(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ポリエステルの中和物、樹脂組成物、およびポリエステルの中和物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 167/00 20060101AFI20231121BHJP
C08G 63/91 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C09D167/00
C08G63/91
(21)【出願番号】P 2018233396
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 明宏
(72)【発明者】
【氏名】武田 博之
(72)【発明者】
【氏名】エンゲル ミヒャエル
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/005645(WO,A1)
【文献】特開2007-106883(JP,A)
【文献】特開2013-228488(JP,A)
【文献】特開2016-065123(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244797(WO,A1)
【文献】特開2017-110142(JP,A)
【文献】特開2012-072308(JP,A)
【文献】特開2012-007154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
C08L 67/00-67/08
C09D 167/00-167/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項10】
前記ポリエステルの酸価が40mgKOH/g以上である請求項1~9のいずれか一項
に記載のコーティング材。
【請求項11】
前記多価アルコールの分子量が100以下である請求項1~10の何れか一項に記載の
コーティング材。
【請求項14】
請求項
12または13に記載の積層体からなる容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの中和物、樹脂組成物、およびポリエステルの中和物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や飲料等の包装に代表的に用いられる包装材料は、様々な流通、冷蔵等の保存や加熱殺菌などの処理等から内容物を保護するため、強度や割れにくさ、耐レトルト性、耐熱性といった機能ばかりでなく、内容物を確認できるよう透明性に優れるなど多岐に渡る機能が要求されており、透明性、軽量性、経済性等の理由からプラスチックフィルムや容器の使用が主流になっている。食品、医薬品、化粧品などの包装に用いられるプラスチックフィルムの要求性能としては、各種ガスに対するバリア性、透明性、耐レトルト処理性、耐衝撃性、柔軟性、ヒートシール性などが挙げられるが、内容物の性能あるいは性質を保持するという目的から、高湿度下やレトルト処理後などの条件下も含めた酸素および水蒸気に対する高いバリア性が特に要求されている。このようなガスバリア性包装材料は、通常、基材となる可撓性ポリマーフィルム層、ガスバリア層、シーラント層となる可撓性ポリマーフィルム層、インキ層などの各材料を積層させることにより構成されている。
【0003】
一方、上記積層フィルムの貼り合わせに用いる接着剤や印刷インキ層、金属蒸着層などと各基材フィルムとの接着性を向上させるために、予めプライマー層を設けることがある。その工程として、近年では環境保護の観点から水系プライマー樹脂をインライン法で塗工する方法が多く取られている。しかし、用いられているプライマー樹脂にはバリア性は無く、積層フィルムのバリア性向上に効果はない。
【0004】
これらに加えて、これら多層フィルムの材料を「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されている「バイオマス」に変更したいとの社会的、産業的要望も強い。これは石油資源の節約と、二酸化炭素増加抑制による地球温暖化防止による価値に基づく。本要望に対応できる方法の一つとして、植物由来の原材料を用いることがある。理由は植物が生育する際にCO2を吸収するために、例え焼却された場合でもCO2はゼロとカウントすることができる考え方があるためである。こうした、多層フィルムの材料として、特にポリエステル系の材料を得る場合には植物由来原料として、フラン骨格を含むポリカルボン酸及び/又はその誘導体(代表構造としてフランジカルボン酸)を原料として用いる例が挙げられている。(特許文献1、特許文献2)。何れも出願も、フランジカルボン酸をモノマーとして用い重縮合を行い、非石油原料由来のポリエステルフィルムを製造する文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許5446121号公報
【文献】特許5821897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸素バリア性且つ、非石油由来の原料を用いたポリエステルの中和物、樹脂組成物およびポリエステルの中和物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、非石油由来で得ることが出来る成分であるフラン骨格を含むジカルボン酸及び/又はその誘導体と、多価アルコールとの重縮合物であるポリエステル中の酸を塩基で中和した、中和物を提供するものである。
【0008】
すなわち本発明は、多価カルボン酸及びまたはその誘導体と多価アルコールとを反応して得られるポリエステルを含有する中和物、樹脂組成物であって、
当該多価カルボン酸及びまたはその誘導体がフラン骨格を有する多価カルボン酸及びまたはその誘導体を含有することを特徴とするポリエステルを中和することで得た中和物により上記課題を解決する。
【0009】
