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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】植物の乾燥ストレス診断方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
A01G7/00 603
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019219278
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021087382
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100189094
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 陽一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 圭毅
(72)【発明者】
【氏名】田中 福代
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-065868(JP,A)
【文献】特開2011-097888(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082942(WO,A1)
【文献】特開2013-231630(JP,A)
【文献】特開平10-325832(JP,A)
【文献】特開昭51-003944(JP,A)
【文献】特開平09-028191(JP,A)
【文献】特開2011-087472(JP,A)
【文献】特開2001-272373(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108254396(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G01N 30/00 - 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象である植物の乾燥ストレスを診断する方法であって、
(1)前記診断対象である植物の根から気体として放出される揮発性化合物の放出量又は当該放出量に基づく値を指標値とする工程、
を含むことを特徴とする、植物の乾燥ストレス診断方法であって、

前記診断対象である植物が、ダイズ(Glycine max)に属する植物であり、

前記揮発性化合物が、根圏土壌の水分不足に応答してダイズ(Glycine max)に属する植物の根からの気体としての放出量が増加する揮発性化合物であり、

前記揮発性化合物が、1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、2-オクタノン、3-オクタノン、1-ペンテン-3-オール、ヘキサナール、若しくは3-ペンタノンである、又は、これらの揮発性化合物から選ばれる1以上の揮発性化合物である、

前記植物の乾燥ストレス診断方法
【請求項2】
前記揮発性化合物が、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、2-オクタノン、3-オクタノン、1-ペンテン-3-オール、若しくは3-ペンタノンである、又は、これらの揮発性化合物から選ばれる1以上の揮発性化合物である、

請求項1に記載の植物の乾燥ストレス診断方法。
【請求項3】
前記(1)に記載の工程の後、
(2)前記診断対象である植物における前記指標値を、陰性対照である保湿土壌で生育したダイズ(Glycine max)に属する植物での対応する値と比較して、指標値間の実質的な増加の有無又は増加の度合を判定する工程、
を含む、請求項1に記載の植物の乾燥ストレス診断方法。
【請求項4】
前記(1)に記載の工程が、
「土壌中の気体から揮発性化合物を検出するシステム」を用いて、前記診断対象である植物の根から放出された気体を土壌中にて捕集し、当該気体の水蒸気濃度を低減して前記揮発性化合物の検出を行う、ことを含む工程であって、

前記「土壌中の気体から揮発性化合物を検出するシステム」が、ガス捕集部、除湿部、及び揮発性化合物検出手段を構成部材として含んでなるシステムであり、
(A)前記ガス捕集部が、土壌中からガスを取り込むための開口構造を備えた管状又は容器状の構造を含む部材であって、前記開口構造を介して根から放出された揮発性化合物を含む気体を捕集可能な部材であり、
(B)前記除湿部が、前記ガス捕集部と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気可能なように接続された管状又は容器状の構造を含む部材であって、当該除湿部の内部の気体に含まれる水蒸気を除湿可能な部材であり、
(C)前記揮発性化合物検出手段が、前記除湿部を通過した気体に含まれる揮発性化合物、又は、前記除湿部を通過した気体から揮発性化合物吸着剤に吸着された揮発性化合物、を検出可能な装置又は機器である、

請求項1に記載の植物の乾燥ストレス診断方法
【請求項5】
請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法にて用いる「土壌中の気体から揮発性化合物を検出するシステム」に関して、

前記(A)に記載のガス捕集部が、土壌挿入が可能な先端部及びガスを取り込むための開口構造を備えた管状構造を含む部材である、

請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法
【請求項6】
請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法にて用いる「土壌中の気体から揮発性化合物を検出するシステム」に関して、

前記システムが、気体吸引手段を構成部材として含むシステムであり、
(D)前記気体吸引手段が、前記接続された構成部材の末端に直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された、通気流路内の気体流動を可能とする吸引ポンプである、

請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法
【請求項7】
請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法にて用いる「土壌中の気体から揮発性化合物を検出するシステム」に関して、

前記システムが、揮発性化合物吸着剤を構成部材として含むシステムであり、
(E)前記揮発性化合物吸着剤が、前記除湿部と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された管状又は容器状構造体の内部に配置されたものであり、

前記(C)に記載の揮発性化合物検出手段が、前記までの構成部材とは通気流路として接続されていない装置又は機器であって、前記揮発性化合物吸着剤に吸着された揮発性化合物を加熱脱離により検出可能な装置又は機器である、

請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法
【請求項8】
請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法にて用いる「土壌中の気体から揮発性化合物を検出するシステム」に関して、

前記(C)に記載の揮発性化合物検出手段に関して、当該揮発性化合物検出手段のセンサー部分が、前記除湿部と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された管状又は容器状構造体の内部に配置されたものであって、当該センサー部分にて気体中に含まれる揮発性化合物を検出可能な装置又は機器である、

