(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
F25B 41/35 20210101AFI20231116BHJP
F25B 41/40 20210101ALI20231116BHJP
F16K 5/10 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F25B41/35
F25B41/40 A
F16K5/10 C
(21)【出願番号】P 2019209231
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 伸一
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 久
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-106686(JP,A)
【文献】特開2001-050423(JP,A)
【文献】実開平05-052449(JP,U)
【文献】実開昭61-119668(JP,U)
【文献】実開昭62-183173(JP,U)
【文献】実開平02-036667(JP,U)
【文献】特開昭51-030821(JP,A)
【文献】特開2002-174351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 5/00- 5/22
F16K 31/00-31/05
F16K 31/44-31/72
F16K 47/00-47/16
F25B 41/34-41/355
F25B 41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転軸周りに回転可能な弁体と、
前記弁体を回転させるための駆動部と、
を備え、
前記弁体は、前記ケーシング内の流路面積が前記回転軸周りの角度に応じて変化するように構成された
膨張弁であって、
前記回転軸周りの角度を横軸に取り、前記膨張弁の全開状態での前記流路面積を基準とした流路面積比を縦軸に取ったグラフ上において、前記膨張弁が全閉状態から全開状態に至るまで及び全開状態から全閉状態に至るまでの前記回転軸の前記角度が1°以上90°未満となるように構成された膨張弁。
【請求項2】
前記グラフ上において、前記角
度に対する前記流路面積比の変化率は、弁開動作及び弁閉動作の各々の少なくとも一部において1.5以上となるように構成された請求項
1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記流路面積比の前記変化率が1.5以上となる第1角度範囲が、前記全開状態となる第2角度範囲よりも大きくなるように構成された請求項
2に記載の膨張弁。
【請求項4】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転軸周りに回転可能な弁体と、
前記弁体を回転させるための駆動部と、
を備え、
前記弁体は、前記ケーシング内の流路面積が前記回転軸周りの角度に応じて変化するように構成され、
前記弁体は、貫通孔が形成された球状の弁体で構成され
た膨張弁。
【請求項5】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転軸周りに回転可能な弁体と、
前記弁体を回転させるための駆動部と、
を備え、
前記弁体は、前記ケーシング内の流路面積が前記回転軸周りの角度に応じて変化するように構成され、
前記弁体は貫通孔が形成され、
前記貫通孔は、前記回転軸を含む平面上に位置し前記弁体の回転方向に対して直交する中心線に対して左右対称の形状を有す
る膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルを構成する冷凍システムや、ヒートポンプサイクルを構成するヒートポンプシステムにおいては、冷媒などの熱交換媒体が流れる流路に減圧用として膨張弁が用いられる。膨張弁の種類として、手動膨張弁、温度式膨張弁、電子式膨張弁等がある。温度式膨張弁は、スプリングが内蔵され、蒸発器に設けられた感温筒で蒸発した熱交換媒体の温度を感知し、その温度に応じた熱交換媒体の圧力がスプリングに付加されることで、温度に応じた流量に制御できる。電子式膨張弁は、システムの負荷に合わせて熱交換媒体の流量を制御可能なリニア式と、特許文献1に開示された開閉式(オンオフ式)とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手動膨張弁、温度式膨張弁及びリニア式の電子式膨張弁は、弁体の動作が流路を瞬間的に開閉するものではないので、膨張弁の下流側配管内で、冷媒などの熱交換媒体は液相とガス相とに分かれた二相流となる。二相流になると、液相部分は顕熱熱交換だけでなく熱交換量が大きい潜熱熱交換が起こるが、ガス相部分は顕熱熱交換のみしか起こらないので、膨張弁の下流側に設けられた蒸発器内で熱交換効率が減少する。
