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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】焼き菓子用改良剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20231114BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231114BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20231114BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/80
A21D13/60
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020533500
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029520
(87)【国際公開番号】W WO2020026995
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018147022
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉村 実奈
(72)【発明者】
【氏名】篠田 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】長澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】今義 潤
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132534(WO,A1)
【文献】特開2017-118851(JP,A)
【文献】特開2006-166909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(1)~()を満たす成分(A)を有効成分として含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用改良剤。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【請求項2】
アミロース含量5質量%以上である前記澱粉が、アミロース含量が40質量%以上のコーンスターチである、請求項1に記載の焼き菓子用改良剤。
【請求項3】
前記低分子化澱粉が、酸処理澱粉、酸化処理澱粉および酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の焼き菓子用改良剤。
【請求項4】
前記成分(A)が、前記低分子化澱粉以外の澱粉として、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉および架橋澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を含有する、請求項1乃至3いずれか1項に記載の焼き菓子用改良剤。
【請求項5】
前記焼き菓子が、パウンドケーキ、マドレーヌ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびドーナツからなる群から選択される1種である、請求項1乃至4いずれか1項に記載の焼き菓子用改良剤。
【請求項6】
以下の条件(1)~()を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用生地。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【請求項7】
当該焼き菓子用生地中の前記粉体原料および前記成分(A)の含有量の合計に対する前記成分(A)の含有量が、0.3質量%以上25質量%以下である、請求項に記載の焼き菓子用生地。
【請求項8】
前記粉体原料が、穀粉を含む、請求項またはに記載の焼き菓子用生地。
【請求項9】
以下の条件(1)~()を満たす成分(A)と、穀粉および糖類からなる群から選ばれる1種または2種と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用ミックス粉。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【請求項10】
以下の条件(1)~()を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【請求項11】
当該焼き菓子中の前記粉体原料および前記成分(A)の含有量の合計に対する前記成分(A)の含有量が、0.3質量%以上25質量%以下である、請求項10に記載の焼き菓子。
【請求項12】
前記粉体原料が、穀粉を含む、請求項10または11に記載の焼き菓子。
【請求項13】
以下の条件(1)~()を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を混合し生地を得る工程、および
前記生地を焼成または油ちょうする工程
を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の製造方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【請求項14】
焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の食感を向上させる方法であって、以下の条件(1)~()を満たす成分(A)を前記焼き菓子の生地に含有させることを含む、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【請求項15】
焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の経時変化を抑制する方法であって、以下の条件(1)~()を満たす成分(A)を前記焼き菓子の生地に含有させることを含む、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
(6)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子用改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
焼き菓子の改良剤に関する技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1(特開2003-210098号公報)には、粉砕された、穀粉類又は澱粉類及びその加工品及びその分解物より選ばれる1種又は2種以上の粉末を含有する製菓・製パン用品質改良剤について記載されている。そして、かかる改良剤を用いることにより、菓子類またはパン類の食味を損なうことなく、しっとりとした口溶けの良い食感で、ボリューム感等の外観にも優れており、保管中の老化を抑制することができるとされている。
【0003】