また本発明は、当該中和物を含む、樹脂組成物を提供する。
【0010】
また本発明は、当該中和物の製造方法を提供する。
【0011】
また本発明は、当該樹脂組成物を含む積層体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、酸素バリア性に優れる中和物、樹脂組成物を提供することが可能となる。加えて、当該樹脂組成物からなる積層体が非石油由来成分を含有することにより、石油由来成分の使用を少なくすることができ、石油資源の消費の現象、二酸化炭素増加の抑制等の環境問題に寄与することができる。尚、本発明でいう非石油由来成分とは、植物由来又は動物由来の再生可能な成分を指す。中でも植物由来原料は植物が生育の際に吸収した二酸化炭素が原料となっているため、カーボンニュートラルの観点から特に好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリカルボン酸及びまたはその誘導体とポリオールとを反応して得られるポリエステルを含有する中和物であって、
当該ポリカルボン酸及びまたはその誘導体がフラン骨格を有するポリカルボン酸及びまたはその誘導体を含有することを特徴とする中和物を提供するものである。
【0014】
[カルボキシル基を有するポリエステル]
本発明のポリエステルの中和物は、カルボキシル基を有するポリエステルの中和物である。本発明で使用するカルボキシル基を有するポリエステルは、フラン骨格を有する多価カルボン酸及びまたはその誘導体からなる群より選択される少なくとも一種と多価アルコールとを反応することによって得ることができる。この時、多価カルボン酸及びまたはその誘導体と多価アルコールとの反応は重縮合反応である。
本発明においては、多価カルボン酸及びまたはその誘導体が、フラン骨格を有する多価カルボン酸及びまたはその誘導体を含有することを特徴とする。
【0015】
(フラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体)
本発明に用いられる、フラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体とはフラン骨格を有する。フラン骨格とは下記構造(1)に示す5員環構造である。なお、以下の構造式において<2>~<5>は置換位置を示す。
【0016】
【0017】
上記のようなフラン構造を有する化合物としては、具体的にはフラン及びフラン置換体(即ち、フランの水素原子の1~4個が任意の置換基で置換されたもの)が挙げられる。フラン置換体に導入される置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~18の芳香族基、ハロゲン、炭素数1~10のアルコキシ基等が挙げられる。本発明で用いるフラン構造を有する成分としては、好ましくは炭素数1~4のアルキル基で置換されたフラン置換体又は無置換のフラン、特に好ましくはフランが挙げられる。フラン構造は、その2位と3位、2位と4位、2位と5位、或いは3位と4位で共有結合してポリマー主鎖を構成するが、中でも2位と5位で共有結合された構造が耐熱性の点で好ましい。
【0018】
本発明のフラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体としては、フラン構造が化合物の構造中に含まれている成分であればよく、特に制限はないが、例えばフランジカルボン酸、ジヒドロキシフランカルボン酸、及びこれらの誘導体が挙げられる。好ましくはフランジカルボン酸である。各化合物は具体的には、2,5-フランジカルボン酸、2-ヒドロキシフラン-5-カルボン酸及びこれらの誘導体が挙げられる。また、誘導体としては炭素数1~4のアルキルエステルが挙げられ、中でもメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステルなどが好ましく、更に好ましくはメチルエステルである。これらのフラン骨格を含むカルボン酸及び/又はその誘導体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0019】
本発明の多価カルボン酸成分全量中において、フラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体の含有率は、好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上である。これ以下の含有率の場合には、フラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体によりもたらされる、高ガスバリアと、非石油成分由来による環境負荷、の低減の利点が少なくなる問題がある。好ましい含有量は、20~100モル%であり、さらに好ましい含有量は30~100モル%である。
この時の多価カルボン酸成分全量中のフラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体の含有率は下記の式1によって表される
【0020】
多価カルボン酸成分全量中のフラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体の含有率(モル%)=フラン骨格を含む多価リカルボン酸及び/又はその誘導体(モル数)/カルボン酸成分全量(モル数)×100
・・・式1
【0021】
(その他の多価カルボン酸)
