(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】積層構造体及び対象物検知構造
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20231121BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B15/08 A
(21)【出願番号】P 2020150094
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三石 直子
(72)【発明者】
【氏名】下條 隆生
(72)【発明者】
【氏名】藤野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】中野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】塩川 博文
(72)【発明者】
【氏名】山田 広司
(72)【発明者】
【氏名】森原 潤美
(72)【発明者】
【氏名】岩永 将博
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187328(WO,A1)
【文献】特開2016-156734(JP,A)
【文献】国際公開第2019/175941(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/256127(WO,A1)
【文献】特開2015-129909(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104714(WO,A1)
【文献】特開2002-135030(JP,A)
【文献】特開2019-142010(JP,A)
【文献】特開2020-033616(JP,A)
【文献】特開2014-108531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材と、
前記第1の部材と対向する第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に設けられた充填部材と、
を備え、
前記第1の部材、前記第2の部材及び前記充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差が1.0以下であり、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に銀粒子を含む銀粒子層(シリコン粒子を含む銀粒子層を除く。)をさらに備え、
前記銀粒子層は、銀鏡反応により形成されたものであり、
前記充填部材の比誘電率は、2.5~3.3であり、かつ前記充填部材の誘電正接は、0.050以下であり、
隣り合う部材間に隙間が設けられておらず、かつ隣り合う部材(銀粒子層が存在する領域については、銀粒子層を除いた隣り合う部材)における比誘電率の最大値と最小値の差が1.0以下であ
り、
前記充填部材の最大厚さは、0.3mm~3.0mmである積層構造体。
【請求項2】
前記第1の部材の比誘電率及び前記第2の部材の比誘電率は、それぞれ独立に2.5~3.3である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記第1の部材及び前記第2の部材は、それぞれ独立に、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、アクリル樹脂及びアクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む請求項1又は請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記充填部材の最大厚さは、
0.5mm~3.0mmである請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項5】
銀粒子層の厚さ方向の断面を観察したときに、中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを中央線全体の長さで除した値の百分率である銀粒子層に占める銀粒子の割合は、70%以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項6】
移動体の外装部材として用いられる請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の積層構造体と、
前記積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、
を備える検知物検知構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層構造体及び対象物検知構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には基材上に下塗り塗膜及び金属膜をこの順に被覆し、金属膜上にクリア塗膜が被覆された金属調塗装塗膜及び、この金属調塗装塗膜が自動車部品に用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の自動車では、安全装置の進歩が目覚ましく、例えば、自動衝突回避システムの装備が一般的になってきている。
自動衝突回避システムは、車載カメラの画像データ及びミリ波レーダーによる対象物との相対距離情報を用いて自動的にブレーキをかけるものである。
【0005】