請求項4に記載の植物の乾燥ストレス診断方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の乾燥ストレス(水不足によるストレス、水分ストレス、水ストレス)を診断する技術に関する。詳しくは、植物体の地上部や生育環境等からの間接的な評価ではなく、植物根の乾燥ストレス状態を直接的に診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の栽培における土壌水分の不足は、生育や生産性の低下を引き起こす原因となる。特に、根圏での水分不足は、植物体でのカルシウム欠乏やホウ素欠乏等を引き起こし、植物体の生理障害を助長する要因となる。また、地上部での縮れ症状の発現、免疫低下により疾患発症の原因にもなる。
農作物等の栽培において、植物根における乾燥ストレス状態を把握することは、生産性の向上や生理障害の回避において重要な技術と考えられるところ、一方、根は土中に埋まっているため、直接的に根の乾燥ストレス状態を診断することは難しい。
【0003】
そこで、当該技術分野の従来技術では、地上部に関する状態を把握することによって、根の状態を「間接的」に推定する手法が用いられてきた。
当該手法として最も簡便な手法としては、葉等の地上部を観察して、植物体の水分不足の症状が発現していないかを判定する手法が挙げられる。しかしながら、当該手法によって判定可能な状態は、根が強い乾燥ストレスを受け続けた結果として地上部に引き起こされる縮れ症状等の状態であり、まだ地上部に症状が発現していない早期段階の乾燥ストレスにある根の状態を検出することはできない。
また、植物体の水分状態を数値等として把握する手法としては、地上部の葉の水ポテンシャルを測定する手法、赤外線画像により葉面温度を測定する手法、近赤外線の反射スペクトル変化等を利用する手法、等を挙げることができる(特許文献1等)。しかしながら、これらはいずれも、その原理として植物体の葉等の「地上部」の状態を測定する技術であり、「地下部」である根の状態を直接把握できる技術ではなく、まだ地上部に影響が生じていない早期段階の根の乾燥ストレス状態を検出することはできない。また、これらの測定には、専用の測定装置を栽培現場に持ち出す必要があり、一般的な栽培現場において広く利用可能な手法とは認められない。
【0004】
また、上記とは別の技術として、植物が栽培している環境の土壌中の水分量を測定して、植物体の乾燥ストレス状態を「間接的」に判定する手法が用いられている。
しかしながら、当該手法で把握できる値は栽培環境の土壌水分量に過ぎないため、栽培中の植物体が実際に受けている乾燥ストレス状態を直接的に診断できる手法とは認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2007/129648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の事情に鑑みてなされたものでありその課題とする処は、植物体の乾燥ストレス状態の把握に関して、植物体の地上部や生育環境等からの間接的な評価ではなく、根の乾燥ストレスを直接的に診断する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の状況において本発明者らは鋭意研究を重ねたところ、水分条件が異なる各種土壌環境にて農作物であるダイズの栽培を行ったところ、乾燥条件の土壌で栽培した植物体では水分を十分に含む土壌で栽培した植物体と比較して、根からの揮発性化合物の放出量が増加する現象を見出した。
本発明者らは検討を重ねたところ、乾燥土壌で栽培した植物体では、揮発性化合物として、アルコール類、アルデヒド類、及びケトン類の根からの気体としての放出量が増加することを見出した。同様に、乾燥土壌で栽培した植物根では、揮発性化合物として、セスキテルペン類の根からの気体としての放出量が増加することを見出した。
更に本発明者らは検討を重ねたところ、揮発性化合物のガス放出量の増減は、加湿と乾燥を変化させた栽培条件にした場合であっても、その時点の根圏の水分条件を反映して正確に変化する値であることを見出した。
これらの知見に基づいて、本発明者らは、植物根からの気体としての揮発性化合物の放出量を指標値(マーカー)として利用することによって、葉等の地上部では影響が確認されない初期の乾燥状態においても、植物の根の乾燥ストレスを直接的に診断することが可能となることを想到した。
【0008】
本発明者らは上記知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明は具体的には以下に記載の発明に関する。
[項1]
診断対象である植物の乾燥ストレスを診断する方法であって、
(1)前記植物の根から気体として放出される揮発性化合物の放出量又は当該放出量に基づく値を指標値とする工程、
を含むことを特徴とする、植物の乾燥ストレス診断方法。
[項2]
前記(1)に記載の工程の後、
(2)診断対象植物における前記指標値を、陰性対照である保湿土壌で生育した植物での対応する値と比較して、指標値間の実質的な増加の有無又は増加の度合を判定する工程、
を含む、項1に記載の方法。
[項3]
前記揮発性化合物が、
炭素数5~8のアルコール類、アルデヒド類、若しくはケトン類である、;セスキテルペン類である、;又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物である、;
項1又は2に記載の方法。
[項4]
前記揮発性化合物が、
1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、2-オクタノン、3-オクタノン、1-ペンテン-3-オール、ヘキサナール、若しくは3-ペンタノンである、;又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物である、;
項1~3のいずれかに記載の方法。
[項5]
前記診断対象である植物が、ダイズ属(Glycine)に属する植物である、項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6]
植物の乾燥ストレスを検出するためのシステムであって、
前記システムが、ガス捕集部、除湿部、及び揮発性化合物検出手段を構成部材として含んでなるシステムであり、
(A)前記ガス捕集部が、土壌中からガスを取り込むための開口構造を備えた管状又は容器状の構造を含む部材であって、前記開口構造を介して根から放出された揮発性化合物を含む気体を捕集可能な部材であり、
(B)前記除湿部が、前記ガス捕集部と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気可能なように接続された管状又は容器状の構造を含む部材であって、当該除湿部の内部の気体に含まれる水蒸気を除湿可能な部材であり、
(C)前記揮発性化合物検出手段が、前記除湿部を通過した気体に含まれる揮発性化合物、又は、前記除湿部を通過した気体から揮発性化合物吸着剤に吸着された揮発性化合物、を検出可能な装置又は機器である、
項1~5のいずれかに記載の方法を行うために使用する、植物の乾燥ストレス検出システム。
[項7]
項6に記載の植物の乾燥ストレス検出システムであって、
(A’)前記ガス捕集部が、土壌挿入が可能な先端部及びガスを取り込むための開口構造を備えた管状構造を含む部材である、
項1~5のいずれかに記載の方法を行うために使用する、植物の乾燥ストレス検出システム。
[項8]
項6又は7に記載の植物の乾燥ストレス検出システムであって、
前記システムが、気体吸引手段を構成部材として含むシステムであり、
(D)前記気体吸引手段が、前記接続された構成部材の末端に直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された、通気流路内の気体流動を可能とする吸引ポンプである、
項1~5のいずれかに記載の方法を行うために使用する、植物の乾燥ストレス検出システム。
[項9]
項6~8のいずれかに記載の植物の乾燥ストレス検出システムであって、
前記システムが、揮発性化合物吸着剤を構成部材として含むシステムであり、
(E)前記揮発性化合物吸着剤が、前記除湿部と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された管状又は容器状構造体の内部に配置されたものであり、
(C’)前記揮発性化合物検出手段が、前記までの構成部材とは通気流路として接続されていない装置又は機器であって、前記揮発性化合物吸着剤に吸着された揮発性化合物を加熱脱離により検出可能な装置又は機器である、
項1~5のいずれかに記載の方法を行うために使用する、植物の乾燥ストレス検出システム。
[項10]
項1~5のいずれかに記載の方法を行うために使用する、植物の乾燥ストレスを検出するための装置であって、
項6~8のいずれかに記載のガス捕集部、除湿部、及び揮発性化合物検出手段を構成部材として備えてなる装置であり、
(C’’)前記揮発性化合物検出手段のセンサー部分が、前記除湿部と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された管状又は容器状構造体の内部に配置されたものであって、当該センサー部分にて気体中に含まれる揮発性化合物を検出可能な装置又は機器である、
植物の乾燥ストレス検出装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、植物体の乾燥ストレス状態の把握に関して、植物体の地上部や生育環境等からの間接的な評価ではなく、根の乾燥ストレスを直接的に診断する技術を提供することが可能となる。
より詳しくは、本発明では、根から放出される揮発性化合物を直接的に検出する技術であるため、土壌水分の不足による根のストレス状態を、葉等の地上部に影響が表れる前の初期段階にて検出することが可能となる。これにより、本発明では、土壌の水分不足による生育低下や生理障害に対する早期回避が可能となる。
また、本発明では、対象植物の根から発生する揮発性化合物を含む気体を直接捕集する態様を採用することで、植物体を非破壊にて診断することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る各処理を行った栽培試験において、各処理後の植物体の地上部の外観を撮影した写真像図である。
【0011】
図2】実施例1に係るGC/MS分析にて検出された揮発性化合物量の測定値を示した図である。
【0012】
図3】実施例1に係るGC/MS分析にて検出された揮発性化合物量の測定値を示した図である。
【0013】
図4】実施例1に係るGC/MS分析にて検出された揮発性化合物量の測定値を示した図である。
【0014】
図5】本発明に係る植物の乾燥ストレス検出システムの一態様を示した概略図である。
【0015】
図6】本発明に係る植物の乾燥ストレス検出システムに関して、除湿部(4)の別態様を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明に係る技術的範囲は、下記した構成を全て含む態様に限定されるものではない。また、本発明に係る技術的範囲は、下記に記載した構成以外の他の構成を含む態様を除外するものではない。
【0017】
1.植物の乾燥ストレス診断方法
本発明は、植物の乾燥ストレスを診断する技術であって、植物体の地上部や生育環境等からの間接的な評価ではなく、根が受けている乾燥ストレスを直接的に診断する技術に関する。
詳しくは、本発明には、診断対象である植物の乾燥ストレスを診断する方法であって、前記植物の根から気体として放出される揮発性化合物の放出量又は当該放出量に基づく値を指標値とする工程、を含むことを特徴とする、植物の乾燥ストレス診断方法に関する発明が含まれる。
【0018】
[診断対象]
本発明に係る方法は、植物体の生育状態に関して、根圏土壌の水分不足から受ける根の影響を指標値として評価して、植物体の乾燥ストレス状態に関する診断を可能とする方法である。
ここで、本明細書中、「乾燥ストレス」とは、診断対象である生育中の植物体に関して、生育環境の土壌の水分不足に起因した植物体に生じる生理的変化を指す。水ストレス、水分ストレス、等の用語と同義の内容を意味する。
また、本明細書中、「乾燥ストレスの診断」とは、診断対象である生育中の植物体について、生育環境の土壌の水分不足から受ける乾燥ストレスを指標値として数値化して評価する行為を指す。
【0019】
本発明に係る方法では、診断対象となる植物体の根から発生する揮発性化合物を検出することによって、植物体の根が水分不足から受けている生理的影響(乾燥ストレス、乾燥ストレスを受けている状態)を直接的に把握することが可能となる。
即ち、本発明に係る方法では、植物体の根の乾燥ストレスを直接的に検出することが可能となる。また、植物体の根の乾燥ストレスの度合いを判定することも可能となる。また、葉等の地上部では影響が確認されない初期の乾燥状態においても、植物の根の乾燥ストレスを直接的に診断することが可能となる。
【0020】
本発明に係る方法は、生育環境の土壌の水分不足に反応して根から揮発性化合物を気体として放出する植物であれば、如何なる種類の植物に対しても適用して行うことが可能である。
本発明に係る方法は、原理的には、乾燥ストレス応答に伴う脂質代謝や植物ホルモン等の活性化に起因する二次代謝産物を指標とする方法であるため、植物全般に広く適用可能な手法と認められる。例えば、このような特性を備える農作物、果樹、園芸植物等の植物を診断対象とすることが可能である。
