(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】インジウムスズ酸化物粒子分散液、硬化性組成物、光学部材、レンズユニット、インジウムスズ酸化物粒子の製造方法及び硬化性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 19/00 20060101AFI20231114BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20231114BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231114BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C01G19/00 A
C08F2/44 A
C09K3/00 105
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2020088245
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 真宏
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-139746(JP,A)
【文献】PENG, S. et al.,X-ray Photoelectron Spectroscopy Study of Indium Tin Oxide Films Deposited at Various Oxygen Partial Pressures,Journal of Electronic Materials,2016年,Vol.46,pp.1405-1412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00
C01G 15/00
C08F 2/44
C09K 3/00
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光スペクトルにおいて、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
A
と、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
B
とが、下記式1の関係を満たすインジウムスズ酸化物粒子と、非極性溶媒と、を含むインジウムスズ酸化物粒子分散液。
O
A
/O
B
>1.4 :式1
【請求項2】
X線光電子分光スペクトルにおいて、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
A
と、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
B
とが、下記式1の関係を満たすインジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を含む硬化性組成物。
O
A
/O
B
>1.4 :式1
【請求項3】
前記重合性化合物は、アクリル酸由来のモノマー単位及びメタクリル酸由来のモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む請求項
2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
請求項
2又は請求項
3に記載の硬化性組成物の硬化物である光学部材。
【請求項5】
請求項
4に記載の光学部材を備えるレンズユニット。
【請求項6】
炭素数1~3のカルボン酸インジウム及び炭素数1~3のカルボン酸スズと炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒とを、前記カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量Amolと前記溶媒中に含まれる前記カルボン酸の含有量Bmolとが下記式2を満たす範囲で含む混合液を加熱し、インジウム及びスズを含む前駆体溶液を得る工程と、
得られた前駆体溶液を、加熱した炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒中に滴下し、インジウムスズ酸化物粒子を含む反応溶液を得る工程と、
を含むインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
B/A<5 :式2
【請求項7】
前記カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量Amolと前記溶媒中に含まれる前記カルボン酸の含有量Bmolとが下記式3を満たす、請求項
6に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
3<B/A :式3
【請求項8】
前記インジウムスズ酸化物粒子を含む反応溶液を得る工程において、前記前駆体溶液を1.0mL/min以上の滴下速度で滴下する請求項
6又は請求項
7に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記炭素数6~20のカルボン酸が、オレイン酸を含む請求項
6~請求項
8のいずれか1項に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
前記炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒が、オレイルアルコールを含む請求項
6~請求項
9のいずれか1項に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
【請求項11】
前記加熱した炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の温度が、230℃~320℃である請求項
6~請求項
10のいずれか1項に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
【請求項12】
前記炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の総含有量Cmol、及び前記炭素数6~20のカルボン酸の含有量Dmolが、下記式4を満たす請求項
6~請求項
11のいずれか1項に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
D/(C+D)<0.5 :式4
【請求項13】
請求項
6~請求項
12のいずれか1項に記載の製造方法によりインジウムスズ酸化物粒子を得る工程と、
得られたインジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を混合し、近赤外線領域に吸収を有する硬化性組成物を得る工程と、
を含む硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インジウムスズ酸化物粒子、インジウムスズ酸化物粒子分散液、硬化性組成物、光学部材、レンズユニット、インジウムスズ酸化物粒子の製造方法及び硬化性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムスズ酸化物(以下、「ITO」ともいう。)粒子は、種々の用途に使用されるに至っている。なかでも、近赤外領域で高い吸光度を有するITO粒子は、回折格子レンズ、赤外線フィルタ等の光学部材に有用であり、ITO粒子を含む透明性が良好な硬化物の実現が可能である。
そのため、波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するITO粒子、及びITO粒子の製造方法が各種検討されている。
【0003】
ITOの物性に着目した製造方法として、例えば、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に好適なITOとして、有機EL素子のITOからなる下部電極層において、ITO粒子表面に存在するカルボニル化合物を規定量以下にする表面処理を行うことで、輝度寿命が良好な有機EL素子を得るという有機EL素子の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、ITOからなる下部電極層において、X線光電子分光スペクトル(KPS)の530eVに表れるIn2O3由来の酸素ピーク(P1)と532eVに表れるC=O由来のカルボニルピーク(P2)との比である(P2/P1)を0.43以下となるようにすることが記載されている。
【0004】
ITO粒子の製造方法に関しては、例えば、金属カルボキシレートを含む溶液を100℃~290℃に加熱されたオレイルアルコール中に滴下するITOナノ粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、本発明者は、先にITO粒子のさらに効率のよい製造方法として、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズを、カルボン酸を含む溶媒中で加熱して、インジウム及びスズを含む前駆体溶液を得て、得られた前駆体溶液を、炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒中に、1.0mL/min以上の滴下速度で滴下して反応させ、前駆体溶液の滴下を終了した後に、得られた反応液を230℃~320℃の温度条件下で、60分以上180分以下保持するインジウムスズ酸化物粒子の製造方法を提案した(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-139746号公報
【文献】米国特許第9517945号明細書
【文献】国際公開第2019/172151号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、有機EL素子の電極に用いるITOの輝度寿命向上を図るとの課題に即した発明が開示されているが、良好なプラズモン共鳴吸収を有するITO粒子及びその物性に関わる着目はない。
