(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物、多層構造体および包装体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231121BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20231121BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20231121BHJP
B65D 30/02 20060101ALI20231121BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20231121BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08L29/04 S
B32B27/18 Z
B32B27/28 102
B65D30/02
C08K3/32
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2019233657
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018243827
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】小室 綾平
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/083000(WO,A1)
【文献】特開2005-178324(JP,A)
【文献】特開昭64-066262(JP,A)
【文献】特開2014-177644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
B32B 27/18
B32B 27/28
B65D 30/02
C08K 3/32
C08K 5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有する樹脂組成物であって、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であり、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の各種含有量が、重量基準で下記式(1)、(2)を満たすことを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
[式]0.001≦((D)金属イオン換算含有量/(B)酢酸イオン換算含有量)≦1.30・・・(1)
[式]0.11≦((D)金属イオン換算含有量/(C)カルボン酸イオン換算含有量)≦100・・・(2)
【請求項2】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種が、亜鉛であることを特徴とする請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、1~500ppmであることを特徴とする請求項1または2に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項4】
上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、0.001~450ppmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項5】
上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、10~2000ppmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項6】
上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量に対する上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量比(酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算含有量/脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算含有量)が、重量基準で0.0001~10000であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項7】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物の210℃、100
S
-1
での伸長粘度が、下記式(3)を満たすことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
[式]500≦伸長粘度[Pa・s]≦48000・・・(3)
【請求項8】
さらに、リン酸および/またはその塩(E)を含有する上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物であって、上記リン酸および/またはその塩(E)の含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)、上記リン酸および/またはその塩(E)の含有量の総和に対して、リン換算で900ppm以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物からなる樹脂組成物層(α)の少なくとも一方の面に、接着性樹脂層(β)を介して、請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂層(δ)が積層されることを特徴とする多層構造体。
【請求項10】
上記樹脂組成物層(α)、上記接着性樹脂層(β)、上記熱可塑性樹脂層(δ)の厚みが、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、(α)/(β)=10/90~99/1、(α)/(δ)=1/99~50/50を満たすことを特徴とする請求項9記載の多層構造体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる樹脂組成物層(α)の少なくとも一方の面に、ポリアミド層(γ)が積層されることを特徴とする多層構造体。
【請求項12】
上記樹脂組成物層(α)、上記ポリアミド層(γ)の厚みが、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、(α)/(γ)=10/90~99/1を満たすことを特徴とする請求項11記載の多層構造体。
【請求項13】
上記請求項9~12のいずれか一項に記載の多層構造体からなることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称する場合がある。)樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れるEVOH樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOHは、分子鎖に豊富に含まれる水酸基が強固に水素結合して結晶部を形成し、かかる結晶部が外部からの酸素の侵入を防止するため、酸素バリア性をはじめとして、優れたガスバリア性を示すものである。このEVOHは、一般的に樹脂を積層した積層体の中間層に用いられ、各種包装体として使用されている。
【0003】
上述のようにEVOHは、ガスバリア性に優れる反面、分子鎖に水酸基を豊富に有し結晶化度が高いため、脆い傾向にあり、衝撃等により包装体中のEVOH層が割れたりピンホールが発生したりして、破壊される場合がある。
【0004】
そのため、EVOHの耐衝撃性改善を目的として、例えば、特許文献1および2には、EVOHとエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる樹脂組成物層を有する積層包装体が開示されている。また、特許文献3および4には、EVOHとエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなる樹脂組成物層を有する積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-220839号公報
【文献】特開昭62-152847号公報
【文献】特開平1-279949号公報
【文献】特開平3-192140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1~4ではEVOHの一部をEVOH以外の樹脂に置き替えて配合するため、樹脂組成物中のEVOHの割合が低下し、EVOH由来のガスバリア性が低下する傾向がある。
また、近年、インターネットショッピングの普及、発展途上国の経済成長等に伴い、物品流通のボーダーレス化が急速に進み、食品や薬品等の輸送期間が長期化する傾向があり、長期輸送時や取扱中における落下や衝突に対する高い耐衝撃性と、さらに優れたガスバリア性を兼ね備えたEVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体(包装材)が求められている。
また、近年の市場ニーズの多様化に伴い、EVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体の更なる高機能化(層数・層構成の多様化)が求められており、層構成によっては、得られる多層構造体の耐衝撃性および接着強度が不充分である等の問題点も生じてきた。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、EVOH以外の樹脂を配合せずとも耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れたEVOH樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、EVOHに酢酸および/またはその塩と、酢酸以外の脂肪族カルボン酸と、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種の金属種を有する上記脂肪族カルボン酸の金属塩を併用することにより、製膜した際の耐衝撃性および接着強度に優れ、かつ色調安定性にも優れたEVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、一般的に脂肪酸金属塩は、EVOHの熱分解を促進し、EVOH樹脂組成物の耐衝撃性や色調を低下させることが知られており、EVOHの機械的特性(耐衝撃性)および色調改善を目的とした場合に、EVOHに脂肪酸金属塩を配合することは当業者であれば避けるものである。しかし、本発明者が、EVOHに、酢酸および/またはその塩、酢酸以外の脂肪族カルボン酸とその特定の金属塩を、特定の関係を満たすように併用したところ、その機械的特性(耐衝撃性)および色調が、従来の予想に反して改善されることを見出した。
【0010】
このように、本発明は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有する樹脂組成物であって、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であり、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の各種含有量が、重量基準で下記式(1)、(2)を満たすEVOH樹脂組成物、を第1の要旨とする。
[式]0.001≦((D)金属イオン換算含有量/(B)酢酸イオン換算含有量)≦1.30・・・(1)
[式]0.11≦((D)金属イオン換算含有量/(C)カルボン酸イオン換算含有量)≦100・・・(2)
【0011】
また、上記第1の要旨のEVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体を第2の要旨とし、上記第2の要旨の多層構造体からなる包装体を第3の要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、すなわちEVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有する樹脂組成物であって、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であり、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の各種含有量が、重量基準で下記式(1)、(2)を満たすものであるため、製膜した際の耐衝撃性および接着強度に優れ、かつ色調安定性にも優れている。
[式]0.001≦((D)金属イオン換算含有量/(B)酢酸イオン換算含有量)≦1.30・・・(1)
[式]0.11≦((D)金属イオン換算含有量/(C)カルボン酸イオン換算含有量)≦100・・・(2)
【0013】
また、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、1~500ppmであると、より一層、製膜した際の耐衝撃性および接着強度に優れている。
【0014】
また、上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、0.001~450ppmであると、より一層、製膜した際の耐衝撃性に優れ、色調安定性にも優れている。
【0015】
また、上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、10~2000ppmであると、より一層、製膜した際の耐衝撃性と接着強度に優れ、さらに色調安定性にも優れている。
【0016】
また、上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量に対する上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量比(酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算含有量/脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算含有量)が、重量基準で0.0001~10000であると、より一層、製膜した際の耐衝撃性に優れ、さらに色調安定性にも優れている。
【0017】
また、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物の210℃、100S-1での伸長粘度が、下記式(3)を満たすものであると、より一層、製膜した際の耐衝撃性に優れている。
[式]500≦伸長粘度[Pa・s]≦48000・・・(3)
【0018】
また、さらにリン酸および/またはその塩(E)を含有する上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物であって、リン酸および/またはその塩(E)の含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)、上記リン酸および/またはその塩(E)の含有量の総和に対して、リン換算で900ppm以下であると、より一層、製膜した際の耐衝撃性に優れ、さらに色調安定性にも優れている。