また、特許文献2(特開2008-73018号公報)には、粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を含有する焼き菓子生地用成形剤について記載されており、これにより、小麦粉含有量に拘わらず、焼き菓子製造工程中の成形性を良好とし、風味に影響を与えず、風味素材本来の風味及び食感を生かし、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感を付与できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-210098号公報
【文献】特開2008-73018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した技術を用いた場合、焼き菓子特有の好ましい歯切れ、しっとり感および口どけが、保存後においても優れる焼き菓子を得るという点で改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を有効成分として含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用改良剤が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0007】
本発明によれば、
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用生地が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0008】
本発明によれば、
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、穀粉および糖類からなる群から選択される1種または2種と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用ミックス粉が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0009】
本発明によれば、
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0010】
本発明によれば、
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を混合し生地を得る工程、および
前記生地を焼成または油ちょうする工程
を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の製造方法が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0011】
本発明によれば、
焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の食感を向上させる方法であって、以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を前記焼き菓子の生地に含有させることを含む、前記方法が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0012】
また、本発明によれば、
焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の経時変化を抑制する方法であって、以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を前記焼き菓子の生地に含有させることを含む、前記方法が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0013】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明には、上記本発明における焼き菓子用改良剤の、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用ミックス粉、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用生地または焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の製造方法への使用も包含される。
また、本発明には、上記本発明における焼き菓子用ミックス粉または焼き菓子用生地の、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)およびその製造方法への使用も包含される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼き菓子特有の好ましい歯切れ、しっとり感および口どけが、保存後においても優れる焼き菓子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0016】
図1】実施例における焼き菓子のテクスチャーアナライザーによる評価結果を示す図である。
図2】実施例における焼き菓子のテクスチャーアナライザーによる評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、各成分の具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
(焼き菓子用改良剤)
本実施形態において、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用改良剤は、以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を有効成分として含む。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【0019】
本明細書において、焼き菓子は、スポンジケーキを含まない。スポンジケーキとは、卵、砂糖、小麦粉を使用し、卵の起泡性を利用した口解けの良い比重の小さい生地が特徴の焼き菓子をいう。スポンジケーキの焼成前の生地比重は、具体的には0.3以上0.6以下である。
また、焼き菓子は、スポンジケーキ以外のものであればよいが、焼き菓子用改良剤の効果をより好適に得る観点から、好ましくは、パウンドケーキ、マドレーヌ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびドーナツからなる群から選択される1種である。ここで、パウンドケーキとは、卵、砂糖、油、小麦粉を同量使用し、生地の持ち味を楽しむ比重の大きいバッター生地が特徴の焼き菓子をいう。パウンドケーキの焼成前の生地比重は、スポンジケーキよりも大きく、たとえば0.6超である。
生地比重の測定方法は、限定されず、一般に用いられる方法でよいが、たとえばあらかじめ重さを測った容量100mLのプラスチックカップ等に、生地をすり切りで入れ、質量を測定して、算出することができる。
以下、成分(A)についてさらに具体的に説明する。
【0020】
(成分(A))
成分(A)は、具体的には、澱粉を主成分としてなる粉状物である。
条件(1)に関し、成分(A)は、焼き菓子のしっとり感および口どけを向上させ、これらの経時変化を抑制する観点から、澱粉を75質量%以上含み、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上含む。
また、成分(A)中の澱粉含量の上限に制限はなく、100質量%以下であるが、焼き菓子の性状等に応じて99.5質量%以下、99質量%以下等としてもよい。
【0021】
