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特許7388246磁気記録媒体およびその製造方法ならびに磁気記憶装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】磁気記録媒体およびその製造方法ならびに磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20231121BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20231121BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20231121BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20231121BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20231121BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G11B5/738
G11B5/65
G11B5/84 Z
G11B5/02 S
C23C14/08 J
C23C14/34 M
C23C14/34 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020038097
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021106068
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019235625
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】徐 晨
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寿人
(72)【発明者】
【氏名】山口 健洋
(72)【発明者】
【氏名】小柳 浩
(72)【発明者】
【氏名】梅本 裕二
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204564(JP,A)
【文献】特開2018-129106(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151425(WO,A1)
【文献】特開2012-094202(JP,A)
【文献】特開2012-230733(JP,A)
【文献】特開2014-041682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
G11B 5/65
G11B 5/84
G11B 5/02
C23C 14/08
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、下地層と、磁性層をこの順で有し、
前記下地層は、一般式
MgO(1-X)
(式中、Xは、0.07~0.25の範囲内である。)
で表される化合物を含む第1の下地層を有し、
前記磁性層は、L1構造を有する合金を含み、前記L1構造を有する合金がBを含む第1の磁性層を有し、
前記第1の下地層は、前記第1の磁性層と接している、磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体を製造する方法であって、
MgOを含むスパッタリングターゲットと、不活性ガスに水素が1体積%~20体積%の範囲内で添加されているスパッタガスを用いて、前記第1の下地層を成膜する工程を含む、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気記録媒体を製造する方法であって、
MgOを含むスパッタリングターゲットを用い、1Pa以上のスパッタガス圧で0.5秒以下の時間放電した後、0.5Pa以下のスパッタガス圧で放電して、前記第1の下地層を成膜する工程を含む、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気記録媒体を有する、磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造方法および磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体に近接場光等を照射して表面を局所的に加熱することにより、磁気記録媒体の保磁力を低下させて、磁気情報を記録する熱アシスト記録方式は、1Tbit/inchクラスの面記録密度を実現することができる次世代記録方式として注目されている。熱アシスト記録方式を用いると、室温における保磁力が数十kOeである磁気記録媒体に、磁気ヘッドの記録磁界により、磁気情報を容易に記録することができる。このため、結晶磁気異方性定数(Ku)が10J/m台の高い材料(高Ku材料)を磁性層に適用することができ、その結果、熱安定性を維持したまま、磁性層を構成する磁性粒子を粒径が6nm以下になるまで微細化することができる。
【0003】
高Ku材料としては、FePt合金(Ku~7×10J/m)、CoPt合金(Ku~5×10J/m)等のL1構造を有する合金が知られている。
【0004】
熱アシスト磁気記録媒体の面記録密度を向上させるためには、磁性層の結晶配向性を向上させ、磁性層を構成する磁性粒子を微細化し、磁性粒子間の交換結合を低減することで、熱アシスト磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させる必要がある。
【0005】
