(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】非対称的な真空絶縁型のグレージングユニット
(51)【国際特許分類】
C03C 27/06 20060101AFI20231120BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20231120BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20231120BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20231120BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20231120BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20231120BHJP
E06B 3/66 20060101ALI20231120BHJP
E06B 3/663 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C03C27/06 101Z
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/089
C03C3/091
E06B3/66 A
E06B3/663 A
E06B3/663 L
(21)【出願番号】P 2020560572
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2019051573
(87)【国際公開番号】W WO2019145332
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-08
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507090421
【氏名又は名称】エージーシー フラット グラス ノース アメリカ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AGC FLAT GLASS NORTH AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】11175 Cicero Dr. Suite 400, Alpharetta, GA 30022, U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】518428303
【氏名又は名称】エージーシー ビードロス ド ブラジル エルティーディーエー
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ベン トラド, アブデッラゼク
(72)【発明者】
【氏名】ジャンフィル, ジュリアン
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-316138(JP,A)
【文献】特開2001-316137(JP,A)
【文献】国際公開第99/059931(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/008724(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157520(WO,A1)
【文献】特開2003-137613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
E06B 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向軸X及び垂直方向軸Zによって定義されたプレーンPに沿って延在する真空絶縁型のグレージングユニット(10)であって、
a.厚さZ1を有する第1ガラスペイン(1)及び厚さZ2を有する第2ガラスペイン(2)であって、前記厚さは、前記プレーンPに垂直の方向において計測されており、且つ、Z1は、Z2超である(Z1>Z2)、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインと、
b.前記第1ガラスペインと前記第2ガラスペインの間において位置決めされ、且つ、前記第1ガラスペインと前記第2ガラスペインの間において所定の距離を維持する別個のスペーサの組(3)と、
c.境界線にわたって前記第1ガラスペインと前記第2ガラスペインの間の前記距離を封止する密封接合封止体(4)と、
d.前記第1ガラスペイン及び第2ガラスペイン並びに前記別個のスペーサの組によって定義され、且つ、前記密封接合封止体によって閉鎖された内部容積Vであって、その中に0.1mbar未満の圧力の真空が生成される、内部容積Vと、
を有する真空絶縁型のグレージングユニット(10)において、
前記第2ガラスペインの前記厚さZ2に対する前記第1ガラスペインの前記厚さZ1の厚さ比率Z1/Z2は、1.30に等しいか又はそれより大き
いこと(Z1/Z2≧1.30)
、
前記第1ガラスペインと前記第2ガラスペインのうち、前記第2ガラスペイン
のみが、予め応力が付与されたガラスから作られていること
、及び前記第1ガラスペインが、低温側に配置されることを意図されており、前記第2ガラスペインが、高温側に配置されることを意図されていることを特徴とする真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項2】
前記厚さ比率Z1/Z2は、1.55に等しいか又はそれより大きい(Z1/Z2≧1.55)、請求項1に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項3】
前記第1ガラスペインの前記厚さZ1は、3mmに等しいか又はそれより大きい(Z1≧3mm)、請求項1又は2に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項4】
前記第2ガラスペインの前記厚さZ2は、1mm~8mm(1mm≦Z2≦8mm)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項5】
前記スペーサの組は、20mm~80mmであるピッチを有するグリッドを形成している、請求項1~4のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項6】