【0019】
また、上記EVOH樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は、EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層および/またはEVOH樹脂組成物層/ポリアミド層を有する多層構造体にて発生する機械的物性(耐衝撃性)低下が抑制され、かつ溶融成形時の色調安定性低下や接着強度低下が改善された優れた多層構造体である。
例えば、上記EVOH樹脂組成物からなる樹脂組成物層(α)の少なくとも一方の面に、接着性樹脂層(β)を介して、上記EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂層(δ)が積層されることを特徴とする多層構造体であると、機械的物性(耐衝撃性)低下が抑制され、かつ溶融成形時の色調安定性低下や接着強度低下が改善される。
【0020】
また、上記樹脂組成物層(α)、上記接着性樹脂層(β)、上記熱可塑性樹脂層(δ)の厚みが、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、(α)/(β)=10/90~99/1、(α)/(δ)=1/99~50/50を満たすものであると、より一層、機械的物性(耐衝撃性)低下が抑制され、かつ溶融成形時の色調安定性低下や接着強度低下が改善される。
【0021】
また、上記EVOH樹脂組成物からなる樹脂組成物層(α)の少なくとも一方の面に、ポリアミド層(γ)が積層されることを特徴とする多層構造体であると、より一層、機械的物性(耐衝撃性)低下が抑制され、かつ溶融成形時の色調安定性低下や接着強度低下が改善される。
【0022】
また、上記EVOH樹脂組成物からなる樹脂組成物層(α)、上記ポリアミド層(γ)の厚みが、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、(α)/(γ)=10/90~99/1を満たすものであると、より一層、機械的物性(耐衝撃性)低下が抑制され、かつ溶融成形時の色調安定性低下や接着強度低下が改善される。
【0023】
また、上記EVOH樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は、EVOH樹脂組成物層の位置を非対称に配置した際にも機械的物性(耐衝撃性)低下が抑制され、かつガスバリア性に優れた多層構造体である。
【0024】
さらに、本発明の包装体は、上記多層構造体からなることから、得られる包装体もまた、耐衝撃性および接着強度に優れ、かつ色調安定性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0026】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH(A)を主成分とし、酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含むものである。本発明のEVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH(A)であり、EVOH樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量は、通常60重量%以上であり、好ましくは70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、特に好ましくは90重量%以上である。以下、各構成成分について説明する。
なお、本明細書において「および/または」とは、少なくとも一方を意味し、例えば「Xおよび/またはY」の場合、Xのみ、Yのみ、XおよびYの三通りを意味するものである。
【0027】
<EVOH(A)>
本発明で用いるEVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、エチレン-ビニルアルコール系共重合体またはエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物として知られる非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行ない得る。
【0028】
すなわち、本発明で用いるEVOH(A)は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。なお、EVOHは、一般的に「エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物」とも称される。
【0029】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0030】
上記EVOH(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定される値で、通常20~60モル%、好ましくは21~55モル%、より好ましくは22~50モル%、特に好ましくは23~45モル%である。かかる含有量が少なすぎると、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0031】
上記EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定される値で、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0032】
また、上記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが高すぎると、製膜性が低下する傾向がある。また、MFRが低すぎると溶融押出が困難となる傾向がある。
【0033】
本発明に用いられるEVOH(A)には、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。上記コモノマーとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;不飽和カルボン酸またはその塩、部分アルキルエステル、完全アルキルエステル、ニトリル、アミド若しくは無水物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。
【0034】
さらに、上記EVOH(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0035】
そして、上記のような変性されたEVOH(A)のなかでも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOH(A)は、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、とりわけ、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH(A)が好ましい。
【0036】
また、本発明で使用されるEVOH(A)は、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、かかる他のEVOHとしては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの、変性量が異なるもの(例えば、側鎖に一級水酸基を含有する構造単位の含有量が異なるもの)等を挙げることができる。
【0037】
<酢酸および/またはその塩(B)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、酢酸および/またはその塩(B)を含有するものである。すなわち、本発明のEVOH樹脂組成物は、酢酸および酢酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するものである。
【0038】
上記酢酸および/またはその塩(B)としては、具体的には、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸銅、酢酸コバルト、酢酸亜鉛等を挙げることができ、これらは単独でもしくは2種類以上併せて用いることができる。なかでも、好ましくは酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、特に好ましくは酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、さらに好ましくは酢酸、酢酸ナトリウムである。殊に好ましくは、酢酸ナトリウムである。
【0039】
上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量が、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、通常10~2000ppmであり、好ましくは15~1500ppm、特に好ましくは20~1000ppm、殊に好ましくは25~650ppmである。
かかる含有量が少なすぎると、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の熱分解物によって接着強度が低下したり、本発明の効果が充分に得られない傾向があり、含有量が多すぎると、溶融成形時の色調安定性が低下しやすくなったり、本発明の効果が充分に得られない傾向がある。
【0040】
上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量は、公知の分析方法にて測定することができる。例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)やガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)等を用いて測定することができる。
【0041】
<酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)を含有するものであり、上記脂肪族カルボン酸(C)の炭素数としては、通常3~30、好ましくは4~22、より好ましくは4~20、特に好ましくは5~14である。上記脂肪族カルボン酸(C)の炭素数が上記範囲内であると、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【0042】
上記脂肪族カルボン酸(C)としては、具体的には、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸等が挙げられる。より具体的には、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、メリシン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、メバロン酸、パントイン酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸;リノール酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、イソステアリン酸、イソノナン酸、2-エチルヘキサン酸、2-ヘプチルウンデカン酸、2-オクチルドデカン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸等の飽和脂肪族トリカルボン酸等が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸(C)は、単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも熱安定性(溶融成形時の粘度増加およびフィッシュアイ発生の防止)の観点から、好ましくはカルボキシ基を1個含有する脂肪族モノカルボン酸であり、より好ましくは飽和脂肪族モノカルボン酸であり、さらにより好ましくは炭素数6~22の飽和脂肪族モノカルボン酸であり、特に好ましくは、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ベヘン酸であり、殊に好ましくは、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸である。
【0043】
上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、通常0.001~950ppmであり、好ましくは0.001~450ppmであり、より好ましくは0.01~350ppmであり、特に好ましくは0.1~250ppm、殊に好ましくは0.5~200ppmである。
かかる含有量が少なすぎると、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の熱安定性が不充分となり、結果として本発明の効果が充分に得られない傾向があり、含有量が多すぎると溶融成形時の色調安定性が低下しやすくなったり、上記脂肪族カルボン酸(C)自体が可塑剤として作用し、本発明の効果が充分に得られない傾向がある。
【0044】
上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量に対する上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量比(酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算含有量/脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算含有量)は、重量基準で通常0.0001~10000であり、好ましくは0.001~5000であり、より好ましくは0.1~1000であり、特に好ましくは1~650であり、殊に好ましくは1~600である。
かかる含有量比が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、溶融成形時の色調安定性が不充分だったり、接着強度が不充分となる傾向があり、上記範囲より大きいと、本発明の効果が充分に得られない傾向がある。
【0045】
<脂肪族カルボン酸金属塩(D)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有するものである。
【0046】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種としては、長周期型周期表における第4周期dブロックに属する元素であることが必須である。なかでも、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が好ましく、特に好ましくは、とりわけ優れた効果が得られ、かつ安価で入手しやすい亜鉛である。
