(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】金属ニッケルを用いた浸出液処理による電池の再利用
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20231114BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20231114BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20231114BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20231114BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20231114BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B1/00 101
C22B47/00
C22B23/00 102
C22B3/04
C22B3/44 101A
(21)【出願番号】P 2020533670
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2018084102
(87)【国際公開番号】W WO2019121086
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-10
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ローデ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ツァイリンガー
(72)【発明者】
【氏名】トアベン アデルマン
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ ヴァイグニー
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ゼーラー
(72)【発明者】
【氏名】ケアスティン シアレ-アーント
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ミヒャエル リィル
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-512345(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0312254(US,A1)
【文献】特開2016-222976(JP,A)
【文献】特開平11-265736(JP,A)
【文献】特表2016-500754(JP,A)
【文献】特開2003-031229(JP,A)
【文献】特開2015-140480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)浸出剤で含リチウム遷移金属酸化物材料を処理する工程と、
(b)pH値を2.5~8に調整する工程と、
(c)工程(b)で得た溶液を
、金属マンガン、または
金属マンガンと金属ニッケル若しくは金属コバルト若しくはその両方との組み合わせにより処理する工程と、
を含む、ニッケルおよびリチウムを含有する正極活物質から遷移金属を回収する方法。
【請求項2】
工程(b)と(c)の間に工程(b1)が実施され、前記工程(b1)は、Al、Fe、Zr、Zn、Ca、もしくはCuのリン酸塩、タングステン酸塩、酸化物、水酸化物、もしくはオキシ水酸化物、または前述の少なくとも2種の組み合わせの沈殿物の除去を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遷移金属を回収しようとする正極活物質が、コバルトおよびマンガンのうちの少なくとも1種も含有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア、および水酸化カリウムのうちの少なくとも1種の添加により実施される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程(c)が25~60℃の範囲内の温度で実施される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(c)が、pH値2~5の範囲内で実施される、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の前に、炭素材料およびポリマー材料の除去が、以下の方法、すなわち比重選鉱法または浮選法または重液選鉱
法のうちの少なくとも1種によって実施される、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(a)において還元剤が添加される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(a)と工程(b)の間に工程(a1)が実施され、前記工程(a1)は非溶解固体の除去を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
混合水酸化物、混合オキシ水酸化物、または混合炭酸塩とし
てニッケル
を沈殿
させる追加の工程(d)を前記方法が含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
沈殿によってリチウムを炭酸塩または水酸化物として回収する追加の工程(e1)を含む、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
電気分解または電気透析によってリチウムを回収する追加の工程(e2)を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記浸出剤が、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、およびクエン酸から選択される酸を含む、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
工程(c)から得た溶液に温度100℃超および分圧5bar超で水素を注入することにより、ニッケルおよび/またはコバルト
および/またはマンガンを沈殿させ、その後、場合により、得られた沈殿物を分離することにより前記溶液を処理する、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
工程(c)から得た溶液を、前記溶液を含有する電解質の電気分解によって処理する、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルおよびリチウムを含有する正極活物質から遷移金属を回収する方法を対象とし、上記方法は、(a)浸出剤(好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、およびクエン酸から選択される酸)で含リチウム遷移金属酸化物材料を処理する工程と、(b)pH値を2.5~8に調整する工程と、(c)工程(b)で得た溶液を金属ニッケル、金属コバルト、もしくは金属マンガン、または前述の少なくとも2種の組み合わせにより処理する工程と、を含む。
【0002】
電気エネルギーの貯蔵は、関心が高まりつつある主題である。電気エネルギーを効率的に貯蔵すれば、都合の良いときに電気エネルギーを発生させ、必要なときに必要な場所で使用することが可能になる。二次電気化学電池は再充電可能であるため、この目的に好適である。リチウムは原子量が小さく、イオン化エネルギーが大きいため、二次リチウム電池は高密度のエネルギーを供給する。そのため、二次リチウム電池は、エネルギー貯蔵用として特に注目されており、携帯電話、ラップトップコンピューター、ミニカメラなどの多数の携帯型電子機器用の電源に限らず、電気自動車用の電源としても広く使用されるようになっている。特にコバルトおよびニッケルなどの原料に対する需要の増加は、今後問題を引き起こすと考えられる。
