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特許7386752シリコーン複合防汚シートおよびそれを用いた落書き防止施工方法
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  • 特許-シリコーン複合防汚シートおよびそれを用いた落書き防止施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】シリコーン複合防汚シートおよびそれを用いた落書き防止施工方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231117BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20231117BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231117BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20231117BHJP
   C09D 183/00 20060101ALI20231117BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20231117BHJP
   E04H 17/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B32B27/00 101
B32B7/022
B32B27/00 M
C09J7/38
C09D5/16
C09D183/00
C09J183/04
E04H17/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020077169
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021171999
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】今泉 圭司
(72)【発明者】
【氏名】依田 昌弘
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-175822(JP,A)
【文献】中国実用新案第207565070(CN,U)
【文献】国際公開第2011/099638(WO,A1)
【文献】特開2016-188996(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070352(WO,A1)
【文献】特開2018-024859(JP,A)
【文献】特開平08-060030(JP,A)
【文献】特開2008-183802(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188327(WO,A1)
【文献】特開2019-171743(JP,A)
【文献】特開2019-070100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 5/16
C09J 7/38
C09J 183/00
C09J 183/04
E04H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PETフィルム、PENフィルム、PCフィルム及びPEEKフィルムからなる群より選択されるフィルムを含む基材層と、
前記基材層の片面に積層した、硬さがアスカーC硬度計で5以下であり、かつ、モルタルテストピースに対する粘着力が5N/25mm以上のものであるシリコーン粘着層と
を含み、
前記基材層の表面のうち、前記シリコーン粘着層を積層した面の反対側の表面が、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって防汚処理されたものであり、
前記含フッ素シリコーン化合物が、パーフロロポリエーテルに官能基を有するシロキサンを導入した化合物であって、フッ素原子の含有率が25質量%以上である化合物であり、
前記基材層の厚さが0.05~0.1mmであり、前記粘着層の厚さが0.5~3mmであり、全体の厚さが0.55~3.1mmであることを特徴とするシリコーン複合防汚シート。
【請求項2】
前記防汚処理が、撥水処理もしくは撥油処理、又はそれら両方の処理であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン複合防汚シート。
【請求項3】
前記基材層が、耐UV処理されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコーン複合防汚シート。
【請求項4】
前記基材層が、耐UV化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって耐UV処理されたものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシリコーン複合防汚シート。
【請求項5】
前記基材層が、PETフィルムを含むものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシリコーン複合防汚シート。
【請求項6】
前記基材層もしくは前記シリコーン粘着層が光反射抑制効果を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシリコーン複合防汚シート。
【請求項7】
前記シリコーン複合防汚シートが、落書き防止用のものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のシリコーン複合防汚シート。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシリコーン複合防汚シートの前記シリコーン粘着層を所望の被着体に貼り付け、前記基材層の前記防汚処理された表面を露出させることで被着体への落書きを防止することを特徴とする落書き防止施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン複合防汚シートおよびそれを用いた落書き防止施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚や塀などの躯体の表面に対し、油性塗料などで落書きされてしまう事例が社会問題化している。また、このような落書きは容易に除去できないため、除去する際には多大な労力と費用が必要であった。
【0003】
落書きを容易且つ早急に除去し得ることに対する要求が高まっており、例えば、特許文献1には、処理対象のコンクリート躯体の表面にプライマー、中塗りクリア塗料を塗装した後、落書き及び貼り紙を除去し易い機能を有する上塗りクリア塗料を塗布することにより、所定長さに切り取った梱包用布粘着テープを落書きがなされた表面に貼り付け、手で強く擦りつけた後、梱包用布粘着テープを勢いよく剥がし取ることで、落書きを除去することができることが開示されている。
【0004】