【0047】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)を用いることによって優れた効果が得られる理由は明らかではないが、脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であることにより、機械的特性(耐衝撃性)低下を招く過度の熱分解を適度に抑制し、かつEVOH樹脂組成物を多層共押出成形した際に形成される、分子配向や結晶構造等の高次構造が高度に均一化されるため、結果として機械的特性(耐衝撃性)が改善されると推測される。
【0048】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種としては、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)として例示したものを用いることができるが、本発明においては、脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種と脂肪族カルボン酸(C)とが同一種であることが重要である。脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種と脂肪族カルボン酸(C)とが同一種であることにより、耐衝撃性に優れ、溶融成形した際にも、より色調安定性が高いEVOH樹脂組成物とすることができる。
なお、本発明のEVOH樹脂組成物が複数の脂肪族カルボン酸(C)あるいは複数の脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有する場合は、少なくとも1種類の脂肪族カルボン酸(C)と脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種が同一種であればよい。
【0049】
上記脂肪族カルボン酸(C)と脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種が同一種であることにより優れた効果が得られる理由は明らかではないが、特定量の上記脂肪族カルボン酸(C)と上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)とを併用することで、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の分散性が顕著に向上し、より優れた本発明の効果が得られるものと推測される。また、脂肪族カルボン酸(C)は脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種と相互作用し、金属錯体のような状態で存在すると考えられ、かかる脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種が脂肪族カルボン酸(C)と同一種であることにより、よりエネルギー的に安定な状態で存在することが可能となり、溶融成形した際にも熱安定性に優れ、結果としてEVOH樹脂組成物の機械的特性(耐衝撃性)が改善されると推測される。
【0050】
また、上記脂肪族カルボン酸(C)および上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の炭素数は、通常3~30、好ましくは4~22、より好ましくは4~20、特に好ましくは5~14であると、より顕著に機械的特性(耐衝撃性)が改善される傾向がある。かかる理由は明らかではないが、上記脂肪族カルボン酸(C)および上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の炭素数が上記範囲内にあると、上記脂肪族カルボン酸(C)および脂肪族カルボン酸金属塩(D)がEVOH樹脂組成物中により均一に分散しやすくなったため、結果としてEVOH樹脂組成物の機械的特性(耐衝撃性)がより顕著に改善されると推測される。
【0051】
また、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)単独では耐衝撃性が改善する一方で接着強度が低下する傾向がある。かかる理由は明らかではないが、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)単独では、それ自体の熱安定性が不充分であり、溶融成形時に生成した脂肪族カルボン酸金属塩(D)の熱分解物によって、接着強度が低下したものと考えられる。これに対し本発明では上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)と酢酸および/またはその塩(B)を併用することにより、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の熱分解物を酢酸および/またはその塩(B)が捕捉して分散することにより、接着強度の低下が抑制されるものと推測される。
【0052】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量の総和に対して、通常1~500ppmであり、好ましくは5~300ppmであり、より好ましくは10~250ppm、特に好ましくは10~200ppmであり、殊に好ましくは30~150ppmである。脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量が少なすぎると、本発明の効果が充分に得られない傾向があり、含有量が多すぎると、接着強度が低下したり、溶融成形時の色調安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0053】
上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量、および上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量は、公知の分析方法にて測定することができる。例えば下記のような方法単独またはそれらを組み合わせる事で求めることができる。
(i)脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量:乾燥した試料を精秤して、恒量化した白金蒸発皿に入れ、電熱器で炭化し、次いでガスバーナーで加熱し、煙が出なくなるまで焼き、さらに電気炉内に上記の白金蒸発皿を入れ、昇温して、完全に灰化させる。これを冷却後、灰化物に塩酸および純水を入れ、電熱器で加熱して溶解し、メスフラスコに流し込み、純水で容量を一定にして原子吸光分析用の試料とする。この原子吸光分析用試料中の金属量を原子吸光度法で定量分析することにより、脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量を求めることができる。
(ii)脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量:まず、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)やガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)等を用いて、EVOH樹脂組成物中の脂肪族カルボン酸(C)とその金属塩(D)のカルボン酸イオン換算での含有量の総和(Cx)を定量する。その後、前述の脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算での含有量から、脂肪族カルボン酸金属塩(D)のカルボン酸イオン換算での含有量(Cy)を算出する。そして、脂肪族カルボン酸(C)とその金属塩(D)のカルボン酸イオン換算での含有量の総和(Cx)と脂肪族カルボン酸金属塩(D)のカルボン酸イオン換算での含有量(Cy)の差((Cx)-(Cy))から、脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量を求めることができる。
【0054】
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記酢酸および/またはその塩(B)の酢酸イオン換算での含有量に対する脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算含有量比((D)/(B))は、重量基準で、下記の式(1)を満たすものである。
[式]0.001≦((D)金属イオン換算含有量/(B)酢酸イオン換算含有量)≦1.30・・・(1)
好ましくは0.005≦((D)/(B))≦1.1、より好ましくは0.005≦((D)/(B))≦1.0、さらにより好ましくは0.01≦((D)/(B))≦0.8、特に好ましくは0.04≦((D)/(B))≦0.48、殊に好ましくは0.05≦((D)/(B))≦0.45である。かかる値が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、本発明の効果が充分に得られない傾向があり、上記範囲より大きいと、溶融成形時の色調安定性が不充分だったり、接着強度が不充分となる傾向がある。
【0055】
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記脂肪族カルボン酸(C)のカルボン酸イオン換算での含有量に対する脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属イオン換算含有量比((D)/(C))は、重量基準で、下記の式(2)を満たすものである。
[式]0.11≦((D)金属イオン換算含有量/(C)カルボン酸イオン換算含有量)≦100・・・(2)
好ましくは0.13≦((D)/(C))≦90、特に好ましくは0.15≦((D)/(C))≦80、殊に好ましくは0.2≦((D)/(C))≦70である。かかる値が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、溶融成形時の色調安定性が不充分だったり、本発明の効果が充分に得られない傾向があり、上記範囲より大きいと、溶融成形時の色調安定性が不充分だったり、成形性が不充分となる傾向がある。
【0056】
上記酢酸および/またはその塩(B)、上記脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の含有量が、重量基準で式(1)および(2)を満たすことにより優れた効果が得られる理由は明らかではないが、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)とアニオン種が同一種である特定量の上記脂肪族カルボン酸(C)は、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の分散性および熱安定性を高める効果がある一方で、上記脂肪族カルボン酸(C)の含有量が多すぎると上記脂肪族カルボン酸(C)自体が可塑剤として作用したため、本発明の効果(耐衝撃性改善効果)が充分に得られないものと推察される。また、特定量の酢酸および/またはその塩(B)は、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の熱分解物を捕捉し、接着強度低下を抑制する効果がある一方で、酢酸および/またはその塩(B)の含有量が多すぎるとEVOH(A)の熱安定性を著しく低下させ、色調安定性が低下しやすくなったり、本発明の効果(耐衝撃性改善効果)が充分に得られないものと推測される。
【0057】
また、本発明のEVOH樹脂組成物は、耐衝撃性の観点から、210℃、100S-1での伸長粘度が、下記式(3)を満たすものであることが好ましい。
[式]500≦伸長粘度[Pa・s]≦48000・・・(3)
より好ましくは700≦伸長粘度[Pa・s]≦30000、特に好ましくは800≦伸長粘度[Pa・s]≦20000、殊に好ましくは850≦伸長粘度[Pa・s]≦20000である。かかる値が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、本発明の効果が充分に得られない傾向があり、上記範囲より大きいと溶融成形時の成形性が不充分となる傾向がある。
【0058】
本発明のEVOH樹脂組成物の210℃、100S-1での伸長粘度が、式(3)を満たすことにより優れた効果が得られる理由は明らかではないが、本発明のEVOH樹脂組成物の210℃、100S-1での伸長粘度が式(3)を満たすことにより、EVOH樹脂組成物中に適度に形成されたEVOH分子鎖同士の絡み合い構造が、EVOH樹脂組成物を多層共押出成形した際に、EVOH樹脂組成物の分子配向や結晶構造等の高次構造の形成をより顕著に促進させるため、結果として機械的特性(耐衝撃性)が著しく改善されると推測される。
【0059】
<EVOH樹脂組成物の伸長粘度(Pa・s)評価方法>
本発明のEVOH樹脂組成物の210℃、100S-1での伸長粘度(Pa・s)は、キャピラリー型レオメーターを用い、Cogswellの式[Polymer Engineering Science、12巻、64-73頁(1972)]に基づいて、下記の条件で測定を行なうことにより求めることができる。
【0060】
すなわち、伸長粘度(ηe)および伸長歪み速度(dε/dt)は、Cogswell(Polymer Engineering Science、12巻、64-73頁(1972))によって提唱されている以下の式(4)~(6)を用いて算出することができる。
ηe=[9(n+1)2P0
2]/[32ηs(dγ/dt)2]・・・式(4)
dε/dt=4σs(dγ/dt)/[3(n+1)P0]・・・式(5)
σs=k(dγ/dt)n・・・式(6)
ここで、ηeは伸長粘度、ηsは剪断粘度、dγ/dtは剪断歪み速度、dε/dtは伸長歪み速度、σsは剪断応力、kは定数、指数nは、メルトフラクチャーやスリップスティックの発生しない剪断速度領域(100≦dγ/dt≦1000)における、剪断応力と剪断歪み速度がべき乗則に従うと仮定し、二次関数でフィッティングを行うことにより求められる。P0はキャピラリー長0のダイで生じる圧力損失であり、2つ以上の長さの異なるキャピラリーを用いた測定結果のBaglay補正により求められる。
測定装置:Gottfert社製RHEOGRAPH 20
測定温度:210℃
ロングダイ:長さ10mm、直径1mm、流入角180°
ショートダイ:長さ0.2mm、直径1mm、流入角180°
【0061】
<リン酸および/またはその塩(E)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、耐衝撃性および色調安定性の観点から、さらにリン酸および/またはその塩(E)を含有することが好ましい。すなわち、本発明のEVOH樹脂組成物は、リン酸およびリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するものであることが好ましい。
【0062】
上記リン酸および/またはその塩(E)としては、具体的には、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸水素亜鉛、リン酸水素バリウム、リン酸水素マンガン等を挙げることができ、これらは単独でもしくは2種類以上併せて用いることができる。なかでも、好ましくはリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸水素亜鉛であり、特に好ましくはリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウムであり、殊に好ましくはリン酸である。
