(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】診断システム、診断方法、診断プログラム及び流量制御装置。
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231114BHJP
G01F 1/36 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G01F1/36
(21)【出願番号】P 2018006632
(22)【出願日】2018-01-18
【審査請求日】2020-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017049248
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】赤土 和也
(72)【発明者】
【氏名】長井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】松浦 和宏
【合議体】
【審判長】鈴木 貴雄
【審判官】田々井 正吾
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/053839(WO,A1)
【文献】特開2003-151602(JP,A)
【文献】特表2005-531069(JP,A)
【文献】特表平06-502942(JP,A)
【文献】特表2013-521495(JP,A)
【文献】特開2000-214916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 - 23/02
G01F 1/00 - 1/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗体と、前記抵抗体の上流側に設けられた上流側圧力センサと、前記抵抗体の下流側に設けられた下流側圧力センサと、前記上流側圧力センサ及び前記下流側圧力センサの検出する各圧力値に基づいて流体の流量値を算出する流量測定部と、を具備し、流体の流量を測定する流量センサと、
前記上流側圧力センサの上流側に設けられた第1のバルブと、
前記上流側圧力センサによって圧力が測定される、前記第1のバルブから前記抵抗体までの流路容積と、
前記流路容積内において前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力に変化が生じている所定期間に亘って前記流量測定部の出力する流量を時間積分した流量積分値と、前記流量積分値の時間積分の開始時点と終了時点において前記上流側圧力センサが測定した流路容積内の各圧力と、前記流路容積を対象とする気体の状態方程式と、に基づいて前記流路容積の大きさを示す測定体積値を測定する出力関連値測定部と、
前記測定体積値が正常であるか否か判断するために、前記流路容積について所定の測定周囲条件下で測定された基準体積値に基づいて定められる閾値を記憶する基準値記憶部と、
前記測定体積値又は前記閾値の少なくとも一方を、前記第1のバルブと前記抵抗体との間にある前記流路容積の下流側で前記下流側圧力センサが測定する下流側圧力に応じて補正する補正部と、
前記補正部により少なくとも一方が補正された前記測定体積値と前記閾値とに基づいて前記流量センサを診断する診断部と、を具備し、
前記補正部
は、前記出力関連値測定部が前記測定体積値を測定した後で、前記下流側圧力
と上流側圧力との差圧が所定値以下の場合に、測定された前記測定体積値を
大きくする補正
を行うか、或いは、前記基準値を小さくする補正を行うように構成されていることを特徴とする診断システム。
【請求項2】
予め基準となる測定周囲条件下で測定された前記基準体積値とその測定周囲条件に含まれる前記下流側圧力センサが測定した下流側圧力とを少なくとも関連付けて記憶する基準出力関連値記憶部をさらに具備し、
前記補正部が、前記測定体積値又は前記閾値の少なくとも一方を、前記測定体積値に関連付けられた測定周囲条件の少なくとも1つである前記下流側圧力センサで測定された下流側圧力と前記基準体積値に関連付けられた下流側圧力との偏差に基づいて補正する請求項1記載の診断システム。
【請求項3】
前記流量積分値が、前記抵抗体の上流側の圧力と下流側の圧力に基づき算出される質量流量を前記所定期間積分した質量流量積分値である請求項1記載の診断システム。
【請求項4】
前記測定体積値が、前記上流側圧力センサで測定される前記所定期間の開始時点と終了時点の圧力変化量と、前記所定期間における流体の温度又は温度変化量のいずれかと、前記質量流量積分値とから算出される流体の体積値である請求項3記載の診断システム。
【請求項5】
前記抵抗体の下流側に設けられ、前記流体の流れを遮断可能な第2のバルブをさらに具備し、
前記第2のバルブが、前記流体の流れを遮断することによって流路容積の流体の圧力が経時変化する請求項4記載の診断システム。
【請求項6】
前記上流側圧力センサが測定する上流側圧力と前記下流側圧力センサが測定する下流側圧力との差圧が所定値以下となった場合に、前記補正部が前記測定体積値を増やす補正をする、又は、前記閾値を小さくする補正をする請求項1記載の診断システム。
【請求項7】
抵抗体と、前記抵抗体の上流側に設けられた上流側圧力センサと、前記抵抗体の下流側に設けられた下流側圧力センサと、前記上流側圧力センサ及び前記下流側圧力センサの検出する各圧力値に基づいて流体の流量値を算出する流量測定部と、を具備し、流体の流量を測定する流量センサと、前記上流側圧力センサの上流側に設けられた第1のバルブと、前記上流側圧力センサによって圧力が測定される、前記第1のバルブから前記抵抗体までの流路容積と、を備えた流量制御装置における流量センサの機能を診断する診断方法であって、