しかしながら、上述の如く落書きを除去するには、所定長さに切り取った梱包用布粘着テープを落書きがなされた表面に貼り付け、手で強く擦りつけた後、当該梱包用布粘着テープを勢いよく剥がす必要があったので、落書き除去作業時の作業性が悪いという問題があった。
【0005】
そこで、落書きがつきにくいように、これらの建造物表面にシリコンオイルやワックスを添加した塗料を塗布したり、反応性のシリコーン系樹脂塗料を塗装するなどして汚染防止塗膜を形成することが提案されてきた(特許文献2~4参照)。また特許文献5では、特定のオルガノポリシロキサンを含有する表面処理剤を自動車等の塗膜面に塗り広げて、付着した汚れ成分を容易に除去できる被膜を形成する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、このような反応性のシリコーン樹脂系塗料や表面処理剤は、経時で落書き防止性能が低下したり、ローラー塗装や刷毛塗装で厚塗りした場合、常温乾燥の際、経時で塗膜にワレが発生したりする問題があった。また、これらの方法は落書きの除去は可能であっても、落書き自体は可能であるため、落書き除去後に再度落書きが行われてしまうケースが多いことが問題となっていた。すなわち、従来の技術は、「落書きを行う行為」を抑制するための機能を有しておらず、そのため落書き行為と除去の繰り返しとなってしまうことが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-262134号公報
【文献】特開平6-182290号公報
【文献】特開平9-94524号公報
【文献】特開平10-216619号公報
【文献】特開2005-97527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題を解決するための方策としては、防汚処理された表面を有する防汚層を設けることが考えられる。しかしながら、長期的な防汚性能および洗浄性を鑑みた際、防汚層の耐候性が低いと、徐々に防汚性、洗浄性が低下し、落書きの防止および容易な洗浄というシートの機能が充分に発揮できなくなる問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、長期に安定して防汚性、洗浄性を示し、また、被着体に容易に貼りつけ、被施工面の割れやずれに対しても追従可能であるシリコーン複合防汚シートおよびそれを用いた落書き防止施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、
基材層と、
前記基材層の片面に積層した、硬さがアスカーC硬度計で5以下であり、かつ、モルタルテストピースに対する粘着力が5N/25mm以上のものであるシリコーン粘着層と
を含み、
前記基材層の表面のうち、前記シリコーン粘着層を積層した面の反対側の表面が、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって防汚処理されたものであることを特徴とするシリコーン複合防汚シートを提供する。
【0011】
本発明のシリコーン複合防汚シートであれば、シリコーン粘着層が積層される面の反対側の表面が防汚処理された基材層を有するため、落書きを行おうとする者が所望の描画を行うことを防止することができる。この効果により、落書きを行おうとする者に対して、落書きの意欲を失わせることで、落書きという行為そのものを抑制することが可能である。また、防汚処理により、例え落書きされたとしても、落書きは容易に洗浄して消すことが可能である。
【0012】
また、基材層に積層されたシリコーン粘着層は、容易に被着体に貼りつけが可能であり、被施工面の割れやずれに対しても追従可能である。またシリコーンを主成分としているため、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れ、より長期にわたり機能を保持することができる。さらにシリコーン粘着層は防水効果を有しているため、施工箇所への水分の浸入を防ぎ、被施工物の劣化を防止あるいは劣化の進行を大幅に遅延させることが可能である。
【0013】
さらに、前記防汚処理は、含フッ素シリコーン化合物を添加した、シリコーンハードコート剤による処理であるため、耐候性が良好で、長期に安定して防汚性、洗浄性を保つことができる。
【0014】
また、前記防汚処理が、撥水処理もしくは撥油処理、又はそれら両方の処理であることが好ましい。
このような処理がなされたものであれば、水性塗料、又は、油性塗料、もしくはそれら両方の塗料を弾くものとなるため、シリコーン複合防汚シートに好適に用いることができる。
【0015】
また、前記基材層が、耐UV処理されたものであることが好ましい。
このようなものであれば、さらに長期耐候性が良好となる。
【0016】
また、前記基材層が、耐UV化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって耐UV処理されたものであることがさらに好ましい。
このようなものであれば、長期耐候性をさらに向上させることができるとともに、防汚剤である含フッ素シリコーン化合物を添加した、シリコーンハードコート剤との相溶性も良好であり、界面剥離等の劣化を防止できる。
【0017】
また、前記基材層が、PETフィルムを含むものであることが好ましい。
このようなものであれば、コスト的に有利であり、入手の容易性、表面処理のしやすさから好適なものとなる。
【0018】
また、前記基材層もしくは前記シリコーン粘着層が光反射抑制効果を有するものであることが好ましい。
このようなものであれば、シリコーン複合防汚シートへの光学的な映り込みや光反射を抑制することができ、近傍の通行者の眩惑を防止することができる。
【0019】
また、前記基材層の厚さが0.05~0.3mmであり、前記粘着層の厚さが0.5~3mm、前記シリコーン複合防汚シート全体の厚さが0.55~3.3mmであることが好ましい。
このようなものであれば、貼り付け性や物理強度が良好となり、また、コスト的に有利である。
【0020】
また、前記シリコーン複合防汚シートが、落書き防止用のものであることが好ましい。
このようなシリコーン複合防汚シートは、落書き防止用に非常に好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明は、本発明のシリコーン複合防汚シートの前記シリコーン粘着層を所望の被着体に貼り付け、前記基材層の前記防汚処理された表面を露出させることで被着体への落書きを防止することを特徴とする落書き防止施工方法を提供する。
【0022】
このような方法であれば、本発明のシリコーン複合防汚シートを用いることにより、プライマーレスで施工できるため、接着面に水分が残っていても、ウエスなどで十分拭き取るだけで施工が可能となり、天候回復後直ちに施工が開始できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシリコーン複合防汚シートは、基材層が、シリコーン粘着層が積層される面の反対側の表面が防汚処理されたものであるため、落書きを行おうとする者が所望の描画を行うことを防止することができる。また、この効果により落書きを行おうとする者に対して、落書きの意欲を失わせることで、落書きという行為そのものを抑制することが可能である。また、防汚処理により、例え落書きされたとしても、落書きは容易に洗浄して除去することが可能である。