自動衝突回避システムを構成するミリ波レーダーの送受信機は、自動車の前方中央に配置することが望ましい。自動車の前方中央には、一般に自動車のエンブレムが配置されている。そこで、自動車のエンブレムの後側にミリ波レーダーの送受信機を配置することが望ましい。例えば、特許文献1に記載の金属調塗装塗膜は自動車のエンブレムに用いることが想定できる。
【0006】
しかしながら、自動車エンブレムのような複数の部材を積層させる場合に各部材の板厚のばらつきを考慮し、部材間に隙間を設ける場合があるが、隙間の空気相と部材との境界部にてミリ波の反射が発生して透過減衰量が増加してしまうおそれがある。
一方で部材間に隙間をなくす手法としてインサート成形工法が挙げられるが、高温、高圧等による金属膜のダメージによるミリ波透過性能、外観等の悪化が問題となるため、耐熱処理を要する構造が必要となり、積層構造が複雑化する。
【0007】
本開示は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ミリ波の透過減衰量を低減可能な積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 第1の部材と、
前記第1の部材と対向する第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に設けられた充填部材と、
を備え、
前記第1の部材、前記第2の部材及び前記充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差が1.0以下である積層構造体。
<2> 前記第1の部材の比誘電率及び前記第2の部材の比誘電率は、それぞれ独立に2.5~3.3である<1>に記載の積層構造体。
<3> 前記第1の部材及び前記第2の部材は、それぞれ独立に、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、アクリル樹脂及びアクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む<1>又は<2>に記載の積層構造体。
<4> 前記充填部材の比誘電率は、2.5~3.3である<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<5> 前記充填部材の最大厚さは、0.1mm~3.0mmである<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<6> 前記第1の部材と前記第2の部材との間に銀粒子を含む銀粒子層をさらに備える<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<7> 移動体の外装部材として用いられる<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載の積層構造体と、前記積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、を備える検知物検知構造。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一形態によれば、ミリ波の透過減衰量を低減可能な積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の積層構造体の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を限定するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において、各成分に該当する粒子には、複数種の粒子が含まれていてもよい。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、各層の厚さは、ミクロトーム等を用いて測定対象から試験片を作製し、電子顕微鏡により任意の5箇所の厚さを測定して得られた算術平均値をいう。
【0013】
<積層構造体>
本開示の積層構造体は、第1の部材と、前記第1の部材と対向する第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材との間に設けられた充填部材と、を備え、前記第1の部材、前記第2の部材及び前記充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差が1.0以下である。
【0014】
本開示の積層構造体は、ミリ波の透過減衰量を低減可能である。その理由としては、以下のように推察される。
複数の部材が積層された積層構造体では、各境界部にてミリ波の反射が発生するため、ミリ波の透過量が減少して透過減衰量が増加する。特に、隣り合う部材の比誘電率の差が大きい場合、隣り合う部材の隙間に空気等の気体が存在して空気と部材との比誘電率の差が大きい場合などに透過減衰量が増加する傾向にある。
本開示の積層構造体では、第1の部材と第2の部材との間に充填部材を設け、さらに各部材における比誘電率の最大値と最小値の差を前述の範囲にすることによって、各境界部でのミリ波の反射がそれぞれ抑制されてミリ波の透過減衰量を低減できる、と推察される。
本開示の積層構造体は、例えば、周波数20GHz~300GHzのミリ波について透過減衰量の低減に有用である。
本開示で述べるミリ波とは上記周波数帯を意味する。
【0015】
前述の各部材において、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差は、ミリ波の透過減衰量をより低減する観点から、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
なお、前述の差の下限は特に限定されない。
【0016】