また、特許文献2に記載の発明では、溶媒に金属カルボキシレートを含む溶液を滴下する際に、溶媒としてオレイルアルコールを単独で使用した場合、滴下速度などの条件によっては、キャリアの発生効率が低下しやすく、プラズモン吸収が長波長になる傾向がある。プラズモン吸収が長波長化することは、近赤外領域で選択的に光学吸収を有することが求められる光学部材用途において解決すべき重要な課題となる。
かかる課題に照らし、波長1800nm以下の近赤外領域で高い吸光度が得られる素材に対する要望は高い。
特許文献3に記載の発明では、波長1800nm以下の近赤外領域で高い吸光度が得られるITO粒子を効率的に製造しうる。しかし、特許文献3には、ITO粒子に含まれる酸素原子の物性に係る着目はない。また、製造方法の観点からは、特許文献3に記載の製造方法は、得られた反応物を所定時間保持する工程を必要とすることから、実用に適したさらなる改良が望まれている。
【0007】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するインジウムスズ酸化物粒子、インジウムスズ酸化物粒子分散液、インジウムスズ酸化物粒子を含む硬化性組成物、光学部材、及びレンズユニットを提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するインジウムスズ酸化物粒子の製造方法及びインジウムスズ酸化物粒子を含む硬化性組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> X線光電子分光スペクトルにおいて、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OAと、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OBとが、下記式1の関係を満たすインジウムスズ酸化物粒子。
OA/OB>1.4 :式1
【0009】
<2> <1>に記載のインジウムスズ酸化物粒子と、非極性溶媒と、を含むインジウムスズ酸化物粒子分散液。
<3> <1>に記載のインジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を含む硬化性組成物。
<4> 重合性化合物は、アクリル酸由来のモノマー単位及びメタクリル酸由来のモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む<3>に記載の硬化性組成物。
<5> <3>又は<4>に記載の硬化性組成物の硬化物である光学部材。
<6> <5>に記載の光学部材を備えるレンズユニット。
【0010】
<7> 炭素数1~3のカルボン酸インジウム及び炭素数1~3のカルボン酸スズと炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒とを、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量Amol(モル)と溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量Bmolとが下記式2を満たす範囲で含む混合液を加熱し、インジウム及びスズを含む前駆体溶液を得る工程と、得られた前駆体溶液を、加熱した炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒中に滴下し、インジウムスズ酸化物粒子を含む反応溶液を得る工程と、を含むインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
B/A<5 :式2
【0011】
<8> カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量Amolと溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量Bmolとが下記式3を満たす、<7>に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
3<B/A :式3
<9> インジウムスズ酸化物粒子を含む反応溶液を得る工程において、前駆体溶液を1.0mL/min以上の滴下速度で滴下する<7>又は<8>に記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
<10> 炭素数6~20のカルボン酸が、オレイン酸を含む<7>~<9>のいずれか1つに記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
<11> 炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒が、オレイルアルコールを含む<7>~<10>のいずれか1つに記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
<12> 加熱した炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の温度が、230℃~320℃である<7>~<11>のいずれか1つに記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
【0012】
<13> 炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の総含有量Cmol、及び炭素数6~20のカルボン酸の含有量Dmolが、下記式4を満たす<7>~<12>のいずれか1つに記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法。
D/(C+D)<0.5 :式4
【0013】
<14> <7>~<13>のいずれか1つに記載のインジウムスズ酸化物粒子の製造方法よりインジウムスズ酸化物粒子を得る工程と、得られたインジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を混合し、近赤外線領域に吸収を有する硬化性組成物を得る工程と、を含む硬化性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一実施形態によれば、波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するインジウムスズ酸化物粒子、インジウムスズ酸化物粒子分散液、インジウムスズ酸化物粒子を含む硬化性組成物、光学部材、及びレンズユニットが提供される。
本開示の他の実施形態によれば、波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するインジウムスズ酸化物粒子の製造方法及びインジウムスズ酸化物粒子を含む硬化性組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得たITO粒子の、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
Aと、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
Bと、533.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
Cと、を示すX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示のインジウムスズ酸化物粒子、インジウムスズ酸化物粒子分散液、硬化性組成物、光学部材、レンズユニット、インジウムスズ酸化物粒子の製造方法及び硬化性組成物の製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本開示は以下の実施態様に制限されるものではない。
【0017】
本開示において、「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。 また、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0018】
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示における「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0019】
本開示における基(原子団)の表記において、特に断りのない限りは、無置換のもの、置換基を有するものをも包含する意味で用いられる。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)と、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)との双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
また、本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの双方又はいずれかを表し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの双方又はいずれかを表す。
本開示における近赤外線領域は、波長1000nm~1800nmの波長域を含む。
【0020】
<インジウムスズ酸化物粒子>
本開示のインジウムスズ酸化物粒子は、X線光電子分光スペクトルにおいて、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OAと、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OBとが、下記式1の関係を満たす。
OA/OB>1.4 :式1
以下、本開示において、X線光電子分光スペクトルをXPSと略称することがある。
【0021】
インジウムスズ酸化物粒子のX線光電子分光スペクトル評価は、XPS分析装置を用いて行うことができる。本開示においては、XPS分析装置(PHI社製、QuanterSXM:装置名)を用い、以下の条件でITO粒子最表面の酸素原子の結合状態を評価する。
〔条件〕
X線源:単色化Al(1486.6eV)
検出深さ:4nm~5nm(取出角:45°)
【0022】