前記第1ガラスペイン及び/又は第2ガラスペインのうちの少なくとも1つは、ソーダ-石灰-シリカガラス、アルミノシリケートガラス、又はボロシリケートガラスタイプから作られている、請求項1~5のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項7】
前記第2ガラスペインは、熱強靭化又は化学強化されたソーダ-石灰-シリカガラスタイプである、請求項6に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項8】
前記第2ガラスペインの組成は、前記ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する、請求項6又は7に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
SiO
2 60~78%
Al
2O
3 0~8wt%
B
2O
3 0~4wt%
Na
2O 5~20wt%
CaO 0~15wt%
MgO 0~12wt%
K
2O 0~10%
BaO 0~5%
【請求項9】
前記第1ガラスペイン及び/又は第2ガラスペインのうちの少なくとも1つは、ラミネートされたガラスペインである、請求項1~8のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項10】
前記第1ガラスペイン及び第2ガラスペインは、それぞれ、第1内側プレート面(12)及び第2内側プレート面(22)と、それぞれ、第1外側プレート面(13)及び第2外側プレート面(23)とを有し、且つ、前記第1内側プレート面及び/又は第2内側プレート面(12、22)及び/又は前記第1外側プレート面及び/又は前記第2外側プレート面(13、23)のうちの少なくとも1つには、少なくとも、熱線反射薄膜又は低E薄膜を与えられている、請求項1~9のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット。
【請求項11】
前記第1及び/又は第2ガラスペインのうちの少なくとも1つは、絶縁ガラスユニットからなり、前記絶縁ガラスユニットは、絶縁空洞を生成するために第1ガラスプレート及び第2ガラスプレートに絶縁ガラスユニットの周囲に沿って結合されたスペーサによって分離された少なくとも第1ガラスプレート及び第2ガラスプレートを含み、さらに、前記第1ガラスプレート及び第2ガラスプレートを一緒に固定し、前記絶縁空洞を封止する封止材のコードンを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット(10)。
【請求項12】
前記第1ガラスペイン及び第2ガラスペインは、それぞれ、第1周辺エッジ及び第2周辺エッジを有しており、前記第1周辺エッジが、前記第2周辺エッジから凹入しているか、または、前記第2周辺エッジが、前記第1周辺エッジから凹入している、請求項1~11のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット(10)。
【請求項13】
前記内部容積内の前記圧力は、0.01mBar未満である、請求項1~12のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニット(10)。
【請求項14】
第1温度Temp1を有する第1空間を第2温度Temp2を有する第2空間から分離するパーティションであって、Temp1は、Temp2より低く、前記パーティションは、請求項1~13のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニットによって閉鎖される開口部を有しており、第1ガラスペインは、前記第1空間に対向している、パーティション。
【請求項15】
第1温度Temp1を有する第1空間を第2温度Temp2を有する第2空間から分離するパーティションの開口部を閉鎖するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の真空絶縁型のグレージングユニットの使用であって、Temp1は、Temp2より低く、且つ、第1ガラスペインは、前記第1空間に対向している、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空絶縁型のグレージングに関し、この場合に、ガラスペインは、異なる厚さを有し、且つ、この場合に、ガラスペインのうちの1つは、予め応力が付与されたガラスペインである。
【背景技術】
【0002】
真空絶縁型のグレージングは、その高性能な断熱に起因して、推奨されている。真空絶縁型のグレージングは、通常、真空がその内部において生成される内部空間によって分離された少なくとも2つのガラスペインから構成されている。一般に、高性能な断熱(U<1.2W/m2Kである熱貫流率U)を実現するために、グレージングユニットの内側の圧力は、通常、0.1mbar以下であり、一般に、2つのガラスペインのうちの少なくとも1つは、低E層によってカバーされている。このような圧力をグレージングユニットの内側において得るために、密封接合封止体が、2つのガラスペインの周囲において配置され、真空が、グレージングユニットの内側においてポンプにより生成されている。グレージングユニットが、大気圧下において(グレージングユニットの内部と外部の間の圧力差に起因して)凹むことを防止するために、通常、2つのガラスペインの間において、例えばグリッドの形態のスペーサが配置されている。
【0003】
真空絶縁型のグレージング内において対処を要する技術的な問題は、外部環境と内部環境の間の温度差によって誘発される熱応力に対する抵抗力である。実際に、内部圧力に対向しているガラスペインは、内部環境の温度に類似した温度を有し、且つ、外部環境に対向しているガラスペインは、外部環境の温度に類似した温度を有する。大部分の厳しい天候条件において、内部温度と外部温度の間の差は、最大で30℃以上に到達しうる。内部環境と外部環境の間の温度差は、ガラスペインの内側における熱応力の誘発をもたらしうるであろう。いくつかの厳しいケースにおいては、例えば、温度差が、≧20℃である際には、誘発される熱応力が、真空絶縁型のグレージングの破壊をもたらしうるであろう。この誘発される熱応力に抵抗するために、両方のガラスペインの厚さを増大させるなどの、様々な解決策が、当技術分野において提供されている。別の解決策は、特開2001-316137号公報において提案されており、これは、ガラスペインが強力な太陽光によって照射された場合にも変形又は歪が発生しないような真空絶縁型のグレージングの改善方法に対処している。特開2001-316137号公報は、グレージングの設計について教示しており、この場合に、屋内側において配設される内側ガラスペインは、外側ガラスペインよりも厚くなっている。対照的に、特開2001-316138号公報は、反対のVIG構造を教示しており、この場合には、屋外側において配設される外側ガラスペインは、改善された衝撃抵抗力及び防音効果を目的として、内側ガラスペインよりも厚くなっている。