本開示の積層構造体の用途としては、例えば、外装部材が挙げられ、より具体的には、移動体の外装部材が挙げられる。移動体としては、四輪自動車、二輪自動車等の自動車、列車、荷車、船舶、航空機、自転車、台車、キャスター付トランク、ロボット、ドローン、電子機器などが挙げられる。
【0017】
外装部材としては、エンブレム、バンパー、グリル等の自動車部品が挙げられる。
【0018】
以下、本開示の積層構造体を構成する各部材について説明する。
【0019】
(第1の部材)
本開示の積層構造体は、第1の部材を備える。第1の部材としては、第1の部材、後述の第2の部材及び後述の充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差が1.0以下であれば特に限定されない。
【0020】
第1の部材の材質は、ガラス等の無機材料、樹脂等の有機材料などが挙げられる。樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0021】
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂及びAES樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。
アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0023】
本開示の積層構造体をエンブレム等の自動車部品に用いる場合、第1の部材の材質は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、PMMA樹脂、AES樹脂等が好ましい。ポリプロピレンは、樹脂の中でも比重が軽く、加工しやすく、引張強度、衝撃強度及び圧縮強度が高く、耐候性及び耐熱性にも優れている。ABS樹脂は、プラスチック素材の中でも比較的表面処理を施しやすく、よって成形後に塗装等を施しやすい樹脂であり、耐薬品性及び剛性に優れ、耐衝撃性、耐熱性及び耐寒性にも長けている。ポリカーボネートは、プラスチック素材の中でも耐衝撃性が高く、耐候性及び耐熱性にも優れ、透明性にも長けている。また、ポリカーボネートは、加工もしやすく、プラスチック素材の中でも比較的軽く、丈夫な素材である。
【0024】
(第2の部材)
本開示の積層構造体は、第1の部材と対向する第2の部材を備える。第2の部材としては、前述の第1の部材、第2の部材及び後述の充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差が1.0以下であれば特に限定されない。
【0025】
第2の部材の好ましい材質は、前述の第1の部材の好ましい材質と同様である。
【0026】
本開示の積層構造体の一実施態様にて、第1の部材及び第2の部材は、それぞれ独立に、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂及びAES樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含み、好ましくは、第1の部材は、ポリカーボネートを含み、第2の部材は、ポリカーボネート及びAES樹脂の少なくとも一方を含む。
【0027】
第1の部材の比誘電率及び第2の部材の比誘電率は、それぞれ独立に、2.5~3.3であってもよく、2.5~2.9であってもよく、2.6~2.8であってもよい。
【0028】
第1の部材の誘電正接及び第2の部材の誘電正接は、積層構造体がミリ波等の電波を透過しやすくする観点から、それぞれ独立に0.010以下であることが好ましい。なお、これらの誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0029】
第1の部材の厚さ及び第2の部材の厚さは、積層構造体の用途に応じて適宜設計できる。第1の部材の形状及び第2の部材の形状も特に限定されない。
【0030】
本開示の積層構造体が外装部材に用いられる場合、例えば、第1の部材が外側であり、かつ第2の部材が内側であってもよい。
【0031】
(充填部材)
本開示の積層構造体は、第1の部材と第2の部材との間に設けられた充填部材を備える。充填部材としては、前述の第1の部材、前述の第2の部材及び充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差が1.0以下であれば特に限定されない。
本開示において、第1の部材、第2の部材及び充填部材の比誘電率は、いずれも77GHzでの値を意味する。
【0032】
充填部材の比誘電率は、2.0~3.3であってもよく、2.2~3.2であってもよく、2.3~3.0であってもよい。
【0033】
充填部材は、第1の部材と第2の部材とを接着する接着剤を含んでいてもよく、無機フィラー等の充填材、添加剤などを含んでいてもよい。
【0034】
接着剤は、前述の第1の部材、前述の第2の部材及び充填部材のそれぞれの比誘電率が前述の関係を満たす範囲で特に限定なく選択される。接着剤は、シリコーン系接着剤、変性シリコーン系接着剤、合成ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリエステル系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリアミド系接着剤、ウレタン系接着剤、等が挙げられる。
【0035】
例えば、第1の部材及び第2の部材は、それぞれ独立に、ポリカーボネート及びAES樹脂の少なくとも一方を含む場合、接着剤は、変性シリコーン系接着剤、合成ゴム系接着剤又はエポキシ系接着剤が好ましい。
【0036】