【0063】
上記リン酸および/またはその塩(E)のリン換算での含有量は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)の含有量の総和に対して、900ppm以下が好ましく、より好ましくは0.01~700ppm、さらにより好ましくは0.1~500ppm、特に好ましくは1~300ppmである。
かかる含有量が多すぎると、多層製膜時にフィッシュアイが多発し、本発明の効果(耐衝撃性改善効果)が充分に得られない傾向がある。
【0064】
また、特定量のリン酸および/またはその塩(E)を用いることによって優れた効果が得られる理由は明らかではないが、上記酢酸および/またはその塩(B)が捕捉しきれなかった、上記脂肪族カルボン酸金属塩(D)の熱分解物や上記EVOH(A)の熱分解物を、リン酸および/またはその塩(E)が捕捉する事によって、耐衝撃性、接着強度および色調の低下を顕著に抑制するものと推測される。
【0065】
上記リン酸および/またはその塩(E)のリン換算での含有量は、公知の分析方法にて測定することができる。例えば、下記のような方法単独またはそれらを組み合わせて求めることができる。
(i)リン酸:EVOH樹脂組成物を温希硫酸抽出した後、吸光光度法(モリブ デン青)により、リン酸根を定量する。
(ii)リン酸塩:乾燥した試料を精秤して、恒量化した白金蒸発皿に入れ、電熱器で炭化し、次いでガスバーナーで加熱し、煙が出なくなるまで焼き、さらに電気炉内に上記の白金蒸発皿を入れ、昇温して、完全に灰化させる。これを冷却後、灰化物に塩酸および純水を入れ、電熱器で加熱して溶解し、メスフラスコに流し込み、純水で容量を一定にして原子吸光分析用の試料とする。この原子吸光分析用試料中の金属量を原子吸光度法で定量分析することにより、リン酸塩量を定量する。
【0066】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明のEVOH樹脂組成物には、樹脂成分として、EVOH(A)以外に、他の熱可塑性樹脂を、EVOH(A)に対して、通常30重量%以下となるような範囲内で含有してもよい。
【0067】
上記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独または共重合体、ポリ環状オレフィン、あるいはこれらのオレフィンの単独または共重合体を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド系樹脂、共重合ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。
【0068】
上記ポリオレフィン系樹脂のα-オレフィンは、バイオエタノールから誘導された植物由来α-オレフィンであっても、非植物由来、すなわち石油由来のα-オレフィンであってもよく、これらを2種併用して使用してもよい。石油由来α-オレフィンとしては多種多様なものが入手可能であるため、これらを用いて製造することにより、ポリオレフィン系樹脂の物性等を容易に調整することができる。植物由来α-オレフィンを用いることにより、最終製品のバイオマス度をより一層高めることができ、環境への負荷を低減することができる。
【0069】
植物由来エチレンおよび植物由来α-オレフィンの製造方法としては、慣用の方法にしたがって、サトウキビ、トウモロコシ、サツマイモ等の植物から得られる糖液や澱粉を、酵母等の微生物により発酵させてバイオエタノールを製造し、これを触媒存在下で加熱し、分子内脱水反応等により植物由来エチレンおよび植物由来α-オレフィン(1-ブテン、1-ヘキセン等)を得ることができる。次いで、得られた植物由来エチレンおよび植物由来α-オレフィンを用いて、石油由来ポリエチレン系樹脂の製造と同様にして、植物由来ポリエチレン系樹脂を製造することができる。
【0070】
植物由来エチレン、植物由来α-オレフィンおよび植物由来ポリエチレン系樹脂の製造方法については、例えば特表2011-506628号公報等に詳細に記載されている。本発明において好適に使用される植物由来ポリエチレン系樹脂としては、ブラスケム(Braskem S.A.)社製のグリーンPE等が挙げられる。
【0071】
特に、本発明のEVOH樹脂組成物を用いてなる多層構造体を製造し、これを食品の包装材として用いた場合、上記包装材の熱水処理後に、包装材端部にてEVOH層が溶出することを防止する目的で、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOHのOH基およびエステル基の少なくとも一方との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOH層の溶出を防止することができる。したがって、レトルト食品やボイル食品の包装材として本発明のEVOH樹脂組成物を用いる場合には、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。
【0072】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられ、なかでもポリカプラミド(ナイロン6)が好ましい。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-P-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-P-フェニレン・3-4'ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等が挙げられる。あるいは、これらの末端変性ポリアミド系樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド系樹脂である。
【0073】
<その他の添加剤>
本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、通常、EVOH樹脂組成物の10重量%以下、好ましくは5重量%以下)において、一般的にEVOH樹脂組成物に配合する添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤(例えば、飽和脂肪族アミド(例えば、ステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えば、エチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等))、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、充填材(例えば、無機フィラー等)、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤、ホウ酸および/またはその塩、桂皮酸および/またはその塩、共役ポリエン化合物、エンジオール基含有物質(例えば、没食子酸プロピル等のフェノール類等)、アルデヒド化合物(例えば、クロトンアルデヒド等の不飽和アルデヒド類等)等の公知の添加剤が含有されていてもよい。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0074】
上記ホウ酸および/またはその塩の具体例としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸の金属塩、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2 銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)等の他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物等が挙げられ、なかでもホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムが好ましい。
【0075】
上記ホウ酸および/またはその塩のホウ素換算での含有量は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、ホウ酸および/またはその塩の含有量の総和に対して、通常0.001~1000ppm、好ましくは0.001~600ppmであり、より好ましくは0.001~500ppm、さらにより好ましくは0.01~400ppm、特に好ましくは0.05~330ppm、より特に好ましくは0.1~250ppm、殊に好ましくは1~120ppmである。
【0076】
上記桂皮酸および/またはその塩の具体例としては、例えば、シス-桂皮酸、トランス-桂皮酸を挙げる事ができ、安定性および価格の観点から、好適にはトランス-桂皮酸が用いられる。また、桂皮酸塩としては、例えば、桂皮酸リチウム、桂皮酸ナトリウム、桂皮酸カリウム等の桂皮酸アルカリ金属塩、桂皮酸マグネシウム、桂皮酸カルシウム、桂皮酸バリウム等の桂皮酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これら桂皮酸および/またはその塩は、単独でもしくは2種類以上併せて用いることができる。なかでも、トランス-桂皮酸を単独で用いることが好ましい。
【0077】
上記桂皮酸および/またはその塩の桂皮酸イオン換算での含有量は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、桂皮酸および/またはその塩の含有量の総和に対して、通常1~1200ppmであり、1~1000ppmであることが好ましく、より好ましくは10~800ppm、さらに好ましくは15~500ppmである。
【0078】
上記共役ポリエン化合物とは、炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素-炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン化合物は、2個の炭素-炭素二重結合と1個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素-炭素二重結合と2個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、共役する炭素-炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるので、共役する炭素-炭素二重結合の数が7個以下であるポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素-炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物に含まれる。
【0079】
共役ポリエン化合物の具体例としては、イソプレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素-炭素二重結合を2個有する共役ジエン化合物;1,3,5-ヘキサトリエン、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素-炭素二重結合を3個有する共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素-炭素二重結合を4個以上有する共役ポリエン化合物等が挙げられる。これらの共役ポリエン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0080】
上記共役ポリエン化合物の含有量は、EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、共役ポリエン化合物の総和に対して、通常0.01~10000ppmであり、好ましくは0.1~1000ppm、特に好ましくは0.5~500ppmである。
【0081】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、例えば、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類(ただし、上記有機酸類を脂肪族カルボン酸(C)として用いる場合は、熱安定剤には含めない。)または、上記有機酸類のアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0082】
<EVOH樹脂組成物の製造方法>
本発明のEVOH樹脂組成物の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、以下の(I)~(IV)に示す方法等が挙げられる。
(I)EVOH(A)のペレットに酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種を所定割合で配合して、ドライブレンドする方法(ドライブレンド法)。
(II)EVOH(A)のペレットを酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液に浸漬させた後、ペレットを乾燥させる方法(浸漬法)。
(III)EVOH(A)の溶融混練時に酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合し、その後ペレットを作製する方法(溶融混練法)。
(IV)EVOH(A)を含有した溶液に酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加して混合後、溶液中の溶媒を除去する方法(溶液混合法)。
【0083】
これらのなかでも(I)のEVOH(A)のペレットに酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種を所定割合で配合して、ドライブレンドする方法(ドライブレンド法)が生産性、経済性の点で実用的であり工業上好ましい。なお、上記の方法は複数を組み合わせて用いてもよい。また、上記その他の添加剤を配合する場合も上記(I)~(IV)の方法に準じることにより、その他の添加剤を含有するEVOH樹脂組成物が得られる。
【0084】
上記(I)の方法におけるドライブレンドの手段としては、例えば、ロッキングミキサー、リボンブレンダー、ラインミキサー等の公知の混合装置を用いることができる。
【0085】
上記(I)の方法におけるドライブレンドにあたっては、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分の付着性を向上させるために、かかるEVOH(A)のペレットの含水率を0.1~5重量%(さらには0.5~4重量%、特には1~3重量%)に調整しておくことが好ましく、かかる含水率が小さすぎる場合は酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種が脱落しやすく付着分布が不均一となりやすい傾向がある。逆に大きすぎる場合は、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種が凝集して付着分布が不均一となる傾向がある。