本発明における、多価カルボン酸成分について、フラン骨格を含む多価カルボン酸及び/又はその誘導体以外の成分については特に制限はなく用いることができる。特にガスバリアが良好、もしくは非石油成分由来のポリカルボン酸成分を用いると、本発明の利点を高めることができるため好ましい。ガスバリアが良好な多価カルボン酸成分としては、特にベンゼン環が分子間相互作用することで、ポリマー自由体積孔が減少することより芳香族ポリカルボン酸が好ましく、例としては、オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸及びこれらジカルボン酸の無水物或いはエステル形成性誘導体;p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸及びこれらのジヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体等の多塩基酸を単独で或いは二種以上の混合物で使用することができる。また、これらの酸無水物も使用することができる。更に、非石油成分由来の多価カルボン酸としては、セバシン酸、コハク酸等が例示される。セバシン酸は、トウゴマの種子より抽出されるひまし油から得られるリシノール酸をアルカリ熱分解することにより生成される。コハク酸は植物資源からグリコールを製造し発酵することで得られる。コハク酸は酸素原子間の炭素原子数が少ない短鎖アルキルであるため、分子鎖が過剰に柔軟にならずに、酸素透過しにくいと推定されるためである。ガス透過経路であるアルキル鎖が短いためガスバリアも良好であるため好ましい。
【0022】
(多価アルコール)
本発明の多価アルコールは、水酸基(アルコール性水酸基又はフェノール性水酸基)を二つ以上有する化合物であれば特に限定は無く、公知慣用の材料を用いてよい。多価アルコールとしては、脂肪族ジオール、芳香族多価フェノール等、及び、これらの、エチレンオキサイド伸長物、水添化脂環族等を例示することができる。多価アルコールは一種を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0023】
脂肪族ジオール(アルキレングリコール)としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0024】
芳香族多価フェノールとしては、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ナフタレンジオール、ビフェノール、ビスフェノールA、ヒスフェノールF、テトラメチルビフェノール等が挙げられる。
【0025】
特に、非石油由来の多価アルコールを使用すると本発明の目的の一つである非石油由来の成分の含有率を高くできるため好ましい。また、分子量100以下の短鎖の多価アルコール成分を用いるとガスを透過しにくいポリエステルを合成できるため好ましい。こうした、化合物として例えば、短鎖のエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセロールが例示できる。一例を挙げるとエチレングリコールは常法によって得られるバイオエタノールからエチレンを経て製造される。1,3-プロパンジオールは植物資源(例えば、トウモロコシ)を分解してグルコースが得られる発酵法により、グリセロールから3-ヒドロキシプロピルアルデヒド(HPA)を経て、製造される。1,4-ブタンジオールは、植物資源からグリコールを製造し発酵することで得られたコハク酸を得、これを水添することによって製造できる。グリセロールは、前記の1,3-プロパンジオールを植物資源から得る中間体として得られる。これらを用いることでポリエステル中の非石油原料比率を高められることに加えガスバリアも良好とできるため特に好ましい。
【0026】
(ポリエステルの合成)
本発明のポリエステルの合成は、多価カルボン酸と多価アルコールとを公知慣用の方法で反応させればよい。具体的には多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合反応である。一例を挙げると、前記酸成分を含む全酸成分と前記多価アルコール成分とを一括して仕込んだ後、攪拌混合しながら昇温し、脱水重縮合反応させる手法が好ましい。その際の脱水重縮合はJIS-K0070に記載の酸価測定法や、同じくJIS-K0070に記載の水酸基価測定方法にて得られる水酸基価、や粘度測定により所望の酸価、水酸基価、分子量のポリエステルを得ることができる。
【0027】
反応に用いられる触媒としては、モノブチル酸化錫、ジブチル酸化錫等錫系触媒、テトラ-イソプロピル-チタネート、テトラ-ブチル-チタネート等のチタン系触媒、テトラ-ブチル-ジルコネート等のジルコニア系触媒等の酸触媒が挙げられる。前記触媒のうち数種類を組み合わせて用いることもできる。前記触媒量は、使用する反応原料全質量に対して1~1000ppm用いられ、より好ましくは10~100ppmである。1ppm以上であれば触媒としての効果が期待でき、1000ppm以下であれば安定してウレタン化反応が進行するからである。
【0028】
(ポリエステルの特性)
本発明のポリエステルの分子量には特に限定はないが、数平均分子量が450~5000であるとガスバリア機能と耐ブロッキング特性に優れる樹脂組成物が得られるため特に好ましい。より好ましくは数平均分子量が1000~3000である。
本発明で使用するポリエステルは、ガラス転移温度が-30℃~80℃の範囲が好ましい。より好ましくは0℃~60℃である。更に好ましくは25℃~60℃である。ガラス転移温度が80℃以下であれば、室温付近でのポリエステルの柔軟性が高くなることにより、基材への密着性が優れ接着力が高くなる。一方-30℃以上である場合、常温付近でのポリエステルの分子運動が抑えられることにより十分なガスバリア性が発揮できる。
【0029】
(ポリエステル末端)
本発明のポリエステルにおいては、多価カルボン酸と多価アルコールの配合比率を変更すること等によってポリエステルの酸価及び水酸基価を所望の範囲に調整することができる。本発明のポリエステルはカルボキシル基を有することから、酸価が存在するように調整する。
【0030】
中和前のポリエステルの酸価としては、ポリエステル末端の酸を起点にして中和物を得る観点より一定以上の酸価を持つ必要がある。酸価としては好ましくは10~200mgKOH/gである。10mgKOH/g以上であれば中和後に水に分散しやすくなり、200mgKOH/g以下であれば中和剤が塗膜中に残存しにくくなり耐水性が向上するからである。中和前のポリエステルの酸価は、水に分散しやすくなる観点から、好ましくは40mgKOH/g以上である。
