(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法、並びに、乳酸菌、乳酸菌組成物、茶発酵物、及び飲食品
(51)【国際特許分類】
C12P 7/42 20060101AFI20231115BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20231115BHJP
A23F 3/14 20060101ALI20231115BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231115BHJP
【FI】
C12P7/42
C12N1/20 A
A23F3/14
A23L5/00 K
(21)【出願番号】P 2019134290
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2018137924
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-01987
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 達也
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】小泉 明子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 沙織
(72)【発明者】
【氏名】野路 久展
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0039595(KR,A)
【文献】特開2006-306866(JP,A)
【文献】特開2018-027970(JP,A)
【文献】特開2016-167984(JP,A)
【文献】特開2002-238443(JP,A)
【文献】APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2000年,VOL.66, NO.7,P.3093-3097
【文献】System. Appl. Microbiol.,2001年,Vol.24,PP.561-571
【文献】APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2013年,VOL.79, NO.14,P.4253-4263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/42
C12N 1/20
A23F 3/14
A23L 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸の製造方法であって、
炭酸塩と、ガレート型カテキンを含有する茶抽出物と、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌と、を含有する発酵ミックスを調製する工程と、
前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて没食子酸を得る工程と、
を含むことを特徴とする没食子酸の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌であることを特徴とする請求項1に記載の没食子酸の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸塩の濃度が前記発酵ミックス全量に対して0.15w/v%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の没食子酸の製造方法。
【請求項4】
茶発酵物の製造方法であって、
炭酸塩と、ガレート型カテキンを含有する茶抽出物と、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌と、を含有する発酵ミックスを調製する工程と、
前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて没食子酸を含有する茶発酵物を得る工程と、
を含むことを特徴とする茶発酵物の製造方法。
【請求項5】
前記茶発酵物におけるピロガロールの含有量が没食子酸の含有量100質量部に対して50質量部以下であることを特徴とする請求項4に記載の茶発酵物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の没食子酸の製造方法、又は請求項4~5のうちのいずれか一項に記載の茶発酵物の製造方法に用いるための乳酸菌組成物であり、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌を含有することを特徴とする乳酸菌組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法、並びに、乳酸菌、乳酸菌組成物、茶発酵物、及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
没食子酸は3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(3,4,5-Trihydroxybenzoic Acid)ともいい、抗酸化作用を有することが知られている。また、没食子酸を主要成分とするターミナリアベリリカの抽出物については、ヒトにおいて食後血中中性脂肪の上昇抑制作用(非特許文献1)を、及びマウスにおいて血糖値の上昇抑制作用(非特許文献2)を、それぞれ奏することが報告されており、これらの作用には該没食子酸が関与すると考えられている。そのため、没食子酸はメタボリックシンドローム改善への寄与が期待される成分として注目される。
【0003】
没食子酸の製造方法としては、化学合成による方法、天然物からの抽出による方法の他、酵素や発酵による方法が挙げられ、例えば、ガレート型カテキンにタンナーゼ処理を施し、その加水分解反応生成物として没食子酸を得る方法が知られている。また、前記ガレート型カテキンは茶や茶抽出物に多く含まれることが知られている。
【0004】
このような発酵に用いることが可能なタンナーゼ活性を有する菌としては、例えば、特表2006-521817号公報(特許文献1)に、ヒト腸粘膜に付着する能力を有するタンナーゼ産生株としてLactobacillus plantarum種に属する乳酸菌が記載されている。しかしながら、かかる乳酸菌は前記タンナーゼ活性を有すると共に、没食子酸を脱炭酸する没食子酸脱炭酸酵素活性も有しているため、該タンナーゼ活性によって没食子酸が得られても前記没食子酸脱炭酸酵素活性によって脱炭酸されてピロガロールが生成してしまい、目的の没食子酸を効率的に得ることが困難であるという問題を有していた。また、例えば、特開2009-124943号公報(特許文献2)には、タンナーゼ活性を有し、かつ、没食子酸脱炭酸酵素活性を有さない乳酸菌が記載されており、同文献には、前記乳酸菌を用いて没食子酸を含有する植物エキスを製造する方法も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2006-521817号公報