前記流路容積内において前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力に変化が生じている所定期間に亘って前記流量測定部の出力する流量を時間積分した流量積分値と、前記流量積分値の時間積分の開始時点と終了時点において前記上流側圧力センサが測定した流路容積内の各圧力と、前記流路容積を対象とする気体の状態方程式と、に基づいて前記流路容積の大きさを示す測定体積値を測定し、
前記測定体積値が正常であるか否か判断するために基準値として、前記流路容積について所定の測定周囲条件下で測定された基準体積値に基づいて定められる閾値を設定し、
前記測定体積値又は前記閾値の少なくとも一方を、前記流路容積の下流側の容積の圧力である前記下流側圧力センサが測定する下流側圧力に応じて補正し、
少なくとも一方が補正された前記測定体積値と前記閾値とに基づいて前記流量センサを診断し、
前記測定体積値
を測定した後で、前記下流側圧力
と上流側圧力との差圧が所定値以下の場合に、測定された前記測定体積値を
大きくする補正
を行うか、或いは、前記基準値を小さくする補正を行うことを特徴とする流量センサの診断方法。
【請求項8】
抵抗体と、前記抵抗体の上流側に設けられた上流側圧力センサと、前記抵抗体の下流側に設けられた下流側圧力センサと、前記上流側圧力センサ及び前記下流側圧力センサの検出する各圧力値に基づいて流体の流量値を算出する流量測定部と、を具備し、流体の流量を測定する流量センサと、前記上流側圧力センサの上流側に設けられた第1のバルブと、前記上流側圧力センサによって圧力が測定される、前記第1のバルブから前記抵抗体までの流路容積と、を備えた診断システムに用いられるプログラムであって、
前記流路容積内において前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力に変化が生じている所定期間に亘って前記流量測定部の出力する流量を時間積分した流量積分値と、前記流量積分値の時間積分の開始時点と終了時点において前記上流側圧力センサが測定した流路容積内の各圧力と、前記流路容積を対象とする気体の状態方程式と、に基づいて前記流路容積の大きさを示す測定体積値を測定する出力関連値測定部と、
前記測定体積値が正常であるか否か判断するために、前記流路容積について所定の測定周囲条件下で測定された基準体積値に基づいて定められる閾値を記憶する基準値記憶部と、
前記測定体積値又は前記閾値の少なくとも一方を、前記第1のバルブと前記抵抗体との間にある前記流路容積の下流側で前記下流側圧力センサが測定する下流側圧力に応じて補正する補正部と、としての機能をコンピュータに発揮させ、
前記補正部
は、前記出力関連値測定部が前記測定体積値を測定した後で、前記下流側圧力
と上流側圧力との差圧が所定値以下の場合に、測定された前記測定体積値を
大きくする補正
を行うか、或いは、前記基準値を小さくする補正を行うように構成されていることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5
又は6に記載の診断システムと、
前記第1のバルブを制御するバルブ制御部と、を備えた流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システム、診断方法、診断プログラム及び流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流量制御装置(マスフローコントローラ)に用いられる診断機構としては、特許文献1に開示されるように、流体が流れる流路に差圧に発生させる抵抗体、及び、その抵抗体の上流側及び下流側にそれぞれ設けられた圧力センサを備える流量センサと、流量センサの上流側の流路を開閉するバルブと、を具備し、バルブで流路を閉じた状態で流路を減圧し、この時に流量センサから得られる出力値又はこれに関連する値である出力関連値(診断用パラメータ)が予め定められた基準値と異なっているか否かによって流量センサの機能を診断するものが開示されている。
【0003】
ここで、出力関連値をより具体的に説明すると、出力関連値は、バルブで流路を閉じた状態で流路を減圧し、その後、両圧力センサで測定される圧力P1,P2の差圧から式(1)を用いて質量流量Qを算出する。
なお、P1は、上流側圧力センサの圧力値であり、P2は、下流側圧力センサの圧力値であり、Xは、ガス種によって変化する係数である。
【0004】
次に、質量流量Qを上流側圧力センサで測定される圧力が経時変化する所定時間で時間積分する式(2)を用いて質量流量積分値nを算出する。なお、
図5において、a-b間における斜線で示された部分の質量流量Qの総和が、質量流量積分値nを示している。
【0005】
また、質量流量積分値nは、気体の状態方程式より式(3)のようにも表すことができる。
なお、Vは、診断用の体積値であり、P1
STARTは、所定時間の始点において上流側圧力センサで測定された圧力であり、P1
ENDは、所定時間の終点において上流側圧力センサで測定された圧力である。
【0006】
そして、式(2)と式(3)とから導きだされる式(4)で表される体積値Vが出力関連値となる。
なお、nは、モル数(式(1)を用いて算出した単位時間あたりの質量(質量流量Q)を時間で積分したもの、すなわち、質量流量積分値nである。)であり、Rは、ガス種によって定まる気体定数であり、Tは、温度センサで測定される温度であり、ここでは、一定とみなしており、ΔP1は、所定時間の始点及び終点において上流側圧力センサで測定される圧力の圧力差である。
【0007】
ここで、式(3)~式(4)では、所定時間の始点及び終点の間における温度差と圧力差とが含まれるが、これら値は、所定時間の間の圧力及び温度の変化を考慮した圧力の変化量と温度の変化量であってもよい。
【0008】
