粒子を分散させた懸濁液であるプラスチゾルが使用されている。当該可塑剤としては、ジイソノニルフタレート(DINP)等のフタル酸エステルが使用されているが、可塑化性、耐寒性等が不十分であるという問題があった。当該問題を解決するため、可塑剤として長鎖アルキル基を有する芳香族化合物をさらに添加することが提案されている(例えば特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2006/077131号
【文献】国際公開1997/039060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩化ビニル樹脂プラスチゾルに、フタル酸エステルと長鎖アルキル基を有する芳香族化合物を加えた場合であっても、得られる耐寒性が不十分であるほか、可塑剤と塩化ビニル樹脂との相溶性が不十分であるために可塑剤のブリードが発生する問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、塩化ビニル樹脂プラスチゾルに優れた可塑化性と耐寒性を与えることができ、非ブリード性に優れる塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、フタル酸エステルに特定の脂肪族ジエステルと芳香族ジエステルを特定量加えることで、塩化ビニル樹脂プラスチゾルに優れた可塑化性と耐寒性を与え、可塑剤自体は非ブリード性に優れる塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールとの脂肪族ジエステル(A)と、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸と炭素原子数2~12のグリコールとの芳香族ジエステル(B)と、フタル酸エステル(C)とを含有する塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物であって、前記脂肪族ジエステル(A)と前記芳香族ジエステル(B)の質量比が、脂肪族ジエステル(A):芳香族ジエステル(B)=65:35~95:5を満たし、前記脂肪族ジエステル(A)、前記芳香族ジエステル(B)および前記フタル酸エステル(C)の質量比が、(脂肪族ジエステル(A)+芳香族ジエステル(B)):フタル酸エステル(C)=5:95~35:65を満たす塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、塩化ビニル樹脂プラスチゾルに優れた可塑化性と耐寒性を与えることができ、非ブリード性に優れる塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
[塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物]
本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物(以下、「本発明の可塑剤組成物」という場合がある)は、炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールとの脂肪族ジエステル(A)と、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸と炭素原子数2~12のグリコールとの芳香族ジエステル(B)と、フタル酸エステル(C)とを含有する。
以下、本発明の可塑剤組成物が含有する各成分について説明する。
【0012】
(脂肪族ジエステル(A))
脂肪族ジエステル(A)は、炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールのジエステルである。
脂肪族ジエステル(A)は、本発明の可塑剤組成物の非ブリード性を高めることができる。
【0013】
前記炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸は、好ましくは炭素原子数2~12のアルキレンジカルボン酸であり、より好ましくは炭素原子数4~12のアルキレンジカルボン酸であり、さらに好ましくは炭素原子数5~11のアルキレンジカルボン酸である。
【0014】
前記炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。これらのうち、好ましくはアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸であり、より好ましくはアジピン酸、セバシン酸であり、さらに好ましくはアジピン酸である。
【0015】
前記炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールは、好ましくは炭素原子数6~18の脂肪族モノアルコールであり、より好ましくは炭素原子数7~13の脂肪族モノアルコールである。
【0017】
前記炭素原子数4~18の脂肪族モノアルコールとしては、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、ノナノール、デカノール、2-プロピルヘプタノール、ウンデカノール、ドデカノール等が挙げられる。
【0018】
前記炭素原子数4~18のモノアルコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
脂肪族ジエステル(A)は、好ましくは下記一般式(A-1)で表される化合物である。
【0020】
【化1】
(前記式(A-1)中、
Aは炭素原子数2~10のアルキレン基であり、
11及びR12は、それぞれ独立に、炭素原子数4~18のアルキル基である。)
【0021】
前記一般式(A-1)において、Aは脂肪族ジカルボン酸残基に対応し、R11及びR12はそれぞれ脂肪族モノアルコール残基に対応する。