【文献】特開2009-124943号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】草場宣延ら、2015年、薬理と治療、vol.43、no.8、p.1175-1180
【文献】Makihara H.ら、2012年、J Nat Med、66、p.459-467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の乳酸菌は、必ずしもタンナーゼ活性が強いものではないため、目的の没食子酸を十分に得ることが困難な場合がある。また、特許文献2に記載の方法に使用できる乳酸菌はイヌリン資化性を有する等、一部の菌株に限定されるために汎用性が低く、好ましい風味を奏する菌株を用いることができるとは限らない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌による発酵によって没食子酸を効率的に得ることができる没食子酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、炭酸塩存在下において、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌をガレート型カテキンを含有する茶抽出物に接触させて発酵させることにより、没食子酸脱炭酸酵素活性が抑制されて、目的の没食子酸を効率よく容易に得られることを見い出した。また、かかる方法においては、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌であれば菌株に限定されず用いることができるため、汎用性及び応用性にも優れることを見い出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]没食子酸の製造方法であって、
炭酸塩と、ガレート型カテキンを含有する茶抽出物と、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌と、を含有する発酵ミックスを調製する工程と、
前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて没食子酸を得る工程と、
を含む没食子酸の製造方法。
[2]前記乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌である[1]に記載の没食子酸の製造方法。
[3]前記炭酸塩の濃度が前記発酵ミックス全量に対して0.15w/v%以上である[1]又は[2]に記載の没食子酸の製造方法。
[4]茶発酵物の製造方法であって、
炭酸塩と、ガレート型カテキンを含有する茶抽出物と、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌と、を含有する発酵ミックスを調製する工程と、
前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて没食子酸を含有する茶発酵物を得る工程と、
を含む茶発酵物の製造方法。
[5]前記茶発酵物におけるピロガロールの含有量が没食子酸の含有量100質量部に対して50質量部以下である[4]に記載の茶発酵物の製造方法。
[51]前記乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌である[4]又は[5]に記載の茶発酵物の製造方法。
[52]前記炭酸塩の濃度が前記発酵ミックスの全量に対して0.15w/v%以上である[4]、[5]又は[51]に記載の茶発酵物の製造方法。
[6][1]~[3]のうちのいずれかに記載の没食子酸の製造方法、又は[4]~[5]及び[51]~[52]のうちのいずれかに記載の茶発酵物の製造方法に用いるための乳酸菌であり、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌。
[7][1]~[3]のうちのいずれかに記載の没食子酸の製造方法、又は[4]~[5]及び[51]~[52]のうちのいずれかに記載の茶発酵物の製造方法に用いるための乳酸菌組成物であり、[6]に記載の乳酸菌を含有する乳酸菌組成物。
[8]炭酸塩と、[6]に記載の乳酸菌、[7]に記載の乳酸菌組成物、及びこれらの処理物からなる群から選択される少なくとも1種と、没食子酸とを含有することを特徴とする茶発酵物。
[9][8]に記載の茶発酵物を含有する飲食品。
[10]ガレート型カテキンを含有する茶抽出物のタンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌による発酵において、炭酸塩を添加する、没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制方法。
[11]ガレート型カテキンを含有する茶抽出物のタンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌による発酵において、前記没食子酸脱炭酸酵素活性を抑制するための、炭酸塩の使用。
[12]ガレート型カテキンを含有する茶抽出物のタンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌による発酵において、前記没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制に使用される、炭酸塩。
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌による発酵によって没食子酸を効率的に得ることができる没食子酸の製造方法を提供することが可能となる。また、没食子酸を含有する茶発酵物の製造方法、これらの方法に用いる乳酸菌及び乳酸菌組成物、並びに、それによって得られる茶発酵物及び飲食品を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1~2、及び比較例1で得られた発酵物における没食子酸濃度及びピロガロール濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
<没食子酸の製造方法、茶発酵物の製造方法>
本発明の没食子酸の製造方法は、
炭酸塩と、ガレート型カテキンを含有する茶抽出物と、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌と、を含有する発酵ミックスを調製する工程と、
前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて没食子酸を得る工程と、
を含む。また、本発明の茶発酵物の製造方法は、
炭酸塩と、ガレート型カテキンを含有する茶抽出物と、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌と、を含有する発酵ミックスを調製する工程と、
