(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】有機膜のエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20231114BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231114BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
H05B33/14 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2019191758
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-192850(JP,A)
【文献】特開2005-319378(JP,A)
【文献】特開平10-209101(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0134515(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機膜をエッチングするためのエッチング方法であって、
エッチングしようとする有機膜の部分に超臨界流体を供給して有機膜を形成する有機材料を溶解させ、この有機材料が溶解した超臨界流体を排出する工程を含
み、
有機膜に形成しようとするパターンに応じて、表面に超臨界流体の滞留空間が設けられる滞留板を用い、この滞留板と被処理基板表面の有機膜とを密着させ、この状態で滞留板の凹溝に、超臨界状態となった所定のガスを滞留させるか、または、凹溝内の圧力を所定のガスの臨界圧力以上となるまで当該ガスを導入して加熱することを特徴とす
る有機膜のエッチング方法。
【請求項2】
有機材料が溶解した超臨界流体の温度及び圧力の少なくとも一方を変化させて超臨界流体を気化させて有機材料を析出させる工程を更に含むことを特徴とする請求項
1記載の有機膜のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機膜形成方法及び有機膜のエッチング方法に関し、より詳しくは、超臨界流体を利用して、例えば有機EL素子の製造に利用される有機膜をエッチングによりパターニング形成するものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程においては、ガラスや樹脂といったシート状または板状の基板(被処理基板)の一方の面(成膜面)に、発光層としての有機膜や有機多層膜をパターニング形成する工程がある。このような有機膜や有機多層膜を高精細度にパターニング形成する方法の一つとして、マスクプレートを用いた真空蒸着法が従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。このものは、真空チャンバを備え、その内部には、加熱により蒸着材料(有機材料)を昇華または気化させる蒸着源と、蒸着源に対して基板を真空チャンバ内の一方向に相対移動させる移動手段とが設けられる。
【0003】
蒸着源と基板との間には、昇華または気化した有機材料の基板の一方の面に対する付着範囲を制限するマスクプレートが設けられている。マスクプレートとしては、基板に成膜しようとするパターンに応じて、板厚方向に貫通する複数の微細な透孔が開設された箔状のものが利用され、蒸着源にて昇華または気化した有機材料をマスクプレート越しに基板の成膜面に付着(堆積)させることで、有機膜や有機多層膜が高精細度に所定のパターンで成膜される。
【0004】
ところで、近年、処理すべき基板が大型化しており、これに伴い、マスクプレートも大型化すると共に、所謂マスクボケが生じないように数十μm~数百μmの板厚である箔状のものが利用されるようになっている。このような基板やマスクプレートを真空チャンバ内で蒸着源の上方空間に設置した場合、基板とマスクプレートとにはその自重による撓みが夫々発生し、このような撓みは、基板毎に、または、マスクプレートの使用回数により変わる。このため、基板とマスクプレートとを再現性よくアライメントすることが困難であるという問題がある。このことから、マスクプレートを利用せずに、有機膜や有機多層膜をパターニング形成できる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、マスクプレートを用いることなく、被処理基板に高精度に有機膜をパターニング形成できる有機膜形成方法及び有機膜のエッチング方法を提供することをその課題とする。
【0007】
上記課題を解決するために、被処理基板表面に有機膜をパターニング形成するための本発明の有機膜形成方法は、被処理基板表面に有機膜を成膜する成膜工程と、有機膜の部分をエッチングするエッチング工程とを含み、エッチング工程が、パターンに応じてエッチングしようとする有機膜の部分に超臨界流体を供給して有機膜を形成する有機材料を溶解させる第1工程と、この有機材料が溶解した超臨界流体を排出する第2工程を更に含むことを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、有機膜をエッチングするための本発明のエッチング方法は、エッチングしようとする有機膜の部分に超臨界流体を供給して有機膜を形成する有機材料を溶解させ、この有機材料が溶解した超臨界流体を排出する工程を含み、有機膜に形成しようとするパターンに応じて、表面に超臨界流体の滞留空間が設けられる滞留板を用い、この滞留板と被処理基板表面の有機膜とを密着させ、この状態で滞留板の凹溝に、超臨界状態となった所定のガスを滞留させるか、または、凹溝内の圧力を所定のガスの臨界圧力以上となるまで当該ガスを導入して加熱することを特徴とする。