【0024】
また、防汚処理を含フッ素シリコーン化合物を添加したシリコーンハードコート剤によって行うことで、耐候性が良好で、長期に安定して防汚性、洗浄性を保つことができる。
【0025】
また、基材層に積層されたシリコーン粘着層は、容易に被着体に貼りつけが可能であり、被施工面の割れやずれ、凹凸等に対しても追従可能である。またシリコーンを主成分としているため、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れ、より長期にわたり機能を保持することができる。さらにシリコーン粘着層は防水効果を有しているため、施工箇所への水分の浸入を防ぎ、被施工物の劣化を防止あるいは劣化の進行を大幅に遅延させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のシリコーン複合防汚シートの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のように、長期に安定して防汚性、洗浄性を示し、また、被着体に容易に貼りつけ、被施工面の割れやずれに対しても追従可能であるシリコーン複合防汚シートおよびそれを用いた落書き防止施工方法の開発が求められてきた。
【0028】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、硬さがアスカーC硬度計で5以下であり、かつ、モルタルテストピースに対する粘着力が5N/25mm以上のものであるシリコーン粘着層を基材層の片面に積層し、基材層の反対側の表面が含フッ素シリコーン化合物を添加したシリコーンハードコート剤によって防汚処理されたものであれば、長期に安定して防汚性、洗浄性を示し、また、被着体に容易に貼りつけ、被施工面の割れやずれに対しても追従可能であるシリコーン複合防汚シートとすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
すなわち、本発明は、
基材層と、
前記基材層の片面に積層した、硬さがアスカーC硬度計で5以下であり、かつ、モルタルテストピースに対する粘着力が5N/25mm以上のものであるシリコーン粘着層と
を含み、
前記基材層の表面のうち、前記シリコーン粘着層を積層した面の反対側の表面が、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって防汚処理されたものであることを特徴とするシリコーン複合防汚シートである。
【0030】
また、本発明は、本発明のシリコーン複合防汚シートの前記シリコーン粘着層を所望の被着体に貼り付け、前記基材層の前記防汚処理された表面を露出させることで被着体への落書きを防止することを特徴とする落書き防止施工方法である。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<シリコーン複合防汚シート>
本発明のシリコーン複合防汚シートは、
基材層と、
前記基材層の片面に積層した、硬さがアスカーC硬度計で5以下であり、かつ、モルタルテストピースに対する粘着力が5N/25mm以上のものであるシリコーン粘着層と
を含み、
前記基材層の表面のうち、前記シリコーン粘着層を積層した面の反対側の表面が、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって防汚処理されたものであることを特徴とする。
【0033】
このようなシリコーン複合防汚シートであれば、シリコーン粘着層が積層される面の反対側の表面が防汚処理された基材層を有するため、落書きを行おうとする者が所望の描画を行うことを防止することができる。また、この効果により、落書きを行おうとする者に対して、落書きの意欲を失わせることで、落書きという行為そのものを抑制することが可能である。また、防汚処理により、例え落書きされたとしても、落書きは容易に洗浄して除去することが可能である。さらに、含フッ素シリコーン化合物を添加したシリコーンハードコート剤によって防汚処理が行われることで、防汚性能が長期に安定して保たれる。
【0034】
また、基材層に積層されたシリコーン粘着層は、容易に被着体に貼りつけが可能であり、被施工面の割れやずれ、凹凸、その他に対しても追従可能である。またシリコーンを主成分としているため、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れ、より長期にわたり機能を保持することができる。さらにシリコーン粘着層は防水効果を有しているため、施工箇所への水分の浸入を防ぎ、被施工物の劣化を防止あるいは劣化の進行を大幅に遅延させることが可能である。シリコーン粘着層の物理的特性については、後述する。
【0035】
また、工期の大幅な短縮を可能にするには、作業現場で硬化させるタイプのものではなく、作業前に既にシート状にしたタイプを用いる必要がある。かかる点から、本発明のシリコーン複合防汚シートは、基材層と、該基材層の片面に成形されるシリコーン粘着層とからなる複層構造を有し、長期の保存が可能であり、可使時間が長く、かつ簡便な施工が可能であることから工期短縮も可能である。なお、本発明のシリコーン複合防汚シートは、未使用時或いは使用直前までシリコーン粘着層がカバーフィルムにより保護されていることが好ましい。
【0036】
以下、本発明のシリコーン複合防汚シートが含む、シリコーン粘着層及び基材層をそれぞれ説明する。
【0037】
[シリコーン粘着層]
本発明のシリコーン複合防汚シートを構成するシリコーン粘着層は、硬さがアスカーC硬度計で5以下であり、かつ、モルタルテストピースに対する粘着力が5N/25mm以上のものであれば特に限定されないが、下記の特徴を有することが好ましい。
【0038】
本発明のシリコーン複合防汚シートを構成するシリコーン粘着層に用いることができるシリコーン組成物は、下記(A)~(D)成分
(A)1分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)R SiO1/2単位(式中、Rは非置換又は置換の1価炭化水素基であるが、Rはアルケニル基を含む)とSiO単位とを主成分とする、アルケニル基を含有する樹脂質共重合体(なお、(B)成分は組成物中に含まれていることが好ましいが0質量部であってもよい。)、
(C)珪素原子と結合する水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)付加反応触媒、
を含有してなる、硬化物が表面粘着性を有する付加硬化型シリコーン組成物であることが好ましく、シリコーン粘着層は、その硬化物から形成することが好ましい。
以下、上記(A)~(D)成分をより詳細に説明する。
【0039】
[(A)成分]
上記付加硬化型シリコーン組成物の(A)成分は、1分子中に少なくとも平均2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、この(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(I)