前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて没食子酸を含有する茶発酵物を得る工程と、
を含む。
【0015】
(炭酸塩)
本発明においては、炭酸塩存在下において下記の茶抽出物を下記の乳酸菌で発酵させることにより、該乳酸菌の没食子酸脱炭酸酵素活性のみが抑制されて、目的の没食子酸を効率よく製造することが可能となる。前記炭酸塩によって前記没食子酸脱炭酸酵素活性のみが抑制される理由は必ずしも定かではないが、該炭酸塩を添加することで反応場が炭酸リッチ条件となって、二酸化炭素を遊離する脱炭酸反応が特異的に阻害されるためであると本発明者らは推察する。
【0016】
本発明において、炭酸塩とは、炭酸イオン(CO3
2-)を含む化合物を示し、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、本発明に係る炭酸塩としては、没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制効果により優れる傾向にある観点から、炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。
【0017】
(茶抽出物)
本発明において、茶抽出物とは、茶から抽出された混合物を示し、より具体的には、茶(例えば、Camellia siensis var. sinensis、Camellia siensis var.assamica、やぶきた種等のCamellia属)の葉及び/又は茎等から、抽出溶媒で抽出して得られる混合物を示す。前記茶の葉及び茎には、生の葉及び茎の他、煎茶、番茶、玉露、てん茶等の緑茶;鳥龍茶と呼ばれる半醗酵茶;紅茶と呼ばれる醗酵茶等の製茶も含まれ、前記茶の葉及び茎としてはこれらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。また、前記抽出溶媒としては、水(温水及び熱水を含む)、有機溶媒(例えば、エタノール等の水性有機溶媒)等が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。前記抽出の方法及び条件は、使用する茶の種類や前記抽出溶媒の種類等に応じて適宜決定できる。
【0018】
本発明に係る茶抽出物としては、前記混合物を適宜公知の方法又はそれに準じた方法で濃縮・精製したものであってもよく、また、「サンフェノンBG-5(太陽化学株式会社製)」、「サンフェノンBG-3(太陽化学株式会社製)」、「カメリアエキス30S(太陽化学株式会社製)」等の市販のものを適宜用いてもよい。
【0019】
本発明に係る茶抽出物は、ガレート型カテキンを含有する。ガレート型カテキンとは、ガロイル基を有するカテキン類であり、例えば、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)等が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。前記茶抽出物における前記ガレート型カテキンの含有量としては、特に制限されないが、乾燥固体質量換算で、3.0~8.0質量%であることが好ましく、4.0~7.0質量%であることがより好ましい。
【0020】
本発明に係る茶抽出物としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前記ガレート型カテキンの他に、さらに茶由来のその他成分を含有していてもよく、例えば、糖類、糖アルコール類、ミネラル類、ビタミン類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸類、有機酸のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含有していてよい。
【0021】
(乳酸菌)
本発明の乳酸菌は、本発明の没食子酸の製造方法又は茶発酵物の製造方法に用いるための乳酸菌であり、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する。前記タンナーゼ活性及び前記没食子酸脱炭酸酵素活性をいずれも有することにより、タンナーゼ活性による没食子酸生成作用及び前記炭酸塩による没食子酸脱炭酸酵素活性抑制作用がいずれも十分に機能して特に効率よく没食子酸を製造することができる。
【0022】
本発明の乳酸菌はタンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性をいずれも有するため、該乳酸菌によれば、通常は、下記の式(1)で示されるタンナーゼ活性及び式(2)で示される没食子酸脱炭酸酵素活性による反応が進行する。なお、下記式(1)中、Rは水素原子、水酸基等を示す。
【0023】
【0024】
〔タンナーゼ活性〕
本発明において、タンナーゼ活性とは、上記式(1)に示される、ガレート型カテキンのエステル結合を加水分解する反応を触媒する活性である。前記ガレート型カテキンのエステル結合が加水分解されると、通常、ガレート型カテキンが非ガレート型カテキンに変換されるとともに、没食子酸が生成する。
【0025】
本発明において、前記乳酸菌が前記タンナーゼ活性を有することは、例えば、Nishitani Y.ら、2003年、Journal of Microbiological Methods 54、p.281-284に記載の方法に準じた方法によって確認することができる。より具体的には、5mM没食子酸メチル(基質)を含むリン酸水素二ナトリウム(好ましくは、33mM)水溶液(好ましくは、pH5.0)に対象の乳酸菌又はそれを含有する乳酸菌組成物を添加し、30℃において好気条件で24時間反応させた後の反応液中の没食子酸(反応生成物)を検出する方法が挙げられる。また、前記タンナーゼ活性の強さは、例えば、上記のNishitani Y.らに記載の方法に準じた方法によって定量することができ、より具体的には、前記反応後の反応液の上清について、アルカリ条件下(好ましくは、pH8.6)における没食子酸に由来する呈色(緑色~茶色)の吸光度を、分光光度計を用いて波長450nmで測定し、例えば、Aspergillus ficuumによる検量線を用いて算出することによって定量することができる。
【0026】
本発明の乳酸菌が有するタンナーゼ活性の強さとしては、上記の方法で定量したときの強さで、30mU/mL以上であることが好ましく、50mU/mL以上であることがより好ましい。前記タンナーゼ活性の強さの上限としては特に限定されないが、例えば、150mU/mL以下であることが好ましい。また、前記タンナーゼ活性の強さとしては、生菌数1×107cfuあたりで、4mU以上であることが好ましく、5mU以上であることがより好ましく、6mU以上であることがさらに好ましく、8mU以上であることがさらにより好ましい。前記生菌数1×107cfuあたりのタンナーゼ活性の強さの上限としても特に限定されないが、例えば、15mU以下であることが好ましい。前記タンナーゼ活性の強さが前記下限未満であると、十分な量の没食子酸を得ることが困難となる傾向にある。
