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特許7387892インジウム前駆体化合物、これを用いた薄膜の製造方法、及びこれから製造された基板
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  • 特許-インジウム前駆体化合物、これを用いた薄膜の製造方法、及びこれから製造された基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】インジウム前駆体化合物、これを用いた薄膜の製造方法、及びこれから製造された基板
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/18 20060101AFI20231120BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/205
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022523511
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 KR2020014801
(87)【国際公開番号】W WO2021086006
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0136318
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0140859
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】321001986
【氏名又は名称】ソウルブレイン シーオー., エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】ヨン,チャン ボン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ジェ ソン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソク ジョン
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-517905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/18
H01L 21/205
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるとともに、25℃で測定した蒸気圧が0.01~400mmHgであることを特徴とするインジウム前駆体化合物。
[化学式1]
(前記化学式1にて、R、R及びRは、それぞれ独立に非置換の炭素数1~3のアルキル基であり、R、イソプロピル、sec-ブチル(butan-2-yl)、イソブチル(2-methylpropyl)、tert-ブチル(tert-butyl)、sec-ペンチル(pentan-2-yl)、イソペンチル(3-methylbutyl)、tert-ペンチル(2-methylbutan-2-yl)、ネオペンチル(2,2-dimethylpropyl)、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシルまたはネオヘキシルであり、R及びRは、それぞれ独立に水素又は炭素数1~3のアルキル基であり、Xは、非共有電子対を有するヘテロ原子であり、nは1~3の整数である。)
【請求項2】
前記化学式1にて、XがN、OまたはSであることを特徴とする請求項1に記載のインジウム前駆体化合物。
【請求項3】
前記化学式1にて、Rイソブチル、tert-ブチル、tert-ペンチルまたはネオペンチルであることを特徴とする、請求項1に記載のインジウム前駆体化合物。
【請求項4】
前記インジウム前駆体化合物は、25℃で測定した蒸気圧が0.01~100mmHgであることを特徴とする請求項1に記載のインジウム前駆体化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のインジウム前駆体化合物を基材上に蒸着して薄膜を形成する段階を含むことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記薄膜の製造方法が、ガリウム前駆体および亜鉛前駆体の中から選択された少なくとも1種と前記インジウム前駆体化合物とを基材上に蒸着して薄膜を形成する段階を含むことを特徴とする請求項5に記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記薄膜の製造方法が、蒸着温度200~1,000℃下で行われることを特徴とする請求項5に記載の薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記蒸着は、化学気相蒸着法(CVD)または原子層蒸着法(ALD)によって行われることを特徴とする請求項5に記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