ピーク分離の方法としては、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OAと、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OBとは、酸素1sスペクトルにおける各ピークの面積値で見積もられる。
各ピークの面積値は、酸素1sスペクトルのピークフィッティングによる波形分離を行うことにより算出することができ、本開示において、上記方法にて算出した値を用いている。
【0023】
ここで、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素は、酸素原子の2つの結合手がいずれも、インジウム又はスズから選ばれる金属と結合した酸素原子の存在を示す。従って、スペクトルの面積から算出される酸素量OAは、ITO粒子中に金属原子と強固に結合した酸素原子の存在を裏付ける。
他方、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素原子は、酸素の一方の結合手がインジウム又はスズから選ばれる金属と結合し、他方の結合手が水素原子又は酸素原子と結合した酸素原子、即ち、酸素原子の他方の結合手は、反応溶媒中のカルボン酸、アルコールなどと結合した状態の酸素原子の存在を示す。従って、スペクトルの面積から算出される酸素量OBは、ITO粒子中における金属原子との結合が不十分な酸素原子の存在を裏付ける。
また、533.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素は、酸素原子の2つの結合手がいずれもインジウム又はスズから選ばれる金属と結合しておらず、2つの炭素原子と結合するか、又は、カルボニル結合を構成する酸素であり、後述の実施例におけるスペクトルの面積から算出される酸素量OCは、このような酸素の存在を意味する。
【0024】
本発明者の検討によれば、ITO粒子の酸素原子において、酸素量OAに対する酸素量OBが相対的に減少すると、核形成しやすく、分散性により優れるITO粒子が増加することが判明した。
核形成しやすく、分散性により優れるITO粒子は、酸素量OAと、酸素量OBとが、下記式1の関係を満たすITO粒子である。
OA/OB>1.4 :式1
【0025】
酸素量OAと、酸素量OBとは、下記式1-2を満たすことが好ましい。
OA/OB>1.5 :式1-2
【0026】
なお、この条件を満たす酸素量を満たすITO粒子を得るためには、後述の本開示のITO粒子の製造方法を適用することが好ましい。
【0027】
本開示のITO粒子は、波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するため、種々の用途に適用することができる。以下、近赤外線領域に吸収を有することを、「近赤外線吸収性」と称することがある。近赤外吸収性は、近赤外吸収領域の波長の透過率を測定することで確認することができる。近赤外吸収領域の波長の透過率が低い程、近赤外吸収性が良好であることを示す。
【0028】
-近赤外線吸収性-
ITO粒子の好ましい近赤外線吸収性としては、例えば、以下の方法で吸光度を測定した際に、近赤外に存在する吸収ピーク波長における吸光度が0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
ITO粒子の波長1800nm以下の近赤外線領域における吸光度は、例えば、日本分光社製分光光度計V-670を用いて測定することができる。
本開示では、濃度0.006質量%に調整したITO粒子分散液を、日本分光社製分光光度計V-670を用いて光路長2mmで測定した吸光度の値を採用している。
【0029】
ITO粒子が、良好なプラズモン共鳴吸収を有することは、例えば、日本分光社製分光光度計V-670を用いて吸収スペクトルを測定する方法で確認することができる。即ち、吸収スペクトル測定を実施し、波長1800nm近傍における明瞭なプラズモン共鳴吸収ピークが存在することにより確認する方法である。
【0030】
(インジウムスズ酸化物粒子の粒径)
本開示のITO粒子の数平均粒径は、10nm以上30nm以下であることが好ましく、15nm以上25nm以下であることがより好ましく、20nm以上25nm以下であることがさらに好ましい。
数平均粒径が上記範囲であることで、ITO粒子を後述の分散液、硬化性組成物等に配合する際において、可視光領域の散乱が抑制され、且つ、組成物の粘度の上昇が抑制されやすい。組成物の粘度の上昇が抑制されることにより、粒子をより高濃度に分散させることができ、その結果、可視光透過率がより低い分散液、より低アッベな硬化性組成物等を得ることが可能となる。
数平均粒径は、粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、100個の粒子の円相当径を算出して算術平均値を算出することにより得られる。
【0031】
また、共鳴ピークを急峻に制御する観点から、数平均粒径の標準偏差が5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。
標準偏差は、粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、100個の粒子の円相当径を算出して標準偏差を算出することにより得られる。
【0032】
<インジウムスズ酸化物粒子分散液>
既述の本開示のインジウムスズ酸化物粒子は、分散液の状態で存在することができる。
本開示のインジウムスズ酸化物粒子分散液は、既述の本開示のインジウムスズ酸化物粒子と、非極性溶媒と、を含む。
【0033】
非極性溶媒は、比誘電率の値が比較的小さい溶媒、いわゆる無極性溶媒をいう。非極性溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、n-デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等の炭素数6~30の脂肪族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒がフッ素で置換された、例えばフルオロカーボンオイル等の溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、シリコーンオイルなどのシリコーン系溶媒などが挙げられる。
本開示のITO粒子分散液に好適な非極性溶媒としては、トルエン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、シクロヘキサン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられる。
なかでも、ITO粒子の分散性がより良好であるという観点から、トルエン、及びヘキサンが好適である。
ITO粒子の分散性がより良好な非極性溶媒であるトルエン、ヘキサンは、本開示のITO粒子の分散液を、例えば、重合性化合物と混合して硬化性組成物に適用する際においても、重合性化合物との混合に際して、除去しやすいという利点をも有する。
【0034】
ITO粒子分散液は、既述の本開示のITO粒子が、上記非極性溶媒に分散してなる。
ITO粒子分散液におけるITO粒子の含有量は、ITO粒子分散液の用途により適宜選択される。ITO粒子分散液における、非極性溶媒の含有量もまた、ITO粒子分散液の用途により適宜選択される。
【0035】
例えば、ITO粒子分散液を、後述の硬化性組成物等に適用する場合には、ITO粒子分散液の全量に対するITO粒子の含有量は、1質量%~10質量%であることが好ましく、2質量%~8質量%であることがより好ましい。
ITO粒子分散液におけるITO粒子の含有量が上記範囲であることで、粒子分散性がより良好となる、重合性化合物と混合する際の非極性溶媒の除去がより容易に行える、硬化性組成物の調製におけるスケールが適切な範囲にし易い等の利点を有する。
【0036】
ITO粒子分散液は、ITO粒子及び非極性溶媒に加え、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、ITO粒子の分散剤、粘度調整剤等を挙げることができる。
なお、既述の本開示のITO粒子は非極性溶媒中での分散性が良好であるため、特に分散剤を必要としないが、目的に応じて、公知の分散剤を用いてもよい。
【0037】
ITO粒子分散液の製造方法には特に制限はない。ITO粒子分散液は、例えば、後述のITO粒子の製造方法により得られたITO粒子を反応溶媒から取り出し、非極性溶媒と混合することで製造することができる。
分散液に用いるITO粒子は、反応液から取り出した後、必要に応じて洗浄する、溶媒への再分散後に再度分離する、等の方法により精製してもよい。
【0038】
本開示のITO粒子分散液は、ITO粒子の分散性が良好であるため、分散液のままで種々の用途に適用することができる。分散液の適用可能な用途としては、例えば、ITO粒子分散液を基材上に塗布することで、ITO粒子含有膜の形成に適用する用途等が挙げられる。
【0039】
本開示の分散液の好ましい物性を以下に示す。
本開示のITO粒子の分散性は、ITO粒子を含む分散液の透明性により評価することができる。分散液中におけるITO粒子の分散性が良好であり、ITO粒子の凝集体の生成が抑制される場合、分散液はヘイズが低く、可視光の直線透過率が良好となる。
【0040】
-ヘイズ-
ヘイズの測定は、ITO粒子分散液を乾燥して非極性溶媒を除去し、分散液の固形分濃度[質量%]を求めた上で、分散系の固形分濃度を0.6質量%に希釈した分散液を調製して測定対象液とする。
分光ヘーズメーター(日本電色工業製、SH7000)を用い、得られた測定対象液のヘイズ値を評価する。
分散性の観点から、ヘイズは、1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましい。
【0041】
-可視光直線透過率-
可視光直線透過率は、上記測定対象液を測定対象として、日本分光社製分光光度計V-670を用いて測定することができる。
本開示では、可視光として、波長360nm、380nm、及び400nmの直線透過率を測定し、可視光直線透過率の評価を行う。
波長360nmの直線透過率は、65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
