IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -検出回路 図1
  • -検出回路 図2
  • -検出回路 図3
  • -検出回路 図4
  • -検出回路 図5
  • -検出回路 図6
  • -検出回路 図7
  • -検出回路 図8
  • -検出回路 図9
  • -検出回路 図10
  • -検出回路 図11
  • -検出回路 図12
  • -検出回路 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】検出回路
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20231117BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20231117BHJP
   G01T 1/20 20060101ALN20231117BHJP
【FI】
G01T1/17 D
G01R19/00 B
G01R19/00 D
G01T1/20 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022533981
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2021024318
(87)【国際公開番号】W WO2022004639
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2020115866
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業、課題名:「コンプトンTOF-PETハイブリッドカメラの開発」 産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】織田 忠
(72)【発明者】
【氏名】島添 健次
(72)【発明者】
【氏名】上ノ町 水紀
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534629(JP,A)
【文献】国際公開第2011/39819(WO,A1)
【文献】特表2016-502664(JP,A)
【文献】特開2017-3442(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0011204(US,A1)
【文献】WANG,Yonggang et al.,A Linear Time-Over-Threshold Digitizing Scheme and Its 64-channel DAQ Prototype Design on FPGA for a,IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE,VOL. 61, NO. 1,米国,IEEE,2014年01月,p.99-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
G01T 1/20
G01T 1/36
G01R 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたセンサー信号をコピーして第1入力信号と第2入力信号を並列して出力するカレントミラー回路と、
前記第1入力信号を入力すると経過時間に対する電圧変動を設定された基準変動に沿うように調整して調整信号を出力する波形整形回路と、
前記調整信号の電圧値と基準電圧値を比較して第1比較信号を出力する電圧コンパレータと、
前記第2入力信号の電流値と基準電流値を比較して第2比較信号を出力する電流コンパレータと、
前記第1比較信号と前記第2比較信号に対して論理演算を行って、前記第2比較信号の開始時点から前記第1比較信号の終了時点まで継続する検出信号を出力する論理演算回路と
を備える検出回路。
【請求項2】
入力された前記第2比較信号の信号継続時間を延長させた延長信号を生成して出力するワンショット回路を備え、
前記論理演算回路は、少なくとも前記第1比較信号および前記延長信号に対して論理演算を行って前記検出信号を出力する請求項1に記載の検出回路。
【請求項3】
前記ワンショット回路は、前記信号継続時間の延長時間を調整する時間調整部を有する請求項2に記載の検出回路。
【請求項4】
前記波形整形回路は、前記基準変動を変更する変更部を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の検出回路。
【請求項5】
前記カレントミラー回路は、前記センサー信号に対する前記第1入力信号の電流比が、1より小さく、かつ、前記センサー信号に対する前記第2入力信号の電流比よりも小さく設定されている請求項1から4のいずれか1項に記載の検出回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー信号を検出する検出回路に関する。