【0031】
中和前のポリエステルの水酸基価は特に限定はないが、中和後に水に分散しやすくなる観点及びバリア性能がより向上する観点から、好ましくは10~600mgKOH/gであり、より好ましくは20~500mgKOH/gである。
【0032】
<ポリエステルの酸中和物>
本発明は、カルボキシル基を有するポリエステルの中和物(酸中和物ともいう。)であって、前記ポリエステルが、フラン骨格を有する多価カルボン酸及びまたはその誘導体を含む多価カルボン酸と、多価アルコールとの重縮合物である、ポリエステルの中和物を提供するものである。本発明のポリエステルの中和物は、ポリエステルの有する酸を塩基で中和することにより、水性媒体に対して親和性が増す。
【0033】
カルボキシル基を有するポリエステルの中和物としては、ポリエステルが有する酸を中和することで得ることができる。
中和方法としては、公知慣用の方法を用いればよい。たとえば、ポリエステルまたはその有機溶媒溶液に塩基を直接添加する方法、ポリエステルまたはその有機溶媒溶液を塩基の溶液に添加する方法にて中和することができる。
【0034】
本発明のポリエステルの中和物は、酸の中和率が80%以上~200%であることが好ましく、特に好ましくは85%~170%、最も好ましくは、90%~150%である。酸の中和率が80%~200%であると中和物の安定性が良好であり好ましい。
【0035】
ここでいう酸の中和率とは、中和前のポリエステルの実酸価を測定し、その酸価に対し、所望の中和率に必要な塩基を理論計算(モル比)で算出して添加することで算出する。たとえば、中和前のポリエステルの酸価が100mgKOH/gであったときに、塩基の当量を100mgKOH/g分反応させて得られた酸中和物の中和率を100%とする。
【0036】
また、本発明のポリエステルの酸中和物は、水酸基価が10~600mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が10~600mgKOH/gであると、水性媒体との親和性がさらに増すため、ポリエステルの酸中和物の水分散体の製造が容易になる。また、水酸基同士の水素結合により樹脂鎖間の密度を高めることで、酸素等のガスが通過する隙間を減らすことができるため、水蒸気バリア性及び酸素バリア性がより一層優れたものとなる。水酸基価としては、好ましくは150~250mgKOH/gである。また、これらの水酸基末端はイソシアネート伸長を行うことにより架橋構造、高分子量化を行うこともできる。イソシアネート伸長処理は、前記中和処理の前後のどちらでも差し支えないが、中和処理前に実施の方が中和反応からの影響を受けにくく、より好ましい。
【0037】
<ポリエステルの中和物の製造方法>
本発明のポリエステルの中和物の製造方法は、前記ポリエステルが、フラン骨格を有する多価カルボン酸及びまたはその誘導体を含む多価カルボン酸と、多価アルコールとを重縮合して、カルボキシル基を有するポリエステルを得る工程と、ポリエステルを中和する工程とを備えている。
【0038】
ポリエステルの中和物の製造方法において、ポリエステルの酸価及び水酸基価は、それぞれ上記中和前のポリエステルの酸価及び水酸基価として例示したとおりであってよい。ポリエステルの中和物の製造方法では、中和を、酸の中和率が上述の範囲内となるように行ってよい。
【0039】
ポリエステルの酸中和物の製造方法において、中和は、ポリエステルと塩基性化合物の水溶液とを反応させることにより行ってよい。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、有機アミン、アンモニア等が挙げられる。
特に、有機アミンとしてはエチルアミン、イソプロピルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、sec-ブチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、3-メトキシプロピルアミン、モルホリン、3-エトキシプロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、メチルアミノプロピルアミン、N-エチルモルホリン、N,N-ジエチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールが例示できる。これらの中和用の塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミンが乾燥時後に金属化合物成分が残存しない事より特に好ましく、有機アミンの中では得られたエマルジョンの安定性の観点より、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ジメチルアミノエタノール、モルホリン、N、N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミンが特に好ましい。具体的な中和物の製造方法としてはこれらの塩基性化合物を水を含む溶媒に溶解させた後、ポリエステル樹脂を入れて攪拌、溶解する方法や、ポリエステルの有機溶剤溶液を、塩基性化合物を溶解させた水と混合するなどの方法を例示することができるがこれらには限定されない。
【0040】
<樹脂組成物および水分散体>
本発明のポリエステルの中和物は、水性媒体との親和性が高いことから、特に水を配合した樹脂組成物が容易に製造可能である。さらには、本発明のポリエステルの中和物は水に良好に分散する。
樹脂組成物中、水とポリエステルの中和物の配合重量比としては、水/ポリエステルが30/70~99/1であることが好ましく、50/50~90/10であることが特に好ましい。
【0041】
<配合物>
本発明の樹脂組成物は、ポリエステルの中和物と水とを含有することを特徴とする。
【0042】