基材と、前記基材上に形成された薄膜とを含み、
前記薄膜は、請求項5~8のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする基板。
【請求項10】
前記薄膜が、酸化インジウム薄膜、インジウム薄膜または窒化インジウム薄膜であることを特徴とする請求項9に記載の基板。
【請求項11】
前記薄膜がインジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)薄膜であることを特徴とする請求項9に記載の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム前駆体化合物、これを用いた薄膜の製造方法、及びこれから製造された基板に関するものであり、より詳細には蒸着工程中に一定の蒸気圧を示し、組成が一定に保たれて均一な薄膜の形成が可能であり、蒸着速度が向上して生産性を向上させることができる、インジウム前駆体化合物、これを用いた薄膜の製造方法、及びこれから製造された薄膜を含む基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代ディスプレイは、低電力、高解像度、高信頼性を目標に発展している。この目的を達成するためには、高い電荷移動度を有する薄膜トランジスタ(TFT)材料が要求される。
【0003】
従来は薄膜トランジスタにアモルファスシリコンを用いていたが、最近では、シリコンよりも電荷移動度が高く、多結晶シリコンに比べて低温工程が容易な金属酸化物が使用されている。このような金属酸化物としては、インジウム(Indium)、亜鉛(Zinc)などの種々の種類の金属原子を添加した材料が用いられ、金属酸化物薄膜は、スパッタリング(Sputtering)、ALD(Atomic Layer Deposition)、PLD(Pulsed Laser Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の工程により製造される。
【0004】
インジウムは、透明度と電気伝導度に優れ、透明電極に広く活用されているが、大韓民国公開特許第2011-0020901号のようにインジウム(In)を含む金属薄膜をスパッタ(Sputter)ターゲットを用いてスパッタリングにより形成する場合、蒸着された薄膜の組成はスパッタターゲットによって決定されるので、薄膜の組成を均一に調整するには限界がある。また、大面積の蒸着の際、薄膜の組成や厚さを均一に保つのが難しく、均一な膜特性を得ることにも困難がある。
【0005】
また、スパッタリング(Sputtering)の代わりに、化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition; CVD)方式で製造する場合、従来使用されていたインジウム前駆体(例えば、トリメチルインジウム(CAS NO.3385-78-2))は、大部分、固体であるので、蒸気圧の調整と膜質の再現性の面で問題がある。特に高温条件(250℃以上)にて、大部分のインジウム(In)前駆体は熱分解する特性があり、高品質の薄膜を得ることが難しく、大面積の蒸着の際、厚みと多成分系の組成が均一な薄膜を得るのにも限界が存在する。
【0006】
したがって、高温に対する熱安定性に優れ、均一に蒸着する、高品質のインジウム前駆体の開発が切実である状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許第2011-0020901号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来技術の問題点を解決するため、本発明は、高い蒸着速度及び高い揮発性を有しつつ、熱安定性及び保管安定性に優れ、取り扱いが容易なインジウム前駆体化合物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、上記インジウム前駆体化合物を含み、蒸着工程中に一定の蒸気圧を示し、組成が一定に保たれることで均一な薄膜を形成することができ、膜厚の均一性に優れた薄膜の製造方法、及び上記方法により製造された薄膜を含む基板を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の上記目的および他の目的は、下記に説明される本発明によって、すべて達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で表されることを特徴とするインジウム前駆体化合物を提供する。
【0012】
[化学式1]
【0013】
(上記化学式1にて、R、R及びRは、それぞれ独立に置換又は非置換の炭素数1~6のアルキル基であり、Rは炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素又は炭素数1~3のアルキル基であり、Xは炭素又はヘテロ原子であり、nは1~3の整数である。)
【0014】