【背景技術】
【0002】
センサー信号の検出手法として、Time-over-Threshold法(ToT法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。ToT法を採用するToT検出回路は、入力されたセンサー信号に対して設定された閾値を越えた時間幅を計測する。センサー信号が短時間幅電流パルス信号である場合には、1次のセミガウシアン波形整形回路を通過させた調整信号をToT検出回路に入力する。このようにして時間幅を計測すれば、ADC(Analog-to-Digital Converter)を用いることなく、計測された時間幅から調整信号の波高値を計測することができる。調整信号の波高値は、センサーが捉えた信号量の推定に利用し得る。ToT検出回路は、ADCを実装する必要がないので、比較的シンプルかつ小規模に実現し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5531021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のToT法によると、センサー信号が短時間幅電流パルス信号である場合には、セミガウシアン波形整形回路を経て調整された調整信号の波高値と時間幅の非線形性により、検出した時間幅を波高値へ変換する処理が複雑であった。また、当該調整信号の波高の違いによって信号の立ち上がりに差が生じ、調整信号が閾値に到達するまでの時間にばらつきが生じるタイムウォークの問題もあった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、波高値と時間幅の線形成を確保しつつ、タイムウォークの影響を抑制した検出回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様における検出回路は、入力されたセンサー信号をコピーして第1入力信号と第2入力信号を並列して出力するカレントミラー回路と、第1入力信号を入力すると経過時間に対する電圧変動を設定された基準変動に沿うように調整して調整信号を出力する波形整形回路と、調整信号の電圧値と基準電圧値を比較して第1比較信号を出力する電圧コンパレータと、第2入力信号の電流値と基準電流値を比較して第2比較信号を出力する電流コンパレータと、第1比較信号と第2比較信号に対して論理演算を行って、第2比較信号の開始時点から第1比較信号の終了時点まで継続する検出信号を出力する論理演算回路とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、波高値と時間幅の線形成を確保しつつ、タイムウォークの影響を抑制した検出回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態で扱うセンサー信号の波形例を示すグラフである。
図2】従来技術において一般的に用いられる1次のセミガウシアン波形整形回路へ入力した場合に得られる出力波形の例を示す。
図3図2のグラフの立ち上がり領域を拡大したグラフである。
図4】本実施形態に係る検出回路の全体構成を示す回路図である。
図5】カレントミラー回路の具体的な回路例である。
図6】波形整形回路の具体的な回路例である。
図7】波形整形回路の出力信号である調整信号の波形例を示すグラフである。
図8】スルーレート制限抵抗回路の具体的な回路例である。
図9】ワンショット回路の具体的な回路例である。
図10】論理演算回路の入力波形と出力波形の具体例を示す図である。
図11】波高値と時間幅の相関を示すグラフである。
図12】従来のToT検出回路における検出結果の例である。
図13】本実施形態に係る検出回路の一実施例における検出結果の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態で扱うセンサー信号Sinの波形例を示すグラフである。センサー信号Sinは、例えばシンチレーション光を検出する光検出器の出力信号である短時間幅電流パルス信号である。横軸は経過時間を示し、縦軸はセンサー信号の電流値を示す。ここではセンサー信号Sinとして、信号S、S、Sの3つの例を示す。それぞれのセンサー信号は、センサーで検出された信号量qに応じたピーク電流値を示す。具体的には、信号Sのピーク電流値はその信号量qに比例し、信号Sのピーク電流値はその信号量q(>q)に比例し、信号Sのピーク電流値はその信号量q(>q)に比例する。
【0011】