ここで「カルボン酸残基」とは、カルボン酸が有するカルボキシル基を除いた残りの有機基を示すものである。尚、「カルボン酸残基」の炭素原子数については、カルボキシ基中の炭素原子は含まないものとする。また、「アルコール残基」とは、アルコールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
【0022】
本発明の可塑剤組成物に含まれる脂肪族ジエステル(A)は、1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0023】
脂肪族ジエステル(A)は、例えば脂肪族ジカルボン酸と脂肪族モノアルコールを脱水縮合反応させて得られるものであり、公知の方法により製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0024】
(芳香族ジエステル(B))
芳香族ジエステル(B)は、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸と炭素原子数2~12のグリコールのジエステルである。
【0025】
前記炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、アニス酸等が挙げられる。これのうち、好ましくは安息香酸である。
【0026】
前記炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記炭素原子数2~12のグリコールは、好ましくは炭素原子数2~12のアルキレングリコール又は炭素原子数2~12のオキシアルキレングリコールである。
【0028】
前記炭素原子数2~12のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等が挙げられる。
【0029】
前記炭素原子数2~12のアルキレングリコールは、好ましくは炭素原子数3~10のアルキレングリコールであり、より好ましくは炭素原子数3~6のアルキレングリコールであり、さらに好ましくは1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールである。
【0030】
前記炭素原子数2~12のオキシアルキレングリコールは、例えば前記炭素原子数2~12のアルキレングリコールの炭素原子の1つを酸素原子に置き換えたものであり、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
前記炭素原子数2~12のオキシアルキレングリコールは、好ましくは炭素原子数3~10のオキシアルキレングリコールであり、より好ましくは炭素原子数4~10のオキシアルキレングリコールであり、さらに好ましくはジエチレングリコール又はジプロピレングリコールである。
【0031】
前記炭素原子数2~12のグリコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
芳香族ジエステル(B)は、好ましくは下記一般式(B-1)で表される化合物である。
【0033】
【化2】
(前記式(B-1)中、
Gは、炭素原子数2~12のアルキレン基又は炭素原子数2~12のオキシアルキレン基である。)
【0034】
前記一般式(B-1)において、Gはグリコール残基に対応する。
ここで「グリコール残基」とは、グリコールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
【0035】
本発明の可塑剤組成物に含まれる芳香族ジエステル(B)は、1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0036】
芳香族ジエステル(B)は、例えば芳香族モノカルボン酸とグリコールを脱水縮合反応させて得られるものであり、公知の方法により製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0037】
(フタル酸エステル(C))
フタル酸エステル(C)は、例えば下記一般式(C-1)で表される化合物である。
【0038】
【化3】
(前記式(C-1)中、
31およびR32は、それぞれ独立に、炭素原子数1~15のアルキル基である。)
【0039】
フタル酸エステル(C)としては、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジ-2-プロピルヘプチル(DPHP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)、イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等が挙げられる。
【0040】
本発明の可塑剤組成物に含まれるフタル酸エステル(C)は、1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0041】
フタル酸エステル(C)は、例えばフタル酸と脂肪族モノアルコールを脱水縮合反応させて得られるものであり、公知の方法により製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0042】
本発明の可塑剤組成物は、脂肪族ジエステル(A)と、芳香族ジエステル(B)と、フタル酸エステル(C)とを含有すればよく、脂肪族ジエステル(A)と、芳香族ジエステル(B)と、フタル酸エステル(C)とから実質的になってもよい。
ここで「実質的になる」とは、本発明の可塑剤組成物における脂肪族ジエステル(A)、芳香族ジエステル(B)およびフタル酸エステル(C)の含有割合が、例えば90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上又は100質量%であることを意味する。
【0043】
本発明の可塑剤組成物において、脂肪族ジエステル(A)と芳香族ジエステル(B)の質量比は、脂肪族ジエステル(A):芳香族ジエステル(B)=65:35~95:5を満たし、好ましくは脂肪族ジエステル(A):芳香族ジエステル(B)=70:30~90:10を満たす。