また、本発明は、前記インジウム前駆体化合物を基材上に蒸着して薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記薄膜の製造方法で製造されたことを特徴とする基板を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い揮発性を有しつつ、熱安定性及び保管安定性に優れ、取り扱いが容易なインジウム前駆体化合物を提供することができるのであり、これを含めて薄膜を製造する際、蒸着工程中に一定の蒸気圧を示し、組成が一定に維持されることから、均一な薄膜を製造することができるのであり、蒸着速度が向上して生産性が向上した薄膜の製造方法、及びこれから製造される均一な薄膜を含む基板を提供するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の合成例にて製造した前駆体化合物についてのH NMRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のインジウム前駆体化合物、それを用いた薄膜の製造方法、およびそれから製造された基板を詳細に説明する。
【0019】
本明細書および特許請求の範囲で使用される用語または単語は、通常または辞書の意味に限定されて解釈されるべきではないのであり、「発明者は、自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができる」という原則に立脚して、本発明の技術的思想に符号する意味及び概念に解釈されなければならない。
【0020】
本明細書において、ある部材が他の部材「上」に位置しているというとき、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけでなく、2つの部材の間に、別の部材が存在する場合も含む。
【0021】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは、特に反する載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0022】
本発明者らは、インジウム前駆体のリガンドに二重結合を含むようにしてリガンドを簡素化することで、熱安定性は優れながらも蒸着速度が大きく改善されることを確認し、これに基づき、さらに研究に邁進して、本発明を完成することとなった。
【0023】
本発明のインジウム前駆体化合物は、下記化学式1で表されることを特徴とする。
【0024】
[化学式1]
【0025】
(上記化学式1にて、R、R及びRは、それぞれ独立に置換又は非置換の炭素数1~6のアルキル基であり、Rは炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素又は炭素数1~3のアルキル基であり、Xは炭素又はヘテロ原子であり、nは、Xの原子価を満たす値であって1~3の整数である。)
【0026】
上記化学式1にて、Xは、一例として非共有電子対を含むヘテロ原子であり得る。上記非共有電子対を含むヘテロ原子は、一例としてN、OまたはSであり得るのであり、好ましくはNであり得る。この場合、下記化学式1-1のように、前記ヘテロ原子に含まれる非共有電子対により、インジウムとヘテロ原子との間に配位結合が形成されることから、前記インジウム前駆体化合物が非常に安定になるのであり、熱安定性及び保存安定性が向上するという優れた効果がある。
【0027】
[化学式1-1]
【0028】
一例として、XがN(窒素)である場合にnは2であり得るのであり、XがO(酸素)またはS(硫黄)である場合にnは1であり得るのであり、XがC(炭素)である場合にnは3であり得る。
【0029】
上記化学式1にて、Rは炭素数1~6の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、好ましくは分岐状のアルキル基である。一例として、二級または三級アルキル基であり、具体的には、イソプロピル、sec-ブチル(butan-2-yl)、イソブチル(2-methylpropyl)、tert-ブチル(tert-butyl)、sec-ペンチル(pentan-2-yl)、イソペンチル(3-methylbutyl)、tert-ペンチル(2-methylbutan-2-yl)、ネオペンチル(2,2-dimethylpropyl)、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシルまたはネオヘキシルであり得る。最も好ましくは、イソブチル、tert-ブチル、tert-ペンチルまたはネオペンチルであり得る。この場合、前記インジウム前駆体化合物の分子間ダイマー(dimer)の形成が防止され、蒸着工程をさらに安定化させ、前記X元素とインジウムとの間の配位結合を強化して前記前駆体化合物の熱安定性及び貯蔵安定性がより向上する利点がある。
【0030】