【0027】
〔没食子酸脱炭酸酵素活性〕
本発明において、没食子酸脱炭酸酵素活性とは、上記式(2)に示される、没食子酸を脱炭酸してピロガロールを生成する活性である。ピロガロールは、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(1,2,3-Trihydroxybenzene)ともいう。
【0028】
本発明において、前記乳酸菌が前記没食子酸脱炭酸酵素活性を有することは、例えば、特開平11-5638号公報に記載の方法に準じた方法によって確認することができる。より具体的には、80mM没食子酸(基質)を含むリン酸カリウム(好ましくは、0.1M)緩衝液(好ましくは、pH6.0)に対象の乳酸菌又はそれを含有する乳酸菌組成物を添加し、30℃において好気条件で30分間反応させた後の反応液中のピロガロール(反応生成物)を検出する方法が挙げられる。また、前記没食子酸脱炭酸酵素活性の強さは、例えば、前記反応後の反応液の上清について、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて生成したピロガロール量を測定し、1分間に1μmolのピロガロールを生成させることができる酵素量を1Uとして、定量することができる。
【0029】
本発明の乳酸菌が有する没食子酸脱炭酸酵素活性の強さとしては、上記の方法で定量したときの強さで、150mU/mL以上であることが好ましく、300mU/mL以上であることがより好ましく、350mU/mL以上であることがさらに好ましく、400mU/mL以上であることが特に好ましい。前記没食子酸脱炭酸酵素活性の強さの上限としては特に限定されないが、例えば、600mU/mL以下であることが好ましい。また、前記没食子酸脱炭酸酵素活性の強さとしては、生菌数1×107cfuあたりで、0.5mU以上であることが好ましく、1.0mU以上であることがより好ましく、1.5mU以上であることがさらに好ましく、2.0mU以上であることがさらにより好ましい。前記生菌数1×107cfuあたりの没食子酸脱炭酸酵素活性の強さの上限としても特に限定されないが、3.5mU以下であることが好ましい。前記没食子酸脱炭酸酵素活性の強さが前記下限未満であると、タンナーゼ活性も低下したり、前記炭酸塩による没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制作用が十分に機能しなかったりして得られる没食子酸の収量が逆に少なくなる場合がある。
【0030】
本発明の没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法においては、前記タンナーゼ活性及び前記没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌であれば特に制限なく用いることができる。本発明の乳酸菌には、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ワイセラ属(Weissella)等の乳酸桿菌;ペディオコッカス属(Pediococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)等の乳酸球菌;ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)等が含まれる。本発明の没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法においては、本発明の乳酸菌として、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上の組み合わせて用いてもよいが、これらの中でも、本発明の乳酸菌としては、風味がより良好な生成物(発酵物、茶発酵物、飲食品)が得られやすい観点からは、ラクトバチルス属に属する乳酸菌であることが好ましい。
【0031】
前記ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L.helveticus)、ラクトバチルス・ラムノーサス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・アシドフィラス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・サリバリウス(L.salivarius)、ラクトバチルス・ペントーサス(L.pentosus)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)、ラクトバチルス・スポロゲネス(L.sporogenes)が挙げられる。これらの中でも、本発明の乳酸菌としては、風味がより良好な生成物(発酵物、茶発酵物、飲食品)が得られやすい観点からは、ラクトバチルス・ペントーサス及びラクトバチルス・プランタラムのうちの少なくとも1種であることが好ましく、ラクトバチルス・ペントーサスであることがより好ましい。
【0032】
前記ラクトバチルス・ペントーサスとしては、例えばラクトバチルス・ペントーサス OLL203969株(受託番号:NITE BP-01986)、ラクトバチルス・ペントーサス OLL203982株(受託番号:NITE BP-01987)、ラクトバチルス・ペントーサス OLL203984株(受託番号:NITE BP-01988)が挙げられ[前記受託番号とは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにおける各菌株の受託番号を示す。以下同様]、これらの中でも、ラクトバチルス・ペントーサス OLL203984株(以下、場合により「OLL203984株」という)及びラクトバチルス・ペントーサス OLL203982株(以下、場合により「OLL203982株」という)のうちの少なくとも1種であることが好ましく、OLL203984株が特に好ましい。
【0033】
なお、OLL203984株において、上記の方法で定量される前記タンナーゼ活性の強さは77.98mU/mL、生菌数1×107cfuあたりで9.28mUであり、前記没食子酸脱炭酸酵素活性の強さは466mU/mL、生菌数1×107cfuあたりで2.74mUであった。また、OLL203982株において、上記の方法で定量される前記タンナーゼ活性の強さは85.29mU/mL、生菌数1×107cfuあたりで5.84mUであり、前記没食子酸脱炭酸酵素活性の強さは386mU/mL、生菌数1×107cfuあたりで1.36mUであった。
【0034】
さらに、本発明の乳酸菌には、前記タンナーゼ活性及び前記没食子酸脱炭酸酵素活性を有しており、かつ、OLL203984株又はOLL203982株の、継代株、人工変異株、自然変異株、又は遺伝子組み換え株である株も含まれ、本発明の没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法に好適に用いることができる。
