(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】立体画像の観察方法
(51)【国際特許分類】
G02C 11/00 20060101AFI20231115BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20231115BHJP
G02B 30/25 20200101ALI20231115BHJP
G02B 30/24 20200101ALI20231115BHJP
G02B 30/23 20200101ALI20231115BHJP
H04N 13/337 20180101ALI20231115BHJP
H04N 13/341 20180101ALI20231115BHJP
H04N 13/344 20180101ALI20231115BHJP
H04N 13/334 20180101ALI20231115BHJP
【FI】
G02C11/00
G02C7/06
G02B30/25
G02B30/24
G02B30/23
H04N13/337
H04N13/341
H04N13/344
H04N13/334
(21)【出願番号】P 2020502731
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022759
(87)【国際公開番号】W WO2020008804
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018126993
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018189177
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 康博
(72)【発明者】
【氏名】宮島 泰史
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-282391(JP,A)
【文献】特開2012-078670(JP,A)
【文献】特開2012-042613(JP,A)
【文献】特開2018-084788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02B 30/25
G02B 30/24
G02B 30/23
H04N 13/337
H04N 13/341
H04N 13/344
H04N 13/334
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置の表示画面に表示された左目用画像と右目用画像に対して、前記左目用画像のみを透過する左目用光学フィルタと、
前記左目用画像と前記右目用画像に対して、前記右目用画像のみを透過する右目用光学フィルタと、
前記左目用光学フィルタと光透過方向に重なり合うように配設された、焦点距離に幅がある左目用広焦点レンズと、
前記右目用光学フィルタと光透過方向に重なり合うように配設された、焦点距離に幅がある右目用広焦点レンズと、を備えた立体メガネを用い、
前記表示画面までの観察距離が0.6m以下の短距離の場合、正の焦点距離を備えた前記広焦点レンズを用いて、前記左目用画像と右目用画像が表示される前記表示画面よりも後方側に、快適に立体画像を観察できる立体表示範囲を広げ、立体画像を観察することを特徴とする立体画像の観察方法。
ここで、前記快適に立体画像を観察できる立体表示範囲は、前記表示画面の虚像までの距離(単位ディオプタ)を縦軸、輻輳により知覚される奥行きDv(単位ディオプタ)を横軸としたとき、
前記広焦点レンズの焦点距離に応じて前記表示画面の虚像が結像される範囲を示す、前記縦軸と直交する2つの直線と、
D
far
=1.129D
v
+0.442を表す直線と、
D
near
=1.035D
v
-0.626を表す直線と、で囲まれた領域で規定される
【請求項2】
前記表示画面までの観察距離が2m以上の長距離の場合、負の焦点距離を備えた前記広焦点レンズを用いて、前記左目用画像と右目用画像が表示される前記表示画面よりも前方側に、
前記快適に立体画像を観察できる立体表示範囲を広げ、立体画像を観察することを特徴とする請求項1に記載の立体画像の観察方法。
【請求項3】
前記表示画面までの観察距離が前記長距離よりも短く前記短距離よりも長い中距離の場合、正と負の焦点距離を備えた前記広焦点レンズを用いて、前記左目用画像と右目用画像が表示される前記表示画面よりも前方側と後方側の両方に、
前記快適に立体画像を観察できる立体表示範囲を広げ、立体画像を観察することを特徴とする請求項2に記載の立体画像の観察方法。
【請求項4】
前記光学フィルタが偏光子で構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項5】
前記光学フィルタが液晶シャッタで構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項6】
前記光学フィルタが分光フィルタで構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項7】
前記広焦点レンズを前記光学フィルタと別体に構成したことを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項8】
前記広焦点レンズを前記光学フィルタと一体に接合したことを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項9】
前記広焦点レンズを前記光学フィルタと別体に構成し、前記広焦点レンズの対向する両方のレンズ面を曲面で構成したことを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項10】
前記広焦点レンズとして左右一対の眼鏡レンズを備え、
これら眼鏡レンズには、レンズ光学中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、レンズの前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、Ar
4+Br
6+Cr
8+Dr
10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表され、前記レンズ光学中心からレンズ周縁部にかけての平均度数の変動を抑制する平均度数安定化成分が付加されているとともに、
レンズの前面もしくは後面の何れかのz座標値に、Er
3(但し、Eは定数)で表される被写界深度延長成分が付加されていることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【請求項11】
前記眼鏡レンズは、前記レンズ光学中心からレンズ周縁部に向けて平均度数がマイナス側もしくはプラス側に漸次変化するものであることを特徴とする請求項10に記載の立体画像の観察方法。
【請求項12】