SiO(4-a)/2 ・・・(I)
で示されるものを用いることができる。
【0040】
式中、Rは互いに同一又は異種の、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは1~8の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは好ましくは1.5~2.8、より好ましくは1.8~2.5、さらに好ましくは1.95~2.05の範囲の正数である。ここで、上記Rで示される珪素原子に結合した非置換又は置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全Rの90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0041】
この場合、上記(A)成分中、Rのうち1分子中に少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2~8のものが好ましく、更に好ましくは2~6である)である。なお、アルケニル基の含有量は、全有機基R(即ち、上記の非置換又は置換の1価炭化水素基)中、0.00001~0.05mol/gであることが好ましく、0.00001~0.01mol/gとすることがより好ましい。このアルケニル基は、分子鎖末端の珪素原子に結合していても、分子鎖途中の珪素原子に結合していても、両者に結合していてもよいが、少なくとも分子鎖両末端の珪素原子に結合したアルケニル基を含有するものが好ましい。アルケニル基の含有量が0.00001mol/g以上であれば、十分なゴム物性が得られ、0.05mol/g以下であれば、硬度が高くなりすぎず、粘着力が十分に保たれる。
【0042】
重合度については特に制限はないが、常温で液状のものが好ましい。通常、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の平均重合度が50~20,000が好ましく、より好ましくは100~10,000、さらに好ましくは100~2,000程度のものが好適に使用される。
【0043】
また、この(A)成分のオルガノポリシロキサンの構造は、基本的には主鎖がジオルガノシロキサン単位(R SiO2/2)の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R SiO1/2)又はヒドロキシジオルガノシロキシ基((HO)R SiO1/2)で封鎖された直鎖状構造を有することが好ましいが、部分的には分岐状の構造、環状構造などであってもよい。
【0044】
[(B)成分]
(B)成分の樹脂質共重合体(即ち、三次元網状構造の共重合体)は、R SiO1/2単位及びSiO単位を主成分とする。ここで、Rは非置換又は置換の1価炭化水素基(アルケニル基を含む)であり、炭素数1~10のものが好ましく、特に1~8のものが好ましく、Rで示される1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。
【0045】
(B)成分の樹脂質共重合体は、上記R SiO1/2単位及びSiO単位のみからなるものであってもよく、また必要に応じ、R SiO単位やRSiO3/2単位(Rは上記の通り)をこれらの合計量として、全共重合体質量に対し、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下の範囲で含んでよいが、R SiO1/2単位とSiO単位とのモル比(R SiO1/2/SiO)は0.5~1.5が好ましく、特に0.5~1.3が好ましい。このモル比が上記範囲であれば、十分なゴム硬度・強度が得られる。
【0046】
更に、(B)成分の樹脂質共重合体は、アルケニル基を有し、好ましくは1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、アルケニル基の含有量が0.0001mol/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.0001~0.001mol/gの範囲である。アルケニル基の含有量が0.0001mol/g以上であれば、十分なゴム物性が得られ、0.001mol/g以下であれば、硬度が適度になり粘着力がより確実に保たれる。
【0047】
上記(B)成分の樹脂質共重合体は、常温(25℃)で流動性を有する液状(例えば10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上)のものでも、流動性のない固体状のものであってもよい。固体状の場合は、トルエンなどの有機溶媒に溶解した状態であってもよい。この樹脂質共重合体は、通常適当なクロロシランやアルコキシシランを当該技術において周知の方法で加水分解することによって製造することができる。
【0048】
上記(A)、(B)成分の配合量は、(A)、(B)成分の合計を100質量部とした場合、(A)成分は20~100質量部であることが好ましく、より好ましくは20~90質量部、特に30~90質量部の範囲であることが好ましく、また、(B)成分は0~80質量部が好ましく、より好ましくは10~80質量部、特に10~70質量部の範囲が好ましい。(A)、(B)成分の配合量が上記範囲であれば、ゴム物性が良好となる。粘着性、強度の点から、(A)成分に(B)成分を併用することが好ましい。
【0049】
[(C)成分]
(C)成分は、珪素原子と結合する水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子中のSiH基が前記(A)成分及び(B)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル化付加反応により架橋し、組成物を硬化させるための硬化剤として作用するものである。
【0050】
この(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(II)
SiO(4-b-c)/2 ・・・(II)
(式中、Rは炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基である。また、bは0.7~2.1、cは0.001~1.0で、かつb+cは0.8~3.0を満足する正数である。)
で示されるものを用いることができ、1分子中に少なくとも2個(通常2~200個)、好ましくは3~100個、より好ましくは3~50個の珪素原子結合水素原子を有するものが好適に用いられる。ここで、Rの1価炭化水素基としては、Rで例示したものと同様のものを挙げることができるが、脂肪族不飽和基を有しないものが好ましい。また、bは好ましくは0.8~2.0、cは好ましくは0.01~1.0、b+cは好ましくは1.0~2.5であり、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網目状のいずれの構造であってもよい。
【0051】