図2は、図1で示すセンサー信号(信号S、S、S)を、従来技術において一般的に用いられる1次のセミガウシアン波形整形回路へ入力した場合に得られる出力波形の例を示す。本実施形態においては、波形整形回路が出力する信号を「調整信号」と称する。図において横軸は経過時間を示し、縦軸は調整信号の電圧値を示す。信号S、S、Sは、セミガウシアン波形整形回路を通過することにより、整形回路自身が持つ時定数によって規定される波形をもつ調整信号Sra、Srb、Srcへ変換される。
【0012】
調整信号Sraのピーク値である波高値はhであり、調整信号Srbの波高値はh(>h)であり、調整信号Srcの波高値はh(>h)である。これらの波高値h、h、hは、信号量q、信号量q、信号量qと比例関係にある。また、図示するように、調整信号は、波高値hが大きい信号ほど急峻に立ち上がる性質を有する。
【0013】
閾値Vthを設定し、閾値Vthを越えている継続時間をそれぞれの信号の時間幅とすると、調整信号Sraの時間幅はtwaであり、調整信号Srbの時間幅はtwb(>twa)であり、調整信号Srcの時間幅はtwc(>twb)である。図からも理解されるように、単に閾値Vthで区切って計測される時間幅は、波高値に対して線形性が担保されない。すなわち、波高値の変化量に対する時間幅の変化量が一定でない。波高値に対する時間幅の線形性が担保されていないと、検出回路によって時間幅が検出されても、時間幅を波高値に変換するための後処理が複雑になり、多大な処理時間を要してしまう。
【0014】
図3は、図2のグラフの立ち上がり領域を拡大したグラフである。調整信号が立ち上がるタイミングは同一であっても、上述した波高値が大きい調整信号ほど急峻に立ち上がる性質により、それぞれの調整信号が閾値Vthに到達するまでの時間は異なってしまう。図示する調整信号Sra、Srb、Srcが立ち上がるタイミングは同一であるが、例えば、調整信号Sraが閾値Vthに到達するまでの時間と、調整信号Srcが閾値Vthに到達するまでの時間の間には、両矢印で示すように、いわゆるタイムウォークが生じている。タイムウォークの発生は、センサー信号Sinの発生タイミングを正確に検知するうえで障害となる。
【0015】
本実施形態に係る検出回路は、このような課題に対応するものであり、波高値と時間幅の線形成を確保しつつ、タイムウォークの影響を抑制する検出回路である。図4は、本実施形態に係る検出回路100の全体構成を示す回路図である。検出回路100は、主に、カレントミラー回路110、波形整形回路120、電圧コンパレータ130、電流コンパレータ140、ワンショット回路150、論理演算回路160によって構成される。
【0016】
本実施形態において検出回路100は、センサー信号としての短時間幅電流パルス信号を検出する回路であり、入力されたセンサー信号に応じた時間幅を持つパルス信号を出力する。カレントミラー回路110は、入力されたセンサー信号Sinをコピーして第1入力信号Sm1と第2入力信号Sm2を並列して出力する。波形整形回路120は、第1入力信号Sm1を入力すると、経過時間に対する電圧変動を設定された基準変動に沿うように調整して調整信号Sr1を出力する。電圧コンパレータ130は、調整信号Sr1の電圧値Vr1と基準電圧値Vthを比較して第1比較信号Sc1を出力する。
【0017】
電流コンパレータ140は、第2入力信号Sm2の電流値Im2と基準電流値Ithを比較して第2比較信号Sc2を出力する。ワンショット回路150は、入力された第2比較信号Sc2の信号継続時間を延長させた延長信号Sp2を生成して出力する。論理演算回路160は、第1比較信号Sc1と第2比較信号Sc2と延長信号Sp2に対して論理演算を行って、第2比較信号Sc2の開始時点から第1比較信号Sc1の終了時点まで継続する検出信号Soutを出力する。各要素の具体的な作用等について、以下に順次説明する。
【0018】
図5は、カレントミラー回路110の具体的な回路例である。カレントミラー回路110は、センサー信号SinがIN端子に入力されると、センサー信号SinがコピーされてOUT1端子から第1入力信号Sm1を、OUT2端子から第2入力信号Sm2を並列して出力する。カレントミラー回路110は、電流バッファ回路としても機能し、センサー信号Sinに対する第1入力信号Sm1および第2入力信号Sm2のそれぞれの電流比を調整する。
【0019】
センサー信号Sinの電流値をIin、第1入力信号Sm1および第2入力信号Sm2の電流値をそれぞれIm1、Im2とすると、Im1=α×Iin、Im2=β×Iinと表される。すなわち、センサー信号Sinに対する第1入力信号Sm1の電流比はαであり、センサー信号Sinに対する第2入力信号Sm2の電流比はβに調整されている。具体的には、互いのゲートが接続されている3つのFET(Field Effect Transistor)が、それぞれのチャンネル幅が1:α:βとなるように選択され、採用されている。第1入力信号Sm1は、その後波形整形回路120を経て電圧コンパレータ130へ入力されるので大きな電流は不要であり、第2入力信号Sm2は、その後電流コンパレータ140へ入力されるので、比較的大きな電流であったほうが都合が良い。したがって、本実施形態においては、1>β>αとなるように設定されている。