波長380nmの直線透過率は、79%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
波長400nmの直線透過率は、84%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
【0042】
<硬化性組成物>
本開示の硬化性組成物は、既述の本開示のインジウムスズ酸化物粒子(ITO粒子)と、重合性化合物と、を含む。
本開示のITO粒子は、硬化性組成物に含有させて、硬化物とすることにより、例えば、光学材料として光学部材に適用する等、種々の用途に使用することができる。
本開示の硬化性組成物は、外部からのエネルギー付与により硬化する組成物であり、熱又は光により硬化する組成物であることが好ましく、光により硬化する組成物であることがより好ましい。
本開示の硬化性組成物の製造方法については後述する。
【0043】
本開示のITO粒子は、既述のように、プラズモン共鳴吸収のピーク波長が、近赤外領域(例えば、波長1900nm近傍)に存在することで、低アッベ数の硬化性組成物を実現することが可能となり、後述の回折格子レンズ等の光学部材として用いた場合の性能向上や、光学素子の設計の自由度の向上につながる。
【0044】
本開示の硬化性組成物において用いるITO粒子の量は、硬化性組成物の用途により選択すればよい。組成物の硬化性及びITO粒子の特性の発現性等を考慮すれば、硬化性組成物におけるITO粒子は、組成物の全固形分に対し、18質量%以上となる量であることが好ましく、38質量%以上であることがより好ましく、43質量%以上であることがさらに好ましい。
また、含有量は、組成物の全固形分に対し、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
本明細書において「全固形分」とは、組成物における溶剤等の揮発性成分を除いた成分の総量を指す。
【0045】
硬化性組成物中のITO粒子の含有量は、組成物を、熱質量分析を行って、完全に液体成分が除去できる温度(例えば、500℃)まで加熱した後の残留固形成分を上記ITO粒子とみなすことにより、測定対象の硬化性組成物の全固形分に対するITO粒子の質量含有量として算出することができる。
【0046】
(重合性化合物)
本開示の硬化性組成物は重合性化合物を含む。
重合性化合物としては、重合し、硬化し得る化合物であれば特に限定されない。重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物が好ましく、分子内にエチレン性不飽和基を少なくとも1つ有するエチレン不飽和化合物であることがより好ましい。
なかでも、光学部材に好適な光透過性を与える硬化物を形成し易いという観点からは、重合性化合物は、アクリル酸由来のモノマー単位及びメタクリル酸由来のモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0047】
詳細には、エチレン性不飽和化合物としては、硬化性組成物の硬化後の屈折率を、例えば回折格子レンズに用いる場合に好適な値である1.5~1.55程度としやすい観点からは、エチレン性不飽和基を2以上有する多官能エチレン性不飽和化合物が好ましく、(メタ)アクリロキシ基を2以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物がより好ましい。多官能エチレン性不飽和化合物としては、1,4-ジビニルシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジビニルベンゼン、1,6-ジビニルナフタレン、エトキシ化ビスフェノールAジビニルエーテル、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート及びそれらに類するものを挙げることができる。
【0048】
硬化性組成物は、重合性化合物を1種含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
硬化性組成物における重合性化合物の含有量は、硬化性組成物の全固形分に対し、15質量%~85質量%であることが好ましく、20質量%~70質量%であることがより好ましく、30質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
本開示の硬化性組成物は、本開示のITO粒子及び重合性化合物に加え、目的に応じてその他の成分を含むことができる。好ましいその他の成分としては、重合開始剤、及び分散剤が挙げられる。
【0050】
(重合開始剤)
本開示の硬化性組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。
硬化性組成物を、紫外線硬化型硬化性組成物とする観点からは、重合開始剤として光重合開始剤を含有することが好ましい。
重合開始剤は、硬化性組成物に含有される重合性化合物に応じて適宜選択することができる。例えば、硬化性組成物が重合性化合物としてラジカル重合性化合物を含む場合、所望により含まれ得る重合開始剤はラジカル重合開始剤であることが好ましい。
【0051】
以下、重合開始剤として好ましい態様である光ラジカル重合開始剤について述べる。
光ラジカル重合開始剤としては、アシルホスフィンオキサイド構造、α-ヒドロキシアルキルフェノン構造、又は、α-アミノアルキルフェノン構造を含む光ラジカル重合開始剤が好ましい。
光ラジカル重合開始剤においては、構造上の制限は特になく、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等を挙げることができる。
光ラジカル重合開始剤は、市販品を用いてもよく、市販品の具体例として、BASF社製のイルガキュア(登録商標)シリーズ(例:IRGACURE TPO、IRGACURE 819、IRGACURE 651、IRGACURE 184、IRGACURE 1173、IRGACURE 2959、IRGACURE 127、IRGACURE 907等)が挙げられる。
【0052】
硬化性組成物が重合開始剤を含む場合、重合開始剤を、1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
硬化性組成物が重合開始剤を含む場合の重合開始剤の含有量としては、硬化性組成物を用いて得られる硬化物の耐摩耗性及び高温延伸性の観点から、重合性化合物の全質量に対して、0.05質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0053】
(分散剤)
硬化性組成物は、分散剤を含有してもよい。
分散剤を含むことによって、ITO粒子の重合性組成物における分散性をより高めることができ、結果として、得られる硬化性組成物は、高い可視光透過特性、低アッベ数等を実現し易くなる。
硬化性組成物が含み得る分散剤としては、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が有効である。界面活性剤としては、特にポリエステル系、ε-カプロラクトン系、ポリカルボン酸塩、ポリリン酸塩、ハイドロステアリン酸塩、アミドスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、オレフィンマレイン酸塩共重合物、アクリル-マレイン酸塩共重合物、アルキルアミン酢酸塩、有機リン酸類、アルキル脂肪酸塩、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系、シリコーン系、フッ素系を用いることができ、なかでも、アンモニア及び有機アミン類よりなる群から選択される少なくとも一種の塩基系分散剤を用いることが好適である。
具体的にはディスパービックシリーズ(ビッグケミー・ジャパン社製)、ソルスパースシリーズ(ゼネガ社製)、TAMNシリーズ(日光ケミカル社製)等が挙げられる。ITO粒子への吸着性及び立体障害が大きく分散性を高めやすい観点から、DISPERBYK-161(アミン系)、DISPERNYK-111(リン酸系)がより好ましい。
【0054】
硬化性組成物が分散剤を含む場合、分散剤を1種単独で含有してもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化性組成物が分散剤を含む場合の分散剤の含有量は、硬化性組成物におけるITO粒子の全質量に対し、1質量%~30質量%であることが好ましく、3質量%~20質量%であることがより好ましく、5質量%~15質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
(重合開始剤、分散剤以外のその他の成分)
硬化性組成物は、既述の好ましい任意成分である重合開始剤及び分散剤に加え、上記好ましい任意成分以外の、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、溶剤、重合禁止剤、上記分散剤以外の界面活性剤、可塑剤、増感剤等が挙げられる。なお、本開示の硬化性組成物は、得られる硬化性組成物の硬化性向上、硬化時の膜内部への不均一発生を抑制するため、硬化性組成物には溶剤は含有しないか、含有しても組成物の全量に対して1質量%以下であることが好ましい。
【0056】
(硬化性組成物の特性)
本開示の硬化性組成物の好ましい特性を以下に示す。
【0057】
-アッベ数-
本開示のITO粒子を含む硬化性組成物は、低アッベ数を実現可能である。そのような観点からは、本開示の硬化性組成物のアッベ数は8~30であることが好ましく、10~25であることがより好ましく、10~20であることがさらに好ましい。
アッベ数とは、下記式5により算出される値である。
アッベ数νd=(nd-1)/(nf-nc) :式5
式5において、ndはD線(波長587.56nm)に対する屈折率を、nfはF線(波長486.1nm)に対する屈折率を、ncはC線(波長656.3nm)に対する屈折率を、それぞれ表している。
なお、上記C線、D線及びF線はフラウンホーファー線におけるC線、D線及びF線である。
硬化性組成物のアッベ数は、アタゴ社製屈折率計DR-M2を用いて測定される。
【0058】
-屈折率-
硬化性組成物は、波長589nmの光に対する屈折率nDが、1.40~1.60であることが好ましく、1.40~1.55であることがより好ましい。
