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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】車両試験システム及び車両試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20231115BHJP
   G01M 15/10 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
G01M17/007 A
G01M15/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020557830
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2019046635
(87)【国際公開番号】W WO2020111192
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2018221959
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】古川 和樹
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-222679(JP,A)
【文献】特開2005-351730(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130507(WO,A1)
【文献】特開平10-232187(JP,A)
【文献】特開2008-209122(JP,A)
【文献】特開2007-038782(JP,A)
【文献】特開平08-082579(JP,A)
【文献】独国特許発明第102008009378(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
G01M 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両又は車両の一部である供試体をテストベンチ上で試験する車両試験システムであって、
供試体の一部を撮像するカメラと、
該カメラによって撮像された画像に基づいて、前記供試体の試験を制御する制御装置とを具備し、
前記制御装置が、前記画像に基づいて供試体の状態を認識する認識部と、
前記認識部によって認識された前記供試体の状態が所定の状態になったときに、所定の試験を制御する試験制御部とを具備するものであり、
前記カメラが、前記供試体の状態を該供試体の運転者に対して表示する状態表示部を撮像するものである車両試験システム。
【請求項2】
前記テストベンチ上で前記供試体を自動運転する自動運転装置をさらに備え、
前記試験制御部は、前記認識部の認識結果に応じて、前記自動運転装置を制御するものである請求項1記載の車両試験システム。
【請求項3】
前記供試体から排出される排ガスを分析する分析装置をさらに備え、
前記試験制御部は、前記認識部の認識結果に応じて、前記分析装置を制御するものである、請求項1又は2記載の車両試験システム。
【請求項4】
前記認識部が、前記カメラによって撮像された画像の変化を検出し、検出された画像の変化に基づいて、前記供試体の状態を判断するものである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項5】
前記制御装置が、前記供試体の状態に関連付けられた画像データを予め格納するデータ格納部をさらに具備し、
前記カメラが、前記状態表示部が全灯のタイミングで該状態表示部の画像を撮像し、
前記認識部が、前記カメラによって撮像された全灯状態の前記状態表示部の画像から、前記データ格納部に格納された前記画像データを探すことで、前記状態表示部における前記画像データの位置を認識する、請求項1乃至のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項6】
前記認識部が、前記カメラによって撮像された画像のうち、位置決めした前記画像データの部分の画像の変化に基づいて、前記供試体の状態を認識するものである、請求項記載の車両試験システム。
【請求項7】
前記認識部が、前記供試体の状態として、前記供試体のバッテリー残量を認識するものであり、
前記試験制御部が、前記バッテリー残量が所定の値に達した場合に、所定の試験を制御するものである請求項1乃至のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項8】
