(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/05 20230101AFI20231114BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231114BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20231114BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20231114BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H10N30/05
H10N30/30
H10N30/50
H10N30/88
H04R17/02
(21)【出願番号】P 2019185371
(22)【出願日】2019-10-08
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100177493
【氏名又は名称】長谷川 修
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210000(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188265(WO,A1)
【文献】特開平11-015156(JP,A)
【文献】特開2018-137297(JP,A)
【文献】特開2015-047726(JP,A)
【文献】特開2018-048925(JP,A)
【文献】特開2010-245513(JP,A)
【文献】特開2000-231710(JP,A)
【文献】特開2011-249533(JP,A)
【文献】特開2020-136385(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021410(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102957396(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/05
H10N 30/30
H10N 30/50
H10N 30/88
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端が支持基板に支持された圧電膜からなる振動板と、前記圧電膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子の製造方法において、
前記支持基板上に圧電膜を形成する工程と、
該圧電膜上にポリイミド前駆体
を含む膜を形成する工程と、
前記支持基板の一部を除去し、前記圧電膜からなる振動板を形成した後、前記振動板上に形成した前記ポリイミド前駆体を含む膜を熱処理し、ポリイミド膜を形成する熱処理工程と、を含み、
前記熱処理工程は、前記振動板の反りを緩和する応力を有する前記ポリイミド膜を形成する工程であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
請求項
1記載の圧電素子の製造方法において、
前記熱処理工程は、前記ポリイミド前駆体を含む膜を熱処理する際、昇温速度、熱処理開始温度、到達温度の少なくともいずれかを選定した熱処理工程であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1
または2いずれか記載の圧電素子の製造方法において、
前記圧電膜上にポリイミド前駆体を含む膜を形成する工程は、該ポリイミド前駆体を含む膜を熱処理して形成される前記ポリイミド膜が前記振動板の反りを緩和する応力を有する膜となるように、前記ポリイミド前駆体を含む膜を選定した厚さに形成する工程であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法に関し、特に、一端が開放端となっている振動板を備えた圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。さらにMEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。そこで、圧電材料からなる薄膜(圧電膜)で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0004】
ところで圧電素子では、音響圧力等がない場合に圧電膜の残留応力や温度変動が不要な信号として出力され特性を劣化させることが知られている。そこで、圧電膜の一端を開放端(自由端)とする片持ち梁構造の振動板を採用することによって残留応力を解放する技術が開示されている。片持ち梁構造の振動板は、圧電膜に
図7に示すような所望の形状のスリット1を形成し、圧電膜の一部を区画して形成している。
図7(a)では四角形の2枚の振動板2が、
図7(b)では三角形の4枚の振動板2が形成されている。この種の圧電素子は、特許文献1に記載されている。
【0005】
図8は圧電素子の断面図である。