前記眼鏡レンズは、近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための度数成分が更に設定されたものであることを特徴とする請求項10,11の何れかに記載の立体画像の観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2眼式立体表示の際に利用される立体メガネ、これに用いられる眼鏡レンズの設計方法および立体メガネを用いた立体画像の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体映画、立体テレビ、立体内視鏡など、画像の立体表示を可能とするものが実用化されている。それらの多くは立体メガネを用いた2眼式立体表示である(例えば下記非特許文献1,2参照)。
【0003】
図18は、2眼式立体表示の原理を示す説明図である。同図において、100は画像表示装置、110は立体メガネである。画像表示装置100は、左目および右目の位置から見た視差を有する左目用画像と右目用画像を表示画面100aに表示する。
【0004】
一方、立体メガネ110には、左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bが取り付けられている。これら光学フィルタ14aと14bは、左目用画像と右目用画像を選択的に透過する機能を有するもので、例えば偏光子、液晶シャッタ、分光フィルタなどが用いられる。
【0005】
このような立体メガネ110を装用した観察者の左目25aでは画像表示装置100に表示された左目用画像のみが視認され、また観察者の右目25bでは画像表示装置100に表示された右目用画像のみが視認される。これにより、観察者は立体画像を観察することができる。
【0006】
このような2眼式立体表示の問題点として、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労が挙げられる。輻輳とは、人間の目は物体の一点を注視すると注視点が網膜の中心にくるように左右の目が回転するが、その回転角の情報をもとに三角測量の原理で、注視点の奥行きを知覚する機能である。調節とは、人間の目は観察物体に対して自動的にピント合わせするが、そのピント合わせ情報をもとに奥行きを知覚する機能である。
【0007】
2眼式立体表示では、左右の目に対応した視差を持つ左目用画像と右目用画像を表示する。そうすると、観察者の左右の目が回転して立体画像を捉え輻輳により立体画像の奥行きを正しく知覚する。これに対して、目のピントは左目用画像および右目用画像を表示しているディスプレイ画面上に合うため調節は正しく機能せず、立体画像の奥行きを正しく知覚することができない。人間の立体視機能では、輻輳と調節の間に相互作用があり、輻輳で知覚した奥行き位置に目のピントを誘導する輻輳性調節がある。しかし、2眼式立体表示による立体画像に対しては、輻輳性調節により輻輳で知覚した位置に目のピントを合わせようとすると網膜像にボケが生じる。このように輻輳と調節の間に矛盾があるため、視覚疲労が生じると言われている。このような視覚疲労の存在が、立体メガネを用いた2眼式立体表示の普及を阻む大きな要因になっている。
【0008】
輻輳と調節の矛盾による視覚疲労を解消する手段として、下記の非特許文献3および非特許文献4に記載されたものがある。非特許文献3には、左右の目それぞれに可変焦点距離ミラーとディスプレイを含む結像系を対応させ、可変焦点距離ミラーを用いて、ディスプレイの画面を複数の異なる奥行き位置に結像することで立体画像へのピント合わせを可能とした点が開示されている。このときディスプレイには高速表示できるDMD(Digital Micromirror Device)を用い、時分割で立体画像を表示する。
【0009】
また、下記非特許文献4には、ディスプレイを含む結像系において、可変焦点距離レンズやモータを用いて結像系を動的に変更できるヘッドマウントディスプレイで、左右の目の回転角を検出して輻輳による奥行き知覚位置を算出し、その奥行き位置にディスプレイの画面を結像するように結像系の結像関係を変更し、これにより、輻輳と調節による奥行き知覚位置を一致させるようになした点が開示されている。
【0010】
しかしながら、これら非特許文献3,4に記載のものは、目の前に結像系を配置する必要があるため、実現できるのはヘッドマウント型の立体ディスプレイとなる。このため立体テレビや立体内視鏡に用いられる目から離れた位置に設置するテレビ型やモニタ型の立体ディスプレイに適用することはできない。
【0011】
また、複数の像を表示する非特許文献3に記載のものは、可変焦点距離ミラーや高速表示できるディスプレイが必要なためコストアップが問題になる。さらに、高速表示できるディスプレイは、一般に表示できる階調数が少ないといった問題がある。さらに高速表示できるディスプレイに表示する奥行き方向に分割した画像を高速に生成する画像処理装置が必要となる。
【0012】
一方、可変結像系を用いる非特許文献4に記載のものは、目の回転角を検出する手段が必要となる。また、焦点距離可変レンズやモータを含む機械的機構の利用によるコストアップやヘッドマウントディスプレイの重量増加が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献】
【0014】
【文献】増田千尋:3次元ディスプレイ(1990)、産業図書
【文献】原島博監修、元木紀雄,矢野澄夫共編:3次元画像と人間の科学(2000)、オーム社
【文献】X.Hu and H.Hua, "High-resolution optical see-through multi-focal-plane head-mounted display using freeform optics," Opt. Express vol. 22, p.13896-13903 (2014).
【文献】N.Padmanaban, R.Konrad, T.Stramer, E.A. Cooper, and G.Wetzstein, "Optimizing virtual reality for all users through gaze-contingent and adaptive focus displays," PNAS vol.114, p.2183-2188 (2017).
【文献】T.Shibata,J.kim,D.M.Hoffman, M.S. Banks, "The zone of comfort: Predicting visual discomfort with stereo displays," J. Vision, vol.11, 11(2011).
【文献】G. Mikula, Z. Jaroszewicz, A. Kolodziejczyk, K. Petelczyc, and M. Sypek, "Images with extended focal depth by means of lenses with radial and angular modulation," Opt. Express, vol. 15, p.9184-9193 (2007).
【文献】J. Sochacki, A. Ko?odziejczyk, Z. Jaroszewicz, and S. Bara, "Nonparaxial design of generalized axicons," Appl. Opt., vol.31, p.5326-5330 (1992).