前記認識部が、前記供試体の状態として、前記供試体の主電源のオン/オフ状況を認識するものであり、
前記試験制御部が、前記供試体の主電源がオンである場合に、前記供試体の車両試験を制御するものである請求項1乃至のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項9】
車両又は車両の一部である供試体をテストベンチ上で試験する車両試験方法であって、
供試体の一部を撮像し、
撮像された画像に基づいて車両試験を制御する車両試験方法であって、
前記画像が、前記供試体の状態を該供試体の運転者に対して表示する状態表示部を撮像したものであり、
前記画像に基づいて供試体の状態を認識し、
認識された前記供試体の状態が所定の状態になったときに、所定の試験を制御することを特徴とする車両試験方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供試体である車両等の模擬走行試験等を行うために用いられる車両試験システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両試験の種類によっては、例えば、各供試体のバッテリー残量や冷却水の水温等の様々な状態を一律に揃えた条件下で排ガス分析等の試験を行うことがある。このような場合には、例えば、供試体がある特定の状態になった時点で試験を開始したり、試験条件を変更したりする必要がある。
【0003】
前述したように、供試体の状態を一律に揃え、所望の状態で車両試験を行うためには、供試体の状態についての情報を得る必要がある。この方法としては、供試体に搭載されたECU(電子制御装置)からデータを取得することが考えられる。
【0004】
しかしながら、前記ECUにアクセスするためには複雑な作業が必要である。また、近年ではハッキング対策等のために自動車メーカのみが前記ECUにアクセスできるように設定されていることもある。
【0005】
そこで、従来は、ユーザーである人が直接メーターパネルなどの表示を確認して、供試体の状態を確認しながら車両試験を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-049353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、車両試験の精度を保ちつつ、車両試験におけるユーザーの負担を低減可能な車両試験システムを提供することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る車両試験システムは、供試体の一部を撮像するカメラと、該カメラによって撮像された画像に基づいて車両試験を制御する制御装置とを具備するものである。
【0009】
このような車両試験システムによれば、前記カメラで撮像された前記供試体の画像に基づいて、車両試験を制御するようにしてあるので、ユーザーが前記供試体の状態を確認しながら車両試験を行う手間を省くことができる。
【0010】
前記制御装置が、前記画像に基づいて供試体の状態を認識する認識部と、前記認識部によって認識された前記供試体の状態が所定の状態になったときに、所定の試験を開始する試験制御部とを具備するものであれば、供試体の状態に応じてユーザーが前記車両試験システムに試験開始等の操作をする手間を省くことができる。
【0011】
本発明の具体的な実施態様としては、前記制御装置が、予め供試体の状態に関連付けられた画像データを格納するデータ格納部を更に具備し、前記カメラが、前記状態表示部が全灯のタイミングで該状態表示部の画像を撮像し、前記認識部が、前記カメラによって撮像された全灯状態の前記状態表示部の画像から、前記データ格納部に格納された前記画像データを探すことで、前記状態表示部における前記画像データの位置を認識するものを挙げることができる。
【0012】
前記カメラが、前記供試体の状態を該供試体の運転車に対して表示する状態表示部を撮像するものであれば、該状態表示部には、タコメーターやスピードメーター、燃料やバッテリーの残量計、冷却水の温度計などの各種計器が揃っているので、他の部分を撮像する場合に比べて、前記認識部によって供試体の状態をより詳しく認識することができる。
【0013】