【0086】
なお、ここでいうEVOH(A)のペレットの含水率については、以下の方法により測定・算出されるものである。
[含水率の測定方法]
EVOH(A)のペレットを電子天秤にて秤量(W1:単位g)後、150℃に維持された熱風オーブン型乾燥器に入れ、5時間乾燥させてから、さらにデシケーター中で30分間放冷させた後の重量を同様に秤量(W2:単位g)して、以下の式から算出する。
[式] 含水率(%)={(W1-W2)/W1}×100
【0087】
また、上記(I)、(II)の方法では、EVOH(A)のペレットの外側に酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分が付着したペレットが得られる。
【0088】
上記(III)の方法における溶融混練の手段としては、例えば、ニーダー、ルーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミル等の公知の溶融混練装置を使用して行うことができ、通常は150~300℃(さらには180~280℃)で、1分~20分間程度溶融混練することが好ましく、特に単軸または二軸の押出機を用いることが容易にペレットを得られる点で工業上有利であり、また必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。特に、水分や副生成物(熱分解低分子量物等)を除去するために、押出機に1個以上のベント孔を設けて減圧下に吸引したり、押出機中への酸素の混入を防ぐために、ホッパー内に窒素等の不活性ガスを連続的に供給したりすることにより、熱着色や熱劣化が軽減された品質の優れたEVOH樹脂組成物を得ることができる。
【0089】
また、押出機等の溶融混練装置への供給方法についても特に限定されず、1)EVOH(A)、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)をドライブレンドし、一括して押出機に供給する方法、2)EVOH(A)を押出機に供給して溶融させたところに固体状の酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)を供給する方法(ソリッドサイドフィード法)、3)EVOH(A)を押出機に供給して溶融させたところに溶融状態の酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)を供給する方法(メルトサイドフィード法)等を挙げることができるが、なかでも、1)の方法が装置の簡便さ、ブレンド物のコスト面等で実用的である。
【0090】
また、溶融混練後にペレットを作製する方法としては、公知の手法を用いることが可能であり、ストランドカット法、ホットカット法(空中カット法、アンダーウォーターカット法)等が挙げられる。工業的生産性の点で、好ましくはストランドカット法である。
【0091】
上記(IV)の方法における溶液混合法にあたって使用する溶媒は、公知のEVOHの良溶媒を用いればよく、代表的には水と炭素数1~4の脂肪族アルコールとの混合溶媒が用いられ、好ましくは水とメタノールとの混合溶媒である。溶解にあたっては任意に加熱や加圧を行うことが可能であり、濃度も任意である。EVOH(A)が溶解した溶液またはペーストに酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)を配合すればよい。このとき、酢酸および/またはその塩(B)、脂肪族カルボン酸(C)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)は固体、溶液、分散液等の状態で配合することが可能である。
配合後、均一に撹拌したEVOH樹脂組成物溶液またはペーストは、上記した公知の手法でペレット化する。工業的生産性の点で、好ましくはアンダーウォーターカット法である。得られたペレットは、公知の手法で乾燥する。
【0092】
上記ペレットの形状は、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等任意の形状が採用可能である。通常、オーバル形または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0093】
このようにして、本発明のEVOH樹脂組成物を得ることができる。
【0094】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物からなる層(以下、単に「EVOH樹脂組成物層」という。)は、他の基材と積層することで、さらに強度を上げたり、他の機能を付与することができる。
【0095】
上記他の基材としては、接着性樹脂からなる層(以下、単に「接着性樹脂層」という。)、ポリアミド系樹脂からなる層(以下、単に「ポリアミド層」という。)、EVOH以外の熱可塑性樹脂からなる層(以下、単に「熱可塑性樹脂層」という。)が好ましく用いられる。
【0096】
多層構造体の層構成は、本発明のEVOH樹脂組成物層をα(α1、α2、・・・)、接着性樹脂層をβ(β1、β2、・・・)、ポリアミド層をγ(γ1、γ2、・・・)、熱可塑性樹脂層をδ(δ1、δ2、・・・)とするとき、α/β/δ、α1/β/α2、α1/α2/α3、δ1/β/α/δ2、δ/α1/β/α2、δ1/β1/α/β2/δ2、δ1/β1/α1/α2/α3/β2/δ2、δ1/α1/β/α2/δ2、δ1/β1/α1/β2/α2/β3/δ2、γ1/α/γ2、γ/α/β、γ/α/β/δ、α1/β/α2/γ、δ1/β/α/γ/δ2、δ/α1/β/α2/γ、δ1/β1/α/γ/β2/δ2、δ1/β1/γ1/α/γ2/β2/δ2、δ1/α1/β/α2/γ/δ2、δ1/β1/α1/γ1/β2/α2/γ2/β3/δ2等任意の組み合わせが可能である。また、任意のEVOH樹脂組成物層(α)を基準にして、一方の積層方向に積層される層の構成と、他方に積層される層の構成とが互いに同一(対称)であっても、互いに異なっていてもよい(非対称)。さらに、任意のEVOH樹脂組成物層(α)を基準にして、一方の積層方向に積層される層の厚みと、他方に積層される層の厚みとが互いに同一(対称)であっても、互いに異なっていてもよい(非対称)。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を回収して再度溶融成形して得られる、本発明のEVOH樹脂組成物、接着性樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をR(R1、R2、・・・)とするとき、δ/R/β/α、α1/R/α2/α3、δ/R/α1/β/α2、δ1/R/α/β/δ2、R1/α1/β/α2/R2、R1/α1/α2/α3/R2、δ1/R1/β1/α/β2/R2/δ2、δ1/R1/β1/α1/α2/α3/β2/R2/δ2、δ1/R1/α1/β/α2/R2/δ2、δ/R/β/α/γ、δ/R/γ/α1/β/α2、δ1/R/γ/α/β/δ2、R1/γ/α1/β/α2/R2、δ1/R1/β1/γ/α/β2/R2/δ2、δ1/R1/γ1/α1/β/α2/γ2/R2/δ2等とすることも可能である。
【0097】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられ、なかでもポリカプラミド(ナイロン6)が好ましい。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-P-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-P-フェニレン・3-4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等が挙げられる。あるいは、これらの末端変性ポリアミド系樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド系樹脂である。
【0098】
上記EVOH以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0099】
これらのうち、疎水性を考慮した場合、疎水性樹脂である、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0100】
上記ポリオレフィン系樹脂のα-オレフィンは、バイオエタノールから誘導された植物由来α-オレフィンであっても、非植物由来、すなわち石油由来のα-オレフィンであってもよく、これらを2種併用して使用してもよい。石油由来α-オレフィンとしては多種多様なものが入手可能であるため、これらを用いて製造することにより、ポリオレフィン系樹脂の物性等を容易に調整することができる。植物由来α-オレフィンを用いることにより、最終製品のバイオマス度をより一層高めることができ、環境への負荷を低減することができる。
【0101】
植物由来エチレンおよび植物由来α-オレフィンの製造方法としては、慣用の方法にしたがって、サトウキビ、トウモロコシ、サツマイモ等の植物から得られる糖液や澱粉を、酵母等の微生物により発酵させてバイオエタノールを製造し、これを触媒存在下で加熱し、分子内脱水反応等により植物由来エチレンおよび植物由来α-オレフィン(1-ブテン、1-ヘキセン等)を得ることができる。次いで、得られた植物由来エチレンおよび植物由来α-オレフィンを用いて、石油由来ポリエチレン系樹脂の製造と同様にして、植物由来ポリエチレン系樹脂を製造することができる。
【0102】
植物由来エチレン、植物由来α-オレフィンおよび植物由来ポリエチレン系樹脂の製造方法については、例えば特表2011-506628号公報等に詳細に記載されている。本発明において好適に使用される植物由来ポリエチレン系樹脂としては、ブラスケム(Braskem S.A.)社製のグリーンPE等が挙げられる。
【0103】
また、上記接着性樹脂層の形成材料である接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材となる他の熱可塑性樹脂に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0104】
このときの、不飽和カルボン酸またはその無水物の含有量は、接着性樹脂全量に対して、通常0.001~3重量%であり、好ましくは0.01~1重量%、特に好ましくは0.03~0.5重量%である。変性物中の変性量が少ないと、接着性が不充分となる傾向があり、逆に多いと架橋反応を起こし、成形性が悪くなる傾向がある。
これらの接着性樹脂には、EVOH(A)、他のEVOH、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはポリオレフィン系樹脂層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることも可能である。
【0105】
上記接着性樹脂層、ポリアミド層、熱可塑性樹脂層には、本発明の趣旨を阻害しない範囲内(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、本発明で用いる酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)の他、従来公知の可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等)、フィラー、クレー(例えば、モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤(例えば、炭素数8~30の高級脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、高級脂肪酸エステル(例えば、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等))、フッ化エチレン樹脂、核剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0106】
また、上記接着性樹脂層および/またはポリアミド層で用いる樹脂に対し、本発明における酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合することも好ましい。特に、本発明のEVOH樹脂組成物層と隣接する接着性樹脂層および/またはポリアミド層が酢酸および/またはその塩(B)、酢酸以外の脂肪族カルボン酸(C)、上記脂肪族カルボン酸(C)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(D)、リン酸および/またはその塩(E)を含有する場合、さらに耐衝撃性に優れた多層構造体が得られる。
【0107】
本発明のEVOH樹脂組成物層を上記他の基材と積層させて多層構造体を作製する場合の積層方法は、公知の方法にて行なうことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本発明のEVOH樹脂組成物と他の基材とを共押出成形する方法、本発明のEVOH樹脂組成物からなるフィルム(層)および他の基材(層)を各々作製し、これらを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材上に本発明のEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出成形する方法が好ましい。
【0108】
上記多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形法等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0109】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行なってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸した多層構造体(延伸フィルム)を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で、通常2~600秒間程度熱処理を行なう。
【0110】
また、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて得られてなる多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行なえばよい。
【0111】
さらに、場合によっては、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。多層容器の作製方法としては、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。さらに、多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。本発明の多層積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行なうことができる。