【0005】
他方、開閉式の電子式膨張弁は、瞬間的な流路開閉が可能であるので、下流側配管内で熱交換媒体の液相が管壁全面に接して流れる環状流、又は液相と気相とが分離せずに混ざり合った状態となる噴霧流となる。環状流又は噴霧流になると、配管の内壁全面が常に濡れた状態になるため、管壁全面で顕熱熱交換だけでなく潜熱熱交換が起こる。従って、膨張弁の下流側に設けられた蒸発器で熱交換効率が増大し冷却能力を向上できる。
しかし、開閉式の電子式膨張弁では、流路の開閉が瞬間的に起こるため、弁閉時に生じる急激な圧力変動によって液ハンマが起こりやすく、液ハンマの衝撃で配管や配管支持部材等に漏れや破損が起こるおそれがある。また、開閉式の場合、弁座に対する弁体の開閉回数が多くなり、弁体と弁座との接触及び離隔が繰り消されると、弁体や弁座等の消耗が進む、等の問題がある。
【0006】
本開示は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、下流側の配管内で環状流や噴霧流を形成可能で、かつ液ハンマの発生を抑制可能な膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る膨張弁は、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転軸周りに回転可能な弁体と、前記弁体を回転させるための駆動部と、を備え、前記弁体は、前記ケーシング内の流路面積が前記回転軸周りの角度に応じて変化するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る膨張弁によれば、弁開動作時に膨張弁の下流側配管内で環状流又は噴霧流を形成できると共に、弁閉動作時に液ハンマの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】一実施形態に係る膨張弁(弁開動作時)の縦断面図である。
【
図1B】一実施形態に係る膨張弁(弁閉動作時)の縦断面図である。
【
図2】配管内の熱交換媒体の流れの挙動を示す説明図である。
【
図3】一実施形態に係る回転軸周りの角度に対する弁開度を示すグラフである。
【
図4】一実施形態に係る膨張弁の弁体の向きを示す平面視の説明図である。
【
図6】一実施形態に係る膨張弁の弁体の向きを示す平面視の説明図である。
【
図8】一実施形態に係る回転軸周りの角度に対する弁開度を示すグラフである。
【
図9】一実施形態に係る膨張弁の弁体の向きを示す平面視の説明図である。
【
図11】一実施形態に係る膨張弁の弁体の向きを示す平面視の説明図である。
【
図13】一実施形態に係る回転軸周りの角度に対する弁開度を示すグラフである。
【
図14】一実施形態に係る膨張弁の貫通孔の全開時の形状を示す説明図である。
【
図15】一実施形態に係る膨張弁の貫通孔の全閉時の形状を示す説明図である。
【
図16】一実施形態に係る熱利用システムの系統図である。
【
図17】従来のオンオフ弁の弁開度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1A及び
図1Bは一実施形態に係る膨張弁10を示す正面視断面図であり、
図1Aは弁開動作時を示し、
図1Bは弁閉動作時を示す。膨張弁10は、ケーシング12の内部に弁体14が内蔵され、弁体14は、ケーシング12の内部で回転軸16を中心として回転軸16の軸線周りに回転可能に構成されている。回転軸16はケーシング12に形成された貫通孔12aからケーシング12の外部に延在し、ケーシング12の外部で弁体14を回転させるための駆動部18に接続されている。弁体14は、ケーシング12内の流路面積が回転軸16の軸線周りの角度に応じて変化するように構成されている。ケーシング12には、熱交換媒体Fmが流入する上流側配管22及び下流側配管24が接続されている。熱交換媒体Fmは、上流側配管22では通常管内全域が液相になっている。