本発明の具体的な実施態様としては、前記認識部が、前記供試体の状態として前記供試体のバッテリー残量を認識するものであり、前記試験制御部が、前記バッテリー残量が所定の値に達した場合に、所定の試験を開始するものを挙げることができる。供試体がハイブリッド車等である場合には、車両試験において供試体のバッテリー残量が重要なパラメータとして使用されることがある。そのため、車両試験の種類によっては、各車両の状態を一律にそろえてから、車両試験をする必要があるからである。
【0014】
ところで、供試体がハイブリッド車等であり、バッテリーを使用して走行するモードの場合には、エンジンが止まっていても供試体の主電源はオンになっている場合がある。
【0015】
特に、運転ロボット等の自動運転装置を使用して試験を行っている場合には、ユーザーが情報を与えない限り、供試体の主電源がオンになっているのかどうかを車両試験システムが判断できないので、車両試験の結果に異常が表れてしまうことがある。
【0016】
そこで、前記車両試験装置が、自動運転装置をさらに具備するものであり、前記認識部が、前記供試体の状態として、前記供試体の主電源のオン/オフ状況を認識し、前記試験制御部が、供試体の主電源がオンである場合に、前記供試体の車両試験を開始するものとすれば、このような問題の発生を防ぐことができる。
【0017】
前記認識部が、前記供試体の状態として前記供試体の異常を認識するものであり、前記制御部が、前記出力部から前記供試体の異常を認識した旨の信号を受信した場合に、前記自動運転装置を制御して前記供試体の走行を中止させるとともに、該供試体に対する車両試験を停止させるものとしても良い。このようにすることで、人が運転する場合に比べて異常に気が付きにくい自動運転の場合であっても、車両試験の安全性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ユーザーが供試体の状態を確認しながら車両試験を行う手間を省くことができる。
また、供試体の状態をより詳しく認識して、車両試験を行うことができるので、車両試験の精度や安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る車両試験システムの全体模式図。
図2】本実施形態における制御装置を示す摸式図。
図3】本実施形態における状態表示部の一例を示す摸式図。
図4】本実施形態における状態表示部の一例を示す摸式図。
【符号の説明】
【0020】
100・・・車両試験システム
2・・・自動運転装置
4・・・制御装置
5・・・カメラ
6・・・認識部
8・・・データ格納部
V・・・試験車両
D・・・状態表示部
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態に係る車両試験システム100について各図を参照しながら説明する。
【0022】
<本実施形態に係る車両試験システムの基本的な構成>
車両試験システム100は、図1に示すように、供試体である車両に対して負荷を与えるシャシダイナモメータ1と、シャシダイナモメータ1に載置された車両を運転する運転ロボット等の自動運転装置2と、車両から排出される排ガス等を分析する分析装置3と、これらシャシダイナモメータ1、自動運転装置2及び分析装置3を制御することによって車両試験を制御する制御装置4とを具備するものである。なお、シャシダイナモメータ1のことをテストベンチと呼ぶこともある。
【0023】
運転ロボットとは、車両のアクセル、ブレーキ、ハンドルの少なくとも1つ、又はそれらの組合せをロボットによって動かし、車両を運転するものである。また、自動運転装置2は、運転ロボットに限られず、制御信号を車両に与えて車両を運転するものであってもよい。
【0024】
制御装置4は、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信ポートなどからなるコンピュータ本体と、このコンピュータ本体に接続されたキーボード、マウスなどの入力手段及びディスプレイとからなるものである。 前記メモリに所定のプログラムをインストールすることによって、この制御装置4が、図2に示すように、シャシダイナモメータ1を制御するダイナモ制御部41と、自動運転装置2を制御する自動運転制御部42と、分析装置3を制御する分析制御部43と、これら各制御部を統括する試験制御部44等としての機能を担うようにしてある。
【0025】
<本実施形態に係る車両試験システムの基本的な制御方法>
車両試験システム100において、制御装置4が車両試験を制御する方法は、例えば、以下のようなものである。
【0026】