上記化学式1にて、R、RおよびRは、それぞれ独立に置換または非置換の炭素数1~6のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3の非置換アルキル基である。この場合、前記インジウム前駆体化合物の安定性が向上し、蒸着工程における熱安定性及び貯蔵安定性が向上し、分子簡素化により蒸着速度が向上し、薄膜製造速度が向上し、生産性が増大するという優れた効果がある。ここで、置換された炭素数1~6のアルキル基は、ハロゲン、酸素または窒素といった置換基で置換されたアルキル基を意味する。
【0031】
好ましい一例で、R、RおよびRは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基であり得る。
【0032】
上記化学式1にて、RおよびRは、それぞれ独立に水素または炭素数1~3のアルキル基であり、好ましくは水素、または炭素数1または2のアルキル基、さらに好ましくは水素またはメチル基であり得る。この場合、分子の簡素化により前記インジウム前駆体化合物の蒸着速度がより向上し、薄膜の製造速度が向上し、生産性が増大するという効果がある。
【0033】
好ましい一例では、インジウム前駆体化合物は下記化学式2で表される。
【0034】
[化学式2]
【0035】
上記化学式2にて、R~Rは上記化学式1で定義した通りであり、R1a及びR1bは、それぞれ炭素数1~6のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基であり、この場合、分子の簡素化により、前記インジウム前駆体化合物の安定性がより向上し、蒸着工程における熱安定性及び貯蔵安定性が向上し、蒸着速度がより向上し、薄膜製造速度が向上し、生産性が増大するという効果がある。
【0036】
上記インジウム前駆体化合物は、一例として25℃で測定した蒸気圧が0.01~400mmHg、好ましくは0.01~100mmHg、さらに好ましくは0.01~10mmHgであり得る。上記範囲内にて、薄膜製造の際、蒸着に十分な蒸気圧を有しうるのであり、蒸着速度が向上するという利点がある。
【0037】
本基材にて、蒸気圧の測定方法は、本発明が属する技術分野にて通常実施される公知の測定方法であれば特に限定されず、一例として熱重量分析法で測定することができる。
【0038】
本発明のインジウム前駆体化合物は、上記のように揮発性に優れ、薄膜の成膜工程に充分な蒸気圧を有しており、CVD、ALD等の蒸着工程に適用する際における工程の効率及びこれを含めて製造される薄膜の膜質を向上させる優れた効果がある。
【0039】
本発明のインジウム前駆体化合物は、インジウムと結合した配位子に二重結合炭素を含むことに起因して、化合物が安定化して熱安定性を大きく改善することができ、保管安定性も改善することができるのであり、薄膜に製造する際、蒸着工程中の蒸気圧が一定に保たれ、組成が一定に保たれるため、均一な薄膜の形成が可能である。また、前記インジウム前駆体化合物のXが、非共有電子対を含むヘテロ元素である場合、インジウムとX元素との間に配位結合が形成されることで、化合物がさらに安定化しうるのであり、前記Rの種類に応じて、インジウムとX元素との間の相互作用を強化して、化合物を安定化させる効果をさらに向上させることができる。さらに、従来の薄膜形成用インジウム前駆体に比べてリガンドが簡素化されることで、蒸着速度が大きく改善され、これを含めて薄膜を製造する際における薄膜の生産性を大きく向上させることができる。また、前記X元素とインジウムとの配位結合は、化合物内の他の結合に比べて相対的に切断されやすく、薄膜形成工程中、反応ガスとの反応が、より安定的に進行しるのであり、このことに起因して、薄膜形成の工程が容易であるという利点がある。同時に、上記化合物自体の化学的安定性に起因して、200℃以下の温度にて熱分解されず、熱安定性に優れるだけでなく、常温での反応性が少ないことから、自然発火の恐れがなく、取り扱いが容易であるという利点がある。
【0040】
上記インジウム前駆体化合物は、一例として下記反応式1に示す反応工程を経て製造されうる。
【0041】
[反応式1]
【0042】
本発明は、上記インジウム前駆体化合物を基材(substrate, 例えば、ウェハー)上に蒸着して薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜の製造方法を提供する。
【0043】
本発明の薄膜の製造方法は、上記インジウム前駆体化合物を用いることで、熱安定性に優れ、熱分解が防止されるのであって、蒸気圧が一定に保たれ、薄膜を安定して均一に形成することができるのであり、蒸着速度が向上し、生産性が増大されうる。
【0044】
一例として、上記薄膜の製造方法は、ガリウム前駆体及び亜鉛前駆体の中から選択された1種以上と、上記インジウム前駆体化合物とを基材上に蒸着して薄膜を形成する段階を含み得るのであり、この場合、多成分系の組成が均一であって熱安定性に優れた透明電子素子の製作に有利である。
【0045】
一例として、薄膜形成工程は、インジウム前駆体化合物、ガリウム前駆体および亜鉛前駆体を、基材上に順次に蒸着して多層構造の薄膜を形成することができる。別の一例として、上記のインジウム前駆体化合物、ガリウム前駆体及び亜鉛前駆体を基材上に同時に蒸着するか、又は上記のインジウム前駆体化合物、ガリウム前駆体化合物及び亜鉛前駆体化合物を混合した混合前駆体化合物を蒸着して単一層構造の薄膜を形成することができる。
