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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】測距装置および測距方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/484 20060101AFI20231121BHJP
   G01S 7/4863 20200101ALI20231121BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20231121BHJP
   G01S 17/89 20200101ALN20231121BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S7/4863
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
G01S17/89
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019162233
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2020160044
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019053171
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】新浪 紀克
(72)【発明者】
【氏名】竹中 博一
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-173298(JP,A)
【文献】特開2017-090144(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0041522(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0059221(US,A1)
【文献】特開2008-241435(JP,A)
【文献】特開2003-130954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光領域を有する光源を含み、測距領域に対して光を投光する投光系と、
複数の受光領域を有する受光部を含み、前記光源から出射された出射光が前記測距領域に存在する測距対象により反射された反射光を受光し検出信号を出力する受光系と、
記複数の受光領域に対応する前記光源の各発光領域の発光量を、発光領域毎に制御する領域別光量制御部と、
前記受光領域毎に受光量を計測する領域光量計測部と、
を備え、
記領域別光量制御部は、前記投光系に第1の投光を行わせ、
前記受光系は、前記第1の投光による第1の検出信号を出力し、
前記領域別光量制御部は、前記領域光量計測部で前記第1の検出信号に基づき計測された前記受光領域毎の受光量に基づき第2の投光における前記各発光領域の発光量を制御して前記投光系に第2の投光を行わせ
前記受光系は、前記第2の投光による第2の検出信号を出力することを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記第1の投光で計測された前記受光領域毎の受光量に基づき、前記受光量が大きい領域ほど前記第2の投光の発光量が小さくなるように、前記光源の各発光領域の発光量を制御する請求項1記載の測距装置。
【請求項3】
前記第1の投光における前記受光領域毎の出力値から前記受光領域毎の統計値を算出し、前記統計値に基づき、前記第2の投光における前記光源の各発光領域の発光量を制御する請求項1記載の測距装置。
【請求項4】
前記第1の投光で前記光源から出射される光の前記測距領域における照度分布は均一である請求項記載の測距装置。
【請求項5】
前記複数の受光領域は、撮像素子の受光面であって前記複数の発光領域と同じ数で同じ配置になるように分割されている請求項記載の測距装置。
【請求項6】
複数の発光領域を2次元に配置してなる光源と、
前記光源から出射された出射光を測距領域へ導く光学素子と、
前記出射光が前記測距領域に存在する測距対象により反射された反射光を受光する受光部と、
を備えた測距装置であって、
前記受光部は複数の受光領域に分けられており、
前記複数の受光領域に対応する前記光源の各発光領域の発光量を、発光領域毎に制御する領域別光量制御部と、
前記受光領域毎に受光量を計測する領域光量計測部と、