例えば、磁性層として、FePt合金膜を用いる場合、磁性層の結晶配向性を向上させるためには、FePt合金膜は、(001)配向している必要がある。このため、下地層として、(100)配向しているMgO層を用いることが望ましい。ここで、MgOの(100)面は、L1構造を有するFePt合金の(001)面と格子整合性が高いため、MgO層上に、FePt合金膜を成膜することにより、FePt合金膜を(001)配向させることができる。
【0006】
特許文献1には、一般式:{(FePt100-x(100-y)(100-z)であり、原子比により30≦x≦80、1≦y≦20、3≦z≦65で表される組成を有した焼結体からなる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-41682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気記録媒体の面記録密度を向上させる要求は、止まることがなく、磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させることが求められている。このためには、磁性膜の規則度を向上させて、磁性層の配向性を向上させる必要がある。
【0009】
そこで、磁性層として、FePtB合金膜を用いることが考えられる。
【0010】
しかしながら、MgO層上にFePtB合金膜を成膜すると、FePtB合金中のBと、MgO中の酸素が相互拡散して、酸化ホウ素が生成し、その結果、FePtB合金膜の(001)配向性が低下する。
【0011】
本発明の一態様は、磁性層の(001)配向性を向上させることが可能な磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)基板と、下地層と、磁性層をこの順で有し、前記下地層は、一般式
MgO(1-X)
(式中、Xは、0.07~0.25の範囲内である。)
で表される化合物を含む第1の下地層を有し、前記磁性層は、L1構造を有する合金を含み、前記L1構造を有する合金がBを含む第1の磁性層を有し、前記第1の下地層は、前記第1の磁性層と接している、磁気記録媒体。
(2)(1)に記載の磁気記録媒体を製造する方法であって、MgOを含むスパッタリングターゲットと、不活性ガスに水素が1体積%~20体積%の範囲内で添加されているスパッタガスを用いて、前記第1の下地層を成膜する工程を含む、磁気記録媒体の製造方法。
(3)(1)に記載の磁気記録媒体を製造する方法であって、MgOを含むスパッタリングターゲットを用い、1Pa以上のスパッタガス圧で0.5秒以下の時間放電した後、0.5Pa以下のスパッタガス圧で放電して、前記第1の下地層を成膜する工程を含む、磁気記録媒体の製造方法。
(4)(1)に記載の磁気記録媒体を有する、磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、磁性層の(001)配向性を向上させることが可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の磁気記録媒体の層構成の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態の磁気記憶装置の一例を示す傾視図である。
図3図2の磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が同一であるとは限らない。
【0016】
[磁気記録媒体]
図1に、本実施形態の磁気記録媒体の層構成の一例を示す。
【0017】
磁気記録媒体100は、基板1と、下地層2と、L1構造を有する合金を含む磁性層3をこの順で有する。
【0018】
ここで、下地層2は、第2の下地層22および第1の下地層21が順次積層されており、磁性層3は、第1の磁性層31および第2の磁性層33が順次積層されている。
【0019】
なお、下地層2および磁性層3の積層数は、特に限定されず、それぞれ3以上であってもよい。
【0020】
第1の下地層21は、下地層2の最上層(基板1から最も遠い層)であるが、一般式
MgO(1-X)・・・(A)
(式中、Xは、0.07~0.25の範囲内である。)
で表される化合物を含む。
【0021】
第1の磁性層31は、磁性層3の最下層(基板1に最も近い層)であるが、L1構造を有する合金を含み、L1構造を有する合金がB(ホウ素)を含む。
【0022】
第1の下地層21は、第1の磁性層31と接しているため、第1の下地層21中の酸素と、第1の磁性層31中のBとの相互拡散が低減され、磁性層3の(001)配向性が向上する。これは、第1の下地層21は、MgOのストイキオメトリ(化学量論的組成)に対して、酸素が欠乏した状態であるため、第1の磁性層31に対して酸素を供給することが抑制され、第1の磁性層31に含まれるL1構造を有する合金を構成するBの酸化が低減されるためである。
【0023】
一般式(A)で表される化合物において、酸素欠乏量Xは、0.07~0.25の範囲内であるが、0.10~0.20の範囲内であることが好ましい。酸素欠乏量Xが0.07よりも小さいと、第1の磁性層31に含まれるL1構造を有する合金を構成するBが部分的に酸化されて酸化ホウ素が生成し、酸化ホウ素が粒界部に移動するため、磁性層3の(001)配向性が低下する。一方、酸素欠乏量Xが0.25より大きいと、第1の下地層21に含まれる一般式(A)で表される化合物の格子定数が小さくなり、第1の磁性層31に含まれるL1構造を有する合金のc軸選択配向に支障を来すため、磁性層3の(001)配向性が低下する。
【0024】
なお、酸素欠乏量Xは、例えば、X線回折によるMgOの格子定数の伸縮、二次イオン質量分析(SIMS)、電子プローブマイクロアナリシス(EPMA)、X線光電子分光(XPS)などの公知の方法により、測定することができる。
【0025】
第1の下地層21は、スパッタ法により成膜することができる。
【0026】
第1の下地層21を成膜する際に、MgOを含むスパッタリングターゲットと、不活性ガスに水素が1体積%~20体積%の範囲内で添加されているスパッタガスを用いて、第1の下地層21を成膜することが好ましい。これにより、MgOを還元し、酸素が欠乏した酸化マグネシウム、即ち、一般式(A)で表される化合物を含む膜を成膜することができる。