【0003】
リチウムイオン電池の寿命は無限ではない。そのため、使用済みリチウムイオン電池数の増加が起こると予測される。リチウムイオン電池はコバルト、ニッケル、およびリチウムを含有しているため、新世代のリチウムイオン電池にとって貴重な原料供給源となる可能性がある。このような理由から、使用済みリチウムイオン電池から遷移金属を(および場合によってはリチウムをも)再利用することを目的とした研究の実施が増加している。
【0004】
仕様および要件を満たさないリチウムイオン電池またはリチウムイオン電池の部品、いわゆる規格外材料および生産廃棄物もまた、原料の供給源であり得る。
【0005】
原料の回収には主に2つの方法が行われてきた。第1の主たる方法は、対応する電池スクラップを乾式製錬した後、その製錬工程で得た金属合金(マット)を湿式製錬処理することを基本とする。第2の主たる方法は、電池スクラップ材料の直接湿式製錬処理である。各原理は、J.Power Sources,2014,262,第255頁以降に開示されている。そのような湿式製錬処理は、遷移金属をその塩の水溶液として、または沈殿形態で、例えば水酸化物として、望ましい化学量論比で個別にまたは事前に提供し、新たな正極活物質を作製するものである。後者の場合、金属塩溶液の組成は、単一の金属成分を添加することにより、望ましい化学量論比に調整することができる。
【0006】
国際公開第2017/091562号には、遷移金属の共沈が記載されている。国際公開第2014/180743号には、アンモニアまたはアミンを使用した共沈法が記載されている。
【0007】
当技術分野で公知である方法の主な欠点は、再利用される遷移金属溶液または水酸化物の多くが、それぞれのリチウムイオン電池の各種元素から生じる、ニッケル/コバルト化合物以外の化合物により汚染されていることである。具体例としては、Sn、Zr、Zn、Cu、Fe、F、P、およびAlである。鉄および亜鉛は筐体の一部である場合が多い。スズは、例えばはんだ部品からのはんだ成分であり得る。アルミニウムはドーピングとして、またはNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム)などの材料の主要成分として使用できるが、電池スクラップに存在する量は一定ではなく、通常は過剰である。アルミニウムおよび銅は集電体に含有される場合があり、アルミニウムはまた電池筐体の一部でもあり得る。フッ化物およびリンは液体電解質に含有されており、例えば塩LiPF6が広く用いられている。特に銅は極めて望ましくないものであり、多くの場合、正極活物質中に10ppm超という微量でも許容されない。
【0008】
米国特許出願公開第2007/0196725号明細書には、銅の除去方法が記載されている。しかしながら、この方法には、銅が除去される代わりに別の不純物が誘導されるという欠点がある。
【0009】
したがって、本発明は、ニッケルならびに該当する場合はコバルトおよび/またはマンガンなどの遷移金属の容易な回収を可能にする方法を提供することを目的とした。特に本発明の目的は、銅、鉄、および亜鉛などの不純物を許容可能な微量でしか含有しない遷移金属の回収を可能にし、得られた溶液を新たな正極活物質の合成に直接使用できる方法を提供することであった。
【0010】
その結果、最初に定義した方法を見出し、以下これを本発明の方法または本発明の再利用方法とも称する。本発明の方法は、以下に詳細に定義される工程を含み、以下これを工程(a)、工程(b)、工程(c)などとも称する:
(a)浸出剤(好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、およびクエン酸から選択される酸)で含リチウム遷移金属酸化物材料を処理する工程、
(b)pH値を2.5~8に調整する工程、ならびに
(c)工程(b)で得た溶液を金属ニッケル、金属コバルト、もしくは金属マンガン、または前述の少なくとも2種の組み合わせにより処理する工程。
工程(a)~(c)は、上記の順序で実施される。
【0011】
本方法は、ニッケルおよびリチウムを含有する正極活物質からの遷移金属の回収に適している。リチウムイオン電池からの遷移金属の回収は通常、遷移金属(例えば、ニッケル、コバルト、および/またはマンガン)および場合によりさらに有価元素(例えば、リチウムおよび/または炭素)を少なくとも部分的に、典型的にはそれぞれ少なくとも10wt%、20wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、70wt%、80wt%、90wt%、95wt%、99wt%、99.9wt%、または約100wt%の回収率で回収できることを意味する。好ましくは、この方法により少なくともニッケルが回収される。
【0012】
正極活物質は通常、多くは市販されているリチウムイオン電池の正極を意味する。正極活物質は通常、使用済みまたは新しいリチウムイオン電池などのリチウムイオン電池、リチウムイオン電池の部品、それらの規格外材料(例えば、仕様および要件を満たさないもの)、またはリチウムイオン電池製品の生産廃棄物に由来する。遷移金属を回収しようとする正極活物質は、好ましくは、コバルトおよびマンガンの少なくとも1種も含有する。
【0013】
工程(a)
工程(a)は、(a)浸出剤(好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、およびクエン酸から選択される酸)で含リチウム遷移金属酸化物材料を処理する工程を含む。好ましくは、そのような酸は水性酸である。
【0014】
上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は通常、リチウムイオン電池またはリチウムイオン電池の部品に由来する材料である。安全上の理由から、このようなリチウムイオン電池は完全に放電されており、放電されていないと、火災および爆発の危険を引き起こす短絡が発生する可能性がある。当該リチウムイオン電池は、例えばハンマーミルで解体、穿孔、粉砕するか、または例えば工業用シュレッダーで細断することができる。そのような処理を不活性条件下で実施することで、電池の構成要素と空気および水との反応を回避することができる。好適な不活性条件とは、例えば、アルゴン、窒素、もしくは二酸化炭素のような不活性ガス下または真空下である。電池または電池部品の粉砕処理全体を水中で実施すると、それぞれの電池構成要素と水との直接かつ完全な反応、例えば、不完全な放電による残留リチウム種またはLiPF6の完全な加水分解を保証することが可能である。
【0015】
工程(a)を開始する前に、電解質、特に有機溶媒または有機溶媒の混合物を含む電解質を、例えば50~200℃の範囲内の温度で、例えば機械的除去または乾燥により、少なくとも部分的に除去すると有利である。有機溶媒を除去するための好ましい圧力範囲は、0.01~2bar、好ましくは10~100mbarである。
【0016】
本発明の一実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、電池スクラップに由来する。そのような電池スクラップは、使用済み電池または生産廃棄物、例えば規格外材料に由来するものであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、機械処理済み電池スクラップ、例えばハンマーミルまたは工業用シュレッダーで処理した電池スクラップに由来する。そのような含リチウム遷移金属酸化物材料は、1μm~1cm、好ましくは1~500μm、特に3~250μmの範囲内の平均粒径(D50)を有し得る。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態では、筐体、配線、および電極担体膜のようなより大きな部品の電池スクラップを機械的に選別することで、対応する材料を、本発明の方法で用いられる含リチウム遷移金属酸化物材料から広く除外することができる。