前記光源の発光から前記受光部による受光までの時間を前記受光領域ごとに計測することで前記受光領域ごとに前記測距対象までの距離を計測する測距部と、
を有し、
前記領域別光量制御部は、前記光源の各発光点を同じ光量で同時発光させて予備発光を行い、前記予備発光によって前記領域光量計測部で計測された受光領域毎の受光量に基づき本発光の発光量を制御し、
前記測距部は、前記本発光によって前記受光領域ごとに前記測距対象までの距離を計測することを特徴とする測距装置。
【請求項7】
前記領域別光量制御部は、前記予備発光で計測された前記受光領域ごとの受光量に基づき、前記受光量が大きい領域ほど前記本発光の発光量が小さくなるように、前記光源の各発光領域の発光量を制御する請求項6記載の測距装置。
【請求項8】
前記受光部の受光領域毎の受光感度を制御する制御部を有し、
前記測距部は、前記領域光量計測部で計測した受光量が不足する受光領域の受光感度を前記制御部により上げて、測距を行う請求項6記載の測距装置
【請求項9】
前記受光部の受光領域毎の受光感度を制御する制御部を有し、
前記測距部は、前記領域光量計測部で計測した受光量が飽和する受光領域の受光感度を前記制御部により下げて測距を行う請求項6記載の測距装置。
【請求項10】
前記光源は、垂直共振器面発光レーザーである請求項6乃至9のいずれかに記載の測距装置。
【請求項11】
前記光学素子は、広角レンズである請求項6乃至10のいずれかに記載の測距装置。
【請求項12】
複数の発光領域を2次元に配置してなる光源と、
前記光源から出射された出射光を測距領域へ導く光学素子と、
前記出射光が前記測距領域に存在する測距対象により反射された反射光を受光する受光部と、
を備えた測距装置を用いた測距方法であって、
前記受光部は複数の受光領域に分けられており、
前記複数の受光領域に対応する前記光源の各発光領域の発光量を各発光領域毎に制御する領域別光量制御工程と、
前記受光領域毎に受光量を計測する領域光量計測工程と、
前記光源の発光から前記受光部による受光までの時間を前記受光領域毎に計測することで前記受光領域毎に前記測距対象までの距離を計測する測距工程と、
を有し、
前記領域別光量制御工程は、前記光源の各発光点を同じ光量で同時発光させて予備発光を行い、前記予備発光によって領域光量計測工程で計測された領域毎の受光量に基づき本発光の発光量を制御し、
前記測距工程は、前記本発光によって前記受光領域ごとに前記測距対象までの距離を計測することを特徴とする測距方法。
【請求項13】
前記受光部の受光領域毎の受光感度を制御する制御部を有し、
前記測距工程は、前記領域光量計測工程で計測した受光量が不足する受光領域の受光感度を前記制御部により上げて測距を行う請求項12記載の測距方法。
【請求項14】
前記受光部の受光領域毎の受光感度を制御する制御部を有し、
前記測距工程は、前記領域光量計測工程で計測した受光量が飽和する受光領域の受光感度を前記制御部により下げて測距を行う請求項12記載の測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置および測距方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
撮像領域に向けてレーザー光を照射し、撮像領域に存在する物体からの反射光を受光して、出射から受光までの時間差から物体までの距離を算出する測距方法が知られている。かかる測距方式はTOF(タイム・オブ・フライト)方式として既に知られている。TOF方式によって測距する測距装置のことをTOFカメラあるいは測距カメラということがある。また、特許文献1では撮像装置と記載しているが、特許文献1の記載されている撮像装置はTOFカメラの一例である。
【0003】
TOF方式によって測距する測距装置(TOFカメラ)では、被写体からの反射光の受光レベル(受光量)が重要である。この受光レベルが低いとセンサ出力信号がノイズに埋もれ、受光レベルが高すぎるとセンサ出力信号が飽和して正確な測距値を得ることができない。特許文献1記載の発明は、測光部による測光エリアを設定し、測光エリアの測光量が正常値になるように照明部による照明光量を制御して、正確な測距値を得ようとするものである。
【0004】