ところが、式(4)で表される出力関連値には、温度及び圧力が含まれており、これらの値が体積値Vに誤差を生じさせる要因となる。すなわち、圧力センサによって経時変化する圧力を所定時間連続的に測定しようとすると、流量センサの下流側に接続された配管や各種機器等の要素に起因して生じる二次圧が時間経過に伴って変化し、この二次圧変化が圧力センサによる圧力の測定に影響を与え、同じ測定周囲条件下で測定できず、この二次圧変化に基づき体積値Vに誤差が生じる。また、同様に、温度も時間経過に伴って変化し、この温度の変化が圧力センサによる圧力の測定に影響を与え、同じ測定周囲条件下で測定できず、この温度変化に基づき体積値Vに誤差が生じる。
【0009】
よって、式(4)で表される出力関連値に基づいて流量センサの診断しようとすると、その出力関連値に誤差が生じ、正確な診断を行うことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、測定周囲条件の変化にかかわらず、流量センサの機能をより正確に診断し、誤診を減らすことを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係る診断システムは、前記流体センサの出力値又はこれに関連する値のいずれかの値である出力関連値を測定する出力関連値測定部と、前記出力関連値が正常であるか否か判断するために予め定められた基準値を記憶する基準値記憶部と、前記出力関連値又は前記基準値の少なくとも一方を、前記出力関連値の測定周囲条件に応じて補正する補正部と、前記補正部の補正結果に基づく前記出力関連値と前記基準値とに基づいて前記流体センサを診断する診断部と、を具備することを特徴とするものである。
【0013】
このようなものであれば、出力関連値の誤差の原因となる流体の圧力や温度などの測定周囲条件に応じて出力関連値又は基準値を補正し、その補正結果に基づいて出力関連値と基準値とに基づき、流体センサの機能を診断するため、これにより、より正確に流体センサの機能を診断することができ、診断精度が向上し、これに伴って誤診を減らすことができる。なお、出力関連値には、流体センサの出力値又はこれに関連する値が含まれる。流体センサが流量センサである場合には、流量センサの出力値である流量値や、この流量値に関連する値である体積値等である。また、前記診断部は、具体的には、前記補正部で前記出力関連値のみを補正した場合に、補正した出力関連値と補正していない基準値とに基づき前記流体センサを診断し、前記補正部で前記基準値のみを補正した場合に、補正していない出力関連値と補正した基準体に基づき前記流量センサを診断し、前記補正部で前記出力関連値及び前記基準値を補正した場合に、補正した出力関連値と補正した基準値とに基づき前記流体センサを診断を実行する。
【0014】
また、前記診断システムにおいて、予め基準となる測定周囲条件下で測定された基準出力関連値とその測定周囲条件とを関連付けて記憶する基準出力関連値記憶部をさらに具備し、前記補正部が、前記出力関連値又は前記基準値を、前記出力関連値に関連付けられた測定周囲条件と前記基準出力関連値に関連付けられた測定周囲条件との偏差に基づいて補正するものであってもよい。
【0015】
このようなものであれば、基準値の基準となる基準出力関連値を出力関連値と同様に測定することができ、基準値を定めるにあたって新たなセンサ等を追加する必要がなく、システムを簡略化できると共に低コスト化が可能となる。
【0016】
また、前記いずれかの診断システムにおいて、前記測定周囲条件が、流体の圧力又は温度のいずれかを含むものであってもよい。なお、前記流体の圧力は、前記流体センサに接続される配管や外部機器の影響に起因して生じる一次圧や二次圧が挙げられる。また、前記流体の温度としては、圧力センサなどの各センサの測定に影響を与える温度が挙げられる。
【0017】
また、前記出力関連値は、前記流体の経時変化する圧力の時間積分値に基づく値であってもよい。具体的には、前記出力関連値は、前記流体の流れの上流と下流との間に生じる差圧に基づき算出される質量流量を所定時間積分した質量流量積分値に基づく値であってもよい。より具体的には、前記出力関連値は、前記流体の流れの上流又は下流における前記所定時間の間の圧力変化量及び温度と、前記質量流量積分値とから算出される流体の体積値であってもよい。
【0018】
このような出力関連値であれば、経時変化する圧力を連続的に測定した場合に、その圧力値の一部に局所的なピークディップノイズがあったとしても、そのノイズの時間積分値は微少であることから、出力関連値に対するノイズの影響を低減させることができ、これにより、診断精度を向上させることができる。また、差圧式マスフローコントローラであれば、出力関連値を算出するための値を元々備える各センサで測定することができるため、別途センサ等を追加することなく、流量センサを精度良く診断することができる。
【0019】
また、前記いずれかの診断システムにおいて、前記流体の流れを遮断する流量調整機構をさらに具備し、前記前記流量調整機構が、前記流体の流れを遮断することによって上流側又は下流側の流体の圧力が経時変化するものであってもよく、さらに、前記流体センサが、前記流体の上流と下流との間に差圧を発生させる抵抗体を備えるものであってもよい。
【0020】
なお、ここで、「流量調整機構」は、差圧式マスフローコントローラや熱式マスフローコントローラ等の流量制御装置を構成している流量制御機構だけでなく、例えば、マスフローコントローラとは別にそのマスフローコントローラの導入ポートや導出ポートから伸びる配管に設けられるような開閉バルブのようなものも含まれる。すなわち、流体の流路を開閉できるものであればよい。
【0021】
このようなものであれば、流量調整機構と抵抗体との間の非常に小さな流路体積に対する圧力の経時変化を利用して流体センサの機能を診断するため、減圧時間が短くなり、診断に必要となる時間を短縮することができる。また、差圧式マスフローコントローラであれば、元々備える機構を利用して流量センサを診断できる。