【0012】
このような構成によれば、流路面積が回転軸16の軸周りの角度に応じて変化するように構成されているため、弁開動作時に環状流又は噴霧流を形成可能な流路面積の変化率に調整可能である。また、弁閉動作時には、オンオフ式のように、瞬間的な閉動作とならないため、液ハンマの発生を抑制できる。これによって、冷凍サイクルを構成する冷凍システムや、ヒートポンプサイクルを構成するヒートポンプシステムにおいて、膨張弁10が蒸発器の上流側に設けられたとき、該蒸発器において下流側配管24を流れる熱交換媒体Fmと下流側配管24の外側に存在する媒体との熱交換量を増加できるため、蒸発器の冷却能力を向上できる。また、液ハンマの衝撃で配管や配管支持材等に漏れや破損が発生するのを抑制できる。さらに、弁体と弁座との接触及び離隔が繰り返される構成ではないので、弁体や弁座等の消耗を抑制できる。
【0013】
図2は、配管内の熱交換媒体Fmの幾つかの挙動を示す図である。二相流は、配管内で熱交換媒体Fmが上下にガス相Gと液相Lとにはっきりと分かれている。液相Lは配管の外側媒体との間で潜熱熱交換と顕熱熱交換とが起こり、熱交換量は多くなるが、ガス相Gは顕熱熱交換だけが起こるので熱交換量は低下する。環状流は、配管の内壁に全周に亘り液相Lが形成される。噴霧流は、配管内全域でガス相Gと細粒状の液相Lとが入り混じった状態となっており、配管内壁の全面が濡れた状態となっている。従って、環状流及び噴霧流では、管外側媒体との間で配管全体で潜熱熱交換と顕熱熱交換とが起こり、熱交換量が多くなる。
【0014】
一実施形態では、
図1A及び
図1Bに示すように、弁体14は、熱交換媒体Fmを流す流路を形成するための貫通孔20が形成された球状の弁体で構成されている。所謂ボール弁と称される構成を有し、ケーシング12の内壁面12c及び12dと貫通孔20との位置関係で流路が形成される。内壁面12cは上流側配管22が形成する熱交換媒体Fmの流路に連通する流路を形成し、内壁面12dは下流側配管24が形成する熱交換媒体Fmの流路に連通する流路を形成する。この球状の弁体14を回転軸周りに回転させると、回転軸周りの角度に応じてケーシング12内の流路面積を変化させることができ、流路面積の変化率の調整を行うことができる。こうして、流路面積の変化率の調整を行うことで、膨張弁10の下流側で環状流又は噴霧流の形成が可能になると共に、弁開閉時に液ハンマの発生を抑制できる。
【0015】
一実施形態では、駆動部18は、例えば、インバータ付きモータで構成され、インバータによって回転軸16の回転速度を制御可能に構成されている。また、
図1A及び
図1Bに示す実施形態では、ケーシング12の下部に貫通孔12bが形成され、貫通孔12bには弁体14と一体の回転軸26が挿入され、回転軸26はケーシング12によって回転自在に支持される。また、貫通孔12bは液抜き孔として兼用される。
【0016】
幾つかの実施形態では、
図3、
図8及び
図13に示すように、回転軸16周りの角度を横軸に取り、膨張弁10の全開状態での流路面積を基準とした流路面積比を縦軸に取ったグラフ(以下「弁開度グラフ」とも言う。)上において、膨張弁10が全閉状態から全開状態に至るまでの弁開動作時及び全開状態から全閉状態に至るまでの弁閉動作時において、回転軸16周りの角度が1°以上90°未満となるように構成されている。これによって、弁開動作時においては、膨張弁10の下流側配管24内で熱交換媒体Fmが環状流又は噴霧流を形成可能であり、かつ流路遮蔽時に流路が瞬間的に閉鎖されないために液ハンマの発生を抑制できる。
【0017】
図3、
図8及び
図13に示す実施形態において、弁開度グラフの縦軸は、弁が全閉状態のときを弁開度0%とし、全開状態のときを弁開度100%としている。横軸の回転軸周りの角度は、弁開度100%のときを0°として、360°で1回転する。各図は、夫々貫通孔20の横断面形状が異なるボール弁を用いた場合の弁開度グラフを示している。
【0018】
図4~
図7は、
図3に示す弁開度グラフを得ることができる膨張弁の構成を示す。この膨張弁は貫通孔20(20a)を有する弁体14を備えている。
図4及び
図6は、平面視における貫通孔20(20a)の向きを示しており、