ポリエステルの中和物の含有量は、樹脂組成物全量基準で、1~70質量%であってよく、5~50質量%であってよい。
【0043】
樹脂組成物は、使用用途に応じて溶剤を含有してもよい。溶剤としては水と少なくとも一部は混和する有機溶剤が挙げられ、例えばメチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。溶剤の種類及び使用量は使用用途によって適宜選択すればよい。
【0044】
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、有機フィラー、無機フィラー、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、結晶核剤、酸素捕捉剤(酸素捕捉機能を有する化合物)、粘着付与剤等が例示できる。これらの各種添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用される。
【0045】
添加剤のうち、無機フィラーとしては、金属、金属酸化物、樹脂、鉱物等の無機物及びこれらの複合物が挙げられる。無機フィラーの具体例としては、シリカ、アルミナ、チタン、ジルコニア、銅、鉄、銀、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレーク、粘土鉱物等が挙げられる。
【0046】
酸素捕捉機能を有する化合物としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ビタミンC、ビタミンE、有機燐化合物、没食子酸、ピロガロール等の酸素と反応する低分子有機化合物や、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄、銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。
【0047】
粘着付与剤としては、キシレン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂等が挙げられる。粘着付与剤を添加することで塗布直後の各種フィルム材料に対する粘着性を向上させることができる。粘着性付与剤の添加量は樹脂組成物全量100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましい。
【0048】
(発明の実施形態: 積層体)
本発明の樹脂組成物は、積層体の内の一層を構成する層として用いることができる。積層体の最も有用な用途が積層フィルム及び紙である。使用する樹脂フィルムは、目的に応じて適宜選択すればよいが、例えば包装材として使用する際は、最外層をPET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP、ポリアミドから選ばれた熱可塑性樹脂フィルムを使用し、最内層を無延伸ポリプロピレン(以下CPPと略す)、低密度ポリエチレンフィルム(以下LLDPEと略す)から選ばれる熱可塑性樹脂フィルムを使用した2層からなる複合フィルム、或いは、例えばPET、ポリアミド、OPPから選ばれた最外層を形成する熱可塑性樹脂フィルムと、OPP、PET、ポリアミドから選ばれた中間層を形成する熱可塑性樹脂フィルム、CPP、LLDPEから選ばれた最内層を形成する熱可塑性樹脂フィルムを使用した3層からなる複合フィルムやこれよりもさらに多層のフィルムが例示できる。特にPETフィルムの場合には、非石油由来原料ベースのエチレングリコールをもちいたPETを原料として使用した場合には、積層フィルム全体の植物由来の含有率を高めることができ特に好ましい。また、フィルム表面には、膜切れやはじきなどの欠陥のない接着層が形成されるように必要に応じて火炎処理やコロナ放電処理などの各種表面処理を施してもよい。紙を用いることで、積層体全体の非石油由来成分の含有率を更に高めることができるため、特に好ましい。本発明で用いられる紙としては塗工紙、非塗工紙、樹脂含浸紙のいずれでも良い。非塗工紙としては各種印刷用紙、グラビア用紙、クラフト紙、ケント紙、コピー紙、更紙、新聞紙などが例示される。また、塗工紙としては微塗工紙、アート紙、上質コート紙、中質コート紙、軽量コート紙、キャストコート紙、マットコート紙などが例示できる。また、樹脂含浸紙としてはパラフィン紙などが例示される。
【0049】
本発明では樹脂組成物が液状である場合塗工(コーティング)を行うことで多層体を作製しても良い。塗工方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の樹脂組成物は特に蒸着フィルムの一部に好適に用いることができる。具体的には本発明の樹脂組成物を前記のフィルムに塗工した後に蒸着層を設けるアンカーコートとしての使用法や、フィルム上に蒸着層を設けた後に、本発明の樹脂組成物の層を設けるオーバーコートとしての使用法により積層体のバリア機能を補強する手法を例示することができる。蒸着層としては金属蒸着、金属酸化物蒸着、有機化合物蒸着を用いることができるが、特に汎用性が高い、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等の金属酸化物の蒸着膜であることが特に好ましい。本発明の樹脂組成物では溶剤組成を水のみ、もしくは水以外の溶剤が少なくすることが出来るので、塗工後に延伸工程を行う、インライン型のアンカーコートとして用いることもできる。
【0051】
(積層体の製造法)
前記熱可塑性樹脂フィルムの一方に本発明の樹脂組成物を塗工後、もう一方の熱可塑性樹脂フィルムを重ねてラミネーションにより貼り合わせることで、本発明の積層体の一形態であるガスバリア用積層フィルムを得ることも可能である。ラミネーション方法には、ドライラミネーション、押出しラミネーション等公知のラミネーションを用いることが可能である。ドライラミネーション方法は、具体的には、基材フィルムの一方に本発明の接着剤をグラビアロール方式で塗工後、もう一方の基材フィルムを重ねてドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせる。ラミネートロールの温度は室温~60℃程度が好ましい。