【0022】
また、本発明に係る流体センサの診断方法は、前記流体センサの出力値又はこれに関連する値のいずれかの値である出力関連値を測定し、前記出力関連値又は前記出力関連値が正常であるか否か判断するために予め定められた基準値の少なくとも一方を、前記出力関連値の測定周囲条件に応じて補正し、前記補正結果に基づく前記出力関連値と前記基準値とに基づいて前記流体センサを診断すること特徴とするものである。
【0023】
また、本発明に係るプログラムは、流体を測定する流体センサの機能を診断する診断システムに用いられるプログラムであって、前記流体センサの出力値又はこれに関連する値のいずれかの値である出力関連値を測定し、前記出力関連値又は前記出力関連値が正常であるか否か判断するために予め定められた基準値の少なくとも一方を、前記出力関連値の測定周囲条件に応じて補正し、前記補正結果に基づく前記出力関連値と前記基準値とに基づいて前記流体センサを診断する機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明に係る流量制御装置は、流体の流量を測定する流量センサと、
前記流量センサの上流側に設けられ、その流量センサの出力値に基づいて前記流体の流量を制御する流量制御機構と、前記流体センサの出力値又はこれに関連する値のいずれかの値である出力関連値を測定する出力関連値測定部と、前記出力関連値が正常であるか否か判断するために予め定められた基準値を記憶する基準値記憶部と、前記出力関連値又は前記基準値の少なくとも一方を、前記出力関連値の測定周囲条件に応じて補正する補正部と、前記補正部の補正結果に基づく前記出力関連値と前記基準値とに基づいて前記流体センサを診断する診断部と、を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
このように構成した本発明によれば、出力関連値の誤差の原因となる測定周囲条件を考慮した上で、その出力関連値を診断するため、より正確に流体センサの機能を診断することができ、誤診を減らすことできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態1に係る流量制御装置を示す模式図である。
【
図2】実施形態1に係る流量制御装置の制御部を示す機能構成図である。
【
図3】実施形態1に係る流量制御装置の抵抗体を示す断面図である。
【
図4】実施形態1に係る流量制御装置における上流側圧力センサで測定される圧力の経時変化を示すグラフである。
【
図5】実施形態1に係る流量制御装置における質量流量積分値を説明するためのグラフである。
【
図6】実施形態1に係る流量制御装置の流量センサ診断工程を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態1に係る流量制御装置の圧力センサ診断工程を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態1に係る流量制御装置の流量制御機構診断工程を示すフローチャートである。
【
図9】実施形態2に係る流量制御装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る診断システムについて図面を参照して説明する。
【0028】
本発明に係る診断システムは、流体センサの機能を診断するものであり、例えば、流量センサを備える流量測定装置や流量制御装置(マスフローコントローラ)に組み込まれるものである。流量制御装置の具体例としては、例えば、差圧式マスフローコントローラや熱式マスフローコントローラなどが挙げられる。
【0029】
<実施形態1>
本実施形態に係る診断システムDSは、
図1に示すように、流量制御装置MF1と、流量制御装置MF1の上流側及び下流側に設けられた開閉バルブUV,DVと、を具備するものであり、例えば、半導体の成膜装置における成膜室(チャンバ)に材料ガスや冷却ガスを供給するためのガス制御システムに用いられる。
【0030】
流量制御装置MF1は、差圧式マスフローコントローラである。具体的には、流体が流れる流路10と、流路10を流れる流体の流量を測定する流量センサ20と、流量センサ20の上流側に設けられる流量制御機構30と、流量制御機構30の上流側に設けられる供給圧を測定するための圧力センサ40と、を備えている。
【0031】
流路10は、図示しないが、上流端に導入ポートが設けられており、下流端に導出ポートが設けられている。そして、例えば、導入ポートは、配管を介して流量制御装置MF1に導入されるガスを供給するガス供給機構に接続されており、導出ポートは、配管を介して流量制御装置によって流量が制御されたガスの供給先となる成膜室に接続されている。
【0032】
流量センサ20は、流路10に差圧を発生させる抵抗体50と、抵抗体50の上流側の圧力を測定する上流側圧力センサ60と、抵抗体50の下流側の圧力を測定する下流側圧力センサ70と、流量制御機構30と抵抗体50との間の温度を測定する温度センサ80と、を備えている。なお、両圧力センサ60,70は、絶対圧型の圧力センサである。
【0033】
抵抗体50は、