【0004】
しかしながら、当技術分野は、ガラスペインが外部環境と内部環境の間の温度差に晒される真空絶縁型のグレージング内の熱応力の誘発に対する抵抗力を改善するという技術的問題に、そのいずれもが対処していない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、長手方向軸X及び垂直方向軸Zによって定義されたプレーンPに沿って延在する真空絶縁型のグレージングユニットに関し、これは、
a.厚さZ1を有する第1ガラスペイン及び厚さZ2を有する第2ガラスペインであって、厚さは、プレーンPに垂直の方向において計測されており、且つ、Z1は、Z2よりも大きい(Z1>Z2)、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインと、
b.第1ガラスペインと第2ガラスペインの間に位置決めされ、且つ、第1ガラスペインと第2ガラスペインの間において所定の距離を維持する別個のスペーサの組と、
c.境界線にわたって第1ガラスペインと第2ガラスペインの間の距離を封止する密封接合封止体と、
d.第1ガラスペイン及び第2ガラスペイン及び別個のスペーサの組によって定義され、且つ、密封接合封止体によって閉鎖された内部容積Vであって、その中に0.1mbar未満の圧力の真空が生成される、内部容積と、
を有し、
第2ガラスペインの厚さZ2に対する第1ガラスペインの厚さZ1の厚さ比率Z1/Z2が、1.30に等しいか又はそれより大きく(Z1/Z2≧1.30)、且つ、
第2ガラスペインは、予め応力が付与されたガラスから作られている
ことを特徴としている。
【0006】
本発明は、更に、第1温度Temp1を有する第1空間を第2温度Temp2を有する第2空間から分離するパーティションにも関し、この場合に、Temp1は、Temp2より低く、パーティションは、前記真空絶縁型のグレージングユニットによって閉鎖される開口部を有する。また、本発明は、パーティションの前記開口部を閉鎖するための前記真空絶縁型のグレージングユニットの使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態による真空絶縁型のグレージングの断面図を示す。
【
図2】Z1/Z2厚さ比率の関数として、ΔT=35℃におけるガラスペインにおいて算出された最大熱応力(σΔTMax)の相関の有限要素モデル化の結果を示す。
【
図3】いずれも、Z1/Z2厚さ比率の関数としての、ΔT=35℃におけるガラスペインにおいて算出された外挿済みの最大熱応力(σΔTMax)、及び20mmのスペーサピッチによって算出された、ピラー位置σpにおける大気圧によって誘発される応力の値の相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の目的の1つは、内部環境と外部環境の間の温度差によって誘発される熱応力に対する非常に改善された抵抗力を実証する、真空絶縁型のグレージング(以下においては、VIGと呼称される)を提供することである。
【0009】
驚いたことに、第1ガラスペインが、1.30に等しいか又はそれより大きく、第2ガラスペインの厚さZ2に対する第1ガラスペインの厚さZ1の厚さ比率Z1/Z2だけ第2ガラスペインよりも厚く(Z1>Z2)、且つ、第2ガラスペインが、予め応力が付与されたガラスから作られている本発明の真空絶縁型のグレージングは、熱によって誘発される応力に対する非常に改善された抵抗力を提供することが見出された。非対称的なVIG構成は、両方が同一の全体厚さを有する、対応する対称的な真空絶縁型のグレージングよりも、良好な熱応力抵抗力を提供する。
【0010】
本発明の真空絶縁型のグレージングは、以下においては、「非対称的なVIG」と呼称することとする。
【0011】
本発明は、通常は、2mm以下である特定の距離だけ離隔した状態で第1ガラスペイン及び第2ガラスペインを保持する少なくとも1つのスペーサによって一緒に関連付けられる第1ガラスペイン及び第2ガラスペインと、前記ガラスペインの間における、少なくとも1つの第1空洞を有する内部空間とを有する真空絶縁型のグレージングパネルに関し、空洞内には、0.1mbar未満の真空が存在しており、前記空間は、前記内部空間の周りのガラスペインの周囲において配置された周囲方向の密封接合封止体により、閉鎖されている。
【0012】
従って、
図1に示されているように、本発明は、長手方向軸X及び垂直方向軸Zによって定義されたプレーンPに沿って延在する真空絶縁型のグレージングユニット(10)に関し、これは、
a)厚さZ1を有する第1ガラスペイン(1)及び厚さZ2を有する第2ガラスペイン(2)であって、厚さは、プレーンPに垂直の方向において計測されており、且つ、Z1は、Z2超である(Z1>Z2)、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインと、
b)第1ガラスペインと第2ガラスペインの間において位置決めされ、且つ、第1ガラスペインと第2ガラスペインの間において所定の距離を維持する別個のスペーサの組(3)と、
c)境界線にわたって第1ガラスペインと第2ガラスペインの間の距離を封止する密封接合封止体(4)と、
d)第1ガラスペイン及び第2ガラスペイン及び別個のスペーサの組によって定義され、且つ、密封接合封止体によって閉鎖された内部容積Vであって、その中に0.1mbar未満の圧力に真空が生成される、内部容積Vと、
を有する。
【0013】
本発明の範囲内において、第2ガラスペインの厚さZ2に対する第1ガラスペインの厚さZ1の厚さ比率Z1/Z2は、1.30に等しいか又はそれより大きい(Z1/Z2≧1.30)。好適な一実施形態においては、第2ガラスペインの厚さZ2に対する第1ガラスペインの厚さZ1の厚さ比率は、1.55に等しいか又はそれより大きく(Z1/Z2≧1.55)、好ましくは、1.60~15.00(1.60≦Z1/Z2≦15.00)であり、好ましくは、2.00~8.00(2.00≦Z1/Z2≦8.00)であり、更に好ましくは、2.00~6.00(2.00≦Z1/Z2≦6.00)である。
【0014】