【0112】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成するEVOH樹脂組成物層、ポリアミド樹脂層、接着性樹脂層、他の熱可塑性樹脂層の厚みは、層構成、熱可塑性樹脂の種類、ポリアミド系樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により適宜設定されるものである。
【0113】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の総厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。多層構造体の総厚みが薄すぎる場合には、ガスバリア性が低下することがある。また、多層構造体の総厚みが厚すぎる場合には、ガスバリア性が過剰性能となり、不必要な原料を使用することとなるため経済的でない傾向がある。そして、EVOH樹脂組成物層(α)は、通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、熱可塑性樹脂層(δ)は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層(β)は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。なお、上記の数値は、EVOH樹脂組成物層(α)、接着性樹脂層(β)、熱可塑性樹脂層(δ)のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、同種の層の厚みを総計した値である。
【0114】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層(α)の他の熱可塑性樹脂層(δ)に対する厚みの比(EVOH樹脂組成物層(α)/他の熱可塑性樹脂層(δ))は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは2/98~45/55、特に好ましくは5/95~40/60、殊に好ましくは10/90~35/65である。かかる値が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、ガスバリア性や耐衝撃性が不充分となる傾向があり、上記範囲より大きいと、多層構造体が割れやすくなる傾向がある。
【0115】
また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層(α)のポリアミド層(γ)に対する厚み比(EVOH樹脂組成物層(α)/ポリアミド層(γ))は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~80/20、特に好ましくは40/60~60/40である。かかる値が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、ガスバリア性が不充分となる傾向があり、上記範囲より大きいと、耐衝撃性が不充分となる傾向がある。
【0116】
また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層(α)の接着性樹脂層(β)に対する厚み比(EVOH樹脂組成物層(α)/接着性樹脂層(β))は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。かかる値が上記範囲内にあると、本発明の効果がより顕著に得られる傾向があり、上記範囲より小さいと、ガスバリア性が不充分となる傾向があり、上記範囲より大きいと、接着強度が不充分となる傾向がある。
【0117】
上記のようにして得られたフィルム、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例】
【0118】
以下、下記表に示す実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
[実施例1]
〔EVOH樹脂組成物の製造〕
EVOH(A)としてEVOH(a1)〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.7モル%、MFR3.8g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体〕を含有し、酢酸および/またはその塩(B)として酢酸ナトリウム(b1)を含有するEVOH(a1)ペレットを用いた。また、脂肪族カルボン酸(C)としてステアリン酸(c1)、脂肪族カルボン酸金属塩(D)としてステアリン酸亜鉛(d1)を用いた。
また、各成分の含有量としては、酢酸ナトリウム(b1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して酢酸イオン換算で432ppm用い、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で1.0ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して金属イオン換算で20ppm用いた。EVOH(a1)ペレット、ステアリン酸(c1)およびステアリン酸亜鉛(d1)を一括でドライブレンドすることにより本発明のEVOH樹脂組成物を製造した。
【0120】
〔多層構造体の製造1〕
3種5層多層共押出キャストフィルム製膜装置に、上記で調製したEVOH樹脂組成物、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)〔日本ポリエチレン社製「UF240」、MFR2.1g/10分(190℃、荷重2160g)〕、接着性樹脂(LyondellBasell社製「PLEXAR PX3236」、MFR2.0g/10分〔190℃、荷重2160g〕)を供給して、下記条件で多層共押出成形により、LLDPE層(δ1)/接着性樹脂層(β1)/EVOH樹脂組成物層(α)/接着性樹脂層(β2)/LLDPE層(δ2)の3種5層構造の多層構造体(フィルム)を得た。多層構造体の各層の厚み(μm)は、37.5/5/15/5/37.5であった。成形装置のダイ温度は、全て210℃に設定した。
(多層共押出成形条件1)
・中間層押出機(EVOH樹脂組成物):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・上下層押出機(LLDPE):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・中上下層押出機(接着性樹脂):32mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:210℃)
・引取速度:9.0m/分
・ロール温度:80℃
【0121】
上記で得られたEVOH樹脂組成物に対しては、下記の色調安定性評価試験、伸長粘度評価試験を行い、また、上記で得られた多層構造体に対しては、下記の衝撃強度評価試験、接着強度評価試験を行った。
【0122】
<EVOH樹脂組成物の色調安定性評価>
上記で製造したEVOH樹脂組成物5gを30mmφアルミカップ(アズワン社製、ディスポディニッシュPP-724)に入れ、空気雰囲気下で210℃×2時間静置したものを試料として色調評価に供した。色調評価は、下記装置および評価方法に基づいて行った。
・使用機器:ビジュアルアナライザーIRISVA400(アルファ・モス・ジャパン社製)
・データ解析用ソフト:Alpha Soft V14.3
・対物レンズ:25mm(Basler社製)
・照明モード:上下照明
・評価方法:色調評価用試料を、上記ビジュアルアナライザーのチャンバー内のトレイにセットし、CCDカメラで色調評価用試料全体の平面画像を撮影した後、データ解析用ソフトを用いて画像処理を行うことで試料のカラーパターンを評価した。得られたカラーパターンのうち、一番存在割合が多かった色(主要色)の明度(L*)から、EVOH樹脂組成物の色調安定性を評価した。なお、色調安定性は、数値が高いほど色調安定性に優れ、逆に数値が低いほど色調安定性に劣ることを意味する。結果を表1-2に示す。
【0123】
<EVOH樹脂組成物の伸長粘度(Pa・s)評価>
上記で製造したEVOH樹脂組成物の210℃、100S-1での伸長粘度(Pa・s)を、キャピラリー型レオメーターを用いて、Cogswellの式[Polymer Engineering Science、12巻、64-73頁(1972)]、すなわち、以下の式(4)~(6)に基づいて、下記の条件で測定を行なうことにより評価した。結果を表1-2に示す。
(Cogswell式)
ηe=[9(n+1)2P0
2]/[32ηs(dγ/dt)2]・・・式(4)
dε/dt=4σs(dγ/dt)/[3(n+1)P0]・・・式(5)
σs=k(dγ/dt)n・・・式(6)
ηe:伸長粘度(Pa・s)
ηs:剪断粘度(Pa・s)
dγ/dt:剪断歪み速度(s-1)
dε/dt:伸長歪み速度(s-1)
σs:剪断応力(Pa)
k、n:定数
P0:圧力損失(Pa)
(伸長粘度測定条件)
測定装置:Gottfert社製RHEOGRAPH 20
測定温度:210℃
予熱時間:10分間
ロングダイ:長さ10mm、直径1mm、流入角180°
ショートダイ:長さ0.2mm、直径1mm、流入角180°
【0124】
<多層構造体の衝撃強度>
上記で製造した多層構造体の衝撃強度(kgf・cm)を、23℃、50%RHの雰囲気中で、YSS式フィルムインパクトテスター(安田精機製作所社製、型式181)を用いて評価した。測定は計10回行い、その平均値を多層構造体の衝撃強度として評価した。なお、クランプ内径は60mm、衝撃球は半径12.7mmのものを用い、振り子の持ち上げ角度90°とした。なお、多層構造体の衝撃強度は、数値が高いほど衝撃強度に優れ、逆に数値が低いほど衝撃強度に劣ることを意味する。結果を表1-2に示す。
【0125】
<多層構造体の接着強度>
上記で製造した多層構造体における、EVOH樹脂組成物層と接着性樹脂層との間の接着強度(N/15mm)を、下記のT-peel剥離試験により評価した。測定は計10回行い、その平均値を多層構造体の接着強度として評価した。なお、多層構造体の接着強度は、数値が高いほど接着強度に優れ、逆に数値が低いほど接着強度に劣ることを意味する。結果を表1-2に示す。
(T-peel剥離試験条件)
・装置:Autograph AGS-H(島津製作所社製)
・ロードセル:500N
・試験方法:T-peel法(T型状にして剥離)
・試験片サイズ:幅15mm
・試験速度:300mm/min
【0126】
[実施例2]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で2.4ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0127】
[実施例3]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で0.7ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0128】
[実施例4]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で4.9ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して金属イオン換算で100ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0129】
[実施例5]
実施例4において、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して324ppm用い、リン酸(e1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)、リン酸(e1)の含有量の総和に対してリン換算で54ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0130】
[実施例6]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で9.7ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して金属イオン換算で200ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0131】
[実施例7]
実施例1において、ステアリン酸(c1)の代わりにカプリル酸(c2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で2.8ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにカプリル酸亜鉛(d2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して金属イオン換算で20ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0132】
[実施例8]
実施例7において、カプリル酸(c2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で6.9ppm用い、カプリル酸亜鉛(d2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0133】
[実施例9]
実施例8において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a2)〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.7モル%、MFR0.7g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体〕を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0134】
[実施例10]
実施例7において、カプリル酸(c2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で13.8ppm用い、カプリル酸亜鉛(d2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して金属イオン換算で100ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0135】
[実施例11]
実施例10において、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して324ppm用い、リン酸(e1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)、リン酸(e1)の含有量の総和に対してリン換算で54ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0136】
