IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧

特許7384418硬化性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法
<>
  • 特許-硬化性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法 図1
  • 特許-硬化性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法 図2
  • 特許-硬化性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/32 20060101AFI20231114BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20231114BHJP
   C08G 18/16 20060101ALI20231114BHJP
   C08G 18/30 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08G18/32 003
C08G18/08 038
C08G18/16
C08G18/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020539519
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033585
(87)【国際公開番号】W WO2020045458
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018159767
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/077862(WO,A1)
【文献】特開2017-155204(JP,A)
【文献】特開2013-076000(JP,A)
【文献】特開2013-139566(JP,A)
【文献】特開昭52-151172(JP,A)
【文献】特開2016-050303(JP,A)
【文献】Cyclic Guanidines as Efficient Organocatalysts for the Synthesis of Polyurethanes,Macromolecules,2012年02月21日,45(5),2249-2256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能イソシアネート化合物と、
多価アルコール及びエポキシ化合物からなる群より選択される化合物と、
塩基増殖剤と、
塩基発生剤と、
を含有する硬化性組成物であって、前記塩基増殖剤の前記硬化性組成物中における含有量が、前記多価アルコール及び前記エポキシ化合物の合計量に対して、3質量%~15質量%である、
硬化性組成物
【請求項2】
前記塩基増殖剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含む請求項1に記載の硬化性組成物。
【化1】


式中、Gは、有機基を表し、Xは、下記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基を表す。
【化2】



式中、R11、R12、R13、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R43及びR44は、それぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表す。R11、R12及びR13のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R21、R22、R23及びR24のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R31、R32及びR33のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R41、R42、R43及びR44のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよい。*は、炭素原子と結合する結合手を表す。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1)-Aで表される化合物及び下記一般式(1)-Bで表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む請求項2に記載の硬化性組成物。
【化3】


式中、Rは有機基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。Xは、それぞれ独立に、上記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基を表す。R及びRの少なくとも一方は、有機基を表し、R及びRが有機基である場合、互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項4】
前記塩基発生剤が、光照射又は加熱により塩基を発生する化合物である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の硬化性組成物が硬化した硬化物。
【請求項6】
厚みが1×10-3m以上である請求項に記載の硬化物。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の硬化性組成物にエネルギーを付与し、生成した塩基を触媒としてウレタン結合を形成する工程を含む硬化物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の硬化性組成物にエネルギーを付与することにより、塩基発生剤から塩基を生成し、かつ、塩基増殖剤から塩基を生成し、
生成した塩基の一部は、多価アルコールの水酸基又はエポキシ化合物のエポキシ基を活性化し、前記塩基増殖剤からの塩基の生成を促進し、
生成した塩基の他の一部を触媒として、多価イソシアネート化合物と多価アルコールとのウレタン結合形成反応を開始し又は促進し、反応硬化物であるポリウレタンを製造する、硬化物の製造方法。
【請求項9】
前記エネルギーの付与が、光照射及び加熱の少なくとも一方である請求項又は請求項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項10】
前記硬化性組成物が、厚みが1×10-3m以上の膜である請求項~請求項のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硬化性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光もしくは放射線等の活性エネルギー線又は熱等のエネルギーの付与によって硬化する硬化性組成物は、硬化性インキ、印刷版、フォトレジスト、硬化性接着剤等の用途に広く用いられるに至っている。硬化性組成物のうち、活性エネルギー線による重合硬化及び現像処理が可能な組成物としては、エネルギーの付与により活性種を放出する光重合開始剤を含有する組成物が知られている。
【0003】
光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により発生する活性種の違いから、ラジカル発生剤、酸発生剤、又は塩基発生剤に分けられる。
ラジカル種を放出するラジカル発生剤は、組成物中でラジカル種を発生して不飽和二重結合を含むモノマー等に作用して付加重合を促進するラジカル重合系とする場合に用いられる。ラジカル発生剤は、組成物における硬化速度が速く、硬化後にラジカル種が残存しない等の利点がある一方、酸素による重合阻害を受けやすい性質がある。そのため、膜の硬化にあたり、例えば雰囲気中の酸素濃度を低くしたり、酸素を遮断する層等を付設する等の工夫が不可欠であるという欠点がある。
また、酸を放出する酸発生剤は、組成物中で酸を発生してモノマー等に作用して重合反応を促進するカチオン重合系とする場合に用いられる。酸発生剤は、ラジカル発生剤とは異なり、酸素による重合阻害を受けにくいという利点がある一方、活性種が酸であるため、酸による腐食又は樹脂の変性を懸念して、金属を利用した材料又は部位には適用できない欠点がある。
【0004】
塩基を放出する塩基発生剤は、組成物中で塩基を発生してモノマー等に作用して重合反応を促進するアニオン重合系とする場合に用いられる。塩基発生剤は、上記のラジカル発生剤及び酸発生剤とは異なり、酸素による重合阻害、又は活性種である酸が系中に残存することによる腐食又は樹脂の変性といった状況を招来しにくいことから、塩基発生剤を用いた重合系が注目されている。塩基発生剤の例として、特開2001-513765号公報、国際公開第2010/064631号、又は国際公開第2010/064632号に開示されたものがある。
上記のほか、グアニジン又はグアニジン型の強塩基とカルボン酸との塩であってエネルギーの付与によりグアニジン型の強塩基を放出するイオン型の塩基発生剤(例えば、K.Arimitsu, R.Endo, Chem.Mater.2013, 25, 4461-4463.)、並びに第1級アミン又は第2級アミンを放出するノニオン型の塩基発生剤が知られている(K.Arimitsu, R.Endo, Chem.Mater.2013, 25, 4461-4463.; J.F.Cameron, J.M.J.Frechet, J.Am.Chem.Soc.1991, 113, 4303.; M.Shirai, M.Tsunooka, Prog.Polym.Sci.1996, 21, 1.参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塩基発生剤は、酸発生剤と比較すると、概して硬化時の感度(即ち、硬化性)が低いという課題がある。塩基発生剤は、既述のようにラジカル発生剤又は酸発生剤とは異なる利点を有しているものの、感度が低いと、薄膜の硬化には使用可能であっても、厚膜への適用が困難となりやすく、実用性に乏しいという課題がある。
また、硬化性組成物は、コンクリート等の構造材料に代表される補強材料、成型材料等への用途が期待されており、特に、厚みがmm単位ないし数十mm単位の厚膜とした場合にも良好な硬化性を示すことが求められている。
【0006】
本開示は、上記に鑑みなされたものである。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、ラジカル重合又はカチオン重合における欠点を回避し、硬化感度に優れたアニオン重合系の硬化性組成物を提供することにある。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、良好に硬化された硬化物を提供することにある。
更に、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、ラジカル重合又はカチオン重合における欠点を回避しつつ、ウレタン結合形成反応を感度良く行える硬化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 多官能イソシアネート化合物と、多価アルコール及びエポキシ化合物からなる群より選択される化合物と、塩基増殖剤と、を含有する硬化性組成物である。
<2> 前記塩基増殖剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含む前記<1>に記載の硬化性組成物である。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、Gは、有機基を表し、Xは、下記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基を表す。
【0010】
【化2】
【0011】
