(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置及び電極消耗量測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20231117BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20231117BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20231117BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20231117BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
H01L21/302 101M
H05H1/46 M
C23C16/505
G01N27/22 Z
G01N27/00 L
(21)【出願番号】P 2019217708
(22)【出願日】2019-12-02
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 浩司
【審査官】船越 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
H05H 1/00-1/54
C23C 16/00-16/56
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1の電極及び第2の電極を有するプラズマ装置であって、
前記第1の電極又は前記第2の電極のいずれかの電極にプラズマを着火させずにRF電力を印加する電力印加部と、
前記電力印加部により印加された前記RF電力に関する物理量を測定する測定部と、
測定した前記RF電力に関する物理量を、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離及び前記RF電力に関する物理量の相関関数に用いて、前記電極間距離を求める算出部と
を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記
電極間距離が閾値以上の場合にアラームを通知する通知部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記第1の電極として規定の厚みを有する基準電極を使用した場合の、前記基準電極と前記第2の電極との間の前記電極間距離を変更して基準となるRF電力に関する物理量を計測し、複数の前記電極間距離と前記基準となるRF電力に関する物理量との関係を表す相関関数を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第1の電極と前記第2の電極との間の距離を変更して、複数の前記電極間距離における前記基準電極が配置された位置に前記第1の電極を配置した場合の前記RF電力に関する物理量を測定し、測定した各前記RF電力に関する物理量に対応する対応距離を前記相関関数を基に取得し、各前記対応距離と複数の前記電極間距離との差の平均
値を前記第1の電極
の消耗量として算出することを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第1の電極として規定の厚みを有する基準電極を使用して、所定の位置に配置された前記基準電極と前記第2の電極との間の第1のRF電力に関する物理量を計測し、前記第1の電極として前記規定の厚みより厚みが薄い消耗電極を使用して、前記所定の位置に配置された前記消耗電極と前記第2の電極との間の第2のRF電力に関する物理量を計測し、前記第1のRF電力に関する物理量
及び前記第2のRF電力に関する物理量
から前記相関関数を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記RF電力に関する物理量は、RF電圧、RF電流、RF電力とRF電流の位相差、インピーダンスのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
対向する第1の電極及び第2の電極を有するプラズマ装置において、
前記第1の電極又は前記第2の電極のいずれかの電極にプラズマを着火させずにRF電力を印加し、
印加された前記RF電力に関する物理量を測定し、
測定した前記RF電力に関する物理量を、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離及び前記RF電力に関する物理量の相関関数に用いて、前記電極間距離を求める
ことを特徴とする電極消耗量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置及び電極消耗量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマを用いてウエハなどの被処理体にプラズマ処理を行うプラズマ処理装置が知られている。このようなプラズマ処理装置は、例えば、真空空間を構成可能な処理容器内に、電極を兼ねた被処理体を保持する載置台を有する。プラズマ処理装置は、載置台に所定の高周波電力を印加することにより、載置台に配置された被処理体に対し、プラズマ処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チャンバーを開けずに上部電極の消耗量を精度良く測定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
開示するプラズマ処理装置及び電極消耗量測定方法は、1つの実施態様において、プラズマ装置は、対向する第1の電極及び第2の電極を有する。電力印加部は、前記第1の電極又は前記第2の電極のいずれかの電極にプラズマを着火させずにRF電力を印加する。測定部は、前記電力印加部により印加された前記RF電力に関する物理量を測定する。算出部は、測定した前記RF電力に関する物理量を、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離及び前記RF電圧に関する物理量の相関関数に用いて、前記電力間距離を求める。
【発明の効果】
【0006】
開示するプラズマ処理装置及び電極消耗量測定方法の1つの態様によれば、チャンバーを開けずに上部電極の消耗量を精度良く測定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、プラズマ処理装置の構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、上部電極と下部電極とを模式的に表した図である。
【
図3】
図3は、プラズマ処理装置を簡略化して表した図である。
【
図4】
図4は、RFを全反射させた場合の反射波及びVppとRF電力との関係を表す図である。
【
図5】
図5は、測定用レシピの一例を表す図である。
【
図6】
図6は、消耗量の算出の概要を説明するための図である。
【
図7】
図7は、プラズマ処理装置による消耗量測定を用いたプラズマエッチング処理のフローチャートである。
【
図8】
図8は、基準データ取得時の上部天板の配置状態を表す図である。
【
図9】
図9は、基準Vppから求められる相関直線を表す図である。
【
図10】
図10は、消耗時データ取得時の上部天板の配置状態を表す図である。
【
図11】
図11は、消耗時Vppをプロットした状態の図である。
【
図12】
図12は、未使用の上部天板を用いて状態を変化させて消耗量を計測した場合の計測結果を表す図である。
【
図13】
図13は、2mmの擬似消耗を与えた上部天板を用いて状態を変化させて消耗量を計測した場合の計測結果を表す図である。
【
図14】
図14は、金属エッチングを行った場合の測定結果を表す図である。
【
図15】
図15は、Vppの測定が高分解能である場合の消耗量の測定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本願の開示するプラズマ処理装置の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととする。また、本実施形態により開示する発明が限定されるものではない。各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、「上」「下」の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。
【0009】
近年、フィードバック制御により各種制御パラメータを変更することで、パーツ消耗等によるプロセスシフト影響をキャンセルする試みがなされている。特に、チャンバーを構成するパーツの中でも上部電極(CEL)は、消耗による特性値への影響が大きいため、消耗によるエッチングレートシフトの復元や、悪化した製品の一様性の改善を実現するには、上部電極の消耗量を正確に把握し、適切な制御量で制御を行うことが望ましい。
【0010】
通常、パーツの正確な消耗量は、一度チャンバーを開けて対象パーツを取り外してからノギス等で測定する、あるいは外部業者に測定依頼する必要があり、生産性が悪化してしまうおそれがある。また、チャンバーを開けない手法としてRF積算時間から消耗量を推定する方法もあるが、条件によってパーツの消耗量が異なるためKnobの制御量調整が難しい。
【0011】
(第1実施形態)
[プラズマ処理装置の構成]
図1は、プラズマ処理装置の構成を示す概略断面図である。プラズマ処理装置100は、気密に構成され、電気的に接地電位とされた処理容器1を有する。この処理容器1は、円筒状とされ、例えばアルミニウム等から構成される。処理容器1は、プラズマが生成される処理空間を画成する。処理容器1内には、被処理体(work-piece)である半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)Wを水平に支持する載置台2が設けられている。載置台2は、基材(ベース)2a及び静電チャック(ESC:Electrostatic chuck)6を含んで構成される。基材2aは、導電性の金属、例えばアルミニウム等で構成され、下部電極としての機能を有する。静電チャック6は、ウエハWを静電吸着するための機能を有する。載置台2は、支持台4に支持される。支持台4は、例えば石英等からなる支持部材3に支持される。また、載置台2の上方の外周には、例えば単結晶シリコンで形成されたフォーカスリング5が設けられる。さらに、処理容器1内には、載置台2及び支持台4の周囲を囲むように、例えば石英等からなる円筒状の内壁部材3aが設けられる。
【0012】
基材2aには、第1の整合器11aを介して第1のRF電源10aが接続され、また、第2の整合器11bを介して第2のRF電源10bが接続される。第1のRF電源10aは、主にプラズマ発生用のものであり、この第1のRF電源10aからは150MHz~10MHzの範囲で選ばれる所定の周波数の高周波電力が載置台2の基材2aに供給されるように構成される。また、第2のRF電源10bは、主にイオン引き込み用(バイアス用)のものであり、この第2のRF電源10bからは第1のRF電源10aより低く40MHz~100KHzの範囲で選ばれる所定周波数の高周波電力が載置台2の基材2aに供給されるように構成される。このように、載置台2は電圧印加可能に構成されている。
【0013】
なお、第1のRF電源10aの周波数は、プラズマ発生と同時に少なからずイオン引き込みにも作用し、周波数が低いほど、イオン引き込み作用の割合が大きくなる。また、第2のRF電源10bの周波数は、イオン引き込みと同時に少なからずプラズマ発生にも作用し、周波数が高いほど、プラズマ発生作用の割合が高くなる。
【0014】
一方、載置台2の上方には、載置台2と平行に対向するように、上部電極としての機能を有するシャワーヘッド16が設けられる。シャワーヘッド16と載置台2は、一対の電極(上部電極と下部電極)として機能する。
【0015】
静電チャック6は、該絶縁体6bの間に電極6aを介在させて構成され、電極6aには直流電源12が接続される。そして、電極6aに直流電源12から直流電圧が印加されることにより、クーロン力によってウエハWが吸着されるよう構成されている。
【0016】
載置台2の内部には、冷媒流路2dが形成されており、冷媒流路2dには、冷媒入口配管2b、冷媒出口配管2cが接続されている。そして、冷媒流路2dの中に適宜の冷媒、例えば冷却水等を循環させることによって、載置台2を所定の温度に制御可能に構成されている。また、載置台2等を貫通するように、ウエハWの裏面にヘリウムガス等の冷熱伝達用ガス(バックサイドガス)を供給するためのガス供給管30が設けられており、ガス供給管30は、図示しないガス供給源に接続されている。これらの構成によって、載置台2の上面に静電チャック6によって吸着保持されたウエハWを、所定の温度に制御する。
【0017】
また、載置台2の上方の外周に設けられるフォーカスリング5も所定の温度に制御される。なお、載置台2もしくは静電チャック6の内部にヒーターを設け、ヒーターを所定の温度に加熱することによって、ウエハWおよびフォーカスリング5を所定の温度に制御してもよい。
【0018】
載置台2には、複数、例えば3つのピン用貫通孔200が設けられており(
図1には1つのみ示す。)、これらのピン用貫通孔200の内部には、夫々リフターピン61が配設されている。リフターピン61は、駆動機構62に接続されており、駆動機構62により上下動される。
【0019】
上記したシャワーヘッド16は、処理容器1の天壁部分に設けられている。シャワーヘッド16は、本体部16aと電極板をなす上部天板16bとを備えており、絶縁性部材95を介して処理容器1の上部に支持される。本体部16aは、導電性材料、例えば表面が陽極酸化処理されたアルミニウムからなり、その下部に上部天板16bを着脱自在に支持できるように構成されている。
【0020】
本体部16aは、内部にガス拡散室16cが設けられている。また、本体部16aは、ガス拡散室16cの下部に位置するように、底部に、多数のガス通流孔16dが形成されている。また、上部天板16bは、当該上部天板16bを厚さ方向に貫通するようにガス導入孔16eが、上記したガス通流孔16dと重なるように設けられている。このような構成により、ガス拡散室16cに供給された処理ガスは、ガス通流孔16d及びガス導入孔16eを介して処理容器1内にシャワー状に分散されて供給される。
【0021】
本体部16aには、ガス拡散室16cへ処理ガスを導入するためのガス導入口16gが形成されている。ガス導入口16gには、ガス供給配管15aの一端が接続されている。このガス供給配管15aの他端には、処理ガスを供給する処理ガス供給源(ガス供給部)15が接続される。ガス供給配管15aには、上流側から順にマスフローコントローラ(MFC)15b、及び開閉弁V2が設けられている。ガス拡散室16cには、ガス供給配管15aを介して、処理ガス供給源15からプラズマエッチングのための処理ガスが供給される。処理容器1内には、ガス拡散室16cからガス通流孔16d及びガス導入孔16eを介して、シャワー状に分散されて処理ガスが供給される。
【0022】
上記した上部電極としてのシャワーヘッド16には、ローパスフィルタ(LPF)71を介して可変直流電源72が電気的に接続されている。この可変直流電源72は、オン・オフスイッチ73により給電のオン・オフが可能に構成されている。可変直流電源72の電流・電圧ならびにオン・オフスイッチ73のオン・オフは、後述する制御部90によって制御される。なお、後述のように、第1のRF電源10a、第2のRF電源10bから高周波が載置台2に印加されて処理空間にプラズマが発生する際には、必要に応じて制御部90によりオン・オフスイッチ73がオンとされ、上部電極としてのシャワーヘッド16に所定の直流電圧が印加される。
【0023】
処理容器1の側壁からシャワーヘッド16の高さ位置よりも上方に延びるように円筒状の接地導体1aが設けられている。この円筒状の接地導体1aは、その上部に天壁を有している。
【0024】
処理容器1の底部には、排気口81が形成されている。排気口81には、排気管82を介して第1排気装置83が接続されている。第1排気装置83は、真空ポンプを有しており、この真空ポンプを作動させることにより処理容器1内を所定の真空度まで減圧することができるように構成されている。一方、処理容器1内の側壁には、ウエハWの搬入出口84が設けられており、この搬入出口84には、当該搬入出口84を開閉するゲートバルブ85が設けられている。
【0025】
処理容器1の側部内側には、内壁面に沿ってデポシールド86が設けられている。デポシールド86は、処理容器1にエッチング副生成物(デポ)が付着することを防止する。このデポシールド86のウエハWと略同じ高さ位置には、グランドに対する電位が制御可能に接続された導電性部材(GNDブロック)89が設けられており、これにより異常放電が防止される。また、デポシールド86の下端部には、内壁部材3aに沿って延在するデポシールド87が設けられている。デポシールド86,87は、着脱自在とされている。
【0026】
上記構成のプラズマ処理装置100は、制御部90によって、その動作が統括的に制御される。この制御部90には、CPUを備えプラズマ処理装置100の各部を制御するプロセスコントローラ91と、ユーザインターフェース92と、記憶部93とが設けられている。
【0027】
ユーザインターフェース92は、工程管理者がプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等から構成されている。
【0028】
記憶部93には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ91の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウェア)や処理条件データ等が記憶されたレシピが格納されている。そして、必要に応じて、ユーザインターフェース92からの指示等にて任意のレシピを記憶部93から呼び出してプロセスコントローラ91に実行させることで、プロセスコントローラ91の制御下で、プラズマ処理装置100での所望の処理が行われる。また、制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータで読取り可能なコンピュータ記憶媒体(例えば、ハードディスク、CD、フレキシブルディスク、半導体メモリ等)などに格納された状態のものを利用したり、又は、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで使用したりすることも可能である。
【0029】
[上部電極の消耗量の測定]
次に、上部電極の消耗量の測定について説明する。プラズマエッチングを行った場合、実際には上部電極であるシャワーヘッド16の電極板である上部天板16bが消耗する。そこで、以下の説明では、上部天板16bの消耗量について説明するが、本体部16a及び上部天板16bを一体のシャワーヘッドとして考えると、上部天板16bの消耗量は上部電極(CEL)の消耗量と言うこともできる。
【0030】
図2は、上部電極と下部電極とを模式的に表した図である。電極間距離dは、上部電極であるシャワーヘッド16と下部電極である載置台2との対向する面の間の距離である。
【0031】
また、
図3は、プラズマ処理装置を簡略化して表した図である。プラズマ処理装置100は、
図3に示すように、概略的には、電源201、マッチャー202及びチャンバー空間203に分けられる。電源201は、例えば、
図1における第1のRF電源10aを含む。また、マッチャー202は、例えば、
図1における第1の整合器11aを含み、第1の整合器11aの回路構成としてバリアブルコンデンサC1及びC2を含む。チャンバー空間203は、処理容器1の内部に配置された各部材を含む。測定器204は、第1のRF電源10aから出力され第1の整合器11aを経由してシャワーヘッド16と載置台2に供給されるRF電力のVpp(Voltage Peak to Peak)を測定し、出力する。
【0032】
プラズマエッチングが実行されると、上部電極(CEL)であるシャワーヘッド16における上部天板16bが消耗する。上部天板16bが消耗すると、同じ位置にシャワーヘッド16及び載置台2を配置しても、消耗する前に比べて電極間距離dが長くなる。
図3で表されるプラズマ処理装置100におけるシャワーヘッド16と載置台2との間の容量成分Cによるインピーダンスは、Z=1/jωCである。そして、C=ε(S/d)であるので、dが変化すると、静電容量が変化し、それに伴いシャワーヘッド16と載置台2との間のインピーダンスが変化する。
【0033】
プラズマが生成される場合、第1のRF電源10aにより出力されたRF電力は、負荷(プラズマ)側に吸収されるため反射波は観測されない、もしくは観測値が小さい。また、反射波の大きさは負荷インピーダンスの変化によって決まるため、プラズマ状態が変わることで変化する。反射波と同様に、Vppも外乱影響におる負荷インピーダンスの変化に応じて値が変動する。このため、プラズマ着火時には、Vppの測定値の信頼性は低く、Vppを用いて制御を行うと制御が不正確になるおそれがある。
【0034】
一方、下部電極である載置台2から放射されるRFを上部電極であるシャワーヘッド16の上部天板16bで全反射させた場合、プラズマは生成されずに与えられた電力は載置台2に反射波として戻る。プラズマ非着火時には、ガス流量や圧力といった処理容器1内のコンディションの影響を軽減してインピーダンスの変化を抑えることができ、また、RFは負荷側で吸収されずに全反射するため、反射波の大きさは一定の値が得られる。そして、RFを全反射させた場合のVppは、消耗による電極間距離dの変化に伴う静電容量の変化により値が変化する。
【0035】
図4は、RFを全反射させた場合の反射波及びVppとRF電力との関係を表す図である。
図4のグラフ301及び302は、横軸でRF電力を表し、縦軸で反射波の電力を表す。そのうちグラフ301は高周波の中でも比較的高い40MHzの周波数の場合のRF出力を表し、グラフ302は高周波の中でも比較的低い13MHzの周波数の場合のRF出力を表す。グラフ303及び304は、横軸でRF電力を表し、縦軸でVppの2乗値を表す。グラフ303は高周波の中でも比較的高い40MHzの周波数の場合のRF出力を表し、グラフ304は高周波の中でも比較的低い13MHzの周波数の場合のRF出力を表す。
【0036】
図4のグラフ301及び302では、電力間距離を30mm、40mm、50mmと段階的に変化させても、いずれの場合も同じ直線となる。すなわち、電極間距離dが変化しても、
図4のグラフ301及び302に示すように、反射波の電力は一定である。
【0037】
これに対して、グラフ303の直線331は電力間距離が50mmの場合のVppの変化を表し、直線332は電力間距離が40mmの場合のVppの変化を表し、直線333は電力間距離が30mmの場合のVppの変化を表す。また、グラフ304の直線341は電力間距離が50mmの場合のVppの変化を表し、直線342は電力間距離が40mmの場合のVppの変化を表し、直線343は電力間距離が30mmの場合のVppの変化を表す。
【0038】
グラフ303及び304に示すように、電力間距離を30mm、40mm、50mmと変化させた場合、Vppは静電容量の変化に伴い変化する。このVppの変化を利用して、本実施形態に係るプラズマ処理装置100は、Vppの変化を計測してシャワーヘッド16と載置台2との間の距離の変化を求めて上部天板16bの消耗量を求める。以下に消耗量測定処理について詳細に説明する。
【0039】
シャワーヘッド16の未使用の上部天板16bが、プラズマ処理装置100にインストールされる。さらに、載置台2にウエハが載置される。
【0040】
そして、プロセスコントローラ91は、ユーザインターフェース92からの指示を受けて、消耗量の算出に用いる基準データを取得するための基準データ取得処理を実行する。具体的には、プロセスコントローラ91は、記憶部93に格納された測定用レシピを用いてプラズマが生成されずに全反射が起こる出力のRF電力をウエハが載せられた載置台2に印加しRFを全反射させて基準データを取得する。
【0041】
この際、プロセスコントローラ91は、基準データ取得処理を実行する前のアイドル時間を1時間以上開けて、処理容器1の内部温度をコールド状態にしたうえでVppの測定を行う。これは、温度変化の影響によるインピーダンスの変化を軽減するためである。
【0042】
図5は、測定用レシピの一例を表す図である。測定用レシピに登録された処理条件として、例えば、
図5に示したレシピが用いられる。測定用レシピでのRF電力の出力は、プラズマが生成されずに全反射が起こる出力である。本実施形態では、RFは下部13MHzを用いてRF出力は700Wである。また、処理容器1の圧力は最小値である0mTとされ、処理ガスは0sccmとして処理ガスが流れない状態とされる。さらに、第1の整合器11aのバリアブルコンデンサC1及びC2は可変可能な静電容量の範囲である下限値を示す0/0[%]に固定される。さらに、静電チャック6及びフォーカスリング5の温度は、30℃に設定され、処理容器1の上部電極であるシャワーヘッド16と処理容器1の側壁であるデポシールド86及び87の温度は150℃に設定される。さらに、電極間距離dは、30mm~50mmの間の1mm刻みで変化させた値を取る。
図5におけるGapは、基準データ取得処理における電極間距離dの値を表す。なお、バリアブルコンデンサC1及びC2の静電容量や、静電チャック6、フォーカスリング5、シャワーヘッド16、並びに、デポシールド86及び87の温度の設定値はこれに限定されるものではない。例えば、バリアブルコンデンサC1及びC2の値は、50/50[%]でも100/100[%]でもよい。また、測定の精度を高めるために一定であることが望ましい。
【0043】
ここで、消耗量を求めるためのVppの測定時にはプラズマを着火させないため、
図5に示した測定用レシピのように、圧力、ガス及びバリコンの静電容量を最小に抑えることができる。これにより、プラズマ着火時と比較して、圧力がガスなどの外乱影響を軽減することができ、より正確にVppを測定できる。
【0044】
プロセスコントローラ91は、電極間距離dを30mm~50mmにおいて1mm間隔で変化させた各位置でのVppを基準Vppとして取得する。基準Vppの情報は、記憶部93に格納される。以下では、各基準Vppの算出時の電極間距離dを設定値Gapと言い、電極間距離dを設定値にした場合のシャワーヘッド16及び載置台2の位置を基準位置と言う。
【0045】
そして、プロセスコントローラ91は、各設定値Gapにおける基準Vppの値を用いて、Vppと電極間距離dとの関係を表す相関関数を求める。そして、プロセスコントローラ91は、求めた相関関数を記憶部93に記憶させる。
【0046】
例えば、プロセスコントローラ91は、Vppと電極間距離dとを各次元とする2次元平面に基準Vppと設定値Gapとをプロットした場合の近似直線をVppと電極間距離dの相関直線として、その相関直線を表す相関関数を求める。具体的には、プロセスコントローラ91は、Vpp=a×電極間距離d+bと表される近似式により相関関数及び相関直線を求めることができる。ここで、aはVppと電極間距離dとを各次元とする2次元平面における傾き(Slope)であり、bは切片(Intercept)である。すなわち、電極間距離dとVppとの相関関数は次の数式(1)で表される。
【0047】
【0048】
その後、プロセスコントローラ91は、プラズマエッチングを行う。そして、プロセスコントローラ91は、定期的に
図5に示す測定用レシピを用いて、プラズマエッチングに使用したインストール済みの上部天板16bを用いて消耗時データを取得する消耗時データ取得処理を実行する。この場合も、プロセスコントローラ91は、載置台2の上にウエハが載せられた状態で消耗時データを取得する。また、この場合にも、プロセスコントローラ91は、消耗時データ取得処理を実行する前のアイドル時間を1時間以上空ける。これにより、処理容器1内の温度が安定する。
【0049】
ここで、消耗時データ取得処理の場合、シャワーヘッド16及び載置台2は、測定用レシピに登録されたそれぞれの設定値Gapに対応する基準位置に順番に配置される。プロセスコントローラ91は、各配置状態で、測定用レシピを用いてプラズマが生成されずに全反射が起こる出力のRF電力をウエハが載せられた載置台2に印加しRFを全反射させる。そして、プロセスコントローラ91は、消耗したシャワーヘッド16及び載置台2を各基準位置に置いた場合に測定されるVppを消耗時Vppとして取得する。
【0050】
図6は、消耗量の算出の概要を説明するための図である。
図6における黒丸は基準Vppを表す。また、白丸は消耗時Vppを表す。また、相関直線310は、基準Vpp及び設定値Gapから求められるVppと電極間距離dとの相関関係を表す直線である。
【0051】
プロセスコントローラ91は、相関直線310において消耗時Vppに対応する電極間距離dを取得する。次に、プロセスコントローラ91は、消耗時Vppを計測した設定値Gapと消耗時Vppから推定される電極間距離dとの差分を求め消耗量Δdとする。以下では、この消耗時Vppから推定される電極間距離dを推定Gapという。
【0052】
例えば、プロセスコントローラ91は、設定値Gapが40mmの場合の基準位置に消耗したシャワーヘッド16及び載置台2を配置して測定を行い、消耗時Vppとして点311で表される値を取得する。次に、プロセスコントローラ91は、点311で表されるVppに対応する電極間距離dとして点312で表される値を取得する。例えば、相関関数が数式(1)で表される場合、プロセスコントローラ91は、数式(1)におけるVppに消耗時Vppを代入して推定Gapである電極間距離dを求める。
【0053】
次に、プロセスコントローラ91は、この点312の値と40mmとの差分を消耗量Δdとして算出する。すなわち、プロセスコントローラ91は、消耗量Δd=推定Gap-設定値Gapとして消耗量Δdを求める。
図6に示すように、点312の値は、40+Δd(mm)と表される。例えば、設定値Gapが40mmであり、推定Gapが42mmの場合、消耗量Δdは、42-40=2mmとなる。
【0054】
次に、プロセスコントローラ91は、消耗時Vpp毎に算出した消耗量Δdの平均値を算出する。例えば、30mm~50mmの間の1mm刻みの各設定値Gapに対応する各消耗量Δdを、Δd(30)~Δ(50)と表す場合、プロセスコントローラ91は、次の数式(2)により消耗量Δdの平均値を求める。
【0055】
【0056】
数式(2)におけるΔdavgは、消耗量Δdの平均値を表す。また、Average[]と表した関数は、平均値を求める関数である。そして、プロセスコントローラ91は、消耗量Δdの平均値を上部天板16bの消耗量とする。
【0057】
ここで、本実施形態では、30mm~50mmにおける1mm間隔の各点での消耗量Δdを用いて上部天板16bの消耗量を算出したが、この点の数はVppの分解能に依存する。すなわち、Vppの分解能が高ければ消耗量Δdを算出する点をより少なくすることができる。
【0058】
次に、プロセスコントローラ91は、算出した上部天板16bの消耗量閾値と予め決められた消耗量閾値とを比較して、消耗量が許容値内に収まっているか否かを判定する。例えば、プロセスコントローラ91は、消耗量閾値を2mmとして記憶する。
【0059】
算出した上部天板16bの消耗量閾値が消耗量閾値以上の場合、プロセスコントローラ91は、消耗量が許容値を超過したと判定する。そして、プロセスコントローラ91は、アラートをユーザインターフェース92のディスプレイに表示させるなどして、異常発生をプラズマ処理装置100の管理者に通知する。管理者は、アラートの通知を受けて、上部天板16bを交換する。上部天板16bの交換後、プロセスコントローラ91は、消耗時Vppを測定して消耗量を算出し、算出した消耗量が許容値内に収まっていれば正常と判定する。その後、プロセスコントローラ91は、ユーザインターフェース92からの指示を待ち、指示を受けた場合、指示にしたがってプラズマエッチングを実行する。
【0060】
これに対して、算出した上部天板16bの消耗量閾値が消耗量閾値未満の場合、プロセスコントローラ91は、消耗量が許容値内に収まっていると判定する。そして、プロセスコントローラ91は、算出した上部天板16bの消耗量に応じてKnob制御量を算出してプラズマエッチング実行時のレシピに反映させる。その後、プロセスコントローラ91は、補正したレシピでプラズマエッチングを実行する。
【0061】
ここで、本実施形態では、載置台2の保護カバーとして載置台2の上にウエハを載せた状態でVppの測定を行った。これは、Vppの測定時にはプラズマが発生しないことを前提とした測定用レシピを使用するが、万が一プラズマが発生した場合に各部材への着火を防止するためにウエハを載せている。実際にはプラズマエッチングは行わないので、消耗量の測定実行時にはウエハを載せなくてもよい。ただし、ウエハを載せた場合でも載せない場合でも、基準Vpp測定及び消耗時Vpp測定の双方は、ウエハの載置の条件は同じ条件で行われる。
【0062】
次に、
図7を参照して、本実施形態に係るプラズマ処理装置100による消耗量測定を用いたプラズマエッチング処理の流れを説明する。
図7は、プラズマ処理装置による消耗量測定を用いたプラズマエッチング処理のフローチャートである。
【0063】
プロセスコントローラ91は、各設定値Gapに対応する基準Vppの情報を含む基準データを取得し、Vppと電極間距離dとの相関関数を算出する(ステップS1)。
【0064】
その後、プロセスコントローラ91は、プラズマ処理装置100によるプラズマエッチングを実行し(ステップS2)、例えば、プラズマエッチング処理の積算時間が一定時間を経過したか否かを判定する(ステップS3)。一定時間が経過していない場合(ステップS3:否定)、プロセスコントローラ91は、ステップS2へ戻り、プラズマエッチングを継続する。
【0065】
これに対して一定時間が経過した場合(ステップS3:肯定)、プロセスコントローラ91は、消耗量の算出の実行を決定する。そして、プロセスコントローラ91は、インストールされている上部天板16bに対して測定用レシピを用いて消耗時Vppを測定する(ステップS4)。
【0066】
次に、プロセスコントローラ91は、Vppと電極間距離dとの相関関数に対して消耗量Vppを用いて、各設定値Gapに対する推定Gapを求める。次に、プロセスコントローラ91は、推定Gapから設定値Gapを減算して消耗量Δdを算出する。さらに、プロセスコントローラ91は、各設定値Gapに対応する消耗量Δdの平均値を算出してインストールされている上部天板16bの消耗量を計算する(ステップS5)。
【0067】
そして、プロセスコントローラ91は、算出した消耗量と消耗量閾値とを比較して、消耗量が許容値内に収まっているか否かを判定する(ステップS6)。
【0068】
これに対して、消耗量が許容値内に収まる場合(ステップS6:肯定)、プロセスコントローラ91は、消耗量に応じてKnob制御の制御量を調整する(ステップS7)。
【0069】
そして、プロセスコントローラ91は、ステップS2へ戻り、Knob制御の制御量に補正を加えたレシピを用いてプラズマエッチングを実行する。
【0070】
消耗量が許容値を超過した場合(ステップS6:否定)、プロセスコントローラ91は、アラートを管理者に通知する(ステップS8)。
【0071】
その後、プロセスコントローラ91は、ユーザインターフェース92から動作停止指示を受けたか否かにより、プラズマ処理装置100の動作を停止するか否かを判定する(ステップS9)。
【0072】
動作を停止しない場合(ステップS9:否定)、アラートを受けた管理者により、上部天板16bの交換が行われる(ステップS10)。その後、プロセスコントローラ91による消耗量測定を用いたプラズマエッチング処理は、ステップS4へ戻る。
【0073】
これに対して、動作を停止すると判定した場合(ステップS9:肯定)、プロセスコントローラ91は、プラズマ処理装置100の動作を停止させる。
【0074】
[消耗量算出のシミュレーション]
次に、消耗量算出のシミュレーションについて説明する。
図8は、基準データ取得時の上部天板の配置状態を表す図である。
図9は、基準Vppから求められる相関直線を表す図である。
図9は、縦軸でVppを表し、横軸で電極間距離を表す。
【0075】
基準データ取得処理では、未使用の上部天板16bが、
図8に示すように、電極間距離dを30mmから1mmずつ増やして50mmまで変化するように配置される。
図8では、電極間距離dが最も狭い幅の30mmから最も広い幅の50mmまで変化する状態を表す。この時の各電極間距離dが設定値Gapである。さらに、各状態での上部天板16bの位置が基準位置となる。そして、プロセスコントローラ91は、各電極間距離dにおける基準Vppを測定する。
【0076】
計測された基準Vppと設定値Gapとを、2次元平面にプロットすると、
図9に図示された各白丸により表される点となる。そして、プロセスコントローラ91は、
図9に示された各点に関する近似直線である相関直線320を取得する。そして、プロセスコントローラ91は、取得した相関直線320を表す相関関数を保持する。
【0077】
図10は、消耗時データ取得時の上部天板の配置状態を表す図である。
図11は、消耗時Vppをプロットした状態の図である。
図11は、縦軸でVppを表し、横軸で電極間距離を表す。
【0078】
消耗時データ取得処理では、2mmの擬似消耗を与えた上部天板16bが、
図10に示すように、各基準位置に配置される。この場合、電極間距離dは設定値Gapよりも2mm長くなる。そのため、上部天板16bは、
図10に示すように、電極間距離dが最も狭い幅の30+2mmから最も広い幅の50+2mmまで変化するように配置される。そして、プロセスコントローラ91は、各電極間距離dにおける消耗時Vppを測定する。
【0079】
計測された消耗時Vppを2次元平面にプロットすると、
図11に図示された黒丸により表される各点となる。そして、プロセスコントローラ91は、消耗時Vppと相関直線320とを用いて各消耗時Vppに対応する電極間距離dを推定Gapとして算出する。次に、プロセスコントローラ91は、設定値Gapと推定Gapとの差である消耗量Δdを算出する。次に、プロセスコントローラ91は、各設定値Gapに対応する消耗量Δdの平均を求めて上部天板16bの消耗量とする。ここでは、プロセスコントローラ91は、上部天板16bの消耗量を1.98mmと算出する。ここで、消耗時データ取得処理における上部天板16bには、疑似消耗として2mmが与えられた。これに対して、プロセスコントローラ91が推定した消耗量は1.98mmであり、十分な精度での消耗量の推定が可能であるといえる。
【0080】
[消耗量の算出結果]
次に、本実施形態に係るプラズマ処理装置100を用いた実際の消耗量の算出の結果について説明する。
図12は、未使用の上部天板を用いて状態を変化させて消耗量を計測した場合の計測結果を表す図である。
図13は、2mmの擬似消耗を与えた上部天板を用いて状態を変化させて消耗量を計測した場合の計測結果を表す図である。
図14は、金属エッチングを行った場合の測定結果を表す図である。
【0081】
シリコンのウエハを搭載して未使用の上部天板16bを用いて基準状態を計測し、その後にプラズマ処理を複数回実行した後に計測を行った場合、
図12に示すように、消耗量の測定結果は0.15mmである。この場合、プラズマ処理を複数回実行したことで、上部天板16bが消耗したことが確認できる。
【0082】
その後、処理容器1の内壁であるデポシールド86及び87上や上部天板16b上に堆積物を堆積させるデポ条件で30秒処理した後、処理容器1の内壁に堆積物が堆積した状態では、消耗量の測定結果は0.11mmである。すなわち、処理容器1の内壁に堆積物が堆積していても、堆積物による影響は小さく、測定精度は十分確保できることが分かる。
【0083】
次に、クリーニングレシピを用いてプラズマ処理を実行してクリーニング処理を1回施した後に直ぐに計測すると、消耗量の測定結果は0.50mmであり、クリーニング処理を1回施した程度では上部天板16bはさほど消耗しないにも関わらず、消耗量が悪化していることが分かる。クリーニング処理では高出力のRFが用いられるため、生成されたプラズマ量が多くなりプラズマからの入熱によって処理容器1の内部が高温になる。すなわち、高温の状態で消耗量の測定を行うと測定精度が悪化することが分かる。これは、
図3で表されるプラズマ処理装置100においてシャワーヘッド16と載置台2との間のインピーダンス以外に合成される例えばシャワーヘッド16の抵抗成分によるインピーダンスが温度に起因して変化し、測定結果がシフトしたものと思われる。一般的に抵抗成分によるインピーダンスは温度に比例する。このことからも、消耗量の測定を実行する前にアイドル時間を十分設けて、処理容器1の内部温度をコールド状態にすること、すなわち基準状態を計測した際の温度に安定した状態が好ましいといえる。
【0084】
また、
図13に示すように、予め2mm薄く設計し、疑似的に2mm消耗させた上部天板16bを用いて計測すると、消耗量の測定結果は1.98mmとなる。この測定精度は許容範囲内であり、十分な測定精度が確保できているといえる。
【0085】
次に、過去の経験から上部天板16bが0.2~0.3mm程度消耗するプラズマ処理を行った後に計測を行った場合、消耗量の測定結果は2.30となる。これは、2mm擬似消耗させた上部天板16bを基準にすると、消耗量の測定結果が0.32mm増えていることになり、経験値とほぼ同等の結果が得られた。すなわち、この場合も測定精度は許容範囲内であり、十分な測定精度が確保できているといえる。また、この場合は消耗量が2mm以上であることからエラーとなりアラートが通知される。
【0086】
次に、消耗量の測定結果が0.32mm増えている状態からクリーニング処理を実行した直後に測定を行うと、消耗量の測定結果は3.08mmとなる。これは、2mm擬似消耗させた上部天板16bを基準にすると、消耗量の測定結果が0.78mm増えている。この場合も、クリーニング処理による温度上昇により測定精度が悪化していることが分かる。
【0087】
次に、処理容器1の内部温度をコールド状態に戻し、フォーカスリング5を90℃にして測定を行った場合、消耗量の測定結果は2.12である。これは、2mm擬似消耗させた上部天板16bを基準にすると、消耗量の測定結果が0.14mm増えている。この場合も温度上昇により精度が悪化するが、この程度の温度であれば測定精度の悪化は低く抑えられることが分かる。
【0088】
次に、ウエハをシリコンから二酸化ケイ素(SiO2)に変えて測定を行った場合、消耗量の測定結果は2.29mmとなる。これは、2mm擬似消耗させた上部天板16bを基準にすると消耗量の測定結果が0.31mm増えている。消耗量の測定結果が0.32mm増えている状態と比較してほぼ同等であることから、ウエハを交換しても測定精度への影響が小さく、十分な測定精度が確保できるといえる。
【0089】
また、
図14に示すように、未使用の上部天板16bを用いて基準状態を計測した後に以下の処理を行い消耗量を測定する。測定はいずれもアイドル時間を1時間開けた後に行われた。
【0090】
5枚のシリコン(Si)のウエハのエッチングを行った場合、測定結果は0.14mmである。この場合、シリコンのウエハのエッチングにより、処理容器1の内壁、すなわちデポシールド86及び87上や上部天板16b上にシリコンが付着した状態である。この場合の測定結果は測定精度の誤差範囲であり、処理容器1の内壁にシリコンが付着した状態でも、付着物の影響は少なく、正しく測定できていることが分かる。
【0091】
また、5枚のチタン(TiN)のウエハをエッチングした後に測定を行った場合、消耗量の測定結果は0.05mmである。この場合、チタンのウエハのエッチングにより、処理容器1の内壁にチタンが付着した状態である。この場合の測定結果は測定精度の誤差範囲であり、処理容器1の内壁にチタンが付着した状態でも、付着物の影響は少なく、正しく測定できていることが分かる。
【0092】
また、5枚のアルミ(AlOx)のウエハをエッチングした後に測定を行った場合、消耗量の測定結果は0.07mmである。この場合、アルミのウエハのエッチングにより、処理容器1の内壁にアルミが付着した状態である。この場合の測定結果は測定精度の誤差範囲であり、処理容器1の内壁にアルミが付着した状態でも、付着物の影響は少なく、正しく測定できていることが分かる。
【0093】
以上に説明したように、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、プラズマを発生させないRFを印加して全反射させた場合のVppを測定し、測定したVppを用いて電極間距離を推定する。これにより、処理容器(チャンバー)を開けずに上部電極の消耗量を精度良く測定できるができる。
【0094】
また、自動的に上部電極の消耗量を測定することで、上部電極の交換時期を把握することができる。また、上部電極の位置を移動させて電極間距離が変更できる機器に関しては、消耗量の測定結果を電極間距離の調整に利用して特性変化に対応させることができる。
【0095】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、プロセスコントローラ91は、多点での消耗量Δdを求め、それらの平均値を上部天板16bの消耗量として求めた。ただし、Vppの測定が高分解能であれば、2点で適切な近似直線を求めることができ、プロセスコントローラ91は、異なる2つの電極間距離dに対応する2つのVppを用いて近似直線を求めて、消耗後の上部天板16bの消耗量を求めることもできる。高分解能とは、Vppの測定結果の小数点以下の表示桁数が多い測定能力である。この場合、電極間距離が固定である非Gap駆動型のプラズマ処理装置100でも消耗量を算出することができる。
【0096】
例えば、非Gap駆動型のプラズマ処理装置100による消耗量の算出について説明する。以下では、本実施形態に係るプラズマ処理装置100で用いられる固定の電極間距離を、固定電極間距離と言う。
図15は、Vppの測定が高分解能である場合の消耗量の測定を説明するための図である。
図15は、縦軸がVppを表し、横軸が電極間距離を表す。
【0097】
記憶部93には、測定用レシピが格納される。この場合、測定用レシピには固定電極間距離における各種条件が登録される。例えば、プラズマ処理装置100における固定電極間距離が40mmであれば、
図5におけるGapが40mmである行が、本変形例における測定用レシピにあたる。
【0098】
プロセスコントローラ91は、上部天板16bが未使用の状態でのVppの測定の実行の指示をユーザインターフェース92から受ける。この場合、操作者により未使用の上部天板16bがインストールされている。そして、プロセスコントローラ91は、記憶部93に格納された測定用レシピを用いてVppを測定する。例えば固定電極間距離が40mmであれば、プロセスコントローラ91は、上部天板16bが未使用の状態でのVppの測定結果を表す点として、
図15における2次元平面での点401を取得する。その後、プロセスコントローラ91は、測定結果を記憶部93に格納する。
【0099】
次に、プロセスコントローラ91は、消耗量閾値にあたる消耗量が与えられた上部天板16bのVppの測定の実行の指示をユーザインターフェース92から受ける。この場合、操作者により消耗量閾値にあたる消耗量が与えられた上部天板16bがインストールされている。例えば、消耗量閾値が2mmであれば、2mmの擬似消耗が与えられた上部天板16bがインストールされる。そして、プロセスコントローラ91は、記憶部93に格納された測定用レシピを用いてVppを測定する。例えば固定電極間距離が40mmであり、消耗閾値が2mmであれば、プロセスコントローラ91は、消耗量閾値にあたる消耗量が与えられた上部天板16bのVppの測定結果を表す点として、
図15における2次元平面上の点402の位置を取得する。その後、プロセスコントローラ91は、測定結果を記憶部93に格納する。
【0100】
そして、プロセスコントローラ91は、記憶部93に記憶させた
図15における点401及び402の情報から、電極間距離dとVppとの関係を表す相関直線403を生成する。この場合、高分解能であるため、2点を結ぶ直線を求めることで適切な相関直線403が得られる。その後、プロセスコントローラ91は、相関直線403を表す相関関数を記憶部93に格納する。
【0101】
その後、プロセスコントローラ91は、新たにインストールされた未使用の上部天板16bを用いてウエハのプラズマエッチングを繰り返す。そして、一定期間が経過すると、プロセスコントローラ91は、消耗時データ取得処理を実行する。これにより、プロセスコントローラ91は、消耗した上部天板16bを用いた場合の消耗時Vppを取得する。この消耗時Vppは、例えば
図15の点404で表される。そして、プロセスコントローラ91は、記憶部に格納した相関関数に対して取得したVppを用いて電極間距離dを算出する。この電極間距離dは、例えば
図15の点405で表される。
【0102】
その後、プロセスコントローラ91は、算出した電極間距離dと固定電極間距離との差分を求めて消耗量Δdとする。本実施形態では、Vppの測定能力が高分解能であることから、測定した1つの消耗時Vppから適切な消耗量を取得することができる。
【0103】
その後、プロセスコントローラ91は、上部天板16bの消耗量が消耗量閾値を超えているか否かを判定する。上部天板16bの消耗量が消耗量閾値を超えていれば、プロセスコントローラ91は、アラートを管理者に通知する。これに対して、上部天板16bの消耗量が消耗量閾値を超えていない場合、プロセスコントローラ91は、そのまま通常のウエハのプラズマエッチングを次の消耗量の判定タイミングまで繰り返す。ここで、本実施形態のプラズマ処理装置100は電極間距離が一定であるので、プロセスコントローラ91は、消耗量を用いたプラズマエッチング実行時のレシピの補正は行わない。
【0104】
ここで、本実施形態では、未使用の状態の上部天板16bの場合のVpp及び消耗量閾値の消耗を与えた上部天板16bの場合のVppを用いて相関直線を算出した。すなわち、消耗量閾値にあたる消耗が発生した場合の電極間距離の算出の精度を向上に注目して、消耗量閾値の場合のVppを相関直線の取得に利用した。ただし、この相関直線を求めるためのVppの測定を行う状態は、他の状態のVppを用いてもよい。例えば、消耗量が確定している状態の上部天板16bであれば、2つの異なる消耗量の状態の上部天板16bを用いた場合のそれぞれのVppを測定して相関直線の取得に利用してもよい。
【0105】
また、本実施形態では、非Gap駆動型のプラズマ処理装置100の場合を例に説明したが、電極間距離が変更可能なGap駆動型のプラズマ処理装置100においても上部天板16bの2つ状態におけるVppを利用して相関直線を求めて消耗量の測定を行ってもよい。
【0106】
以上に説明したように、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、高分解能のVppの測定能力を有し、2つの異なる消耗状態の上部天板を用いた場合の2つのVppの測定結果から相関直線を取得する。さらに、プラズマ処理装置は、上部天板の1つの位置における消耗時Vppの測定結果を用いて消耗量を測定することができる。これにより、消耗量の測定における処理負荷を軽減することができる。
【0107】
以上、一実施形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0108】
例えば、プラズマ処理装置100は、プラズマ発生の危険が無ければウエハを載せずにVppの測定を行ってもよい。また、電極間距離を変更して基準データ及び消耗時データを取得する場合、プラズマ処理装置100は、Vppの測定の分解能に応じてデータを取得する位置の数を変更してもよい。例えば、分解能が高い場合、データの取得位置を減らすことができ、分解能が低い場合、より多くのデータ取得位置を用いることが好ましい。
【0109】
また、実施例では、第1のRF電源10aから出力されたRF電力によって基準状態の計測および消耗量の測定を行ったが、第2のRF電源10bから出力されたRF電力を用いてもよい。また、第1のRF電源10aから出力されたRF電力の周波数と第2のRF電源10bから出力されたRF電力の周波数が異なる場合、それぞれのRF電力によって消耗量を測定して結果を比較することによって、消耗量の測定精度を高めてもよい。
【0110】
また、実施例では、第1のRF電源10aは第1の整合器11aを介して基材2aに接続されるが、第1の整合器11aを介して上部電極としてのシャワーヘッド16に接続されてもよい。この場合でも、
図3のような等価回路で示すことができるため、同様な測定が可能である。
【0111】
また、実施例では、測定器204は、供給されるRF電力のVpp(Voltage Peak to Peak)、すなわちRF電圧を測定し出力するが、RF電流や、RF電圧とRF電力との位相差を測定し出力してもよい。また、測定器204は、測定したRF電圧をRF電流で除することによって求められるインピーダンスを出力してもよい。また、測定器204は、測定したRF電圧とRF電流の積である測定箇所でのRF電力を出力してもよい。これらの値は供給されるRF電力に関する物理量の一部である。
【符号の説明】
【0112】
W ウエハ
1 処理容器
2 載置台
16 シャワーヘッド
16a 本体部
16b 上部天板
91 プロセスコントローラ
92 ユーザインターフェース
93 記憶部
100 プラズマ処理装置