[実施例12]
実施例10において、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して100ppm用い、リン酸(e1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)、リン酸(e1)の含有量の総和に対してリン換算で12.4ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0137】
[実施例13]
実施例7において、カプリル酸(c2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で27.6ppm用い、カプリル酸亜鉛(d2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して金属イオン換算で200ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0138】
[実施例14]
実施例1において、ステアリン酸(c1)の代わりにラウリン酸(c3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で0.7ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにラウリン酸亜鉛(d3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対して金属イオン換算で20ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0139】
[実施例15]
実施例14において、ラウリン酸(c3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で1.8ppm用い、ラウリン酸亜鉛(d3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0140】
[実施例16]
実施例14において、ラウリン酸(c3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で3.6ppm用い、ラウリン酸亜鉛(d3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対して金属イオン換算で100ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0141】
[実施例17]
実施例16において、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対して324ppm用い、リン酸(e1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)、リン酸(e1)の含有量の総和に対してリン換算で54ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0142】
[実施例18]
実施例14において、ラウリン酸(c3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で7.1ppm用い、ラウリン酸亜鉛(d3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対して金属イオン換算で200ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0143】
[実施例19]
実施例1において、ステアリン酸(c1)の代わりにカプロン酸(c4)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプロン酸(c4)、カプロン酸亜鉛(d4)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で9.4ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにカプロン酸亜鉛(d4)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプロン酸(c4)、カプロン酸亜鉛(d4)の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0144】
[実施例20]
実施例19において、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプロン酸(c4)、カプロン酸亜鉛(d4)の含有量の総和に対して324ppm用い、カプロン酸(c4)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプロン酸(c4)、カプロン酸亜鉛(d4)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で18.8ppm用い、カプロン酸亜鉛(d4)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプロン酸(c4)、カプロン酸亜鉛(d4)の含有量の総和に対して金属イオン換算で100ppm用い、リン酸(e1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプロン酸(c4)、カプロン酸亜鉛(d4)、リン酸(e1)の含有量の総和に対してリン換算で54ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0145】
[実施例21]
実施例1において、ステアリン酸(c1)の代わりにベヘン酸(c5)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ベヘン酸(c5)、ベヘン酸亜鉛(d5)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で2.9ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにベヘン酸亜鉛(d5)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ベヘン酸(c5)、ベヘン酸亜鉛(d5)の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0146】
[実施例22]
実施例21において、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ベヘン酸(c5)、ベヘン酸亜鉛(d5)の含有量の総和に対して324ppm用い、ベヘン酸(c5)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ベヘン酸(c5)、ベヘン酸亜鉛(d5)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で5.7ppm用い、ベヘン酸亜鉛(d5)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ベヘン酸(c5)、ベヘン酸亜鉛(d5)の含有量の総和に対して金属イオン換算で100ppm用い、リン酸(e1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ベヘン酸(c5)、ベヘン酸亜鉛(d5)、リン酸(e1)の含有量の総和に対してリン換算で54ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0147】
[実施例23]
実施例8において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a3)〔エチレン構造単位の含有量25モル%、ケン化度99.7モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体〕を用い、酢酸ナトリウム(b1)の酢酸イオン換算での含有量を、EVOH(a3)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して648ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0148】
[実施例24]
実施例8において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a4)〔エチレン構造単位の含有量44モル%、ケン化度99.7モル%、MFR3.5g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体〕を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0149】
[実施例25]
実施例8において、カプリル酸(c2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で269ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0150】
[実施例26]
実施例15において、ラウリン酸(c3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で355ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0151】
[比較例1]
実施例1において、ステアリン酸(c1)およびステアリン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0152】
[比較例2]
実施例8において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a5)〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.7モル%、MFR8.0g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体〕を用い、酢酸および/またはその塩(B)を含有しないこと以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0153】
[比較例3]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で29.2ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対して金属イオン換算で600ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0154】
[比較例4]
実施例7において、カプリル酸(c2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で82.8ppm用い、カプリル酸亜鉛(d2)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、カプリル酸(c2)、カプリル酸亜鉛(d2)の含有量の総和に対して金属イオン換算で600ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0155】
[比較例5]
実施例14において、ラウリン酸(c3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で21.4ppm用い、ラウリン酸亜鉛(d3)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ラウリン酸(c3)、ラウリン酸亜鉛(d3)の含有量の総和に対して金属イオン換算で600ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0156】
[比較例6]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸カルシウムの含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で1.9ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにステアリン酸カルシウムをEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸カルシウムの含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0157】
[比較例7]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸マグネシウムの含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で15.4ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにステアリン酸マグネシウムをEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸マグネシウムの含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0158】
[比較例8]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸ナトリウムの含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で3.3ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにステアリン酸ナトリウムをEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸ナトリウムの含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0159】
[比較例9]
実施例1において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で484ppm用い、ステアリン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0160】
[比較例10]
実施例2において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で484ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0161】
[比較例11]
実施例2において、ステアリン酸(c1)をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、ステアリン酸亜鉛(d1)の含有量の総和に対してカルボン酸イオン換算で0.4ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0162】
[比較例12]