本発明に係る診断対象の植物としては、根からの気体としての揮発性化合物の放出が好適な植物及び根での生理応答の共通性を考慮すると、マメ科植物属する植物を好適に挙げることができる。マメ科植物は根に根粒菌を有し、乾燥ストレス応答による脂質分解等の根への影響が出やすいと考えられる。特には、ダイズ属及びその近縁属に属する植物(インゲン連の植物)への適用を好適に挙げることできる。ここで、ダイズ属植物及びその近縁属としては、ダイズ属(Glycine)、ササゲ属(Vigna)、インゲン属(Phaseolus)、ブテア属(Butea)、キマメ属(Cajanus)、ナタマメ属(Canavalia)、デイゴ属(Erythrina)、ハーデンベルギア属(Hardenbergia)、フジマメ属(Lablab)、トビカズラ属(Mucuna)、クズイモ属(Pachyrhizus)、シカクマメ属(Psophocarpus)、クズ属(Pueraria)、タンキリマメ属(Rhynchosia)等を挙げることできる。
【0021】
本発明に係る診断対象の植物としては、特に好ましくは、乾燥ストレスに対する根での応答に関する生理的機構の共通性の観点から、ダイズ属(Glycine)に属する植物への適用が最も好適である。ここで、ダイズ属(Glycine)に属する植物は、根での水分要求性が高いため、根での水分不足に対する生理応答反応が敏感と認められ、他の分類の植物では検出が難しい場合であっても、ダイズ属に関してはその検出感度が良好と認められる。
即ち、本発明に係る診断対象の植物としては、ダイズ属(Glycine)に属する植物を診断対象とすることが好適である。
ここで、ダイズ属に属する植物としては、ダイズ属に分類される植物種の植物を挙げることできる。また、ダイズ属に属する植物に由来する植物や品種・系統(ダイズ属に属する植物を用いた交配、突然変異、人為的な遺伝子操作等によって作出された植物や品種・系統)であって、上記特性備えたものも診断対象とすることができる。
また、本発明に係る方法では、特に好ましくは、上記特性に関するストレス応答の生理的メカニズムの共通性の観点から、ダイズ(Glycine max)に属する植物を診断対象とすることが最適である。ここで、ダイズに属する植物としては、Glycine maxに分類される植物や当該種に属する品種・系統の植物を挙げることができる。また、Glycine maxに属する植物に由来する植物や品種・系統であって、上記特性備えたものも診断対象とすることができる。
当該植物(個体)としては、例えば、Glycine maxに属する植物を用いた交配、突然変異、人為的な遺伝子操作等によって作出された植物(個体)を挙げることができる。
また、当該品種・系統としては、例えば、Glycine maxに属する植物を用いた交配、突然変異、人為的な遺伝子操作等によって作出された植物の形質を集団として備えた品種・系統を挙げることができる。
【0022】
本発明に係る診断対象である植物は、生育や栽培を行っている環境土壌にて一定期間生育した状態にある植物体であることが望ましい。即ち、根が土壌中の水分に応じた生理応答が可能となっている植物体について、当該診断対象とすることが望ましい。例えば、移植等から少なくとも7日以上、好ましくは14日以上が経過して、当該環境土壌に適応して生育中であると認められる植物体であることが望ましい。
【0023】
[分析]
本発明に係る方法では、診断対象の植物体の根から気体として放出される揮発性化合物を含む気体を捕集する工程を含む。また、本発明に係る方法では、前記捕集した気体から揮発性化合物を検出する工程を含む。
【0024】
本発明に係る方法において、根から気体として放出される揮発性化合物を捕集する手法としては、一例としては、診断対象の植物の根を採取して、当該採取した根から気体として発生する揮発性化合物を捕集する手法を挙げることができる。当該根の採取態様としては、植物体の根の全体を採取する手法も可能であるが、植物体の生育に影響が少ないよう根の一部を採取して行うことが望ましい。
本発明に係る方法においては、採取してから数時間程度の状態であれば分析試料に供することも可能ではあるが、生育状態にある植物体から採取直後の根を分析に用いることが望ましい。
採取した根からの気体に含まれる揮発性化合物の分析は、通常の気体成分分析手法によって行うことが可能である。実施形態の一例(実施例1にて示した態様)としては、採取した根と揮発性化合物を吸着可能な吸着剤等を密閉容器や密閉袋状体(ガラス製容器、硬樹脂製容器、軟樹脂袋状物、フィルムバッグ等)の中に配置し、これらの内部空間中に気体として発生した揮発性化合物を捕集する手法が挙げられる。
なお、当該態様での気体捕集は、試料間比較の定量性が担保される手法にて行うことが好ましい。例えば、各試料からの気体捕集においては、根の採取量や採取部位、捕集条件(温度、時間等)、気体の捕集量などを同様の条件にして、捕集工程を行うことが望ましい。
【0025】
また、根からの気体捕集の別態様(実施例3にて示した態様)としては、生育中の植物体の土壌中の根の付近に、根から発生したガスを捕集可能な管状部材等を配置し、当該部材を介して揮発性化合物を含む気体を直接採取する手法を挙げることができる。当該態様では、植物体の植物根の採取を要さない手法であるため、診断対象である生育中の植物の植物体を非破壊にて診断することが可能となる。当該態様を実現する具体的な実施形態としては、下記段落2.に記載のガス捕集容器又はガス捕集管を利用したシステムや装置等を用いて行うことが可能である。
なお、当該態様での気体捕集は、試料間比較の定量性が担保される手法にて行うことが好ましい。例えば、土壌中からの気体吸引条件(流量、時間等)、気体採取部位(根から距離や深さ)などを同様の条件にして、捕集工程を行うことが望ましい。
【0026】
本発明の方法における揮発性化合物の検出は、上記のように捕集した気体を直接又は間接的手法にて分析に供することで行うことができる。ここで、捕集気体に含まれる揮発性化合物の検出は、気体成分分析にて用いられる通常の手法を用いて行うことが可能である。
例えば、i)気体中に含まれる揮発性化合物の分析が可能な装置や機器のセンサー等を用いて、気体中に含まれる揮発性化合物を直接検出して分析することが可能である(センサー等を用いた直接検出手法)。また、別態様としては、ii)捕集気体に含まれる揮発性化合物を吸着剤に吸着させた後、当該吸着剤から加熱脱離により揮発性化合物を気体としてヘッドスペース等に回収して、ここから揮発性化合物を分析することが可能である(吸着剤を用いた手法)。
ここで、揮発性化合物の検出やその量の測定は、診断対象である植物体と陰性対照との差異が検出可能な感度で揮発性化合物の量の測定が可能な手法であれば、如何なる手法を採用することも可能である。
例えば、下記段落2.に記載の揮発性化合物検出手段として説明した各種装置や機器を用いて行うことが可能である。また、揮発性化合物を吸着可能な吸着剤に関しても、下記段落2.に記載の揮発性化合物吸着剤を用いて行うことが可能である。
【0027】
[指標値]
本発明に係る診断方法は、診断対象である植物における根から放出された揮発性化合物の放出量又は当該放出量に基づく値を指標値とする工程、を含む方法である。
本発明において指標値となる「揮発性化合物の放出量」は、根から放出された気体に含まれる揮発性化合物の量を表す値として求めることができる。ここで、当該放出量としては、根から発生する揮発性化合物の全量である必要はなく、試料間で比較可能な一定条件下において測定を行い、得られた測定値を試料間で比較可能な放出量(定量値)として求めることが可能である。
例えば、一定条件下において捕集された上記の気体や吸着剤から検出された揮発性化合物の測定値から、揮発性化合物の放出量の値を把握することが可能となる。
【0028】
また、「揮発性化合物の放出量に基づく値」とは、上記の揮発性化合物の放出量から算出された値であって、当該放出量の多寡を多試料間で比較可能な指標値とできる値を指す。例えば、根から放出された揮発性化合物を含む気体を一定条件において採取し、当該採取した気体に含まれる揮発性化合物の量を測定し、得られた測定値を当該値(定量値)とすることも可能である。
ここで、当該放出量に基づく値としては、測定した絶対値以外にも試料間で当該放出量の比較が可能な相対値で表された値も含まれる。また、係数を乗じて算出した値や、定数を加減して算出した値も含まれる。
また、揮発性化合物の放出量に基づく値としては、2以上の揮発性化合物の放出量に基づく値を当該値とすることも可能である。2以上の揮発性化合物の放出量に基づく値としては、乾燥ストレスの影響によってその根からの放出量が増加挙動を示す2以上の揮発性化合物の合計量等を挙げることができる。また、これらの揮発性化合物の総量等も挙げることができる。
【0029】
本発明に係る指標値又はその基礎値となる「揮発性化合物の放出量」としては、水分が不足した土壌環境(乾燥土壌)にて植物体が生育した場合において、水分を十分に含む土壌環境(潅水等を行った土壌)で生育した場合と比較して、実質的な増加による差異が検出される揮発性化合物の放出量を指すものである。
当該揮発性化合物の放出量の変動挙動は、乾燥土壌から受ける植物根の影響(乾燥ストレスに対する応答)による脂質代謝や植物ホルモン等の活性化に起因する二次代謝産物の変動を反映した量的結果である。従って、当該揮発性化合物の放出量の変動度合いは、乾燥に対するストレス応答による植物体の「根」での代謝反応の内因的な組成変動を反映した量的結果であると認められる。即ち、当該揮発性化合物の放出量の変動挙動の度合は、診断対象植物体の根における乾燥ストレス度合と相関する度合であると推定される。
従って、当該放出量の変動挙動の度合いは、土壌の乾燥からの影響が大きい程、陰性対照である水分を十分に含む土壌で生育した植物での放出量に対して増加変動が大きくなる傾向にあると認められる。
なお、当該揮発性化合物の放出量の変動挙動は、土壌中の水分含量から受ける影響を反映して、その時点の根圏の水分条件を反映して正確に変化する値であることが、下記の実施例にて実験結果として示されている。例えば、土壌の加湿と乾燥を交互に繰り返した栽培条件にした場合、当該揮発性化合物の放出量は、その時点の根圏の水分条件から受けているストレス状態を反映した値として検出される。
【0030】
[揮発性化合物]
本発明に係る診断方法では、水分を十分に含む土壌で生育した植物体と比較して、乾燥条件の土壌で生育した植物体では根からの揮発性化合物の放出量が増加する現象を利用する。即ち、本発明に係る診断方法では、当該植物根から発生する揮発性化合物の増加を検出することにより、植物根が土壌から受けている乾燥ストレスを検出することが可能となる。
【0031】
本発明に係る診断方法においては、診断対象植物の植物体での根圏の水分不足に対する生理的応答として、根表面からガスとして放出される量が増加する揮発性化合物を指標化合物として利用する。
当該揮発性化合物としては、乾燥ストレス応答による過酸化脂質の生成促進によって分解された脂質分解物を挙げることができる。詳しくは、アルコール類、アルデヒド類、又はケトン類に属する化合物であって、根圏の水分不足に応答して根表面から気体として放出される量が増加する化合物を指標化合物として利用する態様が好適である。より詳しくは、本発明に係る診断方法では、炭素数C4~12のアルコール類、アルデヒド類、若しくはケトン類に属する化合物、又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物、を指標化合物として利用することが可能となる。より詳しくは、本発明に係る診断方法では、炭素数C5~8のアルコール類、アルデヒド類、若しくはケトン類に属する化合物、又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物、を指標化合物として利用することが可能となる。
本発明に係る診断方法では、より詳しくは、1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、2-オクタノン、3-オクタノン、1-ペンテン-3-オール、ヘキサナール、3-ペンタノン、又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物、を指標化合物として利用することが好適である。
【0032】
また、当該揮発性化合物としては、乾燥ストレス応答による植物ホルモン等の活性化に起因する二次代謝産物を挙げることができる。より詳しくは、セスキテルペン類に属する化合物であって、根圏の水分不足に応答して根表面から気体として放出される量が増加する化合物を指標化合物として利用する態様が可能である。
即ち、本発明に係る診断方法では、セスキテルペン類に属する化合物、又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物、を指標化合物として利用することが可能となる。
【0033】
本発明に係る診断方法では、根圏土壌が加湿条件の場合と比較して乾燥条件に応答して大きく発生量が増加する揮発性化合物を選択して、当該化合物を指標化合物とすることが検出感度の点で好適である。即ち、本発明では、1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、又は、前記化合物から選ばれる1以上の化合物、を指標化合物として利用することがより好適である。これらの化合物は、乾燥ストレスに応答した放出量の増加変動の度合が大きく、陰性対照植物に対する差異の検出が容易となる。
【0034】
本発明に係る診断方法では、これらの揮発性化合物の類似化合物であって同様の変動挙動を示す化合物を指標化合物とすることも可能である。当該類似化合物としては、上記揮発性化合物と同様の基本骨格を有する化合物であって、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど基本骨格を大幅に変えない程度の改変を有する化合物を挙げることができる。
本発明に係る診断方法では、上記した揮発性化合物やその類似化合物には、これらのイオン化状態、各種平衡反応の状態にある化合物等も含まれる。
【0035】
また、本発明に係る診断方法では、上記した乾燥ストレスの影響による根からの発生量が増加する揮発性化合物の2以上を選択して、これらの値を基にして指標値として算出することも可能である。