【0052】
実施形態の成形体は、上述した樹脂組成物を成形して得ることができる。成形方法は任意であり、用途によって適時選択すればよい。成形体は、樹脂組成物からなっていてよく、樹脂組成物の硬化物からなっていてもよい。成形体の形状に制限はなく、板状、シート状、又はフィルム状であってもよく、立体形状を有していてもよく、基材に塗布されたものであってもよく、基材と基材の間に存在する形で成形されたものであってもよい。
【0053】
樹脂組成物が液状であるためにより成形してもよい。塗工方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられる。
【0054】
実施形態の一つである積層体は、上述した成形体を基材上に備えるものである。積層体は2層構造であってもよく、3層構造以上であってもよい。
【0055】
基材の材質は特に限定はなく、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば木材、金属、プラスチック、紙、シリコン又は変性シリコン等が挙げられ、異なる素材を接合して得られた基材であってもよい。基材の形状は特に制限はなく、平板、シート状、又は3次元形状全面に、若しくは一部に、曲率を有するもの等目的に応じた任意の形状であってよい。また、基材の硬度、厚さ等にも制限はない。
【0056】
積層体は、基材上に上述した成形体を積層することで得ることができる。基材上に積層する成形体は、基材に対し直接塗工又は直接成形により形成してもよく、樹脂組成物の成形体を積層してもよい。直接塗工する場合、塗工方法としては特に限定はなく、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法等が挙げられる。直接成形する場合は、インモールド成形、インサート成形、真空成形、押出ラミネート成形、プレス成形等が挙げられる。
【0057】
上述した樹脂組成物は酸素バリア性に優れるため、ガスバリア材として好適に用いることができる。ガスバリア材は本発明の樹脂組成物を含むものであればよい。
【0058】
また、上述した樹脂組成物は、コーティング材として好適に用いることができる。コーティング材は、本発明の樹脂組成物を含むものであればよい。バリアコーティング材料としての諸特性を満たせば、コーティング材の形態は限定されない。特に本発明の樹脂組成物は、水が良好に配合され、水分散体としても安定して保存できることから、水性型のコーティングとして特に適している。
【0059】
(透過を遮断できるガス成分種類)
本発明の樹脂組成物や本樹脂組成物を含む積層体が遮断できるガスとしては、酸素の他、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガス、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール成分、フェノール、クレゾール等のフェノール類の他、低分子化合物からなる香気成分類、例えば、醤油、ソース、味噌、レモネン、メントール、サリチル酸メチル、コーヒー、ココアシャンプー、リンス、等を例示することができる。
【0060】
(樹脂組成物、本樹脂組成物を含む積層体の形状)
本発明の樹脂組成物や本樹脂組成物は前述の多層フィルム的な積層体に加えて他の形状としても用いることができる。ガスバリア性容器とすると当該容器は、コーヒー類、ココア類、味噌、ヨーグルト、料理済み米飯、焼肉用のタレ類、ドレッシング類、チーズ容器、ピザ等のソース類、等の容器等として用いることができる。更に、本発明の樹脂組成物や本樹脂組成物は、ラミネートチューブ用の一部として用いることができる。当該チューブは、練りカラシ、練りワサビ、コンデンスミルク、生クリーム、豆板醤、ケチャップ、マヨネーズ、マスタード、バター、歯磨き粉、毛染め、ハンドクリーム、洗剤、ヘアクリーム用のチューブとして用いることができる。このほかに、ボトル、積層版としての形状も可能である。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を、実施例及び比較例により具体的に説明をする。例中断りのない限り、「部」「%」は質量基準である。
【0062】
(製造例1:実施例1用)フランジカルボン酸とグリセリンからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管等を備えたポリエステル反応容器に、2,5-フランジカルボン酸の100部、グリセリンの59部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程と同様の反応容器で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の14部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が70mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量2000、水酸基価240mgKOH/gのポリエステルを得た。
(中和工程)
イオン交換水79.1部に28質量%のアンモニア水1.37質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを19.7質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率85%で、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物1を得た。
【0063】
(製造例2:実施例2用)フランジカルボン酸と無水オルトフタル酸とグリセリンとエチレングリコールからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