【0018】
上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、定形を有する場合もあるが、通常は不定形を有する。ただし、有機プラスチックおよびアルミニウム箔または銅箔から作製された筐体部品などの軽量部分は、例えば強制気流、空気分離、または空気分級で可能な限り除去することが好ましい。
【0019】
細断済み電池スクラップ材料に選別技術を施して、一部の構成要素を回収してもよい。磁化可能な構成要素は、磁気分離、渦電流選別機による金属部品の導通、および電気選別による構成要素の分離により回収することができる。センサーを用いた選別技術も用いることができる。
【0020】
本発明の一実施形態では、機械処理済み電池スクラップを溶媒処理にかけ、有機化合物、例えば電解質および導電性の塩および添加剤を除去する。これは水または湿気を排除して行われることが好ましい。好適な溶媒は、炭酸ジメチル、炭酸エチレン、もしくは炭酸プロピレンのような炭酸アルキル、またはエーテル、ケトン、もしくはニトリルの群からの溶媒である。
【0021】
本発明の一実施形態では、リチウム遷移金属酸化物を集電膜に結着させる、または例えばグラファイトを集電膜に結着させるために使用されるポリマーバインダーを溶解および分離するために、機械処理済み電池スクラップを溶媒処理にかける。好適な溶媒は、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルピロリドン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、およびジメチルスルホキシドであり、前述のうちの少なくとも2種の混合物である純粋形態、または1~99重量%の水との混合物である。
【0022】
本発明の一実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、限定されるわけではないがリチウムイオン電池の他の部品または部品の材料などの不純物を過半量で含有しない。上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、対応する正極活物質、蓄電池、または電池といった製品の規格外材料に由来するものでもよい。
【0023】
しかしながら、本発明の方法の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、0.1~80重量%の範囲内の、ニッケル/リチウム化合物以外、または該当する場合にはリチウム/ニッケル/コバルト成分もしくはリチウム/ニッケル/コバルト/マンガン化合物以外の化合物を含有し、極端な場合には、有価材料が少数成分である。そのような成分の例は、導電性形態の炭素であり、以下これは導電性カーボンとも称され、例えばグラファイト、煤煙、およびグラフェンである。そのような成分のさらなる例は、電解質に使用される溶媒、例えば炭酸ジエチルのような有機カーボネートである。そのような成分のさらなる例は、銅およびその化合物、アルミニウムおよびアルミニウムの化合物、例えばアルミナ、鉄および鉄化合物、亜鉛および亜鉛化合物、ケイ素およびケイ素化合物、例えばシリカおよび酸化ケイ素SiOy(0<y<2)、ケイ素-スズ合金、貴金属(例えば、Ag、Au、Pd、Pt)およびその化合物、ならびにポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機ポリマー、ならびにフッ化ポリビニリデンなどのフッ化ポリマーなどである。不純物のさらなる例は、液体電解質、例えば広く用いられるLiPF6およびLiPF6の加水分解により生じる生成物に由来し得るフッ化物およびリン化合物である。本発明の方法の出発材料として機能する電池スクラップは、複数の供給源に由来してもよく、したがってほとんどの実施形態における上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、ニッケル/コバルト化合物またはニッケル/コバルト/マンガン成分以外の化合物を含有し、該当する場合には、そのような成分の1種は、含リチウム遷移金属酸化物材料全体を基準として、2~65重量%の範囲内の導電性形態の炭素である。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、20ppm~3重量%の範囲内の銅を、金属としてまたはその1種以上の化合物の形態で含有する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、100ppm~15重量%の範囲内のアルミニウムを、金属としてまたはその1種以上の化合物の形態で含有する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、100ppm~5重量%の範囲内の鉄を、金属もしくは合金としてまたはその1種以上の化合物の形態で含有する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、20ppm~2重量%の範囲内の亜鉛を、金属もしくは合金としてまたはその1種以上の化合物の形態で含有する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、20ppm~2重量%の範囲内のジルコニウムを、金属もしくは合金としてまたはその1種以上の化合物の形態で含有する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、20ppm~2重量%の範囲内のタングステンを、金属もしくは合金としてまたはその1種以上の化合物の形態で含有する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、2重量%~8重量%の範囲内のフッ素を含有する。これは、ポリマーに結着した有機フッ化物と、1種以上の無機フッ化物中の無機フッ化物との合計として算出される。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、0.2重量%~2重量%の範囲内のリンを含有する。リンは1種以上の無機化合物中に出現する場合がある。
【0032】
上記の含リチウム遷移金属酸化物材料は、ニッケル、好ましくはニッケルならびにコバルトおよびマンガンのうちの少なくとも1種を含有する。そのような含リチウム遷移金属酸化物材料の例は、LiNiO2、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(「NCM」)、もしくはニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(「NCA」)、またはそれらの混合物をベースとするものであり得る。そのような混合物はコバルト酸リチウム化合物またはマンガン酸リチウム化合物を含有することも可能である。
【0033】
層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物の例は、一般式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2の化合物であり、M1はMg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V、およびFeから選択され、さらに添え字は以下のように定義される:
0≦x≦0.2
0.1≦a≦0.8、
0≦b≦0.5、好ましくは0.05<b≦0.5、
0≦c≦0.6、
0≦d≦0.1、およびa+b+c+d=1。
【0034】
好ましい実施形態では、一般式(I)
Li(1+x)[NiaCobMncM1
d](1-x)O2(I)による化合物において
M1はCa、Mg、Zr、Al、およびBaから選択され、
さらに添え字は上記のように定義される。
【0035】
ニッケル-コバルトアルミニウム酸リチウムの例は、一般式Li[NihCoiAlj]O2+rの化合物である。r、h、i、およびjの一般値は次のとおりである:
hは0.8~0.90の範囲内であり、
iは0.15~0.19の範囲内であり、
jは0.01~0.05の範囲内であり、かつ
rは0~0.4の範囲内である。
【0036】
特に好ましくは、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.3](1-x)O2、およびLi(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2であり、それぞれxは上記の定義のとおりである。
【0037】
工程(a)の前に、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料を水で洗浄し、それにより液体不純物および水溶性不純物を含リチウム遷移金属酸化物材料から除去することが好ましい。例えばボールミルまたは撹拌ボールミルで粉砕することにより、上記の洗浄工程を改善することができる。
【0038】
洗浄された含リチウム遷移金属酸化物材料は、固液分離工程、例えば濾過もしくは遠心分離、または任意の種類の沈降と傾瀉によって回収することができる。そのような含リチウム遷移金属材料固体のより微小な粒子を回収しやすくするために、凝集剤、例えばポリアクリレートを添加してもよい。
【0039】
本発明の一実施形態では、工程(a)の前に、炭素および/またはポリマー材料の除去が、一般的な固体-固体分離法である以下の方法、すなわち比重選鉱法または浮選法または重液選鉱法または磁気分離法のうちの少なくとも1種によって実施される。
【0040】
本発明の一実施形態では、工程(a)の前に、得られた水性スラリーを浮選工程にかける。浮選工程は、炭素およびポリマーなどの疎水性の不溶成分を金属成分または金属酸化物成分から分離する役割を果たす。そのような浮選工程は、機械式、カラム式、または空気式、またはハイブリッド式の浮選法によって実施することができる。多くの実施形態において、捕集剤化合物をスラリーに添加し、スラリーの疎水性成分をさらに疎水性にする。炭素材料およびポリマー材料に適した捕集剤化合物は、炭化水素または脂肪アルコールであり、これらは1g~50kg/t量の含リチウム遷移金属酸化物材料に導入される。浮選を逆の意図で実施することも可能である。すなわち、元は親水性の成分を、例えば脂肪アルコール硫酸塩またはエステルクワットといった特殊な捕集剤物質によって強度の疎水性成分に変換する。炭化水素捕集剤を用いた直接浮選が好ましい。炭素材料粒子およびポリマー材料粒子に対する浮選の選択性を高めるために、泡相中の同伴金属成分および同伴金属酸化物成分の量を低減する抑制剤を添加してもよい。使用可能な抑制剤は、pH値を3~9の範囲内に制御するための酸もしくは塩基、またはより親水性の高い成分に吸着可能なイオン性成分であり得る。浮選の効率を高めるために、浮選条件下で疎水性標的粒子とともに凝集体を形成する担体粒子を添加することが有利な場合がある。
【0041】
分級法、比重選鉱法、および重液選鉱法のような、金属および金属酸化物から炭素材料およびポリマー材料を分離する際に利用できる他の固体-固体分離工程は、異なる粒子間のサイズおよび密度の差に基づいたものである。
【0042】
磁性または磁化可能な金属成分または金属酸化物成分は、磁化可能成分の感度に応じて低強度、中強度、または高強度の磁気セパレーターを用いる磁気分離法によって分離することができる。磁性担体粒子を添加することも可能である。そのような磁性担体粒子は、標的粒子とともに凝集体を形成することができる。この方法により、磁気分離技術によって非磁性材料も除去することができ、好ましくは磁性担体粒子を分離処理中に再利用することができる。
【0043】
上記の固体-固体分離工程により、スラリーとして出現する少なくとも2種の固体物質の画分が得られる。そのうち一方は主に含リチウム遷移金属酸化物材料を含有し、もう一方は主に炭質およびポリマーの電池成分を含有する。次に、第1の画分を本発明の工程(a)に供給する一方、第2の画分をさらに処理して、別の構成要素、すなわち炭質材料およびポリマー材料を回収することができる。
【0044】
工程(a)の過程で、上記の含リチウム遷移金属酸化物材料を浸出剤で処理する。浸出剤は、好ましくは硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、およびクエン酸、または前述の少なくとも2種の組み合わせ、例えば硝酸と塩酸との組み合わせから選択される酸である。別の好ましい形態では、浸出剤は以下である:
-硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、
-メタンスルホン酸、シュウ酸、クエン酸、アスパラギン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、もしくはグリシンなどの有機酸、
-アンモニアなどの塩基、または
-EDTAのようなキレート剤などの錯体形成剤。
【0045】
好ましくは、浸出剤は、無機または有機の水性酸などの水性酸である。酸の濃度は、例えば0.1~98重量%の広い範囲で、好ましくは10~80%の範囲内で変更することができる。好ましくは、水性酸のpH値は-1~2の範囲内である。酸の量は、遷移金属を基準として過剰の酸を維持するように調整される。好ましくは、工程(a)の終了時に得られる溶液のpH値は、-0.5~2.5の範囲内である。水性酸の好ましい例は、例えば10~80重量%の範囲内の濃度をもつ水性硫酸である。
【0046】
工程(a)に従う処理は、20~130℃の範囲内の温度で実施することができる。100℃超の温度が望ましい場合、工程(a)を1bar超の圧力で実施する。それ以外の場合は、常圧が好ましい。本発明の文脈において、常圧とは1barを意味する。
【0047】
本発明の一実施形態では、工程(a)は、強酸に耐性である容器、例えばモリブデンおよび銅に富む合金鋼、ニッケル系合金、二相ステンレス鋼、またはガラス内張鋼もしくはエナメル被覆鋼の容器内で実施される。さらなる例は、耐酸性ポリマー、例えばHDPEおよびUHMPEなどのポリエチレン、フッ化ポリエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)、PVdF、およびFEP由来のポリマーライナーおよびポリマー容器である。FEPとは、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマーであるフッ化エチレンプロピレンポリマーの略称である。
【0048】
本発明の一実施形態では、工程(a)から得たスラリーを、例えばボールミルまたは撹拌ボールミル中で撹拌(stirred、agitated)しても、または粉砕処理にかけてもよい。そのような粉砕処理により、粒子状含リチウム遷移金属酸化物材料への水または酸の到達が良好になる。
【0049】
本発明の一実施形態では、工程(a)の持続時間は、10分~10時間、好ましくは1~3時間の範囲内である。例えば、良好な混合を達成し、不溶性成分の沈降を回避するために、工程(a)の反応混合物を少なくとも0.1W/lの出力で撹拌するか、またはポンピングにより循環する。バッフルを用いることにより剪断をさらに改善することができる。これらの剪断装置はすべて、十分な耐食性が適用されている必要があり、容器自体についての記載と同様の材料および被覆材で製造されていてもよい。工程(a)は、空気雰囲気下で、またはN2で希釈された空気下で実施することができる。しかしながら、工程(a)は、不活性雰囲気、例えば、窒素下またはArなどの希ガス下で実施することが好ましい。
【0050】
工程(a)に従う処理により、例えば炭素ポリマーおよび有機ポリマー以外の不純物を含む上記のNCMまたはNCAの正極活物質の溶解が生じる。ほとんどの実施形態では、工程(a)の実施後にスラリーが得られる。リチウムと遷移金属、例えば、限定されるわけではないが、コバルト、ニッケル、該当する場合はマンガンなどが溶解している。