【0036】
[陰性対照植物との差異の検出]
本発明に係る診断では、前記にて測定又は算出した指標値について、(a)診断対象である植物からの指標値と(b)保湿土壌で生育した植物からの指標値とを比較して、指標値間の実質的な差異の有無又は差異の度合いを判定する工程を行うものである。
即ち、本発明に係る診断方法では、前記記載の指標値化の工程の後、診断対象植物における前記指標値を、陰性対照である保湿土壌で生育した植物での対応する値と比較して、指標値間の実質的な増加の有無又は増加の度合を判定する工程、を含む。
【0037】
ここで、本明細書中「陰性対照植物」とは、診断対象植物からの指標値と比較するための対応値の情報を得るための植物を指し、根圏土壌が適度な水分を含む保湿土壌にて生育し乾燥ストレスを受けていない状態の植物を指す。
ここで、植物に乾燥ストレスを与えない「保湿土壌」に含まれる水分の含水率は、診断対象植物の種類等によって適宜設定することができる。一例としては、根圏pF値が1.5~2.3、好ましくは1.7~2.0となるように設定する態様が望ましい。
【0038】
本発明に係る診断方法では、好適な態様としては、乾燥ストレスの影響に由来する揮発性化合物の放出量の変化のみを精度よく検出できる態様にて行うことが望ましい。そのため、診断対象である植物体からの指標値と対照植物体からの対応値との比較において、当該影響以外の他の要因に由来する揮発性化合物の変化を可能な限り低減させ、当該影響以外の代謝産物等を比較する試料間にて均一又は実質的に均一にすることが望ましい。
【0039】
本発明に係る診断方法で用いる陰性対照植物としては、遺伝的背景が同じもの又は実質的に同じものを用いることが望ましい。そのため、当該陰性対照植物としては、診断対象植物が属する種類の同一種に属する植物を用いることが望ましい。特には、診断対象植物が属する種類の同一の品種系統に属する植物を用いることが好ましい。
また、本発明に係る陰性対照植物としては、診断対象と遺伝的背景が大きく異なる植物種等を用いた場合、ノイズが大きくなり正確な比較を行うことが困難となる傾向がある。但し、陰性対照植物が診断対象植物とある程度異なる遺伝的背景を有する場合であっても、実質的に同じ代謝変動挙動を示すと認められる近縁種又は同一種で異なる品種系統の植物からの値であれば、両者の比較判定を行うことも可能な場合がある。この点、本発明に係る診断方法では、陰性対照植物として、診断対象と異なる種類や品種系統の植物を採用して、差異を検出する態様を除外するものではない。
【0040】
本発明に係る診断方法においては、陰性対照植物から得られた対応値としては、異なる生育環境から植物からの情報を用いる態様を除外するものではないが、判定及び診断精度の向上を考慮すると、診断対象植物の生育環境と水分条件以外は同一の生育環境で生育した植物からの情報であることが好適である。また、本発明に係る診断方法では、水分条件以外は実質的に同じ生育環境で生育した植物からの情報を、陰性対照植物からの情報として用いる態様が許容される。ここで、実質的に同じ生育環境とは、現実の栽培現場等にて実際に必要とされる差異の検出精度を考慮すると、同じ日時での試料採取等を必ずしも意味するものではなく、例えば、温度や光等の気象条件、土壌組成などの栽培環境が似通っている生育環境を挙げることができる。
また、本発明に係る診断方法では、異なる生育段階にある植物からの情報を用いる態様を除外するものではないが、診断対象植物と同じ生育段階と認められる植物から測定又は算出した値を用いることが好適である。
また、本発明に係る診断方法では、診断対象植物と実質的に同じ生育段階と認められる植物からの情報を、陰性対照植物からの情報として用いる態様が許容される。ここで、実質的に同じ生育段階とは、現実の栽培現場等にて実際に必要とされる差異の検出精度を考慮すると、同じ日時での試料採取等を必ずしも意味するものではなく、例えば異なる日時に採取する態様等も含まれる。
【0041】
本発明に係る診断方法においては、乾燥ストレスの状態を判定するための基準値を予め設定しておき、当該基準値と比較して乾燥ストレス状態を判定することも可能である。当該態様においては、診断対象の植物からの試料を分析に供するのみで、その植物と比較可能な対応するデータと比較して増加差異の検出及びストレス度合の判定を行うことが可能である。
当該態様における判定基準となる値としては、根圏が保湿土壌にある環境にて生育した植物から予め得ていた揮発性化合物放出の量の情報を利用することが可能である。即ち、本発明では、陰性対照である根圏が保湿土壌である環境の植物から予め測定しておいた値に基づいて、非ストレス状態であれば示すべき値を設定することが可能となる。当該態様では、「陰性対照植物における対応する値」として予め設定した判定基準値を採用することが可能となる。
また、当該態様における基準値としては、圃場等での対照植物のデータ情報を蓄積して診断対象植物との比較用のデータベースや判定表等を作成しておくことで、生育環境での対照植物を同時栽培することなく、より簡易に乾燥ストレスの診断等を行うことが可能となる。
【0042】
本発明に係る診断方法では、実質的な差異の検出を行う場合において、診断対象植物からの指標値と対照植物からの対応値との間での差異の存在の有無を以て、指標値間の実質的な差異の有無を判定することが好適である。ここで、指標値間の差異を検出してストレス状態を診断する手法としては、陰性対照植物からの値との比較を含む態様にて行うことが可能である。当該態様においては、 i)診断対象植物における当該指標とする値を、陰性対照である非ストレス状態の植物における対応する値と比較して、ii)これらの値の間で実質的な差異が検出される場合には前記診断対象植物が乾燥ストレス状態にあると判定することができる。また、これらの間で実質的な差異が検出されない場合には前記診断対象植物が乾燥ストレス状態にないと判定することができる。
また、ここで検出された指標値間の差異の度合は、植物の乾燥ストレスの度合いと相関する値であるため、当該差異の度合が大きい程、診断対象植物における乾燥ストレス状態が重度であると判定することが可能である。また、差異の度合が小さい程、乾燥ストレス状態が軽度であると判定することが可能である。
【0043】
また、本発明に係る診断方法においては、1種類の揮発性化合物の量に基づく値を指標値とした場合又は2種類以上の揮発性化合物の量の和等を1つの指標値とした場合では、単変量解析による統計解析を行うことによって、診断精度を向上させることが可能となる。ここで、統計解析としては、通常の手法を用いることができるが、例えば、標準誤差、標準偏差、t検定、X検定、ANOVA検定、Mann-Wihtney U検定、尤度比検定、Wald検定などを挙げることができる。
また、本発明に係る診断方法では、2種類以上の揮発性化合物に着目し、揮発性化合物のそれぞれの量に基づく2以上の指標値を算出して多変量解析を行うことによって、判定の精度を向上させることも可能である。ここで、多変量解析として既知の手法を採用して行うことができる。多変量解析としては、例えば、重回帰分析、判別分析、ロジスティック回帰分析、数量化I類分析、数量化II類分析、主成分分析、因子分析、クラスター分析、コレスポンデンス分析、数量化III類分析、多次元尺度構成法、決定木分析、ニューラルネットワーク分析等を挙げることができる。
また、当該多変量解析においては、陰性対照となる保湿土壌で生育した植物(乾燥ストレスを受けていない植物)の値と伴に、陽性対照となる乾燥土壌で生育した植物(乾燥ストレスを受けている植物)からの対応値を加えることによって、更に精度の高い判定及び診断を行うことも可能となる。例えば、クラスター分析等を行った場合では、階層クラスタリング樹形として判定結果を得ることができるため、乾燥ストレスの有無及び度合を更に精度良く判定することが可能となり好適である。
【0044】
2.植物の乾燥ストレス検出システム、装置
本発明においては、上記段落1.に記載した原理を利用した乾燥ストレス診断を行うために使用するシステムに関する発明が含まれる。即ち、本発明には、上記に記載の植物の乾燥ストレスを診断する方法を行うために使用する、植物の乾燥ストレス検出システムに関する発明を含まれる。
【0045】
本発明に係る植物の乾燥ストレス検出システム(1)は、根から放出された揮発性化合物を含む気体を土壌中から直接捕集する工程を行うための部材、前記捕集された気体中に含まれる水蒸気分子を低減するための部材、及び、前記気体中に含まれる揮発性化合物を検出するための検出手段、を構成部材として含む。
即ち、本発明に係る植物の乾燥ストレス検出システム(1)は、ガス捕集部(2)、除湿部(4)、及び揮発性化合物検出手段(5)を構成部材として含んでなるシステムに関する発明である。本発明に係るシステム(1)を用いることで、栽培現場で生育中の植物の植物体を損傷することなく、非破壊にて植物の乾燥ストレスを診断することが可能となる。
【0046】
[ガス捕集部]
本発明に係るシステム(1)は、根から放出された揮発性化合物を含む気体を土壌中にて直接捕集する工程を行うためのガス捕集部(2)を構成部材として含む。
本発明に係るガス捕集部(2)は、土壌中からガスを取り込むための開口構造(23)を備えた管状又は容器状の構造(22)を含む部材である。これにより、ガス捕集部(2)は、前記開口構造(23)を介して根から放出された揮発性化合物を含む気体を捕集可能な部材として機能する。
ここで、ガス捕集部(2)に関する本明細書中の説明においては、土壌挿入する方向の先端部(21)側を下側、本体の管状構造(22)側を上側として、水平方向や垂直方向の記載を用いて各形状等の説明をしているが、実際の使用態様がこれらの方向のみに限定される意図ではない。
【0047】
(管状又は容器状構造、先端部)
本発明に係るガス捕集部(2)は、具体的には、その部材構造に管状又は容器状の構造体を含むガス捕集管又はガス捕集容器(2)である態様が好適である。
ガス捕集管又はガス捕集容器(2)としては、土壌挿入が可能な先端部(21)及びガスを取り込むための開口構造(23)を備えた管状又は容器状構造(22)を含む部材であることが好適である。当該態様では、ガス捕集管又はガス捕集容器(2)を先端部(21)から土壌に挿入した際に、前記開口構造(23)を介して根から放出された揮発性化合物を含む気体が管状又は容器状構造(22)の内部空間に取り込まれ、土壌中からの気体を捕集可能な構成部材として機能させることが可能となる。
【0048】
ガス捕集部(2)は、その内部が中空状である管状又は容器状構造(22)を備える。当該管状又は容器状構造(22)は、その壁部に土壌中からガスを取り込むための開口構造(23)を備える。
ガス捕集部(2)を構成する部分のうち、管状又は容器状構造(22)は、開口構造(23)から取り込んだ気体を上側方向(気体流動の下流方向)に向かって、その内部空間を気体が通過可能な管状又は容器状の構造体部分を指す。管状又は容器状構造(22)の構造としては、壁面を有し且つその内部の通気が可能な中空状の構造を挙げることができる。
管状又は容器状構造(22)としては、土壌への穿孔に適した形状になるように、先端側を含む部分が細長い管状の形状であることが好適である。また、地上からの気体の混入を防ぐために、開口構造(23)と管状又は容器状の構造(22)の上端との間にある程度の距離を設けて、開口構造(23)から取り込まれた気体がその内部を通気可能な管状を含む形状であることが好適である。
即ち、ガス捕集部(2)としては、少なくともその一部が管状構造(22)を含む形状であることが好適である。また、ガス捕集部(2)の形状としては、その全体が管状構造(22)の形状であることが好適である。
【0049】
管状又は容器状構造(22)としては、その垂直方向(長手方向)に対する横断面が円状、楕円状、長円状、多角状(三角状、四角状、それ以上の角状等)、丸味を帯びた略多角状等の横断面が中空形状となる各形状を挙げることができる。特には、横断面が円状の中空形状を好適に挙げることができる。
管状又は容器状構造(22)が管状構造となる部分については、その横断面が円管状の管構造の形状であることが好適である。
管状又は容器状構造(22)の管状構造となる部分は、その一部に曲管や屈曲構造を含む形状であっても良いが、少なくともその一部に直管状の形状を含む構造であるものが好適である。また、管状又は容器状構造(22)としては、その全体が直管状の形状である構造のものが好適である。
また、管状又は容器状構造(22)としては、その内部の通気が確保される限りでは、弁や隔壁等を形成させた構造、フィルター等を充填して備えた構造を採用することも可能である。
【0050】
管状又は容器状構造(22)としては、土壌挿入するに際して、根から発生する土壌中のガスの捕集に適した位置にまで開口構造(23)の部分を挿入可能な垂直方向(長手方向)の長さを備えたものが好適である。
例えば、先端部(21)の下端から管状又は容器状構造(22)の上端までのガス捕集部(2)の垂直方向での全長(管状構造の場合の管長)が、5cm以上、好ましくは10cm以上の形状を挙げることができる。当該全長の上限としては、操作性やガスの捕集効率を考慮すると、50cm以下、好ましくは30cm以下の形状を挙げることができる。
管状又は容器状構造(22)の水平方向での幅(管状構造の場合の管幅)としては、内部の通気に適した管幅又は容器幅であれば特に制限はないが、採取気体の試料スケールを考慮すると、横断面の面積が大き過ぎない管状構造であることが望ましい。一例としては、横断面の内壁どうしの最大幅(円管の場合は内径)が、40mm以下、好ましくは20mm以下の幅の構造を挙げることができる。また、当該内壁どうしの最大幅(円管の場合は内径)の下限としては、ガスの回収効率を考慮すると5mm以上、好ましくは10mm以上を挙げることができる。