【文献】N. Davidson, A. A. Friesem, and E. Hasman, “Holographic axilens: high resolution and long focal depth,”Opt. Lett., vol.16, p.523-525 (1991).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、簡便な構成で、2眼式立体表示における視覚疲労を軽減することが可能な立体メガネを提供すること、またこの立体メガネに用いられるレンズの設計方法およびこの立体メガネを用いた立体画像の観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の立体メガネは、メガネ式の立体表示において、快適に立体視できる輻輳と調節の一致の許容範囲を広げるために、焦点距離に幅がある広焦点レンズを組み込んだことを特徴とする。
【0017】
通常のレンズはひとつの焦点距離をもつが、広焦点レンズは焦点距離がある値からある値までの幅をもつ。つまり、通常のレンズに、光軸に平行な光を入射すると光軸上の一点に光が集光するが、広焦点レンズに、光軸に平行な光を入射すると光軸上のある点からある点まで幅がある範囲に光が集光する。
【0018】
一般的に、ひとつの焦点距離をもつレンズは単焦点レンズ、複数の焦点距離をもつレンズは多焦点レンズと呼ばれる。ここでは、焦点距離に幅があるレンズを広焦点レンズと呼ぶ。
【0019】
立体視において、輻輳位置と調節位置が一致していれば、輻輳調節矛盾による視覚疲労は生じない。しかし、視覚疲労が生じない快適な立体視を実現するためには、輻輳位置と調節位置が完全に一致している必要はなく、輻輳位置と調節位置の一致には、ある程度の許容範囲があることが知られている。
【0020】
図1は、輻輳と調節の関係を示した図である。同図において、横軸は輻輳を、縦軸は調節を示している。単位はディオプタ(D)で、距離をメートルで表して逆数をとったものである。例えば、上記非特許文献5によれば、輻輳と調節とが一致していない場合であっても、これらが、
図1に示すD
farとD
nearとの間に位置するような関係にあれば、視覚疲労が生じない快適な立体視が可能であることが示されている。すなわち、快適な立体視を実現する輻輳と調節の一致には許容範囲がある。
【0021】
同図において、縦軸に目のピントが合っている位置をとると、横軸において快適に立体視できる輻輳の範囲を求めることができる。すなわち、
図18における表示画面100aまでの距離l
0の逆数1/l
0を
図1の縦軸に与えて、対応するD
farとD
nearの値を横軸から読み取ることで快適に立体視できる輻輳の範囲を知ることができる。ここで、l
far=1/D
far、l
near=1/D
nearと表すと、
図18において、立体画像30を距離l
nearからl
farまでの範囲内に表示すれば視覚疲労は生じないことになる。
【0022】
本発明は、快適に立体視できる立体画像の表示範囲を簡便に拡大させるための手段として、立体メガネに広焦点レンズを付加するようになしたものである。
【0023】
図2において、10は2眼式立体表示で利用される立体メガネで、フレーム12に左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bが取り付けられている。左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bの前方(眼球と反対側)あるいは後方(眼球側)には、これら光学フィルタ14aと14bにそれぞれ重なり合う位置に、左目用広焦点レンズ16aと右目用広焦点レンズ16bが取り付けられている。なお、以下の説明では、左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bを単に「光学フィルタ14」と称する場合がある。また、左目用広焦点レンズ16aと右目用広焦点レンズ16bを単に「広焦点レンズ16」と称する場合がある。
【0024】
これら光学フィルタ14aと14bは、それぞれ、左目用画像と右目用画像を選択的に透過させる機能を有する。
【0025】
立体メガネ10では、画像表示装置100(
図18参照)の表示画面100aに表示された左目用画像と右目用画像に対して、右目用画像に関する光が左目用光学フィルタ14aにより遮断され、左目用画像に関する光のみが左目用光学フィルタ14aを透過するように構成されている。また、左目用画像に関する光が右目用光学フィルタ14bにより遮断され、右目用画像に関する光のみが右目用光学フィルタ14bを透過するように構成されている。このため、観察者の左目25aでは左目用画像が、また観察者の右目25bでは右目用画像が見えることとなる。
【0026】
広焦点レンズ16aと16bは、焦点距離に幅があるレンズである。このような広焦点レンズとしては、例えば、非特許文献6に記載のアキシコン(Axicon)、非特許文献7に記載のアキシレンズ(axilens)、非特許文献8に記載のライト・ソード・オプティカル・エレメント(light sword optical element)、特許文献1に記載の3次非球面レンズ等を用いることができる。
【0027】
広焦点レンズ16は焦点距離に幅があるため、
図3(a)に示すように、対象物としての物体35が距離l
0の位置に固定されていても、その実像36はある程度の幅をもった範囲(l
1~l
2の範囲)に形成される。かかる広焦点レンズ16を立体メガネと組合せる場合には、像が正立像となる虚像結像を用いることになるが、この場合も
図3(b),(c)に示すように虚像38がある程度の幅(l
1~l
2の範囲)をもった範囲に形成される。なお、同図(b)は正の焦点距離をもった広焦点レンズを用いた場合を示し、また同図(c)は負の焦点距離をもった広焦点レンズを用いた場合を示している。
【0028】
次に、
図4と
図5を用いて、広焦点レンズを備えた本発明の立体メガネの作用効果を説明する。以下では、広焦点レンズ16の焦点距離をf
1~f