【0020】
図6は、波形整形回路120の具体的な回路例である。上述のように、これまで一般的に用いられていた1次のセミガウシアン波形整形回路を用いると、図2で示したように、センサー信号Sinの信号量に比例して波高値が変化するものの、互いの波高値が異なれば時間経過に対する電圧値の変化量も異なっていた。したがって、波高値に対する時間幅の線形性が失われていた。そこで、本実施形態においては、波形整形回路120として、スルーレート制限型の波形整形回路を採用する。
【0021】
波形整形回路120は、第1入力信号Sm1を入力すると、経過時間に対する電圧変動を設定された基準変動に沿うように調整して調整信号Sr1を出力する。基準変動は、立ち上がり時における時間経過に対する電圧値の変化量と、立ち下がり時における時間経過に対する電圧値の変化量とが、それぞれ一定値となる電圧変動として設定されている。具体的には、波形整形回路120は、図示するように主にオペアンプ、コンデンサ、スルーレート制限抵抗回路121によって構成され、基準変動は、スルーレート制限抵抗回路121の回路構成によって決定される。
【0022】
図7は、波形整形回路120の出力信号である調整信号Sr1の波形例を示すグラフである。図2のグラフと同じく、横軸は経過時間を示し、縦軸はセンサー信号の電圧値を示す。ここでは、波形整形回路120へ入力される第1入力信号Sm1として図1で示す信号S、S、Sがカレントミラー回路110でコピーされた第1入力信号を想定し、これらの出力をそれぞれ信号S’ra、S’rb、S’rcとする。
【0023】
信号S’raの波高値はhであり、信号S’rbの波高値はhであり、信号S’rcの波高値はhである。信号S’ra、S’rb、S’rcの立ち上がり時における時間経過に対する電圧値の変化量はいずれもほぼ等しくなるように調整されており、同様に、立ち下がり時における時間経過に対する電圧値の変化量もいずれもほぼ等しくなるように調整されている。換言すれば、信号S’ra、S’rb、S’rcは、立ち上がり時も立ち下がり時もほぼ直線状に変化し、その傾きも互いにおよそ一致している。
【0024】
設定された閾値Vthを越えている継続時間をそれぞれの信号の時間幅とすると、信号S’raの時間幅はt’waであり、信号S’rbの時間幅はt’wb(>t’wa)であり、信号S’rcの時間幅はt’wc(>t’wb)である。信号S’ra、S’rb、S’rcは、上述のように、立ち上がり時も立ち下がり時もほぼ直線状に変化し、その傾きも互いにおよそ一致しているので、検出された時間幅t’は、波高値hに対して良好な線形性を示す。すなわち、波高値の変化量に対する時間幅の変化量がほぼ一定となり、時間幅は波高値に比例することになる。
【0025】
図8は、スルーレート制限抵抗回路121の具体的な回路例である。スルーレート制限抵抗回路121は、波形整形回路120の回路特性を決定する基準変動の設定に寄与する。具体的には、スルーレート制限抵抗回路121をどのように構成するかによって、入力される第1入力信号Sm1の立ち上がり時の傾きと、立ち下がり時の傾きを調整することができる。
【0026】
スルーレート制限抵抗回路121は、図示するように、ソースに抵抗素子Rの端が接続された2つのFETのゲート電圧を調整する変更部122を備える。変更部122は、主に可変抵抗を有する。可変抵抗の抵抗値は、検出回路100の製造時に作業者によって調整されてもよいし、例えば制御装置からの制御信号によって変更される構成であってもよい。本実施形態においては、変更部122の可変抵抗を調整することにより、入力される第1入力信号Sm1の立ち上がり時の傾きと、立ち下がり時の傾きを調整する。これらの傾きは、検出回路100に求める単位時間当たりの処理能力(単位時間で処理可能なセンサー信号数)や、回路の安定性等を考慮して調整される。
【0027】
図9は、ワンショット回路150の具体的な回路例である。ワンショット回路150は、電流コンパレータ140から出力されたパルス信号である第2比較信号Sc2を入力すると、信号開始時点を維持したまま信号終了時点を延長させた延長信号Sp2を生成して出力する。ワンショット回路150は、論理ゲートを用いた単安定マルチバイブレータと同等の回路であり、パルス信号の延長時間は、コンデンサの容量と、時間調整部151が含む可変抵抗の抵抗値によって定まる。可変抵抗の抵抗値は、検出回路100の製造時に作業者によって調整されてもよいし、例えば制御装置からの制御信号によって変更される構成であってもよい。
【0028】