【0035】
本発明の乳酸菌の培養方法としては、特に制限されず、前記乳酸菌の種類に応じて、適宜公知の方法又はそれに準じた方法で培養して所望の菌数に調整することができる。
【0036】
(発酵)
本発明の没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法においては、前記炭酸塩存在下において、前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させることにより、前記没食子酸脱炭酸酵素活性のみが抑制されて、目的の没食子酸を効率的に製造できる。本発明においては、先ず、前記炭酸塩、前記茶抽出物、及び前記乳酸菌を含有する発酵ミックスを調製する。
【0037】
前記発酵ミックスとしては、水溶液であることが好ましい。前記水溶液の溶媒としては、水、リン酸緩衝液、生理食塩水、液体培地、一般に抽出した茶等が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、発酵後の発酵ミックス(発酵物)をそのまま茶発酵物として利用可能であり、かつ、没食子酸の収率がより高くなる傾向にあるという観点からは、水であることが好ましい。
【0038】
前記発酵ミックスにおける前記炭酸塩の濃度としては、発酵ミックス全量の体積に対して0.15w/v%以上であることが好ましく、0.2w/v%以上であることがより好ましく、0.3w/v%以上であることがさらに好ましく、0.4w/v%以上であることがさらにより好ましい。前記炭酸塩の濃度の上限としては、0.80w/v%以下であることが好ましく、0.7w/v%以下であることがより好ましく、0.6w/v%以下であることがさらに好ましい。このような炭酸塩の濃度の好ましい範囲としては、例えば、0.15~0.8w/v%、0.2~0.7w/v%、0.3~0.7w/v%、0.4~0.6w/v%である。前記炭酸塩の濃度が前記下限未満であると、没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制効果が低下して没食子酸を効率的に得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる生成物(発酵物、茶発酵物、飲食品)の風味が著しく悪化する傾向にある。なお、本発明において、「w/v%」とは、全体積100mLに対する質量(g)の割合を示す。
【0039】
前記発酵ミックスに含有される前記茶抽出物の形態としては、乾燥粉末等の固体;濃縮物、希釈物等の水溶液;スラリー状のいずれも形態であってもよい。かかる茶抽出物の濃度としては、特に制限されないが、発酵ミックス全量の体積に対して、ガレート型カテキンの含有量で、0.005~1.0w/v%となる濃度であることが好ましく、0.01~0.70w/v%となる濃度であることがより好ましく、0.02~0.50w/v%となる濃度であることがさらに好ましい。前記茶抽出物の濃度が前記下限未満であると、基質量が少なくなって没食子酸を十分に得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制効果が低下して没食子酸を効率的に得ることが困難となる傾向にある。前記茶抽出物の濃度としては、前記ガレート型カテキンの含有量で、得られる生成物(発酵物、茶発酵物、飲食品)の風味の観点からは0.02~0.20w/v%となる濃度であることが特に好ましく、より没食子酸を効率的に得る観点からは0.10~0.50w/v%となる濃度であることが特に好ましい。なお、本発明において、前記発酵ミックスの溶媒に上記の一般に抽出した茶が含まれる場合、前記茶抽出物の濃度(ガレート型カテキンの含有量)には、かかる茶に由来するガレート型カテキンの含有量も含む。
【0040】
前記発酵ミックスに含有される前記乳酸菌としては、該乳酸菌を含有する乳酸菌組成物の形態であってもよい。本発明において、前記乳酸菌組成物には、乳酸菌の培養終了後の培養上清、培地成分等である培養物;前記培養物の濃縮物、希釈物、乾燥物、凍結物等が含まれ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、本発明の乳酸菌としては、前記乳酸菌組成物の形態、より好ましくは、培養物又は培養物の濃縮物の形態で前記発酵ミックスに含有されることが好ましい。また、前記発酵ミックスに含有される前記乳酸菌としては、適宜公知の方法で賦活培養した乳酸菌又は乳酸菌組成物を用いてもよい。
【0041】
前記発酵ミックスにおける前記乳酸菌の濃度としては、特に制限されないが、発酵ミックス全量の体積に対して、乳酸菌数換算で、1.0×108~1.0×1010cfu/mLであることが好ましく、5.0×108~1.0×1010cfu/mLであることがより好ましい。前記乳酸菌の濃度が前記下限未満であると、反応量が少なくなって没食子酸を十分に得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、炭酸塩による没食子酸脱炭酸酵素活性の抑制効果が低下して没食子酸を効率的に得ることが困難となる傾向にある。また、前記乳酸菌の濃度としては、得られる生成物(発酵物、茶発酵物、飲食品)の風味の観点からは5.0×108~1.0×109cfu/mLであることが特に好ましく、より没食子酸を効率的に得る観点からは1.0×109~5.0×109cfu/mLであることが特に好ましい。
【0042】
また、前記発酵ミックスのpHとしては、前記乳酸菌の生育条件、前記タンナーゼ活性及び前記没食子酸脱炭酸酵素活性の至適条件、前記発酵ミックスの量等に応じて適宜選択することができるが、例えば、pH4.8~8.3であることが好ましく、pH5.3~7.8であることがより好ましい。前記pHの範囲が前記範囲を外れると、タンナーゼ活性が低下して得られる没食子酸量が減少する傾向にある。
【0043】
前記発酵ミックスとしては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前記炭酸塩、前記茶抽出物、前記乳酸菌、及び前記溶媒の他に、さらにその他成分を含有していてもよく、例えば、糖類、糖アルコール類、ミネラル類、ビタミン類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸類、有機酸、pH調整剤のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含有していてよい。
【0044】
本発明の没食子酸の製造方法及び茶発酵物の製造方法においては、次いで、前記発酵ミックス中で前記茶抽出物を前記乳酸菌により発酵させて、該発酵ミックス中に没食子酸を生成、蓄積させる。前記発酵の方法としては、前記乳酸菌の生育条件、前記タンナーゼ活性及び前記没食子酸脱炭酸酵素活性の至適条件、前記発酵ミックスの量等に応じて適宜選択することができ、特に制限されないが、例えば、温度25~40℃、より好ましくは30~37℃において、好気条件下で、12~72時間、より好ましくは18~48時間、前記発酵ミックスを静置又は撹拌(好ましくは、静置)することが好ましい。また、好気条件の代わりに、窒素通気条件下での発酵を採用することもできる。