2とする。また、表示画面100aと広焦点レンズ16の距離に比べて、広焦点レンズ16と目25の距離が十分小さいことから、広焦点レンズ16は目25と接しているものとし、表示画面100aと目25との距離をl
0とし、表示画面100aの虚像38が結像される位置と目25との距離をl
1~l
2とする。
【0029】
まず、従来の立体メガネ110を用いた場合、
図4(a)に示すように、観察者の目25のピントは表示画面100aに合っている。これに対し、正の広焦点レンズ16を付加した場合、同図(b)に示すように、表示画面100aに対し観察者とは反対側にてその虚像38が目からの距離l
1~l
2の範囲に結像される。すなわち、観察者の目25は、このl
1~l
2の範囲に対してピント合わせできるようになる。また、負の広焦点レンズ16を付加した場合、同図(c)に示すように、表示画面100aよりも観察者側にてその虚像38が目からの距離l
1~l
2の範囲に結像される。すなわち、観察者の目25は、このl
1~l
2の範囲に対してピント合わせできるようになる。
【0030】
ただし、同図(b),(c)で示す広焦点レンズ16を用いた場合、網膜上に得られる像40は、異なる位置にある虚像を結像した像の重ね合わせになるため、通常の単焦点レンズを用いた場合に得られる像に比べて、一般に像の分解能は低下する。
【0031】
ここで、結像の公式より、
【数1】
となる。これより、虚像が形成される範囲l
1~l
2は、
【数2】
で与えられる。
【0032】
目はこの虚像に対してピント合わせするため、目のピントはl
1からl
2の範囲で変化できる。したがって、
図5に示すように、調節がグラフの縦軸で1/l
1から1/l
2まで幅をもつため、対応する輻輳の範囲が拡大する。そのため、快適に立体視可能な立体画像の表示範囲が拡大する。
【0033】
ここで、上記非特許文献5によれば、快適に立体視可能な立体画像の表示領域は、輻輳により知覚される奥行きDvに対応する遠位端Dfarおよび近位端Dnearを用いて表すことができる。Dfar,DnearはDvを用いて、
Dfar=1.129Dv+0.442 ・・・式(5)
Dnear=1.035Dv-0.626 ・・・式(6)
と与えられる。
【0034】
立体メガネ10に用いる広焦点レンズ16の焦点距離の範囲は、観察距離(目から表示画面までの距離)に応じて、適宜設定することができる。
【0035】
まず、観察距離が長距離の場合について説明する。これは、例えば立体テレビの場合に対応し、観察距離は約2m(0.5D)である。
図6(a)を用いて説明する。この観察距離に目のピントを合わせた場合、式(5)~(6)でD
far=0.5D、D
near=0.5DとしてD
vを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲は0.92m(1.1D)~19m(0.051D)と求まる。すなわち、立体テレビの前方に不快な領域が存在する。この場合、負の焦点距離をもつ広焦点レンズ16を用いることで、立体テレビ前方に快適な領域を広げることができる。
【0036】
例えば、焦点距離が-2.0m(-0.5D)~-∞(0D)の広焦点レンズを用いると、式(3)~(4)より目がピント合わせできる範囲が0.50D~1.0Dとなる。式(5)~(6)でDfar=0.50D、Dnear=1.0DとしてDvを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲が0.64m(1.6D)~19m(0.051D)に広がる。すなわち、立体テレビ前方に快適な領域が広がることがわかる。
【0037】
つぎに、観察距離が短距離の場合について説明する。これは、例えば立体内視鏡手術で利用される立体モニタの場合に対応し、観察距離は約0.6m(1.7D)である。
図6(b)を用いて説明する。この観察距離に目のピントを合わせた場合、式(5)~(6)でD
far=1.7D、D
near=1.7DとしてD
vを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲は0.45m(2.2D)~0.92m(1.1D)となり、立体モニタの後方に不快な領域が存在する。この場合、正の広焦点レンズ16を用いることで、立体モニタ後方に快適な領域を広げることができる。
【0038】
例えば、焦点距離が2.0m(0.5D)~∞(0D)の広焦点レンズを用いると、式(3)~(4)より目がピント合わせできる範囲が1.2D~1.7Dとなる。式(5)~(6)でDfar=1.2D、Dnear=1.7DとしてDvを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲が0.45m(2.2D)~1.6m(0.64D)に広がる。すなわち、立体モニタの後方に快適な領域が広がることがわかる。
【0039】
つぎに、観察距離が中距離の場合について説明する。これは、例えばPC用の立体モニタの場合に対応し、観察距離は約1.0m(1.0D)である。
図6(c)を用いて説明する。この観察距離に目のピントを合わせた場合、式(5)~(6)でD
far=1.0D、D
near=1.0DとしてD
vを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲は0.64m(1.6D)~2.0m(0.49D)となり、立体モニタの前方と後方の両方に不快な領域が存在する。この場合、正と負の焦点距離をもつ広焦点レンズ16を用いることで、立体モニタの前方と後方に快適な領域を広げることができる。
【0040】
例えば、焦点距離が4.0m(0.25D)~+∞(0D)、-∞(0D)~-4.0m(-0.25D)の広焦点レンズを用いると、式(3)~(4)より目がピント合わせできる範囲が0.75D~1.3Dとなる。式(5)~(6)でDfar=0.75D、Dnear=1.3DとしてDvを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲が0.55m(1.8D)~3.7m(0.27D)に広がる。すなわち、立体モニタの前方と後方に快適な領域が広がることがわかる。