上記屈折率は、アタゴ社製屈折率計DR-M2を用いて測定される。
【0059】
-可視光透過率-
本開示に係る硬化性組成物の、波長405nmにおける可視光透過率(以下、単に「可視光透過率」と称することがある。)は、85%~100%であることが好ましく、90%~100%であることがより好ましい。
本開示における可視光透過率は、日本分光社製分光光度計V-670を用いて測定された、光路長10μmに換算した場合の値を採用している。
【0060】
本開示の硬化性組成物の用途には、特に制限はなく、赤外線吸収性、可視光透過性等を必要とする硬化物に広く適用することができる。
【0061】
(ITO粒子を含む樹脂組成物)
また、本開示のITO粒子は、重合性化合物由来の重合体とITO粒子とを含む樹脂組成物に適用することができる。
即ち、硬化性組成物における重合性化合物に代えて、重合性化合物由来の重合体を含む樹脂組成物であり、例えば、ITO粒子を直接重合体(即ち、樹脂)に分散させた樹脂組成物とすることができる。
樹脂組成物に含まれる重合体としては、アクリル酸由来のモノマー単位及びメタクリル酸由来のモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一方を有する重合体が挙げられる。
樹脂組成物における重合体としては、公知の合成樹脂、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂などを用いることができる。
【0062】
樹脂組成物は、ITO粒子及び重合体に加え、目的に応じてその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、溶剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0063】
<光学部材>
本開示の硬化性組成物は、低アッベ数であり、且つ、低屈折率を必要とする光学部材に好ましく用いることができる。
本開示の光学部材は、硬化性組成物の硬化物である。
既述の本開示の硬化性組成物の硬化物を光学材料として使用する場合には、硬化性組成物は、低屈折率であり、且つ、低アッベ数の組成物であることが好ましい。
光学部材としては、回折格子レンズを挙げることができる。
なお、光学部材の用途は上記に限定されない。
【0064】
本開示の硬化性組成物を硬化物として光学部材を得る方法としては、例えば、レンズなどの光学部材形成用の型に、硬化性組成物を充填し、エネルギーを付与して硬化させる方法等が挙げられる。エネルギーの付与方法としては、加熱、紫外線照射、及び電子線照射が挙げられる。
また、ITO粒子と重合体とを含む樹脂組成物の硬化物を得る方法としては、樹脂組成物を溶融混練して押し出し成形する方法、溶剤を含む流動性を有す樹脂組成物を型に充填し、加熱などにより溶媒の含有量を低減させて硬化させて成形する方法等が挙げられる。
【0065】
<レンズユニット>
既述の本開示の光学部材であるレンズは、低アッベ数であり、且つ、低屈折率であるため、レンズユニットに好適である。
本開示のレンズユニットは、既述の本開示の光学部材を備える。
レンズユニットとしては、鏡筒にレンズを組み込んだユニット、回折格子レンズを組み込んだ回折格子、マイクロレンズアレイ等が挙げられる。
本開示のレンズユニットは、デジタルスチールカメラ、車載レンズ、防犯カメラなどの撮像用ユニット、センシングモジュール用など、種々の用途に適用することができる。
【0066】
<インジウムスズ酸化物粒子の製造方法>
既述の本開示のITO粒子の製造方法には特に制限はない。
波長1800nm以下の近赤外線領域に吸収を有し、分散性が高く、良好なプラズモン共鳴吸収を有するITO粒子を効率よく製造しうると言う観点からは、本開示のITO粒子は、以下に詳述する本開示のITO粒子の製造方法により得られることが好ましい。
【0067】
本開示のインジウムスズ酸化物(ITO)粒子の製造方法は、炭素数1~3のカルボン酸インジウム及び炭素数1~3のカルボン酸スズと炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒とを、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量Amolと溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量Bmolとが下記式2を満たす範囲で含む混合液を加熱し、インジウム及びスズを含む前駆体溶液を得る工程(以下、工程(I)ともいう)と、得られた前駆体溶液を、加熱した炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒中に滴下し、インジウムスズ酸化物粒子を含む反応溶液を得る工程(以下、工程(II)ともいう)と、を含むインジウムスズ酸化物粒子の製造方法である。
B/A<5 :式2
【0068】
本開示では、さらに、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量Amolと溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量Bmolとが下記式3を満たすことが好ましい。
3<B/A :式3
【0069】
従来から、近赤外領域で選択的に光学吸収を得るためにプラズモン吸収の短波化が検討されてきた。しかしながら、例えば特許文献2のように、溶媒に金属カルボキシレートを含む溶液を滴下して粒子形成する際に、溶媒としてオレイルアルコールを単独で用いると、滴下速度などの条件によっては、キャリアの発生効率が低下し、結果としてプラズモン吸収は長波化する傾向がある。
本開示では、工程(I)において、前駆体溶液を調製する際に、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの総量と、溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量との比率を適切な範囲とすることにより、得られるITO粒子の物性を向上させる。
即ち、インジウム及びスズを含む前駆体溶液を調製する際に、反応液である混合液中の金属量(In+Sn)に対する、溶媒としてのカルボン酸の含有比率が5未満であることにより、混合液における金属の溶解性及び反応性のバランスが良好となり、表面にカルボン酸を有する分散性に優れた微粒子を効率よく生成できると推測される。
これにより、分散媒中における分散性が良好であり、波長1800nm以下の近赤外領域において高い吸光度を示すインジウムスズ酸化物粒子を得ることができる。
【0070】
〔工程(I)〕
工程(I)は、炭素数1~3のカルボン酸インジウム(以下、単にカルボン酸インジウムとも称する)及び炭素数1~3のカルボン酸スズ(以下、単にカルボン酸スズとも称する)を、炭素数6~20のカルボン酸(以下、単にカルボン酸とも称する)を含む溶媒中で加熱して、インジウム及びスズを含む前駆体溶液を得る工程である。
以下に詳述する如く、前駆体溶液の調製に際して、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウム及びスズの合計含有量Amolに対する、溶媒中におけるカルボン酸の含有量Bmolの比率(B/A)が5未満となる量で各成分を配合する。
【0071】
(インジウム原料及びスズ原料)
前駆体溶液の調製に用いるインジウム原料及びスズ原料としては、炭素数1~3のカルボン酸インジウム及び炭素数1~3のカルボン酸スズを用いる。
具体的には、インジウム原料としては、ギ酸インジウム、酢酸インジウム、プロピオン酸インジウム等が挙げられ、これらのインジウム原料からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボン酸インジウムが用いられる。なかでも、安定性、ハンドリング性、供給安定性及びコストの観点からは、酢酸インジウムが好ましい。
【0072】
スズ原料としては、ギ酸スズ(II)、ギ酸スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、プロピオン酸スズ(II)、プロピオン酸スズ(IV)等が挙げられ、これらのスズ原料からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボン酸スズが用いられる。なかでも、安定性、ハンドリング性、供給安定性及びコストの観点からは、酢酸スズ(II)及び酢酸スズ(IV)が好ましく、酢酸スズ(IV)がより好ましい。
【0073】
上記インジウム原料及びスズ原料を用いることで、炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒中で加熱する際に、インジウム原料及びスズ原料が溶媒に容易に溶解される。従って、インジウム及びスズに炭素数6~20のカルボン酸が配位した前駆体溶液を容易に得ることができる。
なかでも、原料コスト、純度、安定性、ハンドリング、前駆体溶液形成の容易性等の観点から、既述のインジウム原料及びスズ原料の好ましい組み合わせとして、酢酸インジウム及び酢酸スズ(IV)を用いることが好ましい。
【0074】
(前駆体溶液の調製に用いる溶媒)
前駆体溶液を調製する溶媒としては、炭素数6~20のカルボン酸を含む有機酸を溶媒として用いる。
カルボン酸の炭素数は、6~20であり、14~20が好ましい。
カルボン酸における炭化水素基は、上記炭素数の範囲であれば、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよく、環構造であってもよい。
なかでも、カルボン酸としては、不飽和脂肪酸が好ましい。
炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒としては、具体的には、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、上記有機酸からなる群より選ばれた1種以上の有機酸を用いることが好ましく、カプロン酸、カプリル酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸を溶媒として用いることがより好ましく、オレイン酸を含むことがさらに好ましい。