式中、R11、R12、R13、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R43及びR44は、それぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表す。R11、R12及びR13のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R21、R22、R23及びR24のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R31、R32及びR33のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R41、R42、R43及びR44のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよい。*は、炭素原子と結合する結合手を表す。
【0012】
<3> 前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1)-Aで表される化合物及び下記一般式(1)-Bで表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む前記<2>に記載の硬化性組成物である。
【0013】
【化3】
【0014】
式中、Rは有機基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。Xは、それぞれ独立に、上記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基を表す。R及びRの少なくとも一方は、有機基を表し、R及びRが有機基である場合、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0015】
<4> 更に、塩基発生剤を含有する前記<1>~前記<3>のいずれか1つに記載の硬化性組成物であるである。
<5> 前記塩基発生剤が、光照射又は加熱により塩基を発生する化合物である前記<4>に記載の硬化性組成物である。
<6> 前記<1>~前記<5>のいずれか1つに記載の硬化性組成物が硬化した硬化物である。
<7> 厚みが1×10-3m以上である前記<6>に記載の硬化物である。
<8> 前記<1>~前記<5>のいずれか1つに記載の硬化性組成物にエネルギーを付与し、生成した塩基を触媒としてウレタン結合を形成する工程を含む硬化物の製造方法である。
<9> 前記<4>又は前記<5>に記載の硬化性組成物にエネルギーを付与することにより、塩基発生剤から塩基を生成し、かつ、塩基増殖剤から塩基を生成し、
生成した塩基の一部は、多価アルコールの水酸基又はエポキシ化合物のエポキシ基を活性化し、前記塩基増殖剤からの塩基の生成を促進し、
生成した塩基の他の一部を触媒として、多価イソシアネート化合物と多価アルコールとのウレタン結合形成反応を開始し又は促進し、反応硬化物であるポリウレタンを製造する、硬化物の製造方法である。
<10> 前記エネルギーの付与が、光照射及び加熱の少なくとも一方である前記<8>又は前記<9>に記載の硬化物の製造方法である。
<11> 前記硬化性組成物が、厚みが1×10-3m以上の膜である前記<8>~前記<10>のいずれか1つに記載の硬化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、ラジカル重合又はカチオン重合における欠点を回避し、硬化感度に優れたアニオン重合系の硬化性組成物が提供される。
本発明の他の一実施形態によれば、良好に硬化された硬化物が提供される。
本発明の他の一実施形態によれば、ラジカル重合又はカチオン重合における欠点を回避しつつ、ウレタン結合形成反応を感度良く行える硬化物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例1の硬化性の評価試験の結果を表す写真である。
図2図2は、比較例1の硬化性の評価試験の結果を表す写真である。
図3図3は、参考例におけるFT-IRスペクトルの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の硬化性組成物、並びに、硬化物及びその製造方法について詳細に説明する。
【0019】
なお、本明細書中に記載の「~」の表記は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0020】
また、本明細書中において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に相当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0021】
本明細書において、「工程」の語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0022】
<硬化性組成物>
本開示の硬化性組成物は、多官能イソシアネート化合物と、多価アルコール及びエポキシ化合物からなる群より選択される化合物と、塩基増殖剤と、を含有し、好ましくは、更に塩基発生剤を含有する。また、本開示の硬化性組成物は、必要に応じて、更に、着色剤、又は添加剤等の他の成分を含有することができる。
【0023】
従来から、ラジカル重合系の硬化性組成物に用いられるラジカル発生剤は、酸素による重合阻害を受けやすい欠点があり、カチオン重合系に用いられる酸発生剤は、活性種である酸による金属等の腐食又は樹脂の変性が懸念され、金属を利用した材料又は部位には適用できない欠点がある。
これに対して、塩基発生剤は、ラジカル発生剤又は酸発生剤が有する欠点がないため、従来ラジカル発生剤又は酸発生剤が用いられてきた分野への適用が期待される。しかしながら、塩基発生剤は、感度が低く、満足のいく硬化性が得られない場合があるという欠点がある。硬化時の感度(硬化性)が従来以上に改善されれば、塩基性発生剤を用いたアニオン重合系による利用分野が著しく拡がることが予想される。
【0024】
本開示の硬化性組成物は、アニオン重合系の硬化性組成物の感度(硬化性)を改善したものである。
具体的には、本開示の硬化性組成物は、多官能イソシアネート化合物と多価アルコール及びエポキシ化合物からなる群より選択される化合物とに加え、塩基増殖剤を含有する。
塩基増殖剤が含有されることで、後述の「硬化物の製造方法」の項に示すスキームで表されるように、組成物中で生成された塩基が、多価アルコール及び/又はエポキシ化合物に作用し、塩基増殖剤からの塩基の生成が促進される。すなわち、生成された塩基の一部は、多価アルコールの水酸基及び/又はエポキシ化合物のエポキシ基を活性化し、塩基増殖剤からの塩基の生成反応を促進する。そして、生成された塩基の一部は、多価イソシアネート化合物と多価アルコールとのウレタン結合形成反応における触媒として機能する。塩基の生成が効率良く行われれば、ウレタン結合形成反応が促進され、反応感度を向上させることができる。
本開示の硬化性組成物では、組成物中で塩基が連鎖的に生成されるので、ウレタン形成反応がより速やかに(つまり感度良く)進行し、反応硬化物であるポリウレタンの製造が良好に行える。特に、硬化性組成物を例えば厚膜(例えば、0.5×10-3m以上の厚み)の膜状に形成した際の硬化性(ウレタン形成反応性)を向上し、膜の深部にまでウレタン結合形成反応を速やかに進行させることができる。
【0025】
(多官能イソシアネート化合物)
本開示の硬化性組成物は、多官能イソシアネート化合物の少なくとも一種を含有する。多官能イソシアネート化合物が多価アルコールと反応することでポリウレタンが形成される。
多官能イソシアネート化合物(以下、「ポリイソシアネート」ともいう。)には、脂肪族ポリイソシアネート及び芳香族ポリイソシアネート等が含まれる。ポリイソシアネートは、2官能のポリイソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートからなる群から選択される化合物を任意に選択することができる。
【0026】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、4-クロロキシリレン-1,3-ジイソシアネート、2-メチルキシリレン-1,3-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアネート等が挙げられる。
中でも、m-キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート(PDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好適に挙げられる。
【0028】
上記では、2官能である脂肪族ポリイソシアネート及び芳香族ポリイソシアネートとしてジイソシアネート化合物を例示しているが、脂肪族ポリイソシアネート及び芳香族ポリイソシアネートとして、ジイソシアネート化合物から類推される3官能のトリイソシアネート化合物及び4官能のテトライソシアネート化合物も含まれる。
3官能以上のポリイソシアネートとしては、2官能の脂肪族イソシアネート化合物(分子中に2つのイソシアネート基を有する化合物)と分子中に3つ以上の活性水素基を有する化合物(3官能以上の例えばポリオール、ポリアミン又はポリチオール等)とのアダクト体(付加物)とした3官能以上のアダクト型イソシアネート化合物、2官能の脂肪族イソシアネート化合物の3量体であるビウレット型もしくはイソシアヌレート型イソシアネート化合物等が挙げられる。
【0029】
ポリイソシアネートの硬化性組成物中における含有量としては、硬化性組成物の全質量に対して、90質量%~10質量%が好ましく、80質量%~50質量%がより好ましい。
【0030】
(多価アルコール)
本開示の硬化性組成物は、後述のエポキシ化合物を含有せず又は含有すると共に、多価アルコール(以下、「ポリオール」ともいう。)の少なくとも一種を含有することができる。
【0031】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(重合度は2~5又は6以上でもよい。)、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(重合度は2~5又は6以上でもよい。)、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、グリセリン、ポリグリセリン(重合度は2~5又は6以上でもよい。)、ペンタエリスリトール、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンなどが挙げられる。
【0032】
ポリオールの硬化性組成物中における含有量としては、硬化性組成物の全質量に対して、90質量%~10質量%が好ましく、60質量%~20質量%がより好ましい。
【0033】
(エポキシ化合物)
本開示の硬化性組成物は、既述の多価アルコールを含有せず又は含有すると共に、エポキシ化合物の少なくとも一種を含有することができる。
【0034】
エポキシ化合物を用いることで、多価アルコールの含有量を減らすことができ、また必要により、多価アルコールを含有しない組成とすることが可能である。多価アルコールを含有する組成では、共存する塩基増殖剤との反応(エネルギー付与前のヒドロキシ基の反応)が進行しやすく、例えば長期保存した際の組成物の安定性が低下しやすい傾向がある。多価アルコールの一部又は全部をエポキシ化合物に代替することで、硬化性組成物の安定性をより高めることができ、硬化性組成物のポットライフをより向上させることができる。
【0035】
エポキシ化合物としては、1分子中に1以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限されるものではなく、単量体、オリゴマー及びポリマーから選択されるいずれの化合物でもよい。
エポキシ単量体の例としては、エチルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、2-エチルペンチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、及び以下に示す構造の化合物等の単量体、並びに、エポキシ樹脂等のポリマーを挙げることができる。
【0036】
【化4】

【0037】
また、エポキシ単量体には、上市されている市販品を用いてもよく、市販品の例としては、ナガセケムテックス株式会社のグリシジルエーテル(例:デナコールEX-946L、デナコールEX-991、デナコールEX-991L、デナコールEX-992L)、グリシジルエステル(例:デナコールEX-1111、デナコールEX-1112)等、阪本薬品工業株式会社のモノエポキシタイプ(例:BGE-C、BGE-R、PGE)、ポリエポキシタイプ(例:SR-NPG、SR-14BL、SR-16H、SR-TMP、SR-PG、SR-TPG、SR-GLG、SR-DGE、SR-4GL)等が挙げられる。