【0046】
上記薄膜の製造方法は、一例として蒸着温度200~1,000℃下で実施することができる。上記蒸着温度は、具体的には、250~500℃、好ましくは270~400℃、さらに好ましくは300~350℃とすることができるのであって、この場合、相対的に低い温度にてインジウム前駆体化合物の蒸着が可能であることから、工程効率が向上しうるのであて、蒸着工程に使用される化合物の熱による分解を減少させて、蒸着工程の安定性及び生産性が大きく改善するという優れた効果がある。
【0047】
上記薄膜の製造方法は、一例として、必要に応じて、上記インジウム前駆体化合物を、または、上記のインジウム前駆体化合物、ガリウム前駆体及び亜鉛前駆体を、溶媒と混合して蒸着させることができる。上記溶媒は、一例として有機溶媒であり、具体的にはテトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジクロロメタン(DCM)、ジクロロエタン(DCE)、ベンゼン(Benzene)、トルエン(Toluene)及びメシチレン(Mesitylene)からなる群から選択される1種でありうるのであり、この場合、薄膜蒸着の際における前駆体化合物の粘度や蒸気圧の調節が、より容易であるという利点がある。
【0048】
上記薄膜の製造方法は、一例として、上記基材上に形成された薄膜上にプラズマを用いて蒸着する工程をさらに含むことができるのであって、この場合、相対的に低い温度の蒸着条件においても、高品質の薄膜を得ることができる。上記プラズマは、一例として、酸素プラズマであり得るが、これに限定されるのではない。
【0049】
本発明の薄膜の製造方法は、次のような段階のうちの1つ以上を含むことができる。
【0050】
- 基材(substrate)上に、本発明のインジウム前駆体化合物を吸着させて蒸着する段階;
【0051】
- 未吸着のインジウム前駆体化合物を非活性ガスでもってパージする段階;
【0052】
- 反応ガスを注入して、吸着したインジウム前駆体化合物と反応させる段階;
【0053】
- 反応の副生成物および未反応物質を非活性ガスでもってパージする段階。
【0054】
薄膜の製造方法は、一例として、上記の一連の段階を1サイクルとし、所望の厚さの薄膜が形成されるまで上記サイクルを数十回以上繰り返すことができる。具体的には、上記サイクルの繰り返し回数は、50~1000回、好ましくは100~300回でありうるのであり、この場合、薄膜の厚さが適切に具現され、工程効率が上昇しうる。
【0055】
具体的な一例では、薄膜の製造方法は、次の一連の段階を含むことができる。
【0056】
a)反応チャンバーの内部に基材を搬入して焼成温度で維持する段階;
【0057】
b)上記反応チャンバーの内部に非活性ガスを注入する、一次パージ段階;
【0058】
c)上記反応チャンバーの内部に、本発明のインジウム前駆体化合物を注入して上記基材上に吸着する段階;
【0059】
d)上記反応チャンバーの内部に非活性ガスを注入して、基材上に化学吸着されたインジウム前駆体化合物を残し、物理吸着されたインジウム前駆体化合物を除去する、二次パージ段階;
【0060】
e)上記反応チャンバーの内部に反応ガスを注入して、上記化学吸着されたインジウム前駆体化合物と反応させる段階;及び、
【0061】
f)上記反応の副生成物及び未反応物質を、上記反応チャンバーの外部に放出する、三次パージ段階。
【0062】
薄膜の製造方法は、一例として、工程a)~f)を1サイクルとし、上記サイクルを繰り返し行うことができる。具体的には、上記サイクルの繰り返し回数は50~1000回、好ましくは100~300回とすることができるのであり、この場合、薄膜の厚さが適切に具現され、工程効率を高めることができる。
【0063】
上記薄膜の製造方法は、一例として、化学気相蒸着法(CVD)、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD; metal organic CVD)、低圧気相蒸着法(LPCVD; low-pressure CVD)、プラズマ強化気相蒸着法(PECVD; plasma enhanced CVD)、原子層蒸着法(ALD)、またはプラズマ強化原子層蒸着法(PEALD; plasma enhanced ALD)で実施することができ、好ましくは化学気相蒸着法または原子層蒸着法により実施することができるが、これに限定されるものではない。上記の化学気相蒸着法または原子層蒸着法は、一例として、薄膜蒸着原料をガス状態で基板に供給することで、アスペクト比の大きい構造の表面にも、均一な厚さの膜を形成することができ、大面積、またはロールの形態の基板にも、本記載のインジウム前駆体化合物を、均一な濃度で供給することで均一な膜を形成することができるという利点がある。
【0064】