まず、ユーザーが車両試験システム100に対して、実施する車両試験の種類や条件等を選択して、試験を開始する旨の信号を入力する。このように選択された車両試験の種類や条件等によって、車両の状態と試験の条件とが予め関連づけられて試験制御部44に入力される。
【0027】
この車両試験開始の信号が入力されると、試験制御部44は、ユーザーが選択した車両試験の種類や条件に応じて、ダイナモ制御部41、自動運転制御部42、分析制御部43に信号を出力し、これら制御部を介して、シャシダイナモメータ1、自動運転装置2、分析装置3をそれぞれ作動させ、車両試験を制御する。
【0028】
車両試験の制御とは、車両の運転や、シャシダイナモメータ1による負荷制御、排ガス分析等の開始、終了、中断、条件の変更等に加えて、試験のやり直しや試験シーケンスの切り替え、制御モードの変更等の様々な操作を意味する。前記試験シーケンスとは、所定の車両試験の開始から終了までの前記車両試験システム100の一連の動作の流れのことである。
【0029】
<本実施形態に係る車両試験システムの特徴構成>
しかして、本実施形態に係る車両試験システム100は、車両の一部を撮像するカメラ5と、該カメラ5を制御するカメラ制御部6と、カメラ5によって撮像された画像を受信して認識し、この認識結果を試験制御部44に対して出力する認識部7とをさらに備えるものである。
【0030】
カメラ5は、運転者に対して該供試体の状態を表示する状態表示部Dを撮像するものであり、例えば、供試体の車内に設けられ、車両の運転席に座る運転者の視点と同じような位置に支持部材等を介して固定されている。
【0031】
状態表示部Dとは、例えば、図3に示すように、タコメーターTM、スピードメーターSM、バッテリー残量表示灯BR等を備えたメーターパネルMや、このメーターパネルMの外側に配置されている表示画面Oや、カーナビゲーションシステムの表示画面N等の車両情報を表示するものを含むものである。
【0032】
カメラ制御部6は、カメラ5の動作を制御するものであり、カメラ5の電源のオン/オフや、撮影の開始や終了などの信号をカメラ5に対して与えたり、カメラ5による撮影範囲やカメラ5の焦点等を制御したりするものである。
【0033】
認識部7は、カメラ5によって撮像された画像に基づいて車両の状態を認識するものである。具体的には、認識部7は、車両のメーターパネルM部分の画像と、予め与えられた既知データとに基づいて車両の状態を認識するものである。
【0034】
前述の既知データとして、カメラ5によって撮像されたメーターパネルMの画像のうち、どの位置のメーターや表示灯、警告灯の点灯状態を認識部7が認識すれば良いかという位置情報や、メーター、表示灯又は警告灯の点灯状態と車両の状態とを関連付ける状態認識情報などが、図2に示す、データ格納部8に格納されている。
【0035】
例えば、バッテリー残量に関する車両の状態を認識する場合には、図4に示すようなメーターパネルM中のバッテリー残量表示灯BRの位置情報、及びバッテリー残量表示灯BRの点灯状態とバッテリー残量値とを関連付けた状態認識情報がデータ格納部8に格納されている。
【0036】
この場合、状態認識情報は、例えば、予め撮像されたバッテリー残量表示灯BRの画像とこれらの画像を撮像した時点でのバッテリー残量とが関連付けて記憶されたものである。
【0037】
同様に、スピードメーターSMや、タコメーターTM、ガソリン残量計FR、水温計WT等についても、それぞれのメーターの位置情報、各メーターの画像とその画像が撮像されたときの車両の状態とが関連付けられたデータが記憶されている。
【0038】
また、例えば、水温異常警告灯、ガソリン残量警告灯、バッテリー警告灯、ATフルード警告灯、油圧警告灯、燃料フィルター警告灯、ABS警告灯、ハイブリッドシステム警告灯、エンジン異常警告灯、排気温度異常警告灯、ブレーキ警告灯、エアバッグ警告灯、シートベルト警告灯、横すべり防止装置作動表示灯、半ドア警告灯、ウォッシャー液面警告灯、セキュリティーイモビライザー、マスターウォーニング等についても、これらの表示灯又は警告灯が配置されているメーターパネルM内での位置情報、これらの表示灯又は警告灯の点灯状態と車両の状態とが関連付けられたデータとがデータ格納部8に格納されている。
【0039】
カメラ制御部6、認識部7、データ格納部8については、メモリに所定のプログラムをインストールすることによって、前述した制御装置4がこれらの機能を担うようにしてある。
【0040】
<本実施形態に係る車両試験システムの特徴的な制御方法>
本実施形態に係る制御装置4が、カメラ5によって撮像された画像に基づいて車両試験を制御する方法は以下の通りである。