条件(2)に関し、成分(A)は、上記澱粉として、アミロース含量5質量%以上の澱粉を原料とする低分子化澱粉を特定の割合で含み、低分子化澱粉として特定の大きさのものが用いられる。すなわち、成分(A)中の澱粉が、アミロース含量5質量%以上の澱粉を原料とする低分子化澱粉を成分(A)中に3質量%以上45質量%以下含み、低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下である。
【0022】
低分子化澱粉のピーク分子量は、焼き菓子のしっとり感および口どけを向上させ、これらの経時変化を抑制する観点から、3×103以上であり、好ましくは8×103以上である。また、焼き菓子の歯切れを向上させ、その経時変化を抑制する観点から、低分子化澱粉のピーク分子量は、5×104以下であり、好ましくは3×104以下であり、さらに好ましくは1.5×104以下である。なお、低分子化澱粉のピーク分子量の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0023】
低分子化澱粉は、その製造安定性に優れる観点から、好ましくは、酸処理澱粉、酸化処理澱粉および酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくは酸処理澱粉である。
【0024】
酸処理澱粉を得る際の酸処理の条件は問わないが、たとえば、以下のように処理することができる。
まず、原料であるアミロース含量5質量%以上の澱粉と水を反応装置に投入した後、さらに酸を投入する。あるいは水に無機酸をあらかじめ溶解させた酸水と原料の澱粉を反応装置に投入する。酸処理をより安定的におこなう観点からは、反応中の澱粉の全量が水相内に均質に分散した状態、またはスラリー化した状態にあることが望ましい。そのためには、酸処理をおこなう上での澱粉スラリーの濃度を、たとえば10質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲になるように調整する。スラリー濃度が高すぎると、スラリー粘度が上昇し、均一なスラリーの攪拌が難しくなる場合がある。
【0025】
酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、種類、純度などを問わず利用できる。
【0026】
酸処理反応条件については、たとえば酸処理時の無機酸濃度は、酸処理澱粉を安定的に得る観点から、0.05規定度(N)以上4N以下が好ましく、0.1N以上4N以下がより好ましく、0.2N以上3N以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、反応温度は、30℃以上70℃以下が好ましく、35℃以上70℃以下がより好ましく、35℃以上65℃以下がさらに好ましく、反応時間は、同様の観点から、0.5時間以上120時間以下が好ましく、1時間以上72時間以下がより好ましく、1時間以上48時間以下がさらに好ましい。
【0027】
成分(A)中の低分子化澱粉の含有量は、焼き菓子の歯切れを向上させ、その経時変化を抑制する観点から、3質量%以上であり、好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは13質量%以上である。
一方、成分(A)中の低分子化澱粉の含有量の上限は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけのバランスを向上させる観点から、45質量%以下であり、好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0028】
また、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量は、5質量%以上であり、焼き菓子の歯切れを向上させる観点から、好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは22質量%以上、さらにより好ましくは40質量%以上、よりいっそう好ましくは45質量%以上、殊更好ましくは55質量%以上である。なお、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量の上限に制限はなく、100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下である。
【0029】
低分子化澱粉の原料であるアミロース含量5質量%以上の澱粉として、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉および、これらの原料を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を用いることができる。焼き菓子の歯切れを向上し、その経時変化を抑制する観点から、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、および、タピオカ澱粉から選択される1種または2種以上を用いることが好ましい。また、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけのバランスを向上させる観点からは、アミロース含量5質量%以上の澱粉は、好ましくはハイアミロースコーンスターチである。ハイアミロースコーンスターチのアミロース含量は、40質量%以上のものが入手可能である。アミロース含量5質量%以上の澱粉は、より好ましくはアミロース含量が40質量%以上のコーンスターチである。
【0030】
また、成分(A)は、冷水膨潤度について特定の条件(3)を満たすとともに、粒度が特定の条件(4)および(5)を満たす構成となっている。
まず、条件(3)に関し、焼き菓子のしっとり感および口どけを向上させ、これらの経時変化を抑制する観点から、成分(A)の冷水膨潤度は5以上であり、好ましくは6以上であり、さらに好ましくは6.5以上である。
また、焼き菓子の歯切れを向上し、その経時変化を抑制する観点から、成分(A)の冷水膨潤度は20以下であり、好ましくは17以下、さらに好ましくは15以下である。
ここで、成分(A)の冷水膨潤度の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0031】
次に、成分(A)の粒度を説明する。
条件(4)に関し、目開き0.25mmの篩の篩下の粒子の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、成分(A)全体に対して80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりいっそう好ましくは95質量%以上である。
また、目開き0.25mmの篩の篩下の粒子の含有量の上限に制限はなく、100質量%以下である。
【0032】
また、条件(5)に関し、目開き0.5mmの篩の篩上の粒子の含有量は、焼き菓子の口どけを向上させ、これらの経時変化を抑制する観点から、成分(A)全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、よりいっそう好ましくは1質量%以下、さらにまた好ましくは0質量%である。
また、成分(A)が目開き0.5mmの篩の篩上の粒子の含有量に下限はなく、0質量%以上である。
【0033】
また、成分(A)の粒度について、目開き0.075mmの篩の篩上の粒子の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、成分(A)全体に対して好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上、よりいっそう好ましくは50質量%以上、さらにまた好ましくは70質量%以上である。