充填部材の誘電正接は、積層構造体がミリ波等の電波を透過しやすくする観点から、それぞれ独立に0.050以下であることが好ましい。なお、充填部材の誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0037】
充填部材の最大厚さは、0.1mm~3.0mmであってもよく、0.3mm~1.0mmであってもよい。
【0038】
(銀粒子層)
本開示の積層構造体は、第1の部材と第2の部材との間に意匠層をさらに備えていてもよく、第1の部材と充填部材との間及び第2の部材と充填部材との間の少なくとも一方に意匠層をさらに備えていてもよい。
【0039】
意匠層は、例えば、金属粒子を含む金属粒子層であってもよく、銀粒子を含む銀粒子層であってもよい。本開示の積層構造体が、外装部材に用いられる場合、より具体的にはエンブレムに用いられる場合に、本開示の積層構造体は前述の意匠層を備えていてもよい。
【0040】
銀粒子層は、銀鏡反応により形成されたものであってもよい。また、銀粒子層に含まれる銀粒子は、銀鏡反応により析出した銀粒子(析出銀粒子)を含んでもよい。さらに、銀粒子層は、銀粒子が島状に点在する海島構造を呈していてもよい。
銀鏡反応による銀粒子層の形成は、水溶性銀塩水溶液並びに還元剤及び強アルカリ成分を含む還元剤水溶液の2液を、第1の部材の表面上、第2の部材の表面上、又は後述するアンダーコート層表面上(以下、これらの表面を、合わせて「銀鏡反応処理面」と称する場合がある。)で混合されるように塗布する。これにより酸化還元反応が生じて銀粒子が生じ、銀粒子層が形成される。
【0041】
銀粒子層の形成に用いられる水溶性銀塩水溶液は、硝酸銀等の水溶性銀塩と、アンモニアと、アミノアルコール化合物、アミノ酸及びアミノ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種のアミン化合物と、を水中に溶解して得られる。
アミン化合物の具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミノアルコール化合物、グリシン、アラニン、グリシンナトリウム等のアミノ酸又はその塩などが挙げられる。
【0042】
水溶性銀塩水溶液に含まれる硝酸銀等の水溶性銀塩の含有率、アンモニアの含有率及びアミン化合物の含有率は特に限定されない。
【0043】
水溶性銀塩水溶液は、必要に応じて分散剤を含有してもよい。分散剤としては、DISPERBYK-102、DISPERBYK-190、DISPERBYK-2012等(ビックケミー・ジャパン株式会社)、クエン酸などが挙げられる。これらの中でも、DISPERBYK-102、DISPERBYK-190、DISPERBYK-2012等が好ましい。
水溶性銀塩水溶液に必要に応じて含まれる分散剤の含有率は、0.05質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましく、1質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
銀粒子層の形成に用いられる還元剤水溶液は、還元剤と強アルカリ成分とを水中に溶解して得られる。
還元剤の具体例としては、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、ヒドラジン水和物等のヒドラジン化合物、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩化合物、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩化合物、ヒドロキノンなどが挙げられる。
強アルカリ成分の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
還元剤水溶液は、必要に応じて上述のアミン化合物を含有してもよい。
還元剤水溶液は、必要に応じてホルミル基を含む化合物を含有してもよい。ホルミル基を含む化合物の具体例としては、グルコース、グリオキサール等が挙げられる。
還元剤水溶液に含まれる還元剤の含有率及び強アルカリ成分の含有率並びに必要に応じて含有されるアミン化合物の含有率及びホルミル基を含む化合物の含有率は特に限定されない。
【0045】
還元剤水溶液は、必要に応じて分散剤を含有してもよい。還元剤水溶液に使用可能な分散剤は、水溶性銀塩水溶液と同様である。
還元剤水溶液に必要に応じて含まれる分散剤の含有率は、0.05質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましく、1質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
水溶性銀塩水溶液及び還元剤水溶液の2液を、銀鏡反応処理面上で混合されるように塗布する方法としては、2種の水溶液を予め混合し、この混合液をスプレーガン等を用いて銀鏡反応処理面に吹き付ける方法、スプレーガンのヘッド内で2種の水溶液を混合して直ちに吐出する構造を有する同芯スプレーガンを用いて吹き付ける方法、2種の水溶液を2つのスプレーノズルを持つ2頭スプレーガンから各々吐出させ吹き付ける方法、2種の水溶液を2つの別々のスプレーガンを用いて、同時に吹き付ける方法等がある。これらは状況に応じて任意に選ぶことができる。
【0047】
銀鏡反応により銀粒子層を形成する場合、水溶性銀塩水溶液及び還元剤水溶液の2液を塗布する前に、銀鏡反応処理面に対して表面活性化処理が行われてもよい。表面活性化処理は、無機スズ化合物を含有する表面活性化処理液を銀鏡反応処理面に付与して第一スズイオンを銀鏡反応処理面に付着させるものである。その後、表面活性化処理した銀鏡反応処理面に、銀鏡反応により銀粒子層を形成させることができる。