前記特許文献1記載の撮像装置(TOFカメラ)は、測距対象領域測光量に基づいて露光制御を行う。すなわち、測光部により露光量を測光し、測光値が正常値以上であれば照明部による照明光量を下げ、測光値が正常値以下であれば照明部による照明光量を上げるようになっている。しかし、特許文献1記載の撮像装置(TOFカメラ)では、照明部によって被写体に照明された照射光が被写体により反射され撮像装置(TOFカメラ)に到達する反射光の光量について、この反射光の光量が撮像装置(TOFカメラ)から被写体までの距離に応じて変動することについて、考慮されていない。そのため、測距可能な範囲を拡張する、という観点で改善の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上述べたような従来技術の課題を解消するためになされたもので、測距可能な範囲を拡張することができる測距装置および測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る撮像装置は、
複数の発光領域を2次元に配置してなる光源と、
前記光源から出射された出射光を測距領域へ導く光学素子と、
前記出射光が前記測距領域に存在する測距対象により反射された反射光を受光する受光部と、
を備えた測距装置であって、
前記受光部は複数の受光領域に分けられており、
前記複数の受光領域に対応する前記光源の各発光領域の発光量を各発光領域毎に制御する領域別光量制御部と、
前記受光領域毎に受光量を計測する領域光量計測部と、
前記光源の発光から前記受光部による受光までの時間を前記受光領域ごとに計測することで前記受光領域ごとに前記測距対象までの距離を計測する測距部と、
を有し、
前記領域別光量制御部は、前記光源の各発光点を同じ光量で同時発光させて予備発光を行い、前記予備発光によって前記領域光量計測部で計測された受光領域毎の受光量に基づき本発光の発光量を制御し、
前記測距部は、前記本発光によって前記受光領域ごとに前記測距対象までの距離を計測することを最も主要な特徴とする。
【0007】
本発明に係る撮像方法は、
複数の発光領域を2次元に配置してなる光源と、
前記光源から出射された出射光を測距領域へ導く光学素子と、
前記出射光が前記測距領域に存在する測距対象により反射された反射光を受光する受光部と、
を備えた測距装置を用いた測距方法であって、
前記受光部は複数の受光領域に分けられており、
前記複数の受光領域に対応する前記光源の各発光領域の発光量を各発光領域毎に制御する領域別光量制御工程と、
前記受光領域毎に受光量を計測する領域光量計測工程と、
前記光源の発光から前記受光部による受光までの時間を前記受光領域毎に計測することで前記受光領域毎に前記計測対象までの距離を計測する測距工程と、
を有し、
前記領域別光量制御工程は、前記光源の各発光点を同じ光量で同時発光させて予備発光を行い、前記予備発光によって領域光量計測工程で計測された領域毎の受光量に基づき本発光の発光量を制御し、
前記測距工程は、前記本発光によって前記受光領域ごとに前記測距対象までの距離を計測することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遠距離の被写体に対しても近距離の被写体に対しても測距可能な範囲を拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る測距装置および測距方法の実施例の光学系および制御系を概略的に示す模式図である。
図2】複数の発光領域を2次元アレイ状に配置してなるレーザー光源の例を示す正面図および縦と横方向の照度分布図である。
図3】レーザー光源の発光量を一定にした場合に測距可能および測距不可能範囲を示すグラフである。
図4】TOFセンサ出力に対するレーザー光源の出力制御の例を示すグラフである。
図5(a)】レーザー光源を予備発光させたときの各撮像領域におけるTOFセンサ出力の分布を示す図である。
図5(b)】レーザー光源を予備発光させたときの各撮像領域におけるTOFセンサ出力の分布に対応するレーザー光源の本発光時の発光量分布を示す図である。
図6】本発明による通常撮影時の動作を示すフローチャートである。
図7】本発明による複数回撮影時の動作を示すフローチャートである。
図8】被写体距離が近すぎる場合と遠すぎる場合の測距精度劣化および測距不能の理由を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る測距装置および測距方法の実施例を、図面を参照しながら説明する。
【実施例
【0011】
[実施例1]
図1は、本発明に係る測距装置の実施例であるTOFカメラ10を示す。図1において、TOFカメラ10は、メガヘルツ[MHz]程度に周波数変調された矩形波もしくはサイン波状のレーザー光を投光する投光系20と、投射光が物体すなわち被写体に当たって反射してきた光を受光する受光系30を備えている。
【0012】