【0038】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラックグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂には、上市されている市販品を用いてもよく、市販品の例としては、三菱ケミカル株式会社のjER828、jER806等、新日鉄住友化学株式会社のYDPN-638等、ナガセケムテックス株式会社のポリブタジエン型エポキシ樹脂(例:デナレックスR15EPT、デナレックスFCA-061L、デナレックスFCA-061M)等が挙げられる。
【0039】
また、エポキシ化合物の他の例として、グリシジル基とヒドロキシ基とを有する化合物を挙げることができ、多価アルコールの代替化合物としてより好適である。具体的には、例えば、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0040】
エポキシ化合物の硬化性組成物中における含有量としては、硬化性組成物の全質量に対して、90質量%~10質量%が好ましく、60質量%~20質量%がより好ましい。
【0041】
(塩基増殖剤)
本開示の硬化性組成物は、塩基増殖剤(連鎖硬化剤)の少なくとも一種を含有する。
塩基増殖剤が含まれることにより、光又は熱等のエネルギーを付与した際、組成物中で塩基が連鎖的に生成されるので、ウレタン形成反応がより速やかに(つまり感度良く)進行する。結果、反応硬化物であるポリウレタンの製造が良好に行える。
【0042】
塩基増殖剤は、系内の塩基の作用で分解し、新たに塩基分子を発生する化合物である。このように、塩基による分解反応で新たに塩基を生成する自己触媒反応は、塩基増殖反応と呼ばれる。塩基増殖剤は、系内の塩基の作用で分解すること、その分解過程で塩基分子を新たに放出すること、及び塩基の非存在下では安定であることを満たすものが望ましい。塩基増殖剤は、その一定量に対してそれより少ない当量の塩基を作用させることで自己増殖的に分解し、最終的にその全量が分解し、その塩基増殖剤量に対応する多量の塩基を発生させることができる。
塩基増殖剤の例としては、分子内にカルバメート構造を有する化合物などを挙げることができる。カルバメート構造を有する化合物の場合、塩基として脂肪族アミンを生成する。また、塩基増殖剤は、多官能アミンを生成する化合物であってもよい。多官能アミンを生成する化合物は、硬化性の組成物の成分として好適である。塩基増殖剤の具体例としては、特開2000-330270号公報の段落0010~段落0032及び特開2006-20539の段落0116~段落0146に記載されている化合物などを挙げることができる。
なお、塩基増殖剤の詳細については、「光機能性高分子材料の新たな潮流-最新技術とその展望-」(市村國宏監修、シーエムシー出版、2008年)の記載を参照することができる。
【0043】
塩基増殖剤としては、下記一般式(1)で表される化合物が好適に挙げられる。
従来から知られている塩基発生剤は、光又は熱等のエネルギーを付与した際に塩基のみならず二酸化炭素(CO)等のガスを発生する傾向がある。これに対し、一般式(1)で表される塩基増殖剤は、組成物中の塩基によって多価アルコール及び/又はエポキシ化合物から生成した水酸基を活性化して分解し塩基を発生する一方、二酸化炭素等のガスを放出することがない。また、塩基を放出した後の残基は、硬化物の内部に取り込まれる。すなわち、塩基増殖剤は、作用を発現する上で二酸化炭素及び他の不要な低分子の分解物を発生しない利点がある。
【0044】
【化5】
【0045】
式中、Gは、有機基を表し、Xは、下記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基を表す。
【0046】
【化6】
【0047】
式中、R11、R12、R13、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R43及びR44は、それぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表す。R11、R12及びR13のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R21、R22、R23及びR24のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R31、R32及びR33のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよく、R41、R42、R43及びR44のうちの2種以上が炭化水素基である場合、2種以上の炭化水素基が相互に結合して環を形成していてもよい。*は、カルボニル基の炭素原子と結合する結合手を表す。
【0048】
一般式(1)で表される化合物は、X中の窒素原子とカルボニル基の炭素原子とが結合して形成されているカルボン酸アミド結合を有する化合物である。
また、一般式(1)で表される化合物は、構造中に存在するカルボニル基とXとの間の結合が特定の条件下で切断され、カルボニル基の炭素原子と結合していたX中の窒素原子が、水素原子と結合した構造の塩基性化合物(本明細書中では、単に「塩基」ともいう。)を生じるという特性を有する。本特性については後述する。
【0049】
一般式(1)で表される化合物は、後述するように、塩基の作用で塩基を発現する塩基変換作用を有すると共に、自己増殖的に塩基を生成する塩基増殖作用を有する。
【0050】
一般式(1)において、Gは、有機基である。
有機基としては、特に制限されるものではなく、構成原子として炭素原子を含む1価の基の中から適宜選択することができる。本開示では、本開示の効果をより効果的に奏する観点から、隣接するカルボニル基とエステル構造又はアミド構造を形成する有機基が好ましい。有機機が、隣接するカルボニル基とエステル構造又はアミド構造を形成する有機基である場合、例えば、隣接するカルボニル基とエステル構造又はアミド構造を形成する部分以外が、炭化水素基等を有する置換基であってもよい。
【0051】
有機機が、隣接するカルボニル基とエステル構造又はアミド構造を形成する有機基である場合、前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1)-Aで表される化合物及び下記一般式(1)-Bで表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0052】
【化7】
【0053】
式中、Rは有機基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。Xは、それぞれ独立に、上記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基を表す。R及びRの少なくとも一方は、有機基を表し、R及びRが有機基である場合、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0054】
一般式(1)中のG、一般式(1)-A中のR、又は一般式(1)-B中のR~Rおける有機基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。
ここで「炭化水素基が置換基を有する」とは、炭化水素基を構成する1個以上の水素原子が、水素原子以外の基(置換基)で置換されているか、又は炭化水素基を構成する1個以上の炭素原子が、若しくは前記炭素原子がこれに結合している1個以上の水素原子とともに、炭素原子又は1個以上の水素原子が結合している炭素原子とは異なる基(置換基)で置換されていることを意味する。そして、水素原子及び炭素原子がともに置換基で置換されていてもよい。
【0055】
前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基(アリール基)のいずれでもよく、1個以上の水素原子が芳香族炭化水素基で置換された脂肪族炭化水素基であってもよいし、環状の脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが縮環してなる多環状の炭化水素基であってもよい。
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。そして、前記アルキル基は、炭素数が1~20であることが好ましい。
【0056】
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、炭素数が1~20であることが好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0057】
環状のアルキル基としては、炭素数が3~20であることが好ましい。
環状のアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられ、さらに、これら環状のアルキル基の1個以上の水素原子が、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換する直鎖状、分岐鎖状及び環状のアルキル基としては、アルキル基として例示した上記のものが挙げられる。
【0058】
また、前記不飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。
環状の不飽和脂肪族炭化水素基の場合、単環状及び多環状のいずれでもよく、不飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は2~20が好ましい。
不飽和脂肪族炭化水素基の例としては、上記のアルキル基中の炭素原子間の1個以上の単結合(C-C)が、不飽和結合である二重結合(C=C)又は三重結合(C≡C)で置換されてなる基が挙げられる。
【0059】
前記不飽和脂肪族炭化水素基において、不飽和結合の数は1個のみでもよいし、2個以上でもよく、2個以上である場合、これら不飽和結合は二重結合のみでもよいし、三重結合のみでもよく、二重結合及び三重結合が混在していてもよい。
前記不飽和脂肪族炭化水素基において、不飽和結合の位置は特に限定されない。
【0060】
前記不飽和脂肪族炭化水素基で好ましいものとしては、例えば、前記不飽和結合が1個のものに相当する、直鎖状又は分岐鎖状のものであるアルケニル基及びアルキニル基、並びに環状のものであるシクロアルケニル基及びシクロアルキニル基が挙げられる。
前記アルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、2-プロペニル基(アリル基)、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0061】
前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、炭素数が6~20であることが好ましい。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基(ジメチルフェニル基)等が挙げられ、これらアリール基の1個以上の水素原子が、さらにこれらアリール基や、前記アルキル基で置換されたものも挙げられる。これら置換基を有するアリール基は、置換基も含めて炭素数が6~20であることが好ましい。
【0062】
前記炭化水素基のうち、1個以上の水素原子が芳香族炭化水素基(アリール基)で置換された脂肪族炭化水素基としては、例えば、水素原子の置換数が1であるものであれば、フェニルメチル基(ベンジル基)、2-フェニルエチル基(フェネチル基)等のアリールアルキル基(アラルキル基)が挙げられる。
【0063】
前記炭化水素基において、1個以上の水素原子が置換される置換基としては、例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロアリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、酸素原子(-O-)、シアノ基(-CN)、ハロゲン原子、ニトロ基、ハロアルキル基(ハロゲン化アルキル基)、水酸基(-OH)、メルカプト基(-SH)等が挙げられる。
【0064】
前記炭化水素基において、水素原子を置換する前記置換基は、1個のみでもよいし、2個以上でもよく、すべての水素原子が前記置換基で置換されていてもよい。