【0075】
なお、既述のカルボン酸の含有量Bmolは、複数種のカルボン酸の総含有量である。市販のカルボン酸は、しばしば複数の炭素鎖長のカルボン酸の混合物として供給されることがある。その場合には、上記混合物に含まれるカルボン酸であって、炭素数6~20のカルボン酸の総量をBmolとする。
上記溶媒はいずれも、加熱することによって既述のインジウム原料及びスズ原料である炭素数1~3のカルボン酸インジウム及び炭素数1~3のカルボン酸スズを容易に溶解させることができ、溶解により、インジウム及びスズに、それぞれ炭素数6~20のカルボン酸が配位した前駆体溶液を容易に得ることができる。
【0076】
(前駆体溶液の作製)
炭素数1~3のカルボン酸インジウム及び炭素数1~3のカルボン酸スズと、炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒と、を混合した後、加熱して前駆体溶液を調製する。
加熱によってカルボン酸インジウム及びカルボン酸スズが溶解し、炭素数6~20のカルボン酸が配位した前駆体(例えばオレイン酸を使用した場合であればインジウムオレイト、スズオレイト)の溶液を得ることができる。
前駆体溶液の調製に際し、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウムとスズとの総含有量Amolと溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量Bmolとを下記式2を満たす範囲に調整する。B/Aが式2を満たすことで、反応性が向上し、且つ、表面にカルボン酸を有する分散性が良好なITO粒子が効率よく得られる。
B/A<5 :式2
B/Aは5未満であり、4.7以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。
【0077】
また、工程(I)において、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズに含まれるインジウムとスズの総量Amolと溶媒中に含まれるカルボン酸の含有量Bmolとは下記式3を満たす範囲であることが好ましい。
3<B/A :式3
B/Aが3を超える範囲であることで、前駆体溶液中のインジウムとスズとの溶解性がより良好となり、反応性がより向上する。
B/Aは、3を超えることが好ましく、3.3以上であることがより好ましく、3.5以上であることがさらに好ましい。
なお、上記B/Aの値は、工程(I)において前駆体液の調製に用いるカルボン酸インジウムの量、カルボン酸スズの量、及びカルボン酸の量と、それぞれの分子量からモル数を計算することで算出することができる。
【0078】
工程(I)において、カルボン酸インジウム及びカルボン酸スズを、インジウムとスズとの総量に対するスズの量(〔Sn/(In+Sn)〕)が、モル比で0.05~0.15となる量で用いることが好ましい。
即ち、インジウム原料と、スズ原料とは、インジウムとスズとの総量に対するスズの量(〔Sn/(In+Sn)〕)が、モル比で0.05~0.15となる量を秤量して混合することが好ましい。
インジウムとスズとを上記のモル比の範囲で含むことで、光学フィルタ、光学レンズ等の光学材料用途に好適に用いることができるプラズモン共鳴ピークが1900nm以下、好ましくは1800nm以下程度のITO粒子が得られやすい。
【0079】
前駆体溶液に含まれる金属の総モル濃度は、0.1mmol(ミリモル)/mL以上であることが好ましく、0.3mmol/mL以上であることがより好ましい。
金属のモル濃度を上記範囲とすることで、ITO粒子の収量を容易に高くすることが可能となる。
前駆体溶液に含まれる金属の総モル濃度の上限には特に制限はないが、溶解性がより良好であるという観点からは、5mmol/mL以下とすることができる。
【0080】
前駆体溶液を調製する際の加熱温度及び加熱時間は、用いるカルボン酸インジウム、カルボン酸スズ、及び炭素数6~20のカルボン酸を含む溶媒の種類によって適宜選択される。例えば、原料として酢酸インジウム及び酢酸スズ(IV)を用い、溶媒としてオレイン酸を用いる場合であれば、140℃~160℃の温度上限で、1時間程度加熱することが好ましい。上記条件により、黄色透明な前駆体溶液を得ることができる。
なお、前駆体溶液の調製に際しては、反応系内に、酸素、水等の不純物が混入することを避ける目的で、原料の混合は酸素濃度及び水分濃度が制御されたグローブボックス内等で行うことが好ましい。また、原料と溶媒とを加熱し、前駆体溶液を調製する際には、窒素等の不活性ガスをフローさせて行うことが好ましい。
得られた前駆体溶液は、シリンジ内に充填して、次工程に適用することができる。前駆体溶液をシリンジ内に充填する際には、酸素や水の混入を避けるため、充填作業は酸素濃度及び水分濃度が制御されたグローブボックス中等で行うことが好ましい。
制御された酸素濃度及び水分濃度の条件としては、例えば、酸素濃度が5ppm以下、水分濃度が1ppm以下等の条件が例示されるが、これに限定されない。
【0081】
〔工程(II)〕
工程(II)は、上記工程(I)で得られた前駆体溶液を、加熱した炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒中に滴下し、インジウムスズ酸化物粒子を含む反応溶液を得る工程である。
【0082】
(溶媒)
反応液の調製には、炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒を含み、かつ、加熱された溶媒を用いる。溶媒は、反応温度における安定性の観点から選択される。
【0083】
炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒としては、具体的には、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ベヘニルアルコール、アラキジルアルコール、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、ドコセノール等が挙げられる。
合成溶媒は、上記の溶媒からなる群より選ばれた1種以上の溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、沸点が反応温度より十分に低く、且つ、反応後に室温冷却した際に固体にならない融点を有するため、作業性が良好であるという観点から、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、及びリノレイルアルコールからなる群より選ばれた1種以上の溶媒を含むことがより好ましく、オレイルアルコールを含むことがさらに好ましい。
【0084】
炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
2種以上のヒドロキシル基を有する溶媒を併用する場合、例えば、炭素数18のヒドロキシル基を有する溶媒であるオレイルアルコールと、炭素数がオレイルアルコールの炭素数よりも小さく、直鎖構造を有するアルコール、例えば、テトラデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール等を併用することも、好ましい態様の一つである。
【0085】
本工程(II)では、ヒドロキシル基を有する上記溶媒を加熱し、溶媒を加熱した状態を維持し、工程(I)で得られたインジウム及びスズにカルボン酸が配位した前駆体溶液を滴下する。
これにより、反応液中でITO粒子が形成される。
この際の作用効果について、ヒドロキシル基とカルボン酸によるエステル化反応に伴って、Metal-OHが形成され、さらに脱水反応が進むことでMetal-O-Metalの結合が形成される。ここで、「Metal」はインジウムなどの金属原子を表す。
脱水反応を進行させ、ITO粒子におけるMetal-O-Metalの結合の割合を向上させるためには、系中の不要な水の発生を抑制すること、及び系中から水を効率的に除去することが有効である。具体的には、例えば、前駆体液中のIn及びSnに配位していないカルボン酸の濃度を下げる、不活性ガスをフローさせて系外に水を排出する等の手段を行うことが好ましい。
反応に際しては、既述のヒドロキシル基を有する溶媒を三口フラスコ等の反応容器に投入し、加熱する。反応容器に溶媒を投入する際は、反応系内への、酸素及び水の混入を避けるため、酸素濃度及び水分濃度が制御されたグローブボックス中等で行うことが好ましい。
【0086】
溶媒の加熱温度は、前駆体溶液中の金属の溶解状態が維持され、反応が進行する温度を適宜選択すればよい。なかでも、ITO粒子が形成され易いという観点からは、230℃~320℃の範囲が好ましく、250℃~310℃の範囲がより好ましく、270℃~300℃の範囲がさらに好ましい。
【0087】
(合成)
予め加熱された炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒中に、工程(I)で得た前駆体溶液を滴下することで、溶媒中における反応によりITO粒子を得る。
滴下速度は、用いる前駆体の溶液に用いられるインジウム原料及びスズ原料の種類、及び前駆体溶液の濃度などに応じて適宜調製することができる。
【0088】
なかでも、ITO粒子をより効率よく生成し得るという観点から、滴下速度は、1.0mL/min以上であることが好ましく、1.10mL/min以上がより好ましく、1.15mL/min以上がさらに好ましい。
また、滴下速度には特に上限はないが、設備コストの観点から、100mL/min以下とすることができる。
【0089】
上記好ましい態様において、滴下速度を1.0mL/min以上とすることで、例えば、前駆体溶液の滴下量を50mL以上とすることができ、ITO粒子を効率よく生成させることができる。前駆体溶液の滴下量は、前駆体溶液の組成、用いるアルコール溶媒の量などにより適宜調製することができる。滴下量は50mL以上が好ましく、100mL以上がより好ましい。また、設備コストの観点から、5L以下とすることが好ましい。
この際、エステル化反応に伴う水、遊離した酢酸等が発生するため、反応系内に窒素等の不活性ガスをフローし、系外に発生した水、酢酸等を排出させることが、エステル化反応がより進行しやすくなり、ITO粒子の収率がより向上するという観点から好ましい。