【0045】
前記発酵により、前記発酵後の発酵ミックス(発酵物)中に没食子酸を得ることができる。得られた没食子酸は、必要に応じて、前記発酵物の上清からこれを精製して採取することができる。前記採取の方法としては、適宜公知の方法を採用することができ、特に制限されず、例えば、酢酸エチル等の有機溶媒によって単離する方法、イオン交換樹脂を用いる方法、結晶化法、沈殿法等の方法を単独で又は組み合わせた方法が挙げられる。
【0046】
(茶発酵物)
また、前記発酵後の発酵ミックス(発酵物)は、そのまま、又は必要に応じて濃縮、希釈、乾燥、若しくは凍結等することにより、本発明の茶発酵物とすることができる。また、前記発酵物における乳酸菌を破砕若しくは加熱処理等して、又は必要に応じてこれを濃縮、希釈、乾燥、若しくは凍結等することにより、本発明の茶発酵物とすることができる。したがって、本発明の茶発酵物は、生成された没食子酸を含有する。また、本発明の茶発酵物としては、前記炭酸塩と、前記乳酸菌、前記乳酸菌組成物、及びこれらの処理物からなる群から選択される少なくとも1種と、没食子酸とを含有することが好ましい。本発明において、前記乳酸菌及び乳酸菌組成物の処理物には、上記の乳酸菌又は乳酸菌組成物の破砕物及び加熱処理物、これらの濃縮物、希釈物、乾燥物、凍結物等が含まれ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。また、本発明の茶発酵物としては、前記茶抽出物及び/又は前記発酵ミックスに必要に応じて含有される上記のその他成分のうちの1種又は2種以上をさらに含有していてもよい。
【0047】
本発明の茶発酵物において、前記炭酸塩の濃度は、前記発酵ミックスにおける濃度に相当する。また、本発明の茶発酵物において、前記乳酸菌、前記乳酸菌組成物、及びこれらの処理物の濃度は、前記発酵ミックスにおける乳酸菌濃度及び発酵の条件に対応する。また、本発明の茶発酵物において、没食子酸の濃度は、特に限定されないが、ピロガロールの含有量が、該没食子酸の含有量100質量部に対して、50質量部以下となる量(没食子酸の含有量/ピロガロールの含有量が2以上)であることが好ましく、45質量部以下となる量(没食子酸の含有量/ピロガロールの含有量が2.2以上)であることがより好ましく、30質量部以下となる量(没食子酸の含有量/ピロガロールの含有量が3.3以上)であることがさらに好ましい。本発明によれば、前記没食子酸脱炭酸酵素活性のみが抑制されるため、このようにピロガロールの生成が十分に抑制され、かつ、没食子酸を十分に含有量する茶発酵物を効率的に製造することができる。
【0048】
(飲食品等)
本発明の茶発酵物には上記のように没食子酸が含有されるため、飲食品の成分として好適に利用することができる。また、医薬品、化成品、化粧品等の有効成分としても利用することができる。本発明の茶発酵物を含有させることができる飲食品としては、特に制限されず、例えば、一般食品、機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品等が挙げられ、より具体的には、飲料(茶類、炭酸飲料、ココア、コーヒー、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳飲料、果汁・野菜汁飲料等)、加工食品(チョコレート、ガム、グミ、ゼリー等)、乳製品、サプリメント等が挙げられる。
【0049】
本発明の茶発酵物を含有する飲食品において、前記茶発酵物の濃度は特に制限されず、前記飲食品の目的及び形態に応じて適宜調整することができる。
【0050】
本発明の茶発酵物を含有する飲食品としては、他に、飲食品に含有させることが可能な各種成分をさらに含有してもよい。このような成分としては、特に制限されず、例えば、水、糖類、糖アルコール類、ミネラル類、ビタミン類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸類、有機酸、pH調整剤、澱粉及び加工澱粉、食物繊維、果実・野菜及びその加工品、動物及び植物生薬エキス、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン等)、油脂、増粘剤、乳化剤、溶剤、界面活性剤、ゲル化剤、安定剤、緩衝剤、懸濁化剤、粘稠剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、保存料、着色料、香料、矯味剤、甘味剤等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で含有していても2種以上を組み合わせて含有していてもよい。また、前記飲食品等においては、その製品において没食子酸によりもたらされる様々な作用・効能(例えば、抗酸化作用、食後血中中性脂肪の上昇抑制作用、血糖値の上昇抑制作用等)が表示されていてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<乳酸菌>
以下の活性測定及び各調製例においては、乳酸菌1~5として、それぞれ下記の乳酸菌株:
乳酸菌1:ラクトバチルス・ペントーサス(L.pentosus)OLL203984株(受託番号:NITE BP-01988)、
乳酸菌2:ラクトバチルス・ペントーサス(L.pentosus)OLL203982株(受託番号:NITE BP-01987)、
乳酸菌3:ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum;IFO3074)、
乳酸菌4:ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum;NCIMB11974T)、及び
乳酸菌5:ラクトバチルス・ファーメンタム(L.fermentum;NRIC1752T)
を用いた。乳酸菌1~2は本発明の出願人が分離した菌株であり、乳酸菌3~5は各菌株ライブラリーから入手した菌株である。
【0053】
<活性測定>
〔タンナーゼ活性試験〕
乳酸菌1~5のタンナーゼ活性の強さを、下記のNishitani Y.ら、2003年、Journal of Microbiological Methods 54、p.281-284に記載の方法に準じた方法によって定量した。
【0054】