【0010】
以上によれば、エッチングしようとする有機膜の部分に供給された超臨界流体に、有機膜を形成する有機材料が溶解することで、有機膜の部分をエッチングすることができる。これによれば、有機膜を所定のパターンに応じてエッチングできるため、マスクプレートを用いることなく、被処理基板に高精度に有機膜をパターニング形成することができる。また、超臨界流体は、比較的低温(例えば二酸化炭素の超臨界流体の場合は約40℃~50℃)にて有機材料を溶解できるため、熱的安定性の低い有機材料からなる有機膜をエッチングする場合でも、熱分解によって有機材料が劣化するのを抑制することができる。
【0011】
また、本発明において、有機材料が溶解した超臨界流体の温度及び圧力の少なくとも一方を変化させて超臨界流体を気化させて有機材料を析出させる工程を更に含むことが好ましい。これによれば、有機材料が溶解した超臨界流体の温度及び圧力の少なくとも一方を臨界温度以下又は臨界圧力以下に変化させて、超臨界流体を気体に状態変化させることで、超臨界流体に溶解していた有機材料を析出させて分離できるため、有機材料を効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のエッチング方法を実施するためのエッチング装置の模式断面図。
【
図2】本発明の実施形態のエッチング方法を説明する模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、被処理基板を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの一方の面に有機膜Ofをパターニング形成する場合を例に本発明の有機膜形成方法及びエッチング方法を説明する。以下においては、基台4から基板Swに向かう方向を上とし、「上」、「下」といった方向を示す用語は
図1を基準として説明する。
【0014】
図1を参照して、Emは、基板Sw表面にその略全面に亘って成膜された有機膜Ofを部分的にエッチングしてパターニングするためのエッチング装置である。エッチング装置Emは、密閉可能な処理チャンバ1を備え、処理チャンバ1の上部空間には、有機膜Ofが成膜された基板Swをその成膜面を下方に向けた姿勢で保持する保持板21が設けられている。なお、保持板21への基板Swの保持方法は、クランプを用いるものなど公知の方法が利用できる。保持板21には、直動モータやエアーシリンダ等で構成される駆動手段22の駆動軸22aが連結され、処理チャンバ1内で保持板21、ひいては基板Swを所定のストロークで昇降でき、保持板21を下降させたときには、基板Swの有機膜Ofを後述の滞留板3の上面31に圧接させることができるようにしている。
【0015】
処理チャンバ1の底面には、円筒形状の輪郭を持つ金属製の基台4が設置され、基台4の上面41には、超臨界流体Sfを滞留させる滞留板3が位置決め固定されている。滞留板3としては、超臨界流体Sfで溶解されないものであれば特に制限はなく、例えばシリコン、樹脂、ゴム等の材料で構成できる。また、滞留板3の上面31には、有機膜Ofに形成しようとする所定のパターンに応じて、超臨界流体Sfの滞留空間Rsとしての凹溝32が凹設されている。凹溝32の形成には、例えば、リソグラフィ法が好適に用いられるが、例えば、レーザー加工法により成形することができる。滞留板3にはまた、凹溝32に連通する連通路33が形成されている。
【0016】
一方、基台4内には、加熱手段42が組み込まれ、凹溝32内に導入された炭酸ガスを臨界温度以上(例えば、40℃以上)に加熱できるようになっている。加熱手段42としては、抵抗加熱式ヒータ等の公知のものを用いることができる。基台4内にはまた、滞留板3の連通路33に連通するガス通路43,44が設けられ、ガス通路43の流入口43aには、処理チャンバ1の底面を貫通してのびる導入管5が、また、ガス通路44の流出口44aには、処理チャンバ1の底面を貫通してのびる排出管6が夫々接続されている。導入管5は、マスフローコントローラ51を介設して図外の炭酸ガスのガス源に連通し、凹溝32と有機膜Ofとで区画される滞留空間Rs内の圧力が所定の圧力(臨界圧力以上、例えば7MPa)になるまで炭酸ガスを導入することができる。排出管6は、開閉バルブ61を介して回収チャンバ62に接続されている。そして、有機膜Ofをエッチングした後、開閉バルブ61を開けることで、有機材料Omが溶解した超臨界流体Sfを回収チャンバ62へと排出できるようにしている。
【0017】
回収チャンバ62には、真空ポンプPからの排気管P1が接続され、大気圧より低い所定圧力までその内部を排気できるようにしている。また、回収チャンバ62内には、上面を開放した回収容器63が設けられている。この場合、排出管6の先端部6aは、回収チャンバ62の内部まで突出させ、この突出した先端部6aが回収容器63に向けて後述の有機材料Omが溶解した超臨界流体Sfを噴射できるようになっている。なお、本実施形態では、真空ポンプPを用いるものを例に説明するが、圧力を臨界圧力以下に減圧できる減圧装置や温度を臨界温度以下まで冷却できる冷却装置を回収チャンバ62自体に設けて、超臨界流体Sfを気化させるように構成することもできる。以下、