【0051】
本発明の一実施形態では、工程(a)は還元剤の存在下で実施される。還元剤の例は、メタノール、エタノール、糖、アスコルビン酸、尿素、デンプンまたはセルロースを含有するバイオ系材料などの有機還元剤、ならびにヒドラジンおよび硫酸塩などのその塩、および過酸化水素などの無機還元剤である。工程(a)にとって好ましい還元剤は、ニッケル、コバルト、またはマンガン以外の金属を基にする不純物が残らないものである。工程(a)における還元剤の好ましい例は、メタノールおよび過酸化水素である。還元剤を用いて、例えば、Co3+をCo2+に、またはMn(+IV)もしくはMn3+をMn2+に還元することが可能である。本発明の好ましい実施形態では、Coおよび存在する場合にはMnの量を基準として、過剰の還元剤が用いられる。このような過剰量は、Mnが存在する場合に有利である。
【0052】
工程(a)にいわゆる酸化酸が使用される実施形態では、未使用の酸化剤を除去するために還元剤を添加することが好ましい。酸化酸の例は、硝酸および硝酸と塩酸との組み合わせである。本発明の文脈において、塩酸、硫酸、およびメタンスルホン酸は、非酸化酸の好ましい例である。
【0053】
使用される酸の濃度に応じて、工程(a)で得られる連続相は、1~15重量%まで、好ましくは6~11重量%の範囲内の遷移金属濃度を有し得る。
【0054】
好ましくは、工程(a)と工程(b)の間に工程(a1)を実施する。上記の工程(a1)は非溶解固体の除去を含む。工程(a)の後に実施してもよい任意の工程(a1)は、非溶解固体、例えば炭質材料の除去、および電池の筐体から生じるポリマーの除去である。上記の工程(a1)は、凝集剤の添加の有無を問わず、濾過遠心分離または沈降と傾瀉により実施することができる。工程(a1)で得た固体残渣を水で洗浄してもよく、さらに炭質成分およびポリマー成分を分離するために処理してもよい。本発明の一実施形態では、工程(a)および工程(a1)は、連続操作モードで逐次実行される。
【0055】
工程(b)
工程(b)では、pH値(例えば、工程(a)または該当する場合は(a1)で得ることができる、上記のスラリーまたは溶液のpH値)は、2.5~8、好ましくは5.5~7.5、さらにより好ましくは6~7に調整される。pH値は、従来手段、例えば電位差滴定により決定することができ、20℃での連続液相のpH値を意味する。
【0056】
pH値の調整は通常、水による希釈もしくは塩基の添加、またはそれらの組み合わせにより行われる。好適な塩基の例は、固体形態、例えばペレット、または好ましくは水溶液である、アンモニアおよびアルカリ金属水酸化物、例えばLiOH、NaOH、またはKOHである。前述の少なくとも2つの組み合わせ、例えば、アンモニアと苛性ソーダ水溶液との組み合わせも実用可能である。工程(b)は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア、および水酸化カリウムのうちの少なくとも1つの添加により実施される。
【0057】
本発明の一実施形態では、工程(b)で水酸化カルシウムなどのカルシウム塩を添加する。カルシウムイオンが、例えばフッ化カルシウムまたはタングステン酸カルシウムの不溶性沈殿物を形成する場合がある。上記のカルシウム化合物をちょうど沈殿させるに足る少量の水酸化カルシウムを用いることが好ましく、不溶性水酸化物を形成する他の元素は水酸化アルカリの添加により沈殿する。過剰のカルシウムイオンは、炭酸アルカリの添加により炭酸カルシウムとして結合させることができる。水酸化アルカリを添加する場合、塩化カルシウムまたは硫酸カルシウムのような他のカルシウム塩によってカルシウムイオンを供給することもできる。
【0058】
本発明の一実施形態では、工程(b)と(c)の間に任意の工程(b1)が実施されるが、上記の工程(b1)は、Al、Fe、Sn、Si、Zr、Zn、もしくはCuのリン酸塩、酸化物、水酸化物、もしくはオキシ水酸化物、または前述の少なくとも2つの組み合わせの沈殿物の除去を含む。工程(b)と(c)の間に工程(b1)が実施される別の形態では、上記の工程(b1)は、Al、Fe、Zr、Zn、もしくはCuのリン酸塩、酸化物、水酸化物、もしくはオキシ水酸化物、または前述の少なくとも2つの組み合わせの沈殿物の除去を含む。工程(b)と(c)の間に工程(b1)が実施される別の形態では、上記の工程(b1)は、Al、Fe、Zr、Zn、Ca、もしくはCuのリン酸塩、タングステン酸塩、酸化物、水酸化物、もしくはオキシ水酸化物、または前述の少なくとも2つの組み合わせの沈殿物の除去を含む。上記の沈殿物は、pH値の調整時に形成されることがある。リン酸塩は、化学量論的なまたは塩基性のリン酸塩であり得る。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、リン酸塩は、ヘキサフルオロリン酸塩の加水分解によるリン酸塩形成の際に生成される場合がある。濾過により、または遠心分離機もしくはデカンタ型遠心分離機を用いて、または沈降によりリン酸塩を除去することが可能である。好ましいフィルターは、ベルトフィルター、フィルタープレス、吸引フィルター、およびクロスフローフィルターである。Al、Fe、Zr、Zn、Ca、もしくはCuのリン酸塩、タングステン酸塩、酸化物、水酸化物、およびオキシ水酸化物、または前述の少なくとも2つの組み合わせの沈殿物の除去により、工程(c)の効率を高めることができる。
【0059】
工程(c)
工程(c)は、工程(b)または該当する場合には(b1)で得た溶液を金属ニッケル、金属コバルト、もしくは金属マンガン、または例えば物理的混合物もしくは合金のような前述の少なくとも2つの組み合わせにより処理する工程を含む。金属ニッケルおよび金属コバルトが好ましい。含リチウム遷移金属酸化物材料がコバルトまたはマンガンのいずれも含有しない場合、金属ニッケルが最も好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態では、金属ニッケル、金属コバルト、もしくは金属マンガン、または前述の少なくとも2つの組み合わせにより処理した溶液を、複数の工程において上記の金属でさらに処理することができる。
【0061】
上記の金属ニッケル、金属コバルト、または金属マンガンは、シート、プレート、塊、細粒、切削くず、ワイヤー、ブリケット、電極破片、粉体、または発泡体の形態であり得る。本発明の文脈において、シートは、厚さが0.1~5mmの範囲内であり、長さと幅は同一であるかまたは異なっており、かつそれぞれ1cm~10メートルの範囲内であり得る。プレートは、例えば、厚さが5.5mmの範囲内であり、長さと幅は同一であるかまたは異なっており、かつそれぞれ2cm~10メートルの範囲内であり得る。切削くずは、例えば、厚さが0.1~1mmの範囲内、幅が1~5mmの範囲内、かつ長さが1cm~20cmの範囲内であり得る。ブリケットは、長さが2~3cmの範囲内、かつ直径が12~15mmの範囲内であり得る。電極破片は、例えば、厚さが0.5~7.0mmの範囲内であり得る。多くの場合、未切断の電極破片は、厚さが1~3mmの範囲内であり、最も広い箇所での直径が40mmを超えず、平均直径が10~30mmの範囲である不規則な断面を有する。切断電極は、厚さが0.5~7.0mmの範囲内であり、かつ断面が0.1~1,000cm2であり得る。例えば、厚さ1mmかつ断面10cm・10cm、または厚さ5~7mmの範囲内かつ断面55mm・55mmである切断電極、特にコバルト由来のものを得ることが可能である。粉体および発泡体も使用でき、これには、例えば、平均粒径が500nm~1000μmの範囲内であり、DIN 66131に準拠してN2吸着により決定されるBET比表面積が0.0001~50m2/gの範囲内である、ラネーニッケルおよびラネーコバルトなどの特別に活性化された材料が含まれる。
【0062】