図3に示すように、上流側の導入口50aと下流側の導出口50bとの間に差圧を発生させるものである。なお、具体的な構成としては、主に二種のリング体51,52からなっており、第1リング体51は、第2リング体52に比べて外径が小さく内径が大きくなっており、第2リング体52は、第1リング体51に比べて外径が大きく内径が小さくなっている。そして、両リング体51,52を第1リング体51から交互に積層した構造になっており、最後に円盤体53が積層され、これにより、各リング体51,52を積層した積層体の中央に形成される空間の一端が閉じられて導入口50aが形成される。また、第1リング体51の間に積層される第2リング体52には、その一部に内壁及び外壁を残して貫通する流路空間54が設けられている。これにより、第1リング体51の内面と第2リング体52の内壁との間に形成される隙間が流路空間54へ通じる導入路54aとなり、第1リング体51の外面と第2リング体52の外壁との間に形成される隙間が外方へ通じる導出路54bとなる。そして、この導出路54bによって導出口50bが形成される。このように構成することで、リング体51,52の積層枚数や流路空間54の範囲を調整することにより、導入口50a側と導出口50b側との間に生じる差圧量を自由に設定できるようになっている。
【0034】
流量制御機構30は、弁開度をピエゾ素子等のアクチュエータによって調整できるような構成になっている。
【0035】
また、流量制御装置MF1は、流量制御機能、流量センサ診断機能、圧力センサ診断機能、流量制御機構診断機能等を発揮させるための制御部90を備えている。制御部90は、CPU、メモリ、A/D・D/Aコンバータ、入出力手段等を備えたいわゆるコンピュータを有し、前記メモリに格納されているプログラムが実行することにより、各機器を協働させて各機能を発揮させる。なお、制御部90には、図示しない入出力手段が接続されている。
【0036】
制御部90は、
図2に示すように、具体的には、流量測定部90a、制御値算出部90b、バルブ制御部90c、出力関連値測定部90d、基準出力関連値記憶部90e、基準値記憶部90f、補正部90g、偏差算出部90h、流量センサ診断部90i、圧力センサ診断部90j、圧力センサ校正部90k、流量制御機構診断部90l、初期化実行部90m、診断結果出力部90n、を備えている。
【0037】
流量測定部90aは、流量センサ20に設けられた両圧力センサ60,70で検出された検出値(圧力値)に基づいて流体の流量値を算出するものである。なお、流量測定部90aは、両圧力センサ60,70で検出された検出値を所定タイミングで受け付けるように構成されている。
【0038】
制御値算出部90bは、流量測定部90aで算出された流量値と予め設定された基準流量値との偏差に基づいて流量制御機構30をフィードバック制御する制御値を算出するものである。
【0039】
バルブ制御部90cは、流量制御機構30のバルブ、開閉バルブUV,DVの開度を制御するものである。具体的には、通常運転時は、制御値算出部90bで算出された制御値に基づいて流量制御機構30のバルブの開度を変更するフィードバック制御を実施するものである。また、バルブ制御部90cは、入出力手段から入力された流量センサ診断指示に基づいて、流量制御機能30のバルブを完全に閉じると共に、開閉バルブUV,DVを開くようになっている。また、バルブ制御部90cは、入出力手段から入力された圧力センサ診断指示に基づいて、開閉バルブUVを完全に閉じると共に、流量制御機構30のバルブ及び開閉バルブDVを開くようになっている。また、バルブ制御部90cは、入出力手段から入力された流量制御機構診断指示に基づいて、流量制御機構30のバルブを完全に閉じると共に、開閉バルブUV,DVを開くようになっている。
【0040】
出力関連値測定部90dは、流量センサ20に設けられた両圧力センサ60,70及び温度センサ80で検出された検出値(圧力値、温度値)に基づいて流体の体積値(出力関連値)を算出するものである。なお、出力関連値測定部90dは、入出力手段から流量センサ診断指示が入力されたことに基づき出力関連値の測定を開始する。具体的には、入出力手段から流量センサ診断指示が入力されると、バルブ制御部90cによって流量制御機能30のバルブを完全に閉じると共に、開閉バルブUV,DVを開ける。そうすると、流量制御機構30の下流側は、その下流側に設けられた図示しない排出機構、例えば、成膜室に接続された排気ポンプによって減圧され始める。そして、各圧力センサ60,70で測定された圧力値P1,P2から前記式(1)を用いて算出した流体の質量流量Qを所定時間に亘って積分することにより、質量流量積分値nを算出する。続いて、所定時間の開始時及び終了時において、上流側圧力センサ60で測定される圧力の圧力差ΔP及び温度センサ80で測定される温度値Tから式(4)を用いて測定体積値Vを算出する。なお、測定体積値Vは、流量制御機構30から抵抗体50の導入口50aまで流路容積を示している。なお、出力関連値測定部90dは、両圧力センサ60,70及び温度センサ80で検出された検出値を所定タイミングで受け付けるように構成されている。
【0041】
基準出力関連値記憶部90eは、流量制御装置MF1を製造工場から出荷する前や、流量制御装置MF1を実際に半導体製造装置等に接続した後等に、予め所定の測定周囲条件下で測定した基準体積値VSとその測定周囲条件とを関連付けた基準データを記憶したものである。
【0042】
基準値記憶部90fは、測定体積値Vが正常であるか判断するための基準値を記憶したものである。なお、基準値は、基準体積値VSに基づき定められる。本実施形態においては、基準体積値VSに対する測定体積値Vのずれの割合に閾値を設定し、ずれの割合がその閾値を越えているか否かを判断することにより、測定体積値Vが正常であるか判断している。従って、ずれの割合の閾値が基準値となる。
【0043】
補正部90gは、測定体積値Vと、その測定体積値Vの測定時における測定周囲条件とを関連付けて測定データを生成し、その測定データに含まれる測定周囲条件と基準データに含まれる測定周囲条件との偏差に基づいて、測定体積値V又は基準値を補正するものである。本実施形態においては、基準体積値VSに対する測定体積値Vのずれの割合の上限値となる閾値を補正している。
【0044】
偏差算出部90hは、基準体積値VSに対する測定体積値Vのずれの割合を算出するものである。