また、目開き0.075mmの篩の篩上の粒子の含有量の上限に制限はなく、100質量%以下であるが、好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは94質量%以下である。
【0034】
本実施形態において、成分(A)は、上記低分子化澱粉以外の澱粉を含む。成分(A)中の低分子化澱粉以外の澱粉成分としては、様々な澱粉を使用することができる。具体的には、用途に応じて一般に市販されている澱粉、たとえば食品用の澱粉であれば、種類を問わないが、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉などの澱粉;およびこれらの澱粉を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉などから、1種以上を適宜選ぶことができる。好ましくは、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの架橋澱粉からなる群から選択される1種または2種以上の澱粉を含有するのがよい。
【0035】
また、本実施形態における成分(A)には、澱粉以外の成分を配合することもできる。
澱粉以外の成分の具体例としては、色素や炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの不溶性塩が挙げられ、不溶性塩を配合することが好ましく、不溶性塩の配合量は、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
次に、成分(A)の製造方法を説明する。成分(A)の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む。
(低分子化澱粉の調製工程)アミロース含量5質量%以上の澱粉を低分子化処理してピーク分子量が3×103以上5×104以下の低分子化澱粉を得る工程。
(造粒工程)原料に低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、かつ低分子化澱粉と低分子化澱粉以外の澱粉の合計が75質量%以上である、原料を加熱糊化して造粒する工程。
【0037】
低分子化澱粉の調製工程は、アミロース含量5質量%以上の澱粉を分解して低分子化澱粉とする工程である。ここでいう分解とは、澱粉の低分子化を伴う分解をいい、代表的な分解方法として酸処理や酸化処理、酵素処理による分解が挙げられる。この中でも、分解速度やコスト、分解反応の再現性の観点から、好ましくは酸処理である。
【0038】
また、造粒工程には、澱粉の造粒に使用されている一般的な方法を用いることができるが、所定の冷水膨潤度とする点で、澱粉の加熱糊化に使用されている一般的な方法を用いることが好ましい。具体的には、ドラムドライヤー、ジェットクッカー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどの機械を使用した方法が知られているが、本実施形態において、冷水膨潤度が上述した特定の条件を満たす成分(A)をより確実に得る観点から、エクストルーダーやドラムドライヤーによる加熱糊化が好ましく、エクストルーダーがより好ましい。
エクストルーダーなどによる押出造粒機を用いる方法によれば、成分(A)の粒子の少なくとも表面近傍を糊化させるとともに、密度が適度に低い澱粉粉状物が得られるため、吸水率が適度に高く離水の抑制効果に優れた成分(A)をさらに安定的に得ることができる。エクストルーダー処理する場合は通常、澱粉を含む原料に加水して水分含量を10~60質量%程度に調整した後、たとえばバレル温度30~200℃、出口温度80~180℃、スクリュー回転数100~1,000rpm、熱処理時間5~60秒の条件で、加熱膨化させる。
【0039】
本実施形態において、たとえば上記特定の原料を加熱糊化する工程により、冷水膨潤度が特定の条件を満たす成分(A)を得ることができる。
また、加熱糊化して得られた造粒物を、必要に応じて、粉砕し、篩い分けをし、大きさを適宜調整して、条件(4)および(5)を満たす成分(A)を得るとよい。
【0040】
以上により得られる成分(A)は、低分子化澱粉を含む澱粉粉状物であって、条件(1)~(5)を満たす構成となっているため、焼き菓子に配合されて、その食感を向上させることができるとともに、食感の経時変化を抑制することができる。
たとえば、本実施形態において、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の食感を向上させる方法は、成分(A)を焼き菓子の生地に含有させることを含む。
また、本実施形態において、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の経時変化を抑制する方法は、成分(A)を焼き菓子の生地に含有させることを含む。
【0041】
本明細書において、焼き菓子の食感とは、具体的には、焼き菓子に特有の好ましい歯切れ、しっとり感および口どけをいう。
また、本明細書において、焼き菓子の経時変化を抑制するとは、たとえば、焼き菓子を保存した際の上述の焼き菓子の食感の劣化を抑制することをいう。
本実施形態において、成分(A)を有効成分とする焼き菓子用改良剤を配合して焼き菓子を得ることにより、焼き菓子に特有の歯切れ、しっとり感および口どけのバランスを向上させることができるとともに、これらの食感の経時変化を抑制することができる。
【0042】
焼き菓子用改良剤中の成分(A)の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、焼き菓子用改良剤全体に対して好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上、よりいっそう好ましくは90質量%以上である。
また、焼き菓子用改良剤中の成分(A)の含有量の上限に制限はなく、100質量%以下であるが、たとえば99質量%以下であってもよい。
【0043】
また、焼き菓子用改良剤は、好ましくは成分(A)から構成される。
焼き菓子用改良剤が成分(A)以外の成分を含むとき、成分(A)以外の成分として、澱粉、穀粉、pH調整剤、糖類が挙げられる。
【0044】
(焼き菓子用生地)
本実施形態において、焼き菓子用生地は、成分(A)と、成分(A)以外の粉体原料とを含む。
粉体原料は、焼き菓子用生地に粉状の形態で配合される原料であって、成分(A)以外の原料である。粉体原料の具体例として、小麦粉、大豆粉等の穀粉;グルテン、大豆蛋白質等の蛋白質;砂糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖、転化糖、オリゴ糖、澱粉、デキストリン、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール等)等の糖類;アスパルテーム、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、サッカリン、ステビア抽出物等の粉末状の甘味料;ふすま、セルロース、難消化性デキストリン等の食物繊維;ベーキングパウダー等の膨張剤;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズパウダー等の乳類;卵白粉、全卵粉などの卵類;グアーガム、アルギン酸エステル等の増粘多糖類;乳化剤;ココアパウダー、抹茶パウダー等の風味付与素材;香料および風味改善剤が挙げられる。製造安定性に優れる焼き菓子を得る観点から、粉体原料は好ましくは穀粉を含み、さらに好ましくは小麦粉を含む。