図2も参照して、上記エッチング装置Emを利用して、基板Swの一方の面に有機膜Ofをパターニング形成する手順を具体的に説明する。
【0018】
先ず、図外の真空成膜装置を用いて、基板Swの一方の面にその略全面に亘って所定の膜厚で有機膜Ofを成膜する。有機膜Ofの成膜としては、真空蒸着法やスパッタリング法など公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。そして、有機膜Ofが成膜された基板Swを保持板21にセットする。このとき、処理チャンバ1の基台4の上面41には、滞留板3が予めセットされ、また、開閉バルブ61は閉状態となっている。更に回収チャンバ62は、真空ポンプPにより真空排気されて大気圧より低い所定圧力となっている。そして、基板Swが保持板21にセットされると、駆動手段22により保持板21が下動され、基板Swに成膜された有機膜Ofが滞留板3の上面31に圧接される。これにより、凹溝32と有機膜Ofとで区画される滞留空間Rsが形成される(
図2(a)参照)。
【0019】
次に、マスフローコントローラ51を制御して導入管5を介して滞留空間Rs内の圧力が7MPa以上になるまで炭酸ガスを導入し、加熱手段42により導入された炭酸ガスの温度が40℃~50℃になるまで加熱する(滞留空間Rs内の圧力が7MPa以上になると、マスフローコントローラ51を制御してガス導入が停止される)。すると、滞留空間Rs内で二酸化炭素が超臨界状態(超臨界流体Sf)となり(
図2(b)参照)、超臨界流体Sfと接触する部分にて、有機膜Ofが超臨界流体Sfに溶解されていく(
図2(c)参照)。このとき、例えば接触時間を制御すれば、超臨界流体Sfと接触する有機膜Ofの部分だけを基板Swの下面が露出するまで溶解させることができる(即ち、有機膜Ofがエッチングされる)。
【0020】
次に、超臨界流体Sfと接触する部分にて有機膜Ofが超臨界流体Sfに溶解されると(即ち、予め実験的に求められる処理時間が経過すると)、開閉バルブ61を開放する。すると、回収チャンバ62との圧力差で超臨界流体Sfと共に溶解した有機材料Omが排出管6から回収チャンバ62内へと排出される。これにより、凹溝32に応じたパターンが形成された有機膜Ofが得られる(
図2(d)参照)。一方、回収チャンバ62へと排出された、有機材料Omが溶解した超臨界流体Sfは、臨界圧力以下まで減圧されることで、超臨界流体Sfが気化し、超臨界流体Sfに溶解していた有機材料Omが回収容器63内に析出して残る。このため、有機膜Ofからエッチングされた有機材料Omを回収することができる。
【0021】
以上の実施形態によれば、エッチングしようとする有機膜Ofの部分に供給された超臨界流体Sfに、有機膜Ofの有機材料Omが溶解し、有機膜Ofが凹溝32のパターンに応じてエッチングされるため、マスクプレートを用いることなく、基板Swに高精度に有機膜Ofをパターニング形成することができる。このとき、滞留板3は、上記従来例で使用されるマスクプレートのようにその板厚を殊更薄くする必要がなく、また、基板Swが保持板21で保持させているため、有機膜Ofをエッチングによりパターニングする際に、基板Swと滞留板3とをアライメントするような場合でも、マスクプレートを利用する上記従来例のものと比較して、精度よく且つ再現性よくアライメントすることが可能なる。更に、二酸化炭素は約40℃~50℃の臨界温度で超臨界流体Sfとなるため、熱的安定性の低い有機材料Omからなる有機膜Ofをエッチングする場合でも、熱分解によって有機膜Ofが劣化するのを抑制することができる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、鉛直方向下方に滞留板3、その上方に基板Swが位置するものを例に説明したが、その方向はこれに限定されるものではない。また、上記実施形態では、滞留板3を用いて有機膜Ofをエッチングするものを例に説明したが、形成しようとするパターンに応じて、有機膜Ofに超臨界流体Sfを接触させて、有機膜Ofを超臨界流体Sfに溶解できるものであれば、これに限定されるものではない。例えば、微細配線の形成に利用される公知のインクジェット装置を用い、形成しようとするパターンに応じて、噴射ノズルから超臨界流体Sfを有機膜に向けて噴射して接触させ、この接触した部分にて有機膜Ofを超臨界流体Sfに溶解させることができる。この場合、滞留板3を不要にでき、有利である。
【0023】
また、上記実施形態では、所定のガスとして炭酸ガスを用いるものを例に説明したが、エタンガスやエチレンガス等を用いて、これらのガスを超臨界状態としてもよい。また、上記実施形態では、導入管5により、滞留空間Rs内の圧力が二酸化炭素の臨界圧力以上となるまで、炭酸ガスを導入するものを例に説明したが、滞留空間Rs内に予め超臨界状態となった二酸化炭素を導入することもできる。
【符号の説明】
【0024】
Of…有機膜、Om…有機材料、Sw…基板(被処理基板)、Sf…超臨界状態の二酸化炭素(超臨界流体)、Rs…滞留空間、3…滞留板、32…凹溝。