前記炭化水素基において、水素原子を置換する前記置換基が2個以上である場合、これら置換基は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。
【0065】
置換基である前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基等、前記アルキル基が酸素原子に結合してなる1価の基が挙げられる。
置換基である前記アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基(フェノキシ基)、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基等、前記アリール基が酸素原子に結合してなる1価の基が挙げられる。
【0066】
置換基である前記ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等、アミノ基(-NH)の2個の水素原子が、前記アルキル基で置換されてなる1価の基が挙げられる。前記ジアルキルアミノ基において、窒素原子に結合している2個のアルキル基は、互いに同一でも、異なっていてもよい。
置換基である前記ジアリールアミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ基、フェニル-1-ナフチルアミノ基等、アミノ基の2個の水素原子が、前記アリール基で置換されてなる1価の基が挙げられる。前記ジアリールアミノ基において、窒素原子に結合している2個のアリール基は、互いに同一でも、異なっていてもよい。
置換基である前記アルキルアリールアミノ基としては、例えば、メチルフェニルアミノ基等、アミノ基の2個の水素原子のうち、1個の水素原子が前記アルキル基で置換され、1個の水素原子が前記アリール基で置換されてなる1価の基が挙げられる。
【0067】
置換基である前記アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基(アセチル基)等、前記アルキル基がカルボニル基(-C(=O)-)に結合してなる1価の基が挙げられる。
置換基である前記アリールカルボニル基としては、例えば、フェニルカルボニル基(ベンゾイル基)等、前記アリール基がカルボニル基に結合してなる1価の基が挙げられる。
置換基であるヘテロアリールカルボニル基としては、えば、イミダゾリルカルボニル基、ピラゾリルカルボニル基、ピラジニルカルボニル基等、芳香族複素環基(ヘテロアリール基)とカルボニル基とが結合してなる1価の基が挙げられる。
【0068】
置換基である前記アルキルオキシカルボニル基としては、例えば、メチルオキシカルボニル基(メトキシカルボニル基)等、前記アルコキシ基がカルボニル基に結合してなる1価の基が挙げられる。
置換基である前記アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェニルオキシカルボニル基(フェノキシカルボニル基)等、前記アリールオキシ基がカルボニル基に結合してなる1価の基が挙げられる。
【0069】
置換基である前記アルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、メチルカルボニルオキシ基等、前記アルキル基がカルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)の炭素原子に結合してなる1価の基が挙げられる。
置換基である前記アリールカルボニルオキシ基としては、例えば、フェニルカルボニルオキシ基等、前記アリール基がカルボニルオキシ基の炭素原子に結合してなる1価の基が挙げられる。
【0070】
置換基である前記アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロプロピルチオ基等、前記アルキル基が硫黄原子に結合してなる1価の基が挙げられる。
置換基である前記アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、1-ナフチルチオ基、2-ナフチルチオ基等、前記アリール基が硫黄原子に結合してなる1価の基が挙げられる。
【0071】
置換基である前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子(-F)、塩素原子(-Cl)、臭素原子(-Br)、ヨウ素原子(-I)が挙げられる。
【0072】
置換基である前記ハロアルキル基としては、前記アルキル基の1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換されてなる基が挙げられる。
ハロアルキル基におけるハロゲン原子としては、置換基であるハロゲン原子として例示した上記のものが挙げられる。
ハロアルキル基におけるハロゲン原子の数は、特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよい。ハロアルキル基におけるハロゲン原子の数が2個以上である場合、これら複数個のハロゲン原子は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。ハロアルキル基は、アルキル基中のすべての水素原子がハロゲン原子で置換されたパーハロアルキル基であってもよい。
ハロアルキル基としては、例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
前記炭化水素基において、水素原子を置換する前記置換基の数は、置換可能な水素原子の数にもよるが、1~4個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1又は2個であることが特に好ましい。
【0074】
前記炭化水素基において、1個以上の炭素原子が、又は前記炭素原子がこれに結合している1個以上の水素原子とともに置換される置換基としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子が挙げられる。
【0075】
前記炭化水素基において、炭素原子又は水素原子が結合している炭素原子を置換する前記置換基は、1個のみでもよいし、2個以上でもよく、すべての炭素原子が単独で若しくは前記炭素原子に結合している水素原子とともに、置換基で置換されていてもよい。
前記炭化水素基において、炭素原子又は水素原子が結合している炭素原子を置換する前記置換基が2個以上である場合、これら置換基は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。
【0076】
ヘテロ原子で置換されている前記炭化水素基のうち、芳香族炭化水素基、すなわち、芳香族複素環基(ヘテロアリール基)としては、各種の芳香族複素環化合物から、その環骨格を構成する炭素原子又はヘテロ原子に結合している1個の水素原子を除いてなる基が挙げられる。
前記芳香族複素環化合物で好ましいものとしては、含硫黄芳香族複素環化合物(芳香族複素環骨格を構成する原子として1個以上の硫黄原子を有する化合物)、含窒素芳香族複素環化合物(芳香族複素環骨格を構成する原子として1個以上の窒素原子を有する化合物)、含酸素芳香族複素環化合物(芳香族複素環骨格を構成する原子として1個以上の酸素原子を有する化合物)、硫黄原子、窒素原子及び酸素原子から選択される互いに異なる2個のヘテロ原子を、芳香族複素環骨格を構成する原子として有する化合物が挙げられる。
【0077】
前記含硫黄芳香族複素環化合物としては、例えば、チオフェン、ベンゾチオフェン等が挙げられる。
前記含窒素芳香族複素環化合物としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、インダゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン等が挙げられる。
前記含酸素芳香族複素環化合物としては、例えば、フラン、ベンゾフラン(1-ベンゾフラン)、イソベンゾフラン(2-ベンゾフラン)等が挙げられる。
【0078】
上述の互いに異なる2個のヘテロ原子を、芳香族複素環骨格を構成する原子として有する化合物としては、例えば、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0079】
前記炭化水素基において、炭素原子又は水素原子が結合している炭素原子を置換する前記置換基の数は、置換可能な炭素原子にもよるが、1~3個であることが好ましく、1又は2個であることがより好ましい。
【0080】
上記のうち、一般式(1)におけるGとしては、アルキル基の1個の水素原子がカルボニル基で置換されたアルコキシ基、又はアリール基の1個の水素原子が置換基で置換された置換アリール基(好ましくは、ヘテロアリールカルボニル基で置換されたフェニル基)が好適に挙げられる。
Gがアルコキシ基である化合物のうち、一般式(1)-Aで表される化合物が好適である。
【0081】
一般式(1)-A及び一般式(1)-B中のR~Rにおける有機基としては、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアリールアルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよいアルキル基であることがより好ましい。
ここでの置換基は、炭化水素基が有するものとして説明した上記置換基と同様である。
中でも、R及びRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアリールアルキル基であって、かつ、Rが水素原子である場合が好ましく、R及びRが置換基を有していてもよいアルキル基であって、かつ、Rが水素原子である場合がより好ましい。
【0082】
次に、上記の一般式(1)、一般式(1)-A及び一般式(1)-BにおけるXについて説明する。
Xは、上記の一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14で表される基である。
また、符号*を付した結合は、Xの結合先である炭素原子、すなわち、一般式(1)中の、Gが結合しているカルボニル基中の炭素原子に対して形成されている。
【0083】
一般式(1)-11、一般式(1)-12、一般式(1)-13又は一般式(1)-14において、R11、R12、R13、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R43及びR44は、それぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基である。
すなわち、一般式(1)-11におけるR11、R12及びR13(以下、「R11~R13」と略記することがある)は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。
同様に、一般式(1)-12におけるR21、R22、R23及びR24(以下、「R21~R24」と略記することがある)は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。
同様に、一般式(1)-13におけるR31、R32及びR33(以下、「R31~R33」と略記することがある)は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。
同様に、一般式(1)-14におけるR41、R42、R43及びR44(以下、「R41~R44」と略記することがある)は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。
【0084】
11~R13、R21~R24、R31~R33、及びR41~R44における前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基(アリール基)のいずれでもよく、1個以上の水素原子が芳香族炭化水素基で置換された脂肪族炭化水素基であってもよいし、環状の脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが縮環してなる多環状の炭化水素基であってもよい。
【0085】
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。
【0086】
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。そして、前記アルキル基は、炭素数が1~20であることが好ましい。
【0087】
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1~20であることが好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0088】
環状のアルキル基は、炭素数が3~20であることが好ましい。
環状のアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられ、さらに、これら環状のアルキル基の1個以上の水素原子が、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換する直鎖状、分岐鎖状及び環状のアルキル基としては、アルキル基として例示した上記のものが挙げられる。
【0089】
また、不飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。
環状の不飽和脂肪族炭化水素基の場合、単環状及び多環状のいずれでもよく、不飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は2~20であることが好ましい。
不飽和脂肪族炭化水素基の例としては、上記のアルキル基中の炭素原子間の1個以上の単結合(C-C)が、不飽和結合である二重結合(C=C)又は三重結合(C≡C)で置換されてなる基が挙げられる。
前記不飽和脂肪族炭化水素基において、不飽和結合の数は1個のみでもよいし、2個以上でもよく、2個以上である場合、これら不飽和結合は二重結合のみでもよいし、三重結合のみでもよく、二重結合及び三重結合が混在していてもよい。
前記不飽和脂肪族炭化水素基において、不飽和結合の位置は特に限定されない。
【0090】
前記不飽和脂肪族炭化水素基で好ましいものとしては、例えば、前記不飽和結合が1個のものに相当する、直鎖状又は分岐鎖状のものであるアルケニル基及びアルキニル基、並びに環状のものであるシクロアルケニル基及びシクロアルキニル基が挙げられる。
前記アルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、2-プロペニル基(アリル基)、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0091】
前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、炭素数が6~20であることが好ましい。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基(ジメチルフェニル基)等が挙げられ、これらアリール基の1個以上の水素原子が、さらにこれらアリール基、前記アルキル基等で置換されたものも挙げられる。これら置換基を有するアリール基は、置換基も含めて炭素数が6~20であることが好ましい。
【0092】
一般式(1)-11中、R11、R12及びR13のうちの2種以上が炭化水素基である場合、これら炭化水素基は相互に結合して、これら炭化水素基が結合している炭素原子(イミダゾール骨格を構成している炭素原子)とともに、環を形成していてもよい。ここで、「2種以上の炭化水素基が相互に結合する」とは、R11~R13のうちの2種のみ又はすべて(3種)が炭化水素基であり、いずれか2種の炭化水素基のみが相互に結合する場合と、R11~R13のすべて(3種)が炭化水素基であり、これらすべての炭化水素基が相互に結合する場合とがある。そして、いずれの場合もこれら炭化水素基は、炭素原子同士が相互に結合するものとする。
【0093】
2種以上の炭化水素基が相互に結合する場合、その結合する炭素原子の位置(結合位置)は特に限定されない。例えば、結合する炭化水素基が直鎖状又は分岐鎖状である場合には、結合位置は炭化水素基の末端の炭素原子であってもよいし、炭化水素基のイミダゾール骨格を構成している炭素原子に直接結合している、いわゆる根元の炭素原子であってもよく、これら末端及び根元間の中間位置の炭素原子であってもよい。一方、結合する炭化水素基が環状であるか、又は鎖状構造及び環状構造の両方を有する場合には、結合位置は根元の炭素原子であってもよいし、それ以外の炭素原子であってもよい。
【0094】
11~R13のうちの2種の炭化水素基が相互に結合する場合、それによって形成される環は、単環状及び多環状のいずれでもよい。一般式(1)-11で表される基は、イミダゾール骨格と、これら炭化水素基の相互の結合によって形成される環と、が縮環した構造を有する。
【0095】
一般式(1)-12中、R21、R22、R23及びR24のうちの2種以上が炭化水素基である場合、これら炭化水素基は相互に結合して、これら炭化水素基が結合している窒素原子と、この窒素原子に結合している炭素原子(3個の窒素原子がともに結合している同一の炭素原子)とともに、環を形成していてもよい。ここで、「2種以上の炭化水素基が相互に結合する」とは、上述のようにR11~R13のいずれかの炭化水素基が相互に結合する場合と同様のことを意味する。例えば、このように結合するのには、R21~R24のうちの2種のみ、3種のみ又はすべて(4種)が炭化水素基であり、いずれか2種又は3種の炭化水素基のみが相互に結合する場合と、R21~R24のすべて(4種)が炭化水素基であり、これらすべての炭化水素基が相互に結合する場合とがあり、炭化水素基同士の結合の仕方も、R11~R13の場合と同じである。
【0096】
一般式(1)-13中、R31、R32及びR33のうちの2種以上が炭化水素基である場合、これら炭化水素基は相互に結合して、これら炭化水素基が結合している窒素原子又は炭素原子と、この窒素原子に結合している炭素原子、又は炭素原子に結合している窒素原子とともに、環を形成していてもよい。ここで、「2種以上の炭化水素基が相互に結合する」とは、上述のようにR11~R13のいずれかの炭化水素基が相互に結合する場合と同様のことを意味する。例えば、このように結合するのには、R31~R33のうちの2種のみ又はすべて(3種)が炭化水素基であり、いずれか2種の炭化水素基のみが相互に結合する場合と、R31~R33のすべて(3種)が炭化水素基であり、これらすべての炭化水素基が相互に結合する場合とがあり、炭化水素基同士の結合の仕方も、R11~R13の場合と同じである。
【0097】
一般式(1)-14中、R41、R42、R43及びR44のうちの2種以上が炭化水素基である場合、これら炭化水素基は相互に結合して、これら炭化水素基が結合している窒素原子と、この窒素原子に結合している炭素原子(3個の窒素原子がともに結合している同一の炭素原子)とともに、環を形成していてもよい。ここで、「2種以上の炭化水素基が相互に結合する」とは、上述のようにR11~R13のいずれかの炭化水素基が相互に結合する場合と同様のことを意味する。例えば、このように結合するのには、R41~R44のうちの2種のみ、3種のみ又はすべて(4種)が炭化水素基であり、いずれか2種又は3種の炭化水素基のみが相互に結合する場合と、R41~R44のすべて(4種)が炭化水素基であり、これらすべての炭化水素基が相互に結合する場合とがあり、炭化水素基同士の結合の仕方も、R11~R13の場合と同じである。
【0098】
また、一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1)-1で表される化合物(以下、「化合物(1)-1」ともいう。)、下記一般式(1)-2で表される化合物(以下、「化合物(1)-2」ともいう。)、下記一般式(1)-3で表される化合物(以下、「化合物(1)-3」ともいう。)、及び下記一般式(1)-4で表される化合物(以下、「化合物(1)-4」ともいう。)に分類される。
【0099】
【化8】
【0100】
一般式(1)-1~一般式(1)-4において、G、R11、R12、R13、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R43及びR44は、既述と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0101】
化合物(1)-1で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1)-1Aで表される化合物(以下、「化合物(1)-1A」と略記することがある)、及び下記一般式(1)-1Bで表される化合物(以下、「化合物(1)-1B」と略記することがある)が挙げられる。
【0102】
【化9】
【0103】
一般式(1)-1A及び一般式(1)-1B中、Gは前記と同じであり;R11’、R12’及びR13’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基であり;R011は炭化水素環である。
【0104】
一般式(1)-1A及び一般式(1)-1B中、R11’、R12’及びR13’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基である。
11’、R12’及びR13’における前記炭化水素基は、相互に結合して環を形成することがない点以外は、上述のR11~R13における前記炭化水素基と同じである。すなわち、化合物(1)-1Aは、R11’、R12’及びR13’がいずれの基であっても、一般式(1)-1A中に記載されているイミダゾール骨格が縮環した構造を有しない。
11’、R12’及びR13’は、水素原子、アルキル基又はアリール基であることが好ましい。
【0105】
一般式(1)-1B中、R011は炭化水素環である。すなわち、一般式(1)-1Bにおいて、R011は、イミダゾール骨格中の隣接する2個の炭素原子を、このイミダゾール骨格と共有して、このイミダゾール骨格と縮環している炭化水素環(環状の炭化水素基)である。
化合物(1)-1Bは、化合物(1)-1のうち、炭化水素基であるR12及びR13が相互に結合して環を形成しているものである。
011は、単環状及び多環状のいずれでもよく、シクロヘキサン環等の飽和脂肪族炭化水素環、又はベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環であることが好ましい。
【0106】
化合物(1)-1Aで好ましいものとしては、例えば、R11’、R12’及びR13’の少なくとも1種が水素原子であるものが挙げられる。
化合物(1)-1Bで好ましいものとしては、例えば、R011が芳香族炭化水素環であるものが挙げられる。
【0107】
化合物(1)-2で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1)-2Aで表される化合物(以下、「化合物(1)-2A」ともいう。)、下記一般式(1)-2Bで表される化合物(以下、「化合物(1)-2B」ともいう。)、下記一般式(1)-2Cで表される化合物(以下、「化合物(1)-2C」ともいう。)、下記一般式(1)-2Dで表される化合物(以下、「化合物(1)-2D」ともいう。)、及び下記一般式(1)-2Eで表される化合物(以下、「化合物(1)-2E」ともいう。)が挙げられる。
【0108】
【化10】

【0109】
一般式(1)-2A~一般式(1)-2Eにおいて、Gは前記と同じであり;R21’、R22’、R23’及びR24’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基であり;R021、R022及びR023は、それぞれ独立に含窒素環である。
【0110】
一般式(1)-2A~一般式(1)-2Eにおいて、R21’、R22’、R23’及びR24’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基である。
21’、R22’、R23’及びR24’における前記炭化水素基は、相互に結合して環を形成することがない点以外は、上述のR11~R13における前記炭化水素基と同じである。
21’、R22’、R23’及びR24’は、水素原子、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、アルキル基又はアリール基であることがより好ましい。
【0111】
一般式(1)-2Bにおいて、R021は含窒素環である。なお、本明細書において「含窒素環」とは、炭素原子及び水素原子以外に窒素原子を有する環状構造を意味する。すなわち、一般式(1)-2Bにおいて、R021は、この一般式中に記載されているカルボニル基の炭素原子に結合している窒素原子と、R23’が結合している窒素原子と、これら2個の窒素原子の間に位置する1個の炭素原子を、環骨格の構成原子とする環構造(含窒素環式基)である。R021は、単環状及び多環状のいずれでもよく、通常は、脂肪族含窒素環である。
化合物(1)-2Bは、化合物(1)-2のうち、炭化水素基であるR21及びR22が相互に結合して環を形成しているものである。
【0112】
一般式(1)-2Cにおいて、R022は含窒素環である。すなわち、一般式(1)-2Cにおいて、R022は、この一般式中に記載されている3個の窒素原子のうち、R21’及びR24’がともに結合していない1個の窒素原子を、環骨格の構成原子とする環構造(含窒素環式基)である。R022は、単環状及び多環状のいずれでもよく、脂肪族含窒素環及び芳香族含窒素環のいずれでもよい。
化合物(1)-2Cは、化合物(1)-2のうち、炭化水素基であるR22及びR23が相互に結合して環を形成しているものである。
【0113】
一般式(1)-2Dにおいて、R023は含窒素環である。すなわち、一般式(1)-2Dにおいて、R023は、この一般式中に記載されている3個の窒素原子のうち、R21’が結合していない2個の窒素原子と、これら2個の窒素原子の間に位置する1個の炭素原子を、環骨格の構成原子とする環構造(含窒素環式基)である。R023は、単環状及び多環状のいずれでもよく、脂肪族含窒素環及び芳香族含窒素環のいずれでもよい。
化合物(1)-2Dは、化合物(1)-2のうち、炭化水素基であるR23及びR24が相互に結合して環を形成しているものである。
【0114】
一般式(1)-2Eにおいて、R021及びR023は含窒素環であり、R021は一般式(1)-2B中のR021と同じであり、R023は一般式(1)-2D中のR023と同じである。
化合物(1)-2Eは、化合物(1)-2のうち、炭化水素基であるR21及びR22が相互に結合して環を形成し、炭化水素基であるR23及びR24が相互に結合して環を形成しているものである。
【0115】
化合物(1)-2Aで好ましいものとしては、例えば、R21’、R22’、R23’及びR24’がすべてアルキル基又はアリール基であるものが挙げられる。
化合物(1)-2Cで好ましいものとしては、例えば、R022が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
化合物(1)-2Dで好ましいものとしては、例えば、R023が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
化合物(1)-2Eで好ましいものとしては、例えば、R023が脂肪族含窒素環であるもの(R021及びR023がともに脂肪族含窒素環であるもの)が挙げられる。
【0116】
化合物(1)-3で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1)-3Aで表される化合物(以下、「化合物(1)-3A」ともいう。)、下記一般式(1)-3Bで表される化合物(以下、「化合物(1)-3B」ともいう。)、下記一般式(1)-3Cで表される化合物(以下、「化合物(1)-3C」ともいう。)、及び下記一般式(1)-3Dで表される化合物(以下、「化合物(1)-3D」ともいう。)が挙げられる。
【0117】
【化11】
【0118】
一般式(1)-3A~一般式(1)-3Dにおいて、Gは前記と同じであり;R31’、R32’及びR33’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基であり;R031、R032及びR033は、それぞれ独立に含窒素環である。
【0119】
一般式(1)-3A~一般式(1)-3Dにおいて、R31’、R32’及びR33’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基である。
31’、R32’及びR33’における前記炭化水素基は、相互に結合して環を形成することがない点以外は、上述のR11~R13における前記炭化水素基と同じである。
31’、R32’及びR33’は、水素原子、アルキル基又はアリール基であることが好ましい。
【0120】
一般式(1)-3Bにおいて、R031は含窒素環である。
すなわち、一般式(1)-3Bにおいて、R031は、この一般式中に記載されている2個の窒素原子のうち、R31’が結合していない1個の窒素原子と、これら2個の窒素原子の間に位置する1個の炭素原子を、環骨格の構成原子とする環構造(含窒素環式基)である。R031は、単環状及び多環状のいずれでもよく、脂肪族含窒素環及び芳香族含窒素環のいずれでもよい。
化合物(1)-3Bは、化合物(1)-3のうち、炭化水素基であるR32及びR33が相互に結合して環を形成しているものである。
【0121】
一般式(1)-3Cにおいて、R032は含窒素環である。
すなわち、一般式(1)-3Cにおいて、R032は、この一般式中に記載されている2個の窒素原子と、これら2個の窒素原子の間に位置する1個の炭素原子を、環骨格の構成原子とする環構造(含窒素環式基)である。R032は、単環状及び多環状のいずれでもよく、脂肪族含窒素環及び芳香族含窒素環のいずれでもよい。
化合物(1)-3Cは、化合物(1)-3のうち、炭化水素基であるR31及びR33が相互に結合して環を形成しているものである。
【0122】
一般式(1)-3Dにおいて、R033は含窒素環である。
すなわち、一般式(1)-3Dにおいて、R033は、この一般式中に記載されている2個の窒素原子のうち、R33’が結合していない1個の窒素原子と、これら2個の窒素原子の間に位置する1個の炭素原子を、環骨格の構成原子とする環構造(含窒素環式基)である。R033は、単環状及び多環状のいずれでもよく、通常は、脂肪族含窒素環である。
化合物(1)-3Dは、化合物(1)-3のうち、炭化水素基であるR31及びR32が相互に結合して環を形成しているものである。
【0123】
化合物(1)-3Aで好ましいものとしては、例えば、R31’、R32’及びR33’の少なくとも1種が水素原子であるものが挙げられる。
化合物(1)-3Bで好ましいものとしては、例えば、R031が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
化合物(1)-3Cで好ましいものとしては、例えば、R032が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
【0124】
化合物(1)-4で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1)-4Aで表される化合物(以下、「化合物(1)-4A」ともいう。)、下記一般式(1)-4Bで表される化合物(以下、「化合物(1)-4B」ともいう。)、下記一般式(1)-4Cで表される化合物(以下、「化合物(1)-4C」ともいう。)、下記一般式(1)-4Dで表される化合物(以下、「化合物(1)-4D」ともいう。)、及び下記一般式(1)-4Eで表される化合物(以下、「化合物(1)-4E」ともいう。)が挙げられる。
【0125】
【化12】
【0126】
一般式(1)-4A~一般式(1)-4Eにおいて、Gは前記と同じであり;R41’、R42’、R43’及びR44’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基であり;R041、R042及びR043は、それぞれ独立に含窒素環である。
【0127】
一般式(1)-4A~一般式(1)-4Eにおいて、R41’、R42’、R43’及びR44’は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基である。
41’、R42’、R43’及びR44’における前記炭化水素基は、相互に結合して環を形成することがない点以外は、上述のR11~R13における前記炭化水素基と同じである。
一般式(1)-4A~(1)-4Eにおいて、R41’、R42’、R43’及びR44’は、水素原子、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、アルキル基又はアリール基であることがより好ましい。
【0128】
化合物(1)-4Aで好ましいものとしては、例えば、R41’、R42’、R43’及びR44’がすべてアルキル基又はアリール基であるものが挙げられる。
化合物(1)-4Bで好ましいものとしては、例えば、R041が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
化合物(1)-4Dで好ましいものとしては、例えば、R043が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
化合物(1)-4Eで好ましいものとしては、例えば、R041及びR043が脂肪族含窒素環であるものが挙げられる。
【0129】
一般式(1)で表される化合物の中でも、化合物(1)-1A、化合物(1)-2E、化合物(1)-3A及び化合物(1)-4Aがより好ましく、更に好ましくは化合物(1)-2Eである。
【0130】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。但し、本開示においては、以下の化合物に制限されるものではない。
【0131】
【化13】
【0132】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、エステル構造又はアミド構造を形成する公知の手法を用いて製造することができる。
【0133】
塩基増殖剤の硬化性組成物中における含有量は、多価アルコール及びエポキシ化合物の合計量に対して、3質量%~15質量%であることが好ましく、4質量%~12質量%であることがより好ましく、5質量%~10質量%であることが更に好ましい。
塩基増殖剤の含有量が3質量%以上であることにより、塩基発生剤の含有量を減らすことができ、塩基発生剤自身による吸光(すなわち着色)等による弊害を低減するのに適している。更には、後述する塩基発生剤と併用した場合の、塩基増殖作用がより顕著に得られる利点がある。また、塩基増殖剤を含有量が15質量%を超える範囲で含有しても、含有量に見合う効果は期待できない。
【0134】
(塩基発生剤)
本開示の硬化性組成物は、塩基発生剤(PBG;Photo Base Generator)の少なくとも一種を含有することが好ましい。
塩基発生剤を含有することで、エネルギーを付与した際に塩基が生成される。
本開示における塩基発生剤としては、強塩基を放出する化合物が好ましい。強塩基が放出されることで、多価イソシアネート化合物と多価アルコールとのウレタン形成反応を促進する。また、既述の塩基増殖剤と併用されることで、例えば、生成した塩基が多価アルコールからプロトンを引き抜く等、多価アルコールの水酸基及び/又はエポキシ化合物のエポキシ基が活性化されやすくなる。そして、この活性化により塩基増殖剤からの塩基の生成が促進される。
このようにして組成物中における塩基の生成プロセスが連鎖的に進行するので、ウレタン結合形成反応が進行しやすく、組成物の硬化反応(アニオン系硬化反応)の感度が高められる。
【0135】
強塩基を放出する塩基発生剤は、公知の塩基発生剤又は光塩基発生剤と称される化合物の中から適宜選択することができ、例えば、オキシムエステル系化合物、アンモニウム系化合物、ベンゾイン系化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、オルトニトロベンジルウレタン系化合物等を挙げることができる。
【0136】
塩基発生剤が、光照射又は加熱により塩基を発生する化合物であることが好ましい。中でも、硬化速度の点から、光照射により塩基を発生する化合物がより好ましい。
【0137】
塩基発生剤の例としては、波長1nm~400nmの光の照射(露光)により塩基を発生させる化合物が挙げられ、例えば、光照射により第1級アミンもしくは第2級アミン又はイミダゾール等を発生させる非イオン型の光塩基発生剤、及び光照射により3級アミン又はアミジンもしくはグアニジン等の強塩基を発生させるイオン型の光塩基発生剤等を挙げることができる。
【0138】
塩基発生剤の具体的な例としては、特許第5401737号公報に記載の、式(I)で表される塩基発生剤、特許第5561694号公報に記載の、式(X)で表されるカルボン酸塩である塩基発生剤、特許第5725515号公報に記載の、式(X)で表される光塩基発生剤、特許第5765851号公報に記載の、カルボン酸と塩基類とからなるカルボン酸化合物である塩基発生剤、特許第6332870号公報に記載の、一般式(A)で示される化合物を含んでなる塩基発生剤、及び、特許第6011956号公報に記載の、式(X)で表されるカルボン酸塩からなる塩基発生剤等が挙げられる。
【0139】
以下に、好ましい塩基発生剤の一例を示す。
塩基発生剤としては、例えば、下記式で表されるカルボン酸塩が好適に挙げられる。
・・・式
式中、Aは、下記式(IV)、(V)、(VI)及び(VII)のいずれかで表されるカルボン酸であり、Bは、下記式(I)、式(I-c)、式(I-d)、式(I-e)、式(I-f)、式(I-g)、式(I-h)で表されるグアニジン類、式(II)、式(II-c)、式(II-d)で表されるホスファゼン誘導体、式(III)で表されるアミジン類、のいずれかからなる塩基類を示す。
なお、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、「Pr」はプロピル基を、「Bu」はブチル基を、それぞれ表す。
【0140】
【化14】
【0141】
【化15】

【0142】
式(I)中、R~Rはそれぞれ、独立して水素原子、アルキル基またはアリール基(アルキル基は環状構造でもよい。)を示す。
式(II)中、R~Rはそれぞれ、独立して水素原子、アルキル基またはアリール基
(アルキル基は環状構造でもよい。)を示す。
式(III)中、nは1~3の整数を示す。
式(V)及び式(VI)中、R、R、Rは、CHCOO、CH(CH)COOまたはHを示し、CHCOOまたはCH(CH)COOはR、R、Rのいずれか1つの基に付され、残りの2つの基にはHが付される。
式(VII)中、R、R、RはCHCOOまたはHを示し、CHCOOはR、R、Rのいずれか1つの基に付され、残りの2つの基にはHが付される。
【0143】
上記式で表されるカルボン酸塩である塩基発生剤における、式(I)~(VII)、並びに式(I-c)、式(I-d)、式(I-e)、式(I-f)、式(I-g)、式(I-h)、式(II-c)及び式(II-d)における各基の詳細及び好ましい態様等については、特許第6011956号公報の記載を参照することができ、具体例として下記化合物(以下、PBGともいう。)を挙げることができる。
なお、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、それぞれ表す。
【0144】
【化16】

【0145】
塩基発生剤の硬化性組成物中における含有量としては、多価アルコール及びエポキシ化合物の合計含有量に対して、4質量%~35質量%が好ましく、8質量%~30質量%がより好ましく、12質量%~25質量%が更に好ましい。
塩基発生剤の含有量が4質量%以上であると、硬化性組成物の硬化がより良好に進行する。また、塩基発生剤の含有量が35質量%以下であると、塩基発生剤の量が過剰に過ぎず、塩基発生剤の含有量に見合う効果が期待できる。
【0146】
(他の成分)
-増感剤-
硬化性組成物は、光照射により塩基を発生させる塩基発生剤とともに増感剤(光増感剤)を含んでいてもよい。これにより、より広い波長範囲の光の照射によって、硬化しやすくなる。例えば、光照射により塩基を発生させる塩基発生剤としては、波長1nm~400nm等の紫外線(紫外光)の照射によって、塩基を発生させるものが汎用される。そこで、このような塩基発生剤を用いた場合に増感剤を併用することで、紫外線よりも長波長である可視光の照射によっても、硬化性組成物は硬化しやすくなる。この場合、可視光等を吸収して励起された増感剤が、光照射により塩基を発生させる塩基発生剤に作用することで、増感剤を用いなかった場合と同様に塩基発生剤から塩基が発生する。
増感剤は、例えば、ベンゾフェノン等の公知のものを選択して用いることができ、特に限定されるものではない。
硬化性組成物に含まれる増感剤は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。増感剤が2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に設定できる。
硬化性組成物の増感剤の含有量は、特に限定されず、適宜調節すればよい。
【0147】
-充填材-
硬化性組成物は、充填材(いわゆるフィラー)を含んでいてもよい。これにより、硬化性組成物の粘度、硬化物の強度等の特性を調節し得る。
充填材としては、公知のものの中から選択して用いることができ、特に限定されるものではない。充填材の形状は、繊維状、板状又は粒状のいずれでもよく、形状、大きさ及び材質はいずれも目的に応じて適宜選択すればよい。
硬化性組成物に含まれる充填材は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。充填材が2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に設定できる。
硬化性組成物の充填材の含有量は、特に限定されず、適宜調節すればよい。
【0148】
-顔料-
硬化性組成物は、顔料を含んでいてもよい。これにより、硬化物の色相、光透過性等の調節が可能である。
硬化性組成物に含まれる顔料は、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができ、例えば、白色、青色、赤色、黄色又は緑色等の顔料が挙げられる。
硬化性組成物に含まれる顔料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。顔料が2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に設定できる。
硬化性組成物の顔料の含有量は、特に限定されず、適宜調節すればよい。
【0149】
-溶媒-
硬化性組成物は、溶媒を含んでいてもよい。これにより、硬化性組成物の取り扱い性が向上し得る。
溶媒は、特に制限はなく、例えば、多価イソシアネート化合物、多価アルコール、エポキシ化合物、塩基増殖剤、及び塩基発生剤等の、溶解性及び安定性等を考慮して適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,2-ジメトキシエタン(ジメチルセロソルブ)等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミドなどが挙げられる。
【0150】
硬化性組成物に含まれる溶媒は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に設定できる。
溶媒の硬化性組成物中における含有量は、硬化性組成物の全量に対して、20質量%~80質量%が好ましく、30質量%~75質量%がより好ましく、40質量%~70質量%が更に好ましい。溶媒の含有量が上記の範囲であると、硬化性組成物の取り扱い性がより向上し得る。
【0151】
~硬化性組成物の調製~
硬化性組成物は、多官能イソシアネート化合物、多価アルコール及びエポキシ化合物からなる群より選択される化合物、塩基増殖剤、並びに、必要に応じて塩基発生剤及び他の成分を配合することによって調製することができる。各成分の配合後は、得られたものをそのまま硬化性組成物として用いてもよいし、必要に応じて引き続き公知の精製操作等を行って得られたものを硬化性組成物として用いてもよい。
【0152】
各成分の配合時には、全ての成分を添加してから混合操作を行ってもよいし、一部の成分を順次添加しながら混合してもよく、全ての成分を順次添加しながら混合してもよい。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサー等を用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
【0153】
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、例えば、3℃~30℃とすることができる。
配合時間も、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、例えば、0.5時間~1時間とすることができる。
ただし、これら配合条件は、一例に過ぎない。
【0154】
<硬化物>
本開示の硬化物は、既述の本開示の硬化性組成物が硬化してなるものである。
本開示の硬化性組成物は、エネルギーの付与によって進行する硬化反応性に優れるので、硬化度の高い硬化物が得られる。
硬化物の形状は、例えば、膜状、線状等、目的に応じて任意に選択できる。
【0155】
本開示の硬化性組成物は、塩基増殖剤、又は塩基増殖剤及び塩基発生剤を含有することで、塩基による硬化反応が連鎖的に、かつ、広範に亘って進行しやすく、従来以上に反応感度を高めることができる。
そのため、硬化物の厚みとしては、厚くすることが可能であり、例えば、0.5×10-3m(=500μm)以上とすることができる。更には、硬化物の厚みは、1×10-3m(1mm)以上としてもよく、1×10-2m(10mm)以上とすることも可能である。
【0156】
<硬化物の製造方法>
本開示の硬化物の製造方法は、既述の本開示の硬化性組成物にエネルギーを付与し、生成した塩基を触媒としてウレタン結合を形成する工程を含む。本開示の硬化物の製造方法は、更に、他の工程を有するものであってもよい。
【0157】
ここで、エネルギーとは、活性エネルギー線、熱等が含まれ、活性エネルギー線であることが好ましい。活性エネルギー線には、X線、紫外線、可視光線等が含まれる。
エネルギーの付与としては、光照射及び加熱の少なくとも一方であることが好ましく、光照射によることがより好ましい。
【0158】
本開示の硬化物の製造方法は、後記のように、組成物中で生成する塩基の作用でウレタン結合形成反応が進行し、このウレタン結合形成反応に寄与する塩基の生成が塩基増殖剤によって効率よく、かつ、連鎖的に行われる。即ち、生成された塩基は、多価アルコール及び/又はエポキシ化合物に作用し、塩基増殖剤からの塩基の生成を促進する。これにより、ウレタン結合形成反応の促進が図れ、反応硬化物であるポリウレタンを感度良く製造することができる。
【0159】
また、本開示の硬化性組成物が塩基発生剤を含有する場合、上記のウレタン結合を形成する工程は、硬化性組成物にエネルギーを付与することにより、塩基発生剤から塩基を生成し、かつ、塩基増殖剤から塩基を生成する。組成物中に存在する塩基の一部は、多価アルコールの水酸基の活性化、又はエポキシ化合物のエポキシ基の活性化(例えば、活性水素を有する水酸基の形成)をもたらし、塩基増殖剤からの塩基の生成を促進する。更に、組成物中に存在する塩基の他の一部は触媒として、多価イソシアネート化合物と多価アルコールとのウレタン結合形成反応を開始し又は促進し、反応硬化物であるポリウレタンを効率良く製造する。
ここでの反応は、各成分が以下のスキーム1に示すように作用することで進行するものと推察される。以下のスキーム1を参照して反応系を具体的に説明する。
【0160】
-スキーム1-
【化17】

【0161】
スキーム1は、イオン性の塩基発生剤であるPBG1と、塩基増殖剤であるCCA2と、を用いて塩基を連鎖的に生成し、ウレタン結合を効率良く進行させるものである。
PBG1は、光照射又は加熱されるとCOを放出して強塩基を生成する。一方、塩基増殖剤であるCCA2(butyl-3,4,7,8-tetrahydro-2H-pyrimido[1,2-a]pyrimidine-1(6H)-carboxylate)が含まれると、CCA2から塩基が新たに生成される。そして、生成された塩基の一部は、多価アルコールの水酸基を繰り返し活性化し、多価アルコールは活性化されてCCA2に作用することで、連鎖的に強塩基の生成が進行する。このように、組成物中で塩基(特に強塩基)が連鎖的に生成され、生成された塩基の一部が多価イソシアネート化合物と多価アルコールとのウレタン結合形成反応における触媒として機能する。これにより、ウレタン形成反応がより速やかに(つまり感度良く)進行し、反応硬化物であるポリウレタンが製造される。
そのため、硬化性組成物を例えば、照射された光が深部まで届かない厚膜(例えば、0.5×10-3m以上の厚み)の膜状に形成した際の硬化性(ウレタン形成反応性)が向上し、膜の深部にまでウレタン形成反応を速やかに進行させることができる。
【0162】