【0045】
焼き菓子用生地中の粉体原料および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらにより好ましくは1.2質量%以上、よりいっそう好ましくは1.5質量%以上である。
また、焼き菓子用生地中の粉体原料および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは22質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、さらにより好ましくは12質量%以下であり、よりいっそう好ましくは10質量%以下、殊更好ましくは8質量%以下である。
ここで、本明細書中、「粉体原料および成分(A)の含有量の合計」とは、成分(A)と成分(A)以外の粉体原料との合計のことである。
【0046】
焼き菓子用生地中の穀粉および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、さらにより好ましくは7質量%以上である。
また、焼き菓子用生地中の穀粉および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、たとえば30質量%以下であってよく、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0047】
また、焼き菓子用生地は、上述した成分(A)および粉体原料以外の成分を含んでもよい。他の成分の具体例として、全卵、卵白、卵黄等の卵液;液油、固体脂等の食用油脂;水、牛乳、豆乳、果汁、はちみつ、黒蜜、メープルシロップ等の液体;ナッツ類;ドライフルーツ類が挙げられる。
【0048】
(焼き菓子用ミックス粉)
本実施形態において、焼き菓子用ミックス粉は、成分(A)と、穀粉および糖類からなる群から選択される1種または2種と、を含む。
穀粉および糖類の具体例として、それぞれ、焼き菓子用生地に配合される穀粉および糖類として例示したものを用いることができる。
【0049】
焼き菓子用ミックス粉中の成分(A)の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、焼き菓子用ミックス粉全体に対して好ましくは1.2質量%以上であり、さらに好ましくは1.5質量%以上である。
また、焼き菓子用ミックス粉中成分(A)の含有量は、焼き菓子用ミックス粉全体に対して100質量%未満であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下であり、さらにより好ましくは70質量%以下であり、殊更好ましくは60質量%以下である。
【0050】
(焼き菓子)
本実施形態において、焼き菓子は、成分(A)と、成分(A)以外の粉体原料とを含む。粉体原料としては、焼き菓子用生地に配合される粉体原料として例示したものを用いることができる。
【0051】
焼き菓子中の粉体原料および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上、よりいっそう好ましくは1.0質量%以上、さらにまた好ましくは2.0質量%以上、さらにまた好ましくは3.5質量%以上である。
また、同様の観点から、焼き菓子中の粉体原料および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは22質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、さらにより好ましくは12質量%以下であり、よりいっそう好ましくは10質量%以下、殊更好ましくは8質量%以下である。
【0052】
焼き菓子中の穀粉および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、焼き菓子の歯切れ、しっとり感および口どけを向上し、その経時変化を抑制する観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、さらにより好ましくは7質量%以上である。
また、焼き菓子中の穀粉および成分(A)の含有量の合計に対する成分(A)の含有量は、たとえば30質量%以下であってよく、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0053】
また、焼き菓子は、上述した成分(A)および粉体原料以外の成分を含んでもよく、他の成分の具体例として、焼き菓子用生地について前述した成分が挙げられる。
【0054】
本実施形態において、焼き菓子は、たとえば、成分(A)と、成分(A)以外の粉体原料と、を混合し生地を得る工程;および生地を焼成または油ちょうする工程を含む、製造方法により得ることができる。
【0055】
本実施形態において得られる焼き菓子は、有効成分として成分(A)を含むため、焼き菓子に特有の歯切れ、しっとり感および口どけのバランスを向上させることができるとともに、これらの食感の経時変化を抑制することができる。
また、本実施形態により、たとえば、口どけ、しっとり感およびサクミのある歯切れのバランスに優れるとともに、これらの食感の保存による変化が抑制された焼き菓子を得ることも可能となる。さらに具体的には、本実施形態により、たとえば、20℃で1日以上、3日以上、7日以上または14日以上保存した際の食感の変化が抑制された焼き菓子を得ることも可能となる。また、たとえば、50℃以上80℃以下の温度で、1日以上、3日以上、7日以上または14日以上保存した際の食感の変化が抑制された焼き菓子を得ることも可能となる。また、たとえば、0℃超10℃以下の温度で、1日以上、3日以上、7日以上または14日以上保存した際の食感の変化が抑制された焼き菓子を得ることも可能となる。
以下、参考形態の例を付記する。
[1]
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を有効成分として含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用改良剤。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
[2]
アミロース含量5質量%以上である前記澱粉が、アミロース含量が40質量%以上のコーンスターチである、[1]に記載の焼き菓子用改良剤。
[3]
前記低分子化澱粉が、酸処理澱粉、酸化処理澱粉および酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の焼き菓子用改良剤。
[4]
前記成分(A)が、前記低分子化澱粉以外の澱粉として、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉および架橋澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を含有する、[1]乃至[3]いずれか1つに記載の焼き菓子用改良剤。
[5]
前記焼き菓子が、パウンドケーキ、マドレーヌ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびドーナツからなる群から選択される1種である、[1]乃至[4]いずれか1つに記載の焼き菓子用改良剤。