すなわち、先ず、Aspergillus ficuum(シグマ・アルドリッチ社製)を33mMリン酸二水素ナトリウム(pH5.0)に溶解し、検量線作成用に0.78~12800mUの酵素溶液を調製した。調製した各酵素溶液から50μLずつ採取し、それぞれ予め用意しておいた基質溶液(5mM没食子酸メチル(シグマ・アルドリッチ社製)を含有する33mMリン酸水素二ナトリウム水溶液(pH5.0))5mLに加えて混合した。これを30℃で24時間静置して反応させた後、各100μLを採取してエッペンドルフチューブに移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.6)を等量加えて、37℃で2時間静置した。静置後、よく撹拌し、8,000×gで20秒間遠心分離した。遠心分離後の上清を100μL採取して96穴マイクロプレートに移し、波長450nmにおける吸光度を測定し、得られた吸光度から検量線(タンナーゼ活性強さ-吸光度)を作成した。
【0055】
次いで、乳酸菌1~5を、それぞれ、MRS寒天培地において、37℃、嫌気条件下で24時間培養した後、滅菌コンラージで掻き取り、0.45μmフィルターでろ過滅菌した上記基質溶液に懸濁させ、O.D.660nmでの濁度が0.4になるように調製し、各試験溶液とした。次いで、前記試験溶液をそれぞれ1mL採取し、生理食塩水で段階希釈後、MRS寒天培地に塗沫した。37℃において、嫌気条件で48時間培養後、出現したコロニー数を計測し、生菌数を測定した。また、各試験溶液の残りについては、それぞれ、30℃において、好気条件で24時間静置して反応させた後、1mLを採取してエッペンドルフチューブに移し、8,000×gで5分間遠心分離した。遠心分離後の上清を100μL採取してエッペンドルフチューブに移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.6)を等量加えて、37℃で2時間静置した。静置後、よく撹拌し、8,000×gで20秒間遠心分離した後の上清を100μL採取して96穴マイクロプレートに移し、波長450nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から前記検量線に基づいてタンナーゼ活性の強さ(mU/mL)を求めた。
【0056】
上記タンナーゼ活性試験の結果、乳酸菌1のタンナーゼ活性の強さは、77.98mU/mL、生菌数は8.4×107cfu/mLであり、生菌数1×107cfuあたりのタンナーゼ活性の強さは9.28mUであった。乳酸菌1~5のタンナーゼ活性の強さ(活性(mU/mL))、生菌数(cfu/mL)、及び生菌数あたりのタンナーゼ活性の強さ(活性/生菌数(mU/107cfu))を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0057】
【0058】
〔没食子酸脱炭酸酵素活性試験〕
乳酸菌1~5の没食子酸脱炭酸酵素活性の強さを、下記の特開平11-563588号公報に記載の方法に準じた方法によって測定した。
【0059】
すなわち、先ず、乳酸菌1~5を、それぞれ、没食子酸を0.3g/L含有するMRS液体培地20mLにおいて、37℃、嫌気条件下で24時間培養した後、3000×gで10分間遠心分離して上清を除去した。遠心分離後のペレットに0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)8mLを加えて良く懸濁し、各試験溶液とした。次いで、前記試験溶液をそれぞれ1mL採取し、生理食塩水で段階希釈後、MRS寒天培地に塗沫した。37℃において、嫌気条件で48時間培養後、出現したコロニー数を計測し、生菌数を測定した。また、各試験溶液の残りについては、それぞれ、各0.5mL採取して小試験管に移した後、0.45μmフィルターでろ過滅菌した0.1Mアスコルビン酸水溶液1mL、及び0.45μmフィルターでろ過滅菌した基質溶液(80mM没食子酸を含有する0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.0))0.5mLを加えて混合した。これを30℃において、好気条件で30分間静置して反応させた後、氷冷し、3,000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後の上清について、HPLC(HPLC(型番):LC-20AT(株式会社島津製作所製)、カラム:COSMOSIL cholester(4.6mm I.D.×150mm)(ナカライテスク株式会社製)、移動相:移動相A;アセトニトリル:20mmol/Lリン酸緩衝液(pH2.5)=1:9、移動相B;アセトニトリル:20mmol/Lリン酸緩衝液(pH2.5)=3:7、グラジエント分析条件:0→20分で、移動相A;100%→0%、移動相B;0%→100%、流速:1.0mL/min、検出波長:200nm、試料注入量:10μL)により分析を行い、測定されたピロガロールの生成量から、1分間に1μmolのピロガロールを生成するのに用いられる酵素量を1Uとして、没食子酸脱炭酸酵素活性の強さ(mU/mL)を求めた。
【0060】
上記没食子酸脱炭酸酵素活性試験の結果、乳酸菌1の没食子酸脱炭酸酵素活性の強さは、466mU/mL、生菌数は1.7×109cfu/mLであり、生菌数1×107cfuあたりの没食子酸脱炭酸酵素活性の強さは2.74mUであった。乳酸菌1~5の没食子酸脱炭酸酵素活性の強さ(活性(mU/mL))、生菌数(cfu/mL)、及び生菌数あたりの没食子酸脱炭酸酵素活性の強さ(活性/生菌数(mU/107cfu))を、それぞれ、下記の表2に示す。
【0061】
【0062】
<調製例1>
(実施例1)
〔乳酸菌組成物〕
乳酸菌1を、ホエイペプチド、酵母エキス、グルコース、及び硫酸アンモニウムを含有する液体培地(pH4~6)を用いて、37℃で中和培養した。培養後の培地を遠心分離により濃縮し、凍結したものを以下の乳酸菌組成物として用いた。
【0063】
〔発酵物〕
炭酸水素ナトリウム(重曹)、茶抽出物(緑茶葉熱水抽出物)、上記の乳酸菌組成物、及び水を混合し、炭酸水素ナトリウムの含有量が0.2w/v%、前記茶抽出物の含有量がガレート型カテキンの含有量で0.18w/v%、前記乳酸菌組成物の含有量が乳酸菌数換算で1.2×109cfu/mLである発酵ミックスを65mL調製した。次いで、前記発酵ミックスを30℃、好気条件において30時間静置して発酵させた。
【0064】
〔没食子酸濃度測定〕
上記発酵後の発酵物(茶発酵物)を3,000×gで10分間遠心分離して得られた上清について、上記没食子酸脱炭酸酵素活性試験におけるピロガロールのHPLCによる測定と同様のHPLC条件で、前記発酵物における没食子酸の濃度(μg/mL)を求めた。ただし、HPLC検出波長は280nmとした。
【0065】
〔ピロガロール濃度測定〕
上記発酵後の発酵物を0.5mL採取して小試験管に移した後、0.45μmフィルターでろ過滅菌した0.1Mアスコルビン酸水溶液1mL、及び0.45μmフィルターでろ過滅菌した基質溶液(80mM没食子酸を含有する0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.0))0.5mLを加えて混合した。これを30℃において、好気条件で30分間静置して反応させた後、氷冷し、3,000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後の上清について、上記没食子酸脱炭酸酵素活性試験と同様にしてHPLCにより分析を行い、前記発酵物におけるピロガロール濃度(μg/mL)を求めた。