本発明の好適な一実施形態においては、第2ガラスペインの厚さZ2は、1mm~8mm(1mm≦Z2≦8mm)であり、好ましくは、2mm~6mm(2mm≦Z2≦6mm)であり、更に好ましくは、3mm~6mm(3mm≦Z2≦6mm)である。
【0015】
熱によって誘発される応力は、第1ガラスペイン(1、T1)と第2ガラスペイン(2、T2)の間の温度差が存在するとすぐに発生し、T1とT2の間の差の増大に伴って増大する。温度差(ΔT)は、第1ガラスペイン(1)について算出される平均温度T1と第2ガラスペイン(2)について算出される平均温度T2との間の絶対差である。ガラスペインの平均温度は、当業者には既知の数値シミュレーションから算出される。
【0016】
熱によって誘発される応力は、このようなガラスペインの間の絶対温度差が20℃に到達した際には、更に大きな問題となり、最悪のケースにおいては、VIGの破壊をもたらし、絶対温度差が30℃超である際には、更に深刻なものとなる。
【0017】
本発明は、熱によって誘発される応力の低減が、相対的に薄いガラスペインZ2に対する相対的に厚いガラスペインZ1の比率Z1/Z2が、1.3に等しいか又はそれより大きい非対称的なVIG構成を介して実現され得るという、驚くべき発見に基づいている。この非対称的な特性は、熱応力の低減を可能にすることが見出された。厚さ比率が大きいほど、熱によって誘発される応力の低減も大きいことが更に見出された。
図2は、Z1/Z2厚さ比率の関数として、ΔT=35℃におけるガラスペインにおいて算出された最大熱応力(σΔTMax)の相関の有限要素モデル化の結果を示している。
【0018】
熱によって誘発される応力(σΔT)は、第1空間と第2空間の間の温度差により、VIGのガラスペイン上において誘発される応力である。VIGのそれぞれのガラスペイン上における熱応力を算出するために、数値シミュレーションが使用されている。異なる温度条件に曝露された際の真空絶縁型のグレージングの挙動をシミュレートするために、Abaqus FEAによる有限要素分析(FEA)モデル(以前は、ABAQUSと呼称されていたもの)を構築した。温度差によって誘発される熱応力が、それぞれのガラスペインにおいて算出され、MPaを単位として表現されている。誘発される熱応力が、非対称な構成において(本発明におけるような)異なる厚さのガラスペインを有するVIGについて算出され、VIGの全体厚さが維持されているその対応する対称的な構成と比較されている。例えば、それぞれが6mmの厚さを有する第1ガラスペイン及び第2ガラスペインを有する、12mmの全体厚さのVIG(従来技術)の誘発される熱応力が、異なる非対称的な構成(本発明におけるもの)の誘発される熱応力と比較されており、この場合に、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの厚さは、例えば、7mm-5mm/8mm-4mm/9mm-3mmである。
【0019】
図2において、最大誘発熱応力の値は、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインについて得られた最大の値である。熱応力は、以下の条件において算出されている。
-温度:ΔT=35℃である。ΔTは、第1ガラスペインの平均温度T1と第2ガラスペインの平均温度T2の間の温度差として算出され、
-ガラスペインは、ソーダ石灰シリカガラスから製造されており、且つ、1m×1mのサイズを有し、
-VIGは、熱貫流率U=0.7W/m
2Kを有し、
-実験用のVIGは、無拘束状態のエッジを有し、即ち、更なる窓枠内において位置決めされてはおらず、
-スペーサの間の間隔(ピッチとも呼称される)が20mmである。
【0020】
但し、この非対称性は、熱によって誘発される応力を低減するのには優れているが、ピラー位置において大気圧によって誘発される応力に対する抵抗力の観点においては、非対称的なVIGの性能に悪影響を及ぼすことになることが見出された。この劣化は、主には、非対称的なVIGの第2ガラスペインが、同一の合計厚さを有する対応する対称的なVIG内のガラスペインよりも薄いという事実によってもたらされている。
【0021】
大気圧は、VIGのガラスペインの外部表面において永久的な引張応力を生成する。この引張応力は、σ=0.11×λ2/t2[MPa]という式により算出することが可能であり、この場合に、λ[m]及びt[m]は、それぞれ、スペーサの間のピッチ及びガラスペインの厚さである。ピッチとは、スペーサの間の間隔を意味している。
【0022】
同一のピッチにおいてガラスペインの間において位置決めされた同一のスペーサを有し、且つ、同一の全体厚さを有する同一サイズの2つの真空絶縁型のグレージングの引張応力を異なる実施形態について算出した。1つの構成は、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインが同一の厚さを有する対称的なVIGであり、第2の構成は、第1ガラスペインの厚さZ1が第2ガラスペインの厚さZ2よりも厚い非対称的なVIGであり、厚さ比率Z1/Z2が1.30超である。
【0023】
【0024】
1.30に等しいか又はそれより大きい、第2ガラスペインの厚さZ2に対する第1ガラスペインの厚さZ1の厚さ比率を有し、従って、第2ガラスペインの厚さを低減した非対称的なVIGを構成することは、熱によって誘発される応力を有意に低減することにおいて優れているが(
図2)、表1の例1及び例2のラインA及びBにおけるように、第2ガラスペインの表面において有意に増大する大気圧によって誘発される応力に対して非常に有害であることが見出された。
【0025】
大気圧によって誘発される許容可能な応力は、それぞれのVIGごとに算出されるべきであり、特定の位置と、それによりVIGが配置される特定の大気条件とに依存するだろう。例えば、曲げ強度の設計値(fg;d)の算出を可能にする、欧州規格PrEN16612「Glass in building - Determination of the lateral load resistance of glass panes by calculation」の最新のドラフトを参照されたい。この設計値は、大気圧などの既定の負荷について超過されるべきでない応力の最大値を定義している。アニーリング済みの支持されてはいないエッジ及びフロートガラスの場合には、大気圧によって誘発される応力の許容設計値は、7.25MPa(fg,d=7.25MPa)である。
【0026】