マンガン、コバルト、またはニッケルの塊、細粒、および粉体が好ましい。本発明の目的では、塊は、長さ、幅、および高さが5mm~10cmの範囲内であり、最小寸法と最大寸法の差が1倍よりも大きいが3倍を上回らない。細粒は、平均の長さ、幅、および高さが2mm~1cmの範囲内である。粉体は、平均直径が最大で1mm、好ましくは1~200μmの範囲内の粒子からなる。
【0063】
本発明の一実施形態では、工程(c)は、10~90℃、好ましくは25~60℃の範囲内の温度で実施される。
【0064】
本発明の一実施形態では、工程(c)は、工程(b)または該当する場合には(b1)で得た溶液をカラム内で金属ニッケル、金属コバルト、もしくは金属マンガン、または前述の少なくとも2つの組み合わせに接触させることにより実施する。そのような実施形態では、塊または細粒の形態の金属ニッケル、金属コバルト、もしくは金属マンガン、または前述の少なくとも2つの組み合わせを、例えば固定床として充填したカラムを提供し、そのようなカラムに溶液流を流すと有利である。金属の組み合わせを用いる実施形態では、それらを粒子の物理的混合物として用いても、または区画ごとに少なくとも1種の金属が優位を占めるかもしくは単独で存在するカラムの分離区画に入れて用いてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態では、工程(c)は常圧で実施される。本発明の一実施形態では、工程(c)の持続時間は、10分~5時間の範囲内である。工程(c)をカラムで実施する場合、持続時間は平均滞留時間に相当する。
【0066】
本発明の一実施形態では、pH値1~6の範囲内、好ましくはpH2~5で実施される。別の形態では、工程(c)は、pH値6.0未満、5.5未満、5.0未満、4.5未満、4.0未満、または3.5未満で実施される。工程(b)または(b1)から得られた溶液のpH値を、必要に応じて、酸、好ましくは工程(a)で使用したものと同種類の酸を添加することによって調整してもよい。
【0067】
工程(c)は、微量の銅の除去および銅以外の貴金属の除去に特に有用である。別の形態では、工程(c)は、銅以外の貴金属、例えばAg、Au、Pd、Ptなどの除去に特に有用である。工程(c)を実施することにより、追加の精製工程を必要とする新たな不純物が遷移金属の溶液に導入されることがない。上記の金属ニッケル、金属コバルト、または金属マンガンに微量の銅が含まれている場合でも、そのような微量は溶解しない。
【0068】
本発明の別の実施形態では、金属粒子または他の不要な固体が確実に次の工程へ移らないようにするために、工程(c)後に得た混合物を固液分離操作(工程c1)、好ましくは濾過によって処理する。
【0069】
本発明の一実施形態では、工程(c)の効率をさらに高めるために、工程(c1)の有無を問わず、工程(c)を1回以上繰り返してもよい。
【0070】
工程(c)または工程(c1)の結果として、含リチウム遷移金属酸化物材料に含まれるニッケル塩、および該当する場合はニッケル以外の他の遷移金属の塩の精製溶液が得られる。そのような精製溶液は、アルカリ金属塩、特にリチウム塩を含有し得る。
【0071】
さらに精製工程を追加してもよい。
【0072】
そのようなさらなる精製工程は、例えば、制御pH値での硫化物との沈殿反応、または不純物元素を含む不溶性沈殿物、例えば、シュウ酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、またはケイ酸塩を形成できる所定の他のアニオンとの沈殿反応を含み得る。さらなる選択肢は、溶媒抽出の適用、例えば金属塩水溶液と非混和性である炭化水素溶媒中で選択的抽出剤を用いることにより、そのような不純物を選択的に分離することである。そのような抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸およびリン酸トリ-n-ブチルのような、リン酸のジアルキルエステルまたはトリアルキルエステルをベースとするものでも、ヒドロキシオキシム、例えば2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノンオキシムをベースとするものでもよい。
【0073】
一形態では、工程(c)または(c1)から得た溶液に温度100℃超および分圧5bar超で水素を注入することにより、ニッケルおよび/またはコバルトなどの金属を沈殿させること、また場合により、得られた沈殿物を沈殿後に分離することにより溶液を処理する。この分離は、濾過、遠心分離、または沈降であり得る。ニッケルおよびコバルトは磁性金属であるため、これらの沈殿物は磁気分離によっても回収することができる。水素ガスは、100℃超、好ましくは130℃超、特に150℃超の温度で注入される。好ましい形態では、水素ガスは、150~280℃の温度で注入される。水素ガスは、5bar超、好ましくは10bar超、特に15bar超の分圧で注入される。好ましい形態では、水素ガスは、5~60barの分圧で注入される。
【0074】
水素ガスの注入前または注入中に溶液のpHを調整してもよい。還元により酸が生じるとき、酸濃度を低く保つには酸の連続中和が好ましい。一般に、水素ガスはpH値4超、好ましくは6超、特に8超で浸出液に注入される。pH値を制御しながら塩基を連続供給することにより、pH値を調整することができる。好適な塩基は、アンモニア、または水酸化アルカリもしくは炭酸アルカリであるが、アンモニアが好ましい。好ましい形態では、水素還元は、好適な緩衝系の存在下で行われる。そのような緩衝系の例は、アンモニア、および炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、または塩化アンモニウムのようなアンモニウム塩である。そのような緩衝系を使用する場合、アンモニアとニッケルまたはニッケルとコバルトの比は、1:1~6:1、好ましくは2:1~4:1の範囲内にすべきである。
【0075】
ニッケル還元触媒および/またはコバルト還元触媒は、水素ガスの注入時に溶液中に存在できるもの、例えば、金属ニッケル、金属コバルト、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウムで修飾された硫酸第一鉄、塩化パラジウム、硫酸第一クロム、炭酸アンモニウム、マンガン塩、塩化第二白金、塩化ルテニウム、テトラクロロ白金酸カリウム/アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム/ナトリウム/カリウム、または銀塩(例えば、硝酸塩、酸化物、水酸化物、亜硝酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸塩、リン酸塩、アジド、ホウ酸塩、スルホン酸塩、もしくはカルボン酸塩、または銀)である。硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、および硫酸マンガンは、遷移金属材料の対応成分からの浸出液中に存在し得る。好ましいニッケル還元触媒および/またはコバルト還元触媒は、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、および炭酸アンモニウムである。好ましいニッケル還元触媒は、金属ニッケル、特に金属ニッケル粉末である。好ましいコバルト還元触媒は金属コバルト粉末である。ニッケルまたはコバルトのこれらの金属粉末は、還元プロセスの開始時にイン・サイチュ(in-situ)で、または別の反応器内にてエクス・サイチュ(ex-situ)で、Ni塩水溶液およびCo塩水溶液を還元することにより得ることができる。
【0076】
好ましい形態では、この溶液にニッケルの溶解塩が含まれ、元素形態のニッケルが、場合によりニッケル還元触媒の存在下で水素注入により沈殿される。一形態では、浸出液にコバルトの溶解塩が含まれ、元素形態のコバルトが、場合によりコバルト還元触媒の存在下で水素注入により沈殿される。別の好ましい形態では、浸出液にニッケルおよびコバルトの溶解塩が含まれ、元素形態のニッケルおよびコバルトが、場合によりニッケル還元触媒およびコバルト還元触媒の存在下で水素注入により沈殿される。別の好ましい形態では、浸出液にニッケルおよびコバルトの溶解塩が含まれ、元素形態のニッケルが、場合によりニッケル還元触媒の存在下で水素注入により沈殿される。その場合、沈殿物は、0~50wt%のコバルトを元素形態で含有し得る。