図10は、論理演算回路160の入力波形と出力波形の具体例を示す図である。本実施形態における論理演算回路160は、3つの入力ゲートを有するOR論理ゲートである。3つの入力ゲートには、それぞれ第1比較信号Sc1、第2比較信号Sc2、延長信号Sp2が入力される。図10(a)は第1比較信号Sc1の波形を表し、図10(b)は第2比較信号Sc2の波形を表し、図10(c)は、延長信号Sp2の波形を表わす。横軸は経過時間を示し、縦軸は、信号レベル(High=1、Low=0)を示す。
【0029】
第1比較信号Sc1は、波形整形回路120でスルーレートを制限することもあり、信号の発生時刻tに対して立ち上がりが若干遅延し、時刻tになってLowからHighへ変化している。そして、時刻tまでHighが継続している。時刻tから時刻tまでの継続時間は、上述のように、調整信号Sr1の波高値に比例する。
【0030】
第2比較信号Sc2は、電流コンパレータ140の出力信号である。電流コンパレータ140は、信号の発生と同時に急峻に立ち上がる電流値を比較対象としているので、第2比較信号Sc2は、信号の発生時刻tとほぼ同時刻にLowからHighへ変化している。ただし、急峻に立ち上がった電流値は持続せず即座に立ち下がるので、第2比較信号Sc2は、時刻tよりも前の時刻tにHighからLowへ変化している。
【0031】
延長信号Sp2は、ワンショット回路150の出力信号である。電流コンパレータ140の出力配線は、途中で分岐されて一方が論理演算回路160の入力ゲートに接続され、他方がワンショット回路150の入力端子へ接続されている。延長信号Sp2は、第2比較信号Sc2と同時にほぼ時刻tに立ち上がり、Highが時刻tよりも後の時刻tまで継続している。換言すると、ワンショット回路150による延長時間は、時刻tが第1比較信号Sc1の立ち上がり時刻である時刻tより後の時刻となるように、また、第1比較信号Sc1の立ち下がり時刻である時刻tより前の時刻となるように調整されている。なお、時刻tを調整する場合に参照される時刻tは、対象となり得る調整信号Sr1のうち最小の波高値が観察される場合の第1比較信号Sc1の立下り時刻である。
【0032】
図10(d)は、論理演算回路160の出力信号である検出信号Soutの波形を表す。図10(a)~(c)と同様に、横軸は経過時間を示し、縦軸は、信号レベル(High=1、Low=0)を示す。
【0033】
上述のように、本実施形態における論理演算回路160はOR論理ゲートであるので、ある時刻tにおいて、第1比較信号Sc1、第2比較信号Sc2、延長信号Sp2のいずれかがHighであれば、検出信号SoutもHighである。一方、第1比較信号Sc1、第2比較信号Sc2、延長信号Sp2のいずれもLowであれば、検出信号SoutはLowである。
【0034】
検出信号Soutは、ほぼ時刻tにLowからHighへ変化し、そのままHighの状態が時刻tまで継続された波形となる。すなわち、論理演算回路160は、時刻tに開始し、時刻tから時刻tまでの時間幅Twを有するパルス信号を出力する。
【0035】
波形整形回路120の出力信号である調整信号Sr1は、上述のように、信号発生時点から設定された閾値Vthに到達するまでの時間が波高値によらずほぼ一定(=t~t)となるように調整されている。したがって、第1比較信号Sc1の時間幅が、調整信号Sr1の波高値に比例するのであれば、検出信号Soutの時間幅Twも、調整信号Sr1の波高値に比例する。
【0036】
図11は、調整信号Sr1の波高値hと検出信号Soutの時間幅Twの相関を示すグラフである。横軸は波高値を示し、縦軸は時間幅を示す。図示するように、検出信号Soutの時間幅Twは、調整信号Sr1の波高値に比例する。なお、図中の波高値h、h、hは、図6で示した信号S’ra、S’rb、S’rcの3つの例におけるそれぞれの波高値であり、時間幅Tw、Tw、Twは、それぞれに対応する検出信号Soutの時間幅である。
【0037】
検出回路100が出力する検出信号Soutを、例えば一定の周期で入力されるクロック信号に従ってカウンターでカウントすれば、時間幅Twを数値データに変換できる。さらに、変換された数値データを、図11に示す線形性を利用して波高値hに直ちに換算することができる。
【0038】
上述のように、調整信号Sr1の波高値hは、センサー信号Sinの信号量qに比例する。したがって、換算された波高値hは、入力されたセンサー信号Sinの信号量qに変換することができる。このような検出回路100とその周辺のデジタル処理装置は、ADCを実装する必要がないので、比較的シンプルかつ小規模に実現し得る。すなわち、装置全体を安価に構成することができると共に、単位時間当たりに処理できるセンサー信号数を増やすことができる。
【0039】
