(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】エレクトロスラグ再溶解法のためのプリメルトフラックス
(51)【国際特許分類】
B22D 23/10 20060101AFI20231115BHJP
C22B 9/00 20060101ALI20231115BHJP
C22B 9/18 20060101ALI20231115BHJP
C22B 9/10 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B22D23/10 590
C22B9/00
C22B9/18 F
C22B9/10 101
(21)【出願番号】P 2019149816
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平田 慧
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
(72)【発明者】
【氏名】小山 厚徳
(72)【発明者】
【氏名】松吉 瑞治
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-193456(JP,A)
【文献】特開2008-231494(JP,A)
【文献】特開2008-231495(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102304624(CN,A)
【文献】特開2007-302954(JP,A)
【文献】特開昭56-044725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 23/10
C22B 9/00
C22B 9/10
C22B 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaF
2
結晶相及びCa
12
Al
14
O
32
F
2
結晶相を含んでおり、CaF
2
結晶相及びCa
12
Al
14
O
32
F
2
結晶相の合計含有率が90.0質量%以上であり、
CaO結晶相の含有率が1.0質量%以下である、エレクトロスラグ再溶解法のためのプリメルトフラックス。
【請求項2】
CaF
2結晶相の含有率が30量%以上50質量%以下であり、Ca
12Al
14O
32F
2結晶相の含有率が50質量%以上70質量%以下である
請求項1に記載のプリメルトフラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ再溶解法(ESR)において使用されるプリメルトフラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスラグ再溶解法は、積層凝固法の1つである。エレクトロスラグ再溶解法では、電気炉等で得られた母材が鋳型に装入される。この母材が電極として用いられ、溶融スラグに通電がなされる。この溶融スラグの抵抗熱(ジュール熱)により、電極自体が溶融する。溶融金属は、液滴となってスラグ中を通過する。この通過により、溶融金属は精錬される。溶融金属は、鋳型内で順次凝固する。これにより、偏析の少ない鋳塊が得られる。この鋳塊は、高い品質が要求される部材の材料として使用される。エレクトロスラグ再溶解法の一例が、特開2009-167511公報に開示されている。
【0003】
近年のエレクトロスラグ再溶解法では、いわゆるコールドスタート法が主に採用されている。コールドスタート法では、鋳型内にフラックス(固体)が投入される。このフラックスがアーク熱で溶解されて、スラグが得られる。
【0004】
特開昭63-36966号公報には、エレクトロスラグ再溶解法に使用されるプリメルトフラックスが開示されている。このプリメルトフラックスは、複数種の原料フラックスが溶融及び混合され、凝固させられて得られる。プリメルトフラックスでは、その特性が事前に調整されている。従ってこのプリメルトフラックスは、コールドスタート法に特に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-167511公報
【文献】特開昭63-36966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラックスには、通電開始直後に安定して溶解する特性が必要である。フラックスにはさらに、鋳塊の白点割れを生じさせにくいことが必要である。白点割れは、鋳塊の水素脆化によって生じる。この水素は、フラックス中の水分に起因する。従ってフラックスには、吸湿抑制性が必要である。
【0007】
本発明の目的は、溶解安定性及び吸湿抑制性に優れた、エレクトロスラグ再溶解法のためのプリメルトフラックスの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプリメルトフラックスでは、CaO結晶相の含有率は、1.0質量%以下である。
【0009】
このプリメルトフラックスが、CaF2結晶相及びCa12Al14O32F2結晶相を含んでもよい。好ましくは、CaF2結晶相及びCa12Al14O32F2結晶相の合計含有率は、90.0質量%以上である。
【0010】
好ましくは、CaF2結晶相の含有率は、30質量%以上50質量%以下である。好ましくは、Ca12Al14O32F2結晶相の含有率は、50質量%以上70質量%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るプリメルトフラックスは、溶解安定性に優れる。さらにこのフラックスは、吸湿抑制性に優れる。このプリメルトフラックスが用いられたエレクトロスラグ再溶解法では、鋳塊の白点割れが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るプリメルトフラックスが用いられたエレクトロスラグ再溶解法のための設備が示された概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
図1に示された製造設備は、鋳型2及び電源4を有している。鋳型2は、定盤6を有している。鋳型2には、消耗電極8が装入される。この消耗電極8は、エレクトロスラグ再溶解法によって得られる鋳塊の、母材である。この母材8は、電気炉等で製作されうる。母材8と定盤6との間に電源4によって電圧がかけられる。これにより、母材8と定盤6との間が通電する。通電によりスラグ10においてジュール発熱が生じる。これにより母材8が溶融し、液滴となる。液滴は、スラグ10中を降下する。このとき液滴は、スラグ10によって精錬される。具体的には、非金属介在物等が、液滴から除去される。液滴からは、固相12、固液共存相14及び液相16が形成される。固相12が徐々に成長し、鋳塊が得られる。スラグ10による精錬を経ているので、この鋳塊には不純物が少ない。固相12が徐々に成長して鋳塊が得られるので、この鋳塊には偏析が少ない。この鋳塊は高品質である。