実施例2において、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにグルコン酸亜鉛三水和物をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、グルコン酸亜鉛三水和物の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0163】
[比較例13]
実施例2において、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにクエン酸亜鉛二水和物をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、クエン酸亜鉛二水和物の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0164】
[比較例14]
実施例2において、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにグルコン酸カルシウム一水和物をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、グルコン酸カルシウム一水和物の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0165】
[比較例15]
実施例2において、ステアリン酸亜鉛(d1)の代わりにクエン酸カルシウム四水和物をEVOH(a1)、酢酸ナトリウム(b1)、ステアリン酸(c1)、クエン酸カルシウム四水和物の含有量の総和に対して金属イオン換算で50ppm用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0166】
【0167】
【0168】
[実施例27]
実施例2において、多層構造体の各層の厚み(μm)を、17/5/15/5/58として、EVOH樹脂組成物層の配置を非対称にした以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の衝撃強度について実施例2と同様に評価した。結果を表2に示す。また、下記の条件にてガスバリア性を評価した。
【0169】
<多層構造体のガスバリア性(OTR)>
上記で得られた多層構造体の温度23℃、相対湿度(外側)/(内側)=50/90%RHのガスバリア性を、酸素ガス透過量測定装置(MOCON社製、OX-TRAN 2/21)を用いて評価した。結果を表2に示す。
【0170】
[実施例28]
実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)を用いて、下記条件にて多層構造体を作製した。得られた多層構造体の衝撃強度について実施例2と同様に評価し、実施例27と同様にガスバリア性を評価した。
【0171】
〔多層構造体の製造2〕
3種5層多層共押出キャストフィルム製膜装置に、上記で調製したEVOH樹脂組成物、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)〔日本ポリエチレン社製「UF240」、MFR2.1g/10分(190℃、荷重2160g)〕、接着性樹脂(LyondellBasell社製「PLEXAR PX3236」、MFR2.0g/10分〔190℃、荷重2160g〕)を供給して、下記条件で多層共押出成形により、EVOH樹脂組成物層(α)/接着性樹脂層(β2)/LLDPE層(δ2)の3種3層構造の多層構造体(フィルム)を得た。多層構造体の各層の厚み(μm)は、15/5/80であった。成形装置のダイ温度は、全て210℃に設定した。
(多層共押出成形条件2)
・上層押出機(EVOH樹脂組成物):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃
)
・中層押出機(接着性樹脂):32mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・下層押出機(LLDPE):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:210℃)
・引取速度:9.0m/分
・ロール温度:80℃
【0172】
[実施例29]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに実施例8において製造したEVOH樹脂組成物(組成物8)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0173】
[実施例30]
実施例28において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに実施例8において製造したEVOH樹脂組成物(組成物8)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例28と同様に評価した。
【0174】
[実施例31]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに実施例15において製造したEVOH樹脂組成物(組成物15)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0175】
[実施例32]
実施例28において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに実施例15において製造したEVOH樹脂組成物(組成物15)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例28と同様に評価した。
【0176】
[実施例33]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに実施例21において製造したEVOH樹脂組成物(組成物21)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0177】
[実施例34]
実施例28において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに実施例21において製造したEVOH樹脂組成物(組成物21)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例28と同様に評価した。
【0178】
[比較例16]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例1において製造したEVOH樹脂組成物(組成物27)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0179】
[比較例17]
実施例28において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例1において製造したEVOH樹脂組成物(組成物27)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例28と同様に評価した。
【0180】
[比較例18]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例6において製造したEVOH樹脂組成物(組成物32)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0181】
[比較例19]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例7において製造したEVOH樹脂組成物(組成物33)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0182】
[比較例20]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例8において製造したEVOH樹脂組成物(組成物34)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0183】
[比較例21]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例10において製造したEVOH樹脂組成物(組成物36)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0184】
[比較例22]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例12において製造したEVOH樹脂組成物(組成物38)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0185】
[比較例23]
実施例28において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例12において製造したEVOH樹脂組成物(組成物38)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例28と同様に評価した。
【0186】
[比較例24]
実施例27において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例13において製造したEVOH樹脂組成物(組成物39)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例27と同様に評価した。
【0187】
[比較例25]
実施例28において、実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに比較例13において製造したEVOH樹脂組成物(組成物39)を用いた以外は同様に行ない、EVOH樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体について、実施例28と同様に評価した。
【0188】
【0189】
[実施例35]
実施例2において製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)を用いて、下記条件にて多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0190】
〔多層構造体の製造3〕
3種5層多層共押出キャストフィルム製膜装置に、上記で調製したEVOH樹脂組成物、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)〔日本ポリエチレン社製「UF240」、MFR2.1g/10分(190℃、荷重2160g)〕、ポリアミド(宇部興産社製ナイロン6「1022B」)を供給して、下記条件で多層共押出成形により、LLDPE層(δ1)/ポリアミド層(γ1)/EVOH樹脂組成物層(α)/ポリアミド層(γ2)/LLDPE層(δ2)の3種5層構造の多層構造体(フィルム)を得た。多層構造体の各層の厚み(μm)は、37.5/5/15/5/37.5であった。その後、得られた多層構造体の各LLDPE層を剥がす事により、ポリアミド層(γ1)/EVOH樹脂組成物層(α)/ポリアミド層(γ2)の2種3層構造の多層構造体(フィルム)を得た。多層構造体の各層の厚み(μm)は、5/15/5であった。フィルム中成形装置のダイ温度は、全て240℃に設定した。
(多層共押出成形条件3)
・中間層押出機(EVOH樹脂組成物):40mmφ単軸押出機(バレル温度:240
℃)
・上下層押出機(LLDPE):40mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
・中上下層押出機(ポリアミド):32mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:240℃)
・引取速度:9.0m/分
・ロール温度:80℃
【0191】
[実施例36]
実施例35において、実施例2で製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに、実施例8で製造したEVOH樹脂組成物(組成物8)を用いた以外は同様に行ない、多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0192】
[比較例26]
実施例35において、実施例2で製造したEVOH樹脂組成物(組成物2)の代わりに、比較例1で製造したEVOH樹脂組成物(組成物27)を用いた以外は同様に行ない、多層構造体を作製した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0193】
【0194】
脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有しない比較例1および9では、衝撃強度が14.30(kgf・cm)および13.93(kgf・cm)であるのに対し、脂肪族カルボン酸金属塩(D)を含有し、酢酸および/またはその塩(B)を含有しない比較例2では、衝撃強度が17.33(kgf・cm)に向上した。しかし、接着強度が2.70(N/15mm)に低下した。
また、本発明で規定する式(1)を満たさない比較例3~5では、接着強度が低いものであった。本発明で規定する式(2)を満たさない比較例9~11では、衝撃強度が低いものであった。
さらに、脂肪族カルボン酸金属塩(D)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる1種ではない比較例6~8においても衝撃強度が低いものであった。
そして、脂肪族カルボン酸(C)と脂肪族カルボン酸金属塩(D)のアニオン種が同一種でない比較例12~15では、衝撃強度および接着強度が低いものであった。
これに対し、本発明の特徴的構成を有するEVOH樹脂組成物(組成物1~26)では、衝撃強度に優れながらも接着強度が低下せず優れた値を示した(実施例1~26)。さらに色調安定性も低下しないものであった。
さらに、本発明の特徴的構成を有するEVOH樹脂組成物(組成物1~26)は、EVOH樹脂組成物からなる樹脂組成物層に隣接する層が接着性樹脂層(実施例1~26)であっても、ポリアミド層(実施例35,36)であっても、衝撃強度に優れながらも接着強度が低下せず優れた値を示し、さらに色調安定性も低下しないものであった。
【0195】
また、本発明の特徴的構成を有するEVOH樹脂組成物(組成物1~26)は、EVOH樹脂組成物層の配置が非対称な構成(実施例27~34)であっても、衝撃強度およびガスバリア性に優れた値を示した。
【0196】
上記で得られた各実施例の多層構造体を用いて包装体を製造した。得られた包装体は、いずれも耐衝撃性および接着強度に優れ、色調安定性にも優れるものであった。
【0197】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明のEVOH樹脂組成物は、耐衝撃性および接着強度に優れる。そのため、上記EVOH樹脂組成物からなる層を含有する多層構造体は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器の原料として有用である。