表1において算出されているように、それぞれ6mm及び8mmという類似のペイン厚さを有する2つの対称的なVIGの場合には、ピラー位置において算出される大気圧によって誘発される応力は、それぞれ6.19MPa及び3.48MPaである。これらの算出された値は、7.25MPaという許容設計値より低い。但し、2つの非対称的なVIG構成の場合には、第2の薄いガラスペイン(4mm)のピラー位置における大気圧によって誘発される応力は、7.25MPaの許容設計値超である。
【0027】
このような大気圧によって誘発される応力の増大という課題に対処するための1つの解決策は、第2ガラスペインの厚さを増大させるというものである。しかしながら、本発明の非対称性の範囲内で第2ガラスペインの厚さを増大させることは、厚さ比率を減少させることを意味すると共に、これにより、熱によって誘発される応力の低減に対するその肯定的な効果の低減をも意味している。更には、第2ガラスペインの厚さを増大させることは、VIGの全体重量に対する更なる悪影響をも有する。
【0028】
図3は、いずれも、Z1/Z2の厚さ比率の関数としての、ΔT=35℃におけるガラスペインにおいて算出された外挿済みの最大熱応力(σΔTMax)、並びに20mmのスペーサピッチ及び7mmの第1ペインの厚さ(Z1=7mm)によって算出された、圧力によって誘発される応力の値σpの相関を示すことにより、この技術的な課題を更に示している。
【0029】
驚いたことに、この技術的課題は、その曲げ強度を増大させるために、第2ガラスペインについて、予め応力が付与されたガラスを使用することにより解決されうることが見出された。予め応力が付与されたガラスとは、熱強化ガラス、熱強靭化安全ガラス、又は化学強化ガラスを意味している。予め応力が付与されたガラスの使用は、厚さ比率Z1/Z2を維持しつつ、第2ガラスペインにおける大気圧によって誘発される応力の増大に耐えることを可能にする。本発明の非対称的なVIGは、厚さ比率Z1/Z2を増大させることにより、且つ、第2ガラスペインについて予め応力が付与されたガラスを使用することにより、第1ガラスペインと第2ガラスペインの間の温度差によって誘発される応力の低減と、大気圧応力に対する抵抗力の改善とを可能にする技術的解決策を与える。
【0030】
実際に、同一の欧州規格PrEN16612を参照すれば、同じ条件の同じガラスについて算出される許容設計値は、熱強靭化ガラスを使用した場合、69.75MPaに増大している(fg,d=69.75MPa)。従って、本発明の非対称的なVIGの第2ガラスペインについて、予め応力が付与されたガラスを使用することにより、本発明のVIGの非対称性によってもたらされる技術的利点のほとんどを可能にする。
【0031】
本発明の好適な実施形態においては、第1ガラスペインの厚さZ1は、3mmに等しいか又はそれより大きく(Z1≧3mm)、好ましくは、4mmに等しいか又はそれより大きく(Z1≧4mm)、更に好ましくは、5mmに等しいか又はそれより大きく(Z1≧5mm)、更に好ましくは、6mmに等しいか又はそれより大きい(Z1≧6mm)。実際に、厚さ比率(Z1/Z2)は、大きいほど、熱によって誘発される応力の低減のために良いということが更に見出されている。従って、第1ガラスペインと第2ガラスペインの間の厚さ比率の増大において相対的に大きな柔軟性を提供し、それにより、熱によって誘発される応力に対する改善された抵抗力を提供するために、第1ガラスペインは、有意な厚さZ1を有することが好ましい。
【0032】
更には、機械的な性能の改善に加えて、厚さ比率Z1/Z2が1.30に等しいか又はそれより大きく、且つ、第2ガラスペインが予め応力が付与されたガラスから作られている本発明の非対称的なVIGは、表2において示されているように、本発明の非対称的なVIGの断熱性の更なる改善を可能にしている。
【0033】
【0034】
表2において示されているように、例えば、第1ガラスペインにおける大気圧によって誘発される応力を、許容設計値より低い、対応する対称的なVIGにおいて得られるレベルに維持しながら、本発明の非対称なVIGは、第1ガラスペインと第2ガラスペインの間において位置決めされるスペーサのピッチを増大させることができ、それによりピラーの数を低減することを可能にする。対照的に、対称的なVIGのガラスペインにおける大気圧によって誘発される応力は、許容設計値超に増大している。上で示されているように、予め応力が付与された第2ガラスペインは、この増大した大気圧によって誘発される応力に耐えることができる。
【0035】
ピラーの数を低減することにより、熱伝導の伝達性が低下し、VIGの熱貫流率(U値)が改善され、これは、低いU値と、それによる相対的に良好な断熱特性とに導く。
【0036】
本発明の非対称的なVIGは、通常、汎用グレージングユニット、建てられた壁、自動車グレージングユニット、又は建築グレージングユニット、電気器具などの、パーティション内の開口部を閉鎖するために使用される。このパーティションは、第1温度Temp1によって特徴付けられる第1空間を第2温度Temp2によって定義される第2空間から分離しており、この場合に、Temp1は、Temp2より低い。内部空間の温度は、通常、15~25℃である一方で、外部空間の温度は、冬における-20℃から、夏における+40℃までの範囲である。従って、内部空間と外部空間の間の温度差は、通常、最大で35℃に到達しうる。本発明の非対称的なVIGのそれぞれのガラスペインの温度(T1、T2)は、対応する空間の温度(Temp1、Temp2)を反映することになる。本発明の非対称的なVIGが、その第1ガラスペインが第1空間に対向しているように位置決めされた場合には、前記第1ガラスペインの温度(T1)は、第1空間の温度(Temp1)を反映することになり、第2ガラスペインの温度(T2)は、第2空間の温度(Temp2)を反映することになり、逆もまた真である。
【0037】
好適な実施形態においては、本発明の非対称的なVIGは、第1温度Temp1を有する第1空間を第2温度Temp2を有する第2空間から分離しているパーティションの開口部を閉鎖し、この場合に、Temp1は、Temp2より低い。VIGの非対称性の第1ガラスペインは、第2ガラスペイン(2)の厚さZ2より大きい厚さZ1を有する第1ガラスペイン(1)が、第2空間の温度(Temp2)よりも低い温度(Temp1)を有する第1空間に対向するように、第1空間に対向している。実際に、本発明の非対称的なVIGの技術的利点を最大化させるためには、第2ガラスペインの厚さZ2より大きい厚さZ1を有する第1ガラスペイン(1)を「冷たい側」に、即ち、最低温度(Temp1)を有する空間に曝露させることが好ましいことが見出された。
【0038】