【0066】
(実施例2)
前記発酵ミックスにおける炭酸水素ナトリウムの含有量を0.4w/v%としたこと以外は実施例1と同様にして発酵させ、発酵後の発酵物について、実施例1と同様にして没食子酸濃度(μg/mL)及びピロガロール濃度(μg/mL)を求めた。
【0067】
(比較例1)
前記発酵ミックスに炭酸水素ナトリウムを添加しなかった(炭酸水素ナトリウムの含有量:0w/v%)こと以外は実施例1と同様にして発酵させ、発酵後の発酵物について、実施例1と同様にして没食子酸濃度(μg/mL)及びピロガロール濃度(μg/mL)を求めた。
【0068】
実施例1~2及び比較例1で得られた各発酵物における没食子酸濃度(μg/mL)及びピロガロール濃度(μg/mL)を
図1に示す。上記に示したように、乳酸菌1は、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性をいずれも十分に有していることが確認されたが、
図1に示したように、炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)存在下においてかかる乳酸菌により茶抽出物を発酵させると、没食子酸脱炭酸酵素活性、すなわちピロガロールの生成のみが十分に抑制されて、没食子酸を効率的に得られることが確認された。
【0069】
<調製例2>
〔乳酸菌組成物〕
乳酸菌1~4について、それぞれ、MRS培地において、37℃、嫌気条件下で18時間の賦活培養を2回実施した後、培養液を遠心分離により濃縮し、0.85w/v%生理食塩水で1回洗浄後、滅菌水で1×1010cfu/mLに調製した組成物を、乳酸菌組成物1~4とした。また、乳酸菌1~4に代えて乳酸菌5を用いたこと以外は同様にして調製した組成物を、乳酸菌組成物5とした。
【0070】
〔発酵物〕
炭酸水素ナトリウム(重曹)、茶抽出物(緑茶葉熱水抽出物)、上記の乳酸菌組成物1~4、及び水を混合し、炭酸水素ナトリウムの含有量が0.2、0.4、又は0.6w/v%、前記茶抽出物の含有量がガレート型カテキンの含有量で0.09w/v%、前記各乳酸菌組成物の含有量が乳酸菌数換算で6.7×108cfu/mLである発酵ミックスを、それぞれ、5mL調製した。次いで、前記発酵ミックスを30℃、好気条件において30時間静置して発酵させた後、110℃で1分間加熱して殺菌し、発酵物(茶発酵物)(実施例3~14)をそれぞれ得た。
【0071】
また、乳酸菌組成物1~4に代えて上記の乳酸菌組成物5を用いたこと以外は同様にして、発酵物(茶発酵物)(比較例7~9)をそれぞれ得た。さらに、前記発酵ミックスに炭酸水素ナトリウムを添加しなかった(炭酸水素ナトリウムの含有量:0w/v%)こと以外は上記と同様にして、発酵物(茶発酵物)(比較例2~6)をそれぞれ得た。
【0072】
〔没食子酸濃度測定〕
上記で得られた各発酵物を3,000×gで10分間遠心分離して得られた上清について、上記没食子酸脱炭酸酵素活性試験におけるピロガロールのHPLCによる測定と同様のHPLC条件で、前記発酵物における没食子酸の濃度(μg/mL)を求めた。ただし、HPLC検出波長は280nmとした。
【0073】
〔ピロガロール濃度測定〕
上記で得られた各発酵物を0.5mL採取して小試験管に移した後、0.45μmフィルターでろ過滅菌した0.1Mアスコルビン酸水溶液1mL、及び0.45μmフィルターでろ過滅菌した基質溶液(80mM没食子酸を含有する0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.0))0.5mLを加えて混合した。これを30℃において、好気条件で30分間静置して反応させた後、氷冷し、3,000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後の上清について、上記没食子酸脱炭酸酵素活性試験と同様にしてHPLCにより分析を行い、前記発酵物におけるピロガロール濃度(μg/mL)を求めた。
【0074】
各実施例及び比較例における発酵ミックス中の炭酸水素ナトリウム濃度(重曹(w/v%))、得られた各発酵物における没食子酸濃度(没食子酸(GA)(μg/mL))、ピロガロール濃度(ピロガロール(PG)(μg/mL))、及びこれらの比(GA/PG)を、それぞれ、下記の表3に示す。
【0075】
なお、発酵物における没食子酸濃度とピロガロール濃度との比(GA/PG)は、0.5以上でピロガロールの生成が十分に抑制されていると評価でき、2.0以上でピロガロールの生成のみが特に抑制されていると評価できる。
【0076】
【0077】
上記に示したように、乳酸菌1~4は、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性をいずれも十分に有していることが確認されたが、表3に示したように、炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)存在下において茶抽出物を発酵させると、没食子酸脱炭酸酵素活性、すなわちピロガロールの生成のみが十分に抑制されて、没食子酸を効率的に得られることが確認された。また、前記炭酸塩をより高い濃度(例えば、0.2w/v%を超える濃度)とすると、ピロガロールの生成がより抑制され、没食子酸をさらに効率的に得られることが確認された。なお、表3において、タンナーゼ活性を有さない乳酸菌5を用いた発酵物においても若干の没食子酸の生成が認められたが、これは、主に発酵物の殺菌時にガレート型カテキンが炭酸水素ナトリウムと反応して加水分解されたことによって若干量が生じたものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、タンナーゼ活性及び没食子酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌による発酵によって没食子酸を効率的に得ることができる没食子酸の製造方法を提供することが可能となる。また、没食子酸を含有する茶発酵物の製造方法、これらの方法に用いる乳酸菌及び乳酸菌組成物、並びに、それによって得られる茶発酵物及び飲食品を提供することも可能となる。
【受託番号】
【0079】
1.
(1)識別の表示:Lactobacillus pentosus OLL203984
(2)受託番号:NITE BP-01988
(3)原受託日:2015年1月5日
(4)寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
2.
(1)識別の表示:Lactobacillus pentosus OLL203982
(2)受託番号:NITE BP-01987
(3)原受託日:2015年1月5日
(4)寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター