(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】光電変換素子、撮像素子、光センサ、光電変換素子用材料
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20231116BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20231116BHJP
H10K 39/32 20230101ALI20231116BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20231116BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
H10K39/32
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2021527596
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022336
(87)【国際公開番号】W WO2020261938
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019119759
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 知昭
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 孝一
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061821(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/126225(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0319473(US,A1)
【文献】国際公開第2015/147129(WO,A1)
【文献】特開2013-235903(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102206225(CN,A)
【文献】国際公開第2019/093188(WO,A1)
【文献】FENG, Huanran et al.,“Investigation of the effect of large aromatic fusion in the small molecule backbone on the solar cell device fill factor”,Journal of Materials Chemistry A,2015年,Vol. 3, No. 32,pp. 16679-16687,DOI: 10.1039/c5ta01735a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 10/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性膜、光電変換膜、及び、透明導電性膜をこの順で有する光電変換素子であって、
前記光電変換膜が、式(1)で表される化合物、及び、n型半導体材料を含む、光電変換素子。
【化1】
式(1)中、X
1は、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NR
a1-を表す。
Y
a1及びZ
a1の一方が、-CR
a2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NR
a3-を表す。
Y
a2及びZ
a2の一方が、-CR
a2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NR
a3-を表す。
Q
1~Q
4は、それぞれ独立に、-CR
a4=又は-N=を表す。
R
a1は、それぞれ独立に、アリール基、ヘテロアリール基及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
R
a2~R
a4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、式(R)で表される基を表す。
-Ar
X-Ar
Y (R)
式(R)中、Ar
Xは、Ar
Y以外にも置換基を有してもよい単環の芳香環基を表す。
Ar
Yは、置換基を有してもよい芳香環基を表す。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の光電変換素子。
【化2】
式(2)中、X
1は、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NR
a1-を表す。
Y
a1及びZ
a1の一方が、-CR
a2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NR
a3-を表す。
Y
a2及びZ
a2の一方が、-CR
a2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NR
a3-を表す。
R
a1は、それぞれ独立に、アリール基、ヘテロアリール基及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
R
a2~R
a3及びR
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、前記式(R)で表される基を表す。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【化3】
式(3)中、X
2は、-O-、-S-、又は、-Se-を表す。
Y
b1及びY
b2は、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は、-Se-を表す。
R
1~R
6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、前記式(R)で表される基を表す。
【請求項4】
X
2、Y
b1、及び、Y
b2が、-S-を表す、請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物の分子量が400~900である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換膜が、前記式(1)で表される化合物と前記n型半導体材料とが混合された状態で形成されるバルクへテロ構造を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記導電性膜と前記透明導電性膜との間に、前記光電変換膜の他に1種以上の中間層を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記n型半導体材料が、フラーレン及びその誘導体からなる群より選択されるフラーレン類を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する、撮像素子。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する、光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、撮像素子、光センサ、及び、光電変換素子用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光電変換膜を有する素子(例えば、撮像素子)の開発が進んでいる。
例えば、特許文献1において、所定の化合物を含む光電変換層を有する光電変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、撮像素子及び光センサ等の性能向上の要求に伴い、これらに使用される光電変換素子に求められる諸特性に関してもさらなる向上が求められている。
例えば、製造上の要請から、光電変換素子は、光電変換膜を蒸着製造した際に、光電変換膜の組成比が変動した場合でも安定した性能(特に、暗電流特性)を実現できることが求められている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、光電変換素子における光電変換膜を蒸着製造した際に、光電変換膜の組成比が変動した場合でも安定した性能を示す光電変換素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、撮像素子、光センサ、及び、光電変換素子用材料を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、下記構成により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
〔1〕
導電性膜、光電変換膜、及び、透明導電性膜をこの順で有する光電変換素子であって、
上記光電変換膜が、式(1)で表される化合物、及び、n型半導体材料を含む、光電変換素子。
〔2〕
上記式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物である、〔1〕に記載の光電変換素子。
〔3〕
上記式(1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物である、〔1〕又は〔2〕に記載の光電変換素子。
〔4〕
式(3)中、X2、Yb1、及び、Yb2が、-S-を表す、〔3〕に記載の光電変換素子。
〔5〕
上記式中、Ar1及びAr2が、それぞれ独立に、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、式(R)で表される基を表す、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の光電変換素子。
〔6〕
上記式(1)で表される化合物の分子量が400~900である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の光電変換素子。
〔7〕
上記光電変換膜が、上記式(1)で表される化合物と上記n型半導体材料とが混合された状態で形成されるバルクへテロ構造を有する、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の光電変換素子。
〔8〕
上記導電性膜と上記透明導電性膜との間に、上記光電変換膜の他に1種以上の中間層を有する、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の光電変換素子。
〔9〕
上記n型半導体材料が、フラーレン及びその誘導体からなる群より選択されるフラーレン類を含む、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の光電変換素子。
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の光電変換素子を有する、撮像素子。
〔11〕
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の光電変換素子を有する、光センサ。
〔12〕
式(1)で表される化合物を含む、光電変換素子用材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光電変換素子における光電変換膜を蒸着製造した際に、光電変換膜の組成比が変動した場合でも安定した性能を示す光電変換素子を提供できる。
また、本発明によれば、撮像素子、光センサ、及び、光電変換素子用材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】光電変換素子の一構成例を示す断面模式図である。
【
図2】光電変換素子の一構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の光電変換素子の好適実施形態について説明する。
また、本明細書において、「置換基」は、特段の断りがない限り、後述する置換基Wで例示される基が挙げられる。
【0011】
(置換基W)
本明細書における置換基Wについて記載する。
置換基Wは、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及び、ヨウ素原子等)、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、及び、トリシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、及び、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基(ヘテロ環基といってもよい。)、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む。)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、及び、ボロン酸基(-B(OH)2)が挙げられる。また、上述の各基は、可能な場合、更に置換基(例えば、上述の各基のうちの1以上の基)を有してもよい。例えば、置換基を有してもよいアルキル基も、置換基Wの一形態として含まれる。
また、置換基Wが炭素原子を有する場合、置換基Wが有する炭素数は、例えば、1~20である。
置換基Wが有する水素原子以外の原子の数は、例えば、1~30である。
【0012】
また、本明細書において、特段の断りがない限り、アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6が更に好ましい。
アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び、環状のいずれであってもよい。
アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、及び、シクロペンチル基等が挙げられる。
また、アルキル基は、例えば、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、及び、トリシクロアルキル基であってもよく、これらの環状構造を部分構造として有してもよい。
置換基を有してもよいアルキル基において、アルキル基が有してもよい置換基は特に制限されず、例えば、置換基Wが挙げられ、アリール基(好ましくは炭素数6~18、より好ましくは炭素数6)、ヘテロアリール基(好ましくは炭素数5~18、より好ましくは炭素数5~6)、又は、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子又は塩素原子)が好ましい。
【0013】
また、本明細書において、特段の断りがない限り、アルコキシ基におけるアルキル基部分は上記アルキル基が好ましい。アルキルチオ基におけるアルキル基部分は上記アルキル基が好ましい。
置換基を有してもよいアルコキシ基において、アルコキシ基が有してもよい置換基は、置換基を有してもよいアルキル基における置換基と同様の例が挙げられる。置換基を有してもよいアルキルチオ基において、アルキルチオ基が有してもよい置換基は、置換基を有してもよいアルキル基における置換基と同様の例が挙げられる。
【0014】
また、本明細書において、特段の断りがない限り、アリール基は、環員数が6~18のアリール基が好ましい。
アリール基は、単環でも多環でもよい。
アリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、又は、フェナントレニル基が好ましい。
置換基を有してもよいアリール基において、アリール基が有してもよい置換基は特に制限されず、例えば、置換基Wが挙げられ、置換基を有してもよいアルキル基(好ましくは炭素数1~10)が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0015】
また、本明細書において、特段の断りがない限り、ヘテロアリール基は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、リン原子、ケイ素原子、及び/又は、ホウ素原子等のヘテロ原子を含む、単環又は多環の環構造を有するヘテロアリール基が好ましい。
上記ヘテロアリール基の環員原子中の炭素数は特に制限されず、3~18が好ましく、3~5がより好ましい。
ヘテロアリール基の環員原子中のヘテロ原子の数は特に制限されず、1~10が好ましく、1~4がより好ましく、1~2が更に好ましい。
ヘテロアリール基の環員数は特に制限されず、5~8が好ましく、5~7がより好ましく、5~6が更に好ましい。
上記ヘテロアリール基は、フリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、プテリジニル基、ピラジニル基、キノキサリニル基、ピリミジニル基、キナゾリル基、ピリダジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、トリアジニル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、インダゾリル基、イソオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピロリル基、インドリル基、イミダゾピリジニル基、及び、カルバゾリル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいヘテロアリール基において、ヘテロアリール基が有してもよい置換基は特に制限されず、例えば、置換基Wが挙げられる。
【0016】
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
本明細書において、水素原子は、軽水素原子(通常の水素原子)であってもよいし、重水素原子(二重水素原子等)であってもよい。
【0018】
本発明の光電変換素子は、導電性膜、光電変換膜、及び、透明導電性膜をこの順で有する光電変換素子であって、光電変換膜が、式(1)で表される化合物(以下、「特定化合物」とも言う)、及び、n型半導体材料を含む。
本発明の光電変換素子がこのような構成をとることで上記課題を解決できるメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
すなわち、特定化合物は、母核として中心部に特定の環が5個縮環した構造を有しており、更に上記母核の両端に芳香環基が結合している。このような特定化合物は、適度な結晶性を有しており、特定化合物及びn型半導体材料を含む光電変換膜を蒸着で製造した際に、製造される光電変換膜の組成比が変動した場合でも光電変換膜全体としての結晶状態を一定にしやすい。そのため、蒸着製造された光電変換膜の組成比が変動しても、光電変換素子の性能が安定する、と推測している。
また、特定化合物を使用して製造した光電変換膜を有する光電変換素子は耐熱性にも優れている。これは、特定化合物が有する剛直な構造に由来すると考えられている。
以下、蒸着製造された光電変換膜の組成比が変動しても光電変換素子の性能を安定させられること(単に「組成変動に対する許容性に優れる」とも言う)、及び/又は、得られる光電変換素子の耐熱性が優れること(単に「耐熱性に優れる」とも言う)を、単に「本発明の効果が優れる」とも言う。
【0019】
図1に、本発明の光電変換素子の一実施形態の断面模式図を示す。
図1に示す光電変換素子10aは、下部電極として機能する導電性膜(以下、下部電極とも記す)11と、電子ブロッキング膜16Aと、後述する特定化合物を含む光電変換膜12と、上部電極として機能する透明導電性膜(以下、上部電極とも記す)15とがこの順に積層された構成を有する。
図2に別の光電変換素子の構成例を示す。
図2に示す光電変換素子10bは、下部電極11上に、電子ブロッキング膜16Aと、光電変換膜12と、正孔ブロッキング膜16Bと、上部電極15とがこの順に積層された構成を有する。なお、
図1及び
図2中の電子ブロッキング膜16A、光電変換膜12、及び、正孔ブロッキング膜16Bの積層順は、用途及び特性に応じて、適宜変更してもよい。
【0020】
光電変換素子10a(又は10b)では、上部電極15を介して光電変換膜12に光が入射されることが好ましい。
また、光電変換素子10a(又は10b)を使用する場合には、電圧を印加できる。この場合、下部電極11と上部電極15とが一対の電極をなし、この一対の電極間に、1×10
-5~1×10
7V/cmの電圧を印加することが好ましい。性能及び消費電力の点から、印加される電圧は、1×10
-4~1×10
7V/cmがより好ましく、1×10
-3~5×10
6V/cmが更に好ましい。
なお、電圧印加方法については、
図1及び
図2において、電子ブロッキング膜16A側が陰極となり、光電変換膜12側が陽極となるように印加することが好ましい。光電変換素子10a(又は10b)を光センサとして使用した場合、また、撮像素子に組み込んだ場合も、同様の方法により電圧を印加できる。
後段で、詳述するように、光電変換素子10a(又は10b)は撮像素子用途に好適に適用できる。
【0021】
以下に、本発明の光電変換素子を構成する各層の形態について詳述する。
【0022】
<光電変換膜>
光電変換膜は、特定化合物を含む膜である。
以下、特定化合物について詳述する。
【0023】
(式(1)で表される化合物(特定化合物))
特定化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0024】
【0025】
式(1)中、X1は、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa1-を表す。
-NRa1-におけるRa1は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
上記アルキル基、上記アルキルチオ基、上記アルコキシ基、上記アリール基、及び、上記ヘテロアリール基としては、例えば、上述のアルキル基、アルキルチオ基、アルコキシ基、アリール基、及び、ヘテロアリール基をそれぞれ使用できる。
上記アルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び、環状のいずれであってもよい。上記アルケニル基の炭素数は、2~20が好ましい。上記アルケニル基が有してもよい置換基は、置換基を有してもよいアルキル基における置換基と同様の例が挙げられる。
上記アルキニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び、環状のいずれであってもよい。上記アルキニル基の炭素数は、2~20が好ましい。上記アルキニル基が有してもよい置換基は、置換基を有してもよいアルキル基における置換基と同様の例が挙げられる。
上記シリル基は、例えば、-Si(RS1)(RS2)(RS3)で表される基が挙げられる。RS1、RS2、及び、RS3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
中でも、X1は、-O-、-S-、又は、-Se-が好ましく、-S-がより好ましい。
【0026】
式(1)中、Ya1及びZa1の一方が、-CRa2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表す。
つまり、例えば、Ya1が-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表す場合、Za1は-CRa2=又は-N=を表す。
式(1)中、Ya2及びZa2の一方が、-CRa2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表す。
つまり、例えば、Ya2が-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表す場合、Za2は-CRa2=又は-N=を表す。
-CRa2=及び-NRa3-における、Ra2及びRa3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
Ra2及びRa3としては、例えば、Ra1の説明で挙げた基が同様に挙げられる。
式(1)中に、複数のRa2が存在する場合、複数存在するRa2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
式(1)中に、複数のRa3が存在する場合、複数存在するRa3はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
式(1)中における、Ya1及びZa1を含む5員環は芳香族ヘテロ環であり、Ya2及びZa2を含む5員環は芳香族ヘテロ環である。
中でも、Ya1及びYa2が、それぞれ独立に、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表し、Za1及びZa1が、それぞれ独立に、-CRa2=又は-N=を表すのが好ましい。
Ya1及びYa2が、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は、-Se-を表し、Za1及びZa1が-CRa2=を表すのがより好ましい。
Ya1及びYa2が-S-を表し、Za1及びZa1が-CRa2=を表すのが更に好ましい。
【0027】
式(1)中、Q1~Q4は、それぞれ独立に、-CRa4=又は-N=を表す。
-CRa4=におけるRa4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。
Ra4としては、例えば、Ra1の説明で挙げた基が同様に挙げられる。
式(1)中に、複数のRa4が存在する場合、複数存在するRa4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
中でも、Q1~Q4は、それぞれ独立に、-CRa4=が好ましく、-CH=がより好ましい。
【0028】
式(1)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香環基を表す。
上記芳香環基は、単環でも多環でもよい。
上記芳香環基は環員原子として1以上(好ましくは1~3)のヘテロ原子(窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、リン原子、ケイ素原子、及び/又は、ホウ素原子等)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記芳香環基の環員数は5~18が好ましい。
上記芳香環基が単環の芳香環基である場合、上記単環の芳香環基としては、例えば、ベンゼン環基、フリル環基、ピリジン環基、ピラジン環基、ピリミジン環基、ピリダジン環基、トリアジン環基、オキサゾール環基、チアゾール環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、イソオキサゾール環基、イソチアゾール環基、オキサジアゾール環基、チアジアゾール環基、トリアゾール環基、テトラゾール環基、チオフェン環基、セレノフェン環基、及び、ピロール環基が挙げられる。
多環の芳香環基は、芳香族性を有する単環同士が縮環してなる基である。多環の芳香環基において、多環の芳香環を構成するそれぞれの単環(芳香族性を有する単環)の環員原子の2以上は、多環の芳香環基を構成する他の単環(芳香族性を有する単環)の環員原子にもなっている。
上記芳香環基が多環の芳香環基である場合、上記多環の芳香環基としては、例えば、ナフタレン環基、アントラセン環基、キノリン環基、イソキノリン環基、アクリジン環基、フェナントリジン環基、プテリジン環基、キノキサリン環基、キナゾリン環基、シンノリン環基、フタラジン環基、ベンゾオキサゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ベンゾイミダゾール環基、インダゾール環基、ベンゾイソオキサゾール環基、ベンゾイソチアゾール環基、ベンゾフラン環基、ベンゾチオフェン環基、ベンゾセレノフェン環基、ジベンゾフラン環基、ジベンゾチオフェン環基、ジベンゾセレノフェン環基、チエノチオフェン環基、チエノピロール環基、ジチエノピロール環基、インドール環基、イミダゾピリジン環基、及び、カルバゾール環基が挙げられる。
【0029】
上記芳香環基が有してもよい置換基としては、例えば、置換基Wが挙げられ、中でも、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基が好ましい。
また、上記芳香環基が、更に、置換基としての芳香環基を有するのも好ましい。上記「置換基としての芳香環基」としては、例えば、上述の、単環の芳香環基及び多環の芳香環基が挙げられる。
また、芳香環基が、更に、置換基としての芳香環基を有する場合、これらの芳香環基の1以上がそれぞれ更に異なる置換基を有してもよい。また、これらの芳香環基がそれぞれ有する、上記更に異なる置換基同士が互いに結合していてもよい。つまり、これらの芳香環基同士が、その間に、更に異なる環を形成して結合していてもよい。ただし、これらの芳香環基同士の間に形成される、上記更に異なる環は、非芳香環である。
例えば、芳香環基Aが、更に、置換基としての芳香環基Bを有する場合において、芳香環基Aは更に置換基Aを有していてもよく、芳香環基Bは更に置換基Bを有していてもよい。置換基Aと置換基Bとは互いに結合して、芳香環基Aと芳香環基Bとの間に、更に異なる環(非芳香環)を形成していてもよい。
芳香環基同士が、その間に、更に異なる環(非芳香環)を形成して結合している形態の具体例としては、例えば、これらの芳香環基同士が共同してフルオレン環基を形成している形態が挙げられる。つまり、Ar1及びAr2は、例えば、フルオレン環基(9,9-ジメチルフルオレン環基のような、置換基を有するフルオレン環基であってもよい)であってもよい。
【0030】
中でも、本発明の効果がより優れる点から、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、式(R)で表される基であるのが好ましい。
【0031】
上記多環の芳香族炭化水素環基は、環員原子が全て炭素原子であればよく、上記多環の芳香族炭化水素環基が有する置換基にヘテロ原子が含まれてもよい。
上記多環の芳香族炭化水素環基の環員数は10~18が好ましい。
上記多環の芳香族炭化水素環基は、ナフタレン環基が好ましい。
【0032】
式(R)で表される基を次に示す。
-ArX-ArY (R)
式(R)中、ArXは、ArY以外にも置換基を有してもよい単環の芳香環基を表す。
上記単環の芳香環基の例は上述の通りであり、中でも、ベンゼン環基が好ましい。
ArYは、置換基を有してもよい芳香環基を表す。ArYの芳香環基の例としては、上述の単環の芳香環基、及び、上述の多環の芳香環基が挙げられ、中でも、ベンゼン環基又はベンゾチアゾール環基が好ましい。
ArXにおける単環の芳香環基と、ArYにおける芳香環基とは、互いに環員原子同士が単結合で結合している。
ArXにおける単環の芳香環基がArY以外にも有してもよい置換基、及び、ArYにおける芳香環基が有してもよい置換基としては、置換基Wが挙げられる。
ArXにおける単環の芳香環基は、ArY以外には置換基を有さないのも好ましい。
また、ArYにおける芳香環基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基が好ましい。
ただし、ArXにおける単環の芳香環基がArY以外にも有してもよい置換基と、ArYにおける芳香環基が有してもよい置換基とは、互いに結合することはない。つまり、ArXとArYとは、式(R)中に明示される単結合以外では結合しない。例えば、式(R)で表される基に、フルオレン環基は含まれない。
【0033】
特定化合物は、対称構造を有しているのも好ましい。つまり、Ya1とYa2とが同じであるのも好ましく、Za1とZa2とが同じであるのも好ましく、Q1とQ2とが同じであるのも好ましく、Q3とQ4とが同じであるのも好ましく、Ar1とAr2とが同じであるのも好ましい。
【0034】
(式(2)で表される化合物)
本発明の効果がより優れる点から、式(1)で表される化合物は、式(2)で表される化合物であるのが好ましい。
【0035】
【0036】
式(2)中、X1は、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa1-を表す。式(2)中のX1は、式(1)中のX1と同様である。
式(2)中、Ya1及びZa1の一方が、-CRa2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表す。式(2)中のYa1及びZa1は、式(1)中のYa1及びZa1と同様である。
式(2)中、Ya2及びZa2の一方が、-CRa2=又は-N=を表し、他方が、-O-、-S-、-Se-、-Te-、又は、-NRa3-を表す。式(2)中のYa2及びZa2は、式(1)中のYa2及びZa2と同様である。
式(2)中、R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。式(2)中のR1~R4は、式(1)中のRa4と同様である。R1~R4は、水素原子が好ましい。
式(2)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香環基を表す。式(2)中のAr1及びAr2は、式(1)中のAr1及びAr2と同様である。
【0037】
(式(3)で表される化合物)
本発明の効果がより優れる点から、式(1)で表される化合物は、式(3)で表される化合物であるのがより好ましい。
【0038】
【0039】
式(3)中、X2は、-O-、-S-、又は、-Se-を表す。X2は、-S-が好ましい。
式(3)中、Yb1及びYb2は、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は、-Se-を表す。Yb1及びYb2は、-S-が好ましい。
式(3)中、R1~R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよいヘテロアリール基を表す。式(3)中のR1~R4は、式(1)中のRa4と同様である。R1~R4は、水素原子が好ましい。式(4)中のR5~R6は、式(1)中のRa2と同様である。R5~R6は、水素原子が好ましい。
式(3)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香環基を表す。式(3)中のAr1及びAr2は、式(1)中のAr1及びAr2と同様である。
中でも、式(3)において、X2、Yb1、及び、Yb2が、いずれも-S-を表すのが好ましい。
【0040】
特定化合物の分子量は特に制限されず、390~1200が好ましく、400~900がより好ましい。分子量が1200以下であれば、蒸着温度が高くならず、化合物の分解が起こりにくい。分子量が390以上であれば、蒸着膜のガラス転移点が低くならず、光電変換素子の耐熱性が向上する。
特定化合物は1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。
【0041】
特定化合物は、撮像素子、光センサ、又は、光電池に用いる光電変換膜の材料として特に有用である。また、特定化合物は、着色材料、液晶材料、有機半導体材料、電荷輸送材料、医薬材料、及び蛍光診断薬材料としても使用できる。
【0042】
特定化合物は、後述のn型半導体材料とのエネルギー準位のマッチングの点で、単独膜でのイオン化ポテンシャルが-5.0~-6.0eVである化合物であるのが好ましい。
【0043】
特定化合物の極大吸収波長は特に制限されず、例えば、300~500nmの範囲にあるのが好ましい。
なお、上記極大吸収波長は、特定化合物の吸収スペクトルを吸光度が0.5~1になる程度の濃度に調整して溶液状態(溶剤:クロロホルム)で測定した値である。
【0044】
光電変換膜の極大吸収波長は特に制限されず、例えば、300~700nmの範囲にあるのが好ましい。
【0045】
以下に、特定化合物を例示する。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
<n型半導体材料>
光電変換膜は、上述した特定化合物以外の他の成分として、n型半導体材料を含む。n型半導体材料は、アクセプター性有機半導体材料(化合物)であり、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。
更に詳しくは、n型半導体材料は、上述の特定化合物と接触させて用いた場合に、特定化合物よりも電子親和力の大きい有機化合物をいう。
本明細書において、電子親和力の値としてGaussian‘09(Gaussian社製ソフトウェア)を用いてB3LYP/6-31G(d)の計算により求められるLUMOの値の反数の値(マイナス1を掛けた値)を用いる。
n型半導体材料の電子親和力は、3.0~5.0eVが好ましい。
【0053】
n型半導体材料は、例えば、フラーレン及びその誘導体からなる群より選択されるフラーレン類、縮合芳香族炭素環化合物(例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、及び、フルオランテン誘導体);窒素原子、酸素原子、及び、硫黄原子の少なくとも1つを有する5~7員環のヘテロ環化合物(例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、及び、チアゾール等);ポリアリーレン化合物;フルオレン化合物;シクロペンタジエン化合物;シリル化合物;1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸無水物;1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸無水物イミド誘導体、オキサジアゾール誘導体;アントラキノジメタン誘導体;ジフェニルキノン誘導体;バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びこれらの誘導体;トリアゾール化合物;ジスチリルアリーレン誘導体;含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体;シロール化合物;ならびに、特開2006-100767号公報の段落[0056]~[0057]に記載の化合物が挙げられる。
【0054】
中でも、n型半導体材料は、フラーレン及びその誘導体からなる群より選択されるフラーレン類を含むのが好ましい。
フラーレンは、例えば、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC80、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC96、フラーレンC240、フラーレンC540、及び、ミックスドフラーレンが挙げられる。
フラーレン誘導体は、例えば、上記フラーレンに置換基が付加した化合物が挙げられる。置換基は、アルキル基、アリール基、又は、複素環基が好ましい。フラーレン誘導体は、特開2007-123707号公報に記載の化合物が好ましい。
n型半導体材料がフラーレン類を含む場合、光電変換膜中におけるn型半導体材料の合計の含有量に対するフラーレン類の含有量(=(フラーレン類の単層換算での膜厚/全n型半導体材料の単層換算での膜厚)×100)は、15~100体積%が好ましく、35~100体積%がより好ましい。
【0055】
上段までに記載したn型半導体材料に代えて、又は、上段までに記載したn型半導体材料とともに、n型半導体材料として有機色素を使用してもよい。
n型半導体材料として有機色素を使用することで、光電変換素子の吸収波長(極大吸収波長)を、任意の波長域にコントロールしやすい。
上記有機色素は、例えば、シアニン色素、スチリル色素、ヘミシアニン色素、メロシアニン色素(ゼロメチンメロシアニン(シンプルメロシアニン)を含む)、ロダシアニン色素、アロポーラー色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素、スクアリウム色素、クロコニウム色素、アザメチン色素、クマリン色素、アリーリデン色素、アントラキノン色素、トリフェニルメタン色素、アゾ色素、アゾメチン色素、メタロセン色素、フルオレノン色素、フルギド色素、ペリレン色素、フェナジン色素、フェノチアジン色素、キノン色素、ジフェニルメタン色素、ポリエン色素、アクリジン色素、アクリジノン色素、ジフェニルアミン色素、キノフタロン色素、フェノキサジン色素、フタロペリレン色素、ジオキサン色素、ポルフィリン色素、クロロフィル色素、フタロシアニン色素、サブフタロシアニン色素、金属錯体色素、特開2014-82483号公報の段落[0083]~[0089]に記載の化合物、特開2009-167348号公報の段落[0029]~[0033]に記載の化合物、特開2012-77064号公報の段落[0197]~[0227]に記載の化合物、WO2018-105269号公報の段落[0035]~[0038]に記載の化合物、WO2018-186389号公報の段落[0041]~[0043]に記載の化合物、WO2018-186397号公報の段落[0059]~[0062]に記載の化合物、WO2019-009249号公報の段落[0078]~[0083]に記載の化合物、WO2019-049946号公報の段落[0054]~[0056]に記載の化合物、WO2019-054327号公報の段落[0059]~[0063]に記載の化合物、及び、WO2019-098161号公報の段落[0086]~[0087]に記載の化合物が挙げられる。
n型半導体材料が有機色素を含む場合、光電変換膜中におけるn型半導体材料の合計の含有量に対する有機色素の含有量(=(有機色素の単層換算での膜厚/全n型半導体材料の単層換算での膜厚)×100)は、15~100体積%が好ましく、35~100体積%がより好ましい。
【0056】
n型半導体材料の分子量は、200~1200が好ましく、200~1000がより好ましい。
【0057】
光電変換膜は、特定化合物とn型半導体材料とが混合された状態で形成されるバルクヘテロ構造を有するのが好ましい。バルクヘテロ構造は、光電変換膜内で、特定化合物とn型半導体材料とが混合、分散している層である。なお、バルクへテロ構造については、特開2005-303266号公報の段落[0013]~[0014]等において詳細に説明されている。
【0058】
光電変換素子の応答性の点から、特定化合物とn型半導体材料との合計の含有量に対する特定化合物の含有量(=特定化合物の単層換算での膜厚/(特定化合物の単層換算での膜厚+n型半導体材料の単層換算での膜厚)×100)は、15~75体積%が好ましく、35~75体積%がより好ましい。
なお、光電変換膜は、実質的に、特定化合物とn型半導体材料とから構成されるのが好ましい。実質的とは、光電変換膜全質量に対して、特定化合物及びn型半導体材料の合計含有量が95質量%以上であることを意味する。
【0059】
なお、光電変換膜中に含まれるn型半導体材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
特定化合物を含む光電変換膜は非発光性膜であり、有機電界発光素子(OLED:Organic Light Emitting Diode)とは異なる特徴を有する。非発光性膜とは発光量子効率が1%以下の膜を意図し、発光量子効率は0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0061】
<成膜方法>
光電変換膜は、主に、乾式成膜法により成膜できる。乾式成膜法は、例えば、蒸着法(特に、真空蒸着法)、スパッタ法、イオンプレーティング法、及び、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法等の物理気相成長法、並びに、プラズマ重合等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。なかでも、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法により光電変換膜を成膜する場合、真空度及び蒸着温度等の製造条件は常法に従って設定できる。
【0062】
光電変換膜の厚みは、10~1000nmが好ましく、50~800nmがより好ましく、50~500nmが更に好ましく、50~300nmが特に好ましい。
【0063】
<電極>
電極(上部電極(透明導電性膜)15と下部電極(導電性膜)11)は、導電性材料から構成される。導電性材料は、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物等が挙げられる。
上部電極15から光が入射されるため、上部電極15は検知したい光に対し透明であるのが好ましい。上部電極15を構成する材料は、例えば、アンチモン又はフッ素等をドープした酸化錫(ATO:Antimony Tin Oxide、FTO:Fluorine doped Tin Oxide)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、及び、酸化亜鉛インジウム(IZO:Indium zinc oxide)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、及び、ニッケル等の金属薄膜;これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物;ならびに、ポリアニリン、ポリチオフェン、及び、ポリピロール等の有機導電性材料、等が挙げられる。なかでも、高導電性及び透明性等の点から、導電性金属酸化物が好ましい。
【0064】
通常、導電性膜をある範囲より薄くすると、急激な抵抗値の増加をもたらすが、本実施形態にかかる光電変換素子を組み込んだ固体撮像素子では、シート抵抗は、好ましくは100~10000Ω/□でよく、薄膜化できる膜厚の範囲の自由度は大きい。また、上部電極(透明導電性膜)15は厚みが薄いほど吸収する光の量は少なくなり、一般に光透過率が増す。光透過率の増加は、光電変換膜での光吸収を増大させ、光電変換能を増大させるため、好ましい。薄膜化に伴う、リーク電流の抑制、薄膜の抵抗値の増大、及び、透過率の増加を考慮すると、上部電極15の膜厚は、5~100nmが好ましく、5~20nmがより好ましい。
【0065】
下部電極11は、用途に応じて、透明性を持たせる場合と、逆に透明性を持たせず光を反射させる場合とがある。下部電極11を構成する材料は、例えば、アンチモン又はフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、及び、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、及び、アルミ等の金属、これらの金属の酸化物又は窒化物等の導電性化合物(一例として窒化チタン(TiN)を挙げる);これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物;並びに、ポリアニリン、ポリチオフェン、及び、ポリピロール、等の有機導電性材料等が挙げられる。
【0066】
電極を形成する方法は特に制限されず、電極材料に応じて適宜選択できる。具体的には、印刷方式、及び、コーティング方式等の湿式方式;真空蒸着法、スパッタ法、及び、イオンプレーティング法等の物理的方式;並びに、CVD、及び、プラズマCVD法等の化学的方式、等が挙げられる。
電極の材料がITOの場合、電子ビーム法、スパッタ法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾル-ゲル法等)、及び、酸化インジウムスズの分散物の塗布等の方法が挙げられる。
【0067】
<電荷ブロッキング膜:電子ブロッキング膜、正孔ブロッキング膜>
本発明の光電変換素子は、導電性膜と透明導電性膜との間に、光電変換膜の他に1種以上の中間層を有しているのも好ましい。上記中間層は、電荷ブロッキング膜が挙げられる。光電変換素子がこの膜を有することにより、得られる光電変換素子の特性(光電変換効率及び応答性等)がより優れる。電荷ブロッキング膜は、電子ブロッキング膜と正孔ブロッキング膜とが挙げられる。以下に、それぞれの膜について詳述する。
【0068】
(電子ブロッキング膜)
電子ブロッキング膜は、ドナー性有機半導体材料(化合物)であり、例えば、下記のp型有機半導体を使用できる。p型有機半導体は1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0069】
p型有機半導体は、例えば、トリアリールアミン化合物(例えば、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、特開2011-228614号公報の段落[0128]~[0148]に記載の化合物、特開2011-176259号公報の段落[0052]~[0063]に記載の化合物、特開2011-225544号公報の段落[0119]~[0158]に記載の化合物、特開2015-153910号公報の[0044]~[0051]に記載の化合物、及び、特開2012-94660号公報の段落[0086]~[0090]に記載の化合物等)、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物(例えば、チエノチオフェン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、ジチエノチオフェン誘導体、[1]ベンゾチエノ[3,2-b]チオフェン(BTBT)誘導体、チエノ[3,2-f:4,5-f´]ビス[1]ベンゾチオフェン(TBBT)誘導体、特開2018-14474号の段落[0031]~[0036]に記載の化合物、WO2016-194630号の段落[0043]~[0045]に記載の化合物、WO2017-159684号の段落[0025]~[0037]、[0099]~[0109]に記載の化合物、特開2017-076766号公報の段落[0029]~[0034]に記載の化合物、WO2018-207722の段落[0015]~[0025]に記載の化合物、特開2019-54228の段落[0045]~[0053]に記載の化合物、WO2019-058995の段落[0045]~[0055]に記載の化合物、WO2019-081416の段落[0063]~[0089]に記載の化合物、特開2019-80052の段落[0033]~[0036]に記載の化合物等)、シアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、及び、フルオランテン誘導体)、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物、トリアゾール化合物、オキサジアゾール化合物、イミダゾール化合物、ポリアリールアルカン化合物、ピラゾロン化合物、アミノ置換カルコン化合物、オキサゾール化合物、フルオレノン化合物、シラザン化合物、並びに、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体が挙げられる。
p型有機半導体は、n型半導体材料よりもイオン化ポテンシャルが小さい化合物が挙げられ、この条件を満たせば、n型半導体材料として例示した有機色素も使用し得る。
【0070】
また、電子ブロッキング膜として、高分子材料も使用できる。
高分子材料は、例えば、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、及び、ジアセチレン等の重合体、並びに、その誘導体が挙げられる。
【0071】
なお、電子ブロッキング膜は、複数膜で構成してもよい。
電子ブロッキング膜は、無機材料で構成されていてもよい。一般的に、無機材料は有機材料よりも誘電率が大きいため、無機材料を電子ブロッキング膜に用いた場合に、光電変換膜に電圧が多くかかるようになり、光電変換効率が高くなる。電子ブロッキング膜となりうる無機材料は、例えば、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀、及び、酸化イリジウムが挙げられる。
【0072】
(正孔ブロッキング膜)
正孔ブロッキング膜は、アクセプター性有機半導体材料(化合物)であり、上述のn型半導体材料を利用できる。
【0073】
電荷ブロッキング膜の製造方法は特に制限されず、例えば、乾式成膜法及び湿式成膜法が挙げられる。乾式成膜法は、例えば、蒸着法及びスパッタ法が挙げられる。蒸着法は、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法及び化学蒸着(CVD)法のいずれでもよく、真空蒸着法等の物理蒸着法が好ましい。湿式成膜法は、例えば、インクジェット法、スプレー法、ノズルプリント法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、及び、グラビアコート法が挙げられ、高精度パターニングの点からは、インクジェット法が好ましい。
【0074】
電荷ブロッキング膜(電子ブロッキング膜及び正孔ブロッキング膜)の厚みは、それぞれ、3~200nmが好ましく、5~100nmがより好ましく、5~30nmが更に好ましい。
【0075】
<基板>
光電変換素子は、更に基板を有してもよい。使用される基板の種類は特に制限されず、例えば、半導体基板、ガラス基板、及び、プラスチック基板が挙げられる。
なお、基板の位置は特に制限されず、通常、基板上に導電性膜、光電変換膜、及び透明導電性膜をこの順で積層する。
【0076】
<封止層>
光電変換素子は、更に封止層を有してもよい。光電変換材料は水分子等の劣化因子の存在で顕著にその性能が劣化してしまうことがある。そこで、水分子を浸透させない緻密な金属酸化物、金属窒化物、もしくは、金属窒化酸化物等のセラミクス、又は、ダイヤモンド状炭素(DLC:Diamond-like Carbon)等の封止層で光電変換膜全体を被覆して封止することで、上記劣化を防止できる。
なお、封止層は、特開2011-082508号公報の段落[0210]~[0215]に記載に従って、材料の選択及び製造を行ってもよい。
【0077】
<撮像素子>
光電変換素子の用途として、例えば、撮像素子が挙げられる。撮像素子とは、画像の光情報を電気信号に変換する素子であり、通常、複数の光電変換素子が同一平面状でマトリクス上に配置されており、各々の光電変換素子(画素)において光信号を電気信号に変換し、その電気信号を画素ごとに逐次撮像素子外に出力できるものをいう。そのために、画素ひとつあたり、一つ以上の光電変換素子、一つ以上のトランジスタから構成される。
図3は、本発明の一実施形態を説明するための撮像素子の概略構成を示す断面模式図である。この撮像素子は、デジタルカメラ及びデジタルビデオカメラ等の撮像素子、電子内視鏡、ならびに、携帯電話機等の撮像モジュール等に搭載される。
図3に示す撮像素子20aは、本発明の光電変換素子10a(緑色光電変換素子10a)と、青色光電変換素子22と、赤色光電変換素子24とを含み、これらは光が入射する方向に沿って積層されている。光電変換素子10aは、本発明の光電変換素子であり、主に、緑色光を受光できるように吸収波長をコントロールして、緑色光電変換素子としている。本発明の光電変換素子の吸収波長をコントロールする方法は、例えば、n型半導体材料として適当な有機色素を使用する方法が挙げられる。
撮像素子20aは、いわゆる積層体型の色分離撮像素子である。光電変換素子10a、青色光電変換素子22、及び、赤色光電変換素子24は、それぞれ検出する波長スペクトルが異なる。つまり、青色光電変換素子22及び赤色光電変換素子24は、光電変換素子10aが受光(吸収)する光とは異なる波長の光を受光する光電変換素子に該当する。光電変換素子10aでは主に緑色光を受光でき、青色光電変換素子22では主に青色光を受光でき、赤色光電変換素子では主に赤色光を受光できる。
なお、緑色光とは波長500~600nmの範囲の光を、青色光とは波長400~500nmの範囲の光を、赤色光とは波長600~700nmの範囲の光を意図する。
撮像素子20aに矢印の方向から光が入射すると、まず、光電変換素子10aにおいて主に緑色光が吸収されるが、青色光及び赤色光に関しては光電変換素子10aを透過する。光電変換素子10aを透過した光が青色光電変換素子22に進んだ際には、主に青色光が吸収されるが、赤色光に関しては青色光電変換素子22を透過する。その後、青色光電変換素子22を透過した光は、赤色光電変換素子24によって吸収される。このように積層型の色分離撮像素子である撮像素子20aにおいては、緑、青、及び、赤の3つの受光部で1つの画素を構成でき、受光部の面積を大きく取れる。
【0078】
青色光電変換素子22、及び、赤色光電変換素子24の構成は特に制限されない。
例えば、シリコンを用いて光吸収長の差により色を分離する構成の光電変換素子でもよい。より具体的には、例えば、青色光電変換素子22と、赤色光電変換素子24とが、ともにシリコンからなっていてもよい。この場合、撮像素子20aに矢印の方向から入射した青色光と緑色光と赤色光とからなる光は、光電変換素子10aによって真ん中の波長の光である緑色光が主に受光され、残る青色光と赤色光とを色分離しやすくなる。青色光と赤色光とは、シリコンに対する光吸収長に差(シリコンに対する吸収係数の波長依存性)があり、青色光はシリコンの表面近傍で吸収されやすく、赤色光はシリコンの比較的深い位置まで侵入できる。このような光吸収長に差に基づき、より浅い位置に存在する青色光電変換素子22によって主に青色光が受光され、より深い位置に存在する赤色光電変換素子24によって主に赤色光が受光される。
また、青色光電変換素子22、及び、赤色光電変換素子24は、導電性膜、青色光又は赤色光に吸収極大を有する有機の光電変換膜、及び、透明導電成膜をこの順で有する構成の光電変換素子(青色光電変換素子22、又は、赤色光電変換素子24)でもよい。例えば、青色光電変換素子22は、青色光に吸収極大を有するように吸収波長をコントロールした本発明の光電変換素子でもよい。同様に、赤色光電変換素子24は、赤色光に吸収極大を有するように吸収波長をコントロールした本発明の光電変換素子でもよい。
【0079】
図3においては、光の入射側から本発明の光電変換素子、青色光電変換素子、及び、赤色光電変換素子の順に配置されていたが、この態様には限定されず、他の配置順であってもよい。例えば、光の入射する側から青色光電変換素子、本発明の光電変換素子、及び、赤色光電変換素子の順に配置されていてもよい。
また、緑色光電変換素子を本発明の光電変換素子以外の光電変換素子として、青色光電変換素子及び/又は赤色光電変換素子を本発明の光電変換素子としてもよい。
【0080】
撮像素子として、上述のように、青色、緑色、及び、赤色の三原色の光電変換素子を積み上げた構成を説明したが、2層(2色)、又は、4層(4色)以上であってもかまわない。
たとえば、配列した青色光電変換素子22と赤色光電変換素子24の上に本発明の光電変換素子10aを配置する態様であってもよい。なお、必要に応じて、光の入射側に更に所定の波長の光を吸収するカラーフィルタを配置してもよい。
【0081】
撮像素子の形態は
図3及び上述の形態に限定されず、他の形態であってもよい。
例えば、同一面内位置に、本発明の光電変換素子、青色光電変換素子、及び、赤色光電変換素子が配置された態様であってもよい。
【0082】
また、光電変換素子を単層で用いる構成であってもよい。例えば、本発明の光電変換素子10aのうえに、青、赤、緑のカラーフィルタを配置して色を分離する構成であってもよい。
【0083】
本発明の光電変換素子は光センサとして用いるのも好ましい。光センサは、上記光電変換素子単独で用いてもよいし、上記光電変換素子を直線状に配したラインセンサ、又は平面上に配した2次元センサとして用いてもよい。
【0084】
<光電変換素子用材料>
本発明は、光電変換素子用材料の発明をも含む。
本発明の光電変換素子用材料は、式(1)で表される化合物(特定化合物)を含む、光電変換素子(好ましくは撮像素子用又は光センサ用の光電変換素子)の製造に用いられる材料である。
光電変換素子用材料における式(1)で表される化合物は、上述の式(1)で表される化合物と同様であり、好ましい条件も同様である。
光電変換素子用材料に含まれる特定化合物は、それぞれ、光電変換素子に含まれる光電変換膜の、光電変換膜の作製に用いられるのが好ましい。
光電変換素子用材料に含まれる特定化合物の含有量は、それぞれ、光電変換素子用材料の全質量の、30~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、99~100質量%が更に好ましい。
光電変換素子用材料が含む特定化合物は、1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【実施例】
【0085】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0086】
<化合物(D-1)の合成>
以下のスキームに従って、化合物(D-1)を合成した。
【0087】
【0088】
化合物(A-1)は富士フイルム和光純薬社から購入した。化合物(A-1)(800mg、1.76mmol)、及び、フェニルボロン酸(640mg、5.28mmol)に、テトラヒドロフラン(35mL)、及び、2M炭酸ナトリウム水溶液(23mL)を添加して、混合物を得て、上記混合物が入ったフラスコを窒素置換した。次に、上記混合物に対して窒素バブリングを5分行い、更に、上記混合物中の溶存気体を減圧脱気した。その後、上記混合物にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(47mg、0.035mmol)を添加した。その後、上記混合物を加熱し還流下で7時間反応させた。反応後の上記混合物を放冷した後、ろ過し、得られた固体(ろ物)を水、メタノールで洗浄して粗体を得た。粗体にクロロベンゼン(23mL)を添加し、140℃で1時間分散洗浄を行った。洗浄後、粗体が入った上記クロロベンゼンを放冷した後にろ過し、得られた固体(ろ物)をクロロベンゼン、及びメタノールで洗浄を行い、化合物(D-1)(651mg、1.45mmol、収率82%)を得た。