図8に示すように支持基板となるシリコン基板3上に絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bが支持固定され、圧電膜5aは電極6aと電極6bにより、圧電膜5bは電極6bと電極6cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。シリコン基板3には空孔7が形成されており、スリット1により区画された圧電膜および電極は、一端がシリコン基板3に固定され、他端が開放端となる振動板2を構成している。
【0006】
このような圧電素子では、振動板2が音響圧力等を受けると圧電膜5aが歪み、その内部に分極が起こり、電極6aに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜5bが歪むとその内部に分極が起こり、電極6cに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0007】
このように圧電膜を多層構造とし、さらに複数の振動膜から出力を得る構造とすることで、大きな出力信号を得ることができる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の圧電素子の振動板2は、スリット1を挟んで対向配置する構造となっているため圧電膜5a、5bにスリット1を形成して残留応力を開放すると、振動板に反りが発生し、スリット1の開口幅が広がってしまう。このようなスリットの開口幅が設計値以上となった状態の圧電素子をマイクロフォンとして使用すると、音響抵抗が低下し、低周波感度が低下する等の特性劣化を招いてしまう。本発明はこのような課題を解決し、高感度の圧電素子を形成することができる圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、少なくとも一端が支持基板に支持された圧電膜からなる振動板と、前記圧電膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子の製造方法において、前記支持基板上に圧電膜を形成する工程と、該圧電膜上にポリイミド前駆体を含む膜を形成する工程と、前記支持基板の一部を除去し、前記圧電膜からなる振動板を形成した後、前記振動板上に形成した前記ポリイミド前駆体を含む膜を熱処理し、ポリイミド膜を形成する熱処理工程と、を含み、前記熱処理工程は、前記振動板の反りを緩和する応力を有する前記ポリイミド膜を形成する工程であることを特徴とする。
【0012】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子の製造方法において、前記熱処理工程は、前記ポリイミド前駆体を含む膜を熱処理する際、昇温速度、熱処理開始温度、到達温度の少なくともいずれかを選定した熱処理工程であることを特徴とする。
【0013】
本願請求項3に係る発明は、請求項1または2いずれか記載の圧電素子の製造方法において、前記圧電膜上にポリイミド前駆体を含む膜を形成する工程は、該ポリイミド前駆体を含む膜を熱処理して形成される前記ポリイミド膜が前記振動板の反りを緩和する応力を有する膜となるように、前記ポリイミド前駆体を含む膜を選定した厚さに形成する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧電素子の製造方法によれば、ポリイミド前駆体を含む膜を形成し、適宜設定した条件で熱処理を行い、あるいはさらにポリイミド前駆体を含む膜を所定の厚さとするのみで、振動板の反りを緩和する所望の圧縮応力を有するポリイミド膜を形成することができ、非常に簡便で、制御性のよい方法である。特にポリイミド膜は簡便にパターニングすることができるので、振動板の所望の位置に所望の形状の膜を形成することができることから、振動板の反りの緩和に効果が大きい。
【0015】
また圧電膜の製造工程のばらつきにより振動板の反りの程度がばらついた場合でも、反りの程度を確認した後、その反りを緩和する応力を有するポリイミド膜を形成する条件で熱処理を行うことができ、効果的に振動板の反りを緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例の製造方法を説明する図である。
【
図2】本発明の実施例の製造方法を説明する図である。
【
図3】本発明の実施例の製造方法を説明する図である。
【
図4】本発明の実施例の製造方法を説明する図である。
【
図5】本発明の実施例の製造方法を説明する図である。
【
図6】本発明の実施例の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る圧電素子は、支持基板に支持された圧電膜を所望の形状のスリットで区画した振動板と、振動板(圧電膜)上にポリイミド膜とを備えている。本発明の製造方法は、設計値以上にスリットが拡がることを抑えるため振動板に圧縮応力を与えるようなポリイミド膜を形成することを特徴としている。以下本発明の圧電素子の製造方法について、詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例について説明する。まず、支持基板となるシリコン基板3上に絶縁膜4を介して電極となる金属膜を形成して通常のフォトリソグラフ法により電極6aを形成し、電極6aおよび絶縁膜4上に圧電膜5aを形成する。次に、圧電膜5a上に電極となる金属膜を形成して通常のフォトリソグラフ法により電極6bを形成し、電極6bおよび圧電膜5a上に圧電膜5bを形成する。次に、圧電膜5b上に電極となる金属膜を形成して通常のフォトリソグラフ法により電極6cを形成する。その後、電極6aと電極6cに接続する配線金属8aと電極6bに接続する配線金属8bを形成する。以上の形成方法は、従来の圧電素子の製造方法と同一である。