この場合、1分子中の珪素原子の数(又は重合度)は2~300個が好ましく、特に4~150個程度の室温(25℃)で液状のものが好適に用いられる。なお、珪素原子に結合する水素原子は分子鎖末端、分子鎖の途中のいずれに位置していてもよく、両方に位置するものであってもよいが、反応速度が速い分子鎖末端にあるものが好ましい。即ち、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0052】
この(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)、(B)成分の合計100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、特に1.0~10質量部であることが好ましい。配合量がこのような範囲であれば、十分なゴム強度が得られる。また、この(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)、(B)成分中に含まれる珪素原子に結合したアルケニル基に対する(C)成分中の珪素原子に結合した水素原子(SiH基)の量がモル比で、0.5~1.1で配合することが好ましく、より好ましくは0.6~1.0となる量で配合する。かつ、100%付加架橋反応が進行すると仮定したときに、オルガノハイドロジェンの量は0.005~0.010mol/gとなる量を配合するのが好ましい。
【0053】
ここで、系内に存在するアルケニル基量に対する(C)成分のSiH基のモル比をH/Viとして示す。また、下記理論的架橋量とは、系内に添加された(C)成分中の珪素原子に結合した水素原子(SiH基)と、系内に存在するアルケニル基が100%反応した場合の架橋量のことである。即ち、H/Viが1以下の時は、SiH基の量が、H/Viが1以上の時は、アルケニル基の量が理論的架橋量となる。これらの官能基量は、組成物設計時の計算式に基づいた量でもよいが、実測値を用いた方がより好ましい。官能基量の実測は、公知の分析方法による、水素ガス発生量或いは不飽和基の測定、NMRによる解析等によって行うことができる。系内の官能基量は、分子内の官能基量をXmol/g、添加量がY質量部の場合、X×Ymol/gで表される。
【0054】
[(D)成分]
(D)成分は、従来公知のものでよく、通常、白金又は白金化合物に代表される白金族金属系付加反応触媒(通常、(A)、(B)成分の合計アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対し1~1,000ppm)を含有するものが用いられる。
【0055】
[その他の成分]
上記シリコーン粘着層を形成する組成物には、上述した成分に加え、必要に応じて、その他の成分として、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤や、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤などの充填剤を配合してもよい。更に、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することは任意とされる。
【0056】
[シリコーン粘着層の物理的特性]
次に、本発明のシリコーン複合防汚シートに含まれるシリコーン粘着層の物理的特性について説明する。
【0057】
本発明の上記シリコーン粘着層の硬さは、アスカーC硬度計で5以下であり、基材層の硬さより小さいことが好ましく、2以下がより好ましく、更に好ましくは1以下である。アスカーC硬度が5を超えると粘着性が低下してしまう。なお、下限は0である。
【0058】
また、シリコーン粘着層の硬さを、さらにアスカーCSR-2型硬度で測定することが好ましい。このようにすれば、アスカーC硬度で1未満の領域の硬さであっても、測定ばらつきを抑え、シリコーン粘着層の硬さをより確実に評価することができる。
【0059】
即ち、シリコーン粘着層の硬さは、基材層の硬さよりも小さいことが好ましく、CSR-2型硬度計(高分子計器(株)製)で測定した時の硬さが50以下の正数であることが好ましい。より好ましくは10以上20以下の正数の範囲である。
【0060】
このCSR-2型硬度計はアスカーC硬度で1未満の領域の硬さを測定するのに適している。この領域の硬さの感覚は、粘着面を指で触って、粘着面からゆっくり指を離す時に、粘着面が指に追従してくるレベルの硬さである。粘着力をより大きくしようとすればするほど、粘着層の硬さはより低くする方が有利である。また、CSR-2型硬度計で硬度が3以上であれば、シリコーン複合防汚シートを貼着した時に、被粘着面がアスファルト、モルタルなど多孔性材質である場合でも、硬さが十分となり、粘着層が流失してしまう問題が起こらない。また、貼着作業の作業性が著しく低下することがない。また、CSR-2型硬度が20以下であれば、粘着力が十分大きくなり、被粘着面への貼り付きが十分となるため好ましい。シリコーン粘着層の硬さの管理は、後述する成形、硬化条件を管理することで行うのが実践しやすい。
【0061】
粘着性の指標として、モルタルテストピースに対する粘着力を示す。モルタルテストピース((株)エンジニアリングテストサービス製、JIS R5201に準拠し作成したもの、幅50mm×長さ150mm×厚さ10mm)に後述する成形方法で作成したシートを25mm幅にカットし、シートの粘着層側を粘着し、30分間室温放置後に、剥離速度300mm/minで180°ピール試験を行う。本発明のシリコーン複合防汚シートに含まれるシリコーン粘着層は、このときの粘着力が5N/25mm以上であり、好ましくは5~30N/25mm、特に10~25N/25mmであることが好ましい。粘着力の目安として、モルタルテストピースに対して5N/25mm未満であると、手で剥がそうとした時に軽い力で容易に剥がれてしまうが、5N/25mm以上では、容易には手で剥がれない。
【0062】
[基材層]
本発明のシリコーン複合防汚シートに含まれる基材層は、その表面のうち、上記シリコーン粘着層を積層した面の反対側の表面が、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤によって防汚処理されたものである。
【0063】
基材層の上記シリコーン粘着層が積層した面の反対側の表面に施される防汚処理は、撥水処理もしくは撥油処理が好ましく、さらにその両方であることがより好ましい。この処理により、水性もしくは油性か、またはその両方の塗料を弾く効果をシリコーン複合防汚シートに付与することが可能である。この効果により、落書きを行う者に対し、所望の描画を行うことを抑制することができ、落書き行為についての意欲を低減することが可能である。また、落書きは水洗や溶剤による洗浄、もしくは拭き取りにより容易に除去することができ、落書きが行われる前の状態への復元を簡便に行うことが可能である。
【0064】
例えば撥水および撥油両方の効果を持つ防汚処理がなされた基材層として、含フッ素シリコーン化合物を添加したシリコーンハードコート剤によって防汚処理された基材を用いることで、長期安定に防汚機能を保つことができる。シリコーンは耐候性が非常に高いため、屋外使用等で太陽光に暴露された場合でも、防汚層の劣化が防止でき、落書き防止性能の低下や、繰り返し洗浄時の防汚層の破壊も抑制することが可能である。