投光系20は、光源として垂直共振器面発光レーザー(以下「VCSEL」という)21を有する。本実施例におけるVCSEL21は、複数の発光領域を2次元に配置している。VCSEL21は、その各発光領域による発光動作が発光制御部50によって制御される。投光系20はまた、VCSEL21の各発光点から発光される光を必要な画角に広げて投光するレンズ22を有する。
【0013】
TOFカメラ10は判断部40を有している。判断部40は、発光制御部50を制御することによって、VCSEL21の各発光領域による発光タイミング、発光量などを制御する。
【0014】
受光系30は、被写体に当たって反射してきた光を集光する受光レンズ31と、受光レンズ31で集められた光を受光して光電変換する受光センサ32を有する。本実施例では、受光センサ32としてTOFセンサを用いている。受光センサ32は、センサ素子による受光領域がVCSEL21の各発光領域の配置と同じ2次元に配置され、検出信号がセンサ各素子から決められた領域ごとに分割して出力される。
【0015】
以上説明したように、TOFカメラ10は、複数の発光領域を2次元に配置したレーザー光源を用い、撮像素子の撮像面を、上記複数の発光領域と同じ数で同じ配置の複数の領域にメッシュ状に分割することで撮像領域を複数の領域に分け、各領域について測距する。
【0016】
受光センサ32の検出信号は測光/制御部60に入力される。測光/制御部60は、TOFセンサからなる受光センサ32の各検出領域からのセンサ出力値を統計処理し、撮像領域毎に受光レベル(受光量)を計測する領域光量計測部として機能する。測光/制御部60はまた、受光センサ32の受光時間、受光感度、タイミング等を、VCSEL21の各発光領域からの投光制御と同期して制御する。上記領域光量計測部としての機能は、VCSEL21によるレーザー光の予備発光時も撮像領域毎に受光レベル(受光量)を計測し、この撮像領域毎の受光量に基づいて本発光時の発光量が後で説明する領域別光量制御部41によって制御される。
【0017】
判断部40は、受光センサ32の受光領域毎のセンサ出力統計値から、撮影時のVCSEL21の発光領域毎の発光量および受光センサ32の受光感度を決定する領域別光量制御部41を有する。また、判断部40は、VCSEL21によるレーザー光の発光から、受光センサ32による受光までの時間を撮像領域ごとに計測することで撮像領域ごとの測距対象までの距離を計測する測距部42を有する。
【0018】
TOFカメラ10による距離測定動作は、一般的な位相検出方式のTOFカメラ動作と同等であり、周知の技術である。例えば、特開2018-077143号公報に記載されているTOFカメラと同様の技術を用いることができる。よって、TOFカメラ10による詳細な距離測定動作の説明は省略する。
【0019】
次に、図2に示す光源として使用するVCSEL21の、2次元アレイの素子配置について説明する。図2は、VCSEL21の発光面を模式的に示した図であり、黒丸が発光領域を示しており、縦方向および横方向にそれぞれ8個、合計64個の発光領域が配列されている。また、各発光領域内に、複数のVCSEL素子が等間隔で配置されている。
【0020】
図2では、VCSEL素子の上側の縁部と左側の縁部に沿って、それぞれ横方向の照度分布曲線と縦方向の照度分布曲線が示されている。これらの照度分布曲線のうち、点線は各素子の照度分布曲線、実線は全素子を同時に発光させた場合の照度分布曲線を示す。これらの照度分布曲線からわかるように、全素子同時発光時には、ほぼ均一な面発光となる。換言すると、素子の配置間隔は、均一な面発光となるように決められている。VCSEL素子の仕様によって異なるが、1辺がおおよそ50μm程度のスケールである。
【0021】
図3は、VCSEL21の全領域を同じ光量で発光させ、被写体からの反射光を受光センサ32で受光し、受光センサ32から出力される検出信号について示したもので、被写体距離に対する受光センサ32の出力の関係を示す。図3の横軸は被写体距離、縦軸は受光センサ32の出力を0から255までのレベルで表している。当然ながら、被写体は受光センサ32の視野内にある被写体である。
【0022】
ここで、受光センサ32における受光面の横方向をX方向、縦方向をY方向、受光面と直交し受光面から離れる方向をZ方向と定義すると、受光面はXY平面となる。受光センサ32から測距する領域(測距領域)を見た場合、測距領域に存在する物体がXY平面と平行な平面でない限り、XY平面上の各分割領域に存在する物体までの距離すなわち被写体までの距離は分割領域ごとに異なる。
【0023】