外壁どうしの最大幅(円管の場合は外径)としては、上記の内壁どうし最大幅と壁の厚さに応じて決定可能である。例えば、外壁どうしの最大幅(円管の場合は外径)が内壁どうしの最大幅より0.2~5mm程大きい幅である形状を挙げることができるが、特に制限されない。
また、管状又は容器状構造(22)の水平方向での幅(管状構造の場合の管幅)としては、その垂直方向の部分によって異なる管幅又は容器幅とすることも可能である。例えば、開口構造(23)のある下側部分の管幅又は容器幅を広くし、管状構造(22)の上側にフィルター等を配置するために上側部分の管幅又は容器幅を狭くする形状とすることも可能である。
【0051】
管状又は容器状構造(22)を構成する部材としては、その壁構造が(特に内壁が)、気体透過性が低く、表面に有機物を吸着しにくい材質のものが好適である。また、当該材質に由来する揮発性化合物の発生が生じ難いものが好適である。また、管状又は容器状構造(22)の材質としては、管や容器の支持体として機能する観点から、土壌挿入等に十分な物理的強度を有する材質のものが望ましい。当該材質の例としては、硬性樹脂、セラミック、金属、ガラス等の硬質性の材質を挙げることができる。
管状又は容器状構造(22)を構成する材質として、より具体的には、ポリプロピレン樹脂、フッ化炭素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、アクリル樹脂、等の材質のものを好適に用いることができる。
管状又は容器状構造(22)を構成する材質として特に好適な態様としては、気体非透過性や物理的強度等の観点から、ポリプロピレン樹脂製、フッ化炭素樹脂製のものを用いることが最も好適である。フッ化炭素樹脂の一例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)等を好適に挙げることができる。
【0052】
ガス捕集容器又はガス捕集管(2)の下端である先端部(21)としては、土壌挿入に適した先端形状であることが好適である。
先端部(21)としては、当該先端部に土壌に向かって下方向に押力を加えた際に、抵抗が少なく当該部材の挿入や穿孔に適した形状や構造を採用することが好適である。
例えば、先端部(21)の形状としては、先端部分の頂点を下端とした円錐形状、角錐形状、棒状、ドリル状、針状等の形状を好適に挙げることができる。また、下端がフラットで上方向に向かってテーパー状に広がる形状(断頭円錐状、断頭角錐状等)を先端部にする態様も可能である。また、下端に丸味を有するこれらの形状(略円錐形状、略角錐形状等)も含まれる。
なお、ガス捕集容器又はガス捕集管(2)の管幅が狭い細長い形状の場合であれば、下端である先端がフラットな形状であってもそのまま先端部(21)とすることも可能である。
【0053】
ガス捕集容器又はガス捕集管(2)の先端部(21)は、先端部(21)と管状又は容器状構造(22)を予め一体化成形して形成することが可能である。この場合の先端部(21)を構成する材質としては、上記した管状又は容器状構造(22)を構成する材質と同じものを用いることができる。
また、先端部(21)としては、土壌挿入により適した機能を付与するために、管状又は容器状構造(22)を別途に製作した後、管状又は容器状構造(22)の下部に接続等して形成することも可能である。当該態様の先端部(21)としては、土壌挿入等に十分な物理的強度を有する材質を採用することが好適である。例えば、金属、硬性樹脂、セラミック等の土壌挿入により適した硬質性の材質を採用することができる。
【0054】
(開口構造)
ガス捕集部(2)は、管状又は容器状構造(22)の管壁に土壌中からガスを取り込むための開口構造(23)を備える。
開口構造(23)としては、土壌から管内への気体の取り込みが可能なように壁を連通した構造であれば特に制限はないが、一例としては、管状又は容器状構造(22)の管壁に開口部を開けて形成された孔構造、管壁を穿って形成された孔構造、等の形態を挙げることができる。また、管状又は容器状構造(22)の作製に際して、成形時に予め開口構造となるように管壁を成形して、開口構造(23)を形成させることも可能である。
また、管状又は容器状構造(22)の管壁に別の管状部材、リング状部材、メッシュ部材等を埋設し、その開口部を開口構造(23)とすることも可能である。
【0055】
開口構造(23)の形成位置としては、土壌や固形物等が管内に入り込みにくいよう、管状又は容器状構造(22)の側面壁に位置することが好適である。即ち、管状又は容器状構造(22)における開口構造(23)の位置としては、管状又は容器状構造(22)を垂直方向に土壌に挿入した際に、その挿入方向と直交する向きにて管壁に形成されたものが好適である。
また、開口構造(23)の形成位置としては、地上からの気体混入を防ぎ且つ土壌への挿入操作時に開口構造(23)の深度を調整可能なように、管状又は容器状構造(22)の上端からある程度の距離を有する位置に形成されたものが好適である。例えば、管状又は容器状構造(22)の上端から下側方向に3cm以上、好ましくは5cm以上、より好ましくは7cm以上離れた位置に、開口構造(23)を形成することが望ましい。
また、開口構造(23)の形成位置としては、先端部(21)の近傍に位置することが望ましい。例えば、先端部(21)と管状又は容器状構造(22)の境界から上側方向に4cm以内、好ましくは2cm以内に位置するように、開口構造(23)を形成することが望ましい。
【0056】
開口構造(23)の形状としては、土壌や固形物の管内への取り込みを防ぐために、必要以上に大きな孔を有しない形状であることが好適であり、微細な孔構造である態様が好適である。孔の形状としては特に制限はないが、例えば、円状、楕円状、長円状、多角状(三角状、四角状、それ以上の角状等)、丸味を帯びた略多角状等を挙げることができる。特には、円状等の孔構造を好適に挙げることができる。
開口構造(23)のサイズとしては、孔の最大幅(開口構造が円状の場合は直径)が10mm以下、好ましくは6mm以下のものが好適である。最適には、当該孔の最大幅が5mm以下のものが望ましい。下限としては特に制限はないが、例えば0.1mm以上を挙げることができる。
開口構造(23)の配置態様としては、微細な孔構造を複数形成して配置させる態様が好適である。孔の配置数としては適時決定することができるが、実施形態としては2以上、好ましくは3以上を好適に挙げることができる。
開口構造(23)としては、土壌からの気体の取り込み効率等を考慮すると、当該開口構造の孔部分の総面積が50mm以上、好ましくは70mm以上、より好ましくは200mm以上となるように、開口構造を配設することが好適である。上限としては特に制限はないが、例えば当該孔部分の総面積が500mm以下となるように、開口構造を配設することが好適である。
【0057】
開口構造(23)の配置位置としては、壁の一方向に偏在するように開口構造を配置する態様も可能であり、管や容器の全方向に対応するように、開口構造を均等に配置する態様も可能である。
また、開口構造(23)の別態様としては、例えば、網目状、メッシュ状、スリッド状、格子状、ハニカム状、等の各種模様状に形成された開口構造を採用することができる。また、複数の連通孔の集合、微細孔状の連通孔の集合として、全体として大きな開口構造が形成された態様とすることもできる。
また、開口構造(23)としては、土壌や固形物の管内への取り込みを防ぐために、孔の部分に通気性を備えたフィルター等を設けた態様とすることも可能である。
【0058】
(その他の構造)
管状又は容器状構造(22)の開口構造(23)より上部側(気体の流れの下流側)には、本発明に係るシステム(1)を構成する下流側の次の構成部材に接続するための接続部(24)を備える。
接続部(24)としては、開口構造(23)より上部側(気体の流れの下流側)であれば、管状又は容器状構造(22)の管壁のいずれの位置に形成させることも可能である。例えば、管状又は容器状構造(22)の管壁のいずれかに開口部を設けて、当該開口部を接続部(24)とすることが可能である。
接続部(24)としては、管状又は容器状構造(22)の上端(気体の流れの最も下流側)に位置することが好適である。例えば、管状又は容器状構造(22)の中空構造の上端(気体の流れの最下流)が開放構造である場合には、その開口部をそのまま接続部(24)とすることが可能である。
また、接続部(24)としては、管状又は容器状構造(22)が上端壁(最末端の壁)を有する場合には、当該末端の壁に開口部を設けて、当該開口部を接続部(24)とすることが可能である。
【0059】
接続部(24)としては、本発明に係るシステム(1)を構成する下流側の次の構成部材との接続に適した構造等を備えた構造とすることも可能である。例えば、気密性を確保するためのルアーコネクター等を介した係合係止構造、螺旋溝を備えた構造等を採用することが可能である。また、ゴム等の軟樹脂製の被覆部材で接続部分を被覆して、接続部(24)と下流側の管構造とを接続する態様とすることも可能である。また、金属や樹脂等の針状部材を穿孔して装着可能な密着性を有する軟樹脂製の部材を管状又は容器状構造(22)の壁の開口部に埋め込み、当該軟樹脂製の部材の部分を接続部(24)とする態様も可能である。
【0060】
ガス捕集管又はガス捕集容器(2)は、管状又は容器状構造(22)の外壁の中間部や上側部分は、土壌挿入の際の把持部として利用することができる。また、管状又は容器状構造(22)の上側の外壁に、グリップや取手等の把持部を備える構造とすることも可能である。
【0061】
[フィルター部]
本発明に係るシステム(1)は、土壌中から捕集された気体に含まれる微粒子や粉塵等を除去するために、ガス捕集部(2)の下流側にフィルター構造を備える態様とすることが好適である。
当該フィルター構造としては、ガス捕集部の管状又は容器状構造(22)の内部に配置する態様も可能であるが、ガス捕集部(2)とは別途の構成部材として、ガス捕集部(2)の下流側にフィルター部(3)を設ける態様が可能である。
即ち、本発明に係るシステム(1)としては、前記ガス捕集部(2)と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように通気が可能なように接続されたフィルター部(3)を構成部材として含む態様が好適である。
フィルター部(3)の接続位置としては、ガス捕集部(2)の下流側の位置であって、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)又は揮発性化合物吸着剤(53)の上流側であれば、任意のいずれかの位置に接続して配設することが可能である。好ましくは、除湿部(4)が土壌からの微粒子等で汚れるのを防ぐために、除湿部(4)よりも上流側に接続して配設することが望ましい。
また、本発明に係るシステム(1)では、フィルター部(3)を2以上配設する態様も可能である。例えば、複数のフィルター部(3)を異なる任意の位置に配設する態様も可能である。
【0062】
フィルター部(3)の態様としては、気体流入口と気体排出口を備えた容器状又は管状の構造体(32)に、通気性を有し且つ微粒子や粉塵等の除去が可能であるフィルター(31)等を充填して配置した構成部材を挙げることができる。当該構造においては、気体流入口からフィルター部の容器状又は管状構造体(32)に導入された気体は、フィルター(31)を通過する過程で微粒子や粉塵等が物理的に取り除かれ、気体排出口を介してフィルター部(3)の下流に接続された次の構成部材に清浄化された気体を供給することが可能となる。
【0063】
フィルター部(3)は、容器状又は管状構造体(32)の気体流入口と気体排出口の間のいずれかの位置にフィルター素材(31)を充填配置してなる。好適には、容器状又は管状構造体(32)の気体流入口と気体排出口の間の気流の流れを妨げるようにフィルター素材(31)を充填配置してなる。
フィルター部(3)に充填配置されるフィルター素材(31)としては、通常のフィルター素材を使用することが可能である。例えば、ポリプロピレン系、ポリカーボネート系、グラス系、等の材質のフィルター素材を用いることが可能である。フィルター(31)の形状としては特に制限はないが、繊維状、フィルター状、ディスク状、等の形状のものを好適に挙げることができる。一態様としては、物理的な粒子の除去作用と目詰まり等での閉塞防止および揮発性ガスに及ぼす影響が少ないなどの観点から、繊維フィルター(特にはガラス繊維フィルター)を用いる態様が好適である。
フィルター部(3)の容器状又は管状構造体(32)の一態様としては、気体流入口と気体排出口を備え且つ壁面の気密性が確保された容器状又は管状の構造体を挙げることができる。好ましくは、壁面構造が部材の物理的な支持体となっている容器状又は管状の構造体を挙げることができる。また、チューブ状やフィルムバッグ状の態様を挙げることもできる。
容器状又は管状構造体(32)を構成する材質としては、特に制限はないが、気体非透過性や物理的強度等に優れた材質のものを用いることが好適である。例えば、上記したガス捕集部の管状又は容器状構造(22)と同様の材質を採用することが可能である。
【0064】
[除湿部]
本発明に係るシステム(1)では、検出対象である揮発性化合物が疎水性傾向を示す化合物が多いため、土壌中から捕集された気体に含まれる水蒸気の濃度を揮発性化合物の検出に支障のない濃度に低減させることが望ましい。そのため、本発明に係るシステム(1)としては、検出感度の向上の観点から、除湿部(4)を構成部材として含む態様が好適である。
即ち、本発明に係るシステム(1)としては、ガス捕集管(2)の下流側に直接に、又は、フィルター部(3)等の他の構成部材を介して、接続配置された除湿部(4)を構成部材として含むことが好適である。
【0065】
本発明に係るシステム(1)では、除湿部(4)は、前記ガス捕集部(2)と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気可能なように接続された容器状又は管状の構造(42)を含む部材であって、当該除湿部の内部の気体に含まれる水蒸気を除湿可能な部材である。