【0077】
別の形態では、例えば、不純物または元素金属としてニッケル、コバルトおよび/もしくは銅を堆積正極に堆積させるために、工程(c)または(c1)から得た溶液を、当該溶液を含有する電解質の電気分解によって処理する。電気分解は、定電位または定電流で行うことができるが、定電位が好ましい。電解質は通常、電解質水溶液である。電解質のpHは、1、2、3、4、または5超、好ましくは5超であり得る。電解質のpHは、10、9、または8未満であり得る。別の形態では、電解質のpHは、4~8であり得る。pH値を調整するために、電解質に緩衝塩、例えば酢酸塩が含まれていてもよい。堆積正極は、金属またはガラス状炭素のようなシート状の導電性材料からなるものであり得る。回避すべき水素の形成のために高過電圧が得られる材料が好ましい。好適な金属は鉛である。正極は、導電性粒子状物質、例えば金属粒子またはグラファイト粒子から作製することもできる。これらの粒子の粒径d50は、1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲内である。電解質のpHは、4~8であり得る。
【0078】
特に、電気分解は、粒子状濾過助剤層の形態の堆積正極を電解質が通過する電気化学フィルターフロー電池で行われる。電気化学フィルターフロー電池は通常、フロー電池負極を含み、これは上記に示すような負極材料で作製することができる。フロー電池負極および堆積正極は、上述のように、隔壁または陽イオン交換膜によって分離することができる。堆積した金属は分離され、再溶解されて、例えば水酸化物として沈殿する。
【0079】
工程(d)
本発明の一実施形態では、工程(c)の後に、追加の工程(d)を実施する。工程(d)は通常、混合水酸化物または混合炭酸塩、好ましくは混合水酸化物としての遷移金属の沈殿を含む。工程(d)は、好ましくは、混合水酸化物、混合オキシ水酸化物、または混合炭酸塩としてのニッケルおよび場合によりコバルトまたはマンガンの沈殿を含む。上記の方法のうちの1つ、すなわち水素注入または電気分解によってニッケルおよびコバルトが回収された場合、工程(d)は、該当する場合にはマンガンを沈殿させる役割を果たす。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、工程(d)は、アンモニアまたはジメチルアミンもしくはジエチルアミンなどの有機アミン、好ましくはアンモニア、および水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、もしくは炭酸水素カリウム、または前述のうちの少なくとも2つの組み合わせなどの少なくとも1種の無機塩基を添加することにより実施する。アンモニアおよび水酸化ナトリウムまたは水酸化リチウムの添加が好ましい。
【0081】
本発明の一実施形態では、工程(d)は、10~85℃の範囲内の温度で実施されるが、20~50℃が好ましい。本発明の一実施形態では、有機アミンまたはアンモニアの濃度は、0.01~1モル/l、好ましくは0.1~0.7モル/lの範囲内である。この文脈における「アンモニア濃度」という用語は、アンモニアおよびアンモニウムの濃度を含む。母液中のNi2+およびCo2+の溶解度がそれぞれ1000ppm以下、より好ましくはそれぞれ500ppm以下となるアンモニアの量が特に好ましい。
【0082】
本発明の一実施形態では、本発明の方法の工程(d)の期間に、例えばスターラー、ローターステーター式ミキサー、またはボールミルを用いて混合が行われる。少なくとも1W/l、好ましくは少なくとも3W/l、より好ましくは少なくとも5W/lの撹拌出力を反応混合物に導入することが好ましい。本発明の一実施形態では、25W/l以下の撹拌出力を反応混合物に導入することができる。
【0083】
本発明の方法の工程(d)は、空気下、不活性ガス雰囲気下、例えば希ガスもしくは窒素雰囲気下、または還元雰囲気下で実施することができる。還元ガスの例は、例えばSO2である。不活性ガス雰囲気下、特に窒素ガス下で作業することが好ましい。
【0084】
本発明の方法の工程(d)は、1種以上の還元剤の存在下でも非存在下でも実施することができる。好適な還元剤の例は、ヒドラジン、第一級アルコール、例えば、限定するものではないが、メタノールまたはエタノール、さらに過酸化水素、アスコルビン酸、グルコース、およびアルカリ金属亜硫酸塩である。Mnが少量しか存在しない場合、工程(d)ではいかなる還元剤も使用しないことが好ましい。遷移金属酸化物材料中に相当量のマンガンが存在する場合、例えば、対応する正極活物質の遷移金属部分を基準として、少なくとも3モル%である場合、還元剤もしくは不活性雰囲気または両方の組み合わせの使用が好ましい。
【0085】
本発明の一実施形態では、工程(d)は、7.5~12.5の範囲内のpH値で実施され、水酸化物の場合には9~12のpH値、および炭酸塩の場合には7.5~8.5の範囲内のpH値が好ましい。pH値とは、23℃で測定された母液のpH値を指す。工程(d)は、バッチ反応器内で実施しても、または好ましくは例えば連続撹拌タンク反応器内で、もしくは2つ以上のカスケード、例えば2つもしくは3つの連続撹拌タンク反応器内で連続して実施してもよい。
【0086】
工程(d)の結果として、含リチウム遷移金属酸化物含有材料に含まれるリチウムを含め、先の工程で用いた酸のアルカリ塩溶液中に遷移金属(オキシ)水酸化物または炭酸塩を沈殿物として含有するスラリーが得られる。
【0087】
工程(d)で得たこのスラリーを固液分離(工程(d1))にかけ、固体沈殿物および液体溶液を得ることができる。
【0088】
固体沈殿物の遷移金属(オキシ)水酸化物または炭酸塩をさらに処理、異なる用途に利用することができる。好ましい実施形態では、遷移金属(オキシ)水酸化物または炭酸塩を酸に再溶解して、正極活物質前駆体の沈殿に適した遷移金属塩溶液を得る。
【0089】
含アルカリ塩溶液をさらに処理すると、それに含まれるリチウムを回収することができる。
【0090】
さらなる精製を目的として、工程(d)または工程(d1)で回収した固体を、酸、例えば塩酸またはより好ましくは硫酸に溶解し、再沈殿させてもよい。
【0091】
本発明の一実施形態では、工程(d)で得た遷移金属(オキシ)水酸化物または炭酸塩のスラリーを、固液分離処理(工程(d1))、好ましくは濾過にかける。得られる混合(オキシ)水酸化物または混合炭酸塩を洗浄すると、混合(オキシ)水酸化物または混合炭酸塩に同伴するアルカリの量を0.1重量%未満、好ましくは0.01%未満程度に低減することができる。その後、得られた混合水酸化物を適切な酸に再溶解する。例えば、塩酸、より好ましくは硫酸である。本発明の一実施形態では、再溶解した混合金属塩を混合(オキシ)水酸化物または混合炭酸塩として再沈殿させる。
【0092】
本発明の一実施形態では、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、およびアルカリ金属炭酸水素塩のうちの少なくとも1種が関与する1つ以上の工程、好ましくはすべての工程は、それぞれ水酸化リチウム、炭酸リチウム、または炭酸水素リチウムを用いて実施される。そのような実施形態では、処理中にリチウム遷移金属酸化物材料から溶解するリチウムは、リチウム以外のアルカリ金属で汚染されていない。合一した含リチウム溶液は、ある程度本発明の方法に再導入できるリチウムを確実に高率で回収すると同時に、残部を正極活物質の製造に使用できるような方法で処理することができる。例えば、炭酸リチウムとして結晶化する工程(e1)、または電気分解(国際公開第2013/159194号または国際公開第2009/131628号に記載されるものなど)もしくは電気透析(国際公開第2010/056322号に記載されるものなど)により水酸化リチウムを得る工程(e2)による。別の形態では、方法は、沈殿によってリチウムを炭酸塩または水酸化物として回収する追加の工程(e1)を含む。別の形態では、方法は、電気分解または電気透析によってリチウムを回収する追加の工程(e2)を含む。