【0015】
スラグ(液体)は、プリメルトフラックス(固体)が溶融することで得られる。このプリメルトフラックスは、組成物である。典型的には、この組成物は、CaO結晶相、CaF2結晶相及びCa12Al14O32F2結晶相(Ca6Al7O16F結晶相)を含んでいる。この組成物がさらに、MgO結晶相又はSiO2結晶相を含んでもよい。プリメルトフラックスが、CaF2結晶相を含まない組成を有してもよい。プリメルトフラックスが、Ca12Al14O32F2結晶相を含まない組成を有してもよい。
【0016】
CaO結晶相は、結晶質である。このCaO結晶相の融点は、2572℃である。一方、CaF2結晶相の融点は1418℃であり、Ca12Al14O32F2結晶相の融点は1371℃である。CaO結晶相の融点は、高い。CaO結晶相を多量に含むプリメルトフラックスがコールドスタート法に使用されると、高温に達しないかぎり、プリメルトフラックスは完全には溶解しない。このプリメルトフラックスは、溶解安定性に劣る。
【0017】
CaF2結晶相及びCa12Al14O32F2結晶相に比べ、CaO結晶相は吸湿しやすい。CaO結晶相を多量に含むプリメルトフラックスは、水分を含みやすい。このプリメルトフラックスから得られたスラグが用いられたエレクトロスラグ再溶解法では、水分に起因した水素の影響で、鋳塊に白点割れが生じやすい。
【0018】
溶解安定性及び白点割れ抑制の観点から、プリメルトフラックスにおけるCaO結晶相の含有率は1.0質量%以下が好ましく、0.6質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下が特に好ましい。プリメルトフラックスが、CaO結晶相を実質的に含まない組成を有してもよい。
【0019】
プリメルトフラックスにおけるCaF2結晶相及びCa12Al14O32F2結晶相の合計含有率は、90.0質量%以上が好ましく、95.0質量%以上がより好ましく、96.0質量%以上が特に好ましい。
【0020】
プリメルトフラックスにおけるCaF2結晶相の含有率は、30質量%以上50質量%以下が好ましく、35質量%以上45質量%以下が特に好ましい。プリメルトフラックスにおけるCa12Al14O32F2結晶相の含有率は、50質量%以上70質量%以下が好ましく、55質量%以上65質量%以下が特に好ましい。
【0021】
プリメルトフラックスがMgO結晶相又はSiO2結晶相を含む場合、MgO結晶相及びSiO2結晶相の合計含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0022】
典型的には、このプリメルトフラックスの出発原料は、CaOフラックス、CaF2フラックス及びAl2O3フラックスである。これらのフラックスが溶融され混合されて、混合物が得られる。この混合物が凝固して、プリメルトフラックスが得られる。
【0023】
好ましい出発原料の組成は、下記の通りである。
CaO結晶相:15質量%以上30質量%以下
CaF2結晶相:30質量%以上45質量%以下
Al2O3結晶相:30質量%以上45質量%以下
【0024】
出発原料が、MgO結晶相又はSiO2結晶相を含んでもよい。この場合のMgO結晶相及びSiO2結晶相の合計含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0025】
本発明に係るプリメルトフラックス製造方法は、
(1)15質量%以上30質量%以下のCaO結晶相、30質量%以上45質量%以下のCaF2結晶相、及び30質量%以上45質量%以下のAl2O3結晶相を含むフラックス原料を準備する工程
(2)このフラックス原料を溶融して混合物を得る工程
並びに
(3)この混合物を凝固させる工程
を含む。この製造方法により、高品質なプリメルトフラックスが得られうる。
【0026】
本発明に係る金属製品製造方法は、
(1)母材を準備する工程、
(2)CaO結晶相の含有率が1.0質量%以下であるプリメルトフラックスから得られたスラグが用いられたエレクトロスラグ再溶解法により、上記母材から鋳塊を得る工程
及び
(3)上記鋳塊に塑性加工を施す工程
を含む。この製造方法により、高品質な金属製品が得られうる。
【0027】
このプリメルトフラックスが用いられたエレクトロスラグ再溶解法により、様々な材質の鋳塊が得られうる。鋳塊の典型的な材質として、工具鋼及び機械構造用合金鋼が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0029】
[実施例1]
25質量%のCaO結晶相、45質量%のCaF2結晶相及び30質量%のAl2O3結晶相含むフラックス原料を溶融及び混合して、実施例1のプリメルトフラックスを得た。このプリメルトフラックスの主成分は、CaF2結晶相及びCa12Al14O32F2結晶相であった。このプリメルトフラックスにおけるCaO結晶相の含有率は、0.4質量%であった。
【0030】
[実施例2-8並びに比較例1及び2]
溶融温度及び混合条件を変更した他は実施例1と同様にして、実施例2-8並びに比較例1及び2のプリメルトフラックスを得た。このプリメルトフラックスにおけるCaO結晶相の含有率が、下記の表1に示されている。
【0031】
[溶解試験]
5gのプリメルトフラックスを円柱状に成形し、試験片を得た。この試験片の、直径は15mmであり、高さは10mmであった。この試験片を炉に投入し、炉の温度を1℃/minの速度で高めた。試験片を目視で観察し、溶解が完了したときの温度を測定した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0032】
[ESR]
下記の条件下で、エレクトロスラグ再溶解法による鋳塊の製造を行った。
母材の質量:2t以上15t以下
鋼種:工具鋼又は機械構造用合金鋼
プリメルトフラックスの投入量:90kg以上350kg以下
300回のエレクトロスラグ再溶解法において生じた、プリメルトフラックスの溶解不良による工程の停止、及び鋳塊の白点割れの回数をカウントした。この結果が、下記の表1に示されている。
【0033】
【0034】
表1の評価結果より、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るプリメルトフラックスは、種々の鋼塊の製造に適している。
【符号の説明】
【0036】
2・・・鋳型
4・・・電源
6・・・定盤
8・・・母材(消耗電極)
10・・・スラグ
12・・・固相
14・・・固液共存相
16・・・液相