除湿部(4)の気体流入口から除湿部(4)の本体である容器状又は管状構造体(42)に導入された気体は、容器状構造体又は管状構造体(42)を通過する過程で気体に含まれる水蒸気が除去される作用が働き、除湿された乾燥した気体が気体排出口を通過して除湿部(4)の下流に接続された次の構成部材に供給される。
本発明では除湿部(4)の態様に関して、その内部を通過する気体の水蒸気を除湿する手段に応じて異なる態様を採用することが可能である。
【0066】
(除湿作用を有する管壁を用いる態様)
本発明に係る除湿部(4)の一態様としては、気体流入口と気体排出口を備えた管状構造体(具体的には、チューブ状構造体)(42a)を備え、当該管状構造体(42a)の管壁の材質が備える選択的な水蒸気透過作用を利用して、内壁から外壁の方向に水蒸気を透過させることを可能とする除湿部(4)の態様を採用することができる。
当該態様の除湿部(4)では、管状構造体(42a)において気体流入口から気体排出口に向かって気体が通過するに伴い、導入された気体に含まれていた揮発性化合物等の高分子は壁を透過することなく管の内部に保持されながら管内を通過するところ、水蒸気分子に関しては外部環境との湿度差によって水蒸気分子が管壁を透過して外部に放出される。そのため、当該管状構造体(42a)の排出口にまで通過した気体では、その水蒸気濃度がGS/MS分析やセンサー等で揮発性化合物の検出に支障のない濃度まで低下させることが可能となる。
即ち、当該管状構造体(42a)の内壁と接触した気体中に含まれる水蒸気は、管壁の作用によって外部に選択的に除去され、内部の気体に含まれる水蒸気の除湿が達成される。
【0067】
当該態様における除湿部の管状構造体(42a)を構成する材質としては、管内の気体に含まれる揮発性化合物等を透過することなく、内外の湿度差によって水蒸気分子を内壁から外壁に透過する性質を備える材質を採用することができる。特には、非多孔質の中空糸膜の材質にて構成させた管壁を採用することが好適である。より好ましくは、フッ素系非多孔質の中空糸膜の材質にて構成させた管壁を採用することが好適である。
なお、管壁の構造としては、外壁からの水蒸気の放出を阻害するものでなければ、他の材質との複合構造とする態様も可能である。例えば、外壁を水蒸気透過が可能な樹脂製材質にて被覆して、管状構造体(42a)の物理的強度を確保した構造とすることも可能となる。また、被覆等の複合構造とする場合には、管状構造体(42a)がフレキシブルな折り曲げ等が可能なよう柔軟性を備えた材質を用いることが好適である。
【0068】
当該態様においては、除湿部の管状構造体(42a)は、その管壁の材質の作用によって除湿作用が発揮される管状構造体の形状となるため、ある程度の管長を備えた態様が好適である。例えば、15cm以上、好ましくは30cm以上の管長のものが好適である。また、管長の上限としては特に制限はないが、例えば100cm以下を挙げることができる。また、管状構造体(42a)の気体流入口と気体排出口の形成位置は、除湿部の管状構造体(42a)の両端に設けられた形状が好適である。
【0069】
当該管状構造体(42a)の形状としては、その内部の通気が可能であれば特に制限は無いが、横断面が円状、楕円状、長円状、多角状(三角状、四角状、それ以上の角状等)、丸味を帯びた略多角状等、通常の管として採用可能な中空の断面形状を挙げることができる。特には、横断面が円状である円管状の管構造のものが好適である。
管状構造体(42a)としては、管の横断面の形状が一定形状である管状構造体が好適である。特には、直径が一定の円状である円管状の管構造のものが好適である。
また、その内部の通気が確保される限りは、管の横断面の形状や面積が部分によって異なる管構造のもの、弁や隔壁等を形成させた管構造のものを用いることも可能である。
管状構造体(42a)の管幅としては、内壁の気体と接触効率を考慮すると、ある程度の細い管状であることが望ましい。一例としては、管の横断面の内壁どうしの最大幅(円管の場合は内径)が、4mm以下、好ましくは2mm以下の管幅の構造を挙げることができる。また、当該内壁どうしの最大幅(円管の場合は内径)の下限としては特に制限はないが、通気流量を考慮すると、例えば0.2mm以上、好ましくは0.5mm以上を挙げることができる。
【0070】
(除湿剤を用いる態様)
本発明に係る除湿部(4)の別の態様としては、除湿部(4)は、気体流入口と気体排出口を備えた容器状又は管状構造体(42b)を備え、当該容器状又は管状構造体(42b)に充填配置された除湿剤(43)によって水蒸気を吸着させる態様を挙げることができる。
当該態様の除湿部(4)としては、気体流入口と気体排出口を備えた容器状又は管状の構造体(42b)に、通気性を有し且つ水分の吸着が可能である除湿剤(43)を充填して配置した構成部材を挙げることができる。当該態様では、気体流入口から容器状又は管状構造体(42b)に導入された気体は、除湿剤(43)を通過する過程で水分子が物理的に吸着除去され、当該容器又は管を通過した気体の水蒸気濃度をGS/MS分析やセンサー等で揮発性化合物の検出に支障のない濃度まで低下させることが可能となる。
【0071】
当該態様の除湿部(4)では、容器状又は管状構造体の気体流入口と気体排出口の間のいずれかの位置に除湿剤(43)を配置してなる。好ましくは、容器状又は管状構造体(42b)の気体流入口と気体排出口の間の気流の流れを妨げるように除湿剤(43)を充填配置してなる態様が好適である。
当該態様にて配置される除湿剤(43)としては、高分子を吸着し難く且つ水蒸気分子を吸着する性質を示す乾燥剤を使用することが可能である。一態様としては、過塩素酸マグネシウム等を挙げることができるが、特にこれに制限されない。除湿剤(43)の形状に関する態様としては、特に制限はないが、効率的な吸着のための表面積の確保と通気の確保の観点からフィルター状、粒子状担体を充填した状態、小型のリング型円筒状担体を充填した状態、メンブレン状、ディスク状、等の態様を好適に挙げることができる。
【0072】
当該態様の除湿部(4)を構成する容器状又は管状構造体(42b)としては、一態様としては、気体流入口と気体排出口を備え且つ壁面の気密性が確保された容器状又は管状の構造体を挙げることができる。好ましくは、壁面構造が部材の物理的な支持体となっている容器状又は管状の構造体を挙げることができる。具体的には、円筒形状や角筒形状の容器状構造体を挙げることができる。また、チューブ状やフィルムバッグ状等の袋状体の態様とすることも可能である。
容器状又は管状構造体(42b)を構成する材質としては、特に制限はないが、気体非透過性や物理的強度等に優れた材質のものを用いることが好適である。例えば、上記したガス捕集部の管状又は容器状構造(22)と同様の材質を採用することが可能である。
【0073】
[揮発性化合物検出手段]
本発明に係るシステム(1)は、土壌中から捕集された気体に含まれる揮発性化合物を検出するための揮発性化合物検出手段(5)を構成部材として含む。即ち、本発明に係るシステム(1)としては、前記除湿部(4)を通過した気体に含まれる揮発性化合物、又は、前記除湿部(4)を通過した気体から揮発性化合物吸着剤に吸着された揮発性化合物、を検出可能な装置又は機器(5)を構成部材として含む。
本発明では、揮発性化合物検出手段(5)の態様に関して、その検出手段の原理に応じて異なる態様を採用することが可能である。
【0074】
(直接的に検出を行う態様)
本発明に係るシステム(1)における揮発性化合物検出手段(5)の一態様としては、上記除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物を、直接に検出することを可能とする揮発性化合物検出手段(5)を備える態様が挙げられる。
当該態様における本発明に係るシステム(1)では、上記除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物を検出するために、除湿部(4)の下流側に揮発性化合物を検出可能な装置又は機器(5)を直接に配置して備える。
即ち、当該態様における本発明に係るシステム(1)では、前記揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)が、前記除湿部(4)と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された管状又は容器状構造体(52)の内部に配置されたものであって、当該センサー部分(51)にて気体中に含まれる揮発性化合物を検出可能な装置又は機器を含む態様とすることができる。
【0075】
当該態様の揮発性化合物検出手段(5)としては、例えば、除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物の検出や測定を栽培現場等の野外で行うことを可能とする、携行又は携帯可能な小型の機器や装置を採用することができる。当該態様としてより具体的には、検出感度や測定精度を考慮すると、赤外レーザーを利用した微量ガス分析装置、膜型表面応力を利用した微量ガス成分検出装置、等を用いて行う態様を好適に挙げることができる。
当該態様では、生育中の植物の栽培現場にてリアルタイムに揮発性化合物を検出する工程を行うことが可能となる。
【0076】
当該態様における本発明に係るシステム(1)では、上記除湿部(4)から供給された気体に含まれる揮発性化合物の検出を確実にするために、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)を容器状又は管状構造体(52)の内部の空間内に配置した態様とすることが好適である。また、当該検出装置自体が小型の場合には、センサー部分(51)を含む揮発性化合物検出手段(5)の装置や機器の全体を、容器状又は管状構造体(52)の内部にそのまま配置した態様とすることも可能である。
当該態様の容器状又は管状構造体(52)は、除湿部(4)の下流側に直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続される。当該態様においては、容器状又は管状構造体(52)の気体流入口と気体排出口の間のいずれかの位置に、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)を配置することが可能である。好ましくは、容器状又は管状構造体(52)の気体流入口と気体排出口の間の気流の通り道に、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)を配置することが好適である。
【0077】
容器状又は管状構造体(52)の態様としては、気体流入口と気体排出口を備え且つ壁面の気密性が確保された容器状又は管状の構造体を挙げることができる。好ましくは、壁面構造が部材の物理的な支持体となっている容器状又は管状の構造体を挙げることができる。また、チューブ状やフィルムバッグ状の態様を挙げることもできる。
容器状又は管状構造体(52)を構成する材質としては、特に制限はないが、気体非透過性や物理的強度等に優れた材質であることが好適である。例えば、上記したガス捕集部の管状又は容器状構造(22)と同様の材質を採用することが可能である。
【0078】
(揮発性化合物吸着剤を用いる態様)
本発明に係る揮発性化合物検出手段(5)の別の態様としては、上記除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物を揮発性化合物吸着剤(53)に吸着させた後、当該吸着剤(53)に吸着された揮発性化合物を検出可能とする揮発性化合物検出手段(5)を用いる態様が挙げられる。
当該態様における本発明に係るシステム(1)では、上記除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物を検出するために、除湿部(4)の下流側に揮発性化合物吸着剤(53)を配置し、当該吸着剤(53)に吸着された揮発性化合物を検出する。
即ち、当該態様における本発明に係るシステム(1)では、除湿部(4)の下流側に揮発性化合物検出手段(5)を配設せずに、上記除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物を捕集するために、除湿部(4)の下流側に揮発性化合物吸着剤(53)を配置した態様とすることができる。
【0079】
当該態様の揮発性化合物検出手段(5)は、前記までの構成部材とは通気流路として接続されていない装置又は機器であって、前記揮発性化合物吸着剤に吸着された揮発性化合物として検出可能な装置又は機器が用いられる。
当該態様の揮発性化合物検出手段(5)としては、揮発性化合物吸着剤(53)から回収した気体から揮発性化合物を検出可能な手法であれば、如何なる手法を採用することも可能である。例えば、ガスクロマトグラフィーや質量分析装置を用いた各種手法を採用することが可能である。検出感度や測定精度を考慮すると、GC/MS等の質量分析装置を用いて行う態様が好適である。
当該態様では、栽培現場において生育中の植物の根から揮発性化合物吸着剤(53)に分析試料となる揮発性化合物を吸着させる工程を行うため、揮発性化合物検出手段(5)として用いる機器や装置等を栽培現場や屋外に持ち出す必要はない。即ち、当該態様では、揮発性化合物検出手段(5)を他の構成部材にて形成された通気管構造に接続して用いる必要がないため、当該吸着剤(53)からの揮発性化合物の加熱脱離及び分析工程を屋内に設置された装置や機器を用いて精密に行うことが可能となる。
【0080】
当該態様にて用いられる揮発性化合物吸着剤(53)としては、検出対象である揮発性化合物は疎水性傾向を示す化合物が多いことを考慮すると、疎水性を示す吸着剤(疎水性吸着剤)を用いることが感度向上の点で好適である。当該吸着剤としては、例えば、芳香族系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂、等の吸着樹脂を用いて形成された担体を挙げることができる。