【0041】
まず、車両試験を開始する旨の信号がユーザーによって入力されると、試験制御部44がカメラ制御部6に対して信号を送る。
【0042】
カメラ制御部6は、試験制御部44からの信号に基づいて、車両の状態表示部Dである、図4に示すような、メーターパネルMの部分の撮像をカメラ5に開始させる。
【0043】
カメラ5による撮像は、少なくとも車両の主電源がオンになった直後から行われるようにしてある。この実施形態では、例えば、自動運転装置2が車両の主電源をオンにしたタイミングに合わせてカメラ5による撮像が開始されるようにしてある。カメラ5によって撮像された画像データは、リアルタイムで認識部7に送られる。
【0044】
認識部7は、カメラ5によって撮像されてリアルタイムで連続して送られてくるメーターパネルMの画像と、データ格納部8に格納されている既知データとに基づいて、その画像が撮像された時点での車両の状態を認識し、認識結果を試験制御部44に出力する。認識部7からの出力信号を受信した試験制御部44は、ユーザーが予め設定した試験条件と認識部7から出力される信号とに基づいて、車両試験を制御する。
【0045】
より具体的には、例えば、認識部7が、カメラ5から送られてくる画像データを、所定の試験を開始する条件である車両の状態を表す既知画像データと比較してこれらが一致したことを認識すると、その信号を受けた試験制御部44が、前述したように車両試験を制御して、ユーザーによって設定された所定の試験を開始するようにしてある。
【0046】
<本実施形態に係る車両試験システムの具体的な制御例>
ところで、ハイブリッド車に対する車両試験では、バッテリー残量が車両試験における重要なパラメータとなることがあり、バッテリー残量を所定の値にそろえた状態で試験を開始したい場合がある。
【0047】
そこで、このような場合には、カメラ5が撮像したバッテリー残量表示灯BRやバッテリー残量メーターを認識部7が認識することによって、バッテリー残量が所定の値になったときに、所定の試験を自動的に開始するように試験条件を設定しておくことが可能である。
【0048】
より具体的な方法としては、認識部7が、カメラ5から送られるメーターパネルM中のバッテリー残量表示灯BRの画像と、バッテリー残量値が既知の状態のバッテリー残量表示灯BRの画像とを比較して、その結果を試験制御部44に対して出力するものを挙げることができる。
【0049】
例えば、車両試験においてバッテリー残量をパラメータとして使用する場合には、メーターパネルMにおけるバッテリー残量表示灯BRの位置情報に基づいて、認識部7がバッテリー残量表示灯BRを認識するようにしてある。
【0050】
次に、バッテリー残量表示灯BRの画像とその画像が撮像された時点でのバッテリー残量値とが関連付けられた状態認識情報に基づいて、認識部7が、カメラ5から送られた画像がどのバッテリー残量値の画像と同じであるかを判断し、その時点でのバッテリー残量値を認識できるようにしてある。
【0051】
図4に示すようなバッテリー残量表示灯BRの場合、4つのインジケータのうち、左から何番目のインジケータが点灯しているかをバッテリー残量が既知のバッテリー残量表示灯BRの画像と比較して、認識部7にバッテリー残量値を認識させることができる。
【0052】
4つ全てが点灯している場合は、バッテリー残量100%、1つ目が消えたときはバッテリー残量が75%、2つ目が消えたときはバッテリー残量が50%、3つ目が消えたときはバッテリー残量が25%という具合である。
【0053】
バッテリー残量値は、予めユーザーによって所定の車両試験の開始、試験条件変更又は車両試験の終了などと関連付けられて設定されているので、認識部7による認識結果が試験制御部44に出力されると、試験制御部44がそのバッテリー残量値に応じた車両試験を実行するようにしてある。
【0054】
例えば、車両を所定の運転状態で動作させておき(例えば、所定の試験シーケンスを繰り返し)、バッテリー残量が75%になった時点で第1の車両試験を開始し、バッテリー残量が50%になった時点で第1の車両試験を終了して、第2の車両試験に切り替え、バッテリー残量が25%になった時点で全ての車両試験を終了するといったように、車両の状態に応じて、自動で所定の車両試験を開始したり、試験条件(試験シーケンス)を変更したり、車両試験を終了したりすることができる。
【0055】
<本実施形態に係る車両試験システムのその他の制御方法>
ところで、車両がハイブリッド車である場合には、車両の主電源がオンになっている場合であっても、エンジンが動いていない場合がある。