[6]
前記成分(A)の目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が10質量%以上100質量%以下である、[1]乃至[5]いずれか1つに記載の焼き菓子用改良剤。
[7]
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用生地。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
[8]
当該焼き菓子用生地中の前記粉体原料および前記成分(A)の含有量の合計に対する前記成分(A)の含有量が、0.3質量%以上25質量%以下である、[7]に記載の焼き菓子用生地。
[9]
前記粉体原料が、穀粉を含む、[7]または[8]に記載の焼き菓子用生地。
[10]
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、穀粉および糖類からなる群から選ばれる1種または2種と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)用ミックス粉。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
[11]
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
[12]
当該焼き菓子中の前記粉体原料および前記成分(A)の含有量の合計に対する前記成分(A)の含有量が、0.3質量%以上25質量%以下である、[11]に記載の焼き菓子。
[13]
前記粉体原料が、穀粉を含む、[11]または[12]に記載の焼き菓子。
[14]
以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)と、前記成分(A)以外の粉体原料と、を混合し生地を得る工程、および
前記生地を焼成または油ちょうする工程
を含む、焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の製造方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
[15]
焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の食感を向上させる方法であって、以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を前記焼き菓子の生地に含有させることを含む、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
[16]
焼き菓子(ただし、スポンジケーキを除く。)の経時変化を抑制する方法であって、以下の条件(1)~(5)を満たす成分(A)を前記焼き菓子の生地に含有させることを含む、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 以上5×10 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き0.25mmの篩の篩下の含有量が80質量%以上100質量%以下
(5)目開き0.5mmの篩の篩上の含有量が10質量%以下
【実施例
【0056】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(原材料)
原材料として、主に以下のものを使用した。
(澱粉)
β澱粉:株式会社J-オイルミルズ製、コーンスターチY
ハイアミロースコーンスターチ:株式会社J-オイルミルズ製、HS-7、アミロース含量70質量%
加工澱粉(粉体原料):株式会社J-オイルミルズ製、ジェルコールCB―10
(油脂製品)
油脂製品1(加工油脂):マイスタージェネータ、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品2(加工油脂):スプレンダーL、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品3(加工油脂):グランマスタージェニュイン、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品4(加工油脂):グランマスタープティブール、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品5(加工油脂):グランマスターアルフィーユ、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品6(加工油脂):グランマスタースイッツァー、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品7:スプレンダーHG、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品8:マイスターゴールドスーパー、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品9:グランマスタープリメラン、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品10:菜種油、株式会社J-オイルミルズ製
(その他)
薄力粉(粉体原料):フラワー、日清フーズ株式会社製
ベーキングパウダー(粉体原料):Fアップ、株式会社アイコク製
砂糖(粉体原料):上白糖、三井製糖株式会社製
パーム油:パーム油、株式会社J-オイルミルズ製
牛乳:「牧場うまれの牛乳」明治東海社製
はちみつ:「ふんわりレンゲはちみつ」株式会社加藤美蜂園本舗製
【0058】
(製造例1)澱粉粉状物の製造
本例では、低分子化澱粉として酸処理澱粉を用いて澱粉粉状物を得た。
【0059】
(酸処理ハイアミロースコーンスターチの製造方法)
ハイアミロースコーンスターチを水に懸濁して35.6%(w/w)スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た。
得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチのピーク分子量を以下の方法で測定したところ、ピーク分子量は1.2×104であった。
【0060】
(ピーク分子量の測定方法)
ピーク分子量の測定は、東ソー株式会社製HPLCユニットを使用しておこなった(ポンプDP-8020、RI検出器RS-8021、脱気装置SD-8022)。
(1)試料を粉砕し、JIS-Z8801-1規格の篩で、目開き0.15mm篩下の画分を回収した。この回収画分を移動相に1mg/mLとなるように懸濁し、懸濁液を100℃3分間加熱して完全に溶解した。0.45μmろ過フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm)を用いてろ過をおこない、ろ液を分析試料とした。
(2)以下の分析条件で分子量を測定した。
カラム:TSKgel α-M(7.8mmφ、30cm)(東ソー株式会社製)2本
流速:0.5mL/min
移動相:5mM NaNO3含有90%(v/v)ジメチルスルホキシド溶液
カラム温度:40℃
分析量:0.2mL
(3)検出器データを、ソフトウェア(マルチステーションGPC-8020modelIIデータ収集ver5.70、東ソー株式会社製)にて収集し、分子量ピークを計算した。