上記蒸着温度は、一例として200~1,000℃、具体的には250~500℃、好ましくは270~400℃、さらに好ましくは300~350℃であり得るのであって、この場合、相対的に低い温度にてインジウム前駆体化合物の蒸着が可能であることから、工程効率が向上し、蒸着工程に用いられる化合物の熱分解を減少させ、蒸着工程の安定性及び生産性が大きく改善されるという効果がある。また、製造された薄膜内の炭素(carbon)などの不純物(impurity)の含有量を減少させて薄膜の物性を向上させることができる。
【0065】
上記蒸着は、一例として蒸着原料を順次に供給して蒸着する際に、分割蒸着装置を用いることができる。
【0066】
他の一例として、一方の原料のガスで満たされている空間と、他の原料ガスで満たされている空間とを、基板が回転しながら往復するという方式の空間分割蒸着装置を用いることができる。
【0067】
さらに他の一例として、上記基板が、ロール状の高分子基材である場合には、ロール状に巻いたロールツーロール(roll-to-roll)蒸着装置を用いることができる。
【0068】
上記反応ガスは、一例として水蒸気(HO)、過酸化水素(H)、酸素(O)、オゾン(O)、水素(H)、窒素(N)、ヒドラジン(N)、アンモニア(NH)及びシラン(silane)からなる群から選択される1種以上であり得るが、これに限定されるものではない。
【0069】
具体的な一例として、水蒸気、酸素、オゾンといった酸化性反応ガスの存在下にて、上記インジウム前駆体化合物の蒸着が行われる場合、インジウム含有金属酸化物薄膜を形成することができる。
【0070】
具体的な他の一例として、水素、シランといった反応ガスの存在下にて、上記インジウム前駆体化合物の蒸着が行われる場合、インジウム含有金属薄膜を形成することができる。
【0071】
具体的なさらに他の一例として、アンモニア、ヒドラジンといった窒素系反応ガスの存在下にて前記インジウム前駆体化合物の蒸着を行う場合、インジウム含有金属窒化物薄膜を形成することができる。
【0072】
上記薄膜の製造方法における前記インジウム前駆体化合物の注入時間は、一例として1~30秒、好ましくは1~20秒、さらに好ましくは2~10秒であり、この範囲内にて薄膜の厚さ均一性が向上することから、複雑な形状の基板においても均一な薄膜を容易に製造することができる。
【0073】
上記薄膜の製造方法における反応ガスの注入時間は、一例として1~40秒、好ましくは1~30秒、さらに好ましくは2~10秒であり、この範囲内にて、優れた被覆性及び均一な塗布性により薄膜の物性が向上するという効果がある。
【0074】
上記基材(例えばウェハー)は、一例として、ガラス、シリコン、金属、ポリエステル(Polyester, PE)、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate、PET)、ポリエチレンナフタレート(Polyethylene naphthalate, PEN)、ポリカーボネート(Polycarbonate, PC)、ポリエーテルイミド(Polyether imide, PEI)、ポリエーテルスルホン(Polyether sulfone, PES)、ポリエーテルエーテルケトン(Polyether ether ketone、PEEK)およびポリイミド(Polyimide, PI)からなる群から選択される1種以上の基材を含むことができるが、これに限定されない。
【0075】
本明細書において、薄膜製造工程中にチャンバーに供給される基板は、基材(substrate)と呼ぶ。
【0076】
本発明は、上記薄膜の製造方法により製造された薄膜を含むことを特徴とする基板を提供する。ここで、基板は、基材と、上記基材上に形成された薄膜とを含み、上記薄膜はインジウム前駆体化合物を含む。
【0077】
上記薄膜の製造方法により製造された薄膜は、一例として、酸化インジウム薄膜、インジウム薄膜、または窒化インジウム薄膜でありうる。この場合、薄膜の成膜が速く、膜厚の均一性および熱安定性に優れた効果がある。
【0078】
上記薄膜の製造方法によって製造された薄膜は、一例として、単一層の構造または複数層の構造でありうる。
【0079】
上記単一層の構造の薄膜は、一例として、上記インジウム前駆体化合物を蒸着して形成されるか、又は上記インジウム前駆体化合物に、ガリウム前駆体及び亜鉛前駆体からなる群から選択された1種以上を混合した混合物を蒸着して形成することができるのであり、好ましくは、インジウム前駆体化合物とガリウム前駆体との混合物、インジウム前駆体化合物と亜鉛前駆体との混合物、または、インジウム前駆体化合物とガリウム前駆体と亜鉛前駆体との混合物を蒸着して形成することができる。上記のガリウム前駆体及び亜鉛前駆体は、具体的な一例として、それぞれTMG(トリメチルガリウム; trimethyl gallium)及びDEZ(ジエチル亜鉛; diethyl zinc)であり得る。
【0080】
上記多層構造の薄膜は、一例として、上記インジウム前駆体化合物とは異なる前駆体を順次に蒸着して積層された構造であり得るのであり、具体的な一例として、ガリウム前駆体及び亜鉛前駆体からなる群から選択された1種以上と、上記インジウム前駆体化合物とを、基材上に蒸着して積層された構造であり得る。
【0081】