製造例1と同様な反応容器に、2,5-フランジカルボン酸の90部、無水オルトフタル酸の10部、グリセリンの18部、エチレングリコールの28部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程と同様の反応容器で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の4部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が50mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量1300、水酸基価110mgKOH/gのポリエステルを得た。
(第3(中和工程))
イオン交換水80.0部にアミノエタノールアミン1.03質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを18.9質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率100%で、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物2を得た。
【0064】
(製造例3:実施例3用)フランジカルボン酸と無水オルトフタル酸とグリセリンとエチレングリコールからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
製造例1と同様な反応容器に、2,5-フランジカルボン酸の60部、無水オルトフタル酸の38部、グリセリンの35部、エチレングリコールの16部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程で用いたポリエステル反応容器と同様の装置で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の8部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が60mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量1500、水酸基価170mgKOH/gのポリエステルを得た
(第3(中和)工程)
イオン交換水80.0部にN,N-ジメチルエタノールアミン1.74質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを18.2質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率120%で、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物3を得た。
【0065】
(製造例4:実施例4用)フランジカルボン酸と無水オルトフタル酸とグリセリンとエチレングリコールからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
製造例1と同様な反応容器に、2,5-フランジカルボン酸の33部、無水オルトフタル酸の60部、グリセリンの55部、エチレングリコールの4部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程で用いたポリエステル反応容器と同様の装置で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の2部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が45mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量1200、水酸基価310mgKOH/gのポリエステルを得た。
(第3(中和)工程)
イオン交換水78.9部に28質量%のアンモニア水1.44質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを19.7質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率150%、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物4を得た。
【0066】
(製造例5:実施例5用)フランジカルボン酸と無水オルトフタル酸とグリセリンとエチレングリコールからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
製造例1と同様な反応容器に、2,5-フランジカルボン酸の33部、無水オルトフタル酸の67部、グリセリンの40部、エチレングリコールの18部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程で用いたポリエステル反応容器と同様の装置で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の44部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が120mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量1000、水酸基価100mgKOH/gのポリエステルを得た。
(第3(中和)工程)
イオン交換水76.4部に28質量%のアンモニア水4.28質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを19.4質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率170%である、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物5を得た。
【0067】
(製造例6:比較例1用)無水オルトフタル酸とグリセリンからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