また、吸着樹脂としては、これらに修飾を施した修飾樹脂を用いることも可能である。また、これらに属する2以上の化合物を用いて重合した共重合樹脂を用いることも可能である。
揮発性化合物吸着剤(53)に用いる樹脂の種類としては、上記に属する樹脂を2以上用いることも可能である。
【0081】
また、揮発性化合物吸着剤(53)としては、上記した各種疎水性樹脂を構成するポリマー自体を固相として吸着剤担体とする態様が可能である。また、固相担体としてシリカゲル、アルミナ、フロリジル、又はセルロース等を用い、これらの固相担体の表面に上記した各種疎水性樹脂を結合した吸着剤担体とする態様が可能である。
また、固相担体としてシリカゲル、アルミナ、フロリジル、又はセルロース等を用い、固相担体の表面に疎水性を示す各種官能基を結合させた吸着剤担体とする態様も可能である。当該態様としては、例えば、シリカゲルの表面に疎水性を示す各種官能基を結合させた吸着剤担体を好適に挙げることができる。また、オクタデシル基での修飾(ODS修飾、オクタデシルシリル化)されたシリカゲル担体を吸着剤担体とする態様を好適に挙げることができる。また、オクチル基、フェニル基、シアノプロピル基、アミノプロピル基等で修飾されたシリカゲル担体を吸着剤担体とする態様を挙げることができる。また、PDMS(ポリジメチルシロキサン)修飾されたシリカゲル担体を吸着剤担体とする態様を挙げることができる。
また、これらにカーボンや活性炭を含有させた吸着剤とする態様も可能である
【0082】
揮発性化合物吸着剤(53)の態様としては、疎水性化合物の吸着特性に優れ、吸着成分の加熱脱離が可能な吸着剤を選択して用いることが好適である。例えば、シリカモノリス構造(高純度シリカゲルの均一な3次元網目構造)を固相として、多孔質構造の表面を疎水性の官能基で修飾した吸着剤を好適に用いることができる。また、疎水性の吸着樹脂をそのまま担体として用いる吸着剤の態様も可能である。
揮発性化合物吸着剤(53)の態様としては、効率的な吸着のための表面積の確保の点から、粒子状担体を充填した状態、フィルター状、ディスク状、小型の円筒型リング状担体を充填した状態、等を好適に挙げることができる。
【0083】
当該態様における本発明に係るシステム(1)では、上記除湿部(4)から排出された気体に含まれる揮発性化合物の検出をより確実にするために、揮発性化合物吸着剤(53)を容器状又は管状構造体(52)の内部に配置する態様が好適である。即ち、当該態様では、揮発性化合物吸着剤(53)が、前記除湿部(4)と直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された管状又は容器状構造体(52)の内部に配置されたものとなる。
当該態様の容器状又は管状構造体(52)は、除湿部(4)の下流側に直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続されたものとなる。当該態様の場合、容器状又は管状構造体(52)の気体流入口と気体排出口の間のいずれかの位置に揮発性化合物吸着剤(53)を配置することが可能である。好適には、容器状又は管状構造体(52)の気体流入口と気体排出口の間の気流の通り道に、揮発性化合物吸着剤(53)を配置することが好適である。より好適には、容器状又は管状構造体の気体流入口と気体排出口の間の気流の流れを妨げるように、揮発性化合物吸着剤(53)を充填配置してなる態様が好適である。
【0084】
容器状又は管状構造体(52)の態様としては、気体流入口と気体排出口を備え且つ壁面の気密性が確保された容器状又は管状の構造体を挙げることができる。好ましくは、壁面構造が部材の物理的な支持体となっている容器状又は管状の構造体を挙げることができる。具体的には、円筒形状や角筒形状の容器状構造体を挙げることができる。また、チューブ状やフィルムバッグ状等の態様を挙げることもできる。
容器状又は管状構造体(52)を構成する材質としては、特に制限はないが、気体非透過性や物理的強度等に優れた材質であることが好適である。例えば、上記したガス捕集部の管状又は容器状構造(22)と同様の材質を採用することが可能である。
【0085】
[気体吸引手段]
本発明に係るシステム(1)は、接続された構成部材の下流側のいずれかの位置に気体吸引手段(6)を備える態様が好適である。即ち、本発明に係るシステム(1)は、気体吸引手段(6)を構成部材として含む態様とすることが好適である。
【0086】
本発明に係る気体吸引手段(6)は、前記接続された構成部材の末端に直接に又は他の通気可能な部材を介して通気が可能なように接続された、通気流路内の気体流動を可能とする吸引ポンプである。
本発明に係るシステム(1)における気体吸引手段(6)の接続位置としては、当該システムを構成する接続された構成部材の最も下流側の構成部材として、気体吸引手段(6)を備えることが好適である。
気体吸引手段(6)の接続位置として、より具体的には、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)又は揮発性化合物吸着剤(53)が配置された管状又は容器状構造体(52)の下流側に直接に又は他の通気可能な部材を介して、気体吸引手段(6)を接続することが好適である。
【0087】
気体吸引手段(6)は、本発明に係るシステム(1)における気体流動を駆動させるための吸引力発生手段を含む構成部材である。気体吸引手段(6)の駆動により、ガス捕集管の開口構造(23)から管内に土壌中の気体が吸引され、各種部材の内部と通気管内に気体の流れが発生し、土壌から揮発性化合物を含む気体が、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)又は揮発性化合物吸着剤(53)が配置された管状又は容器状構造体(52)の内部を通過し、最終的に気体吸引手段の排気口(61)から気体が排出される。
気体吸引手段(6)としては、吸引ポンプ、真空ポンプ、アスピレーター、減圧ポンプ、等の吸引駆動を実現できる装置や機器を用いることができる。
気体吸引手段(6)の性能としては、例えば、1~50mL/分、好ましくは5~10mL/分の吸引量の達成が可能な気体吸引手段を用いることが望ましい。
気体吸引手段(6)として、好ましくは、試料間の比較における定量性を確保する観点から、流量調整が可能な気体吸引手段を用いることが望ましい。より好ましくは、一定の気体流量が維持されるように流量制御機能を有する気体吸引手段を用いることが更に好ましい。
【0088】
[その他の構成部材]
本発明に係るシステム(1)としては、上記構成部材以外にも各種構成部材を含む態様とすることが可能である。
本発明に係るシステム(1)においては、各種構成部材間の一部又は全部を接続するために通気管(7)を用いることが可能である。通気管(7)は、その菅内での気体移動を可能とするための管状部材である。本発明に係るシステム(1)では、ガス捕集管(2)の開口構造(23)から導入された土壌気体が各種構成部材内の内部を通過して、最下流の構成部材の排出口から排気されるところ、種構成部材間の一部又は全部を接続するために通気管(7)を用いることができる。通気管(7)としては、気体非透過性や適度な物理的強度を備えたものが好適である。また、接続部位によっては、柔軟性を備えた材質のものを用いることが可能である。また、接続部位によっては針状の細い通気管を用いることも可能である。
【0089】
また、本発明に係るシステム(1)においては、各構成部材との接続に適した構造等を備えた接続部材を用いることが可能である。例えば、各部材の通気構造を接続するための係合係止構造、螺旋溝を備えた構造、気密性を確保するためのО-リング、等を用いることが可能である。また、ゴム等の軟樹脂製の被覆部材で接続部分を被覆して、接続部と下流側の管構造とを接続する態様とすることも可能である。
また、本発明に係るシステム(1)では、通気流量の調整手段として、外部からの手動操作や電気信号等によって開閉調整が可能なバルブ状構造、弁状構造(電磁弁)、栓構造等を接続して配置することも可能である。また、本発明に係るシステム(1)では、通気流量を自動的に一定に制御するための通気流量制御手段を設ける態様も可能である。
【0090】
本発明に係るシステム(1)の各構成部材間の接続態様における「他の通気可能な部材を介して」とは、例えば、上記した通気管(7)、接続部材、通気流量調整手段、通気流量制御等の部材や上記したフィルター部(3)等の部材を用いることが可能であるが、特にこれらに制限されない。
【0091】
[装置の態様]
本発明においては、上記システムの構成部材が一つの装置となるように接続されて備える装置態様とすることが可能である。即ち、本発明においては、上記に記載の植物の乾燥ストレスを診断する方法を行うために使用する装置に関する発明が含まれる。
本発明に係る植物の乾燥ストレスを検出するための装置は、ガス捕集管(2)、除湿部(4)、及び揮発性化合物検出手段(5)を構成部材として備えてなる装置である。本発明に係る装置を用いることで、栽培現場で生育中の植物の植物体を損傷することなく、非破壊にて植物の乾燥ストレスを診断することが可能となる。
【0092】
本発明に係る装置の構成部材や態様としては、上記したシステムに関する説明を参照して採用することができる。
本発明の装置として具体的には、揮発性化合物検出手段(5)として、前記除湿部(4)の下流側に直接に又は他の通気可能な部材を介して配置された、揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)を含む装置の態様を挙げることができる。当該装置の構成や態様は、上記したシステムに関する揮発性化合物検出手段(5)の態様のうち、「直接的に検出を行う態様」の記載を参照して採用することができる。
当該装置の態様では、野外等の現場で使用可能な小型の機器や装置として用いることが可能となる。また、生育中の植物の栽培現場にてリアルタイムに揮発性化合物を検出することが可能となり、植物の乾燥ストレスの診断をその場で行うことが可能となる。
【0093】
[使用態様]
本発明に係るシステム及び装置の使用態様として、以下の態様を挙げることができる。また、下記の説明において、「システム」の用語を「装置」に置き換えて読むことが可能である。
【0094】
本発明に係るシステム(1)は、診断対象となる植物の植物体の基部(82)付近の土壌にガス捕集管の先端部(21)を挿入し、ガス捕集管の開口構造(23)が根の近傍に配置される位置に埋め込んだ状態にて用いる。
本発明に係るシステム(1)では、ガス捕集管(2)を土壌に挿入する手法として、診断対象である植物の根から発生した気体を捕集可能な位置にガス捕集管の開口構造(23)を土壌中に配置した状態で用いる手法であれば、特に制限なく使用することができる。
【0095】
より詳細な使用形態としては、植物体の基部(82)から20cm以内、好ましくは10cm以内の位置にてガス捕集管の先端部(21)から垂直に挿入し、ガス捕集管の開口構造(23)又はその付近が、診断対象の植物体の根と接する又は3cm以内(好ましくは1cm以内)の極めて近い位置となるように土壌中に埋め込んだ状態で用いることが望ましい。より好適には、ガス捕集管の開口構造(23)が、診断対象の植物体の根と接する位置となるように土壌中に埋め込んだ状態で用いることが望ましい。
本発明に係るシステム(1)の使用態様としては、気体吸引手段(6)を作動させて、ガス捕集管の開口構造(23)から管内に土壌中の気体を吸引し、各種部材の内部と通気管内に気体の流れが発生させることが望ましい。特に、一定の気体流量にて一定時間の当該動作を行った場合、土壌からの気体の捕集及び揮発性化合物の検出を定量的に行うことが可能となり、試料間の比較精度が向上して好適である。
気体吸引の態様としては、土壌中からの気体を緩やかに管内に取り込む流量が好ましい。例えば、1~50mL/分、好ましくは5~10mL/分の流量の範囲で行うことが望ましい。
【0096】
本発明に係るシステムの揮発性化合物検出手段(5)として、前記除湿部(4)の下流側に直接に又は他の通気可能な部材を介して揮発性化合物検出手段のセンサー部分(51)を配置して用いる態様では、揮発性化合物の検出を生育中の植物の栽培現場にて直接行うことが可能となる。
一方、本発明に係るシステムの揮発性化合物検出手段(5)として、除湿部(4)の下流側に揮発性化合物吸着剤(53)を配置して用いる態様では、揮発性化合物吸着剤(53)に揮発性化合物を吸着させ、当該吸着剤(53)から加熱脱離等の手法により揮発性化合物を気体として回収し、当該気体から揮発性化合物の検出を行う。当該態様では、揮発性化合物検出手段(5)を他の構成部材にて形成された通気管構造に接続して用いる必要がないため、当該吸着剤(53)からの加熱脱離及び分析工程を、屋内に設置された装置や機器を用いて精密に行うことが可能となる。
【0097】
本発明に係るシステム又は装置を用いて検出された揮発性化合物の測定値は、根から放出された気体に含まれる揮発性化合物の量を反映した値であるため、本発明に係る診断方法で指標値となる「揮発性化合物の放出量」又は「揮発性化合物の放出量に基づく値」として用いることができる。
本発明では、当該システム又は装置を用いて得られた指標値を用いることによって、上記段落1.に記載のようにして植物の乾燥ストレス状態を診断することが可能となる。
【実施例
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]『根から発生する揮発性化合物と乾燥ストレスとの相関について』
ダイズに乾燥ストレスを付与した条件にて栽培を行った場合において、根から放出される揮発性化合物の検出を行った。
【0100】
(1)乾燥ストレス付与栽培