【0048】
無機スズ化合物を含有する表面活性化処理液で銀鏡反応処理面を処理する処理方法としては、第1の部材又は第2の部材を表面活性化処理液中に浸漬する方法、銀粒子層を形成させる銀鏡反応処理面の表面に表面活性化処理液を塗布する方法等が挙げられる。表面活性化処理液の塗布方法としては、第1の部材又は第2の部材の形状を選ばないスプレー塗布が好適である。表面活性化処理後、銀鏡反応処理面に余分に付着した表面活性化処理液を脱イオン水又は精製蒸留水で洗浄することが好ましい。
【0049】
表面活性化処理液は、塩化スズ(II)、酸化スズ(II)、硫酸スズ(II)等の無機スズ化合物と、必要に応じて塩化水素、過酸化水素、多価アルコール等とを水中に溶解して得られる。表面活性化処理液に含有されるこれら成分の含有率は特に限定されない。
【0050】
表面活性化処理液により銀鏡反応処理面を処理した後、銀鏡反応により銀粒子層を形成する前に、硝酸銀等の水溶性銀塩を含有する処理液を用いて銀イオンによる活性化処理を行ってもよい。この活性化処理で用いる処理液中の水溶性銀塩の含有率は特に限定されない。
この処理液を、表面活性化処理液で処理された銀鏡反応処理面に接触させる。これら活性化処理には、第1の部材又は第2の部材の形状を選ばないスプレー塗布が好適である。
【0051】
銀鏡反応により銀粒子層を形成した後、脱イオン水、蒸留水等を用いて銀粒子層の表面を水洗し、その表面上に残留する銀鏡反応後の溶液等を取り除いてもよい。
さらに、銀粒子層中の銀と、塩化物イオン、硫化物イオン等の残留イオンとの反応活性を低下させるため、水酸化カリウム等の強アルカリ成分と亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩とを含む水溶液である不活性化処理液で銀粒子層を処理してもよい。不活性化処理には、第1の部材又は第2の部材の形状を選ばないスプレー塗布が好適である。
不活性化処理液で銀粒子層を処理した後、脱イオン水、蒸留水等を用いて銀粒子層の表面を水洗し、その表面上に残留する不活性化処理液の残渣を取り除いてもよい。
【0052】
不活性化処理液に含まれる強アルカリ成分の含有率及び亜硫酸塩の含有率は、特に限定されない。
【0053】
銀粒子層の最大厚さは特に限定されず、30nm~200nm程度であることが好ましい。
【0054】
銀粒子層の厚さ方向の断面を観察したときに、銀粒子層に占める銀粒子の割合は、70%以下であることが好ましく、60%~65%であることがより好ましい。銀粒子層に占める銀粒子の割合が70%以下であると、ミリ波レーダーの透過性がより向上する傾向にある。
【0055】
銀粒子層に占める銀粒子の割合とは、以下のようにして測定された値をいう。
積層構造体における銀粒子層の厚さ方向の断面について、30万倍の倍率で透過型電子顕微鏡写真を撮影する。得られた電子顕微鏡写真に対して、銀粒子層の厚さ方向の中央を通る中央線を決定する。次いで、中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを求める。中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを中央線全体の長さで除した値の百分率を、銀粒子層に占める銀粒子の割合と定義する。
【0056】
銀粒子層の表面抵抗率は、107Ω/□以上であることが好ましく、5×107Ω/□以上であることがより好ましい。これにより、銀粒子層を構成する銀粒子と銀粒子との間は、適度な空隙が形成された状態となりやすく、本開示の積層構造体は、ミリ波の透過性に優れる傾向にある。
銀粒子層の表面抵抗率の上限は、特に限定されない。
銀粒子層の表面抵抗率は、JIS K6911:2006に準じて測定された値をいう。
【0057】
銀粒子層に含まれる銀粒子と第1の部材又は第2の部材との間には、スズが存在していてもよい。銀粒子と第1の部材又は第2の部材との間にスズが存在することで、第1の部材又は第2の部材と銀粒子との密着性が向上する傾向にある。
例えば、銀粒子と第1の部材又は第2の部材との間に存在するスズは、上述の表面活性化処理により銀鏡反応処理面上に供給される。
【0058】
-アンダーコート層-
第1の部材又は第2の部材と銀粒子層との密着性を向上させる観点、及び、第1の部材又は第2の部材に平滑面を形成する観点から、第1の部材又は第2の部材と銀粒子層との間に、アンダーコート層が設けられてもよい。
【0059】
アンダーコート層の形成には、フッ素樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料等を用いてもよく、アクリルシリコーン樹脂塗料又はアクリルウレタン樹脂塗料を用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂塗料は、第1の部材又は第2の部材に対する付着性に優れ、光沢保持性及び保色性が高く、耐薬品性、耐油性及び耐水性にも優れている。アクリルウレタン樹脂塗料は、塗膜が柔らかく、密着性に優れ、耐久性、耐候性及び耐薬品性にも優れている。これらの樹脂塗料は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
アンダーコート層の厚さは特に限定されず、平滑面を確保する観点からは、5μm~25μm程度であることが好ましい。
【0061】
アンダーコート層と第1の部材又は第2の部材との密着性を高めるために、アンダーコート層と第1の部材又は第2の部材との間にプライマー層を設けてもよい。
【0062】
-トップコート層-
銀粒子層の保護を目的として、銀粒子層上にトップコート層が設けられてもよい。