窒素等の不活性ガスの流量は、反応スケール、滴下速度などによって適宜調製される。なお、不活性ガスの流量が少なすぎると、酢酸等の系外への排出が十分行えず、反応液に突沸が発生する懸念があることから、水、酢酸等を十分除去可能な流量を設定することが好ましい。
【0090】
なお、反応液中における炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の総含有量Cmol、及び前記炭素数6~20のカルボン酸の含有量Dmolが、下記式4を満たすことが好ましく、下記式4-2の条件を満たすことがより好ましい。
D/(C+D)<0.5 :式4
D/(C+D)<0.46 :式4-2
上記式4の条件を満たすことによって、エステル化反応が進行しやすくなり、ITO粒子の収率が向上する。
なお、反応に際しては、ITO粒子の収率がより良好となるという観点から、下記式4-3を満たすことが好ましい。
0.1<D/(C+D)<0.5 :式4-3
【0091】
なお、上記D/(C+D)の値は、工程(I)において前駆体液の調製に用いるカルボン酸の量、工程(II)において用いる炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の量と、それぞれの分子量からモル数を計算することで算出することができる。
【0092】
本開示の製造方法により得られるITO粒子の数平均粒径は、既述の本開示のITO粒子と同様に、10nm以上30nm以下であることが好ましく、15nm以上25nm以下であることがより好ましく、20nm以上25nm以下であることがさらに好ましい。
本開示の製造方法によれば、分散性が良好であり、数平均粒径が上記範囲であるITO粒子を効率よく得ることができる。
本開示の製造方法により得られたITO粒子は、分散液、硬化性組成物等に配合する際において、可視光領域の散乱が抑制され、且つ、組成物の粘度の上昇が抑制されやすい。組成物の粘度の上昇が抑制されることにより、粒子をより高濃度に分散させることができ、その結果、より低アッベな硬化性組成物を得ることが可能となる。
【0093】
本会の製造方法は、上記工程(I)及び工程(II)に加え、その他の工程を含んでもよい。
その他の工程としては、上記工程(II)にて、上記前駆体溶液の滴下を終了した後に、得られた反応液を加熱条件下、好ましくは、230℃~320℃の温度条件下で、保持する工程〔工程(III)〕、得られたITO粒子を精製する工程〔工程(IV)〕などが挙げられる。
【0094】
〔工程(III)〕
工程(III)は、工程(II)において、前駆体溶液の滴下を完了した後、得られた反応液を、すぐに冷却せず、加熱温度条件下で、保持する工程である。
反応液の温度は、上記の好ましい加熱温度範囲、例えば230℃~320℃の範囲に保持されればよい。なお、保持時間の間、必ずしも一定温度に保持する必要はなく、上記の好ましい温度範囲の例によれば、当初は230℃として、徐々に昇温してもよく、320℃から降温してもよい。また、温度調整機構を付した反応容器を用いる場合、多少の温度変動があっても230℃~320℃の範囲に保持されればよい。
工程(II)における反応温度(反応液の温度)と、工程(III)における保持温度とは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0095】
反応液の保持温度は、230℃~320℃の範囲が好ましく、250℃~310℃の範囲がより好ましく、280℃~300℃の範囲がさらに好ましい。
上記温度に反応液を保持する時間としては、10分間以上が好ましく、20分間以上がより好ましい。保持時間の上限は、180分間以下とすることができる。
上記加熱温度条件下で、一定時間保持することにより、反応時の滴下速度を上げた際においても、物性のより安定したITO粒得られる。
【0096】
〔工程(IV)〕
工程(IV)は、工程(II)を経て得られたITO粒子を精製する工程である。
工程(II)を経て得られたITO粒子は、溶媒中に分散された状態で得られる。このため、反応液に分散されたITO粒子に対し、例えば、エタノールを加えて遠心分離を行い、粒子を沈降させた後、上澄みを除去し、トルエンに再分散させる工程を行なって、ITO粒子を精製する工程(IV)を実施してもよい。
ITO粒子を精製する工程(IV)は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。上記では、粒子を沈降させる溶媒としてエタノールを、洗浄する溶媒としてトルエンをそれぞれ用いたが、溶媒は、それぞれ目的に応じて適宜選択すればよい。
【0097】
本開示の製造方法により得られたITO粒子は、近赤外領域での光学フィルタ、波長分散を利用した光学レンズ材料等に好適に用いることができる。
【0098】
なお、得られたITO粒子におけるインジウムの含有量及びスズの含有量は、ICP質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により測定される。
【0099】
以下、本開示の製造方法により得られるITO粒子を含む硬化性組成物の製造方法について記載する。
【0100】
<硬化性組成物の製造方法>
本開示の硬化性組成物は、既述の本開示のITO粒子と、重合性化合物と、を含む組成物であり、硬化性組成物は、外部からのエネルギー付与により硬化する組成物である。
【0101】
本開示の製造方法により得られたインジウムスズ酸化物粒子を含む硬化性組成物の製造方法には、特に制限はなく、公知の硬化性組成物の製造方法を適宜適用することができる。なかでも、下記の本開示の硬化性組成物の製造方法により製造されることが好ましい。
本開示の硬化性組成物の製造方法は、既述の本開示の製造方法によりインジウムスズ酸化物粒子を得る工程(第1の工程)と、得られたインジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を混合し、近赤外線領域に吸収を有する硬化性組成物を得る工程(第2の工程)と、を含む。
【0102】
本開示の製造方法により得られるITO粒子は、既述のように、プラズモン共鳴吸収のピーク波長が、近赤外領域(例えば、波長1900nm近傍、好ましくは1800nm以下)に存在することで、低アッベ数の硬化性組成物を実現することが可能となり、回折格子レンズとして用いた場合の性能向上、及び光学素子の設計の自由度の向上につながる。
【0103】
〔硬化性組成物の製造方法における第1の工程〕
本開示の硬化性組成物の製造方法における第1の工程であるITO粒子の製造方法は、既述の本開示のITO粒子の製造方法と同様であり、好ましい態様も同じである。
なお、第1の工程で、溶媒中に分散された状態で得られるITO粒子は、反応液に分散された状態であるため、反応液に分散されたITO粒子に対し、例えば、エタノールを加えて遠心分離を行い、粒子を沈降させた後、上澄みを除去し、トルエンに再分散させる工程を行なって、ITO粒子を精製する工程を実施してもよい。ITO粒子を精製する工程は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0104】
〔硬化性組成物の製造方法における第2の工程〕
本開示の硬化性組成物の製造方法は、第2の工程として、得られたインジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を混合する工程を有する。混合により、近赤外線領域に吸収を有する硬化性組成物を得る。
インジウムスズ酸化物粒子と、重合性化合物と、を混合する方法には、特に制限はない。撹拌、混合は、目視にて、分離が認められず、均一な混合物を得るまで行うことが好ましい。
【0105】
第2の工程において、ITO粒子と重合性化合物とを混合するに際し、用いるITO粒子の量、重合性化合物の量、用い得る任意成分などは、既述の本開示の硬化性組成物におけるのと同様であり、好ましい例も同じである。
本開示において「全固形分」とは、組成物における溶剤等の揮発性成分を除いた成分の総量を指す。
【0106】
硬化性組成物中のITO粒子の含有量は、組成物を、熱質量分析を行って、完全に液体成分が除去できる温度(例えば、500℃)まで加熱した後の残留固形成分を上記ITO粒子とみなすことにより、測定対象の硬化性組成物の全固形分に対するITO粒子の質量含有量として算出することができる。
【0107】
(硬化性組成物の特性)
本開示の硬化性組成物の製造方法によれば、光学部材に有用な硬化性組成物を効率よく得ることができる。
【実施例】
【0108】
以下、本開示のITO粒子等について、実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。「mL」はミリリットルである
【0109】
(実施例1)
まず、フラスコ中に、125mL(396mmol)のオレイン酸(富士フイルム和光純薬(株)製、純度65.0%以上)と、25.151g(86mmol)の酢酸インジウム(Alfa Aesar社製、99.99%)と、2.697g(7.6mmol)の酢酸スズ(IV)(Alfa Aesar社製)を投入し、窒素フロー中の環境で、160℃の温度条件下、2時間加熱することによって黄色透明な前駆体溶液を得た。〔工程(I)〕。
実施例1で用いた上記市販のオレイン酸〔試薬〕は、分析の結果、試薬の全量に対し、オレイン酸82.5%、リノール酸10.6%、パルミチン酸4.9%及びステアリン酸1.8%を含み、炭素数6~20のカルボン酸の合計含有比率が99%以上の混合物であることを確認した。
工程(I)で得られた前駆体溶液におけるカルボン酸に対する金属の総含有量の比は以下の通りであり、上記式2、及び式3を満たしていた。
B/A=4.2(モル基準)であった。
【0110】
続いて、別のフラスコに、オレイルアルコール225mL(炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒として724mmol)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度65.0%以上)を加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記工程(I)で得た前駆体溶液125mLを、シリンジポンプを用いて1.17mL/minの速度で滴下した。〔工程(II)〕