【0027】
第1の下地層21を成膜する際に、MgOを含むスパッタリングターゲットを用い、1Pa以上のスパッタガス圧で0.5秒以下の時間放電した後、0.5Pa以下のスパッタガス圧で放電することが好ましい。
【0028】
MgOは、絶縁性であるため、第1の下地層21を成膜する際に、RFスパッタ法が用いられるが、1Pa以上のスパッタガス圧で0.5秒以下の時間放電することにより、0.5Pa以下のスパッタガス圧で安定して放電させることが可能となり、結晶性が高い、酸素が欠乏した酸化マグネシウムを含む膜を成膜することができる。
【0029】
また、0.5Pa以下のスパッタガス圧で放電することにより、安定して酸素が欠乏した酸化マグネシウムを含む膜を成膜することができる。安定して酸素が欠乏した酸化マグネシウムを含む膜を成膜することができる理由は、以下の通りである。放電に伴って、Mgから分離した酸素原子が酸素原子と再結合して、酸素分子も発生するが、酸素分子の一部は、通常、チャンバ壁に吸着する。ここで、スパッタガス圧が0.5Pa以下であると、チャンバ壁から放出される酸素分子が少ないため、酸化マグネシウムを酸素が欠乏した状態とすることができる。
【0030】
第1の磁性層31を構成するL1構造を有する合金は、FeまたはCoと、Ptとをさらに含むことが好ましい。
【0031】
L1構造を有する合金中のBの含有量は、2mol%~20mol%の範囲であることが好ましく、2.5mol%~10mol%の範囲であることがより好ましい。L1構造を有する合金中のBの含有量が2mol%以上であると、磁性層3の(001)配向性が向上し、20mol%以下であると、第1の磁性層31を構成する磁性粒子の磁化が向上し、その結果、磁気記録媒体100の磁気記録信号強度が向上する。
【0032】
第1の磁性層31は、粒界偏析材料をさらに含み、グラニュラー構造を有していてもよい。これにより、第1の磁性層31が(001)配向しやすくなり、(100)配向している第1の下地層21との格子整合性が向上する。
【0033】
第1の磁性層31に含まれる粒界偏析材料としては、例えば、VN、BN、SiN、TiN等の窒化物、C、VC等の炭化物、BN等のホウ化物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0034】
第2の下地層22を構成する材料としては、第1の磁性層31を(001)配向させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、(100)配向しているW;Cr、BCC構造を有するCr合金、B2構造を有する合金等が挙げられる。
【0035】
BCC構造を有するCr合金としては、例えば、CrMn合金、CrMo合金、CrW合金、CrV合金、CrTi合金、CrRu合金等が挙げられる。
【0036】
B2構造を有する合金としては、例えば、RuAl合金、NiAl合金等が挙げられる。
【0037】
なお、下地層2の積層数が3層以上である場合、第1の下地層21以外の下地層は、第2の下地層22と同様である。
【0038】
第2の磁性層32は、L1構造を有する合金を含むことが好ましい。これにより、磁性層3の(001)配向性が向上する。即ち、第2の磁性層32としては、第1の磁性層31の配向に沿ってエピタキシャル成長した磁性膜を成膜することができる。
【0039】
第2の磁性層32に含まれるL1構造を有する合金は、Bを含んでもいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0040】
第2の磁性層32を構成するL1構造を有する合金は、FeまたはCoと、Ptとを含むことが好ましい。
【0041】
第2の磁性層32は、粒界偏析材料をさらに含み、グラニュラー構造を有していてもよい。
【0042】
第2の磁性層32に含まれる粒界偏析材料VN、BN、SiN、TiN等の窒化物、C、VC等の炭化物、BN等のホウ化物、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO等の酸化物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0043】
なお、磁性層3の積層数が3層以上である場合、第1の磁性層31以外の磁性層は、第2の磁性層32と同様である。
【0044】
磁気記録媒体100は、磁性層3上に、保護層が成膜されていることが好ましい。
【0045】
保護層の成膜方法としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに、固体炭素ターゲットを用いて成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0046】
保護層の厚さは、1nm~6nmであることが好ましい。保護層の厚さが1nm以上であると、磁気ヘッドの浮上特性が良好となり、6nm以下であると、磁気スペーシングが小さくなり、磁気記録媒体100のSNRが向上する。
【0047】
磁気記録媒体100は、保護層上に、潤滑剤層が形成されていてもよい。
【0048】
潤滑剤層を構成する材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル等のフッ素樹脂等が挙げられる。
【0049】
[磁気記憶装置]
本実施形態の磁気記憶装置は、本実施形態の磁気記録媒体を有していれば、特に限定されない。
【0050】
本実施形態の磁気記憶装置は、例えば、本実施形態の磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子が設けられている磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系を有する。