【0041】
なお、2眼式立体表示では、左右の画像を分離する方式として、後述する偏光方式、液晶シャッタ方式、分光フィルタ方式の3種類が存在する。本発明の立体メガネ10は、それぞれの方式に対応した光学フィルタ用いて構成することができる。具体的には、偏光方式の場合には、光学フィルタを偏光子で構成することができる。液晶シャッタ方式の場合には、光学フィルタを液晶シャッタで構成することができる。分光フィルタ方式の場合には、光学フィルタを分光フィルタで構成することができる。
【0042】
内視鏡手術において、腹腔内を立体的に観察できる立体内視鏡が利用されている。しかしながら、長時間を要する内視鏡手術では、視覚疲労が医師へ与える負担が問題になっている。本発明によれば立体内視鏡を用いた手術時における医師の負担を軽減することができる。
【0043】
映画やゲーム機において、立体表示機能が実現されている。しかしながら、視覚疲労があるため大きく普及できない状態にある。これらの分野においても、本発明の立体メガネを用いることで立体映画や立体ゲームの普及が進むことが期待できる。
【0044】
本発明は、従来の立体メガネに広焦点レンズを組み合わせた単純な構成で実現できるため、以下の長所を有している。(1)広焦点レンズはプラスチックで作製できるため、低コストに実現可能である。(2)立体テレビ、立体モニタ、立体映画のプロジェクタには従来のものがそのまま利用できるため、従来技術との互換性が高く、表示装置に関するコストアップはない。(3)従来の2眼式立体映像コンテンツがそのまま利用できる。
【0045】
本発明の立体メガネは、広焦点レンズと光学フィルタを様々な態様で構成することが可能である。例えば、広焦点レンズを光学フィルタと別体に構成することができる。この場合、広焦点レンズの対向する両方のレンズ面を曲面で構成することで、目から見て広い画角で均一な特性を得ることができる。一方、広焦点レンズを光学フィルタと一体に接合することも可能である。このようにすればコンパクトな構成で、本発明の立体メガネを実現することができる。
【0046】
また本発明の立体メガネでは、レンズ光学中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、レンズの前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、Ar4+Br6+Cr8+Dr10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表され、前記レンズ光学中心からレンズ周縁部にかけての平均度数の変動を抑制する平均度数安定化成分が付加されているとともに、
レンズの前面もしくは後面の何れかのz座標値に、Er3(但し、Eは定数)で表される被写界深度延長成分が付加された眼鏡レンズを、広焦点レンズとして用いることができる。
【0047】
このように被写界深度延長成分が付加された眼鏡レンズでは、前記レンズ光学中心からレンズ周縁部に向けて平均度数をマイナス側もしくはプラス側に漸次変化させることができる。即ち、レンズ光学中心からレンズ周縁部に向けて焦点距離を連続的に変化させることができる。
【0048】
また前記眼鏡レンズは、近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための度数成分を更に設定することができる。このようにすれば立体視の用途だけでなく、常時装用するメガネとしても使用することができる。
【0049】
本発明の立体メガネに用いられる眼鏡レンズの設計方法は、前記レンズ光学中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、処方度数に基づいて決定されるレンズの前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、Ar4+Br6+Cr8+Dr10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表され、レンズ光学中心からレンズ周縁部にかけての平均度数の変動を抑制する平均度数安定化成分を付加する第1の非球面成分付加工程と、
前記レンズの前面もしくは後面の何れかのz座標値に、Er3(但し、Eは定数)で表され、被写界深度を延長させる被写界深度延長成分を付加する第2の非球面成分付加工程と、を備えていることを特徴とする。
【0050】
本発明の設計方法によれば、レンズ中心からレンズ周縁部に向けての広い範囲で度数変化の傾きを略一定に維持することができるため、レンズ中心だけでなくレンズ周縁部においても、快適に立体視できる範囲を広げる効果を安定的に確保することができる。
【発明の効果】
【0051】
以上のような本発明によれば、簡便な構成で、2眼式立体表示における視覚疲労を軽減することが可能な立体メガネ、これに用いられるレンズの設計方法およびこの立体メガネを用いた立体画像の観察方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】調節と輻輳との関係を説明するための図である。
【
図2】本発明の立体メガネの構成を示した図である。
【
図3】広焦点レンズにおける結像の状態を説明するための図で、(a)は実像結像の場合、(b)および(c)は虚像結像の場合を示している。
【
図4】(a)は従来の立体メガネの作用説明図、(b)および(c)は
図2に示す立体メガネの作用説明図である。
【
図6】(a)は観察距離が長距離の場合に
図2に示す立体メガネがもつ効果を説明するための図、(b)は観察距離が短距離の場合に
図2に示す立体メガネがもつ効果を説明するための図、(c)は観察距離が中距離の場合に
図2に示す立体メガネがもつ効果を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る立体メガネを偏光方式に対応した立体表示装置とともに示した図である。
【
図8】偏光方式に対応したプロジェクタを示した図である。
【