上記スキーム1では、エチレングリコールを用いた例を示したが、多価アルコールとしてジグリセロール等を用いても同様であり、ウレタン結合形成反応を効率良く進行させることができる。
また、上記のスキーム1では、塩基発生剤としてPBG1を一例に示したが、本開示では塩基増殖剤を用いるので、他の塩基発生剤を用いた場合にも類似する反応スキームに基づいてウレタン結合形成反応を効率よく進行させることが可能である。
【0163】
次に、多価アルコールに代えてエポキシ化合物を用いることにより、無溶剤型の硬化性組成物としてウレタン樹脂を製造する態様を以下に示す。
【0164】
-スキーム2-
【化18】

【0165】
スキーム2では、各成分が上記スキームの通りに作用するものと推察される。
スキーム2は、イオン性の塩基発生剤であるPBG1と、塩基増殖剤であるCCA2と、を用いて塩基を連鎖的に生成し、かつ、多価アルコールに代えてエポキシ化合物を用いてウレタン結合形成反応を効率良く進行させる反応経路を示すものである。
本スキームでは、塩基増殖剤と反応しやすい多価アルコールを用いずにエポキシ化合物を用いるので、多価アルコールに起因した反応を回避できるので、組成物自体の安定性が向上し、組成物のポットライフがより改善される。
【0166】
スキーム2では、上記と同様に、PBG1が光照射又は加熱によりRNHRで表される塩基を生成する。生成された塩基は、エポキシ化合物であるエポキシ樹脂に作用して、エポキシ基から水酸基が生じ、塩基増殖剤であるCCA2に作用し、CCA2を分解させて、新たに強塩基を発生させると共に、CCA2の残基と結合する。新たに生成した強塩基は、水酸基を有するアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応に作用する。そして、生成された塩基の一部は、エポキシ樹脂に作用してエポキシ基を次々に活性化(活性水素を有する水酸基の形成)し、連鎖的に強塩基を生成する。このように、塩基(特に強塩基)が連鎖的に生成され、生成された塩基の一部が水酸基を有するアミン化合物と多価イソシアネート化合物との間のウレタン結合形成反応における触媒として機能する。
これにより、ウレタン形成反応がより速やかに(つまり感度良く)進行し、反応硬化物であるポリウレタンが製造される。
【0167】
-スキーム3-
【化19】

【0168】
上記スキーム3では、イオン性の塩基発生剤であるPBG1と、塩基増殖剤であるCCA1と、を用いて塩基を連鎖的に生成するものであり、各成分はスキーム3に示すように作用するものと推察される。
スキーム3では、上記と同様に、PBG1が光照射又は加熱によりRNHRで表される塩基を生成する。生成された塩基は、エポキシ化合物であるエポキシ樹脂に作用して、エポキシ基が水酸基となり、塩基増殖剤であるCCA1に作用し、CCA1を分解させて、新たに塩基であるイミダゾール化合物を発生させる。また、生成した塩基は、CCA1の残基の一部又は全部と結合する。更に、生成した塩基は、エポキシ樹脂に作用して新たな塩基を生成し、この塩基が、水酸基を有するアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応に作用する。そして、生成された塩基の一部は、再びエポキシ樹脂に作用してエポキシ基を次々に活性化(活性水素を有する水酸基の形成)し、連鎖的に塩基を生成する。このように、組成物中で塩基(特に強塩基)が連鎖的に生成され、生成された塩基の一部がエポキシ樹脂又は水酸基を有するアミン化合物と多価イソシアネート化合物との間のウレタン結合形成反応における触媒として機能する。
これにより、ウレタン形成反応がより速やかに(つまり感度良く)進行し、反応硬化物であるポリウレタンが製造される。
【0169】
上記のスキーム2~3では、塩基発生剤としてPBG1を一例に示したが、本開示では塩基増殖剤を用いるので、他の塩基発生剤を用いた場合にも類似する反応スキームに基づいてウレタン結合形成反応を効率よく進行させることが可能である。
【0170】
エネルギーが付与される硬化性組成物の形態としては、厚みが0.5×10-3m(=500μm)以上の膜とされていることが好ましい。更には、厚みとしては、1×10-3m(1mm)以上としてもよく、1×10-2m(10mm)以上としてもよい。
【0171】
硬化性組成物は、例えば、公知の手法で目的とする被着体に付着され、必要に応じてプリベーク(乾燥)した後、光照射又は加熱することにより硬化させることで硬化物が得られる。
例えば膜状の硬化物(即ち、硬化膜)を製造する場合には、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーター、又はアプリケーター等の塗工手段を利用して、硬化性組成物を目的とする被着体に塗工するか、あるいは目的とする被着体を硬化性組成物に浸漬することにより、目的とする硬化物が得られる。また、例えば、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、ディスペンサー式印刷法、ジェットディスペンサー式印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、又はパッド印刷法等の手段を利用することによっても、目的とする硬化物を得ることができる。
プリベークは、特に条件に制限はなく、例えば、50℃~80℃、1分~10分の条件で行うことができる。
【0172】
硬化性組成物に光を照射して硬化物を製造する場合、硬化性組成物の光照射時における光の波長は、例えば、200nm~500nmであることが好ましい。
また、光照射時における光の照度は、例えば、30mW/cm~100mW/cmであることが好ましく、光照射量は、例えば、800mJ/cm~8000mJ/cmであることが好ましい。
【0173】
硬化性組成物の光照射により得られた硬化物は、更にポストベーク(露光後加熱処理)が行われてもよい。ポストベークは、例えば、100℃~160℃、0.5時間~2時間の条件で行うことができるが、条件はこれに限定されない。
【0174】
硬化性組成物を加熱して硬化物を製造する場合、硬化性組成物の加熱温度は、例えば、80℃~160℃であることが好ましい。また、加熱時における加熱時間は、例えば、0.5時間~2時間であることが好ましい。
【実施例
【0175】
以下、本開示について実施例を示して具体的に説明する。但し、本開示は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0176】
(実施例1)
m-キシリレンジイソシアネート(XDI;2官能ポリイソシアネート)0.26g(1.4×10-3モル)と、ジグリセロール(ポリオール)0.12g(7.2×10-4モル)と、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.80g(ポリオールに対して6.7倍モル)と、を配合し、超音波をあてて混合した。
次いで、得られた混合物に、下記の構造で表されるPBG(塩基発生剤)4.8×10-3g(ジグリセロールに対して4質量%)を加え、更に、下記の構造で表される化合物CCA2(塩基増殖剤)8.4×10-3g(ジグリセロールに対して7質量%)を加え、再び超音波をあてて攪拌混合し、硬化性組成物を調製した。
次に、上記のようにして調製した硬化性組成物を直径φ8mm、長さ30mmのガラス管に入れ、円柱状の試験サンプル1を作製した。また、縦10mm×横20mmのガラス基板を、上記のように調製した硬化性組成物中に浸漬することにより、ガラス基板の上に厚み2mm~3mmの硬化性層を形成し、板状の試験サンプル2を作製した。
【0177】
【化20】

【0178】
【化21】

【0179】
(比較例1)
実施例1において、化合物CCA2(塩基増殖剤)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、円柱状の試験サンプル3を作製した。
【0180】
(硬化性の評価1)
(1)作製した試験サンプル1~3に対して、以下の照射条件にて光照射を行い、硬化性を評価した。この際、各硬化性組成物では、ポリイソシアネートとポリオールとが反応して硬化物であるポリウレタンが製造されている。
<照射条件>
露光波長:365nm
照度:50mW/cm
照射量:4000mJ/cm
【0181】
その結果、図1図2に示すように、照射を行うことで、試験サンプル1及び2では硬化が良好に行われていた。これに対して、塩基増殖剤を用いなかった比較用の試験サンプル3は、光照射を行っても、非照射の場合と同様に十分な硬化が得られなかった。
本開示の硬化性組成物では、試験サンプル1及び2で明らかなように、厚みのある形状であっても良好な硬化性が示された。
【0182】
(2)次に、以下の方法で硬化の進行性を評価した。
試験サンプル1(実施例1)及び試験サンプル3(比較例1)の調製において、PBG(塩基発生剤)を用いなかったこと以外は、各試験サンプルと同様にして、試験サンプル1a及び試験サンプル3aを作製した。
そして、各試験サンプルをそれぞれ、13mm×76mmのガラス基板に塗布し、各ガラス基板の長手方向一端において塩基として1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene(TBD)を1滴垂らした。このときの塗布膜における温度変化を、サーモセンサを用い、サーモグラフィ画像を観察して評価した。
【0183】
その結果、いずれのガラス基板でも、基板の長手方向の中央付近まで温度上昇が見られたが、試験サンプル3aでの温度上昇(最高値)は65.2℃であったのに対し、試験サンプル1aでの温度上昇(最高値)は54.9℃に留まった。即ち、塩基自体の膜中の拡散に両者間の差異はみられなかったが、塩基増殖剤を含有することによる連鎖的な硬化が現れたことで両者間に温度差ができたものと考えられる。
これにより、塩基発生剤の添加量の低減が期待でき、しかも著しい温度上昇も回避し得ることから、熱に弱い基材等の使用に適するものと考えられる。
【0184】
(参考例)
塩基発生剤として、下記の構造で表されるPBGポリマー(重量平均分子量(Mw):5440、分子量分布(Mw/Mn):1.47、n=14.7)の40質量%テトラヒドロフラン溶液を用意した。
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社、jER828;エポキシ化合物)1gと、下記の構造で表される化合物CCA1(塩基増殖剤)0.025g(エポキシ樹脂に対して2.5質量%)と、クロロホルム1.5g(エポキシ樹脂に対して150質量%)と、を加え、超音波をあてて混合し、硬化性組成物aを調製した。
【0185】
【化22】
【0186】
次に、PBGポリマーの40質量%テトラヒドロフラン溶液を、シリコン基板上にスピンコーターにより塗布し、60℃でプリベークした後、光照射(波長:365nm、照射量:28000mJ/cm)することにより、厚み1~2μm程度のPBG層を有する第1基板を作製した。また、別のシリコン基板を用意し、シリコン基板に、上記の硬化性組成物aを滴下した後、60℃でプリベークすることにより、シリコン基板の上に厚み10μm~13μmのCCA層を有する第2基板を作製した。
作製した第1基板と第2基板とを、それぞれPBG層及びCCA層が互いに接するようにして重ね、積層体を得た。そして、得られた積層体を125℃のオーブンにて加熱し、硬化反応させた。
【0187】
(硬化性の評価2)
参考例で作製した加熱後の積層体に対して、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により測定を行った。
【0188】
その結果、図3に示すように、CCA層の厚みを10μm~13μmとした参考例の積層体において、加熱による、910cm-1付近のエポキシ基に起因するピークの減少が確認された。
一方、参考例の積層体では、1720cm-1付近のエステル基に起因するピークの増加が、比較用の積層体に比べて小さいことが分かる。即ち、塩基増殖剤を含むことで、塩基発生剤に起因する炭酸の発生を抑えつつ、塩基増殖剤からの塩基の発生による反応が優位に進行したことが推察される。つまり、塩基増殖剤の反応機構によるものであることが確認された。
よって、厚膜とした場合にも、硬化反応が良好に進行し、硬化物の製造性は良好であると考えられる。
【0189】
2018年8月28日に出願された日本出願特願2018-159767の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3