図4は、回転軸周りの角度が0°(360°)及び180°のときの向きを示し、
図6は、回転軸周りの角度が90°及び270°のときの向きを示している。
図5は
図4中のV方向から視た図であり、
図7は
図6中のW方向から視た図である。
図5に示すように、貫通孔20(20a)の横断面形状は、縦長の長円形を有している。また、回転軸16を含む平面上に位置し弁体14の回転方向に対して直交する中心線、即ち、回転軸16の軸線上にある中心線Cに対して左右対称の形状を有している。
【0019】
図9~
図11は、
図8に示す弁開度グラフを得ることができる膨張弁の構成を示す。この膨張弁は貫通孔20(20b)を有する弁体14を備えている。
図9及び
図11は、平面視における貫通孔20(20b)の向きを示しており、
図9は、回転軸周りの角度が0°(360°)及び180°のとき、
図11は、回転軸周りの角度が90°及び270°のときを示している。
図10は
図9中のX方向から視た図であり、
図12は
図11中のY方向から視た図である。
図10に示すように、貫通孔20(20b)の横断面形状は、横長の長円形を有し、中心線Cに対して左右対称の形状を有している。
【0020】
図14及び
図15は、
図13に示す弁開度グラフを得ることができる膨張弁の構成を示す。この膨張弁は貫通孔20(20c)を有する弁体14を備えている。なお、本実施形態では、上記実施形態の
図9及び
図11に相当する図は省略されている。
図14は、全開状態のときに上流側配管22の方向から視た貫通孔20(20c)の形状を示し、
図15は、全閉状態のときに上流側配管22の方向から視た貫通孔20(20c)の形状を示している。貫通孔20(20c)は、横断面が横長の長方形を有し、中心線Cに対して左右対称の形状を有している。
【0021】
図3~
図15に示す幾つかの実施形態では、夫々
図3、
図8及び
図13に示す弁開度グラフのように、流路面積の変化率を弁体の回転によって調整できる。このように、流路面積の変化率が調整可能であるため、弁開動作時には下流側で熱交換媒体Fmが環状流又は噴霧流を形成でき、これによって、下流側配管24に設けられた蒸発器の冷却能力を向上できる。また、弁閉動作時には流路が瞬間的に閉鎖されないために液ハンマの発生を抑制できる。
【0022】
図17は、従来の開閉式(オンオフ式)の電子式膨張弁の弁体の開閉動作を示すグラフであり、
図3及び
図8等と同様に、横軸に回転軸周りの角度を取り、縦軸に弁開度を取っている。この膨張弁では瞬間的に開閉動作が行われるため、弁開動作時及び弁閉動作時のラインは垂直になっている。この弁動作では、弁開動作時に下流側で熱交換媒体Fmの環状流又は噴霧流を形成できるが、弁閉動作時に生じる急激な圧力変動により液ハンマが発生するおそれがある。
【0023】
一実施形態では、
図3、
図8及び
図13に示す弁開度グラフにおいて、回転軸周りの角度に対する流路面積比の変化率は、弁開動作及び弁閉動作の各々の少なくとも一部において、[流路面積の変化分/回転軸周りの角度の変化分]が1.5以上となるように構成されている。この構成は、弁開度グラフにおいては、流路面積比の変化率を表す曲線の傾きによって表される。これによって、弁開動作時においては下流側配管24内で環状流又は噴霧流をより確実に形成可能であり、かつ弁閉動作時に瞬間的に流路が閉塞されないため、液ハンマの発生を抑制できる。
【0024】
一実施形態では、前述のように、貫通孔20(20a、20b、20c)は、中心線Cに対して左右対称の形状を有する。これによって、弁体14の開動作過程と閉動作過程とにおいて、回転軸周りの角度に対する流路面積の変化率を同一とすることができる。理想的には、開動作過程では、上記変化率を高めることで、環状流又は噴霧流の形成が可能になり、閉動作過程では、上記変化率を低くすることで、液ハンマの発生を抑制できる。しかし、貫通孔20の横断面形状は、回転軸周りの角度が180°毎に弁体14の回転方向に対して逆転するため、次の開動作過程では前回の閉動作過程の変化率となってしまい、環状流又は噴霧流を形成できなくなってしまう。逆に、次の閉動作過程では前回の開動作過程の変化率となってしまい、液ハンマが発生するおそれがある。
【0025】