また、本発明は、第1温度Temp1を有する第1空間を第2温度Temp2を有する第2空間から分離するパーティションの開口部を閉鎖するための、上で定義されている非対称的な真空絶縁型のグレージングユニットの使用に関し、この場合に、Temp1は、Temp2より低く、第1ガラスペインは、第1空間に対向している。
【0039】
本発明の非対称的なVIGの第2ガラスペインは、予め応力が付与されたガラスである。予め応力が付与されたガラスとは、本明細書においては、熱強化ガラス、熱強靭化安全ガラス、又は化学強化ガラスを意味している。
【0040】
熱強化ガラスは、外側ガラス表面を圧縮下において配置すると共に、内側ガラス表面を張力下において配置する、制御された加熱及び冷却の方法を使用することにより、熱処理されている。この熱処理方法は、アニーリングされたガラスより大きいが、熱強靭化安全ガラスより小さい曲げ強度を有するガラスを供給する。
【0041】
熱強靭化安全ガラスは、外側ガラス表面を圧縮下において配置すると共に、内側ガラス表面を張力下において配置する、制御された加熱及び冷却の方法を使用することにより、熱処理されている。このような応力は、衝撃が加わった際に、ガラスが、ギザギザのかけらとして砕ける代わりに、小さな粒状の粒子に砕けることをもたらす。これらの粒状の粒子は、乗員を負傷させたり、物体を損傷する可能性が相対的に低い。
【0042】
ガラス物品の化学的強化は、例えば、アルカリカリウムイオンなどの相対的に大きなイオンによるガラスの表面層内の相対的に小さなアルカリナトリウムイオンの置換を伴う、熱によって誘発されるイオン交換である。相対的に大きなイオンが、ナトリウムイオンによってそれまで占有されていた小さなサイト内に「楔」のように打ち込まれるのに伴って、増大した表面圧縮応力がガラス内において発生する。このような化学的処理は、一般に、温度及び時間の正確な制御を伴う、相対的に大きなイオンの1つ又は複数の溶融塩を含むイオン交換溶融槽内においてガラスを浸漬することにより、実行される。例えば、Asahi Glass Co.のDragonTrail(登録商標)製品系列のもの、或いは、Corning Inc.のGorilla(登録商標)製品系列のものなどのアルミノケイ酸塩タイプのガラス組成も、化学的な焼き戻しのために非常に効率的であることが知られている。
【0043】
本発明の実施形態においては、第1ガラスペインも同様に、予め応力が付与されたガラスであってよい。
【0044】
本発明による真空絶縁型のグレージング(VIG)の第1ペイン及び第2ペインは、ガラスペイン(1、2)である。ガラスペインは、例えば、フロートクリア、エクストラクリア、又は着色ガラスなどの、すべてのフラットガラス技術のうちから選択することができる。「ガラス」という用語は、本明細書においては、ミネラルガラス又は有機ガラスなどの、任意のタイプのガラス又は等価な透明材料を意味するものとして理解されたい。使用されるミネラルガラスは、ソーダ-石灰-シリカ、アルミノシリケート又はボロシリケート、結晶質及び多結晶質ガラスなどの、1つ又は複数の既知のタイプのガラスであってよいが、これらに限定されない。使用される有機ガラスは、例えば、透明合成ポリカーボネート、ポリエステル、又はポリビニル樹脂などの、ポリマー又は硬質熱可塑性又は熱硬化性透明ポリマー又はコポリマーであってよい。ガラスペインは、フローティングプロセス、ドローイングプロセス、ローリングプロセス、或いは、溶融ガラス組成から始まる、ガラスペインを製造するために知られたいずれかの他のプロセスにより、得ることができる。ガラスペインは、任意選択により、そのエッジを研磨することができる。エッジの研磨により、鋭いエッジが、真空絶縁型のグレージングとの、特にグレージングのエッジとの接触状態となりうる人々にとって、格段に安全な滑らかなエッジとなる。好ましくは、相対的に低い製造費用を理由として、本発明によるガラスペインは、ソーダ-石灰-シリカガラス、アルミノシリケートガラス、又はボロシリケートガラスタイプのペインである。
【0045】
好ましくは、本発明の非対称的なVIGの第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの組成は、ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する。
SiO2 40~78%
Al2O3 0~18%
B2O3 0~18%
Na2O 0~20%
CaO 0~15%
MgO 0~10%
K2O 0~10%
BaO 0~5%
【0046】
更に好ましくは、ガラス組成は、ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する組成のベースガラスマトリックスを有するソーダ-石灰-シリケートタイプのガラスである。
SiO2 60~78wt%
Al2O3 0~8wt%、好ましくは、0~6wt%
B2O3 0~4wt%、好ましくは、0~1wt%
CaO 0~15wt%、好ましくは、5~15wt%
MgO 0~10wt%、好ましくは、0~8wt%
Na2O 5~20wt%、好ましくは、10~20wt%
K2O 0~10wt%
BaO 0~5wt%、好ましくは、0~1wt%
【0047】
本発明の非対称的なVIGの第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの別の好適なガラス組成は、ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する。
65≦SiO2≦78wt%
5≦Na2O≦20wt%
0≦K2O<5wt%
1≦Al2O3<6wt%、好ましくは、3<Al2O3≦5%
0≦CaO<4.5wt%
4≦MgO≦12wt%
(MgO/(MgO+CaO))≧0.5、好ましくは、0.88≦[MgO/(MgO+CaO)]<1
【0048】
本発明の非対称的なVIGの第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの別の好適なガラス組成は、ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する。
60≦SiO2≦78%
5≦Na2O≦20%
0.9<K2O≦12%
4.9≦Al2O3≦8%
0.4<CaO<2%
4<MgO≦12%
【0049】
本発明の非対称的なVIGの第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの別の好適なガラス組成は、ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する。