【0019】
次に本実施例では、後述するスリットにより区画されて振動板となる領域の圧電膜5b上に、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)と有機溶媒とからなるポリイミド前駆体膜9を形成する(
図1)。
【0020】
このポリイミド前駆体膜9は、圧電膜5b等の表面全面にポリイミド前駆体膜9を塗布工程、プリベーク工程、パターニング工程により形成できる。ここでプリベーク温度は、主に有機溶媒を除去する温度とし、ポリイミド前駆体のイミド化が進行しない温度あるいはイミド化が進行したとしてもわずかな割合となる比較的低い温度(80℃程度)に設定する。感光性のポリイミドの場合は露光現像を行い、非感光性のポリイミドの場合は通常のフォトリソグラフ法により、所望の形状にパターニングすることができる。
【0021】
その後、圧電膜5b、5aの一部をエッチング除去し、スリット1を形成する。またシリコン基板3と絶縁膜4の一部を除去することで、空洞7を形成する。この状態で圧電膜5a、5bは、支持基板となるシリコン基板3および絶縁膜4に一端が支持された振動板2の一部となる(
図2)。一般的に圧電膜は残留応力を有しているため、開放端を有する振動板2には反りが発生する。
【0022】
そこで振動板2の反りを緩和するため、ポリイミド前駆体膜9を熱処理してイミド化し、圧縮応力を有するポリイミド膜9Aを形成する(
図3)。
【0023】
一般的にポリイミドは、酸二無水物とジアミンを重合反応させて得られるポリアミック酸(ポリイミド前駆体)と有機溶媒の種類を選択することで、所望の熱膨張係数のポリイミド膜を形成することができる。例えば、ポリイミドの主鎖の直線構造の長さにより、熱膨張係数が変化することが知られており、直線構造の長さを短くすると熱膨張係数が大きくなる傾向を示す。
【0024】
また熱処理条件を変えることで、熱膨張係数の異なるポリイミド膜を得ることができる。例えば
図4に示すように、常温で塗布したポリイミド前駆体膜をイミド化させる際、ポリイミド前駆体膜の厚さ、イミド化のための熱処理温度(到達温度)を同一とした場合であっても、昇温速度を変えることでポリイミド膜の熱膨張係数を変化させることができる。
【0025】
また例えば
図5に示すように、常温で塗布したポリイミド前駆体膜をイミド化させる際、ポリイミド前駆体膜の厚さ、昇温速度を同一とした場合であっても、熱処理開始温度を変えると形成されるポリイミド膜の熱膨張係数を変化させることができる。
【0026】
さらに例えば
図6に示すように、形成されるポリイミド膜の厚さ、換言するとポリイミド前駆体を含む膜の厚さを変えると形成されるポリイミド膜の熱膨張係数を変化させることができる。
【0027】
あるいはさらに
図4乃至
図6に示す例の他、ポリイミド前駆体膜をイミド化させるための熱処理温度(到達温度)の違いによっても熱膨張係数を変化させることができる。
【0028】
以上のように熱処理条件や膜厚を変えることで、熱膨張係数の異なるポリイミド膜を形成することができる。そこで圧電素子の製造工程において、圧電膜の残留応力に応じて所望の厚さのポリイミド膜が形成されるようにポリイミド前駆体膜を含む膜の厚さを選定しておき、圧電膜の残留応力のばらつきが生じた場合には、昇温速度、熱処理開始温度や到達温度を適宜設定し、所望の応力のポリイミド膜を形成し、振動板の反りを緩和するようにすればよい。
【0029】
このような昇温速度、熱処理開始温度や到達温度の調整のみで、振動板の反りを緩和できない場合には、例えば、ポリイミドの主鎖の直線構造の長さの異なる別の種類のポリイミド膜を選択し、上記同様に昇温速度、熱処理開始温度や到達温度の調整のみで、振動板の反りを緩和できるようにすればよい。
【0030】
このように振動板2の反りを緩和することができた圧電素子は、例えばマイクロフォンとして使用したとき、音響抵抗の低下を防ぐことができ、特性の優れた圧電素子となる。
【0031】
以上本発明について説明したが本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、ポリイミド膜9Aの形状は適宜変更可能である。また本発明が適用可能な圧電素子は、上記実施例で説明した多層構造の圧電膜(5a、5b)に限るものでもない。
【符号の説明】
【0032】
1:スリット、2:振動板、3:シリコン基板、4:絶縁膜、5a、5b:圧電膜、6a、6b、6c:電極、7:空孔、8a、8b:配線金属、9:ポリイミド前駆体膜、9A:ポリイミド膜