【0065】
含フッ素シリコーン化合物としては、パーフロロポリエーテルに官能基を有するシロキサンを導入した化合物が好ましく、さらに好ましくはフッ素原子の含有率が25質量%以上であることが好ましい。このような含フッ素シリコーン化合物を含むシリコーンハードコート剤としては、信越化学製のKR-400Fなどが挙げられる。
【0066】
シリコーンハードコート剤は、含フッ素シリコーン化合物に加え、例えば、消泡剤、UV吸収剤などを任意の量で含むこともできる。
【0067】
本発明のシリコーン複合防汚シートにおける基材層は、高強度を有する基材であれば特に制限されないが、コスト、入手の容易性、表面処理のしやすさ等を考慮すると、PETフィルムを用いることが好ましい。また、PENフィルム、PCフィルム、PEEKフィルム等を用いることもできる。基材層は、基材ゴム層であってもよい。
【0068】
基材層は、必要に応じて、主成分以外の成分として、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤や、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤などの充填剤を配合してもよい。更に、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することは任意とされる。
【0069】
また、基材層は長期耐候性を考慮すると、耐UV処理されていることが好ましい。基材層に耐UV剤が練りこまれたものや、耐UVコート処理がなされた耐UV特性を有するフィルムを用いることが好ましい。
【0070】
耐UVコート処理がなされた基材層を用いた場合、耐UV処理が、耐UV化合物を含有するシリコーンハードコート剤による処理であると、防汚剤との親和性が高まり、防汚特性の長期信頼性をさらに向上させることができる。このような含フッ素シリコーン化合物を含むシリコーンハードコート剤としては、信越化学製のX-40-9309Aなどが挙げられる。
【0071】
また、耐UV化合物を含有するシリコーンハードコート剤を、予め含フッ素シリコーン化合物を含むシリコーンハードコート剤と混合し、耐UV・防汚処理剤として使用することもできる。
【0072】
以下、本発明のシリコーン複合防汚シートの幾つかの態様を説明する。
【0073】
本発明のシリコーン複合防汚シートにおいては、基材層もしくはシリコーン粘着層が光反射抑制効果を有することが好ましい。光反射抑制効果を有することにより、複合防汚シートへの光学的な映り込みや光反射を抑制することができ、近傍の通行者の眩惑を防止することができる。
【0074】
光反射抑制効果を付与する方法としては、フィラーを基材層もしくは粘着層へ練りこむ、もしくはフィラーを含有した処理剤をフィルム表面に塗工処理するなどが挙げられる。
【0075】
上記シリコーン複合防汚シートの厚さに関しては、基材層の厚さが0.05~0.3mmであることが好ましく、粘着層の厚さが0.5~3mmであることが好ましく、複合シート全体の厚さが0.55~3.3mmであることが好ましい。
【0076】
基材層の厚さが0.05mm以上であると、シリコーン複合防汚シートの剛性が十分となり、貼り付け性や物理強度が良好となる。また、0.3mm以下であると剛性が適度になり、屈曲面への貼り付けが容易となる。またコスト的に有利となる。
【0077】
シリコーン粘着層の厚さは、0.5~3mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5~2mmの範囲である。0.5mm以上であれば、シリコーン粘着層が、貼り付ける被貼着部の表面凹凸をより確実に吸収でき、3mm以下であれば、貼り付け面のゴム強度の粘着層への依存が低いため、ゴム破壊を起こすことがない。
【0078】
上記のようなシリコーン複合防汚シートを、落書き防止用に用いることが好ましい。このようなシリコーン複合防汚シートは、落書き防止用に好適に用いることができる。
【0079】
[シリコーン複合防汚シートの成型方法]
シリコーン複合防汚シートの成型方法について述べる。ただし、本発明のシリコーン複合防汚シートを形成する方法は、以下に説明する方法に限定されるものではない。
【0080】
まず、基材層となるフィルムに対して、ディッピング、コーティング、印刷などの各種方法により、含フッ素シリコーン化合物を含むシリコーンハードコート剤をフィルム上に製膜し、表面処理(防汚処理)を行うことで、防汚機能が付与された基材層を成形する。必要に応じて、防汚処理の前に耐UV処理や光反射防止処理を行っておくとより好ましい。また、基材層に施される防汚処理は原則としてシリコーン粘着層が積層される反対側の表面だけに行われるのが好ましいが、ディッピング等により両面に施されてしまう場合は予め、片面にマスクをする等により、保護するようにすればよい。
【0081】
上記基材層上にシリコーン粘着層を積層する際、基材層上にシリコーン粘着層を、ディッピング、コーティング、スクリーン印刷等する方法でシリコーン複合防汚シートが得られるが、コーティング成形が簡便に使用できるので好ましい。なお、これらの硬化条件としては、80~250℃で10秒~1時間の範囲が好ましい。更に、低分子成分を除く、膜の強度を向上させるなどの目的で、室温~40℃で1~7日間程度養生するか、60℃~150℃で10~60分程度のアフターキュアを行ってもよい。
【0082】
次に、本発明のシリコーン複合防汚シートの具体例を、図面を参照しながら説明する。
【0083】
図1に本発明のシリコーン複合防汚シートの一例を概略的に示す。図1に示すシリコーン複合防汚シート3は、片方の表面が防汚処理されたフィルムからなる基材層1の防汚処理されていない方の面に、シリコーン粘着層2を積層させてなるものである。このシリコーン複合防汚シート3は、コンクリート構造物やモルタル構造物、金属製構造物などからなる躯体の少なくとも一部を覆うように粘着層を液密に貼り付けることにより、簡易かつ長期粘着信頼性を有し、水分の浸入を防ぎ、かつ対象物の劣化を防止、あるいは経時劣化を進行しにくくさせるのに有効に用いられる。また、表面が防汚処理されたフィルムからなる基材層1は、シリコーン複合防汚シート3が高強度となるよう物理的特性を付与しており、さらに長期的に落書きを防止もしくは落書きの除去を容易にする効果を有する。さらに、防汚処理が含フッ素シリコーン化合物を添加したシリコーンハードコート剤によって行われることにより、長期に安定して防汚特性を発揮することができる。
【0084】
<落書き防止施工方法>
本発明の落書き防止施工方法は、本発明のシリコーン複合防汚シートの前記シリコーン粘着層を所望の被着体に貼り付け、前記基材層の前記防汚処理された表面を露出させることで被着体への落書きを防止することを特徴とする。
【0085】
以上に説明した本発明のシリコーン複合防汚シートは、対象物(被着体)の上に粘着層を貼着して落書き防止施工に使用することができる。ここで、その方法の一例について説明する。
【0086】