図9】(a)~(l)はそれぞれ偏光子を用いた立体メガネの構成を示した図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る立体メガネを液晶シャッタ方式に対応した立体表示装置とともに示した図である。
【
図11】液晶シャッタ方式に対応したプロジェクタを示した図である。
【
図12】(a)は分光シャッタ方式に対応したプロジェクタを示した図、(b)は本発明の更に他の実施形態に係る立体メガネを示した図である。
【
図13】(a)は本発明の実施形態に係る立体メガネに用いられる眼鏡レンズの全体の概略図、(b)は同レンズの上半分を拡大した概略図である。
【
図15】
図13の眼鏡レンズにおけるレンズ径方向に沿った平均度数の変化を示した図である。
【
図16】同実施形態の立体メガネについての評価結果を示した図で、(a)は「見やすさ」、(b)は「目の疲れ」について示している。
【
図18】2眼式立体表示の原理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
[実施形態1]
偏光方式の立体表示に対応した立体メガネおよび立体画像の観察方法の実施形態について説明する。
【0054】
画像表示装置100がテレビ型やモニタ型の場合、
図7に示すように、表示画面100aには、奇数番目と偶数番目の走査線に対応する横長の波長板40aと40bが取り付けられ、奇数番目と偶数番目の走査線の表示画像には、互いに回転方向が逆の円偏光が与えられるように構成されている。そして、奇数番目と偶数番目の走査線を用いて、左目用画像と右目用画像が表示される。なお、奇数番目と偶数番目の走査線と、表示する左目用画像と右目用画像の対応関係は逆にしても良い。
【0055】
これに対応する立体メガネ10Aには、光学フィルタとして左目用偏光子42aと右目用偏光子42bとが取り付けられている。左目用偏光子42aと右目用偏光子42bは、互いに回転方向が逆の円偏光のみを通過させ、観察者の左目25aには左目用画像が、また観察者の右目25bには右目用画像が見えるように構成される。本例では、偏光子として偏光フィルムを用いている。
【0056】
なお、ここでは回転方向が互いに逆の円偏光を用いた場合を例に説明したが、これに代えて互いに直交する直線偏光を用いることも可能である。この場合は、直線偏光を通過させる通常の偏光子が利用できる。
【0057】
立体映画の場合には、
図8に示すようにプロジェクタ44を倍速駆動して、左目用と右目用の画像を交互に表示するとともに、プロジェクタ44前面に光の偏光状態を制御する液晶素子46を配置して、左目用画像と右目用画像に、互いに回転方向が逆の円偏光(あるいは互いに直交する直線偏光)を与えるようにすればよい。
【0058】
図9は、偏光方式に対応する立体メガネ10Aの構成を示している。立体メガネ10Aには、左目用偏光子42aと右目用偏光子42bに対応して左目用広焦点レンズ16aと右目用広焦点レンズ16bが配設されている。同図(a)~(f)は正の広焦点レンズを用いた場合、同図(g)~(l)は負の広焦点レンズを用いた場合である。
【0059】
立体メガネ10Aは、同図(a),(d),(e),(f),(g),(j),(k),(l)に示すように偏光子42(42a、42b)と広焦点レンズ16(16a、16b)を別体で構成することも可能である。偏光子42と広焦点レンズ16を別体で構成した場合には、偏光子42、広焦点レンズ16何れか一方を、必要に応じてフレーム12から取り外すことができる。また同図(d),(f),(j),(l)に示すように、対向するレンズ面の両方を曲面とした広焦点レンズ16を用いることで、目から見て広い画角で均一な特性を得ることが可能である。
【0060】
同図(b),(c),(h),(i)に示すように、広焦点レンズ16を偏光子42に接合させて一体に構成することも可能である。このようにすることで、立体メガネ10Aをコンパクトに構成することができる。
【0061】
また、同図(e),(f),(k),(l)に示すように、偏光子42に対して広焦点レンズ16を前方(眼球と反対側)に配置することも可能である。
【0062】
尚、後述するように本例では、広焦点レンズ16として被写界深度延長成分が付加された眼鏡レンズを用いている。
【0063】
[実施形態2]
液晶シャッタ方式の立体表示に対応した立体メガネおよび立体画像の観察方法の実施形態について説明する。
【0064】
液晶シャッタ方式の立体表示では、画像表示装置100がテレビ型やモニタ型の場合、倍速駆動により
図10に示すように、表示画面100aに左目用画像と右目用画像を交互に表示する。また、立体映画の場合には、
図11に示すようにプロジェクタ55を倍速駆動して、左目用画像と右目用画像を交互に表示する。
【0065】
これに対応する立体メガネ10Bには、光学フィルタとして左目用液晶シャッタ50aと右目用液晶シャッタ50bとが取り付けられている。これら液晶シャッタ50aと50bは、表示画面100aに表示される左目用と右目用の画像表示に合わせて、透過状態と不透過状態とを切り替え可能に構成されている。これにより、観察者の左目には左目用画像が、また観察者の右目には右目用画像が見えるように構成される。
【0066】
この立体メガネ10Bにおいても、左目用液晶シャッタ50aと右目用液晶シャッタ50bに対応して左目用広焦点レンズ16aと右目用広焦点レンズ16bが配設されている。この立体メガネ10Bにおいても、
図9で示した立体メガネ10Aの場合と同様に、液晶シャッタ50a、50bと広焦点レンズ16a、16bとを適宜組み合わせて構成することができる。
【0067】
[実施形態3]
分光フィルタ方式の立体表示に対応した立体メガネおよび立体画像の観察方法の実施形態について説明する。
【0068】
光学フィルタとして分光フィルタを用いる立体表示は、立体映画の場合に利用される。
図12(a)に示すようにプロジェクタ60にはRGBの各色の波長域を2つに分割可能なカラーフィルタ62が内蔵されており、プロジェクタ60は異なるRGBの波長域からなる右目用画像と左目用画像とを表示画面としてのスクリーン100aに投影する。