これに対し、本実施形態では、貫通孔20が中心線Cに対して左右対称の形状を有するため、弁体14の開動作過程と閉動作過程とで上記変化率を同一にできる。従って、開動作過程及び閉動作過程ともに次の弁動作過程でも上記変化率が変わらないため、上記変化率を、開動作過程で環状流又は噴霧流の形成が可能で、かつ閉動作過程で液ハンマの発生を抑制可能な変化率に設定することで、常にこれらの作用効果を得ることができる。本実施形態では、弁体14の形状は球状に限定されない。
【0026】
なお、好ましくは、貫通孔20が全閉状態から全開状態に至るまで及び全開状態から全閉状態に至るまでの回転軸16周りの角度が1~10°、さらに好ましくは、1~5°となるように構成する。流路面積比の変化率が常上記数値範囲内であるとき、貫通孔20の下流側配管24で確実に環状流又は噴霧流を形成できると共に、弁閉動作時には流路が瞬間的に閉鎖されないために液ハンマの発生を抑制できる。
【0027】
一実施形態では、
図3及び
図8の弁開度グラフに示すように、流路面積比の変化率が1.5以上となる角度範囲A(第1角度範囲)が、全開状態となる角度範囲B(第2角度範囲)よりも大きくなるように構成されている。このように、角度範囲Bを狭くすることで、流路面積比が小さいために二相流が発生しやすい角度範囲Bで二相流が発生するのを抑制できる。
【0028】
図16は、一実施形態に係る熱利用システム30を示す系統図である。熱利用システム30は、熱交換媒体Fmが循環する循環路32と、循環路32に設けられた上記構成の膨張弁10を含む熱交換サイクル構成機器と、を備える。熱利用システム30は、膨張弁10を備えるため、膨張弁10の弁開動作過程で膨張弁10の下流側の配管内で熱交換媒体Fmの環状流又は噴霧流を形成可能であり、かつ弁閉動作過程で液ハンマの発生を抑制できる。これによって、膨張弁10の下流側配管に設けられた蒸発器の冷却能力を向上できると共に、液ハンマの衝撃で配管や配管支持材等に漏れや破損が発生するのを抑制できる。
ここで、「熱利用システム」とは、冷凍サイクルを構成する冷凍システム、又はヒートポンプサイクルを構成するヒートポンプシステムを言う。また、「熱交換サイクル」とは、冷凍サイクル又はヒートポンプサイクルを言う。
【0029】
図16に示すように、例えば、熱交換サイクル構成機器は、膨張弁10の下流側循環路32に設けられ、膨張弁10を経て減圧された熱交換媒体Fmを蒸発させ、熱交換媒体Fmの蒸発潜熱により被冷却対象媒体Ocを冷却する蒸発器34と、蒸発器34で蒸発した熱交換媒体Fmを圧縮する圧縮機36と、圧縮機36で高温高圧となった熱交換媒体Fmを冷却媒体wなどで冷却する凝縮器38を含む。蒸発器34内で熱交換媒体Fmの環状流又は噴霧流を形成できるので、被冷却対象媒体Ocの冷却能力を向上できると共に、液ハンマの衝撃で配管や配管支持材等に漏れや破損が発生するのを抑制できる。
【0030】
熱利用システム30は、蒸発器34で被冷却対象媒体Ocを冷却し、その冷熱を利用することを主目的とする場合は、冷凍サイクルを構成する冷凍システムとなり、これに加えて、凝縮器38で冷却媒体wが得た熱をも利用する場合は、ヒートポンプサイクルを構成するヒートポンプシステムとなる。
【0031】
一実施形態では、
図1A及び
図1Bに示すように、膨張弁10は、冷媒を流すための貫通孔20が形成された球状の弁体14で構成されている。そして、
図16に示すように、熱利用システム30において、膨張弁10より上流側の循環路32に止め弁40が設けられている。熱利用システム30の運転が停止しているとき、球状の弁体14では冷媒の流れを完全に止めることができない場合がある。本実施形態では、膨張弁10の上流側に止め弁40が設けられているため、運転停止時に止め弁40によって循環路32を完全に閉塞できる。
【0032】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0033】
(1)一態様に係る膨張弁(例えば、
図1A及び
図1Bに示す膨張弁10)は、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転軸周りに回転可能な弁体と、前記弁体を回転させるための駆動部と、を備え、前記弁体は、前記ケーシング内の流路面積(例えば、
図1に示す貫通孔20の横断面によって形成される流路面積)が前記回転軸周りの角度に応じて変化するように構成されている。
【0034】