検量線には、分子量既知のプルラン(Shodex Standard P-82、昭和電工株式会社製)を使用した。
【0061】
(澱粉粉状物の製造方法)
β澱粉79質量%、上述の方法で得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチ20質量%、および、炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下の通りである。
原料供給:450g/分
加水:17質量%
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を約10質量%に調整した。
【0062】
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、以下の配合割合で混合し、以下の澱粉粉状物1~4を調製し、各澱粉粉状物の冷水膨潤度を後述の方法で測定した。澱粉粉状物1~4の各画分の質量比および冷水膨潤度について表1にまとめた。
【0063】
(冷水膨潤度の測定方法)
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社、型番MX-50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプタ)し、沈殿層と上澄層に分けた。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とした。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とした。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とした。
【0064】
(実施例1~6、比較例1、対照例1および2)
本例では、オールインミックス製法によりパウンドケーキを製造し、評価した。各実施例および比較例では、製造例1で得られた澱粉粉状物1~4のいずれか1つからなる焼き菓子用改良剤を用いた。また、対照例では、澱粉粉状物1~4をいずれも配合せずにパウンドケーキを製造した。各例の配合を表2および表3に示す。
また、表2、表3および後述する表4以降において、「粉体原料+澱粉粉状物」とは、澱粉粉状物と澱粉粉状物以外の粉体原料との合計である。
パウンドケーキの製造手順を以下に示す。
1.原材料のうち、粉体原料をすべてビニール袋に入れ混ぜ合わせ、篩にかけ、ミックス粉を作製した。
2.20℃に調温した油脂製品1および油脂製品2、上白糖、全卵と一緒に、当該ミックス粉をホバートミキサーのボウルに投入し、ビーターを使用して低速でミキシングをおこない、次いで中速でミキシングをおこない、最終的な生地比重が0.75~0.81となるように調製した。
3.上記2.で得られた生地を絞り袋に入れ、パウンドケーキ用の焼き型に300gずつ入れた。
4.パウンド型を作業台平面に軽く落とし、形を整えた。
5.以下の条件でオーブンにて焼成し、パウンドケーキを得た。
焼成温度:上段180℃/下段180℃
焼成時間:37分
【0065】
各例で得られたパウンドケーキをビニール袋に入れて密閉して20℃にて14日間保存した。そして、保存後の対照例に対する保存後の各例のパウンドケーキのしっとり感、口どけおよび歯切れを評価した。評価結果を表2および表3にあわせて示す。
評価は、専門パネラー5名の合議によりおこなった。各項目とも、保存後の対照例を0点とし、-3点~+3点の7段階評価とし、0点超を合格とした。各項目の評価基準は以下の通りである。
(しっとり感)
3点:非常にしっとりしている
2点:しっとりしている
1点:ややしっとりしている
0点:ややパサつく(対照例と同等)
-1点:パサつく
-2点:かなりパサつく
-3点:酷くパサつく
(口どけ)
3点:非常に口どけが良い
2点:口どけが良い
1点:やや口どけが良い
0点:やや口どけが悪い(対照例と同等)
-1点:やや口どけが悪く、少し異物感あり
-2点:口どけが悪く、異物感あり
-3点:かなり口どけが悪く、かなり異物感あり
(歯切れ)
3点:非常に歯切れが良い
2点:歯切れが良い
1点:やや歯切れが良い
0点:僅かにネチャつきあり(対照例と同等)
-1点:ややネチャつきあり
-2点:かなりネチャつきあり
-3点:酷くネチャつきあり
【0066】
また、対照例1、比較例1および実施例1、ならびに対照例2、実施例4および実施例6の配合については、以下のようにサンプルを焼成直後、20℃にて1日、3日、7日または14日保存後の物性をテクスチャーアナライザーにて評価した。
【0067】
(応力測定用サンプルの調製)
表2および表3に示した組成で、パウンドケーキのバッター生地を作製した。これを15gずつ、市販のカップケーキ型(ベーキングカップ、紙製、サイズ:口径5cm、底面3.8cm、高さ3cm)に入れ、上段180℃/下段180℃で15分焼成し、厚さが3.5~4cmの応力測定用ケーキを得た。焼成直後、またはこのケーキをビニール袋に密閉して20℃で適時保存後、テクスチャーアナライザーによる応力測定をした。
【0068】
(テクスチャーアナライザー評価)
カップケーキの高さの中心から上下1cmずつを残してケーキの上下をカットし、厚さ2cmのサンプルを調製し、テクスチャーアナライザーを用いて評価した。
具体的にはカットした断面の上面の中心にプランジャーを接触させ50%圧縮時の最大応力(g)(50%圧縮応力(g))を測定した。ここで、50%圧縮応力(g)が小さい値であるほど、パウンドケーキが柔らかい状態であることを示す。当該試験に用いた装置及び測定条件を次に示す。また、結果を図1および図2に示す。
テクスチャーアナライザー
装置:TA-XT Plus(Stable Micro Systems社製)
プランジャー:直径25mmの円柱
テストスピード:1mm/s
50%圧縮応力(g)を各例あたり7サンプル測定した平均値(ただし明らかにエラー値と理解される値は除いた。)を測定値とした。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表2より、20℃にて14日間保存後のしっとり感においては、実施例1~3、すなわち、250μm篩下150μm篩上を36質量%、150μm篩下75μm篩上を48質量%含む澱粉紛状物2と、250μm篩下150μm篩上を含まず、150μm篩下75μm篩上を75質量%含む澱粉紛状物3と、75μm篩下が100質量%である澱粉紛状物4を用いた例のいずれも良好であり、中でも、澱粉粉状物2および3を用いた実施例1および2が非常に良好であった。
20℃にて14日間保存後の口どけの良さ、歯切れの良さにおいては、実施例1~3、すなわち、250μm篩下150μm篩上を36質量%、150μm篩下75μm篩上を48質量%含む澱粉紛状物2、250μm篩下150μm篩上を含まず、150μm篩下75μm篩上を75質量%含む澱粉紛状物3、および、75μm篩下が100質量%である澱粉紛状物4を用いた例のいずれも非常に良好であった。
一方、250μm篩上を60質量%含む澱粉紛状物1を用いた比較例1では、対照例1と比較して、時々口の中に固まりが残る感じがあり、口どけが良くなかった。
【0072】
【表3】
【0073】