【0069】
これに対応する立体メガネ10Cには、
図12(b)に示すように、光学フィルタとして左目用分光フィルタ65aと右目用分光フィルタ65bとが取り付けられている。この左目用分光フィルタ65aは、左目用画像に対応した波長域の光のみを透過するように構成され、また右目用分光フィルタ65bは右目用画像に対応した波長域の光のみを透過するように構成されている。これにより、観察者の左目には左目用画像が、また観察者の右目には右目用画像が見えるように構成される。
【0070】
この立体メガネ10Cには、左目用分光フィルタ65aと右目用分光フィルタ65bに対応して左目用広焦点レンズ16aと右目用広焦点レンズ16bが配設されている。そして、この立体メガネ10Cにおいても、
図9で示した立体メガネ10Aの場合と同様に、分光フィルタ65a、65bと広焦点レンズ16a、16bとを適宜組み合わせて構成することができる。
【0071】
次に、第1の実施形態である立体メガネ10Aに用いる広焦点レンズとしての眼鏡レンズ24について説明する。もちろん、眼鏡レンズ24は他の実施形態の立体メガネ10B、10Cに用いることも可能である。
【0072】
以下の説明においては、眼鏡レンズ24を用いた立体メガネ10Aを装用した装用者にとっての前後、左右、上下を、それぞれ、当該レンズにおける前後、左右、上下とする。
【0073】
図13において、眼鏡レンズ24は、後面2が下記式(i)で定義される凹面とされ、前面3が下記式(ii)で定義される凸面とされている。なお、レンズ24の光学中心O(後面2では基点O
1、前面3では基点O
2)を通る前後方向の軸をz軸とし、レンズ24の後方に向かう方向をz軸の正方向とする。z軸はレンズ24の光軸に一致する。
【0074】
z=r2/(R1+(R1
2-Kr2)1/2)+δ1+δ2 …式(i)
z=r2/(R2+(R2
2-Kr2)1/2) …式(ii)
式(i)、(ii)のrは、z軸からの距離である。すなわち、後面2では基点O1、前面3では基点O2を中心として、z軸に直交する左右方向、上下方向の軸をそれぞれx軸、y軸とする直交座標系を考えた場合、r=(x2+y2)1/2である。R1、R2は面の頂点における曲率半径、K(コーニック係数)は1、である。
【0075】
また、後面2を定義する式(i)において、δ1は、Ar4+Br6+Cr8+Dr10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表される平均度数安定化成分である。またδ2は、Er3(但し、rはz軸からの距離、Eは正の定数)で表される被写界深度延長成分である。したがって、本例のレンズ24は、前面3が球面、後面2が非球面となる。なお、R1、R2は、処方度数(本例は0Dである)によって決まる。
【0076】
このように本例のレンズ24は、処方度数に基づいて決定されるレンズ後面2の屈折面(本例での曲率半径R
1の球面。以下、元の球面ともいい、符号Sで示す。)に、平均度数安定化成分δ
1と、被写界深度延長成分δ
2とを付加したものである(
図14参照)。
【0077】
Er
3で表される被写界深度延長成分δ
2は、
図15に示すように、レンズ光学中心からレンズ周縁に向けて、レンズの径方向に沿って平均度数αをマイナス側に略直線的に変化させる効果を有する。このため、かかる眼鏡レンズ24によれば、ピント合わせできる範囲が広がり焦点距離に幅を持たせることができる。
【0078】
定数Eは、目的や用途に応じて適宜設定することができる。例えば、立体表示における視覚疲労に一定の効果が得られ、且つ常時メガネを装用した場合でも快適に生活が送れるようにするためには、定数Eを6.40×10-7~6.40×10-5の範囲内から選択するのが望ましい。定数Eの値を大きくすればピント合わせできる範囲が広がり、快適に立体視できる範囲を更に広げることができる。例えば、定数Eを1.66×10-5とすれば、瞳孔径5mmとした場合に、立体視における平均度数変化が約0.5Dとなり、例えば段落0035~0040(立体テレビや立体モニタの観察に立体メガネを用いた例)で例示した程度に、快適に立体視できる範囲を広げることができる。
【0079】
なお、
図13の(b)に示すように、Δを元の球面Sを基準とする半径aでのz軸方向の高さ(すなわち、元の球面Sからの厚みの増加分)とすると、定数E=7.68×10
-6の場合、aが25mmで、Δは120μmである。なお、E=Δ/1000/a
3が成り立つ(但し、aの単位:mm、Δの単位:μm)。
【0080】
ただし、被写界深度延長成分δ2を付加する前のレンズ面内の度数分布が一定でない場合、Er3で表される非球面成分による被写界深度延長の効果が安定的に発揮されない。このため本例では、レンズ中央から周縁部に向けて平均度数を一旦、略一定とする目的でレンズ後面2にAr4+Br6+Cr8+Dr10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表される平均度数安定化成分δ1を付加している。
【0081】
次に、眼鏡レンズ24の設計方法について説明する。
【0082】
まず、処方度数に基づいてレンズ24の前面3の屈折面および後面2の屈折面を決定する。この決定方法については、周知であるため、ここでは詳述しない。次に、処方度数に基づいて決定されたレンズの後面2の屈折面(元の球面S)に非球面成分を付加する。具体的には、平均度数の変動を抑制する平均度数安定化成分δ1を付加する第1の非球面成分付加工程と、被写界深度を延長させる被写界深度延長成分δ2を付加する第2の非球面成分付加工程と、によって後面2の屈折面に非球面成分を付加する。
【0083】
第1の非球面成分付加工程では、Ar
4+Br
6+Cr
8+Dr
10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表される平均度数安定化成分δ
1を求めて、後面2の屈折面に付加する。平均度数安定化成分δ
1が付加されたレンズでは、