脂肪族ジエステル(A)と芳香族ジエステル(B)の質量比が上記を満たすことで、後述する本発明のプラスチゾルの粘度安定性を高めることができる。
【0044】
本発明の可塑剤組成物において、脂肪族ジエステル(A)および芳香族ジエステル(B)の合計質量と、フタル酸エステル(C)の質量との質量比が、(脂肪族ジエステル(A)+芳香族ジエステル(B)):フタル酸エステル(C)=5:95~35:65を満たし、好ましくは(脂肪族ジエステル(A)+芳香族ジエステル(B)):フタル酸エステル(C)=10:90~30:70を満たす。
【0045】
[プラスチゾル]
本発明のプラスチゾルは、本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物および塩化ビニル樹脂を含有する。
【0046】
前記塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニリデンの単独重合体、塩化ビニルを必須成分とする共重合体、塩化ビニリデンを必須成分とする共重合体等を含む。
【0047】
塩化ビニル樹脂が、塩化ビニルを必須成分とする共重合体又は塩化ビニリデンを必須成分とする共重合体である場合、共重合されうるコモノマーとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル;ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル;ジブチルフマレート等のフマル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ジヒドロキシエチルメタクリルアミド等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルアミド;アクリロニトリル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0048】
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、耐チッピング性等の物性の観点から、好ましくは500~2,500の範囲であり、より好ましくは800~2,300の範囲である。
【0049】
プラスチゾルとする塩化ビニル樹脂は、通常は微粒子状であり、その平均粒径は、例えば0.1~10μmの範囲であり、好ましくは0.1~5μmの範囲であり、より好ましくは0.1~2μmの範囲である。
【0050】
塩化ビニル樹脂は、公知の方法で製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0051】
本発明のプラスチゾルにおける本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物の含有量は、塩化ビニル樹脂との相溶性等の観点から、塩化ビニル樹脂100質量部に対して好ましくは10~150質量部の範囲であり、より好ましくは30~120質量部の範囲であり、さらに好ましくは40~110質量部の範囲であり、特に好ましくは50~100質量部の範囲である。
【0052】
本発明のプラスチゾルは、塩化ビニル樹脂と本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物を含有すればよく、本発明の効果を損なわない範囲で本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物以外の可塑剤(その他可塑剤)、その他の添加剤等を含有してもよい。
【0053】
前記その他可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル;ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル(TOPM)等のピロメリット酸エステル;アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)等の脂肪族二塩基酸エステル;リン酸トリ-2-エチルヘキシル(TOP)、リン酸トリクレジル(TCP)等のリン酸エステル;ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアルキルエステル;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとのポリエステル化によって合成された分子量800~4,000のポリエステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化エステル;ヘキサヒドロフタル酸ジイソノニルエステル等の脂環式二塩基酸;ジカプリン酸1.4-ブタンジオール等の脂肪酸グリコールエステル;アセチルクエン酸トリブチル(ATBC);パラフィンワックスやn-パラフィンを塩素化した塩素化パラフィン;塩素化ステアリン酸エステル等の塩素化脂肪酸エステル;オレイン酸ブチル等の高級脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0054】
本発明のプラスチゾルに前記その他の可塑剤を用いる場合、当該その他の可塑剤の含有量としては、本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤100質量部に対して例えば10~300質量部の範囲であり、好ましくは20~200質量部の範囲である。
尚、本発明の可塑剤組成物を用いることで可塑化性能は十分得られるので、本発明のプラスチゾルは、前記その他可塑剤を含まないプラスチゾルとしてもよい。
【0055】
前記その他添加剤としては、例えば充填剤が挙げられる。
【0056】
前記充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、グラファイト、タルク、クレー、硝子フレーク、硝子ビーズ、ヒル石、カオリナイト、ワラストナイト、シリカ、珪藻土、石膏、セメント、転炉スラグ、シラス、ゼオライト、セルロース粉、粉末ゴム、ゾノライト、チタン酸カリウム、ベントナイト、窒化アルミ、窒化珪素、亜鉛華、酸化チタン、酸化カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム等が挙げられる。