そして、TOF方式による測距光の光量を均一にして撮像領域に向けて発光すると、近距離の被写体が存在する領域では反射光のレベルが高くなり、受光センサ32の出力レベルが飽和する。また、遠距離の被写体が存在する領域では反射光のレベルが低くなり、受光センサ32の出力信号がノイズに埋もれる。つまり、被写体位置が近すぎる場合と遠すぎる場合のいずれでも、測距不可能となりあるいは測距精度が劣化し、結果として、測距可能な被写体の距離範囲が制限される
【0024】
具体的に説明する。VCSEL21がアレイ状に配置された全画素につき同じ光量で発光すると、図3に示すように、遠方の被写体による反射光は減衰し受光センサ32の出力は小さくなる。図3に示す例では、被写体距離が7mを超えるとセンサ出力と被写体距離の関係が非線形となり、測距精度が劣化するため、受光センサ32の出力は無効とする。近距離被写体に対しては、反射光の減衰は少ないため、受光センサ32の出力は大きくなる。
【0025】
図8は、近距離または遠距離被写体において、受光センサ32による測距精度が劣化し、あるいは測距不能となる理由について説明している。図8(a)は、VCSEL21の発光量と時間を示している。発光波形は矩形状の波形である。
【0026】
図8(b)は、被写体距離が中間距離(1~7m)での受光センサ32の出力波形を示す。受光波形は矩形ではなく、少し遅延を持つ正弦波状の波形となり、発光と受光の位相差Δtを測定するポイントを決めるため、受光センサ32に出力判断閾値を設け、このレベルに達するまでの時間を計測し、その位相差を距離に換算する。中間距離にある被写体については精度の良い測距が可能である。
【0027】
図8(c)は、被写体距離が近距離時(1m以内)の受光センサ32の出力波形を示す。被写体が近距離にあると、受光センサ32の出力が大きく飽和するため、波形の立ち上がりが急峻となる。このため、本来想定された正弦波形に対して、受光センサ32の出力が判断閾値(この例では50%)に達する時間に誤差が生じる。この誤差成分は図2(b)中のEで示される。この誤差Eの影響は、前記位相差Δtが小さい近距離ほど大きくなるため、近距離で受光センサ32の出力が飽和する場合には測距誤差が大きくなる。そのため、受光センサ32の出力が飽和する場合は測距演算を行わない。
【0028】
図8(d)は、被写体が遠距離(7m以遠)にある場合の受光センサ32の出力を示す。被写体が遠距離になるほど、受光センサ32の受光量が低下する。このため、受光センサ32の出力が位相差計測に必要な判断閾値を超えることがなく、前記位相差Δtの計測ができなくなる。この場合も、測距演算は行わない。
【0029】
図8から明らかなように、VCSEL21の全素子による1回の同じ光量、同時発光で測距可能な被写体距離は一定の範囲に限られる。
【0030】
図4は、受光センサ32の出力に応じたVCSEL21の発光量制御について示している。図4の横軸は受光センサ32の出力で、最大レベルを255、最小レベルを0で表している。縦軸はVCSEL21の発光量で、最大3Wである。
【0031】
図4に示すように、VCSEL21の全素子を同じ光量で同時に発光したとき(1回目の発光、予備発光)の受光センサ32の出力に応じて2回目の発光すなわち本発光におけるVCSEL21の発光量を制御する。被写体までの距離が遠く、予備発光において受光センサ32の出力が微小で測距ができない場合には、本発光におけるVCSEL21の発光量を大きくする。被写体までの距離が近く、予備発光において受光センサ32の出力が飽和してしまい、測距ができない場合には、本発光におけるVCSEL21の発光量を小さくする。このような本発光における発光量の制御は、前記領域別光量制御部41が前記発光制御部50を制御することによって行われる。
【0032】
図5(a)及び図5(b)は、受光センサ32の受光領域毎の測光値に応じたVCSEL21の発光量制御について説明している。図5(a)は、受光センサ32の受光領域を8×8分割したときの予備発光における各領域の受光センサ32の出力分布例を塗りつぶしパターンを変えることで表している。具体的には、受光センサ32の出力に応じて、出力が大きい領域を濃度が薄い塗りつぶしパターンで表現し、出力が小さい領域を濃度が濃い塗りつぶしパターンで表現している。換言すると、濃度が薄い塗りつぶしパターンで表現された領域は、この領域にある被写体までの距離が近いことを示しており、濃度が濃い塗りつぶしパターンで表現された領域は、この領域にある被写体までの距離が遠いことを示している。被写体が実質的に無限遠の位置にある領域は最も濃度が濃い塗りつぶしパターンで表現しており、被写体が最至近の位置にある領域、換言すると、受光センサ32の出力が最大となる領域(受光センサ32の出力が飽和している領域)は塗りつぶしパターンを用いず、白色で示している。なお、図5(a)では、説明を簡素化するために、白色を含めた5種類の塗りつぶしパターンで表現しているが、実際の受光センサ32の出力が5段階であることを示しているものではない。