シリコーン複合防汚シートの貼着は、被着体の貼着施工部分を前処理して、シートが貼着しやすいようにしてもよいが、シリコーン複合防汚シート自体に粘着性があるため、必ずしも貼着施工部分の前処理は必要ではない。貼着は、シリコーン複合防汚シートの粘着面であるシリコーン粘着層を貼着側にして行なう。被着体表面の境界部分に段差が生じて、貼着面に過度なストレスがかかることが想定される場合は、段差解消のための手段を実施することが好ましい。例えば、段差にバックアップ材を用いたりする方法である。
【0087】
複合防汚シートを貼着した時に必ずしもシーリング材を用いる必要はないが、より強固に貼着させるため、もしくは防水機能を同時に付与したい場合には、シートの境界部分にシーリング材を用いてもよい。なお、シーリング材としては特に制限はなく、公知のシリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系等のいずれのものも使用できるが、本発明の複合シート材料との親和性の点でシリコーンシーリング材が好適に用いられる。このようなシーリング材としては市販品を用いてもよく、例えばシリコーンシーリング材としては、信越化学工業(株)製のシーラントマスター300、シーラント70、シーラント701等が使用できる。
【0088】
本発明の落書き防止施工方法では、粘着性のある本発明のシリコーン複合防汚シートを用いることにより、プライマーレスでの施工が可能になり、大幅に工期を短縮することができる。
【0089】
従来の多くは、建造物表面にシリコンオイルやワックスを添加した塗料を塗布したり、反応性のシリコーン系樹脂塗料を塗装するなどして汚染防止塗膜を形成したり、防汚フィルムをプライマー等で貼りつける工法が採用されていたが、気候による寒暖の差や、天候、特に雨雪など水分が多く結露などが発生する場合、施工面が乾燥するまで施工できないといった問題点があった。本発明のシリコーン複合防汚シートを用いることにより、プライマーレスで施工できるため、接着面に水分が残っていても、ウエスなどで十分拭き取るだけで施工が可能となり、天候回復後直ちに施工が開始できるという画期的な特徴を有している。
【0090】
本発明のシリコーン複合防汚シートは、それ自体が粘着力による貼り付け・形状保持機能を発揮しているため、使用後も被着体へのダメージなく剥がすことができる。さらに、複合防汚シートが透明性を有している場合は、シートを剥がさなくても内部を観察することができる。また、貼り直した後も、再度、粘着力による貼り付け機能を発揮できることも大きな特徴である。
【実施例
【0091】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記例で部は質量部を示す。
【0092】
[実施例1]
基材層に用いる、厚さ0.1mmの耐UV-PETフィルムを準備した。さらに、表面処理剤として、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤:信越化学製 KR-400F:100質量部に、消泡剤として信越化学製 FA-600:0.05質量部を添加・混合した表面処理液を用意し、これを耐UV-PETフィルム上にスピンコートしたのち、120℃で5分間硬化させ成膜し、防汚処理された基材層Aを作成した。
【0093】
一方、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度1,000のジメチルポリシロキサン92.5部、室温(25℃)で固体の(CH=CH)(CHSiO1/2単位、(CHSiO1/2単位及びSiO単位からなる樹脂質共重合体[((CH=CH)(CHSiO1/2単位+(CHSiO1/2単位)/SiO単位(モル比)=0.85、CH=CH-基含有量:0.0008mol/g]7.5部を含む50質量%トルエン溶液を撹拌混合器に入れ、30分混合した後、トルエンを完全に留去した(アルケニル基量0.00865mol/g)。このシリコーンベース100部に、架橋剤として(CHHSiO1/2単位とSiO単位を主成分としたSiH基を有する樹脂質共重合体(SiH基量0.0013mol/g)を6.0部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.1部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物Aを得た。このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.2部を混合し、粘着性シリコーン組成物Aを得た。
【0094】
上記の基材層Aに、コンマコータを使用して上記粘着性シリコーン組成物Aを1.0mmになるように積層コーティングし、加熱炉で140℃、5分間加熱硬化させてシリコーン粘着層を形成し、シリコーン複合防汚シートAを得た。得られたシリコーン複合防汚シートAの平均厚さは1.11mmであった。
【0095】
また、得られたシリコーン複合防汚シートAのシリコーン粘着層の物性を測定した。シリコーン粘着層のアスカーC硬度は1未満であり、また、アスカーCSR-2型硬度は13であった。また、上記記載の方法により測定したモルタルテストピースに対する粘着力(表1に記載の対モルタル粘着力)は20N/25mmであった。
【0096】
下記に示す各方法によりシリコーン複合防汚シートAを評価した結果を表1に示す。評価方法は以下の各実施例及び比較例も実施例1と同様である。
【0097】
[実施例2]
基材層に用いる、厚さ0.1mmのPENフィルムを準備した。さらに、表面処理剤として、含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤:信越化学製 KR-400F:50質量部に、耐UV化合物を含有するシリコーンハードコート剤として信越化学製 X-40-9309A:50質量部と、消泡剤として信越化学製 FA-600:0.05質量部を添加・混合した表面処理液を用意し、これをPENフィルム上にスピンコートしたのち、120℃で5分間硬化させ成膜し、防汚処理された基材層Bを作成した。基材層Bを用いた以外は、実施例1と同様の工程でシリコーン複合防汚シートBを得た。得られた複合シートの平均厚さは1.12mmであった。
【0098】
また、得られたシリコーン複合防汚シートBのシリコーン粘着層の物性を測定した。シリコーン粘着層のアスカーC硬度は1未満であり、また、アスカーCSR-2型硬度は15であった。また、モルタルテストピースに対する粘着力は17N/25mmであった。
【0099】
[比較例1]
基材層Cとして、実施例1及び2とは異なり防汚処理がされていない、0.1mm厚の未処理PETフィルムを用いた以外は、実施例1と同様に実施して、平均厚さ1.10mmのシリコーン複合防汚シートCを得た。
【0100】
また、得られたシリコーン複合防汚シートCのシリコーン粘着層の物性を測定した。シリコーン粘着層のアスカーC硬度は1未満であり、また、アスカーCSR-2型硬度は14であった。また、モルタルテストピースに対する粘着力は19N/25mmであった。
【0101】
[比較例2]