以上のように、検出回路100が出力する検出信号Soutの時間幅Twは、波形整形回路120で調整された時間幅t’に準ずるので、波高値hに対して良好な線形性を示し、ひいてはセンサー信号Sinの信号量qに対して良好な線形性を示す。また、検出回路100が出力する検出信号Soutの立ち上がり時刻は、第2比較信号Sc2の立ち上がり時刻であるので、タイムウォークの影響をほとんど受けることなく、センサー信号Sinの発生タイミングに極めて近い。すなわち、検出回路100が出力する検出信号Soutを処理する後段の処理装置は、センサー信号の発生タイミングと信号量を高い精度で解析することができる。このような検出回路100は、センサー信号として短時間幅電流パルス信号を出力する、例えばがん診断に使用されているPositron Emission Tomography(PET)、Time-of-Flight PET、フォトンカウンティングCT等の装置に信号処理回路として組み込まれる場合に、利用価値が高い。また、短時間幅電流パルス信号を出力するセンサーに限らず、単調増加した後に単調減少するような、波高値と時間幅に相関性を有する信号を出力するセンサーの信号処理回路として利用することも可能である。
【0040】
以上説明した本実施形態に係る検出回路100は、ワンショット回路150を備えている。ワンショット回路150は、上述のように、第2比較信号Sc2の信号終了時点を延長させた延長信号Sp2を生成する。もし、ワンショット回路150を備えないとすれば、図10に示すようにtがtよりも遅い時刻である場合には、検出信号Soutにおいてtからtまでの期間がLowレベルとなってしまう。このような断絶を防ぐために、ワンショット回路150によってtよりも遅い時刻であるtまで遅延させた長信号Sp2を生成し、論理演算回路160へ入力させている。
【0041】
しかし、波形整形回路120または電流コンパレータ140を調整することによって、tをtよりも常に早い時刻にすることができるなら、ワンショット回路150を省くことができる。この場合、論理演算回路160のゲートに入力される信号は、第1比較信号Sc1と第2比較信号Sc2の2信号となる。
【0042】
上述のように、検出回路100の論理演算回路160は、第1比較信号Sc1、第2比較信号Sc2、延長信号Sp2の3つの信号のOR論理ゲートである。延長信号Sp2加えて第2比較信号Sc2も入力対象とするのは、ワンショット回路150の構成によっては、延長信号Sp2の立ち上がりが第2比較信号Sc2の立ち上がりに対して遅延する場合があるからである。しかし、当該遅延が無視し得る程度であると評価されるのであれば、論理演算回路160は、第1比較信号Sc1と延長信号Sp2の2信号を入力するOR論理ゲートとしてもよい。
【0043】
また、以上説明した論理演算回路160は、OR論理ゲートを用いたが、第1比較信号Sc1、第2比較信号Sc2、延長信号Sp2のそれぞれにおいて、信号有りの期間をHighレベルとするかLowレベルとするかに応じて用いる論理ゲートを選択すればよい。もちろんいくつかの論理ゲートを組み合わせて検出信号Soutを生成するように構成してもよい。
【0044】
ここで、従来のToT検出回路における検出結果と、本実施形態に係る検出回路100の一実施例における検出結果を比較する。図12は、従来のToT検出回路における検出結果の例である。ここでは、横軸を波高値と比例関係にある信号量としてエネルギー(keV)で表し、縦軸を図11と同じく時間幅(ns)で表す。図において、59.6keVのプロットは、241Amの測定結果であり、81keV、304keV、356keVのプロットは、133Baの測定結果であり、122keVのプロットは、57Coの測定結果であり、604.7keV、795.9keVのプロットは、134Csの測定結果であり、551keV、1275keVのプロットは、22Naの測定結果である。図示するように、得られた測定結果は上凸の曲線を描き、エネルギー(∝波高値)と時間幅の線形性は芳しくない。
【0045】
図13は、本実施形態に係る検出回路100の一実施例における検出結果の例である。図12と同様に、横軸をエネルギー(keV)で表し、縦軸を時間幅(ns)で表す。図において、22keVのプロットは、100Cdの測定結果であり、59.6keVのプロットは、241Amの測定結果であり、30.9keV、81keV、356keVのプロットは、133Baの測定結果であり、122keVのプロットは、57Coの測定結果であり、662keVのプロットは、137Csの測定結果であり551keVのプロットは、22Naの測定結果である。図示するように、得られた測定結果はほぼ直線を描き、エネルギー(∝波高値)と時間幅の良好な線形性が得られている。
【符号の説明】
【0046】
100…検出回路、110…カレントミラー回路、120…波形整形回路、121…スルーレート制限抵抗回路、122…変更部、130…電圧コンパレータ、140…電流コンパレータ、150…ワンショット回路、151…時間調整部、160…論理演算回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13