このような構成によれば、流路面積が回転軸周りの角度に応じて変化するように構成されているため、弁開動作時に環状流又は噴霧流を形成可能な流路面積の変化率に調整可能である。また、弁閉動作時には、オンオフ式の膨張弁のように、瞬間的な閉動作とならないため、液ハンマの発生を抑制できる。これによって、冷凍システムやヒートポンプシステムにおいて、上記構成の膨張弁が蒸発器(例えば、
図16に示す蒸発器34)の上流側に設けられたとき、弁開動作時に熱交換媒体と配管の外側に存在する媒体との熱交換量を増加でき、蒸発器の冷却能力を向上できると共に、弁閉動作時に液ハンマの衝撃で配管や配管支持材等に漏れや破損が発生するのを抑制できる。また、弁体と弁座との接触及び離隔が繰り返される構成ではないので、弁体や弁座等の消耗を抑制できる。
【0035】
(2)別な態様に係る膨張弁は、(1)に記載の膨張弁であって、前記回転軸周りの角度を横軸に取り、前記膨張弁の全開状態での前記流路面積を基準とした流路面積比を縦軸に取ったグラフ(例えば、
図3に示す弁開度グラフ)上において、前記膨張弁が全閉状態から全開状態に至るまで及び全開状態から全閉状態に至るまでの前記回転軸の前記角度が1°以上90°未満となるように構成されている。
【0036】
このような構成によれば、上記グラフ上で膨張弁が全閉状態から全開状態に至るまでの弁開動作及び全開状態から全閉状態に至るまでの弁閉動作の回転軸の角度が1°以上90°未満となるように構成されているため、膨張弁の下流側配管内で環状流又は噴霧流(例えば、
図2に示す環状流又は噴霧流)を形成可能であり、かつ流路閉鎖時に液ハンマの発生を抑制できる。
【0037】
(3)さらに別な態様に係る膨張弁は、(2)に記載の膨張弁であって、前記グラフ上において、前記角度に対する前記流路面積比の変化率は、弁開動作及び弁閉動作の各々の少なくとも一部において1.5以上となるように構成されている。
【0038】
このような構成によれば、上記グラフ上で回転軸周りの角度に対する流路面積比の変化率は、少なくとも一部において1.5以上となるように構成されているため、膨張弁の下流側の配管内で環状流又は噴霧流と、流路閉鎖時の液ハンマの抑制とをさらに確実に行うことができる。
【0039】
(4)さらに別な態様に係る膨張弁は、(3)に記載の膨張弁であって、前記流路面積比の前記変化率が1.5以上となる第1角度範囲(例えば、
図3に示す角度範囲A)が、前記全開状態となる第2角度範囲(例えば、
図3に示す角度範囲B)よりも大きくなるように構成されている。
【0040】
このような構成によれば、第2角度範囲を第1角度範囲より小さくすることで、流路面積比の変化率が小さい第2角度範囲において、膨張弁の下流側配管内で二相流(例えば、
図2に示す二相流)が形成されるのを抑制できる。
【0041】
(5)さらに別な態様に係る膨張弁は、(1)乃至(4)の何れかに記載の膨張弁であって、前記弁体は、貫通孔(例えば、
図1A及び
図1Bに示す貫通孔20)が形成された球状の弁体で構成されている。
【0042】
このような構成によれば、膨張弁の弁体が流路としての貫通孔が形成された球状の弁体で構成され、この球状の弁体を回転軸周りに回転させるため、流路面積の変化率の調整を精度良く行うことができる。
【0043】
(6)さらに別な態様に係る膨張弁は、(1)乃至(5)の何れかに記載の膨張弁であって、前記弁体は貫通孔が形成され、前記貫通孔は、前記回転軸を含む平面上に位置し前記弁体の回転方向に対して直交する中心線(例えば、
図5に示す中心線C)に対して左右対称の形状を有する。
【0044】
このような構成によれば、全閉状態から全開状態までの弁開動作の流路面積の変化率と全開状態から全閉状態までの弁閉動作の流路面積の変化率を同一にすることができる。該変化率として開動作時に環状流又は噴霧流を形成可能で、かつ閉動作時に液ハンマを抑制可能な変化率を選択することで、環状流又は噴霧流の形成と液ハンマの抑制とが可能になる。
【符号の説明】
【0045】
10 膨張弁
12 ケーシング
12a、12b 貫通孔
12c、12d 内壁面
14 弁体
16、26 回転軸
18 駆動部
20(20a、20b、20c) 貫通孔
22 上流側配管
24 下流側配管
30 熱利用システム
32 循環路
34 蒸発器
36 圧縮機
38 凝縮器
40 止め弁
A 角度範囲(第1角度範囲)
B 角度範囲(第2角度範囲)
C 中心線
Fm 熱交換媒体
G ガス相
L 液相
Oc 被冷却対象媒体
w 冷却媒体