【0045】
流量センサ診断部90iは、補正部90gの補正結果に基づく測定体積値Vと基準値とに基づき、その測定体積値Vが正常であるか否かを判断して流量センサ20の機能を診断するものである。
【0046】
圧力センサ診断部90jは、流量センサ20に設けられた両圧力センサ60,70で検出された圧力値が予め定められた規定圧力範囲にあるか診断するものである。具体的には、入出力手段から圧力センサ診断指示が入力されると、バルブ制御部90cによって開閉バルブUVが完全に閉じると共に、流量制御機構30のバルブ及び開閉バルブDVが開ける。そうすると、流量制御機構30の下流側は、その下流側に設けられた排出機構によって減圧され始める。この圧力センサ診断状態において、両圧力センサ60,70が規定圧力範囲にあるか診断する。
【0047】
圧力センサ校正部90kは、流量センサ20に設けられた両圧力センサ60,70の0点補正を実施するものである。具体的には、前記圧力センサ診断状態において、入出力手段から圧力センサ校正指示が入力されると、両圧力センサ60,70の0点を補正する。
【0048】
流量制御機構診断部90lは、流量制御機構30を診断するものである。具体的には、入出力手段から流量制御機構診断指示が入力されると、バルブ制御部90cによって流量制御機構30のバルブが完全に閉じると共に、開閉バルブUV,DVが開ける。そうすると、流量制御機構30の上流側は、その上流側に設けられた供給機構によって昇圧され始めると共に、流量制御機構30の下流側は、その下流側に設けられた排出機構によって減圧され始める。そして、流量測定部90aで測定される流量値の増加率が規定増加率範囲にあるか診断する。
【0049】
初期化実行部90mは、基準出力関連値記憶部90eに記憶された基準データを設定し直すものである。具体的には、入出力手段から初期化指示が入力されると、基準出力関連値記憶部90eに記憶された基準データを、再度別の測定周囲条件下で測定し直した基準体積値VS´とその測定周囲条件とを関連付けた新たな基準データに上書し、さらに、その基準データに基づいて基準値記憶部90fに記憶された基準値を設定し直すものである。
【0050】
診断結果出力部90nは、各診断部の診断結果を入出力手段から画像や音声等によって出力するものである。
【0051】
次に、本実施形態に係る流量制御装置における流量センサ20の診断工程を
図6に基づいて説明する。
【0052】
先ず、入出力手段から流量センサ診断指示が入力されると、診断を開始する前に、上流側圧力センサ60で測定される圧力が開始圧力(P1START時)より低い場合には、開始圧力よりも高くなるように圧力を引き上げる。
【0053】
次に、バルブ制御部90cが、流量センサ診断指示に基づき、流量制御機能を発揮している流量制御機構30に対し、バルブを完全に閉じると共に、開閉バルブUV,DVを開く(ステップS101)。
【0054】
そして、流量制御機構30のバルブが完全に閉じた状態になると、流量制御装置MF1の下流側は、排気ポンプによって吸引されて減圧され、流路内の圧力が経時変化する。
【0055】
次に、出力関連値測定部90dが、各圧力センサ60,70で検出された圧力値から前記式(1)を用いて質量流量Qを算出し(ステップS102)、続いて、その質量流量Qを所定時間に亘って時間積分することにより、質量流量積分値nを算出する(ステップS103)。さらに、所定時間の開始時及び終了時において、上流側圧力センサ60で検出された圧力値に基づいて圧力変化量ΔP1を算出し、温度センサ80で検出された温度値Tを取得する(ステップS104)。そして、質量流量積分値n、圧力変化量ΔP及び温度値Tから式(4)を用いて測定体積値Vを算出する(ステップS105)。なお、この一連の演算から、質量流量積分値nは、圧力の積分値に基づく値であると言える。
【0056】
次に、補正部90gが、測定体積値Vと、その測定体積値Vの測定時における測定周囲条件とを関連付けた測定データを生成する(ステップS106)。そして、基準データと測定データとを参照し、基準データの測定周囲条件と測定データの測定周囲条件との偏差を算出し、その測定周囲条件の偏差を加味し、基準体積値VSに対する測定体積値Vのずれの割合の上限を定める閾値を補正する(ステップS107)。これにより、基準値が補正される。
【0057】
最後に、偏差算出部90hが、基準体積値VSに対する測定体積値Vのずれの割合を算出し(ステップS108)、流量センサ診断部90iが、そのずれの割合が補正後の閾値を越えているか否かを判断する(ステップS109)。そして、診断結果出力部90nが、閾値を越えていない場合には、流量センサ20の機能が正常であって継続使用可能である旨を通知し(ステップS110)、閾値を越えている場合には、流量センサ20の機能に異常がある旨を通知する(ステップS111)。
【0058】
なお、流量センサ20の診断を実施した結果、流量センサ20に正常があると判断された場合には、流量制御機能へ復帰し、一方、流量センサ20に異常があると判断された場合には、続けて、圧力センサ60,70の診断工程を実施する。
【0059】
ここで、前記流量センサの診断行程においては、状態方程式を用いて導き出した式(4)に各パラメータ(具体的には、圧力変化量ΔP、温度値T、質量流量積分値n等)を代入することによって体積値V(内部容積)を算出し、その体積値Vを用いて流量センサの機能に異常があるか否かを診断しているが、発明者が研究を重ねた結果、前記状態方程式には表れないパラメータも体積値Vの算出に影響を与えていることを見出した。
【0060】