基材層に用いる、厚さ0.1mmの耐UV-PETフィルムを準備した。さらに、表面処理剤として、ハードコート剤:ダイセル・オルネクス社製 EBECRYL 40:100質量部、希釈剤:2-プロパノール:142質量部、開始剤:BASFジャパン製 イルガキュアー184:3質量部、添加剤:信越化学製 KY-1203:5質量部を混合した表面処理液を用意し、これを耐UV-PETフィルム上にスピンコートしたのち、80℃で1分間予備乾燥させ、さらにコンベア式メタルハライドランプUV照射装置にて、窒素雰囲気中、ランプ出力80W/cm、積算光量が1,200mJ/cm2となる条件で硬化を行い、基材層の防汚処理された基材層Dを作成した。基材層Dを用いたこと以外は実施例1と同様に実施して、平均厚さ1.11mmのシリコーン複合防汚シートDを得た。
【0102】
また、得られたシリコーン複合防汚シートDのシリコーン粘着層の物性を測定した。シリコーン粘着層のアスカーC硬度は1未満であり、また、アスカーCSR-2型硬度は14であった。また、モルタルテストピースに対する粘着力は19N/25mmであった。
【0103】
[比較例3]
実施例1と同様に基材層Aを得た。
一方、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度1,000のジメチルポリシロキサン92.5部、室温(25℃)で固体の(CH=CH)(CHSiO1/2単位、(CHSiO1/2単位及びSiO単位からなる樹脂質共重合体[((CH=CH)(CHSiO1/2単位+(CHSiO1/2単位)/SiO単位(モル比)=0.85、CH=CH-基含有量:0.0008mol/g]7.5部を含む50質量%トルエン溶液を撹拌混合器に入れ、30分混合した後、トルエンを完全に留去した(アルケニル基量0.00865mol/g)。このシリコーンベース100部に、架橋剤として(CHHSiO1/2単位とSiO単位を主成分としたSiH基を有する樹脂質共重合体(SiH基量0.0013mol/g)を8.0部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.1部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物Bを得た。このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.2部を混合し、粘着性組成物Bを得た。
【0104】
上記の基材層Aに、コンマコータを使用して上記粘着性組成物Bを1.0mmになるように積層コーティングし、加熱炉で140℃、5分間加熱硬化させてシリコーン粘着層を形成し、平均厚さ1.11mmのシリコーン複合防汚シートEを得た。
【0105】
また、得られたシリコーン複合防汚シートEのシリコーン粘着層の物性を測定した。シリコーン粘着層のアスカーC硬度は22であり、また、アスカーCSR-2型硬度は76であった。また、モルタルテストピースに対する粘着力は2N/25mmであった。
【0106】
[比較例4]
実施例1と同様に基材層Aを得た。
上記の基材層Aに、コンマコータを使用して上記粘着性組成物Bを2.0mmになるように積層コーティングし、加熱炉で140℃、5分間加熱硬化させてシリコーン粘着層を形成し、平均厚さ2.11mmのシリコーン複合防汚シートFを得た。
【0107】
また、得られたシリコーン複合防汚シートFのシリコーン粘着層の物性を測定した。シリコーン粘着層のアスカーC硬度は21であり、また、アスカーCSR-2型硬度は72であった。また、モルタルテストピースに対する粘着力は3N/25mmであった。
【0108】
<評価項目>
以下に複合シートの評価項目とそれらの評価方法を示す。以下では、各例のシリコーン複合防汚シートを単に「シリコーン複合防汚シート」と呼ぶ。
【0109】
[防汚性]
シリコーン複合防汚シートの基材層側に、油性ラッカースプレー、水性ラッカースプレーを2秒間スプレーし、弾き性を確認した。弾きがなく、スプレー個所がそのまま残るものは×、流れ落ちてスプレー形状が崩れるものを〇、一部流れ落ちるものを△とした。試験は、初期およびキセノンアーク促進暴露試験(1000時間エージング)後の2回にわたって実施した。キセノンアーク促進暴露試験はJIS K 7350-2のA法に準拠した。
【0110】
[洗浄性]
シリコーン複合防汚シートの基材層側に、油性ラッカースプレー、水性ラッカースプレーを2秒間スプレーし、室温で30分乾燥させた。その後、粘着テープの粘着面により汚れの転写洗浄を行った。スプレーと転写洗浄を3回繰り返し行い、転写洗浄が不可能であったものを×、転写洗浄が可能であったものを〇とした。試験は、初期およびキセノンアーク促進暴露試験(1000時間エージング)後の2回にわたって実施した。キセノンアーク促進暴露試験はJIS K 7350-2のA法に準拠した。
【0111】
[粘着・追従性]
シリコーン複合防汚シートから50mm×100mmの形状の複合シートサンプルを切り出した。この複合シートサンプルを、その粘着層に対してモルタルテストピース2枚を並べた片面上に、それぞれのモルタルテストピースの貼り付けされた部分が均等の面積になるように貼り付け、24時間室温放置し、ゼロスパンから最大20mmまで引張った時に、シートが剥がれずに追従する変位量が10mm以上であるものを○、5~10mmを△、5mm未満を×とした。
測定装置:島津オートグラフ、
引張り速度:50mm/min.、
モルタルテストピース形状:50mm×72mm×厚さ10mm
【0112】
【表1】
【0113】
実施例1~2では、防汚性、洗浄性が長期にわたって良好となり、粘着・追従性も良好なものであった。しかしながら、比較例1では、基材層として防汚処理を行っていないものを用いたため、防汚性、洗浄性に劣るものであった。また、防汚処理において含フッ素シリコーン化合物を含有するシリコーンハードコート剤を用いなかった比較例2では、初期の防汚性、洗浄性は良好であったものの、キセノンアーク促進暴露試験後には防汚性、洗浄性が低下した。粘着層の硬さが5を超えており且つ対モルタル粘着力が5N/25mm未満であった比較例3、4では、防汚性、洗浄性は長期にわたって良好であったものの、シリコーン粘着層の硬度が高く、粘着力も低いため、粘着・追従性に劣るものであった。
【0114】
以上のことから、本発明のシリコーン複合防汚シートであれば、優れた防汚性、洗浄性を長期にわたって保つことができ、また、被着体に容易に貼りつけ、被施工面の割れやずれに対しても追従可能であることが明らかとなった。
【0115】
また、本発明のシリコーン複合防汚シートの粘着層は、シリコーンを主成分としているため、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れ、より長期にわたり機能を保持し得る。さらにシリコーン粘着層は防水効果を有しているため、施工箇所への水分の浸入を防ぎ、被施工物の劣化を防止あるいは劣化の進行を大幅に遅延させることが可能である。
【0116】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0117】
1…基材層、 2…シリコーン粘着層、 3…シリコーン複合防汚シート。
図1