【0051】
また、磁気ヘッドは、例えば、本実施形態の磁気記録媒体を加熱するためのレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
【0052】
図2に、本実施形態の磁気記憶装置の一例を示す。
【0053】
図2の磁気記憶装置は、磁気記録媒体100と、磁気記録媒体100を回転させるための磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104を有する。
【0054】
図3に、磁気ヘッド102の一例を示す。
【0055】
磁気ヘッド102は、記録ヘッド208と、再生ヘッド211を有する。
【0056】
記録ヘッド208は、主磁極201と、補助磁極202と、磁界を発生させるコイル203と、レーザー光発生部としての、レーザーダイオード(LD)204と、LD204から発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝送する導波路207を有する。
【0057】
再生ヘッド211は、シールド209で挟まれている再生素子210を有する。
【実施例
【0058】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で、適宜変更して実施することができる。
【0059】
(実施例1)
耐熱ガラス基板上に、厚さ50nmの50原子%Cr-50原子%Ti合金膜(第3の下地層)と、厚さ25nmの75原子%Co-20原子%Ta-5原子%B合金膜(軟磁性下地層)をこの順で成膜した。次に、基板を250℃まで加熱した後、厚さ10nmのCr膜(第2の下地層)を成膜した。このとき、第3の下地層、軟磁性下地層、第2の下地層の成膜には、DCマグネトロンスパッタ装置を用いた。
【0060】
次に、RFスパッタ装置を用いて、第1の下地層を成膜した。具体的には、スパッタガス圧を3Paとして12秒間放電し、厚さ2nmのMgO(1-x)膜を成膜した。このとき、スパッタリングターゲットとして、MgOを用い、スパッタガスとして、水素を10体積%含むアルゴンを用いた。
【0061】
なお、第1の下地層を成膜した後、酸素欠乏量XをXPSにより測定した。
【0062】
次に、基板を520℃まで加熱した後、厚さ3nmの60mol%(47.5at%Fe-47.5at%Pt-5at%B)-40mol%C膜(第1の磁性層)と、厚さ5nmの82mol%(52at%Fe-48at%Pt)-18mol%SiO膜(第2の磁性層)をこの順で成膜した。このとき、第1の磁性層、第2の磁性層の成膜には、DCマグネトロンスパッタ装置を用いた。
【0063】
次に、イオンビーム法を用いて、厚さ3nmのカーボン膜(保護層)を成膜した後、塗布法により、パーフルオロポリエーテル膜(潤滑剤層)を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0064】
(実施例2)
RFスパッタ装置を用いて、第1の下地層を以下のように成膜した以外は、実施例1と同様にして、磁気記録媒体を作製した。
【0065】
具体的には、スパッタガス圧を3Paとして0.3秒間放電した後、スパッタガス圧を0.1Paとして12秒間放電し、厚さ2nmのMgO(1-x)膜を成膜した。このとき、スパッタリングターゲットとして、MgOを用い、スパッタガスとして、水素を10体積%含むアルゴンを用いた。
【0066】
(実施例3~7、比較例1~4)
第1の下地層、第1の磁性層の成膜条件を変更した以外は(表1参照)、実施例1と同様にして、磁気記録媒体を作製した。
【0067】
(実施例8~10)
第1の下地層、第1の磁性層の成膜条件を変更した以外は(表1参照)、実施例2と同様にして、磁気記録媒体を作製した。
【0068】
なお、表1に記載されている、実施例2、8~10におけるスパッタガス圧は、3Paで0.3秒間放電した後に12秒間放電する時のスパッタガス圧である。
【0069】
(磁性層の(001)配向性)
X線回折装置(Philips製)を用いて、第2の磁性層を成膜した後の基板のX線回折スペクトルを測定し、FePt合金の(200)ピークの半値幅を求めた。
【0070】
なお、磁性層の(001)配向性は、磁性層に含まれるL1構造を有するFePt合金の(200)ピークの半値幅を用いて評価した。ここで、FePt合金の(001)ピークは、出現角度2θが十分に大きくない。このため、ロッキングカーブを測定する時に低角度側を測定限界まで広げても、FePt合金の(001)ピークの強度が、ピークが存在していない場合に対して安定しておらず、半値幅を解析するのが困難である。このような測定上の理由により、FePt合金の(001)ピークの半値幅を用いて、磁性層の(001)配向性を評価するのが困難である。一方、FePt合金の(200)ピークは、FePt合金が(001)配向する際に現れるが、出現角度2θが十分に大きいため、磁性層の(001)配向性を評価するのに適している。
【0071】
表1に、磁気記録媒体の磁性層の(001)配向性の評価結果を示す。
【0072】
【表1】
表1から、実施例1~10の磁気記録媒体は、FePt合金の(200)ピークの半値幅が小さく、磁性層の(001)配向性が高いことがわかる。
【0073】
これに対して、比較例1、2の磁気記録媒体は、第1の下地層のxが0~0.05であるため、FePt合金の(200)ピークの半値幅が大きく、磁性層の(001)配向性が低い。
【0074】
また、比較例3、4の磁気記録媒体は、第1の下地層のxが0~0.05であると共に、第1の磁性層がBを含まないため、FePt合金の(200)ピークの半値幅が大きく、磁性層の(001)配向性が低い。
【符号の説明】
【0075】
1 基板
2 下地層
21 第1の下地層
22 第2の下地層
3 磁性層
31 第1の磁性層
32 第2の磁性層
100 磁気記録媒体
図1
図2
図3