65≦SiO2≦78wt%
5≦Na2O≦20wt%
1≦K2O<8wt%
1≦Al2O3<6wt%
2≦CaO<10wt%
0≦MgO≦8wt%
K2O/(K2O+Na2O):0.1-0.7
【0050】
具体的には、本発明による組成用のベースガラスマトリックスの例は、PCT特許出願国際公開第2015/150207A1号パンフレット及び国際公開第2015/150403A1号パンフレットにおいて、出願されたPCT特許出願国際公開第2016/091672A1号パンフレット及び国際公開第2016/169823A1号パンフレット及び国際公開第2018/001965A1号パンフレットにおいて、公開されて記載されている。
【0051】
本発明の好適な実施形態においては、容易に化学的に焼き戻し可能である、即ち、従来のソーダ-石灰-シリカガラス組成よりもイオン交換に好ましいガラス組成を提供するために、第2ガラスペインは、熱強靭化又は化学強化されたソーダ-石灰-シリカガラスタイプであり、好ましくは、ガラスの合計重量に対して表現すると、以下の重量百分率を有する。
SiO2 60~78%
Al2O3 0~8%
B2O3 0~4%
Na2O 5~20%、好ましくは、10~20wt%
CaO 0~15%
MgO 0~12%
K2O 0~10%
BaO 0~5%
【0052】
本発明の真空絶縁型のグレージングの第1ガラスペイン及び第2ガラスペインは、同一又は異なるタイプでありうるが、第2ガラスペインは、必ず、予め応力が付与されたガラスとなる。ガラスペインは、同一の寸法又は異なる寸法を有することが可能であり、これにより、階段状のVIGを形成しうる。本発明の好適な実施形態においては、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインは、それぞれ、第1周辺エッジ及び第2周辺エッジを有しており、この場合に、第1周辺エッジが、第2周辺エッジから凹入しており、或いは、この場合に、第2周辺エッジが、第1周辺エッジから凹入している。この構成は、密封接合封止体の強さの補強を可能にする。
【0053】
好適な実施形態においては、第1ガラスペイン及び/又は第2ガラスペインのうちの少なくとも1つ、好ましくは第2ガラスペインは、ラミネートされたガラスペインであってよい。ラミネートされたガラスは、砕けた際に、一体に保持するタイプの安全ガラスである。ラミネートされたガラスは、破壊の場合に、ガラスのその2つ以上の層の間の熱可塑性中間層により、定位置に保持される。中間層は、破壊された際にも、ガラスの層を接合状態で維持し、その高強度が、ガラスが大きな鋭い断片に壊れることを防止する。異なるラミネートされた層の間において使用されることができる熱可塑性中間層は、エチレンビニルアセテート(EVA)、ポリイソブチレン(PIB)、ポリビニルブチラル(PVB)、ポリウレタン(PU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、紫外線活性型の接着剤、並びに/或いは、その他の透明又は半透明接合材料から構成された群から選択された材料であってよい。好ましくは、熱可塑性中間層は、エチレンビニルアセテート層である。
【0054】
また、別の好適な実施形態においては、本発明は、部分的な真空が絶縁又は非絶縁内部空間(複数のグレージングパネルとも呼称される)のうちの少なくとも1つにおいて生成されることを前提として、これらの内部空間の境界を定めるガラスペイン(2つ、3つ、又はこれ以上)を有する、任意のタイプのグレージングパネルにも適用される。
【0055】
別の好適な実施形態においては、本発明の非対称的なVIGは、これに加えて、第2空洞を形成する第2空間によって第1ガラスペイン及び第2ガラスペインのうちの1つから分離された第3ガラスペインと、第2空間を維持するために、第3ガラスペイン及び第1ガラスペイン及び第2ガラスペインのうちの1つの周囲において位置決めされた第2封止体とを有しており、前記第2空洞は、例えば、乾燥空気、アルゴン(Ar)、クリプトン(kr)、キセノン(Xe)、六フッ化硫黄(SF6)、或いは、場合によっては、これらのガスの特定のものの混合物などの限定されない少なくとも1種のガスによって充填されている。
【0056】
別の実施形態においては、本発明の非対称的なVIGの第1ガラスペイン及び/又は第2ガラスペインのうちの少なくとも1つは、通常の絶縁ガラスユニット(IGU:insulating glass unit)によって置換することができ、前記絶縁ガラスユニットは、絶縁空洞を生成するために第1ガラスプレート及び第2ガラスプレートに絶縁ガラスユニットの周囲に沿って結合されたスペーサによって分離された少なくとも第1ガラスプレート及び第2ガラスプレートを含み、さらに、第1ガラスプレート及び第2ガラスプレートを一緒に固定し、且つ、絶縁空洞を封止する封止材のコードンを含む。
【0057】
また、窓又はドアの性能を改善するために、第1ガラスペイン及び/又は第2ガラスペインの表面の少なくとも1つの上において与えられた低放射性(低E)被覆、太陽光制御被覆、反射防止被覆を伴う断熱、防音ラミネートされたガラスを伴う補強された防音絶縁、などのその他の選択肢が、本発明の思想との適合性を有する。また、電気クロミック、熱クロミック、光クロミック、又は光起電性の要素を伴うガラスペインも、本発明との適合性を有する。
【0058】
本発明の別の好ましい実施形態においては、真空絶縁型のグレージング(10)の第1ガラスペイン及び/又は第2ガラスペイン(1、2)の内側ペイン面(12、21)及び/又は外側ペイン面(13、23)のうちの少なくとも1つには、熱線反射薄膜又は低E薄膜(5)が与えられている。
図1に示されている実施形態は、第2ガラスペインの内側面上において与えられた熱線反射薄膜又は低E薄膜を示している。
【0059】
図1に描かれているように、本発明の真空絶縁型のグレージングは、内部容積Vを維持するように、第1ガラスペイン及び第2ガラスペイン(1、2)の間において挟持された複数のスペーサ(3)を有する。
【0060】
スペーサは、円筒形、球状、糸状、砂時計形状、十字形、プリスム形状、などの異なる形状を有することが可能であり、「ピラー」という用語も使用されうる。
【0061】