具体的には、前記ステップS101を実行した際に、抵抗体50の下流側の圧力、言い換えれば、流量制御装置MFの二次圧が高くなると、これが原因で抵抗体50の上流側と下流側との差圧が小さくなる。これに伴って圧力降下時間が短くなり、その結果、質量流量積分値nの積算時間(所定時間)が短くなり、質量流量積分値nを算出するための質量流量Qのサンプリング数が減少し、これにより、体積値Vに誤差が生じ易くなる。そして、この体積値Vの誤差が、流量センサの診断の精度に影響を与えていることが分かった。
【0061】
そこで、流体の上流と下流との間に生じる差圧が所定値以下になった場合に、測定された出力関連値を大きくする(増やす)補正を行うか、或いは、基準値を小さくする(減らす)補正を行う補正部(診断基準補正部)を設けることによって、流量センサ20の診断基準を厳しくすることにより、流量制御装置MFの誤診によってその装置が組み込まれたシステム全体が損傷を受けることを防止することができる。なお、この補正は、前記補正部90gによって実行してもよく、また、前記補正部90gとは別の補正部(診断基準補正部)を設け、そこで実行するようにしてもよい。
【0062】
次に、本実施形態に係る流量制御装置における圧力センサの診断工程を
図7に基づいて説明する。
【0063】
流量センサ20の診断で異常があると診断された場合に、入出力手段から圧力センサ診断指示が入力されると、バルブ制御部90cが、その指示に基づき、開閉バルブUVを完全に閉じると共に、流量制御機構30のバルブ及び開閉バルブDVを開く(ステップS201)。次に、圧力センサ診断部90jが、両圧力センサ60,70で測定される圧力値が規定圧力範囲にあるか診断する(ステップS202)。そして、診断結果出力部90nが、規定圧力範囲にある場合には、圧力センサ60,70が正常である旨を通知し(ステップS203)、規定圧力範囲にない場合には、圧力センサ60,70が異常である旨を通知する(ステップS204)。
【0064】
なお、圧力センサ60,70の診断で正常であると診断された場合には、続けて、後述する流量制御機構30の診断工程を実施する。一方、圧力センサ60,70の診断で異常があると診断された場合に、入出力手段から圧力センサ校正指示が入力されると、圧力センサ校正部90kが、両圧力センサ60,70で測定される圧力値が所定圧力値以下になった状態で、両圧力センサ60,70の0点補正を実施する(ステップS205)。続いて、再度流量センサ20の診断を実施する(ステップS206)。そして、診断結果出力部90nが、流量センサ20が正常であると診断された場合には、その旨を通知し、その後、流量制御機能へ復帰する(ステップS207)。一方、流量センサ20に異常があると診断された場合には、圧力センサ60,70に修理が必要な異常がある旨を通知する(ステップS208)。
【0065】
次に、本実施形態に係る流量制御装置MF1における流量制御機構30の診断工程を
図8に基づいて説明する。
【0066】
先ず、流量センサ20の診断で異常があると診断された後に圧力センサ60,70の診断で正常であると診断された場合に、入出力手段から流量制御機構診断指示が入力されると、バルブ制御部90cが、その指示に基づき、流量制御機構30のバルブを完全に閉じると共に、開閉バルブUV,DVを開く(ステップS301)。次に、流量制御機構診断部90lが、流量測定部90aで測定された流量値の増加率が規定増加率範囲にあるか診断する(ステップS302)。そして、診断結果出力部90nが、規定増加率範囲にある場合には、流量制御機構30が正常である旨を通知し(ステップS303)、一方、規定増加率範囲にない場合には、流量制御機構30に修理が必要な異常がある旨を通知する(ステップS304)。この流量制御機構30の異常はバルブシートリークである可能性が高い。
【0067】
なお、流量制御機構30の診断で正常であると診断された場合には、続けて、初期化を実施する(ステップS305)。初期化は、入出力手段から初期化指示が入力されると、初期化実行部90mは、基準出力関連値記憶部90eに記憶された基準データを、再度別の測定周囲条件下で測定し直した基準体積値VS´とその測定周囲条件とを関連付けた新たな基準データに上書し、さらに、その新たな基準データに基づいて基準値記憶部90fに記憶された閾値を設定し直す。これにより、流量制御機構30のバルブで発生しているリーク量が流量制御装置MFの機能に支障が生じない程度のものである場合に、流量制御装置MFを交換することなく使用し続けることができる。そして、その後、流量制御機能に復帰する。
【0068】
因みに、流量制御装置MF1の初期化を実行した後、再度流量センサ20の診断を実施し、流量センサ20に異常があると診断された場合には、圧力センサ60,70及び流量制御機構30以外の要因によって流量センサ20の機能に異常が発生していると判断できる。なお、その要因としては、抵抗体50の目詰まり、流路10のリーク、流量制御装置MF1のガス仕様と実際のガスとの不一致などが考えられる。
【0069】
なお、前記初期化を実施すると、基準値が順次、初期化後の基準値に置き換わるため、基準値記憶部90fに最初に記憶された(設定された)基準値に対する初期化後の基準値の変化量を算出する基準値変化量算出部と、前記変化量が予め定められた所定変化量を越えたか判断する基準値変化量判断部と、前記変化量が予め定められた所定変化量を越えた場合に通知する警告部と、を備えるようにすることが好ましい。なお、所定変化量は、最初に設定された基準値に対する初期化後の基準値の変化量の上限値であり、この上限値は、流量制御機構30に対して予め保障しているバルブシートリーク量の最大値から算出される、基準出力関連値に対する出力関連値のずれの割合に基づいて導き出すことが可能である。また、初期化が複数回事項された場合には、最初に記憶された基準値から変化した総量が初期化後の変化量となる。
【0070】
このような構成にすれば、流量センサ20の診断のみでは判断できない流量制御装置MF1の各要素の診断を順次実施することができ、流量センサ20の異常の要因となっている要素を絞り込むことができる。これにより、校正・修理・交換等によって対応可能な異常を見逃す可能性が低くなり、誤診を減らすことができる。