得られた化合物(D-1)はNMR(Nuclear Magnetic Resonance)及びMS(Mass Spectrometry)により同定した。
同定の結果を以下に示す。
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ=7.37(t,4H),7.49(t,2H),7.71(s,2H),7.77(d、4H),8.24(s、2H)、8.59(s、2H)
MS(MALDI-TOF+)m/z:449.0([M+H]+)
【0089】
化合物(D-1)の合成方法を参考に、更に、その他の特定化合物を合成した。
以下に、特定化合物である化合物(D-1)~(D-15)と、比較用の化合物(R-1)~(R-2)を示す。
【0090】
【0091】
上記化合物(D-1)~(D-15)、(R-1)~(R-2)と、フラーレン(C60)のLUMOの値を、それぞれ、Gaussian‘09(Gaussian社製ソフトウェア)を用いてB3LYP/6-31G(d)の計算により求めた。得られたLUMOの値の反数の値を化合物の電子親和力の値として採用した。
その結果、フラーレン(C60)の電子親和力は、化合物(D-1)~(D-15)、(R-1)~(R-2)のいずれの電子親和力よりも大きいことが確認された。つまり、フラーレン(C60)は、化合物(D-1)~(D-15)、(R-1)~(R-2)との関係で、n型半導体材料に該当することが確認された。
【0092】
<実施例及び比較例:光電変換素子の作製>
得られた化合物を用いて
図2の形態の光電変換素子を作製した。ここで、光電変換素子は、下部電極11、電子ブロッキング膜16A、光電変換膜12、正孔ブロッキング膜16B、及び、上部電極15からなる。
具体的には、ガラス基板上に、アモルファス性ITOをスパッタ法により成膜して、下部電極11(厚み:30nm)を形成し、更に下部電極11上に下記の化合物(B-1)を真空加熱蒸着法により成膜して、電子ブロッキング膜16A(厚み:10nm)を形成した。
更に、基板の温度を25℃に制御した状態で、電子ブロッキング膜16A上に化合物(D-1)とフラーレン(C
60)とを2.0Å/秒の蒸着レートに設定し、それぞれ単層換算で100nm、100nmとなるように真空蒸着法により共蒸着して成膜し、200nmのバルクヘテロ構造を有する光電変換膜12を形成した(光電変換膜形成工程)。
更に光電変換膜12上に下記の化合物(B-2)を成膜して正孔ブロッキング膜16B(厚み:10nm)を形成した。
更に、正孔ブロッキング膜16B上に、アモルファス性ITOをスパッタ法により成膜して、上部電極15(透明導電性膜)(厚み:10nm)を形成した。上部電極15上に、真空蒸着法により封止層としてSiO膜を形成した後、その上にALCVD(Atomic Layer Chemical Vapor Deposition)法により酸化アルミニウム(Al
2O
3)層を形成し、光電変換素子を作製し、この素子を、素子(A
D-1)とした。
【0093】
【0094】
化合物(D-1)に代えて、各化合物(D-2)~(D-16)又は(R-1)~(R-2)を用いて、同様にして光電変換素子を作製し、素子(AD-2)~(AD-16)及び(AR-1)~(AR-2)を得た。
【0095】
<駆動の確認(光電変換効率、暗電流の評価)>
得られた各素子の駆動を確認した。各素子(素子(AD-1)~(AD-16)及び(AR-1)~(AR-2))に1.0×105V/cmの電界強度となるように電圧を印加した。その後、上部電極(透明導電性膜)側から光を照射して400nmでの光電変換効率(外部量子効率)を評価した。外部量子効率は、オプテル製定エネルギー量子効率測定装置を用いて測定した。照射した光量は50μW/cm2であった。いずれの素子も30%以上の光電変換効率と10nA/cm2以下の暗電流を示し、問題なく駆動することを確認した。
【0096】
<耐熱性の評価>
得られた各素子(素子(AD-1)~(AD-16)及び(AR-1)~(AR-2))をグローブボックス中で160℃、2時間加熱処理した。その後に上述の<駆動の確認(光電変換効率、暗電流の評価)>と同様の方法で、暗電流の評価を行った。加熱処理前の暗電流値を1とした場合の相対値で評価を行い、相対値が、2以下であればA、2より大きく5以下であればB、5より大きく10以下であればC、10よりも大きければDとして評価を行った。実用上、A又はBが好ましく、Aがより好ましい。結果を表1に示す。
【0097】
<組成変動に対する許容性>
(光電変換素子(素子(B))の作製)
素子(AD-1)の作製において、化合物(D-1)とフラーレン(C60)の蒸着レートとを、それぞれ、2.4Å/秒と1.6Å/秒とに設定し、それぞれ単層換算で120nm、80nmとなるように真空蒸着法により共蒸着して成膜し、200nmのバルクヘテロ構造を有する光電変換膜12を形成した。その他の作製条件は全て素子(AD-1)の作製と同様の方法で光電変換素子を作製し、この素子を素子(BD-1)とした。
化合物(D-1)に代えて、各化合物(D-2)~(D-16)又は(R-1)~(R-2)を用いて、同様にして光電変換素子を作製し、素子(BD-2)~(BD-16)及び(BR-1)~(BR-2)を得た。
【0098】
(暗電流の評価)
得られた素子(BD-1)に1.0×105V/cmの電界強度となるように電圧を印加して暗電流の評価を行い、素子(AD-1)の値に対する相対値で組成比ブレに対する許容性を評価した。
つまり、「相対値=素子(BD-1)の暗電流値/素子(AD-1)の暗電流値」として相対値を求めた。
素子(AD-2)~(AD-16)及び(AR-1)~(AR-2)と、素子(BD-2)~(BD-16)及び(BR-1)~(BR-2)とについても同様にして、各化合物を使用した場合における相対値をそれぞれ求めた。
相対値の値が1に近いほど組成比変動に対する許容性が優れると評価した。具体的には、相対値が、0.8より大きく1.25以下の場合をA、0.5より大きく0.8以下又は1.25より大きく2.0以下の場合をB、0.1より大きく0.5以下又は2.0より大きく5.0以下の場合をC、0.1以下又は5.0より大きい場合をDとして評価した。実用上、A又はBが好ましく、Aがより好ましい。結果を表1に示す。
【0099】
各化合物を用いて作製した光電変換素子を使用して行った試験の結果を下記表1に示す。
表1中、「式(3)」欄は、使用した特定化合物が、式(3)で表される化合物に該当するか否かを示す。本要件を満たす場合はAとし、満たさない場合はBとした。
「Ar1、Ar2=多環芳香族炭化水素/式(R)」欄は、特定化合物中における式(1)中のAr1、Ar2で表される基に相当する基が、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、式(R)で表される基であるか否かを示す。本要件を満たす場合はAとし、満たさない場合はBとした。
【0100】
【0101】
表1に示す結果より、光電変換膜に特定化合物を使用する本発明の光電変換素子は、光電変換膜を蒸着製造した際に、光電変換膜の組成比が変動した場合でも安定した性能を示すことが確認された。また、本発明の光電変換素子は、耐熱性にも優れることが確認された。
一方で、特定化合物とは異なる構造の母核を有する化合物(R-1)を使用した場合、光電変換膜の組成比変動に対する許容性は不十分であった。また、耐熱性も、本発明の光電変換素子と比べて劣っていた。
また、特定化合物と同様の母核を有するものの、母核に結合する基が芳香環基ではなくアルキル基である化合物(R-2)を使用した場合、光電変換膜の組成比変動に対する許容性は不十分であった。また、耐熱性も、本発明の光電変換素子と比べて劣っていた。
【0102】
また、特定化合物が式(3)で表される化合物に該当する場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例16とその他の実施例の比較の結果等を参照)。
【0103】
特定化合物の式(1)におけるAr1及びAr2に相当する基が、置換基を有してもよい多環の芳香族炭化水素環基、又は、式(R)で表される基である場合、本発明の効果がより優れることが確認された(式(3)で表される化合物に該当する特定化合物を使用した実施例同士での比較の結果等を参照)。
【符号の説明】
【0104】
10a,10b 光電変換素子
11 導電性膜(下部電極)
12 光電変換膜
15 透明導電性膜(上部電極)
16A 電子ブロッキング膜
16B 正孔ブロッキング膜
20a 撮像素子
22 青色光電変換素子
24 赤色光電変換素子