表3より、20℃にて14日間保存後のしっとり感および歯切れの良さにおいては、実施例4~6すなわち(澱粉粉状物/(粉体原料+澱粉粉状物))の数値が、1.6質量%以上5.2質量%以下のとき良好であり、5.2質量%のとき、最も良好であった。口どけの良さについては、実施例4~6すなわち(澱粉粉状物/(粉体原料+澱粉粉状物))の数値が1.6質量%以上5.2質量%以下のとき良好であり、2.6質量%以上5.2質量%以下の実施例5および6においてさらに良好であり、5.2質量%の実施例6において、最も良好であった。
また、図1および図2より、各対照例および比較例1においては、20℃での保存期間の経過とともにパウンドケーキが硬くなっていったのに対し、各実施例においては、保存による硬さの増加が抑制されていた。
【0074】
(実施例7、対照例3)
本例では、マドレーヌの作製および評価をおこなった。表4に、マドレーヌの配合および評価結果を示す。
【0075】
(マドレーヌの製造方法)
1.表4に示した原材料のうち、実施例では薄力粉、澱粉粉状物、ベーキングパウダーおよび砂糖をビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、ベーキングパウダーおよび砂糖をビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を得た。
2.全卵と、上記1.で得られたミックス粉をボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで均一に攪拌した。
3.50℃で加熱溶解した油脂製品5を加え、均一に攪拌した。
4.1時間、25℃で生地を置いた。
5.生地を絞り袋に入れ、マドレーヌ型(12ケ取;縦260mm、横180mm、高さ15mm;シリコン加工ブリキ製)に、生地を流し込み、以下の条件でオーブンにて焼成した。
焼成温度:上段180℃/下段180℃
焼成時間:11分間
【0076】
(評価方法)
各例で得られたマドレーヌを脱酸素剤と共にビニール袋に入れ密封し、20℃にて14日間保存した。そして、保存後の対照例に対する保存後の実施例のマドレーヌのしっとり感、口どけおよび歯切れを、それぞれ前述したパウンドケーキの評価方法と同じ評価基準で評価した。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示すように、20℃にて14日間保存後のマドレーヌにおいても、澱粉粉状物2からなる改良剤の含有量が、(澱粉粉状物/(粉体原料+澱粉粉状物))の数値で9.4質量%である実施例7の場合、しっとり感、口どけ、歯切れの良さが良好であった。
また、実施例7では、澱粉粉状物2の含有量が、(澱粉粉状物/(穀粉+澱粉粉状物))の数値で16.7質量%であり、しっとり感、口どけ、歯切れの良さが良好であった。
【0079】
(実施例8、対照例4)
本例では、ドーナツの作製および評価をおこなった。表5に、ドーナツの配合および評価結果を示す。
【0080】
(ドーナツの製造方法)
1.表5に示した原材料のうち、実施例では薄力粉、澱粉粉状物、加工澱粉およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、加工澱粉およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を得た。
2.卵、牛乳を加え、ミキサーにて低速1分で混合した(低速1分)。
3.溶かした油脂製品6を加え、ミキサーにて低速1分、中速15秒で混合した。
4.クッキングシートの上に1個15gずつ、星形に絞り出した。
5.170℃のパーム油で3分間フライした。
6.完全に冷めたドーナツを脱酸素剤と共にビニール袋に入れ密封し、20℃にて7日間保存した。
【0081】
【表5】
【0082】
実施例8のドーナツを喫食したところ、対照例4と比較して、7日間保存後も、しっとり感、口どけおよび歯切れがすぐれていた。
【0083】
(ミックス粉の製造例1)
薄力粉940gに澱粉粉状物2を60g添加し、よく混合し、焼き菓子用ミックス粉を得た。
【0084】
(ミックス粉の製造例2)
薄力粉100gに澱粉粉状物3を100g、砂糖100gを添加し、よく混合し、焼き菓子用ミックス粉を得た。
【0085】
(実施例9、対照例5)
本例では、パンケーキの作製および評価をおこなった。表6に、パンケーキの配合を示す。
【0086】
(パンケーキの製造方法)
以下の手順で、パンケーキを作製した。
1.油脂製品7、全卵、牛乳、上白糖および水をボウルに入れ、ホイッパーを取り付けたホバートミキサーにて比重0.25~0.28になるまで均一に攪拌した。
2.上記1.に、澱粉粉状物、薄力粉およびベーキングパウダーを加え均一に混合した。対照例では、薄力粉およびベーキングパウダーを加え均一に混合した。
3.上記2.に、50℃で加熱溶解した油脂製品8を加え、均一に混合し、パンケーキ用生地を得た。
4.上記3.で得られた生地55gを、ホットプレートにて直径10cmのセルクルを使用し、以下の条件で焼成した。
焼成温度:170℃
焼成時間:片面6分、裏返して3分
5.得られたパンケーキを完全に冷ましたのち、ビニール袋に入れて密封し、4℃にて2週間保存した。
【0087】
【表6】
【0088】
実施例9で得られたパンケーキは、対照例5のパンケーキに比べ、4℃にて2週間保管後も口溶けが良く、しっとりとして、食感が良好であった。
【0089】
(実施例10、対照例6)
本例では、ワッフルの作製および評価をおこなった。表7に、ワッフルの配合を示す。
【0090】
(ワッフルの製造方法)
1.上白糖、はちみつ、全卵、牛乳、水および油脂製品7を、ホイッパーを使用し、比重約0.25~0.28になるまで混合した。対照例では水を加えない以外は同じ手順で混合した。
2.上記1.に薄力粉、澱粉粉状物2およびベーキングパウダーを加え、次に溶かした油脂製品9を加えて混合し、最終生地比重が約0.38~0.41である生地を得た。対照例では澱粉粉状物を加えないこと以外は同じ手順で生地を得た。
3.この生地をワッフルマシンにて約1分45秒焼成し、ワッフルを得た。
4.得られたワッフルを完全に冷ましたのち、ビニール袋に入れて密封し、4℃にて2週間保存した。
【0091】
【表7】
【0092】
実施例10で得られたワッフルは、対照例6のワッフルに比べて、4℃にて2週間保管後も口溶けが良く、しっとりとして、食感が良好であった。
【0093】
(実施例11、対照例7)
本例では、アメリカンドッグの作製および評価をおこなった。表8に、アメリカンドッグの配合を示す。
【0094】
(アメリカンドッグの製造方法)
1.薄力粉、澱粉粉状物、ベーキングパウダーおよび上白糖をよく合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、ベーキングパウダーおよび上白糖をよく合わせ、ミックス粉を作製した。
2.上記1.で得られたミックス粉に全卵および水を入れて混ぜ合わせ、さらに油脂製品10(菜種油)を混ぜ合わせ、バッター液を得た。
3.ソーセージに薄力粉をまぶし、バッター液をつけ、175℃で4分間油ちょうし、アメリカンドッグを得た。
【0095】
【表8】
【0096】
実施例11で得られたアメリカンドッグは、対照例7のアメリカンドッグに比べて、75℃のホットウォーマー中に3時間保管しても、ソフトで、しっとり感があり、口溶けが良い良好な食感であった。
【0097】
この出願は、2018年8月3日に出願された日本出願特願2018-147022号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
図1
図2