【0111】
実施例1で用いた上記市販のオレイルアルコール〔試薬〕は、分析の結果、試薬の全量に対し、オレイルアルコール93.0%、ヘキサデカノール4.6%、オクタデカジエノール2.4%の混合物であることを確認した。平均した分子量から見積もられるモル量から、炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の上記モル量を算出した。
工程(II)の反応液中におけるカルボン酸の総含有量と炭素数14~22のヒドロキシル基を有する溶媒の含有量の関係は以下の通りであり、上記式4を満たしていた。
D/(C+D)=0.35 (モル基準)
【0112】
工程(II)における前駆体溶液の滴下が終了した後、得られた反応溶液は285℃で30分間保持した。〔工程(III)〕その後、加熱を停止し、室温に冷却した。
【0113】
得られた反応溶液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンで再分散させた後、エタノール添加、遠心分離、上澄み除去、トルエン再分散を3回繰り返し、オレイン酸配位のインジウムスズ酸化物粒子のトルエン分散液を得た。〔工程(IV)〕
【0114】
インジウムスズ酸化物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、100個の粒子の円相当径を算出して算術平均値を求めたところ、数平均粒径は21nmであった
上記インジウムスズ酸化物粒子のトルエン分散液を希釈し、既述の方法で吸収スペクトル測定を実施したところ、1750nm付近に明瞭なプラズモン共鳴吸収ピークが存在することを確認した。
【0115】
続いて、得られた反応溶液に対し、エタノールを加えて遠心分離を行い、粒子を沈降させた後、上澄みを除去し、トルエンに再分散させることを3回繰り返し、オレイン酸配位のインジウムスズ酸化物粒子のトルエン分散液を得た。
インジウムスズ酸化物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、100個の粒子の円相当径を算出して算術平均値を求めたところ、数平均粒径は21nmであった。
【0116】
(比較例1)
実施例1の工程(I)で用いたオレイン酸の量を187.5mL(594mmol)として前駆体溶液の調製を行った。
比較例1においては、得られた前駆体溶液におけるカルボン酸に対する金属の総含有量は以下の通りであり、上記式2を満たしていなかった。
B/A=6.3
得られた前駆体溶液を用い、前駆体溶液の滴下速度を1.75mL/minとしたこと
以外は、実施例1と同様の手法で、インジウムスズ酸化物粒子のトルエン分散液を得た。
【0117】
インジウムスズ酸化物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、実施例1と同様の方法でITO粒子の円相当径を算出して算術平均値を求めたところ、数平均粒径は28nmであった。
上記インジウムスズ酸化物粒子のトルエン分散液を希釈し、既述の方法で吸収スペクトル測定を実施したところ、1750nm付近に明瞭なプラズモン共鳴吸収ピークが存在することを確認した。
【0118】
(評価)
-可視光直線透過率-
実施例及び比較例のインジウムスズ酸化物粒子のトルエン分散液をトルエンにて0.6質量%に希釈し、光路長0.2cmの光学セルを用いて下記波長の可視光直線透過率を測定した。結果を下記表1に記載した。
【0119】
-ヘイズ-
ヘイズの測定は、ITO粒子分散液を乾燥して非極性溶媒を除去し、分散液の固形分濃度[質量%]を求めた上で、分散系の固形分濃度を0.6質量%に希釈した分散液を調製して測定対象液とした。
分光ヘーズメーター(日本電色工業製、SH7000)を用い、得られた測定対象液のヘイズ値を評価した。結果を下記表1に記載した。
【0120】
【0121】
表1の結果より、実施例1の製造方法で得たITO粒子分散液は、高い直線透過率と、それに伴う低いヘイズ値が得られることが確認された。
【0122】
-ITO粒子のXPS分析-
実施例1及び比較例1で得たITO粒子のX線光電子分光スペクトル評価を、XPS分析装置を用いて行った。評価は、XPS分析装置(PHI社製、QuanterSXM:装置名)を用い、以下の条件でITO粒子最表面の酸素原子の結合状態を評価した。
〔条件〕
X線源:単色化Al(1486.6eV)
検出深さ:4~5nm(取出角:45°)
【0123】
ピーク分離の方法としては、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
Aと、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量O
Bとは、酸素1sスペクトルにおける各ピークの面積値で見積もった。
各ピークの面積値は、酸素1sスペクトルのピークフィッティングによる波形分離を行うことにより算出することができ、本開示において、上記方法にて算出した値を用いた。結果を下記表2に示す。
また、実施例1で得たITO粒子のXPSスペクトルを
図1に示す。
【0124】
【0125】
表2に示す如く、実施例1の製造方法で得たITO粒子は、530.0±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OAと、531.5±0.5eVの位置にピークトップを有するピークに帰属される酸素量OBとの比(OA/OB)が、1.53であり、上記式1を満たしていた。他方、比較例1の製造方法で得たITO粒子では1.38であり、上記式1の範囲外であった。これにより、実施例1で得たITO粒子は、比較例1で得たITO粒子に比較し、粒子表面における酸素原子と金属原子との結合状態がより良好であることがわかる。
【0126】
(実施例2)
-硬化性組成物の製造-
実施例1より得られたインジウムスズ酸化物粒子(ITO粒子)のトルエン分散液(ITO粒子の含有量480mg)に対し、DISPERBYK-111(ビッグケミージャパン社製)41.4μLを加え、さらに重合性化合物である1,6-ヘキサンジオールジアクリレートを467.3μL加えて、ホットスターラーにより40℃で1時間撹拌した(第2の工程)。
得られた混合溶液に対し、エバポレータを用いてトルエン溶媒を除去することにより、ITO粒子が重合性化合物中に分散されたITO粒子含有硬化性組成物を得た。
ITO粒子含有硬化性組成物中のITO粒子の含有量は、組成物全固形分に対して、50質量%であった。
【0127】
得られたITO粒子含有硬化性組成物を、屈折率計DR-M2(アタゴ社製)を用いて評価した。即ち、実施例1のITO粒子のトルエン分散液について、既述の手法によりITO粒子を含む硬化性組成物を作製し、硬化性組成物のアッベ数を評価した。
アッベ数νdは、17.7であった
【0128】
なお、アッベ数とは、可視光領域における屈折率の波長分散を示す指標であり、アッベ数νdは、以下の式により算出される。
νd=(nd-1)/(nf-nc)
nd:D線(587.6nm)の屈折率
nf:F線(486.1nm)の屈折率
nc:C線(656.3nm)の屈折率
なお、C線、D線及びF線は、フラウンホーファー線におけるC線、D線及びF線である。
【0129】
実施例1の製造方法により得られたITO粒子を含む硬化性組成物は、アッベ数(νd)が17.7であり、ndが1.502となり、波長分散が大きいものであった。なお、硬化性組成物のアッベ数が低いと、硬化性組成物の硬化物のアッベ数も低い値となることが期待できる。
そのため、硬化性組成物は、回折格子として用いた際に回折格子の高さを低くすることが可能となり、フレアの発生を大幅に低減させることが可能となる。したがって、本開示の製造方法により得られたITO粒子及び硬化性組成物は、光学部材等の種々の用途に好適に使用することが可能である。
【0130】
(実施例3)
実施例1において、オレイン酸の添加量を125mL(396mmol)から145mL(460mmol)に変えた以外は実施例1と同様にして、ITO粒子のトルエン分散液を得た。
工程(I)で得られた前駆体溶液におけるカルボン酸に対する金属の総含有量の比は以下の通りであり、上記式2、及び式3を満たしていた。
B/A=4.9(モル基準)であった。
【0131】
(実施例4)
実施例1において、オレイン酸の添加量を125mL(396mmol)から104mL(330mmol)に変えた以外は実施例1と同様にして、ITO粒子のトルエン分散液を得た。
工程(I)で得られた前駆体溶液におけるカルボン酸に対する金属の総含有量の比は以下の通りであり、上記式2、及び式3を満たしていた。
B/A=3.5(モル基準)であった。
【0132】
(実施例5)
実施例1において、工程(I)で得られた前駆体溶液の滴下速度を1.17mL/minから0.75mL/minに変えた以外は実施例1と同様の手法でITO粒子のトルエン分散液を得た。
【0133】
実施例3~実施例5の製造方法により得られたITO粒子分散液について、実施例1と同様にして、直線透過率、ヘイズ値を測定した。結果を表3に示す。
【0134】
【0135】
表3の結果より、実施例3~実施例5の製造方法により得られたITO粒子分散液は高い直線透過率と、それに伴う低いヘイズ値が得られることが確認された。
【0136】
(実施例6)
実施例2で得られた重合性組成物を成膜し、得られた重合性組成物膜に対し、メタルハライドランプを用いて、露光エネルギー30mW/cm2で30秒間紫外線照射して硬化させ、厚み6μmの硬化膜を得た。
得られたITO粒子を含む硬化性組成物の硬化膜について、既述の方法でアッベ数を評価した。
【0137】
実施例6の製造方法により得られたITO粒子を含む硬化性組成物の硬化物は、アッベ数(νd)が18.8であり、ndが1.532となり、波長分散が大きいものであった。
この結果より、実施例6の硬化性組成物の硬化膜は、回折格子として用いた際に回折格子の高さを低くすることが可能となり、フレアの発生を大幅に低減させることが可能となることがわかる。したがって、本開示の製造方法により得られたITO粒子を含む硬化性組成物の硬化物は、光学部材等の種々の用途に好適に使用し得ることがわかる。