ポット栽培中のダイズ(品種:サチユタカ)の苗を準備し、潅水量を調節して根圏水分量が異なる下記各処理区での栽培を行った。
(処理区)
処理区1-1: 根圏に十分に加湿(pF値:1.7~2.0)を行って2週間の通常保湿土壌での栽培を行った(対照区:保湿区)。
処理区1-2: 根圏pF値を2.7に設定して2週間の乾燥栽培を行った(乾燥区)。
処理区1-3: 根圏が水に浸った湛水状態で2週間の栽培を行った後、処理区1-1と同様の栽培を2週間行った(湛水後保湿区)。
処理区1-4: 根圏が水に浸った湛水状態で2週間の栽培を行った後、処理区1-2と同様の栽培を2週間行った(湛水後乾燥区)。
各処理区での栽培を行った後、植物体の地上部の外観を観察したところ、地上部での外観の大きな差異は認められなかった(図1)。
【0101】
(2)揮発性化合物の検出
各処理区での栽培後の根を1L容のガラスチャンバー内に入れ、シリカモノリス構造の多孔質構造にPDMS修飾が施された吸着剤(MonoTrap RGPS TD、GLサイエンス)と伴に1時間静置することによって、根から放出された揮発性化合物を当該吸着剤に吸着させ、これを加熱脱着法を用いたGC/MS分析に供した。当該GS/MS分析は、下記の機器及び条件にて行った。
吸着剤に採集された揮発性成分(VOC)は加熱脱着ユニット(TDU、ゲステル社製)を用いて加熱脱着した。加熱脱着の条件は、40℃で30秒間保持した後、12℃/秒で240℃まで昇温して5分間保持し、スプリットレスモードでキャリアガス(ヘリウム)を流した。加熱脱着ユニットとクールドインジェクションシステムのトランスファーラインは300℃とした。昇温気化型注入口を予め-40℃に冷却し、加熱脱着時間中はソルベントベントモード、流速60ml/分で揮発性成分(VOC)をクライオフォーカスした。
加熱脱着終了後、GCの分析開始と同時に、注入口を12℃/秒で240℃まで急速昇温し、5分間保持し揮発性成分(VOC)をGC/MSシステムに導入した。
【0102】
(GS/MS分析の各種条件)
ガスクロマトグラフ質量分析計:Agilent 5973(アジレント・テクノロジー社製)
分析用カラム:DB-Wax(60m length、0.25mm i.d.、0.25μm df)
オーブン温度:40℃で1分間保持後、4℃/分で240℃まで昇温させ8分間保持
キャリアガス流量:27cm/分(コンスタントフロー)
質量分析計:m/zが20~400の範囲をスキャン
イオン化電圧:70eV
【0103】
GS/MS分析にて得られたクロマトグラムを比較して、通常の土壌保湿を行った対照区(処理区1-1)に対して乾燥区(処理区1-2)にて増加する揮発性化合物を探索した。結果を下記表及び図2~4に示した。表中の「N.D.」は、測定値が検出限界以下であることを示す。
その結果、根圏が水分不足の状態で栽培した乾燥区(処理区1-2)の植物体では、十分に土壌保湿を行った条件にて通常栽培した対照区(処理区1-1)の植物体よりも、根からガスとして放出される揮発性化合物の量が有意に多いことが示された。
詳しくは、図2~4に示す10種類の揮発性化合物の放出量に関して、十分に土壌保湿を行った条件にて栽培した対照区(処理区1-1)の植物体よりも、水分不足の状態で栽培した乾燥区(処理区1-2)の植物体において、根からガスとして放出される揮発性化合物の量が有意に多いことが示された。
また、これらの揮発性化合物の放出量は、水に浸った状態の湛水後に通常の保湿土壌での栽培を行った栽培区(処理区1-3)では、対照区(処理区1-1)と同程度以下に低い値を示した。一方、水に浸った状態の湛水後に乾燥栽培を行った栽培区(処理区1-4)では、これらの揮発性化合物の放出量は対照区(処理区1-1)より高い値を示した。
【0104】
これら10種類の揮発性化合物のうちの8種類は、1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、2-オクタノン、3-オクタノン、1-ペンテン-3-オール、ヘキサナール、3-ペンタノン(ジエチルケトン)と同定された。これらは、炭素数C5~8のアルコール類、アルデヒド類、又はケトン類に属する化合物であり、過酸化脂質の生成促進によって分解された脂質分解物であると推測された。特に、これらのうちの1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンでは、保湿条件と比較して乾燥条件で著しい増加が認められた。
また、これら10種類の揮発性化合物のうちの2種類は、RI値(保持時間指標)が1680と1748にピークを有するセスキテルペンに属する化合物と同定された。これらは、上記分析条件におけるRT値(保持時間)では、それぞれ32.46分と34.28分に相当するピークである。セスキテルペン類は、植物ホルモン等の活性化に起因する二次代謝産物である化合物が知られていることから、これらは乾燥ストレス応答に起因して発生した代謝産物であると推測された。
【0105】
以上の結果から、植物体の生育において根圏が水分不足の状態となった場合、根からの揮発性化合物の放出量が増加することが示された。植物体の乾燥ストレスと根からの揮発性化合物の放出量に相関があるという知見は、本試験によって初めて明らかになった知見である。
詳しくは、炭素数C5~8のアルコール類、アルデヒド類、及びケトン類に属する化合物が生成され、根圏が保湿状態にある栽培条件と比較して、根からのガスとしての放出量が大幅に増加することが示された。また、セスキテルペンに関しても、根圏が保湿状態にある栽培条件と比較して、根からのガスとしての放出量が大幅に増加することが示された。
これらの揮発性化合物のガス放出量の増減は、水に浸っている湛水を経た栽培条件(処理区1-3、処理区1-4)にした場合であっても、その後の時点の根圏の水分条件を反映して正確に変化することが示された。
【0106】
これらの知見から、植物の根からガスとして発生する上記揮発性化合物の量を測定して指標とすることによって、植物体の地上部では影響が確認されない初期の乾燥状態においても、根の乾燥ストレスを直接的に検出できることが示された。即ち、根から気体として発生するこれらの揮発性化合物は、植物体の受けている乾燥ストレスを直接的に診断するためのマーカーとして利用できることが明らかになった。
特に、1-ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンは、保湿条件と比較して乾燥条件で著しい増加が認められる揮発性化合物であることから、乾燥ストレスによる増加量を検出することに適しており、当該診断マーカーとして有効な指標化合物であると認められた。
【0107】
【表1】
【0108】
[実施例2]『検証実験』
上記実施例の結果について、ダイズの別品種を用いた検証を行った。
【0109】
ポット栽培中のダイズ(品種:フクユタカ)の苗を用いて、実施例1と同様にして乾燥ストレスを付与する条件での栽培を行い、根から放出される揮発性化合物の検出を行った。
(処理区)
処理区2-1: 根圏に十分に加湿(pF値:1.7~2.0)を行って2週間の通常保湿土壌での栽培を行った(対照区:保湿区)。
処理区2-2: 根圏pF値を2.7に設定して2週間の乾燥栽培を行った(乾燥区)。
【0110】
その結果、実施例1とは別の植物の栽培においても、根圏が水分不足の状態で栽培を行った乾燥区(処理区2-2)では、通常の保湿栽培を行った対照区(処理区2-1)と比較して、実施例1にて検出された10種類の揮発性化合物の根からの発生量が増加した値を示した。
当該結果から、根から気体として放出される揮発性化合物の量を指標とすることによって、植物の乾燥ストレス状態を検出できることが示された。また、当該実施例においても、実施例1にて検出された10種類の揮発性化合物を指標化合物とすることが好適であることが示された。
【0111】
[実施例3]『植物の乾燥ストレス検出システムの構築』
土壌中の植物根から揮発性化合物を捕集可能なガス捕集管を作製し、除湿チューブ、及び揮発性化合物検出手段等と組み合わせて、生育中の植物体の乾燥ストレスを直接検出可能とする検出システムを構築した。
【0112】
土壌に挿入して土壌中の気体回収が可能なガス捕集部(2)としてガス捕集管を製作し、当該部材を利用した乾燥ストレス検出システム(1)の構築を行った。当該システムの概略を図5に示した。
当該ガス捕集管(2)は、円錐状の先端部(21)を備えた横断面が円状の円管形状の管状部材である。ガス捕集管(2)は全長が12cmであり、本体である管状構造(22)は内径14mm及び外径17mmの管状部材である。ガス捕集管(2)は先端部(21)と管状構造(22)が一体成型された部材で、その壁部はガス成分を吸着せず且つ土壌挿入等に十分な物理的強度を有するポリプロピレン製の材質にて形成されてなる。
ガス捕集管(2)の下端は、土壌挿入に適した円錐形状の先端部(21)を備え、その上部の管状構造(22)の下側(先端円錐部分(21)と本体円管部分(22)の境界の上側1cmの位置)には、土壌中の気体を取り込むことが可能な開口構造(23)を3つ備える。当該開口構造(23)は、管状構造(22)の横断面から見て、管壁の円周上に等間隔(管の中心から120°間隔)にて形成された、直径5mmの小さな円状の孔構造である。
当該ガス捕集管(2)の上端の壁の中央部分には、軟樹脂製の接続部(24)が埋設されてなる。当該接続部(24)には、外部から針状の通気管(7)が挿入接続されてなる。当該通気管(7)は、ガラス繊維フィルター(31)を充填配設した樹脂製の円筒容器構造(32)にて形成されたフィルター部(3)に接続されてなる。土壌から採取された気体は、当該フィルター部(3)を通過することにより、粉塵や微粒子等が物理的に取り除かれる。
【0113】
フィルター部(3)は、除湿部(4)である除湿チューブ(42a)を介して、ガラス製の容器(52)に接続されてなる。
除湿チューブ(42a)としては、管長30cm、内径1mm、及び外径2mmの膜式乾燥チューブ(アクアドライブ、サンセップ、AGCエンジニアリング社製)を用いた。除湿チューブ(42a)の壁部分は、フッ素系非多孔質の中空糸膜の材質にて形成されてなる。当該壁を構成する材質の特性により、当該管内を気体が通過する際に、除湿チューブ(42a)に導入された気体に含まれていた揮発性化合物等の高分子は壁を透過することなく水蒸気分子が管壁を透過して外部に放出される。除湿チューブ(42a)を通過した気体は、水蒸気濃度をGS/MS分析やセンサー等で揮発性化合物の検出に支障のない濃度まで低下する。
除湿チューブ(42a)を介して接続された容器(52)の中には、揮発性化合物吸着剤(53)が充填配置されてなる。当該吸着剤(53)としては、シリカモノリス構造の多孔質構造にPDMS修飾が施された担体(Monotrap RGPS TD、GLサイエンス)が充填配置されてなる。また、別態様としては、疎水性を示す樹脂である2.6-Diphenyl-p-phenylene Oxideの多孔質ポリマー担体(TenaxTR、メルク社製)や前記疎水性を示す多孔質ポリマーにグラファイトカーボンを配合した担体(TenaxGR、メルク社製)を充填配置する態様も可能となる。
容器(52)の下流側には、更に通気管(7)が接続されてなり、当該通気管には気体吸引手段(6)である吸引ポンプが接続されてなる。
【0114】
ガス捕集管(2)は、植物体の基部(82)から横に7cm付近の根近傍にて、当該管の先端部(21)の円錐形状の頂点側から垂直方向に土壌に挿入して用いられる。ガス捕集管(2)を垂直方向に挿入した状態では、開口構造(23)は、根の一部と極めて近い位置に配置された状態となる。
当該システム(1)では、吸引ポンプ(6)を作動させて土壌中の気体を吸引することで、ガス捕集管(2)の開口構造(23)を介して、根から発生した揮発性化合物を含む気体のガス捕集を行うことが可能となる。動作時間としては、例えば、5~10mL/分の気体流量にて0.5時間の吸引を行う態様が可能である。当該捕集したガスに含まれる揮発性化合物は、容器(52)の中の揮発性化合物吸着剤(53)に吸着される。
当該システム(1)では、吸引ポンプ(6)の動作終了後、容器(52)内の揮発性化合物吸着剤(53)を1L容のガラス容器内に回収し、実施例1に記載の方法と同様にして加熱脱離法によるGS/MS分析を行うことで、根から発生した揮発性化合物を検出することが可能となる。
即ち、当該システム(1)を用いて揮発性化合物の発生量を測定することによって、対象植物の根の乾燥ストレスを検出することが可能となり、植物体の乾燥ストレス状態を診断することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明では、植物の乾燥ストレスを早期段階にて正確に診断することが可能となる。そのため、本発明では、植物栽培における水分不足による生育低下や生理障害の早期回避が可能となり、農産物等の生産性向上に繋がる技術として利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0116】
1. 植物の乾燥ストレス検出システム
【0117】
2. ガス捕集部、ガス捕集管又はガス捕集容器
21. 先端部
22. 管状又は容器状構造、管状構造
23. 開口構造
24. 接続部
【0118】
3. フィルター部
31. フィルター素材、ガラス繊維フィルター
32. 容器状又は管状構造体
【0119】
4. 除湿部
42. 容器状又は管状構造体
42a.管状構造体、除湿チューブ
42b.容器状又は管状構造体
43. 除湿剤
【0120】
5. 揮発性化合物検出手段
51. センサー
52. 容器状又は管状構造体
53. 揮発性化合物吸着剤
【0121】
6. 気体吸引手段、吸引ポンプ
61. 排気口
【0122】
7. 通気管
【0123】
8. 植物体
81. 茎及び葉(地上部)
82. 植物体の基部
83. 根(地下部)
【0124】
9. 土壌
図1
図2
図3
図4
図5
図6