製造例1と同様な反応容器に、無水オルトフタル酸の100部、グリセリンの62部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程で用いたポリエステル反応容器と同様の装置で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の15部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が70mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量1700、水酸基価220mgKOH/gのポリエステルを得た。
(第3(中和)工程)
イオン交換水78.6部に28質量%のアンモニア水1.79質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを19.6質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率120%である、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物6を得た。
【0068】
(製造例7:比較例2用)アジピン酸と無水オルトフタル酸とグリセリンからなるポリエステルの中和物の製造方法
(第1工程)
製造例1と同様な反応容器に、アジピン酸の98.6部、グリセリンの62部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を190℃に保持した。酸価が40mgKOH/g以下になったところで降温し、第1工程を終了した。
(第2工程)
第1工程で用いたポリエステル反応容器と同様の装置で、内温150℃を保持した後、無水オルトフタル酸の15部を添加し、そのまま内温150℃を維持した。酸価が70mgKOH/gになったところで反応を終了し、数平均分子量1700、水酸基価220mgKOH/gのポリエステルを得た。
(第3(中和)工程)
イオン交換水78.6部に28質量%のアンモニア水1.79質量部を加えたアンモニア水溶液に、前記第2工程で得たポリエステルを19.6質量部加えて1時間撹拌保持し、ポリエステルポリオールの中和を行い、中和率120%である、乳白色半透明である、ポリエステルの酸中和物6を得た。
製造例1~7で得られた実施例、比較例用のポリエステルの原料モノマー組成、樹脂の数平均分子量、原料モノマー中のフラン骨格を含むポリカルボン酸の多価カルボン酸全成分に対する含有率(フラン骨格を含むカルボン酸の含有率(モル%)と称する)を表1に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
<実施例・比較例>
以下、実施例・比較例について述べる。組成および評価については、表2に示す。
【0072】
(実施例1~5:フラン骨格を含むポリカルボン酸を含有するポリエステルの中和物(樹脂組成物)層を持つ積層体の製造方法。)
実施例1~5では、製造例1~5で合成したポリエステルの中和物を用い、コロナ処理された12μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(商品名:E-5100、東洋紡株式会社製)のコロナ処理面に、バーコーターを用いて、ポリエステル中和物1~5を乾燥後の塗工厚さが2μmになるように塗工した。塗工後のPETフィルムを、塗工後直ぐに120℃の乾燥機中で1分加熱乾燥した。これにより、透明な積層体1~5を得た。
【0073】
(比較例1~2:フラン骨格を含むカルボン酸を含有しないポリエステルの中和物(樹脂組成物)層を持つ積層体の製造方法。)
比較例1、2では、製造例6,7で合成したポリエステルの中和物を用い、実施例1~5と同様な方法とフィルムを用い、透明な比較積層体1および2を得た
【0074】
(酸素透過率評価方法)
得られた積層体を、モコン社製酸素透過率測定装置OX-TRAN2/21MHを用いてJIS-K7126(等圧法)に準じ、23℃、相対湿度(RH)0%での酸素透過率を測定した。尚、積層体の基材フィルムとして用いたPETフィルム12μmの酸素透過率は150cc/m2・日・atmとなる。
【0075】
(耐ブロッキングテスト)
ポリエステル樹脂中和物が塗工されたガスバリア性フィルムを6cm×18cmの大きさに切出し、塗工面を内側にして三つ折りした後、40℃雰囲気下荷重2kg/cm2をかけ、24時間後に剥がす操作を行い、コート面とフィルム裏面が剥離するか否かで評価した。
◎:剥離音の発生、剥離帯電、フィルムの汚れいずれもなし
○:剥離音の発生がなく、剥離帯電がややあり、フィルムの汚れなし
△:剥離音の発生、剥離帯電、フィルムの汚れのいずれか二つ以上がややあり
×:剥離音の発生、剥離帯電、フィルムの汚れのいずれか一つ以上が激しくあり
【0076】
【0077】
以上、表2の実施例1~5に示された積層体では、表の比較例1に示されたフラン骨格を含むカルボン酸を含まずに、フタル酸骨格のみを含有する樹脂組成物層を有する積層体に比べ、低い酸素透過率を示し、酸素バリア機能を向上させるとして優れた特性を示した。また、耐ブロッキング特性でも優れる結果を示した。更に、比較例2に示したアジピン酸を主体とする樹脂組成物層を有する積層体に比べると、酸素バリア機能、耐ブロッキング性とも極めて優れる結果を示した。
【0078】
本発明のポリエステルの中和物、および該中和物を含有する樹脂組成物は、非石油原料由来で得ることができるフラン骨格を含むポリカルボン酸を用いつつ、高いガスバリア特性と、耐ブロッキング特性を両立した材料である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のポリエステルの中和物、および該中和物を含有する樹脂組成物は酸素含むガスバリア性を有するので、各種の包装材料に加えて、各種の電子材料、工業材料用の接着剤組成物として好適に用いることができる。