【0033】
図5(b)は、予備発光において受光センサ32の出力分布が図5(a)に示す例のようになった場合にVCSEL21に対して設定される領域毎の発光量を塗りつぶしパターンを変えることで表している。塗りつぶしパターンの濃度が薄くなるほど発光量が大きいことを表している。図5(a)に対応して、被写体が近距離にあると思われる領域では、VCSEL21の発光量が小さく、被写体が遠距離にあると思われる領域については、VCSEL21の発光量が大きくなるように、制御する。なお、図5(a)と同様に図5(b)では、説明を簡素化するために、白色を含めた5種類の塗りつぶしパターンで表現しているが、実際のVCSEL21の発光量が5段階であることを示しているものではない。
【0034】
図6は、受光センサ32を標準感度に設定した通常撮影の処理フローを示す。STEP1では撮影前の予備発光を行う。このときVCSEL21の発光量は全画素共通とし、全領域均一の発光量となるように設定する。
【0035】
STEP2では、予備発光の反射光を受光センサ32で受光し検知する。受光センサ32の受光領域は前述の通り分割されていて、それぞれの領域におけるセンサ出力値から各領域の統計値を算出する。
【0036】
STEP3では、STEP2で算出された各受光領域の統計値から、本撮影時のVCSEL21の各領域における発光量を設定する。VCSEL21の発光量については、図5(a)及び図5(b)において説明した通りである。
【0037】
STEP4では、STEP3で設定されたVCSEL21の発光量で発光させ本発光を行う。STEP5では、発光タイミングに合わせて受光センサ32のデータを取得する。
【0038】
STEP6では、STEP5で取得された受光センサ32のデータから、測距処理を実行し、画角内の被写体の距離情報を算出する。以上のとおり、VCSEL21の発光領域ごとに適正な発光量を設定することで、測距可能な被写体距離のレンジを拡大することが可能になる。
【0039】
[実施例2]
図7は、受光センサ32の感度を設定し直す場合であって、高感度による撮影の処理フローの例を示す。図7におけるSTEP1~5は、図6の処理フローにおけるSTEP1~5と同様であり、撮影データ取得まで実行する。STEP6で、本発光時の反射光を受光センサ32で検知し、受光領域毎のセンサ出力の統計値を算出し、センサ出力が小さく測距できない領域すなわち要感度アップ領域を検知する。
【0040】
STEP7では、STEP6で検知された要感度アップ領域のみについて受光センサ32の受光感度を上げる。STEP8では、VCSEL21の発光領域ごとに発光量を設定し、この設定に従いSTEP9でVCSEL21の各発光領域を発光させる。
【0041】
STEP10では、受光センサ32で受光領域ごとに測光する。STEP11では、STEP10における測光の結果、要感度アップ領域があるか否かを確認し、要感度アップ領域が残っている場合はSTEP7に戻りその領域の感度を高めて再測光する。要感度アップ領域が無い場合はSTEP12に進んで撮影処理を行い、受光センサ32による検出データを格納する。STEP11では、要感度アップ領域が残っていればSTEP7からのフローを繰り返し、撮影回数がN回を上限とし、STEP12の撮影処理を行う。
【0042】
STEP13では、STEP12で取得された受光センサ32のデータから、測距処理を実行し、画角内の被写体の距離情報を算出する。
【0043】
以上のように処理することで、VCSEL21の発光領域ごとの適正な発光量、受光センサ32の受光領域ごとの適正な感度となり、測距可能な被写体距離のレンジを図6にしめすレンジよりも更に拡大することが可能になる。
【0044】
以上説明した実施例では、複数の発光領域を2次元に配置してなるレーザー光源として、複数の発光領域を2次元に配置したVCSELを用いて説明した。しかし、複数の発光領域を2次元に配置してなる光源であれば、VCSELに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
20 投光系
22 光学素子
30 受光系
32 受光センサ
41 領域別光量制御部
42 測距部
50 発光制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【文献】特願2012-198337号公報
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7
図8