炭酸カルシウムウィスカ、セラミック短繊維、ロックウール短繊維、ガラスファイバー短繊維、チタン酸カリウム短繊維、ケイ酸カルシウム短繊維、アルミニウムシリケート、カーボンファイバー短繊維、アラミドファイバー短繊維、セピオライト等の繊維状充填材;ガラスバルーン、シリカバルーン、樹脂バルーン、炭素無機中空球等の中空状充填材;塩化ビニリデン、アクリルニトリル等の有機合成樹脂からなるプラスチックバルーン等の有機中空状充填材;アルミニウムフィラー等のメタリックフィラー等も充填剤として使用できる。
【0057】
本発明のプラスチゾルにおける充填剤の含有量は、用途に応じて適宜設定すればよいが、例えば塩化ビニル樹脂100質量部に対して50~800質量部の範囲である。
【0058】
その他添加剤は充填剤に限定されず、必要に応じて接着性付与剤、粘度調整剤、安定剤、顔料、吸湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、希釈剤、硬化剤、レベリング剤、タレ止め剤、補助樹脂、有機溶剤、難燃剤、防錆剤、老化防止剤等を添加してもよい。
【0059】
本発明のプラスチゾルは、公知の方法で製造することができる。
例えば、本発明のプラスチゾルは、塩化ビニル樹脂、本発明の塩化ビニル樹脂用可塑剤組成物及び任意成分(前記その他可塑剤及び前記その他添加剤)をブレンダー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー等の混錬機を用いて混合することにより調製することができる。
【0060】
本発明のプラスチゾルを刷毛塗り、ローラー塗装、エアスプレー塗装、静電塗装、エアレススプレー塗装等の公知の塗装方法により、所望の場所に任意の厚さに塗布し、加熱等をすることで塗膜を形成することができる。
【0061】
本発明のプラスチゾルは、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、シーリング剤等として用いることができる。また、本発明のプラスチゾルは、雑貨、玩具、工業部品、電気部品等の成型品にも適用することができる。
本発明のプラスチゾルを紙布などに適用すれば、人造皮革、敷物、壁紙、衣料、防水シート等になり、金属板に適用すれば防蝕性金属板とすることができる。
【0062】
本発明のプラスチゾルは自動車に好適に使用でき、具体的には自動車の床裏部、ホイルハウス部、フロント部、リアフェンダー部、フロントエプロン部、サイドシル部(ロッカーパネル部)等に好適に塗布適用される。また、車体を構成する鋼板の接合部、継ぎ目、エッジ部等にも好適に塗布適用される。
【実施例
【0063】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0064】
本願実施例において、酸価及び粘度の値は、下記方法により評価した値である。
<酸価の測定方法>
JIS K0070:1992に準じた方法により測定した。
<粘度の測定方法>
JIS K6901:1986に準じた方法により測定した。
【0065】
(合成例1:芳香族ジエステルPGDBの合成)
反応容器に、安息香酸(Kalama社製)900g(7.38モル)、1,2-プロピレングリコール(旭硝子株式会社製)322g(4.24モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.373gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温した。酸価が2以下になるまで230℃で加熱を続け、生成する水を連続的に除去した。
反応後、230~200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧留去することによって、芳香族ジエステルであるプロピレングリコールジベンゾエート(PGDB、酸価0.02、粘度75mPa・s(25℃))を949g得た。
【0066】
(合成例2:芳香族ジエステルDEGDBの合成)
反応容器に、安息香酸(Kalama社製)783g(6.42モル)、ジエチレングリコール(三菱ケミカル株式会社製)374g(3.53モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.347gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温した。酸価が2以下になるまで230℃で加熱を続け、生成する水を連続的に除去した。
反応後、230~200℃で未反応のジエチレングリコールを減圧留去することによって、芳香族ジエステルであるジエチレングリコールジベンゾエート(DEGDB、酸価0.02、粘度77mPa・s(25℃))を943g得た。
【0067】
(合成例3:芳香族ジエステルDPGDBの合成)
反応容器に、安息香酸(Kalama社製)780g(6.39モル)、ジプロピレングリコール(旭硝子株式会社製)471g(3.51モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.378gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温した。酸価が2以下になるまで230℃で加熱を続け、生成する水を連続的に除去した。
反応後、230~200℃で未反応のジプロピレングリコールを減圧留去することによって、芳香族ジエステルであるジプロピレングリコールジベンゾエート(DPGDB、酸価0.01、粘度140mPa・s(25℃))を957g得た。
【0068】
(実施例1-9および比較例1-6:塩化ビニル樹脂プラスチゾルの調製と評価)
塩化ビニル樹脂プラスチゾルの調製にあたって、下記可塑剤成分を準備した:
DOA :アジピン酸ジ2-エチルヘキシル
DINA :アジピン酸ジイソノニル
DOS :セバシン酸ジ2-エチルヘキシル
PGDB :プロピレングリコールジベンゾエート
DPGDB:ジプロピレングリコールジベンゾエート
DEGDB:ジエチレングリコールジベンゾエート
IDB :イソデシルベンゾエート
DINP :フタル酸ジイソノニル
【0069】
上記可塑剤成分において、DOAはDIC株式会社製のモノサイザーW-240であり、DINAはDIC株式会社製のモノサイザーW-242であり、DOSは、DIC株式会社製のモノサイザーW-280であり、DINPは新日本理化株式会社製のサンソサイザーDINPであり、IDBはエクソンモービル社製のJayflex MB-10である。
【0070】
塩化ビニル樹脂(重合度1,550、ZEST P21、新第一塩ビ株式会社製)100質量部、表1および2に示す可塑剤成分を合計100質量部および充填剤(グレッグ ML-610(カルシウム/亜鉛系複合安定剤)、日辰貿易株式会社製)3質量部を混合し、混合撹拌機を用いて撹拌回転数1100rpmで4分間の条件で混合撹拌を行い、減圧下静置脱泡を30分間実施して、ペーストゾル状の塩化ビニル樹脂組成物(塩化ビニル樹脂プラスチゾル)をそれぞれ調製した。
得られた塩化ビニル樹脂プラスチゾルについて以下の評価を行った。得られた結果を表1および2に示す。
【0071】
(粘度安定性の評価)
塩化ビニル樹脂プラスチゾルの粘度安定性を、B型回転粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、JIS K7117-1:1999に従って評価した。
具体的には塩化ビニル樹脂プラスチゾルの調製直後の粘度をBM型粘度計(ローターNo.3で12rpm、測定温度25℃)を用いて測定し、初期ゾル粘度とした。初期ゾル粘度測定後、25℃7日間の条件で静置保管し、再度同じ方法で7日後にゾル粘度を測定した(7日後ゾル粘度)。初期ゾル粘度の値と7日後のゾル粘度の値を用いて増粘率(7日後ゾル粘度/初期ゾル粘度)を算出して、下記の基準で粘度安定性を評価した。
○:増粘率が1.3倍未満
×:増粘率が1.3倍以上
【0072】
(可塑剤の可塑化性能の評価)
塩化ビニル樹脂プラスチゾルをガラス板上に1mm厚でコーティングした後、オーブン(ワーナーマチスAG製、LTF-ST)を用いて140℃で25分間焼き付けを実施し、1.0mm厚のシートを作製した。
【0073】
得られたシートについて、JIS K6251:2010に従って100%モジュラス(伸び100%時の引張応力)及び破断伸び率を評価した。具体的には、1.0mm厚のシートを用いて、下記条件にて引張試験を実施し、100%モジュラス及び破断伸び率を評価した。
尚、破断伸び率は、1.0mm厚シートが引張破断した時のチャック間距離から初期のチャック間距離20mmを引いた値をチャック間距離20mmで除して百分率で表したものである。
測定機器 :テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製)
サンプル形状 :ダンベル状3号形
チャック間距離:20mm
引張速度 :200mm/分
測定雰囲気 :温度23度、湿度50%
【0074】
100%モジュラスの値が低いほど、塩化ビニル樹脂を可塑化させる効果が高いことを示す。また、破断伸び率が高いほど、塩化ビニル樹脂を可塑化させる効果が高いことを示す。
【0075】
(成形品の低温柔軟性の評価)
可塑化性能の評価と同じ方法で1.0mm厚のシートを作製した。
得られたシートについて、JIS K6773:2007に規定される試験方法に準じて試験片を作製し、クラッシュバーグ柔軟温度測定試験機を用いて柔軟温度(単位:℃)を評価した。柔軟温度が低いほど、耐寒性に優れることを表す。
【0076】
(塩化ビニル樹脂組成物のゲル化性の評価)
レオメータ(Thermo社製「HAAKE RS600」)を用い、周波数1Hz、歪み1%および昇温4℃/分の条件で、塩化ビニル樹脂組成物の動的粘弾性測定を行なった。貯蔵弾性率G’が最大値となる時の温度から、以下の基準でゲル化性を評価した:
○:貯蔵弾性率G’が最大値となる時の温度が140℃未満
×:貯蔵弾性率G’が最大値となる時の温度が140℃以上
【0077】
(可塑剤の相溶性の評価)
可塑化性能の評価と同じ方法で1.0mm厚のシートを作製した。このシートから5cm×5cmの大きさに切断した1.0mm厚のシートを2枚作製した。作製した2枚のシートを重ね、70℃相対湿度95%の条件下で30日間放置した。その後、シートの表面及びシート同士が重なっている面の状態を下記評価基準で評価した。
〇:シートの表面及びシート同士が重なっている面を目視で確認し、粉状や粘性状等の異物(ブリード)が確認できず、且つ、シートの表面及びシート同士が重なっている面を指で触れてもブリードが確認できない。
×:シートの表面及びシート同士が重なっている面を目視で確認し、ブリードが確認できる、または、シートの表面及びシート同士が重なっている面を指で触れてブリードが確認できる。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1および表2から、可塑剤成分が脂肪族ジエステルを含むものの芳香族ジエステルを含まない比較例2では、ゲル化が不十分になってしまっている。一方、可塑剤成分が芳香族ジエステルを含むものの脂肪族ジエステルを含まない比較例3では、粘度安定性が得られていない。また、比較例4および5では、可塑剤成分が脂肪族ジエステルおよび芳香族ジエステルの両方を含むものの、芳香族ジエステルの量が多いために粘度安定性が得られていない。比較例6は可塑剤成分に芳香族モノエステルを含むが相溶性が十分ではなくブリードが発生している。
一方、実施例1-9は、本発明の可塑剤組成物を含まない比較例1と比べて可塑化性および耐寒性が良好であることが確認され、また、芳香族モノエステルを用いた比較例6に比べても可塑化性、耐寒性および相溶性に優れることが分かる。