【0056】
このような場合であっても、車両のメーターパネルMやその近傍のメーターや表示灯などをカメラ5で撮像しているので、メーターパネルM内のメーター類などの点灯状況に基づいて、前記認識部7によって車両の主電源がオンであるかオフであるかを認識することができる。
【0057】
その結果、自動運転装置2を用いて車両試験を行う場合に、車両のエンジンが止まっていることだけに基づいて、車両の電源が入っていないと誤って認識してしまうことを避けることもできる。
【0058】
さらに、自動運転ロボット等の自動運転装置2を使用して車両試験を行う場合には、人が運転している場合に比べて、車両の異常に気が付きにくいという問題がある。車両の異常に気付かずに長時間車両試験を継続すると車両の破損や事故等につながる恐れもある。
【0059】
そこで、前記認識部7が、車両の異常を認識すると、前記試験制御部44が、前記自動運転装置2や前記シャシダイナモメータ1等を制御して前記供試体の走行を中止させるとともに、該供試体に対する車両試験を停止させるようにすることができる。
【0060】
このようにしておけば、自動運転装置2を使用して長時間の車両試験を行う場合であっても、ユーザーがわざわざ車両試験の状態を確認する手間をかけることなく、事故を防ぐことができる。
【0061】
前記認識部7が認識する異常としては、例えば、エンジン回転数の異常値や、エンジンが過熱して油温や冷却水の温度が極端に上昇するオーバーヒート、エンジン制御系センサの異常、燃料の不足などの重大な不具合だけではなく、図5に示したような、各種警告灯が点灯することによって認識することができるものを挙げることができる。
【0062】
前記認識部7が、これら警告灯の点灯状態を認識するので、ある所定の不具合が生じた場合に、車両のセンサが正しく機能して警告灯が点灯するかどうかを試験する自己診断機能についての車両試験を行うことも可能である。
【0063】
さらに、認識部7が、カメラ5によって撮像された画像や、外部の機器から取得した情報を2つ以上組み合わせて、車両の状態を認識し、その結果に基づいて車両試験を制御するようにしても良い。
【0064】
例えば、カメラ5で撮像されたタコメーターTM及びスピードメーターSMの2つのメーターの画像から、エンジンとモーターとの協調制御を認識して、その結果に基づいて分析装置3や該分析装置3に試料を送る排ガス希釈装置などを制御することも可能である。
【0065】
この他にも、シャシダイナモメータ1に備えられたローラーの回転数と、カメラ5で撮像したスピードメーターSMの画像とを組み合わせて使用すること等も可能である。
【0066】
カメラ5によって撮像されるメーターパネルM等の画像と、実際の排ガス分析結果を組み合わせることによって、排ガス分析結果に異常が現れた場合等に、これら分析結果とメーターパネルMの画像との相関から、異常の原因を推測すること等も可能である。
【0067】
<本実施形態に係る車両試験システムの効果>
このように構成した車両試験システム100によれば、ユーザーが車両の状態を確認しながら車両試験を行う手間を省くことができる。また、ユーザーの手間を省きながら、車両の状態を的確に認識して、車両試験を行うことができるので、車両試験の精度や安全性を向上させることができる。
【0068】
<本発明に係る車両試験システムのその他の実施形態>
本発明は前記実施形態に限られたものではない。
【0069】
例えば、供試体は、完成車両に限らず、例えば、エンジンや駆動系などの試験のために用意された未完成車等の車両の一部であってもよい。このような未完成車の場合には、前述したシャシダイナモメータに替えて、エンジンベンチなどのテストベンチ上で試験を行うものとしても良い。
【0070】
カメラは、車内に取り付けられて車内を撮像するものに限らず、例えば、供試体のボディ等の外側に取り付けられて供試体の外観を撮像するものであっても良い。
【0071】
メーターパネル等にバッテリーの充放電のタイミングが表示される車両の場合には、車両試験のパラメータとしてバッテリーの充放電のタイミングをさらにパラメータとして使用することができるので、車両試験の精度をより高めることも可能である。
【0072】
車両は、ガソリンを使用するエンジンを搭載したものであれば良く、ハイブリッド車でもガソリン車でも良い。
【0073】
車両がミッション車である場合には、認識部が認識したタコメーターの数値に基づいて、試験制御部が自動運転制御部に指令を出し、自動運転ロボットによるクラッチの切り替えをスムーズに行うようにすること等も可能である。