図15の破線βで示すように、平均度数をレンズの径方向に沿って、略一定とすることができる。
【0084】
平均度数安定化成分δ1は、下記非球面の式(iii)を用いて表される後面2の屈折面形状について、光線追跡によるシミュレーションを行い、度数(詳しくはメリジオナル方向の屈折力とサジタル方向の屈折力との平均である平均度数)の変化を抑制するのに最適な非球面係数A,B,C,Dを求め、これら非球面係数の値から平均度数安定化成分δ1を得ることができる。
z=r2/(R1+(R1
2-Kr2)1/2)+Ar4+Br6+Cr8+Dr10 …式(iii)
ここで、zは後面2におけるサグ値、rはz軸からの距離、R1は頂点曲率半径、A,B,C,Dは定数(非球面係数)である。
【0085】
次に第2の非球面成分付加工程では、Er3(但し、rはz軸からの距離、Eは定数)で表される被写界深度延長成分δ2を、後面2の屈折面に付加する。本例では、例えば、定数E=7.68×10-6とすることができる。この定数Eの値は、立体表示における視覚疲労に一定の効果が得られ、且つ常時メガネを装用するような場合に好適である。一方、定数Eの値をより大きくすれば、快適に立体視できる範囲を広げることができる。
【0086】
このようにすることで、上記式(i)で定義されたレンズ24の後面2の屈折面形状が決定される。
【0087】
[実施例]
円偏光フィルムに被写界深度延長レンズを組み合わせて成る本実施形態の立体メガネ(実施例1,2)を作製し、立体表示を観察した際の「見やすさ」および「目の疲れ」について評価した。
【0088】
比較例として、円偏光フィルムを備えた市販の立体メガネ(GetD円偏光式3Dメガネ)を用い、この市販の立体メガネに更に下記眼鏡レンズを装着したものを実施例1,2の立体メガネとした。
【0089】
実施例1,2の立体メガネで用いた眼鏡レンズに共通するデータは、以下の通りである。
【0090】
屈折率 1.608
前面ベースカーブ 4.12
度数 0.00D
中心厚 1.80mm
外径 Φ75mm
また、各レンズに付加された非球面成分の定数の値は、下記表1の通りである。
【0091】
【0092】
被験者は4名(30~55歳)で、うち2名は眼鏡装用者である。上記の比較例および実施例の立体メガネを装用した状態で、市販の立体映像コンテンツ(立体映画)を視聴した。なお、表示装置として、三菱電機製23型ワイド液晶ディスプレイおよびSONY製BD/DVDプレーヤBDP-S6700を用い、表示画面と被験者の目との距離は90~120cmとした。
【0093】
所定時間視聴したのち、実施例の立体メガネにおける「見やすさ」および「目の疲れ」を、比較例の立体メガネとの対比で、悪い、やや悪い、変わらない、やや良い、良い、の5区分の何れに該当するかで評価した。
【0094】
図16,17に実施例2の立体メガネの評価結果を示す。
図16は、映画の視聴を開始してから30分後に得た結果(回答数4)である。
図17は、視聴を開始してから120分後に得た結果(回答数3)である。
【0095】
これら
図16,17によれば、実施例2の立体メガネは、「見やすさ」、「目の疲れ」のいずれの項目においても、「やや良い」という結果が半数以上であった。特に視聴時間が長くなった場合に、「やや良い」の割合が高くなった。また、実施例1の立体メガネについても、ほぼ同様の結果であった。被写界深度延長効果を有する眼鏡レンズを用いたことにより、快適に立体視できる立体画像の表示範囲が拡大したことによる効果と考えられる。
【0096】
<その他の変形例・適用例>
(1)上記実施形態は、レンズの後面2に付加した被写界深度延長成分Er3において、定数Eを正の数とした例であったが、定数Eを負の数とすることも可能である。この場合は、レンズ光学中心からレンズ周縁に向けて平均度数がプラス側に漸次変化する被写界深度延長成分が付加される。ここで、立体表示における視覚疲労に一定の効果が得られ、且つ常時メガネを装用した場合でも快適に生活が送れるようにするためには、定数Eを-6.40×10-7~-6.40×10-5の範囲内から選択するのが望ましい。定数Eの値を小さく(絶対値を大きく)すればピント合わせできる範囲が広がり、快適に立体視できる範囲を更に広げることができる。例えば、定数Eを-1.66×10-5とすれば、瞳孔径5mmとした場合に、立体視における平均度数変化が約0.5Dとなり、例えば段落0035~0040(立体テレビや立体モニタの観察に立体メガネを用いた例)で例示した程度に、快適に立体視できる範囲を広げることができる。
【0097】
(2)上記実施形態は、レンズの後面2に平均度数安定化成分δ1を付加した例であったが、平均度数安定化成分δ1はレンズの前面3に付加しても良いし、前面3および後面2の両面に付加することも可能である。例えば、前面3にAr4+Br6で表される(この場合定数C、Dの値はゼロである)平均度数安定化成分δ1を付加し、更に後面2にCr8+Dr10で表される(この場合定数A、Bの値はゼロである)平均度数安定化成分δ1を付加することも可能である。
【0098】
(3)上記実施形態は、レンズの後面2に被写界深度延長成分δ2を付加した例であったが、被写界深度延長成分δ2はレンズの前面3に付加することも可能である。
【0099】
(4)上記本実施形態は、立体メガネに用いる眼鏡レンズとして、実質的に度の入っていないプラノレンズを例示しているが、近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための度数成分が更に設定された眼鏡レンズを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0100】
2 後面
3 前面
10,10A,10B,10C 立体メガネ
14a 左目用光学フィルタ
14b 右目用光学フィルタ
16,16a,16b 広焦点レンズ
24 眼鏡レンズ
25a 左目
25b 右目
42a,42b 偏光子(偏光フィルム)
50a,50b 液晶シャッタ
65a,65b 分光フィルタ
100a 表示画面
f1,f2 焦点距離
δ1 平均度数安定化成分
δ2 被写界深度延長成分