【0093】
炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、または炭酸カリウムを添加することにより炭酸リチウムを結晶化することができる。代替策として、リン酸塩またはフッ化物としてリチウムを沈殿させることができるが、直接または水酸化リチウムへの変換後に正極活物質を製造する際に炭酸リチウムを使用できるため、炭酸リチウム結晶化が好ましい。
【0094】
含リチウム遷移金属酸化物含有材料に含まれる無機フッ化物成分が、本発明に記載の処理工程のいずれかにおいて水および酸性水溶液の存在下で分解される場合があるため、フッ化水素のような揮発性フッ素化合物が形成される場合がある。したがって、こうした揮発性フッ素化合物、特にフッ化水素を効率的に除去できる廃気装置に処理容器を接続することが好ましい。フッ化物塩、例えばフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、またはフッ化バリウムとしてフッ化水素を捕捉できる排ガス洗浄装置が好ましい。
【0095】
本発明の方法は一部または全体を、コンピューターベースの方法制御システムの一部であるセンサーおよびアクチュエーターによって制御される連続方法として設定することができる。
【0096】
それ自体が公知である選択的結晶化技術によって、本発明の方法の母液のいずれかから、さらにアルカリ金属、例えばナトリウムを回収することができる。
【0097】
本発明の方法を実施することにより、遷移金属のニッケルを回収すること、該当する場合にはニッケルを含有する正極材料からコバルトおよびマンガンを、ならびに該当する場合にはコバルトおよびマンガンのうちの少なくとも一方を、ごく簡単に正極活物質に変換できる形態で回収することが可能である。特に、本発明の方法は、銅、鉄、ジルコニウム、および亜鉛などの許容可能な微量の不純物(例えば10ppm未満、好ましくはさらに少ない、例えば1~5ppmの銅)しか含まないニッケルおよびコバルト、ならびに場合によりマンガンなどの遷移金属の回収を可能にする。工程(b)のpH値が高いほど、Alの除去率は高くなる。
【0098】
本発明を実施例によりさらに説明する。
【0099】
実施例
総論:特に明記しない限り、パーセンテージは重量%である。金属不純物およびリンは、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)またはICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)を使用した元素分析によって決定した。全炭素は、燃焼後に熱伝導率検出器(CMD)で測定した。全フッ素については燃焼後に、イオン性フッ化物についてはH3PO4蒸留後にイオン感受性電極(ISE)を用いてフッ素を検出した。
【0100】
・ニッケル、コバルト、およびマンガンを同程度のモル量で含有する使用済み正極活物質360g(元素分析により決定される、Ni、Co、およびMnの合計に対するLiのモル比が1/1である);
・グラファイトおよび煤の形態である有機炭素430gおよび残留電解質、ならびに
・Al(16g)、Cu(14.4)、F(合計31.5g)、Fe(2.7g)、P(7.65g)、Zn(0.72g)、Mg(40ppm)、Ca(40ppm)を含むさらなる不純物75g(ppmは上記電池スクラップの合計を示す)
を含有する、900g量の機械処理された電池スクラップ(粒径D50約20μm)を、2.5kgの水でスラリー状にし、1時間激しく撹拌した。次に、固形物を濾過により分離し、1.5kgの水で洗浄した後、2.5Lの撹拌バッチ反応器内にて脱イオン水480gで再びスラリー状にした。
【0101】
特に明記しない限り、不純物含有量はすべて重量パーセントで示し、機械処理した電池スクラップの全量を基準とする。上記の処理により、有機フッ化物の約50%が除去された。
【0102】
工程(a.1):酸による処理
1570gのH2SO4(50%H2SO4水溶液)と267gの過酸化水素(30%H2O2水溶液)との混合物を、激しく撹拌しながら上記のスラリーに滴下した。スラリーの温度は30~40℃に保った。添加完了後、得られた反応混合物を30℃でさらに30分間撹拌し、2時間かけて60℃に加熱した後、周囲温度に冷却した。得られたスラリーから吸引濾過により固形物を除去した。濾過ケークを150gの脱イオン水で洗浄した。合一した濾液(2728g)には、78gのNi、75gのCo、61gのMn、および27gのLiが含まれており、これは全4種の金属に対して98%超という浸出効率に相当する。
【0103】
工程(b.1)および(b2.1):pH調整
工程(a.1)からの合一濾液2020gのpH値を、988gの4モル苛性ソーダ溶液を撹拌しながら添加することによりpH6.5に調整した。沈殿物の形成を観察することができた。さらに30分間撹拌した後、吸引濾過により固形物を除去した。得られた濾液(2773g)は、不純物レベル5ppm未満であるAl、P、Zn、Mg、Ca、およびFe、ならびに約40ppmであるCuを含有する。
【0104】
工程(c.1):金属ニッケルによる処理
工程(b2.1)の濾液を2.5Lの撹拌バッチ反応器に注ぎ、ニッケル粉末22.3g(最大直径150μm、Sigma Aldrich Chemie GmbHから市販)を添加し、18.4g量の50wt%H2SO4を添加した。得られた混合物のpH値は2.75であった。次に、7時間かけて60℃に加熱し、周囲温度まで冷却させた。冷却後、固形物を濾過により除去し(c.1)、濾液を再度ニッケル粉末20.3gに供し、60℃で7時間加熱し、濾過して、銅含有量が1ppm未満であるNi、Co、Mn、およびLi含有溶液2614gを得た。
【0105】
回収率:Ni:90%、Co:92%、Mn:94%、Li:92%。
【0106】
工程(d.1):沈殿
2.5リットル撹拌バッチ反応器に、(c.1)で得た2606gの溶液を入れた。1.25kgの4モルNaOH水溶液と113gの25wt%アンモニア水溶液とで作製した水性NaOH:NH3混合物1,341gを、アルゴン雰囲気下で激しく撹拌しながら滴下して、pH値を12.0に調整した。周囲温度で16時間撹拌した後、得られたスラリーを、4.5気圧の不活性ガス圧をかけて加圧フィルターにより濾過した。0.43g/lのLiおよび4.8g/lのNaを含有する無色透明溶液3002gが得られた。濾過の完了後、濾過ケークを2.3kgの脱イオン脱気水で再びスラリー状にし、1時間撹拌し、加圧フィルターで濾過して、0.12g/lのLiと1.3g/lのNaを含有する無色透明溶液2327gを得た。濾過の完了後、濾過ケークを2660gの脱イオン脱気水で再びスラリー状にし、1時間撹拌し、加圧フィルターで濾過した。濾過の完了後、185gの脱イオン水と262.1gの75%H2SO4との混合物に濾過ケークを溶解し、60℃で2時間撹拌し、25℃に冷却し、吸引フィルターで濾過した。43gのNi、43gのCo、35.4gのMn、ならびに1ppm未満のCu、3ppm未満のAl、2ppm未満のFe、5ppm未満のZn、および3ppm未満のZrを含有する透明暗赤色の濾液1017gを回収した。
【0107】
得られた溶液は、正極活物質の前駆体の合成に非常に適していた。
【0108】
全体の回収率は上記の値:Ni:79%、Co:82%、Mn:83%、Li:77%から逆算することができる。Ni、Co、およびMnの回収率は、透明暗赤色の最終溶液中の金属含有量を基準としている。Liの回収率は、加圧濾過から得た2種の無色透明溶液のLi含有量を基準としている。