【0074】
前記実施形態では、自動運転ロボットなどの自動運転装置を備えた車両試験システムとしたが、これに限らず、自動運転装置を使用せず、人が車両を運転するようにしても良い。
【0075】
前記実施形態では、車両試験システムが、カメラ、カメラ制御部、認識部を備えているものとしたが、カメラ及び認識部を備えた状態認識装置を車両試験システムとは別個の装置として構成してもよい。
【0076】
カメラは、動画を撮像するものに限らず、所定の時間毎に静止画を撮像するものとしても良い。
【0077】
データ格納部は、制御装置に対して着脱可能な記録媒体としても良く、例えば、車両に合わせて、車両の製造元や車種毎に記録媒体に収蔵した既知の画像データを使用するようにしても良い。
【0078】
データ格納部には、メーター類や表示灯、警告灯の位置が必ずしも記録されていなくても良く、状態表示部の中のどのメーター類や表示灯、警告灯を認識するかをユーザーが予め認識部に対して指定するようにしてもよい。
【0079】
例えば、認識部がカメラによって撮像された状態表示部の全体の画像と、既知データとして保存された状態表示部全体の画像とが同じかどうかだけを判断して、その結果を試験制御部に出力し、試験制御部が、ユーザーによって予め指定されたメーター類や表示灯、警告灯の点灯状態から車両の状態を認識して、車両試験を制御するようにしてもよい。
【0080】
車種に応じた各種メーター類や表示灯、警告灯等の位置を示すデータ群、及び各種メーター類や表示灯、警告灯等の点灯パターンと車両情報とを関連付けるデータ群を互いに関連付けて保存したデータベースをデータ格納部に格納しても良い。
【0081】
車両の主電源をオンにしたときに、メーターパネル内に配置されている警告灯やメーター類が一度全灯して、その後は異常がなければ警告灯などは消灯する。そこで、認識部がカメラから送られてきた全灯状態のときのメーターパネルの画像と、前述したようなデータベースを用いて、認識部が、機械学習により自動的に車両の車種などを判断して試験を開始するようにしても良い。また、本発明の制御装置は、例えば、機械学習の手法を用いて、所定の車両状態に合わせて車両試験を再現できるようにしてもよい。この場合は、データ格納部は、所定の車両状態におけるメーターパネルの画像データ又は画像データから各種メーターの値を数値化したデータを保存しておく。試験制御部は、認識部が認識したカメラから送られてきたメーターパネルの画像データが、データ格納部に保存された所定の車両状態におけるメーターパネルの画像データ又は画像データから各種メーターの値を数値化したデータと一致するように、自動運転制御部及びダイナモ制御部等を制御する。そして、試験制御部は、データが一致した時に、車両試験を行うことで、所定の車両状態に合わせた車両試験を再現することができる。
【0082】
認識部による認識は、車両のある特定の状態に関連付けられている既知の画像と、カメラから送られる画像とが同じかどうかだけを判断するものに限らず、認識部や試験制御部が画像情報の変化の状況等から車両の状態を判断するものであっても良い。
例えば、前記データ格納部には、各種メーターや警告灯等の形状が既知の画像データとして格納されており、前記認識部が、全灯状態で撮像されたメーターパネル等の画像と、前述したような各種メーターや警告灯等の形状を示す画像データとから、前記認識部が目的のメーターや警告灯等の位置を認識するようにしてもよい。
さらに、このように位置決めした目的のメーターや警告灯等について、前記認識部が、画像認識によって該目的のメーターや警告灯等の点灯状態の変化等を検出し、検出された変化に基づいて前記認識部又は前記試験制御部が供試体の状態を認識するものとしてもよい。
この場合には、前記データ格納部に、車両の特定の状態に関連付けられている既知の画像や、前述したようなデータベースを必ずしも記憶しておく必要はない。
【0083】
なお、前記実施形態では、供試体をテストベンチ上で試験していたが、供試体が路上を走行する場合にも、本発明は適用可能である。この場合は、上述した自動運転装置2は、路上を走行する場合に車両を運転し、上述した分析装置3は、排ガス等を分析する車載型の分析装置となる。
【0084】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、車両試験の精度を保ちつつ、車両試験におけるユーザーの負担を低減可能な車両試験システムを提供することができる。
図1
図2
図3
図4