スペーサは、通常、ガラスペインの表面から印加される圧力に耐えられる強度を有し、燃焼及び焼成などの高温プロセスに耐える能力を有し、且つ、ガラスパネルが製造された後にガスをほとんど放出しない材料から製造されている。このような材料は、好ましくは、硬質金属材料、石英ガラス又はセラミック材料、特に、鉄、タングステン、ニッケル、クロム、チタニウム、モリブデン、炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼、ニッケル-クロム鋼、マンガン鋼、クロム-マンガン鋼、クロム-モリブデン鋼、ケイ素鋼、ニクロム、ジュラルミン又はこれに類似したものなどの金属材料、或いは、コルンダム、アルミナ、ムライト、マグネシア、イットリア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらに類似したものなどのセラミック材料である。
【0062】
スペーサは、通常、そのピッチが15~100mm、好ましくは、20mm~80mm、更に好ましくは、20mm~60mmであるグリッドを形成するように、第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの間において配置されている。スペーサのピッチとは、スペーサの間の間隔を意味している。
【0063】
図1に示されているように、本発明の真空絶縁型のグレージング(10)のガラスペイン(1、2)の間の内部容積Vは、前記内部空間の周りのガラスペインの周囲において配置された密封接合封止体(4)によって閉鎖されている。前記密封接合封止体は、不透過性であり、且つ、硬質である。本明細書において使用されている「不透過性」という用語は、他に示されない限り、空気、又は大気中に存在しているいずれかの他のガスに対する不透過性を意味するものと理解されたい。
【0064】
内部空間と外部空間の間の温度勾配は、実際には、本発明の第1ガラスペイン及び第2ガラスペインの異なる熱変形を生成する。それぞれのガラスペインにおける制約は、ガラスペインの周囲において配置された封止体が硬質である際には、更に重要なものとなる。逆に、このような制約は、周辺封止体がある程度の変形を許容しているVIG内においては、相対的に重要性が低くなる。
【0065】
様々な密封接合封止体技術が存在している。第1のタイプの封止体(最も広く使用されているもの)は、溶融点がグレージングユニットのガラスパネルのガラスのものよりも低い、はんだガラスに基づいた封止体である。このタイプの封止体の使用は、はんだガラスを実装するために必要とされる熱サイクルによって劣化しないものに、即ち、恐らくは、250℃ほどに高い温度に耐えうるものに、低E層の選択肢を制限している。これに加えて、このタイプのはんだガラスに基づいた封止体は、非常にわずかにしか変形可能ではないことから、吸収されるべき大きな温度差(例えば、20℃)に前記パネルが晒された際の、グレージングユニットの内部側ガラスパネルとグレージングユニットの外部側ガラスパネルとの間の膨張差を可能にしない。従って、極めて大きな応力が、グレージングユニットの周囲において生成され、グレージングユニットのガラスパネルの破壊をもたらしうる。
【0066】
第2のタイプの封止体は、例えば、柔らかいすず合金はんだなどの、はんだ付け可能な材料の層によって少なくとも部分的にカバーされた結合下層により、グレージングユニットの周囲にはんだ付けされた、小さな厚さ(<500μm)の金属ストリップなどの、金属封止体を有する。第1のタイプの封止体に対するこの第2のタイプの封止体の1つの大きな利点は、2つのガラスパネルの間において生成される膨張差を部分的に吸収するために部分的に変形しうるという点にある。様々なタイプのガラスパネル上の結合下層がある。
【0067】
特許出願国際公開第2011/061208A1号パンフレットは、真空絶縁型のグレージングユニット用の第2のタイプの周辺不透過性封止体の1つの実施形態の例を記述している。この実施形態においては、封止体は、ガラスペインの周囲に与えられる接着バンドにはんだ付け可能な材料によってはんだ付けされた、例えば銅から製造された金属ストリップである。
【0068】
0.1mbar未満、好ましくは、0.01mbar未満の圧力の真空は、第1ガラスペイン及び第2ガラスペイン及びスペーサの組によって定義され、且つ、本発明の非対称的なVIG内において密封接合封止体によって閉鎖された内部容積V内において生成される。
【0069】
本発明の非対称的なVIGの内部容積は、例えば、乾燥空気、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、六フッ化硫黄(SF6)、或いは、これらのガスの特定のものの混合物などの限定されないガスを有しうる。この従来の構造を有する絶縁パネルを通じたエネルギーの伝達は、単一ガラスペインと比べて、内部容積内のガスの存在のために減少される。
【0070】
内部容積はまた、いずれかのガスをポンピングによって排出させてもよく、これにより真空グレージングユニットを生成することができる。真空絶縁された絶縁グレージングパネルを通じたエネルギー伝達は、真空により、大きく減少される。グレージングパネルの内部空間内に真空を生成するために、一般には、内部空間を外部との連通状態とする中空のガラス管が、複数のガラスペインのうちの1つのガラスペインの主要な面上に与えられる。従って、ガラス管の外端に接続されたポンプにより、内部空間内に存在しているガスをポンプ排出することにより、内部空間内において部分真空が生成される。
【0071】
真空絶縁型のグレージングパネル内に所定の真空レベルを一定期間にわたって維持するために、ゲッタをグレージングパネル内で使用してもよい。具体的には、グレージングパネルを構成するガラスペインの内部表面は、ガラス内に予め吸収されたガスを経時的に放出し、これにより、真空絶縁型のグレージングパネル内の内部圧力を増大させうると共に、真空性能を低下させる。一般に、このようなゲッタは、ジルコニウム、バナジウム、鉄、コバルト、アルミニウムなどの合金から構成されており、見えないように(例えば、外部エナメルにより、或いは、周辺不透過性封止体の一部により隠蔽)、薄い層(厚さが数ミクロンである)の形で、或いは、グレージングパネルのガラスペインの間に配置されたブロックの形で、堆積されている。ゲッタは、その表面上において、室温ではパッシベーション層を形成しており、従って、パッシベーション層を消失させてその合金除去特性を活性化させるためには、加熱されなければならない。ゲッタ(getter)は、「熱によって活性化される」ものとされている。
【符号の説明】
【0072】
10 真空絶縁型のグレージング
1 第1ガラスペイン
12 第1内側ペイン面
13 第1外側ペイン面
2 第2ガラスペイン
22 第2内側ペイン面
23 第2外側ペイン面
3 スペーサ
4 密封接合封止体
5 熱線反射薄膜又は低E薄膜
V 内部容積