上記薄膜の製造方法により製造された薄膜は、具体的な一例としてIGZO(インジウムガリウム亜鉛酸化物)薄膜であり得るのであり、上記IGZO薄膜のIn:Ga:Zn組成比は、一例として、モル比を基準として1~10:1~10:1~10、好ましくは1~5:1~5:1~5であり得るのであり、より好ましくは1:1:1であり得る。
【0082】
上記薄膜の製造方法により製造された薄膜は、一例として25℃にて比抵抗値が1×10-5~1×10Ωcm、好ましくは1×10-4~1×10Ωcm、さらに好ましくは1×10-3~10Ωcmであり得る。
【0083】
本基材における比抵抗の測定方法は、本発明が属する技術分野にて通常実施する公知の測定方法であれば、特に限定されないのであり、具体的な一例として4プローブ法(4-probe測定法)により測定することができる。
【0084】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲及び技術思想の範囲内にて、多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかである。このような変形及び修正が、添付された特許請求の範囲に属することも当然なことである。
【実施例
【0085】
合成例1
インジウム前駆体化合物の調製
【0086】
段階1) 250mLのシュレンクフラスコ(Schlenk flask)に、無水トリメチルインジウム10g(62.5mmoL)とトルエン200mlを入れて-20℃に冷却することで製造した溶液に、トリクロロインジウム6.91g(31.3mmoL)をゆっくり滴下して、30分間攪拌した後、徐々に温度を上げて室温にて撹拌した。反応終了後、常温にて真空減圧を加えて溶媒を除去し、白色固体として下記反応式2-1の1-1のような構造を有するジメチルクロロインジウム16.91g(93.8mmoL)を得た。
【0087】
1H NMR(C6D6, 400 MHz):δ0.19(s, 6H)
【0088】
[反応式2-1]
【0089】
段階2) 500mLのシュレンクフラスコに、2-クロロ-N,N-ジメチルエチルアミン塩酸塩50g(347.12mmoL)と蒸留水50mLを入れて、-20℃に冷却して調製した溶液に、tert-ブチルアミン253.88g(3.47moL)をゆっくり滴下して30分間攪拌した後、温度を徐々に上げて、室温にて1時間にわたって攪拌した。その後、80℃に昇温させた後に、1時間にわたって攪拌した後、室温に温度を徐々に下げた。反応終了後、フラスコを-20℃に冷却した後に、NaOH20.83g(520.68mmoL)を蒸留水50mLに希釈した溶液をゆっくり滴加した後、徐々に温度を上げて室温で1時間にわたって攪拌した。これから得られた溶液を、ヘキサン150mLでもって3回抽出した後、ヘキサン層に常温にて100torrの真空減圧を加えてヘキサンを除去した後、減圧蒸留法を用いて、無色の液体状態である、下記反応式2-2の2-1のような構造を有するN,N-ジメチルアミノ-N'-tert-ブチルエチレンジアミン35g(242.61mmoL)を得た。
【0090】
1H NMR (C6D6, 400 MHz): δ 1.06 (s, 9H), 1.21 (br, 1H), 2.06 (s, 6H), 2.33 (t, 2H), 2.56 (q, 2H)
【0091】
[反応式2-2]
【0092】
段階3) 250mLのシュレンクフラスコにトルエン50mLを入れ、n-ブチルリチウム(2.5M ヘキサン(in hexane))溶液13.86mLを入れた後、-20℃に冷却しながら、上記段階2)で製造したN,N-ジメチルアミノ-N'-tert-ブチルエチレンジアミン5g(34.66mmol)をゆっくり滴下した後に、徐々に室温に昇温して1時間攪拌した。その後に、得られた溶液を-20℃に冷却した後、上記段階1)で製造したジメチルクロロインジウム6.25g(34.66mmol)をゆっくり投入した。投入が完了した後に、フラスコの温度を徐々に上げて室温にて1時間撹拌した後、110℃まで昇温して1時間にわたって撹拌し、再び室温へと温度を徐々に下げた。その後、室温条件で、上記段階1)で製造したジメチルクロロインジウム6.25g(34.66mmol)をゆっくり投入し、フラスコの温度を110℃まで上げた状態で2時間攪拌した後、再び室温まで温度を徐々に下げた。反応終了後、得られた溶液中の固体をろ過した後に、真空減圧を加えて溶媒を除去してオレンジ色の液体を得た。そして、上記液体を真空蒸留して不純物を除去した後、透明で無色を呈する下記反応式2-3の3-1で表される化合物(薄膜形成用前駆体)を得たのであり、上記と同様に、この構造を1H NMRスペクトル分析により確認し、その結果を下記図1に示した。
【0093】
1H NMR (C6D6, 400 MHz): δ -0.01 (s, 6H), 1.17 (s, 9H), 2.02 (s, 6H), 4.08 (d, 1H), 6.48 (d, 1H)
【0094】
[反応式2-3]
【0095】
上記で製造されたインジウム前駆体化合物は、大気にさらされても発火したり、ヒュームが発生したりせず、安定な化合物であることを確認した。
図1