トップコート層は、装飾品の最外面に設けられる層であり、トップコート層によって銀粒子層が保護されやすくなる。
トップコート層としては、銀粒子層を隠蔽しない透明性を有することが好ましく、無色クリア(無色透明)であっても、着色されたカラークリア(有色透明)であってもよい。
【0063】
トップコート層の形成には、樹脂塗料を用いることができ、熱硬化性樹脂を用いてもよい。熱硬化性樹脂としては、フッ素樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料等が挙げられ、アクリルシリコーン樹脂塗料又はアクリルウレタン樹脂塗料を用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂塗料は、第1の部材又は第2の部材に対する付着性、光沢保持性、保色性、耐薬品性、耐油性及び耐水性に優れている。アクリルウレタン樹脂塗料は、塗膜が柔らかく、密着性に優れ、耐久性、耐候性及び耐薬品性にも優れている。これらの樹脂塗料は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
トップコート層の厚さは特に限定されず、20μm~40μm程度であることが好ましい。トップコート層の厚さが20μm以上であると、銀粒子層を充分保護できる傾向にあり、40μm以下であると、経時変化によるクラック、剥がれ、密着不良等が発生しにくい傾向にある。
【0065】
本開示の積層構造体は、第1の部材、第2の部材、充填部材及び意匠層以外の構成を備えていてもよく、例えば、第1の部材の外側及び第2の部材の外側の少なくとも一方に他の部材を備えていてもよい。
【0066】
本開示の積層構造体の一例を、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、積層構造体10は、第1の部材1と、第2の部材2と、第1の部材1と第2の部材2との間に設けられた充填部材3と、を備える。また、
図1にて矢印で示すように積層構造体10をミリ波が透過する。
【0067】
<検知物検知構造>
本開示の検知物検知構造は、前述の本開示の積層構造体と、積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、を備える。本開示の積層構造体は、ミリ波の透過減衰量を低減可能であるため、本開示の検知物検知構造は、ミリ波レーダーの送受信性能に優れる。
【0068】
なお、本開示の積層構造体は、ミリ波以外の電波を送受信するレーダーと組み合わせてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本開示の実施例を説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
(第1の部材の準備)
厚さ2mmの平面状ポリカーボネート基材(77GHzでの比誘電率2.7、誘電正接0.008)を第1の部材として準備した。
【0071】
(第2の部材の準備)
厚さ2mmの平面状ポリカーボネート基材(77GHzでの比誘電率2.7、誘電正接0.008)を第2の部材として準備した。
【0072】
(積層構造体の作製)
充填部材として、変性シリコーン系接着剤であるセメダインスーパーX2(セメダイン株式会社、成分:変性シリコーン95質量%及び合成樹脂5質量%、77GHzでの比誘電率2.45、誘電正接0.049)を用い、第1の部材、平面状の充填部材及び第2の部材の順に各部材を積層させて積層構造体を作製した。
積層構造体における充填部材の厚さは0.5mmであった。
また、第1の部材、第2の部材及び充填部材の内、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差であるΔεは、表1に示す通りである。
【0073】
<実施例2>
実施例1にて充填部材をセメダインスーパーX2から合成ゴム系接着剤であるTB1521B(株式会社スリーボンド、主成分:クロロプレン合成ゴム、77GHzでの比誘電率2.74、誘電正接0.024)を用いた以外は実施例1と同様にして積層構造体を作製した。
【0074】
<実施例3>
実施例1にて充填部材をセメダインスーパーX2からエポキシ系接着剤であるクイックミックス(ヘンケルジャパン株式会社、主剤:エポキシ樹脂(100質量%)、硬化剤:ポリメルカプタン(85質量%以上)及び変性アミン、77GHzでの比誘電率2.92、誘電正接0.035)を用いた以外は実施例1と同様にして積層構造体を作製した。
【0075】
<比較例1>
実施例1と同様に第1の部材及び第2の部材を準備し、第1の部材及び第2の部材の間にスペーサー(厚さ0.5mm)を設けて比較例1の積層構造体を作製した。比較例1の積層構造体では、第1の部材と第2の部材との間に隙間があり、この隙間には空気(比誘電率1.0)が存在している。
【0076】
[評価]
-ミリ波透過減衰量の測定-
下記方法によりミリ波(77GHz)を各実施例及び比較例1にて得られた積層構造体に透過させた際の減衰量である透過減衰量を測定した。
透過減衰量は、JIS R1679:2007(電波吸収体のミリ波帯における電波吸収特性測定方法)で規定される、送信アンテナと受信アンテナの間に積層構造体を置いて電波を積層構造体の第1の部材側へ垂直に照射する自由空間法で求められた透過係数から算出した。
ここで、透過減衰量は、透過係数を用いて次式より算出できる。
透過減衰量=20log10(透過係数)
結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
表1に示すように実施例1~実施例3の積層構造体では、比較例1の積層構造体と比較してミリ波の減衰量が抑制されていた。