【0071】
なお、本実施形態においては、各指示を使用者が入出力手段から入力して手動で行っているが、各指示タイミングを記憶したプログラムをメモリに記憶しておき、そのプログラムによって各指示を自動で行ってもよい。
【0072】
また、本実施形態においては、圧力センサ60,70を校正してから流量センサ20を診断し、その流量センサ20の機能を診断しているが、圧力センサ60,70に限らず、温度センサ80や他のセンサ等も同様に診断して校正するようにしてもよい。すなわち、流体を測定する流体センサと、前記流体センサの出力値又はこれに関連する値である出力関連値を測定し、測定された出力関連値が予め定められた基準値を比較して流体センサの機能を診断する診断部と、を具備し、前記診断部が、前記流体センサの一部又は全部の要素を補正してから測定された出力関連値と基準値とを比較するような構成のものにすればよい。なお、前記流体センサが、流量センサであり、前記流量センサの要素に圧力センサ又は温度センサのいずれかが含まれる。また、この場合、前記流体センサが流量センサであり、前記流量センサで測定される流量値に基づいて流体の流量をバルブによって制御する流量制御機構をさらに具備し、流量制御機構のバルブを閉じた状態で減圧し、流量センサで測定される流量値の増加率が規定増加率範囲にあるか否かに基づいて流量制御機構のバルブの状態を診断するような構成にしてもよい。
【0073】
また、本実施形態においては、流量制御装置MFが備えるバルブ制御部90cによって、入出力手段から入力された各指示に基づいて各バルブを制御しているが、これに限定されず、各バルブは、流量制御装置MFの外部に設けられた制御装置に設けたバルブ制御部によって制御するようにしてもよい。
【0074】
<その他の実施形態>
その他の実施形態として、
図9に示す流量制御装置MF2は、実施形態1の流量制御装置MF1の変形例であり、流量センサ20の下流側に開閉バルブ31が設けられており、温度センサ80が抵抗体50と開閉バルブ31との間に設けられている。このような流量制御装置MF2において、ROR型の診断が可能となる。具体的には、流量センサ20の機能を診断する場合には、開閉バルブ31を閉じた状態でガスの供給が続くと、開閉バルブ30の上流側が昇圧する。そして、この場合にも抵抗体50の上流側と下流側とで差圧が生じるため、各センサ60,70,80の測定値に基づいて抵抗体50と開閉バルブ31との間の体積値Vを算出することでき、この体積値Vを用いて流量センサ20の機能を診断することができる。なお、本実施形態においては、測定周囲条件として、流量センサ20の上流側に接続された配管や外部機器から生じる一次圧変化や温度変化を加味して基準値を変化させる必要がある。
【0075】
また、その他の実施形態として、特に実施形態1の流量制御装置MF1において、両圧力センサ60,70に代えて、抵抗体50の上流側及び下流側の差圧を測定する差圧センサを設ける態様が考えられる。このようなものであれば、圧力センサのノズルの影響の低減とコストダウンが可能となり、圧力変動するような流体に対してもさらに好適に使用することが可能となる。なお、実施形態1の流量制御装置MF1であれば、2次側には成膜室等のチャンバ(真空)が接続されているので、この2次側を基準(ゼロ)として差圧センサの測定値から1次側の流量を求めることができる。
【0076】
なお、前記実施形態においては、基準体積値VSに対する算出された体積値Vのズレの割合が閾値を越えたか否かに基づき診断しているが、これに限定されることなく、基準体積値VSに対する体積値Vのズレに基づき診断してもよい。この場合、基準出力関連値を基準にして上限値又は/及び下限値を設定し、その上限値又は/及び下限値を基準値とすればよい。また、前記実施形態においては、測定データの測定周囲条件と基準データの測定周囲条件との偏差に基づいて基準値を補正しているが、測定データの出力関連値を補正してもよい。さらに、前記実施形態においては、体積値Vを算出する場合に、所定時間の開始時及び終了時における圧力変化量や温度値を用いているが、流量変化量を用いてもよい。
【0077】
また、前記実施形態においては、測定周囲条件として流体の圧力や温度を例示しているが、この条件はこれに限定されず、例えば、前記実施形態のような診断において、体積値Vの誤差の要因となる測定周囲条件としては、前記した二次圧や温度の他に、各圧力センサの基準点のシフトや、抵抗体の目詰まり、流量制御機構のシートリークなども考えられる。よって、これらの測定周囲条件に応じて基準値を補正するようにしてもよい。
【0078】
また、前記実施形態においては、流量センサに温度センサが含まれているが、流量センサは、流量を測定するために必要な構成を備えたものであればよく、温度センサのように流量の測定に直接的に関与しないセンサは、必ずしも流量センサに含める必要はない。なお、温度センサは、測定周囲条件を測定するために必要なセンサとして、流量センサとは別に設ければよい。
【0079】
なお、本発明に係る診断システムは、前記実施形態のように流量制御装置や圧力制御装置に適用することができる他、流量測定装置にも適用することができる。また、本発明に係る流体センサは、前記実施形態で用いられる流量センサに限らず、圧力センサ、温度センサ等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0080】
MF1 流量制御装置
UV,DV 開閉バルブ
10 流路
20 流量センサ
30 流量制御機構
40 圧力センサ
50 抵抗体
60 上流側圧力センサ
70 下流側圧力センサ
80 温度センサ
90 制御部
90e 基準出力関連値記憶部
90g 補正部
90i 流量センサ診断部